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@ -1,239 +1,573 @@
養蜂家の青年は、月明かり差し込む部屋で蜜薬師の娘と会話する
 この日は、客人用の離れを借りて休ませてもらう。
养蜂家的青年,在月光照射下的房间里和蜜药师的女儿对话
 離れは暖炉に寝台、脇にサイドテーブルがあるだけの、シンプルな部屋である。
 灯りを点していないのに窓から月明かりが差し込むので、ランタンを点けずとも十分過ごせる。
 寝台に腰掛け、キョロキョロ見渡していたら、アニャがやってきた。
この日は、客人用の離れを借りて休ませてもらう。
这一天,借客人用的离开休息。
離れは暖炉に寝台、脇にサイドテーブルがあるだけの、シンプルな部屋である。
离开是壁炉里有卧铺,旁边只有侧桌的简单房间。
灯りを点していないのに窓から月明かりが差し込むので、ランタンを点けずとも十分過ごせる。
明明没有点灯,月光却从窗户射进来,所以即使不点灯笼也能充分度过。
寝台に腰掛け、キョロキョロ見渡していたら、アニャがやってきた。
坐在卧铺上东张西望,阿尼亚来了。
「これ、蜂蜜水とちょっとしたおやつよ。それから、ランタンも。必要だったら、点けてちょうだい」
“这是蜂蜜水和小点心。还有灯笼。如果需要的话,请点一下。”
「ありがとう」
“谢谢。”
アニャはそのまま立ち去らずに、こちらを見ている。
阿尼亚就这样不走开,看着这边。
 アニャはそのまま立ち去らずに、こちらを見ている。
「どうかした?」 
「どうかした?」
“怎么了?”
「あ――えっと、少しだけ、話してもいい?」
“啊——嗯,我能说几句吗?”
「いいよ」
“好啊。”
アニャは腰に手を当て、俺を見下ろしながら話し始めようとした。
阿尼亚把手放在腰上,俯视着我开始说话。
 アニャは腰に手を当て、俺を見下ろしながら話し始めようとした。
「ちょっと待って。座って」
“等一下,请坐。”
隣をポンポン叩きながら言うと、アニャは素直に腰掛ける。気恥ずかしいのか。もじもじしながら、頬を真っ赤に染めていた。
一边敲着旁边,一边说,阿尼亚坦率地坐了下来。你害羞吗。扭扭捏捏的,脸颊染得通红。
 隣をポンポン叩きながら言うと、アニャは素直に腰掛ける。気恥ずかしいのか。もじもじしながら、頬を真っ赤に染めていた。
「ごめんなさい。あまり、同じ年ごろの異性と、話したことがなくて」
“对不起,我没怎么和同龄的异性说过话。”
「リブチェフ・ラズにいる男は?」
“在利布切夫·拉兹的男人是?”
「あの人は、私を一方的にからかってくるだけ。童顔とか、嫁ぎ遅れとか、山女とか。まともな会話はしていないわ」
“那个人只是单方面地调戏我。像童颜啦,嫁人晚了啦,山女啦。我没有正经的对话。”
「酷いね」
「でしょう? 自分だって、二十歳を過ぎても結婚していないくせに、何を言っているのかしら」
“太过分了。”
「でしょう? 自分だって、二十歳を過ぎても結婚していないくせに、何を言っているのかしら」
“是吧?我自己都20多岁了还没结婚,还说什么呢?”
「あー……」
“啊……”
おそらくだが、その男はアニャのことが好きなのだろう。仲良くなりたくて声をかけているのだろうが、内容が最悪過ぎる。
恐怕,那个男人喜欢阿尼亚吧。虽然是想成为好朋友而打招呼的,但是内容太差了。
 おそらくだが、その男はアニャのことが好きなのだろう。仲良くなりたくて声をかけているのだろうが、内容が最悪過ぎる。
「それで、話したいことは?」
“那么,你想说什么?”
「ああ、そう。あなた、本当にいいの?」
“啊,是的。你真的可以吗?”
「何が?」
“什么?”
「しらばっくれないで。私との、結婚よ」
“别装蒜了,和我结婚吧。”
「いや、まだアニャと結婚するか、決まっていないし」
“不,我还没决定要不要和阿尼亚结婚。”
運命は蕎麦の芽にかかっている。明日、アニャと一緒に種を蒔く予定だ。
命运取决于荞麦的萌芽。我打算明天和阿尼亚一起播种。
 運命は蕎麦の芽にかかっている。明日、アニャと一緒に種を蒔く予定だ。
「仮に決まったときのことを話しているのよ」
“我在说临时决定的时候的事情。”
「そういう意味ね。さっきも話したけれど、俺は行く当てもない男だから」
“就是这个意思。我刚才也说过了,因为我是个没有前途的男人。”
「でも、私じゃなくても……。イヴァン、あなた、子どもが欲しくないの?」
“但是,就算不是我……伊凡,你不想要孩子吗?”
「いや、俺は子どもの面倒を見れるほど、甲斐性があるとは思えないし」
“不,我不认为我有能力照顾孩子。”
素直に告げると、アニャは目を眇めて俺を見る。小さな声で「確かに」と呟いていた。あまりにも素直な反応に、笑ってしまう。
坦率地告诉他,阿尼亚仔细地看着我。小声嘟囔着“确实”。对过于坦率的反应,笑了。
 素直に告げると、アニャは目を眇めて俺を見る。小さな声で「確かに」と呟いていた。あまりにも素直な反応に、笑ってしまう。
「あっ、笑ったら、顔が痛い」
“啊,一笑,脸就痛。”
「安静にしているように、言っていたでしょう?」
“你不是说要保持安静吗?”
「だって、アニャが笑わせるから」
“因为阿尼亚会笑。”
「私がいつ、笑わせたのよ」
“我什么时候让你笑了呢?”
「うん、そうだね」
“嗯,是啊。”
アニャはよほど、子どもが産めない体であることを気にしているのだろう。気の毒な話である。
阿尼亚大概相当在意孩子无法生育的身体吧。真可怜。
 アニャはよほど、子どもが産めない体であることを気にしているのだろう。気の毒な話である。
「もしも蕎麦が芽吹いて、結婚できるものだとしたら、俺はアニャを幸せにすることを人生の目標にしようと思っている」
“如果荞麦面发芽,能结婚的话,我想把让阿尼亚幸福作为人生的目标。”
「イヴァン……ありがとう」
“伊凡……谢谢。”
アニャはウルウルとした瞳で、俺を見つめていた。庇護欲をかき立てられるような思いとなったが、肩に触れようとした瞬間、脳内にマクシミリニャンの顔が浮かんだ。
阿尼亚用乌尔的眼睛看着我。虽然觉得这会激发庇护欲,但在触摸肩膀的瞬间,脑内浮现出了马克西米利尼亚的脸。
伸ばした手はそっと下ろし、ぎゅっと握りしめて拳を作る。
 アニャはウルウルとした瞳で、俺を見つめていた。庇護欲をかき立てられるような思いとなったが、肩に触れようとした瞬間、脳内にマクシミリニャンの顔が浮かんだ。
伸出的手轻轻地放下,紧紧地握住拳头
 伸ばした手はそっと下ろし、ぎゅっと握りしめて拳を作る。
「アニャは、どうなの? 父親が選んだ相手と、結婚するなんてイヤじゃないの?」
「アニャは、どうなの? 父親が選んだ相手と、結婚するなんてイヤじゃないの?」
“阿尼亚怎么样?你不喜欢和父亲选择的对象结婚吗?”
聞いた途端、アニャは耳まで真っ赤になる。大丈夫なのか、心配になるほど羞恥心が顔に出ていた。
一听到,阿尼亚连耳朵都红了。不知道是不是没事,脸上露出了令人担心的羞耻心。
 聞いた途端、アニャは耳まで真っ赤になる。大丈夫なのか、心配になるほど羞恥心が顔に出ていた。
「あなたは優しいし、たぶん、働き者だろうし、嘘は吐かない人だと思うから、これ以上ない結婚相手だわ」
“你很温柔,大概是个劳动者,不会说谎的人,是再也没有的结婚对象了。”
「そう。よかった。でも、俺がいい人ぶっていたら、どうするの?」
「あなたが、いい人ぶっているですって? そんな器用なことを、できる人には見えないわ。イヴァン、あなたはきっと、死ぬほど不器用な人なのよ」
“是的,太好了。但是,如果我装好人的话,怎么办?”
「あなたが、いい人ぶっているですって? そんな器用なことを、できる人には見えないわ。イヴァン、あなたはきっと、死ぬほど不器用な人なのよ」
“你是装好人吗?我可看不出你是个能干的人。伊凡,你一定是个笨得要死的人。”
「そう、かもしれない」
“是的,也许。”
「でしょう?」
“是吧?”
ほんの数時間しか話していないのに、人となりをアニャに見抜かれていたようだ。
虽然只说了几个小时,但好像被阿尼亚看穿了为人。
 ほんの数時間しか話していないのに、人となりをアニャに見抜かれていたようだ。
「もっと、お話ししたいって思った男の人は、イヴァンが初めてよ。もしかしたら、あと三日間しかいないかもしれないけれど、とても嬉しいわ」
“想再多说几句话的男人,伊凡是第一次。说不定只剩下三天了,我很高兴。”
「アニャ……」
“阿尼亚……”
月明かりが、彼女の横顔を照らす。なんて、美しいのか。思わず見とれてしまった。
月光照耀着她的侧脸。多么美丽啊。不由得看入迷了。
 月明かりが、彼女の横顔を照らす。なんて、美しいのか。思わず見とれてしまった。
「アニャ、俺も――」
“阿尼亚,我也是——”
言いかけた瞬間、窓の外に丸太を片手で担いだマクシミリニャンが通りかかった。
刚要说的瞬间,一只手扛着原木的马克西米利尼亚路过窗外。
 言いかけた瞬間、窓の外に丸太を片手で担いだマクシミリニャンが通りかかった。
 通り過ぎる際、高速でこちらをチラ見していった。我慢できずに、噴き出してしまう。
通り過ぎる際、高速でこちらをチラ見していった。我慢できずに、噴き出してしまう。
路过的时候,高速往这边看了看。忍不住喷了出来。
こんな時間に、丸太を持って庭で作業するわけがない。きっと、俺たちの様子を確認しにきたのだろう。
在这样的时间里,不可能拿着原木在院子里工作。一定是来确认我们的情况的吧。
 こんな時間に、丸太を持って庭で作業するわけがない。きっと、俺たちの様子を確認しにきたのだろう。
「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「いや、おやじさんが通りかかったから」
「まあ!! お父様ったら、覗きに来たの!?」 
“不,是因为你父亲路过。”
「まあ!! お父様ったら、覗きに来たの!?」
“哎呀!!你父亲是来偷窥的吗!?”
「たぶん、アニャがなかなか母屋に戻らないから、心配しているんだと思う」
「私は、子どもじゃないのに! それに、イヴァンはお父様が婿として連れてきたのに、どうして監視するようなことをするのよ!」
“我想大概是因为阿尼亚很难回到正房,所以才担心的。”
「私は、子どもじゃないのに! それに、イヴァンはお父様が婿として連れてきたのに、どうして監視するようなことをするのよ!」
“我又不是小孩子!而且,伊凡明明是父亲作为女婿带过来的,为什么要监视他呢!”
