養蜂家の青年は、山羊の世話を行う 养蜂青年照顾山羊 マクシミリニャンは俺の顔を見るなり、「待っておったぞ」と声をかける。 马克西米莉娜一看到我的脸,就说:“我在等你哦。”。 どうやら、アニャだけでなく、マクシミリニャンも話があるようだ。 看来,不仅仅是阿尼亚,马克西米利尼亚也有话要说。 隣に腰掛けたが、黙ったままだ。 虽然坐在旁边,但是一直沉默着。 「何しに来たの?」 “你来干什么?” 「謝罪を、しようと思い……。その、アニャはあの通り、結婚する気はなく……」 “我想道歉……。那个,阿尼亚就是那样,不想结婚……” 「ああ、そのこと」 “啊,那件事。” マクシミリニャンはこの先アニャを独り残していくことに、危惧を感じていた話は事前に聞いていた。 麦克西米利尼亚事先听说了关于今后独自留下阿尼亚的事,感到担心的话。 黙って連れてきていた件に関しては問題だが、そうでもしないとアニャが結婚を受け入れなかったのだろう。 关于默默带来的事情是个问题,如果不这样做的话,阿尼亚就不会接受结婚了吧。 「アニャは絶対に、そなたを気に入ると確信していた。だが、イヴァン殿には、事前に説明しておくべきだった」 “我确信阿尼亚一定会喜欢你的。但是,我应该事先向伊凡大人说明。” 「アニャにもね」 “阿尼亚也有。” 「う、うむ……」 “嗯,嗯……” マクシミリニャンは反省しているようだったので、これ以上責める気にはならない。 马克西米利尼亚似乎在反省,所以不想再责备他了。 「イヴァン殿、蕎麦の芽が生えなかったら、本当に、ここを出て行くつもりか?」 “伊凡大人,如果荞麦面没有发芽,你真的打算离开这里吗?” 「まあ、そういう約束だから」 “嗯,因为是这样的约定。” そう答えると、マクシミリニャンは途端に悲しげな表情になる。 这样回答的话,马克西米莉娜马上就会露出悲伤的表情。 「蕎麦の芽が生えなかったら、リブチェフ・ラズで仕事でも探すよ。それでたまに、アニャの顔を見に来るから」 “如果荞麦面没有发芽的话,我会在里布切夫·拉兹找工作。所以偶尔会来看阿尼亚的脸。” 「イヴァン殿、感謝する!!」 “伊凡大人,谢谢你!!” マクシミリニャンは俺を力強く抱擁した。体がミシッと悲鳴を上げたので、力いっぱい押し返して離れる。 马克西米莉娜有力地拥抱了我。因为身体发出了一声尖叫,所以用力推回去离开。 「それで、アニャは、どうだ?」 “那么,Ania怎么样?” 「どう、というと?」 “怎么说呢?” 「愛らしいとか、可愛らしいとか、愛いとか、何か、感想があるだろう?」 “可爱啦,可爱啦,可爱啦,有什么感想吗?” それ、全部同じような意味じゃん。なんていう指摘はさて措いて。 那个,全部都是一样的意思吧。这样的指摘暂且不提。 「明るくて元気な、いい娘(こ)だと思う」 「我觉得她是个开朗活泼的好姑娘。」 ただ、見た目は完全に十三から十四歳くらいの少女だけれど。その点は、目を瞑る。 只是,外表完全是十三到十四岁左右的少女。这一点是闭上眼睛。 「結婚相手として、申し分ない相手だよ」 “作为结婚对象,是无可挑剔的对象。” 「それはよかった。この先、我は安心して逝ける」 “那太好了。今后,我会安心逝世的。” 安堵したように呟くマクシミリニャンの背中を、励ますように叩いてあげた。 他像是在鼓励着嘟囔着安心的麦克西米利尼亚的背。 ◇◇◇ ◇◇◇ 朝――目覚める。まだ外はまっくらだが、そのうち太陽は昇るだろう。 早上——醒来。虽然外面还很黑,但不久太阳就会升起来吧。 服を着替え、ナイフと石鹸、歯ブラシ、ランタンを持って出る。 换衣服,拿着刀、肥皂、牙刷、灯笼出来。 外は風がごうごうと激しく吹いていた。真冬だと思うほど寒い。 外面风呼啸而过。冷得让人以为是隆冬。 たらいに湧き水を掬う。山の水は、キンとするほど冷たい。 往盆里舀泉水。山上的水很冷。 駆け足で下屋の勝手口から浴室に入る。洗面台にたらいに入った水を置き、鏡の横にランタンを設置した。 跑着从下屋的胜算进入浴室。把盆里的水放在洗脸台上,在镜子旁边设置了灯笼。 鏡を覗き込むと、顔のただれがなくなり、赤みも引いているのに気付く。