養蜂家の青年は、巣箱の確認を行う 养蜂青年确认蜂箱 柔らかな風が、頬を優しく撫でる。鳥の美しいさえずりも、聞こえていた。 柔软的风,温柔地抚摸着脸颊。也听到了鸟美丽的鸣叫。 そっと瞼を開くと、天使のように美しい美少女が俺を見下ろしている。 轻轻地睁开眼睛,像天使一样美丽的美少女俯视着我。 ここは、天国なのか。 这里是天堂吗。 サシャに殴られて、マクシミリニャンに助けられた一連の流れは、夢の世界での出来事だったのかもしれない。だって、できすぎだろう。 被萨沙殴打,被马克西米利尼亚救了的一连串的流动,说不定是梦的世界的事。因为,做得太多了吧。 八歳の男の子が闇夜を駆け抜け、強面のおじさんに助けを求めるなんて。 一个八岁的男孩在黑夜中飞奔,竟然向一个强颜欢笑的大叔求助。 それに、実家の養蜂園が人生のすべてだった俺が、家を出るわけがない。 而且,老家的养蜂园是人生的全部的我,不可能离开家。 そして、マクシミリニャンの娘が、天使のように愛らしいわけがないのだ。 而且,马克西米莉娜的女儿不可能像天使一样可爱。 ぼんやりと、美少女を眺めていたら、灰色の毛に覆われた蜜蜂が飛んでくる。 呆呆地看着美少女,被灰色的毛覆盖的蜜蜂飞了过来。 俺の目の前をぶんぶん飛んで、鼻先に止まった。雄の蜜蜂である。 从我眼前飞过,停在了我的鼻尖上。雄蜂。 いっこうに動こうとしないので、美少女は笑い始めた。 因为一点也不想动,美少女开始笑了起来。 「ふふふ、イヴァンから蜂蜜の匂いがするから、寄ってきたのね」 “呵呵,伊凡身上有蜂蜜的味道,所以我过来了。” 「ああ、そう――」 “啊,对了——” ここで一気に意識が覚醒する。上体を上げると、蜜蜂は飛んでいった。 在这里意识一下子觉醒了。抬起上身,蜜蜂飞走了。 「アニャ、俺、寝ていた?」 “阿尼亚,我睡了吗?” 「ええ、ぐっすりと」 “嗯,好好地。” 「ごめん。眠るつもりはなかったのに」 “对不起,我本来不打算睡觉的。” 「仕方ないわよ。高山病になりかかっていたのだし」 “没办法,我得了高山病。” 「高山病?」 “高山病?” 「ええ。山の高い場所に登ると発症するものなの。山羊を使って急に駆け上がったから、なってしまったのでしょうね。ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって。家にくるまで、お父様がイヴァンは大丈夫だったと言っていたものだから、平気かと思っていたの」 “是的。爬到山高的地方就会发病。是因为用山羊突然跑上去了,所以才变成这样的吧。对不起,我带你来了这样的地方。在到家之前,爸爸说伊凡没事,我还以为你没事呢。” 「気にしないで。もう、息苦しさや気持ち悪さはなくなったから」 “别在意,我已经没有呼吸困难和恶心了。” 「そう。よかったわ」 “是的,太好了。” 崖を駆け上がった恐怖から具合が悪くなったのかと思っていたが、そうではなかったようだ。 我以为是因为跑上悬崖的恐惧而身体不舒服,但好像不是。 立ち上がろうとしたら、腕を引かれてしまう。 如果想站起来的话,胳膊就会被吸引。 「まだ、立ったらダメ。もうしばらく、休まなきゃ」 “还不能站起来,要再休息一会儿。” 「でも、大丈夫なの?」 “但是,没关系吗?” 「何が?」 “什么?” 「その、仕事とか」 “那个,工作啦。” 「別に、急いでしなければならない仕事なんて、山の暮らしにはないわよ」 “另外,山上的生活里没有什么必须要抓紧时间做的工作。” 