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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘に出会う

养蜂家的青年遇到了蜜药师的女儿

山を登るのに杖を渡されたが、これはただの杖ではなかった。

登山时被交给了拐杖,但这不仅仅是一根拐杖。

荷棒(にんぼう)と呼ばれ、ひと休みをするときに背負子の下に入れて荷物を支えるのだという。つまり、座らずに立ったまま休憩するようだ。

据说他被称为“荷棒”,在休息的时候把行李放在背上支撑行李。也就是说,不坐就站着休息。

「背負子を下ろしたら、再び持ち上げるのが困難なときがある。よって、なるべく短い休憩時間のときは、下ろさないようにするのだ」

“有时背下来后,再抬起来会很困难。因此,尽量在休息时间短的时候,不要放下。”

「なるほど」

“原来如此。”

背負子の荷物はズッシリと重たく、疲れた状態ならば背負って立ち上がる行為が困難な状況になるのかもしれない。

背孩子的行李很重,如果处于疲劳的状态,背着站起来的行为可能会变得困难。

山で暮らす者達の知恵なのだろう。

这是在山上生活的人们的智慧吧。

若葉萌ゆる木々の間を、縫うように進んでいく。

在嫩叶萌萌的树木之间,像缝一样前进。

一時間ほどなだらかな坂道だったが、だんだんと険しくなっていく。

虽然是一个小时左右平缓的坡道,但渐渐变得险峻。

全身汗をかくと、途端に傷が痒くなる。汗が染みこんで気持ち悪いので、包帯を取った。

全身出汗的话,伤口马上就会痒。因为汗浸透了很恶心,所以取了绷带。

「イヴァン殿、大丈夫か?」

“伊凡大人,没事吧?”

正直に言うと、大丈夫ではない。

说实话,没关系。

言葉に出さなかったが、伝わってしまったのだろう。マクシミリニャンはこちらへズンズンやってきて、俺の背負子の荷物を下ろしてくれた。

虽然没有用语言表达,但还是传达了吧。马克西米利尼亚来到这里,把我背上的行李拿下来。

「しばし休もう」

“暂时休息吧。”

木々が生い茂り、獣しか通らないような道である。休憩するような場所ではない。

这是一条树木繁茂,只有野兽才能通过的道路。不是休息的地方。

しかしながら、膝の力が抜けてその場に頽(くずお)れる。

但是,膝盖无力,当场就垮啦。

すぐにマクシミリニャンが体を支え、何か口に押し込んできた。

很快,马克西米利尼亚支撑着身体,把什嚒东西塞进嘴里。

甘い――すぐに、蜂蜜のキャラメルであることに気付く。

甜——马上就发现是蜂蜜的奶糖。

「それを、舌の上でゆっくりとかし、呑み込むのだ」

「把它放在舌头上慢慢地吞下。」

疲れた体に、染み入るような甘さである。続けて、マクシミリニャンは鞄からカップと水、それから蜂蜜の瓶を取り出し、水に溶いたものを飲むようにと差し出してきた。

这是渗透到疲惫的身体里的甜味。接着,马克西米利尼亚从包里拿出杯子和水,然后拿出蜂蜜的瓶子,就像喝了溶解在水里的东西一样。

不思議と、辛い気分が薄くなったような気がした。

不可思议的是,我感觉痛苦的心情变淡了。

「山で疲労を感じたときは、これが一番だとアニャが言っていた」

“在山上感到疲劳的时候,阿尼亚说这是最好的。”

「そう、なんだ」

“是,是什么?”

「どうだ?」

“怎么样?”

「うん、だいぶいい」

“嗯,相当好。”

怪我が完全に治っていないのに、無理矢理家を出たからだろう。あまりの計画性のなさに、がっくりとうな垂れてしまう。

大概是因为伤还没完全治好,就强行离开了家吧。因为没有太多的计划性,所以垂头丧气。

「怪我の治療は、アニャに任せよう」

“受伤的治疗就交给阿尼亚吧。”

「医者からもらった薬があるんだけれど」

“我有医生给我的药。”

「皮膚が酷くただれておるぞ。これは、痛かっただろう。おそらく、薬が合っていないのではないか?」

“皮肤很烂。这个很痛吧。恐怕药不合适吧?”

