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養蜂家の青年は、巣箱の確認を行う 養蜂家の青年は、巣箱の確認を行う
 柔らかな風が、頬を優しく撫でる。鳥の美しいさえずりも、聞こえていた。 养蜂青年确认蜂箱
 そっと瞼を開くと、天使のように美しい美少女が俺を見下ろしている。
 ここは、天国なのか。
 サシャに殴られて、マクシミリニャンに助けられた一連の流れは、夢の世界での出来事だったのかもしれない。だって、できすぎだろう 柔らかな風が、頬を優しく撫でる。鳥の美しいさえずりも、聞こえていた
 八歳の男の子が闇夜を駆け抜け、強面のおじさんに助けを求めるなんて 柔软的风,温柔地抚摸着脸颊。也听到了鸟美丽的鸣叫
 それに、実家の養蜂園が人生のすべてだった俺が、家を出るわけがない。
 そして、マクシミリニャンの娘が、天使のように愛らしいわけがないのだ。
 ぼんやりと、美少女を眺めていたら、灰色の毛に覆われた蜜蜂が飛んでくる。 そっと瞼を開くと、天使のように美しい美少女が俺を見下ろしている。
轻轻地睁开眼睛,像天使一样美丽的美少女俯视着我。
ここは、天国なのか。
这里是天堂吗。
サシャに殴られて、マクシミリニャンに助けられた一連の流れは、夢の世界での出来事だったのかもしれない。だって、できすぎだろう。
被萨沙殴打,被马克西米利尼亚救了的一连串的流动,说不定是梦的世界的事。因为,做得太多了吧。
八歳の男の子が闇夜を駆け抜け、強面のおじさんに助けを求めるなんて。
一个八岁的男孩在黑夜中飞奔,竟然向一个强颜欢笑的大叔求助。
それに、実家の養蜂園が人生のすべてだった俺が、家を出るわけがない。
而且,老家的养蜂园是人生的全部的我,不可能离开家。
そして、マクシミリニャンの娘が、天使のように愛らしいわけがないのだ。
而且,马克西米莉娜的女儿不可能像天使一样可爱。
ぼんやりと、美少女を眺めていたら、灰色の毛に覆われた蜜蜂が飛んでくる。
呆呆地看着美少女,被灰色的毛覆盖的蜜蜂飞了过来。
俺の目の前をぶんぶん飛んで、鼻先に止まった。雄の蜜蜂である。
从我眼前飞过,停在了我的鼻尖上。雄蜂。
いっこうに動こうとしないので、美少女は笑い始めた。
因为一点也不想动,美少女开始笑了起来。
 俺の目の前をぶんぶん飛んで、鼻先に止まった。雄の蜜蜂である。
 いっこうに動こうとしないので、美少女は笑い始めた。
「ふふふ、イヴァンから蜂蜜の匂いがするから、寄ってきたのね」 「ふふふ、イヴァンから蜂蜜の匂いがするから、寄ってきたのね」
“呵呵,伊凡身上有蜂蜜的味道,所以我过来了。”
「ああ、そう――」 「ああ、そう――」
“啊,对了——”
ここで一気に意識が覚醒する。上体を上げると、蜜蜂は飛んでいった。
在这里意识一下子觉醒了。抬起上身,蜜蜂飞走了。
 ここで一気に意識が覚醒する。上体を上げると、蜜蜂は飛んでいった。
「アニャ、俺、寝ていた?」 「アニャ、俺、寝ていた?」
“阿尼亚,我睡了吗?”
「ええ、ぐっすりと」 「ええ、ぐっすりと」
“嗯,好好地。”
「ごめん。眠るつもりはなかったのに」 「ごめん。眠るつもりはなかったのに」
“对不起,我本来不打算睡觉的。”
「仕方ないわよ。高山病になりかかっていたのだし」 「仕方ないわよ。高山病になりかかっていたのだし」
“没办法,我得了高山病。”
「高山病?」 「高山病?」
“高山病?”
「ええ。山の高い場所に登ると発症するものなの。山羊を使って急に駆け上がったから、なってしまったのでしょうね。ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって。家にくるまで、お父様がイヴァンは大丈夫だったと言っていたものだから、平気かと思っていたの」 「ええ。山の高い場所に登ると発症するものなの。山羊を使って急に駆け上がったから、なってしまったのでしょうね。ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって。家にくるまで、お父様がイヴァンは大丈夫だったと言っていたものだから、平気かと思っていたの」
“是的。爬到山高的地方就会发病。是因为用山羊突然跑上去了,所以才变成这样的吧。对不起,我带你来了这样的地方。在到家之前,爸爸说伊凡没事,我还以为你没事呢。”
「気にしないで。もう、息苦しさや気持ち悪さはなくなったから」 「気にしないで。もう、息苦しさや気持ち悪さはなくなったから」
“别在意,我已经没有呼吸困难和恶心了。”
「そう。よかったわ」 「そう。よかったわ」
“是的,太好了。”
 崖を駆け上がった恐怖から具合が悪くなったのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
 立ち上がろうとしたら、腕を引かれてしまう。 崖を駆け上がった恐怖から具合が悪くなったのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
我以为是因为跑上悬崖的恐惧而身体不舒服,但好像不是。
立ち上がろうとしたら、腕を引かれてしまう。
如果想站起来的话,胳膊就会被吸引。
「まだ、立ったらダメ。もうしばらく、休まなきゃ」 「まだ、立ったらダメ。もうしばらく、休まなきゃ」
“还不能站起来,要再休息一会儿。”
「でも、大丈夫なの?」 「でも、大丈夫なの?」
“但是,没关系吗?”
「何が?」 「何が?」
“什么?”
「その、仕事とか」 「その、仕事とか」
“那个,工作啦。”
「別に、急いでしなければならない仕事なんて、山の暮らしにはないわよ」 「別に、急いでしなければならない仕事なんて、山の暮らしにはないわよ」
“另外,山上的生活里没有什么必须要抓紧时间做的工作。”
「そうなの?」 「そうなの?」
“是吗?”
「そうなのよ。ここで一番大事なのは、健康な体なの。仕事は二の次よ。元気でいなければ、生活は成り立たないわ」 「そうなのよ。ここで一番大事なのは、健康な体なの。仕事は二の次よ。元気でいなければ、生活は成り立たないわ」
“是啊。这里最重要的是健康的身体。工作是次要的。如果没有精神,生活就无法维持。”
「そっか……。うん、そうだよね」 「そっか……。うん、そうだよね」
“这样啊……嗯,是这样啊。”
 山暮らしだけではなく、どこでもそうなのだろう。生きていくうえで、健康より大事なものはない。
 働き過ぎて体調を崩す話は、街でもたまに聞く。そういう人は、自分の頑張りが体を酷使し、命を縮めている事実に気づいていないのだろう。 山暮らしだけではなく、どこでもそうなのだろう。生きていくうえで、健康より大事なものはない。
不仅仅是山上的生活,到处都是这样吧。在生存方面,没有比健康更重要的东西了。
働き過ぎて体調を崩す話は、街でもたまに聞く。そういう人は、自分の頑張りが体を酷使し、命を縮めている事実に気づいていないのだろう。
在街上偶尔也会听到因工作过度而身体不适的话。这样的人,应该没有注意到自己的努力过度使用身体,缩短生命的事实吧。
「私のお母様は、あまりお体が強くなかったのよ。それなのに、私を産んで命を散らしてしまったわ。自分のことは自分が一番把握しているはずなのに、わかっていなかったのでしょうね。私を産まなかったら、もっと長く生きられたでしょうに……」 「私のお母様は、あまりお体が強くなかったのよ。それなのに、私を産んで命を散らしてしまったわ。自分のことは自分が一番把握しているはずなのに、わかっていなかったのでしょうね。私を産まなかったら、もっと長く生きられたでしょうに……」
“我的母亲身体不太好。但是,生了我就丢了命。自己的事情应该是自己最清楚的,却不知道吧。如果不生我的话,就能活得更长……”
「アニャ……」 「アニャ……」
“阿尼亚……”
 なんて声をかけたらいいのか、わからなくなる。うんざりするほど家族がいるのは、贅沢な話だったのだ。
 アニャは思い詰めた表情で、言葉を続けた。
なんて声をかけたらいいのか、わからなくなる。うんざりするほど家族がいるのは、贅沢な話だったのだ。
不知道该说什么好。有家人的话让人厌烦,真是奢侈。
アニャは思い詰めた表情で、言葉を続けた。
阿尼亚带着沉思的表情继续说下去。
「お父様は、きっと私を恨んでいるに違いないわ」 「お父様は、きっと私を恨んでいるに違いないわ」
「それは、どうだろう? 俺は数日しか関わっていないけれど、それでも親父さんは世界で一番、アニャを愛していると思ったよ」 “你父亲一定很恨我。”
「それは、どうだろう? 俺は数日しか関わっていないけれど、それでも親父さんは世界で一番、アニャを愛していると思ったよ」
“那又如何呢?虽然我只参与了几天,但我还是觉得父亲是世界上最爱阿尼亚的。”
でないと、山を下りて歩いてブレッド湖の街に来るまで、婿捜しなんかしない。
不然的话,下山走着来到布莱德湖的街道之前,我不会找女婿的。
アニャが生きていただけでも、マクシミリニャンにとっては救いだっただろう。その言葉を付け加えると、アニャの眦から涙が溢れた。
即使阿尼亚还活着,对马克西米利尼亚来说也是一种救赎吧。加上这句话,阿尼亚的眼睛里充满了眼泪。
 でないと、山を下りて歩いてブレッド湖の街に来るまで、婿捜しなんかしない。
 アニャが生きていただけでも、マクシミリニャンにとっては救いだっただろう。その言葉を付け加えると、アニャの眦から涙が溢れた。
「本当に、そう、思う?」 「本当に、そう、思う?」
“你真的这么想吗?”
「思うよ」 「思うよ」
“我想。”
「そう。だったら、よかったわ」 「そう。だったら、よかったわ」
“是的,那就太好了。”
たぶん、アニャは長い間誰にも話せずに、気に病んでいたのかもしれない。
大概,阿尼亚很长一段时间都没和任何人说,可能是心理疾病。
マクシミリニャン本人には聞けなかっただろうし、かと言って仲のいい人にも気軽に話せる内容ではない。
虽然没能问麦克西米利尼亚本人,但这并不是对关系好的人也能轻松交谈的内容。
昨日ここに来たばかりの俺だからこそ、ポツリと吐露できたのだろう。
正因为是昨天刚来这里的我,所以才会突然吐露出来吧。
 たぶん、アニャは長い間誰にも話せずに、気に病んでいたのかもしれない。
 マクシミリニャン本人には聞けなかっただろうし、かと言って仲のいい人にも気軽に話せる内容ではない。
 昨日ここに来たばかりの俺だからこそ、ポツリと吐露できたのだろう。 しばし会話もないまま、ただただぼんやりする時間を過ごす
暂时没有对话,只是度过发呆的时间。
 しばし会話もないまま、ただただぼんやりする時間を過ごす。
 美しい山々の景色を見ていたら、心が洗われるような、そんな気分にさせてくれた。 美しい山々の景色を見ていたら、心が洗われるような、そんな気分にさせてくれた。
看着美丽的群山景色,让我有一种心灵被洗掉的感觉。
 ◇◇◇
 しっかり休んだのちに、仕事を行う。まずは、リンゴの花蜜を集める木のエリアに案内してもらった。 ◇◇◇
◇◇◇
しっかり休んだのちに、仕事を行う。まずは、リンゴの花蜜を集める木のエリアに案内してもらった。
好好休息之后再工作。首先,我带我去了收集苹果花蜜的树的区域。
「イヴァン、こっちよ」 「イヴァン、こっちよ」
“伊凡,在这里。”
腕を引かれ、リンゴの木が群生する場所へ誘われる。
被拉着胳膊,被邀请去苹果树群生的地方。
 腕を引かれ、リンゴの木が群生する場所へ誘われる。
「今は花盛りで、とっても美しいのよ。見て」 「今は花盛りで、とっても美しいのよ。見て」
“现在是花季,非常美丽。看。”
「うわ、本当だ」 「うわ、本当だ」
「哇,是真的。」
リンゴの木には、美しい薄紅色の花が満開だった。その周囲を、蜜蜂が忙しそうに飛び回っている。
苹果树上盛开着美丽的淡红色花朵。蜜蜂在那周围忙碌地飞来飞去。
 リンゴの木には、美しい薄紅色の花が満開だった。その周囲を、蜜蜂が忙しそうに飛び回っている。
「きれいだ」 「きれいだ」
“很漂亮。”
「でしょう。巣箱はあっちよ」 「でしょう。巣箱はあっちよ」
“是吧。巢箱在那边。”
小屋に巣箱を集めた実家の養蜂とは異なり、巣箱が地面に直に置かれていた。
与在小屋里收集蜂箱的老家养蜂不同,蜂箱直接放在地上。
「あ、そうだわ。イヴァン、あなたに、お父様の面布(めんぷ)を持ってきたのだけれど」
「啊,是啊。伊凡,我给你带了父亲的棉布。」
 小屋に巣箱を集めた実家の養蜂とは異なり、巣箱が地面に直に置かれていた。
面布というのは、帽子の縁に目の細かな網がかけられた物である。蜜蜂の接近を防ぐ目的で被るのだ。
所谓面布,是在帽子的边缘上挂上眼睛细小的网的东西。这是为了防止蜜蜂接近而戴上的。
「あ、そうだわ。イヴァン、あなたに、お父様の面布(めんぷを持ってきたのだけれど」
 面布というのは、帽子の縁に目の細かな網がかけられた物である。蜜蜂の接近を防ぐ目的で被るのだ。
必要ないと首を振ると、驚かれる。
如果不需要的话就摇头,会被吓到。
 必要ないと首を振ると、驚かれる。
「あなたも、面布は被らないの?」 「あなたも、面布は被らないの?」
“你也不戴面布吗?”
「うん。もしかして、アニャも?」 「うん。もしかして、アニャも?」
“嗯。难道安妮娅也是?”
「ええ、そうよ。だって、蜜蜂はお友達ですもの。必要ないわ」 「ええ、そうよ。だって、蜜蜂はお友達ですもの。必要ないわ」
“嗯,是的。因为蜜蜂是朋友,所以没有必要。”
マクシミリニャンは面布を常に被っているらしい。その昔、蜜蜂に顔を刺されたことがあったので、警戒しているのだとか。
马克西米莉娜好像经常戴着面布。以前,因为被蜜蜂蜇过脸,所以很警戒。
 マクシミリニャンは面布を常に被っているらしい。その昔、蜜蜂に顔を刺されたことがあったので、警戒しているのだとか。
「お父様ったらああ見えて心配性で、人一倍慎重なの」 「お父様ったらああ見えて心配性で、人一倍慎重なの」
“父亲看起来是那样,很担心,比别人更慎重。”
「なんか、そんな感じがするかも」 「なんか、そんな感じがするかも」
“可能会有这种感觉。”
その辺は山奥で暮らすに必要な、感覚なのかもしれない。
这也许是在深山里生活所必需的感觉。
 その辺は山奥で暮らすに必要な、感覚なのかもしれない。
「俺も、蜂蜜軟膏を塗っているから、面布を被っておこうかな」 「俺も、蜂蜜軟膏を塗っているから、面布を被っておこうかな」
“我也涂了蜂蜜软膏,戴上面布吧。”
「そうね。今日は、それがいいわ」 「そうね。今日は、それがいいわ」
“是啊,今天就这样吧。”
アニャから面布を受け取り、被った。マクシミリニャンの頭に合わせて作った物なので、ぶかぶかだ。顎を紐で縛り、ずれないように固定しておく。
从阿尼亚那里收到了面布,戴上了。因为是配合马克西米利尼亚的头做的,所以很臃肿。用绳子绑住下巴,固定住不偏离。
 アニャから面布を受け取り、被った。マクシミリニャンの頭に合わせて作った物なので、ぶかぶかだ。顎を紐で縛り、ずれないように固定しておく。
「これでよし、と」 「これでよし、と」
“这样就好了。”
巣箱にゆっくり接近し、中を確認させてもらう。
慢慢地接近巢箱,让他们确认里面。
ここには、五つの巣箱が設置されていた。
这里设置了五个巢箱。
 巣箱にゆっくり接近し、中を確認させてもらう。 鳥の羽根で作ったブラシで巣箱に集まる蜜蜂を払い、蓋を開く。
用鸟的羽毛做的刷子掸掉聚集在蜂箱里的蜜蜂,打开盖子。
 ここには、五つの巣箱が設置されていた。
 鳥の羽根で作ったブラシで巣箱に集まる蜜蜂を払い、蓋を開く。
「雄が多いかも」 「雄が多いかも」
“雄性可能很多。”
「削りましょうか」 「削りましょうか」
“要削吗?”
雄の蜂が産み付けられた巣枠を取り出し、半分くらいヘラで削いでいく。
取出产有雄蜂的巢框,用刮刀削掉一半左右。
 雄の蜂が産み付けられた巣枠を取り出し、半分くらいヘラで削いでいく。 巣枠がいっぱいになると、女王蜂は蜜蜂を連れて巣からいなくなってしまうのだ。
如果巢框满了,蜂王就会带着蜜蜂离开巢。
蜜蜂の数が減ると、満足に蜂蜜が集められなくなる。だから、巣箱は小まめに確認しなければならないのだ。
蜜蜂的数量减少的话,蜂蜜就不能满足地收集了。所以,巢箱必须仔细确认。
 巣枠がいっぱいになると、女王蜂は蜜蜂を連れて巣からいなくなってしまうのだ。
 蜜蜂の数が減ると、満足に蜂蜜が集められなくなる。だから、巣箱は小まめに確認しなければならないのだ。
「女王蜂の王座は、ないか」 「女王蜂の王座は、ないか」
“没有蜂王座吗?”
王座というのは、女王蜂を育てる特別な巣穴だ。蜜蜂は王座の幼虫にローヤルゼリーという特別な餌を与えて、女王蜂を育てるのだ。
王座是培育蜂王的特别巢穴。蜜蜂给王座的幼虫喂食蜂王浆这种特别的食物,培育蜂王。
 王座というのは、女王蜂を育てる特別な巣穴だ。蜜蜂は王座の幼虫にローヤルゼリーという特別な餌を与えて、女王蜂を育てるのだ。
「心配いらないわ。まだ、新しい女王なの」 「心配いらないわ。まだ、新しい女王なの」
“不用担心,她还是新女王。”
「なるほど」 「なるほど」
“原来如此。”
女王蜂の寿命は三年ほど。一日に千個以上の卵を産むらしい。現在、巣箱には二万匹の蜜蜂がいる。最終的には、三倍くらいの群れに成長するのだ。
蜂王的寿命是三年左右。据说一天产一千个以上的鸡蛋。现在蜂箱里有两万只蜜蜂。最终,会成长为三倍左右的群。
ただ、気をつけなければならないのは、巣箱の状態ばかりではない。
但是,需要注意的不仅仅是巢箱的状态。
新しい女王蜂が巣内で育っていた場合も、女王蜂は蜜蜂を連れて出て行ってしまう。
即使新的蜂王在蜂巢内长大,蜂王也会带着蜜蜂出去。
女王蜂が蜜蜂を連れて巣を出ていくことを、“分蜂”と呼んでいた。
蜂王带着蜜蜂走出蜂巢,被称为“分蜂”。
 女王蜂の寿命は三年ほど。一日に千個以上の卵を産むらしい。現在、巣箱には二万匹の蜜蜂がいる。最終的には、三倍くらいの群れに成長するのだ。
 ただ、気をつけなければならないのは、巣箱の状態ばかりではない。
 新しい女王蜂が巣内で育っていた場合も、女王蜂は蜜蜂を連れて出て行ってしまう。
 女王蜂が蜜蜂を連れて巣を出ていくことを、“分蜂”と呼んでいた。
巣箱の中を入念に確認していたら、アニャが感心したように呟く。
仔细确认了巢箱中,阿尼亚很佩服地嘟囔着。
 巣箱の中を入念に確認していたら、アニャが感心したように呟く。
「イヴァン、あなた、本当に養蜂家だったのね」 「イヴァン、あなた、本当に養蜂家だったのね」
“伊凡,你真是养蜂人。”
「信じていなかったの?」 「信じていなかったの?」
“你不相信吗?”
「信じていなかったわけではないのだけれど……」 「信じていなかったわけではないのだけれど……」
“我并不是不相信……”
アニャにとっての養蜂家のイメージは、マクシミリニャンなのかもしれない。
对阿尼亚来说养蜂人的印象可能是马克西米利尼亚。
いくら力仕事をしても、体つきがガッシリとならないのは血筋なのか。他の兄弟も、どちらかといえば細身だ。
无论怎么努力工作,身材都不僵硬,这是血脉吗。其他的兄弟姐妹,不管怎么说都是瘦肉。
 アニャにとっての養蜂家のイメージは、マクシミリニャンなのかもしれない。
 いくら力仕事をしても、体つきがガッシリとならないのは血筋なのか。他の兄弟も、どちらかといえば細身だ。
「あなたみたいな人が旦那様だったら、ものすごく頼りになるわね。昨日、素直に結婚を受けておけばよかったわ」 「あなたみたいな人が旦那様だったら、ものすごく頼りになるわね。昨日、素直に結婚を受けておけばよかったわ」
“如果像你这样的人是你老公的话,那就太可靠了。昨天,坦率地接受结婚就好了。”
そうだったね、と言葉を返すと、アニャは微笑む。なんとなくだけれど、先ほどより心を許してくれているような気がした。
是啊,阿尼亚回了话,露出了微笑。总觉得,比刚才更能原谅我的心。
 そうだったね、と言葉を返すと、アニャは微笑む。なんとなくだけれど、先ほどより心を許してくれているような気がした。
 喋りながらも、手は止めない。どんどん蜂の子を掻きだしていく。 
喋りながらも、手は止めない。どんどん蜂の子を掻きだしていく。
一边聊天,一边不停止手。不断地把蜂子扒出来。
「そういえば、アニャのところでは、幼虫はどうしているの?」 「そういえば、アニャのところでは、幼虫はどうしているの?」
“这么说来,在阿尼亚那里,幼虫是怎么做的呢?”
「粉末にして、薬にしているわ」 「粉末にして、薬にしているわ」
“把它做成粉末,做成药。”
「へえ」 「へえ」
「咦?」
耳に関する不調に、蜂の子が効果があるらしい。乾燥させたのちに、細かく煎じるのだとか。
蜂子似乎对耳朵不适有效果。干燥后,要煎得很细。
 耳に関する不調に、蜂の子が効果があるらしい。乾燥させたのちに、細かく煎じるのだとか。
「イヴァンの家では、どうしていたの?」 「イヴァンの家では、どうしていたの?」
“在伊凡家,你怎么了?”
「油で揚げて、親兄弟の酒のつまみになっていたよ」 「油で揚げて、親兄弟の酒のつまみになっていたよ」
「まあ! もったいない!」   “用油炸的,成了亲兄弟的下酒菜。”
「まあ! もったいない!」
“哎呀!太可惜了!”
アニャは蜂の子を革袋に詰め、逃げないようにしっかり紐で縛っていた。
阿尼亚把蜂子塞进皮袋里,为了不逃跑,用绳子紧紧地绑着。
あとは害虫がいないか見て周り、巣箱に不具合がないかどうかも調べる。
然后看看有没有害虫,周围也调查巢箱有没有问题。
 アニャは蜂の子を革袋に詰め、逃げないようにしっかり紐で縛っていた。
 あとは害虫がいないか見て周り、巣箱に不具合がないかどうかも調べる。
「よし。こんなもんか」 「よし。こんなもんか」
「好的,原来是这样啊。」
「そうね」 「そうね」
“是啊。”
そろそろお昼の時間だという。
据说快到午饭时间了。
 そろそろお昼の時間だという。 再び大角山羊に跨がり、恐怖と闘いながら岩場を下ったのは言うまでもない
 再び大角山羊に跨がり、恐怖と闘いながら岩場を下ったのは言うまでもない。 不用说再次跨上大角山羊,一边与恐怖战斗一边下了岩场