「そうなの?」 “是吗?” 「そうなのよ。ここで一番大事なのは、健康な体なの。仕事は二の次よ。元気でいなければ、生活は成り立たないわ」 “是啊。这里最重要的是健康的身体。工作是次要的。如果没有精神,生活就无法维持。” 「そっか……。うん、そうだよね」 “这样啊……嗯,是这样啊。” 山暮らしだけではなく、どこでもそうなのだろう。生きていくうえで、健康より大事なものはない。 不仅仅是山上的生活,到处都是这样吧。在生存方面,没有比健康更重要的东西了。 働き過ぎて体調を崩す話は、街でもたまに聞く。そういう人は、自分の頑張りが体を酷使し、命を縮めている事実に気づいていないのだろう。 在街上偶尔也会听到因工作过度而身体不适的话。这样的人,应该没有注意到自己的努力过度使用身体,缩短生命的事实吧。 「私のお母様は、あまりお体が強くなかったのよ。それなのに、私を産んで命を散らしてしまったわ。自分のことは自分が一番把握しているはずなのに、わかっていなかったのでしょうね。私を産まなかったら、もっと長く生きられたでしょうに……」 “我的母亲身体不太好。但是,生了我就丢了命。自己的事情应该是自己最清楚的,却不知道吧。如果不生我的话,就能活得更长……” 「アニャ……」 “阿尼亚……” なんて声をかけたらいいのか、わからなくなる。うんざりするほど家族がいるのは、贅沢な話だったのだ。 不知道该说什么好。有家人的话让人厌烦,真是奢侈。 アニャは思い詰めた表情で、言葉を続けた。 阿尼亚带着沉思的表情继续说下去。 「お父様は、きっと私を恨んでいるに違いないわ」 “你父亲一定很恨我。” 「それは、どうだろう? 俺は数日しか関わっていないけれど、それでも親父さんは世界で一番、アニャを愛していると思ったよ」 “那又如何呢?虽然我只参与了几天,但我还是觉得父亲是世界上最爱阿尼亚的。” でないと、山を下りて歩いてブレッド湖の街に来るまで、婿捜しなんかしない。 不然的话,下山走着来到布莱德湖的街道之前,我不会找女婿的。 アニャが生きていただけでも、マクシミリニャンにとっては救いだっただろう。その言葉を付け加えると、アニャの眦から涙が溢れた。 即使阿尼亚还活着,对马克西米利尼亚来说也是一种救赎吧。加上这句话,阿尼亚的眼睛里充满了眼泪。 「本当に、そう、思う?」 “你真的这么想吗?” 「思うよ」 “我想。” 「そう。だったら、よかったわ」 “是的,那就太好了。” たぶん、アニャは長い間誰にも話せずに、気に病んでいたのかもしれない。 大概,阿尼亚很长一段时间都没和任何人说,可能是心理疾病。 マクシミリニャン本人には聞けなかっただろうし、かと言って仲のいい人にも気軽に話せる内容ではない。 虽然没能问麦克西米利尼亚本人,但这并不是对关系好的人也能轻松交谈的内容。 昨日ここに来たばかりの俺だからこそ、ポツリと吐露できたのだろう。 正因为是昨天刚来这里的我,所以才会突然吐露出来吧。 しばし会話もないまま、ただただぼんやりする時間を過ごす。 暂时没有对话,只是度过发呆的时间。 美しい山々の景色を見ていたら、心が洗われるような、そんな気分にさせてくれた。 看着美丽的群山景色,让我有一种心灵被洗掉的感觉。 ◇◇◇ ◇◇◇ しっかり休んだのちに、仕事を行う。まずは、リンゴの花蜜を集める木のエリアに案内してもらった。 好好休息之后再工作。首先,我带我去了收集苹果花蜜的树的区域。 