「まだ正式に結婚するわけではないから」
“因为还没有正式结婚。”
顔も口の中も痛いのに、笑ってしまう。同じ日にこんなに笑ったのは、初めてだろう。
脸和嘴里都痛,却笑了起来。这是我第一次在同一天笑成这样吧。
 顔も口の中も痛いのに、笑ってしまう。同じ日にこんなに笑ったのは、初めてだろう。
「俺、ここに来て、よかった」
“我能来这里真是太好了。”
そう呟くと、アニャは淡く微笑んでいた。
这样嘟囔着,阿尼亚淡淡地微笑着。
こんなに楽しいところならば、ずっといたい。すべては、蕎麦の芽次第なんだけれど。
如果是这么开心的地方,我想一直呆下去。一切都要看荞麦的芽了。
 そう呟くと、アニャは淡く微笑んでいた。
 こんなに楽しいところならば、ずっといたい。すべては、蕎麦の芽次第なんだけれど。
「じゃあ、そろそろ解散する?」
“那么,差不多该解散了?”
「そうね」
“是啊。”
 アニャを、母屋まで送る。離れと母屋はそこまで離れていないが、山なのでどこに熊が出てもおかしくない。
 心配なので、きちんと部屋に入るまで確認しなければ。
アニャを、母屋まで送る。離れと母屋はそこまで離れていないが、山なのでどこに熊が出てもおかしくない。
把阿尼亚送到主屋。离开和母屋虽然没有那么远,但是因为是山,所以哪里出熊都不奇怪。
心配なので、きちんと部屋に入るまで確認しなければ。
因为担心,所以必须在进入房间之前确认。
「アニャ、また明日」
“阿尼亚,明天见。”
「ええ、おやすみなさい」
“嗯,晚安。”
「おやすみ」
“晚安”
アニャは部屋に戻らず、こちらを見つめている。
阿尼亚不回房间,凝视着这边。
 アニャは部屋に戻らず、こちらを見つめている。
「ん、どうしたの?」
“嗯,怎么了?”
「あ――ごめんなさい。幼いころ、おやすみの挨拶をするときに、お父様が頬にキスをしてくれたから。やだわ。もう何年も、していなかったのに」
“啊——对不起。小时候,我向你问候晚安的时候,你父亲亲吻了我的脸颊。不,我已经好几年没这么做了。”
つまり、アニャはおやすみのキス待ちをしていたわけだ。
也就是说,阿尼亚在等着晚安的吻。
 つまり、アニャはおやすみのキス待ちをしていたわけだ。
さすがに、結婚もしていない相手にキスなんてできない。
真不愧是,连结婚都没有的对象不能接吻。
 さすがに、結婚もしていない相手にキスなんてできない。
「ゆっくり休んで」
“好好休息。”
「イヴァン、あなたも」
「伊凡,你也是。」
アニャと別れ、離れに戻る。
和阿尼亚分手,回到离开。
扉を開き中へ入ると、腕を組んで寝台に座るマクシミリニャンの姿が目に飛び込んだ。
打开门进入里面,抱着胳膊坐在卧铺上的马克西米利尼亚的身影映入眼帘。
 アニャと別れ、離れに戻る。
 扉を開き中へ入ると、腕を組んで寝台に座るマクシミリニャンの姿が目に飛び込んだ。
悲鳴を上げそうになったのは、言うまでもない
 悲鳴を上げそうになったのは、言うまでもない。
不用说,他差点尖叫起来

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027.md

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養蜂家の青年は、山羊の世話を行う
 マクシミリニャンは俺の顔を見るなり、「待っておったぞ」と声をかける。
养蜂青年照顾山羊
マクシミリニャンは俺の顔を見るなり、「待っておったぞ」と声をかける。
马克西米莉娜一看到我的脸,就说:“我在等你哦。”。
どうやら、アニャだけでなく、マクシミリニャンも話があるようだ。
看来,不仅仅是阿尼亚,马克西米利尼亚也有话要说。
隣に腰掛けたが、黙ったままだ。
虽然坐在旁边,但是一直沉默着。
 どうやら、アニャだけでなく、マクシミリニャンも話があるようだ。
 隣に腰掛けたが、黙ったままだ。
「何しに来たの?」
“你来干什么?”
「謝罪を、しようと思い……。その、アニャはあの通り、結婚する気はなく……」
“我想道歉……。那个,阿尼亚就是那样,不想结婚……”
「ああ、そのこと」
“啊,那件事。”
 マクシミリニャンはこの先アニャを独り残していくことに、危惧を感じていた話は事前に聞いていた。
 黙って連れてきていた件に関しては問題だが、そうでもしないとアニャが結婚を受け入れなかったのだろう。
マクシミリニャンはこの先アニャを独り残していくことに、危惧を感じていた話は事前に聞いていた。
麦克西米利尼亚事先听说了关于今后独自留下阿尼亚的事,感到担心的话。
黙って連れてきていた件に関しては問題だが、そうでもしないとアニャが結婚を受け入れなかったのだろう。
关于默默带来的事情是个问题,如果不这样做的话,阿尼亚就不会接受结婚了吧。
「アニャは絶対に、そなたを気に入ると確信していた。だが、イヴァン殿には、事前に説明しておくべきだった」
“我确信阿尼亚一定会喜欢你的。但是,我应该事先向伊凡大人说明。”
「アニャにもね」
“阿尼亚也有。”
「う、うむ……」
“嗯,嗯……”
マクシミリニャンは反省しているようだったので、これ以上責める気にはならない。
马克西米利尼亚似乎在反省,所以不想再责备他了。
 マクシミリニャンは反省しているようだったので、これ以上責める気にはならない。
「イヴァン殿、蕎麦の芽が生えなかったら、本当に、ここを出て行くつもりか?」
“伊凡大人,如果荞麦面没有发芽,你真的打算离开这里吗?”
「まあ、そういう約束だから」
“嗯,因为是这样的约定。”
そう答えると、マクシミリニャンは途端に悲しげな表情になる。
这样回答的话,马克西米莉娜马上就会露出悲伤的表情。
 そう答えると、マクシミリニャンは途端に悲しげな表情になる。
「蕎麦の芽が生えなかったら、リブチェフ・ラズで仕事でも探すよ。それでたまに、アニャの顔を見に来るから」
“如果荞麦面没有发芽的话,我会在里布切夫·拉兹找工作。所以偶尔会来看阿尼亚的脸。”
「イヴァン殿、感謝する!!」
“伊凡大人,谢谢你!!”
マクシミリニャンは俺を力強く抱擁した。体がミシッと悲鳴を上げたので、力いっぱい押し返して離れる。
马克西米莉娜有力地拥抱了我。因为身体发出了一声尖叫,所以用力推回去离开。
 マクシミリニャンは俺を力強く抱擁した。体がミシッと悲鳴を上げたので、力いっぱい押し返して離れる。
「それで、アニャは、どうだ?」
“那么,Ania怎么样?”
「どう、というと?」
“怎么说呢?”
「愛らしいとか、可愛らしいとか、愛いとか、何か、感想があるだろう?」
“可爱啦,可爱啦,可爱啦,有什么感想吗?”
それ、全部同じような意味じゃん。なんていう指摘はさて措いて。
那个,全部都是一样的意思吧。这样的指摘暂且不提。
 それ、全部同じような意味じゃん。なんていう指摘はさて措いて。
「明るくて元気な、いい娘(こ)だと思う」
「我觉得她是个开朗活泼的好姑娘。」
ただ、見た目は完全に十三から十四歳くらいの少女だけれど。その点は、目を瞑る。
只是,外表完全是十三到十四岁左右的少女。这一点是闭上眼睛。
 ただ、見た目は完全に十三から十四歳くらいの少女だけれど。その点は、目を瞑る。
「結婚相手として、申し分ない相手だよ」
“作为结婚对象,是无可挑剔的对象。”
「それはよかった。この先、我は安心して逝ける」
“那太好了。今后,我会安心逝世的。”
安堵したように呟くマクシミリニャンの背中を、励ますように叩いてあげた。
他像是在鼓励着嘟囔着安心的麦克西米利尼亚的背。
◇◇◇
◇◇◇
朝――目覚める。まだ外はまっくらだが、そのうち太陽は昇るだろう。
早上——醒来。虽然外面还很黑,但不久太阳就会升起来吧。
服を着替え、ナイフと石鹸、歯ブラシ、ランタンを持って出る。
换衣服,拿着刀、肥皂、牙刷、灯笼出来。
外は風がごうごうと激しく吹いていた。真冬だと思うほど寒い。
外面风呼啸而过。冷得让人以为是隆冬。
たらいに湧き水を掬う。山の水は、キンとするほど冷たい。
往盆里舀泉水。山上的水很冷。
駆け足で下屋の勝手口から浴室に入る。洗面台にたらいに入った水を置き、鏡の横にランタンを設置した。
跑着从下屋的胜算进入浴室。把盆里的水放在洗脸台上,在镜子旁边设置了灯笼。
 安堵したように呟くマクシミリニャンの背中を、励ますように叩いてあげた。
鏡を覗き込むと、顔のただれがなくなり、赤みも引いているのに気付く。顔がボコボコなのは相変わらずだが、痛みはずいぶんと薄くなっていた。
 ◇◇◇
看着镜子,发现脸上的谁不见了,还拉着红色。虽然脸上还是老样子,但是疼痛已经变得很淡了。
 朝――目覚める。まだ外はまっくらだが、そのうち太陽は昇るだろう。 
本当に、蜂蜜は傷の治癒に効果があるようだ。驚いた、医者の薬より効くなんて。
 服を着替え、ナイフと石鹸、歯ブラシ、ランタンを持って出る。
真的,蜂蜜似乎有治愈伤口的效果。吓了一跳,竟然比医生的药有效
 外は風がごうごうと激しく吹いていた。真冬だと思うほど寒い。
 たらいに湧き水を掬う。山の水は、キンとするほど冷たい。
 駆け足で下屋の勝手口から浴室に入る。洗面台にたらいに入った水を置き、鏡の横にランタンを設置した。
 鏡を覗き込むと、顔のただれがなくなり、赤みも引いているのに気付く。顔がボコボコなのは相変わらずだが、痛みはずいぶんと薄くなっていた。
 本当に、蜂蜜は傷の治癒に効果があるようだ。驚いた、医者の薬より効くなんて。
台所のほうからも、物音が聞こえる。アニャが、朝食の準備をしているのだろうか
从厨房也能听到声音。阿尼亚在准备早饭吗。
 台所のほうからも、物音が聞こえる。アニャが、朝食の準備をしているのだろうか。
 顔を洗って髭を剃り、歯を磨いたあと、台所の扉を開いた。
顔を洗って髭を剃り、歯を磨いたあと、台所の扉を開いた。
洗完脸刮了胡子,刷牙后,打开厨房的门。
「おはよう、イヴァン殿」
“早上好,伊凡大人。”
「うわっ!!」
“哇!!”
にっこり微笑みながら挨拶をしたのは、フリフリのエプロンをかけたマクシミリニャンだった。
微笑着打招呼的是戴着弗里弗利围裙的马克西米利尼。
なぜここに? と思ったが、昨晩、アニャが「食事はお父様と代わる代わるしているの」と話していた。今日は、マクシミリニャンが朝食を準備する番なのだろう。
为什么在这里?昨天晚上,阿尼亚说:“吃饭是代替父亲的。”。今天轮到马克西米利尼亚准备早餐了吧。
それよりも、気になる点を尋ねてみた。
 にっこり微笑みながら挨拶をしたのは、フリフリのエプロンをかけたマクシミリニャンだった。
比起那个,我试着问了一下在意的地方
 なぜここに? と思ったが、昨晩、アニャが「食事はお父様と代わる代わるしているの」と話していた。今日は、マクシミリニャンが朝食を準備する番なのだろう。
 それよりも、気になる点を尋ねてみた。
「そのエプロン、何?」
「ああ、これか? 以前、リブチェフ・ラズの婦人会でアニャがもらってきたものなのだが、使わないというので、我が使用している」
“那个围裙是什么?”