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養蜂家の青年は、昼食に舌鼓を打つ 養蜂家の青年は、昼食に舌鼓を打つ
 家に戻ってくると、フリルたっぷりのエプロンをかけたマクシミリニャンが待ち構えていた。 养蜂青年吃午饭时咂嘴
家に戻ってくると、フリルたっぷりのエプロンをかけたマクシミリニャンが待ち構えていた。
回到家后,戴着满是褶边围裙的马克西米莉娜在等着。
「昼食の準備が、できておるぞ」 「昼食の準備が、できておるぞ」
“午饭已经准备好了。”
母屋の前に敷物が広げられており、マクシミリニャンが作ったであろう料理が並べられている。
在主屋前面铺着褥子,摆放着马克西米利尼亚做的料理。
中心にどん! と置かれているのは、鶏の丸焼きだ。昼から豪勢なものである。
中心砰!放着的是烤鸡。从白天开始就很豪华。
 母屋の前に敷物が広げられており、マクシミリニャンが作ったであろう料理が並べられている。 マクシミリニャンは誇らしげな様子で、丸焼きをどうだと指し示していた。
马克西米利尼亚一副骄傲的样子,指点着烤丸怎嚒样。
 中心にどん! と置かれているのは、鶏の丸焼きだ。昼から豪勢なものである。
 マクシミリニャンは誇らしげな様子で、丸焼きをどうだと指し示していた。
「ごちそうだね」 「ごちそうだね」
“我吃饱了。”
「イヴァン殿の歓迎の意を込めて、作ったのだ」 「イヴァン殿の歓迎の意を込めて、作ったのだ」
“是怀着伊凡大人的欢迎之意制作的。”
「わー……」 「わー……」
“哇……”
 まだ婿になると決まったわけではないのに、気前がいい。
 大事な鶏だろうに、捌いてよかったのか。チラリと、横目でアニャを見る。 まだ婿になると決まったわけではないのに、気前がいい。
还没决定做女婿,却很大方。
大事な鶏だろうに、捌いてよかったのか。チラリと、横目でアニャを見る。
虽然是很重要的鸡,但是能卖掉真是太好了吗。用斜眼看阿尼亚。
「イヴァン、あなた、ガリガリだから、たくさんお食べなさいな」 「イヴァン、あなた、ガリガリだから、たくさんお食べなさいな」
“伊凡,你吃得太多了。”
「あ、うん。ありがとう」 「あ、うん。ありがとう」
“啊,嗯,谢谢。”
できたての料理を前にたくさん食べろとか、言われたのは生まれて初めてだ。
这是我有生以来第一次被要求在刚做好的菜之前多吃点。
 できたての料理を前にたくさん食べろとか、言われたのは生まれて初めてだ。 なんだか、不思議な気分になる。
总觉得很不可思议。
 なんだか、不思議な気分になる。
「どうかしたの?」 「どうかしたの?」
“怎么了?”
「ふたりとも、優しいなと思って」 「ふたりとも、優しいなと思って」
“我觉得两个人都很温柔。”
「これくらいで優しいとか、あなた、どんな環境で育ってきたのよ」 「これくらいで優しいとか、あなた、どんな環境で育ってきたのよ」
“这样就很温柔了,你是在什么样的环境下长大的呢?”
「普通の環境だと思うけれど」 「普通の環境だと思うけれど」
“我觉得这是一个普通的环境。”
いや、父はいないし、家族は大勢いるし、殴る兄はいるし。ぜんぜん普通ではない。
不,父亲不在,家人很多,有打他的哥哥。一点也不普通。
  いや、父はいないし、家族は大勢いるし、殴る兄はいるし。ぜんぜん普通ではない。
「ごめん。あんまり、普通じゃなかったかも」 「ごめん。あんまり、普通じゃなかったかも」
“对不起,可能不太正常。”
「でしょうね。この家では、お腹いっぱい食べることが普通だから、覚えておきなさい」 「でしょうね。この家では、お腹いっぱい食べることが普通だから、覚えておきなさい」
“是吧,在这个家里,吃饱是很正常的,你要记住。”
「わかった」 「わかった」
「明白了。」
 マクシミリニャンはナイフで鶏の丸焼きを解体している。
 アニャは薄く焼いた小麦粉の生地に、鶏を乗せて巻いていた。
マクシミリニャンはナイフで鶏の丸焼きを解体している。
马克西米利尼亚正在用小刀拆开烤鸡块。
アニャは薄く焼いた小麦粉の生地に、鶏を乗せて巻いていた。
阿尼亚把鸡放在烤得很薄的面粉面团上卷起来。
「はい、どうぞ」 「はい、どうぞ」
“好的,请。”
どうやら、アニャは俺が食べる分を作ってくれていたようだ。こうやって、食事の世話をされるのも初めてである。
看来阿尼亚给我做了吃的部分。这样,被照顾吃饭也是第一次。
 どうやら、アニャは俺が食べる分を作ってくれていたようだ。こうやって、食事の世話をされるのも初めてである。
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
 受け取って、食べる。 受け取って、食べる。
接受,吃。
小麦の皮はもちもちとした食感で、香ばしく焼かれた鶏の皮はパリパリ。肉はやわらく、噛むとじゅわっと肉汁があふれた。塩、コショウ、香草で味付けされていて、それが鶏肉の味を引き立ててくれる。
小麦皮有着粘糯的口感,烤得香喷喷的鸡皮脆脆的。肉干巴巴的,一嚼就咕嘟地溢出了肉汁。用盐、胡椒、香草调味,能衬托出鸡肉的味道。
 小麦の皮はもちもちとした食感で、香ばしく焼かれた鶏の皮はパリパリ。肉はやわらく、噛むとじゅわっと肉汁があふれた。塩、コショウ、香草で味付けされていて、それが鶏肉の味を引き立ててくれる。
「イヴァン殿、どうだ?」 「イヴァン殿、どうだ?」
“伊凡大人,怎么样?”
「すごくおいしい」 「すごくおいしい」
“非常好吃”
そう答えると、マクシミリニャンとアニャは笑顔になった。
这样回答后,马克西米莉娜和阿尼亚露出了笑容。
 そう答えると、マクシミリニャンとアニャは笑顔になった。 ここは、天国なのか。
这里是天堂吗。
至れり尽くせりなので、そんなふうに思ってしまう。
因为是无微不至的,所以会这么想。
 ここは、天国なのか。
 至れり尽くせりなので、そんなふうに思ってしまう。
「イヴァン、あなた、変なことを考えていない?」 「イヴァン、あなた、変なことを考えていない?」
“伊凡,你有没有想歪?”
「考えていたかも」 「考えていたかも」
“我可能在想。”
天国だと思ったことを告げると、アニャに呆れられてしまった。マクシミリニャンは、若干涙ぐんでいる。
当我告诉他我以为是天堂的时候,他被阿尼亚吓了一跳。马克西米利尼亚有些泪流满面。
 天国だと思ったことを告げると、アニャに呆れられてしまった。マクシミリニャンは、若干涙ぐんでいる。
「本当に、いったいどんな環境で育ってきたのよ」 「本当に、いったいどんな環境で育ってきたのよ」
“真的,到底是在什么样的环境下长大的呢?”
「イヴァン殿、たらふく食べてくれ」 「イヴァン殿、たらふく食べてくれ」
“伊凡大人,请吃个饱。”
「うん、ありがとう」 「うん、ありがとう」
“嗯,谢谢。”
小麦の生地に包むのは、鶏肉だけではない。酢漬けのキャベツ(ザウアークラウト)や、練った蕎麦(ジガンツィー)、ベリージャムなども用意されていた。
包在小麦面团里的不仅仅是鸡肉。还准备了醋腌的卷心菜、搅拌好的荞麦面、浆果果酱等。
 小麦の生地に包むのは、鶏肉だけではない。酢漬けのキャベツ(ザウアークラウト)や、練った蕎麦(ジガンツィー)、ベリージャムなども用意されていた。
「オススメは、ベリージャムにちょっとだけ塩を混ぜたものを、鶏肉と合わせるの」 「オススメは、ベリージャムにちょっとだけ塩を混ぜたものを、鶏肉と合わせるの」
“推荐的是,在浆果酱中加入少许盐,与鸡肉混合。”
アニャのオススメはおいしいとは思えなかったが、騙されたと思って食べてみる。
虽然不觉得阿尼亚的推荐很好吃,但是觉得被骗了就尝尝看。
 アニャのオススメはおいしいとは思えなかったが、騙されたと思って食べてみる。
「え、嘘! おいしい!」
“啊,骗人的!好吃!”
「え、嘘! おいしい!」
「でしょう?」 「でしょう?」
“是吧?”
ベリージャムは酸味が強く、塩を加えると肉料理のソースみたいになる。これが、鶏肉と信じられないくらい合う。
浆果酱的酸味很强,加上盐就像肉料理的酱汁一样。这和鸡肉配得难以置信。
 ベリージャムは酸味が強く、塩を加えると肉料理のソースみたいになる。これが、鶏肉と信じられないくらい合う。
勧められるがままにどんどん食べていったら、鶏の丸焼きはあっという間に骨だけになった。
在被推荐的情况下不断地吃的话,烤鸡一眨眼就只剩下骨头了。
 勧められるがままにどんどん食べていったら、鶏の丸焼きはあっという間に骨だけになった。
「この骨は、夜のスープのダシに使うの」 「この骨は、夜のスープのダシに使うの」
“这个骨头是用来做晚上汤的汤汁的。”
「無駄な部位はないと」 「無駄な部位はないと」
“没有浪费的部位。”
「ええ、そうよ」 「ええ、そうよ」
「嗯,是的。」
 それにしても、食べ過ぎたような気がする。
 お腹がいっぱいで、動けそうにない。
 満腹状態がこんなに苦しいなんて。慣れない過食で、胃腸の辺りが悲鳴をあげているような気がした。
それにしても、食べ過ぎたような気がする。
即便如此,我还是觉得吃多了。
お腹がいっぱいで、動けそうにない。
肚子很饱,好像动不了。
満腹状態がこんなに苦しいなんて。慣れない過食で、胃腸の辺りが悲鳴をあげているような気がした。
吃饱的状态竟然这么难受。因为不习惯的暴食,感觉肠胃附近发出了悲鸣。
それなのに、アニャが作ったリンゴの蜂蜜漬けをペロリと食べてしまった。
尽管如此,我还是一口吃掉了阿尼亚做的苹果蜂蜜泡饭。
 それなのに、アニャが作ったリンゴの蜂蜜漬けをペロリと食べてしまった。
「リンゴは、胃腸の調子を整えてくれるの。蜂蜜は言わずもがな、疲労回復や、美肌効果もあるのよ。しっかり食べておけば、顔の腫れもよくなるから」 「リンゴは、胃腸の調子を整えてくれるの。蜂蜜は言わずもがな、疲労回復や、美肌効果もあるのよ。しっかり食べておけば、顔の腫れもよくなるから」
“苹果能调整肠胃的状态。蜂蜜自不必说,还有恢复疲劳、美肌的效果。好好吃的话,脸上的肿胀也会变好。”
「なるほど」 「なるほど」
“原来如此。”
今、もっとも必要な食後の甘味だったらしい。しばらくしたら、元気になると。
现在,好像是最需要的饭后甜味。过了一会儿,你会好起来的。
 今、もっとも必要な食後の甘味だったらしい。しばらくしたら、元気になると。
「それまで、ゆっくりしましょう」 「それまで、ゆっくりしましょう」
“在那之前,慢慢来吧。”
みんなで、太陽の光をさんさんと浴びながら、ぼんやりする時間を過ごす。
大家一边沐浴着阳光,一边度过发呆的时光。
なんて贅沢な時間の使い方なのか。
多么奢侈的时间使用方法啊。
 みんなで、太陽の光をさんさんと浴びながら、ぼんやりする時間を過ごす。
 なんて贅沢な時間の使い方なのか。
「いつも、昼食は外で食べているの?」 「いつも、昼食は外で食べているの?」
“你平时都在外面吃午饭吗?”
「ええ、今はだいたい外ね」 「ええ、今はだいたい外ね」
“是的,现在大概在外面。”
「どうして?」 「どうして?」
“为什么?”
「太陽の光を浴びると、長生きすると言われているからよ。ねえ、お父様?」 「太陽の光を浴びると、長生きすると言われているからよ。ねえ、お父様?」
“因为据说沐浴在阳光下会长寿。喂,爸爸?”
マクシミリニャンは深々と頷く。
马克西米利尼亚深深地点头。
 マクシミリニャンは深々と頷く。
「太陽の光の浴びすぎは注意だけれど。昼食を食べてゆっくりするくらいならば、問題ないわ」 「太陽の光の浴びすぎは注意だけれど。昼食を食べてゆっくりするくらいならば、問題ないわ」
“注意不要被太阳晒得太多。吃午饭慢慢吃的话,没问题。”
「へえ、そうなんだ」 「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
「さすがに、真夏のジリジリとした太陽は浴びないけれど。こういうのは、嫌い?」 「さすがに、真夏のジリジリとした太陽は浴びないけれど。こういうのは、嫌い?」
“真不愧是盛夏的阳光不照射,你讨厌这样吗?”
「大好き」 「大好き」
“非常喜欢”
「でしょう?」 「でしょう?」
“是吧?”
お腹がいっぱいだからか、なんだか眠くなる。
也许是因为肚子饱了,总觉得困。
 お腹がいっぱいだからか、なんだか眠くなる。
 マクシミリニャンが膝をぽんぽん叩きつつ、眠くなったら枕にしてもいいと言ってくれたが、丁重にお断りをした。 マクシミリニャンが膝をぽんぽん叩きつつ、眠くなったら枕にしてもいいと言ってくれたが、丁重にお断りをした。
马克西米利尼亚一边拍着膝盖,一边说困了可以做枕头,但是郑重地拒绝了。
 ◇◇◇
 昼からは、マクシミリニャンについて行って、山での仕事を手伝う。 ◇◇◇
◇◇◇
昼からは、マクシミリニャンについて行って、山での仕事を手伝う。
从中午开始,跟着马克西米利尼亚去帮忙在山上工作。
「薪に使う木を、回収に行く」 「薪に使う木を、回収に行く」
“我去回收柴火用的树。”
「了解」 「了解」
“确定”
冬の間に木を伐り、その場に放置して春まで乾燥させるらしい。
据说在冬天砍伐树木,放置在那里干燥到春天。
現場に到着すると、見事に大きな木が倒れていた。
到达现场后,漂亮地倒着一棵大树。
 冬の間に木を伐り、その場に放置して春まで乾燥させるらしい。
 現場に到着すると、見事に大きな木が倒れていた。
「これを、一人で運ぶつもりだったの?」 「これを、一人で運ぶつもりだったの?」
“你打算一个人搬这个吗?”
「ふむ、そうだな。縄で縛れば、運べないこともない」 「ふむ、そうだな。縄で縛れば、運べないこともない」
“嗯,是啊。用绳子绑起来的话,也不是搬不动。”
「ええー……」 「ええー……」
“嗯……”
大人五人がかりでも、苦労しそうな大木に見えるが。山の男は、とんでもなく力持ちなのかもしれない。
即使是5个大人,看起来也很辛苦的大树。山上的男人,也许是一个非常有力气的人。
 大人五人がかりでも、苦労しそうな大木に見えるが。山の男は、とんでもなく力持ちなのかもしれない。
「これを、今から川に運ぶ」 「これを、今から川に運ぶ」
“现在把这个运到河里。”
「川!?」 「川!?」
“河!?”
「ああ。川に一ヶ月ほど浸けて、樹液を洗い流すのだ。そうすると、乾燥させる期間が短くて済む」 「ああ。川に一ヶ月ほど浸けて、樹液を洗い流すのだ。そうすると、乾燥させる期間が短くて済む」
“啊。在河里浸泡一个月,冲洗树液。这样干燥的时间就缩短了。”
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
暖炉で使う薪は、約二年間乾燥させる。川で樹液を洗い流すと、それよりも短い期間で乾燥するらしい。
在壁炉里使用的柴火大约干燥两年。在河里冲洗树液的话,好像会在更短的时间内干燥。
 暖炉で使う薪は、約二年間乾燥させる。川で樹液を洗い流すと、それよりも短い期間で乾燥するらしい。
山暮らしの知識に、舌をまいてしまった。
 山暮らしの知識に、舌をまいてしまった。 对于山上生活的知识,真是感慨万千