「イヴァン、こっちよ」 “伊凡,在这里。” 腕を引かれ、リンゴの木が群生する場所へ誘われる。 被拉着胳膊,被邀请去苹果树群生的地方。 「今は花盛りで、とっても美しいのよ。見て」 “现在是花季,非常美丽。看。” 「うわ、本当だ」 「哇,是真的。」 リンゴの木には、美しい薄紅色の花が満開だった。その周囲を、蜜蜂が忙しそうに飛び回っている。 苹果树上盛开着美丽的淡红色花朵。蜜蜂在那周围忙碌地飞来飞去。 「きれいだ」 “很漂亮。” 「でしょう。巣箱はあっちよ」 “是吧。巢箱在那边。” 小屋に巣箱を集めた実家の養蜂とは異なり、巣箱が地面に直に置かれていた。 与在小屋里收集蜂箱的老家养蜂不同,蜂箱直接放在地上。 「あ、そうだわ。イヴァン、あなたに、お父様の面布(めんぷ)を持ってきたのだけれど」 「啊,是啊。伊凡,我给你带了父亲的棉布。」 面布というのは、帽子の縁に目の細かな網がかけられた物である。蜜蜂の接近を防ぐ目的で被るのだ。 所谓面布,是在帽子的边缘上挂上眼睛细小的网的东西。这是为了防止蜜蜂接近而戴上的。 必要ないと首を振ると、驚かれる。 如果不需要的话就摇头,会被吓到。 「あなたも、面布は被らないの?」 “你也不戴面布吗?” 「うん。もしかして、アニャも?」 “嗯。难道安妮娅也是?” 「ええ、そうよ。だって、蜜蜂はお友達ですもの。必要ないわ」 “嗯,是的。因为蜜蜂是朋友,所以没有必要。” マクシミリニャンは面布を常に被っているらしい。その昔、蜜蜂に顔を刺されたことがあったので、警戒しているのだとか。 马克西米莉娜好像经常戴着面布。以前,因为被蜜蜂蜇过脸,所以很警戒。 「お父様ったらああ見えて心配性で、人一倍慎重なの」 “父亲看起来是那样,很担心,比别人更慎重。” 「なんか、そんな感じがするかも」 “可能会有这种感觉。” その辺は山奥で暮らすに必要な、感覚なのかもしれない。 这也许是在深山里生活所必需的感觉。 「俺も、蜂蜜軟膏を塗っているから、面布を被っておこうかな」 “我也涂了蜂蜜软膏,戴上面布吧。” 「そうね。今日は、それがいいわ」 “是啊,今天就这样吧。” アニャから面布を受け取り、被った。マクシミリニャンの頭に合わせて作った物なので、ぶかぶかだ。顎を紐で縛り、ずれないように固定しておく。 从阿尼亚那里收到了面布,戴上了。因为是配合马克西米利尼亚的头做的,所以很臃肿。用绳子绑住下巴,固定住不偏离。 「これでよし、と」 “这样就好了。” 巣箱にゆっくり接近し、中を確認させてもらう。 慢慢地接近巢箱,让他们确认里面。 ここには、五つの巣箱が設置されていた。 这里设置了五个巢箱。 鳥の羽根で作ったブラシで巣箱に集まる蜜蜂を払い、蓋を開く。 用鸟的羽毛做的刷子掸掉聚集在蜂箱里的蜜蜂,打开盖子。 「雄が多いかも」 “雄性可能很多。” 「削りましょうか」 “要削吗?” 雄の蜂が産み付けられた巣枠を取り出し、半分くらいヘラで削いでいく。 取出产有雄蜂的巢框,用刮刀削掉一半左右。 巣枠がいっぱいになると、女王蜂は蜜蜂を連れて巣からいなくなってしまうのだ。 如果巢框满了,蜂王就会带着蜜蜂离开巢。 蜜蜂の数が減ると、満足に蜂蜜が集められなくなる。だから、巣箱は小まめに確認しなければならないのだ。 蜜蜂的数量减少的话,蜂蜜就不能满足地收集了。所以,巢箱必须仔细确认。 「女王蜂の王座は、ないか」 “没有蜂王座吗?” 王座というのは、女王蜂を育てる特別な巣穴だ。