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養蜂家の青年は、今日も蜜蜂のようにあくせく働く 養蜂家の青年は、今日も蜜蜂のようにあくせく働く
养蜂青年今天也像蜜蜂一样辛勤劳动
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません。作中の用語、歴史、文化、習慣、知識などは創作物としてお楽しみ下さい。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません。作中の用語、歴史、文化、習慣、知識などは創作物としてお楽しみ下さい。
 知っているだろうか、蜜蜂が一生のうちに集める蜂蜜の量を。 ※这个故事是虚构的,与实际存在的人物、团体完全没有关系。作品中的用语、历史、文化、习惯、知识等请作为创作物来享受。
知っているだろうか、蜜蜂が一生のうちに集める蜂蜜の量を。
你知道蜜蜂一生中收集的蜂蜜的量吗。
多くの蜜蜂の寿命は短く、一年どころか半年にも満たない。その間に、たったティースプーン一杯程度しか、蜜を集められない。
很多蜜蜂的寿命很短,别说一年了,连半年都不到。在这期间,只能收集一茶匙左右的蜜。
儚い人生だ。
虚幻的人生。
俺達養蜂家は、そんな蜜蜂から蜂蜜を得て、日々の生計を立てている。
我们养蜂人,从那样的蜜蜂得到蜂蜜,维持着每天的生计。
 多くの蜜蜂の寿命は短く、一年どころか半年にも満たない。その間に、たったティースプーン一杯程度しか、蜜を集められない。
 儚い人生だ。 ◇◇◇
 俺達養蜂家は、そんな蜜蜂から蜂蜜を得て、日々の生計を立てている。 ◇◇◇
 ◇◇◇
ブレッド湖のほとりにある、花畑養蜂園――ここではイェゼロ家が代々蜂蜜を得るために花を育て、蜜蜂の世話をしながら暮らしていた。
 ブレッド湖のほとりにある、花畑養蜂園――ここではイェゼロ家が代々蜂蜜を得るために花を育て、蜜蜂の世話をしながら暮らしていた。 位于布莱德湖畔的花圃养蜂园——在这里,耶泽罗家族世世代代为了得到蜂蜜而培育花朵,一边照顾蜜蜂一边生活
 養蜂園には、十三個の区切られた花畑がある。そこでは、イェゼロ家の十三人の息子がそれぞれ管理し、蜂蜜を得ていた。
 そんな中で、イェゼロ家の十四番目の子どもとして生まれた俺は、継ぐべき花畑がなかった。だから、毎日兄達の手伝いをしている。そう言えば聞こえはいいが、実際は馬車馬のごとく働かされているのが現実だ。
養蜂園には、十三個の区切られた花畑がある。そこでは、イェゼロ家の十三人の息子がそれぞれ管理し、蜂蜜を得ていた。
养蜂园里有十三个分隔的花圃。在那里,耶泽罗家的十三个儿子分别管理,得到蜂蜜。
そんな中で、イェゼロ家の十四番目の子どもとして生まれた俺は、継ぐべき花畑がなかった。だから、毎日兄達の手伝いをしている。そう言えば聞こえはいいが、実際は馬車馬のごとく働かされているのが現実だ。
在这种情况下,作为耶泽罗家的第十四个孩子出生的我,没有应该继承的花圃。所以,每天都在帮哥哥们的忙。这么说听起来不错,但实际上像马车马一样工作是现实。
「おい、イヴァン! 巣箱近くにスズメバチがいたって言っていたから、退治しておけよ」
“喂,伊凡!他说蜂箱附近有一只黄蜂,你去消灭它吧。”
「おい、イヴァン! 巣箱近くにスズメバチがいたって言っていたから、退治しておけよ」
「俺のところは、柵が壊れてしまっている。修理しておけ」 「俺のところは、柵が壊れてしまっている。修理しておけ」
“我这里的栅栏坏了,请修理一下。”
「イヴァン、花の種の用意を頼む」 「イヴァン、花の種の用意を頼む」
“伊凡,请准备花的种子。”
十三人の兄は結婚し、子どもも数名いる。一番上の兄とは、二十歳離れているので、年上の姪もいるのだ。
十三个哥哥结婚了,还有几个孩子。因为和最大的哥哥相差20岁,所以也有年长的侄女。
人を雇わなくても、働き手は十分いる。だから、兄達は働かずに、朝から酒を飲んだり、賭けカードをしたり。遊びたい放題である。
即使不雇人,也有足够的劳动力。所以,哥哥们不工作,从早上开始喝酒,打赌卡。为所欲为。
同じように、遊んで暮らしていた父を見て育ったので、無理はないのかもしれない。
同样,因为是看着玩着生活的父亲长大的,所以可能没有什么困难。
そんな父は十五年前に母と喧嘩して家を追い出され、馬車にはねられて死んだ。
那样的父亲十五年前和母亲吵架被赶出了家,被马车撞死了。
けれど、一家の主が死んでも、この家はなんら問題なかった。
但是,即使一家之主死了,这个家也没有什么问题。
働いているのは、母を中心とする女性陣だから。
因为工作的是以母亲为中心的女性阵容。
イェゼロ家は、蜂社会と同じなのだ。女王蜂たる母がいて、下に従う女達が蜜蜂のようにあくせく働き、男は子作りのためだけに存在して、あとは働かずにのほほんとしていた。
耶泽罗家和蜜蜂社会一样。有一个作为女王蜂的母亲,跟随下面的女人们像蜜蜂一样辛勤工作,男人只为了生孩子而存在,之后就不工作了。
種の繁栄のためだけに存在する雄蜂は、用なしと判断されたら蜜蜂から容赦なく追い出される。
只为了物种的繁荣而存在的雄蜂,如果被判断为没有用的话,就会被蜜蜂毫不留情地赶走。
イェゼロ家の男達も、同じだろう。用なしと判断されたら、父のように家を追い出される。住み処を失ったら、あとは死ぬしかない。
耶泽罗家的男人们也一样吧。如果被判断为没有事,就会像父亲一样被赶出家门。失去了住处,剩下的只有死了。
彼らはきっとわかっていないのだろう。自分達が、女性陣に“生かされている”ということに。
他们一定不明白吧。自己们,被女性阵容“活着”这样的事。
偉ぶって、自らを驕って、女達を支配していると勘違いし、自由気ままに暮らしている。
装模作样,自满,误以为支配着女人们,自由自在地生活着。
いつか、しっぺ返しを受けるだろう。
总有一天会被反驳的吧。
 十三人の兄は結婚し、子どもも数名いる。一番上の兄とは、二十歳離れているので、年上の姪もいるのだ。
 人を雇わなくても、働き手は十分いる。だから、兄達は働かずに、朝から酒を飲んだり、賭けカードをしたり。遊びたい放題である。
 同じように、遊んで暮らしていた父を見て育ったので、無理はないのかもしれない。
 そんな父は十五年前に母と喧嘩して家を追い出され、馬車にはねられて死んだ。 
 けれど、一家の主が死んでも、この家はなんら問題なかった。 俺は用なしと判断されないように、毎日あくせく働く
 働いているのは、母を中心とする女性陣だから。 我为了不被判断为没有事情,每天都忙忙碌碌地工作
 イェゼロ家は、蜂社会と同じなのだ。女王蜂たる母がいて、下に従う女達が蜜蜂のようにあくせく働き、男は子作りのためだけに存在して、あとは働かずにのほほんとしていた。
 種の繁栄のためだけに存在する雄蜂は、用なしと判断されたら蜜蜂から容赦なく追い出される。
 イェゼロ家の男達も、同じだろう。用なしと判断されたら、父のように家を追い出される。住み処を失ったら、あとは死ぬしかない。 給料なんてものはない。けれど、それでもこの家で居場所を得るには働くしかないのだ
 彼らはきっとわかっていないのだろう。自分達が、女性陣に“生かされている”ということに。 没有什么工资。但是,即便如此,要在这个家里得到住所,也只能工作
 偉ぶって、自らを驕って、女達を支配していると勘違いし、自由気ままに暮らしている。
 いつか、しっぺ返しを受けるだろう。
 俺は用なしと判断されないように、毎日あくせく働く。 今年で二十歳になったが、当然、結婚相手なんて見つからない
 給料なんてものはない。けれど、それでもこの家で居場所を得るには働くしかないのだ。 今年已经20岁了,当然找不到结婚对象
 今年で二十歳になったが、当然、結婚相手なんて見つからない。 財産もない男に嫁ぐ物好きは、世界中どこを探してもいないのだろう
 財産もない男に嫁ぐ物好きは、世界中どこを探してもいないのだろう。 嫁到没有财产的男人身上的好事之徒,全世界到处都找不到吧

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養蜂家の青年は、花畑で春の支度を行う 養蜂家の青年は、花畑で春の支度を行う
 かつて、この地は他国の支配下にあった。ブレッド湖周辺は王族の保養地として愛され、その昔は王族とすれ違う、なんてことも珍しくなかったらしい。 养蜂青年在花圃里为春天做准备
 ブレッド湖の中心には孤島が浮かんでおり、教会がポツンと建っている。山頂から見たら瞳のように見えるので、ブレッド湖は“山々の瞳”とも呼ばれていた。
かつて、この地は他国の支配下にあった。ブレッド湖周辺は王族の保養地として愛され、その昔は王族とすれ違う、なんてことも珍しくなかったらしい。
 花畑養蜂園がある土地は平地であるものの、周辺は野山に囲まれている 过去,这片土地处于他国的统治之下。布莱德湖周边作为王族的疗养地受到喜爱,以前与王族擦肩而过的情况也不稀奇
 街の郊外にあるこの地では、豊富な湖水と豊かな自然が、おいしい蜂蜜をもたらしてくれるのだ。
ブレッド湖の中心には孤島が浮かんでおり、教会がポツンと建っている。山頂から見たら瞳のように見えるので、ブレッド湖は“山々の瞳”とも呼ばれていた。
 ただ、何もしないで、たくさんの蜂蜜を得られるわけではない 布莱德湖的中心漂浮着一座孤岛,教堂鳞次栉比。从山顶上看像眼睛一样,所以布莱德湖也被称为“群山之瞳”
 人が手を加えて、蜜蜂を世話しなければいけないのだ。
 もうすぐ、春になる。
 越冬した蜜蜂が、活動的になるシーズンである。 花畑養蜂園がある土地は平地であるものの、周辺は野山に囲まれている。
 蜜蜂の動きに注目し、より快適な巣箱になるように助けてやらなければならない 虽然有花圃养蜂园的土地是平地,但是周边被山野包围着
 花畑養蜂園では、いたる場所に養蜂小屋が建てられている 街の郊外にあるこの地では、豊富な湖水と豊かな自然が、おいしい蜂蜜をもたらしてくれるのだ
 箪笥のように中が区切られていて、そこに出入りする蜜蜂が花の種類ごとに蜜を集めてくるのだ 在郊外的这片土地上,丰富的湖水和丰富的自然环境,给我们带来了美味的蜂蜜
 巣の出入り口となる蓋には、精緻な彫刻が施されている。
 田園風景だったり、湖の様子だったり。街の芸術家に頼んで、作らせているようだ。
 これらは蜂蜜の種類を見分けるものであり、養蜂家は豊かな生活をしていると自慢するものでもあるようだ。
ただ、何もしないで、たくさんの蜂蜜を得られるわけではない。
 兄達に頼まれていた仕事を終えると、母や義姉、年上の姪が次々と命令してくる。 只是,并不是什么都不做就能得到很多蜂蜜。
人が手を加えて、蜜蜂を世話しなければいけないのだ。
人要动手照顾蜜蜂。
もうすぐ、春になる。
马上就要到春天了。
越冬した蜜蜂が、活動的になるシーズンである。
这是越冬的蜜蜂变得活跃的季节。
蜜蜂の動きに注目し、より快適な巣箱になるように助けてやらなければならない。
要关注蜜蜂的动向,帮助它们成为更舒适的蜂箱。
花畑養蜂園では、いたる場所に養蜂小屋が建てられている。
在花圃养蜂园,到处都建有养蜂棚。
箪笥のように中が区切られていて、そこに出入りする蜜蜂が花の種類ごとに蜜を集めてくるのだ。
里面像衣柜一样被分开,出入那里的蜜蜂按照花的种类收集蜜。
巣の出入り口となる蓋には、精緻な彫刻が施されている。
作为巢的出入口的盖子上有精致的雕刻。
田園風景だったり、湖の様子だったり。街の芸術家に頼んで、作らせているようだ。
田园风景,湖泊的样子。好像是委托街上的艺术家制作的。
これらは蜂蜜の種類を見分けるものであり、養蜂家は豊かな生活をしていると自慢するものでもあるようだ。
这些都是辨别蜂蜜种类的东西,似乎也是养蜂人自夸生活富裕的东西。
兄達に頼まれていた仕事を終えると、母や義姉、年上の姪が次々と命令してくる。
完成哥哥们拜托的工作后,母亲、大嫂、年长的侄女纷纷命令。
それをこなすだけで、昼の鐘が鳴り響いた。
只是完成了那个,白天的钟就响了。
昼食は朝バタバタしていてもらいそこねてしまった。ブレッド湖に釣りに行こうとしたそのとき、声がかけられる。
午饭早上忙得不可开交。我正要去布莱德湖钓鱼的时候,有人跟我打招呼。
 それをこなすだけで、昼の鐘が鳴り響いた。
 昼食は朝バタバタしていてもらいそこねてしまった。ブレッド湖に釣りに行こうとしたそのとき、声がかけられる。
「あの、イヴァンさん」 「あの、イヴァンさん」
“那个,伊凡先生。”
振り返った先にいたのは、ブルネットの髪の美女ロマナ。双子の兄、サシャの妻だ。
回头看的是布鲁内特头发的美女罗曼娜。这是双胞胎哥哥萨沙的妻子。
五年前、収穫祭で身売りをしようとしていたところを捕まえて、うちで住み込みで働かせた。
五年前,他在收获节上抓住了打算卖身的人,让他住在家里工作。
 振り返った先にいたのは、ブルネットの髪の美女ロマナ。双子の兄、サシャの妻だ。 刷り込みされた雛のように、俺について回っていたが、結婚したのは兄だった
 五年前、収穫祭で身売りをしようとしていたところを捕まえて、うちで住み込みで働かせた。 像被印刷的雏鸟一样跟着我转,结婚的是哥哥
 刷り込みされた雛のように、俺について回っていたが、結婚したのは兄だった。
 それはまあ、しかたがないだろう。
 継ぐべき花畑を持たない男のもとに嫁いでくる物好きなんて、いないだろうから。 それはまあ、しかたがないだろう。
那也没办法吧。
継ぐべき花畑を持たない男のもとに嫁いでくる物好きなんて、いないだろうから。
因为没有喜欢嫁到没有应该继承的花圃的男人身边的人吧。
「ロマナ、何?」 「ロマナ、何?」
“罗曼娜,什么事?”
「これを……」 「これを……」
“这个……”
差し出されたのは、魚を挟んだ練りパイ。わざわざ、持ってきてくれたのだろう。
拿出来的是夹着鱼的馅饼。是特意给我带来的吧。
 差し出されたのは、魚を挟んだ練りパイ。わざわざ、持ってきてくれたのだろう。
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
「あの、イヴァンさん、湖のほとりで、一緒に食べない?」 「あの、イヴァンさん、湖のほとりで、一緒に食べない?」
“那个,伊凡,在湖边一起吃吧?”
「それはダメでしょう。ロマナは、サシャの妻だから」 「それはダメでしょう。ロマナは、サシャの妻だから」
「那可不行,因为罗曼娜是萨沙的妻子。」
他の兄弟の妻と二人きりで過ごすのは、禁じられている。暗黙の了解だが、破るつもりはない。
禁止和其他兄弟的妻子单独生活。虽然是默契,但不打算打破。
ロマナはサシャと結婚したのに、結婚前のように過ごしたがる。
罗曼娜和萨沙结婚了,却想像婚前那样过。
結婚しても仲良くだなんて、都合のいい話はない。
结婚后关系也很好,没有什么方便的话。
 他の兄弟の妻と二人きりで過ごすのは、禁じられている。暗黙の了解だが、破るつもりはない。
ロマナと仲良くしていて、サシャに喧嘩を売られても困る。だから、可哀想だけれど、彼女のことは遠ざけた。
和罗曼娜关系很好,即使被萨沙挑衅也很为难。所以,虽然很可怜,但还是远离了她。
 ロマナはサシャと結婚したのに、結婚前のように過ごしたがる。
 結婚しても仲良くだなんて、都合のいい話はない。
 ロマナと仲良くしていて、サシャに喧嘩を売られても困る。だから、可哀想だけれど、彼女のことは遠ざけた。 今日も一人、青空の下で昼食を食べる
 今日も一人、青空の下で昼食を食べる。 今天也一个人在蓝天下吃午饭
 午後からは母親に言われていた、羽化する前の雄蜂の確認作業を行う。
午後からは母親に言われていた、羽化する前の雄蜂の確認作業を行う。
下午开始进行母亲所说的羽化前雄蜂的确认工作。
「おーい、イヴァン!!」 「おーい、イヴァン!!」
“喂,伊凡!!”
元気よく走ってやってきたのは、街に住む幼なじみのミハル。彼は雑貨商の息子で、幼い頃からイェゼロ家に出入りしている。
精神饱满地跑来的是住在街上的青梅竹马米哈尔。他是杂货商的儿子,自幼出入耶泽罗家。
 元気よく走ってやってきたのは、街に住む幼なじみのミハル。彼は雑貨商の息子で、幼い頃からイェゼロ家に出入りしている。
「ミハル、今日も、配達に来たの?」 「ミハル、今日も、配達に来たの?」
“米哈尔,你今天也来送货吗?”
「ああ。お前の兄ちゃんの酒とつまみを三箱も持ってきたぞ」 「ああ。お前の兄ちゃんの酒とつまみを三箱も持ってきたぞ」
“啊,我带了三盒你哥哥的酒和下酒菜。”
いつものことなので、何か思う心はすでに死んでいる。
因为是平常的事,所以有什么想法的心已经死了。
蜂蜜を売って得た金も、兄達が湯水のごとく使ってしまうのだ。
卖蜂蜜得到的钱,哥哥们也会像热水一样用完。
ミハルは「おまけだ」と言って、干物の端っこを集めた包みをくれた。
 いつものことなので、何か思う心はすでに死んでいる。 米哈尔说“这是赠品”,给了我一个收集干货边上的包裹
 蜂蜜を売って得た金も、兄達が湯水のごとく使ってしまうのだ。
 ミハルは「おまけだ」と言って、干物の端っこを集めた包みをくれた。
「イヴァン、また、痩せたんじゃないのか?」 「イヴァン、また、痩せたんじゃないのか?」
“伊凡,你不是又瘦了吗?”
食いっぱぐれるのは、日常茶飯事。実の母親でさえ、気にしない。けれど唯一、ミハルやミハルの家族は心配し、食べ物をくれるのだ。
贪吃是家常便饭。连亲生母亲都不介意。但是,只有米哈尔和米哈尔的家人担心,给我食物。
 食いっぱぐれるのは、日常茶飯事。実の母親でさえ、気にしない。けれど唯一、ミハルやミハルの家族は心配し、食べ物をくれるのだ。
「最近は、ロマナがお昼をくれるし」 「最近は、ロマナがお昼をくれるし」
“最近,罗曼娜会给我午饭。”
「お前、それ、大丈夫なのか?」 「お前、それ、大丈夫なのか?」
“你,那个,没事吧?”
「何が?」 「何が?」
“什么?”
「何がって、ロマナはサシャの妻なんだろう?」 「何がって、ロマナはサシャの妻なんだろう?」
“怎么说呢,罗曼娜是萨沙的妻子吧?”
「そうだけど」 「そうだけど」
“是啊。”
ロマナはサシャと結婚して、家の炊事を担当することになった。そのため、こっそり食事を分けてくれるのである。
罗曼娜嫁给萨沙,负责家里的炊事。因此,偷偷地分给我吃饭。
 ロマナはサシャと結婚して、家の炊事を担当することになった。そのため、こっそり食事を分けてくれるのである。 結婚前は食いっぱぐれていた彼女に食事を分けていたので、その恩返しのつもりなのだろう。
结婚前把饭分给了贪吃的她,是为了报恩吧。
 結婚前は食いっぱぐれていた彼女に食事を分けていたので、その恩返しのつもりなのだろう。
「あんまり親しくしていると、誤解されるからな」 「あんまり親しくしていると、誤解されるからな」
“如果关系太亲密的话,会被误解的。”
「それは大丈夫。さっきも、追い返したし」 「それは大丈夫。さっきも、追い返したし」
「だったら、いいけどよ」  “那没关系,刚才也追回来了。”
「だったら、いいけどよ」
“那就好。”
サシャは独占欲が人一倍強いので、ロマナが俺と仲良くしていると面白くないだろう。
萨沙的独占欲比别人强一倍,所以罗曼娜和我关系好的话就没意思了吧。
だからなるべく、関わらないようにしている。
所以尽量不要和我扯上关系。
 サシャは独占欲が人一倍強いので、ロマナが俺と仲良くしていると面白くないだろう。
 だからなるべく、関わらないようにしている。
「それはそうと、例の件を考えてくれたか?」 「それはそうと、例の件を考えてくれたか?」
“那是这样,你考虑过那件事了吗?”
「例の件?」 「例の件?」
「忘れるなよ! お前と家の、養子縁組みの件だよ!」 “那件事?”
「忘れるなよ! お前と家の、養子縁組みの件だよ!」
“别忘了!这是你和家里领养的事!”
「ああ」 「ああ」
“啊。”
ミハルの家族は変わり者で、俺を気に入ってくれている。信じがたいことに、養子縁組みをしたいと申し出てくれたのだ。
米哈尔的家人是个怪人,很喜欢我。令人难以置信的是,他提出要收养我。
 ミハルの家族は変わり者で、俺を気に入ってくれている。信じがたいことに、養子縁組みをしたいと申し出てくれたのだ。
「ありがたい話だけれど、俺は、この仕事が好きだから」 「ありがたい話だけれど、俺は、この仕事が好きだから」
“虽然是值得庆幸的事,但我喜欢这份工作。”
「あー、やっぱり、お前と蜜蜂は、切っても切り離せないかー」 「あー、やっぱり、お前と蜜蜂は、切っても切り離せないかー」
“啊,果然,你和蜜蜂,切了也切不开啊。”
物心ついたときから、蜜蜂と共に在った。今更、離ればなれの人生なんて、考えられない。
从懂事的时候开始,就和蜜蜂在一起。事到如今,我无法想象离别的人生。
イェゼロ家に蜂蜜をもたらしてくれるのは、腹部に灰色熊のような毛を持つ、カーニオランと呼ばれる蜜蜂。
给耶泽罗家带来蜂蜜的是腹部有着灰熊般的毛的被称为卡尼奥兰的蜜蜂。
彼らは温厚で、真面目。せっせと花蜜を集めてくれる。太陽の光を浴びると、カーニオランが持つ灰色の毛は柔らかく光るのだ。
他们温厚,认真。不停地给我收集花蜜。沐浴在阳光下,卡尼奥兰身上的灰色毛发会柔和地发光。
 物心ついたときから、蜜蜂と共に在った。今更、離ればなれの人生なんて、考えられない。
そんな蜜蜂を、親しみを込めて“灰色熊のカーニオラン”と呼んでいた。
这样的蜜蜂被亲切地称为“灰熊的卡尼奥兰”。
 イェゼロ家に蜂蜜をもたらしてくれるのは、腹部に灰色熊のような毛を持つ、カーニオランと呼ばれる蜜蜂。
 彼らは温厚で、真面目。せっせと花蜜を集めてくれる。太陽の光を浴びると、カーニオランが持つ灰色の毛は柔らかく光るのだ。
 そんな蜜蜂を、親しみを込めて“灰色熊のカーニオラン”と呼んでいた。
俺はそんな蜜蜂に、人一倍の愛着を抱いている。
 俺はそんな蜜蜂に、人一倍の愛着を抱いている。 我对那样的蜜蜂,抱着比别人加倍的留恋

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養蜂家の青年は、食いっぱぐれて湖に行く 養蜂家の青年は、食いっぱぐれて湖に行く
 ミハルは草むらにゴロリと転がり、目を細めながら青空を見る。 养蜂青年贪吃着去湖边
ミハルは草むらにゴロリと転がり、目を細めながら青空を見る。
米哈尔咕噜咕噜地滚动在草丛里,眯着眼睛看着蓝天。
「イヴァン、お前さ。このままだと、働き過ぎて早死してしまうぞ」 「イヴァン、お前さ。このままだと、働き過ぎて早死してしまうぞ」
“伊凡,是你。照这样下去,你会因为工作过度而早死的。”
「大丈夫だよ。うちに優秀な女王蜂がいる限り、死にはしない」 「大丈夫だよ。うちに優秀な女王蜂がいる限り、死にはしない」
“没关系,只要我们家有优秀的蜂王,就不会死。”
兄達は酷い扱いをするが、まだ、母親がたしなめてくれている。状況はまだ、最悪ではない。
哥哥们虽然很严厉,但是母亲还在责备我。情况还不是最糟糕的。
 兄達は酷い扱いをするが、まだ、母親がたしなめてくれている。状況はまだ、最悪ではない。
「お袋さんが死んだあとは、どうするんだよ」 「お袋さんが死んだあとは、どうするんだよ」
“你母亲死后,你该怎么办?”
「一応、独立は考えているよ」 「一応、独立は考えているよ」
“首先,我在考虑独立。”
週に一度の休日に、ミハルの祖父の趣味である漁に付き合っていた。釣りの名手で、毎回大量の魚を釣って帰るのだ。
在一周一次的假日里,我和米哈尔的祖父的爱好捕鱼打交道。他是钓鱼高手,每次都要钓大量的鱼回来。
 週に一度の休日に、ミハルの祖父の趣味である漁に付き合っていた。釣りの名手で、毎回大量の魚を釣って帰るのだ。
 そのあと、釣った魚を捌いて街に売りに行く。そのさい、売り上げの二割を報酬として渡してくれるのだ。 そのあと、釣った魚を捌いて街に売りに行く。そのさい、売り上げの二割を報酬として渡してくれるのだ。
之后,把钓到的鱼卖到街上。那个时候,把销售额的二成作为报酬交给我。
その金を、コツコツ貯めている。いつか独立して、自分だけの養蜂園を開くのが夢だ。
我孜孜不倦地存着那笔钱。梦想有一天能独立开一个只属于自己的养蜂园。
 その金を、コツコツ貯めている。いつか独立して、自分だけの養蜂園を開くのが夢だ。
「祖父ちゃん、イヴァンを養子として引き取ったら、漁師になるとか言っているぜ」 「祖父ちゃん、イヴァンを養子として引き取ったら、漁師になるとか言っているぜ」
“爷爷,他说如果把伊凡领养回来,他就会成为渔夫。”
「週に一回するから、楽しいだけなんだよ」 「週に一回するから、楽しいだけなんだよ」
“一周做一次,只是很开心而已。”
「だよなあ」 「だよなあ」
“是啊。”
ミハルの祖父は、特に俺を気に入ってくれている。ブレッド湖のほとりにある小屋を、譲ってくれたくらいだ。
米哈尔的祖父特别喜欢我。甚至把布莱德湖边的小屋让给了我。
 ミハルの祖父は、特に俺を気に入ってくれている。ブレッド湖のほとりにある小屋を、譲ってくれたくらいだ。
「あーあ。俺達家族は、選ばれなかったか。蜜蜂さえいなかったら――ぶわっ!!」 「あーあ。俺達家族は、選ばれなかったか。蜜蜂さえいなかったら――ぶわっ!!」
“啊——啊。我们家人没被选上吗?如果连蜜蜂都没有的话——哇!!”
ミハルの顔面目がけ、蜂が飛んできた。ぶぶぶ、と音を立てながら、ミハルの顔にまとわりついている。手で乱暴に払おうとしているところを制止した。
蜜蜂朝着米哈尔的脸飞了过来。一边发出噗噗的声音,一边缠在米哈尔的脸上。我制止了想用手粗暴地驱除的地方。
 ミハルの顔面目がけ、蜂が飛んできた。ぶぶぶ、と音を立てながら、ミハルの顔にまとわりついている。手で乱暴に払おうとしているところを制止した。
「待ってミハル。動かないで」 「待ってミハル。動かないで」
“等等,米哈尔,别动。”
飛び回る蜂を、素手で捕まえる。
徒手抓住飞来飞去的蜜蜂。
 飛び回る蜂を、素手で捕まえる。
「うわっと!」 「うわっと!」
“哇!”
「もう大丈夫」 「もう大丈夫」
“已经没事了。”
ミハルは飛び起き、安堵の息を吐いた。
米哈尔跳起来,吐出了安心的气息。
 ミハルは飛び起き、安堵の息を吐いた。
「イヴァン、ありがとう」 「イヴァン、ありがとう」
“伊凡,谢谢。”
「いえいえ」 「いえいえ」
“不,不。”
拳に蜂を握りしめたままだったので、ミハルはぎょっとする。
拳头里一直握着蜜蜂,米哈尔大吃一惊。
 拳に蜂を握りしめたままだったので、ミハルはぎょっとする。
「お、おい。蜂を握りしめて、大丈夫なのかよ」 「お、おい。蜂を握りしめて、大丈夫なのかよ」
“喂,喂。你握紧蜜蜂,没事吧?”
「平気。これは雄蜂だから、針は持っていないんだ」 「平気。これは雄蜂だから、針は持っていないんだ」
「え、そうなのか!? でも、蜜蜂の針は、通常は体内にあるんだよな? どうして見た目だけで雄蜂だとわかったんだ?」 “没关系,这是雄蜂,我没有针。”
「え、そうなのか!? でも、蜜蜂の針は、通常は体内にあるんだよな? どうして見た目だけで雄蜂だとわかったんだ?」
“啊,是吗!?但是,蜜蜂的针通常都在体内吧?为什么光从外表就知道是雄蜂呢?”
「雄蜂は雌蜂より、体が大きいからね」 「雄蜂は雌蜂より、体が大きいからね」
“因为雄蜂比雌蜂身材高大。”
「あー、なるほど」 「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
手を開くと雄蜂は勢いよく跳び上がり、礼を言うように頭上を飛び回ったあといなくなった。
一张开手,雄蜂就飞快地跳了起来,像道谢一样在头顶上飞来飞去之后就不见了。
 手を開くと雄蜂は勢いよく跳び上がり、礼を言うように頭上を飛び回ったあといなくなった。
「しかし、なんで、雄蜂には針がないんだ?」 「しかし、なんで、雄蜂には針がないんだ?」
“可是,为什么雄蜂没有针呢?”
「何もしないから」 「何もしないから」
“因为我什么都不做。”
「へ?」 「へ?」
“咦?”
「蜜蜂の雄の存在意義は子孫繁栄のみで、あとは巣でぐうたら過ごすんだよ」 「蜜蜂の雄の存在意義は子孫繁栄のみで、あとは巣でぐうたら過ごすんだよ」
「えー、なんだそれ! お前のところの、兄さんみたいじゃん!」 “蜜蜂雄性的存在意义只是子孙繁荣,之后就在巢穴里无所事事了。”
「えー、なんだそれ! お前のところの、兄さんみたいじゃん!」
“嗯,那是什么!你那里的,不是像哥哥吗!”
ミハルの容赦ない指摘に、思わず笑ってしまった。
对于米哈尔毫不留情的指责,我情不自禁地笑了起来。
◇◇◇
◇◇◇
あっという間に、一日が終わる。
一转眼,一天就结束了。
疲れた体を引きずるように、家路についた。
拖着疲惫的身体,踏上了回家的路。
 ミハルの容赦ない指摘に、思わず笑ってしまった。
 ◇◇◇ イェゼロ家は、家長である母ベルタを始めに、親から孫世代まで大家族が暮らしている。母屋の他に離れが六つあるが、まだまだ増える予定だ。
耶泽罗家族以家长的母亲贝塔为首,从父母到孙子一代都有大家庭生活。除了主屋还有六个距离,但还将增加。
 あっという間に、一日が終わる。
 疲れた体を引きずるように、家路についた。 俺個人の部屋なんてあるわけがなく、屋根裏部屋を改造して使っていたが、それも甥や姪に占領されてしまった。
我不可能有个人的房间,把阁楼改造后使用,但也被侄子和侄女占领了。
 イェゼロ家は、家長である母ベルタを始めに、親から孫世代まで大家族が暮らしている。母屋の他に離れが六つあるが、まだまだ増える予定だ。
 俺個人の部屋なんてあるわけがなく、屋根裏部屋を改造して使っていたが、それも甥や姪に占領されてしまった。 恐ろしいかな。兄の妻だけで十三人、甥と姪だけで、二十三人もいるのだ
 恐ろしいかな。兄の妻だけで十三人、甥と姪だけで、二十三人もいるのだ。 好可怕啊。光是哥哥的妻子就有十三个人,光是侄子和侄女就有二十三个人
 くたくたに疲れて帰ってくると、元気いっぱいの甥と姪が遊んでと集まってくる。まともに相手にしていると、夕食を食いっぱぐれてしまう。彼らが可愛くないわけではないけれど、勘弁してくれと思ってしまうのだ。
 夜は夜で子どもの夜泣きに、走り回って遊ぶ物音や声が聞こえる。それだけならば百歩譲って許せるのだが、兄夫婦の夫婦の営みが聞こえてきた日には、死にたいと思った。
 双子の兄、サシャは去年結婚したばかり。周囲は子どもの誕生を、今か、今かと楽しみにしている。 くたくたに疲れて帰ってくると、元気いっぱいの甥と姪が遊んでと集まってくる。まともに相手にしていると、夕食を食いっぱぐれてしまう。彼らが可愛くないわけではないけれど、勘弁してくれと思ってしまうのだ
 二十三人も子どもがいるのに正気かよと、という率直な感想が浮かんできたが、口にできるわけもなく。 疲惫不堪地回来后,精神饱满的侄子和侄女一玩就聚集在一起。如果认真对待对方的话,就会吃不完晚饭。虽然并不是他们不可爱,但我还是想原谅他们
 新婚夫婦の奮闘を頑張れ、頑張れと応援もできないでいた。
 新しい離れの完成なんて待てやしない。
 そんな中で、ミハルの爺さんから、ブレッド湖のほとりにある小屋を譲って貰った。 夜は夜で子どもの夜泣きに、走り回って遊ぶ物音や声が聞こえる。それだけならば百歩譲って許せるのだが、兄夫婦の夫婦の営みが聞こえてきた日には、死にたいと思った。
 夜中に家を飛び出し、小屋で眠る毎日を過ごしている 夜晚是夜晚孩子的夜哭,能听到跑来跑去玩的声音和声音。如果只是这样的话,退一百步就可以原谅了,但是在听到哥哥夫妇夫妇的生活的日子里,我想死了
 夕食を食いっぱぐれたら、湖で魚を釣って食べたらいい。
 爺さんのおかげで、なんとか暮らしていた。
双子の兄、サシャは去年結婚したばかり。周囲は子どもの誕生を、今か、今かと楽しみにしている。
双胞胎哥哥萨沙去年刚结婚。周围的人都很期待孩子的诞生。
 今日も今日とて、俺の分の夕食なんて影も形もなかった。
 家族が大勢いたら、誰が食べたとか食べていないとか、確認するのは不可能なのだろう。
 ロマナも、サシャに部屋に呼び出されていたようなので、顔を合わせる暇もなく。 二十三人も子どもがいるのに正気かよと、という率直な感想が浮かんできたが、口にできるわけもなく。
 きっと、今頃部屋でよろしくやっているのだろう 虽然脑海中浮现出了一种坦率的感想,那就是明明有二十三个孩子却很清醒
 腹がぐーっと鳴った。
 ひとまず、釣りをして夕食を調達しなくてはならない。
 ブレッド湖には、豊富な魚がいる。おかげで、飢えることはない。ありがたい話である 新婚夫婦の奮闘を頑張れ、頑張れと応援もできないでいた
 明かりは満天の星と月明かり。それから、手元にある小さなランタンの炎だけ 也没能支持新婚夫妇的奋斗,加油
 水面に、月と孤島の教会が映し出されている。世にも美しい光景を、独り占めしていた。
 と、優雅に湖を眺めている場合ではない。腹の虫は、一秒たりとも待ってくれなかった。今も、ぐーぐーと、空腹を訴えている。
 土を掘ってミミズを餌にし、釣り糸を放った。全神経を釣り糸に集中し、しばし待つ 新しい離れの完成なんて待てやしない
 すると、ググッと糸を引く力を感じた。ひときわ強い力を感じた瞬間、竿を思いっきり引いた 不能等待新的分离的完成
 大きな背びれを持った、縞模様の魚が釣れた。一匹だけでは、満腹にはならないだろう。
 粘ること一時間、十二匹の魚が釣れる。なかなかの釣果だろう。一気に食べきれる量ではないが、残りは朝食にしよう。
 腹からナイフを入れて腸を抜き、塩を振って串焼きにする そんな中で、ミハルの爺さんから、ブレッド湖のほとりにある小屋を譲って貰った
在这种情况下,米哈尔的爷爷让我把布莱德湖边的小屋。
 パチパチ、パチパチと焚き火の火が音を立てる。
 風が強く吹くと、火を含んだ灰が舞った 夜中に家を飛び出し、小屋で眠る毎日を過ごしている
半夜从家里跑出来,每天在小屋里睡觉。
 春が訪れようとしているが、夜は冬のように寒い。
 ウサギの毛皮を繋げて作った毛布を、上から被る 夕食を食いっぱぐれたら、湖で魚を釣って食べたらいい
如果晚饭吃不饱的话,可以在湖里钓鱼吃。
爺さんのおかげで、なんとか暮らしていた。
多亏了爷爷,我才勉强生活着。
今日も今日とて、俺の分の夕食なんて影も形もなかった。
今天和今天,我的晚餐什么的一点影子都没有。
家族が大勢いたら、誰が食べたとか食べていないとか、確認するのは不可能なのだろう。
如果家人大势所趋的话,要确认是谁吃的还是没吃的是不可能的吧。
ロマナも、サシャに部屋に呼び出されていたようなので、顔を合わせる暇もなく。
罗曼娜好像也被萨沙叫到了房间,连见面的时间都没有。
きっと、今頃部屋でよろしくやっているのだろう。
现在一定在房间里做得很好吧。
腹がぐーっと鳴った。
肚子一下子就响了。
ひとまず、釣りをして夕食を調達しなくてはならない。
首先,必须钓鱼准备晚饭。
ブレッド湖には、豊富な魚がいる。おかげで、飢えることはない。ありがたい話である。
布莱德湖有丰富的鱼。托您的福,我不会挨饿的。值得庆幸的事。
明かりは満天の星と月明かり。それから、手元にある小さなランタンの炎だけ。
灯光是满天的星星和月光。然后,只有手边的小灯笼的火焰。
水面に、月と孤島の教会が映し出されている。世にも美しい光景を、独り占めしていた。
水面上映出月亮和孤岛的教堂。世界上也独占着美丽的景象。
と、優雅に湖を眺めている場合ではない。腹の虫は、一秒たりとも待ってくれなかった。今も、ぐーぐーと、空腹を訴えている。
不是优雅地眺望湖泊的时候。肚子里的虫子一秒钟也没等我。现在也在抱怨饿了。
土を掘ってミミズを餌にし、釣り糸を放った。全神経を釣り糸に集中し、しばし待つ。
挖土以蚯蚓为食,放出钓鱼线。全神贯注于钓鱼线,等待片刻。
すると、ググッと糸を引く力を感じた。ひときわ強い力を感じた瞬間、竿を思いっきり引いた。
于是,我感受到了拉线的力量。感受到格外强大的力量的瞬间,用力拉了一下竿。
大きな背びれを持った、縞模様の魚が釣れた。一匹だけでは、満腹にはならないだろう。
钓到了一条有着大背鳍的条纹鱼。只吃一只是不会吃饱的吧。
粘ること一時間、十二匹の魚が釣れる。なかなかの釣果だろう。一気に食べきれる量ではないが、残りは朝食にしよう。
坚持一小时能钓到十二条鱼。很不错的结果吧。虽然不是一口气吃完的量,但是剩下的就吃早饭吧。
腹からナイフを入れて腸を抜き、塩を振って串焼きにする。
从肚子里放入小刀,去掉肠子,撒上盐烤串。
パチパチ、パチパチと焚き火の火が音を立てる。
劈里啪啦,劈里啪啦的篝火发出声音。
風が強く吹くと、火を含んだ灰が舞った。
风一吹,含火的灰就飞舞了。
春が訪れようとしているが、夜は冬のように寒い。
春天就要来了,夜晚却像冬天一样寒冷。
ウサギの毛皮を繋げて作った毛布を、上から被る。
从上面盖上用兔子的毛皮做的毛毯。
魚の焼き加減は、あと少しだろうか。香ばしい匂いを漂わせていた。
烤鱼的程度还有一点吗。散发着芳香的味道。
 魚の焼き加減は、あと少しだろうか。香ばしい匂いを漂わせていた。
「……ん?」 「……ん?」
“……嗯?”
 人の気配を感じた。
 目を凝らしても、暗闇なので何も見えない。
人の気配を感じた。
我感觉到了人的气息。
 だんだんと、姿が浮き彫りになっていく。
 見上げるほどの大男が、体を引きずるようにしてやってきたのだ。
 年頃は四十前後か。一番上の兄と、同じくらいだろう。 目を凝らしても、暗闇なので何も見えない
 短く刈った髪に、彫りの深い顔、髭はのびっぱなしだった。腕や太ももは丸太のように太く、全体的にガッシリとした体つきである。 即使凝视,因为是黑暗什么也看不见。
だんだんと、姿が浮き彫りになっていく。
渐渐地,身影浮现出来。
見上げるほどの大男が、体を引きずるようにしてやってきたのだ。
一个能抬头看的彪形大汉,拖着身体走了过来。
年頃は四十前後か。一番上の兄と、同じくらいだろう。
大约四十岁左右吧。和最大的哥哥差不多吧。
短く刈った髪に、彫りの深い顔、髭はのびっぱなしだった。腕や太ももは丸太のように太く、全体的にガッシリとした体つきである。
剪得很短的头发,雕刻得很深的脸,胡子一直留着。手臂和大腿像原木一样粗,整体上是硬朗的身材。
軍人かと思ったが、着ている服装は着古した外套にズボンという、一般市民そのものだった。
原以为是军人,但穿的衣服是旧外套和裤子,是普通市民本身。
男は焚き火の前でがっくりうな垂れると、呟くように言う。
男子在篝火前耷拉着,嘟囔着说。
 軍人かと思ったが、着ている服装は着古した外套にズボンという、一般市民そのものだった。
 男は焚き火の前でがっくりうな垂れると、呟くように言う。
「は、腹が、減った!」 「は、腹が、減った!」
“啊,肚子饿了!”
男の主張を聞き、はてさてどうしたものかと思う。
 男の主張を聞き、はてさてどうしたものかと思う。 听了男人的主张,我想到底是怎么回事

