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養蜂家の青年は、腰帯について思いを馳せる

养蜂家的青年回忆起腰带

今日も今日とて、巣枠作りに追われる。流蜜期に向けて、そこそこ忙しい日々を送っていた。

今天也和今天一样,忙于做巢框。面向流蜜期,过着相当忙碌的日子。

その脇で、アニャは裁縫を始めるようだ。俺の腰帯を作るために、張り切っている。

在那旁边,阿尼亚好像开始缝纫了。为了做我的腰带,我很紧张。

布は、冬に作ったリネンを使うらしい。まさか、布まで作っていたとは。

布好像是用冬天做的亚麻布。没想到连布都做了。

生地に施す刺繍は、初夏に刈った山羊の毛糸を使う。鮮やかな色は、草木染めにしたものらしい。

布料上的刺绣使用初夏剪下的山羊毛线。鲜艳的颜色好像是草木染的。

「どんな模様にしようかしら」

“要什么样的图案呢?”

「なんだか、楽しそう」

“总觉得很开心。”

「楽しいわ。だって、お父様以外の腰帯を作るのは、初めてですもの!」

“好开心啊。因为这是我第一次做爸爸以外的腰带!”

満面の笑みで答えるアニャは、死ぬほど可愛い。天真爛漫という言葉が、擬人化したような存在だとしみじみ思う。

阿尼亚满脸笑容地回答,可爱得要死。我深切地感受到天真烂漫这个词是拟人化的存在。

「どうしたの? にこにこして」

“怎么了?笑眯眯的。”

「いや、アニャが可愛いと思ったから」

“不,我觉得阿尼亚很可爱。”

「か、可愛い? 私が?」

“啊,可爱吗?我?”

「可愛い、可愛い」

“可爱,可爱”

感じたいい気持ちは、どんどん伝えたほうがいい。人生において感じた可愛いは、惜しまないようにしている。

感受到的好心情,最好不断地传达。在人生中感受到的可爱,是毫不吝惜的。

相変わらず、アニャは「可愛い」と言うと、顔を真っ赤にして盛大に照れてくれる。

依旧,阿尼亚说“可爱”的话,脸就会变得通红,盛大地害羞。

これが、重ねて可愛いのだ。

这是重叠的可爱。

可愛いは、可愛いを呼ぶ。知らない人が多いけれど、いちいち教えてあげるほど親切ではない。

可爱是呼唤可爱。虽然不认识的人很多,但并不像一一告诉你那样亲切。

特にこの、アニャの可愛いは独り占めしたい。だって、彼女は俺だけの花嫁だから。

特别想独占这个阿尼亚的可爱。因为她是我唯一的新娘。

頬に手を当ててにこにこしつつ照れていたアニャだが、ふと何かを思いだしたのか真顔になる。

手贴在脸颊上笑嘻嘻地害羞的阿尼亚,突然想起了什么,露出了真面目。

「ええ、イヴァン。もしかして、ロマナさんにも可愛いって言っていたの?」

“是的,伊凡。难道你对罗曼娜也说她很可爱吗?”

「なんで、ロマナが出てくるの?」

“为什么罗曼娜会出来?”

「だって、軽率に可愛いとか言ってくるし!」

“因为,会轻率地说可爱!”

「前にも言ったけれど、血の繋がった身内以外で、可愛いと思っているのはアニャだけだよ」

“之前也说过,除了有血缘关系的亲人以外,觉得可爱的只有阿尼亚。”

「そ、そう?」

“是吗?”

一回、ポロッとロマナの名を口にしてからというもの、アニャはしきりに気にしてくる。

自从一次说出波罗和罗曼娜的名字后,阿尼亚就一直很在意。

ロマナが俺のことを好きだったという話は一切していない。それなのに、ロマナと比べてどうかと聞きたがる。

罗曼娜完全没有说喜欢我。尽管如此,我还是想问你和罗曼娜相比怎么样。

女の勘なのだろうか。鋭すぎる。

是女人的直觉吗。太尖锐了。

アニャの機嫌はすぐに直り、鼻歌を歌いつつ山羊の毛糸を選び始める。

阿尼亚的情绪很快就会好转,一边哼着歌一边开始选择山羊的毛线。

「イヴァンの髪色は銀色だから、濃い色がいいわよね」

“伊凡的发色是银色的,所以深色比较好。”

「アニャ、これ、銀じゃなくて、濁った灰色」

“阿尼亚,这不是银,而是浑浊的灰色。”