そういえば、ミハルが「街の医者はヤブだ」なんて言っていたのを思い出す。

这么说来,我想起了米哈尔说过“街上的医生是雅伯”。

生まれてこの方、ド健康だったので医者にかかることはなかったのだ。

出生以来这个人很健康,所以没有去看医生。

「なんで、ただれたんだろう。今まで、薬を飲むような病気にかかったことがなかったから、相性が悪かったのかな」

“为什么会糜烂呢?以前没有得过吃药之类的病,是不是不投缘呢?”

傷口をかかないほうがいいというが、ついついバリバリと爪で引っ掻いてしまう。その瞬間、痛みに襲われるのだ。

虽然说最好不要抱伤口,但不知不觉就用指甲挠了一下。那一瞬间,被疼痛袭击了。

なんだろうか、この、痒みを訴える傷をかくと痛いという現象は。人体の謎である。

不知是什么原因,这种挠痒痒的伤口就会痛的现象。这是人体之谜。

「暇を見つけて、リブチェフ・ラズの医者にかかったほうがいいのかな?」

“找个时间,去看利布切夫·拉兹的医生比较好吗?”

「リブチェフ・ラズには、医者はおらぬ」

“里布切夫·拉兹没有医生。”

「え、そうなの!? このまま治りが遅かったら、どうしよう」

“啊,是吗!?如果就这样治晚了,怎么办?”

「安心せい。アニャは、“蜜薬師(みつくすし)”である」

“放心吧。Ania是‘蜜药师’。”

「蜜薬師?」

“蜜药师?”

初めて聞く言葉だったので、思わず聞き返してしまう。

因为是第一次听到的话,所以不由得反问了。

蜜薬師――それは、豊富な蜂蜜の知識を持ち、蜂蜜を薬のように処方する存在だという。

蜜药师——据说他拥有丰富的蜂蜜知识,是将蜂蜜如药般处方的存在。

「蜂蜜は、万能薬とも言われておる。症状ごとに蜂蜜を選び、体調をよい方向へと導いてくれるのだ」

“蜂蜜也被称为万能药。每个症状都会选择蜂蜜,引导身体走向好的方向。”

「へえ」

「咦?」

もみの木の蜂蜜は、イライラと不眠症緩和に。

枞树蜂蜜可以缓解烦躁和失眠。

タイムの蜂蜜は、咳止めに。

时间的蜂蜜可以止咳。

リンゴの蜂蜜は、便秘の解消に。

苹果蜂蜜可以消除便秘。

一言に蜂蜜といっても、種類ごとにさまざまな効果があるようだ。

一言以蔽之,蜂蜜的种类也有各种各样的效果。

「イヴァン殿は、毎日蜂蜜を食べていたから、今まで健康だったのだろう」

“伊凡大人每天都吃蜂蜜,所以至今为止都很健康吧。”

「そう、なのかな?」

“是吗?”

「自信を持て」

“要有自信。”

言われてみれば、同じように蜂蜜を食べている家族も、滅多に風邪を引いたり、腹を壊したりしない。蜂蜜の効果だったのだろうか。

说起来,同样吃蜂蜜的家庭也很少感冒,也不会闹肚子。是蜂蜜的效果吗。

「リブチェフ・ラズの村人も具合が悪くなれば、アニャを尋ねてやってくる」

“里布切夫·拉兹的村民如果身体不舒服,也会来找阿尼亚。”

「八時間かけて?」

“花了八个小时?”