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004.md

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養蜂家の青年は、中年親父と対峙する 養蜂家の青年は、中年親父と対峙する
 男は、火で炙られたほどよい焼き加減の魚と、俺を交互に見ている。 养蜂青年与中年父亲对峙
男は、火で炙られたほどよい焼き加減の魚と、俺を交互に見ている。
男人用火把烤得恰到好处的鱼和我交替着看。
瞳が、潤んでいた。
眼睛湿润了。
仕方がないとため息を吐き、一本の魚を手に取った。脂が焚き火に滴り落ち、ジュッと音を立てている。
他无奈地叹了口气,拿起一条鱼。脂肪滴到篝火上,发出吱吱的声音。
 瞳が、潤んでいた。
 仕方がないとため息を吐き、一本の魚を手に取った。脂が焚き火に滴り落ち、ジュッと音を立てている。
「食べたら?」 「食べたら?」
“吃吧?”
「よ、よいのか?」 「よ、よいのか?」
“哦,可以吗?”
「いいよ。小骨があるから、気を付けて」 「いいよ。小骨があるから、気を付けて」
“好啊,我有小骨头,小心点。”
「助かった。恩に着る!!」 「助かった。恩に着る!!」
“得救了。感恩!!”
 男はそう言い、魚の串を受け取った。豪快に、頭からかぶりつく。
 バリバリと音を立てながら、魚を食べている。骨も皮も、すべて食べていた。最後はきれいな串だけが残る。 男はそう言い、魚の串を受け取った。豪快に、頭からかぶりつく。
男子这样说着,接过了鱼串。豪爽地从头上套上。
バリバリと音を立てながら、魚を食べている。骨も皮も、すべて食べていた。最後はきれいな串だけが残る。
一边发出咯吱咯吱的声音,一边吃着鱼。骨头和皮都吃了。最后只剩下漂亮的串。
あまりの気持ちいい食べっぷりに、思わず二本目の串を差し出した。
吃得太舒服了,不由得拿出了第二根串。
 あまりの気持ちいい食べっぷりに、思わず二本目の串を差し出した。
「かたじけない」 「かたじけない」
“太天真了。”
 そう言って、再びバリボリと食べ始めた。
 結局、男は五本の魚の串を平らげた。野草を乾燥させて作った茶も、三杯も飲み干す。 そう言って、再びバリボリと食べ始めた。
这样说着,又开始吃了。
結局、男は五本の魚の串を平らげた。野草を乾燥させて作った茶も、三杯も飲み干す。
结果,男人把五根鱼串弄平了。把野草干燥后制成的茶,三杯都喝干了。
「本当に、助かった。これは、ほんの礼である」 「本当に、助かった。これは、ほんの礼である」
“真是帮了大忙,这只是一点小礼。”
差し出されたのは、蜂蜜が入った瓶であった。思わず、ランタンを持ち上げて蜂蜜を見る。普段、見かける蜂蜜よりも、色合いが異なっていた。褐色と言えばいいのか、全体が赤みがかかっている。
拿出来的是装着蜂蜜的瓶子。不由得拿起灯笼看蜂蜜。比起平时看到的蜂蜜,颜色更不一样。说起褐色就好了,整体都是红色的。
 差し出されたのは、蜂蜜が入った瓶であった。思わず、ランタンを持ち上げて蜂蜜を見る。普段、見かける蜂蜜よりも、色合いが異なっていた。褐色と言えばいいのか、全体が赤みがかかっている。
「これは?」 「これは?」
“这是?”
「樅(もみ)の木の、蜂蜜である」 「樅(もみ)の木の、蜂蜜である」
“这是枞树的蜂蜜。”
「え、樅って、蜜が豊富な花なんか咲いていたっけ?」 「え、樅って、蜜が豊富な花なんか咲いていたっけ?」
“咦,冷杉开着蜜丰富的花吗?”
「正確に言えば、樹液を吸ったアブラムシが出した甘い蜜を、蜜蜂が集めて作るものである」 「正確に言えば、樹液を吸ったアブラムシが出した甘い蜜を、蜜蜂が集めて作るものである」
“准确地说,是蜜蜂收集吸收树液的蚜虫发出的甜蜜制作而成的。”
「アブラムシから採れた、蜂蜜!?」 「アブラムシから採れた、蜂蜜!?」
“采自蚜虫的蜂蜜!?”
初めて見て、聞いた蜂蜜を前に、俄然興味がそそられる。
第一次看到,在听到的蜂蜜面前,突然产生了兴趣。
 初めて見て、聞いた蜂蜜を前に、俄然興味がそそられる。
「これ、味見をしてもいい?」 「これ、味見をしてもいい?」
“这个,可以尝尝吗?”
「それは、そなたにあげた品だ。好きなように、食すとよい」 「それは、そなたにあげた品だ。好きなように、食すとよい」
「那是我送给你的东西,你可以随便吃。」
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
きつく閉めてあった蓋を開き、先端の樹皮を削いだ木の枝で蜂蜜を掬う。
打开紧闭的盖子,用削掉尖端树皮的树枝舀蜂蜜。
バターかと思うほどねっとりしていて、ほのかに森の中にいるような香りを感じる。口に含むと、熱した砂糖のような香ばしさと品のある甘みを感じた。
粘稠得让人以为是黄油,隐约感受到森林中的香味。含在嘴里,感觉到了热砂糖般的香味和有品位的甜味。
 きつく閉めてあった蓋を開き、先端の樹皮を削いだ木の枝で蜂蜜を掬う。
 バターかと思うほどねっとりしていて、ほのかに森の中にいるような香りを感じる。口に含むと、熱した砂糖のような香ばしさと品のある甘みを感じた。
「すごい……! こんな蜂蜜があるなんて」 「すごい……! こんな蜂蜜があるなんて」
“好厉害……!竟然有这样的蜂蜜。”
「うまいであろう? 我が家、自慢の蜂蜜だ」
“很好吃吧?我们家是引以为豪的蜂蜜。”
「うまいであろう? 我が家、自慢の蜂蜜だ」
「おじさん、養蜂家なんだ」 「おじさん、養蜂家なんだ」
“叔叔,我是养蜂人。”
「ああ。我らは、森の木々から採れる蜂蜜で、生計を立てているのだ」 「ああ。我らは、森の木々から採れる蜂蜜で、生計を立てているのだ」
“啊,我们靠从森林里的树木中采摘的蜂蜜维持生计。”
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
花を育て蜂蜜を採るイェゼロ家の養蜂とは異なり、男の養蜂は森にある木々から採る養蜂をしているようだ。
与养花采蜂蜜的耶泽罗家的养蜂不同,男人的养蜂好像是从森林里的树木中采集的养蜂。
同じ養蜂でも、まったく異なる。いったい、どういう作業を経て蜂蜜を得ているのか、興味がそそられる。
即使是同样的养蜂,也完全不同。到底是经过怎样的工作得到蜂蜜的,令人感兴趣。
 花を育て蜂蜜を採るイェゼロ家の養蜂とは異なり、男の養蜂は森にある木々から採る養蜂をしているようだ。
 同じ養蜂でも、まったく異なる。いったい、どういう作業を経て蜂蜜を得ているのか、興味がそそられる。
ここで、男性が名乗った。
在这里,男性自称了。
 ここで、男性が名乗った。
「我は、ボーヒン湖周辺の山で暮らす、マクシミリニャン・フリバエである」 「我は、ボーヒン湖周辺の山で暮らす、マクシミリニャン・フリバエである」
“我是生活在波欣湖周边的山上的马克西米利尼安·弗里瓦耶。”
「マクシミリニャン……」 「マクシミリニャン……」
“马克西米莉娜……”
なかなか、聞き慣れない珍しい名前だ。思わず復唱してしまった。
这是一个很难耳熟能详的罕见名字。不由得复述了一遍。
 なかなか、聞き慣れない珍しい名前だ。思わず復唱してしまった。 ボーヒン湖というのは、ここから馬車で数時間ほど離れている、のどかで美しい秘境と呼ばれている。ボーヒン湖はブレッド湖より三倍も大きな湖で、周辺よりも豊かな自然が広がっている土地だ
 ボーヒン湖というのは、ここから馬車で数時間ほど離れている、のどかで美しい秘境と呼ばれている。ボーヒン湖はブレッド湖より三倍も大きな湖で、周辺よりも豊かな自然が広がっている土地だ。 博欣湖被称为一个悠闲而美丽的秘境,距离这里有几个小时的马车。波欣湖是一个比布莱德湖大三倍的湖泊,是一片比周边更丰富的自然景观
 マクシミリニャンと名乗った男は、どこか古めかしい喋りで、浮き世離れをしているように見えた。秘境育ちなのも、頷ける。
マクシミリニャンと名乗った男は、どこか古めかしい喋りで、浮き世離れをしているように見えた。秘境育ちなのも、頷ける。
自称是马克西米利尼亚的男人,总觉得有一种古色古香的说话方式,显得脱离了尘世。秘境长大也是可以理解的。
「俺は、イェゼロ家のイヴァン。すぐ近くにある、花畑養蜂園で蜂蜜を作っている」 「俺は、イェゼロ家のイヴァン。すぐ近くにある、花畑養蜂園で蜂蜜を作っている」
「ぬ! そうであったか!」 “我是耶泽罗家的伊凡。就在附近的花圃养蜂园做蜂蜜。”
「ぬ! そうであったか!」
“没有!原来是这样!”
なんとなく、野草茶に入れようとしていた蜂蜜を、マクシミリニャンに差し出した。
无意中,把想泡在野草茶里的蜂蜜递给了马克西米利尼亚。
 なんとなく、野草茶に入れようとしていた蜂蜜を、マクシミリニャンに差し出した。
「これ、蕎麦(アイダ)の花の蜂蜜」 「これ、蕎麦(アイダ)の花の蜂蜜」
“这是荞麦花蜂蜜”
花畑養蜂園の端のほうに、畑もある。そこで家族で消費するそばを育てつつ、蜜蜂に蜂蜜を作ってもらっているのだ。
花圃养蜂园的尽头还有田地。在那里,一边培育着家人一起消费的荞麦面,一边让蜜蜂做蜂蜜。
マクシミリニャンはくんくんと瓶の蜂蜜をかぎ、匙で掬ったものを口に含んだ。
马克西米莉娜嗅着小君和瓶子里的蜂蜜,嘴里含着用勺子舀出来的东西。
 花畑養蜂園の端のほうに、畑もある。そこで家族で消費するそばを育てつつ、蜜蜂に蜂蜜を作ってもらっているのだ。
 マクシミリニャンはくんくんと瓶の蜂蜜をかぎ、匙で掬ったものを口に含んだ。
「こ、これは、なんて“濃い”のか!」 「こ、これは、なんて“濃い”のか!」
“这个,这个,多么‘浓’啊!”
「ちょっと、クセがあるけれど」 「ちょっと、クセがあるけれど」
“虽然有点癖好。”
「いいや、我は気にならぬ。非常に美味なる蜂蜜よ」 「いいや、我は気にならぬ。非常に美味なる蜂蜜よ」
“不,我不介意。蜂蜜非常美味。”
そばは俺の提案で作った蜂蜜である。そばが採れる上に、蜂蜜までもたらされるなんて一石二鳥だろう。
荞麦面是我提议做的蜂蜜。不仅能采荞麦面,还能带来蜂蜜,真是一举两得啊。
だがしかし、そばの蜂蜜は家族からは不評だった。市場でも売れないので、自分で手売りしてこいと押しつけられている。
但是,旁边的蜂蜜被家人评价不好。因为在市场上也卖不出去,所以被强迫自己卖。
ミハルがいくつか買ってくれたが、肉や魚を使った味が濃い料理の味付けにいいと教えてくれた。
米哈尔给我买了一些,告诉我用肉和鱼做的味道很浓的料理调味很好。
それから街へ魚を売りに行くときに一緒に販売し、そこそこ売れている。
然后去街上卖鱼的时候一起卖,卖得还不错。
 そばは俺の提案で作った蜂蜜である。そばが採れる上に、蜂蜜までもたらされるなんて一石二鳥だろう。
 だがしかし、そばの蜂蜜は家族からは不評だった。市場でも売れないので、自分で手売りしてこいと押しつけられている。
 ミハルがいくつか買ってくれたが、肉や魚を使った味が濃い料理の味付けにいいと教えてくれた。 たくさん売れても、収入は懐に入らないところが空しさを覚えるが。
即使卖了很多,收入也存不下的地方让人感到空虚。
 それから街へ魚を売りに行くときに一緒に販売し、そこそこ売れている。
 たくさん売れても、収入は懐に入らないところが空しさを覚えるが。
「イヴァン殿は、このような蜂蜜を作っているのだな」 「イヴァン殿は、このような蜂蜜を作っているのだな」
“伊凡大人是做这样的蜂蜜的。”
「普段は、花蜜メインだけれど」 「普段は、花蜜メインだけれど」
“平时主要是花蜜。”
急に、マクシミリニャンは居住まいを正した。すっと背筋を伸ばした状態で、ジッと俺を見つめていた。
突然,马克西米利尼亚纠正了自己的居住方式。在挺直腰杆的状态下,紧紧地盯着我。
 急に、マクシミリニャンは居住まいを正した。すっと背筋を伸ばした状態で、ジッと俺を見つめていた。
何を言い出すのか。少し構えてしまう。
你要说什么。稍微准备一下。
そんな状況で、マクシミリニャンはとんでもない願いを口にした。
在这种情况下,马克西米利尼亚说出了一个荒唐的愿望。
 何を言い出すのか。少し構えてしまう。
 そんな状況で、マクシミリニャンはとんでもない願いを口にした。
「イヴァン殿、どうか、我が娘アニャと、結婚してほしい」 「イヴァン殿、どうか、我が娘アニャと、結婚してほしい」
“伊凡大人,请你和我的女儿阿尼亚结婚。”
「はい!?」 「はい!?」
“是!?”
突然の懇願に、目が点となった。
 突然の懇願に、目が点となった。 突然的恳求使我目瞪口呆

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005.md

@ -1,263 +1,625 @@
養蜂家の青年は、結婚話を断る 養蜂家の青年は、結婚話を断る
 いきなり、娘と結婚してくれと懇願される。思わず、なぜこうなったのかと星空を見上げた。 养蜂青年拒绝结婚
いきなり、娘と結婚してくれと懇願される。思わず、なぜこうなったのかと星空を見上げた。
突然被恳求和女儿结婚。不由得仰望星空,不知道为什么会变成这样。
どんな反応をしていいものか迷ったが、素直な感想をそのまま伝えてみる。
虽然不知道该做出什么样的反应,但还是试着直接传达坦率的感想。
 どんな反応をしていいものか迷ったが、素直な感想をそのまま伝えてみる。
「なんで、俺?」 「なんで、俺?」
“为什么是我?”
「見ず知らずの我に、親切にしてくれた。それに、このようにすばらしい蜂蜜を作る男ならば、間違いなく、娘を任せても問題ないゆえに」 「見ず知らずの我に、親切にしてくれた。それに、このようにすばらしい蜂蜜を作る男ならば、間違いなく、娘を任せても問題ないゆえに」
“对素不相识的我很亲切。而且,如果是做这么好蜂蜜的男人,没错,交给女儿也没问题。”
「そう」 「そう」
“是的。”
マクシミリニャンは震える声で、娘について語り始める。
马克西米莉娜用颤抖的声音开始讲述女儿。
 マクシミリニャンは震える声で、娘について語り始める。
「アニャは今年で十九になるものの、結婚相手が見つからないのである」 「アニャは今年で十九になるものの、結婚相手が見つからないのである」
“阿尼亚今年已经十九岁了,但是找不到结婚对象。”
「十九……」 「十九……」
“十九……”
この辺りでは、十六歳までにはだいたい結婚している。多くは父親が結婚相手を探し、話をまとめてくるのだ。
在这附近,十六岁之前基本上都结婚了。很多都是父亲寻找结婚对象,总结故事。
そんな慣習があるので、十九ともなれば立派な嫁ぎ遅れである。ロマナのように、両親がいない娘は仕方がない話ではあるが。
因为有这样的习惯,到了十九岁就嫁晚了。像罗曼娜一样,没有父母的女儿是没办法的事。
 この辺りでは、十六歳までにはだいたい結婚している。多くは父親が結婚相手を探し、話をまとめてくるのだ。
 そんな慣習があるので、十九ともなれば立派な嫁ぎ遅れである。ロマナのように、両親がいない娘は仕方がない話ではあるが。
何か、絶大な問題を抱えているのだろう。間違いないと確信していた。
有什么巨大的问题吧。我确信没错。
性格に難があるのか、それとも、とんでもない不器用な娘なのか。
是性格上有困难,还是一个非常笨拙的姑娘。
 何か、絶大な問題を抱えているのだろう。間違いないと確信していた。
 性格に難があるのか、それとも、とんでもない不器用な娘なのか。
「これが、アニャの作った花帯である」 「これが、アニャの作った花帯である」
“这就是阿尼亚制作的花带。”
花帯――それは、女性が日々、服に巻き付ける美しい刺繍が刺された帯である。父親は結婚相手を探すさいに、娘の能力を示すために見せて回るのだ。
花带——那是女性每天缠在衣服上的绣着美丽刺绣的带子。父亲在寻找结婚对象的时候,为了展示女儿的能力而到处展示。
マクシミリニャンの娘アニャの花帯は、すばらしい腕前だった。艶やかなプリムラの花々が、色鮮やかに刺されている。
马克西米莉娜的女儿阿尼亚的花带,是一个很棒的本领。艳丽的普里姆拉的花朵被鲜艳的颜色所刺伤。
 花帯――それは、女性が日々、服に巻き付ける美しい刺繍が刺された帯である。父親は結婚相手を探すさいに、娘の能力を示すために見せて回るのだ。
これほどの腕前の娘は、街を探しても滅多にいないだろう。見せた瞬間、花嫁にしたいと言い出す男が出てくるはずだ。
这么能干的姑娘,找个街上也不多了吧。看到的瞬间,应该会出现想成为新娘的男人。
 マクシミリニャンの娘アニャの花帯は、すばらしい腕前だった。艶やかなプリムラの花々が、色鮮やかに刺されている。
 これほどの腕前の娘は、街を探しても滅多にいないだろう。見せた瞬間、花嫁にしたいと言い出す男が出てくるはずだ。
「どうであろうか?」 「どうであろうか?」
“怎么样?”
「まあ、いいんじゃないの」 「まあ、いいんじゃないの」
“嗯,不是很好吗?”
「だったら――!」 「だったら――!」
“那么——!”
 首を横に振る。結婚はできないと、はっきり示した。  首を横に振る。結婚はできないと、はっきり示した。
摇头。明确表示不能结婚。
「な、なにゆえなのか!? もしや、既婚者だというのか?」
“什么,为什么呢!?难道是已婚者吗?”
「な、なにゆえなのか!? もしや、既婚者だというのか?」
「違う」 「違う」
“不是。”
「だったら、頼む!!」 「だったら、頼む!!」
“那就拜托你了!!”
マクシミリニャンは地面に額をつけ、これでもかと懇願した。
马克西米利尼安了一个额头在地上,恳求他这样也行。
 マクシミリニャンは地面に額をつけ、これでもかと懇願した。
思わず「はーー」とため息を吐く。自分について語るのは、おそろしく億劫だ。しかし、説明しなければ、ここで平伏を続けるだろう。
不由得叹了一口气。谈论自己,可怕地嫌麻烦。但是,如果不说明的话,就在这里继续平伏吧。
 思わず「はーー」とため息を吐く。自分について語るのは、おそろしく億劫だ。しかし、説明しなければ、ここで平伏を続けるだろう。
「俺は、継ぐべき花畑がない、財産なしの男なんだ。だから、結婚しても、養えない」 「俺は、継ぐべき花畑がない、財産なしの男なんだ。だから、結婚しても、養えない」
“我是一个没有应该继承的花圃,没有财产的男人,所以即使结婚也养不起。”
マクシミリニャンは顔を上げ、ポカンとした表情でこちらを見つめる。
马克西米利尼亚抬起头,表情波坎地看着这边。
 マクシミリニャンは顔を上げ、ポカンとした表情でこちらを見つめる。
「何?」 「何?」
“什么?”
「いや、我は、婿を探しているのだ。だから、別に、問題ない。むしろ、好都合である」 「いや、我は、婿を探しているのだ。だから、別に、問題ない。むしろ、好都合である」
“不,我是在找女婿。所以,没什么问题。倒不如说是很方便。”
娘を嫁がせるのではなく、俺自身に婿に来てほしいと望んでいると。
不是让女儿出嫁,而是希望我自己来女婿。
そこで、合点がいく。
因此,可以理解。
通常、結婚するさいは女性が男性の家に入る。これが、絶対条件だ。
通常,结婚时女性进入男性的家。这是绝对条件。
 娘を嫁がせるのではなく、俺自身に婿に来てほしいと望んでいると。 家業を営む家は、花嫁となった女性も働き手となる。それゆえ、婿にと望んでも断られる場合がほとんどだろう
 そこで、合点がいく。 经营家业的家庭,成为新娘的女性也成为劳动者。因此,即使希望女婿也几乎都会被拒绝吧
 通常、結婚するさいは女性が男性の家に入る。これが、絶対条件だ。
 家業を営む家は、花嫁となった女性も働き手となる。それゆえ、婿にと望んでも断られる場合がほとんどだろう。
 これほどの刺繍の腕前を持ちながら結婚相手が見つからないのは謎だったが、ようやく納得できた。 これほどの刺繍の腕前を持ちながら結婚相手が見つからないのは謎だったが、ようやく納得できた。
虽然有着如此高超的刺绣技艺却找不到结婚对象,这是个谜,但终于可以理解了。
「では、今から、ご両親に挨拶を――」 「では、今から、ご両親に挨拶を――」
“那么,从现在开始,向父母打招呼——”
「待って、待って。結婚しないから!」 「待って、待って。結婚しないから!」
“等等,等等,我不结婚!”
 マクシミリニャンは、理解しがたいという目でこちらを見つめる。 マクシミリニャンは、理解しがたいという目でこちらを見つめる。
马克西米利尼亚用难以理解的眼神看着这边。
婿として迎え入れてくれるのは、好都合だ。しかし、だからといって結婚するわけにはいかない。
作为女婿迎接我是很好的。但也不能因此就结婚。
 婿として迎え入れてくれるのは、好都合だ。しかし、だからといって結婚するわけにはいかない。
「この地には、大事な蜜蜂がいるから」 「この地には、大事な蜜蜂がいるから」
“因为这片土地上有重要的蜜蜂。”
「ぬう!」 「ぬう!」
“哇!”
マクシミリニャンは悔しそうに唸る。どうにか頼むと言うが、首を横に振るしかない。
马克西米利尼亚悔恨地呻吟。虽然想办法拜托你,但只能摇头。
蜜蜂も大事だが、俺がいなくなったら、家族がというか、女性陣が困るだろう。
 マクシミリニャンは悔しそうに唸る。どうにか頼むと言うが、首を横に振るしかない。 蜜蜂也很重要,但是如果我不在的话,家人会很为难吧。
皆を見捨てて、結婚するわけにはいかないのだ。
不能抛弃大家结婚。
 蜜蜂も大事だが、俺がいなくなったら、家族がというか、女性陣が困るだろう。
 皆を見捨てて、結婚するわけにはいかないのだ。
「それにしても、婿にと望んでいたから、結婚が遅れたんだ」 「それにしても、婿にと望んでいたから、結婚が遅れたんだ」
“即便如此,因为希望成为女婿,所以结婚晚了。”
「いいや、そうではない」 「いいや、そうではない」
“不,不是那样的。”
「え?」 「え?」
“诶?”
マクシミリニャンの娘アニャは、婿を取る以前に問題があるらしい。
马克西米利尼亚的女儿阿尼亚在娶女婿之前好像有问题。
 マクシミリニャンの娘アニャは、婿を取る以前に問題があるらしい。
「アニャは……アニャは……」 「アニャは……アニャは……」
“阿尼亚……阿尼亚……”
「どうしたの?」 「どうしたの?」
“怎么了?”
マクシミリニャンは険しい表情を浮かべつつ、尋常ではない様子で震え始めた。
马克西米利尼亚露出了险峻的表情,开始不寻常地发抖。
 マクシミリニャンは険しい表情を浮かべつつ、尋常ではない様子で震え始めた。
「なんなの? 言いかけたら、余計に気になるんだけれど」 「なんなの? 言いかけたら、余計に気になるんだけれど」
“什么呀?刚要说的时候,我更在意了。”
「言ったら、結婚、してくれるのか?」 「言ったら、結婚、してくれるのか?」
“我说了,你会嫁给我吗?”
「いや、それはできないけれど」 「いや、それはできないけれど」
“不,那是做不到的。”
「ぐうっ!!」 「ぐうっ!!」
“呜呜!!”
マクシミリニャンは眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くさせた。素顔も強面なのに、余計に恐ろしくなる。
马克西米莉娜皱起眉头,眼神锐利。素颜也很强,却更加可怕。
 マクシミリニャンは眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くさせた。素顔も強面なのに、余計に恐ろしくなる。
いったい、アニャにどんな問題があるというのか。しばらく黙って待っていたら、マクシミリニャンは小さな声で話し始めた。
到底阿尼亚有什么问题。沉默地等了一会儿,马克西米莉娜开始小声说话。
 いったい、アニャにどんな問題があるというのか。しばらく黙って待っていたら、マクシミリニャンは小さな声で話し始めた。
「……なのだ」 「……なのだ」
「え、何? 聞こえない」 「……是这样的。」
「え、何? 聞こえない」
「咦?什么?我听不见。」
「……潮が、……なのだ」 「……潮が、……なのだ」
“……潮水……”
「だから、聞こえないって」 「だから、聞こえないって」
“所以,我不能听。”
「初潮が、まだなのだ!!」 「初潮が、まだなのだ!!」
“初潮还没来!!”
「なんだって!?」 「なんだって!?」
“什么!?”
マクシミリニャンの大声につられて、大きな声で反応してしまう。
被马克西米利尼亚的大声吸引,大声反应。
初潮――すなわち月経とは、女性が子どもを産むのに必要な体の準備である。
初潮——也就是说,月经是女性生孩子所必需的身体准备。
女性を苦しめる月経については、把握していた。一週間ほど出血がある上に、頭痛や腹痛に襲われ、情緒不安定になると。母親がしっかり教えてくれたのだ。おかげで、理不尽に怒られたり、仕事がはかどったりしていなくても、「ああ、月のものがきているんだな」と自分に言い聞かせられる。
关于让女性痛苦的月经,已经掌握了。有一周左右的出血,再加上头痛和腹痛,情绪不稳定。是母亲好好教我的。托你的福,即使没有被无理地骂,工作也没有进展,也会被自己说“啊,月亮的东西来了啊”。
子育てをして、働いて、夫の面倒を見て、その上に月経があるなんて、女性は大変だとしみじみ思っていた。
抚养孩子、工作、照顾丈夫,而且还有月经,这让女性深感辛苦。
 マクシミリニャンの大声につられて、大きな声で反応してしまう。
 初潮――すなわち月経とは、女性が子どもを産むのに必要な体の準備である。
 女性を苦しめる月経については、把握していた。一週間ほど出血がある上に、頭痛や腹痛に襲われ、情緒不安定になると。母親がしっかり教えてくれたのだ。おかげで、理不尽に怒られたり、仕事がはかどったりしていなくても、「ああ、月のものがきているんだな」と自分に言い聞かせられる。
 子育てをして、働いて、夫の面倒を見て、その上に月経があるなんて、女性は大変だとしみじみ思っていた。 ちらりと、マクシミリニャンを見る。額にびっしり汗をかき、顔面蒼白状態であった。
瞥了一眼马克西米利尼亚。额头上出了很多汗,脸色苍白。
 ちらりと、マクシミリニャンを見る。額にびっしり汗をかき、顔面蒼白状態であった。
「我の言いたいことが、わかるだろうか?」 「我の言いたいことが、わかるだろうか?」
“我想说的话,你明白吗?”
「わかるよ。子どもが、産めないんでしょう」 「わかるよ。子どもが、産めないんでしょう」
「ああ」  “我知道,孩子不能生吧。”
「ああ」
“啊。”
 アニャが十九歳になるまで結婚できない理由を、正しく理解する。 アニャが十九歳になるまで結婚できない理由を、正しく理解する。
正确理解阿尼亚在十九岁之前不能结婚的理由。
「結婚は、アニャの初潮を待っていたのだ。しかし、いつになっても、いつになっても訪れず……」 「結婚は、アニャの初潮を待っていたのだ。しかし、いつになっても、いつになっても訪れず……」
“结婚是在等待阿尼亚的初潮。但是,无论什么时候,什么时候都不去……”
「だったらどうして、初潮を待たずに、結婚させようと思ったの?」 「だったらどうして、初潮を待たずに、結婚させようと思ったの?」
“那你为什么不等初潮就想让他结婚呢?”
「それは――我が、いつまで生きているか、わからないからな。アニャを、独りにさせるわけには、いかない」 「それは――我が、いつまで生きているか、わからないからな。アニャを、独りにさせるわけには、いかない」
“那是因为——我不知道我活到了什么时候。我不能让阿尼亚一个人。”
現在、マクシミリニャンに妻はおらず、アニャと二人暮らしをしているのだろう。
现在,马克西米利尼亚没有妻子,和阿尼亚一起生活吧。
人はいつ死ぬかわからない。娘を思って、家族を迎えようとしているのだという。
人不知道什么时候会死。他想女儿,想迎接家人。
 現在、マクシミリニャンに妻はおらず、アニャと二人暮らしをしているのだろう。
 人はいつ死ぬかわからない。娘を思って、家族を迎えようとしているのだという。
「子が産めぬ娘と、結婚しようという男は、もしや、いないのだろうか?」 「子が産めぬ娘と、結婚しようという男は、もしや、いないのだろうか?」
「さあ? 世間一般の男が、どういうことを考えているかは、知らない。でも、出産は命がけだから、しなくていいのならば、それでいいんじゃない?」 “难道没有男人想和生不下孩子的女儿结婚吗?”
「さあ? 世間一般の男が、どういうことを考えているかは、知らない。でも、出産は命がけだから、しなくていいのならば、それでいいんじゃない?」
“是吗?我不知道社会上一般的男人在想什么。但是,生孩子是拼了命的,如果不做就好了,这样不就好了吗?”
これまで、多くの妊娠と出産を見守ってきた。順風満帆な出産などなかったように思える。
 これまで、多くの妊娠と出産を見守ってきた。順風満帆な出産などなかったように思える。 至今为止,一直守护着很多妊娠和分娩。我觉得没有一帆风顺的分娩
 生まれる前に死んだ子もいたし、生まれてから死んだ子もいた。
 子を亡くした挙げ句悲しみに暮れ、一年間寝込んだ義姉もいる。
 出産で大量の血を失い、生死を彷徨った義姉もいた。 生まれる前に死んだ子もいたし、生まれてから死んだ子もいた。
有的孩子出生前就死了,有的孩子出生后就死了。
子を亡くした挙げ句悲しみに暮れ、一年間寝込んだ義姉もいる。
有的大嫂因为失去了孩子而悲痛欲绝,卧床不起一年。
出産で大量の血を失い、生死を彷徨った義姉もいた。
也有因分娩而失去大量血液,生死彷徨的大嫂。
「子どもは、奇跡の賜物なんだよ。絶対に、結婚したら産まれるものだと考えてはいけない。別に、子どもがいてもいなくても、いいんだ。家族で手と手を取り合い、幸せになれば」 「子どもは、奇跡の賜物なんだよ。絶対に、結婚したら産まれるものだと考えてはいけない。別に、子どもがいてもいなくても、いいんだ。家族で手と手を取り合い、幸せになれば」
“孩子是奇迹的恩赐。绝对不能认为结婚就能生孩子。另外,不管有没有孩子都可以。和家人携手,幸福就好了。”
話を聞いたマクシミリニャンは、ポロポロと大粒の涙を零した。
听了这话的马克西米利尼亚,滴滴答答地流下了大颗的眼泪。
 話を聞いたマクシミリニャンは、ポロポロと大粒の涙を零した。
「あ、ありがとう……!」 「あ、ありがとう……!」
“啊,谢谢……!”
「いや、結婚は、しないからね」 「いや、結婚は、しないからね」
“不,我不结婚。”
「それでも、そういうふうに考えてくれる男がいるというのは、我ら親子の、希望になる」 「それでも、そういうふうに考えてくれる男がいるというのは、我ら親子の、希望になる」
“即便如此,有这样想的男人,也是我们父子的希望。”
「そう」 「そう」
“是的。”
泣き続けるマクシミリニャンに、なんて言葉をかけていいのかわからない。
我不知道该对一直哭的马克西米莉娜说些什么。
 泣き続けるマクシミリニャンに、なんて言葉をかけていいのかわからない。 ちょうど鍋の湯が沸騰したので、温かい野草茶を淹れてあげた
 ちょうど鍋の湯が沸騰したので、温かい野草茶を淹れてあげた。 正好锅里的水开了,我给你泡了一杯热的野草茶

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養蜂家の青年は、中年親父の話に耳を傾ける 養蜂家の青年は、中年親父の話に耳を傾ける
 なぜ、マクシミリニャンは満身創痍だったのか、ろくでもない話だろうが会話が途切れたので尋ねる。 养蜂青年倾听中年父亲的话
なぜ、マクシミリニャンは満身創痍だったのか、ろくでもない話だろうが会話が途切れたので尋ねる。
为什么马克西米利尼亚满身疮痍,虽然是不好的话,但因为对话中断了,所以询问。
 
