養蜂家の青年は、決意を語る 养蜂青年诉说着自己的决心 「独立って、どこに行くつもりなのよ? 新しく養蜂を始めるの? だったら、養蜂園に新しく土地を開墾して、花畑を作ればいいわ。家だって、窮屈だったら、新しい離れを建ててあげるし」 “你打算独立自主地去哪里?重新开始养蜂吗?那就在养蜂园开垦新的土地,建造花圃吧。如果家里也很挤的话,我会给你建一个新的离开。” 俺の中に残っていた、母への情がスーッと冷え込んでいく。 我心中残留的对母亲的感情一下子变冷了。 もしも、日々の仕事を認め、土地を開墾し、花畑を作って、離れを与えてくれたら心から喜んでいただろう。家を出る決意はしなかったはずだ。 如果能认可每天的工作,开垦土地,建造花圃,给予离开的话,我会衷心高兴的。你应该没有决心离开家。 これまで母が俺に畑や家を与えなかったのは、家族にとって“都合がいい”からだ。 到现在为止母亲不给我田地和房子,是因为对家人来说“方便”。 現状、女性陣だけでは仕事は回らない。力仕事は、男手頼りとなる。 现状是,光靠女性阵容是无法完成工作的。体力活靠男人的双手。 もしも俺が自分の花畑を持ち、蜜蜂の世話で忙しくしていたら、手が足りなくなるのだ。 如果我有自己的花圃,忙着照顾蜜蜂的话,手就不够了。 だから、母は俺に花畑を与えなかった。 所以,妈妈没有给我花田。 家だって、俺がいたら、子どもの面倒を見る。だから、離れを与えなかったのだろう。 在家里,如果我在的话,也会照顾孩子。所以,没有给予离开吧。 家族にとって、俺は便利なだけの存在だったのだ。 对家人来说,我只是方便的存在。 今度は独立させたくないから、引き留めるために餌を与えた。そう捉えてもいいのだろう。 因为这次不想让它独立,所以给它喂食以挽留它。这样理解也可以吧。 「無理。もう、この家にはいられない。俺はこれから、自分の人生を生きるんだ」 “不行。我不能再待在这个家里了。我今后要活在自己的人生里。” 「どうして?」 “为什么?” 「だって、蜜蜂はここだけではなく、どこにだっているから」 “因为蜜蜂不仅在这里,而且到处都有。” 世界は広い。まだ、見たことのない景色が広がっているだろう。 世界是广阔的。还没有见过的景色在蔓延吧。 「イヴァン、あのね、世の中、甘いことばかりじゃないのよ!?」 “伊凡,那个,这个世界上,不都是甜蜜的事吗!?” 「わかっている。でも、ここにいたら、俺はダメになってしまうんだ」 “我知道。但是,如果在这里的话,我就不行了。” サシャにとっても、家族にとっても、俺がこの家を出て行くほうがいい。 无论是萨沙还是家人,我都最好离开这个家。 「母さん、きちんと家を管理していないと、害虫に犯された蜜蜂の巣穴のように、腐ってしまうからね」 “妈妈,如果不好好管理房子的话,就像被害虫侵犯的蜜蜂的巢穴一样,会腐烂的。” 害虫が何か、わからない母ではないだろう。顔色を青くさせた挙げ句、出て行ってしまった。 害虫是什么,不是不知道的母亲吧。脸色发青,结果出去了。 開かれた扉の向こうに、マクシミリニャンの姿が見えた。俺と、母が走って行った方向を交互に見ている。 在打开的门的对面,看到了马克西米利尼亚的身影。我和妈妈交替看着跑过去的方向。 「ねえ、おじさん」 “喂,叔叔。” 「どうした?」 “怎么了?” 「おじさんのところに、ついて行っても、いい?」 “我可以跟着叔叔去吗?” 「アニャと、結婚してくれるというのか?」 “你是说要和阿尼亚结婚吗?” 「うん、いいよ。アニャが、俺を気に入ったら、だけれど」 “嗯,好啊。如果阿尼亚喜欢我的话。” こんな怪我で顔がぐちゃぐちゃになった、顔面包帯だらけの男を気に入ってくれるとは思わないが。 我不认为你会喜欢一个脸上全是绷带的男人。 性格だって明るくないし、優しい言動を取ることもできない。これだけは性分なので、どうしようもないけれど。 性格也不开朗,也不能采取温柔的言行。因为只有这个是性格,所以没办法。 「アニャは、そなたを気に入るにきまっておる!」 “阿尼亚一定会喜欢你的!” マクシミリニャンはズンズンと接近し、手をぎゅっと握ってくれた。彼の手はごつごつしていて、手のひらの表皮は硬くて、働く男のものだった。 马克西米利尼亚和铁城接近,紧紧地握住了我的手。他的手硬邦邦的,手掌表皮坚硬,是一个干活的男人的。 そして、温かい。久々に触れた熱に、心がジンと震える。 而且,很温暖。久别重逢的热度,让我的心怦然心动。 「よくぞ、決意をしてくれた!」 “太好了,你下定决心了!” 今回の事件は、関係を清算するいい機会だったのかもしれない。 这次的事件,也许是清算关系的好机会。 もう、ロマナは人知れずサシャに殴られることはなくなった。 罗曼娜再也不会不为人知地被萨沙打了。 サシャだって、自らと俺を比べて苛立たないだろう。 萨沙也不会比自己和我着急吧。 「では、怪我が治ったところで、迎えにくるゆえに」 “那嚒,即使伤好了,也要来接我。” 「待って。一緒に行くから」 “等等,我跟你一起去。” 「しかし、怪我が治っておらぬだろう」 “但是,伤还没好吧。” 「痛いのは顔だけで、体は元気だから」 “痛的只有脸,身体很好。” 「そうか。ならば、明後日でよいか?」 “是吗?那么后天可以吗?” 「明日でいい」 “明天就可以了。” あまり、だらだら家にいるのもよくないだろう。 太懒散地呆在家里也不好吧。 街の人達にも挨拶したいけれど、この怪我では心配させてしまう。 虽然也想向街上的人们打招呼,但是这个伤让人担心。 ミハルにだけ会って話をして、あとの人達へは手紙を書けばいい。 只见到米哈尔说话,给后面的人写信就可以了。 数年後、ほとぼりが冷めたら、またこの地を訪ねたい。 几年后,当热浪冷却后,我还想再去拜访这个地方。 「何か、手伝うことはあるか?」 “有什么需要帮忙的吗?” 「大丈夫。そういえば、肉は売れた?」 “没关系。这么说来,肉卖出去了吗?” 「ああ、おかげさまで、そなたの名を出したら、色を付けて買い取ってくれたぞ」 “啊,托你的福,我把你的名字拿出来,就给我加上颜色买了。” 「だったら、よかった」 “那就好了。” 親切な市場の人々は、マクシミリニャンの身の上話を聞いて、婿候補の男性を何名か紹介してくれたらしい。 亲切的市场上的人们听了马克西米利尼亚的身世,好像介绍了几名候补女婿。 「しかし、話を聞いていると、山での暮らしに耐えうる者達だと思えず」 “但是,听了这话,我不认为他们是能忍受在山上生活的人。” 「まあ、街での暮らしに慣れた人を、いきなり山へ連れて行っても暮らしは成立しないだろうね。俺だって、そうかもしれない」 “嗯,就算把习惯了在街上生活的人突然带到山上,生活也不会成立吧。我也可能是这样。” 「そうであるが、そなたは、環境を受け入れ、生きる強さというものを感じていた」 “是的,但你感受到了接受环境、生存的坚强。” マクシミリニャンが気に入る婿は、いなかったようだ。けれど、どうしてもというのであれば、連れて帰るつもりだったらしい。 似乎没有女婿喜欢马克西米利尼亚。但是,如果无论如何都要的话,好像是打算带回去的。 だが、結婚してから「無理」と言われても困る。そのため、嘘偽りない山での暮らしを聞かせたようだ。すると、婿候補は顔を青ざめつつ次々と辞退していったらしい。 但是,结婚后被说“不行”也很为难。因此,他似乎让人们听到了他在毫不虚伪的山上的生活。于是,女婿候选人脸色苍白,一个接一个地辞职了。 「そういえば、どんな暮らしをしているか、聞いていなかった」 “这么说来,我没有问过你过着怎样的生活。” 「聞くか? もう、辞退はできぬのだが」 “听吗?我已经不能推辞了。” 「なんだよ、その決まりは」 “这是什么规定?” 「せっかく得た婿を、逃がすわけにはいかぬからな」 “好不容易得到的女婿,不能让他逃走。” 「逃げないよ」 「我不会逃跑的。」 まず、マクシミリニャンの自宅は山の高い位置にあるらしい。空気が薄く、慣れない者は具合が悪くなるのだとか。 首先,马克西米利尼亚的家好像在山的高处。空气稀薄,不习惯的人会不舒服。 