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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘が作った夕食を食べる

养蜂家的青年,吃蜜药师的女儿做的晚饭

風呂から上がり、用意されていた綿の布で体を拭く。

洗完澡后,用准备好的棉布擦身体。

服を着て、浴室から出るとアニャが立ちはだかるようにいた。

穿着衣服,从浴室出来,阿尼亚挡住了。

「大人しく、しゃがみ込みなさい」

“老实点,蹲下。”

「え、何?」

“啊,什么事?”

「髪、濡れているでしょうが」

“头发湿了吧。”

アニャの手には、布が握られていた。髪の水分をきちんと拭ってから、母屋に戻るように言いたいのだろう。

阿尼亚的手里握着一块布。大概是想让他把头发的水分擦干净后,再回到主屋吧。

しゃがみ込み、布を受け取ろうとしたが、アニャは思いがけない行動に出る。なんと、俺の髪をわしわしと拭い始めたのだ。まるで、洗った犬を拭いてやる飼い主の如く。

蹲下,想要拿布,但是阿尼亚却做出了意想不到的行动。我的头发竟然开始哗啦哗啦地擦了。简直就像是擦着洗过的狗的主人一样。

容赦なく、拭いてくれた。

毫不留情地给我擦了。

「自分で、できるんだけれど……」

“我自己能做到……”

「自分でできる人が、髪から水滴をポタポタ垂らしてやってくるわけないでしょうが」

“自己能做到的人,不可能从头发上滴滴答答地滴水来吧。”

「その通りで」

“没错。”

「でしょう? よく水分を拭っておかないと、風邪を引くのよ」

“是吧?如果不好好擦干水分,会感冒的。”

台所では、いい匂いが漂っていた。鍋がぐつぐつ煮立つ音も聞こえる。

厨房里弥漫着好闻的味道。也能听到锅咕嘟咕嘟地煮的声音。

途端に、腹がぐーっと鳴ってしまった。

就在这时,肚子一下子就响了。

「あなた、お腹が空いているの?」

“你肚子饿了吗?”

「まあ、それなりに」

“嗯,就那样。”

「準備するから、母屋で待ってて」

“我准备好了,在主房等我。”

手伝うことはないかと尋ねたが、患者がする仕事はないと言い切られてしまう。

我问他有没有帮忙,但他说没有患者做的工作。

完全に、患者扱いである。

完全是患者处理。

どうやら、マクシミリニャンはアニャに結婚についての話をしていないようだった。いまだ、アニャは俺を患者だと思っている。

看来,马克西米利尼亚并没有告诉阿尼亚关于结婚的事情。到现在为止,阿尼亚认为我是患者。

「あの――」

“那个——”

「まだいたの? いいから、いい子で待っていなさい」

“你还在吗?不用了,还是乖乖等着吧。”

「いい子って……、そういう年じゃないんだけれど」

“好孩子……虽然不是这个年纪。”

「言い訳はしない」

“我不会找借口。”

背中をぐいぐい押され、台所から追い出されてしまった。やはり、彼女は消えてなくなりそうな外見に反し、力が強い。

我的背被用力推了一下,被赶出了厨房。果然,她与快要消失的外表相反,力量很强。

そんなことはさて措いて。

那种事暂且不谈。

母屋にマクシミリニャンがいると思っていたが、誰もいない。窓を開いて外を覗き込むと、離れに灯りが点いていた。もしかして、「あとは若い二人で」などと思っているのだろうか。結婚について、しっかり説明していて欲しかったのだけれど。

我以为开间有马克西米利尼亚,但是没有人。打开窗户往外看,远处亮着灯。难道是觉得“剩下的是年轻的两个人”吗。关于结婚,我希望你能好好说明一下。

「ん?」

“嗯?”

窓の外枠に、鐘が取り付けられていた。用途はなんだろうか?

窗户的外框上安装了钟。用途是什么?

訪問者がやってきたときに、鳴らすとか? よくわからない。

访问者来的时候会响吗?不太明白。

ジッと観察していたが、強い風がピュウと吹く。耐えきれなくて、窓を閉めた。

虽然一直在观察,但是大风嗖嗖地吹着。受不了,关上了窗户。

春とはいえ、夜は酷く冷え込む。

虽说是春天,但是晚上很冷。

暖炉のほうを見てみたら、火が小さくなっていた。薪をいくつか追加しておく。

我往壁炉那边一看,火变小了。多加几个柴火。

「あら、ありがとう」

“啊,谢谢。”

アニャは両手に料理を持ってやってくる。どちらか持とうかと手を差し伸べたら「両方のお皿でバランスを取っているから、止めて」と怒られてしまった。

阿尼亚双手拿着菜来。我伸出手想拿哪一个,结果被骂“两个盘子都平衡了,停下来”。

「あなた、なんなの? お手伝いしたがりさんなの?」

“你是什么?是想帮忙的人吗?”

