養蜂家の青年は、兄の妻の話を聞く 养蜂青年听哥哥妻子的话 なぜ、ロマナがここにいるのか。思考が追いつかず、混乱する。 为什么罗曼娜会在这里。思考跟不上,混乱。 この小屋は、家族の中ではツィリルしか知らない。 这个小屋,家族中只有齐里尔知道。 「どうして、ここに?」 “为什么会在这里?” 「前に、サシャさんに家を追い出されたときがあって、そのときに、どこかに行くイヴァンさんを見かけて、ついていったらここにたどり着いて……」 “以前,有一次被萨沙先生赶出了家,那个时候,看到了去哪里的伊凡先生,跟着就到了这里……” 「なんで、声をかけなかったの?」 “为什么不打招呼?” 「迷惑だと、思いまして」 “我觉得很麻烦。” どこから突っ込んでいいものかわからず、頭を抱え込む。 不知道从哪里吐槽好,抱着头。 まさか、ロマナにあとをつけられているのに気付いていなかったなんて。それに、サシャが家を追い出したとは、何事なのか。 没想到,我竟然没注意到罗曼娜跟在我后面。再说,萨沙把家赶出去,这是怎么回事。 寒いけれど、ロマナを小屋に入れるわけにはいかない。個室で二人きりなんて、絶対に許されないだろう。とりあえず、寒いので外に焚き火を用意する。 虽然很冷,但是不能把罗曼娜放进小屋里。在单间里只有两个人,绝对不允许吧。总之,因为很冷,所以在外面准备篝火。 木の枝を重ね合わせ、枯れ葉を被せる。解した麻紐に向かって火打金と火打石を擦り合わせたら、火花が散って着火した。 把树枝重叠起来,盖上枯叶。面对解开的麻绳,把打火的钱和火石擦在一起,火花四溅,点火了。 ふーふーと息を吹きかけると、だんだんと火が大きくなる。しだいに、ロマナの姿が暗闇の中で浮き彫りになった。 呼呼地吹气,火渐渐变大了。渐渐地,罗曼娜的身影在黑暗中浮现出来。 彼女は外套を着ておらず、薄い寝間着姿だったことに気付く。 她发现她没有穿外套,穿着单薄的睡衣。 「ちょっとロマナ、なんで、その恰好!?」 “有点罗曼娜,为什么,那个打扮!?” 慌てて外套を脱ぎ、肩にかけてやる。必要ないと遠慮していたが、いいから着ていろと怒鳴ってしまった。 慌忙脱下外套,披在肩上。虽然很客气地说没有必要,但是因为可以,所以怒吼说要穿。 「もう、理解不能なんだけれど」 「我已经无法理解啦。」 額を押さえた瞬間、ロマナが抱きついてきた。踏ん張るのが一瞬遅れたら、そのまま焚き火に背中から倒れ込んでいただろう。危ないことをする。 压住额头的瞬间,罗曼娜抱了过来。如果坚持一瞬间晚了的话,就直接从背后倒在篝火上吧。做危险的事。 「ちょっと、なんなの? 俺、サシャじゃないんだけど!」 “喂,这是什么?我不是萨沙!” ロマナは何も答えず、ただただ震えるばかりだ。嗚咽も聞こえる。泣いているのだろう。 罗曼娜什么也没回答,只是发抖。也能听到呜咽。是在哭吧。 さっきも、サシャに家を追い出されたと言っていた。いったい、夫婦の中で何が起こっているのか。 刚才也说被萨沙赶出了家。到底夫妻之间发生了什么。 悪いと思いつつも、ロマナを引き離す。 虽然觉得不好,但还是离开了罗曼娜。 大きくなった火のおかげで、はっきりロマナの顔が見えた。 多亏了大火,我清楚地看到了罗曼娜的脸。 驚くべきことに、頬に大きな内出血の痕があった。 令人吃惊的是,脸颊上有一个很大的内出血痕迹。 「なっ……これ、サシャにやられたの!?」 “啊……这个,是被萨沙打了吗!?” ロマナは顔を背け、黙り込む。