養蜂家の青年は、残る者に話をする 养蜂青年对剩下的人说话 兄や義姉達は、顔を包帯で巻かれた俺を見て、いたたまれないような表情をしている。 哥哥和大嫂们看着用绷带缠着脸的我,露出了不得了的表情。 何も聞いてこないのは、母から口止めされているのだろう。 什么都没问,大概是被母亲阻止了吧。 非常によそよそしいが、今はその対応は逆にありがたい。 虽然很冷淡,但是现在那个对应反而很感谢。 口の中が痛いので、誰かと話そうという気にもならないし。 因为嘴里很痛,所以也不想和谁说话。 大人達の対応は非常に助かっていたが、深い事情を理解できない子ども達は容赦しない。 虽然大人们的应对非常有帮助,但是不能理解深刻情况的孩子们不会原谅。 俺を見つけるたびに、笑ったりじゃれついてきたりする。正直、勘弁してほしい。 每次看到我,都会笑着捣乱。老实说,希望你原谅我。 明日まで母の部屋を使っていいというので、引きこもって手紙を書くことにした。 因为说明天之前可以使用母亲的房间,所以决定闭门不出写信。 机と椅子があるので、非常に助かる。屋根裏部屋は昼間でも薄暗いし、天井が低いので机や椅子などを持ち込めない。とても、手紙が書けるような環境ではなかった。 有桌子和椅子,真是帮了大忙。阁楼房间白天也很昏暗,天花板很低,所以不能带桌子和椅子等。这不是一个能写信的环境。 以前、ミハルの実家の店で買った便せん一式を荷造りの中から取り出した。何年もしまっていたので、便せんは色あせている。 以前,在米哈尔老家的店里买的一套马桶从包装中取出。因为关了好几年,马桶褪色了。 手紙を出す相手なんていないのに、どうして買ったのか。昔の自分の行動が、まったく理解できない。 没有寄信的对象,你怎么买的。完全不能理解以前自己的行动。 しかしまあ、今日役に立っているのでよしとする。 但是嘛,今天有用就好了。 手紙を書くのは、ミハルの家族と仲がよかった精肉店、生花店、八百屋の店主や従業員。取り引きをする上で親しくしていた。 写信的是和米哈尔家人关系很好的精肉店、鲜花店、蔬菜店的店主和工作人员。在交易上很亲密。 きっと俺が独立すると聞いたら、驚くだろう。 如果听到我要独立的话,一定会很吃惊吧。 サラサラと手紙を書いていたら、遠慮気味に扉が叩かれた。 写了一封沙沙的信,门被客气地敲了一下。 「誰?」 “谁?” 「おれ……ツィリル」 「我……齐丽尔。」 扉を開くと、ツィリルがいたたまれないような表情で立っていた。 一打开门,齐丽尔就迫不及待地站着。 目が合うと、サッと顔を逸らす。 视线一对,马上就把脸移开了。 「どうしたの?」 “怎么了?” 「ちょっと、話したくて」 “我想和你谈谈。” ツィリルの手を握り、部屋へと誘う。寝台を椅子代わりに進めたが、なかなか座ろうとしない。 握住齐里尔的手,邀请他去房间。虽然把卧铺换成了椅子,但是怎么也不想坐。 「どうしたの?」 “怎么了?” 「顔、大丈夫?」 “脸,没事吧?” 「大丈夫ではないけれど、骨は折れていないし、先生の薬があるから、たぶん早めに治ると思う」 “虽然不是没关系,但是骨头没有折断,因为有老师的药,所以我想大概能早点治好。” 「そ、そっか」 “是吗?” 心配して、様子を見に来てくれたようだ。ここで、マクシミリニャンを呼んできてくれた件に関する感謝の気持ちを伝えた。 我很担心,好像是来看我的样子。在这里,我表达了对我叫马克西米利尼亚的事情的感谢之情。 「暗い中、おじさんを呼びに行ってくれて、ありがとう」 “谢谢你在黑暗中去叫叔叔。” 「う、うん。おれが、喧嘩を止められたら、よかったんだけれど」 “嗯,嗯,要是我能阻止吵架就好了。” 昨日の記憶が甦ったのか、ツィリルの肩が震えていた。 也许是昨天的记忆复苏了,齐里尔的肩膀在发抖。 可哀想に。きっと、サシャが怖かったのだろう。 真可怜。一定是害怕萨沙吧。 「暗闇の中、別の大人に助けを求めに行ってくれただけでも、大したものだよ。