「馬車を使ってやってくるつもりが、途中、足を滑らせて湖に落下し、鞄と路銀を落としてしまったのだ。おかげで、人里に来るまで苦労してしまった」 「馬車を使ってやってくるつもりが、途中、足を滑らせて湖に落下し、鞄と路銀を落としてしまったのだ。おかげで、人里に来るまで苦労してしまった」
“本来打算用马车来的,但途中失足掉进湖里,包和路银掉了下来。托您的福,来到村庄之前很辛苦。”
「人里って……」 「人里って……」
“村庄……”
ボーヒン湖周辺は秘境とはいえ、少しは人が住んでいるだろう。山々には、いったいどれだけの人達が住んでいるのか聞いてみたが、娘と自分、それから家畜と飼い犬以外いないという。
波欣湖周边虽说是秘境,但也有一些人居住吧。我问了山上到底住着多少人,除了女儿和自己,还有家畜和养狗以外没有其他人。
 ボーヒン湖周辺は秘境とはいえ、少しは人が住んでいるだろう。山々には、いったいどれだけの人達が住んでいるのか聞いてみたが、娘と自分、それから家畜と飼い犬以外いないという。
「どうして、そんなところに住んでいるの?」 「どうして、そんなところに住んでいるの?」
“你为什么住在那种地方?”
「それは……皇家に、蜂蜜を、献上しなければいけない日が、くるかもしれないゆえ」 「それは……皇家に、蜂蜜を、献上しなければいけない日が、くるかもしれないゆえ」
“那是因为……也许有一天必须向皇家献上蜂蜜。”
「皇家って」 「皇家って」
“皇家”
 かつて、この地は隣に位置する帝国の支配下にあった。しかし、十年前の皇帝の崩御をきっかけに帝国の体制は崩れ、三年も経たないうちに解体された。以後、この国は連合国となる。
 独立はしていないものの、自由を手に入れたと喜んでいた かつて、この地は隣に位置する帝国の支配下にあった。しかし、十年前の皇帝の崩御をきっかけに帝国の体制は崩れ、三年も経たないうちに解体された。以後、この国は連合国となる
 ただし、一部の者達を除いてであるが 过去,这片土地处于邻近帝国的统治之下。但是,以十年前皇帝的驾崩为契机,帝国的体制崩溃了,不到三年就解体了。以后,这个国家成为联合国
 以前までは各地に、皇族御用達の商店や職人達がいた。皇家からの注文に応じてドレスを作ったり、民芸品をこしらえたり、品物を用意したり。
 売り上げが生活を支えていたため、皇家という取引先を失った者達は一気に廃業に追い込まれる。
 だが、細々と暮らし、生活している者達も少なからず残っている。 独立はしていないものの、自由を手に入れたと喜んでいた。
虽然没有独立,但很高兴得到了自由。
ただし、一部の者達を除いてであるが。
但是,除了一部分人以外。
以前までは各地に、皇族御用達の商店や職人達がいた。皇家からの注文に応じてドレスを作ったり、民芸品をこしらえたり、品物を用意したり。
以前各地都有皇族御用的商店和工匠们。根据皇家的订单制作礼服,制作民间工艺品,准备物品。
売り上げが生活を支えていたため、皇家という取引先を失った者達は一気に廃業に追い込まれる。
因为销售额支撑着生活,失去了皇家这个客户的人们一下子被停业了。
だが、細々と暮らし、生活している者達も少なからず残っている。
但是,也有不少细致入微地生活、生活着的人。
彼、マクシミリニャンも、旧体制の影響を引きずったままでいるようだ。
他、马克西米利尼亚似乎也一直受到旧体制的影响。
 彼、マクシミリニャンも、旧体制の影響を引きずったままでいるようだ。
「いつかまた、蜂蜜を求めてやってくるかもしれぬから、我らはあそこに居続けるしかない」 「いつかまた、蜂蜜を求めてやってくるかもしれぬから、我らはあそこに居続けるしかない」
“总有一天,我们会再来寻求蜂蜜,所以我们只能继续留在那里。”
「待って、帝国は十年も前に崩壊した。影響力のあった皇帝は病死したし、新しい皇帝は島送りにされた。残りの皇族も、国外追放されて、国内には残っていない」 「待って、帝国は十年も前に崩壊した。影響力のあった皇帝は病死したし、新しい皇帝は島送りにされた。残りの皇族も、国外追放されて、国内には残っていない」
“等等,帝国在十年前就崩溃了,有影响力的皇帝病死了,新皇帝被送到岛上,剩下的皇族,也被驱逐出境,国内没有留下。”
「それでも、我らには、森の奥地で蜂蜜を作る以外の生き方を、知らない」 「それでも、我らには、森の奥地で蜂蜜を作る以外の生き方を、知らない」
“即便如此,我们也不知道在森林深处制作蜂蜜以外的生活方式。”
言葉を失う。訪れるはずもない皇家の注文を、秘境の地で待つなど、無駄の一言だ。
失言。在秘境之地等待不可能到来的皇家的订单,这是徒劳的一句话。
家族を見捨てられないのは俺と同じなのだろう。マクシミリニャンと娘アニャもまた、今の暮らしを手放せずにいる。
 言葉を失う。訪れるはずもない皇家の注文を、秘境の地で待つなど、無駄の一言だ。 不能抛弃家人和我一样吧。马克西米莉娜和女儿阿尼亚也无法放弃现在的生活
 家族を見捨てられないのは俺と同じなのだろう。マクシミリニャンと娘アニャもまた、今の暮らしを手放せずにいる。
 変化は、恐ろしい。どんなに辛くても、そこから抜け出せない気持ちはよく理解できる。
 だからといって、誰もいない秘境の地で年若い娘と二人で暮らすのは、あまりにも不毛である。 変化は、恐ろしい。どんなに辛くても、そこから抜け出せない気持ちはよく理解できる。
变化是可怕的。无论多么辛苦,也能很好地理解无法从中摆脱出来的心情。
だからといって、誰もいない秘境の地で年若い娘と二人で暮らすのは、あまりにも不毛である。
即便如此,在空无一人的秘境中和年轻姑娘一起生活,实在是太不毛之地了。
ただ、わかっているので、こうして街までやってきて結婚相手を探しているのだろう。
只是,因为知道,就这样来到街上寻找结婚对象吧。
 ただ、わかっているので、こうして街までやってきて結婚相手を探しているのだろう。
「明日は、街に行って探してみよう」 「明日は、街に行って探してみよう」
“明天去街上找找看吧。”
「まあ、家業を継いでいる者がほとんどだから、難しいとは思うけれど」 「まあ、家業を継いでいる者がほとんどだから、難しいとは思うけれど」
“嗯,继承家业的人几乎都有,我觉得很难。”
「むう」 「むう」
“嗯”
路銀を持っていないと言っていた。泊まる場所もないのだろう。マクシミリニャンは野宿をするというが、春とはいえ夜はまだまだ冷える。
你说你没带路银。也没有住宿的地方吧。据说马克西米利尼亚在野外住宿,虽说是春天,但晚上还是很冷。
仕方がないので、小屋の片隅を貸してあげることにした。
没办法,我决定把小屋的角落借给你。
 路銀を持っていないと言っていた。泊まる場所もないのだろう。マクシミリニャンは野宿をするというが、春とはいえ夜はまだまだ冷える。
 仕方がないので、小屋の片隅を貸してあげることにした。
「かたじけない。恩を、いつか返さなければ」 「かたじけない。恩を、いつか返さなければ」
“真是太天真了。总有一天要报答你的恩情。”
「いいよ、そんなこと、しなくて。代わりに、困っている人がいたら助けてあげてよ」 「いいよ、そんなこと、しなくて。代わりに、困っている人がいたら助けてあげてよ」
“好啊,别这样。但是,如果有困难的人,请帮助他。”
窮地に立つものは、他にたくさんいる。マクシミリニャンが助けた人が、また親切を働けばいい。
处于困境的东西还有很多。马克西米利尼亚帮助过的人,再热情一点就好了。
世の中、そうやって回っていったら平和になるのに。
 窮地に立つものは、他にたくさんいる。マクシミリニャンが助けた人が、また親切を働けばいい。 这个世界,这样转下去的话会变得和平的
 世の中、そうやって回っていったら平和になるのに。
 そんな話をしながら、眠りに就いた。
そんな話をしながら、眠りに就いた。
一边说着那样的话,一边睡着了。
 朝――日の出前に目覚める。
 小屋の片隅にマクシミリニャンはいない。もう、起きて街へと行ったのか。
 そう思ったが、小屋の外から物音が聞こえた。加えて、肉が焼けるような香ばしい匂いもする。
 外に出ると、マクシミリニャンが焚き火でウサギの丸焼きを作っていた。
朝――日の出前に目覚める。
早上——日出前醒来。
小屋の片隅にマクシミリニャンはいない。もう、起きて街へと行ったのか。
小屋的角落里没有马克西米莉娜。已经起床上街了吗。
そう思ったが、小屋の外から物音が聞こえた。加えて、肉が焼けるような香ばしい匂いもする。
虽然这么想,但是从小屋外面传来了声音。再加上烤肉的香味。
外に出ると、マクシミリニャンが焚き火でウサギの丸焼きを作っていた。
出去一看,马克西米利尼亚正在用篝火做烤兔子。
「おお、イヴァン殿、おはよう」 「おお、イヴァン殿、おはよう」
“哦,伊凡大人,早上好。”
「おはよう。何をしているの?」 「おはよう。何をしているの?」
“早上好,你在干什么?”
「朝食を用意していた」 「朝食を用意していた」
“我准备了早餐。”
 朝からウサギを仕留めたらしい。一人につき一羽あるようだ。
 きれいに解体され、串焼きになっている。 朝からウサギを仕留めたらしい。一人につき一羽あるようだ。
好像从早上开始就把兔子打死了。好像每个人都有一只。
きれいに解体され、串焼きになっている。
被拆除干净,变成了烤串。
「ここにあった塩を、使わせてもらったぞ」 「ここにあった塩を、使わせてもらったぞ」
“我用了这里的盐。”
「それは、構わないけれど」 「それは、構わないけれど」
“那没关系。”
マクシミリニャンは笑顔で、焼きたてのウサギの串焼きを差し出した。
马克西米利尼亚笑着拿出刚烤好的烤兔子串。
朝から、脂が滴る串焼きなんて。正直食欲が湧いていなかったが、好意を無下にするわけにはいかない。
从早上开始就滴着脂肪的烤串什么的。老实说,我没有食欲,但我不能辜负你的好意。
受け取って、ちみちみと食べる。
拿着吃。
 マクシミリニャンは笑顔で、焼きたてのウサギの串焼きを差し出した。
 朝から、脂が滴る串焼きなんて。正直食欲が湧いていなかったが、好意を無下にするわけにはいかない。 肉は歯ごたえがあり、臭みはいっさいない。起きたばかりでなかったら、三本くらい食べられただろう
 受け取って、ちみちみと食べる。 肉有嚼劲,一点臭味都没有。如果不是刚起床的话,大概能吃三根吧。
今は、一本食べきるので精一杯だった。
现在,因为要吃一顿所以竭尽全力了。
 肉は歯ごたえがあり、臭みはいっさいない。起きたばかりでなかったら、三本くらい食べられただろう。
 今は、一本食べきるので精一杯だった。
「む、一本でよいのか?」 「む、一本でよいのか?」
“嗯,一瓶可以吗?”
「うん、ありがとう」 「うん、ありがとう」
“嗯,谢谢。”
普段も、朝はあまり食べない。薄く切ったパンに蜂蜜を塗ったものを食べるくらいだ。だから、痩せる一方なのだろう。
平时早上也不怎么吃。在切成薄片的面包上涂上蜂蜜的东西。所以,是越来越瘦了吧。
 普段も、朝はあまり食べない。薄く切ったパンに蜂蜜を塗ったものを食べるくらいだ。だから、痩せる一方なのだろう。
「そなたは、もう少し、肉を食べたほうがいいな」 「そなたは、もう少し、肉を食べたほうがいいな」
“你最好再吃点肉。”
「食べても肉がつかない体質なんだよ」 「食べても肉がつかない体質なんだよ」
“是吃了也不会长肉的体质。”
「そうであったか」 「そうであったか」
“是吗?”
マクシミリニャンは他にも獣を仕留めたようで、売って路銀を稼ぐという。なんとなく心配なので、街にある知り合いの精肉店を紹介した。
据说马克西米利尼亚还杀死了其他野兽,通过出售来赚取路银。因为总觉得很担心,所以介绍了街上熟人的精肉店。
 マクシミリニャンは他にも獣を仕留めたようで、売って路銀を稼ぐという。なんとなく心配なので、街にある知り合いの精肉店を紹介した。
「俺の名を出したら、買い取り価格をおまけしてもらえるかも」 「俺の名を出したら、買い取り価格をおまけしてもらえるかも」
“如果出了我的名字,也许能给我优惠购买价格。”
「おお、そうか。恩に着る」 「おお、そうか。恩に着る」
“哦,这样啊。感恩。”
すぐに、街に向かうようだ。もう、二度と会うことはないだろう。
好像马上就要去街上了。再也不会见面了吧。
 すぐに、街に向かうようだ。もう、二度と会うことはないだろう。
「どうか、気を付けて」 「どうか、気を付けて」
“请注意。”
「何から何まで、感謝するぞ」 「何から何まで、感謝するぞ」
“从什么到什么,我都要感谢你。”
「わかったから、いってらっしゃい」 「わかったから、いってらっしゃい」
“知道了,走吧。”
「いってくる」 「いってくる」
“我走了。”
去りゆく後ろ姿を見つめながら、どうかアニャにいい婿が見つかりますようにと、心の片隅で祈った。
 去りゆく後ろ姿を見つめながら、どうかアニャにいい婿が見つかりますようにと、心の片隅で祈った 一边凝视着离去的背影,一边在心中的角落祈祷,希望阿尼亚能找到好女婿

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養蜂家の青年は、こっそり帰宅する 養蜂家の青年は、こっそり帰宅する
 外はまだ暗い。焚き火の始末をしてから、ランタン片手に家に戻る。 养蜂家的青年悄悄地回家了
 まだ、居間のほうは灯りは灯っていないものの、台所は煌々と明るい。こっそり窓を覗き込むと、ロマナと三つ年上の兄の嫁であるパヴラが朝食と昼食の準備をしていた。
 ロマナ一人だけだったら、声でもかけようと思ったが止めた。
 裏口からこっそり家の中に入り、気配と足音を殺して屋根裏部屋まで上がる。 外はまだ暗い。焚き火の始末をしてから、ランタン片手に家に戻る。
 屋根裏部屋へ繋がる小口をそっと開き、顔だけ覗かせる 外面还很黑。做完篝火之后,一只手拿着灯笼回家
 狭い部屋なのに、八人もの甥と姪が転がっていた。俺が横たわって眠る隙間なんて、少しもありはしない。子どもはこういう狭い場所が大好きなのだろう。
 ため息をつきつつ、部屋に上がってはだけていた毛布をかけてやる。
 その中で、五つ年上の兄ミロシュの息子ツィリルは、俺の外套を毛布代わりに眠っていた。 まだ、居間のほうは灯りは灯っていないものの、台所は煌々と明るい。こっそり窓を覗き込むと、ロマナと三つ年上の兄の嫁であるパヴラが朝食と昼食の準備をしていた。
 先月八歳になったツィリルは甥や姪の中で、俺に一番懐いている。仕事中もついて回ることが多い 虽然起居室的灯还没有亮,但是厨房却很明亮。偷偷地看了看窗户,罗曼娜和比她大三岁的哥哥的媳妇帕夫拉正在准备早餐和午餐
 眉間に皺を寄せながら眠っていたので、指先で伸ばしてやった。
ロマナ一人だけだったら、声でもかけようと思ったが止めた。
 朝の早い時間は、貴重な勉強の時間である 如果只有罗曼娜一个人的话,我想打个招呼,但是停了下来
 ランタンを点していても子どもは起きないので、部屋の端を陣取って養蜂の本を読む。
裏口からこっそり家の中に入り、気配と足音を殺して屋根裏部屋まで上がる。
 この国の養蜂は五百年ほどの歴史がある 从后门悄悄地进入家中,杀了气息和脚步声,走到阁楼房间
 なんといっても、養蜂の父と呼ばれるアントン・ヤンシャの存在は大きい。
 出版した二冊の書籍は、養蜂家の間で聖典とも呼ばれている。
 アントン・ヤンシャは画家になるために帝国へと渡ったが、その夢は叶わなかった 屋根裏部屋へ繋がる小口をそっと開き、顔だけ覗かせる
 代わりに、当時帝国領を統治していた女帝に命じられ、帝国の地で養蜂学校の初代指導者となる 轻轻地打开连接阁楼房间的小口,只露出脸
 彼の教えは、画期的だった。
 それまでの養蜂は蜂蜜が採れたあとは巣に硫黄を流し込み、蜜蜂を殺していた。けれど、アントン・ヤンシャの養蜂は、蜜蜂と共に生きる方法を提示したのだ。
 春は巣箱を準備し、夏は蜜を採り、秋は天敵であるスズメバチを警戒し、冬は越冬の手助けをする 狭い部屋なのに、八人もの甥と姪が転がっていた。俺が横たわって眠る隙間なんて、少しもありはしない。子どもはこういう狭い場所が大好きなのだろう
 彼の教えに従うと、蜂蜜はこれまで以上に採れるようになった 虽然是很小的房间,但是有八个侄子和侄女在滚动。我躺着睡觉的间隙,一点也没有。孩子很喜欢这样狭窄的地方吧
 以後、養蜂家達は蜜蜂とともに生きる方法を選択する。
 蜜蜂を大切にすれば、その気持ちに応えてくれる。しだいに、養蜂家達は蜜蜂を心から愛するようになった。
 長きにわたり、温厚な“灰色熊のカーニオラン”は、養蜂家にとってよきパートナーである。そのため、蜜蜂が死ぬと、口を揃えて「亡くなった(ウムレティ)」と嘆く ため息をつきつつ、部屋に上がってはだけていた毛布をかけてやる
 それほどに、養蜂家達にとって蜜蜂は大切な存在なのだ 一边叹气,一边上到房间盖上剩下的毛毯
 春は警戒すべき蜜蜂の病気がいくつかある その中で、五つ年上の兄ミロシュの息子ツィリルは、俺の外套を毛布代わりに眠っていた
 もっとも警戒すべきなのは、ダニの発生だろう。この時季、蜂の幼虫の体液を吸い、繁殖するのだ 其中,年长五岁的哥哥米洛什的儿子齐里尔,用我的外套代替毛毯睡觉
 おかしな動きをしている蜜蜂や、巣穴辺りで死んでいる蜜蜂を発見したら、すぐに巣の中を確認しなければならない。
先月八歳になったツィリルは甥や姪の中で、俺に一番懐いている。仕事中もついて回ることが多い。
上个月8岁的齐里尔是侄子和侄女中最亲近我的。工作中也经常跟着转。
眉間に皺を寄せながら眠っていたので、指先で伸ばしてやった。
因为眉间皱着皱纹睡着了,所以用指尖伸长了。
朝の早い時間は、貴重な勉強の時間である。
早起的时间是宝贵的学习时间。
ランタンを点していても子どもは起きないので、部屋の端を陣取って養蜂の本を読む。
即使点着灯笼孩子也不会起床,所以站在房间的边缘看养蜂的书。
この国の養蜂は五百年ほどの歴史がある。
这个国家的养蜂有五百年左右的历史。
なんといっても、養蜂の父と呼ばれるアントン・ヤンシャの存在は大きい。
不管怎么说,被称为养蜂之父的安东·扬沙的存在很大。
出版した二冊の書籍は、養蜂家の間で聖典とも呼ばれている。
出版的两本书籍在养蜂人中间也被称为圣典。
アントン・ヤンシャは画家になるために帝国へと渡ったが、その夢は叶わなかった。
安东·扬沙为了成为画家来到了帝国,但那个梦想没有实现。
代わりに、当時帝国領を統治していた女帝に命じられ、帝国の地で養蜂学校の初代指導者となる。
取而代之的是,被当时统治帝国领土的女皇命令,在帝国之地成为养蜂学校的第一任领导人。
彼の教えは、画期的だった。
他的教导是划时代的。
それまでの養蜂は蜂蜜が採れたあとは巣に硫黄を流し込み、蜜蜂を殺していた。けれど、アントン・ヤンシャの養蜂は、蜜蜂と共に生きる方法を提示したのだ。
之前的养蜂在采到蜂蜜后,在巢中注入硫磺,杀死了蜜蜂。但是,安东·扬沙的养蜂提示了与蜜蜂一起生活的方法。
春は巣箱を準備し、夏は蜜を採り、秋は天敵であるスズメバチを警戒し、冬は越冬の手助けをする。
春天准备蜂箱,夏天采蜜,秋天警戒天敌黄蜂,冬天帮助越冬。
彼の教えに従うと、蜂蜜はこれまで以上に採れるようになった。
按照他的教导,蜂蜜比以往任何时候都能采到。
以後、養蜂家達は蜜蜂とともに生きる方法を選択する。
之后,养蜂家们选择了和蜜蜂一起生活的方法。
蜜蜂を大切にすれば、その気持ちに応えてくれる。しだいに、養蜂家達は蜜蜂を心から愛するようになった。
如果珍惜蜜蜂的话,就会回应你的心情。渐渐地,养蜂家们从心底爱上了蜜蜂。
長きにわたり、温厚な“灰色熊のカーニオラン”は、養蜂家にとってよきパートナーである。そのため、蜜蜂が死ぬと、口を揃えて「亡くなった(ウムレティ)」と嘆く。
长期以来,温厚的“灰熊嘉年华”是养蜂人的好搭档。因此,蜜蜂一死,异口同声地叹息“死了”。
それほどに、養蜂家達にとって蜜蜂は大切な存在なのだ。
对养蜂人来说蜜蜂是很重要的存在。
春は警戒すべき蜜蜂の病気がいくつかある。
春天有一些值得警惕的蜜蜂病。
もっとも警戒すべきなのは、ダニの発生だろう。この時季、蜂の幼虫の体液を吸い、繁殖するのだ。
最应该警戒的是螨虫的发生吧。这个季节,吸蜂的幼虫的体液,繁殖。
おかしな動きをしている蜜蜂や、巣穴辺りで死んでいる蜜蜂を発見したら、すぐに巣の中を確認しなければならない。
如果发现了动作奇怪的蜜蜂或死在巢穴附近的蜜蜂,就必须马上确认巢穴中。
階下から、声が聞こえる。母や義姉達が起きていたのだろう。
从楼下传来声音。母亲和大嫂们起床了吧。
屋根の隙間から、太陽の光も差し込んでいる。本を閉じ、一応、子ども達を起こして回った。
阳光也从屋顶的缝隙中射入。合上书,先把孩子们叫起来转了一圈。
 階下から、声が聞こえる。母や義姉達が起きていたのだろう。
 屋根の隙間から、太陽の光も差し込んでいる。本を閉じ、一応、子ども達を起こして回った。
「ねえ、起きて。朝だよ。ほら!」 「ねえ、起きて。朝だよ。ほら!」
“喂,起来。早上到了。看!”
「うーん」 「うーん」
“嗯。”
夜遅くまで、遊んでいたのだろう。ぱっちり目覚める子はいない。ただ一人、ツィリルを除いて。
晚上玩到很晚吧。没有突然醒来的孩子。只有一个人,除了齐里尔。
 夜遅くまで、遊んでいたのだろう。ぱっちり目覚める子はいない。ただ一人、ツィリルを除いて。
「ツィリル、起きて」 「ツィリル、起きて」
“齐丽尔,起来。”
「ううん……ん?」 「ううん……ん?」
“嗯……嗯?”
ツィリルは俺の声に反応し、重たい瞼をうっすら開いた。
齐里尔对我的声音有反应,微微睁开了沉重的眼睑。
 ツィリルは俺の声に反応し、重たい瞼をうっすら開いた。
「イヴァン兄(にぃ)?」 「イヴァン兄(にぃ)?」
「伊凡哥哥?」
「そうだよ。おはよう」 「そうだよ。おはよう」
“是啊,早上好。”
がばりと起き上がったツィリルは、外套を掲げて抗議する。
突然站起来的齐里尔,举着外套抗议。
 がばりと起き上がったツィリルは、外套を掲げて抗議する。
「イヴァン兄、昨日の夜、また秘密基地に行ってただろう!?」 「イヴァン兄、昨日の夜、また秘密基地に行ってただろう!?」
“伊凡哥哥,昨天晚上又去秘密基地了吧!?”
「まあ、ね」 「まあ、ね」
“嗯。”
「この外套を持っていたら、行かないと思っていたのに!」 「この外套を持っていたら、行かないと思っていたのに!」
“拿着这件外套,我还以为你不去呢!”
「外套は、他にもあるからね」 「外套は、他にもあるからね」
「もー! なんだよ!」 “因为还有其他外套。”
「もー! なんだよ!」
“也是!什么呀!”
 秘密基地とは、ブレッド湖のほとりにある小屋のことである。ツィリルにだけは、小屋の存在を教えていたのだ。
 連れて行けと言われているものの、まだ招待はしていない。自分だけの城であってほしいのもあるし、八歳の子どもが湖の近くに行き来するようになるのは危険だから。教えるのは早いだろうと考えているのだ。 秘密基地とは、ブレッド湖のほとりにある小屋のことである。ツィリルにだけは、小屋の存在を教えていたのだ。
秘密基地是指位于布莱德湖边的小屋。只有齐里尔告诉他小屋的存在。
連れて行けと言われているものの、まだ招待はしていない。自分だけの城であってほしいのもあるし、八歳の子どもが湖の近くに行き来するようになるのは危険だから。教えるのは早いだろうと考えているのだ。
虽然被要求带去,但还没有邀请。也有希望是自己的城堡,八岁的孩子来往于湖边是很危险的。我想告诉你应该很快吧。
「もう少し大きくなったら、教えてやるから」 「もう少し大きくなったら、教えてやるから」
“再长大一点,我就告诉你。”
「どうやったら、大きくなるんだ?」 「どうやったら、大きくなるんだ?」
“怎样才能长大呢?”
「いっぱい食事を取って、母さんの手伝いをして、たくさん寝たら大きくなるよ」 「いっぱい食事を取って、母さんの手伝いをして、たくさん寝たら大きくなるよ」
“多吃点饭,帮妈妈多睡会长大的。”
「むうー!」 「むうー!」
“嗯——!”
イェゼロ家では女の子は幼少時から働かせるのに対して、男の子は自由に遊ばせている。
在耶泽罗家,女孩子从小就让她工作,而男孩子却让她自由地玩。
けれど、そんなでは将来、父親や兄達のようになってしまう。
但是,那样的话,将来会变得像父亲和哥哥们一样。
 イェゼロ家では女の子は幼少時から働かせるのに対して、男の子は自由に遊ばせている。 だからなるべく、甥達にも仕事を手伝わせようとしていた
 けれど、そんなでは将来、父親や兄達のようになってしまう。 所以尽量让侄子们也帮忙工作。
言うことを聞いてくれるのは、ツィリルだけなんだけれど。
听我说的只有齐里尔。
 だからなるべく、甥達にも仕事を手伝わせようとしていた。
 言うことを聞いてくれるのは、ツィリルだけなんだけれど。
「兄ちゃん達が、女の手伝いをしていると、女みたいになってしまうぞって言うんだ」 「兄ちゃん達が、女の手伝いをしていると、女みたいになってしまうぞって言うんだ」
“哥哥们说,如果帮女人的话,会变得像女人一样。”
「バカだな。女みたいって、なんなんだよ」 「バカだな。女みたいって、なんなんだよ」
“你真傻,像个女人,这是什么?”
「わかんない」 「わかんない」
“我不知道。”
兄達の教えが浸透していて、取り返しがつかない状態の甥達もいる。奴らは揃って、俺やツィリルを愚弄するのだ。
也有哥哥们的教导渗透着,无法挽回的侄子们。他们都在愚弄我和齐里尔。
叩く者の音が気持ちよく響いたら、調子に乗ってどんどん続けるのだろう。だから、ツィリルには言い返すなとだけ言っている。
如果敲击者的声音听起来很舒服的话,就会得意忘形地继续下去吧。所以,我只说不要对齐里尔回嘴。
本当に、この家は蜜蜂の巣箱のようだ。
真的,这房子就像蜜蜂的蜂箱。
 兄達の教えが浸透していて、取り返しがつかない状態の甥達もいる。奴らは揃って、俺やツィリルを愚弄するのだ。 女達はあくせく働き、男達は子作りしかしないで食い物を荒らす
 叩く者の音が気持ちよく響いたら、調子に乗ってどんどん続けるのだろう。だから、ツィリルには言い返すなとだけ言っている。 女人们辛勤劳动,男人们只做孩子,糟蹋食物
 本当に、この家は蜜蜂の巣箱のようだ。 ツィリルには、そんな男になってほしくない。だから、一生懸命仕事を教えているのだ。
 女達はあくせく働き、男達は子作りしかしないで食い物を荒らす。 我不希望齐里尔成为那样的男人。所以,拼命地教工作
 ツィリルには、そんな男になってほしくない。だから、一生懸命仕事を教えているのだ。
 しょんぼりするツィリルを元気づけようと、ある提案をしてみた。
しょんぼりするツィリルを元気づけようと、ある提案をしてみた。
为了给垂头丧气的齐丽尔打气,我提出了一个建议。
「ツィリル、今度、一緒に釣りに行こう」 「ツィリル、今度、一緒に釣りに行こう」
「本当? 漁は、いいの?」 “齐里尔,下次一起去钓鱼吧。”
「本当? 漁は、いいの?」
“真的吗?捕鱼好吗?”
「うん」 「うん」
“嗯。”
 小舟を整備に出すので、漁はしないと言っていたのだ。たまには、ツィリルとのんびり釣りをするのもいいだろう。 小舟を整備に出すので、漁はしないと言っていたのだ。たまには、ツィリルとのんびり釣りをするのもいいだろう。
因为要把小船拿去整备,所以说不捕鱼。偶尔和齐里尔悠闲地钓鱼也不错吧。
嬉しそうに笑みを浮かべるツィリルの頭を撫でる。
抚摸着高兴地露出笑容的齐丽尔的头。
 嬉しそうに笑みを浮かべるツィリルの頭を撫でる。
「さあ、早く支度をして。今日も、忙しいから」 「さあ、早く支度をして。今日も、忙しいから」
“那嚒,快点准备吧。今天也很忙。”
「わかった!」 「わかった!」
“知道了!”
新しい一日が始まろうとしていた。
 新しい一日が始まろうとしていた。 新的一天即将开始

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養蜂家の青年は、双子の兄を起こす大任を命じられる 養蜂家の青年は、双子の兄を起こす大任を命じられる
 大家族の朝は、戦争である。 养蜂家的青年被任命为叫醒双胞胎哥哥的大任
 一番広い居間は、長男一家を始めとする年上の兄達が陣取っていた。ここで優雅に朝食を食べられる者は、ごく僅かである。
 あぶれた者達は、廊下で食べたり、自室で食べたり、台所の片隅で食べたり。はたまた、庭に敷物を広げて食べる猛者もいる。
 料理は瞬く間になくなり、確保は困難だ。 大家族の朝は、戦争である。
大家庭的早晨是战争。
一番広い居間は、長男一家を始めとする年上の兄達が陣取っていた。ここで優雅に朝食を食べられる者は、ごく僅かである。
最大的起居室是以长子一家为首的年长的哥哥们。能在这里优雅地吃早饭的人很少。
あぶれた者達は、廊下で食べたり、自室で食べたり、台所の片隅で食べたり。はたまた、庭に敷物を広げて食べる猛者もいる。
烤好的人们在走廊里吃,在自己的房间里吃,在厨房的角落里吃。另外,也有在院子里摊开褥子吃的猛者。
料理は瞬く間になくなり、確保は困難だ。
料理瞬间消失,很难确保。
女性陣の叫びも、響き渡る。
女性阵容的呐喊也响彻四方。
 女性陣の叫びも、響き渡る。
「イヴァン、うちの子を起こしてきて」 「イヴァン、うちの子を起こしてきて」
“伊凡,把我的孩子叫醒。”
「それが終わったら、うちの末っ子の着替えをさせて」 「それが終わったら、うちの末っ子の着替えをさせて」
“那个结束后,让我换一下我家最小的孩子。”
「あの子、見なかった?」 「あの子、見なかった?」
“那个孩子,你没看见吗?”
 義姉達は、顔を合わせるたびにあれやこれやと仕事と頼んでくる。朝食を確保する余裕なんて、どこにもない。
 俺が生まれる前から、こんな毎日である。
 兄達がのんびりパンをかじっている様子が視界に入っても、怒る心はすり減っている。今では、何も感じなくなっている。 義姉達は、顔を合わせるたびにあれやこれやと仕事と頼んでくる。朝食を確保する余裕なんて、どこにもない
大嫂们每次见面都会拜托工作。哪里都没有确保早餐的余地。
俺が生まれる前から、こんな毎日である。
在我出生之前,每天都是这样。
兄達がのんびりパンをかじっている様子が視界に入っても、怒る心はすり減っている。今では、何も感じなくなっている。
哥哥们悠闲地啃着面包的样子进入了视野,生气的心也磨损了。现在,什么都感觉不到了。
女性陣の言いつけは十を超え、最後の最後に、母から最低最悪の仕事を命じられる。
女性阵容的吩咐超过十,最后的最后,被母亲命令最低最坏的工作。
 女性陣の言いつけは十を超え、最後の最後に、母から最低最悪の仕事を命じられる。
「イヴァン、サシャを起こしてきて」 「イヴァン、サシャを起こしてきて」
“伊凡,把萨沙叫醒。”
「ええ~」 「ええ~」
“嗯~”
「ええ、じゃないわよ!」 「ええ、じゃないわよ!」
“嗯,不是啊!”
今日も、サシャは朝寝坊である。起こしても、働くわけではないので寝かせておけばいいのに。そう答えると、「朝食を食べ損ねるでしょう!」と怒る。
 今日も、サシャは朝寝坊である。起こしても、働くわけではないので寝かせておけばいいのに。そう答えると、「朝食を食べ損ねるでしょう!」と怒る。 今天萨沙也睡懒觉。即使叫起来,也不是工作,让他睡觉就好了。这样回答的话,会生气地说“早饭吃坏了吧!”
 あれこれと動いているうちに、腹がぐーっと鳴っていた。やっと、俺の腹も目覚めたらしい。マクシミリニャンに貰って食べた兎の串焼きを食べていたものの、空腹を訴えていた。
あれこれと動いているうちに、腹がぐーっと鳴っていた。やっと、俺の腹も目覚めたらしい。マクシミリニャンに貰って食べた兎の串焼きを食べていたものの、空腹を訴えていた。
在这嚒动的时候,肚子突然响了起来。我的肚子好像终于醒了。虽然吃了从马克西米利尼亚那里得到的烤兔子串,但是诉说着肚子饿。
「お腹が空いたら、自分で起きてきて適当に食べると思うけれど」 「お腹が空いたら、自分で起きてきて適当に食べると思うけれど」
“肚子饿了的话,我想自己起来随便吃。”
「いいから、起こしてきなさい!」 「いいから、起こしてきなさい!」
“好的,叫醒我!”
毎日働く息子よりも、働かない息子が朝食を食べるほうが大事らしい。
比起每天工作的儿子,不工作的儿子吃早饭更重要。
母はいつだってそうだ。先に生まれた子どもほど、愛情たっぷりに育てる。だから、イェゼロ家の男達は甘えて、自由気ままに暮らしているのだ。
妈妈总是这样。越是先出生的孩子,越是充满爱情。所以,耶泽罗家的男人们撒娇,自由自在地生活着。
 毎日働く息子よりも、働かない息子が朝食を食べるほうが大事らしい。
 母はいつだってそうだ。先に生まれた子どもほど、愛情たっぷりに育てる。だから、イェゼロ家の男達は甘えて、自由気ままに暮らしているのだ。
「サシャの好物の、マスのスープを作ったと言えば、すぐに目を覚ますから」 「サシャの好物の、マスのスープを作ったと言えば、すぐに目を覚ますから」
“如果说我做了萨沙喜欢的鳟鱼汤,我会马上醒来的。”
「はいはい」 「はいはい」
“好的好的。”
気が進まないが、母の命令には逆らえない。重たい足を素早く引きずりながら、サシャを起こしに向かう。
 気が進まないが、母の命令には逆らえない。重たい足を素早く引きずりながら、サシャを起こしに向かう。 虽然不感兴趣,但不能违抗母亲的命令。一边迅速地拖着沉重的脚,一边去叫醒萨沙
 生意気なことに、サシャは一階のそこそこ広い部屋をロマナとの夫婦の部屋として与えられた。十歳年上の兄ゾルターンが使っていた部屋で、彼らの離れが完成したために入れ替わる形になったのだ。
生意気なことに、サシャは一階のそこそこ広い部屋をロマナとの夫婦の部屋として与えられた。十歳年上の兄ゾルターンが使っていた部屋で、彼らの離れが完成したために入れ替わる形になったのだ。
狂妄的是,萨沙把一楼还算宽敞的房间作为和罗曼娜夫妇的房间。年长十岁的哥哥佐尔塔恩使用的房间,因为他们的离开完成而变成了更换的形式。
そんなサシャの部屋の扉を叩くものの、返事はない。ため息を一つ零し、中へと入る。
虽然敲了那样的萨沙房间的门,但是没有回答。叹了一口气,进入里面。
 そんなサシャの部屋の扉を叩くものの、返事はない。ため息を一つ零し、中へと入る。
「サシャ、入るよ」 「サシャ、入るよ」
“萨沙,我要进去了。”
部屋は、大きな窓に二人用の寝台、それからテーブルや棚などの家具が置かれた立派なものである。
房间是在大窗户上放着两人用的卧铺,还有桌子和架子等家具的漂亮的东西。
サシャは寝台で、枕を抱きしめて眠っていた。服は着ておらず、白い肌をおしげもなくさらしている。窓を開き、被っていた毛布を取ってサシャの名前を叫んだ。
萨沙在卧铺上,抱着枕头睡着啦。没有穿衣服,毫无刺激地暴露着白色的皮肤。打开窗户,拿起盖着的毛毯,喊出了萨沙的名字。
 部屋は、大きな窓に二人用の寝台、それからテーブルや棚などの家具が置かれた立派なものである。
 サシャは寝台で、枕を抱きしめて眠っていた。服は着ておらず、白い肌をおしげもなくさらしている。窓を開き、被っていた毛布を取ってサシャの名前を叫んだ。
「サシャ!!」 「サシャ!!」
“沙沙!!”
朝のひんやりとした風が吹く。すると、うめき声をあげながら目を覚ました。
早晨凉风习习。于是,一边呻吟一边醒来。
 朝のひんやりとした風が吹く。すると、うめき声をあげながら目を覚ました。 開口一番、物騒な言葉を吐き捨てる。
一开口就把吵闹的话吐出来。
 開口一番、物騒な言葉を吐き捨てる。
「イヴァン、殺すぞ」 「イヴァン、殺すぞ」
「伊凡,我要杀了你。」
「同じ言葉を返すよ。早く起きないと、母さんが俺に怒ってくる」 「同じ言葉を返すよ。早く起きないと、母さんが俺に怒ってくる」
“我会回你同样的话。如果不早点起床,妈妈就会对我发火。”
「クソババアが」 「クソババアが」
“他妈的!”
この通り、サシャは大変口が悪い。
就这样,萨沙的嘴巴很不好。
双子に生まれたものの、性格は天と地ほども異なる。
虽然是双胞胎,但性格却天壤之别。
彼は昔から傲慢で、我が儘で、自分勝手な男なのだ。
他从以前开始就是个傲慢、任性、任性的男人。
同じ顔に生まれたばかりに、何度サシャのいたずらの罪をなすりつけられたことか。
正因为生在同一张脸上,才被多次推卸了萨沙恶作剧的罪。
恨み話は、一晩中話しても尽きないだろう。
怨恨的话,一晚上说也说不完吧。
そんなサシャの悪癖は、“俺の物を欲しがる”こと。
那样的sasha的坏习惯,是“想要我的东西”。
菓子、食事、友達、犬など、俺が努力して得たものを、なんでも欲しがるのだ。
点心,吃饭,朋友,狗等,我努力得到的东西,什么都想要。
ロマナだって、そうだろう。俺と打ち解けている様子を見て、自分の物にしたくなったのだろう。
罗曼娜也是这样吧。看到和我融洽的样子,就想成为自己的东西了吧。
初めてサシャがロマナに出会ったときに、薄汚れていた彼女を「汚いから、捨ててこい」なんて言った。それなのに、数年後に結婚すると言いだしたときは驚いたものだ。
 この通り、サシャは大変口が悪い。 当莎莎第一次遇到罗曼娜时,她说:“太脏了,把她扔过来。”。尽管如此,几年后说要结婚的时候还是很吃惊的
 双子に生まれたものの、性格は天と地ほども異なる。
 彼は昔から傲慢で、我が儘で、自分勝手な男なのだ。
 同じ顔に生まれたばかりに、何度サシャのいたずらの罪をなすりつけられたことか。 今まで、どれだけの物を奪われて、悔しい気持ちになったか。
 恨み話は、一晩中話しても尽きないだろう。 到现在为止,被夺走了多少东西,感到懊悔的心情
 そんなサシャの悪癖は、“俺の物を欲しがる”こと。
 菓子、食事、友達、犬など、俺が努力して得たものを、なんでも欲しがるのだ。
 ロマナだって、そうだろう。俺と打ち解けている様子を見て、自分の物にしたくなったのだろう。 ミハルはサシャの性格の悪さを知っているので、どんな甘い言葉を吐かれても気を許さない
 初めてサシャがロマナに出会ったときに、薄汚れていた彼女を「汚いから、捨ててこい」なんて言った。それなのに、数年後に結婚すると言いだしたときは驚いたものだ。 因为米哈尔知道萨沙性格恶劣,所以无论被说什么甜言蜜语都不会原谅
 今まで、どれだけの物を奪われて、悔しい気持ちになったか。 唯一、親友といってもいい存在だろう
唯一可以说是好朋友的存在吧。
 ミハルはサシャの性格の悪さを知っているので、どんな甘い言葉を吐かれても気を許さない。
 唯一、親友といってもいい存在だろう。
それからもう一つ。
 それからもう一つ。 还有一个。
養蜂の仕事はいくら頑張っても、サシャは奪わない。
养蜂工作再怎么努力,萨沙也不抢。
だから俺は、何事にも興味がない振りをして、仕事にだけは情熱を燃やすようにしていた。
所以我假装对任何事情都不感兴趣,只对工作充满热情。
 養蜂の仕事はいくら頑張っても、サシャは奪わない。
 だから俺は、何事にも興味がない振りをして、仕事にだけは情熱を燃やすようにしていた。
「なあ、イヴァン」 「なあ、イヴァン」
“喂,伊凡。”
「何?」 「何?」
“什么?”
「昨晩のロマナも、よかったぜ」 「昨晩のロマナも、よかったぜ」
“昨晚的罗曼娜也太好了。”
サシャは俺が、ロマナを好きだと今でも思い込んでいる。こうやって、情事の感想を自慢げに話してくるのだ。
萨沙至今仍认为我喜欢罗曼娜。像这样,自夸地说出对情事的感想。
ロマナに対する感情は、異性としての好意ではない。妹みたいな存在だと思っている。
 サシャは俺が、ロマナを好きだと今でも思い込んでいる。こうやって、情事の感想を自慢げに話してくるのだ。 对罗曼娜的感情不是作为异性的好意。我觉得是像妹妹一样的存在
 ロマナに対する感情は、異性としての好意ではない。妹みたいな存在だと思っている。 サシャと結婚すると言ったときは、さすがに反対した。けれど、ロマナの決意は揺るがなかったのだ
 サシャと結婚すると言ったときは、さすがに反対した。けれど、ロマナの決意は揺るがなかったのだ。 说要和萨沙结婚的时候,果然还是反对。但是,罗曼娜的决心没有动摇
 それを見て、サシャはさらに勘違いをしたのだろう。
 夫婦の情事の話なんて、死ぬほどどうでもいい。勘弁してくれと、心から思っている。
 ここで嫌がるとサシャは喜ぶので、無視をするに限るのだ。 それを見て、サシャはさらに勘違いをしたのだろう。
看到这一点,萨沙更是误解了吧。
夫婦の情事の話なんて、死ぬほどどうでもいい。勘弁してくれと、心から思っている。
夫妻的情事的话,死都无所谓。我真心希望你能原谅我。
ここで嫌がるとサシャは喜ぶので、無視をするに限るのだ。
在这里讨厌的话萨沙会很高兴,所以最好无视。
「おい、なんか言えよ。言葉がわからないわけじゃないだろうが!」 「おい、なんか言えよ。言葉がわからないわけじゃないだろうが!」
“喂,你说什么呀,我又不是听不懂你的话!”
「はいはい、幸せそうで、何よりです」 「はいはい、幸せそうで、何よりです」
“是的是的,看起来很幸福,比什么都好。”
そう答えると、サシャは枕を投げ飛ばしてくる。
这样回答后,萨沙把枕头扔了过来。
起き抜けなので、そこまで勢いはない。ひらりと躱し、サシャの部屋をあとにした。
因为刚起床,所以没有那么大的气势。闪开,离开了萨沙的房间。
 そう答えると、サシャは枕を投げ飛ばしてくる。
 起き抜けなので、そこまで勢いはない。ひらりと躱し、サシャの部屋をあとにした。
そうこうしているうちに、朝食はなくなる。これが、いつもの朝の風景であった。
 そうこうしているうちに、朝食はなくなる。これが、いつもの朝の風景であった。 在这样的过程中,早餐就没有了。这就是平时早上的风景