「いや、そういうわけじゃないんだけれど」

“不,不是那样的。”

「だったら、安静にしていなさい。でないと、治るものも治らないわよ」

“那你就安静一点,不然治好的也治不好。”

アニャはテキパキと、夕食の準備をする。

阿尼亚和龙舌兰酒一起准备晚饭。

もしも、実家でその様子を眺めているだけだったら、義姉や母に「手伝え!」と怒られていただろう。

如果只是在老家看那个样子的话,会被大嫂和母亲骂“帮忙!”吧。

下僕精神みたいなのが、骨の芯まで染みこんでいるのかもしれない。彼女が忙しそうにしているのを見ていると、酷く落ち着かないような気分になる。

像仆人精神一样,也许渗透到了骨子里。看着她忙得不可开交的样子,心情变得非常不平静。

俺はアニャの言葉を借りたら“お手伝いしたがりさん”なのかもしれない。

我借用了阿尼亚的话,可能是“想帮忙的人”。

何度も行き来している様子に耐えきれなくなって、ついにはアニャに声をかける。

无法忍受多次来往的样子,终于和阿尼亚打招呼了。

「ごめん、俺、お手伝いしたがりさんなんだ。何か、手伝わせて」

“对不起,我是想帮忙的人,让我帮你吧。”

「は?」

“什么?”

アニャはポカンとした表情で、俺を見る。

阿尼亚露出了扑通的表情,看着我。

「誰かが働いているのを、見ていることができない性分なんだ」

“这是看不到有人在工作的性格。”

そう答えると、アニャは意味を理解したのか、突然笑い始めた。

这样回答后,阿尼亚可能明白了意思,突然笑了起来。

「やだ、あなたって、変な人!」

“讨厌,你这个怪人!”

「変な人で結構。あの鍋を、母屋に持って行けばいいの?」

“奇怪的人就可以了。把那个锅拿到开间就可以了吗?”

「任せて、いいの?」

“交给我吧,可以吗?”

「いいの」

“好吗?”

「じゃあ、お願いするわ。ものすごく重たいから、気を付けてね」

“那就拜托你了,太重了,小心点。”

鋳鉄製のどっしりとした鍋を、母屋に持って行く。鍋敷きの上に置き、カトラリーを並べたら夕食の支度は調ったらしい。

把铸铁制的沉甸甸的锅带到主屋。放在锅铺上,摆上餐具,晚饭的准备好像做好了。

カゴに山盛りにされた蕎麦のパンに、牛肉と野菜をやわらかくなるまで煮込んだシチュー“グラース”、鮭とジャガイモ、チーズを重ねて焼いた“ギバニッツア”、炙ったソーセージ“クランカ・クロバサ”など。豪勢な夕食だ。

在堆满篮子的荞麦面面包上,将牛肉和蔬菜煮到变软的炖菜“格拉斯”、鲑鱼和土豆、奶酪重叠烤成的“吉巴尼茨”、烤好的香肠“克兰卡·克洛瓦萨”等。丰盛的晚餐。

木のカップに注がれているのは、黄金の蜂蜜酒だろう。

倒在木杯里的应该是黄金蜂蜜酒吧。

「これでよしっと。お父様を呼ばなきゃ」

“这样就好了。我得叫你父亲来。”

「呼んで来ようか?」

“叫我来吧?”

「大丈夫よ。ここから呼べるから」

“没关系,我可以从这里叫你。”

離れに向かって叫ぶというのか。そこそこ離れているので、喉が嗄れそうだ。などと思ったのは一瞬で、アニャは窓を開いて外枠に取り付けられていた鐘をカランカランカランと、三回鳴らした。すると、マクシミリニャンがやってくる。どうやらあの鐘は、離れにいるマクシミリニャンを呼ぶためのものだったようだ。

你是说朝着离开喊吗。因为离得很远,喉咙好像要嘶哑了。这样想着的一瞬间,阿尼亚打开窗户,把安装在外框上的钟敲了三次。于是,马克西米利尼亚来了。看来那只钟是为了呼唤离开的马克西米莉娜。

