養蜂家の青年は、月明かり差し込む部屋で蜜薬師の娘と会話する 养蜂家的青年,在月光照射下的房间里和蜜药师的女儿对话 この日は、客人用の離れを借りて休ませてもらう。 这一天,借客人用的离开休息。 離れは暖炉に寝台、脇にサイドテーブルがあるだけの、シンプルな部屋である。 离开是壁炉里有卧铺,旁边只有侧桌的简单房间。 灯りを点していないのに窓から月明かりが差し込むので、ランタンを点けずとも十分過ごせる。 明明没有点灯,月光却从窗户射进来,所以即使不点灯笼也能充分度过。 寝台に腰掛け、キョロキョロ見渡していたら、アニャがやってきた。 坐在卧铺上东张西望,阿尼亚来了。 「これ、蜂蜜水とちょっとしたおやつよ。それから、ランタンも。必要だったら、点けてちょうだい」 “这是蜂蜜水和小点心。还有灯笼。如果需要的话,请点一下。” 「ありがとう」 “谢谢。” アニャはそのまま立ち去らずに、こちらを見ている。 阿尼亚就这样不走开,看着这边。 「どうかした?」 “怎么了?” 「あ――えっと、少しだけ、話してもいい?」 “啊——嗯,我能说几句吗?” 「いいよ」 “好啊。” アニャは腰に手を当て、俺を見下ろしながら話し始めようとした。 阿尼亚把手放在腰上,俯视着我开始说话。 「ちょっと待って。座って」 “等一下,请坐。” 隣をポンポン叩きながら言うと、アニャは素直に腰掛ける。気恥ずかしいのか。もじもじしながら、頬を真っ赤に染めていた。 一边敲着旁边,一边说,阿尼亚坦率地坐了下来。你害羞吗。扭扭捏捏的,脸颊染得通红。 「ごめんなさい。あまり、同じ年ごろの異性と、話したことがなくて」 “对不起,我没怎么和同龄的异性说过话。” 「リブチェフ・ラズにいる男は?」 “在利布切夫·拉兹的男人是?” 「あの人は、私を一方的にからかってくるだけ。童顔とか、嫁ぎ遅れとか、山女とか。まともな会話はしていないわ」 “那个人只是单方面地调戏我。像童颜啦,嫁人晚了啦,山女啦。我没有正经的对话。” 「酷いね」 “太过分了。” 「でしょう? 自分だって、二十歳を過ぎても結婚していないくせに、何を言っているのかしら」 “是吧?我自己都20多岁了还没结婚,还说什么呢?” 「あー……」 “啊……” おそらくだが、その男はアニャのことが好きなのだろう。仲良くなりたくて声をかけているのだろうが、内容が最悪過ぎる。 恐怕,那个男人喜欢阿尼亚吧。虽然是想成为好朋友而打招呼的,但是内容太差了。 「それで、話したいことは?」 “那么,你想说什么?” 「ああ、そう。あなた、本当にいいの?」 “啊,是的。你真的可以吗?” 「何が?」 “什么?” 「しらばっくれないで。私との、結婚よ」 “别装蒜了,和我结婚吧。” 「いや、まだアニャと結婚するか、決まっていないし」 “不,我还没决定要不要和阿尼亚结婚。” 運命は蕎麦の芽にかかっている。明日、アニャと一緒に種を蒔く予定だ。 命运取决于荞麦的萌芽。我打算明天和阿尼亚一起播种。 「仮に決まったときのことを話しているのよ」 “我在说临时决定的时候的事情。” 「そういう意味ね。さっきも話したけれど、俺は行く当てもない男だから」 “就是这个意思。我刚才也说过了,因为我是个没有前途的男人。” 「でも、私じゃなくても……。イヴァン、あなた、子どもが欲しくないの?」 “但是,就算不是我……伊凡,你不想要孩子吗?” 「いや、俺は子どもの面倒を見れるほど、甲斐性があるとは思えないし」 “不,我不认为我有能力照顾孩子。” 素直に告げると、アニャは目を眇めて俺を見る。小さな声で「確かに」と呟いていた。あまりにも素直な反応に、笑ってしまう。 坦率地告诉他,阿尼亚仔细地看着我。小声嘟囔着“确实”。对过于坦率的反应,笑了。 「あっ、笑ったら、顔が痛い」 “啊,一笑,脸就痛。” 「安静にしているように、言っていたでしょう?」 “你不是说要保持安静吗?” 「だって、アニャが笑わせるから」 “因为阿尼亚会笑。” 「私がいつ、笑わせたのよ」 “我什么时候让你笑了呢?” 「うん、そうだね」 “嗯,是啊。” アニャはよほど、子どもが産めない体であることを気にしているのだろう。気の毒な話である。 阿尼亚大概相当在意孩子无法生育的身体吧。真可怜。 「もしも蕎麦が芽吹いて、結婚できるものだとしたら、俺はアニャを幸せにすることを人生の目標にしようと思っている」 “如果荞麦面发芽,能结婚的话,我想把让阿尼亚幸福作为人生的目标。” 「イヴァン……ありがとう」 “伊凡……谢谢。” アニャはウルウルとした瞳で、俺を見つめていた。庇護欲をかき立てられるような思いとなったが、肩に触れようとした瞬間、脳内にマクシミリニャンの顔が浮かんだ。 阿尼亚用乌尔的眼睛看着我。虽然觉得这会激发庇护欲,但在触摸肩膀的瞬间,脑内浮现出了马克西米利尼亚的脸。 伸ばした手はそっと下ろし、ぎゅっと握りしめて拳を作る。 伸出的手轻轻地放下,紧紧地握住拳头。 「アニャは、どうなの? 