薬は何もないが、とりあえず冷やしたほうがいいだろう。 罗曼娜转过脸,沉默不语。虽然没有什么药,但还是先冷却一下比较好吧。 布を湖に浸し、きつく絞る。それを、ロマナの頬に当ててやった。 把布浸在湖里,拧得紧紧的。我把它贴在了罗曼娜的脸颊上。 昼間に見た首を絞めたあとも、見間違いではないのだろう。 掐了白天看到的脖子之后,也不是看错了吧。 おそらく、サシャは日常的にロマナに暴力をふるっている。 恐怕萨沙在日常生活中对罗曼娜施暴。 今までは、見えない場所をぶっていたのかもしれない。 到现在为止,可能是在看不见的地方戴着。 なんて酷いことをするのか。理解不能だ。 你做了多么过分的事啊。不能理解。 「ねえ、ロマナ。何があったの? どうして、叩かれたの?」 「喂,罗曼娜,发生了什么事?为什么被打了?」 ロマナはスンスン泣くばかりで、何も話そうとしない。もはや、ため息しか出てこない。 罗曼娜只是一味地哭,什么也不想说。已经只能叹气了。 明日も仕事があるので、早く眠ったほうがいいだろう。 明天还有工作,还是早点睡比较好吧。 「ねえ、ロマナ。小屋に、布団があるからさ、そこで寝なよ。俺は、ここにいるから」 「喂,罗曼娜,小屋里有被子,在那里睡觉吧,我就在这里。」 「そんなの、できません」 “我不会。” 「なんとか頑張ってよ、そこんところをさ」 “无论如何都要努力,就在那里。” ここで二人一緒に座っているほうが気まずい。誰かに見られたりしたら、勘違いされるだろう。 在这里两个人坐在一起比较尴尬。如果被谁看到的话,会被误解的吧。 「あの、二人で、休みませんか?」 “那个,两个人一起休息吧?” 「それは絶対にダメ。天と地がひっくり返っても、ロマナがサシャの妻でいる限り、部屋で二人きりにはなれないんだよ」 “那是绝对不行的。即使天翻地覆,只要罗曼娜是萨沙的妻子,就不能在房间里只有两个人。” 幼い子どもに諭すように、ロマナに言い聞かせる。すると、余計に泣き始めた。 像告诫年幼的孩子一样,对罗曼娜说。于是,更加开始哭了。 「イヴァンさんは、酷い、です」 “伊凡先生很过分。” 「は……? なんで、俺?」 “是……?为什么是我?” 酷いのはサシャのほうだろう。どうして、俺が酷いことになるのか。 残酷的是萨沙吧。为什么我会变得很过分呢。 「俺、ロマナに何かした? 無視なんかしていないし、怒鳴らないし、友好的に接していたでしょう?」 “我对罗曼娜做了什么?没有无视,也没有怒吼,友好地对待她吧?” 「そ、それが、残酷なんです! や、優しくするから、好きになってしまった!」 “啊,这太残酷了!呀,因为温柔,所以喜欢上你了!” ロマナの感情の吐露に、「あーあ」という言葉を返してしまう。 对罗曼娜的感情的吐露,返回了「啊—啊」的言词。 言わなければ、気付かなかった振りを永遠にしていたのに。この辺は、難しい問題なのだろう。 如果不说的话,就永远装作没注意到的样子。这一带是很难的问题吧。 「ずっと、ずっとずっと、私は、イヴァンさんを、想って、いました」 “一直,一直,我想伊凡先生。” だったらなぜ、サシャと結婚したのか。 那么,为什么和萨沙结婚呢。 それは、俺がロマナの好意に気付かず、のほほんとしていたからだろう。 那是因为我没有注意到罗曼娜的好意,心不在焉吧。 「イヴァンさんは、わかって、いますか? 私が、サシャさんと結婚したのは、顔が、そっくりだから、なんです」 “伊凡,你知道吗?我之所以和萨沙结婚,是因为长相一模一样。” 