マクシミリニャンはコクリと頷いた。

马克西米利尼亚点了点头。

患者本人でなくても、家族が相談にやってくる場合もあるらしい。

即使不是患者本人,家人也会来咨询。

「ブレッド湖まで馬車で飛ばしたら二時間なのに、わざわざ八時間かけてやってくるんだ」

“坐马车飞到布莱德湖的话只有两个小时,特意花了八个小时来。”

「ここの者達は、それだけ蜜薬師を信頼しているのだ」

“这里的人们就这么信赖蜜药师。”

「なるほど」

“原来如此。”

ヤブ医者にかかるよりは、蜜薬師を頼ったほうがいいというわけか。

与其去看雅布医生,还不如依靠蜜药师好吗。

「どれ、水で、顔を洗おうか」

“喂,用水洗脸吧。”

「え、いいよ」

“啊,好啊。”

「しかし、肌に合わない薬を塗った状態では、余計に傷が悪くなるだろう」

“但是,在涂了不适合皮肤的药的状态下,伤口会变得更差吧。”

まずは、肌に合わない薬を水で流したほうがいいと言われた。

首先,被告知最好用水冲掉不适合皮肤的药。

マクシミリニャンは容赦なく、頭の上から水をかけてくれた。おかげで、上半身までびしょびしょだ。

马克西米利尼亚毫不留情地从头顶上给我浇水。托您的福,上半身都湿透了。

しかし、汗をかいていたので、ついでだと思って着替える。

但是,因为出汗了,所以以为是顺便换衣服。

さっぱりしたところで、登山を再開した。

在清爽的地方重新开始登山了。

サラサラと、水のせせらぎが聞こえる。山には大きな川があり、生活水として使っているらしい。

沙沙作响,能听到水的潺潺流水。山上有一条大河,好像是作为生活水使用的。

美しい川だが、感動なんてしている場合ではなかった。

虽然是一条美丽的河,但不是感动的时候。

川を沿うように上がっていくと、だんだん岩場になっていく。そこを、昇っていくのだ。

沿着河往上走,渐渐变成了岩场。从那里升起。

着替えたのに、すぐに汗だくになる。

换了衣服,马上就汗流浃背。

かと思えば、滝のある場所はキンとした冷気が漂っていた。汗が一気に引いて、ガクブルと震えてしまう。

原以为是这样,瀑布所在的地方弥漫着凉爽的冷气。汗一下子退了,咯咯地发抖。

街で買った外套では、寒さなんて耐えきれない。

在街上买的大衣,冷得受不了。

「これを、着られよ」

「穿上这个吧。」

マクシミリニャンが肩にかけてくれたのは、光沢のある毛糸の外套だ。

马克西米利尼亚给我披在肩上的是一件有光泽的毛线外套。

「これは?」

“这是?”

「我が家で飼育している山羊から作った、カシミアの外套である」

“这是我家饲养的山羊做的卡西米亚大衣。”

異国産の山羊を皇家から贈られ、代々大切に育てているのだという。

据说皇家赠送了异国产的山羊,世世代代精心培育。

「カシミアって、確か高級品だと言われていたような」

“据说卡西米亚确实是高级品。”

「そうだな。その外套は売れ残りだから、気にせずに着ておくとよい」

“是啊,那件外套卖不出去,你别介意,穿上就好了。”

お言葉に甘えて、少しの間借りておく。先ほどまで全身鳥肌が立っていたが、カシミアの外套は冷たい風を通さず、動く度に体が温まるような気がする。

恭敬不如从命,借一点时间。刚才全身起鸡皮疙瘩,开司米的外套不透冷风,每次一动都觉得身体暖和。

やはり、動物の毛はあたたかいのだ。

果然,动物的毛是温暖的。

それから、針葉樹林の木々の間を通り抜け、崖のような角度の斜面を登り、ゴツゴツした岩場を這うように登っていく。

然后,穿过针叶树林的树木之间,爬上悬崖般角度的斜坡,爬上凹凸不平的岩石场。

太陽が傾きかけるような時間帯に、ようやくマクシミリニャンの家に到着した。

在太阳快要倾斜的时间段,终于到达了马克西米利尼亚的家。

「ここが、家?」

“这里是家?”