毛先が自由にはね広がった髪は、麦わらを燃やしたときにできる灰色に似ているとミハルに言われたことがある。くすんだ、曇天のような色合いなのだ。

美哈尔曾告诉我,发梢自由伸展的头发,很像燃烧草帽时形成的灰色。暗淡的,像阴天一样的颜色。

最近、アニャ特製の蜂蜜石鹸で洗っているからか、コシと艶が増した気がするけれど、銀色にはほど遠い。

最近,也许是因为用阿尼亚特制的蜂蜜肥皂洗的缘故,感觉筋道和光泽增加了,但离银色还很远。

「あら、知らないのね。太陽の光に当たるイヴァンの髪色は、銀色に輝いているのよ」

「哎呀,你不知道吗?阳光照射下的伊凡的发色是银色的。」

「そうなんだ。外でそういう風に見えているなんて、知らなかった」

“是啊,我不知道在外面看起来是这样的。”

「自分じゃ確認しようがないものね」

“我自己无法确认。”

「まあ、うん」

“嗯,嗯。”

アニャは濃い緑色の毛糸を手に取り、こちらへ向けて右目を眇める。

阿尼亚拿起深绿色的毛线,朝着这边仔细地看右眼。

「うん、この色がいいわ」

“嗯,这个颜色很好。”

ハンターグリーンという、狩猟服によく用いられる緑らしい。

据说是猎人绿色,是狩猎服中经常使用的绿色。

「ホーソンという木の葉っぱを使って色づけしたものなの。ホーソンは動物性の繊維だったら、こんなふうに濃くて鮮やかな色がでるのよ」

“这是用一种叫霍森的树叶染上的颜色。如果霍森是动物性纤维的话,就会有这么浓又鲜艳的颜色。”

「へえ、素材によって、出る色が違うんだ。面白そう」

“啊,根据素材的不同,出现的颜色也不同。看起来很有趣。”

「そうなの。なかなかはまるわよ、草木染めは」

“是的,草木染很适合你。”

「今度、やってみようかな」

“下次试试看吧。”

「だったら、一緒にやりましょう」

“那嚒,我们一起做吧。”

「楽しみにしている」

“我很期待。”

ここでの暮らしは仕事が山のようにある。けれど、楽しみも山のようにあるのだ。

在这里的生活工作堆积如山。但是,乐趣也像山一样。

ひとつひとつの作業が新鮮で、面白い。

每一项工作都很新鲜,很有趣。

草木染めも、どういうふうに染めるのか楽しみだ。

草木染也很期待怎么染。

「腰周りを、採寸するわね」

“腰周围要量度。”

「どうぞ、ご自由に」

“请随便。”

巣枠を組み立てているので、勝手にしてくださいという姿勢でいる。

因为正在组装巢框,所以姿势是请随便做。

アニャは背後から接近し、ぎゅっと抱きついてきた。

阿尼亚从背后靠近,紧紧地抱住了他。

彼女のやわらかな体が、背中にぐぐっと押しつけられる。

她柔软的身体被紧紧地压在背上。

「ちょっ、アニャ!」

“喂,阿尼亚!”

「イヴァン、動かないで」

“伊凡,别动。”

背後から抱きつくように採寸されるなんて、想像もしていなかった。いろいろと心臓に悪い。

没想到会被人从背后抱住。各种各样对心脏不好。

アニャはすぐに離れる。ホッとするのと同時に、どこか惜しく思う気持ちもった。

阿尼亚马上离开。在放松的同时,也有一种很可惜的心情。

「イヴァン、あなた、けっこう着痩せするのね。思っていた以上に、ガッシリしていたわ」

“伊凡,你穿得很瘦啊。比我想象的还要瘦。”

「もっとガリガリだと思っていた?」

“你以为会更厉害吗?”