「ああ、これか? 以前、リブチェフ・ラズの婦人会でアニャがもらってきたものなのだが、使わないというので、我が使用している」
“啊,是这个吗?这是以前在利布切夫·拉兹的妇女会上阿尼亚给我的东西,因为不使用,所以我在使用。”
「……」
「……」
 アニャがかけたら、さぞかし可愛かっただろう。マクシミリニャンの筋骨隆々の体に、フリルたっぷりのエプロンをかけた姿は違和感としか感じない。
アニャがかけたら、さぞかし可愛かっただろう。マクシミリニャンの筋骨隆々の体に、フリルたっぷりのエプロンをかけた姿は違和感としか感じない。
阿尼亚挂了,一定很可爱吧。在马克西米利尼亚筋骨隆隆的身体上,戴着满是褶边的围裙的样子只会让人感到不协调。
「何か、手伝うことはある?」
“有什么需要帮忙的吗?”
「もうすぐアニャが起きてくるから、家畜に餌を与えてくれ」
“阿尼亚马上就要起床了,你给牲口喂食吧。”
「了解」
“确定”
母屋のほうに行くと、アニャがやってきた。
我往开间走,阿尼亚来了。
 母屋のほうに行くと、アニャがやってきた。
「イヴァン、おはよう」
“伊凡,早上好。”
「おはよう、アニャ」
“早上好,阿尼亚。”
アニャはずんずんと接近し、俺の顔を覗き込んだ。
阿尼亚紧紧地靠近,窥视着我的脸。
 アニャはずんずんと接近し、俺の顔を覗き込んだ。
「うん。昨日よりはいいわね」
“嗯,比昨天好。”
「おかげさまで」
“托您的福。”
「どういたしまして。今日は、軟膏を塗ってあげるわ」
“不客气,今天我给你涂软膏。”
「ありがとう」
“谢谢。”
「それにしても、早いわね。どうしたの?」
“即便如此,也太早了。怎么了?”
「家畜の餌をやるっていうから、手伝おうと思って。俺、お手伝いしたがりさんだから」
“因为说要喂家畜,所以想帮忙。我是想帮忙的人。”
アニャが「安静に!」と言う前に、先制攻撃をしておく。すると、アニャは眉尻を下げながらも、噴きだし笑いをしてしまう。
在阿尼亚说“安静!”之前,先进行先发制人的攻击。于是,阿尼亚一边低着眉头,一边笑起来。
 アニャが「安静に!」と言う前に、先制攻撃をしておく。すると、アニャは眉尻を下げながらも、噴きだし笑いをしてしまう。
「わかったわ。こっちに来て」
“好的,过来。”
まずは物置に、飼料を取りに行く。アニャはランタンを持たずとも、薄暗い中をずんずん進んでいた。
首先去仓库拿饲料。阿尼亚即使没有灯笼,也在昏暗中不停地前进。
 まずは物置に、飼料を取りに行く。アニャはランタンを持たずとも、薄暗い中をずんずん進んでいた。
「春は、小麦と外皮を中心に、細麦を与えるのよ。毎日放牧もしているのだけれど、餌を与えていなかったら、山の木々が丸裸になってしまうから」
“春天,以小麦和外皮为中心,喂细麦。虽然每天都放牧,但是如果没有喂食的话,山上的树木就会变得光秃秃的。”
「なるほどね」
“原来如此。”
まずは、乳用の山羊から。小屋の中には、子山羊がいて、高い声で「めえめえ」と鳴いていた。
首先,从乳用的山羊开始。小屋里,有一只小山羊,高声叫着“哇”。
ここにいる山羊は、よく知る白い毛並みの山羊である。
这里的山羊是众所周知的白色毛山羊。
 まずは、乳用の山羊から。小屋の中には、子山羊がいて、高い声で「めえめえ」と鳴いていた。
 ここにいる山羊は、よく知る白い毛並みの山羊である。
「子山羊はもうすぐ草や葉を食べられるようになるから、その辺りからお乳を搾るの」
“小山羊马上就可以吃草和叶子了,所以要从那附近挤奶。”
 アニャは説明しながらも、山羊にテキパキと餌を与えていた。
 知り合いの山羊は、我先にと暴れるようにして餌を食べていたが、ここの山羊たちはのんびりしている。怖いという印象は、薄くなっていった。
アニャは説明しながらも、山羊にテキパキと餌を与えていた。
阿尼亚一边解释,一边给山羊喂食龙舌兰酒。
知り合いの山羊は、我先にと暴れるようにして餌を食べていたが、ここの山羊たちはのんびりしている。怖いという印象は、薄くなっていった。
认识的山羊争先恐后地狂暴地吃着食物,这里的山羊们却很悠闲。恐怖的印象越来越淡薄了。
「餌を食べている間に、掃除をするわよ。イヴァンは、水を汲んできて」
“吃东西的时候会打扫的。伊凡去打水。”
「はいはい」
“好的好的。”
山羊は地面に落ちた餌は食べないくらい、綺麗好きらしい。山羊の飼育でもっとも重要なのは、過ごしやすいよう清潔な環境を作ってやることなんだとか。
山羊喜欢干净到不吃掉在地上的食物。在山羊的饲养中最重要的是,为了方便生活而创造干净的环境。
 山羊は地面に落ちた餌は食べないくらい、綺麗好きらしい。山羊の飼育でもっとも重要なのは、過ごしやすいよう清潔な環境を作ってやることなんだとか。
 小屋に敷いてある藁ごと、糞などを回収する。これらは、肥料にするようだ。
小屋に敷いてある藁ごと、糞などを回収する。これらは、肥料にするようだ。
把铺在小屋里的稻草、粪便等回收。这些好像是肥料。
「山羊の糞はコロコロしていて、他の家畜に比べて手入れがしやすいのよ」
“山羊的粪便是咕噜咕噜的,比其他家畜容易保养。”
「確かに」
“确实。”
牛や豚の糞は水分を含んでいて、臭いも酷い。山羊の糞も臭いけれど、牛や豚に比べたらマシだ。
牛和猪的粪便含有水分,臭味也很严重。山羊的屎也很臭,但是和牛和猪相比就好了。
小屋に水を流し、しばし乾燥させる。
在小屋里冲水,暂时干燥。
山羊は、食事を終えたあとは山に放つらしい。日が暮れる前に、自主的に戻ってくるようだ。
山羊吃完饭好像会放在山上。天黑之前,好像会主动回来。
 牛や豚の糞は水分を含んでいて、臭いも酷い。山羊の糞も臭いけれど、牛や豚に比べたらマシだ。
 小屋に水を流し、しばし乾燥させる。
 山羊は、食事を終えたあとは山に放つらしい。日が暮れる前に、自主的に戻ってくるようだ。
続いて、肉用の山羊の小屋を掃除する。
接着,打扫肉用的山羊小屋。
 続いて、肉用の山羊の小屋を掃除する。
「あ、こっちの山羊は、耳が垂れているんだ」
“啊,这边的山羊耳朵耷拉着。”
毛並みは茶色やブチ、褐色など、さまざまな色合いがある。繁殖させて、リブチェフ・ラズに売りに行っているらしい。
头发有茶色、棕色、褐色等各种颜色。让它繁殖,好像是去卖给里布切夫·拉兹。
隣の小屋にいるのは、カシミア山羊とアンゴラ山羊である。共に、毛の採取を目的とした山羊だ。
旁边小屋里的是开司米山羊和安哥拉山羊。都是以采集毛发为目的的山羊。
カシミアの毛は真っ直ぐで、どこかおっとりした顔つきをしている。
开司米的毛很直,有一种大方的样子。
 毛並みは茶色やブチ、褐色など、さまざまな色合いがある。繁殖させて、リブチェフ・ラズに売りに行っているらしい。
アンゴラの毛はちぢれていて、目元も毛で覆われていた。
安哥拉的毛卷曲着,眼睛也被毛覆盖着。
 隣の小屋にいるのは、カシミア山羊とアンゴラ山羊である。共に、毛の採取を目的とした山羊だ。
 カシミアの毛は真っ直ぐで、どこかおっとりした顔つきをしている。
 アンゴラの毛はちぢれていて、目元も毛で覆われていた。
共に、この辺りでは見かけない品種である。昨日、マクシミリニャンが皇家より贈られたと話していた。
 共に、この辺りでは見かけない品種である。昨日、マクシミリニャンが皇家より贈られたと話していた。
都是这附近看不到的品种。昨天,他说马克西米莉娜是皇家赠送的
 最後は昨日見かけて驚いた、騎乗用の山羊である。
 近くで見ると、よりいっそう迫力があった。
 一頭は白く、もう一頭は黒い。
最後は昨日見かけて驚いた、騎乗用の山羊である。
最后是昨天看到的令人吃惊的骑乘用山羊。
近くで見ると、よりいっそう迫力があった。
在附近看,更有魄力。
一頭は白く、もう一頭は黒い。
一头是白色的,另一头是黑色的。
「これ、本当に大きいね」
“这个真大啊。”
「大角山羊っていう山羊なの。この辺りに、生息しているわ。崖を駆け上るのが得意で、どこまでも登ってくれるのよ」
“这是一只叫做大角山羊的山羊。栖息在这附近。擅长攀登悬崖,无论到哪里都能攀登。”
「そうなんだ」
“是啊。”
通常は騎乗できるような種類ではないものの、マクシミリニャンが独自に伝わる調教で、騎乗できるように躾けたものらしい。
虽然通常不是可以骑乘的种类,但据说是麦克西米利尼独自传达的调教,为了能骑乘而进行了训练。
 通常は騎乗できるような種類ではないものの、マクシミリニャンが独自に伝わる調教で、騎乗できるように躾けたものらしい。
「白い子が、クリーロ、黒い子が、センツァ。奥にいる灰色の赤ちゃんが、メーチェよ」
“白色的孩子是克里洛,黑色的孩子是森察。里面的灰色婴儿是梅切。”
「翼(クリーロ)に、影(センツァ)に、剣(メーチェ)、ね」
「翼、影、剑……」
メーチェはこの春、生まれたばかりらしい。赤ちゃんだというが、乳用山羊の成獣と同じくらいの大きさである。ここからさらに、大きくなるのだろう。
梅切今年春天好像刚出生。虽说是婴儿,但和乳用山羊的成兽差不多大。从这里开始会变得更大吧。
山羊の世話が終わったころには、太陽が地平線から顔を覗かせていた。
 メーチェはこの春、生まれたばかりらしい。赤ちゃんだというが、乳用山羊の成獣と同じくらいの大きさである。ここからさらに、大きくなるのだろう。
在山羊的照料结束的时候,太阳从地平线上露出了脸
 山羊の世話が終わったころには、太陽が地平線から顔を覗かせていた。
一日が、始まろうとしている
 一日が、始まろうとしている。
一天即将开始

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028.md

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と蕎麦の種まきをする
 飼育しているのは、山羊だけではなかった。
养蜂家的青年和蜜药师的女儿一起播种荞麦面
 鶏と犬もいた。
 鶏は黒い羽を持つ品種だった。十年から十五年も生きるらしい。卵と肉を目的に飼っているようだ。
 犬は母屋にいた。アニャの部屋で飼っているという。小型犬かと思いきや、熊みたいにでかい犬が出てきたので驚いた。
飼育しているのは、山羊だけではなかった。
饲养的不仅仅是山羊。
 毛量の多い犬で、茶色と黒の混じった毛並みをしている。
 ツヤツヤと輝く毛は、アニャが丁寧に手入れをしているのだろう。
鶏と犬もいた。
还有鸡和狗。
鶏は黒い羽を持つ品種だった。十年から十五年も生きるらしい。卵と肉を目的に飼っているようだ。
鸡是有黑色羽毛的品种。好像活了十到十五年。好像是以鸡蛋和肉为目的饲养的。
犬は母屋にいた。アニャの部屋で飼っているという。小型犬かと思いきや、熊みたいにでかい犬が出てきたので驚いた。
狗在主房。据说是在阿尼亚的房间里养的。原以为是小型犬,没想到却出现了像熊一样大的狗,吓了一跳。
毛量の多い犬で、茶色と黒の混じった毛並みをしている。
毛量大的狗,有茶色和黑色混合的毛。
ツヤツヤと輝く毛は、アニャが丁寧に手入れをしているのだろう。
闪闪发光的毛,是阿尼亚精心保养的吧。
「この子は、ヴィーテス。護畜犬なんだけれど、おっとりしていて、向いていなかったみたい。異国人が犬鍋にして食べたいって言っているところを、私が飼うって引き取ってきたのよ」
“这孩子是维特斯。虽然是护畜犬,但是很大方,好像不适合。外国人说想做狗锅吃的时候,我养了他回来。”
「そうだったんだ」
「原来是这样。」
初対面の俺に対して吠えもせず、それどころか頭を撫でただけでお腹を見せていた。
对初次见面的我也不叫,不仅如此,只是抚摸着头就让我看到了肚子。
護畜犬とは思えないほど人懐っこい。
与人亲近得不像是护畜犬。
普段は家で眠ったり、庭をのそのそ散歩したりしているのだという。驚くほど、普通の愛玩犬であった。
平时在家里睡觉,在院子里散步。令人吃惊的是,这是一只普通的宠物狗。
夜は、アニャを温めてくれるらしい。布団に入れて、一緒に寝ているのだとか。
 初対面の俺に対して吠えもせず、それどころか頭を撫でただけでお腹を見せていた。
晚上好像会给我加热。放进被子里一起睡觉之类的
 護畜犬とは思えないほど人懐っこい。
 普段は家で眠ったり、庭をのそのそ散歩したりしているのだという。驚くほど、普通の愛玩犬であった。
 夜は、アニャを温めてくれるらしい。布団に入れて、一緒に寝ているのだとか。
それにしても、異国では犬を鍋にして食べる文化があるとは……。
即便如此,在异国竟然有把狗做成锅吃的文化……。
 それにしても、異国では犬を鍋にして食べる文化があるとは……。
「お前、犬鍋にならなくて、よかったな」
“你没成为狗锅,真是太好了。”
「わっふ!」
“哇!”
