養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と話をする 养蜂青年和蜜药师的女儿说话 アニャはとてもお喋りだった。こちらが何か言おうとする前に、矢継ぎ早に話しかけてくる。相槌を打つだけでも、大変だ。 阿尼亚非常健谈。在我想说什么之前,他会不停地跟我搭话。即使只是随声附和,也很辛苦。 「それにしても、酷い怪我ね。いったい、どうしたの?」 “话说回来,伤得真重啊。到底怎么了?” 「兄弟喧嘩」 “兄弟吵架” 「まあ! ここまでしなくてもいいのに」 “哎呀!你不用这么做。” こればかりは、完全同意である。 只有这个完全同意。 「でも、あなたは、やりかえさなかったのね」 「可是,你没有回头啊。」 「どうしてわかったの?」 “你怎么知道的?” 「同じように殴り返したら、手の甲にも痣ができているはずだもの」 “同样打回去的话,手背上也会长痣的。” 「ああ、そっか」 “啊,这样啊。” 俺をボコボコに殴ったサシャの手の甲は、おそらく痣だらけだろう。 把我打得七零八落的萨沙的手背,恐怕全是痣吧。 同じように、痛がっているに違いない。 同样,一定很痛。 「こんなの、兄弟喧嘩じゃないわ。ただの暴力よ」 “这不是兄弟吵架,只是暴力。” 「そうかも」 “也许吧。” 「そうかもって、暢気ね。あなた、もしかして悪くないのに、暴力をふるわれたんじゃないの?」 “是吗,你真是畅快啊。你是不是还不错,还被施暴了?” 「さあ、どうだったか」 “来,怎么样?” 「なんで、顔中痣だらけにされたのに、のほほんとしているのよ!」 “你怎么脸上都是痣,还傻乎乎的!” 「性分だから」 “因为是性情。” アニャは盛大なため息を吐いている。怒ったり、微笑んだり、呆れたり。感情表現が豊かな娘だ。 阿尼亚发出一声盛大的叹息。生气、微笑、发呆。是个感情表达丰富的姑娘。 普段、何が起こってもあまり感情を揺さぶられることはないので、少しだけ羨ましくなってしまう。 平时无论发生什么都不会引起感情的动摇,所以会有点羡慕。 「あなた、名前は?」 “你叫什么名字?” 「イヴァン」 伊凡 「いい名前ね。私は――」 “你的名字真好,我——” 「アニャ?」 “阿尼亚?” 「そうよ」 “是啊。” 小首を傾げると、アニャの蜂蜜色の髪がサラリと流れる。恐ろしく手触りがいい髪だということが、触れなくてもわかるほどだ。 小头一歪,阿尼亚蜂蜜色的头发就沙沙作响。即使不碰也能知道这是一头手感非常好的头发。 なんとなく、不躾に見つめるのは失礼な気がして、窓の向こう側に視線を移した。 总觉得不礼貌地凝视是很失礼的,把视线移到了窗户的对面。 太陽はあっという間に沈んでいく。外は真っ暗だ。この状況では、登山など困難だっただろう。満身創痍であったが、なんとかたどり着けてよかった。 太阳一眨眼就沉下去了。外面一片漆黑。在这种情况下,登山等很困难吧。虽然满身疮痍,但总算能到达真是太好了。 「ねえ、イヴァン。あなた、いくつなの?」 「喂,伊凡,你多大了?」 「二十歳」 “二十岁” 「ふうん。ねぇ、私はいくつに見える?」 “嗯,我看起来多大了?” 「十九」 “十九” 「本当!? 私、十九に見える!?」 “真的!?我看起来像十九!?” 幼い顔立ちや、小柄な体型はとても十九の娘には見えない。けれど、女性的な部分はしっかり十九の娘そのものである。 