養蜂家の青年は、花畑で春の支度を行う 养蜂青年在花圃里为春天做准备 かつて、この地は他国の支配下にあった。ブレッド湖周辺は王族の保養地として愛され、その昔は王族とすれ違う、なんてことも珍しくなかったらしい。 过去,这片土地处于他国的统治之下。布莱德湖周边作为王族的疗养地受到喜爱,以前与王族擦肩而过的情况也不稀奇。 ブレッド湖の中心には孤島が浮かんでおり、教会がポツンと建っている。山頂から見たら瞳のように見えるので、ブレッド湖は“山々の瞳”とも呼ばれていた。 布莱德湖的中心漂浮着一座孤岛,教堂鳞次栉比。从山顶上看像眼睛一样,所以布莱德湖也被称为“群山之瞳”。 花畑養蜂園がある土地は平地であるものの、周辺は野山に囲まれている。 虽然有花圃养蜂园的土地是平地,但是周边被山野包围着。 街の郊外にあるこの地では、豊富な湖水と豊かな自然が、おいしい蜂蜜をもたらしてくれるのだ。 在郊外的这片土地上,丰富的湖水和丰富的自然环境,给我们带来了美味的蜂蜜。 ただ、何もしないで、たくさんの蜂蜜を得られるわけではない。 只是,并不是什么都不做就能得到很多蜂蜜。 人が手を加えて、蜜蜂を世話しなければいけないのだ。 人要动手照顾蜜蜂。 もうすぐ、春になる。 马上就要到春天了。 越冬した蜜蜂が、活動的になるシーズンである。 这是越冬的蜜蜂变得活跃的季节。 蜜蜂の動きに注目し、より快適な巣箱になるように助けてやらなければならない。 要关注蜜蜂的动向,帮助它们成为更舒适的蜂箱。 花畑養蜂園では、いたる場所に養蜂小屋が建てられている。 在花圃养蜂园,到处都建有养蜂棚。 箪笥のように中が区切られていて、そこに出入りする蜜蜂が花の種類ごとに蜜を集めてくるのだ。 里面像衣柜一样被分开,出入那里的蜜蜂按照花的种类收集蜜。 巣の出入り口となる蓋には、精緻な彫刻が施されている。 作为巢的出入口的盖子上有精致的雕刻。 田園風景だったり、湖の様子だったり。街の芸術家に頼んで、作らせているようだ。 田园风景,湖泊的样子。好像是委托街上的艺术家制作的。 これらは蜂蜜の種類を見分けるものであり、養蜂家は豊かな生活をしていると自慢するものでもあるようだ。 这些都是辨别蜂蜜种类的东西,似乎也是养蜂人自夸生活富裕的东西。 兄達に頼まれていた仕事を終えると、母や義姉、年上の姪が次々と命令してくる。 完成哥哥们拜托的工作后,母亲、大嫂、年长的侄女纷纷命令。 それをこなすだけで、昼の鐘が鳴り響いた。 只是完成了那个,白天的钟就响了。 昼食は朝バタバタしていてもらいそこねてしまった。ブレッド湖に釣りに行こうとしたそのとき、声がかけられる。 午饭早上忙得不可开交。我正要去布莱德湖钓鱼的时候,有人跟我打招呼。 「あの、イヴァンさん」 “那个,伊凡先生。” 振り返った先にいたのは、ブルネットの髪の美女ロマナ。双子の兄、サシャの妻だ。 回头看的是布鲁内特头发的美女罗曼娜。这是双胞胎哥哥萨沙的妻子。 五年前、収穫祭で身売りをしようとしていたところを捕まえて、うちで住み込みで働かせた。 五年前,他在收获节上抓住了打算卖身的人,让他住在家里工作。 刷り込みされた雛のように、俺について回っていたが、結婚したのは兄だった。 像被印刷的雏鸟一样跟着我转,结婚的是哥哥。 それはまあ、しかたがないだろう。 那也没办法吧。 継ぐべき花畑を持たない男のもとに嫁いでくる物好きなんて、いないだろうから。 因为没有喜欢嫁到没有应该继承的花圃的男人身边的人吧。 「ロマナ、何?」 “罗曼娜,什么事?” 「これを……」 “这个……” 差し出されたのは、魚を挟んだ練りパイ。わざわざ、持ってきてくれたのだろう。 拿出来的是夹着鱼的馅饼。是特意给我带来的吧。 「ありがとう」 “谢谢。” 「あの、イヴァンさん、湖のほとりで、一緒に食べない?」 “那个,伊凡,在湖边一起吃吧?” 「それはダメでしょう。ロマナは、サシャの妻だから」 「那可不行,因为罗曼娜是萨沙的妻子。」 他の兄弟の妻と二人きりで過ごすのは、禁じられている。暗黙の了解だが、破るつもりはない。 禁止和其他兄弟的妻子单独生活。虽然是默契,但不打算打破。 ロマナはサシャと結婚したのに、結婚前のように過ごしたがる。 罗曼娜和萨沙结婚了,却想像婚前那样过。 結婚しても仲良くだなんて、都合のいい話はない。 结婚后关系也很好,没有什么方便的话。 