「ロマナ、それは、本当によくない」 “罗曼娜,那真的不好。” もしもサシャが聞いたら、怒り狂うだろう。 如果萨沙听到了,他会大发雷霆的。 サシャは同じ顔をした双子の弟を下等生物だと思っていて、自分を優れた存在だと思って疑わない。 萨沙认为长相相同的双胞胎弟弟是下等生物,认为自己是优秀的存在毫不怀疑。 俺が大事にしているものを根こそぎ奪うことに、喜びを感じているようなひねくれ者なのだ。 他是一个对将我珍视的东西连根拔起感到高兴的乖僻的人。 もしも、ロマナが俺の代わりにサシャと結婚したことを知れば、どうなるかは想像したくなかった。 如果知道罗曼娜代替我和萨沙结婚的话,我不想想象会变成什么样。 「私……サシャさんに抱かれているときに、イヴァンさんの名前を口にしてしまったんです。だから、叩かれてしまって――!」 “我……被萨沙抱着的时候,说出了伊凡的名字。所以,被打了——!” 最悪だ。ロマナは絶対に言ってはいけないことを、サシャに言ってしまったようだ。 糟透了。罗曼娜似乎把绝对不能说的话告诉了萨沙。 「それ以前にも、サシャはロマナに暴力をふるっていたんでしょう?」 “在那之前,萨沙也对罗曼娜施加过暴力吧?” ロマナはサッと顔を伏せる。問いかけに対して肯定しているようなものだろう。 罗曼娜一下子低下了脸。对提问是肯定的吧。 「今日は、サシャを怒らせたのが原因だとして、その首を絞めた痕はなんだったの?」 “今天是因为惹怒了萨沙,勒住她的脖子的痕迹是什么?” 首を絞めるなんて、よほどのことだろう。ロマナは顔を伏せたまま、絞り出すような声で告白する。 勒紧脖子,真是太过分了。罗曼娜趴着脸,用挤出的声音告白。 「これは……サシャさんを、愛していると言わなかったから、です」 “这是因为……我没有说我爱萨沙。” 「しょーもな!!」 “没办法!!” 明日、朝一番に母に報告しなければならないだろう。息子達には寛大な母も、暴力には人一倍厳しい。きっと、サシャを怒ってくれるだろう。 明天早上要第一时间向妈妈报告吧。对儿子们宽宏大量的母亲对暴力也比别人严厉一倍。一定会让萨沙生气的吧。 問題は、ロマナだ。もう、サシャと夫婦関係を続けるのは不可能だろう。 问题是罗曼娜。已经不可能和萨沙继续夫妻关系了吧。 「私は、これから、どうすれば……」 “我今后该怎么办……” ロマナがこうなってしまったのは、花畑養蜂園に連れてきた俺のせいでもある。 罗曼娜变成这样,也是因为我带她来到花田养蜂园的缘故。 ひとまず、ロマナは修道院に預ければいい。そのあと、サシャと離婚させて、独立したあと責任を取ればいいのか。 首先,罗曼娜可以寄存在修道院。之后,让萨沙离婚,独立后负责任就好了吗。 考えを張り巡らせていたら、ふいにミハルの言葉が甦った。 在反复思考的时候,米哈尔的话突然复活了。 ――人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ! ——人生不是为了家人而存在的。是为了自己的东西! ハッと、我に返る。 哈,回过神来。 また俺は、誰かのために自分の人生を犠牲にしようとしていた。 我又为了谁而牺牲了自己的人生。 このままでは、いけない。 这样下去可不行。 俺は俺の人生を歩まないといけないし、ロマナもロマナの人生を歩まないといけないのだ。 我必须走我的人生,罗曼娜也必须走罗曼娜的人生。 一度、ロマナのことは助けている。あとの人生は、自分で希望を切り開くべきなのだ。 