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033.md

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養蜂家の青年は、薪を作る 養蜂家の青年は、薪を作る
 二人がかりで、川まで大木を運ぶ。と言うよりは、緩やかな斜面を転がすと表現したほうが正しいのか。 养蜂青年做柴火
 大木は俺たちを置いて、どんどん下っていく。そのまま川に落とすのかと思いきや、せき止めるように川縁に経つ木の前で止まっていた。
 マクシミリニャンは川辺の木杭に結んである紐をたぐり寄せる。川から上げられたのは、紐が巻かれたくさびを打ち込んだ、丸太である。それは赤子ほどの大きさだった。さすがに、そのまま川に沈めるということはしないようだ。
 同じような紐がいくつかあった。すべて、川に樹液を洗い流す目的で沈めた丸太なのだろう。 二人がかりで、川まで大木を運ぶ。と言うよりは、緩やかな斜面を転がすと表現したほうが正しいのか。
两个人把大树运到河里。与其说是这样,不如说是在缓慢的斜坡上滚动才是正确的吗。
大木は俺たちを置いて、どんどん下っていく。そのまま川に落とすのかと思いきや、せき止めるように川縁に経つ木の前で止まっていた。
大树丢下我们,不断往下走。原以为会就这样掉到河里,没想到在河边的树前停了下来。
マクシミリニャンは川辺の木杭に結んである紐をたぐり寄せる。川から上げられたのは、紐が巻かれたくさびを打ち込んだ、丸太である。それは赤子ほどの大きさだった。さすがに、そのまま川に沈めるということはしないようだ。
马克西米利尼亚把系在河边木桩上的绳子拉过来。从河里抬起来的是把缠着绳子的楔子打进的原木。它有婴儿那么大。真不愧是,好像不会就这样沉入河里。
同じような紐がいくつかあった。すべて、川に樹液を洗い流す目的で沈めた丸太なのだろう。
有几个一样的绳子。全部都是为了在河里冲洗树液而沉没的原木吧。
「ここにある紐、全部引き上げるの?」 「ここにある紐、全部引き上げるの?」
“这里的绳子,全部拉上来吗?”
「ああ、そうだ」 「ああ、そうだ」
“啊,对了。”
 マクシミリニャンと二人がかりで、川に沈めた丸太をどんどん引き上げていく。 マクシミリニャンと二人がかりで、川に沈めた丸太をどんどん引き上げていく。
 赤子ほどの丸太は十個くらいあった。 和马克西米利尼亚两个人一起,把沉入河里的原木不断地拉上来。
赤子ほどの丸太は十個くらいあった。
像婴儿一样的原木有十个左右。
今度は先ほど運んできた大木を、川に沈めるらしい。
这次好像把刚才运来的大树沉入河里。
マクシミリニャンはのこぎりを手に取り、まるでパンをカットするかのごとくサクサクと大木を切り分ける。
马克西米利尼拿着锯,就像切面包一样,松脆地切开大树。
 今度は先ほど運んできた大木を、川に沈めるらしい。
 マクシミリニャンはのこぎりを手に取り、まるでパンをカットするかのごとくサクサクと大木を切り分ける。
「その木、堅い?」 「その木、堅い?」
“那棵树硬吗?”
「そこまで堅くはない」 「そこまで堅くはない」
“没有那么硬。”
トネリコという、弓や槍など、武器に使われる木材らしい。煙が少なく、火力が強いことから、真冬の薪として重宝しているようだ。
据说是被称为托内利科的弓和枪等武器使用的木材。因为烟少,火力强,所以作为隆冬的柴火很方便。
 トネリコという、弓や槍など、武器に使われる木材らしい。煙が少なく、火力が強いことから、真冬の薪として重宝しているようだ。
「イヴァン殿も、やってみるか?」 「イヴァン殿も、やってみるか?」
“伊凡大人也要试试吗?”
「うん」 「うん」
“嗯。”
足で木を踏んで固定させ、のこぎりの歯を当てる。
用脚踩着木头固定,用锯齿抵住。
実家では、よく養蜂箱作りをしていた。のこぎりの扱いは慣れている。
 足で木を踏んで固定させ、のこぎりの歯を当てる。 在老家经常做养蜂箱。我习惯用锯
 実家では、よく養蜂箱作りをしていた。のこぎりの扱いは慣れている。
 このトネリコの木は、よほどやわらかいのか。信じられないくらい、切りやすそうに見えた。
 だが――。 このトネリコの木は、よほどやわらかいのか。信じられないくらい、切りやすそうに見えた。
这棵树相当柔软吗。看起来很容易剪到难以置信的程度。
だが――。
但是——。
「うぐっ!!」 「うぐっ!!」
“哇!!”
 トネリコの木は、マクシミリニャンがしていたようにサクサク切れない。全力でのこぎりを押しては引きを繰り返したのちに、やっと切れた。 トネリコの木は、マクシミリニャンがしていたようにサクサク切れない。全力でのこぎりを押しては引きを繰り返したのちに、やっと切れた。
托涅里科的树不能像马克西米利尼亚做的那样松脆。全力推着锯反复拉,终于断了。
トネリコの木がやわらかいわけではなく、マクシミリニャンの筋力がとんでもないのだ。 同じように切れると思った十分前の自分を、叱り飛ばしたい気分になる。
托涅里科的树并不是柔软的,麦克西米利尼亚的肌力是意想不到的。想斥责同样认为断的十分前的自己的心情。
 トネリコの木がやわらかいわけではなく、マクシミリニャンの筋力がとんでもないのだ。 同じように切れると思った十分前の自分を、叱り飛ばしたい気分になる。
「しだいに、慣れる」 「しだいに、慣れる」
“渐渐习惯了。”
本当にそうなのだろうか? 怪しく思ってしまった。
 本当にそうなのだろうか? 怪しく思ってしまった。 真的是这样吗?我觉得很奇怪
 切り分けた丸太に紐を結んだくさびを打ち込み、川へ沈める。流されないよう、木杭に結んだらしばらく放置して樹液を洗い流すのだ。
切り分けた丸太に紐を結んだくさびを打ち込み、川へ沈める。流されないよう、木杭に結んだらしばらく放置して樹液を洗い流すのだ。
在切开的原木上打上系着绳子的楔子,沉入河中。为了不被冲走,系在木桩上后放置一段时间,冲洗树液。
先ほど川から上げた丸太は、切り分けてから運ぶらしい。マクシミリニャンは丸太から薪を作る方法を教えてくれる。
刚才从河里举起的原木,好像是切开后再搬运。马克西米利尼亚会教你如何用圆木做柴火。
 先ほど川から上げた丸太は、切り分けてから運ぶらしい。マクシミリニャンは丸太から薪を作る方法を教えてくれる。
「まず、この丸太の切り口に打ち込んだくさびを、石のハンマーで叩くのだ。さすれば、丸太が割れる」 「まず、この丸太の切り口に打ち込んだくさびを、石のハンマーで叩くのだ。さすれば、丸太が割れる」
“首先,用石头锤子敲打打进原木切口的楔子。这样的话,原木就会裂开。”
 マクシミリニャンがハンマーでトントントンと叩くと、丸太に裂け目ができた。今度は、くさびを表面の裂け目に差し込み、ハンマーで叩いていく。くさびを使って裂け目をどんどん広げていくと、丸太は真っ二つに割れるのだ。
マクシミリニャンがハンマーでトントントンと叩くと、丸太に裂け目ができた。今度は、くさびを表面の裂け目に差し込み、ハンマーで叩いていく。くさびを使って裂け目をどんどん広げていくと、丸太は真っ二つに割れるのだ。
马克西米利尼亚用锤子咚咚地敲了一下,圆木上出现了裂缝。这次,把楔子插入表面的裂缝,用锤子敲。如果用楔子不断地扩大裂缝,原木就会裂成两半。
実に簡単にやってくれたが、初めてやる俺にとっては重労働であった。汗だくになった末に、なんとか丸太を割ることに成功した。
其实做得很简单,但对第一次做的我来说是重劳动。汗流浃背地,总算把原木打碎了。
もちろん、これで終わりではない。真っ二つにした木を、おのと木づちを使って四分割から八分割ほどに割るのだ。
当然,这不是结束。把切成两半的树,用斧头和木槌从四分割分成八分割。
 実に簡単にやってくれたが、初めてやる俺にとっては重労働であった。汗だくになった末に、なんとか丸太を割ることに成功した。
 もちろん、これで終わりではない。真っ二つにした木を、おのと木づちを使って四分割から八分割ほどに割るのだ。
「へー、木づちを使うんだ」 「へー、木づちを使うんだ」
“啊,用木槌。”
「おのだけならば、腕が疲れてしまうからな」 「おのだけならば、腕が疲れてしまうからな」
“如果只是自己的话,胳膊会累的。”
マクシミリニャンは木の切り口におのを当て、柄を木づちで叩く。
马克西米利尼亚用斧头抵住树的切口,用锤子敲柄。
一発で、木を真っ二つにした。
一枪,把树劈成两半。
 マクシミリニャンは木の切り口におのを当て、柄を木づちで叩く。
 一発で、木を真っ二つにした。
「この通り」 「この通り」
“就是这样。”
「おお」 「おお」
“哦。”
薪割りも実家でやっていた。だが、木づちを使う方法は初めてである。
劈柴也是在老家做的。但是,使用木锤的方法还是第一次。
 薪割りも実家でやっていた。だが、木づちを使う方法は初めてである。 マクシミリニャンがやっていたようにおのの刃を木に当てて、柄を木づちで叩いた。
就像马克西米利尼亚做的那样,把斧头放在树上,用锤子敲了一下花纹。
すると、そこまで力を入れずとも、木が切れていく。あっという間に、パッカリと二つに分かれた。
于是,即使不用力,树也会断。一眨眼就分成了两个。
 マクシミリニャンがやっていたようにおのの刃を木に当てて、柄を木づちで叩いた。
 すると、そこまで力を入れずとも、木が切れていく。あっという間に、パッカリと二つに分かれた。
「これ、すごい。やりやすい!」 「これ、すごい。やりやすい!」
“这个很厉害,很容易做!”
「だろう?」 「だろう?」
“是吧?”
 これまで、薪割りは重労働であった。しかしこのやり方であれば、それほど体力を消費せずにできただろう。
 簡単に割れるのが面白くて、どんどん薪を作っていく これまで、薪割りは重労働であった。しかしこのやり方であれば、それほど体力を消費せずにできただろう
 その様子を、マクシミリニャンが涙目で見ているのに気づいてギョッとした 到目前为止,劈柴是一项繁重的劳动。但是如果是这样的话,就不会消耗那么多体力了吧
「え、何? どうしたの?」 簡単に割れるのが面白くて、どんどん薪を作っていく。
简单地裂开很有趣,不断地做柴火。
その様子を、マクシミリニャンが涙目で見ているのに気づいてギョッとした。
我注意到马克西米莉娜用眼泪看着那个样子,吓了一跳。
「え、何? どうしたの?」
“啊,什么?怎么了?”
「いや、娘婿に、こうして技術を継承できることに対し、感激を覚えてしまい……」 「いや、娘婿に、こうして技術を継承できることに対し、感激を覚えてしまい……」
“不,对女婿能这样继承技术,我感到很感激……”
「いや、まだ結婚していないから」 「いや、まだ結婚していないから」
“不,我还没结婚。”
話しているうちに、マクシミリニャンはだーっと涙が零れ始めた。
说着说着,马克西米莉娜开始流眼泪了。
 話しているうちに、マクシミリニャンはだーっと涙が零れ始めた。
 マクシミリニャンといい、アニャといい、涙もろい親子である。
 ハンカチを差し出したら涙を拭い、鼻までかんで返してくれた。戻ったら、洗わなければならないだろう。 マクシミリニャンといい、アニャといい、涙もろい親子である
无论是马克西米莉娜还是阿尼亚,都是脆弱的亲子。
ハンカチを差し出したら涙を拭い、鼻までかんで返してくれた。戻ったら、洗わなければならないだろう。
拿出手帕擦干眼泪,擤鼻涕还给了我。回来的话,必须要洗吧。
背負子に薪を積み、下ってきた坂を上がっていく。これが、地味に辛い。
背上堆着柴火,爬上了下来的坡。这个很朴素很辛苦。
 背負子に薪を積み、下ってきた坂を上がっていく。これが、地味に辛い。
「明日はきっと、筋肉痛かも」 「明日はきっと、筋肉痛かも」
“明天一定会肌肉痛。”
「それも、じきに慣れる」 「それも、じきに慣れる」
“那也很快就习惯了。”
慣れたころには、マクシミリニャンのように筋骨隆々になっているのか。
习惯了的时候,像马克西米利尼亚一样筋骨隆起吗。
 慣れたころには、マクシミリニャンのように筋骨隆々になっているのか。 それも悪くはないけれど、俺の貧相な顔つきに筋肉は似合いそうにないなと思ってしまった
 それも悪くはないけれど、俺の貧相な顔つきに筋肉は似合いそうにないなと思ってしまった。 虽然这也不坏,但我觉得肌肉不适合我贫穷的表情

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養蜂家の青年は、おやつの時間を堪能する 養蜂家の青年は、おやつの時間を堪能する
 薪を背負い、家まで戻る。 养蜂家的青年,享受零食的时间
 汗を掻いたからか、傷口が痛痒い。湧き水で顔を洗う。
 清涼な水が、汗と汚れをきれいにしてくれた。
 すっきりして気が緩んだのだろう。うっかり布でガシガシ顔を拭いて絶叫してしまった 薪を背負い、家まで戻る
背着柴火回家。
汗を掻いたからか、傷口が痛痒い。湧き水で顔を洗う。
也许是因为出汗了,伤口很痛很痒。用泉水洗脸。
清涼な水が、汗と汚れをきれいにしてくれた。
清凉的水把汗水和污渍都清理干净了。
すっきりして気が緩んだのだろう。うっかり布でガシガシ顔を拭いて絶叫してしまった。
心情舒畅而放松了吧。不小心用布擦了擦脸,尖叫了起来。
家からアニャが出てきて、地面に膝をつく俺の顔を覗き込む。
阿尼亚从家里出来,窥视着跪在地上的我的脸。
 家からアニャが出てきて、地面に膝をつく俺の顔を覗き込む。
「ちょっと、何事なの?」 「ちょっと、何事なの?」
“喂,这是怎么回事?”
「思いっきり、布で顔を拭いてしまった」 「思いっきり、布で顔を拭いてしまった」
“狠狠地用布擦了擦脸。”
「せっかく治りかけているのに、どうしてそんなことをするのよ」 「せっかく治りかけているのに、どうしてそんなことをするのよ」
“好不容易治好了,为什么要做那样的事呢?”
アニャに腕を握られ、家の中に連行されてしまう。再び、蜂蜜を直接顔に塗られてしまった。
被阿尼亚握住手臂,被带到家里。再次把蜂蜜直接涂在脸上。
 アニャに腕を握られ、家の中に連行されてしまう。再び、蜂蜜を直接顔に塗られてしまった。
「傷は刺激させないで。濡れたときは、自然乾燥させるのよ」 「傷は刺激させないで。濡れたときは、自然乾燥させるのよ」
“不要刺激伤口。湿了的时候,要自然干燥。”
「はい」 「はい」
“是的。”
治療が終わったようなので外に行こうとしたら、アニャに首根っこを掴まれた。
因为治疗好像结束了,所以想去外面的时候,被阿尼亚抓住了脖子。
 治療が終わったようなので外に行こうとしたら、アニャに首根っこを掴まれた。
「そろそろ休憩にしましょう。今日はお菓子を作ったから」 「そろそろ休憩にしましょう。今日はお菓子を作ったから」
“差不多该休息了,今天做了点心。”
「わかった。マクシミリニャンのおじさんを呼んでくる」 「わかった。マクシミリニャンのおじさんを呼んでくる」
“好的,我去叫马克西米莉娜的叔叔。”
「お願いね」 「お願いね」
“拜托了。”
マクシミリニャンは屋根で覆っただけの薪小屋の前にいて、黙々と取ってきた木を積んでいた。
马克西米利尼亚在一个只被屋顶覆盖的柴棚前,默默地堆着取来的树。
よくよく見たら、薪と薪の間に木の枝のように細かくカットした角材を挟んでいる。
仔细一看,柴火和柴火之间夹着像树枝一样切细的角材。
 マクシミリニャンは屋根で覆っただけの薪小屋の前にいて、黙々と取ってきた木を積んでいた。
 よくよく見たら、薪と薪の間に木の枝のように細かくカットした角材を挟んでいる。
「ああ、そうすれば、乾くのが早いんだ」 「ああ、そうすれば、乾くのが早いんだ」
“啊,这样的话,干得快。”
マクシミリニャンはくるりと振り返り、コクリと頷いた。
马克西米利尼亚转头一看,点了点头。
 マクシミリニャンはくるりと振り返り、コクリと頷いた。
「こうすれば、薪と薪の間に風が通り、乾きやすくなるのだ」 「こうすれば、薪と薪の間に風が通り、乾きやすくなるのだ」
“这样一来,柴火和柴火之间就会通风,容易干燥。”
「俺、何も考えずに、薪だけをどんどん積んでいた」 「俺、何も考えずに、薪だけをどんどん積んでいた」
“我什么都没想,只把柴火堆得满满的。”
これまで取ってきた薪も、同じように角材を挟んである。
至今为止拿来的柴火也同样夹着角材。
 これまで取ってきた薪も、同じように角材を挟んである。
「薪の乾燥は、何よりも大事だからな」 「薪の乾燥は、何よりも大事だからな」
“柴火的干燥比什么都重要。”
きちんと乾燥していないと、火保ちが悪くなる。弱い火のまま薪を消費し、どんどん追加しなければならない事態になるのだろう。
如果不好好干燥的话,保火就会变差。在弱火的情况下消耗柴火,会变成必须不断追加的事态吧。
 きちんと乾燥していないと、火保ちが悪くなる。弱い火のまま薪を消費し、どんどん追加しなければならない事態になるのだろう。
「地上よりも、ここの冬は冷える。少しでも、薪が長保ちするよう、工夫をせねばならないのだ」 「地上よりも、ここの冬は冷える。少しでも、薪が長保ちするよう、工夫をせねばならないのだ」
“比起地上,这里的冬天更冷。为了尽可能地保持柴火的长度,必须下功夫。”
「なるほどな」 「なるほどな」
“原来如此。”
 薪小屋の全体を見ると、芸術的なまでに積み上がっていた。
 最低でも二年以上乾燥が必要だというので、大変だ。 薪小屋の全体を見ると、芸術的なまでに積み上がっていた。
从柴棚的整体来看,已经堆到了艺术性的程度。
最低でも二年以上乾燥が必要だというので、大変だ。
至少需要两年以上的干燥,所以很辛苦。
「飾り棚(キャビネット)を自作するときは、二年どころではないぞ。八年以上もしっかり乾かしてから、作っている」 「飾り棚(キャビネット)を自作するときは、二年どころではないぞ。八年以上もしっかり乾かしてから、作っている」
“自制装饰架(橱柜)的时候,根本谈不上两年的时间,都是在晾干八年以上之后才做的。”
「八年も!?」 「八年も!?」
“八年了!?”
「木材に水分が含んでいると、歪みの原因になる。そのため、何年も乾かす必要があるのだ」 「木材に水分が含んでいると、歪みの原因になる。そのため、何年も乾かす必要があるのだ」
「如果木材中含有水分,就会造成变形,因此必须要晾干好几年。」
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
門や柵、ちょっとした小屋を作る場合は、そこまで乾燥させなくてもいいようだ。
在建造门、栅栏、小屋的时候,好像不用干燥到那种程度。
精巧な品を作るときのみ、数年にわたっての乾燥が必要になると。
只有在制作精巧的产品时,才需要经过数年的干燥。
 門や柵、ちょっとした小屋を作る場合は、そこまで乾燥させなくてもいいようだ。
 精巧な品を作るときのみ、数年にわたっての乾燥が必要になると。
角材を並べ、その上に薪を置く。きれいに並べると、見目もいい。その辺を気にしつつ、どんどん積んでいった。
 角材を並べ、その上に薪を置く。きれいに並べると、見目もいい。その辺を気にしつつ、どんどん積んでいった。 摆上角材,在上面放上柴火。摆得漂亮,眼光也很好。我一边在意那一带,一边不断地堆积起来
 最後の薪を積んだ瞬間、アニャの声が聞こえた。
最後の薪を積んだ瞬間、アニャの声が聞こえた。
在最后堆柴火的瞬间,我听到了阿尼亚的声音。
「ちょっとイヴァン!! お父様を呼びに行くって、どこまで行っているのよ!!」
“喂,伊凡!!你要去叫你父亲,你到哪里去了!!”
「ちょっとイヴァン!! お父様を呼びに行くって、どこまで行っているのよ!!」
「あ、ごめん」 「あ、ごめん」
“啊,对不起。”
姿は見えない。きっと、窓から外を覗き込んで叫んでいるのだろう。すばらしい声量だ。
看不见身影。一定是从窗户窥视外面喊着吧。好大的声量。
今はおやつの時間で、マクシミリニャンを呼びに行く目的で外に出たのをすっかり忘れていた。
现在是吃零食的时间,我完全忘了我是为了去叫马克西米利尼亚而出去的。
マクシミリニャンと共に小走りで家まで戻った。
和马克西米利尼一起小跑回家了。
 姿は見えない。きっと、窓から外を覗き込んで叫んでいるのだろう。すばらしい声量だ。 アニャは機嫌を悪くしているのではと思ったが、笑顔で迎えてくれる
我以为阿尼亚不高兴,但他会笑着迎接我。
 今はおやつの時間で、マクシミリニャンを呼びに行く目的で外に出たのをすっかり忘れていた。
怒っていないようなので、ホッとした。
我好像没有生气,所以松了一口气。
 マクシミリニャンと共に小走りで家まで戻った。
 アニャは機嫌を悪くしているのではと思ったが、笑顔で迎えてくれる。
 怒っていないようなので、ホッとした。 手を洗ったあと、席に着く
 手を洗ったあと、席に着く。 洗完手后就座
 家の中は、ふんわりと甘い香りで包まれていた。いったい、何を作ってくれたのか。
家の中は、ふんわりと甘い香りで包まれていた。いったい、何を作ってくれたのか。
家里弥漫着淡淡的甜香。到底给我做了什么。
マクシミリニャンが真面目な顔で、アニャに問いかける。
马克西米利尼亚一脸认真地问阿尼亚。
 マクシミリニャンが真面目な顔で、アニャに問いかける。
「アニャよ、何を作ったのだ?」 「アニャよ、何を作ったのだ?」
“阿尼亚,你做了什么?”
「蜂蜜の蒸しケーキよ。たくさん食べてね」 「蜂蜜の蒸しケーキよ。たくさん食べてね」
“蜂蜜蒸蛋糕,多吃点。”
「ありがとう」 「ありがとう」
“谢谢。”
アニャは蒸しケーキを切り分け、拳より大きな塊を皿に置いてくれた。
阿尼亚把蒸蛋糕切开,把比拳头还大的块放在盘子里。
 アニャは蒸しケーキを切り分け、拳より大きな塊を皿に置いてくれた。
 そのまま食べるのではなく、さらに蜂蜜をかけるらしい。 そのまま食べるのではなく、さらに蜂蜜をかけるらしい。
不是直接吃,而是再浇蜂蜜。
「あれ、蜂蜜かと思ったけれど、違う?」 「あれ、蜂蜜かと思ったけれど、違う?」
“咦,我还以为是蜂蜜呢,不是吗?”
「これはケーキシロップよ」 「これはケーキシロップよ」
“这是蛋糕糖浆。”
 砂糖と蜂蜜、ナッツパウダー、メープルシロップにウォッカを効かせて煮詰めたものらしい。
 甘い菓子に蜂蜜をかけると甘ったるくなるので、作ったものだとか。
 いったい、どんな味がするのか。楽しみだ。
 アニャはケーキシロップを匙で掬って、たらーりとたっぷり垂らしてくれた 砂糖と蜂蜜、ナッツパウダー、メープルシロップにウォッカを効かせて煮詰めたものらしい
 テーブルにはナイフとフォークは置いていない 据说是在砂糖、蜂蜜、坚果粉、枫糖浆中加入伏特加煮成的
 ちらりと、マクシミリニャンを見てみる。
 ケーキシロップでひたひたになるほどの蒸しケーキをがしっと掴み、豪快にかぶりついていた。膝に広げたナプキンにケーキシロップが垂れるが、気にしている様子はない。
 その後、砂糖や蜂蜜を入れていない野草茶をごくごく飲んでいた 甘い菓子に蜂蜜をかけると甘ったるくなるので、作ったものだとか
在甜点心上浇蜂蜜的话会变得甜,所以是做的。
 マクシミリニャンは一人、コクコクと頷いている。おいしかったのだろう。
 手掴みで食べるのがマナーのようなので、彼に倣って食べる いったい、どんな味がするのか。楽しみだ
到底有什么味道呢。我很期待。
 蒸しケーキはふわっふわで、力を少し入れただけで崩壊してしまいそうだ。
 優しく掴み、ケーキシロップを垂れるのを気にせず頬張った。 アニャはケーキシロップを匙で掬って、たらーりとたっぷり垂らしてくれた。
阿尼亚用勺子舀起蛋糕糖浆,滴了很多。
テーブルにはナイフとフォークは置いていない。
桌子上没有刀叉。
ちらりと、マクシミリニャンを見てみる。
我看了一眼马克西米利尼亚。
ケーキシロップでひたひたになるほどの蒸しケーキをがしっと掴み、豪快にかぶりついていた。膝に広げたナプキンにケーキシロップが垂れるが、気にしている様子はない。
紧紧地抓住用蛋糕糖浆泡在一起的蒸蛋糕,豪爽地盖上了。摊开在膝盖上的餐巾上滴着蛋糕糖浆,但没有在意的样子。
その後、砂糖や蜂蜜を入れていない野草茶をごくごく飲んでいた。
之后,他喝了很多没有加糖和蜂蜜的野草茶。
マクシミリニャンは一人、コクコクと頷いている。おいしかったのだろう。
马克西米利尼亚独自点头。很好吃吧。
手掴みで食べるのがマナーのようなので、彼に倣って食べる。
用手抓着吃好像是礼仪,所以模仿他吃。
蒸しケーキはふわっふわで、力を少し入れただけで崩壊してしまいそうだ。
蒸制的蛋糕软软的,稍微用力一点就要崩溃了。
優しく掴み、ケーキシロップを垂れるのを気にせず頬張った。
温柔地抓住,不介意滴下蛋糕糖浆,大口大口地吃。
「んん!!」 「んん!!」
“嗯!!”
蒸しケーキは夢みたいにふかふかで、しっとりしている。ケーキシロップの香ばしいような甘さが、蒸しケーキを優しく包み込む。
蒸蛋糕像做梦一样松软,湿润。蛋糕糖浆的香甜,温柔地包裹着蒸蛋糕。
 蒸しケーキは夢みたいにふかふかで、しっとりしている。ケーキシロップの香ばしいような甘さが、蒸しケーキを優しく包み込む。
「おいしい!!」 「おいしい!!」
“好吃!!”
そう言うと、アニャは笑顔で「よかった」と返した。
这样说着,阿尼亚笑着回答说:“太好了。”。
 そう言うと、アニャは笑顔で「よかった」と返した。 穏やかな昼下がりを、アニャやマクシミリニャンと共にのんびり過ごした。
 穏やかな昼下がりを、アニャやマクシミリニャンと共にのんびり過ごした。 平静的午后,和阿尼亚和马克西米利尼一起悠闲地度过了