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養蜂家の青年は、せっせと働く 養蜂家の青年は、せっせと働く
 仕方がないので、朝食は昨日ミハルに貰った干物を食べる。噛みすぎて、顎が疲れてしまった。 养蜂青年辛勤劳动
 家を出る前に、恒例の兄達の命令が始まった。 仕方がないので、朝食は昨日ミハルに貰った干物を食べる。噛みすぎて、顎が疲れてしまった。
没办法,早饭吃昨天米哈尔给我的干货。咬得太多,下巴都累坏了。
家を出る前に、恒例の兄達の命令が始まった。
离开家之前,惯例的哥哥们的命令开始了。
「おい、イヴァン。新しい巣を三つ用意しておけ」 「おい、イヴァン。新しい巣を三つ用意しておけ」
“喂,伊凡,准备三个新窝。”
「花畑の柵が腐りかけているから、新しく作っておけよ」 「花畑の柵が腐りかけているから、新しく作っておけよ」
“花圃的栅栏快要腐烂了,你重新做吧。”
「花の間引きも、忘れるなよ」 「花の間引きも、忘れるなよ」
“别忘了花的间隔。”
口々に命じられる内容は、女性陣から頼まれて言っているのである。遊び歩いている兄達が、養蜂園の仕事なんてわかるはずがない。
口口声声命令的内容是受女性阵容的委托而说的。走在路上的哥哥们不可能知道养蜂园的工作。
女性陣から直接言ってもいいのだが、なんとなく朝から仕事を命じるのは悪いと思っているのだろう。だからこうやって、夫である兄を通じてあれこれ頼んでくるのだ。
从女性阵容直接说也可以,不过,总觉得从早上开始命令工作不好吧。所以就这样,通过作为丈夫的哥哥来拜托我。
兄達はこうしていろいろ言っていると、仕事をしているつもりになるのだろう。実に偉そうに、命令してくれる。
哥哥们这样说了很多话,就打算工作了吧。真了不起,命令我。
 口々に命じられる内容は、女性陣から頼まれて言っているのである。遊び歩いている兄達が、養蜂園の仕事なんてわかるはずがない。
 女性陣から直接言ってもいいのだが、なんとなく朝から仕事を命じるのは悪いと思っているのだろう。だからこうやって、夫である兄を通じてあれこれ頼んでくるのだ。
 兄達はこうしていろいろ言っていると、仕事をしているつもりになるのだろう。実に偉そうに、命令してくれる。
これもまあ、物心ついたときから当たり前のように命じられていたので、別に何も感じない。
这个嘛,因为从懂事的时候就理所当然地被命令了,所以什么都感觉不到。
 これもまあ、物心ついたときから当たり前のように命じられていたので、別に何も感じない。
 出かける前に、上半身裸のサシャに声をかけられる。
出かける前に、上半身裸のサシャに声をかけられる。
出门前,被赤裸上半身的萨沙搭话。
「なあ、イヴァン」 「なあ、イヴァン」
“喂,伊凡。”
「何?」 「何?」
“什么?”
ニヤニヤしながら、サシャは俺を見る。何か、バカにしようとしている顔だろう。
沙沙一边笑一边看着我。什么,是想装傻的表情吧。
 ニヤニヤしながら、サシャは俺を見る。何か、バカにしようとしている顔だろう。
「お前、毎朝毎朝仕事を命じられて、情けないと思わないのか?」 「お前、毎朝毎朝仕事を命じられて、情けないと思わないのか?」
“你每天早上都被命令工作,不觉得很可怜吗?”
「別に」 「別に」
“没什么。”
素っ気ない反応をしたからか、サシャの表情はだんだんとふてくされたものになる。
也许是因为反应冷淡,萨沙的表情渐渐变得不自然。
 素っ気ない反応をしたからか、サシャの表情はだんだんとふてくされたものになる。
「兄貴達に、いろいろ言われないと、動けないのかよ」 「兄貴達に、いろいろ言われないと、動けないのかよ」
“哥哥们不说很多话的话,就不能动了吗?”
「ああ、そうなんだよ」 「ああ、そうなんだよ」
“啊,是啊。”
「無能の兄のために、働いているってか?」 「無能の兄のために、働いているってか?」
“你是为了无能的哥哥而工作吗?”
「はいはい」 「はいはい」
“好的好的。”
別に、兄達のために働いているのではない。俺は、蜜蜂のために働いている。
并不是为了哥哥们而工作。我在为蜜蜂工作。
むしろ言ってくれるほうが、助かるのだ。
倒不如说给我说才好。
優秀な女性陣が仕事を頼んでくれるので、忙しいながらも蜜蜂のために効率的に動ける。
因为优秀的女性阵容委托工作,虽然很忙,但也能有效地为蜜蜂行动。
 別に、兄達のために働いているのではない。俺は、蜜蜂のために働いている。
 むしろ言ってくれるほうが、助かるのだ。
 優秀な女性陣が仕事を頼んでくれるので、忙しいながらも蜜蜂のために効率的に動ける。
サシャもいろいろ言うのに、兄達が同じような言動を取ると文句を言ってくるのだ。
 サシャもいろいろ言うのに、兄達が同じような言動を取ると文句を言ってくるのだ。 萨沙也说了很多话,哥哥们却抱怨说要采取同样的言行。
俺にからんでいいのは、自分だけと言いたいのだろうか。
想对我说的只有自己吗。
迷惑なので、どちらも話しかけないでほしい。
因为很麻烦,所以希望两个都不要搭话。
 俺にからんでいいのは、自分だけと言いたいのだろうか。
 迷惑なので、どちらも話しかけないでほしい。
「兄貴達が、お前をなんて言っているのか、知っているのか?」 「兄貴達が、お前をなんて言っているのか、知っているのか?」
“你知道哥哥们是怎么说你的吗?”
「知らない。興味ないし」 「知らない。興味ないし」
“不知道,我没兴趣。”
 どうせ、奴隷みたいとか、女の言いなりとか、好き勝手言っているのだろう。 どうせ、奴隷みたいとか、女の言いなりとか、好き勝手言っているのだろう。
反正,像奴隶一样,女人的话,随便说吧。
働き者の女性陣から用なし扱いされるのは嫌だけれど、遊んで暮らす兄達の評価なんて心底どうでもよかった。
虽然讨厌被能干的女性们无事地对待,但是玩着生活的哥哥们的评价从心底来说是无所谓的。
 働き者の女性陣から用なし扱いされるのは嫌だけれど、遊んで暮らす兄達の評価なんて心底どうでもよかった。
「お前はそんなだから――」 「お前はそんなだから――」
“因为你就是这样——”
「ごめん、サシャ。忙しいから」 「ごめん、サシャ。忙しいから」
“对不起,萨沙,我很忙。”
サシャの言葉を制し、家を出る。背後で何か叫んでいたが、無視した。
抑制萨沙的话,离开家。我在背后喊着什么,但我无视了。
太陽がさんさんと輝く時間になり、一日の仕事が始まる。
到了太阳闪闪发光的时间,一天的工作开始了。
養蜂のさいの恰好は、通常であれば蜜蜂避けの網つき帽に、分厚い手袋に外套と決まっている。
养蜂时的打扮,通常是避开蜜蜂的带网帽,厚厚的手套和外套。
けれど、蜜蜂に慣れると、それらの装備は必要ない。
但是,一旦习惯了蜜蜂,就不需要那些装备了。
 サシャの言葉を制し、家を出る。背後で何か叫んでいたが、無視した。
 太陽がさんさんと輝く時間になり、一日の仕事が始まる。
温厚な灰色熊のカーニオランは滅多なことでは怒らないので、燻煙器も必要ないくらいだ。
温厚的灰熊卡尼奥兰不会因为太多的事情而生气,甚至不需要熏烟器。
 養蜂のさいの恰好は、通常であれば蜜蜂避けの網つき帽に、分厚い手袋に外套と決まっている。
 けれど、蜜蜂に慣れると、それらの装備は必要ない。
 温厚な灰色熊のカーニオランは滅多なことでは怒らないので、燻煙器も必要ないくらいだ。 今日も、普段通りのシャツとズボンに、釣り鐘状の外套を着て、帽子と手袋を装着して養蜂園を目指す
 今日も、普段通りのシャツとズボンに、釣り鐘状の外套を着て、帽子と手袋を装着して養蜂園を目指す。 今天也穿着和平时一样的衬衫和裤子,穿着吊钟状的外套,戴着帽子和手套,以养蜂园为目标
 花畑養蜂園では、花々が開花しつつあった。蜜蜂はぶんぶん飛び回り、花蜜を巣へと運んでいる。
 一番上の兄の巣小屋から、様子を確認していく。病気になっている蜜蜂はいないか、他の虫がきていないか、小屋の木材は腐っていないか。点検箇所はたくさんある。
花畑養蜂園では、花々が開花しつつあった。蜜蜂はぶんぶん飛び回り、花蜜を巣へと運んでいる。
在花圃养蜂园,花朵正在开花。蜜蜂嗡嗡地飞来飞去,把花蜜运到巢里。
一番上の兄の巣小屋から、様子を確認していく。病気になっている蜜蜂はいないか、他の虫がきていないか、小屋の木材は腐っていないか。点検箇所はたくさんある。
从最上面的哥哥的巢小屋确认情况。有没有生病的蜜蜂,没有其他虫子来,小屋里的木材没有腐烂。检查的地方有很多。
「イヴァン兄ー!」 「イヴァン兄ー!」
“伊凡哥哥!”
母親から命じられていた仕事を終えたツィリルが、手伝いにやってくる。
完成母亲命令的工作的齐里尔来帮忙。
 母親から命じられていた仕事を終えたツィリルが、手伝いにやってくる。 今日は、雄蜂の選別を教えてやることにした。
今天,我决定教你挑选雄蜂。
巣箱から、枠を取り出す。ここには、大量の蜂の子が産み付けられているのだ。
从巢箱中取出框架。这里出产了大量的蜂子。
 今日は、雄蜂の選別を教えてやることにした。
 巣箱から、枠を取り出す。ここには、大量の蜂の子が産み付けられているのだ。
「イヴァン兄、それを、どうするの?」 「イヴァン兄、それを、どうするの?」
“伊凡哥哥,你要怎么做?”
「雄の幼虫だけ、外に出すんだ」 「雄の幼虫だけ、外に出すんだ」
“只有雄性幼虫才会出去。”
そう言った瞬間、ツィリルは「ゲッ!」と言って顔を顰める。
说完这句话的瞬间,齐里尔皱着眉头说:“哇!”。
 そう言った瞬間、ツィリルは「ゲッ!」と言って顔を顰める。
「なんで、そんな酷いことするんだよ」 「なんで、そんな酷いことするんだよ」
“为什么要做这么过分的事呢?”
「雄蜂の数が多いと、それだけ蜜を消費するんだ。きちんと管理していないと、採れる蜂蜜の量が減ってしまうんだよ」 「雄蜂の数が多いと、それだけ蜜を消費するんだ。きちんと管理していないと、採れる蜂蜜の量が減ってしまうんだよ」
“雄蜂数量多的话,就会消耗那嚒多蜂蜜。如果不好好管理的话,能采到的蜂蜜的量就会减少。”
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
雄蜂は女王蜂と交尾し、蜜蜂を産ませる役割がある。また雄蜂の存在は、蜜蜂に働くやる気を与えるらしい。そのため、まったく必要ない、というわけではないのだ。
雄蜂与蜂王交配,有产蜜蜂的作用。另外,雄蜂的存在似乎会给蜜蜂带来工作的干劲。因此,并不是完全没有必要。
 雄蜂は女王蜂と交尾し、蜜蜂を産ませる役割がある。また雄蜂の存在は、蜜蜂に働くやる気を与えるらしい。そのため、まったく必要ない、というわけではないのだ。
「でも、どうやって、雄の幼虫と、雌の幼虫を見分けるんだ? なんか、難しそう」
“但是,怎么分辨雄性幼虫和雌性幼虫呢?好像很难。”
「でも、どうやって、雄の幼虫と、雌の幼虫を見分けるんだ? なんか、難しそう」
「簡単だよ。雄は体が大きいから、巣穴の蓋が盛り上がっているでしょう?」 「簡単だよ。雄は体が大きいから、巣穴の蓋が盛り上がっているでしょう?」
“很简单。因为雄性的身体很大,所以巢穴的盖子很高吧?”
「あ、本当だ!」 「あ、本当だ!」
“啊,真的!”
雌の巣穴は平らなのに対し、雄の巣穴はわかりやすく盛り上がっているのだ。蓋をナイフで削ぎ、鑷子(ピンセット)で摘まんで幼虫を取り出す。
雌性的巢穴是平坦的,而雄性的巢穴却很容易理解,气氛很热烈。用小刀削下盖子,用镊子(镊子)捏出幼虫。
 雌の巣穴は平らなのに対し、雄の巣穴はわかりやすく盛り上がっているのだ。蓋をナイフで削ぎ、鑷子(ピンセット)で摘まんで幼虫を取り出す。
「うげー、気持ち悪い」 「うげー、気持ち悪い」
“哇,好恶心。”
「じきになれるよ」 「じきになれるよ」
“马上就好了。”
 幼虫は瓶に詰め、持ち帰る。そのまま素揚げにして、塩をパッパと振って男達の酒の肴となるのだ。
幼虫は瓶に詰め、持ち帰る。そのまま素揚げにして、塩をパッパと振って男達の酒の肴となるのだ。
幼虫装在瓶子里带回去。就这样炸了,撒上盐,成为男人们的下酒菜。
ツィリルはすぐに技を習得し、テキパキと幼虫を捕まえては瓶に詰めていた。
齐里尔很快学会了技能,抓住了龙舌兰酒和幼虫,装在瓶子里。
 ツィリルはすぐに技を習得し、テキパキと幼虫を捕まえては瓶に詰めていた。
「よしと。こんなもんかな」 「よしと。こんなもんかな」
“好的,原来是这样啊。”
一部の雄の幼虫だけ残し、あとは素揚げだ。
只剩下一部分雄性幼虫,之后是油炸食品。
 一部の雄の幼虫だけ残し、あとは素揚げだ。
「これ、本当においしいの?」 「これ、本当においしいの?」
“这个真的好吃吗?”
「さあ?」 「さあ?」
“来吧?”
これまで、幼虫の素揚げを食べたことがない。大人の味とか言って、父や兄達が独占していたのだ。それは今も続いている。
到目前为止,我还没有吃过炸幼虫。说是大人的味道,是父亲和哥哥们独占的。那个现在还在继续。
 これまで、幼虫の素揚げを食べたことがない。大人の味とか言って、父や兄達が独占していたのだ。それは今も続いている。
「ダニが寄生していないか、注意して。もしも変な幼虫がいたら、取り除いてね。ダニに寄生された個体を食べたら、大変だから」 「ダニが寄生していないか、注意して。もしも変な幼虫がいたら、取り除いてね。ダニに寄生された個体を食べたら、大変だから」
“请注意有没有寄生螨虫。如果有奇怪的幼虫,请去除。如果吃了寄生在螨虫上的个体,会很辛苦的。”
「うへえ」 「うへえ」
“嗯。”
 ダニは雄の幼虫が大好物で、寄生した状態でそのまま外にでてくる。蜂の体を乗っ取り、別の巣に紛れ込んで繁殖し続けるのだ。 ダニは雄の幼虫が大好物で、寄生した状態でそのまま外にでてくる。蜂の体を乗っ取り、別の巣に紛れ込んで繁殖し続けるのだ。
螨虫非常喜欢雄性幼虫,在寄生的状态下就这样出来了。抓住蜂的身体,混入别的巢继续繁殖。
羽が縮んでいたり、黒ずんでいたりと、様子がおかしな蜜蜂を発見したら、すぐに除かないといけない。
如果发现了翅膀收缩、发黑等样子奇怪的蜜蜂,必须马上除掉。
 羽が縮んでいたり、黒ずんでいたりと、様子がおかしな蜜蜂を発見したら、すぐに除かないといけない。
「イヴァン兄がせっせと手入れしているから、おいしい蜂蜜が採れるんだな」 「イヴァン兄がせっせと手入れしているから、おいしい蜂蜜が採れるんだな」
“因为伊凡哥哥一直在保养,所以能采到美味的蜂蜜。”
「まあ、俺だけじゃなくて、みんなで頑張っているからね」 「まあ、俺だけじゃなくて、みんなで頑張っているからね」
“嘛,不只是我,大家都在努力呢。”
これほど広大な養蜂園を、従業員を雇わずに家族だけで運営できているのは、女性陣の頑張りがあるからだろう。
如此广阔的养蜂园,不雇佣员工,只由家人运营,大概是因为女性阵容的努力吧。
 これほど広大な養蜂園を、従業員を雇わずに家族だけで運営できているのは、女性陣の頑張りがあるからだろう。
「きちんと女王に従っていたら、これまで通りの暮らしができるんだ」 「きちんと女王に従っていたら、これまで通りの暮らしができるんだ」
“如果好好地跟随女王的话,就可以像以前一样生活了。”
「蜜蜂も、イェゼロ家もってことだね」 「蜜蜂も、イェゼロ家もってことだね」
“蜜蜂也是耶罗家。”
「その通り」 「その通り」
“没错。”
今日は日差しが強く、温かな風も流れていた。
今天阳光很强,也有温暖的风。
 今日は日差しが強く、温かな風も流れていた。 春が、本格的に訪れようとしているのだろう
 春が、本格的に訪れようとしているのだろう。 春天真的要来了吧

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@ -1,225 +1,527 @@
養蜂家の青年は、クリームケーキにかぶりつく 養蜂家の青年は、クリームケーキにかぶりつく
 頼まれていた巣箱を完成させ、一息ついているところにロマナがやってきた。 养蜂家的青年,咬着奶油蛋糕
頼まれていた巣箱を完成させ、一息ついているところにロマナがやってきた。
完成了被委托的巢箱,在喘口气的时候,罗曼娜来了。
何やら、大きなバスケットを抱えている。
不知为什么,抱着一个大篮子。
 何やら、大きなバスケットを抱えている。
「あの、イヴァンさん。もうそろそろ、休憩、ですよね?」 「あの、イヴァンさん。もうそろそろ、休憩、ですよね?」
“那个,伊凡先生。差不多该休息了吧?”
「そうだけれど」 「そうだけれど」
“是啊。”
「ご一緒、してもいいですか?」 「ご一緒、してもいいですか?」
“可以一起做吗?”
 どうして、ロマナはツィリルがいないときにやってくるのか。ここにもう一人誰かがいたら、一緒に休憩できるのに。
 二人で過ごしたことがサシャにばれたら、一大事である。一週間は嫌味を言われてしまいそうだ。
どうして、ロマナはツィリルがいないときにやってくるのか。ここにもう一人誰かがいたら、一緒に休憩できるのに。
为什么,罗曼娜在齐里尔不在的时候会来呢。如果这里还有一个人的话,我们可以一起休息。
二人で過ごしたことがサシャにばれたら、一大事である。一週間は嫌味を言われてしまいそうだ。
如果两个人一起度过的事情被萨沙发现的话,那是一件大事。一个星期好像会被说讨厌。
「ロマナ、昨日も言ったけれど、二人では過ごせな――」 「ロマナ、昨日も言ったけれど、二人では過ごせな――」
“罗曼娜,昨天也说过了,两个人过不去——”
「クリームケーキを、作ったんです」 「クリームケーキを、作ったんです」
“我做了奶油蛋糕。”
「クリームケーキ、だって!?」 「クリームケーキ、だって!?」
“奶油蛋糕!?”
クリームケーキ、それは王侯貴族の保養地だったブレッド湖の名物である。
奶油蛋糕,那是王侯贵族疗养地布莱德湖的名产。
一見して、正方形のケーキだが、構造がただのケーキではない。
乍一看是正方形的蛋糕,但结构并不只是蛋糕。
上下はサクサクのパイ生地で、その下にバタークリーム、さらにプリンのようにどっしりした濃厚なカスタードクリームが挟まった、世界一おいしいケーキだ。店や家庭によってさまざまな種類がある。
上下是松脆的馅饼面团,下面夹着黄油奶油,还有像布丁一样沉甸甸的浓厚牛奶蛋糊奶油,是世界上最好吃的蛋糕。根据店铺和家庭的不同有各种各样的种类。
 クリームケーキ、それは王侯貴族の保養地だったブレッド湖の名物である。
 一見して、正方形のケーキだが、構造がただのケーキではない。
 上下はサクサクのパイ生地で、その下にバタークリーム、さらにプリンのようにどっしりした濃厚なカスタードクリームが挟まった、世界一おいしいケーキだ。店や家庭によってさまざまな種類がある。
父の好物だったので、以前は母もよくクリームケーキを作っていた。父を追い出してからは、一度も作っていないような気がする。
因为是父亲爱吃的东西,所以以前母亲也经常做奶油蛋糕。把父亲赶出去之后,感觉一次也没做过。
ロマナは母からクリームケーキの作り方を習ったのだという。
据说罗曼娜是从母亲那里学到奶油蛋糕的制作方法的。
 父の好物だったので、以前は母もよくクリームケーキを作っていた。父を追い出してからは、一度も作っていないような気がする。
 ロマナは母からクリームケーキの作り方を習ったのだという。
「イヴァンさん、クリームケーキ、食べたくないですか?」 「イヴァンさん、クリームケーキ、食べたくないですか?」
“伊凡,你不想吃奶油蛋糕吗?”
キョロキョロと、周囲を見渡す。物置小屋が陰になっていて、周囲からこちらの状況は見えないだろう。
东张西望,环顾四周。储物间成了阴影,周围看不到这边的情况吧。
 キョロキョロと、周囲を見渡す。物置小屋が陰になっていて、周囲からこちらの状況は見えないだろう。
「食べたい」 「食べたい」
“想吃”
 そう答えると、ロマナは満面の笑みを浮かべた。なんだか、笑っているロマナを見るのは、久しぶりな気がする。 そう答えると、ロマナは満面の笑みを浮かべた。なんだか、笑っているロマナを見るのは、久しぶりな気がする。
 きっと、サシャが自分以外の男の前で笑うなとか、命令しているのかもしれない。世界一心が狭い男である。間違いない 这样回答后,罗曼娜满脸笑容。总觉得,好久没看到笑着的罗曼娜了
 ロマナはバスケットから敷物を取り出す。 きっと、サシャが自分以外の男の前で笑うなとか、命令しているのかもしれない。世界一心が狭い男である。間違いない。
一定是萨沙在自己以外的男人面前笑之类的命令。是世界上心胸狭窄的男人。没错。
ロマナはバスケットから敷物を取り出す。
罗曼娜从篮子里拿出褥子。
「俺が敷くよ」 「俺が敷くよ」
“我来铺吧。”
「え!?」 「え!?」
“诶!?”
「何、驚いているの?」 「何、驚いているの?」
“什么,你很惊讶?”
「あ、ごめんなさい。イェゼロ家の男性は、自分から動くということは、しないので。そういえば、イヴァンさんは以前から、あれこれ自分から動いていましたね」 「あ、ごめんなさい。イェゼロ家の男性は、自分から動くということは、しないので。そういえば、イヴァンさんは以前から、あれこれ自分から動いていましたね」
“啊,对不起。耶泽罗家的男性不会主动行动。这么说来,伊凡从以前开始就有各种各样的主动行动。”
ロマナもすっかり、何もしないイェゼロ家の男達の習慣に染まりきっているようだ。きっと、一から十まで世話を焼いているのだろう。
罗曼娜也完全染上了什么都不做的耶零家男人们的习惯。一定是从头到尾都在照顾你吧。
 ロマナもすっかり、何もしないイェゼロ家の男達の習慣に染まりきっているようだ。きっと、一から十まで世話を焼いているのだろう。
「あのさ、ロマナ。サシャの命令は、全部聞かなくてもいいからね」 「あのさ、ロマナ。サシャの命令は、全部聞かなくてもいいからね」
「那个,罗曼娜,萨沙的命令,你不用全部听。」
「ですが、身よりのない私と結婚してくれた恩がありますので」 「ですが、身よりのない私と結婚してくれた恩がありますので」
“但是,我有恩嫁给了没有亲人的我。”
「結婚に恩も何もないってば。互いに好きだから、一緒になったんでしょう?」 「結婚に恩も何もないってば。互いに好きだから、一緒になったんでしょう?」
“你说你对结婚没什么好处。因为彼此都喜欢,所以才在一起的吧?”
そう言ってやると、ロマナはハッとなってこちらを見る。そのあと、苦しげな表情を浮かべ、胸を押さえた。
这样说的话,罗曼娜突然看了看这边。之后,他露出痛苦的表情,捂住了胸口。
 そう言ってやると、ロマナはハッとなってこちらを見る。そのあと、苦しげな表情を浮かべ、胸を押さえた。
「私、やっぱり――」 「私、やっぱり――」
“我还是——”
「やっぱり?」 「やっぱり?」
“果然?”
「いえ、なんでもありません」 「いえ、なんでもありません」
“不,没什么。”
「そうやって言いかけるの、余計に気になるんだけれど」 「そうやって言いかけるの、余計に気になるんだけれど」
「我更在意你这嚒说。」
「ごめんなさい。ですが、言えません」 「ごめんなさい。ですが、言えません」
“对不起,我不能说。”
言えないことを「言えない」と、はっきり主張できるようになったのはいいことか。
能清楚地主张不能说的话是“不能说”,这是好事吗。
ここに連れてきたばかりのロマナは、とにかく口数が少なくて、日常の会話も成り立たないほどだった。
 言えないことを「言えない」と、はっきり主張できるようになったのはいいことか。 刚带到这里的罗曼娜,总之话很少,日常的对话也不能成立
 ここに連れてきたばかりのロマナは、とにかく口数が少なくて、日常の会話も成り立たないほどだった。
 家族がおらず、身売りをしようとしていたロマナの人生は壮絶だ。
 サシャが幸せにしてくれたら言うことなしだが、それも難しいだろう。サシャの気質は、ぐうたらで乱暴者だった父に一番似ているから。 家族がおらず、身売りをしようとしていたロマナの人生は壮絶だ。
没有家人,想要卖身的罗曼娜的人生非常壮烈。
サシャが幸せにしてくれたら言うことなしだが、それも難しいだろう。サシャの気質は、ぐうたらで乱暴者だった父に一番似ているから。
如果萨沙能给我幸福的话就没什么好说的了,但那也很难吧。因为萨沙的气质最像懒散粗暴的父亲。
一応、二人の結婚に反対はしたものの、周囲も、ロマナ本人も聞き入れなかった。
虽然反对两人的结婚,但周围和罗曼娜本人都没听进去。
 一応、二人の結婚に反対はしたものの、周囲も、ロマナ本人も聞き入れなかった。
「ロマナ、今、幸せ?」 「ロマナ、今、幸せ?」
“罗曼娜,现在幸福吗?”
問いかけに、ロマナはサッと顔を伏せる。その反応は、幸せではないと言っているようなものだ。
当被问到的时候,罗曼娜突然伏下了脸。那个反应就像是说不幸福。
 問いかけに、ロマナはサッと顔を伏せる。その反応は、幸せではないと言っているようなものだ。
 ため息を一つ零しつつ、敷物を広げる。どっかりと腰掛けると、ロマナがクリームケーキを差し出してくれた。レモネードも、添えてくれる。
ため息を一つ零しつつ、敷物を広げる。どっかりと腰掛けると、ロマナがクリームケーキを差し出してくれた。レモネードも、添えてくれる。
一边叹气,一边铺上褥子。一坐下,罗曼娜就把奶油蛋糕递给我。柠檬水也可以添加。
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
「い、いえ」 「い、いえ」
“不,不。”
気まずい空気の中、クリームケーキにかぶりつく。
在尴尬的空气中,盖住奶油蛋糕。
 気まずい空気の中、クリームケーキにかぶりつく。
「ん、うまっ!!」 「ん、うまっ!!」
“嗯,好吃!!”
 パイ生地はサックサク、中のクリームはカスタードで、スポンジ部分は驚くほどふわふわだった。
 甘ったるいのに、あとを引かない。やはり、クリームケーキは世界一おいしいと思ってしまう。
 あっという間に食べ、指先についたクリームまで舐める。 パイ生地はサックサク、中のクリームはカスタードで、スポンジ部分は驚くほどふわふわだった。
馅饼质地松脆,里面的奶油是牛奶蛋糊,海绵部分松软得令人吃惊。
甘ったるいのに、あとを引かない。やはり、クリームケーキは世界一おいしいと思ってしまう。
太甜了,却不拖泥带水。果然,奶油蛋糕是世界上最好吃的。
あっという間に食べ、指先についたクリームまで舐める。
一眨眼就吃了,连指尖上的奶油都舔了。
レモネードをごくごくと飲み干した。
把柠檬水一饮而尽。
 レモネードをごくごくと飲み干した。
「もう一つ、食べますか?」 「もう一つ、食べますか?」
“再吃一个吗?”
「うん、ちょうだい」 「うん、ちょうだい」
“嗯,给我。”
ロマナは微笑みながら、クリームケーキを差し出す。それを、一口で食べて見せた。
罗曼娜微笑着拿出奶油蛋糕。我一口就吃了那个给你看。
彼女は目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑っていた。
她瞪大眼睛后,捧腹大笑。
 ロマナは微笑みながら、クリームケーキを差し出す。それを、一口で食べて見せた。
 彼女は目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑っていた。
「そんなに笑うなんて」 「そんなに笑うなんて」
“你笑得那么开心。”
「だって、信じられません。大きなケーキを、一口で食べるものですから」 「だって、信じられません。大きなケーキを、一口で食べるものですから」
“因为,我不敢相信,因为大蛋糕是一口吃掉的。”
笑いが収まったあと、ロマナは俺の口の端に付いていたクリームを指先で拭う。
笑声平息后,罗曼娜用指尖擦去粘在我嘴边上的奶油。
 笑いが収まったあと、ロマナは俺の口の端に付いていたクリームを指先で拭う。
 それを、ペロリと舐めた。突然の行為に驚き、身を固くしてしまう。 それを、ペロリと舐めた。突然の行為に驚き、身を固くしてしまう。
我舔了一下那个。对突然的行为感到惊讶,身体僵硬了。
「ロマナ、そういうの、止めなよ」 「ロマナ、そういうの、止めなよ」
“罗曼娜,别这样。”
軽く注意したつもりだったが、声色が冷たくなってしまった。
本来打算轻轻地提醒一下,但是声色变冷了。
ロマナはビクリと肩を震わせ、謝罪する。
罗曼娜提心吊胆地颤抖着肩膀,道歉。
 軽く注意したつもりだったが、声色が冷たくなってしまった。
 ロマナはビクリと肩を震わせ、謝罪する。
「ご、ごめんなさい。つい」 「ご、ごめんなさい。つい」
“对不起,不小心。”
「いいよ。どうせ、ちび達と同じように、世話を焼いてくれたんでしょう?」 「いいよ。どうせ、ちび達と同じように、世話を焼いてくれたんでしょう?」
“好啊。反正你也和小朋友们一样照顾我了吧?”
ロマナは子ども好きで、サシャと結婚する前から甥や姪の面倒をよく見ていた。おかげで、二人が結婚すると聞いたとき、子ども達が一番喜んでいた記憶がある。
罗曼娜很喜欢孩子,在和萨沙结婚之前就经常照顾侄子和侄女。托您的福,我记得听说两个人结婚的时候,孩子们最高兴。
 ロマナは子ども好きで、サシャと結婚する前から甥や姪の面倒をよく見ていた。おかげで、二人が結婚すると聞いたとき、子ども達が一番喜んでいた記憶がある。
 そんなことよりも、気になるものに気付いてしまった。 そんなことよりも、気になるものに気付いてしまった。
比起那样的事,我更在意的东西。
「ねえ、ロマナ。さっき、首元がちょっと見えたんだけれど、人の手の痕が――」 「ねえ、ロマナ。さっき、首元がちょっと見えたんだけれど、人の手の痕が――」
「喂,罗曼娜,刚才我看见你的脖子上有一点人的手痕。」
「これは、なんでもありません!」 「これは、なんでもありません!」
“这没什么!”
ロマナは早口で言って、レモネードが入った瓶やら、カップやらを片付ける。
罗曼娜说得很快,收拾装着柠檬水的瓶子啦,杯子啦。
敷物の上から追い出され、風のように去って行った。
被从褥子上赶出去,像风一样离开了。
 ロマナは早口で言って、レモネードが入った瓶やら、カップやらを片付ける。
 敷物の上から追い出され、風のように去って行った。
「あー……」 「あー……」
“啊……”
ロマナの首に、強く締めたような指先の痕があったのは気のせいだったのか。
在罗曼娜的脖子上,有一个很紧的指尖的痕迹,是心理作用吗。
元からある痣なのかもしれないが。
也许是原来就有的痣。
 ロマナの首に、強く締めたような指先の痕があったのは気のせいだったのか。 ロマナが去った方向とは逆方向に歩いて行くと、母に見つかってしまった
 元からある痣なのかもしれないが。 沿着与罗曼娜离开的方向相反的方向走去,被母亲发现了
 ロマナが去った方向とは逆方向に歩いて行くと、母に見つかってしまった。 大量の仕事を頼まれ、うんざりしたのは言うまでもない
 大量の仕事を頼まれ、うんざりしたのは言うまでもない。 被委托做大量的工作,当然厌烦了