顔がボコボコなのは相変わらずだが、痛みはずいぶんと薄くなっていた。 看着镜子,发现脸上的谁不见了,还拉着红色。虽然脸上还是老样子,但是疼痛已经变得很淡了。 本当に、蜂蜜は傷の治癒に効果があるようだ。驚いた、医者の薬より効くなんて。 真的,蜂蜜似乎有治愈伤口的效果。吓了一跳,竟然比医生的药有效。 台所のほうからも、物音が聞こえる。アニャが、朝食の準備をしているのだろうか。 从厨房也能听到声音。阿尼亚在准备早饭吗。 顔を洗って髭を剃り、歯を磨いたあと、台所の扉を開いた。 洗完脸刮了胡子,刷牙后,打开厨房的门。 「おはよう、イヴァン殿」 “早上好,伊凡大人。” 「うわっ!!」 “哇!!” にっこり微笑みながら挨拶をしたのは、フリフリのエプロンをかけたマクシミリニャンだった。 微笑着打招呼的是戴着弗里弗利围裙的马克西米利尼。 なぜここに? と思ったが、昨晩、アニャが「食事はお父様と代わる代わるしているの」と話していた。今日は、マクシミリニャンが朝食を準備する番なのだろう。 为什么在这里?昨天晚上,阿尼亚说:“吃饭是代替父亲的。”。今天轮到马克西米利尼亚准备早餐了吧。 それよりも、気になる点を尋ねてみた。 比起那个,我试着问了一下在意的地方。 「そのエプロン、何?」 “那个围裙是什么?” 「ああ、これか? 以前、リブチェフ・ラズの婦人会でアニャがもらってきたものなのだが、使わないというので、我が使用している」 “啊,是这个吗?这是以前在利布切夫·拉兹的妇女会上阿尼亚给我的东西,因为不使用,所以我在使用。” 「……」 「……」 アニャがかけたら、さぞかし可愛かっただろう。マクシミリニャンの筋骨隆々の体に、フリルたっぷりのエプロンをかけた姿は違和感としか感じない。 阿尼亚挂了,一定很可爱吧。在马克西米利尼亚筋骨隆隆的身体上,戴着满是褶边的围裙的样子只会让人感到不协调。 「何か、手伝うことはある?」 “有什么需要帮忙的吗?” 「もうすぐアニャが起きてくるから、家畜に餌を与えてくれ」 “阿尼亚马上就要起床了,你给牲口喂食吧。” 「了解」 “确定” 母屋のほうに行くと、アニャがやってきた。 我往开间走,阿尼亚来了。 「イヴァン、おはよう」 “伊凡,早上好。” 「おはよう、アニャ」 “早上好,阿尼亚。” アニャはずんずんと接近し、俺の顔を覗き込んだ。 阿尼亚紧紧地靠近,窥视着我的脸。 「うん。昨日よりはいいわね」 “嗯,比昨天好。” 「おかげさまで」 “托您的福。” 「どういたしまして。今日は、軟膏を塗ってあげるわ」 “不客气,今天我给你涂软膏。” 「ありがとう」 “谢谢。” 「それにしても、早いわね。どうしたの?」 “即便如此,也太早了。怎么了?” 「家畜の餌をやるっていうから、手伝おうと思って。俺、お手伝いしたがりさんだから」 “因为说要喂家畜,所以想帮忙。我是想帮忙的人。” アニャが「安静に!」と言う前に、先制攻撃をしておく。すると、アニャは眉尻を下げながらも、噴きだし笑いをしてしまう。 在阿尼亚说“安静!”之前,先进行先发制人的攻击。于是,阿尼亚一边低着眉头,一边笑起来。 「わかったわ。こっちに来て」 “好的,过来。” まずは物置に、飼料を取りに行く。アニャはランタンを持たずとも、薄暗い中をずんずん進んでいた。 首先去仓库拿饲料。阿尼亚即使没有灯笼,也在昏暗中不停地前进。 「春は、小麦と外皮を中心に、細麦を与えるのよ。毎日放牧もしているのだけれど、餌を与えていなかったら、山の木々が丸裸になってしまうから」 “春天,以小麦和外皮为中心,喂细麦。虽然每天都放牧,但是如果没有喂食的话,山上的树木就会变得光秃秃的。” 「なるほどね」 “原来如此。” まずは、乳用の山羊から。小屋の中には、子山羊がいて、高い声で「めえめえ」と鳴いていた。 首先,从乳用的山羊开始。小屋里,有一只小山羊,高声叫着“哇”。 ここにいる山羊は、よく知る白い毛並みの山羊である。 这里的山羊是众所周知的白色毛山羊。 「子山羊はもうすぐ草や葉を食べられるようになるから、その辺りからお乳を搾るの」 “小山羊马上就可以吃草和叶子了,所以要从那附近挤奶。” アニャは説明しながらも、山羊にテキパキと餌を与えていた。 