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養蜂家の青年は、雨の朝を迎える
养蜂青年迎来了下雨的早晨
蕎麦の種を植えてから迎える二日目。
种了荞麦种子之后迎来的第二天。
アニャがやってくることを想定し、早めに起きた。
设想阿尼亚会来,所以提前起床了。
服を着替え、寝間着は洗濯物入れの籠に放り込む。
换上衣服,把睡衣扔进洗衣物的篮子里。
外は薄明かりの中。日の出はもうすぐだろう。そんな中、アニャの姿はなかった。
外面是微光中。日出快到了吧。在这种情况下,没有阿尼亚的身影。
洗面所で顔を洗い、髭を剃って歯を磨く。
在盥洗室洗脸,刮胡子刷牙。
身支度が調ったが、アニャはやってこない。
打扮好了,但是阿尼亚不来。
はてさて、どうしようか。
哎呀,怎么办呢。
外で腕を組んで考えていたら、母屋の扉が開く。アニャだ。
在外面抱着胳膊想的话,主屋的门就会打开。是阿尼亚。
「おはよう」
“早上好。”
「きゃあ!」
“呀!”
アニャは俺を見て、悲鳴を上げた。手に持っていた洗濯籠を、落としてしまうほど驚いたようだ。
阿尼亚看着我,尖叫起来。手上拿着的洗衣篮,好像吓得掉了。
「ちょっと、イヴァン! なんで日の出前に起きているのよ」
“喂,伊凡!你为什么在日出前起床?”
「いや、昨日アニャが日の出くらいの時間に蕎麦の状況を見ようと誘いにきたから。今日も見に行くのかと思って」
“不,昨天阿尼亚邀请我在日出的时候看荞麦面的情况。我想今天也去看。”
「あ――そう、だったのね」
「啊——原来是这样啊。」
話しているうちに、日が昇る。太陽が地平線から、ひょっこりと顔を覗かせた。
说着说着,太阳就升起来了。太阳从地平线上突然露出了脸。
夜のとばりが、太陽の光によって空の彼方まで押し上げられる。
夜幕被阳光推上天空的彼方。
この光景は、いつ見ても美しい。
这个景象无论什么时候看都很美。
「アニャ、蕎麦を、見に行こう」
“阿尼亚,去看荞麦面吧。”
「ええ、そうね」
“是啊。”
まだ薄暗いので、転ばないようにと手を差し出す。
因为天还很黑,所以伸出手说不要摔倒。
アニャはポカンとしたまま、俺を見つめていた。
阿尼亚呆呆地看着我。
「その手、何? 食べ物を、ちょうだい?」
“那手是什么?给我吃的?”
「違う。アニャが暗い中で転ばないように、手を貸そうとしているの」
“不是的,我是想帮助阿尼亚不要在黑暗中摔倒。”
「あ、そう、だったのね。ごめんなさい。誰かの手を借りたことなんて、なかったから」
“啊,原来是这样啊。对不起,我从来没有借过别人的手。”
アニャはいつもいつでも、マクシミリニャンの背中を追いかけていたらしい。手と手を繋ぎ、並んで歩いた記憶はないと。
阿尼亚似乎总是随时追赶着马克西米利尼亚的背影。没有牵着手并排走的记忆。
「おじさんって、厳しいんだ」
“叔叔很严厉。”
「厳しくないわ。普通よ」
“不严格,很正常。”
「ふーん」
“嗯。”
俺は山のルールに則って、アニャを厳しくする理由はない。だから、手を握って歩き始める。
我没有理由按照山上的规则严厉地对待阿尼亚。所以,握着手开始走。
「あ、えっと、イヴァン、私、一人で歩けるわ」
“啊,呃,伊凡,我可以一个人走路。”
「そうかもしれないけれど、俺が心配だから」
“也许是这样,但我很担心。”
そう返すと、アニャは大人しくついてきた。蕎麦の種を蒔いた畑にたどり着くと、小さな声で「ありがとう」と言う。
这样一回答,阿尼亚老实地跟着。到了播下荞麦种子的田地,小声说“谢谢”。
太陽の光が、畑を淡く照らしてくれる。
阳光淡淡地照耀着田地。
蕎麦の芽は――残念ながら、出ていなかった。
荞麦的芽——很遗憾,没有长出来。
「今日も、ダメなのね」
“今天也不行啊。”
「まだ二日目だしね。今日は太陽も出ているから、それにつられて芽が出るかも」
“还只是第二天呢。今天太阳也出来了,可能会被太阳吸引而发芽。”
もしも発芽するとしたら、明日だろう。まだ、諦めるのは早い。
如果发芽的话,明天吧。放弃还为时过早。
と、前向きな姿勢でいたのに、自然は容赦ない。
虽然是积极的态度,但自然却毫不留情。
畑の前でしょんぼりする俺たちから、太陽の光を奪う。
在田地前垂头丧气的我们,夺走了阳光。
厚い雲が、太陽を覆ってしまったのだ。それだけではない。ポツポツと、水滴が落ちてくる。
厚厚的云覆盖了太阳。不仅如此。滴滴答答地滴落下来。
「うわっ、雨だ!」
“哇,下雨了!”
