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養蜂家の青年は、夜闇を走る!

养蜂家的青年,夜晚跑!

大変な事態となった。

事态严重啦。

大雨の中、アニャは外に出て、蕎麦の種を植えた畑にシーツを被せにいくという。

据说在大雨中,阿尼亚走出去,给种了荞麦种子的田地盖上床单。

滝のような雨である。もう、蕎麦の種なんて土から出てどこかに流されているだろう。

像瀑布一样的雨。荞麦面的种子已经从土里出来被冲走了吧。

「アニャ、こんな大雨の中に出ていったら、風邪を引いてしまう。止めるんだ」

“阿尼亚,在这样的大雨中出去的话,会感冒的,要停下来。”

「いやよ!!」

“不!!”

「どうして、そこまでするんだ?」

“为什么要这么做?”

「イヴァンと、結婚したいからよ!!」

“因为我想和伊凡结婚!!”

「ええ~……」

“嗯……”

結婚のために、ここまで蕎麦の種を気にしてくれるなんて。

为了结婚,竟然会在意荞麦面的种子。

アニャはすさまじい形相で、睨んでいる。とても、俺と結婚したい女性には見えない。

阿尼亚面目狰狞地瞪着。看起来不像是想和我结婚的女性。

「どいて、イヴァン!」

“让开,伊凡!”

「もう、アニャと結婚するから、外に行くのはやめなよ」

“我要和阿尼亚结婚了,你不要出去了。”

「いや!」

“不!”

「ちょっと待って。今度はどうしていやなの?」

“等一下。这次为什么不喜欢呢?”

「私は、蕎麦の芽が出たのを確認したあとで、イヴァンと結婚したいの! でないと、私のわがままで、無理に結婚させたみたいになるでしょう?」

“我在确认荞麦面发芽之后,想和伊凡结婚!不然,因为我的任性,会变得勉强让他结婚吧?”

「アニャ……」

“阿尼亚……”

アニャの瞳から、涙がぽろぽろと流れている。

从阿尼亚的眼睛里,眼泪滴滴答答地流着。

俺たちの結婚問題は、思っていた以上に深刻なものであった。

我们的结婚问题比想象的还要严重。

蕎麦の芽が出ないと、結婚させてもらえないらしい。

荞麦面不发芽的话,好像不能让我结婚。

「今からだったら、間に合うかもしれないわ。お願い、イヴァン、どいて」

“如果是现在开始的话,也许来得及。拜托,伊凡,让开。”

「わかった」

「明白了。」

一歩、一歩とアニャに接近し、手を差し出す。

一步一步地接近阿尼亚,伸出手来。

「な、何よ」

“什嚒?”

「アニャ、シーツ、貸して。俺が、やってくるから」

“阿尼亚,借我床单,我会来的。”

「そんな……! これは、私がやらなければならないことなのに」

“这……!这明明是我必须做的事情。”

「蕎麦の芽が云々と言いだしたのは、俺のほうだから」

“因为荞麦的芽是我说出来的。”

「で、でも、風邪を引いてしまう、わ」

“但是,我感冒了。”

「アニャは蜜薬師だから、風邪を引いても治してくれるでしょう?」

“阿尼亚是蜜药师,感冒了也能治好吧?”

そう言ったら、アニャは俺の手にシーツを預けてくれた。

这样说着,阿尼亚把床单寄存在了我的手里。

「ねえ、無理そうだったら、すぐに戻ってきて」

“喂,如果不行的话,马上回来。”

「わかった」

「明白了。」

「それから――」

“然后——”

「アニャ、早く行かないと、蕎麦の種が雨で流されちゃう」

“阿尼亚,不早点去的话,荞麦面的种子会被雨冲走的。”

「そ、そうね」

“是啊。”

手にはランタンを持ち、もう片方にはシーツを持つ。アニャが扉を開いてくれた。

手里拿着灯笼,另一边拿着床单。阿尼亚打开了门。

ドーーーーッと、激しい音を鳴らしながら雨が降っている。こんなに勢いのある雨は、初めてだ。

哇,一边发出激烈的声音一边下雨。这么有气势的雨,还是第一次。

「ね、ねえ、イヴァン。やっぱり、止めましょう」

“喂,喂,伊凡。还是停止吧。”

「いいや、止めない。アニャと植えた蕎麦の種は、守るから」

“不,不停。我会保护和阿尼亚种的荞麦种子。”

アニャの言葉を待たずに、外へ飛び出した。

没等阿尼亚的话,就跑出去了。

石つぶてのような雨が、全身を打つ。痛がっている暇はない。一目散に、畑を目指さなければいけないだろう。

像石头一样的雨,打了全身。我没有时间痛。必须一溜烟地以田地为目标吧。

ちなみに、雨に打たれたランタンは一瞬で消えた。

顺便说一下,被雨打的灯笼一瞬间就消失了。

こうなったら、勘で畑まで行くしかない。

这样的话,只能凭直觉去田地了。

幸い、夜に歩き回るのは慣れている。こういう、土砂降りの中で行動するのは初めてだけれど。

幸运的是,我习惯了晚上到处走动。在这样的倾盆大雨中行动还是第一次。

暗闇の中、順調に畑に到着するわけがなく、五回以上転ぶ。ドロドロの、びしょびしょだ。全身打ち身と擦り傷だらけの気がした。そんな状況でも、雨は容赦なく俺の体を打ち付けるように降っている。