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@ -1,215 +1,521 @@
養蜂家の青年は、親友と立ち話をする 養蜂家の青年は、親友と立ち話をする
 今日も、ミハルが馬車でイェゼロ家が注文した品物を持ってくる。 养蜂青年和亲友站着聊天
今日も、ミハルが馬車でイェゼロ家が注文した品物を持ってくる。
今天,米哈尔也会用马车带来耶泽罗家订购的物品。
「おーい、イヴァン!」 「おーい、イヴァン!」
“喂,伊凡!”
「ミハル、また、酒?」 「ミハル、また、酒?」
“米哈尔,又喝酒了?”
「いいや、今日は食料品だ」 「いいや、今日は食料品だ」
“不,今天是食品。”
 イェゼロ家は三十八人家族である。買い物はすべて大量に注文し、配達してもらっているのだ。 イェゼロ家は三十八人家族である。買い物はすべて大量に注文し、配達してもらっているのだ。
耶泽罗家族有三十八口人。所有的购物都是大量订购和配送的。
 今日もまた、ミハルは「おまけだ」と言って、オリーブオイルに魚を浸けた瓶詰めを譲ってくれた。
「これ、いいの? いい品なのでは?」 今日もまた、ミハルは「おまけだ」と言って、オリーブオイルに魚を浸けた瓶詰めを譲ってくれた。
今天,米哈尔又说“这是赠品”,让我把橄榄油里浸着鱼的瓶子。
「これ、いいの? いい品なのでは?」
“这个好吗?是不是好东西?”
「それ、一年前のなんだよ。なるべく早く食え」 「それ、一年前のなんだよ。なるべく早く食え」
“那是一年前的事了,尽量早点吃。”
「そうなんだ。ありがとう」 「そうなんだ。ありがとう」
“是的,谢谢。”
ミハルがくれる食料で、なんとか食いつないでいるところもある。イヴァンは手と手を合わせて、感謝の気持ちを示した。
用米哈尔给的食物,也有勉强咬住的地方。伊凡双手合十,表示感谢。
 ミハルがくれる食料で、なんとか食いつないでいるところもある。イヴァンは手と手を合わせて、感謝の気持ちを示した。
「そういや、お前のところに、にゃんにゃんおじさんは来たか?」 「そういや、お前のところに、にゃんにゃんおじさんは来たか?」
「は? 今、なんて言った?」 “对了,猫咪叔叔来你这里了吗?”
「は? 今、なんて言った?」
“什么?你刚才说什么?”
「にゃんにゃんおじさん」 「にゃんにゃんおじさん」
“喵喵叔叔”
「何、その化け物」 「何、その化け物」
「什么,那个怪物。」
「なんでも、にゃんにゃん言いながら、結婚してくれと叫んでいるらしい」 「なんでも、にゃんにゃん言いながら、結婚してくれと叫んでいるらしい」
“不管怎么说,好像是一边喵喵地说着,一边喊着让我结婚。”
「怖っ!」 「怖っ!」
“好可怕!”
朝からすでに噂になっていたらしい。市場辺りで「にゃんにゃん!」と叫んでいたのだとか。
从早上开始就已经成为了传闻。在市场附近喊着“喵喵!”。
 朝からすでに噂になっていたらしい。市場辺りで「にゃんにゃん!」と叫んでいたのだとか。
「その化け物って、どんな外見なの?」 「その化け物って、どんな外見なの?」
“那个怪物是什么样的外表?”
「髭が生えた強面の中年男で、筋骨隆々。ボロボロの服を着ていて、古めかしい喋りをしているらしい。俺は直接見ていなくて、祖父ちゃんが聞いた噂話だけれど」 「髭が生えた強面の中年男で、筋骨隆々。ボロボロの服を着ていて、古めかしい喋りをしているらしい。俺は直接見ていなくて、祖父ちゃんが聞いた噂話だけれど」
“他是一个长着胡子、脸很硬的中年男子,肌肉很发达。他穿着破破烂烂的衣服,说着古色古香的话。我并没有亲自看他,只是祖父听到的闲话。”
「ちょっと待って」 「ちょっと待って」
“等一下。”
ミハルが特徴を挙げた男に、イヴァンは見覚えがありすぎた。
对于米哈尔列举特征的男人,伊凡太眼熟了。
 ミハルが特徴を挙げた男に、イヴァンは見覚えがありすぎた。
 眉間の皺を解しながら、深いため息を吐く。 眉間の皺を解しながら、深いため息を吐く。
一边解开眉间的皱纹,一边深深地叹气。
「なあ、イヴァン。にゃんにゃん叫びながら、結婚を迫るとか、怖くねえか?」 「なあ、イヴァン。にゃんにゃん叫びながら、結婚を迫るとか、怖くねえか?」
“喂,伊凡。喵喵叫着逼着结婚,你不害怕吗?”
「たぶんそれ、にゃんにゃんじゃなくて、自分の名前はマクシミリニャンで、娘の名前はアニャ。娘の結婚相手を探しにやってきた、的な内容じゃないのかな?」 「たぶんそれ、にゃんにゃんじゃなくて、自分の名前はマクシミリニャンで、娘の名前はアニャ。娘の結婚相手を探しにやってきた、的な内容じゃないのかな?」
「マクシミリニャンに、アニャ? たしかに、二人を合わせたらにゃんにゃんだな」 “大概那个,不是喵喵,自己的名字是马克西米莉娜,女儿的名字是阿尼亚。不是来找女儿结婚对象的内容吗?”
「マクシミリニャンに、アニャ? たしかに、二人を合わせたらにゃんにゃんだな」
“马克西米利尼亚,阿尼亚?确实,两个人合在一起的话就是猫咪了。”
噂が巡り巡って、おかしな方向に転がっているようだ。もう二度と関わり合いになることはないと思っていたので、なんともいえない気持ちになる。
传闻围绕着,似乎转向了奇怪的方向。因为觉得再也不会有关系了,所以有一种说不出的心情。
 噂が巡り巡って、おかしな方向に転がっているようだ。もう二度と関わり合いになることはないと思っていたので、なんともいえない気持ちになる。
「イヴァン、にゃんにゃんおじさんと、知り合いなのか?」 「イヴァン、にゃんにゃんおじさんと、知り合いなのか?」
“伊凡,你和喵喵大叔认识吗?”
「知り合いっていうか、昨日、行き倒れになりかけていたところを、助けたんだ」 「知り合いっていうか、昨日、行き倒れになりかけていたところを、助けたんだ」
“说是认识的人吧,昨天差点晕倒的时候,我救了他。”
「もしかして、お前にも結婚してくれにゃんにゃんって言ってきたの?」 「もしかして、お前にも結婚してくれにゃんにゃんって言ってきたの?」
“难道你也跟我说要和我结婚吗?”
「まあ」 「まあ」
“嗯。”
「そのあと、街に行ったってことは、きっぱり断ったんだな」 「そのあと、街に行ったってことは、きっぱり断ったんだな」
“那之后,你就断然拒绝去街上啦。”
「そうだね」 「そうだね」
“是啊。”
昨晩あったことについて話すと、ミハルは「結婚、すればよかったのに」と呟いた。
说起昨晚发生的事情,米哈尔嘟囔着“结婚就好了”。
 昨晩あったことについて話すと、ミハルは「結婚、すればよかったのに」と呟いた。
「にゃんにゃん男の娘と?」 「にゃんにゃん男の娘と?」
「ああ。だって、お前を気に入って、申し出てくれたんだろう? それに、家業が養蜂だし。財がなくとも、身一つで結婚してくれるなんて、滅多にない話だからな」 “和喵喵男的女儿?”
「ああ。だって、お前を気に入って、申し出てくれたんだろう? それに、家業が養蜂だし。財がなくとも、身一つで結婚してくれるなんて、滅多にない話だからな」
“啊,因为我喜欢你,所以才向我提出申请的吧?而且,家业就是养蜂。就算没有钱,也很少有一个人结婚的。”
「そうだけれど、婿だよ? ここから、出て行かなければならないし」
“是啊,是我女婿啊?我得从这里出去。”
「そうだけれど、婿だよ? ここから、出て行かなければならないし」
「いや、出て行くべきなんだよ。一刻も早く」 「いや、出て行くべきなんだよ。一刻も早く」
“不,我们应该出去,尽快。”
「どうして?」 「どうして?」
“为什么?”
「それは――お前が、ダメになってしまうからだよ」 「それは――お前が、ダメになってしまうからだよ」
“那是因为——你会变得不行的。”
「ダメになっていないけれど?」 「ダメになっていないけれど?」
“虽然没有变得不行?”
思わず、ムッとしてしまう。言葉尻も、刺々しくなってしまった。ミハルも、目をつり上げて喧嘩腰になる。
不由得生气了。话尾也变得刺痛了。米哈尔也抬起眼睛,气势汹汹。
「今はな! でも、そのうちダメになる。現状、健康で元気かもしれない。けれど、一人の人間が働ける量は、限りがあるんだよ。お前は、他の男衆の代わりに、力仕事を担って、率先して働いて、実家に多大の益をもたらしている。けれど、人の体は風車の羽根車と同じだ。ずっと、ずーっと回っていたら、いつかは劣化して、壊れてしまうだろうが」
 思わず、ムッとしてしまう。言葉尻も、刺々しくなってしまった。ミハルも、目をつり上げて喧嘩腰になる。 “现在啊!但是,不久就会变得不行。现状,也许是健康又有精神。但是,一个人能工作的量是有限的。你代替其他男人,担负着力气工作,率先工作,给老家带来了很大的好处。但是,人的身体和风车的叶轮一样。一直,不停地转动。”这样的话,总有一天会劣化,坏掉的吧。“
「今はな! でも、そのうちダメになる。現状、健康で元気かもしれない。けれど、一人の人間が働ける量は、限りがあるんだよ。お前は、他の男衆の代わりに、力仕事を担って、率先して働いて、実家に多大の益をもたらしている。けれど、人の体は風車の羽根車と同じだ。ずっと、ずーっと回っていたら、いつかは劣化して、壊れてしまうだろうが」
ミハルの言葉を聞いて、ハッとなる。ダメになるというのは、俺自身が落ちぶれるという意味ではなかった。
听了米哈尔的话,吓了一跳。失败并不意味着我自己会堕落。
体を心配して、言ってくれていたのだ。気付かずに、怒ってしまった。一言「ごめん」と謝る。
因为担心身体,所以说了。没注意到就生气了。道歉一句“对不起”。
 ミハルの言葉を聞いて、ハッとなる。ダメになるというのは、俺自身が落ちぶれるという意味ではなかった。
 体を心配して、言ってくれていたのだ。気付かずに、怒ってしまった。一言「ごめん」と謝る。
「祖父ちゃんがさ、イヴァンが養蜂がしたいのならば、土地と道具を用意してやるって、言っていたんだ」 「祖父ちゃんがさ、イヴァンが養蜂がしたいのならば、土地と道具を用意してやるって、言っていたんだ」
“爷爷说,如果伊凡想养蜂的话,就给他准备土地和工具。”
養子にならなくてもいい。諸々の費用は、働いて返してくれと話していたようだ。
不领养也可以。各种费用好像都说要工作还给我。
 養子にならなくてもいい。諸々の費用は、働いて返してくれと話していたようだ。
「イヴァンが蜜蜂を大事にする想いも、家族が大事なのも、よく理解しているつもりだ。けれど、このままでは、お前はあまり長くは生きられない。休みなくがむしゃらに働いて死んだ人を、何人も見ていると、祖父ちゃんが言っていたから」 「イヴァンが蜜蜂を大事にする想いも、家族が大事なのも、よく理解しているつもりだ。けれど、このままでは、お前はあまり長くは生きられない。休みなくがむしゃらに働いて死んだ人を、何人も見ていると、祖父ちゃんが言っていたから」
“伊凡珍惜蜜蜂的想法和家人的重要,我都很理解。但是,这样下去的话,你活不了太长时间。祖父说,他会看到好几个不休息地拼命工作而死的人。”
「うん、そうだね。その通りだ。俺は、一心不乱に働くばかりで、何も見えていなかった」 「うん、そうだね。その通りだ。俺は、一心不乱に働くばかりで、何も見えていなかった」
「だろう? だから、真剣に独立を考えてくれよ」 “嗯,是啊。没错。我只是专心工作,什么都看不见。”
「だろう? だから、真剣に独立を考えてくれよ」
“是吧?所以,请认真考虑独立吧。”
「独立……!」 「独立……!」
“独立……!”
「人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ」 「人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ」
“人生不是为了家人,而是为了自己。”
ミハルの言葉は、胸に深く響いた。
米哈尔的话深深地打动了我的心。
もしも、俺がいなくなったら、本当に危機となるのは家族だろう。
如果我不在的话,真正陷入危机的是家人吧。
 ミハルの言葉は、胸に深く響いた。
 もしも、俺がいなくなったら、本当に危機となるのは家族だろう。
「みんな、俺に、頼り切っているんだ」 「みんな、俺に、頼り切っているんだ」
「そうなんだよ! わかったか?」 「大家都完全依赖我啦。」
「そうなんだよ! わかったか?」
“是啊!明白了吗?”
「わかった。ミハル、ありがとう。独立の件、前向きに考えておく」 「わかった。ミハル、ありがとう。独立の件、前向きに考えておく」
“好的。米哈尔,谢谢。我会积极考虑独立的事情。”
「イヴァン!」 「イヴァン!」
“伊凡!”
ミハルは叫び、抱きついてきた。大型犬のようにじゃれつくので、引き剥がすのに苦労してしまった。
米哈尔尖叫着,抱了过来。因为像大型狗一样捣乱,所以剥下来很辛苦。
 ミハルは叫び、抱きついてきた。大型犬のようにじゃれつくので、引き剥がすのに苦労してしまった。
「まあ、なんだ。サシャの嫁にとっても、イヴァンが家を出るのはいいことだと思う」 「まあ、なんだ。サシャの嫁にとっても、イヴァンが家を出るのはいいことだと思う」
「哎呀,怎么了?我觉得即使对萨沙的媳妇来说,伊凡离家出走也是件好事。」
「ロマナね……」 「ロマナね……」
“罗曼娜啊……”
困ったことに、ロマナは結婚しても以前のように接したがる。サシャは面白くないだろう。
令人困扰的是,罗曼娜即使结婚了也想像以前那样对待她。萨沙应该不好玩吧。
 困ったことに、ロマナは結婚しても以前のように接したがる。サシャは面白くないだろう。
「あいつ、なんでイヴァンが好きなのに、サシャと結婚したんだろうな」 「あいつ、なんでイヴァンが好きなのに、サシャと結婚したんだろうな」
“那家伙为什么喜欢伊凡,却和萨沙结婚了呢?”
「は!?」 「は!?」
“哈!?”
「は?」 「は?」
“什么?”
ミハルと見つめ合い、しばし言葉を失う。パチパチと瞬いていたが、ミハルがすかさず指摘してきた。
和米哈尔互相凝视,一时失去了语言。虽然眨巴眨巴地眨眼,但米哈尔马上指出了这一点。
 ミハルと見つめ合い、しばし言葉を失う。パチパチと瞬いていたが、ミハルがすかさず指摘してきた。
「いや、ロマナは、イヴァンのことが前から好きだったろ!!」 「いや、ロマナは、イヴァンのことが前から好きだったろ!!」
“不,罗曼娜从以前就喜欢伊凡了吧!!”
「そうだったの?」 「そうだったの?」
“是吗?”
「そうだったんだよ!!」 「そうだったんだよ!!」
“原来是这样啊!!”
「じゃあなんで、サシャと結婚したの?」 「じゃあなんで、サシャと結婚したの?」
“那你为什么和萨沙结婚?”
そういえば結婚する前、サシャに言い寄られて困っているとか話していたのを思い出す。そのまま母に報告したら、「放っておきなさい」と言っていたので放置していたのだが。
这么说来,我想起了结婚前被萨沙说了很为难之类的话。就这样向母亲报告后,因为说了“别管我”,所以就放任不管了。
それから半年も経たずに、ロマナとサシャの結婚が決まった。
之后不到半年,罗曼娜和萨沙就结婚了。
 そういえば結婚する前、サシャに言い寄られて困っているとか話していたのを思い出す。そのまま母に報告したら、「放っておきなさい」と言っていたので放置していたのだが。
 それから半年も経たずに、ロマナとサシャの結婚が決まった。
「ロマナはサシャが苦手だって言っていたのに、不思議だよね」 「ロマナはサシャが苦手だって言っていたのに、不思議だよね」
“罗曼娜说她不喜欢萨沙,真是不可思议。”
「それは、ロマナがお前に好意を示しているのに、いつまで経っても素っ気なくするからじゃないか?」 「それは、ロマナがお前に好意を示しているのに、いつまで経っても素っ気なくするからじゃないか?」
“那是因为罗曼娜对你表示好感,但不管过多久都会冷淡的吧?”
「いや、俺、昔からこんなだし」 「いや、俺、昔からこんなだし」
“不,我从以前开始就是这样的。”
「まあ……だな」 「まあ……だな」
“嗯……是啊。”
ひとまずロマナがサシャではなく、俺が好きだったという話は聞かなかったことにした。
 ひとまずロマナがサシャではなく、俺が好きだったという話は聞かなかったことにした。 暂且不听罗曼娜不是萨沙,而是喜欢我这样的话

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012.md

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養蜂家の青年は、まさかの訪問者に目を剥く 養蜂家の青年は、まさかの訪問者に目を剥く
 そうこうしているうちに、太陽があかね色に染まっていく。 养蜂家的青年对来访者睁大了眼睛
「あ、やべ。話し過ぎた! イヴァン、またな!」 そうこうしているうちに、太陽があかね色に染まっていく。
在这样的过程中,太阳染上了红色。
「あ、やべ。話し過ぎた! イヴァン、またな!」
“啊,糟了。说得太多了!伊凡,再见!”
「じゃあね――あ!」 「じゃあね――あ!」
“再见——啊!”
ミハルを引き留め、用事を頼む。
留住米哈尔,拜托了事情。
 ミハルを引き留め、用事を頼む。
「ごめん、ミハル。にゃんにゃんおじさんを見かけたら、湖の小屋に来るよう言っておいて」 「ごめん、ミハル。にゃんにゃんおじさんを見かけたら、湖の小屋に来るよう言っておいて」
“对不起,米哈尔。如果看到猫咪叔叔,请告诉他来湖里的小屋。”
「わかった。会えたらな」 「わかった。会えたらな」
  「好的,希望我们能见面。」
今度こそ、ミハルと別れた。
这次,我和米哈尔分手了。
太陽は沈みつつあるが、仕事はまだ終わらない。腕まくりし、作業を再開させる。
太阳正在下沉,但工作还没有结束。挽起袖子,重新开始作业。
 今度こそ、ミハルと別れた。
 太陽は沈みつつあるが、仕事はまだ終わらない。腕まくりし、作業を再開させる。 腐りかけた木材を処分していたら、しょんぼりとうな垂れるツィリルを発見した
在处理快要腐烂的木材时,发现了垂头丧气的齐里尔。
 腐りかけた木材を処分していたら、しょんぼりとうな垂れるツィリルを発見した。
「ツィリル、どうしたんだ?」 「ツィリル、どうしたんだ?」
“齐丽尔,怎么了?”
「……」
「……」 「……」
 涙目のまま、黙り込んでしまう。何か、嫌なことがあったのだろう。しゃがみ込んで、話をきいてみる。
涙目のまま、黙り込んでしまう。何か、嫌なことがあったのだろう。しゃがみ込んで、話をきいてみる。
眼泪就这样沉默着。有什么讨厌的事吗。蹲下,试着听说话。
「ツィリル、こっちにおいで」 「ツィリル、こっちにおいで」
“齐丽尔,过来。”
白詰草の花畑が見える柵に、ツィリルを抱き上げて座らせた。ポケットに入れていた、非常食の飴玉を手のひらに握らせる。
在能看到白诘草花圃的栅栏上,抱起齐丽尔让他坐了下来。把放在口袋里的紧急食品的糖果握在手掌上。
ツィリルは飴を口に放り込み、ポロリと涙を零した。
齐里尔把糖扔进嘴里,扑通一声流下眼泪。
よほど、辛い目に遭ったのだろう。
大概是遭遇了相当痛苦的事情吧。
しばらく、白詰草が揺れる花畑を眺める。夕暮れ時でも、蜜蜂はせっせと蜜を集めていた。俺達と同じで、街の就業を促す鐘の音が聞こえても、仕事は終わりではないらしい。
暂时眺望白诘草摇曳的花田。即使是傍晚,蜜蜂也在不停地收集蜜。和我们一样,即使听到催促街道就业的钟声,工作也不会结束。
ツィリルは服の袖で涙を拭っていたので、ハンカチを差し出す。すると、豪快に鼻をかんでいた。思わず、笑ってしまう。
 白詰草の花畑が見える柵に、ツィリルを抱き上げて座らせた。ポケットに入れていた、非常食の飴玉を手のひらに握らせる。 齐丽尔用衣服的袖子擦着眼泪,拿出手帕。于是,豪爽地擤着鼻子。不由得笑了起来
 ツィリルは飴を口に放り込み、ポロリと涙を零した。
 よほど、辛い目に遭ったのだろう。
 しばらく、白詰草が揺れる花畑を眺める。夕暮れ時でも、蜜蜂はせっせと蜜を集めていた。俺達と同じで、街の就業を促す鐘の音が聞こえても、仕事は終わりではないらしい。 ツィリルも、なんだかおかしくなったのだろう。泣きながら、笑っていた
 ツィリルは服の袖で涙を拭っていたので、ハンカチを差し出す。すると、豪快に鼻をかんでいた。思わず、笑ってしまう。 齐里尔也总觉得奇怪吧。一边哭一边笑。
それから、ツィリルは何があったのかぽつり、ぽつりと話してくれた。
然后,齐里尔嘀嘀咕咕地告诉我发生了什么事。
 ツィリルも、なんだかおかしくなったのだろう。泣きながら、笑っていた。
 それから、ツィリルは何があったのかぽつり、ぽつりと話してくれた。
「ロマナ姉ちゃんからもらったクリームケーキを食べていたら、いきなりサシャ兄に頭を叩かれたんだ」 「ロマナ姉ちゃんからもらったクリームケーキを食べていたら、いきなりサシャ兄に頭を叩かれたんだ」
“吃着罗曼娜姐姐给我的奶油蛋糕,突然被萨沙哥哥敲了头。”
「なんだそりゃ。酷いな」 「なんだそりゃ。酷いな」
“那是什么?太过分了。”
「うん。サシャ兄は、ロマナ姉ちゃんから、クリームケーキを貰ってなかったみたいで」 「うん。サシャ兄は、ロマナ姉ちゃんから、クリームケーキを貰ってなかったみたいで」
“嗯。萨沙哥哥好像没有从罗曼娜姐姐那里得到奶油蛋糕。”
俺が二切れも食べたからだろうか。夫には最優先にしてほしい。
是因为我吃了两片吗。希望丈夫最优先。
 俺が二切れも食べたからだろうか。夫には最優先にしてほしい。
「それにしても、呆れるな。サシャの奴、食い意地が張った、恥ずかしい奴め」 「それにしても、呆れるな。サシャの奴、食い意地が張った、恥ずかしい奴め」
“即便如此,也别吃惊。萨沙的家伙,是个贪吃的,害羞的家伙。”
「だよな」 「だよな」
「是啊。」
サシャは子どもが苦手なようで、甥や姪とも極力関わらないようにしている。それなのに、ツィリルを見つけてはいじわるを言ったり、からかったりしているらしい。
萨沙好像不擅长孩子,尽量不和侄子和侄女扯上关系。尽管如此,找到齐里尔却又说欺负人的话,又好像在嘲笑他。
たぶんだけれど、俺とツィリルの仲がいいので、変なふうに絡んでしまうのだろう。
大概是因为我和齐丽尔的关系很好,所以会像奇怪的样子缠在一起吧。
ミハルが言っていたように、俺がこの家にいると、いろいろダメになってしまうのかもしれない。
 サシャは子どもが苦手なようで、甥や姪とも極力関わらないようにしている。それなのに、ツィリルを見つけてはいじわるを言ったり、からかったりしているらしい。 正如米哈尔所说,我在这个家里的话,可能会变得各种各样的不行。
ロマナやサシャだけではなく、ツィリルも。
不仅是罗曼娜和萨沙,还有齐里尔。
 たぶんだけれど、俺とツィリルの仲がいいので、変なふうに絡んでしまうのだろう。
 ミハルが言っていたように、俺がこの家にいると、いろいろダメになってしまうのかもしれない。
 ロマナやサシャだけではなく、ツィリルも。
 
「サシャ兄は、おれが、嫌いなのかな?」 「サシャ兄は、おれが、嫌いなのかな?」
“萨沙哥哥讨厌我吗?”
「そんなことはないよ。機嫌が悪かっただけだ」 「そんなことはないよ。機嫌が悪かっただけだ」
“没那回事,我只是心情不好。”
「だったら、いいけど」 「だったら、いいけど」
“那就好。”
しょんぼりうなだれるツィリルを、柵から下ろしてやった。
他把垂头丧气的齐里尔从栅栏上弄下来。
もう、元気づける菓子はないし、かける言葉も見つからない。どうしたら、元気になってくれるのか。
已经没有让人振奋的点心了,也找不到打招呼的话了。怎样才能恢复精神呢。
一個だけ、思いつく。
只想到一个。
どうしようか迷ったが、ツィリルを元気づけるために使うことにした。
虽然不知道该怎么办,但还是决定用它来鼓舞齐丽尔。
 しょんぼりうなだれるツィリルを、柵から下ろしてやった。
 もう、元気づける菓子はないし、かける言葉も見つからない。どうしたら、元気になってくれるのか。 「よし! ツィリル、これから、秘密基地に案内してやる」
 一個だけ、思いつく。 “好!齐丽尔,我现在带你去秘密基地。”
 どうしようか迷ったが、ツィリルを元気づけるために使うことにした。
「え、いいの? おれ、大きくなっていないけれど」
“啊,可以吗?我还没长大呢。”
「よし! ツィリル、これから、秘密基地に案内してやる」
「え、いいの? おれ、大きくなっていないけれど」
「特別だから」 「特別だから」
“因为特别。”
「やったー!」 「やったー!」
“太好了!”
花畑養蜂園からブレッド湖の小屋まで、徒歩十分ほど。
从花圃养蜂园到布莱德湖的小屋,步行10分钟左右。
暗くなる前に、帰らないといけない。駆け足で向かった。
天黑之前必须回去。跑着去了。
 花畑養蜂園からブレッド湖の小屋まで、徒歩十分ほど。
 暗くなる前に、帰らないといけない。駆け足で向かった。 小屋を見せた瞬間、ツィリルの瞳はキラリと輝いた。
看到小屋的瞬间,齐丽尔的眼睛闪闪发光。
 小屋を見せた瞬間、ツィリルの瞳はキラリと輝いた。
 中を見せてやると、興奮した様子で振り返る。 中を見せてやると、興奮した様子で振り返る。
让他看看里面,他兴奋地回头看。
「すげーー! 秘密基地だ! イヴァン兄、ここで寝泊まりしていたんだ」
“太棒了!这是秘密基地!伊凡哥哥,就住在这里。”
「すげーー! 秘密基地だ! イヴァン兄、ここで寝泊まりしていたんだ」
「まあね」 「まあね」
“嗯。”
保存食の棚と、釣り道具一式、それから就寝用の寝具があるばかりの部屋だ。だが、ツィリルにとっては最高の秘密基地なのだろう。
这是一间有保存食品的架子和一套钓鱼用具,还有睡觉用的寝具的房间。但是,对齐里尔来说是最好的秘密基地吧。
 保存食の棚と、釣り道具一式、それから就寝用の寝具があるばかりの部屋だ。だが、ツィリルにとっては最高の秘密基地なのだろう。 今日は見せるだけ。後日、また連れてきて、一緒に釣りをしようと誘った。ツィリルは頬を赤く染めながら、何度も頷く
今天只给你看。后来我又带你来,约你一起钓鱼。齐里尔红着脸颊,多次点头。
 今日は見せるだけ。後日、また連れてきて、一緒に釣りをしようと誘った。ツィリルは頬を赤く染めながら、何度も頷く。
「一人で、ここに来たらダメだからね」 「一人で、ここに来たらダメだからね」
“一个人来这里是不行的。”
「わかった!」 「わかった!」
“知道了!”
帰りも走る。早く行かないと、夕食を食いっぱぐれてしまうだろう。
回去也跑。不早点去的话,晚饭会吃个稀饭的吧。
元気な横顔を見せているツィリルを見て、心から安堵した。
看到露出健康侧脸的齐丽尔,我从心底感到安心。
◇◇◇
◇◇◇
夜、ツィリルと共になんとか夕食を確保し、星空の下で食べた。
晚上,我和齐里尔一起设法确保了晚餐,在星空下吃了。
今度の休みに行く釣りについて、ああではない、こうではないと話し合っていたら、義姉がツィリルを迎えにやってきた。風呂の時間らしい。
关于这次休假去钓鱼的事,不是那样的,不是这样的话,姐姐来接齐丽尔了。好像是洗澡的时间。
 帰りも走る。早く行かないと、夕食を食いっぱぐれてしまうだろう。 俺も、自分で作った風呂で湯を浴びる
 元気な横顔を見せているツィリルを見て、心から安堵した。 我也在自己做的浴室里洗澡
 ◇◇◇ 大家族ともなると、風呂の順番も戦争だ。なんども沸かしては湯を追加し、というのを女性陣は繰り返している。
一旦成为大家庭,洗澡的顺序也是战争。女性阵容反复着多次烧开后追加热水。
 夜、ツィリルと共になんとか夕食を確保し、星空の下で食べた。
 今度の休みに行く釣りについて、ああではない、こうではないと話し合っていたら、義姉がツィリルを迎えにやってきた。風呂の時間らしい。 待つ時間がもったいないし、女性陣の手をわずらわせるのも申し訳ない。そのため、自作したのだ
 俺も、自分で作った風呂で湯を浴びる。 等待的时间太浪费了,让女性阵容的手麻烦也很抱歉。因此,是自制的
 大家族ともなると、風呂の順番も戦争だ。なんども沸かしては湯を追加し、というのを女性陣は繰り返している。
 待つ時間がもったいないし、女性陣の手をわずらわせるのも申し訳ない。そのため、自作したのだ。
 とは言っても、風呂と呼べる代物ではないのかもしれない。 とは言っても、風呂と呼べる代物ではないのかもしれない。
 大人数用の大鍋を買い、そこに水を張って外でぐつぐつ煮立たせる。それを、三分の一水を注いだ樽に注ぐだけだ。 话虽如此,也许不是可以称为浴室的东西
 屋外なので、冬は寒い。けれど、蜜蜂は汗の臭いに敏感なので、巣箱に近づけなくなる。
 体は清潔さを保っていないといけないのだ。
 石鹸で全身洗い、樽の湯船に浸かる。 大人数用の大鍋を買い、そこに水を張って外でぐつぐつ煮立たせる。それを、三分の一水を注いだ樽に注ぐだけだ。
买了很多人用的大锅,在那里贴上水,在外面咕嘟咕嘟地煮。只是把它倒进倒了三分之一水的桶里。
屋外なので、冬は寒い。けれど、蜜蜂は汗の臭いに敏感なので、巣箱に近づけなくなる。
因为是室外,所以冬天很冷。但是,蜜蜂对汗臭很敏感,所以不能靠近蜂箱。
体は清潔さを保っていないといけないのだ。
身体必须保持清洁。
石鹸で全身洗い、樽の湯船に浸かる。
用肥皂全身清洗,浸泡在桶里的澡盆里。
「はー……」 「はー……」
“啊……”
 星がきれいだ。そんなことを考えつつ、ゆったりと空を眺めていた。
星がきれいだ。そんなことを考えつつ、ゆったりと空を眺めていた。
星星很漂亮。一边想着那样的事情,一边悠闲地眺望着天空。
家に戻ると、兄達は酒盛りを楽しんでいるようだった。いい気なものである。
回到家,哥哥们好像很享受酒宴。好心好意。
屋根裏部屋に行こうとしたが、押し上げて開ける小口が開かない。
我想去阁楼房间,但是推上去打开的小口打不开。
 家に戻ると、兄達は酒盛りを楽しんでいるようだった。いい気なものである。
 屋根裏部屋に行こうとしたが、押し上げて開ける小口が開かない。
「うわっ、最悪」 「うわっ、最悪」
“哇,糟透了。”
誰かが、小口の上で眠っているのだろう。たまに、あるのだ。
 誰かが、小口の上で眠っているのだろう。たまに、あるのだ。 有人在小口上睡着了吧。偶尔会有
 まあ、今日は小屋に行こうと思っていたので、別にいいのだが。
まあ、今日は小屋に行こうと思っていたので、別にいいのだが。
 にゃんにゃんおじさんこと、マクシミリニャンは小屋に来ているだろうか。きっと、必死になって婿を探していたはずだ 嗯,我今天想去小屋,没关系
 肉が売れたかも、気になる。
 外套を着込み、小屋へ向かった。人影はない。
 来たら、扉でも叩いてくるだろう。そう思い、布団へ潜り込んだ。 にゃんにゃんおじさんこと、マクシミリニャンは小屋に来ているだろうか。きっと、必死になって婿を探していたはずだ。
喵喵叔叔,马克西米莉娜来小屋了吗。一定是拼命地寻找女婿。
 まどろんでいたら、扉がトントンと叩かれる。ハッと目を覚まし、起き上がった。
 マクシミリニャンだろう。 肉が売れたかも、気になる。
肉可能卖出去了,我很在意。
外套を着込み、小屋へ向かった。人影はない。
穿上大衣,走向了小屋。没有人影。
来たら、扉でも叩いてくるだろう。そう思い、布団へ潜り込んだ。
来了的话,门也会敲的吧。这样想着,钻进了被窝。
まどろんでいたら、扉がトントンと叩かれる。ハッと目を覚まし、起き上がった。
如果睡着了,门就会被咚咚地敲。突然醒来,爬了起来。
マクシミリニャンだろう。
是马克西米利尼亚吧。
寝ぼけ眼で扉を開くと、思いがけない人物が懐へと飛び込んできた。
睡眼惺忪地打开门,一个意想不到的人跳进怀里。
 寝ぼけ眼で扉を開くと、思いがけない人物が懐へと飛び込んできた。
「イヴァンさん!」 「イヴァンさん!」
「ロマナ!?」 “伊凡先生!”
「ロマナ!?」
“罗曼娜!?”