そんなことを話しかけながら、朝食である牛の骨付き肉を与えた。
一边说着那样的话,一边给了作为早餐的牛的带骨头的肉。
 そんなことを話しかけながら、朝食である牛の骨付き肉を与えた。
 ◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
マクシミリニャンお手製の朝食を囲む。
围着马克西米利尼亚亲手做的早餐。
 マクシミリニャンお手製の朝食を囲む。
「たんと食べるがよい!」
“一下子吃吧!”
 食卓には、昨日アニャが焼いた蕎麦パンに昨晩の残りのスープ、蜂蜜に、スライスしたハムにオムレツが並べられている。
食卓には、昨日アニャが焼いた蕎麦パンに昨晩の残りのスープ、蜂蜜に、スライスしたハムにオムレツが並べられている。
餐桌上摆着昨天阿尼亚烤的荞麦面包和昨晚剩下的汤、蜂蜜、切片的火腿和煎蛋。
 オムレツは綺麗な形に焼き上がっている。剛腕のマクシミリニャンが作ったとはとても思えない。
 祈りを捧げたのちに、いただく。
オムレツは綺麗な形に焼き上がっている。剛腕のマクシミリニャンが作ったとはとても思えない。
煎蛋卷烤得很漂亮。我不认为这是铁腕马克西米莉娜做的。
祈りを捧げたのちに、いただく。
祈祷之后再吃。
「イヴァン、これ、オレンジの花の蜂蜜なの。食べてみて」
“伊凡,这是橘子花的蜂蜜。尝尝看。”
 山には百年ほど前にオレンジの木が植えられ、蜂蜜を採っているようだ。寒暖差の激しい気候から、甘い果実を生らすことはないが、おいしい蜂蜜は採れるらしい。
山には百年ほど前にオレンジの木が植えられ、蜂蜜を採っているようだ。寒暖差の激しい気候から、甘い果実を生らすことはないが、おいしい蜂蜜は採れるらしい。
山上大约一百年前种了橘子树,好像在采蜂蜜。在温差很大的气候下,虽然不会长出甜的果实,但好像能采到美味的蜂蜜。
蕎麦パンに塗り、頬張る。
涂在荞麦面面包上,大口吃。
 蕎麦パンに塗り、頬張る。
「――わっ、おいしい」
“——哇,真好吃。”
ほのかな酸味があり、あっさりしている。パンとの相性も抜群だ。
有淡淡的酸味,很清淡。和面包的搭配也很出众。
 ほのかな酸味があり、あっさりしている。パンとの相性も抜群だ。
「ヨーグルトに垂らしても、おいしいのよ。もう少ししたら、山羊のお乳が取れるから、作ってあげるわ」
“滴在酸奶里也很好吃。再过一会儿,山羊的奶就掉了,我给你做。”
「楽しみにしている」
“我很期待。”
ヨーグルトが作れるまで、ここにいるかは謎であるが。深く突っ込まないで返事だけしておいた。
在酸奶做好之前,在这里是个谜。没有深入,只回答了。
マクシミリニャン特製の、オムレツも絶品だった。卵はとろとろ半熟で、トマトソースに絡めて食べる。パンの上に載せて食べても、おいしかった。
马克西米利尼亚特制的煎蛋也是绝品。鸡蛋是粘糊糊的半熟,和番茄酱缠在一起吃。放在面包上吃也很好吃。
ハムは塩けが強かったが、これから汗を掻いて働くのでちょうどいいだろう。
 ヨーグルトが作れるまで、ここにいるかは謎であるが。深く突っ込まないで返事だけしておいた。
火腿的盐伤很重,但是接下来要出汗工作,正好吧
 マクシミリニャン特製の、オムレツも絶品だった。卵はとろとろ半熟で、トマトソースに絡めて食べる。パンの上に載せて食べても、おいしかった。
 ハムは塩けが強かったが、これから汗を掻いて働くのでちょうどいいだろう。
 しかし、アニャは口にした途端、マクシミリニャンに抗議する。
しかし、アニャは口にした途端、マクシミリニャンに抗議する。
但是,阿尼亚一开口就向马克西米利尼亚提出抗议。
「お父様、これ、スープ用のハムよ」
“爸爸,这是汤用的火腿。”
「む、そうであったか?」
“嗯,是这样吗?”
「塩辛いでしょう?」
“很咸吧?”
「言われてみれば、そうだな」
“说起来,是这样啊。”
どうやら、塩けの利いたハムではなく、スープ用に塩っ辛く仕上げたものだったようだ。
看来,不是放盐的火腿,而是做汤用的咸的。
 どうやら、塩けの利いたハムではなく、スープ用に塩っ辛く仕上げたものだったようだ。
「イヴァン、あなた、塩辛くなかったの?」
“伊凡,你不觉得咸吗?”
「ちょっと塩けが強いなとは思ったけれど、こういうものだと」
“我还以为盐有点重,原来是这样的。”
アニャはこめかみを押さえ、深いため息を返す。
阿尼亚按住太阳穴,发出深深的叹息。
 アニャはこめかみを押さえ、深いため息を返す。
「お父様は、たまにこういうことをやらかすの。もしも何か気づいたら、指摘してあげて」
“父亲偶尔会做这样的事。如果有什么发现的话,请指出。”
「はい」
“是的。”
ここは従順に、頷いておいた。
这里顺从地点头了。
 ここは従順に、頷いておいた。
「今日は、畑に蕎麦の種を植えに行って――それから蜂の巣箱を見に行くわ」
“今天去田里种荞麦种子——然后去看蜂箱。”
「ならばアニャ、イヴァン殿に、大角山羊の乗り方を教えてやってくれ」
“那嚒,阿尼亚,请告诉伊凡大人大角山羊的乘坐方法。”
「いいけれど、大丈夫?」
“没关系,没关系吗?”
「あまり、大丈夫ではないかも」
“可能不太好。”
馬の乗り方でさえ知らないのに、山羊に乗れというのは無謀ではないか。
连骑马的方法都不知道,骑山羊是不是太鲁莽了。
 馬の乗り方でさえ知らないのに、山羊に乗れというのは無謀ではないか。
「山羊も、嫌がらない?」
“山羊也不讨厌吗?”
「大丈夫よ。あの子達は、優しい子だから」
“没关系,那些孩子都是温柔的孩子。”
不安でしかないが、山羊が背中に乗せてくれることを祈るしかない。
虽然只是不安,但只能祈祷山羊能骑在背上。
 不安でしかないが、山羊が背中に乗せてくれることを祈るしかない。
「じゃあ、蜜蜂との付き合い方も、教えなければいけないわね」
“那嚒,我也得教你怎么和蜜蜂交往。”
「アニャ、イヴァン殿は養蜂家だ」
“阿尼亚,伊凡大人是养蜂人。”
「え、イヴァンは養蜂家なの!?」
「咦,伊凡是养蜂人吗!?」
アニャは瞳を見開き、俺を見る。
阿尼亚睁开眼睛,看着我。
 アニャは瞳を見開き、俺を見る。
「あれ、言ってなかったっけ?」
“咦,你没说吗?”
「言っていないわ!」
“我没说!”
マクシミリニャンは俺が話していると思い込み、俺はマクシミリニャンが話していると思っていたようだ。一番ダメなパターンである。
马克西米莉娜以为是我在说话,我好像以为是马克西米莉娜在说话。这是最不行的模式。
共に、アニャに謝罪した。
一起向阿尼亚道歉。
 マクシミリニャンは俺が話していると思い込み、俺はマクシミリニャンが話していると思っていたようだ。一番ダメなパターンである。
 共に、アニャに謝罪した。
「俺がしていたのは花から蜜を採る養蜂なんだ。野山の木々から蜜を採る養蜂は初めてで、いろいろ教えてもらうことになるけれど」
“我做的是从花中采蜜的养蜂。这是我第一次从山野的树木中采蜜的养蜂,我会教你很多东西。”
「大丈夫よ。蜜蜂との付き合い方を知っていたら、私が教えることは何もないわ。ほとんど、街のほうで行われている養蜂と、同じはずだから」
“没关系,如果我知道怎么和蜜蜂打交道,我就没什嚒可教的了。几乎和街上的养蜂一样。”
「だったら、よかった」
“那就好了。”
野草茶を飲みながら腹を休めたあと、アニャと共に畑に移動した。
一边喝着野草茶一边休息之后,和阿尼亚一起去了田地。
マクシミリニャンは、山のいたる場所に仕掛けている罠を見て回るらしい。
马克西米利尼亚好像在到处寻找设置在山上的陷阱。
 野草茶を飲みながら腹を休めたあと、アニャと共に畑に移動した。
 マクシミリニャンは、山のいたる場所に仕掛けている罠を見て回るらしい。
 罠猟で、獣肉を得ているようだ。
罠猟で、獣肉を得ているようだ。
通过陷阱狩猎,好像得到了兽肉。
「お父様、行ってらっしゃい」
“爸爸,您走好。”
「ああ、行ってくる」
“啊,我走了。”
「気を付けてね」
“请小心。”
アニャの言葉に、マクシミリニャンは背中を向けつつ手を振る。
面对阿尼亚的话,马克西米利尼亚一边背对着一边挥手。
 アニャの言葉に、マクシミリニャンは背中を向けつつ手を振る。
「さて、私達も、仕事をしましょう」
“那么,我们也工作吧。”
「そうだね」
“是啊。”
 農具を持ち、移動する。
 敷地内の石垣を登った先に、畑を作っているらしい。
農具を持ち、移動する。
拿着农具移动。
敷地内の石垣を登った先に、畑を作っているらしい。
登上用地内的石墙的地方,好像在种田。
「ここよ」
“在这里。”
想定よりもかなり広い畑があった。春はここで蕎麦とトマト、カボチャにズッキーニ、パプリカ、ラディッシュにカブなどの夏に収穫する野菜を育てるらしい。
有比预想的还要大的田地。春天在这里培育荞麦面、西红柿、南瓜、西葫芦、辣椒、萝卜等夏天收获的蔬菜。
 想定よりもかなり広い畑があった。春はここで蕎麦とトマト、カボチャにズッキーニ、パプリカ、ラディッシュにカブなどの夏に収穫する野菜を育てるらしい。
「蕎麦は来週蒔くつもりだったけれど、ついでにやっちゃうわ。イヴァンの蕎麦は、一番端のほうに蒔いてくれる?」
「わかった」 
“本来打算下个星期种荞麦面的,顺便做一下吧。伊凡的荞麦面,能给我在最边上种吗?”