勇敢だ」 “在黑暗中,只要你去找另一个大人寻求帮助,就很了不起,很勇敢。” 「勇敢なんかじゃないよ。おれ、一回、おじさんの顔を見て、逃げてしまったんだ」 “我才不是勇敢呢。我一次看到大叔的脸就逃走了。” その気持ちは、大いに理解できる。暗闇の中でマクシミリニャンと出会ったら、逃げたくなるだろう。別に、おかしなことではない。 那种心情是可以理解的。如果你在黑暗中遇到马克西米利尼亚,你会想逃跑的。没什么奇怪的。 「それで、どうしたの?」 “那么,怎么了?” 「おじさんが、追いかけてきたんだ」 “叔叔追我来了。” あとからマクシミリニャンに話を聞いたところ、深夜に子どもが一人でいたため、保護しなくてはという思いに駆られたらしい。 后来我问了麦克西米利尼亚,他觉得深夜孩子一个人,必须保护他。 強面で服がボロボロの中年親父が追いかけてきたら、大人の俺でも普通に怖い。ツィリルの恐怖は、かなりのものだっただろう。 如果强颜欢笑、衣衫褴褛的中年父亲追上来的话,即使是大人的我也会很害怕。齐里尔的恐惧是相当大的吧。 「最終的には捕まってしまって、イヴァン兄の名前を叫んだら、おじさんがイヴァン殿を知っているのか? って聞いてきたんだ」 “最终被抓了,我喊了伊凡哥哥的名字,他问我叔叔知道伊凡殿吗?” 俺の知り合いだとわかるやいなや、助けを求めたらしい。その後、ツィリルを抱えて小屋に駆けつけてくれたようだ。 一知道是我认识的人,就向他求助。之后,他好像抱着齐里尔跑到了小屋。 「おれが逃げなかったら、もっと早く助けられたのに。ごめん」 「如果我没有逃跑的话,早就可以救你了,对不起。」 「そんなことはないよ。ありがとう」 “没有那样的事,谢谢。” 頭をぐりぐり撫でてやると、ツィリルの強ばっていた表情が解れた。が、すぐに眉間に皺が寄る。 轻轻地抚摸他的头,他露出了齐丽尔坚强的表情。但是,马上眉间就会有皱纹。 「あの、さっき、母さんからイヴァン兄が家を出て行くって話を聞いたんだけれど、嘘、だよね?」 “那个,刚才听妈妈说伊凡哥哥要离家出走,是骗人的吧?” 「あー」 “啊。” そうだった。ツィリルにも、きちんと話しておこうと思っていたのだ。 原来是这样。我也想和齐里尔好好谈谈。 「ツィリル、俺、この家を出て行くんだ」 “齐丽尔,我要离开这个家。” 「ど、どうして!?」 “怎么,为什么!?” 「どうしてって言われても、説明が難しいな」 “不管怎么说,说明都很难。” 「サシャ兄と喧嘩して、仲直りできないから?」 “和萨沙哥哥吵架,不能和好吗?” 「うーん。まあ、わかりやすく言えば、そうかな」 “嗯。嗯,简单地说,是吗?” 「だったら、おれがサシャ兄に、イヴァン兄と仲直りしてって、言うから」 “那嚒,我会对萨沙哥哥说,和伊凡哥哥和好。” 「仲直りしたから、出て行かないってわけでもないんだ」 “也不是说和好了就不出去啦。” サシャとロマナの関係を崩してしまった原因は、俺にある。だが、その責任を取るように家を出て行くわけではない。 破坏萨沙和罗曼娜关系的原因是我。但是,并不是为了承担责任而离开家。 このままだと、イェゼロ家がダニに寄生された蜜蜂の巣箱のようになってしまう。もちろん、前向きな気持ちで出て行くという気持ちも大いにある。 这样下去的话,耶泽罗家就像被螨虫寄生的蜜蜂的巢箱一样。当然,也有以积极的心情出去的心情。 その辺の繊細な事情を、ツィリルにわかるように説明するのは難しい。 要让齐里尔明白这方面的详细情况是很难的。 「ひどいよ……。おれを置いて、出て行くなんて」 「太过分了……你竟然丢下我出去。」 「うん、そうだね」 “嗯,是啊。” 否定はできない。けれど、この家の男手は、俺以外にもある。 不能否定。但是,这个家的男人,除了我以外也有。 今後のイェゼロ家がどうなるのかは、母の采配しだいだ。 今后的耶零家会变成什么样,取决于母亲的指挥。 ツィリルはポロポロと、涙を零していた。こんなに、子どもから好かれる事なんて、二度とないだろう。