年幼的容貌和身材矮小的样子很不像十九岁的女儿。但是,女性的部分确实是十九个女儿。 アニャは満面の笑みを浮かべ、俺に聞き返してくる。 阿尼亚满脸笑容,反问我。 「十九歳に見えるって、嘘じゃないわよね?」 “看起来才十九岁,不是骗人的吧?” 「見えるよ」 “能看见。” 「やったー!」 “太好了!” 十九の娘は「やったー!」などと言って喜ばないだろうが、その辺は黙っておく。 十九岁的女儿可能不会高兴地说“太好了!”,但这一点还是保持沉默。 「リブチェフ・ラズにいる男が、私はいつまで経ってもお子様だって言うのよ。酷いと思わない?」 “在里布切夫·拉兹的男人说,我无论过多久都是孩子。你不觉得很过分吗?” 「見た目を、ああだこうだと言ってからかうのは、よくないかも」 “把外表说成是那样,然后开玩笑,可能不好。” 「でしょう? 今度、会ったら、その言葉を浴びせてみせるわ」 “是吧?下次见面的话,我会说这句话给你看的。” 「まあ、もめごとにならない程度にね」 “嗯,还不至于发生纠纷。” 話しながらも、アニャは俺の顔に蜂蜜を塗りたくっている。顔中ベタベタだ。 一边说话,一边在我的脸上涂蜂蜜。脸上黏糊糊的。 「唇も、乾燥しているわね」 “嘴唇也很干燥。” そう呟くと、アニャは俺の唇に蜂蜜が付いた指先を這わせる。 这样嘟囔着,阿尼亚让我嘴唇上沾着蜂蜜的指尖爬行。 「むっ!?」 “唔!?” 「喋らないで、大人しくしていなさい」 “别说话,老实点。” 普段誰も触れないような場所なので、盛大に照れてしまう。綺麗に顔を洗ったばかりなのに、冷や汗もかいているような気がした。 因为是平时谁都不会碰的地方,所以很害羞。刚洗干净脸,就觉得出了冷汗。 「これでよしっと! あとは、安静にしていなさいね」 “这样就好了!之后,请保持安静。” 「……」 「……」 「返事は?」 “回答是?” 「はい」 “是的。” 「よろしい!」 “好!” 治療が済んだのと同時に、マクシミリニャンがやってきて言った。 治疗结束的同时,马克西米利尼亚来了说。 「風呂の準備ができた。イヴァン殿、先に入られよ」 “浴室准备好了,伊凡大人,先进去。” 「え、俺は別に最後でも」 「咦,我就算是最后一个了。」 「さっさと入りなさいな。その間に、食事を温めておくから」 “快进来吧。在这期间,我会把饭加热的。” なんとなく、アニャには逆らわないほうがいいと思い、大人しく風呂に入ることにした。 总觉得还是不要违抗阿尼亚比较好,所以决定老实地洗澡。 着替えを鞄の中から取り出して立ち上がると、再びアニャに腕を引かれる。 从包里取出换好的衣服站起来,再次被阿尼亚拉着胳膊。 「イヴァン、案内するわ。こっちよ」 “伊凡,我带你去,这边。” 下屋のほうにある扉を開くと、そこは台所だった。窯と暖炉が一体化した物がどんと鎮座している。調理台や食器棚はあるが、食卓はない。ここで料理を作り、母屋に持って行って食べるのだろう。 打开楼下的门,那里是厨房。窑和壁炉融为一体的东西端坐着。虽然有厨房和餐具架,但是没有餐桌。在这里做饭,带到开间去吃吧。 さらに奥にある扉の向こう側に、風呂があった。窯の熱を利用して、温めるものらしい。 在更里面的门的对面,有一个浴室。好像是利用窑的热来加热的。 先ほどまでパンでも焼いていたのか、香ばしい匂いが漂っていた。 刚才还在烤面包,散发着芳香的味道。 