「わかった」
「明白了。」
 蕎麦は春蒔きと秋蒔きの、年二回育てることができる。
蕎麦は春蒔きと秋蒔きの、年二回育てることができる。
 この辺りでは、春に種を蒔いているようだ。
荞麦面是春播和秋播,一年可以培育两次
 我が国の蕎麦の歴史は長い。十四世紀頃に伝播(でんぱし)たと言われている
この辺りでは、春に種を蒔いているようだ
 小麦と大麦の間に育てられることから、農民の間で瞬く間に広がっていったらしい
这附近好像在春天播种
 蕎麦はパン作りに使われたり、パン粉代わりにまぶされたり。練って湯がいたものを食べたりと、料理の幅も広い。国民食と言っても過言ではないだろう。
 革袋の種を蒔き終えると、アニャの種蒔きも手伝う。
 たっぷり水を与えたら、あとは芽吹くのを待つばかりだ。
我が国の蕎麦の歴史は長い。十四世紀頃に伝播(でんぱし)たと言われている。
我国的荞麦面历史悠久。据说是十四世纪左右传播的。
小麦と大麦の間に育てられることから、農民の間で瞬く間に広がっていったらしい。
因为是在小麦和大麦之间培育的,所以在农民之间瞬间蔓延开来。
蕎麦はパン作りに使われたり、パン粉代わりにまぶされたり。練って湯がいたものを食べたりと、料理の幅も広い。国民食と言っても過言ではないだろう。
荞麦面是用来做面包的,也可以代替面包粉。吃了搅拌好的有热水的东西,料理的范围也很广。说是国民食品也不为过。
革袋の種を蒔き終えると、アニャの種蒔きも手伝う。
把皮袋里的种子播完后,还帮阿尼亚播种。
たっぷり水を与えたら、あとは芽吹くのを待つばかりだ。
给了足够的水,剩下的就等着发芽了。
「イヴァン、あなた、手持ちの種を全部植えてよかったの?」
“伊凡,你能把手里的种子全部种下来吗?”
「持っていても、仕方がないし」
“拿着也没办法。”
「そう」
“是的。”
 しばし、種を植えた畑を眺める。
しばし、種を植えた畑を眺める。
暂时眺望种了种子的田地。
蕎麦は種蒔きから発芽まで、だいだい早くて一週間くらいか。
荞麦面从播种到发芽,最早也要一周左右。
三日でというと、奇跡に近いのかもしれない。
如果说是三天的话,也许接近奇迹了。
 蕎麦は種蒔きから発芽まで、だいだい早くて一週間くらいか。
 三日でというと、奇跡に近いのかもしれない。
「アニャ、蕎麦の芽は、三日以内に出てくると思う?」
“阿尼亚,你觉得荞麦的芽会在三天之内长出来吗?”
「さあ?」
“来吧?”
神のみぞ知るものなのだろう。しかし、アニャは言葉を付け加える。
只有神才知道吧。但是,阿尼亚附加了一句话。
 神のみぞ知るものなのだろう。しかし、アニャは言葉を付け加える。
「でも、芽が出てきたら、いいわね」
“但是,如果发芽的话就好了。”
「うん」
“嗯。”
ここが俺にとって永遠の土地となるかは、蕎麦の芽次第。
这里对我来说是永远的土地,取决于荞麦的芽。
あとは、三日間待つばかりだろう。
只剩下等三天了吧。
 ここが俺にとって永遠の土地となるかは、蕎麦の芽次第。
 あとは、三日間待つばかりだろう。
 ◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
種蒔きが終わったら、大角山羊の騎乗方法を教えてもらう。
播种结束后,请告诉我大角山羊的骑乘方法。
 種蒔きが終わったら、大角山羊の騎乗方法を教えてもらう。
「基本的には、馬の背中に跨がるのと同じよ。鞍を装着して、頭絡(とうらく)を付けて、手綱で操るの」
“基本上就像跨在马背上一样。装上鞍,戴上头络,用缰绳操纵。”
アニャは手慣れた様子で、大角山羊に装着していく。
阿尼亚用习惯了的样子,装在大角山羊上。
そして、鐙(あぶみ)を踏んで騎乗して見せた。
然后,踩着马镫骑给他看。
 アニャは手慣れた様子で、大角山羊に装着していく。
 そして、鐙(あぶみ)を踏んで騎乗して見せた。
「ね、簡単でしょう?」
“啊,很简单吧?”
その言葉に、「見ているだけだったら」と返した。
 その言葉に、「見ているだけだったら」と返した。
对那句话,他回答说:“如果只是看着的话。”

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養蜂家の青年は、大角山羊に騎乗する
 見たこともないくらいドでかい山羊を前に、たじろぐ。
养蜂青年骑大角山羊
見たこともないくらいドでかい山羊を前に、たじろぐ。
面对着从未见过的巨大山羊,畏缩着。
黒い大山羊、センツァは欠片も、俺を気にしていなかった。
黑色的大山羊,森察连碎片都不在乎我。
それにしても、見事な角だ。これでなぎ払われた日には、体はぶっ飛んで即死だろう。
即便如此,这也是一个漂亮的角。在这样被赶走的日子里,身体会飞走当场死亡吧。
 黒い大山羊、センツァは欠片も、俺を気にしていなかった。
 それにしても、見事な角だ。これでなぎ払われた日には、体はぶっ飛んで即死だろう。
「まずは、センツァに挨拶するの。山羊は、額で挨拶をするのよ」
“首先,要向圣察打招呼。山羊要用额头打招呼。”
「そう、だったんだ」
“是的。”
以前、山羊の世話に行ったとき、山羊に何度も頭突きをされた記憶がある。あれは、挨拶だったのか。山羊は力が強い。しゃがみ込んでいるときに頭突きをされて、盛大に転んだ覚えもある。
我记得以前去照顾山羊的时候,被山羊撞了好几次头。那是打招呼吗。山羊力气很大。还记得蹲下的时候头被戳了一下,摔得很严重。
この大山羊に頭突きなんかされた日には、俺の額が割れて出血するのでは?
被这只大山羊撞到头的那天,我的额头会裂开出血吗?
 以前、山羊の世話に行ったとき、山羊に何度も頭突きをされた記憶がある。あれは、挨拶だったのか。山羊は力が強い。しゃがみ込んでいるときに頭突きをされて、盛大に転んだ覚えもある。
 この大山羊に頭突きなんかされた日には、俺の額が割れて出血するのでは?
恐ろし過ぎる。
太可怕了。
 恐ろし過ぎる。
「まずは声をかけて、鼻先から額にかけて優しく撫でるのよ」
“先打招呼,从鼻尖到额头温柔地抚摸。”
「了解」
“确定”
できれば近づきたくないけれど、こちらが怖がったら山羊も不安になる。こうなったら、開き直るしかない。
如果可能的话,我不想靠近,但是如果我害怕的话,山羊也会不安。这样的话,只能重新打开。
 できれば近づきたくないけれど、こちらが怖がったら山羊も不安になる。こうなったら、開き直るしかない。
山羊は友達! 山羊は友達! 山羊は友達!
 山羊は友達! 山羊は友達! 山羊は友達!