父親が選んだ相手と、結婚するなんてイヤじゃないの?」 “阿尼亚怎么样?你不喜欢和父亲选择的对象结婚吗?” 聞いた途端、アニャは耳まで真っ赤になる。大丈夫なのか、心配になるほど羞恥心が顔に出ていた。 一听到,阿尼亚连耳朵都红了。不知道是不是没事,脸上露出了令人担心的羞耻心。 「あなたは優しいし、たぶん、働き者だろうし、嘘は吐かない人だと思うから、これ以上ない結婚相手だわ」 “你很温柔,大概是个劳动者,不会说谎的人,是再也没有的结婚对象了。” 「そう。よかった。でも、俺がいい人ぶっていたら、どうするの?」 “是的,太好了。但是,如果我装好人的话,怎么办?” 「あなたが、いい人ぶっているですって? そんな器用なことを、できる人には見えないわ。イヴァン、あなたはきっと、死ぬほど不器用な人なのよ」 “你是装好人吗?我可看不出你是个能干的人。伊凡,你一定是个笨得要死的人。” 「そう、かもしれない」 “是的,也许。” 「でしょう?」 “是吧?” ほんの数時間しか話していないのに、人となりをアニャに見抜かれていたようだ。 虽然只说了几个小时,但好像被阿尼亚看穿了为人。 「もっと、お話ししたいって思った男の人は、イヴァンが初めてよ。もしかしたら、あと三日間しかいないかもしれないけれど、とても嬉しいわ」 “想再多说几句话的男人,伊凡是第一次。说不定只剩下三天了,我很高兴。” 「アニャ……」 “阿尼亚……” 月明かりが、彼女の横顔を照らす。なんて、美しいのか。思わず見とれてしまった。 月光照耀着她的侧脸。多么美丽啊。不由得看入迷了。 「アニャ、俺も――」 “阿尼亚,我也是——” 言いかけた瞬間、窓の外に丸太を片手で担いだマクシミリニャンが通りかかった。 刚要说的瞬间,一只手扛着原木的马克西米利尼亚路过窗外。 通り過ぎる際、高速でこちらをチラ見していった。我慢できずに、噴き出してしまう。 路过的时候,高速往这边看了看。忍不住喷了出来。 こんな時間に、丸太を持って庭で作業するわけがない。きっと、俺たちの様子を確認しにきたのだろう。 在这样的时间里,不可能拿着原木在院子里工作。一定是来确认我们的情况的吧。 「イヴァン、どうしたの?」 “伊凡,怎么了?” 「いや、おやじさんが通りかかったから」 “不,是因为你父亲路过。” 「まあ!! お父様ったら、覗きに来たの!?」 “哎呀!!你父亲是来偷窥的吗!?” 「たぶん、アニャがなかなか母屋に戻らないから、心配しているんだと思う」 “我想大概是因为阿尼亚很难回到正房,所以才担心的。” 「私は、子どもじゃないのに! それに、イヴァンはお父様が婿として連れてきたのに、どうして監視するようなことをするのよ!」 “我又不是小孩子!而且,伊凡明明是父亲作为女婿带过来的,为什么要监视他呢!” 「まだ正式に結婚するわけではないから」 “因为还没有正式结婚。” 顔も口の中も痛いのに、笑ってしまう。同じ日にこんなに笑ったのは、初めてだろう。 脸和嘴里都痛,却笑了起来。这是我第一次在同一天笑成这样吧。 「俺、ここに来て、よかった」 “我能来这里真是太好了。” そう呟くと、アニャは淡く微笑んでいた。 这样嘟囔着,阿尼亚淡淡地微笑着。 こんなに楽しいところならば、ずっといたい。すべては、蕎麦の芽次第なんだけれど。 如果是这么开心的地方,我想一直呆下去。一切都要看荞麦的芽了。 「じゃあ、そろそろ解散する?」 “那么,差不多该解散了?” 「そうね」 “是啊。” アニャを、母屋まで送る。離れと母屋はそこまで離れていないが、山なのでどこに熊が出てもおかしくない。 把阿尼亚送到主屋。离开和母屋虽然没有那么远,但是因为是山,所以哪里出熊都不奇怪。 心配なので、きちんと部屋に入るまで確認しなければ。 因为担心,所以必须在进入房间之前确认。 「アニャ、また明日」 “阿尼亚,明天见。” 「ええ、おやすみなさい」 “嗯,晚安。” 「おやすみ」 “晚安” アニャは部屋に戻らず、こちらを見つめている。 阿尼亚不回房间,凝视着这边。 「ん、どうしたの?」 “嗯,怎么了?” 「あ――ごめんなさい。幼いころ、おやすみの挨拶をするときに、お父様が頬にキスをしてくれたから。やだわ。もう何年も、していなかったのに」 “啊——对不起。小时候,我向你问候晚安的时候,你父亲亲吻了我的脸颊。不,我已经好几年没这么做了。” つまり、アニャはおやすみのキス待ちをしていたわけだ。 也就是说,阿尼亚在等着晚安的吻。 さすがに、結婚もしていない相手にキスなんてできない。 真不愧是,连结婚都没有的对象不能接吻。 「ゆっくり休んで」 “好好休息。” 「イヴァン、あなたも」 「伊凡,你也是。」 アニャと別れ、離れに戻る。 和阿尼亚分手,回到离开。 扉を開き中へ入ると、腕を組んで寝台に座るマクシミリニャンの姿が目に飛び込んだ。 打开门进入里面,抱着胳膊坐在卧铺上的马克西米利尼亚的身影映入眼帘。 悲鳴を上げそうになったのは、言うまでもない。 不用说,他差点尖叫起来。