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養蜂家の青年は、山羊の乳搾りを手伝う 養蜂家の青年は、山羊の乳搾りを手伝う
 おやつの時間が終わると、今度はアニャの作業を手伝うこととなった。 养蜂青年帮助山羊挤奶
おやつの時間が終わると、今度はアニャの作業を手伝うこととなった。
零食的时间一结束,这次就要帮助阿尼亚工作了。
「山羊のお乳の様子を調べたいから、ついてきて」 「山羊のお乳の様子を調べたいから、ついてきて」
“我想调查山羊奶的情况,跟我来。”
「了解」 「了解」
“确定”
 子育てのシーズンに、母山羊が病気になることがあるという。 子育てのシーズンに、母山羊が病気になることがあるという。
据说在养育孩子的季节,母山羊有时会生病。
乳から細菌が入り、異変が起こるものらしい。
从乳中加入细菌,好像会发生异变。
病気に罹った母山羊のミルクを、子山羊が飲んだら大変なことになる。
如果小山羊喝了生病的母山羊的牛奶,那就麻烦了。
 乳から細菌が入り、異変が起こるものらしい。
 病気に罹った母山羊のミルクを、子山羊が飲んだら大変なことになる。
「たいてい、乳の張り具合でわかるのだけれど、たまに見た目だけではわからない子がいるから、ミルクを搾って確認するの」 「たいてい、乳の張り具合でわかるのだけれど、たまに見た目だけではわからない子がいるから、ミルクを搾って確認するの」
“一般都是从牛奶的张力来判断的,但偶尔也有只看外表不知道的孩子,所以要挤牛奶来确认。”
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
放牧しているのは、子育てしていない山羊だけらしい。子山羊は他の獣の標的にされてしまうからだという。
放牧的好像只有没有养育孩子的山羊。据说这是因为小山羊会被当作其他野兽的目标。
母山羊と子山羊の運動不足は、昼間に軽く野山を歩かせて散歩をして解消しているようだ。
母山羊和子山羊的运动不足,似乎是在白天轻松地在山野中散步来消除的。
 放牧しているのは、子育てしていない山羊だけらしい。子山羊は他の獣の標的にされてしまうからだという。
 母山羊と子山羊の運動不足は、昼間に軽く野山を歩かせて散歩をして解消しているようだ。
「イヴァンは山羊の乳搾りってしたことある?」 「イヴァンは山羊の乳搾りってしたことある?」
“伊凡做过山羊挤奶吗?”
「いや、ない。爪切りの手伝いや、小屋掃除はあるけれど」 「いや、ない。爪切りの手伝いや、小屋掃除はあるけれど」
“不,没有。虽然有帮忙剪指甲和打扫小屋的工作。”
近所の畜産農家に手伝いに行っていた話をする。
向附近的畜牧农家说去帮忙的话。
 近所の畜産農家に手伝いに行っていた話をする。
「山羊に蹴られて、服が破れた日もあった」 「山羊に蹴られて、服が破れた日もあった」
“也有被山羊踢破衣服的日子。”
「まあ、大変だったのね」 「まあ、大変だったのね」
“哎呀,太辛苦了。”
アニャは言う。人間にも気性の荒い者が時折いるように、山羊にも性格が荒い者がいると。
阿尼亚说。正如人类偶尔也有脾气暴躁的人一样,山羊也有性格暴躁的人。
 アニャは言う。人間にも気性の荒い者が時折いるように、山羊にも性格が荒い者がいると。
「みんながみんな、そういうワケではないから、山羊を嫌いにならないでね」 「みんながみんな、そういうワケではないから、山羊を嫌いにならないでね」
“大家都不是这样的理由,所以不要讨厌山羊。”
「うん、わかった」 「うん、わかった」
“嗯,知道了。”
まず、小屋に到着すると、子山羊を押さえているようにと命じられる。
首先,到达小屋后,被命令按住小山羊。
子山羊はぴったりと母山羊について回るので、邪魔になるようだ。
小山羊紧紧地跟着母山羊转,好像很碍事。
アニャは慣れた手つきで母山羊の首に縄を結び、引っ張って小屋の外に連れて行く。
阿尼亚用习惯了的手势在母山羊的脖子上系上绳子,拉着带到小屋外面。
 まず、小屋に到着すると、子山羊を押さえているようにと命じられる。 子山羊がめーめー鳴くので、なんだか悪いことをしている気分になった
 子山羊はぴったりと母山羊について回るので、邪魔になるようだ。 因为小山羊吱吱叫,总觉得做了坏事
 アニャは慣れた手つきで母山羊の首に縄を結び、引っ張って小屋の外に連れて行く。
 子山羊がめーめー鳴くので、なんだか悪いことをしている気分になった。
 小屋の外に、乳搾りを行う柵がある。山羊一頭がすっぽり収まるようなシンプルな柵だ。 柵に縄を縛ったあと、アニャは石鹸で手を洗う。 小屋の外に、乳搾りを行う柵がある。山羊一頭がすっぽり収まるようなシンプルな柵だ。 柵に縄を縛ったあと、アニャは石鹸で手を洗う。
小屋外面有进行挤奶的栅栏。这是一条能完全容纳一只山羊的简单栅栏。把绳子绑在栅栏上后,阿尼亚用肥皂洗手。
「ここでしっかり洗っておかないと、山羊の乳房に細菌が入ってしまうの。人間の介入で山羊が病気になってしまうのは、あってはならないことよ」 「ここでしっかり洗っておかないと、山羊の乳房に細菌が入ってしまうの。人間の介入で山羊が病気になってしまうのは、あってはならないことよ」
“如果不在这里好好洗的话,山羊的乳房里会有细菌。因为人类的介入,山羊生病是不应该有的。”
続いて、湯がいて煮沸消毒させた布を温かいまま絞ったもので乳や乳房を拭くらしい。
接着,将热水煮沸消毒后的布在温暖的状态下拧干,擦拭乳和乳房。
アニャが平然とした表情で布を絞っていたので、同じように触れたらあまりの熱さに悲鳴をあげてしまった。
 続いて、湯がいて煮沸消毒させた布を温かいまま絞ったもので乳や乳房を拭くらしい。 阿尼亚表情坦然地拧着布,同样碰了一下,因为太热而尖叫起来
 アニャが平然とした表情で布を絞っていたので、同じように触れたらあまりの熱さに悲鳴をあげてしまった。
「熱(あっつ)い! アニャ、よくこれを絞れるね」
「熱(あっつ)い! アニャ、よくこれを絞れるね」
“好烫!阿尼亚,你经常拧这个。”
「慣れよ」 「慣れよ」
“习惯了。”
マクシミリニャンと同じことを言うので、笑ってしまった。
因为说了和马克西米莉娜一样的话,所以笑了。
 マクシミリニャンと同じことを言うので、笑ってしまった。 指摘すると、アニャは「お父様が真似をしたのよ」と言葉を返してくる
 指摘すると、アニャは「お父様が真似をしたのよ」と言葉を返してくる。 一指出,阿尼亚就回答说:“是爸爸模仿的。”
 山羊の乳を消毒させたあと、やっと乳搾りに移る。
 乳を手のひらで優しく包み込むように、人差し指から順番に握っていくらしい。すると、山羊のミルクが出てくる。
山羊の乳を消毒させたあと、やっと乳搾りに移る。
山羊奶消毒后,才开始挤奶。
乳を手のひらで優しく包み込むように、人差し指から順番に握っていくらしい。すると、山羊のミルクが出てくる。
就像用手掌温柔地包住奶一样,从食指开始依次握住。于是,山羊的牛奶就出来了。
「うん。この子は、問題ないようね」 「うん。この子は、問題ないようね」
“嗯,这孩子好像没问题。”
乳房の確認は毎日行うという。ミルクについては、週に一度らしい。
据说每天都要确认乳房。关于牛奶,好像一周一次。
子を持つ母山羊全頭の乳搾りを行った結果、けっこうな量のミルクが採れた。
对所有有孩子的母山羊进行了挤奶,结果收获了相当多的牛奶。
 乳房の確認は毎日行うという。ミルクについては、週に一度らしい。
 子を持つ母山羊全頭の乳搾りを行った結果、けっこうな量のミルクが採れた。
「病気になっている場合は、ミルク自体も臭くなるの。どう?」 「病気になっている場合は、ミルク自体も臭くなるの。どう?」
“生病的时候,牛奶本身也会变臭。怎么样?”
差し出された山羊のミルクは、ほんのりと甘い匂いを漂わせていた。
送来的山羊牛奶,散发着淡淡的甜味。
 差し出された山羊のミルクは、ほんのりと甘い匂いを漂わせていた。
「いい匂い」 「いい匂い」
「でしょう? イヴァンは、山羊のミルクは好き?」 “好香。”
「でしょう? イヴァンは、山羊のミルクは好き?」
“对吧?伊凡喜欢山羊牛奶吗?”
「うーん。臭みがあって、苦手かも」 「うーん。臭みがあって、苦手かも」
“嗯。有臭味,可能不擅长。”
普段、クセのない牛乳ばかり飲んでいたので、ついつい比べてしまうのだろう。
平时只喝没有癖好的牛奶,不知不觉就比较了吧。
 普段、クセのない牛乳ばかり飲んでいたので、ついつい比べてしまうのだろう。
 アニャには言えないが、最初に山羊のミルクを飲んだとき、あまりの獣臭さに吐き出してしまった記憶が残っている。
 二度と口にしないと思っていたが、空腹がその決意を薄れさせてくれたのだ。 アニャには言えないが、最初に山羊のミルクを飲んだとき、あまりの獣臭さに吐き出してしまった記憶が残っている。
虽然不能对阿尼亚说,但我记得第一次喝山羊牛奶的时候,因为太过野兽味而吐出来的记忆。
二度と口にしないと思っていたが、空腹がその決意を薄れさせてくれたのだ。
我以为再也不会说了,但是饥饿让我的决心变淡了。
分けて貰った山羊のミルクを飲んでいるうちに、獣臭さは慣れてしまった。かといって、好んで飲むわけではない。生きるために、俺は山羊のミルクを飲んでいたのだ。
喝着分给我的山羊牛奶,就习惯了兽臭。虽说如此,但并不是喜欢喝。为了生存,我喝了山羊的牛奶。
 分けて貰った山羊のミルクを飲んでいるうちに、獣臭さは慣れてしまった。かといって、好んで飲むわけではない。生きるために、俺は山羊のミルクを飲んでいたのだ。
「ここの山羊のミルクは、そこまで臭くないわ。クセについては、否定できないけれど」 「ここの山羊のミルクは、そこまで臭くないわ。クセについては、否定できないけれど」
“这里的山羊牛奶没有那么臭。关于癖好,我不能否定。”
「臭いは、何か特別な処理とかしているの?」 「臭いは、何か特別な処理とかしているの?」
“臭味有什么特别的处理吗?”
「特別というか、ミルクはすぐに山羊や小屋から離して、加工するようにしているわね。山羊のミルクは、周囲の臭いを吸収してしまうの。臭いミルクは、小屋の近くに放置する時間が長かったものじゃないの?」 「特別というか、ミルクはすぐに山羊や小屋から離して、加工するようにしているわね。山羊のミルクは、周囲の臭いを吸収してしまうの。臭いミルクは、小屋の近くに放置する時間が長かったものじゃないの?」
“要说特别的话,牛奶会马上离开山羊和小屋进行加工。山羊的牛奶会吸收周围的臭味。臭牛奶在小屋附近放置的时间不是很长吗?”
「あー、なるほど」 「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
たしかに、知り合いの畜産農家のミルクは、朝搾ったミルクを、昼間に殺菌処理するとかなんとか話していたような。その間に、山羊の体臭などを吸収していたのかもしれない。
确实,认识的畜牧农家的牛奶,好像在说早上榨的牛奶,白天杀菌处理之类的话。在这期间,可能吸收了山羊的体臭等。
山羊のミルクを、台所へと運ぶ。
把山羊的牛奶送到厨房。
まずは、搾りたてのミルクを殺菌するらしい。大鍋に湯を沸かし、湯に三十分ほどミルクを注いだ鍋を浸けるのだという。
首先,好像要把刚挤出来的牛奶杀菌。据说是在大锅里烧水,在热水里泡30分钟左右的牛奶锅。
 たしかに、知り合いの畜産農家のミルクは、朝搾ったミルクを、昼間に殺菌処理するとかなんとか話していたような。その間に、山羊の体臭などを吸収していたのかもしれない。
殺菌処理が完了したら、カップに注いだ山羊のミルクが差し出された。
 山羊のミルクを、台所へと運ぶ。 杀菌处理完成后,倒在杯子里的山羊牛奶被递了出来
 まずは、搾りたてのミルクを殺菌するらしい。大鍋に湯を沸かし、湯に三十分ほどミルクを注いだ鍋を浸けるのだという。
 殺菌処理が完了したら、カップに注いだ山羊のミルクが差し出された。
 これまで飲んだこともないような、新鮮なミルクである。どきどきしながら、カップに口を付けた。 これまで飲んだこともないような、新鮮なミルクである。どきどきしながら、カップに口を付けた。
这是一种从来没有喝过的新鲜牛奶。忐忑不安地把嘴贴在杯子上。
「え、嘘。すごくおいしい」 「え、嘘。すごくおいしい」
“啊,骗人的。非常好吃。”
もう一度飲んでみる。獣臭さはないし、あっさりしていて優しい甘さが口の中に広がった。
再喝一次试试。没有野兽味,清淡而温柔的甜味在口中蔓延开来。
 もう一度飲んでみる。獣臭さはないし、あっさりしていて優しい甘さが口の中に広がった。
「知らなかった。山羊のミルクがこんなにおいしいなんて」 「知らなかった。山羊のミルクがこんなにおいしいなんて」
“我不知道,山羊奶竟然这么好喝。”
「でしょう?」 「でしょう?」
“是吧?”
アニャは自慢げに、にっこり微笑む。
阿尼亚骄傲地微笑着。
これらの山羊のミルクは、一晩置いてチーズやバターに加工するらしい。
 アニャは自慢げに、にっこり微笑む。 这些山羊的牛奶好像要放一晚上加工成奶酪和黄油
 これらの山羊のミルクは、一晩置いてチーズやバターに加工するらしい。 山暮らしに欠かせない、栄養満点の乳製品を作るという
 山暮らしに欠かせない、栄養満点の乳製品を作るという。 据说是制作山生活中不可缺少的营养满分的乳制品

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@ -1,217 +1,519 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とチーズを作る 養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とチーズを作る
 翌朝、アニャは朝から俺が寝泊まりしている離れの扉を叩く。 养蜂青年和蜜药师的女儿一起做奶酪
「イヴァン、起きて! 蕎麦の芽を、見に行きましょう」 翌朝、アニャは朝から俺が寝泊まりしている離れの扉を叩く。
第二天早上,阿尼亚从早上开始敲我住的远离的门。
 大変可愛らしいお誘いだが、起きてすぐ活動できるわけではない。
 顔を出さずに、返事をする。
「イヴァン、起きて! 蕎麦の芽を、見に行きましょう」
“伊凡,起来!我们去看看荞麦的芽吧。”
大変可愛らしいお誘いだが、起きてすぐ活動できるわけではない。
虽然是非常可爱的邀请,但是起床后并不是马上就能活动。
顔を出さずに、返事をする。
不露面,回答。
「アニャ、十五分くらい待って」 「アニャ、十五分くらい待って」
“阿尼亚,等十五分钟。”
「なんで身支度にそんなにかかるのよ」 「なんで身支度にそんなにかかるのよ」
“为什嚒要花那嚒多时间打扮?”
「いや、いろいろあるし」 「いや、いろいろあるし」
“不,有很多。”
「いろいろって?」 「いろいろって?」
“各种各样?”
「……」
「……」 「……」
 一瞬黙ってしまったが、別にアニャに本当の事情を説明する必要はない。てきとうに、顔を洗ったり、歯を磨いたり、髭を剃ったりするんだよと伝えておく。
一瞬黙ってしまったが、別にアニャに本当の事情を説明する必要はない。てきとうに、顔を洗ったり、歯を磨いたり、髭を剃ったりするんだよと伝えておく。
虽然一瞬间沉默了,但没有必要向阿尼亚说明真正的情况。事先告诉他要洗脸、刷牙、刮胡子。
「そんなの、気にしなくてもいいのに」 「そんなの、気にしなくてもいいのに」
“你不用在意。”
「最低限の礼儀だから」 「最低限の礼儀だから」
“因为是最低限度的礼仪。”
なんとか説き伏せ、アニャにはしばし待ってもらう。
想办法说服,让阿尼亚等一会儿。
 なんとか説き伏せ、アニャにはしばし待ってもらう。
 服を着替え、昨日、アニャが洗って乾かしてくれた服に袖を通した。ふんわりと、かぐわしい花の香りがする。何か、特別な石鹸で洗ったのだろうか。いい匂いだ。 服を着替え、昨日、アニャが洗って乾かしてくれた服に袖を通した。ふんわりと、かぐわしい花の香りがする。何か、特別な石鹸で洗ったのだろうか。いい匂いだ。
换了衣服,昨天把袖子穿过了阿尼亚洗干的衣服。散发着柔和、芬芳的花香。是用什么特别的肥皂洗的吗。好香。
外に出たら、アニャが手を腰に当てた状態で待ち構えていた。
一出门,阿尼亚就把手放在腰上等着。
 外に出たら、アニャが手を腰に当てた状態で待ち構えていた。
「うわっ!」 「うわっ!」
“哇!”
「なんでそんなに驚くのよ」 「なんでそんなに驚くのよ」
“你为什嚒这嚒惊讶?”
「ごめん。まさか、外で待っているとは思わなくて。他のことでもして、待っていてもいいよ。ひげ剃りも歯磨きも、まだだから」 「ごめん。まさか、外で待っているとは思わなくて。他のことでもして、待っていてもいいよ。ひげ剃りも歯磨きも、まだだから」
“对不起,我不认为你会在外面等我。你可以做其他的事,等着。刮胡子和刷牙都还没好。”
「もう、仕事は終わったわ」 「もう、仕事は終わったわ」
“工作已经结束了。”
なんでもアニャは、早起きして朝の仕事は済ませてしまったらしい。
不管怎么说,阿尼亚好像早起完成了早上的工作。
 なんでもアニャは、早起きして朝の仕事は済ませてしまったらしい。
「なんでまた、早起きしてまで働いていたの?」 「なんでまた、早起きしてまで働いていたの?」
“为什么又早起工作了?”
「イヴァンと蕎麦の芽を見に行くのを、楽しみにしていたの。少しでも早く、確認に行きたくて」 「イヴァンと蕎麦の芽を見に行くのを、楽しみにしていたの。少しでも早く、確認に行きたくて」
“我很期待和伊凡一起去看荞麦面的芽。我想尽快去确认。”
一人でも確認できるのに、あえて俺と一緒に見たいのだという。なんていじらしいことを言ってくれるのか。
虽然一个人也能确认,但还是想和我一起看。你说的多嚒刁钻。
 一人でも確認できるのに、あえて俺と一緒に見たいのだという。なんていじらしいことを言ってくれるのか。
 頭をぐりぐり撫でたくなるが、アニャは見た目が幼いだけで立派な成人女性である。そうでなくても、女性に気軽に触れてはいけない。
 俺は、ロマナとの一件で大いに学んだ。 頭をぐりぐり撫でたくなるが、アニャは見た目が幼いだけで立派な成人女性である。そうでなくても、女性に気軽に触れてはいけない。
虽然想摸摸脑袋,但是阿尼亚只是外表年幼,是个优秀的成年女性。即使不是,也不能随便接触女性。
俺は、ロマナとの一件で大いに学んだ。
我在和罗曼娜的一件事上学到了很多。
「じゃあ、もうちょっと待って」 「じゃあ、もうちょっと待って」
“那嚒,再等一下。”
「ええ」 「ええ」
“是的。”
急いで顔を洗い、髭を剃って歯を磨いた。
 急いで顔を洗い、髭を剃って歯を磨いた。 赶紧洗脸,刮胡子刷牙。
顔の腫れは、昨日よりだいぶいい。あと、三、四日もすれば完治するだろう。
脸上的肿比昨天好多了。再过三四天就能痊愈了吧。
蜜薬師である、アニャのおかげだ。
多亏了蜜药师阿尼亚。
 顔の腫れは、昨日よりだいぶいい。あと、三、四日もすれば完治するだろう。
 蜜薬師である、アニャのおかげだ。
「お待たせ」 「お待たせ」
“让您久等了。”
「ええ、行きましょう」 「ええ、行きましょう」
“嗯,我们走吧。”
 昨日、蕎麦の種を植えた畑を目指した。 昨日、蕎麦の種を植えた畑を目指した。
昨天,以种植荞麦种子的田地为目标。
まあ、当然ながら、昨日の今日なので、芽なんて出ていない。
当然,因为是昨天的今天,所以没有发芽。
アニャは姿勢を低くし、目を凝らしていたが、発見には至らなかったようだ。
阿尼亚低着姿势,目不转睛地盯着,但似乎没有发现。
 まあ、当然ながら、昨日の今日なので、芽なんて出ていない。
 アニャは姿勢を低くし、目を凝らしていたが、発見には至らなかったようだ。
「蕎麦の芽は、早くても四日から五日くらいだし、まだ早いよ」 「蕎麦の芽は、早くても四日から五日くらいだし、まだ早いよ」
“荞麦的芽最早也要四到五天左右,还早呢。”
運がよければ、三日目の朝に生えているかもしれない。
如果运气好的话,可能长在第三天早上。
 運がよければ、三日目の朝に生えているかもしれない。
 アニャはしゃがみ込んだまま、しょんぼりしているように見えた。
 なんとなく、間違っているかもしれないけれど、アニャは蕎麦の芽が出てほしいと望んでいるように見える。 アニャはしゃがみ込んだまま、しょんぼりしているように見えた
 親子の穏やかでのんびりとした生活は、俺の性格にも合っているような気がした。 阿尼亚蹲着,看上去无精打采的。
なんとなく、間違っているかもしれないけれど、アニャは蕎麦の芽が出てほしいと望んでいるように見える。
总觉得可能错了,但是阿尼亚看起来希望荞麦面发芽。
親子の穏やかでのんびりとした生活は、俺の性格にも合っているような気がした。
父母和孩子平静悠闲的生活,感觉也适合我的性格。
かと言って、芽が出なかったら、ここに置いてくれと懇願するつもりはない。
话虽如此,如果没有发芽的话,我不打算恳求你把它放在这里。
運命は、蕎麦の芽に託してある。もしも出なかったら、ここに相応しい人間ではなかったという天の思し召しなのだろう。
命运寄托在荞麦的萌芽上。如果没有出现的话,是上天认为他不是适合这里的人吧。
 かと言って、芽が出なかったら、ここに置いてくれと懇願するつもりはない。
 運命は、蕎麦の芽に託してある。もしも出なかったら、ここに相応しい人間ではなかったという天の思し召しなのだろう。
「アニャ、戻ろう」 「アニャ、戻ろう」
“阿尼亚,我们回去吧。”
「ええ」 「ええ」
“是的。”
個人的な感情は頭の隅に追いやって、働かなければ。
个人的感情要逼到脑子的角落,不工作的话。
二日目の滞在が、始まる。
第二天的停留开始了。
 個人的な感情は頭の隅に追いやって、働かなければ。
 二日目の滞在が、始まる。
今日は昨日搾った山羊のミルクを、加工するらしい。
今天好像要加工昨天榨的山羊牛奶。
山羊のミルクは一晩おくと、分離する。表面に浮かんでいるものを、“クリーム”と呼んでいるらしい。このクリームを穴あき柄杓(スキーマー)で掬い、鍋に注ぎ入れる。
山羊的牛奶隔一晚就会分离。表面浮着的东西,好像被称为“奶油”。用打孔舀子舀起这个奶油,倒入锅里。
 今日は昨日搾った山羊のミルクを、加工するらしい。
 山羊のミルクは一晩おくと、分離する。表面に浮かんでいるものを、“クリーム”と呼んでいるらしい。このクリームを穴あき柄杓(スキーマー)で掬い、鍋に注ぎ入れる。
「これから、山羊のチーズを作るわ」 「これから、山羊のチーズを作るわ」
“接下来,我要做山羊奶酪。”
「了解」 「了解」
“确定”
まず使うのは、クリームを掬ったミルクらしい。これを、低温で熱する。
首先使用的好像是舀奶油的牛奶。在低温下加热。
 まず使うのは、クリームを掬ったミルクらしい。これを、低温で熱する。
「ほんのり温かくなったら、クリームを注ぐの」 「ほんのり温かくなったら、クリームを注ぐの」
“稍微暖和一点的话,就倒入奶油。”
しばらく混ぜたら、ここにさらにミルクを入れる。
混合一段时间后,在这里再加牛奶。
 しばらく混ぜたら、ここにさらにミルクを入れる。
「追加のミルクは、朝に搾った新鮮なものなの。チーズを作るために、さっき搾ってきたわ」 「追加のミルクは、朝に搾った新鮮なものなの。チーズを作るために、さっき搾ってきたわ」
“追加的牛奶是早上榨的新鲜的。为了做奶酪,刚才榨了过来。”
さらに加熱するようだ。温めすぎは注意らしい。
好像还要加热。加热过度好像要注意。
目標の温度になったら凝乳酵素(レンネット)と呼ばれる、子牛の消化液から作った凝固液を冷水で薄めて入れる。
 さらに加熱するようだ。温めすぎは注意らしい。 到了目标温度后,将由小牛消化液制成的凝固液用冷水稀释后放入,称为凝乳酶(伦内特)
 目標の温度になったら凝乳酵素(レンネット)と呼ばれる、子牛の消化液から作った凝固液を冷水で薄めて入れる。
 これは、麓にある畜産農家から買い付けているようだ。
これは、麓にある畜産農家から買い付けているようだ。
这好像是从山脚下的畜牧农家购买的。
この状態になったミルクを、きれいに洗った手で混ぜる。
把这种状态的牛奶用洗干净的手搅拌。
 この状態になったミルクを、きれいに洗った手で混ぜる。
「アニャ、それ、熱くないの?」 「アニャ、それ、熱くないの?」
“阿尼亚,那个不热吗?”
「熱くないわ。人肌よりも、低い温度なの」 「熱くないわ。人肌よりも、低い温度なの」
“不热,温度比人的皮肤还低。”
「そうなんだ」 「そうなんだ」
“是啊。”
ミルクがもったりしてきたら、柄杓で表面をぎゅ、ぎゅっと押さえつけるのだ。
如果有牛奶的话,用舀子紧紧地按住表面。
このまま一時間放置すると、ミルクは固まった。
就这样放置一个小时,牛奶就凝固了。
ナイフで四角くカットし、布を当てた容器へ移す。その際に出た水溶液は乳清(ホエー)といって、栄養価が高いものらしい。スープに入れたり、菓子作りに使ったりするのだとか。
用小刀切成四方形,转移到贴着布的容器里。那个时候流出的水溶液叫做乳清,营养价值很高。放入汤里,或者用来做点心。
 ミルクがもったりしてきたら、柄杓で表面をぎゅ、ぎゅっと押さえつけるのだ。 ここで、固形となったミルクに塩を加え、チーズクロスに包んで丸形の桶に詰め込む
 このまま一時間放置すると、ミルクは固まった。 在这里,在固体牛奶中加入盐,用芝士布包起来塞进圆形的桶里
 ナイフで四角くカットし、布を当てた容器へ移す。その際に出た水溶液は乳清(ホエー)といって、栄養価が高いものらしい。スープに入れたり、菓子作りに使ったりするのだとか。
 ここで、固形となったミルクに塩を加え、チーズクロスに包んで丸形の桶に詰め込む。
 石造りのチーズプレスでしっかり固めるのだ。これがまた、とんでもない力仕事だった。 石造りのチーズプレスでしっかり固めるのだ。これがまた、とんでもない力仕事だった。
用石造的奶酪压力机好好地凝固。这又是一件意想不到的力气活。
ハンドルを回してチーズを固める物なのだが、回すのに力がいる。
虽然是转动方向盘凝固奶酪的东西,但是转动起来很有力量。
 ハンドルを回してチーズを固める物なのだが、回すのに力がいる。
「イヴァン、頑張れ!」 「イヴァン、頑張れ!」
“伊凡,加油!”
アニャに応援されたら、頑張らないといけない。
如果被阿尼亚支持的话,必须努力。
最後に、塩を表面に塗って、熟成させるようだ。
最后,把盐涂在表面,使之成熟。
 アニャに応援されたら、頑張らないといけない。
 最後に、塩を表面に塗って、熟成させるようだ。
「チーズ作りって、大変」 「チーズ作りって、大変」
“做芝士很辛苦。”
「そうなのよ。今日は、イヴァンがいて助かったわ。きっと、おいしいチーズになるはずよ」 「そうなのよ。今日は、イヴァンがいて助かったわ。きっと、おいしいチーズになるはずよ」
“是啊。今天有伊凡在,真是帮了大忙。一定会成为美味的奶酪的。”
「そう言ってもらえたら、何より」 「そう言ってもらえたら、何より」
“如果你能这么说的话,那比什么都好。”
完成したチーズは、果たして俺の口に入るのだろうか。
完成的奶酪,到底会不会进入我的嘴里呢。
 完成したチーズは、果たして俺の口に入るのだろうか。 それは、蕎麦の芽のみが知る、というものだろう
 それは、蕎麦の芽のみが知る、というものだろう。 那就是只知道荞麦面的芽吧

