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養蜂家の青年は、家族と友と別れる
养蜂青年与家人和朋友分别
手紙を書き終えたあとは、横になった途端泥のように眠る。一日に大量の文字を書くことなどないので、疲れてしまったのだろう。
写完信后,刚躺下就睡得像泥一样。因为一天没有写大量的文字,所以累了吧。
目が覚めると、カーテンの隙間からこれでもかと太陽光が差し込んでいた。
醒来后,阳光从窗帘的缝隙中照进来。
母の部屋は、日当たり良好である。
母亲的房间日照良好。
太陽が差し込まない、過ごしやすい部屋は兄達が使っているのだろう。その辺は、母の優しさなのだろうか。
没有阳光照射,舒适的房间是哥哥们使用的吧。那一带是母亲的温柔吗。
包帯を取り、部屋にあった鏡を覗き込んでみる。
取下绷带,窥视房间里的镜子。
想像以上に、顔はボコボコだった。頬も瞼も額も、内出血で青くなっている。
比想象中还要丰满。脸颊、眼睑、额头都因内出血而变蓝。
唇も切っていたのか、腫れていた。これで、骨が折れていないのだから、自分の体はかなり頑丈なのだろう。山羊や牛のミルクを毎日飲んでいるからだろうか。その辺は、よくわからない。
嘴唇也剪了,肿了。这样一来,骨头就没有折断,自己的身体相当结实吧。是因为每天喝山羊和牛的牛奶吗。这一点我不太清楚。
しかし、酷い見た目だ。しばらく、包帯が手放せないだろう。
但是看起来很过分。暂时不能放开绷带吧。
ため息を一つ零し、鏡を伏せる。自分で自分のことが気の毒になってきたので、鏡は見ないようにしよう。
叹了一口气,把镜子扣下。自己开始觉得自己可怜了,就不要照镜子了。
ボコボコになった顔についてはさて措いて。昨日書いた手紙を、封する前に確認する。
关于变得肉麻的脸,请不要说。昨天写的信,在封之前确认。
一通り読んだが、まあ、問題ないだろう。
看了一遍,不过没问题吧。
この辺りには学校はなく、文字の読み書きや計算は父に習った。
这附近没有学校,向父亲学习了文字的读写和计算。
父は大学を卒業している、学のある人だったのだ。卒業後は教師になる予定だったが、旅行先で出会った母に一目ぼれし、そのままイェゼロ家に婿入りする形となった。
父亲是大学毕业的,有学问的人。毕业后原计划成为教师,但对在旅行地遇到的母亲一见钟情,就这样入赘了耶零家。
教師の仕事を蹴って、愛を取ったというわけである。それほどに、情熱的なものだったらしい。酔っ払った父が、よく話していた。ずっと、後悔しているとも。
也就是说,他放弃了教师的工作,获得了爱情。好像是那么热情的东西。喝醉了的父亲经常说话。一直都很后悔。
なんでも父はもとより、教師をしながら母を養う予定だった。だが、母はイェゼロ家の一人娘で、養蜂園の跡取り娘でもあったのだ。母も両親や養蜂園を見捨てて結婚なんてできないと別れを切り出すものだから、父は思いきった行動にでてしまったようだ。
父亲自不必说,就连母亲也打算边教书边抚养。但是,母亲是耶泽罗家的独生女,也是养蜂园的继承女儿。母亲也抛弃了父母和养蜂园,说不能结婚就提出分手,所以父亲好像采取了果断的行动。
晩年の父は、街の子ども達に文字や計算を教えるのが夢だと語っていた。
晚年的父亲说,教街上的孩子们文字和计算是他的梦想。
けれど街の者にとっては、幼い子どもでも働き手として数えている。学校に通う時間なんてないと、一蹴されていた。
但是对于街上的人来说,即使是年幼的孩子也算是劳动者。因为没有上学的时间,所以被拒绝了。
自らの学力を養蜂に活かす手段がわからず、父はずっと苦悩していたのかもしれない。
不知道把自己的学习能力用在养蜂上的手段,父亲可能一直很苦恼。
酒に溺れ、最期は母と口論となり、家を出た。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまう。
沉溺于酒,最后和母亲发生口角,离开了家。然后就这样变成了不回去的人。
時間があったら、父の墓前にも挨拶に行こう。
有时间的话,也去父亲的墓前打招呼吧。
父が文字の読み取りを教えてくれたおかげで、俺は養蜂家の父であるアントン・ヤンシャに出会えた。感謝しても、し尽くせない。
多亏了父亲教我读文字,我遇到了养蜂家的父亲安东·扬沙。即使感谢,也做不完。
朝食は母が持ってきてくれた。蕎麦粉入りのパンにバターを載せ上から蜂蜜を垂らしたものと、大きなソーセージがぷかぷか浮かんだ“ヨータ”と呼ばれるスープ。それから、山盛りの野いちごがあった。母なりの、愛を込めた最後の食事なのかもしれない。
早餐是妈妈给我带的。在加入荞麦粉的面包上放上黄油,从上面滴下蜂蜜的东西和漂浮着大香肠的被称为“约塔”的汤。然后,有一个盛得满满的野草莓。也许这是母亲的最后一顿饱含爱意的饭。
盆の上に置かれていたのは、朝食だけではなかった。革袋に入った何かが、置かれている。手に取ると、ずっしり重い。カチャカチャという、金属音も聞こえた。
放在盂兰盆节上的不仅仅是早餐。皮袋里放着什么东西。拿在手里,沉甸甸的。也听到了咔嚓咔嚓的金属声音。
「母さん、これ何?」
“妈妈,这是什么?”