「まあ、正直に言えば。でも、骨と皮だけだったから、もっと太ったほうがいいわ。」

“好吧,说实话。不过,毕竟只是骨头和皮,还是胖一点比较好。”

「ここで暮らしていたら、きっと一年後にはムクムクになっていると思う」

“如果在这里生活的话,我想一年后一定会变成木槿花。”

「ムクムクになりなさい」

「请变成木槿花。」

アニャが腕によりをかけて、おいしい料理を作ってくれるという。ありがたすぎて、涙が出そうになった。

据说阿尼亚会用手臂给我们做好吃的菜。太感谢了,眼泪都快流出来了。

「さてと――」

“那么——”

アニャは白墨チョークを手に取り、生地にさらさらと下絵を描いていく。いったい何の模様を作ってくれるのか。

阿尼亚拿起白墨粉笔,在布料上哗啦哗啦地画着底稿。你到底要给我做什么花样。

五分後、アニャは下絵を見せてくれた。

五分钟后,阿尼亚给我看了一幅画稿。

「イヴァン、見て。蔦模様にしようと思うの」

“伊凡,快看。我想把它做成爬山虎的样子。”

アニャの描く蔦は、葉や小さな花が付いており、精緻な模様になりそうだ。

阿尼亚画的爬山虎有叶子和小花,看起来很精致。

ここで、ふと気づく。

在这里,突然注意到。

「あ――」

“啊——”

よからぬことが喉までせり上がってきたが、慌てて口を塞いだ。

不好的事情涌上了喉咙,慌忙堵住了嘴。

「え、何?」

“啊,什么事?”

「な、なんでもない」

“什嚒都没有。”

「なんでもなくはないでしょうよ。言いなさい」

“也不是什么都不是吧,说吧。”

「本当に、何でもない」

“真的,没什么。”

アニャは素早く眼前にやってきて、キッと鋭い目を向ける。

阿尼亚迅速来到眼前,瞪着锐利的眼睛。

「イヴァン、言いなさい」

「伊凡,你说啊。」

「はい」

“是的。”

渋々と、言おうとしていたことをアニャに告げた。

不情愿地告诉了阿尼亚想说的话。

「ロマナが作った腰帯も、蔦模様だったんだ」

“罗曼娜做的腰带也是爬山虎图案。”

「具体的に、どんな模様だったの?」

“具体是什么样的花纹?”

「なんか、帯に巻きついているような」

“好像缠在带子上了。”

白墨を手渡されたので、布地の切れ端に模様を描く。

因为交给了白墨,所以在布料的碎片上画上花纹。

すると、アニャはハッとなった。

于是,阿尼亚变成了哈。

「イヴァン、それは蔦じゃなくて、蔓よ」

“伊凡,那不是爬山虎,是藤蔓。”

「蔓と蔦って、どう違うんだっけ?」

“藤蔓和爬山虎有什么不同呢?”

「蔓は植物の茎が伸びたものの総称で、いろんなものに巻きついて成長するの。蔦は、地面に根を張ってどこまでも伝って伸びていく植物よ」

“藤蔓是植物的茎长出来的东西的总称,缠绕在各种各样的东西上成长。爬山虎是在地面上扎根,一直延伸到任何地方的植物。”

「あー、なるほど。蔓と蔦を混同していたかも」

“啊,原来如此。可能是把藤蔓和爬山虎混淆了。”

「ロマナさんが刺したのは、蔓日々草ね」

“罗曼娜刺的是蔓日日草。”

「へえ、そうなんだ」

「咦?是的。」

「花言葉は、“楽しき思い出”、“幼なじみ”。幸福と繁栄を願う言い伝えもあるわ」

“花语是‘快乐的回忆’、‘青梅竹马’。也有祈祷幸福和繁荣的传说。”

あの腰帯に、そんな思いが詰まっていたなんてしらなかった。

我不知道那个腰带里充满了这样的想法。

「それとは別に、“束縛”や“縁結び”の意味合いもあるんだけれど」

“除此之外,还有‘束缚’和‘姻缘’的意思。”

「ん? なんか言った?」

“嗯?你说什么?”

「いいえ、なんでも」

“不,什么都可以。”

蔓のイメージは、家族という大樹に絡まり離れられなくなっていたかつての自分のようだと思った。

我觉得蔓的形象就像是被家人这棵大树缠住而无法离开的过去的自己。

「アニャが刺そうとしていた蔦は、どういう意味があったの?」

“阿尼亚想要刺的爬山虎是什么意思?”

「“結婚”よ。もうひとつは、秘密」

“结婚啊,还有一个秘密。”

「なんか気になるんだけれど」

“我有点在意。”

「今度、気が向いたら教えるわ。それよりも、腰帯の完成を楽しみにしていて」

“下次如果你愿意的话,我会告诉你的。比起那个,我更期待腰带的完成。”

「わかった」

「明白了。」

周囲に関係なく、どんどん伸びていく蔦。

与周围无关,不断延伸的爬山虎。

今の俺に相応しい、腰帯が完成しそうだ。

适合现在的我,腰带好像要完成了。