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037.md

@ -1,179 +1,421 @@
養蜂家の青年は、熟成させた山羊のチーズを食べる 養蜂家の青年は、熟成させた山羊のチーズを食べる
 アニャは昼食に、山羊のチーズを出してくれた。一週間ほど、熟成させたものらしい。驚くほど真っ白である。 养蜂青年吃熟了的山羊奶酪
アニャは昼食に、山羊のチーズを出してくれた。一週間ほど、熟成させたものらしい。驚くほど真っ白である。
阿尼亚午饭给我端了山羊奶酪。好像是成熟了一周左右的东西。白得惊人。
山羊のチーズもまた、苦手意識があった。けれど、ミルクがあれだけおいしかったので、このチーズもこれまで食べていたものとは違うのだろう。
山羊奶酪也有不擅长的意识。但是,因为牛奶那么好吃,所以这个奶酪也和以前吃的不一样吧。
 山羊のチーズもまた、苦手意識があった。けれど、ミルクがあれだけおいしかったので、このチーズもこれまで食べていたものとは違うのだろう。
「ちょっとクセがあるかもしれないから、蜂蜜をかけたほうがいいかも」 「ちょっとクセがあるかもしれないから、蜂蜜をかけたほうがいいかも」
“可能有点癖好,最好浇点蜂蜜。”
「チーズに、蜂蜜!?」 「チーズに、蜂蜜!?」
“奶酪加蜂蜜!?”
未知なる組み合わせである。果たして、合うのだろうか。
是未知的组合。到底合适吗。
 未知なる組み合わせである。果たして、合うのだろうか。
「山羊のチーズは酸味があるから、蜂蜜との相性がいいのよ。食べてみなさい」 「山羊のチーズは酸味があるから、蜂蜜との相性がいいのよ。食べてみなさい」
“山羊奶酪有酸味,和蜂蜜很搭,你尝尝看。”
アニャは問答無用で、山羊のチーズに蜂蜜を垂らしてくれた。
阿尼亚无需问答,就给山羊奶酪滴上蜂蜜。
 アニャは問答無用で、山羊のチーズに蜂蜜を垂らしてくれた。
 そのまま食べるよりも、蜂蜜がかかっているほうが食べやすいかもしれない。
 それでも、どきどきしながら食べる。 そのまま食べるよりも、蜂蜜がかかっているほうが食べやすいかもしれない。
比起直接吃,浇蜂蜜可能更容易吃。
それでも、どきどきしながら食べる。
尽管如此,还是忐忑不安地吃。
「おいしい!」 「おいしい!」
“好吃!”
酸味はヨーグルトのようなものと表現すればいいのか。あっさりしていて、さわやかな味わいである。
酸味可以用酸奶之类的东西来形容吗。味道清淡,清爽。
 酸味はヨーグルトのようなものと表現すればいいのか。あっさりしていて、さわやかな味わいである。
「熟成が進んだら、味の濃さも変わってくるのよ」 「熟成が進んだら、味の濃さも変わってくるのよ」
“随着成熟的发展,味道的浓度也会改变。”
「へえ、そうなんだ」 「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
蜂蜜とチーズがこんなにも合うなんて、知らなかった。
我不知道蜂蜜和奶酪这么搭。
 蜂蜜とチーズがこんなにも合うなんて、知らなかった。 あっという間に、ペロリと平らげてしまう
 あっという間に、ペロリと平らげてしまう。 一眨眼就吃光了
 そのあと、蜂蜜をかけていない山羊のチーズも食べたが、普通においしかった。
 やはり、山羊のミルクは管理が命なのだろう。
そのあと、蜂蜜をかけていない山羊のチーズも食べたが、普通においしかった。
之后,我也吃了没有蜂蜜的山羊奶酪,但一般都很好吃。
 ◇◇◇
やはり、山羊のミルクは管理が命なのだろう。
果然,山羊的牛奶管理是生命吧。
◇◇◇
◇◇◇
早春の養蜂家の仕事は、餌は足りているか、女王はきちんといるか、病気が出ていないか、雄蜂が増えすぎていないか――巣箱を巡回して、しっかり確認しなければならない。
早春养蜂人的工作是,食物是否充足,女王是否好好地呆着,是否出现了疾病,雄蜂是否增加过多——必须巡视蜂箱,好好确认。
春の盛り、もっとも蜜蜂が忙しくなる流蜜期に向けて、花蜜を集める蜜蜂のサポートに徹するのだ。
为了迎接春意盎然、蜜蜂最忙的流蜜期,我们将彻底支持收集花蜜的蜜蜂。
 早春の養蜂家の仕事は、餌は足りているか、女王はきちんといるか、病気が出ていないか、雄蜂が増えすぎていないか――巣箱を巡回して、しっかり確認しなければならない。
 春の盛り、もっとも蜜蜂が忙しくなる流蜜期に向けて、花蜜を集める蜜蜂のサポートに徹するのだ。
「そういえばイヴァン。もうお昼を過ぎたけれど、体や傷の調子はどう?」 「そういえばイヴァン。もうお昼を過ぎたけれど、体や傷の調子はどう?」
“这么说来,伊凡。已经过了中午了,身体和伤口怎么样?”
「筋肉痛以外は、特に痛みはないかな」 「筋肉痛以外は、特に痛みはないかな」
“除了肌肉痛以外,没有什么特别的痛吧”
 昨日、大角山羊に乗ったからか、尻と腿付近が筋肉痛になっていたのだ。 昨日、大角山羊に乗ったからか、尻と腿付近が筋肉痛になっていたのだ。
也许是因为昨天坐了大角山羊,屁股和腿附近肌肉疼痛。
しかしまあ、我慢できないほど痛むわけではない。
但是,并不是痛得受不了。
 しかしまあ、我慢できないほど痛むわけではない。
「筋肉痛以外に、不調はないよ。いつもより、調子がいいくらい」 「筋肉痛以外に、不調はないよ。いつもより、調子がいいくらい」
“除了肌肉痛以外,没有什么不适。比平时状态好。”
「だったらよかったわ」 「だったらよかったわ」
“那就好了。”
三食まともに食事を食べていたからだろうか。肌の調子はいいし、夜はよく眠れる。活力だって、いつも以上にある気がした。
大概是因为吃了三餐吧。皮肤很好,晚上睡得很好。我觉得活力也比平时更多。
 三食まともに食事を食べていたからだろうか。肌の調子はいいし、夜はよく眠れる。活力だって、いつも以上にある気がした。
「元気だから」 「元気だから」
“我很好。”
「よかったわ」 「よかったわ」
「太好了。」
本日も、大角山羊に乗って野山を駆け巡るらしい。昨日みたいな崖には登らないというので、ホッと胸をなで下ろす。
 本日も、大角山羊に乗って野山を駆け巡るらしい。昨日みたいな崖には登らないというので、ホッと胸をなで下ろす。 今天也乘坐大角山羊在山野中奔跑。因为不能登上像昨天那样的悬崖,所以松了一口气
 アニャと共に、大角山羊に跨がり、次から次へと巣箱を確認していく。
 この時期は次々と蜜蜂が生まれるので、蜜箱に継箱を重ねておく。
 トチノキに、アカシア、ハナスグリなど、街のほうでは見かけない樹から蜂蜜を作っていた。それだけでなく、ノバラにブラックベリー、リナリアなど、野山に自生する花からも蜜を集めているようだ アニャと共に、大角山羊に跨がり、次から次へと巣箱を確認していく
和阿尼亚一起跨上大角山羊,一个接一个地确认巢箱。
 花を育てて蜜を採る実家の養蜂とは異なり、アニャとマクシミリニャンは山に自生する木々や花から採った蜜で養蜂を営んでいる。
 自然との共存で行わなければならないので、苦労は尽きないようだ。 この時期は次々と蜜蜂が生まれるので、蜜箱に継箱を重ねておく。
因为这个时期蜜蜂一个接一个地诞生,所以在蜜箱上重叠着继箱。
トチノキに、アカシア、ハナスグリなど、街のほうでは見かけない樹から蜂蜜を作っていた。それだけでなく、ノバラにブラックベリー、リナリアなど、野山に自生する花からも蜜を集めているようだ。
在柏树上,用刺槐、花椰菜等在街上看不到的树制作蜂蜜。不仅如此,从野蔷薇、黑莓、莉娜莉亚等山野野生的花中也收集了蜜。
花を育てて蜜を採る実家の養蜂とは異なり、アニャとマクシミリニャンは山に自生する木々や花から採った蜜で養蜂を営んでいる。
与养花采蜜的老家养蜂不同,阿尼亚和马克西米利尼亚用山上野生的树木和花采的蜜来经营养蜂。
自然との共存で行わなければならないので、苦労は尽きないようだ。
因为必须与自然共存,所以辛苦似乎是无穷无尽的。
「巣箱が獣に荒らされているのはしょっちゅうだし、天敵となる虫も多いの」 「巣箱が獣に荒らされているのはしょっちゅうだし、天敵となる虫も多いの」
“巢箱经常被野兽糟蹋,成为天敌的虫子也很多。”
特に、蜜蜂の天敵となるスズメバチの活動が活発化する夏には、駆除のために数日費やすときもあるという。
特别是在蜜蜂的天敌马蜂活动活跃的夏天,为了驱除蜜蜂有时会花费数日。
 特に、蜜蜂の天敵となるスズメバチの活動が活発化する夏には、駆除のために数日費やすときもあるという。
「スズメバチはね、捕まえた途端、蜂蜜漬けにしてやるのよ」 「スズメバチはね、捕まえた途端、蜂蜜漬けにしてやるのよ」
“马蜂啊,一抓到就用蜂蜜腌制。”
「え、何それ」 「え、何それ」
「咦?那是什么?」
「スズメバチの蜂蜜漬け、知らないの?」 「スズメバチの蜂蜜漬け、知らないの?」
“你不知道黄蜂的蜂蜜泡饭吗?”
「初めて聞いたよ」 「初めて聞いたよ」
“我第一次听说。”
なんでも、二年間ほど蜂蜜に漬けると、毒成分が蜂蜜に溶け出すらしい。
不管怎么说,泡两年左右的蜂蜜的话,毒成分好像会溶解在蜂蜜里。
 なんでも、二年間ほど蜂蜜に漬けると、毒成分が蜂蜜に溶け出すらしい。
「え、毒が溶け出したら、ダメなんじゃ……?」 「え、毒が溶け出したら、ダメなんじゃ……?」
「咦,如果毒药溶解出来的话,就不行了吧……?」
「スズメバチの毒は、口から含むと人にとって薬になるのよ」 「スズメバチの毒は、口から含むと人にとって薬になるのよ」
“马蜂的毒,如果从嘴里含进去的话,对人来说是药。”
「は!?」 「は!?」
“哈!?”
 目が点となる。スズメバチに刺されたら、肌はとんでもなく腫れるし、とんでもない痛みに襲われる。スズメバチに襲われて死んだ人だっているくらいだ。
 その毒が、口から含むと薬になるなんて信じられない。 目が点となる。スズメバチに刺されたら、肌はとんでもなく腫れるし、とんでもない痛みに襲われる。スズメバチに襲われて死んだ人だっているくらいだ。
目瞪口呆。如果被马蜂蜇了,皮肤会肿得不得了,还会受到意想不到的疼痛的袭击。甚至有人被马蜂袭击而死。
その毒が、口から含むと薬になるなんて信じられない。
我不相信那种毒药,如果从嘴里含进去就会变成药。
「スズメバチの毒は、胃や腸の中で分解されて、疲労回復、美肌効果に、鎮痛、殺菌解毒作用、利尿作用など、体にいい効果をもたらすわ」 「スズメバチの毒は、胃や腸の中で分解されて、疲労回復、美肌効果に、鎮痛、殺菌解毒作用、利尿作用など、体にいい効果をもたらすわ」
“马蜂的毒,在胃和肠中被分解,对恢复疲劳、美肌效果、镇痛、杀菌解毒作用、利尿作用等,对身体有很好的效果。”
アニャは胸を張って主張しているが、本当なのだろうか。食べた瞬間に、口が腫れてしまいそうだ。
阿尼亚挺起胸膛坚持,是真的吗。吃了的瞬间,嘴快要肿了。
 アニャは胸を張って主張しているが、本当なのだろうか。食べた瞬間に、口が腫れてしまいそうだ。
「ちなみに、昼食のときに山羊のチーズにかけた蜂蜜だけれど、スズメバチを漬けていたものだから」 「ちなみに、昼食のときに山羊のチーズにかけた蜂蜜だけれど、スズメバチを漬けていたものだから」
“顺便说一下,午饭的时候撒在山羊奶酪上的蜂蜜,是腌了马蜂的。”
「え!?」 「え!?」
“诶!?”
「あなた、おいしいって言ってパクパクたべていたわよね?」 「あなた、おいしいって言ってパクパクたべていたわよね?」
“你不是说好吃就山寨吃的吗?”
「食べていたけれど……!」 「食べていたけれど……!」
“虽然吃了……!”
まさか、スズメバチ入りの蜂蜜を食べさせられていたとは。
没想到竟然让我吃了加入马蜂的蜂蜜。
コクがあっておいしい蜂蜜だった。
是醇厚又好吃的蜂蜜。
 まさか、スズメバチ入りの蜂蜜を食べさせられていたとは。
 コクがあっておいしい蜂蜜だった。
 
「別に、なんともないでしょう?」 「別に、なんともないでしょう?」
“没什么事吧?”
「それどころか、調子がいいくらい」 「それどころか、調子がいいくらい」
“不仅如此,状态也很好。”
スズメバチの毒は、驚くべきことに口から含むと薬と転ずるらしい。
马蜂的毒,令人吃惊的是,如果从口中含有的话,就会变成药。
人体は、いったいどうなっているのか。
人体到底是怎样的呢。
 スズメバチの毒は、驚くべきことに口から含むと薬と転ずるらしい。
 人体は、いったいどうなっているのか。 謎が深まるばかりである
 謎が深まるばかりである。 谜团越来越深