山羊是朋友!山羊是朋友!山羊是朋友
 心の中で何度も言い聞かせ、一歩、一歩と接近する。
心の中で何度も言い聞かせ、一歩、一歩と接近する。
在心中反复劝说,一步一步地接近。
センツァはやっと俺を見た。細い長方形の瞳孔が、ただ一点に向けられている。
森察终于看见我了。细长的长方形瞳孔,只朝向一点。
 センツァはやっと俺を見た。細い長方形の瞳孔が、ただ一点に向けられている。
「やあ、センツァ。いい天気だね」
「哎呀,森察,天气真好啊。」
自分でも驚くほど、棒読みになってしまった。
 自分でも驚くほど、棒読みになってしまった。
连自己都吃惊地直读了
 少し離れた場所で見守っていたアニャが、口元を押さえて笑っている様子を視界の端で捉える。集中力が途切れるので、角度を変えて彼女が入らないようにした。 
少し離れた場所で見守っていたアニャが、口元を押さえて笑っている様子を視界の端で捉える。集中力が途切れるので、角度を変えて彼女が入らないようにした。
 まず、拳を差し出して匂いを嗅がせる。犬は、たいていこれをすれば受け入れてくれる。山羊に通用するのかはわからないけれど。
在稍远的地方守护着的阿尼亚,用视野的边缘捕捉到捂住嘴角笑着的样子。注意力中断,换个角度让她别进去。
まず、拳を差し出して匂いを嗅がせる。犬は、たいていこれをすれば受け入れてくれる。山羊に通用するのかはわからないけれど。
首先,伸出拳头让他闻到味道。狗一般都会接受这个。虽然不知道对山羊通用。
センツァは興味があるのか、くんくん嗅いでくる。そして、ペロリと舐めた。
你有兴趣吗。然后,舔了一下。
声が出そうになったが、ぐっと我慢した。
虽然想发出声音,但还是忍住了。
 センツァは興味があるのか、くんくん嗅いでくる。そして、ペロリと舐めた。
 声が出そうになったが、ぐっと我慢した。
「イヴァン、ペロペロ舐めるのも、山羊の挨拶なの」
“伊凡,舔胡椒也是山羊的问候。”
「そうなんだ」
“是啊。”
ひとまず、挨拶を返してくれたので、鼻先から額にかけて撫でてあげた。
首先,因为打了招呼,所以从鼻尖到额头抚摸了他。
 ひとまず、挨拶を返してくれたので、鼻先から額にかけて撫でてあげた。
アニャがもっと強くしてもいいというので、爪を立ててガシガシ掻くように撫でてやる。すると、気持ちがいいのか、目を細めていた。
因为阿尼亚可以再用力一点,所以我会竖起指甲用力抚摸。于是,也许是心情好,眯着眼睛。
 アニャがもっと強くしてもいいというので、爪を立ててガシガシ掻くように撫でてやる。すると、気持ちがいいのか、目を細めていた。
「慣れてきたら、顎の下や頬を撫でてあげて」
“习惯了的话,请抚摸下巴和脸颊。”
「了解」
“确定”
額を右手でガシガシ撫で、左手で顎の下を優しく撫でてやる。お気に召したのか、もっとやれと接近してきた。
用右手抚摸额头,用左手温柔地抚摸下巴下面。也许是您喜欢,我更接近了。
 額を右手でガシガシ撫で、左手で顎の下を優しく撫でてやる。お気に召したのか、もっとやれと接近してきた。
「もう、それくらいでいいわ。センツァはきっと、あなたを背中に乗せてくれるはず」
「就这样就好了,森察一定会把你放在我的背上的。」
「そう、よかった」
“是,太好了。”
ホッと胸をなで下ろしていたら、センツァは額を寄せてきた。
松了一口气,森察把额头凑了过来。
巨大な角も迫り、悲鳴を上げたい気持ちをぐっと抑える。
巨大的角也迫近,一下子抑制了想发出悲鸣的心情。
 ホッと胸をなで下ろしていたら、センツァは額を寄せてきた。
 巨大な角も迫り、悲鳴を上げたい気持ちをぐっと抑える。
すると、センツァは額と額を軽く合わせて、優しくスリスリとすり寄ってきた
 すると、センツァは額と額を軽く合わせて、優しくスリスリとすり寄ってきた。
于是,森察把额头和额头轻轻地合在一起,温柔地和扒手擦了过来。
こんなに大きな体なのに、人間が非力で弱い生き物だとわかっているのだろう。
明明是这么大的身体,却知道人类是无力而脆弱的生物吧。
山羊について、ずっと思い違いをしていた。個人的に誤解していただけで、心優しい存在であった。
关于山羊,我一直想错了。只是个人误解了,是心地善良的存在。
 こんなに大きな体なのに、人間が非力で弱い生き物だとわかっているのだろう。
 山羊について、ずっと思い違いをしていた。個人的に誤解していただけで、心優しい存在であった。
「じゃあ、頭絡の付け方を教えるわね」
「那嚒,我来教你戴头巾吧。」
手綱を首にかけ、まずははみを口に銜えさせ、噛ませる。頭部にベルトを合わせ、項部分のベルトを締める。次に、鼻部分のベルトを締め、最後に喉部分のベルトを締めるようだ。
把缰绳挂在脖子上,首先让它叼在嘴里,让它咬。将腰带对准头部,收紧部分腰带。接着,收紧鼻子部分的腰带,最后收紧喉咙部分的腰带。
 手綱を首にかけ、まずははみを口に銜えさせ、噛ませる。頭部にベルトを合わせ、項部分のベルトを締める。次に、鼻部分のベルトを締め、最後に喉部分のベルトを締めるようだ。
「喉元は、きっちり締めなくてもいいわ。指が一本か二本、通るくらいベルトに余裕を持って」
“喉咙不用紧紧地勒紧,只要有一两根手指,腰带就足够了。”
「わかった」
「明白了。」
山羊に頭絡を付けるなんて、ありえない。嫌がるだろうと思っていたが、案外すんなり受け入れている。いったいどうやって躾けたのか、謎が深まる。
给山羊戴上头巾,这是不可能的。原以为会讨厌,没想到很顺利地接受了。到底是怎么教育的,谜团越来越深。
 山羊に頭絡を付けるなんて、ありえない。嫌がるだろうと思っていたが、案外すんなり受け入れている。いったいどうやって躾けたのか、謎が深まる。
頭絡を付け終わったら、鞍を装着する。これも、センツァは嫌がらずに受け入れた。
戴完头巾后,戴上马鞍。这也是,森察不厌其烦地接受了。
準備が整うと、ついに騎乗する段階までたどり着いてしまう。
准备好了,终于到达了骑乘的阶段。
 頭絡を付け終わったら、鞍を装着する。これも、センツァは嫌がらずに受け入れた。
 準備が整うと、ついに騎乗する段階までたどり着いてしまう。
「乗り方は、片足で鐙を踏んで、一気に上がるの。躊躇っていたら山羊の負担になるから、一気にサッと上がるのよ」
“乘坐方法是用一只脚踩着马镫,一口气爬上去。犹豫的话会给山羊带来负担,所以要一口气爬上去。”
アニャはそう行って、白い大山羊クリーロに軽々と跨がっていた。
阿尼亚就这样走了,轻盈地跨过白色的大山羊克里洛。
 アニャはそう行って、白い大山羊クリーロに軽々と跨がっていた。
「さあ、イヴァンも乗ってみて」
“来吧,伊凡也上车看看。”
「うん」
“嗯。”
準備が終わって尚、乗れる気がしないがやるしかない。
准备结束了,虽然不觉得能乘坐,但只能做了。
センツァの額をガシガシ撫で、頼んだぞと声をかけてから乗ってみる。
抚摸着桑察的额头,说拜托了之后再上车。
 準備が終わって尚、乗れる気がしないがやるしかない。
 センツァの額をガシガシ撫で、頼んだぞと声をかけてから乗ってみる。
手綱を手にした状態で鐙に足をかけ、一気に上がった。鞍に跨がり、腰を下ろす。
在拿着缰绳的状态下,脚踏在马镫上,一口气爬了上去。跨上鞍,坐下。
 手綱を手にした状態で鐙に足をかけ、一気に上がった。鞍に跨がり、腰を下ろす。
「うわ、乗れた」
“哇,上车了。”
「いいじゃない」
“不是很好吗?”
操縦は馬と一緒らしい。しかし、乗馬なんてしたことがない。そう答えると、アニャは操縦方法を教えてくれた。
操纵好像和马一样。但是,我没有骑过马。这样回答后,阿尼亚告诉了我操纵方法。
 操縦は馬と一緒らしい。しかし、乗馬なんてしたことがない。そう答えると、アニャは操縦方法を教えてくれた。
「歩かせるときは、左右の踵でお腹をポン! って蹴るの。軽く走らせたいときは、お腹をポンポン! って蹴る。曲がる時は、曲がりたい方向の手綱を引くのよ。止まるときは、少し立ち上がって手綱を引く。わかった?」
“让他走路的时候,要用左右脚后跟踢肚子。想让他轻轻跑的时候,要踢肚子。拐弯的时候,要拉想拐弯的方向的缰绳。停下来的时候,稍微站起来拉缰绳。明白了吗?”
「歩かせるときは、左右の踵でお腹をポン! って蹴るの。軽く走らせたいときは、お腹をポンポン! って蹴る。曲がる時は、曲がりたい方向の手綱を引くのよ。止まるときは、少し立ち上がって手綱を引く。わかった?」
「やってみる」
“试试看。”
アニャが教えてくれたとおり、センツァの腹を踵で軽く蹴った。すると、ゆっくり歩き始める。
正如阿尼亚告诉我的那样,用脚后跟轻轻地踢了一下森察的肚子。于是,慢慢地开始走。
庭をぐるぐる周り、時折軽く走ってみせた。センツァは従順で、きちんと指示に従ってくれる。
在院子里转来转去,偶尔跑得很轻。森察很顺从,很好地听从指示。
 アニャが教えてくれたとおり、センツァの腹を踵で軽く蹴った。すると、ゆっくり歩き始める。
 庭をぐるぐる周り、時折軽く走ってみせた。センツァは従順で、きちんと指示に従ってくれる。
「イヴァン、上手じゃない」
“伊凡,你做得不好。”
 ただ、ここで喜んではいけない。もう一段階、試練があるのだ。
 それは、崖を登ること。考えただけでも、身が竦んでしまう。
ただ、ここで喜んではいけない。もう一段階、試練があるのだ。
只是,不要在这里高兴。还有一个阶段,有考验。
それは、崖を登ること。考えただけでも、身が竦んでしまう。
那就是攀登悬崖。光是想想,身体就蜷缩起来了。
崖を登るときは、木で作った笛で合図を出すらしい。紐が付いた、平たい笛である。
登悬崖的时候,好像是用木头做的笛子发出信号。是带着绳子的扁平的笛子。
 崖を登るときは、木で作った笛で合図を出すらしい。紐が付いた、平たい笛である。
「これ、使っていないものだから、どうぞ」
“这是没用的东西,请用。”
「ありがとう」
“谢谢。”
受け取ったあと、アニャは信じられないことを言った。
收到后,阿尼亚说了一句难以置信的话。
 受け取ったあと、アニャは信じられないことを言った。
「じゃあ、今から崖を登りましょうか」
“那么,我们现在开始攀登悬崖吧。”
まだ崖を登ってもいないのに、肝がスッと冷えた。
 まだ崖を登ってもいないのに、肝がスッと冷えた。
还没爬上悬崖,肝就一下子凉了

574
030.md

@ -1,307 +1,733 @@
養蜂家の青年は、大角山羊と共に崖を駆け上がる
 大角山羊に跨がり、アニャのあとに続いて山道を走る。
养蜂青年和大角山羊一起跑上悬崖
大角山羊に跨がり、アニャのあとに続いて山道を走る。
跨过大角山羊,在阿尼亚之后继续走山路。
道は当然真っ直ぐでなければ、石畳で整えられたものでもない。ぐねぐねに曲がる獣道で、眼前に木が迫る恐怖と戦いながら進んでいく。
道路当然不是笔直的,也不是用石阶整理的。在弯弯曲曲的兽道上,与眼前树木逼近的恐怖战斗着前进。
突き出た木の枝が、頬を叩く。
突出的树枝敲打着脸颊。
 道は当然真っ直ぐでなければ、石畳で整えられたものでもない。ぐねぐねに曲がる獣道で、眼前に木が迫る恐怖と戦いながら進んでいく。
 突き出た木の枝が、頬を叩く。
「痛った!」
“好痛!”
子どものころいたずらをして、母に叱られて叩かれたときより痛かった。
比小时候淘气,被母亲责骂被打的时候更痛。
枝を避ける技術を習得しないと、頬を切ってしまうだろう。気を付けなければ。
 子どものころいたずらをして、母に叱られて叩かれたときより痛かった。
如果你不学会躲避树枝的技巧,你会把你的脸颊割破的。如果不注意的话
 枝を避ける技術を習得しないと、頬を切ってしまうだろう。気を付けなければ。
 景色がものすごい速さでくるくる変わっていく。苦労して登った坂道を、センツァは一瞬で駆け上がった。
 さすがの脚力である。大角山羊に乗って移動する意味を、身をもって理解した。
景色がものすごい速さでくるくる変わっていく。苦労して登った坂道を、センツァは一瞬で駆け上がった。
景色以惊人的速度不断变化。在艰难攀登的坡道上,森察一瞬间跑了上去。
さすがの脚力である。大角山羊に乗って移動する意味を、身をもって理解した。
不愧是脚力。亲身体会到了乘坐大角山羊移动的意义。
十分ほど走ると、ごつごつとした岩場にたどり着いた。
跑了十分钟左右,到达了凹凸不平的岩石场。
崖というほど断崖絶壁ではないものの、上へ上へと重なり合った岩は人が自力で登れるような場所ではない。
虽然不是悬崖那样的悬崖峭壁,但是向上重叠的岩石并不是人能靠自己的力量攀登的地方。
 十分ほど走ると、ごつごつとした岩場にたどり着いた。
 崖というほど断崖絶壁ではないものの、上へ上へと重なり合った岩は人が自力で登れるような場所ではない。
「イヴァン、見本を見せるわね」
“伊凡,我给你看样东西。”
アニャは笛を銜え、短く吹いた。すると、クリーロは膝を曲げ、岩に向かって跳んだ。
阿尼亚叼着笛子,吹得很短。于是,克里洛弯下膝,朝着岩石跳去。
 アニャは笛を銜え、短く吹いた。すると、クリーロは膝を曲げ、岩に向かって跳んだ。
「うわっ!!」
“哇!!”