木製の浴槽には、ホカホカ湯気が漂う湯で満たされている。 木制的浴缸里充满了漂浮着热气的热水。 「蜂蜜湯にしてあげるわ。ゆっくり眠れるから」 “我给你泡蜂蜜汤,你可以好好睡一觉。” 「蜂蜜湯?」 “蜂蜜汤?” アニャはテキパキと動き、蜂蜜の瓶と何かの小瓶を持ってきた。 安妮娅手舞足蹈,端来蜂蜜瓶和一些小瓶。 「それは?」 “那是?” 「ラベンダーの蜂蜜と精油よ」 “薰衣草蜂蜜和精油。” 皿にラベンダーの蜂蜜と精油を混ぜ、それを湯に溶かす。ふんわりと甘い蜂蜜とラベンダーの香りが漂ってきた。 在盘子里混合薰衣草蜂蜜和精油,将其溶解在热水中。轻轻地飘来了甜甜的蜂蜜和薰衣草的香味。 「じゃあ、ごゆっくり」 “那嚒,请慢用。” 「ありがとう」 “谢谢。” 服を脱ぎ、天井からぶら下がっているカゴに放り込む。 脱下衣服,扔进从天花板上垂下来的篮子里。 蜂蜜湯を被り、石鹸で体を洗った。 盖上蜂蜜汤,用肥皂洗了身体。 ブクブクと泡立つ石鹸から、蜂蜜の匂いを感じる。よくよく見たら、石鹸はほのかに蜂蜜色だ。まさか、石鹸まで蜂蜜を使っているとは。 从起泡的肥皂中,能感受到蜂蜜的味道。仔细一看,肥皂是淡淡的蜂蜜色。没想到连肥皂都用蜂蜜。 体を洗い流すと、浴室の扉が開かれた。 洗完身体后,浴室的门打开了。 「イヴァン、髪を洗ってあげるわ!」 “伊凡,我给你洗头!” 「うわぁ!!」 “哇!!” まさかのアニャの登場に、目を剥く。 没想到阿尼亚的登场,让人瞠目结舌。 「な、なんで!?」 “什么,为什么!?” 「せっかく蜂蜜を顔に塗ったのに、お湯を被ったら落ちてしまうでしょう? 私が、顔にかからないように、洗ってあげるわ」 “好不容易在脸上涂了蜂蜜,如果盖上热水的话会掉下来吧?为了不沾到脸上,我会帮你洗的。” 「いいよ!」 “好啊!” 「遠慮しなくてもいいから」 “不用客气。” 決して、遠慮ではない。それなのに、アニャは腕まくりをしながらズンズン浴室に入り、たらいを手に取る。 绝对不客气。尽管如此,阿尼亚还是挽着胳膊走进铁城浴室,拿起盆。 「すぐに終わるから、大人しくしていなさい」 “马上就结束了,老实点。” 多分、拒絶しても聞いてくれないだろう。仕方がないので、近くにあった手巾で股間を隠した。たぶん、もう見られているだろうけれど……。 大概,即使拒绝也不会听吧。因为没办法,用附近的手巾把胯间藏起来了。大概已经被看到了吧……。 その後、アニャはわしわしと頭を洗ってくれた。ほどよい力加減で、思っていた以上に気持ちよかった。ついでに、背中も流してくれる。 在那之后,阿尼亚和我一起洗了头。力量适中,比想象中还要舒服。顺便说一下,背也会流下来。 「痛くない?」 “不痛吗?” 「痛くない。ちょうどいい」 “不疼,正好。” 「よかったわ」 「太好了。」 誰かに体を洗ってもらうことが、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。 我不知道让别人洗身体会这么舒服。 いつも以上に、さっぱりとした気分になる。 感觉比平时清爽。 「アニャ、ありがとう」 “阿尼亚,谢谢。” 「どういたしまして。あとはゆっくり、お湯に浸かりなさいね」 “不客气。之后慢慢地泡在热水里吧。” 湯の中では、百を数えるまで上がったらダメだと言われた。 在热水里,有人说不能上到一百。 完全に、小さな子どもと同じ扱いであった。 完全和小孩子一样对待。