「あなたに、渡していなかった給料よ」
“我没给你的工资。”
「ああ、そういうことね」
“啊,就是这么回事。”
母は突然、頭を下げた。何事かと思い、ギョッとする。
母亲突然低下了头。以为是什么事,吓了一跳。
「え、何?」
“啊,什么事?”
「ごめんなさい。毎月、給料を渡していなかったなんて、知らなかったの」
“对不起,我不知道你每个月都没有给我发工资。”
イェゼロ家の金銭の管理は、一番上の兄アランの嫁ダナがしていたらしい。
艺零家的金钱管理,好像是最大的哥哥阿兰的妻子达娜做的。
アランから俺の給料を酒代に回せと命じられ、渡していなかったようだ。
阿兰命令我把我的工资转到酒钱上,好像没有交。
「イヴァン、どうして、何も言わなかったのよ」
“伊凡,你怎么什么都没说?”
「いやだって、他の人が賃金をもらっていたとか、知らなかったし」
“就算不愿意,我也不知道别人拿了工资。”
皆、各々の花畑で採れた蜂蜜を売って、稼いでいると思い込んでいたのだ。まさか、月収制だったなんて、知る機会なんてなかったし。
大家都以为是卖了在各个花圃里采摘的蜂蜜赚钱的。没想到是月收入制,没有机会知道。
母は深い深いため息をつき、もう一度謝ってくる。
母亲深深地叹了一口气,再一次道歉。
「時間はかかるかもしれないけれど、お金は返すから」
“可能要花很长时间,但我会还你钱的。”
「だったら、そのお金を、今いる子ども達への学費にしてあげて」
“那嚒,把那笔钱作为给现在的孩子们的学费。”
「学費?」
“学费?”
「そう。文字の読み書きや計算は、取り引きをする上でも役立つから」
“是的。文字的读写和计算,在交易中也很有用。”
「学なんて、養蜂家には役に立たないわよ」
“学什么的,对养蜂人没用。”
「立つよ。俺は、養蜂の本を読んで、病気対策もしてきたし」
“站起来。我读了养蜂的书,也做了治病的对策。”
アントン・ヤンシャの本を読んで、新たに得た養蜂の知識は山のようにある。日々続けることで得る感覚も大事だが、勉強して得るものも大事なのだ。
读了安东·扬沙的书,新获得的养蜂知识如山。每天坚持下去得到的感觉也很重要,但是学习得到的东西也很重要。
「兄さん達が、文字の読み書きや、計算ができるはずだから、先生になってもらって。教えた分だけ、報酬を払ってほしい。身内とはいえ、労働をしたら、対価を与えてほしいんだ。兄さん達だけじゃない。子ども達にも」
“哥哥们应该会文字的读写和计算,所以请他们成为老师。希望他们能根据教的部分支付报酬。虽说是自己人,但如果劳动的话,希望能给予报酬。不仅仅是哥哥们,孩子们也要。”
「え、ええ。そうね。わかったわ」
“啊,是啊,我知道了。”
理解してもらえて、ホッと胸をなで下ろす。これで、ツィリルや他の甥や姪達がタダ働きを強いられることはないだろう。
得到理解,松了一口气。这样的话,齐丽尔和其他侄子和侄女们就不会被强迫免费工作了吧。
母が出て行ったあと、食事を取る。
妈妈出去之后,吃饭。
こんな風にのんびり過ごす朝は、初めてだった。
像这样悠闲度过的早晨,还是第一次。
◇◇◇
◇◇◇
出発の時間を迎える。見送りは母とツィリル、それからミハルだけ。
迎来出发时间。送行的只有母亲和齐丽尔,还有米哈尔。
ひとまず、ミハルに手紙を託す。
暂且把信托付给米哈尔。
「これ、みんなにお願い」
“这个,拜托大家了。”
「ああ、任せておけ」
「啊,交给我吧。」
まだ、ミハルが元気を取り戻していない。昨日の今日なので、無理もないが。ツィリルのほうが、いつも通りだ。母は目を真っ赤にさせていた。
米哈尔还没有恢复精神。因为是昨天的今天,所以也不勉强。齐里尔和往常一样。妈妈眼睛通红。
マクシミリニャンがやってくる。何か買い付けをしたのか、大きな荷物を抱えていた。
马克西米利尼亚来了。不知是不是买了什么东西,抱着很大的行李。