「養蜂箱を設置しているのは、崖の遥か上である」 “设置养蜂箱的是悬崖的遥远的地方。” 「もしかして、登っているの?」 “难道是在爬吗?” マクシミリニャンは深々と頷いた。かなり、とんでもない場所で日々の暮らしをしているようだ。 马克西米利尼亚深深地点了点头。好像每天都在意想不到的地方生活。 「心配はいらぬ。我が家には、山羊がいるゆえに」 “不用担心,我家有山羊。” 「山羊?」 “山羊?” 山羊が、蜂蜜を採ってきてくれるのか? いいや、絶対違うだろう。 山羊会帮我采蜂蜜吗?不,绝对不是吧。 「山羊が、どうしてくれるの?」 “山羊会怎么做?” 「背中に乗せてくれる」 “放在我背上。” 「もしかして、山羊に乗って崖を登り、蜂蜜を得ているってこと?」 “难道是骑着山羊爬悬崖,得到蜂蜜?” 「その通り!」 “没错!” なんだそれは、と言いそうになったがごくんと呑み込んだ。 虽然想说那是什么,但还是吞下了。 場所が変われば、生活様式もガラリと変わる。彼らは山羊に跨がり、崖を登った先にある蜂蜜を採って暮らしていたのだろう。 如果换个地方,生活方式也会完全改变。他们骑着山羊,采着登上悬崖的蜂蜜生活着吧。 「しかし、山羊か……」 「可是,是山羊吗……」 「どうしたのだ?」 “怎么了?” 「いや、近所の農園に、山羊の世話の手伝いに行ったことがあったんだけれど」 “不,我去过附近的农场帮忙照顾山羊。” 月に一度、山羊の爪切りを行う。山羊を押さえるのを手伝ったら対価をくれるというので、喜んで参加したのだ。 每月剪一次山羊指甲。他说如果帮助压山羊的话会给我代价,所以我很高兴参加了。 当時の俺は、山羊の気性の荒さを理解していなかった。 当时的我不理解山羊脾气的粗暴。 角に突かれ、顔面を蹴られ、体当たりされた。満身創痍で得たのは、金ではなく新鮮な山羊のチーズだった。 被角戳到,面部被踢到,身体被击中。满身疮痍得到的不是钱而是新鲜的山羊奶酪。 以降、俺は山羊に近づいていない。 从那以后,我就不靠近山羊了。 「そんなわけで、あまり山羊が得意ではないというか、なんというか」 “正因为如此,山羊不太擅长,怎么说呢?” 「安心せい。山暮らしの山羊は、穏やかで優しい性格をしておる」 “放心吧。山里生活的山羊性格温和温柔。” 「本当かな」 「真的吗?」 「本当だ」 “真的。” マクシミリニャンは街で宿を取っているらしい。明日の昼頃、出発するのでそのときにまた会おうと言い、部屋から出て行った。 马克西米莉娜好像在街上留宿。因为明天中午要出发,所以说那个时候再见,然后从房间里出去了。 試しに起き上がってみたが、痛いのは顔だけで体は平気だ。 试着爬起来,痛的只是脸,身体没事。 痛み止めの薬を飲んで、立ち上がってみる。 吃了止痛药,试着站起来。 いまだ口の中は血の味だったが、そのうち治るだろう。 虽然嘴里还是血的味道,但不久就会好的吧。 そろそろ、ミハルが配達にやってくる時間だ。まず、こちらの事情を話しておかなくては。 快到米哈尔来送货的时间了。首先,必须先说一下这边的情况。 窓を開くと、ちょうどミハルが操縦する馬車が見えた。 打开窗户,正好看到了米哈尔驾驶的马车。 外に出て、ミハルを待つ。 出去等米哈尔。 包帯だらけの俺を見るなり、ミハルは「どちら様ですか?」と尋ねてくる。 看到满是绷带的我,米哈尔就会问“您是哪位?”。 「俺だよ、俺」 “是我,是我。” 「どちらの、俺さんでしょうか?」 “您是哪位,我?” 口を怪我しているので、声がいつもより籠もっているのだろう。怪訝な表情のまま、ミハルは固まっている。 因为嘴巴受伤了,所以声音比平时笼着吧。米哈尔保持着惊讶的表情,凝固了。 「俺だ、イヴァンだ」 “是我,伊凡。” 「ええっ、イヴァン!? どうしたんだ、その顔!?」 “咦,伊凡!?你怎么了,你的脸!?” 「サシャに殴られた」 “我被萨沙打了。” 「ああ、なるほどね」 “啊,原来如此。” その一言で、ミハルはすべてを察してくれたようだ。さすが、心の友である。 一句话,米哈尔似乎察觉到了一切。不愧是知心朋友。