阿尼亚一边解释,一边给山羊喂食龙舌兰酒。 知り合いの山羊は、我先にと暴れるようにして餌を食べていたが、ここの山羊たちはのんびりしている。怖いという印象は、薄くなっていった。 认识的山羊争先恐后地狂暴地吃着食物,这里的山羊们却很悠闲。恐怖的印象越来越淡薄了。 「餌を食べている間に、掃除をするわよ。イヴァンは、水を汲んできて」 “吃东西的时候会打扫的。伊凡去打水。” 「はいはい」 “好的好的。” 山羊は地面に落ちた餌は食べないくらい、綺麗好きらしい。山羊の飼育でもっとも重要なのは、過ごしやすいよう清潔な環境を作ってやることなんだとか。 山羊喜欢干净到不吃掉在地上的食物。在山羊的饲养中最重要的是,为了方便生活而创造干净的环境。 小屋に敷いてある藁ごと、糞などを回収する。これらは、肥料にするようだ。 把铺在小屋里的稻草、粪便等回收。这些好像是肥料。 「山羊の糞はコロコロしていて、他の家畜に比べて手入れがしやすいのよ」 “山羊的粪便是咕噜咕噜的,比其他家畜容易保养。” 「確かに」 “确实。” 牛や豚の糞は水分を含んでいて、臭いも酷い。山羊の糞も臭いけれど、牛や豚に比べたらマシだ。 牛和猪的粪便含有水分,臭味也很严重。山羊的屎也很臭,但是和牛和猪相比就好了。 小屋に水を流し、しばし乾燥させる。 在小屋里冲水,暂时干燥。 山羊は、食事を終えたあとは山に放つらしい。日が暮れる前に、自主的に戻ってくるようだ。 山羊吃完饭好像会放在山上。天黑之前,好像会主动回来。 続いて、肉用の山羊の小屋を掃除する。 接着,打扫肉用的山羊小屋。 「あ、こっちの山羊は、耳が垂れているんだ」 “啊,这边的山羊耳朵耷拉着。” 毛並みは茶色やブチ、褐色など、さまざまな色合いがある。繁殖させて、リブチェフ・ラズに売りに行っているらしい。 头发有茶色、棕色、褐色等各种颜色。让它繁殖,好像是去卖给里布切夫·拉兹。 隣の小屋にいるのは、カシミア山羊とアンゴラ山羊である。共に、毛の採取を目的とした山羊だ。 旁边小屋里的是开司米山羊和安哥拉山羊。都是以采集毛发为目的的山羊。 カシミアの毛は真っ直ぐで、どこかおっとりした顔つきをしている。 开司米的毛很直,有一种大方的样子。 アンゴラの毛はちぢれていて、目元も毛で覆われていた。 安哥拉的毛卷曲着,眼睛也被毛覆盖着。 共に、この辺りでは見かけない品種である。昨日、マクシミリニャンが皇家より贈られたと話していた。 都是这附近看不到的品种。昨天,他说马克西米莉娜是皇家赠送的。 最後は昨日見かけて驚いた、騎乗用の山羊である。 最后是昨天看到的令人吃惊的骑乘用山羊。 近くで見ると、よりいっそう迫力があった。 在附近看,更有魄力。 一頭は白く、もう一頭は黒い。 一头是白色的,另一头是黑色的。 「これ、本当に大きいね」 “这个真大啊。” 「大角山羊っていう山羊なの。この辺りに、生息しているわ。崖を駆け上るのが得意で、どこまでも登ってくれるのよ」 “这是一只叫做大角山羊的山羊。栖息在这附近。擅长攀登悬崖,无论到哪里都能攀登。” 「そうなんだ」 “是啊。” 通常は騎乗できるような種類ではないものの、マクシミリニャンが独自に伝わる調教で、騎乗できるように躾けたものらしい。 虽然通常不是可以骑乘的种类,但据说是麦克西米利尼独自传达的调教,为了能骑乘而进行了训练。 「白い子が、クリーロ、黒い子が、センツァ。奥にいる灰色の赤ちゃんが、メーチェよ」 “白色的孩子是克里洛,黑色的孩子是森察。里面的灰色婴儿是梅切。” 「翼(クリーロ)に、影(センツァ)に、剣(メーチェ)、ね」 「翼、影、剑……」 メーチェはこの春、生まれたばかりらしい。赤ちゃんだというが、乳用山羊の成獣と同じくらいの大きさである。ここからさらに、大きくなるのだろう。 梅切今年春天好像刚出生。虽说是婴儿,但和乳用山羊的成兽差不多大。从这里开始会变得更大吧。 山羊の世話が終わったころには、太陽が地平線から顔を覗かせていた。 在山羊的照料结束的时候,太阳从地平线上露出了脸。 一日が、始まろうとしている。 一天即将开始。