黑暗中,不可能顺利到达田地,跌倒五次以上。粘糊糊的,湿透了。我感觉全身都是打伤和擦伤。即使在这种情况下,雨也毫不留情地打在我身上。

体が痛い。けれど、それ以上に心が痛かった。

身体痛。但是,比这更让我心痛。

アニャの涙が、頭から離れない。

阿尼亚的眼泪从脑海中挥之不去。

こうなったら、蕎麦の種には頑張ってもらわなければならないだろう。

这样的话,荞麦面的种子就必须努力了吧。

でないと、誰も救われない。

不然谁也救不了。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

“哈,哈,哈,哈。”

真っ暗な中で、だんだんと目が慣れてきた。

在黑暗中,眼睛渐渐习惯了。

離れの背後にある段差を登っていき、やっとのことで畑へと到着した。

登上了离开背后的台阶,终于到达了田地。

蕎麦の種を植えたのは、畑の端っこだ。

种了荞麦种子的是田地的角落。

もう、どんな状況かわからないけれど、とにかく、雨で種が流されないようにシーツを被せなければ。

虽然已经不知道是什么情况了,但总之,为了不让种子被雨冲走,必须盖上床单。

シーツが飛ばないようにするには、大きな石が必要である。

为了不让床单飞,需要一块大石头。

たしか、畑の周囲を囲む石があったはずだ。手探りで探す。

确实,应该有围绕田地周围的石头。摸索着找。

八個くらい、止めていればいいだろうか。

停八个左右就好了吗。

蕎麦の種が植えられているであろう範囲に、シーツを被せる。が、風が強くて、上手く広がらない。

在种植荞麦种子的范围内盖上床单。但是,风很大,不能很好地传播。

石を置いて、シーツを留めて回るしかないようだ。

好像只能放下石头,把床单留着转。

一つ目の石を置いたあと、突風が吹く。

放了第一块石头之后,刮起了暴风。

「うわっ!!」

“哇!!”

シーツは捲れ、どこかへ飛んでいってしまった。

床单卷起来,飞到什么地方去了。

「嘘でしょう……?」

“是骗人的吧……?”

この暗闇の中、シーツを探すのは困難だろう。ここまでやってきたのに、目的を達成できないなんて。

在这黑暗中寻找床单很困难吧。你都做到这个地步了,竟然达不到目的。

俺の人生は、本当についていない。そう思っていたが――。

我的人生真的不走运。我是这么想的——。

「イヴァン殿~~~~!!」

“伊凡大人~~~~!!”

「イヴァン~~~~!!」

“伊凡~~~~!!”

マクシミリニャンとアニャの声が聞こえた。

我听到了马克西米莉娜和阿尼亚的声音。

振り返ると、シーツを握りしめるマクシミリニャンの姿があった。

回头一看,看到了握着床单的马克西米莉娜的身影。

何やらどでかいランタンを持っていて、畑を明るく照らしてくれる。

有一个很大的灯笼,照亮了田地。

「シーツが飛んできたから、驚いたぞ」

“床单飞过来了,吓了我一跳。”

「おじさん……!」

“叔叔……!”

結局、アニャはいてもたってもいられず、マクシミリニャンを呼びに行ったようだ。

结果,阿尼亚坐立不安,好像去叫马克西米利尼亚了。

「話はあとよ! 畑にシーツを覆いましょう」

“先不说了!我们把床单盖在地里吧。”

「わかった」

「明白了。」

三人で力を合わせて、畑にシーツを広げる。端に石を載せて、飛ばないようにした。

三个人齐心协力,在田地里铺上床单。在边上放上石头,不让它飞。

「これでいいな」

“这样就好了。”

「ええ」

“是的。”

「早く帰ろう」

“快点回去吧。”

どでかいランタンで、道が明るく照らされる。

巨大的灯笼,道路被照亮了。

行きと同じ道なのに、ずいぶんと歩きやすい。

虽然是和去的路一样的路,但是很容易走。

苦を共にしてくれるアニャとマクシミリニャンの背中を見ていたら、瞼がじわりと熱くなる。

看着和我一起痛苦的阿尼亚和马克西米利尼亚的背,眼睑渐渐变热了。

少しだけ涙が出てしまったけれど、雨が流してくれた。

虽然流了一点眼泪,但是下雨了。

◇◇◇

◇◇◇

コーケコッコー!!

可可豆!!