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038.md

@ -1,225 +1,539 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と一緒に薬用クリームを作る 養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と一緒に薬用クリームを作る
 帰宅後、アニャが俺の顔の傷や腫れを改めて確認したいという。 养蜂青年和蜜药师的女儿一起制作药用奶油
 アニャはじっと、覗き込んでくる。きれいな顔が接近したので、身を引いてしまった。
 よく見えないから、動くなと怒られる。
 見えなければいいのだと思い、瞼を閉じた。 帰宅後、アニャが俺の顔の傷や腫れを改めて確認したいという。
回家后,阿尼亚说想再次确认我脸上的伤和肿。
アニャはじっと、覗き込んでくる。きれいな顔が接近したので、身を引いてしまった。
阿尼亚一动不动地窥视着。因为漂亮的脸接近了,所以抽身了。
よく見えないから、動くなと怒られる。
因为看不清楚,所以被骂不要动。
見えなければいいのだと思い、瞼を閉じた。
我想如果看不见就好了,闭上了眼睛。
「うん。だいぶいいわね。近いうちに、腫れも完全に引くと思うわ」 「うん。だいぶいいわね。近いうちに、腫れも完全に引くと思うわ」
“嗯,很好。我想不久之后,肿也会完全消退的。”
「アニャのおかげだ」 「アニャのおかげだ」
“多亏了阿尼亚。”
「まあ、私は蜜薬師ですから」 「まあ、私は蜜薬師ですから」
“嗯,我是蜜药师。”
瞼を開くと、胸を張るアニャの姿があった。その様子を想像していたので、笑ってしまう。
睁开眼睑,看到了挺起胸膛的阿尼亚的身影。因为想象着那个样子,所以笑了。
 瞼を開くと、胸を張るアニャの姿があった。その様子を想像していたので、笑ってしまう。
「ちょっとイヴァン、どうして笑ったのよ」 「ちょっとイヴァン、どうして笑ったのよ」
「喂,伊凡,你为什么笑?」
「いや、アニャが、かわいいから」 「いや、アニャが、かわいいから」
「かわいい!? 私が!?」 “不,因为阿尼亚很可爱。”
「かわいい!? 私が!?」
“好可爱!?是我!?”
「え、うん」 「え、うん」
“嗯,嗯。”
改めて聞き返されると、照れてしまう。その辺は、サラッと流してほしかった。
再次被反问的话,会害羞的。我希望那一带能爽快地冲走。
 改めて聞き返されると、照れてしまう。その辺は、サラッと流してほしかった。
「私、かわいいんだ」 「私、かわいいんだ」
“我很可爱。”
「よく言われるでしょう?」 「よく言われるでしょう?」
“经常被这么说吧?”
「言われたことなんて、一度もないわよ。イヴァンが初めて。リブチェフ・ラズにいる男なんか、ブスとか、かわいくないとか、言ってくるし」 「言われたことなんて、一度もないわよ。イヴァンが初めて。リブチェフ・ラズにいる男なんか、ブスとか、かわいくないとか、言ってくるし」
「我一次都没听说过。伊凡是第一次。在利布切夫·拉兹的男人,会说他长得丑,不可爱。」
「あー……」 「あー……」
“啊……”
リブチェフ・ラズにいる男とは、以前アニャに「いつまで経ってもお子様だ」と言っていた奴だろう。
在里布切夫·拉兹的男人,是以前对阿尼亚说“无论过多久都是孩子”的家伙吧。
当然、「ブス」や「かわいくない」と声をかけたのは、アニャの気を引くためだ。口が裂けても、アニャには言わないけれど。
 リブチェフ・ラズにいる男とは、以前アニャに「いつまで経ってもお子様だ」と言っていた奴だろう。 当然,打招呼说“丑”和“不可爱”是为了吸引阿尼亚的注意。即使嘴巴裂开了,也不会对阿尼亚说
 当然、「ブス」や「かわいくない」と声をかけたのは、アニャの気を引くためだ。口が裂けても、アニャには言わないけれど。
 どうして酷いことを言って、怒らせるのだろうか。本当に、理解に苦しむ。
 リブチェフ・ラズの男が言ったことを思い出したからなのか。アニャは顔を俯かせ、シュンとしている。きっと、マクシミリニャンも心の中ではかわいいと思っていても、口には出さなかったのだろう。 どうして酷いことを言って、怒らせるのだろうか。本当に、理解に苦しむ。
为什么说这么过分的话,会让人生气呢。真的很难理解。
リブチェフ・ラズの男が言ったことを思い出したからなのか。アニャは顔を俯かせ、シュンとしている。きっと、マクシミリニャンも心の中ではかわいいと思っていても、口には出さなかったのだろう。
是因为我想起了里布切夫·拉兹的男人说的话吗。阿尼亚低下头,舒恩。一定,即使麦克西米利尼亚在心里觉得很可爱,也不会说出来吧。
仕方がないと思い、本日二回目のかわいいを発する。
我觉得没办法,今天发了第二次可爱。
 仕方がないと思い、本日二回目のかわいいを発する。
「アニャはかわいいよ。他の男が言うことなんか、気にするな」 「アニャはかわいいよ。他の男が言うことなんか、気にするな」
“阿尼亚很可爱,别在意其他男人说的话。”
すると、アニャは顔を上げて、花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
于是,阿尼亚抬起头来,露出了鲜花绽放的笑容。
 すると、アニャは顔を上げて、花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
 リブチェフ・ラズの男は知らないのだろう。アニャに「かわいい」といったら、こんなに愛らしい微笑みを見せてくれることを。
 絶対に、人生を損している。 リブチェフ・ラズの男は知らないのだろう。アニャに「かわいい」といったら、こんなに愛らしい微笑みを見せてくれることを。
里布切夫·拉兹的男人不知道吧。对阿尼亚说“可爱”的话,会露出这么可爱的微笑。
絶対に、人生を損している。
绝对是在损害人生。
「イヴァンがそう言うなら、もう、気にしない」 「イヴァンがそう言うなら、もう、気にしない」
“如果伊凡这么说的话,我就不介意了。”
にこにこしていたアニャだったが、すぐさまハッとなる。いったいどうしたのか。
虽然是笑嘻嘻的阿尼亚,但马上就变成了哈。到底怎么了。
笑顔だったアニャの顔が、だんだん無となった。
笑容满面的阿尼亚的脸,渐渐消失了。
 にこにこしていたアニャだったが、すぐさまハッとなる。いったいどうしたのか。
 笑顔だったアニャの顔が、だんだん無となった。
「アニャ、どうしたの?」 「アニャ、どうしたの?」
“阿尼亚,怎么了?”
「イヴァン、あなた、ずいぶんと女慣れをしているようだけれど?」 「イヴァン、あなた、ずいぶんと女慣れをしているようだけれど?」
“伊凡,你好像已经习惯女人了?”
「女慣れって……」 「女慣れって……」
“习惯女人……”
「会う女性全員に、かわいい、かわいいって、言って回っているんじゃないの?」 「会う女性全員に、かわいい、かわいいって、言って回っているんじゃないの?」
“不是对所有见面的女性都说可爱、可爱吗?”
「ないない、ないから。女慣れしているように見えるのは、兄の嫁が十三人もいたから。俺より年上の姪だっているし」 「ないない、ないから。女慣れしているように見えるのは、兄の嫁が十三人もいたから。俺より年上の姪だっているし」
“没有,因为没有。之所以看起来很习惯女人,是因为有十三个哥哥的媳妇。她是比我大的侄女。”
「兄嫁と、姪?」 「兄嫁と、姪?」
“嫂子和侄女?”
「全員、身内。実家は女所帯だから」 「全員、身内。実家は女所帯だから」
“所有人都是自己人,因为老家是女性家庭。”
「そう、だったんだ」 「そう、だったんだ」
“是的。”
「かわいいなんて、赤ちゃん時代の姪や甥以外で、言ったことがないし」 「かわいいなんて、赤ちゃん時代の姪や甥以外で、言ったことがないし」
“可爱什么的,除了婴儿时代的侄女和侄子以外,没有说过。”
「だったら、同じ年頃では、私は初めて?」 「だったら、同じ年頃では、私は初めて?」
“那么,同样年纪的我还是第一次?”
「まあ、そうだね」 「まあ、そうだね」
“是啊。”
「だったら、いいわ」 「だったら、いいわ」
“那就好。”
機嫌が直ったようなので、ホッとする。
心情好像变好了,松了一口气。
◇◇◇
 機嫌が直ったようなので、ホッとする。 ◇◇◇
 ◇◇◇
夕食が済んだら、アニャに呼び出される。
晚饭结束后,被阿尼亚叫出来。
 夕食が済んだら、アニャに呼び出される。
「夜に塗る薬用クリームを作りましょう」 「夜に塗る薬用クリームを作りましょう」
“做晚上涂的药用奶油吧。”
「そんなのがあるんだ」 「そんなのがあるんだ」
“有那样的事。”
「ええ。眠っている間に、肌を再生してくれるのよ」 「ええ。眠っている間に、肌を再生してくれるのよ」
“是的。睡觉的时候,可以让皮肤再生。”
材料は蜜蝋にオリーブオイル、蒸留水に乳香、薔薇精油。
材料是蜜蜡、橄榄油、蒸馏水、乳香、玫瑰精油。
 材料は蜜蝋にオリーブオイル、蒸留水に乳香、薔薇精油。
「まず、薬鍋にオリーブオイルと蜜蝋を入れて、湯煎で溶かすの」 「まず、薬鍋にオリーブオイルと蜜蝋を入れて、湯煎で溶かすの」
“首先,在药锅里放入橄榄油和蜂蜡,用热水煎融化。”
アニャは慣れた手つきで、作業を進めていく。
阿尼亚用习惯了的手势,推进工作。
 アニャは慣れた手つきで、作業を進めていく。
「次に、湯煎から薬鍋を上げて、精油を垂らして混ぜるのよ」 「次に、湯煎から薬鍋を上げて、精油を垂らして混ぜるのよ」
“接下来,从煎汤里把药锅拿起来,滴上精油搅拌。”
これを煮沸消毒した瓶に詰め、熱が引いたら夜専用の薬用クリームの完成となる。
把它装在煮沸消毒的瓶子里,退烧后晚上专用的药用奶油就完成了。
 これを煮沸消毒した瓶に詰め、熱が引いたら夜専用の薬用クリームの完成となる。
「乳香には、癒傷(ゆしょう)作用や鎮痛、瘢痕(はんこん)形成作用――かさぶたを作る能力を促す力があるの」 「乳香には、癒傷(ゆしょう)作用や鎮痛、瘢痕(はんこん)形成作用――かさぶたを作る能力を促す力があるの」
“乳香有愈伤作用、镇痛、形成瘢痕的作用——促进结痂能力的力量。”
それに、肌の保湿効果がある蜜蝋や炎症を抑える効果がある薔薇精油を加えることによって、肌の再生を促すクリームが完成するようだ。
再加上对皮肤有保湿效果的蜂蜡和有抑制炎症效果的玫瑰精油,促进皮肤再生的奶油就完成了。
 それに、肌の保湿効果がある蜜蝋や炎症を抑える効果がある薔薇精油を加えることによって、肌の再生を促すクリームが完成するようだ。
「アニャの知識は、本当にすごいね。でも、それは、誰から習ったの?」 「アニャの知識は、本当にすごいね。でも、それは、誰から習ったの?」
“阿尼亚的知识真的很厉害。但是,那是从谁那里学到的呢?”
「先生は、お母様が遺した本だったの」 「先生は、お母様が遺した本だったの」
“老师是母亲留下的书。”
アニャの母親も、かつて蜜薬師と呼ばれる存在だったらしい。
阿尼亚的母亲曾经也是被称为蜜药师的存在。
そもそも、蜜薬師とはなんぞや。
说起来,蜜药师是什么呢。
 アニャの母親も、かつて蜜薬師と呼ばれる存在だったらしい。
 そもそも、蜜薬師とはなんぞや。
「蜜薬師の歴史は、帝国にあるの。その昔、お医者さん嫌いで蜂蜜大好きな王女様のために、侍女が各地を奔走して集めた蜂蜜の知識を数冊の本にまとめて残していたみたい。その本を読んだり、師匠から習ったりして、蜂蜜で治療を行う人を蜜薬師と呼んでいたそうよ」 「蜜薬師の歴史は、帝国にあるの。その昔、お医者さん嫌いで蜂蜜大好きな王女様のために、侍女が各地を奔走して集めた蜂蜜の知識を数冊の本にまとめて残していたみたい。その本を読んだり、師匠から習ったりして、蜂蜜で治療を行う人を蜜薬師と呼んでいたそうよ」
“蜜药师的历史在帝国。从前,为了不喜欢医生、非常喜欢蜂蜜的公主,侍女在各地奔走收集的蜂蜜知识好像整理成了几本书。读了那本书,从师傅那里学习,用蜂蜜进行治疗的人被称为蜜药师。”
「へえ、そうなんだ」 「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
かつての帝国では蜜薬師の侍女を侍らせることが、ステータスシンボルであると囁かれていた時代もあったらしい。
在过去的帝国中,也有被认为让蜜药师的侍女侍女是地位象征的时代。
現代では、医療が発達して、蜜薬師のほとんどは表舞台から姿を消したようだ。
在现代,医疗发达,蜜药师几乎都从舞台上消失了。
 かつての帝国では蜜薬師の侍女を侍らせることが、ステータスシンボルであると囁かれていた時代もあったらしい。
 現代では、医療が発達して、蜜薬師のほとんどは表舞台から姿を消したようだ。
「ここは田舎だし、リブチェフ・ラズにお医者様はいないから、私みたいな蜜薬師でもありがたいと思ってくれるみたい」 「ここは田舎だし、リブチェフ・ラズにお医者様はいないから、私みたいな蜜薬師でもありがたいと思ってくれるみたい」
“这里是乡下,里布切夫·拉兹没有医生,像我这样的蜜药师也会觉得很感谢的。”
「そっか」 「そっか」
“是吗?”
 蜜薬師になるまで、相当な努力と苦労をしたに違いない。
 知識はあっても、実際に薬を作れなければ意味がないから。
蜜薬師になるまで、相当な努力と苦労をしたに違いない。
在成为蜜药师之前,一定付出了相当大的努力和辛苦。
知識はあっても、実際に薬を作れなければ意味がないから。
虽然有知识,但如果不能实际制作药物的话就没有意义了。
「どうしてアニャは、蜜薬師になろうと思ったの?」 「どうしてアニャは、蜜薬師になろうと思ったの?」
“为什么阿尼亚想成为蜜药师呢?”
「きっかけは、幼いころの私が、病弱だったからよ。咳をするたびに、お父様が蜂蜜で喉薬を作ってくれたのだけれど、失敗ばかりで、いっこうによくならなかったのよね。自分で作った物のほうが効くんじゃないかって思って作ったのが始まりよ。あとは、亡くなったお母様との、繋がりがほしくて……」 「きっかけは、幼いころの私が、病弱だったからよ。咳をするたびに、お父様が蜂蜜で喉薬を作ってくれたのだけれど、失敗ばかりで、いっこうによくならなかったのよね。自分で作った物のほうが効くんじゃないかって思って作ったのが始まりよ。あとは、亡くなったお母様との、繋がりがほしくて……」
“契机是,小时候的我病弱。每次咳嗽的时候,父亲都会用蜂蜜给我做喉药,但都是失败,一点也没变好。我开始觉得自己做的东西更有效。之后,我想要和去世的母亲联系起来。”想……“
家にあった蜜薬師の本は、直筆のメモが書き込まれていたらしい。それを読み進めているうちに、極めてしまったようだ。
家里的蜜药师的书好像写着亲笔的笔记。在读那个的过程中,好像已经到了极致。
 家にあった蜜薬師の本は、直筆のメモが書き込まれていたらしい。それを読み進めているうちに、極めてしまったようだ。
「と、話しすぎてしまったわね。もう冷えたかしら?」 「と、話しすぎてしまったわね。もう冷えたかしら?」
“话说得太多了,已经冷了吗?”
熱が引いた薬用クリームを、アニャは丁寧に塗ってくれた。
阿尼亚认真地给我涂了退烧的药用奶油。
塗布されるというのは、何度経験しても慣れない。
被涂抹,无论经历多少次都不习惯。
 熱が引いた薬用クリームを、アニャは丁寧に塗ってくれた。
 塗布されるというのは、何度経験しても慣れない。
「はい、これでいいわ。傷が治るまで、夜、眠る前に塗るのよ」 「はい、これでいいわ。傷が治るまで、夜、眠る前に塗るのよ」
“好的,这样就可以了,晚上睡觉前涂,直到伤口痊愈。”
「うん。アニャ、ありがとう」 「うん。アニャ、ありがとう」
“嗯,阿尼亚,谢谢。”
「どういたしまして」 「どういたしまして」
「不客气。」
薬用クリームを受け取り、離れに戻る。
收到药用奶油,返回离开。
明日は、種を植えて二日目だ。果たして、芽はでているのか。
明天是种种子的第二天。到底发芽了吗。
 薬用クリームを受け取り、離れに戻る。
 明日は、種を植えて二日目だ。果たして、芽はでているのか。 祈るばかりである
 祈るばかりである。 只是祈祷

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039.md

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養蜂家の青年は、雨の朝を迎える 養蜂家の青年は、雨の朝を迎える
 蕎麦の種を植えてから迎える二日目。 养蜂青年迎来了下雨的早晨
 アニャがやってくることを想定し、早めに起きた。
 服を着替え、寝間着は洗濯物入れの籠に放り込む。
 外は薄明かりの中。日の出はもうすぐだろう。そんな中、アニャの姿はなかった 蕎麦の種を植えてから迎える二日目
 洗面所で顔を洗い、髭を剃って歯を磨く 种了荞麦种子之后迎来的第二天
 身支度が調ったが、アニャはやってこない。 アニャがやってくることを想定し、早めに起きた。
设想阿尼亚会来,所以提前起床了。
服を着替え、寝間着は洗濯物入れの籠に放り込む。
换上衣服,把睡衣扔进洗衣物的篮子里。
外は薄明かりの中。日の出はもうすぐだろう。そんな中、アニャの姿はなかった。
外面是微光中。日出快到了吧。在这种情况下,没有阿尼亚的身影。
洗面所で顔を洗い、髭を剃って歯を磨く。
在盥洗室洗脸,刮胡子刷牙。
身支度が調ったが、アニャはやってこない。
打扮好了,但是阿尼亚不来。
はてさて、どうしようか。
哎呀,怎么办呢。
外で腕を組んで考えていたら、母屋の扉が開く。アニャだ。
在外面抱着胳膊想的话,主屋的门就会打开。是阿尼亚。
 はてさて、どうしようか。
 外で腕を組んで考えていたら、母屋の扉が開く。アニャだ。
「おはよう」 「おはよう」
“早上好。”
「きゃあ!」 「きゃあ!」
“呀!”
 アニャは俺を見て、悲鳴を上げた。手に持っていた洗濯籠を、落としてしまうほど驚いたようだ。
アニャは俺を見て、悲鳴を上げた。手に持っていた洗濯籠を、落としてしまうほど驚いたようだ。
阿尼亚看着我,尖叫起来。手上拿着的洗衣篮,好像吓得掉了。
「ちょっと、イヴァン! なんで日の出前に起きているのよ」
“喂,伊凡!你为什么在日出前起床?”
「ちょっと、イヴァン! なんで日の出前に起きているのよ」
「いや、昨日アニャが日の出くらいの時間に蕎麦の状況を見ようと誘いにきたから。今日も見に行くのかと思って」 「いや、昨日アニャが日の出くらいの時間に蕎麦の状況を見ようと誘いにきたから。今日も見に行くのかと思って」
“不,昨天阿尼亚邀请我在日出的时候看荞麦面的情况。我想今天也去看。”
「あ――そう、だったのね」 「あ――そう、だったのね」
「啊——原来是这样啊。」
話しているうちに、日が昇る。太陽が地平線から、ひょっこりと顔を覗かせた。
 話しているうちに、日が昇る。太陽が地平線から、ひょっこりと顔を覗かせた。 说着说着,太阳就升起来了。太阳从地平线上突然露出了脸。
夜のとばりが、太陽の光によって空の彼方まで押し上げられる。
夜幕被阳光推上天空的彼方。
この光景は、いつ見ても美しい。
这个景象无论什么时候看都很美。
 夜のとばりが、太陽の光によって空の彼方まで押し上げられる。
 この光景は、いつ見ても美しい。
「アニャ、蕎麦を、見に行こう」 「アニャ、蕎麦を、見に行こう」
“阿尼亚,去看荞麦面吧。”
「ええ、そうね」 「ええ、そうね」
“是啊。”
まだ薄暗いので、転ばないようにと手を差し出す。
 まだ薄暗いので、転ばないようにと手を差し出す。 因为天还很黑,所以伸出手说不要摔倒
 アニャはポカンとしたまま、俺を見つめていた。
アニャはポカンとしたまま、俺を見つめていた。
阿尼亚呆呆地看着我。
「その手、何? 食べ物を、ちょうだい?」
“那手是什么?给我吃的?”
「その手、何? 食べ物を、ちょうだい?」
「違う。アニャが暗い中で転ばないように、手を貸そうとしているの」 「違う。アニャが暗い中で転ばないように、手を貸そうとしているの」
“不是的,我是想帮助阿尼亚不要在黑暗中摔倒。”
「あ、そう、だったのね。ごめんなさい。誰かの手を借りたことなんて、なかったから」 「あ、そう、だったのね。ごめんなさい。誰かの手を借りたことなんて、なかったから」
“啊,原来是这样啊。对不起,我从来没有借过别人的手。”
アニャはいつもいつでも、マクシミリニャンの背中を追いかけていたらしい。手と手を繋ぎ、並んで歩いた記憶はないと。
阿尼亚似乎总是随时追赶着马克西米利尼亚的背影。没有牵着手并排走的记忆。
 アニャはいつもいつでも、マクシミリニャンの背中を追いかけていたらしい。手と手を繋ぎ、並んで歩いた記憶はないと。
「おじさんって、厳しいんだ」 「おじさんって、厳しいんだ」
“叔叔很严厉。”
「厳しくないわ。普通よ」 「厳しくないわ。普通よ」
“不严格,很正常。”
「ふーん」 「ふーん」
“嗯。”
俺は山のルールに則って、アニャを厳しくする理由はない。だから、手を握って歩き始める。
我没有理由按照山上的规则严厉地对待阿尼亚。所以,握着手开始走。
 俺は山のルールに則って、アニャを厳しくする理由はない。だから、手を握って歩き始める。
「あ、えっと、イヴァン、私、一人で歩けるわ」 「あ、えっと、イヴァン、私、一人で歩けるわ」
“啊,呃,伊凡,我可以一个人走路。”
「そうかもしれないけれど、俺が心配だから」 「そうかもしれないけれど、俺が心配だから」
“也许是这样,但我很担心。”
そう返すと、アニャは大人しくついてきた。蕎麦の種を蒔いた畑にたどり着くと、小さな声で「ありがとう」と言う。
这样一回答,阿尼亚老实地跟着。到了播下荞麦种子的田地,小声说“谢谢”。
 そう返すと、アニャは大人しくついてきた。蕎麦の種を蒔いた畑にたどり着くと、小さな声で「ありがとう」と言う。
太陽の光が、畑を淡く照らしてくれる。
阳光淡淡地照耀着田地。
蕎麦の芽は――残念ながら、出ていなかった。
荞麦的芽——很遗憾,没有长出来。
 太陽の光が、畑を淡く照らしてくれる。
 蕎麦の芽は――残念ながら、出ていなかった。
「今日も、ダメなのね」 「今日も、ダメなのね」
“今天也不行啊。”
「まだ二日目だしね。今日は太陽も出ているから、それにつられて芽が出るかも」 「まだ二日目だしね。今日は太陽も出ているから、それにつられて芽が出るかも」
“还只是第二天呢。今天太阳也出来了,可能会被太阳吸引而发芽。”
もしも発芽するとしたら、明日だろう。まだ、諦めるのは早い。
如果发芽的话,明天吧。放弃还为时过早。
と、前向きな姿勢でいたのに、自然は容赦ない。
虽然是积极的态度,但自然却毫不留情。
畑の前でしょんぼりする俺たちから、太陽の光を奪う。
在田地前垂头丧气的我们,夺走了阳光。
 もしも発芽するとしたら、明日だろう。まだ、諦めるのは早い。
 と、前向きな姿勢でいたのに、自然は容赦ない。 厚い雲が、太陽を覆ってしまったのだ。それだけではない。ポツポツと、水滴が落ちてくる。
厚厚的云覆盖了太阳。不仅如此。滴滴答答地滴落下来。
 畑の前でしょんぼりする俺たちから、太陽の光を奪う。
 厚い雲が、太陽を覆ってしまったのだ。それだけではない。ポツポツと、水滴が落ちてくる。
「うわっ、雨だ!」 「うわっ、雨だ!」
“哇,下雨了!”
一粒一粒が大きな雨粒だ。これは、あっという間に大雨になるだろう。
每一粒都是大雨点。这一眨眼就会下大雨吧。
 一粒一粒が大きな雨粒だ。これは、あっという間に大雨になるだろう。 畑の前でボーッとするアニャに声をかけたが、いまいち反応が悪い。
在田地前向发呆的阿尼亚打招呼,但反应还不好。
 畑の前でボーッとするアニャに声をかけたが、いまいち反応が悪い。
「アニャ、抱き上げるよ!」 「アニャ、抱き上げるよ!」
“阿尼亚,我抱你!”
「え?」 「え?」
“诶?”
 アニャを横抱きにし、母屋へと繋がる斜面を下る。 アニャを横抱きにし、母屋へと繋がる斜面を下る。
抱着阿尼亚,走下与主屋相连的斜坡。
「ひゃあ! ちょっと、イヴァン、どうして――!?」
 アニャが「自分で歩けるから」と言った瞬間、大粒の雨が降り始めた。 「ひゃあ! ちょっと、イヴァン、どうして――!?」
“哎呀!喂,伊凡,为什么——!?”
アニャが「自分で歩けるから」と言った瞬間、大粒の雨が降り始めた。
阿尼亚说“因为我自己能走路”的瞬间,开始下起了大颗的雨。
「うわ、最悪!!」 「うわ、最悪!!」
“哇,糟透了!!”
走って母屋にたどり着く。たった数秒の間だったのに、びしょ濡れになってしまった。 アニャを下ろしてやると、顔が真っ赤なのに気づく。
跑着到达主屋。才几秒钟,就湿透了。把阿尼亚放下,发现脸通红。
 走って母屋にたどり着く。たった数秒の間だったのに、びしょ濡れになってしまった。 アニャを下ろしてやると、顔が真っ赤なのに気づく。
「アニャ、大丈夫? 風邪でも引いているの?」 「アニャ、大丈夫? 風邪でも引いているの?」
“阿尼亚,没事吧?感冒了吗?”
「イヴァン、あなた、力持ちなのね」 「イヴァン、あなた、力持ちなのね」
“伊凡,你真有力气。”
「え、そうでもないけれど」 「え、そうでもないけれど」
“啊,也不是那样。”
「だって、私を抱き上げたじゃない」 「だって、私を抱き上げたじゃない」
“因为,你不是把我抱起来了吗?”
「いや、アニャはものすごく軽いほうだから」 「いや、アニャはものすごく軽いほうだから」
“不,因为阿尼亚是非常轻的。”
マクシミリニャンと川まで運んだ丸太は、信じられないくらい重たかった。それに比べたら、アニャは羽のように軽いと言える。
和马克西米利尼亚一起运到河里的原木,重得令人难以置信。相比之下,阿尼亚可以说像羽毛一样轻。
 マクシミリニャンと川まで運んだ丸太は、信じられないくらい重たかった。それに比べたら、アニャは羽のように軽いと言える。
「それよりも、早く着替えたほうが――へっくしゅん!!」 「それよりも、早く着替えたほうが――へっくしゅん!!」
“与其这样,还不如早点换衣服——嘿嘿!!”
「やだ、着替えが必要なのは、あなたのほうじゃない」 「やだ、着替えが必要なのは、あなたのほうじゃない」
“不,需要换衣服的不是你。”
アニャは目にも止まらぬ速さで走り、大判の布を持ってきてくれる。
阿尼亚以目不转睛的速度奔跑,给我拿着大金币的布。
昨日洗濯して乾かした服に着替えるよう、命じられた。
我被命令换上昨天洗好晾干的衣服。
 アニャは目にも止まらぬ速さで走り、大判の布を持ってきてくれる。
 昨日洗濯して乾かした服に着替えるよう、命じられた。
 ◇◇◇ ◇◇◇
◇◇◇
今日は雨なので、家で作業するらしい。先程の勢いはなくなり、霧雨のような静かな雨が降っている。
因为今天下雨,所以好像在家工作。刚才的气势消失了,下着像雾雨一样安静的雨。
 今日は雨なので、家で作業するらしい。先程の勢いはなくなり、霧雨のような静かな雨が降っている。
「アニャ、マクシミリニャンは?」 「アニャ、マクシミリニャンは?」
“阿尼亚,马克西米莉娜呢?”
朝から一度も顔を出していない。朝食は食べたのか、心配になる。
从早上开始一次也没露面。我很担心早饭吃了没有。
 朝から一度も顔を出していない。朝食は食べたのか、心配になる。
「雨の日は、家畜のお世話以外で離れから出てこないわよ」 「雨の日は、家畜のお世話以外で離れから出てこないわよ」
“下雨天,除了照顾家畜以外,不会离开的。”
「え、なんで?」 「え、なんで?」
“啊,为什么?”
「雨に濡れると、病気になると言われているの」 「雨に濡れると、病気になると言われているの」
“据说被雨淋湿的话会生病的。”
離れにも簡易的な台所があり、食料も豊富にあるらしい。
离得很远也有简易的厨房,食物也很丰富。
 離れにも簡易的な台所があり、食料も豊富にあるらしい。
 今日みたいな雨の日は、母屋と離れの行き来を止めて、家の中で静かに過ごしているようだ。 今日みたいな雨の日は、母屋と離れの行き来を止めて、家の中で静かに過ごしているようだ。
像今天这样的雨天,停止了离开主屋的来往,在家里安静地度过。
「刺繍をしたり、編み物をしたり、保存食を作ったり。まあ、仕事は探さなくてもいろいろあるわ」 「刺繍をしたり、編み物をしたり、保存食を作ったり。まあ、仕事は探さなくてもいろいろあるわ」
“又是刺绣,又是编织,又是做保存食品。嘛,不用找工作也有很多。”
「なるほど――くっしゅん!」 「なるほど――くっしゅん!」
“原来如此——嗯嗯!”
「イヴァン、暖炉を入れてあげるから、火の前から離れないように」 「イヴァン、暖炉を入れてあげるから、火の前から離れないように」
“伊凡,我帮你装壁炉,不要离开火前。”
「ごめん」 「ごめん」
“对不起。”
「いいわ。私も、寒いと思っていたから」 「いいわ。私も、寒いと思っていたから」
“好啊,我也觉得很冷。”
アニャは暖炉に火を点け、ヤカンを吊す。沸騰したら、カップに湯を注いでいた。
阿尼亚点燃壁炉,吊起水壶。沸腾后,往杯子里倒了热水。
 アニャは暖炉に火を点け、ヤカンを吊す。沸騰したら、カップに湯を注いでいた。
「蜂蜜生姜湯よ。風邪には、これが一番だから」 「蜂蜜生姜湯よ。風邪には、これが一番だから」
“蜂蜜生姜汤,这是感冒最好的。”
カップには、スライスした乾燥レモンがぷかぷか浮かんでいた。飲むと、体がほっこり温まる。ピリッとしているけれど、優しくて甘い。まるで、アニャのようだ。
杯子里漂浮着切成薄片的干燥柠檬。一喝,身体就暖和起来。虽然很辣,但是又温柔又甜。简直就像阿尼亚一样。
アニャも、暖炉の前に座り、蜂蜜生姜湯を飲んでいた。
阿尼亚也坐在壁炉前,喝着蜂蜜生姜汤。
働かずにまったりする時間が、不思議と心地よい。
不工作悠闲的时间,不可思议地很舒服。
 カップには、スライスした乾燥レモンがぷかぷか浮かんでいた。飲むと、体がほっこり温まる。ピリッとしているけれど、優しくて甘い。まるで、アニャのようだ。
 アニャも、暖炉の前に座り、蜂蜜生姜湯を飲んでいた。 雨がサラサラ降る音を聞きながら、蜂蜜生姜湯をちょびちょび飲み進める
一边听着雨沙沙的声音,一边喝着蜂蜜生姜汤。
 働かずにまったりする時間が、不思議と心地よい。
 雨がサラサラ降る音を聞きながら、蜂蜜生姜湯をちょびちょび飲み進める。 なんだか、癒やされてしまった
 なんだか、癒やされてしまった。 不知为什么,被治愈了