「さあ、イヴァン殿、行こうか」
「来吧,伊凡大人,我们走吧。」
「うん」
“嗯。”
あまり話し込むと、寂しくなってしまう。だから、別れは手短に。
说得太多的话,会变得寂寞。所以,分手要简短。
「ミハル、落ち着いたら、手紙を書くよ」
“米哈尔,等你冷静下来,我给你写信。”
「ああ」
“啊。”
背中をポンと叩いたら、「力が強い!」と抗議されてしまった。その様子は、いつものミハルなのでホッとする。
我拍了拍后背,结果被抗议说“力量很大!”。那个样子,因为是平时的米哈尔所以松了一口气。
ツィリルは目を輝かせながら、胸に飛び込んでくる。まだ小さなその体を、ぎゅっと抱きしめた。
齐里尔眼睛闪闪发光,扑向心头。紧紧地抱住那还很小的身体。
離れると、ツィリルは手に握っていた革袋を差し出してきた。
离开后,齐里尔拿出手里的皮袋。
「これ、イヴァン兄にあげてって、父ちゃんが」
“这是给伊凡哥哥的,爸爸。”
「兄さんが?」
“哥哥?”
革袋の中身は、蕎麦の種だった。去年採っていた種を、そのままくれたようだ。
皮袋里是荞麦面的种子。去年采摘的种子好像就那样给了我。
「父ちゃんがね、古い言葉に“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”っていうのがあるって、言っていたんだ。だから、居場所に迷ったら、この蕎麦の種を、蒔いてね」
“爸爸说,有句古话叫‘在新的地方种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里就是你的住处’。所以,如果你迷路了,就种荞麦种子吧。”
「ありがとう」
“谢谢。”
蕎麦の種を受け取り、鞄の中に入れる。
收到荞麦面的种子,放进包里。
ツィリルの父親ミロシュは他の兄と比べて比較的俺に優しかったが、特別扱いすると兄弟から反感を買うので表だって何もできなかったのだろう。
齐里尔的父亲米洛什和其他哥哥相比对我比较温柔,但是特别对待的话会引起兄弟的反感,所以表面上什么都做不了吧。
ツィリルの頭を撫でながら、感謝の気持ちをこっそり伝えておくように頼んでおく。
一边抚摸着齐里尔的头,一边拜托他悄悄地传达感谢的心情。
「ツィリル、元気で」
“齐丽尔,保重。”
「イヴァン兄も!」
“伊凡哥哥也是!”
母はカゴに入った弁当を差し出してくれた。
妈妈递给我放在篮子里的便当。
「お腹が空いたら、マクシミリニャンさんと一緒にお食べなさい」
“肚子饿了的话,请和马克西米利尼一起吃。”
「ありがとう」
“谢谢。”
ただ、それだけの言葉を交わしただけなのに、母はポロポロと涙を零した。
只是说了这么多话,母亲却流下了眼泪。
「何があっても、あなたの家は、ここだから」
“不管发生什么,你的家就在这里。”
「うん」
“嗯。”
これは決別ではなく、旅立ちだ。だから、いつでもこの家に帰ってこられるのだ。
这不是诀别,而是启程。所以,你随时都可以回到这个家。
「行ってきます」
“我走了。”
手を振って、踵を返す。
挥手,转身。
ブレッド湖を背に、新しい一歩を踏み出した。
背靠布莱德湖,迈出了新的一步。
前を歩くのは、筋骨隆々の強面のおじさん。
走在前面的是肌肉发达的强面大叔。
はたして、彼の娘はどんな見た目で、どんな性格をしているのか。まったく想像がつかない。愛らしい娘だとマクシミリニャンは主張しているが、親の欲目の可能性が大であった。
到底,他的女儿是什么样的外表,什么样的性格呢。简直无法想象。虽然马克西米利尼亚认为这是一个可爱的女儿,但父母贪得无厌的可能性很大。
果たして、マクシミリニャンの娘アニャは、顔面ボコボコの包帯男との結婚を受け入れるのか。
真的,马克西米利尼亚的女儿阿尼亚会接受和满脸皱纹的绷带男结婚吗。
なんだか楽しみになってきた。
总觉得很期待。