一粒一粒が大きな雨粒だ。これは、あっという間に大雨になるだろう。
每一粒都是大雨点。这一眨眼就会下大雨吧。
畑の前でボーッとするアニャに声をかけたが、いまいち反応が悪い。
在田地前向发呆的阿尼亚打招呼,但反应还不好。
「アニャ、抱き上げるよ!」
“阿尼亚,我抱你!”
「え?」
“诶?”
アニャを横抱きにし、母屋へと繋がる斜面を下る。
抱着阿尼亚,走下与主屋相连的斜坡。
「ひゃあ! ちょっと、イヴァン、どうして――!?」
“哎呀!喂,伊凡,为什么——!?”
アニャが「自分で歩けるから」と言った瞬間、大粒の雨が降り始めた。
阿尼亚说“因为我自己能走路”的瞬间,开始下起了大颗的雨。
「うわ、最悪!!」
“哇,糟透了!!”
走って母屋にたどり着く。たった数秒の間だったのに、びしょ濡れになってしまった。 アニャを下ろしてやると、顔が真っ赤なのに気づく。
跑着到达主屋。才几秒钟,就湿透了。把阿尼亚放下,发现脸通红。
「アニャ、大丈夫? 風邪でも引いているの?」
“阿尼亚,没事吧?感冒了吗?”
「イヴァン、あなた、力持ちなのね」
“伊凡,你真有力气。”
「え、そうでもないけれど」
“啊,也不是那样。”
「だって、私を抱き上げたじゃない」
“因为,你不是把我抱起来了吗?”
「いや、アニャはものすごく軽いほうだから」
“不,因为阿尼亚是非常轻的。”
マクシミリニャンと川まで運んだ丸太は、信じられないくらい重たかった。それに比べたら、アニャは羽のように軽いと言える。
和马克西米利尼亚一起运到河里的原木,重得令人难以置信。相比之下,阿尼亚可以说像羽毛一样轻。
「それよりも、早く着替えたほうが――へっくしゅん!!」
“与其这样,还不如早点换衣服——嘿嘿!!”
「やだ、着替えが必要なのは、あなたのほうじゃない」
“不,需要换衣服的不是你。”
アニャは目にも止まらぬ速さで走り、大判の布を持ってきてくれる。
阿尼亚以目不转睛的速度奔跑,给我拿着大金币的布。
昨日洗濯して乾かした服に着替えるよう、命じられた。
我被命令换上昨天洗好晾干的衣服。
◇◇◇
◇◇◇
今日は雨なので、家で作業するらしい。先程の勢いはなくなり、霧雨のような静かな雨が降っている。
因为今天下雨,所以好像在家工作。刚才的气势消失了,下着像雾雨一样安静的雨。
「アニャ、マクシミリニャンは?」
“阿尼亚,马克西米莉娜呢?”
朝から一度も顔を出していない。朝食は食べたのか、心配になる。
从早上开始一次也没露面。我很担心早饭吃了没有。
「雨の日は、家畜のお世話以外で離れから出てこないわよ」
“下雨天,除了照顾家畜以外,不会离开的。”
「え、なんで?」
“啊,为什么?”
「雨に濡れると、病気になると言われているの」
“据说被雨淋湿的话会生病的。”
離れにも簡易的な台所があり、食料も豊富にあるらしい。
离得很远也有简易的厨房,食物也很丰富。
今日みたいな雨の日は、母屋と離れの行き来を止めて、家の中で静かに過ごしているようだ。
像今天这样的雨天,停止了离开主屋的来往,在家里安静地度过。
「刺繍をしたり、編み物をしたり、保存食を作ったり。まあ、仕事は探さなくてもいろいろあるわ」
“又是刺绣,又是编织,又是做保存食品。嘛,不用找工作也有很多。”
「なるほど――くっしゅん!」
“原来如此——嗯嗯!”
「イヴァン、暖炉を入れてあげるから、火の前から離れないように」
“伊凡,我帮你装壁炉,不要离开火前。”
「ごめん」
“对不起。”
「いいわ。私も、寒いと思っていたから」
“好啊,我也觉得很冷。”
アニャは暖炉に火を点け、ヤカンを吊す。沸騰したら、カップに湯を注いでいた。
阿尼亚点燃壁炉,吊起水壶。沸腾后,往杯子里倒了热水。
「蜂蜜生姜湯よ。風邪には、これが一番だから」
“蜂蜜生姜汤,这是感冒最好的。”
カップには、スライスした乾燥レモンがぷかぷか浮かんでいた。飲むと、体がほっこり温まる。ピリッとしているけれど、優しくて甘い。まるで、アニャのようだ。
杯子里漂浮着切成薄片的干燥柠檬。一喝,身体就暖和起来。虽然很辣,但是又温柔又甜。简直就像阿尼亚一样。
アニャも、暖炉の前に座り、蜂蜜生姜湯を飲んでいた。
阿尼亚也坐在壁炉前,喝着蜂蜜生姜汤。
働かずにまったりする時間が、不思議と心地よい。
不工作悠闲的时间,不可思议地很舒服。
雨がサラサラ降る音を聞きながら、蜂蜜生姜湯をちょびちょび飲み進める。
一边听着雨沙沙的声音,一边喝着蜂蜜生姜汤。
なんだか、癒やされてしまった。
不知为什么,被治愈了。