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とバターを作る 養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とバターを作る
 今日はまず、バター作りをするらしい。チーズとは違った作り方をするようだ。 养蜂青年和蜜药师的女儿一起做黄油
今日はまず、バター作りをするらしい。チーズとは違った作り方をするようだ。
今天好像先做黄油。好像要做和奶酪不同的做法。
「バターは、発酵させたクリームを使って作るの」 「バターは、発酵させたクリームを使って作るの」
“黄油是用发酵的奶油做的。”
 一晩おいたミルクに浮かぶものがクリーム。それを、さらに一晩放置して発酵させたものでバターを作るようだ。 一晩おいたミルクに浮かぶものがクリーム。それを、さらに一晩放置して発酵させたものでバターを作るようだ。
放置一夜的牛奶中浮现的是奶油。把它再放置一夜发酵后做成黄油。
道具は煮沸消毒させた上に、太陽の光に当ててしっかり殺菌した物を使う。
工具在煮沸消毒的基础上,在阳光下好好杀菌。
 道具は煮沸消毒させた上に、太陽の光に当ててしっかり殺菌した物を使う。
「バター作りに欠かせないのは、これよ」 「バター作りに欠かせないのは、これよ」
“制作黄油不可缺少的就是这个。”
それは、小型のたるだ。バター攪拌機(チャーン)というらしい。蓋についているハンドルを回すと、中のクリーム全体をかき混ぜることができるようだ。
那是小型的桶。据说是黄油搅拌机。转动盖上的方向盘,好像可以搅拌里面的整个奶油。
 それは、小型のたるだ。バター攪拌機(チャーン)というらしい。蓋についているハンドルを回すと、中のクリーム全体をかき混ぜることができるようだ。
「じゃあ、始めるわね」 「じゃあ、始めるわね」
“那嚒,我们开始吧。”
「そのハンドル、硬いんじゃないの?」 「そのハンドル、硬いんじゃないの?」
“那个方向盘不是很硬吗?”
「まあ、それなりに」 「まあ、それなりに」
“嗯,就那样。”
「だったら、俺がやる」 「だったら、俺がやる」
“那嚒,我来做。”
「あ、ありがとう」 「あ、ありがとう」
“啊,谢谢。”
 コツは特にないというので、自由に回させてもらった。
 アニャはそれなりに硬いと言っていたが、女性の腕力ではきついだろう。
 しばらくハンドルを回していると、中のクリームが固まる。 コツは特にないというので、自由に回させてもらった。
因为没有什么诀窍,所以让我自由地转动了。
アニャはそれなりに硬いと言っていたが、女性の腕力ではきついだろう。
虽然阿尼亚说很硬,但是女性的腕力会很辛苦吧。
しばらくハンドルを回していると、中のクリームが固まる。
转了一会儿方向盘,里面的奶油就凝固了。
「中で、クリームが分離しているの。先に、水分を出すわ」 「中で、クリームが分離しているの。先に、水分を出すわ」
“里面,奶油是分离的。先把水分拿出来。”
クリームから分離した水分を、“バターミルク”と呼んでいるらしい。
从奶油中分离出来的水分被称为“黄油牛奶”。
 クリームから分離した水分を、“バターミルク”と呼んでいるらしい。
 バターミルクも、捨てずに利用するようだ。 バターミルクも、捨てずに利用するようだ。
黄油牛奶好像也不扔就使用。
「パンに入れると、フワフワに仕上がるのよ」 「パンに入れると、フワフワに仕上がるのよ」
“放进面包里的话,就会变得软绵绵的。”
「へえ、そうなんだ」 「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
 余すことなく、いただくようだ。
 バター攪拌機のクリームを、すのこの上にかき出す。そこに冷水をかけて、クリームに残ったバターミルクを流すようだ。そのあとも、ヘラを二枚使って練り、バターミルクや水分を取り除く。 余すことなく、いただくようだ。
好像不剩地吃了。
バター攪拌機のクリームを、すのこの上にかき出す。そこに冷水をかけて、クリームに残ったバターミルクを流すようだ。そのあとも、ヘラを二枚使って練り、バターミルクや水分を取り除く。
把黄油搅拌机的奶油搅到竹笋上。在那里浇上冷水,好像是把奶油里剩下的黄油牛奶冲走。之后,用两片刮刀搅拌,去除黄油牛奶和水分。
「バターミルクや水分を切ったら、塩で味付けするの」 「バターミルクや水分を切ったら、塩で味付けするの」
“切了黄油牛奶和水分后,用盐调味。”
塩をまぶし、再びヘラで練り込む。
撒上盐,再次用刮刀搅拌。
 塩をまぶし、再びヘラで練り込む。
「最後に、棒で叩いて空気や水分を飛ばして、型に詰めるの」 「最後に、棒で叩いて空気や水分を飛ばして、型に詰めるの」
“最后,用棒子敲打,放飞空气和水分,装进模具里。”
クッキー缶のような丸い型にバターを詰め込み、棒で押して型から抜く。
把黄油塞进像饼干罐一样圆的模具里,用棒子压着从模具上拔出来。
型には小麦模様が彫られていたようで、バターに浮き出ていた。
模具上好像刻着小麦花纹,浮在黄油上。
真っ白で美しい山羊のバターが、完成となった。
 クッキー缶のような丸い型にバターを詰め込み、棒で押して型から抜く。 雪白美丽的山羊黄油完成了
 型には小麦模様が彫られていたようで、バターに浮き出ていた。
  真っ白で美しい山羊のバターが、完成となった。
「今日は、いつもより上手にできたわ」 「今日は、いつもより上手にできたわ」
“今天做得比平时好。”
「うん、おいしそうだね」 「うん、おいしそうだね」
“嗯,看起来很好吃。”
「さっそく、お昼に食べましょう」 「さっそく、お昼に食べましょう」
“马上,中午吃吧。”
 いったい、どんな料理を作るのか。楽しみだ。 いったい、どんな料理を作るのか。楽しみだ。
到底要做什么样的菜呢。我很期待。
アニャはバターが上手く作れたことが、よほど嬉しいのだろうか。にこにこしながら、バターを見つめている。
阿尼亚黄油做得很好,真的很开心吗。笑嘻嘻地看着黄油。
 アニャはバターが上手く作れたことが、よほど嬉しいのだろうか。にこにこしながら、バターを見つめている。
「あのね、イヴァン」 「あのね、イヴァン」
「那个,伊凡。」
「うん?」 「うん?」
“嗯?”
「私、嬉しいの。いつもだったら、雨の日に何かが上手くいっても、誰とも共有できないから」 「私、嬉しいの。いつもだったら、雨の日に何かが上手くいっても、誰とも共有できないから」
“我很高兴。如果是平时的话,即使下雨天有什么事情进展顺利,也不能和任何人分享。”
雨の日に外に出たら病気になってしまう。だからなるべく家に引きこもっているという話は先ほど聞いた。
下雨天出去会生病的。所以我刚才听说尽量在家里闭门不出。
 雨の日に外に出たら病気になってしまう。だからなるべく家に引きこもっているという話は先ほど聞いた。
「一回、パンが上手に焼けたときに、お父様に持っていったの。そうしたら、血相を変えて怒られてしまって……」 「一回、パンが上手に焼けたときに、お父様に持っていったの。そうしたら、血相を変えて怒られてしまって……」
“一次,面包烤得很好的时候,就给父亲带去了。这样的话,就会改变血相被骂了……”
マクシミリニャンは極めて温厚な男である。しかし、その日は違った。珍しく、アニャに対して激昂したのだという。というのも、理由があったらしい。
马克西米莉娜是一个极其温厚的男人。但那天不同。据说是罕见的,对阿尼亚激昂了。这好像是有理由的。
 マクシミリニャンは極めて温厚な男である。しかし、その日は違った。珍しく、アニャに対して激昂したのだという。というのも、理由があったらしい。
「お母様が、私を産む前に、雨に濡れて風邪を引いてしまったの。それから、寝たきりになってしまって……」 「お母様が、私を産む前に、雨に濡れて風邪を引いてしまったの。それから、寝たきりになってしまって……」
“母亲在生我之前,因为被雨淋湿而感冒了。然后就卧床不起了……”
アニャが生まれたのも、奇跡だったらしい。
阿尼亚的出生似乎也是一个奇迹。
 アニャが生まれたのも、奇跡だったらしい。
「お母様の体調不良のきっかけは雨だった。だから、お父様は酷く怒ったの」 「お母様の体調不良のきっかけは雨だった。だから、お父様は酷く怒ったの」
“母亲身体不适的契机是下雨,所以父亲非常生气。”
「そう、だったんだ」 「そう、だったんだ」
“是的。”
以降、雨の日のアニャは、ケーキが膨らんでも、おいしいスープが完成しても、独りで喜び、静かに食べるばかりだったらしい。
之后,雨天的阿尼亚,即使蛋糕膨胀,美味的汤完成了,也只是一个人高兴,安静地吃。
 以降、雨の日のアニャは、ケーキが膨らんでも、おいしいスープが完成しても、独りで喜び、静かに食べるばかりだったらしい。
「だからね、今日は、イヴァンが一緒にいて、喜んでくれて、とっても嬉しい!」 「だからね、今日は、イヴァンが一緒にいて、喜んでくれて、とっても嬉しい!」
“所以呢,今天伊凡和我在一起,你很高兴,我非常高兴!”
 アニャは天真爛漫としか言いようがない、明るい笑顔を見せてくれる。
 なんて、愛らしい笑みなのか。 アニャは天真爛漫としか言いようがない、明るい笑顔を見せてくれる。
阿尼亚只能说是天真烂漫,露出了灿烂的笑容。
なんて、愛らしい笑みなのか。
多么可爱的笑容啊。
体調が悪いわけではないのに、心臓の鼓動がいつもより早い気がした。続けて、みぞおち辺りがきゅっと縮んだような、違和感を覚える。
虽然并不是身体不好,但感觉心跳比平时快。接着,胸口附近突然缩小了,感觉不协调。
風邪が悪化したかと思ったが、異変は一瞬で終わった。
我以为感冒恶化了,但异变在一瞬间就结束了。
 体調が悪いわけではないのに、心臓の鼓動がいつもより早い気がした。続けて、みぞおち辺りがきゅっと縮んだような、違和感を覚える。
 風邪が悪化したかと思ったが、異変は一瞬で終わった。
「イヴァン、どうしたの?」 「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「なんでもない」 「なんでもない」
“没什么。”
なんとなく、アニャの顔を直視できなくなっていた。なんだろうか、この気持ちは。
总觉得不能直视阿尼亚的脸了。这是什么心情呢。
答えがわからず、もやもやしてしまった。
不知道答案,搞得我不知所措。
◇◇◇
◇◇◇
 なんとなく、アニャの顔を直視できなくなっていた。なんだろうか、この気持ちは。
 答えがわからず、もやもやしてしまった。 アニャが昼食の準備をしている間、俺は巣箱作りを行う。構造は実家で使っていた物とほとんど同じだったので、その点は非常に助かった。
阿尼亚准备午饭的时候,我会做巢箱。构造和老家使用的东西几乎一样,这一点非常有帮助。
 ◇◇◇
板を合わせ、釘を打つ。通気口を作って、蜜蜂が出入りできるようにするのも忘れない。
把木板合在一起,钉上钉子。也不要忘记制作通气口,让蜜蜂出入。
 アニャが昼食の準備をしている間、俺は巣箱作りを行う。構造は実家で使っていた物とほとんど同じだったので、その点は非常に助かった。
 板を合わせ、釘を打つ。通気口を作って、蜜蜂が出入りできるようにするのも忘れない。
 流蜜期には欠かせない、巣箱に重ねる継箱もいくつか作っておく。 流蜜期には欠かせない、巣箱に重ねる継箱もいくつか作っておく。
在流蜜期不可缺少的,也制作了几个重叠在巢箱上的继箱。
 作業を進めていると、パンが焼けるいい匂いが漂ってくる。昼食は、焼きたてパンなのか。ずいぶんと、ごちそうだ。
 それから一時間と経たずに、昼食となった。
作業を進めていると、パンが焼けるいい匂いが漂ってくる。昼食は、焼きたてパンなのか。ずいぶんと、ごちそうだ。
在进行作业的时候,面包散发着烤好的香味。午饭是刚烤好的面包吗。谢谢款待。
それから一時間と経たずに、昼食となった。
然后不到一个小时就吃了午饭。
「ちょっと、何、それ!?」 「ちょっと、何、それ!?」
“喂,什么,那个!?”
アニャは積み上がった巣箱と継箱を見て、目を大きく見開いていた。
阿尼亚看着堆起来的巢箱和继箱,眼睛睁得大大的。
 アニャは積み上がった巣箱と継箱を見て、目を大きく見開いていた。
「これ全部、イヴァンが作ったの?」 「これ全部、イヴァンが作ったの?」
“这些都是伊凡做的吗?”
「そうだけれど」 「そうだけれど」
“是啊。”
「信じられない。この量は、お父様が一日かけて作るような量よ?」 「信じられない。この量は、お父様が一日かけて作るような量よ?」
“真不敢相信。这个量是父亲花一天时间做的量。”
「いやでも、板はカットされていたから。組み立てて、釘を打っただけで」 「いやでも、板はカットされていたから。組み立てて、釘を打っただけで」
“虽然不喜欢,但是木板被剪掉了。只是组装好,钉上钉子。”
「それが難しいのよ」 「それが難しいのよ」
“这很难。”
母や義姉達に命じられ、黙々と巣箱や継箱を作る日もあった。回数をこなすうちに、早くなっていたのかもしれない。
也有被母亲和大嫂们命令,默默地制作巢箱和继箱的日子。在处理次数的过程中,可能变快了。
 母や義姉達に命じられ、黙々と巣箱や継箱を作る日もあった。回数をこなすうちに、早くなっていたのかもしれない。
「まあ、いいわ。食事にしましょう」 「まあ、いいわ。食事にしましょう」
“好吧,我们吃饭吧。”
食卓の中心に置かれたのは、焼きたてパン。それから、ジャガイモとベーコンのバター炒め、グラタン、バタークリームスープと、豪勢な食事が並んでいた。
放在餐桌中心的是刚烤好的面包。然后,土豆培根黄油炒、奶汁烤菜、黄油奶油汤,摆满了丰盛的饭菜。
 食卓の中心に置かれたのは、焼きたてパン。それから、ジャガイモとベーコンのバター炒め、グラタン、バタークリームスープと、豪勢な食事が並んでいた。
「ちょっと、張り切り過ぎたわ」 「ちょっと、張り切り過ぎたわ」
“有点紧张。”
「俺たちだけで食べるのは、もったいないね」 「俺たちだけで食べるのは、もったいないね」
“只有我们吃太可惜了。”
「そうね。でも、雨だし」 「そうね。でも、雨だし」
“是啊,可是又下雨了。”
マクシミリニャンは今頃、独り寂しく食事を食べているだろうか。
马克西米利尼亚现在一个人寂寞地吃饭吗。
外からマクシミリニャンのいる離れを覗き込むと、煙突からもくもくと煙が上がっていた。
从外面窥视麦克西米利尼亚所在的距离,烟囱里冒出滚滚浓烟。
 マクシミリニャンは今頃、独り寂しく食事を食べているだろうか。
 外からマクシミリニャンのいる離れを覗き込むと、煙突からもくもくと煙が上がっていた。
「あ、お父様、鶏の燻製を作っているわ。きっと、お昼からお酒を飲むつもりなのよ」 「あ、お父様、鶏の燻製を作っているわ。きっと、お昼からお酒を飲むつもりなのよ」
“啊,爸爸,我在做熏鸡。我一定是打算从中午开始喝酒的。”
「雨を楽しんでいるようだったら、何よりだ」 「雨を楽しんでいるようだったら、何よりだ」
“如果能享受下雨的乐趣,那比什么都好。”
「そうね。私たちも、楽しみましょう」 「そうね。私たちも、楽しみましょう」
“是啊,我们也要好好享受。”
最後に、アニャは先ほど作ったバターを持ってくる。
最后,阿尼亚拿来了刚才做的黄油。
 最後に、アニャは先ほど作ったバターを持ってくる。
「焼きたてのパンに塗って、食べましょう」 「焼きたてのパンに塗って、食べましょう」
“涂在刚烤好的面包上吃吧。”
「いいね」 「いいね」
“好啊。”
神に祈りを捧げたあと、食事をいただく。
向神祈祷之后,请吃饭。
 神に祈りを捧げたあと、食事をいただく。 まずは焼きたてのパンに手を伸ばし、アニャと一緒に作ったバターを載せた。
首先把手伸向刚烤好的面包,放上和阿尼亚一起做的黄油。
パンの熱で、バターがじわーっと溶けていく。我慢できず、溶けきる前にかぶりついた。
因为面包的热,黄油一下子融化了。忍不住,在融化之前盖上了。
 まずは焼きたてのパンに手を伸ばし、アニャと一緒に作ったバターを載せた。
 パンの熱で、バターがじわーっと溶けていく。我慢できず、溶けきる前にかぶりついた。
「嘘、甘っ!」 「嘘、甘っ!」
“谎言,太天真了!”
 山羊のバターは、驚くほど甘い。後味にほんのり、酸味としょっぱさを感じる。コレまで食べたことのない風味のバターであった。 山羊のバターは、驚くほど甘い。後味にほんのり、酸味としょっぱさを感じる。コレまで食べたことのない風味のバターであった。
山羊的黄油甜得惊人。余味中有点酸味和咸味。是连这个都没吃过的风味的黄油。
これが、アニャの作ったフワフワのパンと信じられないくらい合うのだ。
这和阿尼亚做的鱼翅面包很搭,令人难以置信。
 これが、アニャの作ったフワフワのパンと信じられないくらい合うのだ。
「この世の食べ物と思えないほど、おいしい……」 「この世の食べ物と思えないほど、おいしい……」
“好吃得让人无法想象是这个世界上的食物……”
「そんなふうに言ってもらえると、作った甲斐があるわ」 「そんなふうに言ってもらえると、作った甲斐があるわ」
“如果你能这么说的话,我做了很有意义。”
アニャと共に、山羊のバター料理に舌鼓を打つ。
和阿尼亚一起咂着山羊的黄油料理。
 アニャと共に、山羊のバター料理に舌鼓を打つ。 大満足の昼食であった
 大満足の昼食であった。 非常满足的午餐