556
013.md

@ -1,315 +1,737 @@
養蜂家の青年は、兄の妻の話を聞く 養蜂家の青年は、兄の妻の話を聞く
 なぜ、ロマナがここにいるのか。思考が追いつかず、混乱する。 养蜂青年听哥哥妻子的话
なぜ、ロマナがここにいるのか。思考が追いつかず、混乱する。
为什么罗曼娜会在这里。思考跟不上,混乱。
この小屋は、家族の中ではツィリルしか知らない。
这个小屋,家族中只有齐里尔知道。
 この小屋は、家族の中ではツィリルしか知らない。
「どうして、ここに?」 「どうして、ここに?」
“为什么会在这里?”
「前に、サシャさんに家を追い出されたときがあって、そのときに、どこかに行くイヴァンさんを見かけて、ついていったらここにたどり着いて……」 「前に、サシャさんに家を追い出されたときがあって、そのときに、どこかに行くイヴァンさんを見かけて、ついていったらここにたどり着いて……」
“以前,有一次被萨沙先生赶出了家,那个时候,看到了去哪里的伊凡先生,跟着就到了这里……”
「なんで、声をかけなかったの?」 「なんで、声をかけなかったの?」
“为什么不打招呼?”
「迷惑だと、思いまして」 「迷惑だと、思いまして」
“我觉得很麻烦。”
 どこから突っ込んでいいものかわからず、頭を抱え込む。
 まさか、ロマナにあとをつけられているのに気付いていなかったなんて。それに、サシャが家を追い出したとは、何事なのか どこから突っ込んでいいものかわからず、頭を抱え込む
 寒いけれど、ロマナを小屋に入れるわけにはいかない。個室で二人きりなんて、絶対に許されないだろう。とりあえず、寒いので外に焚き火を用意する 不知道从哪里吐槽好,抱着头
 木の枝を重ね合わせ、枯れ葉を被せる。解した麻紐に向かって火打金と火打石を擦り合わせたら、火花が散って着火した。 まさか、ロマナにあとをつけられているのに気付いていなかったなんて。それに、サシャが家を追い出したとは、何事なのか。
没想到,我竟然没注意到罗曼娜跟在我后面。再说,萨沙把家赶出去,这是怎么回事。
寒いけれど、ロマナを小屋に入れるわけにはいかない。個室で二人きりなんて、絶対に許されないだろう。とりあえず、寒いので外に焚き火を用意する。
虽然很冷,但是不能把罗曼娜放进小屋里。在单间里只有两个人,绝对不允许吧。总之,因为很冷,所以在外面准备篝火。
木の枝を重ね合わせ、枯れ葉を被せる。解した麻紐に向かって火打金と火打石を擦り合わせたら、火花が散って着火した。
把树枝重叠起来,盖上枯叶。面对解开的麻绳,把打火的钱和火石擦在一起,火花四溅,点火了。
ふーふーと息を吹きかけると、だんだんと火が大きくなる。しだいに、ロマナの姿が暗闇の中で浮き彫りになった。
呼呼地吹气,火渐渐变大了。渐渐地,罗曼娜的身影在黑暗中浮现出来。
彼女は外套を着ておらず、薄い寝間着姿だったことに気付く。
她发现她没有穿外套,穿着单薄的睡衣。
 ふーふーと息を吹きかけると、だんだんと火が大きくなる。しだいに、ロマナの姿が暗闇の中で浮き彫りになった。
 彼女は外套を着ておらず、薄い寝間着姿だったことに気付く。
「ちょっとロマナ、なんで、その恰好!?」 「ちょっとロマナ、なんで、その恰好!?」
“有点罗曼娜,为什么,那个打扮!?”
慌てて外套を脱ぎ、肩にかけてやる。必要ないと遠慮していたが、いいから着ていろと怒鳴ってしまった。
慌忙脱下外套,披在肩上。虽然很客气地说没有必要,但是因为可以,所以怒吼说要穿。
 慌てて外套を脱ぎ、肩にかけてやる。必要ないと遠慮していたが、いいから着ていろと怒鳴ってしまった。
「もう、理解不能なんだけれど」 「もう、理解不能なんだけれど」
「我已经无法理解啦。」
額を押さえた瞬間、ロマナが抱きついてきた。踏ん張るのが一瞬遅れたら、そのまま焚き火に背中から倒れ込んでいただろう。危ないことをする。
压住额头的瞬间,罗曼娜抱了过来。如果坚持一瞬间晚了的话,就直接从背后倒在篝火上吧。做危险的事。
「ちょっと、なんなの? 俺、サシャじゃないんだけど!」
“喂,这是什么?我不是萨沙!”
 額を押さえた瞬間、ロマナが抱きついてきた。踏ん張るのが一瞬遅れたら、そのまま焚き火に背中から倒れ込んでいただろう。危ないことをする。 ロマナは何も答えず、ただただ震えるばかりだ。嗚咽も聞こえる。泣いているのだろう
罗曼娜什么也没回答,只是发抖。也能听到呜咽。是在哭吧。
「ちょっと、なんなの? 俺、サシャじゃないんだけど!」
さっきも、サシャに家を追い出されたと言っていた。いったい、夫婦の中で何が起こっているのか。
刚才也说被萨沙赶出了家。到底夫妻之间发生了什么。
 ロマナは何も答えず、ただただ震えるばかりだ。嗚咽も聞こえる。泣いているのだろう。
 さっきも、サシャに家を追い出されたと言っていた。いったい、夫婦の中で何が起こっているのか。
 悪いと思いつつも、ロマナを引き離す。 悪いと思いつつも、ロマナを引き離す。
虽然觉得不好,但还是离开了罗曼娜。
大きくなった火のおかげで、はっきりロマナの顔が見えた。
多亏了大火,我清楚地看到了罗曼娜的脸。
驚くべきことに、頬に大きな内出血の痕があった。
令人吃惊的是,脸颊上有一个很大的内出血痕迹。
 大きくなった火のおかげで、はっきりロマナの顔が見えた。
 驚くべきことに、頬に大きな内出血の痕があった。
「なっ……これ、サシャにやられたの!?」 「なっ……これ、サシャにやられたの!?」
“啊……这个,是被萨沙打了吗!?”
ロマナは顔を背け、黙り込む。薬は何もないが、とりあえず冷やしたほうがいいだろう。
罗曼娜转过脸,沉默不语。虽然没有什么药,但还是先冷却一下比较好吧。
布を湖に浸し、きつく絞る。それを、ロマナの頬に当ててやった。
把布浸在湖里,拧得紧紧的。我把它贴在了罗曼娜的脸颊上。
 ロマナは顔を背け、黙り込む。薬は何もないが、とりあえず冷やしたほうがいいだろう。
 布を湖に浸し、きつく絞る。それを、ロマナの頬に当ててやった。 昼間に見た首を絞めたあとも、見間違いではないのだろう
 昼間に見た首を絞めたあとも、見間違いではないのだろう。 掐了白天看到的脖子之后,也不是看错了吧
 おそらく、サシャは日常的にロマナに暴力をふるっている。
 今までは、見えない場所をぶっていたのかもしれない。
 なんて酷いことをするのか。理解不能だ。 おそらく、サシャは日常的にロマナに暴力をふるっている
恐怕萨沙在日常生活中对罗曼娜施暴。
「ねえ、ロマナ。何があったの? どうして、叩かれたの?」
今までは、見えない場所をぶっていたのかもしれない。
到现在为止,可能是在看不见的地方戴着。
なんて酷いことをするのか。理解不能だ。
你做了多么过分的事啊。不能理解。
「ねえ、ロマナ。何があったの? どうして、叩かれたの?」
「喂,罗曼娜,发生了什么事?为什么被打了?」
ロマナはスンスン泣くばかりで、何も話そうとしない。もはや、ため息しか出てこない。
罗曼娜只是一味地哭,什么也不想说。已经只能叹气了。
明日も仕事があるので、早く眠ったほうがいいだろう。
明天还有工作,还是早点睡比较好吧。
 ロマナはスンスン泣くばかりで、何も話そうとしない。もはや、ため息しか出てこない。
 明日も仕事があるので、早く眠ったほうがいいだろう。
「ねえ、ロマナ。小屋に、布団があるからさ、そこで寝なよ。俺は、ここにいるから」 「ねえ、ロマナ。小屋に、布団があるからさ、そこで寝なよ。俺は、ここにいるから」
「喂,罗曼娜,小屋里有被子,在那里睡觉吧,我就在这里。」
「そんなの、できません」 「そんなの、できません」
“我不会。”
「なんとか頑張ってよ、そこんところをさ」 「なんとか頑張ってよ、そこんところをさ」
“无论如何都要努力,就在那里。”
ここで二人一緒に座っているほうが気まずい。誰かに見られたりしたら、勘違いされるだろう。
在这里两个人坐在一起比较尴尬。如果被谁看到的话,会被误解的吧。
 ここで二人一緒に座っているほうが気まずい。誰かに見られたりしたら、勘違いされるだろう。
「あの、二人で、休みませんか?」 「あの、二人で、休みませんか?」
“那个,两个人一起休息吧?”
「それは絶対にダメ。天と地がひっくり返っても、ロマナがサシャの妻でいる限り、部屋で二人きりにはなれないんだよ」 「それは絶対にダメ。天と地がひっくり返っても、ロマナがサシャの妻でいる限り、部屋で二人きりにはなれないんだよ」
“那是绝对不行的。即使天翻地覆,只要罗曼娜是萨沙的妻子,就不能在房间里只有两个人。”
幼い子どもに諭すように、ロマナに言い聞かせる。すると、余計に泣き始めた。
像告诫年幼的孩子一样,对罗曼娜说。于是,更加开始哭了。
 幼い子どもに諭すように、ロマナに言い聞かせる。すると、余計に泣き始めた。
「イヴァンさんは、酷い、です」 「イヴァンさんは、酷い、です」
「は……? なんで、俺?」 “伊凡先生很过分。”
「は……? なんで、俺?」
“是……?为什么是我?”
酷いのはサシャのほうだろう。どうして、俺が酷いことになるのか。
残酷的是萨沙吧。为什么我会变得很过分呢。
「俺、ロマナに何かした? 無視なんかしていないし、怒鳴らないし、友好的に接していたでしょう?」
“我对罗曼娜做了什么?没有无视,也没有怒吼,友好地对待她吧?”
「そ、それが、残酷なんです! や、優しくするから、好きになってしまった!」
“啊,这太残酷了!呀,因为温柔,所以喜欢上你了!”
 酷いのはサシャのほうだろう。どうして、俺が酷いことになるのか。
「俺、ロマナに何かした? 無視なんかしていないし、怒鳴らないし、友好的に接していたでしょう?」 ロマナの感情の吐露に、「あーあ」という言葉を返してしまう。
「そ、それが、残酷なんです! や、優しくするから、好きになってしまった!」 对罗曼娜的感情的吐露,返回了「啊—啊」的言词。
 ロマナの感情の吐露に、「あーあ」という言葉を返してしまう。 言わなければ、気付かなかった振りを永遠にしていたのに。この辺は、難しい問題なのだろう。
如果不说的话,就永远装作没注意到的样子。这一带是很难的问题吧。
 言わなければ、気付かなかった振りを永遠にしていたのに。この辺は、難しい問題なのだろう。
「ずっと、ずっとずっと、私は、イヴァンさんを、想って、いました」 「ずっと、ずっとずっと、私は、イヴァンさんを、想って、いました」
“一直,一直,我想伊凡先生。”
だったらなぜ、サシャと結婚したのか。
那么,为什么和萨沙结婚呢。
それは、俺がロマナの好意に気付かず、のほほんとしていたからだろう。
 だったらなぜ、サシャと結婚したのか。 那是因为我没有注意到罗曼娜的好意,心不在焉吧
 それは、俺がロマナの好意に気付かず、のほほんとしていたからだろう。
「イヴァンさんは、わかって、いますか? 私が、サシャさんと結婚したのは、顔が、そっくりだから、なんです」
「イヴァンさんは、わかって、いますか? 私が、サシャさんと結婚したのは、顔が、そっくりだから、なんです」
“伊凡,你知道吗?我之所以和萨沙结婚,是因为长相一模一样。”
「ロマナ、それは、本当によくない」 「ロマナ、それは、本当によくない」
“罗曼娜,那真的不好。”
もしもサシャが聞いたら、怒り狂うだろう。
如果萨沙听到了,他会大发雷霆的。
 もしもサシャが聞いたら、怒り狂うだろう。
 サシャは同じ顔をした双子の弟を下等生物だと思っていて、自分を優れた存在だと思って疑わない。
 俺が大事にしているものを根こそぎ奪うことに、喜びを感じているようなひねくれ者なのだ。 サシャは同じ顔をした双子の弟を下等生物だと思っていて、自分を優れた存在だと思って疑わない。
萨沙认为长相相同的双胞胎弟弟是下等生物,认为自己是优秀的存在毫不怀疑。
俺が大事にしているものを根こそぎ奪うことに、喜びを感じているようなひねくれ者なのだ。
他是一个对将我珍视的东西连根拔起感到高兴的乖僻的人。
もしも、ロマナが俺の代わりにサシャと結婚したことを知れば、どうなるかは想像したくなかった。
如果知道罗曼娜代替我和萨沙结婚的话,我不想想象会变成什么样。
 もしも、ロマナが俺の代わりにサシャと結婚したことを知れば、どうなるかは想像したくなかった。
「私……サシャさんに抱かれているときに、イヴァンさんの名前を口にしてしまったんです。だから、叩かれてしまって――!」 「私……サシャさんに抱かれているときに、イヴァンさんの名前を口にしてしまったんです。だから、叩かれてしまって――!」
“我……被萨沙抱着的时候,说出了伊凡的名字。所以,被打了——!”
最悪だ。ロマナは絶対に言ってはいけないことを、サシャに言ってしまったようだ。
糟透了。罗曼娜似乎把绝对不能说的话告诉了萨沙。
 最悪だ。ロマナは絶対に言ってはいけないことを、サシャに言ってしまったようだ。
「それ以前にも、サシャはロマナに暴力をふるっていたんでしょう?」 「それ以前にも、サシャはロマナに暴力をふるっていたんでしょう?」
“在那之前,萨沙也对罗曼娜施加过暴力吧?”
ロマナはサッと顔を伏せる。問いかけに対して肯定しているようなものだろう。
罗曼娜一下子低下了脸。对提问是肯定的吧。
 ロマナはサッと顔を伏せる。問いかけに対して肯定しているようなものだろう。
「今日は、サシャを怒らせたのが原因だとして、その首を絞めた痕はなんだったの?」 「今日は、サシャを怒らせたのが原因だとして、その首を絞めた痕はなんだったの?」
“今天是因为惹怒了萨沙,勒住她的脖子的痕迹是什么?”
首を絞めるなんて、よほどのことだろう。ロマナは顔を伏せたまま、絞り出すような声で告白する。
勒紧脖子,真是太过分了。罗曼娜趴着脸,用挤出的声音告白。
 首を絞めるなんて、よほどのことだろう。ロマナは顔を伏せたまま、絞り出すような声で告白する。
「これは……サシャさんを、愛していると言わなかったから、です」 「これは……サシャさんを、愛していると言わなかったから、です」
“这是因为……我没有说我爱萨沙。”
「しょーもな!!」 「しょーもな!!」
“没办法!!”
明日、朝一番に母に報告しなければならないだろう。息子達には寛大な母も、暴力には人一倍厳しい。きっと、サシャを怒ってくれるだろう。
明天早上要第一时间向妈妈报告吧。对儿子们宽宏大量的母亲对暴力也比别人严厉一倍。一定会让萨沙生气的吧。
問題は、ロマナだ。もう、サシャと夫婦関係を続けるのは不可能だろう。
问题是罗曼娜。已经不可能和萨沙继续夫妻关系了吧。
 明日、朝一番に母に報告しなければならないだろう。息子達には寛大な母も、暴力には人一倍厳しい。きっと、サシャを怒ってくれるだろう。
 問題は、ロマナだ。もう、サシャと夫婦関係を続けるのは不可能だろう。
「私は、これから、どうすれば……」 「私は、これから、どうすれば……」
“我今后该怎么办……”
 ロマナがこうなってしまったのは、花畑養蜂園に連れてきた俺のせいでもある。
 ひとまず、ロマナは修道院に預ければいい。そのあと、サシャと離婚させて、独立したあと責任を取ればいいのか。
ロマナがこうなってしまったのは、花畑養蜂園に連れてきた俺のせいでもある。
 考えを張り巡らせていたら、ふいにミハルの言葉が甦った 罗曼娜变成这样,也是因为我带她来到花田养蜂园的缘故
 ――人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ! ひとまず、ロマナは修道院に預ければいい。そのあと、サシャと離婚させて、独立したあと責任を取ればいいのか。
首先,罗曼娜可以寄存在修道院。之后,让萨沙离婚,独立后负责任就好了吗。
 ハッと、我に返る。
 また俺は、誰かのために自分の人生を犠牲にしようとしていた。
 このままでは、いけない。
 俺は俺の人生を歩まないといけないし、ロマナもロマナの人生を歩まないといけないのだ 考えを張り巡らせていたら、ふいにミハルの言葉が甦った
在反复思考的时候,米哈尔的话突然复活了。
――人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ!
——人生不是为了家人而存在的。是为了自己的东西!
ハッと、我に返る。
哈,回过神来。
また俺は、誰かのために自分の人生を犠牲にしようとしていた。
我又为了谁而牺牲了自己的人生。
このままでは、いけない。
这样下去可不行。
俺は俺の人生を歩まないといけないし、ロマナもロマナの人生を歩まないといけないのだ。
我必须走我的人生,罗曼娜也必须走罗曼娜的人生。
一度、ロマナのことは助けている。あとの人生は、自分で希望を切り開くべきなのだ。
有一次,罗曼娜的事在帮助。以后的人生,应该自己开辟希望。
 一度、ロマナのことは助けている。あとの人生は、自分で希望を切り開くべきなのだ。
「ロマナ、太陽が昇ったら、街の修道院に行こう」 「ロマナ、太陽が昇ったら、街の修道院に行こう」
“罗曼娜,太阳升起后,我们去街上的修道院吧。”
「え?」 「え?」
“诶?”
「もう、ここを出て行くんだ。サシャのいる場所は、ロマナの居場所じゃない」 「もう、ここを出て行くんだ。サシャのいる場所は、ロマナの居場所じゃない」
「你要离开这里了,萨沙所在的地方不是罗曼娜的住处。」
「そんな、そんなの……!」 「そんな、そんなの……!」
“那样啊,那样啊……!”
 ロマナの表情が、絶望に染まっていく。
 住み慣れた場所を離れるのは辛いだろう。養蜂も、彼女の天職のように思えた。けれど、ここで我慢をしたらロマナが壊れてしまう。
 それだけは、避けたい。
ロマナの表情が、絶望に染まっていく。
罗曼娜的表情染上了绝望。
住み慣れた場所を離れるのは辛いだろう。養蜂も、彼女の天職のように思えた。けれど、ここで我慢をしたらロマナが壊れてしまう。
离开住惯了的地方很辛苦吧。养蜂也像是她的天职。但是,如果在这里忍耐的话,罗曼娜就会坏掉。
それだけは、避けたい。
只有那个,想避开。
「い、嫌です」 「い、嫌です」
“不,我不喜欢。”
「いや、嫌じゃなくって、そうしないと、ロマナ、いつか、サシャに殺されるよ?」 「いや、嫌じゃなくって、そうしないと、ロマナ、いつか、サシャに殺されるよ?」
“不,不是讨厌,如果不那样做的话,罗曼娜,总有一天会被萨沙杀死的。”
「殺されても、構いません。私は、一秒でも長く、イヴァンさんと、一緒にいたい!」 「殺されても、構いません。私は、一秒でも長く、イヴァンさんと、一緒にいたい!」
“被杀也没关系。我想和伊凡在一起,哪怕是一秒钟也好!”
 再び、ロマナが胸に飛び込んできた。今度は勢いがあったので、押し倒されてしまった。
 もちろん、焚き火のない方向へ。 再び、ロマナが胸に飛び込んできた。今度は勢いがあったので、押し倒されてしまった
罗曼娜再次跳入胸膛。因为这次有气势,所以被推倒了。
もちろん、焚き火のない方向へ。
当然,朝着没有篝火的方向。
「待って、待ってロマナ。落ち着いて! 冷静になって!」
“等等,等等,罗曼娜。冷静点!冷静点!”
「待って、待ってロマナ。落ち着いて! 冷静になって!」
「落ち着いていますし、極めて冷静です!」 「落ち着いていますし、極めて冷静です!」
“沉着冷静,非常冷静!”
人を押し倒しておいて、落ち着いているはないだろう。冷静ではない確かな証拠だ。
把人推倒,不可能冷静下来吧。这是不冷静的确凿证据。
 人を押し倒しておいて、落ち着いているはないだろう。冷静ではない確かな証拠だ。
「起き上がってから、話をしよう。ね、ロマナ」 「起き上がってから、話をしよう。ね、ロマナ」
“起床后,我们再聊。喂,罗曼娜。”
なるべく優しい声で言ったつもりだったが、それに対するロマナの返答は最低最悪だった。
虽然打算尽量用温柔的声音说,但是罗曼娜对那个的回答是最糟糕的。
 なるべく優しい声で言ったつもりだったが、それに対するロマナの返答は最低最悪だった。
「私を、抱いてください!」 「私を、抱いてください!」
“请抱着我!”
「ちょっ、どうしてそうなるの!?」 「ちょっ、どうしてそうなるの!?」
“喂,为什么会这样!?”
「一度、抱いていただけたら、私はそれを一生の思い出として、大事にしますので」 「一度、抱いていただけたら、私はそれを一生の思い出として、大事にしますので」
“如果你能抱着我一次,我会把它作为一生的回忆,珍惜它。”
「いや、無理無理無理無理無理!!」 「いや、無理無理無理無理無理!!」
“不,不行不行不行不行不行!!”
何回「無理!!」と叫んだのか、よくわからない。
不知道喊了多少次“不行!!”。
いったんここで抱いたほうがロマナの気持ちが治まるとわかっていても、絶対にそれはできない行為である。
即使知道暂时在这里抱着会治好罗曼娜的心情,但这是绝对做不到的行为。
 何回「無理!!」と叫んだのか、よくわからない。
 いったんここで抱いたほうがロマナの気持ちが治まるとわかっていても、絶対にそれはできない行為である。
 ロマナともみくちゃになっているうちに、キスされそうになった。寸前で、回避した。 ロマナともみくちゃになっているうちに、キスされそうになった。寸前で、回避した。
和罗曼娜挤在一起的时候,差点被吻了。就在眼前,回避了。
「他の男に抱かれた私が、穢らわしいから、そういうことを、するのですか!?」 「他の男に抱かれた私が、穢らわしいから、そういうことを、するのですか!?」
“被其他男人抱着的我,因为肮脏,才会做那样的事吗!?”
「そうじゃないーい!!」 「そうじゃないーい!!」
“不是那样的!!”
「だったら!!」 「だったら!!」
“那么!!”
「おい、お前ら、そこで何をしているんだ!?」 「おい、お前ら、そこで何をしているんだ!?」
“喂,你们在那里干什么!?”
聞こえたのは、サシャの絶叫である。どでかい声で言い合っていたので、接近に気付かなかったのだろう。
听到的是萨沙的尖叫。因为大声地说着,所以没注意到接近吧。
 聞こえたのは、サシャの絶叫である。どでかい声で言い合っていたので、接近に気付かなかったのだろう。 なんていうか、俺の人生、終わった
 なんていうか、俺の人生、終わった。 怎么说呢,我的人生结束了

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014.md

@ -1,211 +1,481 @@
養蜂家の青年は、双子の兄に詰め寄られる 養蜂家の青年は、双子の兄に詰め寄られる
 最低最悪のタイミングで、サシャに見つかってしまった。 养蜂家的青年被双胞胎哥哥逼着
最低最悪のタイミングで、サシャに見つかってしまった。
在最坏的时机,被萨沙发现了。
「ロマナ、離れて!」 「ロマナ、離れて!」
“罗曼娜,走开!”
「い、嫌っ!」 「い、嫌っ!」
“讨厌!”
ロマナは離れるどころか、サシャがやってきても尚、俺にすがりつく。
罗曼娜不但没有离开,即使萨沙来了,也会紧紧地抱住我。
どうしてこうなった。ブレッド湖に向かって、大声で叫びたい。
怎么会变成这样。我想对着布莱德湖大声喊。
 ロマナは離れるどころか、サシャがやってきても尚、俺にすがりつく。
 どうしてこうなった。ブレッド湖に向かって、大声で叫びたい。
「お前っ!!」 「お前っ!!」
“你!!”
あろうことか、サシャはロマナの体を突き飛ばした。
不知道怎嚒回事,萨沙把罗曼娜的身体推开了。
そして彼女のことは目もくれず、俺に馬乗りになって拳を上げた。
 あろうことか、サシャはロマナの体を突き飛ばした。 然后她连眼睛都不看,骑着我举起了拳头
 そして彼女のことは目もくれず、俺に馬乗りになって拳を上げた。
「イヴァン!! この野郎!! ロマナに手を出しやがって!!」
「イヴァン!! この野郎!! ロマナに手を出しやがって!!」
“伊凡!!你这个混蛋!!你要对罗曼娜出手!!”
 右頬、左頬にと、サシャは強烈な拳を叩き込んでくれた。とっさに歯を食いしばったものの、それでも激痛が走り、口の中に血の味が広がった。
「止めて、止めてください! イヴァンさんは、何も悪くありません」
「ロマナ!! お前は、黙っていろ」 右頬、左頬にと、サシャは強烈な拳を叩き込んでくれた。とっさに歯を食いしばったものの、それでも激痛が走り、口の中に血の味が広がった。
在右脸颊、左脸颊上,萨沙敲了一记强烈的拳头。虽然马上咬紧牙关,但还是剧痛,口中充满了血的味道。
 近寄ってきたロマナの頬ですら、サシャは叩いた。
 ロマナの体は吹き飛び、地面を転がっていく。
 打ち所が悪かったのだろう。倒れたまま、起き上がろうとしない。
「止めて、止めてください! イヴァンさんは、何も悪くありません」
“停下来,停下来!伊凡先生,没什么不好的。”
「ロマナ!! お前は、黙っていろ」
“罗曼娜!!你给我闭嘴。”
近寄ってきたロマナの頬ですら、サシャは叩いた。
就连靠近的罗曼娜的脸颊,萨沙也敲了一下。
ロマナの体は吹き飛び、地面を転がっていく。
罗曼娜的身体被吹飞,在地上滚下去。
打ち所が悪かったのだろう。倒れたまま、起き上がろうとしない。
是打的地方不好吧。倒下了,不想起来。
「サシャ、ロマナに手を、上げては、いけない」 「サシャ、ロマナに手を、上げては、いけない」
「うるさい!! お前ら二人は、夜な夜な隠れて、楽しんでいたのかよ!! 俺のことを、陰でバカにしていたんだろう!?」 “萨沙,你不能把手举起来。”
「うるさい!! お前ら二人は、夜な夜な隠れて、楽しんでいたのかよ!! 俺のことを、陰でバカにしていたんだろう!?」
“吵死了!!你们两个晚上都躲起来玩得开心吗!!你们是在背后嘲笑我吧!?”
「違う……違う……!」 「違う……違う……!」
“不是……不是……!”
サシャはどうして、この場所がわかったのだろうか。
萨沙怎么会知道这个地方呢。
そう思った瞬間、もう一人、誰かいるのに気付いた。ツィリルだ。
这样想的瞬间,发现还有一个人。是齐里尔。
 サシャはどうして、この場所がわかったのだろうか。
 そう思った瞬間、もう一人、誰かいるのに気付いた。ツィリルだ。 目が合うと、ツィリルは一歩、二歩と後ずさる
 目が合うと、ツィリルは一歩、二歩と後ずさる。 目光相遇后,齐里尔后退了一步、两步
 きっと、ロマナと俺がいないとサシャに詰め寄られ、居場所を吐くように言われたのだろう。
きっと、ロマナと俺がいないとサシャに詰め寄られ、居場所を吐くように言われたのだろう。
一定是罗曼娜和我不在的时候被萨沙逼着,被要求吐出住处吧。
「……ツィリル」 「……ツィリル」
“……齐里尔”
逃げてと言う前に、サシャに殴られた。ゲホゲホと咳き込んだら、口の端から血が滴っていく。
在我叫你逃跑之前,我被萨沙打了。咯咯地咳了一声,血从嘴边滴了下来。
 逃げてと言う前に、サシャに殴られた。ゲホゲホと咳き込んだら、口の端から血が滴っていく。
視界の端で、ツィリルが走って行く様子が見えた。
在视野的边缘,看到了齐里尔跑过去的样子。
 視界の端で、ツィリルが走って行く様子が見えた。
「よかった」 「よかった」
“太好了。”
安堵の表情ですら、気に食わないらしい。サシャは、顔面を殴り続ける。
连安心的表情都不喜欢。萨沙继续打他的脸。
「みんな、イヴァン、イヴァンって、お前ばかり気にするんだ!! 小さいときから、ずっと!! それが、気に食わなかったんだ!!」
“大家,伊凡,伊凡,都只在乎你!!从小到大,一直都是!!我不喜欢那个!!”
 安堵の表情ですら、気に食わないらしい。サシャは、顔面を殴り続ける。
「みんな、イヴァン、イヴァンって、お前ばかり気にするんだ!! 小さいときから、ずっと!! それが、気に食わなかったんだ!!」
そんなことはない。家族から可愛がられていたのは、明るくて元気なサシャのほうだ。
没有那样的事。被家人疼爱的是开朗活泼的萨沙。
 そんなことはない。家族から可愛がられていたのは、明るくて元気なサシャのほうだ。
 街の女の子だって、みんなサシャが好きだと言っていた。
街の女の子だって、みんなサシャが好きだと言っていた。
街上的女孩子都说喜欢萨沙。
「人気取りをしたいから、みんなの言いなりになっているんだろう? そんな人生、楽しいか?」
“因为想取得人气,所以大家都听从了吧?这样的人生,快乐吗?”
「人気取りをしたいから、みんなの言いなりになっているんだろう? そんな人生、楽しいか?」
「さあ?」 「さあ?」
“来吧?”
人生が楽しいとか楽しくないとか、まったく考えたことがなかった。
我完全没有想过人生是快乐还是不快乐。
 人生が楽しいとか楽しくないとか、まったく考えたことがなかった。
 これからは、自分のために生きて、人生に楽しみを見いだすのも、いいのかもしれない。
 もしも、この先生きていたらだけれど。 これからは、自分のために生きて、人生に楽しみを見いだすのも、いいのかもしれない
今后,为了自己而活,在人生中找到乐趣,也许也不错。
 だんだんと、視界がかすんでくる。
 意識も、朦朧としていた。顔はきっと、ぐちゃぐちゃだろう。 もしも、この先生きていたらだけれど。
如果今后还活着的话。
だんだんと、視界がかすんでくる。
视野渐渐模糊了。
意識も、朦朧としていた。顔はきっと、ぐちゃぐちゃだろう。
意识也朦胧了。脸一定很乱吧。
死ぬほど痛いけれど、叫ぶ元気すらない。
虽然痛得要死,但连叫喊的精神都没有。
 死ぬほど痛いけれど、叫ぶ元気すらない。
「俺は、お前のことが、大嫌いだ!!」 「俺は、お前のことが、大嫌いだ!!」
“我最讨厌你了!!”
「そう、なんだ」 「そう、なんだ」
“是,是什么?”
俺は不思議と、サシャのことは嫌いではない。もともと一つだったものが、二つに分かれて生まれた存在だからだろうか。
不可思议的是,我并不讨厌萨沙。也许是因为原本只有一个的东西,是分成两个而诞生的存在吧。
 俺は不思議と、サシャのことは嫌いではない。もともと一つだったものが、二つに分かれて生まれた存在だからだろうか。 サシャを、どこか自分のように思っているのだろう
 サシャを、どこか自分のように思っているのだろう。 你觉得萨沙好像是自己吧
「二人も、いらなかったんだ! お前がいるから、俺は何もかも比べてしまい、劣等感に、苛まれる!」
「二人も、いらなかったんだ! お前がいるから、俺は何もかも比べてしまい、劣等感に、苛まれる!」
“两个人都不需要!因为有你,我什么都比,被自卑感折磨!”
「うん」 「うん」
“嗯。”
意識が遠退いていく中で、考える。サシャが幸せになるには、どうしたらいいのかと。
在意识远退的过程中思考。萨沙想要幸福,该怎么办才好呢。
サシャ自身は、俺と真逆の思考でいるようだ。
萨沙自己好像在和我完全相反的思考。
 意識が遠退いていく中で、考える。サシャが幸せになるには、どうしたらいいのかと。
 サシャ自身は、俺と真逆の思考でいるようだ。
「いなくなれ!!」 「いなくなれ!!」
“消失吧!!”
このまま目を閉じたら、きっと願いは叶うだろう。
就这样闭上眼睛的话,愿望一定会实现的吧。
けれど、俺はもう他人のために頑張るのを、止めたのだ。これからは、自由にさせてもらう。
但是,我已经停止为了别人而努力了。从现在开始,让我自由。
 このまま目を閉じたら、きっと願いは叶うだろう。
 けれど、俺はもう他人のために頑張るのを、止めたのだ。これからは、自由にさせてもらう。
サシャの拳が迫る瞬間、顔を少しだけ逸らした。一撃は空振りとなる。
萨沙的拳头逼近的瞬间,脸稍微偏离了一点。一击落空。
 サシャの拳が迫る瞬間、顔を少しだけ逸らした。一撃は空振りとなる。
「クソ!」 「クソ!」
“可恶!”
もう一度、サシャは拳を振り上げた。
再一次,萨沙举起拳头。
 もう一度、サシャは拳を振り上げた。
 これ以上殴られると、さすがに生死を彷徨ってしまう。 これ以上殴られると、さすがに生死を彷徨ってしまう。
再被打下去,真不愧是生死彷徨。
「ちょっ、待っ――」 「ちょっ、待っ――」
“喂,等等——”
ぎゅっと目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
紧紧地闭上眼睛,但没有受到冲击。
そっと瞼を開くと、サシャの拳が目の前にある。
轻轻睁开眼睑,萨沙的拳头就在眼前。
これは、いったいどういう状況なのか。よくよく耳を澄ますと、ツィリルの声が聞こえた。
这到底是什么情况呢。仔细一听,听到了齐里尔的声音。
 ぎゅっと目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
 そっと瞼を開くと、サシャの拳が目の前にある。
 これは、いったいどういう状況なのか。よくよく耳を澄ますと、ツィリルの声が聞こえた。 「ロマナ姉ちゃん、大丈夫!? ロマナ姉ちゃん!!」
“罗曼娜姐姐,没事吧!?罗曼娜姐姐!!”
「ロマナ姉ちゃん、大丈夫!? ロマナ姉ちゃん!!」
 ツィリルは逃げたかと思っていたのに、戻ってきたようだ。 ツィリルは逃げたかと思っていたのに、戻ってきたようだ。
我还以为齐里尔跑了呢,他好像回来了。
そして、もう一人いた。
然后,还有一个人。
サシャが振り下ろした拳を、握る誰かが。
有人握着萨沙挥下的拳头。
 そして、もう一人いた。
 サシャが振り下ろした拳を、握る誰かが。
「もう、止めよ。これ以上殴ったら、死んでしまうぞ」 「もう、止めよ。これ以上殴ったら、死んでしまうぞ」
“别再打了,再打,你就死定了。”
聞いたことのある、古めかしい喋りをする低い声。
听过的说话古色古香的低沉的声音。
思わず、笑ってしまった。
不由得笑了起来。
 聞いたことのある、古めかしい喋りをする低い声。
 思わず、笑ってしまった。
「にゃんにゃんおじさん、じゃん」 「にゃんにゃんおじさん、じゃん」
“喵喵叔叔,不是吗?”
その言葉を最後に、目の前が真っ暗になる。
那句话结束后,眼前一片漆黑。
 その言葉を最後に、目の前が真っ暗になる。 最期の言葉が「にゃんにゃんおじさん、じゃん」にならなければいいなと思いつつ、意識を手放した
 最期の言葉が「にゃんにゃんおじさん、じゃん」にならなければいいなと思いつつ、意識を手放した。 最后的话如果不是“喵喵大叔,不是吗”就好了,一边放弃了意识

366
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養蜂家の青年は、自宅にて目覚める 養蜂家の青年は、自宅にて目覚める
 にゃんにゃんと、猫の鳴き声が聞こえる。 养蜂家的青年在家里醒来
 いつもだったら気にしないのに、どうしてか鳴き声が聞こえるほうへと誘われる。
 家族の誰かが「イヴァン!」と呼んでいる気がしたが、後回しにした。
 猫の鳴き声はだんだん遠ざかっていく にゃんにゃんと、猫の鳴き声が聞こえる
 走って追いかけないと、姿を見ることはできないだろう 喵喵地听到猫的叫声
 なんだか走りにくい気がして、兄のおさがりの帽子や外套を脱ぐ。ロマナが贈ってくれた靴や手作りの靴下も脱いだ。
 唯一自分で買ったシャツと、ズボンだけになると、ずいぶん走りやすくなった。
 ここでようやく、猫の姿が見える。 いつもだったら気にしないのに、どうしてか鳴き声が聞こえるほうへと誘われる。
 金色の毛並みに、青い瞳を持つ美しい猫だった。まるで、こっちへついてこいと誘っているような鳴き声をあげていた 如果是平常的话就不介意了,不知为什么被邀请去能听到叫声的地方
 花畑を走り抜け、草原を通り過ぎ、走って、走って、走り抜けると、生まれ育ったブレッド湖を取り囲む景色は見えなくなる。
 たどり着いたのは、深い、深い、エメラルドグリーンの美しい湖。果てなく広がる湖は、ブレッド湖よりも大きく感じた。
 そして、天を衝くようにそびえる雄大な山々。見たこともない光景が、これでもかと広がっていた。 家族の誰かが「イヴァン!」と呼んでいる気がしたが、後回しにした。
我觉得家里有人叫我“伊凡!”,但我把它往后推了。
猫の鳴き声はだんだん遠ざかっていく。
猫的叫声渐渐远去。
走って追いかけないと、姿を見ることはできないだろう。
不跑去追的话,是看不到你的身影的吧。
なんだか走りにくい気がして、兄のおさがりの帽子や外套を脱ぐ。ロマナが贈ってくれた靴や手作りの靴下も脱いだ。
总觉得很难跑,脱下哥哥的帽子和外套。她还脱下了罗曼娜送给她的鞋子和手工制作的袜子。
唯一自分で買ったシャツと、ズボンだけになると、ずいぶん走りやすくなった。
如果只是自己买的衬衫和裤子的话,就很容易跑了。
ここでようやく、猫の姿が見える。
在这里终于看到了猫的身影。
金色の毛並みに、青い瞳を持つ美しい猫だった。まるで、こっちへついてこいと誘っているような鳴き声をあげていた。
是一只金色的毛色,有着蓝色眼睛的美丽的猫。简直就像是在邀请他跟我来一样的叫声。
花畑を走り抜け、草原を通り過ぎ、走って、走って、走り抜けると、生まれ育ったブレッド湖を取り囲む景色は見えなくなる。
穿过花圃,穿过草原,跑过去,跑过去,跑过去,就看不到围绕着土生土长的布莱德湖的景色了。
たどり着いたのは、深い、深い、エメラルドグリーンの美しい湖。果てなく広がる湖は、ブレッド湖よりも大きく感じた。
到达的是深、深、翡翠绿的美丽湖泊。我感觉无边无际的湖泊比布莱德湖还要大。
そして、天を衝くようにそびえる雄大な山々。見たこともない光景が、これでもかと広がっていた。
而且,耸立着冲天的雄伟群山。从未见过的光景,就这样蔓延开来。
あまりにも美しく、自然と涙が零れる。
太美了,自然会流泪。
 あまりにも美しく、自然と涙が零れる。
「ここは!?」 「ここは!?」
“这里是!?”
猫の姿は消え、一人の少女の姿になった。姿はおぼろげで見えないけれど、どうしてか強く惹かれるものがある。
猫的身影消失了,变成了一个少女的身影。虽然样子很模糊看不见,但不知为什么却有被强烈吸引的东西。
差し出された手を掴もうとしたら、景色がぐにゃりと歪んだ。
想要抓住伸出的手,景色却扭曲了。
 猫の姿は消え、一人の少女の姿になった。姿はおぼろげで見えないけれど、どうしてか強く惹かれるものがある。
 差し出された手を掴もうとしたら、景色がぐにゃりと歪んだ。
「にゃんにゃん、にゃんにゃん」 「にゃんにゃん、にゃんにゃん」
“喵喵,喵喵”
 低い、中年親父の声が聞こえた。先ほどの、鈴の音が鳴るような猫の声とは真逆である。
 あまりにもにゃんにゃん言うので、叫んでしまった。
低い、中年親父の声が聞こえた。先ほどの、鈴の音が鳴るような猫の声とは真逆である。
听到了低沉的中年父亲的声音。和刚才那铃铛般的猫的声音完全相反。
あまりにもにゃんにゃん言うので、叫んでしまった。
因为太喵喵地说了,所以喊了起来。
「うるさいな!!」 「うるさいな!!」
“真烦人!!”
瞼を開くと、俺を覗き込む中年親父の姿があった。
睁开眼睛,看到了窥视我的中年父亲的身影。
 瞼を開くと、俺を覗き込む中年親父の姿があった。
「にゃんにゃんおじさん……じゃなくて、マクシミリニャン?」 「にゃんにゃんおじさん……じゃなくて、マクシミリニャン?」
“喵喵叔叔……不是,是马克西米莉娜?”
「そうである」 「そうである」
“是的。”
どうやら、今まで夢を見ていたようだ。何か印象的な内容だった気がするが、よく思い出せない。それよりも、顔面がズキズキ痛み、夢どころではなかった。
看来,到现在为止都在做梦。我觉得是什么印象深刻的内容,但是想不起来。与此相比,脸上的疼痛并不是梦。
 どうやら、今まで夢を見ていたようだ。何か印象的な内容だった気がするが、よく思い出せない。それよりも、顔面がズキズキ痛み、夢どころではなかった。
「痛った……!」 「痛った……!」
“好痛……!”
 ここでようやく、サシャに殴られたときの記憶が甦ってきた。 ここでようやく、サシャに殴られたときの記憶が甦ってきた。
在这里,终于恢复了被萨沙殴打时的记忆。
まずは、マクシミリニャンに感謝の気持ちを伝える。彼がいなかったら、俺はサシャに殺されていただろう。
首先,向马克西米利尼亚表达感谢之情。如果他不在的话,我会被萨沙杀死的。
 まずは、マクシミリニャンに感謝の気持ちを伝える。彼がいなかったら、俺はサシャに殺されていただろう。
「おじさん……ありがとう、ございました」 「おじさん……ありがとう、ございました」
“叔叔……谢谢,谢谢。”
「気にするでない。それよりも、灯りも持たずに我に助けを求めてきた、少年に感謝するといい」 「気にするでない。それよりも、灯りも持たずに我に助けを求めてきた、少年に感謝するといい」
「我不介意。与其这样,还不如感谢没有点灯就向我求助的少年。」
ツィリルが、マクシミリニャンを呼んできてくれたようだ。
好像是齐里尔把马克西米利尼亚叫来了。
もともと、小屋に向かっていたようだが、それでも走って五分くらいの距離は離れていたという。
原本好像是去了小屋,但据说即使这样也离跑了五分钟左右的距离。
ツィリルのおかげで、俺は助かったのだ。
多亏了齐里尔,我得救了。
マクシミリニャンは「しばし休め」と言って出て行った。
 ツィリルが、マクシミリニャンを呼んできてくれたようだ。 马克西米利尼亚说着“暂时休息”就出去了
 もともと、小屋に向かっていたようだが、それでも走って五分くらいの距離は離れていたという。
 ツィリルのおかげで、俺は助かったのだ。
 マクシミリニャンは「しばし休め」と言って出て行った。 入れ替わるように、母が部屋に入ってくる。
母亲像换一样走进房间。
ここでようやく、この場所が母の寝室であることに気付いた。さすがに、屋根裏部屋に俺を運べなかったのだろう。
在这里,我终于注意到这个地方是母亲的卧室。真不愧是没能把我搬到阁楼里吧。
 入れ替わるように、母が部屋に入ってくる。
 ここでようやく、この場所が母の寝室であることに気付いた。さすがに、屋根裏部屋に俺を運べなかったのだろう。
「全治、一週間ですって。幸いにも、骨は折れていないそうよ」 「全治、一週間ですって。幸いにも、骨は折れていないそうよ」
“痊愈一周,幸好骨头没有骨折。”
呆れたように、言われてしまった。
像是被吓了一跳似的,被说了。
顔全体が死ぬほど痛いのに、骨は折れていないなんて。意外と、頑丈なのだなとしみじみ思う。
 呆れたように、言われてしまった。 整张脸都痛死了,骨头居然没有折断。意外地觉得很结实
 顔全体が死ぬほど痛いのに、骨は折れていないなんて。意外と、頑丈なのだなとしみじみ思う。
 顔は包帯だらけのようだ。傷口が痒いような気がして、気持ち悪い。 
 口の中も、切っているのかじくじく痛む。 顔は包帯だらけのようだ。傷口が痒いような気がして、気持ち悪い。
脸上好像全是绷带。我感觉伤口很痒,很恶心。
口の中も、切っているのかじくじく痛む。
嘴里也在切吗。
それよりも、気になっている件を質問してみた。
比起那个,我试着问了一下在意的事情。
 それよりも、気になっている件を質問してみた。
「サシャは?」 「サシャは?」
“萨沙呢?”
「あの子は、酷く取り乱していたから、ブレッド湖の教会に連れて行ったわ。神父様が、しばらく預かってくれるそうよ」 「あの子は、酷く取り乱していたから、ブレッド湖の教会に連れて行ったわ。神父様が、しばらく預かってくれるそうよ」
“那孩子太慌乱了,所以带他去了布莱德湖的教堂。听说神父会暂时保管的。”
「そうなんだ。大丈夫かな」 「そうなんだ。大丈夫かな」
“是啊,没事吧。”
「あなたは、そんな状態になっても、サシャの心配をするのね」 「あなたは、そんな状態になっても、サシャの心配をするのね」
“你即使到了那种状态,也会担心萨沙的。”
「だって、サシャは、双子の兄、だし」 「だって、サシャは、双子の兄、だし」
“因为萨沙是双胞胎哥哥。”
自分も一歩間違えば、サシャのようになっていた可能性はある。だから、他人事のようには思えなかった。
如果自己也走错一步的话,有可能会像萨沙一样。所以,我不认为这是别人的事。
俺とサシャは、元は一つだったものが、二つになった存在だから。
我和萨沙本来是一个,但却是两个。
 自分も一歩間違えば、サシャのようになっていた可能性はある。だから、他人事のようには思えなかった。
 俺とサシャは、元は一つだったものが、二つになった存在だから。
「ロマナは?」 「ロマナは?」
“罗曼娜呢?”
「修道院に行くと言って、出て行ったわ」 「修道院に行くと言って、出て行ったわ」
“他说要去修道院,然后就出去啦。”
義姉達が引き留めたようだが、修道女になると言って聞かなかったと。母も説得に行ったらしいが、取り合ってもらえなかったらしい。
大嫂们好像挽留了他,但他说要成为修女却没问。母亲好像也去劝说了,但好像没有被理睬。
 義姉達が引き留めたようだが、修道女になると言って聞かなかったと。母も説得に行ったらしいが、取り合ってもらえなかったらしい。
「まさか、サシャとロマナが上手くいっていなかったなんて、思いもしなかったわ」 「まさか、サシャとロマナが上手くいっていなかったなんて、思いもしなかったわ」
“没想到萨沙和罗曼娜没能顺利进行。”
「まあ、元は他人だから、本当の家族になるのは、難しいよ」 「まあ、元は他人だから、本当の家族になるのは、難しいよ」
“哎呀,原来是别人,要成为真正的家人是很难的。”
「結婚していないあなたが、どうしてわかったふうな口をきくのよ。でも、その通りなのよね」 「結婚していないあなたが、どうしてわかったふうな口をきくのよ。でも、その通りなのよね」
“没有结婚的你,为什么会说出明白的话呢?但是,你说得对。”
家族とは、なんなのか。改めて、考える。
家人是什么。重新考虑。
俺達人が定義する家族とは、決して蜜蜂のように割り切った関係ではない。
我们人类定义的家族,绝对不是像蜜蜂一样割舍的关系。
手と手を取り合って助け合い、愛を与え、また愛を返す存在なのだろう。
是手和手互相帮助,给予爱,又返还爱的存在吧。
それができないと、関係は破綻してしまう。
如果做不到这一点,关系就会破裂。
 家族とは、なんなのか。改めて、考える。
 俺達人が定義する家族とは、決して蜜蜂のように割り切った関係ではない。 結婚を経て結ばれた存在であれ、血を分け合った存在であれ、特定の家族に頼り切るというのは、もはや家族ではない。
 手と手を取り合って助け合い、愛を与え、また愛を返す存在なのだろう。 无论是经过婚姻结合的存在,还是分享着鲜血的存在,依靠特定的家人已经不是家人了
 それができないと、関係は破綻してしまう。
 結婚を経て結ばれた存在であれ、血を分け合った存在であれ、特定の家族に頼り切るというのは、もはや家族ではない。
 言葉を選ばないで言うと、蜜蜂に寄生する害虫のようになってしまうのだ。 言葉を選ばないで言うと、蜜蜂に寄生する害虫のようになってしまうのだ。
 寄生されたら、本人も、家も、何もかもがダメになってしまう。 如果不选择语言的话,就会变成寄生在蜜蜂上的害虫
 ロマナもそれに、気付いてしまったのかもしれない。
 俺も、そうなりたくない。
 いい機会だと思い、母に決意を告げる。 寄生されたら、本人も、家も、何もかもがダメになってしまう。
如果被寄生的话,本人、家、一切都会变得不行。
ロマナもそれに、気付いてしまったのかもしれない。
也许罗曼娜也注意到了这一点。
俺も、そうなりたくない。
我也不想变成那样。
いい機会だと思い、母に決意を告げる。
我觉得这是个好机会,告诉母亲我的决心。
「母さん、俺、この家を出る」 「母さん、俺、この家を出る」
“妈妈,我要离开这个家。”
「なんですって!?」 「なんですって!?」
“你说什么!?”
「独立したいんだ」 「独立したいんだ」
“我想独立。”
母は、怒りとも悲しみともとれない表情で、じっと俺を見つめていた。
 母は、怒りとも悲しみともとれない表情で、じっと俺を見つめていた。 母亲带着愤怒和悲伤都无法消除的表情,目不转睛地看着我