ロマナと仲良くしていて、サシャに喧嘩を売られても困る。だから、可哀想だけれど、彼女のことは遠ざけた。 和罗曼娜关系很好,即使被萨沙挑衅也很为难。所以,虽然很可怜,但还是远离了她。 今日も一人、青空の下で昼食を食べる。 今天也一个人在蓝天下吃午饭。 午後からは母親に言われていた、羽化する前の雄蜂の確認作業を行う。 下午开始进行母亲所说的羽化前雄蜂的确认工作。 「おーい、イヴァン!!」 “喂,伊凡!!” 元気よく走ってやってきたのは、街に住む幼なじみのミハル。彼は雑貨商の息子で、幼い頃からイェゼロ家に出入りしている。 精神饱满地跑来的是住在街上的青梅竹马米哈尔。他是杂货商的儿子,自幼出入耶泽罗家。 「ミハル、今日も、配達に来たの?」 “米哈尔,你今天也来送货吗?” 「ああ。お前の兄ちゃんの酒とつまみを三箱も持ってきたぞ」 “啊,我带了三盒你哥哥的酒和下酒菜。” いつものことなので、何か思う心はすでに死んでいる。 因为是平常的事,所以有什么想法的心已经死了。 蜂蜜を売って得た金も、兄達が湯水のごとく使ってしまうのだ。 卖蜂蜜得到的钱,哥哥们也会像热水一样用完。 ミハルは「おまけだ」と言って、干物の端っこを集めた包みをくれた。 米哈尔说“这是赠品”,给了我一个收集干货边上的包裹。 「イヴァン、また、痩せたんじゃないのか?」 “伊凡,你不是又瘦了吗?” 食いっぱぐれるのは、日常茶飯事。実の母親でさえ、気にしない。けれど唯一、ミハルやミハルの家族は心配し、食べ物をくれるのだ。 贪吃是家常便饭。连亲生母亲都不介意。但是,只有米哈尔和米哈尔的家人担心,给我食物。 「最近は、ロマナがお昼をくれるし」 “最近,罗曼娜会给我午饭。” 「お前、それ、大丈夫なのか?」 “你,那个,没事吧?” 「何が?」 “什么?” 「何がって、ロマナはサシャの妻なんだろう?」 “怎么说呢,罗曼娜是萨沙的妻子吧?” 「そうだけど」 “是啊。” ロマナはサシャと結婚して、家の炊事を担当することになった。そのため、こっそり食事を分けてくれるのである。 罗曼娜嫁给萨沙,负责家里的炊事。因此,偷偷地分给我吃饭。 結婚前は食いっぱぐれていた彼女に食事を分けていたので、その恩返しのつもりなのだろう。 结婚前把饭分给了贪吃的她,是为了报恩吧。 「あんまり親しくしていると、誤解されるからな」 “如果关系太亲密的话,会被误解的。” 「それは大丈夫。さっきも、追い返したし」 “那没关系,刚才也追回来了。” 「だったら、いいけどよ」 “那就好。” サシャは独占欲が人一倍強いので、ロマナが俺と仲良くしていると面白くないだろう。 萨沙的独占欲比别人强一倍,所以罗曼娜和我关系好的话就没意思了吧。 だからなるべく、関わらないようにしている。 所以尽量不要和我扯上关系。 「それはそうと、例の件を考えてくれたか?」 “那是这样,你考虑过那件事了吗?” 「例の件?」 “那件事?” 「忘れるなよ! お前と家の、養子縁組みの件だよ!」 “别忘了!这是你和家里领养的事!” 「ああ」 “啊。” ミハルの家族は変わり者で、俺を気に入ってくれている。信じがたいことに、養子縁組みをしたいと申し出てくれたのだ。 米哈尔的家人是个怪人,很喜欢我。令人难以置信的是,他提出要收养我。 「ありがたい話だけれど、俺は、この仕事が好きだから」 “虽然是值得庆幸的事,但我喜欢这份工作。” 「あー、やっぱり、お前と蜜蜂は、切っても切り離せないかー」 “啊,果然,你和蜜蜂,切了也切不开啊。” 物心ついたときから、蜜蜂と共に在った。今更、離ればなれの人生なんて、考えられない。 从懂事的时候开始,就和蜜蜂在一起。事到如今,我无法想象离别的人生。 イェゼロ家に蜂蜜をもたらしてくれるのは、腹部に灰色熊のような毛を持つ、カーニオランと呼ばれる蜜蜂。 给耶泽罗家带来蜂蜜的是腹部有着灰熊般的毛的被称为卡尼奥兰的蜜蜂。 彼らは温厚で、真面目。せっせと花蜜を集めてくれる。太陽の光を浴びると、カーニオランが持つ灰色の毛は柔らかく光るのだ。 他们温厚,认真。不停地给我收集花蜜。沐浴在阳光下,卡尼奥兰身上的灰色毛发会柔和地发光。 そんな蜜蜂を、親しみを込めて“灰色熊のカーニオラン”と呼んでいた。 这样的蜜蜂被亲切地称为“灰熊的卡尼奥兰”。 俺はそんな蜜蜂に、人一倍の愛着を抱いている。 我对那样的蜜蜂,抱着比别人加倍的留恋。