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養蜂家の青年は、かご作りに精を出す 養蜂家の青年は、かご作りに精を出す
 昼からは、かごを編むらしい。 养蜂青年,努力做篮子
昼からは、かごを編むらしい。
从中午开始,好像要编织篮子。
山で採ってきた蔓で編むのかと思いきや、若い木枝も使うようだ。
原以为是用在山上采来的藤蔓编织的,没想到好像也用年轻的树枝。
 山で採ってきた蔓で編むのかと思いきや、若い木枝も使うようだ。
「ライラック、にれ、ポプラ、はしばみ、トネリコの枝は丈夫だから、かごの底に使うの。かごの側面には、木イチゴ、薔薇、クレマチスなどの、やわらかい蔓や蔦性の枝で編むのよ」 「ライラック、にれ、ポプラ、はしばみ、トネリコの枝は丈夫だから、かごの底に使うの。かごの側面には、木イチゴ、薔薇、クレマチスなどの、やわらかい蔓や蔦性の枝で編むのよ」
“丁香花、韭菜、白杨、胡枝子很结实,所以要用在篮子的底部。篮子的侧面是用树莓、玫瑰、克莱门斯等柔软的藤蔓和爬山虎性的树枝编织的。”
「へー、なるほど」 「へー、なるほど」
“啊,原来如此。”
これまで気にせずにかごを使っていたが、長く使えるように工夫がなされていたらしい。
到现在为止都不介意使用了篮子,但是为了能长期使用而下了功夫。
 これまで気にせずにかごを使っていたが、長く使えるように工夫がなされていたらしい。
「かごって買うものだと思っていたから、そういうのはぜんぜん考えなかった」 「かごって買うものだと思っていたから、そういうのはぜんぜん考えなかった」
“我以为篮子是要买的,所以完全没想到。”
「そうだったのね」 「そうだったのね」
「でも、枝って硬いでしょう? 編めるの?」 「原来是这样啊。」
「でも、枝って硬いでしょう? 編めるの?」
“但是,树枝很硬吧?能编吗?”
「編めるわよ。でもそのままだったら折れてしまうから、一時間ちょっと水に浸けておくの。そうしたら、やわらかくなるのよ」 「編めるわよ。でもそのままだったら折れてしまうから、一時間ちょっと水に浸けておくの。そうしたら、やわらかくなるのよ」
“我会织的。但是如果那样的话会折断的,所以先在水里泡一个小时。这样的话,会变软的。”
アニャは昼食を食べる前に、枝を水に浸けていたらしい。
阿尼亚在吃午饭之前,好像把树枝泡在水里了。
 アニャは昼食を食べる前に、枝を水に浸けていたらしい。
「まず、太くしっかりした枝を四本選んで、真ん中に切り込みをいれる。そこに、四本の枝を差し込んで、十字型になるよう紐で縛るのよ。ここは、底の芯になる大事なところなの」 「まず、太くしっかりした枝を四本選んで、真ん中に切り込みをいれる。そこに、四本の枝を差し込んで、十字型になるよう紐で縛るのよ。ここは、底の芯になる大事なところなの」
“首先,选择四根粗壮结实的树枝,在中间切入。在那里插入四根树枝,用绳子绑成十字型。这里是成为底芯的重要地方。”
 しっかり固定したあと、芯に枝を絡ませ、編んでいくようだ。 しっかり固定したあと、芯に枝を絡ませ、編んでいくようだ。
好好固定之后,把树枝缠在芯上,编织起来。
アニャに教わりながら枝を編んでみたが、なかなか難しい。編み目もガタガタで、まったく美しくない。隙間を埋めようとしたら、枝が折れてしまう。やりなおしだ。
一边向阿尼亚学习一边试着编了树枝,但是很难。线圈也松动,一点也不美。如果你想填补缝隙,树枝就会折断。重新做。
一方で、アニャは手早く枝を編んでいた。編み目に隙間はなく、美しい。
另一方面,阿尼亚迅速地编织着树枝。线圈没有缝隙,很美。
 アニャに教わりながら枝を編んでみたが、なかなか難しい。編み目もガタガタで、まったく美しくない。隙間を埋めようとしたら、枝が折れてしまう。やりなおしだ。
 一方で、アニャは手早く枝を編んでいた。編み目に隙間はなく、美しい。
「あー、また折れた!」 「あー、また折れた!」
“啊,又折了!”
「最初はそういうものよ。私も、慣れるまで時間がかかったわ」 「最初はそういうものよ。私も、慣れるまで時間がかかったわ」
“一开始是这样的。我也花了很长时间才习惯。”
底が完成したら、側面を編む。三十一本もの枝を底に差し込み、再び編んでいくのだ。 黙々と作業を進める。集中しているからか、雨が降る音も気にならなくなった。
底部完成后,编织侧面。将三十一根树枝插入底部,再次编织。默默地进行作业。也许是因为集中精神,连下雨的声音都不在意了。
 底が完成したら、側面を編む。三十一本もの枝を底に差し込み、再び編んでいくのだ。 黙々と作業を進める。集中しているからか、雨が降る音も気にならなくなった。
 最後に、かごの縁を作ったら完成である。 最後に、かごの縁を作ったら完成である。
最后,做成篮子的边缘就完成了。
「やっと、できた!」 「やっと、できた!」
“终于完成了!”
「ごくろうさま」 「ごくろうさま」
“辛苦了。”
生まれて初めて作ったかごは、いびつな形をしていた。不思議な曲線を描いていて、テーブルに置くと左側に傾く。加えて、隙間だらけだった。小さな豆でも入れたら、かごをすり抜けて落ちてしまうだろう。
出生以来第一次做的篮子,形状很奇怪。画着一条不可思议的曲线,放在桌子上就会向左倾斜。再加上满是缝隙。即使是小豆子放进去,也会穿过篮子掉下来吧。
 生まれて初めて作ったかごは、いびつな形をしていた。不思議な曲線を描いていて、テーブルに置くと左側に傾く。加えて、隙間だらけだった。小さな豆でも入れたら、かごをすり抜けて落ちてしまうだろう。
「これ、失敗じゃん」 「これ、失敗じゃん」
“这不是失败了吗?”
「失敗じゃないわ。かごは、とにかく物が入ればいいの。イヴァンが作ったのは、野菜の収穫の時に使えるわ」 「失敗じゃないわ。かごは、とにかく物が入ればいいの。イヴァンが作ったのは、野菜の収穫の時に使えるわ」
“这不是失败。篮子里放东西就行了。伊凡做的是收获蔬菜时用的。”
「なるほど、野菜は入りそうだ」 「なるほど、野菜は入りそうだ」
“原来如此,蔬菜好像要放进去了。”
 薬草採取やベリー摘みには使えないなと思っていたが、使い道はあるらしい。
 アニャのかごは、隙間なんてないのでさまざまな作業に使えるだろう。さすがである。
薬草採取やベリー摘みには使えないなと思っていたが、使い道はあるらしい。
原以为不能用于采集药草和摘浆果,但似乎有用途。
アニャのかごは、隙間なんてないのでさまざまな作業に使えるだろう。さすがである。
因为阿尼亚的篮子没有缝隙,所以可以用于各种各样的工作吧。不愧是。
「これ、売っているの?」 「これ、売っているの?」
“这是卖的吗?”
「いいえ、自宅用よ」 「いいえ、自宅用よ」
“不,是自家用的。”
「そうなんだ。お店に並んでいても、おかしくない仕上がりだけれど」 「そうなんだ。お店に並んでいても、おかしくない仕上がりだけれど」
「そう? ありがとう」 “是啊。虽然在店里排队也不奇怪。”
「そう? ありがとう」
“是吗?谢谢。”
 他にも、白樺の樹皮や、蔓、蔦、木など、さまざまな物を素材にかごを編んでいるらしい。
 その中で、高価で買い取ってもらえるのが、木のかごだという。
他にも、白樺の樹皮や、蔓、蔦、木など、さまざまな物を素材にかごを編んでいるらしい。
除此之外,还以白桦树皮、蔓、爬山虎、树等各种各样的东西为素材编织了篮子。
その中で、高価で買い取ってもらえるのが、木のかごだという。
其中,据说能高价购买的是木篮。
「木を薄くカットして編むの。丈夫で、木目が美しいかごが完成するのよ。でも、編むのは一番難しいわね」 「木を薄くカットして編むの。丈夫で、木目が美しいかごが完成するのよ。でも、編むのは一番難しいわね」
“把木头切成薄片编织。结实、木纹漂亮的篮子就完成了。但是,编织是最难的。”
「だろうね」 「だろうね」
“是吧。”
枝以上に、木はパキパキ折れてしまうのだろう。
比起树枝,树会折断吧。
 枝以上に、木はパキパキ折れてしまうのだろう。
 冬、雪が深くなったら、外での仕事ができなくなるらしい。そのときに、木のかごを作るようだ。 冬、雪が深くなったら、外での仕事ができなくなるらしい。そのときに、木のかごを作るようだ。
冬天,雪深了,好像就不能在外面工作了。那个时候,好像要做木笼。
「イヴァン、私が編んだこのかご、あなたにあげるわ」 「イヴァン、私が編んだこのかご、あなたにあげるわ」
「え? これ、家で使うんでしょう?」 “伊凡,我给你织的这个篮子。”
「え? これ、家で使うんでしょう?」
“诶?这个是在家里用的吧?”
「いいの。ここに来た、記念に」 「いいの。ここに来た、記念に」
“没关系,我来这里做纪念。”
その物言いは、どこか諦めの意味が溶け込んでいるような気がした。
我觉得那个说法似乎融入了放弃的意思。
蕎麦の芽は生えないだろうから、思い出の品として受け取ってくれ。そんな感じだろう。
荞麦面不会发芽,请作为回忆的东西收下。是那样的感觉吧。
 その物言いは、どこか諦めの意味が溶け込んでいるような気がした。
 蕎麦の芽は生えないだろうから、思い出の品として受け取ってくれ。そんな感じだろう。
「だったら、俺のかごは、アニャにあげる」 「だったら、俺のかごは、アニャにあげる」
“那嚒,我的篮子给阿尼亚。”
「いいの!?」 「いいの!?」
“好吗!?”
アニャはパーッと表情を明るくし、前のめりで聞き返す。
阿尼亚的表情变得明朗,前倾地反问。
 アニャはパーッと表情を明るくし、前のめりで聞き返す。
「こんないびつなかご、もらっても嬉しくないかもしれないけれど」 「こんないびつなかご、もらっても嬉しくないかもしれないけれど」
“这样打鼾的篮子,拿到了可能也不高兴。”
「苦労して作った品ですもの。ものすごく嬉しいわ。イヴァン、ありがとう」 「苦労して作った品ですもの。ものすごく嬉しいわ。イヴァン、ありがとう」
“这是我辛辛苦苦做的东西。我非常高兴。伊凡,谢谢。”
アニャは俺が作ったかごを胸に抱き、にこにこ微笑んでいる。
阿尼亚把我做的篮子抱在胸前,微笑着。
再び、俺の心臓は感じたことのないほどの高鳴りを感じていた。
再一次,我的心脏感受到了从未感受到的激动。
 アニャは俺が作ったかごを胸に抱き、にこにこ微笑んでいる。
 再び、俺の心臓は感じたことのないほどの高鳴りを感じていた。
「あ、もう夕方なんだ」 「あ、もう夕方なんだ」
“啊,已经是傍晚了。”
「夕食は、卵があるからエッグヌードルを作りましょう」 「夕食は、卵があるからエッグヌードルを作りましょう」
“晚饭有鸡蛋,我们做蛋面吧。”
エッグヌードル――いわゆるパスタの一種である。
蛋面——也就是所谓的意大利面的一种。
小麦粉に卵とオリーブオイルを練り混ぜて作るようだ。
好像是在面粉里搅拌鸡蛋和橄榄油做成的。
 エッグヌードル――いわゆるパスタの一種である。 作り方を見学させてもらった
 小麦粉に卵とオリーブオイルを練り混ぜて作るようだ。 让我参观了制作方法
 作り方を見学させてもらった。
 まず、小麦粉を山のように盛って、中央に窪みを作る。ここに、朝どれの新鮮な卵を落とすようだ。
 卵を潰して混ぜ、そこにオリーブオイルを垂らす。あとは、指先と拳を使って混ぜるようだ。 まず、小麦粉を山のように盛って、中央に窪みを作る。ここに、朝どれの新鮮な卵を落とすようだ。
首先,把面粉盛得像山一样,在中央形成凹陷。在这里,早上好像要掉哪个新鲜的鸡蛋。
卵を潰して混ぜ、そこにオリーブオイルを垂らす。あとは、指先と拳を使って混ぜるようだ。
把鸡蛋捣碎搅拌,在那里滴上橄榄油。然后,用指尖和拳头混合。
「イヴァンは、ソースを作って」 「イヴァンは、ソースを作って」
“伊凡做酱汁。”
「え、俺、料理できないんだけれど」 「え、俺、料理できないんだけれど」
“嗯,我不会做饭。”
得意料理は、湖で釣った魚で作る焼き魚である。串を刺し塩をぱっぱと振って焼くだけの、シンプルな一品だ。
拿手菜是用在湖里钓到的鱼做的烤鱼。这是一道简单的菜,只需把串上的盐一挥就可以烤。
 得意料理は、湖で釣った魚で作る焼き魚である。串を刺し塩をぱっぱと振って焼くだけの、シンプルな一品だ。
「作り方は教えるわ。簡単だから、あなたにもできるはずよ」 「作り方は教えるわ。簡単だから、あなたにもできるはずよ」
“我教你怎么做。很简单,你也应该会。”
「わかった」 「わかった」
「明白了。」
豚ほほ肉の塩漬けをカットし、炒める。油を入れずとも、豚からじわじわと滲みでてきた。途中で白ワインを垂らし、さらに炒めるようだ。
把咸猪肉切成块炒。即使不放油,猪也慢慢地渗出来了。中途滴上白葡萄酒,再炒一下。
 豚ほほ肉の塩漬けをカットし、炒める。油を入れずとも、豚からじわじわと滲みでてきた。途中で白ワインを垂らし、さらに炒めるようだ。
アニャはエッグヌードルを完成させたようで、鍋で茹で始める。
阿尼亚好像完成了蛋面,开始用锅煮。
 アニャはエッグヌードルを完成させたようで、鍋で茹で始める。
「次に、ボウルに山羊のチーズ、卵黄、エッグヌードルのゆで汁、炒めた豚ほほ肉の塩漬けを入れるの」 「次に、ボウルに山羊のチーズ、卵黄、エッグヌードルのゆで汁、炒めた豚ほほ肉の塩漬けを入れるの」
“接下来,在碗里放入山羊奶酪、蛋黄、蛋面的煮汁、炒好的猪脸颊肉的腌制。”
豚にしっかり味がついているので、味付けは特に必要ないようだ。
因为猪有很好的味道,所以好像不需要特别的调味。
 豚にしっかり味がついているので、味付けは特に必要ないようだ。
「最後に、茹で上がったエッグヌードルを入れて、ボウルを湯煎しながら手早く混ぜる」 「最後に、茹で上がったエッグヌードルを入れて、ボウルを湯煎しながら手早く混ぜる」
“最后,放入煮好的蛋面,一边煎着碗一边快速搅拌。”
エッグヌードルに卵が絡んだら、皿に盛り付ける。上からさらにちぎった山羊のチーズを盛り付けたら、塩豚のパスタの完成である。
在蛋面上缠上鸡蛋后,盛在盘子里。从上面再盛上撕碎的山羊奶酪,就完成了盐猪的意大利面。
 エッグヌードルに卵が絡んだら、皿に盛り付ける。上からさらにちぎった山羊のチーズを盛り付けたら、塩豚のパスタの完成である。
「味が薄かったら、コショウをかけて」 「味が薄かったら、コショウをかけて」
“味道淡的话,浇上胡椒。”
アニャはそう言うが、追加の味付けは必要ないだろう。このままでもおいしいというのは、見た目からビシバシ伝わっていた。
阿尼亚是这么说的,但是不需要追加调味吧。这样也很好吃,是从外观上传达出来的。
神に祈りを捧げ、いただく。
向神祈祷,领受。
 アニャはそう言うが、追加の味付けは必要ないだろう。このままでもおいしいというのは、見た目からビシバシ伝わっていた。
 神に祈りを捧げ、いただく。
「――むっ!?」 「――むっ!?」
“——唔!?”
麺はもちもちとした歯ごたえがあって、ソースがよく絡んでいる。
面条有粘糯的嚼劲,酱汁缠得很好。
 麺はもちもちとした歯ごたえがあって、ソースがよく絡んでいる。
「麺、うまっ! っていうか、ソースが神がかり的な味がする!」
「麺、うまっ! っていうか、ソースが神がかり的な味がする!」
“面,很好吃!话说回来,酱汁有一种神灵般的味道!”
山羊のチーズと、新鮮な卵、そして豚の塩漬けが合わさり、絶妙なうまさを爆誕させている。噛めば噛むほど、おいしさを感じる料理だ。
山羊奶酪,新鲜的鸡蛋,还有猪肉的腌制相结合,诞生了绝妙的美味。越嚼越觉得好吃的料理。
 山羊のチーズと、新鮮な卵、そして豚の塩漬けが合わさり、絶妙なうまさを爆誕させている。噛めば噛むほど、おいしさを感じる料理だ。
「本当、おいしい」 「本当、おいしい」
“真的很好吃。”
「お口に合ったようで、よかったわ」 「お口に合ったようで、よかったわ」
“好像合您的口味,太好了。”
アニャの絶品料理を、堪能させてもらった。
让我品尝了阿尼亚的绝品料理。
 アニャの絶品料理を、堪能させてもらった。
夜は、仕事はせずにのんびり過ごすらしい。
晚上好像不工作悠闲地度过。
 夜は、仕事はせずにのんびり過ごすらしい。
「ねえ、イヴァン。カード遊びをしましょうよ」 「ねえ、イヴァン。カード遊びをしましょうよ」
“喂,伊凡,我们来玩纸牌吧。”
「カード?」 「カード?」
“卡?”
「ええ。お父様が木札で作った物があるの」 「ええ。お父様が木札で作った物があるの」
「是的,有父亲用木牌做的东西。」
 マクシミリニャンオリジナルのカードらしい。いったいどんな物なのか、気になる。
 アニャが木箱に収められたカードをテーブルに置いた瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り始めた。 マクシミリニャンオリジナルのカードらしい。いったいどんな物なのか、気になる。
好像是马克西米莉娜原创的卡。我很在意到底是什么样的东西。
アニャが木箱に収められたカードをテーブルに置いた瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
阿尼亚把装在木箱里的卡片放在桌子上的那一瞬间,开始下起了像打翻水桶一样的雨。
「え、何、この雨」 「え、何、この雨」
“啊,这雨是什么?”
「たまに、こういう雨が降るのだけれど――あ!!」 「たまに、こういう雨が降るのだけれど――あ!!」
“偶尔会下这样的雨——啊!!”
アニャは顔色を青くさせ、叫んだ。
阿尼亚脸色发青,叫了起来。
 アニャは顔色を青くさせ、叫んだ。
「この勢いの雨は、蕎麦の種がダメになってしまうわ」 「この勢いの雨は、蕎麦の種がダメになってしまうわ」
“这种气势的雨,荞麦面的种子就不行了。”
 大地をえぐるような勢いである。このままでは、アニャの言う通り蕎麦の種は土から流れ出てしまうだろう。
大地をえぐるような勢いである。このままでは、アニャの言う通り蕎麦の種は土から流れ出てしまうだろう。
气势汹汹。这样下去的话,正如阿尼亚所说,荞麦面的种子会从土里流出来吧。
アニャは寝室のほうへと駆け込む。戻ってきたときには、シーツを胸に抱いていた。
阿尼亚跑进卧室。回来的时候,我把床单抱在胸前。
 アニャは寝室のほうへと駆け込む。戻ってきたときには、シーツを胸に抱いていた。
「アニャ、どうしたの?」 「アニャ、どうしたの?」
“阿尼亚,怎么了?”
「このシーツで、畑を覆うのよ」 「このシーツで、畑を覆うのよ」
“用这个床单覆盖田地。”
「何を言っているんだ。この暗い中、作業をするのは危険だ」 「何を言っているんだ。この暗い中、作業をするのは危険だ」
“你在说什么?在这黑暗中工作很危险。”
「止めないで!」 「止めないで!」
“不要停止!”
雨に濡れてはいけない。それは、山での暮らしの決まりなのだろう。
你不要淋雨啦。那是在山上生活的规定吧。
 雨に濡れてはいけない。それは、山での暮らしの決まりなのだろう。
「イヴァン、私は、あなたをはっ倒してでも、外に行くわ」 「イヴァン、私は、あなたをはっ倒してでも、外に行くわ」
「伊凡,就算我打倒你,我也会出去的。」
アニャは、とんでもなく恐ろしい宣言をしてくれた。
 アニャは、とんでもなく恐ろしい宣言をしてくれた。 阿尼亚给了我一个非常可怕的宣言

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