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養蜂家の青年は、決意を語る 養蜂家の青年は、決意を語る
「独立って、どこに行くつもりなのよ? 新しく養蜂を始めるの? だったら、養蜂園に新しく土地を開墾して、花畑を作ればいいわ。家だって、窮屈だったら、新しい離れを建ててあげるし」 养蜂青年诉说着自己的决心
 俺の中に残っていた、母への情がスーッと冷え込んでいく。 「独立って、どこに行くつもりなのよ? 新しく養蜂を始めるの? だったら、養蜂園に新しく土地を開墾して、花畑を作ればいいわ。家だって、窮屈だったら、新しい離れを建ててあげるし」
 もしも、日々の仕事を認め、土地を開墾し、花畑を作って、離れを与えてくれたら心から喜んでいただろう。家を出る決意はしなかったはずだ。 “你打算独立自主地去哪里?重新开始养蜂吗?那就在养蜂园开垦新的土地,建造花圃吧。如果家里也很挤的话,我会给你建一个新的离开。”
 これまで母が俺に畑や家を与えなかったのは、家族にとって“都合がいい”からだ。
 現状、女性陣だけでは仕事は回らない。力仕事は、男手頼りとなる。
 もしも俺が自分の花畑を持ち、蜜蜂の世話で忙しくしていたら、手が足りなくなるのだ。
 だから、母は俺に花畑を与えなかった。
 家だって、俺がいたら、子どもの面倒を見る。だから、離れを与えなかったのだろう 俺の中に残っていた、母への情がスーッと冷え込んでいく
我心中残留的对母亲的感情一下子变冷了。
 家族にとって、俺は便利なだけの存在だったのだ。
 今度は独立させたくないから、引き留めるために餌を与えた。そう捉えてもいいのだろう。 もしも、日々の仕事を認め、土地を開墾し、花畑を作って、離れを与えてくれたら心から喜んでいただろう。家を出る決意はしなかったはずだ。
如果能认可每天的工作,开垦土地,建造花圃,给予离开的话,我会衷心高兴的。你应该没有决心离开家。
これまで母が俺に畑や家を与えなかったのは、家族にとって“都合がいい”からだ。
到现在为止母亲不给我田地和房子,是因为对家人来说“方便”。
現状、女性陣だけでは仕事は回らない。力仕事は、男手頼りとなる。
现状是,光靠女性阵容是无法完成工作的。体力活靠男人的双手。
もしも俺が自分の花畑を持ち、蜜蜂の世話で忙しくしていたら、手が足りなくなるのだ。
如果我有自己的花圃,忙着照顾蜜蜂的话,手就不够了。
だから、母は俺に花畑を与えなかった。
所以,妈妈没有给我花田。
家だって、俺がいたら、子どもの面倒を見る。だから、離れを与えなかったのだろう。
在家里,如果我在的话,也会照顾孩子。所以,没有给予离开吧。
家族にとって、俺は便利なだけの存在だったのだ。
对家人来说,我只是方便的存在。
今度は独立させたくないから、引き留めるために餌を与えた。そう捉えてもいいのだろう。
因为这次不想让它独立,所以给它喂食以挽留它。这样理解也可以吧。
「無理。もう、この家にはいられない。俺はこれから、自分の人生を生きるんだ」 「無理。もう、この家にはいられない。俺はこれから、自分の人生を生きるんだ」
“不行。我不能再待在这个家里了。我今后要活在自己的人生里。”
「どうして?」 「どうして?」
“为什么?”
「だって、蜜蜂はここだけではなく、どこにだっているから」 「だって、蜜蜂はここだけではなく、どこにだっているから」
“因为蜜蜂不仅在这里,而且到处都有。”
世界は広い。まだ、見たことのない景色が広がっているだろう。
世界是广阔的。还没有见过的景色在蔓延吧。
 世界は広い。まだ、見たことのない景色が広がっているだろう。
 
「イヴァン、あのね、世の中、甘いことばかりじゃないのよ!?」 「イヴァン、あのね、世の中、甘いことばかりじゃないのよ!?」
“伊凡,那个,这个世界上,不都是甜蜜的事吗!?”
「わかっている。でも、ここにいたら、俺はダメになってしまうんだ」 「わかっている。でも、ここにいたら、俺はダメになってしまうんだ」
“我知道。但是,如果在这里的话,我就不行了。”
サシャにとっても、家族にとっても、俺がこの家を出て行くほうがいい。
无论是萨沙还是家人,我都最好离开这个家。
 サシャにとっても、家族にとっても、俺がこの家を出て行くほうがいい。
 
「母さん、きちんと家を管理していないと、害虫に犯された蜜蜂の巣穴のように、腐ってしまうからね」 「母さん、きちんと家を管理していないと、害虫に犯された蜜蜂の巣穴のように、腐ってしまうからね」
“妈妈,如果不好好管理房子的话,就像被害虫侵犯的蜜蜂的巢穴一样,会腐烂的。”
 害虫が何か、わからない母ではないだろう。顔色を青くさせた挙げ句、出て行ってしまった。
害虫が何か、わからない母ではないだろう。顔色を青くさせた挙げ句、出て行ってしまった。
害虫是什么,不是不知道的母亲吧。脸色发青,结果出去了。
開かれた扉の向こうに、マクシミリニャンの姿が見えた。俺と、母が走って行った方向を交互に見ている。
在打开的门的对面,看到了马克西米利尼亚的身影。我和妈妈交替看着跑过去的方向。
 開かれた扉の向こうに、マクシミリニャンの姿が見えた。俺と、母が走って行った方向を交互に見ている。
「ねえ、おじさん」 「ねえ、おじさん」
“喂,叔叔。”
「どうした?」 「どうした?」
“怎么了?”
「おじさんのところに、ついて行っても、いい?」 「おじさんのところに、ついて行っても、いい?」
“我可以跟着叔叔去吗?”
「アニャと、結婚してくれるというのか?」 「アニャと、結婚してくれるというのか?」
“你是说要和阿尼亚结婚吗?”
「うん、いいよ。アニャが、俺を気に入ったら、だけれど」 「うん、いいよ。アニャが、俺を気に入ったら、だけれど」
“嗯,好啊。如果阿尼亚喜欢我的话。”
こんな怪我で顔がぐちゃぐちゃになった、顔面包帯だらけの男を気に入ってくれるとは思わないが。
我不认为你会喜欢一个脸上全是绷带的男人。
性格だって明るくないし、優しい言動を取ることもできない。これだけは性分なので、どうしようもないけれど。
性格也不开朗,也不能采取温柔的言行。因为只有这个是性格,所以没办法。
 こんな怪我で顔がぐちゃぐちゃになった、顔面包帯だらけの男を気に入ってくれるとは思わないが。
 性格だって明るくないし、優しい言動を取ることもできない。これだけは性分なので、どうしようもないけれど。
「アニャは、そなたを気に入るにきまっておる!」 「アニャは、そなたを気に入るにきまっておる!」
“阿尼亚一定会喜欢你的!”
マクシミリニャンはズンズンと接近し、手をぎゅっと握ってくれた。彼の手はごつごつしていて、手のひらの表皮は硬くて、働く男のものだった。
马克西米利尼亚和铁城接近,紧紧地握住了我的手。他的手硬邦邦的,手掌表皮坚硬,是一个干活的男人的。
そして、温かい。久々に触れた熱に、心がジンと震える。
而且,很温暖。久别重逢的热度,让我的心怦然心动。
 マクシミリニャンはズンズンと接近し、手をぎゅっと握ってくれた。彼の手はごつごつしていて、手のひらの表皮は硬くて、働く男のものだった。
 そして、温かい。久々に触れた熱に、心がジンと震える。
「よくぞ、決意をしてくれた!」 「よくぞ、決意をしてくれた!」
“太好了,你下定决心了!”
 今回の事件は、関係を清算するいい機会だったのかもしれない。
 もう、ロマナは人知れずサシャに殴られることはなくなった。
 サシャだって、自らと俺を比べて苛立たないだろう。
今回の事件は、関係を清算するいい機会だったのかもしれない。
这次的事件,也许是清算关系的好机会。
もう、ロマナは人知れずサシャに殴られることはなくなった。
罗曼娜再也不会不为人知地被萨沙打了。
サシャだって、自らと俺を比べて苛立たないだろう。
萨沙也不会比自己和我着急吧。
「では、怪我が治ったところで、迎えにくるゆえに」 「では、怪我が治ったところで、迎えにくるゆえに」
“那嚒,即使伤好了,也要来接我。”
「待って。一緒に行くから」 「待って。一緒に行くから」
“等等,我跟你一起去。”
「しかし、怪我が治っておらぬだろう」 「しかし、怪我が治っておらぬだろう」
“但是,伤还没好吧。”
「痛いのは顔だけで、体は元気だから」 「痛いのは顔だけで、体は元気だから」
“痛的只有脸,身体很好。”
「そうか。ならば、明後日でよいか?」 「そうか。ならば、明後日でよいか?」
“是吗?那么后天可以吗?”
「明日でいい」 「明日でいい」
“明天就可以了。”
あまり、だらだら家にいるのもよくないだろう。
太懒散地呆在家里也不好吧。
街の人達にも挨拶したいけれど、この怪我では心配させてしまう。
虽然也想向街上的人们打招呼,但是这个伤让人担心。
 あまり、だらだら家にいるのもよくないだろう。 ミハルにだけ会って話をして、あとの人達へは手紙を書けばいい
 街の人達にも挨拶したいけれど、この怪我では心配させてしまう。 只见到米哈尔说话,给后面的人写信就可以了。
数年後、ほとぼりが冷めたら、またこの地を訪ねたい。
几年后,当热浪冷却后,我还想再去拜访这个地方。
 ミハルにだけ会って話をして、あとの人達へは手紙を書けばいい。
 数年後、ほとぼりが冷めたら、またこの地を訪ねたい。
「何か、手伝うことはあるか?」 「何か、手伝うことはあるか?」
“有什么需要帮忙的吗?”
「大丈夫。そういえば、肉は売れた?」 「大丈夫。そういえば、肉は売れた?」
“没关系。这么说来,肉卖出去了吗?”
「ああ、おかげさまで、そなたの名を出したら、色を付けて買い取ってくれたぞ」 「ああ、おかげさまで、そなたの名を出したら、色を付けて買い取ってくれたぞ」
“啊,托你的福,我把你的名字拿出来,就给我加上颜色买了。”
「だったら、よかった」 「だったら、よかった」
“那就好了。”
親切な市場の人々は、マクシミリニャンの身の上話を聞いて、婿候補の男性を何名か紹介してくれたらしい。
亲切的市场上的人们听了马克西米利尼亚的身世,好像介绍了几名候补女婿。
 親切な市場の人々は、マクシミリニャンの身の上話を聞いて、婿候補の男性を何名か紹介してくれたらしい。
「しかし、話を聞いていると、山での暮らしに耐えうる者達だと思えず」 「しかし、話を聞いていると、山での暮らしに耐えうる者達だと思えず」
“但是,听了这话,我不认为他们是能忍受在山上生活的人。”
「まあ、街での暮らしに慣れた人を、いきなり山へ連れて行っても暮らしは成立しないだろうね。俺だって、そうかもしれない」 「まあ、街での暮らしに慣れた人を、いきなり山へ連れて行っても暮らしは成立しないだろうね。俺だって、そうかもしれない」
“嗯,就算把习惯了在街上生活的人突然带到山上,生活也不会成立吧。我也可能是这样。”
「そうであるが、そなたは、環境を受け入れ、生きる強さというものを感じていた」 「そうであるが、そなたは、環境を受け入れ、生きる強さというものを感じていた」
“是的,但你感受到了接受环境、生存的坚强。”
 マクシミリニャンが気に入る婿は、いなかったようだ。けれど、どうしてもというのであれば、連れて帰るつもりだったらしい。 マクシミリニャンが気に入る婿は、いなかったようだ。けれど、どうしてもというのであれば、連れて帰るつもりだったらしい。
似乎没有女婿喜欢马克西米利尼亚。但是,如果无论如何都要的话,好像是打算带回去的。
だが、結婚してから「無理」と言われても困る。そのため、嘘偽りない山での暮らしを聞かせたようだ。すると、婿候補は顔を青ざめつつ次々と辞退していったらしい。
但是,结婚后被说“不行”也很为难。因此,他似乎让人们听到了他在毫不虚伪的山上的生活。于是,女婿候选人脸色苍白,一个接一个地辞职了。
 だが、結婚してから「無理」と言われても困る。そのため、嘘偽りない山での暮らしを聞かせたようだ。すると、婿候補は顔を青ざめつつ次々と辞退していったらしい。
「そういえば、どんな暮らしをしているか、聞いていなかった」 「そういえば、どんな暮らしをしているか、聞いていなかった」
「聞くか? もう、辞退はできぬのだが」 “这么说来,我没有问过你过着怎样的生活。”
「聞くか? もう、辞退はできぬのだが」
“听吗?我已经不能推辞了。”
「なんだよ、その決まりは」 「なんだよ、その決まりは」
“这是什么规定?”
「せっかく得た婿を、逃がすわけにはいかぬからな」 「せっかく得た婿を、逃がすわけにはいかぬからな」
“好不容易得到的女婿,不能让他逃走。”
「逃げないよ」 「逃げないよ」
「我不会逃跑的。」
まず、マクシミリニャンの自宅は山の高い位置にあるらしい。空気が薄く、慣れない者は具合が悪くなるのだとか。
首先,马克西米利尼亚的家好像在山的高处。空气稀薄,不习惯的人会不舒服。
 まず、マクシミリニャンの自宅は山の高い位置にあるらしい。空気が薄く、慣れない者は具合が悪くなるのだとか。
 
「養蜂箱を設置しているのは、崖の遥か上である」 「養蜂箱を設置しているのは、崖の遥か上である」
“设置养蜂箱的是悬崖的遥远的地方。”
「もしかして、登っているの?」 「もしかして、登っているの?」
“难道是在爬吗?”
マクシミリニャンは深々と頷いた。かなり、とんでもない場所で日々の暮らしをしているようだ。
马克西米利尼亚深深地点了点头。好像每天都在意想不到的地方生活。
 マクシミリニャンは深々と頷いた。かなり、とんでもない場所で日々の暮らしをしているようだ。
「心配はいらぬ。我が家には、山羊がいるゆえに」 「心配はいらぬ。我が家には、山羊がいるゆえに」
“不用担心,我家有山羊。”
「山羊?」 「山羊?」
“山羊?”
山羊が、蜂蜜を採ってきてくれるのか? いいや、絶対違うだろう。
山羊会帮我采蜂蜜吗?不,绝对不是吧。
 山羊が、蜂蜜を採ってきてくれるのか? いいや、絶対違うだろう。
「山羊が、どうしてくれるの?」 「山羊が、どうしてくれるの?」
“山羊会怎么做?”
「背中に乗せてくれる」 「背中に乗せてくれる」
“放在我背上。”
「もしかして、山羊に乗って崖を登り、蜂蜜を得ているってこと?」 「もしかして、山羊に乗って崖を登り、蜂蜜を得ているってこと?」
“难道是骑着山羊爬悬崖,得到蜂蜜?”
「その通り!」 「その通り!」
“没错!”
なんだそれは、と言いそうになったがごくんと呑み込んだ。
虽然想说那是什么,但还是吞下了。
場所が変われば、生活様式もガラリと変わる。彼らは山羊に跨がり、崖を登った先にある蜂蜜を採って暮らしていたのだろう。
如果换个地方,生活方式也会完全改变。他们骑着山羊,采着登上悬崖的蜂蜜生活着吧。
 なんだそれは、と言いそうになったがごくんと呑み込んだ。
 場所が変われば、生活様式もガラリと変わる。彼らは山羊に跨がり、崖を登った先にある蜂蜜を採って暮らしていたのだろう。
「しかし、山羊か……」 「しかし、山羊か……」
「可是,是山羊吗……」
「どうしたのだ?」 「どうしたのだ?」
“怎么了?”
「いや、近所の農園に、山羊の世話の手伝いに行ったことがあったんだけれど」 「いや、近所の農園に、山羊の世話の手伝いに行ったことがあったんだけれど」
“不,我去过附近的农场帮忙照顾山羊。”
月に一度、山羊の爪切りを行う。山羊を押さえるのを手伝ったら対価をくれるというので、喜んで参加したのだ。
每月剪一次山羊指甲。他说如果帮助压山羊的话会给我代价,所以我很高兴参加了。
当時の俺は、山羊の気性の荒さを理解していなかった。
当时的我不理解山羊脾气的粗暴。
 月に一度、山羊の爪切りを行う。山羊を押さえるのを手伝ったら対価をくれるというので、喜んで参加したのだ。
 当時の俺は、山羊の気性の荒さを理解していなかった。
 角に突かれ、顔面を蹴られ、体当たりされた。満身創痍で得たのは、金ではなく新鮮な山羊のチーズだった。 角に突かれ、顔面を蹴られ、体当たりされた。満身創痍で得たのは、金ではなく新鮮な山羊のチーズだった。
被角戳到,面部被踢到,身体被击中。满身疮痍得到的不是钱而是新鲜的山羊奶酪。
以降、俺は山羊に近づいていない。
从那以后,我就不靠近山羊了。
 以降、俺は山羊に近づいていない。
「そんなわけで、あまり山羊が得意ではないというか、なんというか」 「そんなわけで、あまり山羊が得意ではないというか、なんというか」
“正因为如此,山羊不太擅长,怎么说呢?”
「安心せい。山暮らしの山羊は、穏やかで優しい性格をしておる」 「安心せい。山暮らしの山羊は、穏やかで優しい性格をしておる」
“放心吧。山里生活的山羊性格温和温柔。”
「本当かな」 「本当かな」
「真的吗?」
「本当だ」 「本当だ」
“真的。”
マクシミリニャンは街で宿を取っているらしい。明日の昼頃、出発するのでそのときにまた会おうと言い、部屋から出て行った。
马克西米莉娜好像在街上留宿。因为明天中午要出发,所以说那个时候再见,然后从房间里出去了。
試しに起き上がってみたが、痛いのは顔だけで体は平気だ。
试着爬起来,痛的只是脸,身体没事。
 マクシミリニャンは街で宿を取っているらしい。明日の昼頃、出発するのでそのときにまた会おうと言い、部屋から出て行った。 痛み止めの薬を飲んで、立ち上がってみる
  吃了止痛药,试着站起来。
 試しに起き上がってみたが、痛いのは顔だけで体は平気だ。
 痛み止めの薬を飲んで、立ち上がってみる。
 いまだ口の中は血の味だったが、そのうち治るだろう。 いまだ口の中は血の味だったが、そのうち治るだろう。
 そろそろ、ミハルが配達にやってくる時間だ。まず、こちらの事情を話しておかなくては。 虽然嘴里还是血的味道,但不久就会好的吧
 窓を開くと、ちょうどミハルが操縦する馬車が見えた。 そろそろ、ミハルが配達にやってくる時間だ。まず、こちらの事情を話しておかなくては。
快到米哈尔来送货的时间了。首先,必须先说一下这边的情况。
窓を開くと、ちょうどミハルが操縦する馬車が見えた。
打开窗户,正好看到了米哈尔驾驶的马车。
外に出て、ミハルを待つ。
出去等米哈尔。
包帯だらけの俺を見るなり、ミハルは「どちら様ですか?」と尋ねてくる。
看到满是绷带的我,米哈尔就会问“您是哪位?”。
 外に出て、ミハルを待つ。
 包帯だらけの俺を見るなり、ミハルは「どちら様ですか?」と尋ねてくる。
「俺だよ、俺」 「俺だよ、俺」
“是我,是我。”
「どちらの、俺さんでしょうか?」 「どちらの、俺さんでしょうか?」
“您是哪位,我?”
口を怪我しているので、声がいつもより籠もっているのだろう。怪訝な表情のまま、ミハルは固まっている。
因为嘴巴受伤了,所以声音比平时笼着吧。米哈尔保持着惊讶的表情,凝固了。
 口を怪我しているので、声がいつもより籠もっているのだろう。怪訝な表情のまま、ミハルは固まっている。
「俺だ、イヴァンだ」 「俺だ、イヴァンだ」
「ええっ、イヴァン!? どうしたんだ、その顔!?」 “是我,伊凡。”
「ええっ、イヴァン!? どうしたんだ、その顔!?」
“咦,伊凡!?你怎么了,你的脸!?”
「サシャに殴られた」 「サシャに殴られた」
“我被萨沙打了。”
「ああ、なるほどね」 「ああ、なるほどね」
“啊,原来如此。”
その一言で、ミハルはすべてを察してくれたようだ。さすが、心の友である。
 その一言で、ミハルはすべてを察してくれたようだ。さすが、心の友である。 一句话,米哈尔似乎察觉到了一切。不愧是知心朋友

336
017.md

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養蜂家の青年は、親友に事情を話す 養蜂家の青年は、親友に事情を話す
 小屋に移動し、事の次第をすべて話した。それから、独立を決意して家を出ることも。 养蜂家的青年向好友说明情况
小屋に移動し、事の次第をすべて話した。それから、独立を決意して家を出ることも。
移动到小屋,把事情的经过全部说了出来。然后,决定独立离开家。
「そうか。そんなことがあったのか。まあ、いつか何か起こるだろうなとは思っていた」 「そうか。そんなことがあったのか。まあ、いつか何か起こるだろうなとは思っていた」
“是吗?原来是这样。我还以为总有一天会发生什么事呢。”
「よく、わかったね」 「よく、わかったね」
「明白了。」
「長年、お前とロマナを見ていたからな」 「長年、お前とロマナを見ていたからな」
「因为我看了你和罗曼娜这嚒多年。」
 ミハルは仕事をする俺を熱烈に見つめるロマナの姿を、何度か目撃していたらしい。
 普段の態度も、俺とそれ以外の人に対する言動や行動は、まったく違っていたようだ。 ミハルは仕事をする俺を熱烈に見つめるロマナの姿を、何度か目撃していたらしい。
米哈尔好像多次目击了热情凝视着工作的我的罗曼娜的身影。
普段の態度も、俺とそれ以外の人に対する言動や行動は、まったく違っていたようだ。
平时的态度,对我和其他人的言行和行动,好像完全不同。
「街の男がさ、使いにやってきていたロマナに、茶でも飲まないかって声をかけたことがあったらしいんだ。そのときのロマナは、ダニでも見るような目で相手を見ながら、“忙しいので”なんて返していたんだとよ。ロマナが優しいのは、お前とお前の家族だけだったんだ」 「街の男がさ、使いにやってきていたロマナに、茶でも飲まないかって声をかけたことがあったらしいんだ。そのときのロマナは、ダニでも見るような目で相手を見ながら、“忙しいので”なんて返していたんだとよ。ロマナが優しいのは、お前とお前の家族だけだったんだ」
“街上的一个男人,好像跟来用的罗曼娜打过招呼,要不要喝杯茶。那个时候的罗曼娜,用达尼也能看到的眼神看着对方,还说‘因为很忙’。罗曼娜温柔的只有你和你的家人。”
「そうだったんだ」 「そうだったんだ」
「原来是这样。」
「一番怖かった瞬間は、ここ最近だったかな。お前を見つめるロマナを、背後からサシャが睨んでいるときだった。ありゃイヴァン、いつか刺されるのではと思っていた」 「一番怖かった瞬間は、ここ最近だったかな。お前を見つめるロマナを、背後からサシャが睨んでいるときだった。ありゃイヴァン、いつか刺されるのではと思っていた」
“最可怕的瞬间是最近吧。萨沙从背后盯着盯着盯着你的罗曼娜的时候。哎呀,伊凡,我还以为总有一天会被刺伤呢。”
「だから、サシャに気を付けろって言っていたんだな」 「だから、サシャに気を付けろって言っていたんだな」
「所以,他说要小心萨沙。」
ミハルは険しい表情で、うんうんと頷く。
米哈尔表情严肃地点头。
 ミハルは険しい表情で、うんうんと頷く。
「しかし、狂っているように見えて、どこか手加減していたのかもしれないな」 「しかし、狂っているように見えて、どこか手加減していたのかもしれないな」
「手加減、していた? 俺の顔、ぐちゃぐちゃなんだけど」 “但是,看起来很疯狂,可能是哪里手下留情啦。”
「手加減、していた? 俺の顔、ぐちゃぐちゃなんだけど」
“手下留情了吗?我的脸,乱七八糟的。”
「本気を出していたら、歯が折れていたり、骨が折れていたりしていただろう」 「本気を出していたら、歯が折れていたり、骨が折れていたりしていただろう」
“如果认真的话,牙齿会折断,骨头也会折断吧。”
「あー、そうだね」 「あー、そうだね」
“啊,是啊。”
会話が途切れ、なんとなく空を見上げる。気持ちいいくらいの晴天だった。
对话中断了,总觉得仰望天空。是个很舒服的晴天。
 会話が途切れ、なんとなく空を見上げる。気持ちいいくらいの晴天だった。
「思ったんだけどさ、サシャって、お前が好きで好きで堪らなかったんじゃないのか?」 「思ったんだけどさ、サシャって、お前が好きで好きで堪らなかったんじゃないのか?」
“我是这么想的,萨沙不是因为喜欢你而无法忍受吗?”
「は!?」 「は!?」
“哈!?”
ミハルの言葉から、真冬のブレッド湖の水を頭からぶちまけられるほどの衝撃を受ける。
从米哈尔的话中,可以感受到隆冬的布莱德湖的水从头上洒出来的冲击。
 ミハルの言葉から、真冬のブレッド湖の水を頭からぶちまけられるほどの衝撃を受ける。
「本気で言っているの?」 「本気で言っているの?」
「うん。だって、サシャがおかしくなったの、ロマナが来てからなんだろう? それまで、よく遊んでいたし、養蜂の仕事もたまにだけど手伝っていたじゃん」 “你是认真说的吗?”
「うん。だって、サシャがおかしくなったの、ロマナが来てからなんだろう? それまで、よく遊んでいたし、養蜂の仕事もたまにだけど手伝っていたじゃん」
“嗯。因为萨沙变得很奇怪,是罗曼娜来之后的事吧?在那之前,我经常玩,偶尔也会帮她做养蜂的工作。”
「まー、うん」 「まー、うん」
“嗯,嗯。”
サシャが変わったのは、思春期だからだと思っていた。けれど、記憶を遡ってみると、ロマナを家で引き取った時期とぴったり重なる。
我以为萨沙变了,是因为青春期。但是,追溯记忆的话,和在家里收留罗曼娜的时期正好重合。
 サシャが変わったのは、思春期だからだと思っていた。けれど、記憶を遡ってみると、ロマナを家で引き取った時期とぴったり重なる。
「いや、でも、ありえないよ」 「いや、でも、ありえないよ」
“不,但是,这是不可能的。”
「いや、ありえるんだな。俺も、サシャとイヴァンが一緒にいるところに仲間に入ろうとしたら、めちゃくちゃ睨まれたことがあったんだ」 「いや、ありえるんだな。俺も、サシャとイヴァンが一緒にいるところに仲間に入ろうとしたら、めちゃくちゃ睨まれたことがあったんだ」
“不,有可能。我也曾在萨沙和伊凡在一起的时候加入伙伴,被狠狠地盯上过。”
「えー」 「えー」
“嗯。”
「たぶん、サシャにとって、イヴァンはもう一人の自分なんだよ。だから、ロマナに取られて面白くなかったし、俺とも仲良くもしてほしくなかった。この気持ちを持て余した結果、イヴァンの気を引こうと、あれこれいやみを言ってきたり、ロマナと結婚してみたりしたんじゃないかな」 「たぶん、サシャにとって、イヴァンはもう一人の自分なんだよ。だから、ロマナに取られて面白くなかったし、俺とも仲良くもしてほしくなかった。この気持ちを持て余した結果、イヴァンの気を引こうと、あれこれいやみを言ってきたり、ロマナと結婚してみたりしたんじゃないかな」
“也许,对萨沙来说,伊凡是另一个自己。所以,被罗曼娜拿走了很没意思,也不希望和我关系很好。因为无法保持这种心情,所以为了引起伊凡的注意,说了很多讨厌的话,也试着和罗曼娜结婚了吧。”
「でも、もう一人の自分を、めちゃくちゃに殴る?」 「でも、もう一人の自分を、めちゃくちゃに殴る?」
“但是,你会把另一个自己打得一塌糊涂吗?”
「自傷行為的な?」 「自傷行為的な?」
“是自伤行为吗?”
「傷ついているのは、もれなく俺だけなんだけれどね」 「傷ついているのは、もれなく俺だけなんだけれどね」
“受伤的只有我一个人。”
 ミハルの言っていることは、あながち間違いではないのかもしれない。
 サシャに対する何でも許してしまう気持ちは、母やミハルには理解できないと言われた記憶がある。同じように、他人にできない俺に対する想いを、サシャも持っているのだろう。 ミハルの言っていることは、あながち間違いではないのかもしれない。
米哈尔说的话,未必是错误的。
サシャに対する何でも許してしまう気持ちは、母やミハルには理解できないと言われた記憶がある。同じように、他人にできない俺に対する想いを、サシャも持っているのだろう。
我记得母亲和米哈尔对萨沙什么都原谅的心情是无法理解的。同样,萨沙也有对别人做不到的我的想法吧。
「うん。なんか、しっくりきた。やっぱり、俺はこの家にいてはいけなかったんだ」 「うん。なんか、しっくりきた。やっぱり、俺はこの家にいてはいけなかったんだ」
“嗯,总觉得挺合适的。果然,我不能待在这个家里。”
「そういや、出て行くって言っていたな。これからどうするんだ?」 「そういや、出て行くって言っていたな。これからどうするんだ?」
“对了,你说你要出去,接下来怎么办?”
「にゃんにゃんおじさんの娘と、結婚するよ」 「にゃんにゃんおじさんの娘と、結婚するよ」
「はあ!? お前、ここを出て行くっていうのか?」 “我要和喵喵叔叔的女儿结婚了。”
「はあ!? お前、ここを出て行くっていうのか?」
“啊!?你要离开这里吗?”
「だって、家を出ても、街にいたら家族やロマナと会うかもしれないでしょう」 「だって、家を出ても、街にいたら家族やロマナと会うかもしれないでしょう」
“因为,即使离开家,如果在街上的话,也有可能和家人或罗曼娜见面吧。”
「それはそうだけれど……。にゃんにゃんおじさんの家は、ここから離れた場所にある、秘境なんだろう?」 「それはそうだけれど……。にゃんにゃんおじさんの家は、ここから離れた場所にある、秘境なんだろう?」
“那倒是……。猫咪叔叔的家,在离这里很远的地方,是秘境吧?”
「そう」 「そう」
“是的。”
「なんだよ。いつ、行くんだ?」 「なんだよ。いつ、行くんだ?」
“什么呀,什么时候去?”
「明日の昼くらい」 「明日の昼くらい」
“明天中午左右。”
「は!?」 「は!?」
“哈!?”
「明日までに、ミハルのお祖父さんや親父さんに宛てた手紙を書くから」 「明日までに、ミハルのお祖父さんや親父さんに宛てた手紙を書くから」
「いやいやいや、なんで!? 早すぎないか?」 “明天之前,我会给米哈尔的祖父和父亲写一封信。”
「いやいやいや、なんで!? 早すぎないか?」
“不,不,不,为什么!?是不是太早了?”
「もう、決めたんだ」 「もう、決めたんだ」
“我已经决定了。”
「そりゃないぜ、イヴァン」 「そりゃないぜ、イヴァン」
“那可不行,伊凡。”
「ごめん」 「ごめん」
“对不起。”
これまで、ミハルの家族は本当によくしてくれた。心から、感謝する。
到目前为止,米哈尔的家人真的做得很好。衷心感谢。
 これまで、ミハルの家族は本当によくしてくれた。心から、感謝する。
「俺、ミハルと、ミハルの家族のおかげで、腐らずに暮らしていけたんだ。本当の家族みたいに、思っているよ」 「俺、ミハルと、ミハルの家族のおかげで、腐らずに暮らしていけたんだ。本当の家族みたいに、思っているよ」
“多亏了米哈尔和米哈尔的家人,我才没有腐烂地生活下去。我觉得就像真正的家人一样。”
「本当の家族だったら、出て行くなよ」 「本当の家族だったら、出て行くなよ」
“如果是真正的家人,就不要出去。”
「俺も、そう思うけれど、自分の人生は、誰かに居場所を与えられるものではなくて、自分で切り開きたいんだ」 「俺も、そう思うけれど、自分の人生は、誰かに居場所を与えられるものではなくて、自分で切り開きたいんだ」
“我也是这么想的,但我的人生并不是给谁一个容身之处,而是想自己开创。”
「……」
「……」 「……」
 急に黙り込んだので、ミハルを見る。瞳が、若干潤んでいるような気がした。
急に黙り込んだので、ミハルを見る。瞳が、若干潤んでいるような気がした。
因为突然沉默了,所以看了米哈尔。我觉得眼睛有点湿润。
「イヴァン、俺、お前の新しい人生を、応援したい。でも、今は、急すぎて、なんて言葉をかけていいのか、わからないや」 「イヴァン、俺、お前の新しい人生を、応援したい。でも、今は、急すぎて、なんて言葉をかけていいのか、わからないや」
“伊凡,我想支持你的新人生。但是,现在太急了,不知道该说些什么。”
「本当に、ごめん」 「本当に、ごめん」
“真的,对不起。”
ミハルは立ち上がり、明日、またくると言う。
米哈尔站起来,说明天还会再来。
去りゆくミハルに、頭を下げた。
向离去的米哈尔低头。
◇◇◇
◇◇◇
屋根裏部屋を封鎖し、荷物の整理を行う。
封锁阁楼,整理行李。
不要なものは、甥や姪にあげることにした。
我决定把不需要的东西给侄子和侄女。
母やロマナが作ってくれた外套や服は、置いて行く。自分で買い集めた品だけ、持って行くようにしたい。
母亲和罗曼娜给我做的外套和衣服,我会放下。只想把自己买来的东西带去。
数枚のシャツにズボン、ミハルが譲ってくれた外套、それから下着類。ちょっとした小物に、これまで作ったり貰ったりした保存食など。
几件衬衫配裤子,米哈尔让给我的外套,还有内衣类。小东西,至今为止做过的保存食品等。
もっとも大事なのは、養蜂家の父アントン・ヤンシャが執筆した二冊の書籍である。
最重要的是养蜂人的父亲安东·扬沙执笔的两本书。
飲んだくれの父がたまにお使いを頼むことがあり、そのお駄賃を貯めて買った品だ。俺の、宝物でもある。
这是喝了酒的父亲偶尔拜托使用,存下那个浪费钱买的东西。也是我的宝物。
 ミハルは立ち上がり、明日、またくると言う。 かつて、アントン・ヤンシャは画家になるために見知らぬ地へと渡った
 去りゆくミハルに、頭を下げた。 过去,安东·扬沙为了成为画家来到了陌生的地方
 ◇◇◇ 同じように、俺も明日、見知らぬ土地へと旅立つ。
同样,我明天也要去陌生的地方旅行。
 屋根裏部屋を封鎖し、荷物の整理を行う。
 不要なものは、甥や姪にあげることにした。 いったい、どんな暮らしが待っているのか。まったく想像もできない
 母やロマナが作ってくれた外套や服は、置いて行く。自分で買い集めた品だけ、持って行くようにしたい。 到底有什么样的生活在等待着呢。简直无法想象
 数枚のシャツにズボン、ミハルが譲ってくれた外套、それから下着類。ちょっとした小物に、これまで作ったり貰ったりした保存食など。
 もっとも大事なのは、養蜂家の父アントン・ヤンシャが執筆した二冊の書籍である。
 飲んだくれの父がたまにお使いを頼むことがあり、そのお駄賃を貯めて買った品だ。俺の、宝物でもある。
 かつて、アントン・ヤンシャは画家になるために見知らぬ地へと渡った。
 同じように、俺も明日、見知らぬ土地へと旅立つ。 不安はなかった
 いったい、どんな暮らしが待っているのか。まったく想像もできない。 没有不安
 不安はなかった。 だって、自分が望んで選んだ道だから
 だって、自分が望んで選んだ道だから。 因为这是我自己选择的路