「ああ、そうだ」

“啊,对了。”

山を切り開き、人が住めるよう更地にしていた。

把山切开,为了让人居住而改成了空地。

大きな平屋建ての母屋と、下屋、それから離れが二つほどある。その背後にあるのは、山羊小屋か。他、炭焼き小屋や納屋、石窯に畑や、花壇、果樹などもあるようだ。驚くべきことに、ガラス張りの温室まであった。その向こう側にあるのは、湧き水だろうか。澄んだ透明の水が、サラサラと流れている。

有两个大的平房的主屋和下屋,还有两个距离。背后的是山羊小屋吗。另外,烧炭小屋、谷仓、石窑里还有田地、花坛、果树等。令人吃惊的是,甚至还有镶着玻璃的温室。在那对面的是泉水吗。清澈透明的水潺潺流淌着。

家の背後にある斜面は、土砂崩れが起きないよう石垣で固めている。思っていた以上に、しっかりした造りの家である。

房子背后的斜坡,为了不发生泥石流,用石墙加固。这是一座比想象中还要坚固的房子。

「我は普段、離れで暮らしておる。イヴァン殿は、アニャと母屋で暮らすとよい」

“我平时都是分开生活的。伊凡大人最好和阿尼亚住在正房里。”

「いやいや、普通、逆でしょう」

“不,不,一般都是相反的吧。”

家長であるマクシミリニャンを差し置いて母屋に住むなんて。俺が離れに住んで、母屋に親子が住めばいいのではないか。そう思ったが、事情があるらしい。

竟然把家长马克西米莉娜丢下住在正房里。我分开住,父母和孩子住在母屋不就好了吗。虽然这么想,但好像有情况。

「娘に世話をかけるわけにはいかないからな。十五の春には一人前だったゆえ、話し合って、我は離れに、アニャは母屋に住むことになったのだ。食事は当番制にして、日替わりで作っておった」

“因为我不能让女儿照顾我。十五岁那年春天我已经是独当一面的人了,所以商量之后,我就离开了,安妮娅就住在正房里。吃饭是值班制,每天轮流做的。”

「なるほど」

“原来如此。”

ここでは、親の世話は子がするもの、という概念はないようだ。

在这里,似乎没有父母的照顾是孩子做的概念。

「ところで、アニャは?」

“话说,阿尼亚呢?”

「ふむ。いつもならば、帰ってきたのと同時に出迎えるのだがな。アニャ、アニャー!」

“嗯。如果是平常的话,在回来的同时迎接。阿尼亚,阿尼亚!”

「はーい」

“嗯。”

石垣のあるほうから、元気な返事が聞こえた。

从有石墙的人那里听到了精神饱满的回答。

夕日を背に、大きな何かが接近してくる。

背着夕阳,有什么大的东西接近了。

逆光になり、姿がよく見えない。

逆光,看不清身影。

けれど、彼女が何かに騎乗してやってきたことはわかった。

但是,我知道她是骑着什么来的。

「クリーロ、止まって!」

“克里洛,停下!”

「うわっ!!」

“哇!!”

急停止による砂埃を浴びながら、はっきりとその姿を確認する。

一边沐浴着突然停止的沙尘,一边清楚地确认其身影。

まず、目に飛び込んできたのは、大きな山羊である。これが、マクシミリニャンが言っていた騎乗用の山羊なのか。

首先,映入眼帘的是一只大山羊。这就是麦克西米利尼亚所说的骑乘用山羊吗。

ロバよりも大きく、美しい純白の毛並みに、見事な二本の角が生えていた。

比驴子还大,美丽的纯白的毛色,长着漂亮的两根角。

そして、その大山羊に跨がるのは――金髪碧眼の美少女だった。

然后,跨过大山羊的是——金发碧眼的美少女。