「おお、いい匂いがする」

“哦,闻起来很香。”

「今日はイヴァンがいるから、ソーセージを焼いたわ」

“今天有伊凡,我烤了香肠。”

「そうであったか。いただこうぞ」

「原来是这样啊。就这样吧。」

食卓を囲み、祈りを捧げる。

围着饭桌祈祷。

この世の恵みに感謝し、犠牲になった生きとし生けるものに感謝を。

感谢这个世界的恩惠,感谢牺牲的活着的东西。

マクシミリニャンが食べ始めたのを確認してから、アニャも食べ始める。

确认马克西米利尼亚开始吃了之后,阿尼亚也开始吃了。

「イヴァン、あなたも、たくさん食べてね」

“伊凡,你也要多吃点。”

「ありがとう」

“谢谢。”

誰かとこうして食卓を囲むなんて、いつ振りだろうか。

什么时候会有人摆架子围着餐桌呢。

いつも、部屋の隅だったり、外だったり。時間がないときは花畑に向かいながら食べるときもあった。行儀が悪いのは百も承知だが、あの日は巣箱周辺にスズメバチの大群がやってきたとかで仕方がなかったのだ。

总是在房间的角落或者外面。没有时间的时候也有一边去花田一边吃的时候。我知道他没礼貌,但那天蜂箱周围来了一大群黄蜂,没办法。

まずは、スープをいただく。

首先要喝汤。

「あ、おいしい」

“啊,很好吃。”

「本当? よかったわ」

“真的吗?太好了。”

アニャの料理は、どれもおいしかった。一つ一つ感想を言っていたら、アニャの手が止まっていたことに気付く。

阿尼亚的菜都很好吃。一个一个地说感想的话,发现阿尼亚的手停了下来。

「ごめん。食事の邪魔をして」

“对不起,打扰你吃饭了。”

「いいのよ。お父様はいつも黙って食べるから、おいしいか、おいしくないかわからなかったの」

“没关系,爸爸总是不说话就吃,所以不知道是好吃还是不好吃。”

「アニャの料理は、お店が出せそうなくらい、おいしいよ」

“阿尼亚的料理很好吃,几乎可以开店了。”

「あら、そう?」

“啊,是吗?”

アニャの白い頬が、真っ赤に染まる。どうやら、口数の少ないマクシミリニャンは娘を褒めずに育てたらしい。こんなおいしい料理を食べておきながら、感想を言わないなんて。

阿尼亚的白色脸颊被染成了红色。看来,沉默寡言的马克西米莉娜没有表扬女儿就把她养大了。明明吃了这么好吃的菜,却不说感想。

「ねえ、イヴァン。あなた、しばらくここにいなさいよ。暴力をふるう兄弟のもとに帰るなんて、心配だわ」

「喂,伊凡。你在这里待一会儿吧。我很担心你会回到暴力的兄弟身边。」

アニャがそう言った瞬間、マクシミリニャンの動きが止まった。口の中にあったものをごくんと飲み込み、気まずそうな表情で俺を見つめる。

阿尼亚这嚒说的瞬间,马克西米利尼亚的动作停止了。把嘴里的东西一口吞下去,用尴尬的表情看着我。

その顔は、なんだ。雨の日に捨てられた、子犬のような表情は。

那张脸是什么。下雨天被抛弃的,像小狗一样的表情。

もしかして、俺に結婚について説明しろと言いたいのか。

难道是想让我说明结婚的事情吗。

アニャはマクシミリニャンがブレッド湖の街に、婿を探しに行ったことも知らないのかもしれない。

阿尼亚可能也不知道马克西米利尼亚去布莱德湖的街上找过女婿。

「二人とも、どうしたの?」

“两个人都怎么了?”

誰も何も答えないので、アニャは怪訝な表情となる。

因为谁都不回答,所以阿尼亚露出了惊讶的表情。

マクシミリニャンは、天井を仰いでいた。どうやら、説明するつもりはないらしい。

马克西米利尼亚仰望着天花板。好像不打算说明。

しょうがないので、俺が言うしかない。

没办法,只好我说了。

「アニャ、俺は、君の婿として、ここに来たんだよ」

“阿尼亚,我是作为你的女婿来到这里的。”

「は!?」

“哈!?”

アニャは瞳が零れ落ちそうなくらい、目を見開いていた。

阿尼亚睁大了眼睛,眼睛几乎要掉下来了。