有一次,罗曼娜的事在帮助。以后的人生,应该自己开辟希望。 「ロマナ、太陽が昇ったら、街の修道院に行こう」 “罗曼娜,太阳升起后,我们去街上的修道院吧。” 「え?」 “诶?” 「もう、ここを出て行くんだ。サシャのいる場所は、ロマナの居場所じゃない」 「你要离开这里了,萨沙所在的地方不是罗曼娜的住处。」 「そんな、そんなの……!」 “那样啊,那样啊……!” ロマナの表情が、絶望に染まっていく。 罗曼娜的表情染上了绝望。 住み慣れた場所を離れるのは辛いだろう。養蜂も、彼女の天職のように思えた。けれど、ここで我慢をしたらロマナが壊れてしまう。 离开住惯了的地方很辛苦吧。养蜂也像是她的天职。但是,如果在这里忍耐的话,罗曼娜就会坏掉。 それだけは、避けたい。 只有那个,想避开。 「い、嫌です」 “不,我不喜欢。” 「いや、嫌じゃなくって、そうしないと、ロマナ、いつか、サシャに殺されるよ?」 “不,不是讨厌,如果不那样做的话,罗曼娜,总有一天会被萨沙杀死的。” 「殺されても、構いません。私は、一秒でも長く、イヴァンさんと、一緒にいたい!」 “被杀也没关系。我想和伊凡在一起,哪怕是一秒钟也好!” 再び、ロマナが胸に飛び込んできた。今度は勢いがあったので、押し倒されてしまった。 罗曼娜再次跳入胸膛。因为这次有气势,所以被推倒了。 もちろん、焚き火のない方向へ。 当然,朝着没有篝火的方向。 「待って、待ってロマナ。落ち着いて! 冷静になって!」 “等等,等等,罗曼娜。冷静点!冷静点!” 「落ち着いていますし、極めて冷静です!」 “沉着冷静,非常冷静!” 人を押し倒しておいて、落ち着いているはないだろう。冷静ではない確かな証拠だ。 把人推倒,不可能冷静下来吧。这是不冷静的确凿证据。 「起き上がってから、話をしよう。ね、ロマナ」 “起床后,我们再聊。喂,罗曼娜。” なるべく優しい声で言ったつもりだったが、それに対するロマナの返答は最低最悪だった。 虽然打算尽量用温柔的声音说,但是罗曼娜对那个的回答是最糟糕的。 「私を、抱いてください!」 “请抱着我!” 「ちょっ、どうしてそうなるの!?」 “喂,为什么会这样!?” 「一度、抱いていただけたら、私はそれを一生の思い出として、大事にしますので」 “如果你能抱着我一次,我会把它作为一生的回忆,珍惜它。” 「いや、無理無理無理無理無理!!」 “不,不行不行不行不行不行!!” 何回「無理!!」と叫んだのか、よくわからない。 不知道喊了多少次“不行!!”。 いったんここで抱いたほうがロマナの気持ちが治まるとわかっていても、絶対にそれはできない行為である。 即使知道暂时在这里抱着会治好罗曼娜的心情,但这是绝对做不到的行为。 ロマナともみくちゃになっているうちに、キスされそうになった。寸前で、回避した。 和罗曼娜挤在一起的时候,差点被吻了。就在眼前,回避了。 「他の男に抱かれた私が、穢らわしいから、そういうことを、するのですか!?」 “被其他男人抱着的我,因为肮脏,才会做那样的事吗!?” 「そうじゃないーい!!」 “不是那样的!!” 「だったら!!」 “那么!!” 「おい、お前ら、そこで何をしているんだ!?」 “喂,你们在那里干什么!?” 聞こえたのは、サシャの絶叫である。どでかい声で言い合っていたので、接近に気付かなかったのだろう。 听到的是萨沙的尖叫。因为大声地说着,所以没注意到接近吧。 なんていうか、俺の人生、終わった。 怎么说呢,我的人生结束了。