蜜蜂は王座の幼虫にローヤルゼリーという特別な餌を与えて、女王蜂を育てるのだ。 王座是培育蜂王的特别巢穴。蜜蜂给王座的幼虫喂食蜂王浆这种特别的食物,培育蜂王。 「心配いらないわ。まだ、新しい女王なの」 “不用担心,她还是新女王。” 「なるほど」 “原来如此。” 女王蜂の寿命は三年ほど。一日に千個以上の卵を産むらしい。現在、巣箱には二万匹の蜜蜂がいる。最終的には、三倍くらいの群れに成長するのだ。 蜂王的寿命是三年左右。据说一天产一千个以上的鸡蛋。现在蜂箱里有两万只蜜蜂。最终,会成长为三倍左右的群。 ただ、気をつけなければならないのは、巣箱の状態ばかりではない。 但是,需要注意的不仅仅是巢箱的状态。 新しい女王蜂が巣内で育っていた場合も、女王蜂は蜜蜂を連れて出て行ってしまう。 即使新的蜂王在蜂巢内长大,蜂王也会带着蜜蜂出去。 女王蜂が蜜蜂を連れて巣を出ていくことを、“分蜂”と呼んでいた。 蜂王带着蜜蜂走出蜂巢,被称为“分蜂”。 巣箱の中を入念に確認していたら、アニャが感心したように呟く。 仔细确认了巢箱中,阿尼亚很佩服地嘟囔着。 「イヴァン、あなた、本当に養蜂家だったのね」 “伊凡,你真是养蜂人。” 「信じていなかったの?」 “你不相信吗?” 「信じていなかったわけではないのだけれど……」 “我并不是不相信……” アニャにとっての養蜂家のイメージは、マクシミリニャンなのかもしれない。 对阿尼亚来说养蜂人的印象可能是马克西米利尼亚。 いくら力仕事をしても、体つきがガッシリとならないのは血筋なのか。他の兄弟も、どちらかといえば細身だ。 无论怎么努力工作,身材都不僵硬,这是血脉吗。其他的兄弟姐妹,不管怎么说都是瘦肉。 「あなたみたいな人が旦那様だったら、ものすごく頼りになるわね。昨日、素直に結婚を受けておけばよかったわ」 “如果像你这样的人是你老公的话,那就太可靠了。昨天,坦率地接受结婚就好了。” そうだったね、と言葉を返すと、アニャは微笑む。なんとなくだけれど、先ほどより心を許してくれているような気がした。 是啊,阿尼亚回了话,露出了微笑。总觉得,比刚才更能原谅我的心。 喋りながらも、手は止めない。どんどん蜂の子を掻きだしていく。 一边聊天,一边不停止手。不断地把蜂子扒出来。 「そういえば、アニャのところでは、幼虫はどうしているの?」 “这么说来,在阿尼亚那里,幼虫是怎么做的呢?” 「粉末にして、薬にしているわ」 “把它做成粉末,做成药。” 「へえ」 「咦?」 耳に関する不調に、蜂の子が効果があるらしい。乾燥させたのちに、細かく煎じるのだとか。 蜂子似乎对耳朵不适有效果。干燥后,要煎得很细。 「イヴァンの家では、どうしていたの?」 “在伊凡家,你怎么了?” 「油で揚げて、親兄弟の酒のつまみになっていたよ」 “用油炸的,成了亲兄弟的下酒菜。” 「まあ! もったいない!」 “哎呀!太可惜了!” アニャは蜂の子を革袋に詰め、逃げないようにしっかり紐で縛っていた。 阿尼亚把蜂子塞进皮袋里,为了不逃跑,用绳子紧紧地绑着。 あとは害虫がいないか見て周り、巣箱に不具合がないかどうかも調べる。 然后看看有没有害虫,周围也调查巢箱有没有问题。 「よし。こんなもんか」 「好的,原来是这样啊。」 「そうね」 “是啊。” そろそろお昼の時間だという。 据说快到午饭时间了。 再び大角山羊に跨がり、恐怖と闘いながら岩場を下ったのは言うまでもない。 不用说再次跨上大角山羊,一边与恐怖战斗一边下了岩场。