 俺が登ったわけではないのに、声をあげてしまう。美しい弧を描くように、跳んでいったのだ。クリーロの体はブレることなく、岩場に着地する。あんなに大きな体なのに、驚くほど安定していた。
 軽やかな足取りで、どんどん上へ上へと登っている。信じがたい光景を、目にしていた。
俺が登ったわけではないのに、声をあげてしまう。美しい弧を描くように、跳んでいったのだ。クリーロの体はブレることなく、岩場に着地する。あんなに大きな体なのに、驚くほど安定していた。
明明不是我爬上去的,却发出了声音。就像画出美丽的弧线一样,跳了下去。克里洛的身体不会摇晃,而是降落在岩石上。明明是那么大的身体,却惊人地稳定了。
軽やかな足取りで、どんどん上へ上へと登っている。信じがたい光景を、目にしていた。
迈着轻快的步伐,不断往上爬。看到了难以相信的情景。
「嘘だろう?」
“是骗人的吧?”
これを、今からしないといけないのだ。ただ乗っているだけではダメなのだろう。
从现在开始必须做这个。只是坐着是不行的吧。
岩場を登るアニャの体は、ほぼ垂直になっていた。いったいどのようにして均衡を取っているのか。理解できない。
攀登岩场的阿尼亚的身体几乎垂直。到底是如何取得平衡的。不能理解。
大角山羊に出す指示しか聞いていなかった。騎乗している側の心得も、何かあっただろう。もう、アニャの姿は小さくなっている。今更聞けない。
我只听了大角山羊的指示。骑乘者方面的心得也发生了什么吧。阿尼亚的身影已经变小了。事到如今听不下去了。
改めて、岩場を見上げる。ヒュンと、心臓が縮んだ気がした。
再次仰望岩场。我感觉心脏收缩了。
岩はごつごつしているうえに、ところどころナイフのように鋭く尖っていた。もしもセンツァの背中から落下したら、大怪我を負うどころか生きているかでさえ怪しい。
岩石凹凸不平,而且到处像小刀一样锋利。如果从沙皇的背上掉下来的话,别说受了重伤,就连活着都很奇怪。
アニャは岩場の頂(いただき)にたどり着いたようで、ぶんぶんと手を振っている。
阿尼亚好像到达了岩场的山顶,轻轻地挥手致意。
かすかに、声が聞こえた。「イヴァンも、早く登りなさいよ!」と。
我听到了微弱的声音。“伊凡也快点爬吧!”。
なんて恐ろしいことを言っているのか。
 これを、今からしないといけないのだ。ただ乗っているだけではダメなのだろう。
你说的多么可怕
 岩場を登るアニャの体は、ほぼ垂直になっていた。いったいどのようにして均衡を取っているのか。理解できない。
 大角山羊に出す指示しか聞いていなかった。騎乗している側の心得も、何かあっただろう。もう、アニャの姿は小さくなっている。今更聞けない。
 改めて、岩場を見上げる。ヒュンと、心臓が縮んだ気がした。
センツァは早く岩場を登りたいのだろう。前脚をジタバタと動かし始めた。
 岩はごつごつしているうえに、ところどころナイフのように鋭く尖っていた。もしもセンツァの背中から落下したら、大怪我を負うどころか生きているかでさえ怪しい。
森察想早点登岩场吧。前脚开始吧嗒吧嗒地移动
 アニャは岩場の頂(いただき)にたどり着いたようで、ぶんぶんと手を振っている。
 かすかに、声が聞こえた。「イヴァンも、早く登りなさいよ!」と。
 なんて恐ろしいことを言っているのか。
覚悟を決めるしかない。
只有下定决心。
 センツァは早く岩場を登りたいのだろう。前脚をジタバタと動かし始めた。
 覚悟を決めるしかない。
「よし、行くぞ」
“好,我走了。”
覚悟を口にしたのちに、笛を銜える。歯が、ガタガタ震えているのに気づいてしまった。まったく、情けないものである。
做好心理准备后,叼着笛子。我注意到牙齿在发抖。真是可怜。
アニャは大した勇気の持ち主だ。あんな岩場を、平然と登っていくなんて。
阿尼亚是个很有勇气的人。竟然能坦然地登上那样的岩场。
 覚悟を口にしたのちに、笛を銜える。歯が、ガタガタ震えているのに気づいてしまった。まったく、情けないものである。
 アニャは大した勇気の持ち主だ。あんな岩場を、平然と登っていくなんて。
 俺なんか、「登り切ったら金貨一枚あげる」と言われても、速攻で断るだろう。
俺なんか、「登り切ったら金貨一枚あげる」と言われても、速攻で断るだろう。
像我这样,即使被说“爬完就给你一枚金币”,也会用快攻拒绝吧。
はーーとため息を吐いただけのつもりが、笛の音が鳴ってしまった。
虽然只是叹气,但是笛子的声音响了。
センツァは「待っていました!」とばかりに、「メエ!」と高く鳴いた。
“我在等你!”。
 はーーとため息を吐いただけのつもりが、笛の音が鳴ってしまった。
 センツァは「待っていました!」とばかりに、「メエ!」と高く鳴いた。
「どわっ!!」
“哇!!”
 センツァは岩場に向かって大跳躍を見せてくれる。
 空中滑走した瞬間、心臓は確実に半分ほどに縮んだだろう。生きた心地がまったくしなかった。
 いつ、岩場へ着地したのかは、よくわからなかった。それくらい、衝撃が伝わってこなかったのだ。
センツァは岩場に向かって大跳躍を見せてくれる。
森察向岩场展示了大跳跃。
空中滑走した瞬間、心臓は確実に半分ほどに縮んだだろう。生きた心地がまったくしなかった。
在空中滑行的瞬间,心脏确实缩小了一半左右。完全没有活着的感觉。
いつ、岩場へ着地したのかは、よくわからなかった。それくらい、衝撃が伝わってこなかったのだ。
不知道是什么时候降落在岩场的。那样的程度,冲击没有传达过来。
体は傾き、少しでも腿の力を緩めたらセンツァの背中から落ちてしまうだろう。一瞬たりとも、気を抜けない。
身体倾斜,稍微放松一下大腿的力量的话,就会从中心的背上掉下来吧。一瞬间也不能放松。
早く岩場の頂へたどり着きたい。その思いから、笛をもう一度吹く。
我想早点到达岩场的山顶。从那个想法开始,再吹一次笛子。
 体は傾き、少しでも腿の力を緩めたらセンツァの背中から落ちてしまうだろう。一瞬たりとも、気を抜けない。
 早く岩場の頂へたどり着きたい。その思いから、笛をもう一度吹く。
「うわぁ!!」
“哇!!”
 跳躍時に体が引っ張られる感覚は、なんと表現したらいいのか。
跳躍時に体が引っ張られる感覚は、なんと表現したらいいのか。
 木から落ちるときに似ているような気がした。体の中心がスーッと冷えていくような、不安感に襲われる。
跳跃时身体被拉扯的感觉,该怎么表达才好呢
 二回目に着地した岩場は、一回目よりも足場が不安定だった。体がこれでもかと、傾いている。怖いので、三回目の笛を吹いた。
木から落ちるときに似ているような気がした。体の中心がスーッと冷えていくような、不安感に襲われる
我感觉和从树上掉下来的时候很像。身体的中心突然变冷,被不安感袭击。
 上に、上にと昇っていくにつれて、体が後ろへ引っ張られる。上体を前に保っていないと、転げ落ちてしまう。
 もう、岩場で制止している時間は不要だ。一刻も早く、登りきりたい。でないと、腿の筋肉が限界を迎えてしまう。
二回目に着地した岩場は、一回目よりも足場が不安定だった。体がこれでもかと、傾いている。怖いので、三回目の笛を吹いた。
 跳躍と着地をタン、タン、タンの間隔から、タンタンタンの間隔に変える
第二次落地的岩场,脚手架比第一次更不稳定。身体倾斜着。因为害怕,所以吹了第三次笛子
 あまりにも早すぎて、自分がどういう状態にあるのかわからなくなってしまった。
 恐怖は岩場のどこかに落としてしまったのか。
 もはや何も感じなくなってしまう。
上に、上にと昇っていくにつれて、体が後ろへ引っ張られる。上体を前に保っていないと、転げ落ちてしまう。
随着向上、向上升起,身体被向后拉。如果不把上身保持在前面,就会滚下去。
もう、岩場で制止している時間は不要だ。一刻も早く、登りきりたい。でないと、腿の筋肉が限界を迎えてしまう。
已经不需要在岩场制止的时间了。我想尽快爬完。不然的话,腿的肌肉就会迎来极限。
跳躍と着地をタン、タン、タンの間隔から、タンタンタンの間隔に変える。
把跳跃和着地从舌、舌、舌的间隔变成舌的间隔。
あまりにも早すぎて、自分がどういう状態にあるのかわからなくなってしまった。
太早了,不知道自己处于什么状态了。
恐怖は岩場のどこかに落としてしまったのか。
恐怖是落在岩石上的什么地方了吗。
もはや何も感じなくなってしまう。
已经什么都感觉不到了。
「はあ、はあ、はあ、はあ!!」
“哈、哈、哈、哈!!”
やっとのことで、岩場を登り切った。
好不容易爬完了岩场。
岩場の頂には、豊かな木々が生い茂っている。そして、灰色熊のカーニオランが、目の前を通過していった。
岩场的山顶上生长着茂密的树木。然后,灰熊的卡尼奥兰从眼前通过。
新緑に芽吹く花に留まり、蜜を集めているようだった。
停留在新绿中发芽的花上,好像在收集蜜。
 やっとのことで、岩場を登り切った。
 岩場の頂には、豊かな木々が生い茂っている。そして、灰色熊のカーニオランが、目の前を通過していった。
 新緑に芽吹く花に留まり、蜜を集めているようだった。
美しい光景に、ただただ見とれてしまう
 美しい光景に、ただただ見とれてしまう。
被美丽的景象所吸引
「イヴァン、やったじゃない! 初めてにしては、上出来よ!」
「イヴァン、やったじゃない! 初めてにしては、上出来よ!」
“伊凡,你不是做了吗!第一次做的话,做得很好!”
アニャの声を耳にした瞬間、やっと我に返る。そして、ドッと全身に汗を掻いた。
听到阿尼亚的声音的瞬间,终于回过神来。然后,全身都出汗了。
 アニャの声を耳にした瞬間、やっと我に返る。そして、ドッと全身に汗を掻いた。
「俺、岩場を、登ってきた?」
“我爬到岩场了吗?”
「ええ。勇敢だったわ」
「是的,我很勇敢。」
勇敢、だっただろうか。ひたすら、戦々恐々としていただけのような気もする。
勇敢吗。也有一种只是战战兢兢的感觉。
頑張ったのは俺ではなく、センツァだろう。
努力了的不是我,是森察吧。
 勇敢、だっただろうか。ひたすら、戦々恐々としていただけのような気もする。
 頑張ったのは俺ではなく、センツァだろう。
 センツァの背中から下り、鼻先から額にかけて撫でてやった。
センツァの背中から下り、鼻先から額にかけて撫でてやった。
从圣察的背上下来,从鼻尖到额头抚摸他。
「センツァ、よく、やった」
“森察,干得好。”
褒めると、目を細めて低い声で「メエ!」と鳴く。
称赞的话,眯起眼睛低声地叫「mee!」。
センツァとクリーロは、しばしこの辺に放すらしい。笛を連続で五回鳴らしたら、戻ってくるという。それまで、自由にさせるようだ。
森察和克里洛好像暂时放在这附近。据说如果连续鸣笛五次,就会回来。在那之前,好像让他自由。
手綱を放すと、手が真っ赤だった。きっと、命綱のように思いながら力いっぱい握っていたのだろう。
放开缰绳,手通红。一定是像救生索一样一边想着一边用力地握着吧。
 褒めると、目を細めて低い声で「メエ!」と鳴く。
一歩、前に踏み出そうとしたが、足が動かない
 センツァとクリーロは、しばしこの辺に放すらしい。笛を連続で五回鳴らしたら、戻ってくるという。それまで、自由にさせるようだ。
虽然想向前迈出一步,但是脚不动
 手綱を放すと、手が真っ赤だった。きっと、命綱のように思いながら力いっぱい握っていたのだろう。
 一歩、前に踏み出そうとしたが、足が動かない。
「イヴァン、どうしたの? 気分が悪いの?」
“伊凡,你怎么了?不舒服吗?”