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018.md

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養蜂家の青年は、残る者に話をする 養蜂家の青年は、残る者に話をする
 兄や義姉達は、顔を包帯で巻かれた俺を見て、いたたまれないような表情をしている。 养蜂青年对剩下的人说话
 何も聞いてこないのは、母から口止めされているのだろう。
 非常によそよそしいが、今はその対応は逆にありがたい。
 口の中が痛いので、誰かと話そうという気にもならないし 兄や義姉達は、顔を包帯で巻かれた俺を見て、いたたまれないような表情をしている
 大人達の対応は非常に助かっていたが、深い事情を理解できない子ども達は容赦しない 哥哥和大嫂们看着用绷带缠着脸的我,露出了不得了的表情
 俺を見つけるたびに、笑ったりじゃれついてきたりする。正直、勘弁してほしい。
 明日まで母の部屋を使っていいというので、引きこもって手紙を書くことにした。
 机と椅子があるので、非常に助かる。屋根裏部屋は昼間でも薄暗いし、天井が低いので机や椅子などを持ち込めない。とても、手紙が書けるような環境ではなかった 何も聞いてこないのは、母から口止めされているのだろう
什么都没问,大概是被母亲阻止了吧。
 以前、ミハルの実家の店で買った便せん一式を荷造りの中から取り出した。何年もしまっていたので、便せんは色あせている。
 手紙を出す相手なんていないのに、どうして買ったのか。昔の自分の行動が、まったく理解できない。 非常によそよそしいが、今はその対応は逆にありがたい。
 しかしまあ、今日役に立っているのでよしとする 虽然很冷淡,但是现在那个对应反而很感谢
 手紙を書くのは、ミハルの家族と仲がよかった精肉店、生花店、八百屋の店主や従業員。取り引きをする上で親しくしていた 口の中が痛いので、誰かと話そうという気にもならないし
 きっと俺が独立すると聞いたら、驚くだろう 因为嘴里很痛,所以也不想和谁说话
 サラサラと手紙を書いていたら、遠慮気味に扉が叩かれた。 大人達の対応は非常に助かっていたが、深い事情を理解できない子ども達は容赦しない。
虽然大人们的应对非常有帮助,但是不能理解深刻情况的孩子们不会原谅。
俺を見つけるたびに、笑ったりじゃれついてきたりする。正直、勘弁してほしい。
每次看到我,都会笑着捣乱。老实说,希望你原谅我。
明日まで母の部屋を使っていいというので、引きこもって手紙を書くことにした。
因为说明天之前可以使用母亲的房间,所以决定闭门不出写信。
机と椅子があるので、非常に助かる。屋根裏部屋は昼間でも薄暗いし、天井が低いので机や椅子などを持ち込めない。とても、手紙が書けるような環境ではなかった。
有桌子和椅子,真是帮了大忙。阁楼房间白天也很昏暗,天花板很低,所以不能带桌子和椅子等。这不是一个能写信的环境。
以前、ミハルの実家の店で買った便せん一式を荷造りの中から取り出した。何年もしまっていたので、便せんは色あせている。
以前,在米哈尔老家的店里买的一套马桶从包装中取出。因为关了好几年,马桶褪色了。
手紙を出す相手なんていないのに、どうして買ったのか。昔の自分の行動が、まったく理解できない。
没有寄信的对象,你怎么买的。完全不能理解以前自己的行动。
しかしまあ、今日役に立っているのでよしとする。
但是嘛,今天有用就好了。
手紙を書くのは、ミハルの家族と仲がよかった精肉店、生花店、八百屋の店主や従業員。取り引きをする上で親しくしていた。
写信的是和米哈尔家人关系很好的精肉店、鲜花店、蔬菜店的店主和工作人员。在交易上很亲密。
きっと俺が独立すると聞いたら、驚くだろう。
如果听到我要独立的话,一定会很吃惊吧。
サラサラと手紙を書いていたら、遠慮気味に扉が叩かれた。
写了一封沙沙的信,门被客气地敲了一下。
「誰?」 「誰?」
“谁?”
「おれ……ツィリル」 「おれ……ツィリル」
「我……齐丽尔。」
扉を開くと、ツィリルがいたたまれないような表情で立っていた。
一打开门,齐丽尔就迫不及待地站着。
目が合うと、サッと顔を逸らす。
视线一对,马上就把脸移开了。
 扉を開くと、ツィリルがいたたまれないような表情で立っていた。
 目が合うと、サッと顔を逸らす。
「どうしたの?」 「どうしたの?」
“怎么了?”
「ちょっと、話したくて」 「ちょっと、話したくて」
“我想和你谈谈。”
ツィリルの手を握り、部屋へと誘う。寝台を椅子代わりに進めたが、なかなか座ろうとしない。
握住齐里尔的手,邀请他去房间。虽然把卧铺换成了椅子,但是怎么也不想坐。
 ツィリルの手を握り、部屋へと誘う。寝台を椅子代わりに進めたが、なかなか座ろうとしない。
「どうしたの?」 「どうしたの?」
“怎么了?”
「顔、大丈夫?」 「顔、大丈夫?」
“脸,没事吧?”
「大丈夫ではないけれど、骨は折れていないし、先生の薬があるから、たぶん早めに治ると思う」 「大丈夫ではないけれど、骨は折れていないし、先生の薬があるから、たぶん早めに治ると思う」
“虽然不是没关系,但是骨头没有折断,因为有老师的药,所以我想大概能早点治好。”
「そ、そっか」 「そ、そっか」
“是吗?”
心配して、様子を見に来てくれたようだ。ここで、マクシミリニャンを呼んできてくれた件に関する感謝の気持ちを伝えた。
我很担心,好像是来看我的样子。在这里,我表达了对我叫马克西米利尼亚的事情的感谢之情。
 心配して、様子を見に来てくれたようだ。ここで、マクシミリニャンを呼んできてくれた件に関する感謝の気持ちを伝えた。
「暗い中、おじさんを呼びに行ってくれて、ありがとう」 「暗い中、おじさんを呼びに行ってくれて、ありがとう」
“谢谢你在黑暗中去叫叔叔。”
「う、うん。おれが、喧嘩を止められたら、よかったんだけれど」 「う、うん。おれが、喧嘩を止められたら、よかったんだけれど」
“嗯,嗯,要是我能阻止吵架就好了。”
昨日の記憶が甦ったのか、ツィリルの肩が震えていた。
也许是昨天的记忆复苏了,齐里尔的肩膀在发抖。
可哀想に。きっと、サシャが怖かったのだろう。
真可怜。一定是害怕萨沙吧。
 昨日の記憶が甦ったのか、ツィリルの肩が震えていた。
 可哀想に。きっと、サシャが怖かったのだろう。
「暗闇の中、別の大人に助けを求めに行ってくれただけでも、大したものだよ。勇敢だ」 「暗闇の中、別の大人に助けを求めに行ってくれただけでも、大したものだよ。勇敢だ」
“在黑暗中,只要你去找另一个大人寻求帮助,就很了不起,很勇敢。”
「勇敢なんかじゃないよ。おれ、一回、おじさんの顔を見て、逃げてしまったんだ」 「勇敢なんかじゃないよ。おれ、一回、おじさんの顔を見て、逃げてしまったんだ」
“我才不是勇敢呢。我一次看到大叔的脸就逃走了。”
その気持ちは、大いに理解できる。暗闇の中でマクシミリニャンと出会ったら、逃げたくなるだろう。別に、おかしなことではない。
那种心情是可以理解的。如果你在黑暗中遇到马克西米利尼亚,你会想逃跑的。没什么奇怪的。
 その気持ちは、大いに理解できる。暗闇の中でマクシミリニャンと出会ったら、逃げたくなるだろう。別に、おかしなことではない。
「それで、どうしたの?」 「それで、どうしたの?」
“那么,怎么了?”
「おじさんが、追いかけてきたんだ」 「おじさんが、追いかけてきたんだ」
“叔叔追我来了。”
 あとからマクシミリニャンに話を聞いたところ、深夜に子どもが一人でいたため、保護しなくてはという思いに駆られたらしい。
 強面で服がボロボロの中年親父が追いかけてきたら、大人の俺でも普通に怖い。ツィリルの恐怖は、かなりのものだっただろう。
あとからマクシミリニャンに話を聞いたところ、深夜に子どもが一人でいたため、保護しなくてはという思いに駆られたらしい。
「最終的には捕まってしまって、イヴァン兄の名前を叫んだら、おじさんがイヴァン殿を知っているのか? って聞いてきたんだ」 后来我问了麦克西米利尼亚,他觉得深夜孩子一个人,必须保护他。
 俺の知り合いだとわかるやいなや、助けを求めたらしい。その後、ツィリルを抱えて小屋に駆けつけてくれたようだ。 強面で服がボロボロの中年親父が追いかけてきたら、大人の俺でも普通に怖い。ツィリルの恐怖は、かなりのものだっただろう。
如果强颜欢笑、衣衫褴褛的中年父亲追上来的话,即使是大人的我也会很害怕。齐里尔的恐惧是相当大的吧。
「最終的には捕まってしまって、イヴァン兄の名前を叫んだら、おじさんがイヴァン殿を知っているのか? って聞いてきたんだ」
“最终被抓了,我喊了伊凡哥哥的名字,他问我叔叔知道伊凡殿吗?”
俺の知り合いだとわかるやいなや、助けを求めたらしい。その後、ツィリルを抱えて小屋に駆けつけてくれたようだ。
一知道是我认识的人,就向他求助。之后,他好像抱着齐里尔跑到了小屋。
「おれが逃げなかったら、もっと早く助けられたのに。ごめん」 「おれが逃げなかったら、もっと早く助けられたのに。ごめん」
「如果我没有逃跑的话,早就可以救你了,对不起。」
「そんなことはないよ。ありがとう」 「そんなことはないよ。ありがとう」
“没有那样的事,谢谢。”
頭をぐりぐり撫でてやると、ツィリルの強ばっていた表情が解れた。が、すぐに眉間に皺が寄る。
轻轻地抚摸他的头,他露出了齐丽尔坚强的表情。但是,马上眉间就会有皱纹。
 頭をぐりぐり撫でてやると、ツィリルの強ばっていた表情が解れた。が、すぐに眉間に皺が寄る。
「あの、さっき、母さんからイヴァン兄が家を出て行くって話を聞いたんだけれど、嘘、だよね?」 「あの、さっき、母さんからイヴァン兄が家を出て行くって話を聞いたんだけれど、嘘、だよね?」
“那个,刚才听妈妈说伊凡哥哥要离家出走,是骗人的吧?”
「あー」 「あー」
“啊。”
そうだった。ツィリルにも、きちんと話しておこうと思っていたのだ。
原来是这样。我也想和齐里尔好好谈谈。
 そうだった。ツィリルにも、きちんと話しておこうと思っていたのだ。
「ツィリル、俺、この家を出て行くんだ」 「ツィリル、俺、この家を出て行くんだ」
“齐丽尔,我要离开这个家。”
「ど、どうして!?」 「ど、どうして!?」
“怎么,为什么!?”
「どうしてって言われても、説明が難しいな」 「どうしてって言われても、説明が難しいな」
“不管怎么说,说明都很难。”
「サシャ兄と喧嘩して、仲直りできないから?」 「サシャ兄と喧嘩して、仲直りできないから?」
“和萨沙哥哥吵架,不能和好吗?”
「うーん。まあ、わかりやすく言えば、そうかな」 「うーん。まあ、わかりやすく言えば、そうかな」
“嗯。嗯,简单地说,是吗?”
「だったら、おれがサシャ兄に、イヴァン兄と仲直りしてって、言うから」 「だったら、おれがサシャ兄に、イヴァン兄と仲直りしてって、言うから」
“那嚒,我会对萨沙哥哥说,和伊凡哥哥和好。”
「仲直りしたから、出て行かないってわけでもないんだ」 「仲直りしたから、出て行かないってわけでもないんだ」
“也不是说和好了就不出去啦。”
 サシャとロマナの関係を崩してしまった原因は、俺にある。だが、その責任を取るように家を出て行くわけではない。
 このままだと、イェゼロ家がダニに寄生された蜜蜂の巣箱のようになってしまう。もちろん、前向きな気持ちで出て行くという気持ちも大いにある。 サシャとロマナの関係を崩してしまった原因は、俺にある。だが、その責任を取るように家を出て行くわけではない。
破坏萨沙和罗曼娜关系的原因是我。但是,并不是为了承担责任而离开家。
このままだと、イェゼロ家がダニに寄生された蜜蜂の巣箱のようになってしまう。もちろん、前向きな気持ちで出て行くという気持ちも大いにある。
这样下去的话,耶泽罗家就像被螨虫寄生的蜜蜂的巢箱一样。当然,也有以积极的心情出去的心情。
その辺の繊細な事情を、ツィリルにわかるように説明するのは難しい。
要让齐里尔明白这方面的详细情况是很难的。
 その辺の繊細な事情を、ツィリルにわかるように説明するのは難しい。 
「ひどいよ……。おれを置いて、出て行くなんて」 「ひどいよ……。おれを置いて、出て行くなんて」
「太过分了……你竟然丢下我出去。」
「うん、そうだね」 「うん、そうだね」
“嗯,是啊。”
否定はできない。けれど、この家の男手は、俺以外にもある。
 否定はできない。けれど、この家の男手は、俺以外にもある。 不能否定。但是,这个家的男人,除了我以外也有
 今後のイェゼロ家がどうなるのかは、母の采配しだいだ。
今後のイェゼロ家がどうなるのかは、母の采配しだいだ。
今后的耶零家会变成什么样,取决于母亲的指挥。
ツィリルはポロポロと、涙を零していた。こんなに、子どもから好かれる事なんて、二度とないだろう。小さな体を、ぎゅっと抱きしめてやる。
齐里尔泪流满面。再也不会像这样被孩子喜欢了吧。紧紧地抱住小小的身体。
 ツィリルはポロポロと、涙を零していた。こんなに、子どもから好かれる事なんて、二度とないだろう。小さな体を、ぎゅっと抱きしめてやる。
「イヴァン兄、おれも、連れて行って!」 「イヴァン兄、おれも、連れて行って!」
“伊凡哥哥,把我也带走!”
「それはダメ」 「それはダメ」
“那可不行。”
山岳での養蜂だなんて、ツィリルには絶対に無理だ。養蜂家としても見習い未満なので、この家で修行が必要である。
在山岳养蜂,对齐里尔来说是绝对不可能的。作为养蜂家也没有见习,所以在这个家里修行是必要的。
 山岳での養蜂だなんて、ツィリルには絶対に無理だ。養蜂家としても見習い未満なので、この家で修行が必要である。
ただ、気がかりなこともあった。
 ただ、気がかりなこともあった。 只是,也有担心的事情。
このままでは、ツィリルは俺と同じ道を辿ってしまうだろう。
这样下去的话,齐里尔会和我走上同一条路吧。
だから、その辺はきちんと忠告しておく。
所以,这一点要好好忠告。
 このままでは、ツィリルは俺と同じ道を辿ってしまうだろう。
 だから、その辺はきちんと忠告しておく。
「ツィリル、労働には、対価を要求できるんだ。家族だからといって、無償で働いていたら、自分の価値をどんどん下げることになる」 「ツィリル、労働には、対価を要求できるんだ。家族だからといって、無償で働いていたら、自分の価値をどんどん下げることになる」
「タイカ? ムショウ? カチ? よくわかんないよ」 “齐里尔,劳动是可以要求付出代价的。虽说是家人,但如果无偿工作的话,就会不断降低自己的价值。”
「タイカ? ムショウ? カチ? よくわかんないよ」
“我不太清楚。”
「働いたら、ご褒美が貰えるのが普通ってこと。誰かに仕事を頼まれたら、何を貰えるのって、聞くんだ。もしも拒絶したら、しなくていい」 「働いたら、ご褒美が貰えるのが普通ってこと。誰かに仕事を頼まれたら、何を貰えるのって、聞くんだ。もしも拒絶したら、しなくていい」
“工作的话,一般都会得到奖励。如果有人拜托我工作,我会问你能得到什么。如果拒绝的话,就不用做了。”
「うーん?」 「うーん?」
“嗯?”
「たとえばだけれど、働いたら、飴を一つもらう。飴が貰えなかったら、仕事はしない。そういうこと。人はみんな、飴を貰えるから、仕事をしているんだ」 「たとえばだけれど、働いたら、飴を一つもらう。飴が貰えなかったら、仕事はしない。そういうこと。人はみんな、飴を貰えるから、仕事をしているんだ」
“比如说,如果工作的话,我会得到一块糖。如果没有糖,我就不工作。就是这样。因为人都能得到糖,所以我在工作。”
「あー、なるほど」 「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
菓子で喩えたら、少しは理解を示してくれた。先行きは不安ではあるが。
用点心来比喻的话,稍微表示了理解。虽然对未来感到不安。
 菓子で喩えたら、少しは理解を示してくれた。先行きは不安ではあるが。
「どの仕事が、飴玉一つになるのかも、考えるのも大事だからね」 「どの仕事が、飴玉一つになるのかも、考えるのも大事だからね」
“考虑一下哪个工作会变成一个糖果也很重要。”
「難しい話だな」 「難しい話だな」
“好难啊。”
 ただ、ちょっとした手伝いでも報酬を要求したら、女性陣から顰蹙を買うだろう。その辺は、非常に難しいところだ。 ただ、ちょっとした手伝いでも報酬を要求したら、女性陣から顰蹙を買うだろう。その辺は、非常に難しいところだ。
只是,即使是一点帮忙也要求报酬的话,会被女性们瞧不起吧。那一带是非常难的地方。
家を出る前に、母に話しておいたほうがいいだろう。
出门前最好跟妈妈说一下。
 家を出る前に、母に話しておいたほうがいいだろう。
「イヴァン兄が、その辺も教えてくれたらよかったのに」 「イヴァン兄が、その辺も教えてくれたらよかったのに」
“伊凡哥哥要是能告诉我这一点就好了。”
「そうだね。ごめん」 「そうだね。ごめん」
“是啊,对不起。”
しょんぼりとするツィリルの手のひらに、あるものを握らせる。
在垂头丧气的齐里尔的手掌上,让他握住某个东西。
それは、ブレッド湖のほとりにある、小屋の鍵だ。
那是位于布莱德湖畔的小屋的钥匙。
 しょんぼりとするツィリルの手のひらに、あるものを握らせる。
 それは、ブレッド湖のほとりにある、小屋の鍵だ。
「イヴァン兄、これ!」 「イヴァン兄、これ!」
“伊凡哥哥,这个!”
「一人で行ったら、ダメだからね。父さんか、兄さんと一緒に行くんだ」 「一人で行ったら、ダメだからね。父さんか、兄さんと一緒に行くんだ」
“一个人去的话,不行啊。爸爸或者和哥哥一起去。”
「う、うん」 「う、うん」
“嗯,嗯。”
ツィリルには、五つ年上の兄がいる。十三歳なので、任せても大丈夫だろう。
齐里尔有一个比他大五岁的哥哥。十三岁了,交给他也没关系吧。
 ツィリルには、五つ年上の兄がいる。十三歳なので、任せても大丈夫だろう。
「おれが、もらってもいいの?」 「おれが、もらってもいいの?」
“我可以拿吗?”
「ああ。その代わりに、ミハルのお祖父さんの、漁を手伝ってくれないか?」 「ああ。その代わりに、ミハルのお祖父さんの、漁を手伝ってくれないか?」
“啊,你能帮米哈尔的爷爷捕鱼吗?”
 腰が悪いのに、張り切って漁にでかけているのだ。たぶん、俺がいなくなったあとはミハルが渋々手伝うだろうが、ツィリルもいたらさらに助かるだろう。
 ツィリルは、コクリと頷いてくれた。 腰が悪いのに、張り切って漁にでかけているのだ。たぶん、俺がいなくなったあとはミハルが渋々手伝うだろうが、ツィリルもいたらさらに助かるだろう。
明明腰不好,却干劲十足地出海捕鱼。大概,我不在了之后米哈尔会很勉强地帮忙,但是如果齐里尔也在的话会更好吧。
ツィリルは、コクリと頷いてくれた。
齐里尔点了点头。
「ねえ、イヴァン兄、ずっと、会えないわけじゃないよね?」 「ねえ、イヴァン兄、ずっと、会えないわけじゃないよね?」
“喂,伊凡哥哥,你不是一直见不到他吗?”
「もちろん」 「もちろん」
“当然。”
「よかった」 「よかった」
“太好了。”
ここでようやく、ツィリルは安堵の表情を見せてくれた。
 ここでようやく、ツィリルは安堵の表情を見せてくれた。 在这里,齐里尔终于露出了安心的表情

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養蜂家の青年は、家族と友と別れる 養蜂家の青年は、家族と友と別れる
 手紙を書き終えたあとは、横になった途端泥のように眠る。一日に大量の文字を書くことなどないので、疲れてしまったのだろう。 养蜂青年与家人和朋友分别
 目が覚めると、カーテンの隙間からこれでもかと太陽光が差し込んでいた 手紙を書き終えたあとは、横になった途端泥のように眠る。一日に大量の文字を書くことなどないので、疲れてしまったのだろう
 母の部屋は、日当たり良好である 写完信后,刚躺下就睡得像泥一样。因为一天没有写大量的文字,所以累了吧
 太陽が差し込まない、過ごしやすい部屋は兄達が使っているのだろう。その辺は、母の優しさなのだろうか。
 包帯を取り、部屋にあった鏡を覗き込んでみる。
 想像以上に、顔はボコボコだった。頬も瞼も額も、内出血で青くなっている 目が覚めると、カーテンの隙間からこれでもかと太陽光が差し込んでいた
 唇も切っていたのか、腫れていた。これで、骨が折れていないのだから、自分の体はかなり頑丈なのだろう。山羊や牛のミルクを毎日飲んでいるからだろうか。その辺は、よくわからない 醒来后,阳光从窗帘的缝隙中照进来
 しかし、酷い見た目だ。しばらく、包帯が手放せないだろう。
 ため息を一つ零し、鏡を伏せる。自分で自分のことが気の毒になってきたので、鏡は見ないようにしよう。
母の部屋は、日当たり良好である。
母亲的房间日照良好。
 ボコボコになった顔についてはさて措いて。昨日書いた手紙を、封する前に確認する。
 一通り読んだが、まあ、問題ないだろう。
太陽が差し込まない、過ごしやすい部屋は兄達が使っているのだろう。その辺は、母の優しさなのだろうか。
没有阳光照射,舒适的房间是哥哥们使用的吧。那一带是母亲的温柔吗。
 この辺りには学校はなく、文字の読み書きや計算は父に習った。
 父は大学を卒業している、学のある人だったのだ。卒業後は教師になる予定だったが、旅行先で出会った母に一目ぼれし、そのままイェゼロ家に婿入りする形となった。
 教師の仕事を蹴って、愛を取ったというわけである。それほどに、情熱的なものだったらしい。酔っ払った父が、よく話していた。ずっと、後悔しているとも。
 なんでも父はもとより、教師をしながら母を養う予定だった。だが、母はイェゼロ家の一人娘で、養蜂園の跡取り娘でもあったのだ。母も両親や養蜂園を見捨てて結婚なんてできないと別れを切り出すものだから、父は思いきった行動にでてしまったようだ。
 晩年の父は、街の子ども達に文字や計算を教えるのが夢だと語っていた 包帯を取り、部屋にあった鏡を覗き込んでみる
 けれど街の者にとっては、幼い子どもでも働き手として数えている。学校に通う時間なんてないと、一蹴されていた 取下绷带,窥视房间里的镜子
 自らの学力を養蜂に活かす手段がわからず、父はずっと苦悩していたのかもしれない。
 酒に溺れ、最期は母と口論となり、家を出た。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまう。
 時間があったら、父の墓前にも挨拶に行こう 想像以上に、顔はボコボコだった。頬も瞼も額も、内出血で青くなっている
 父が文字の読み取りを教えてくれたおかげで、俺は養蜂家の父であるアントン・ヤンシャに出会えた。感謝しても、し尽くせない 比想象中还要丰满。脸颊、眼睑、额头都因内出血而变蓝
 朝食は母が持ってきてくれた。蕎麦粉入りのパンにバターを載せ上から蜂蜜を垂らしたものと、大きなソーセージがぷかぷか浮かんだ“ヨータ”と呼ばれるスープ。それから、山盛りの野いちごがあった。母なりの、愛を込めた最後の食事なのかもしれない。 唇も切っていたのか、腫れていた。これで、骨が折れていないのだから、自分の体はかなり頑丈なのだろう。山羊や牛のミルクを毎日飲んでいるからだろうか。その辺は、よくわからない。
嘴唇也剪了,肿了。这样一来,骨头就没有折断,自己的身体相当结实吧。是因为每天喝山羊和牛的牛奶吗。这一点我不太清楚。
しかし、酷い見た目だ。しばらく、包帯が手放せないだろう。
但是看起来很过分。暂时不能放开绷带吧。
ため息を一つ零し、鏡を伏せる。自分で自分のことが気の毒になってきたので、鏡は見ないようにしよう。
叹了一口气,把镜子扣下。自己开始觉得自己可怜了,就不要照镜子了。
ボコボコになった顔についてはさて措いて。昨日書いた手紙を、封する前に確認する。
关于变得肉麻的脸,请不要说。昨天写的信,在封之前确认。
一通り読んだが、まあ、問題ないだろう。
看了一遍,不过没问题吧。
この辺りには学校はなく、文字の読み書きや計算は父に習った。
这附近没有学校,向父亲学习了文字的读写和计算。
父は大学を卒業している、学のある人だったのだ。卒業後は教師になる予定だったが、旅行先で出会った母に一目ぼれし、そのままイェゼロ家に婿入りする形となった。
父亲是大学毕业的,有学问的人。毕业后原计划成为教师,但对在旅行地遇到的母亲一见钟情,就这样入赘了耶零家。
教師の仕事を蹴って、愛を取ったというわけである。それほどに、情熱的なものだったらしい。酔っ払った父が、よく話していた。ずっと、後悔しているとも。
也就是说,他放弃了教师的工作,获得了爱情。好像是那么热情的东西。喝醉了的父亲经常说话。一直都很后悔。
なんでも父はもとより、教師をしながら母を養う予定だった。だが、母はイェゼロ家の一人娘で、養蜂園の跡取り娘でもあったのだ。母も両親や養蜂園を見捨てて結婚なんてできないと別れを切り出すものだから、父は思いきった行動にでてしまったようだ。
父亲自不必说,就连母亲也打算边教书边抚养。但是,母亲是耶泽罗家的独生女,也是养蜂园的继承女儿。母亲也抛弃了父母和养蜂园,说不能结婚就提出分手,所以父亲好像采取了果断的行动。
晩年の父は、街の子ども達に文字や計算を教えるのが夢だと語っていた。
晚年的父亲说,教街上的孩子们文字和计算是他的梦想。
けれど街の者にとっては、幼い子どもでも働き手として数えている。学校に通う時間なんてないと、一蹴されていた。
但是对于街上的人来说,即使是年幼的孩子也算是劳动者。因为没有上学的时间,所以被拒绝了。
自らの学力を養蜂に活かす手段がわからず、父はずっと苦悩していたのかもしれない。
不知道把自己的学习能力用在养蜂上的手段,父亲可能一直很苦恼。
酒に溺れ、最期は母と口論となり、家を出た。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまう。
沉溺于酒,最后和母亲发生口角,离开了家。然后就这样变成了不回去的人。
時間があったら、父の墓前にも挨拶に行こう。
有时间的话,也去父亲的墓前打招呼吧。
父が文字の読み取りを教えてくれたおかげで、俺は養蜂家の父であるアントン・ヤンシャに出会えた。感謝しても、し尽くせない。
多亏了父亲教我读文字,我遇到了养蜂家的父亲安东·扬沙。即使感谢,也做不完。
朝食は母が持ってきてくれた。蕎麦粉入りのパンにバターを載せ上から蜂蜜を垂らしたものと、大きなソーセージがぷかぷか浮かんだ“ヨータ”と呼ばれるスープ。それから、山盛りの野いちごがあった。母なりの、愛を込めた最後の食事なのかもしれない。
早餐是妈妈给我带的。在加入荞麦粉的面包上放上黄油,从上面滴下蜂蜜的东西和漂浮着大香肠的被称为“约塔”的汤。然后,有一个盛得满满的野草莓。也许这是母亲的最后一顿饱含爱意的饭。
盆の上に置かれていたのは、朝食だけではなかった。革袋に入った何かが、置かれている。手に取ると、ずっしり重い。カチャカチャという、金属音も聞こえた。
放在盂兰盆节上的不仅仅是早餐。皮袋里放着什么东西。拿在手里,沉甸甸的。也听到了咔嚓咔嚓的金属声音。
 盆の上に置かれていたのは、朝食だけではなかった。革袋に入った何かが、置かれている。手に取ると、ずっしり重い。カチャカチャという、金属音も聞こえた。
「母さん、これ何?」 「母さん、これ何?」
“妈妈,这是什么?”
「あなたに、渡していなかった給料よ」 「あなたに、渡していなかった給料よ」
“我没给你的工资。”
「ああ、そういうことね」 「ああ、そういうことね」
“啊,就是这么回事。”
母は突然、頭を下げた。何事かと思い、ギョッとする。
母亲突然低下了头。以为是什么事,吓了一跳。
 母は突然、頭を下げた。何事かと思い、ギョッとする。
「え、何?」 「え、何?」
“啊,什么事?”
「ごめんなさい。毎月、給料を渡していなかったなんて、知らなかったの」 「ごめんなさい。毎月、給料を渡していなかったなんて、知らなかったの」
“对不起,我不知道你每个月都没有给我发工资。”
 イェゼロ家の金銭の管理は、一番上の兄アランの嫁ダナがしていたらしい。 イェゼロ家の金銭の管理は、一番上の兄アランの嫁ダナがしていたらしい。
艺零家的金钱管理,好像是最大的哥哥阿兰的妻子达娜做的。
アランから俺の給料を酒代に回せと命じられ、渡していなかったようだ。
阿兰命令我把我的工资转到酒钱上,好像没有交。
 アランから俺の給料を酒代に回せと命じられ、渡していなかったようだ。
「イヴァン、どうして、何も言わなかったのよ」 「イヴァン、どうして、何も言わなかったのよ」
“伊凡,你怎么什么都没说?”
「いやだって、他の人が賃金をもらっていたとか、知らなかったし」 「いやだって、他の人が賃金をもらっていたとか、知らなかったし」
“就算不愿意,我也不知道别人拿了工资。”
皆、各々の花畑で採れた蜂蜜を売って、稼いでいると思い込んでいたのだ。まさか、月収制だったなんて、知る機会なんてなかったし。
大家都以为是卖了在各个花圃里采摘的蜂蜜赚钱的。没想到是月收入制,没有机会知道。
 皆、各々の花畑で採れた蜂蜜を売って、稼いでいると思い込んでいたのだ。まさか、月収制だったなんて、知る機会なんてなかったし。 母は深い深いため息をつき、もう一度謝ってくる。
母亲深深地叹了一口气,再一次道歉。
 母は深い深いため息をつき、もう一度謝ってくる。
「時間はかかるかもしれないけれど、お金は返すから」 「時間はかかるかもしれないけれど、お金は返すから」
“可能要花很长时间,但我会还你钱的。”
「だったら、そのお金を、今いる子ども達への学費にしてあげて」 「だったら、そのお金を、今いる子ども達への学費にしてあげて」
“那嚒,把那笔钱作为给现在的孩子们的学费。”
「学費?」 「学費?」
“学费?”
「そう。文字の読み書きや計算は、取り引きをする上でも役立つから」 「そう。文字の読み書きや計算は、取り引きをする上でも役立つから」
“是的。文字的读写和计算,在交易中也很有用。”
「学なんて、養蜂家には役に立たないわよ」 「学なんて、養蜂家には役に立たないわよ」
“学什么的,对养蜂人没用。”
「立つよ。俺は、養蜂の本を読んで、病気対策もしてきたし」 「立つよ。俺は、養蜂の本を読んで、病気対策もしてきたし」
“站起来。我读了养蜂的书,也做了治病的对策。”
アントン・ヤンシャの本を読んで、新たに得た養蜂の知識は山のようにある。日々続けることで得る感覚も大事だが、勉強して得るものも大事なのだ。
读了安东·扬沙的书,新获得的养蜂知识如山。每天坚持下去得到的感觉也很重要,但是学习得到的东西也很重要。
 アントン・ヤンシャの本を読んで、新たに得た養蜂の知識は山のようにある。日々続けることで得る感覚も大事だが、勉強して得るものも大事なのだ。
「兄さん達が、文字の読み書きや、計算ができるはずだから、先生になってもらって。教えた分だけ、報酬を払ってほしい。身内とはいえ、労働をしたら、対価を与えてほしいんだ。兄さん達だけじゃない。子ども達にも」 「兄さん達が、文字の読み書きや、計算ができるはずだから、先生になってもらって。教えた分だけ、報酬を払ってほしい。身内とはいえ、労働をしたら、対価を与えてほしいんだ。兄さん達だけじゃない。子ども達にも」
“哥哥们应该会文字的读写和计算,所以请他们成为老师。希望他们能根据教的部分支付报酬。虽说是自己人,但如果劳动的话,希望能给予报酬。不仅仅是哥哥们,孩子们也要。”
「え、ええ。そうね。わかったわ」 「え、ええ。そうね。わかったわ」
“啊,是啊,我知道了。”
理解してもらえて、ホッと胸をなで下ろす。これで、ツィリルや他の甥や姪達がタダ働きを強いられることはないだろう。
得到理解,松了一口气。这样的话,齐丽尔和其他侄子和侄女们就不会被强迫免费工作了吧。
母が出て行ったあと、食事を取る。
妈妈出去之后,吃饭。
こんな風にのんびり過ごす朝は、初めてだった。
像这样悠闲度过的早晨,还是第一次。
 理解してもらえて、ホッと胸をなで下ろす。これで、ツィリルや他の甥や姪達がタダ働きを強いられることはないだろう。
 母が出て行ったあと、食事を取る。
 こんな風にのんびり過ごす朝は、初めてだった。 ◇◇◇
◇◇◇
 ◇◇◇
 出発の時間を迎える。見送りは母とツィリル、それからミハルだけ。 出発の時間を迎える。見送りは母とツィリル、それからミハルだけ。
迎来出发时间。送行的只有母亲和齐丽尔,还有米哈尔。
ひとまず、ミハルに手紙を託す。
暂且把信托付给米哈尔。
 ひとまず、ミハルに手紙を託す。
「これ、みんなにお願い」 「これ、みんなにお願い」
“这个,拜托大家了。”
「ああ、任せておけ」 「ああ、任せておけ」
「啊,交给我吧。」
まだ、ミハルが元気を取り戻していない。昨日の今日なので、無理もないが。ツィリルのほうが、いつも通りだ。母は目を真っ赤にさせていた。
米哈尔还没有恢复精神。因为是昨天的今天,所以也不勉强。齐里尔和往常一样。妈妈眼睛通红。
 まだ、ミハルが元気を取り戻していない。昨日の今日なので、無理もないが。ツィリルのほうが、いつも通りだ。母は目を真っ赤にさせていた。
マクシミリニャンがやってくる。何か買い付けをしたのか、大きな荷物を抱えていた。
马克西米利尼亚来了。不知是不是买了什么东西,抱着很大的行李。
 マクシミリニャンがやってくる。何か買い付けをしたのか、大きな荷物を抱えていた。
「さあ、イヴァン殿、行こうか」 「さあ、イヴァン殿、行こうか」
「来吧,伊凡大人,我们走吧。」
「うん」 「うん」
“嗯。”
あまり話し込むと、寂しくなってしまう。だから、別れは手短に。
说得太多的话,会变得寂寞。所以,分手要简短。
 あまり話し込むと、寂しくなってしまう。だから、別れは手短に。
「ミハル、落ち着いたら、手紙を書くよ」 「ミハル、落ち着いたら、手紙を書くよ」
「ああ」  “米哈尔,等你冷静下来,我给你写信。”
「ああ」
“啊。”
 背中をポンと叩いたら、「力が強い!」と抗議されてしまった。その様子は、いつものミハルなのでホッとする。
背中をポンと叩いたら、「力が強い!」と抗議されてしまった。その様子は、いつものミハルなのでホッとする。
我拍了拍后背,结果被抗议说“力量很大!”。那个样子,因为是平时的米哈尔所以松了一口气。
ツィリルは目を輝かせながら、胸に飛び込んでくる。まだ小さなその体を、ぎゅっと抱きしめた。
齐里尔眼睛闪闪发光,扑向心头。紧紧地抱住那还很小的身体。
離れると、ツィリルは手に握っていた革袋を差し出してきた。
离开后,齐里尔拿出手里的皮袋。
 ツィリルは目を輝かせながら、胸に飛び込んでくる。まだ小さなその体を、ぎゅっと抱きしめた。
 離れると、ツィリルは手に握っていた革袋を差し出してきた。
「これ、イヴァン兄にあげてって、父ちゃんが」 「これ、イヴァン兄にあげてって、父ちゃんが」
“这是给伊凡哥哥的,爸爸。”
「兄さんが?」 「兄さんが?」
“哥哥?”
革袋の中身は、蕎麦の種だった。去年採っていた種を、そのままくれたようだ。
皮袋里是荞麦面的种子。去年采摘的种子好像就那样给了我。
 革袋の中身は、蕎麦の種だった。去年採っていた種を、そのままくれたようだ。
「父ちゃんがね、古い言葉に“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”っていうのがあるって、言っていたんだ。だから、居場所に迷ったら、この蕎麦の種を、蒔いてね」 「父ちゃんがね、古い言葉に“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”っていうのがあるって、言っていたんだ。だから、居場所に迷ったら、この蕎麦の種を、蒔いてね」
“爸爸说,有句古话叫‘在新的地方种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里就是你的住处’。所以,如果你迷路了,就种荞麦种子吧。”
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
蕎麦の種を受け取り、鞄の中に入れる。
收到荞麦面的种子,放进包里。
ツィリルの父親ミロシュは他の兄と比べて比較的俺に優しかったが、特別扱いすると兄弟から反感を買うので表だって何もできなかったのだろう。
齐里尔的父亲米洛什和其他哥哥相比对我比较温柔,但是特别对待的话会引起兄弟的反感,所以表面上什么都做不了吧。
 蕎麦の種を受け取り、鞄の中に入れる。
 ツィリルの父親ミロシュは他の兄と比べて比較的俺に優しかったが、特別扱いすると兄弟から反感を買うので表だって何もできなかったのだろう。 ツィリルの頭を撫でながら、感謝の気持ちをこっそり伝えておくように頼んでおく。
一边抚摸着齐里尔的头,一边拜托他悄悄地传达感谢的心情。
 ツィリルの頭を撫でながら、感謝の気持ちをこっそり伝えておくように頼んでおく。
「ツィリル、元気で」 「ツィリル、元気で」
“齐丽尔,保重。”
「イヴァン兄も!」 「イヴァン兄も!」
“伊凡哥哥也是!”
母はカゴに入った弁当を差し出してくれた。
妈妈递给我放在篮子里的便当。
 母はカゴに入った弁当を差し出してくれた。
「お腹が空いたら、マクシミリニャンさんと一緒にお食べなさい」 「お腹が空いたら、マクシミリニャンさんと一緒にお食べなさい」
“肚子饿了的话,请和马克西米利尼一起吃。”
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
ただ、それだけの言葉を交わしただけなのに、母はポロポロと涙を零した。
只是说了这么多话,母亲却流下了眼泪。
 ただ、それだけの言葉を交わしただけなのに、母はポロポロと涙を零した。
「何があっても、あなたの家は、ここだから」 「何があっても、あなたの家は、ここだから」
“不管发生什么,你的家就在这里。”
「うん」 「うん」
“嗯。”
これは決別ではなく、旅立ちだ。だから、いつでもこの家に帰ってこられるのだ。
这不是诀别,而是启程。所以,你随时都可以回到这个家。
 これは決別ではなく、旅立ちだ。だから、いつでもこの家に帰ってこられるのだ。
「行ってきます」 「行ってきます」
“我走了。”
手を振って、踵を返す。
挥手,转身。
ブレッド湖を背に、新しい一歩を踏み出した。
背靠布莱德湖,迈出了新的一步。
前を歩くのは、筋骨隆々の強面のおじさん。
走在前面的是肌肉发达的强面大叔。
はたして、彼の娘はどんな見た目で、どんな性格をしているのか。まったく想像がつかない。愛らしい娘だとマクシミリニャンは主張しているが、親の欲目の可能性が大であった。
到底,他的女儿是什么样的外表,什么样的性格呢。简直无法想象。虽然马克西米利尼亚认为这是一个可爱的女儿,但父母贪得无厌的可能性很大。
 手を振って、踵を返す。 果たして、マクシミリニャンの娘アニャは、顔面ボコボコの包帯男との結婚を受け入れるのか
 ブレッド湖を背に、新しい一歩を踏み出した。 真的,马克西米利尼亚的女儿阿尼亚会接受和满脸皱纹的绷带男结婚吗
 前を歩くのは、筋骨隆々の強面のおじさん。
 はたして、彼の娘はどんな見た目で、どんな性格をしているのか。まったく想像がつかない。愛らしい娘だとマクシミリニャンは主張しているが、親の欲目の可能性が大であった。
 果たして、マクシミリニャンの娘アニャは、顔面ボコボコの包帯男との結婚を受け入れるのか。 なんだか楽しみになってきた
 なんだか楽しみになってきた。 总觉得很期待

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# LN26 # 養蜂家と蜜薬師の花嫁
作者:江本マシメサ
WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
## 人物
### イヴァン・イェゼロ
主人公,サシャ雙胞胎弟。與最大兄弟相差20歲。家中第十四子,因而沒能分到財產。
### ベルタ・イェゼロ
イェゼロ家主,イヴァン之母。
### サシャ・イェゼロ
イヴァン雙胞胎兄
### ロマナ・イェゼロ
サシャ妻,五年前在收穫祭賣身而被買了回來,作為工人住進家裡。
### アラン・イェゼロ
イェゼロ家長子。
### ダナ・イェゼロ
アラン妻。
### パヴラ・イェゼロ
大イヴァン三歲的哥哥的妻子。
### ミロシュ・イェゼロ
大イヴァン五歲的哥哥。相對其他兄弟對イヴァン較好,但太過會被針對而沒有非常明顯。
### ツィリル
ミロシュ的兒子。八歲。
### ゾルターン
大イヴァン十歲的哥哥。
### ミハル
雜貨店的兒子。イヴァン的小時玩伴。十分擔心イヴァン的狀況。
### マクシミリニャン・フリバエ
為了不讓アニャ孤單下半輩子,而出來尋找結婚對象。
### アニャ・フリバエ
因身體不孕,而至十九歲都未能結婚。
### アントン・ヤンシャ
養蜂の父,其出版兩本書被養蜂人視為聖典。
## 家族
### イェゼロ
在ブレッド湖畔從事養蜂一家
### フリバエ
## 地點
### ブレッド
緊臨湖畔,是王族喜愛的療養地。平原而群山環繞,水資源與自然環境富裕而養蜂業盛行。
### ボーヒン
有比ブレッド湖更大三倍的湖泊,
## 動植物
### カーニオラン
イェゼロ家飼養的蜂種。其腹部有灰熊般的毛。個性溫馴、認真。又被稱為「灰色熊のカーニオラン」。
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