小さな体を、ぎゅっと抱きしめてやる。 齐里尔泪流满面。再也不会像这样被孩子喜欢了吧。紧紧地抱住小小的身体。 「イヴァン兄、おれも、連れて行って!」 “伊凡哥哥,把我也带走!” 「それはダメ」 “那可不行。” 山岳での養蜂だなんて、ツィリルには絶対に無理だ。養蜂家としても見習い未満なので、この家で修行が必要である。 在山岳养蜂,对齐里尔来说是绝对不可能的。作为养蜂家也没有见习,所以在这个家里修行是必要的。 ただ、気がかりなこともあった。 只是,也有担心的事情。 このままでは、ツィリルは俺と同じ道を辿ってしまうだろう。 这样下去的话,齐里尔会和我走上同一条路吧。 だから、その辺はきちんと忠告しておく。 所以,这一点要好好忠告。 「ツィリル、労働には、対価を要求できるんだ。家族だからといって、無償で働いていたら、自分の価値をどんどん下げることになる」 “齐里尔,劳动是可以要求付出代价的。虽说是家人,但如果无偿工作的话,就会不断降低自己的价值。” 「タイカ? ムショウ? カチ? よくわかんないよ」 “我不太清楚。” 「働いたら、ご褒美が貰えるのが普通ってこと。誰かに仕事を頼まれたら、何を貰えるのって、聞くんだ。もしも拒絶したら、しなくていい」 “工作的话,一般都会得到奖励。如果有人拜托我工作,我会问你能得到什么。如果拒绝的话,就不用做了。” 「うーん?」 “嗯?” 「たとえばだけれど、働いたら、飴を一つもらう。飴が貰えなかったら、仕事はしない。そういうこと。人はみんな、飴を貰えるから、仕事をしているんだ」 “比如说,如果工作的话,我会得到一块糖。如果没有糖,我就不工作。就是这样。因为人都能得到糖,所以我在工作。” 「あー、なるほど」 “啊,原来如此。” 菓子で喩えたら、少しは理解を示してくれた。先行きは不安ではあるが。 用点心来比喻的话,稍微表示了理解。虽然对未来感到不安。 「どの仕事が、飴玉一つになるのかも、考えるのも大事だからね」 “考虑一下哪个工作会变成一个糖果也很重要。” 「難しい話だな」 “好难啊。” ただ、ちょっとした手伝いでも報酬を要求したら、女性陣から顰蹙を買うだろう。その辺は、非常に難しいところだ。 只是,即使是一点帮忙也要求报酬的话,会被女性们瞧不起吧。那一带是非常难的地方。 家を出る前に、母に話しておいたほうがいいだろう。 出门前最好跟妈妈说一下。 「イヴァン兄が、その辺も教えてくれたらよかったのに」 “伊凡哥哥要是能告诉我这一点就好了。” 「そうだね。ごめん」 “是啊,对不起。” しょんぼりとするツィリルの手のひらに、あるものを握らせる。 在垂头丧气的齐里尔的手掌上,让他握住某个东西。 それは、ブレッド湖のほとりにある、小屋の鍵だ。 那是位于布莱德湖畔的小屋的钥匙。 「イヴァン兄、これ!」 “伊凡哥哥,这个!” 「一人で行ったら、ダメだからね。父さんか、兄さんと一緒に行くんだ」 “一个人去的话,不行啊。爸爸或者和哥哥一起去。” 「う、うん」 “嗯,嗯。” ツィリルには、五つ年上の兄がいる。十三歳なので、任せても大丈夫だろう。 齐里尔有一个比他大五岁的哥哥。十三岁了,交给他也没关系吧。 「おれが、もらってもいいの?」 “我可以拿吗?” 「ああ。その代わりに、ミハルのお祖父さんの、漁を手伝ってくれないか?」 “啊,你能帮米哈尔的爷爷捕鱼吗?” 腰が悪いのに、張り切って漁にでかけているのだ。たぶん、俺がいなくなったあとはミハルが渋々手伝うだろうが、ツィリルもいたらさらに助かるだろう。 明明腰不好,却干劲十足地出海捕鱼。大概,我不在了之后米哈尔会很勉强地帮忙,但是如果齐里尔也在的话会更好吧。 ツィリルは、コクリと頷いてくれた。 齐里尔点了点头。 「ねえ、イヴァン兄、ずっと、会えないわけじゃないよね?」 “喂,伊凡哥哥,你不是一直见不到他吗?” 「もちろん」 “当然。” 「よかった」 “太好了。” ここでようやく、ツィリルは安堵の表情を見せてくれた。 在这里,齐里尔终于露出了安心的表情。