鶏の鳴き声で目覚める。カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでいた。

被鸡叫声吵醒。阳光从窗帘的缝隙中射进来。

雨は、止んだようだ。

雨好像停了。

昨晩は、マクシミリニャンが用意してくれた風呂に入り、アニャに傷の治療をしてもらったあと、母屋で泥のように眠った。

昨天晚上,我洗了马克西米利尼亚准备的澡,让阿尼亚治疗伤口后,在开间睡得像泥一样。

全身が、痛い。雨の中、転びまくったせいだろう。

全身都痛。大概是因为在雨中摔倒的缘故吧。

せっかく顔の傷が治りつつあったのに、新しい傷を作ってしまった。

好不容易脸上的伤治好了,却造成了新的伤。

むくりと起き上がる。

突然站起来。

寝間着はマクシミリニャンのものなので、ぶかぶかだ。離れに戻って、着替える。

睡衣是马克西米利尼亚的,所以很臃肿。回去换衣服。

顔を洗い、髭を剃り、歯を磨き終えたところで、外からアニャの声が聞こえた。

洗完脸、刮胡子、刷牙后,外面传来了阿尼亚的声音。

「イヴァン、イヴァン~~!!」

“伊凡,伊凡~!!”

「ここにいるよ」

“我在这里。”

勝手口から顔を覗かせると、アニャが走ってやってくる。

从胜算中露出脸,阿尼亚跑过来。

「蕎麦を、見に行きましょう」

“去看荞麦面吧。”

「うん、そうだね」

“嗯,是啊。”

正直、期待はしていない。だって、あの土砂降りだったし。

老实说,我没有期待。因为是那场倾盆大雨。

アニャと二人、無言で畑を目指す。

和阿尼亚两个人无言地以田地为目标。

石垣を登った先にある畑は――水浸しだった。

登上石墙前面的田地——被水淹了。

「信じられない……」

“真不敢相信……”

みんなで被せたシーツは捲れ上がり、畑の畦道の上でぐちゃぐちゃになっていた。

大家盖的床单卷起来,在田埂上乱糟糟的。

当然、蕎麦の種を植えた辺りも、水没している。あの大雨だ。こうなるのも、仕方がないだろう。

当然,种了荞麦种子的地方也被水淹没了。就是那场大雨。这样也没办法吧。

畑に溜まった水が、青空を映しだしている。

田里积存的水映出了蓝天。

蕎麦の種の件がなければ、素直に美しいと思っただろう。

如果没有荞麦面的种子的话,会坦率地觉得很美吧。

今は、ひたすら雨水が憎らしい。

现在,一味地讨厌雨水。

自然は残酷だ。どんなに頑張っても、抗うことなんてできないのだ。

大自然是残酷的。无论怎么努力,也不能反抗。

アニャは畑の前に立ち、動こうとしない。

阿尼亚站在田地前,不肯动。

「アニャ、帰ろう」

“阿尼亚,我们回去吧。”

そう声をかけたのに、アニャは畦道のほうへと駆け出す。

虽然这样打了招呼,但是阿尼亚却向田埂跑去。

「アニャ?」

“阿尼亚?”

何か見つけたのか。アニャのあとを追いかける。

你找到什么了吗。追赶阿尼亚。

アニャは、シーツの前にしゃがみ込んでいた。

阿尼亚蹲在床单前。

「どうしたの?」

“怎么了?”

アニャは振り返り、大粒の涙を零していた。

阿尼亚回头看了看,流下了大颗的眼泪。

「イヴァン、これっ――」

“伊凡,这个——”

しゃがみ込んで、アニャが指差すものを見た。

蹲下,看到阿尼亚指着的东西。

それは、シーツの隙間から生える、蕎麦の芽だった。小さいけれど、しっかり発芽している。

那是从床单的缝隙中长出来的荞麦的芽。虽然很小,但是发芽很好。

「蕎麦の、芽、だ」

“荞麦面的芽”

「そうよ。一つだけ、芽が、出ていたの!」

“是啊。只有一个,发芽了!”

信じられない。あの状況の中で、蕎麦が生きていたなんて。

真不敢相信。在那种情况下,荞麦面竟然还活着。

昨晩の思い切った行動は、無駄ではなかったのだ。

昨晚果断的行动并不是徒劳的。

「よかった~~~~!!」

“太好了~~~!!”

そう言って、さらに涙を流すアニャを、ぎゅっと抱きしめる。

这样说着,紧紧地抱住流着眼泪的阿尼亚。

幼子をあやすように、背中を優しく撫でた。

像哄幼子一样,温柔地抚摸着背。

この国には、蕎麦にまつわる古い言葉がある。

这个国家有关于荞麦面的古老语言。

“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”

“在新的地方播种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里就是你的住处”

蕎麦の芽は、出た。

荞麦的芽出来了。

ここが、俺の居場所なのだ。

这里就是我的住处。



毎日更新にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

谢谢你每天陪我更新。

一部、完です。

一部分,完成。

以降は、不定期更新でお届けする予定です。

以后,预定不定期更新送交。

二部より始まります、アニャとの新婚生活編を、どうぞよろしくお願いいたします。

从二部开始,请多多关照和阿尼亚的新婚生活篇。

そして、長らく受け付け停止をしておりました感想欄も、本日より解放しております。

而且,长期停止受理的感想栏也从今天开始解放。

何かご感想がありましたら、お聞かせいただけたら幸いです。

如果有什么感想的话,能告诉我就太好了。

それでは、引き続き『養蜂家と蜜薬師の花嫁』を、よろしくお願いします。

那么,请继续关照《养蜂家和蜜药师的新娘》。