「イヴァン、どうしたの? 気分が悪いの?」
「いや、そうじゃなくて……」
“不,不是那样的……”
今の状態を、なんと表せばいいものか。息苦しくて、気持ち悪くて、体が重い。
现在的状态该怎么表达才好呢。呼吸困难,恶心,身体沉重。
体調に影響を及ぼすほど、崖登りが恐ろしかったのか。
难道攀登悬崖会影响身体吗。
 今の状態を、なんと表せばいいものか。息苦しくて、気持ち悪くて、体が重い。
 体調に影響を及ぼすほど、崖登りが恐ろしかったのか。
「この辺は家がある辺りよりずっと空気が薄いの。体が、適応できていないのよ。その場に、座って」
“这一带空气比有房子的地方要稀薄得多。身体不适应。请坐在那里。”
「うん」
“嗯。”
「ものすごい汗だから、脱水症状でもあるのかもしれないわ」
“因为是很厉害的汗,所以可能也有脱水症状。”
「そう、かも。なんだかものすごく、喉が渇いている」
“是的,也许。总觉得非常口渴。”
「これを飲んで」
“喝这个。”
アニャが革袋に入れた飲み物を差し出してくれた。
阿尼亚递给我装在皮袋里的饮料。
 アニャが革袋に入れた飲み物を差し出してくれた。
「水にライムを搾って、蜂蜜と塩を加えた飲み物よ。これを飲んだら、たぶん体調不良もマシになると思うわ。全部飲んでいいから」
“在水里榨酸橙,加蜂蜜和盐的饮料。喝了这个的话,身体不适也会好的。全部都喝就好了。”
「ありがとう」
“谢谢。”
さっそくいただく。自分で意識していた以上に、喉が渇いていたようだ。爽やかな味わいで、ごくごくと飲み干してしまった。
马上就吃。比自己意识到的还要渴。清爽的味道,咕嘟咕嘟地喝干了。
 さっそくいただく。自分で意識していた以上に、喉が渇いていたようだ。爽やかな味わいで、ごくごくと飲み干してしまった。
「少し、横になりなさい。楽になるから」
“稍微躺下吧,会变得轻松的。”
 岩場を登った先は、豊かな草むらと木々が広がっている。横になっても問題ないだろう。
岩場を登った先は、豊かな草むらと木々が広がっている。横になっても問題ないだろう。
登上岩场的地方,有丰富的草丛和树木。躺下也没问题吧。
だがここで、アニャは想定外の行動に出る。
但是在这里,阿尼亚采取了预想之外的行动。
足を伸ばして座り、ここで眠れとばかりに腿をぽんぽん叩いたのだ。
伸开腿坐着,在这里就好像睡着了一样地拍了腿。
 だがここで、アニャは想定外の行動に出る。
 足を伸ばして座り、ここで眠れとばかりに腿をぽんぽん叩いたのだ。
「いや、それはさすがに悪いような」
“不,那真是太糟糕了。”
「頭を上げて眠ると、血液の巡りもよくなるのよ。体の負担も、軽くなるから」
“抬头睡觉的话,血液循环也会变好。身体的负担也会减轻。”
「そうなんだ」
“是啊。”
蜜薬師と呼ばれるアニャの言うことなので、素直に聞いていたほうがいいだろう。
因为是被称为蜜药师的阿尼亚说的话,所以还是坦率地听比较好吧。
ゆっくりと寝転がり、アニャの腿に頭を預ける。
慢慢地躺在床上,把头放在阿尼亚的腿上。
 蜜薬師と呼ばれるアニャの言うことなので、素直に聞いていたほうがいいだろう。
 ゆっくりと寝転がり、アニャの腿に頭を預ける。
「ついでに、顔の腫れに薬を塗るわね」
“顺便给脸上的肿涂点药。”
「よろしくお願いします」
“请多关照。”
汗を布で優しく拭ってから、蜂蜜色の薬を顔に塗ってくれる。
用布轻轻地擦汗,然后把蜂蜜色的药涂在脸上。
 汗を布で優しく拭ってから、蜂蜜色の薬を顔に塗ってくれる。
「それは、何?」
“那是什么?”
「蜂蜜軟膏よ。保湿と、殺菌効果があるの」
“蜂蜜软膏,有保湿和杀菌的效果。”
蜜蝋と蜂蜜、精油にした薬草を使って作るらしい。
 蜜蝋と蜂蜜、精油にした薬草を使って作るらしい。
据说是用蜜蜡、蜂蜜、精油的药草制作的。
アニャは鼻歌を歌いながら、蜂蜜軟膏を指先で伸ばしていた。くすぐったいし、なんだか気恥ずかしくもなる。
阿尼亚一边哼着小曲,一边用指尖伸开蜂蜜软膏。又痒又害羞。
照れ隠しに、アニャに話しかけてしまった。
为了掩饰害羞,和阿尼亚搭话了。
 アニャは鼻歌を歌いながら、蜂蜜軟膏を指先で伸ばしていた。くすぐったいし、なんだか気恥ずかしくもなる。
 照れ隠しに、アニャに話しかけてしまった。
「アニャ、それ、なんの歌?」
“阿尼亚,那是什么歌?”
「子守歌よ」
“摇篮曲。”
「……」
「……」
 どうやら、アニャは俺を寝かしつけようとしているようだ。
 まさか、二十歳過ぎて「いい子でねんね」をされるとは。
どうやら、アニャは俺を寝かしつけようとしているようだ。
看来阿尼亚要哄我睡觉了。
まさか、二十歳過ぎて「いい子でねんね」をされるとは。
没想到过了20岁就被人说“好孩子啊”。
「イヴァン、瞼にも塗るから、目を閉じて」
“伊凡,眼睑也要涂,闭上眼睛。”
目を閉じると、アニャは他の部位よりも優しく瞼に触れる。
闭上眼睛,阿尼亚比其他部位更温柔地接触眼睑。
 目を閉じると、アニャは他の部位よりも優しく瞼に触れる。
 蜂蜜軟膏は、ほんのり甘い匂いがした。直に蜂蜜を塗るよりは、さっぱりとしている。
蜂蜜軟膏は、ほんのり甘い匂いがした。直に蜂蜜を塗るよりは、さっぱりとしている。
蜂蜜软膏有点甜的味道。比起直接涂蜂蜜,更清爽。
アニャの鼻歌を聴いているうちに、先ほどの息苦しさや気持ち悪さは薄くなっているような気がした。
听着阿尼亚的鼻歌,我觉得刚才的呼吸困难和恶心变得淡薄了。
 アニャの鼻歌を聴いているうちに、先ほどの息苦しさや気持ち悪さは薄くなっているような気がした。
「アニャ、ありがとう」
“阿尼亚,谢谢。”
そんなことを呟きながら、俺はアニャの腿を枕にまどろんでいた。
 そんなことを呟きながら、俺はアニャの腿を枕にまどろんでいた。
一边嘟囔着那样的话,我一边枕着阿尼亚的腿睡着了

50
README.md

@ -6,19 +6,19 @@ WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
## 人物
### イヴァン・イェゼロ
主人公,サシャ雙胞胎弟。與最大兄弟相差20歲。家中第十四子,因而沒能分到財產。
主人公,サシャ雙胞胎弟。與最大兄弟相差20歲。家中第十四子,因而沒能分到財產。在ミハル的苦口婆心下,開始思考屬於自己的人生。在雙胞胎打架事件後,因為與サシャ、ロマナ間的關係,選擇與マクシミリニャン同行,離開故鄉ブレッド,前往ボーヒン。
### ベルタ・イェゼロ
イェゼロ家主,イヴァン之母。
イェゼロ家主,イヴァン之母。イェゼロ家上一代獨生女。對兒子們親情有著嚴重偏差。直至雙胞胎打架事件後,イヴァン提出要離家獨立之時,才想要分田地給イヴァン養蜂以挽留イヴァン,使得イヴァン感到心寒。也在此時才發現イヴァン沒得到為家裡幫忙而應得的酬勞,全數遭到アラン唆使ダナ挪用到酒錢上。
### サシャ・イェゼロ
イヴァン雙胞胎兄
イヴァン雙胞胎兄
### ロマナ・イェゼロ
サシャ妻,五年前在收穫祭賣身而被買了回來,作為工人住進家裡
サシャ妻,五年前在收穫祭賣身而被帶了回來,作為工人住進家裡。於一年前與サシャ結婚
### アラン・イェゼロ
イェゼロ家長子。
イェゼロ家長子。唆使ダナ挪用イヴァン幫忙家中工作的酬勞到酒錢上。
### ダナ・イェゼロ
アラン妻。
@ -27,10 +27,10 @@ WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
大イヴァン三歲的哥哥的妻子。
### ミロシュ・イェゼロ
大イヴァン五歲的哥哥。相對其他兄弟對イヴァン較好,但太過會被針對而沒有非常明顯。
大イヴァン五歲的哥哥。相對其他兄弟對イヴァン較好,但太過會被針對而沒有非常明顯。透過兒子ツィリル,送了祝福的話與種子。
### ツィリル
ミロシュ的兒子。八歲。
ミロシュ的兒子。八歲。姪輩中最親近イヴァン的孩子。
### ゾルターン
大イヴァン十歲的哥哥。
@ -39,10 +39,10 @@ WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
雜貨店的兒子。イヴァン的小時玩伴。十分擔心イヴァン的狀況。
### マクシミリニャン・フリバエ
為了不讓アニャ孤單下半輩子,而出來尋找結婚對象。
アニャ的父親。為了不讓アニャ孤單下半輩子,而出來尋找結婚對象。
### アニャ・フリバエ
因身體不孕,而至十九歲都未能結婚。
蜜藥師。因身體不孕,而至十九歲都未能結婚。
### アントン・ヤンシャ
養蜂の父,其出版兩本書被養蜂人視為聖典。
@ -50,9 +50,24 @@ WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
## 家族
### イェゼロ
在ブレッド湖畔從事養蜂一家
在ブレッド湖畔從事養蜂一家
### フリバエ
於ボーヒン湖周邊山中秘境養蜂。
## 其他角色
### クリーロ
フリバエ家的騎乘用大角山羊。白色。翼。
### センツァ
フリバエ家的騎乘用大角山羊。黑色。影。
### メーチェ
フリバエ家的大角山羊。灰色。幼子。剑。
### ヴィーテス
護畜犬。體型巨大如熊一般。但太過隨合而不適合,在將被食用掉時,被アニャ帶了回來。
## 地點
@ -62,7 +77,20 @@ WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
### ボーヒン
有比ブレッド湖更大三倍的湖泊,
### リブチェフ・ラズ
ボーヒン湖周邊的小村莊。
## 動植物
### カーニオラン
イェゼロ家飼養的蜂種。其腹部有灰熊般的毛。個性溫馴、認真。又被稱為「灰色熊のカーニオラン」。
イェゼロ家飼養的蜂種。其腹部有灰熊般的毛。個性溫馴、認真。又被稱為「灰色熊のカーニオラン」。
### カシミア山羊
採毛用山羊。直羊毛。
### アンゴラ山羊
採毛用山羊。捲羊毛。
### 大角山羊
擅長攀登岩崖地形。
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