第12話 頼りになる女友達  商店街に置いてあったベンチに俺と楪は座り、彼女が泣き止むのを待つ。その間に俺は綾城に電話をかけた。 『なにかしら?というかいまどこにいるの?新歓もうすぐ終わるわよ。あんたあたしをエスコートするって約束したわよね?』  電話に出た綾城は、どことなく不機嫌そうに聞こえた。結果的には新歓に最後まで付き合いきれなかったのは申し訳なく思う。 「ちょっと一言じゃ説明しずらいんだ。新歓終わったらちょっと商店街の端に来てくれないか?助けて欲しいんだよ」 「助け?あなたがあたしに?」 「うん。綾城、お前しか頼れない。助けてくれ」  楪はすんすんと泣いている。だけど結果的にこの子を泣かしたのは男の仕業なのだ。出来れば女性に傍にいて欲しかった。 「あらあら!そうなのそうなのね!いいわ。新歓が終わったら行く。ちょっとの間待ってなさい。このあたしを」  なんか声の調子が一瞬にしてご機嫌になった。迷惑だと思ったんだけどそうでもないのかな?有難い話だ。そして暫くして綾城がやってきた。 「あらあらあら!!呼ばれてきてみればなんとかわいいかわいい女の子が泣いてるじゃないの!これはどういうことかしら!」  なんか綾城さん好奇心に満ちた瞳で俺と楪を見てる。綾城の手が楪の頬を撫でる。 「綺麗な子ね。ほらほらもう泣き止みなさい。あなたには涙は似合わないわ。笑ってちょうだいな」  楪はくすぐったそうに眼を瞑り、そしてすぐに泣き止んだ。まだ俺の胸にぎゅっと抱きついているがかなり落ち着いて顔色が良くなった。綾城すげぇ。 「で?どういう状況なのかしら?つまびらかに!」  俺はかくかくしかじかとちゃんと丁寧に一から説明した。だけどそこは綾城さんだ。この女は好きあらば。 「なるほど。つまりあなたはお持ち帰りに成功したからあたしに自慢したいと。そしてあわよくばあたしも誘って3Pワンチャンを狙ってるということね。ごめんなさい。あたしはじめては素敵なカレピの部屋で2人っきりの世界で熱々にって決めてるの。それに自分よりおっぱいの大きい女の子との3pはちょっと遠慮したいわね」 「はは!ツッコミどころが多すぎんだよ!!」 「突っ込むのは下の…」 「それは言わせねぇからな!!えぐすぎんだろうが!!」  綾城さんニチャニチャ笑ってる。酒も入ってるだろうし、楽しくて仕方がないんだろうなぁ。 「あのカナタさん。わたしも大切な初めては…2人っきりがいいです!!」  泣き止んだ楪の第一声がまさかの下ネタだった。綾城菌がうつりやがった。 「この女の下ネタに乗っかるな!」 「でも二回目以降なら!綾城さんみたいな優しい女の子なら3人でも構いません!この大きいだけが取りえの胸にも乳首は二つあります!!どうぞお二人で吸ってください!!!」 「おい綾城!!田舎から出てきた子がお前のせいで都会の闇に染まっちまったじゃないか!!どうしてくれんだ!」  綾城はドヤ顔をキメている。うぜぇ。だけど泣き止ませて元気にさせたのはこいつの功績だ。 「うふふ。あたしを放っておいた罰よ。でもよかったわ。あんたは困ってる女の子を見捨てるようなクズじゃなかった。あたしの目は間違ってなかったし、今日あんたを連れてきて本当に良かったわ。あたし超ファインプレー!」 「まあ、そうだな。お前がいなきゃ大変なことになってたよ」 「そうよ。だから楪!あんたはあたしに死ぬまで感謝なさい!数学科なら物事の因果関係とロジックはよくわかっているでしょう!この男を今日連れてきたのはあたし!つまりあんたを助けたのはあたしであると言っても過言ではないの!」  なんだろう?屁理屈っぽいけど嘘じゃないのがなんか腹立つ。だが楪はまるで雷に打たれたような顔をして綾城の手を握る。 「なんて完璧なロジック!!ありがとう綾城さん!!本当にありがとうございます!!」  そして楪は綾城に抱き着く。綾城はよしよしと楪の頭を撫でた。 「あーおっぱいやわらかいわ。これが巨乳ヒロインを助けてラッキースケベされた時のラノベ主人公の気持ちなのね。いいわ!すごくいい!」  マジで楽しそうだなこの女。でもおかげで楪はなんか元気になった。こういう励まし方はやっぱり同性の方がいいのだろう。とても助けられてしまった。  そしてしばらくして2人の体は離れ、綾城もベンチに座る。俺、楪、綾城の順番。なお楪は俺と綾城とそれぞれ手を組んでいる。まだ少し不安と恐怖は残っているような感じだ。さてどうしたもんか。送ってやろうかなと思った。 「楪は何処に住んでるの?家まで送るよ」 「え、そんな!悪いですよ!わたし三鷹にある大学の寮に住んでるんです!あそこ、駅から結構遠いんです。恐れ多いです!」  三鷹の寮については聞いたことがある。陸の孤島とかって言われてるとかなんとか。だけど寮費は激安らしい。 「いやだわこの男!送り狼にジョブチェンジしようとしてるぅ!でも災難よね。楪のせっかくの人生最初の飲み会がおじゃんでしょ?かわいそう」  確かにそうだなって思った。あんなのが人生最初の飲み会って哀れすぎる。 「そうですね。でもこうしてお二人と出会えました!それだけで十分です!」  楪はそう言って微笑んでくれた。だけどやっぱり可哀そうだ。飲み会は楽しいんだ。苦手意識を持ってほしくはない。社会に出た後も飲み会ってけっこう重要だしね。そこで俺は閃いた。 「綾城、楪。二人は門限ある?」 「あたしはないわ。父に連絡を入れればそれでオッケー」 「うちの寮には門限はないですよ」  条件はオッケーだった。綾城はもう俺の考えていることを察したらしく。なにか期待するような目を向けている。楪は首を傾げている。なんかハムスターみたいで可愛い。 「明日は日曜日!朝まで遊ぼう!!二次会じゃ!!パーッと騒いで嫌なことは忘れるんだ!!」 「あら!いいわね!いくいく!」  綾城さんノリがいい。そういう女の子だいしゅき! 「二次会…この三人ですよね?」 「そうだよ。いこうよ!」  俺は楪に手を伸ばす。楪はその手を見て、満面の笑みを浮かべて手を握ってくれた。 「はい!行きます!」  そして俺は楪の手を引っ張り小走りに商店街を行く。綾城も楽し気についてくる。三人だけの二次会に俺たちは旅立ったのだ。  やってきたのはビリヤード屋さん。ダーツ付き。 「ここは俺の贔屓の店だ!」  一周目の世界。陰キャなりにも友達がそれなりにいた俺も遊びに行くことはあった。それがこの店である。 「へぇ。なかなかいい店ね。ソファーにテーブルつきだなんて洒落てるわね」  この店のいいところはビリヤード台に一つソファーがついてくることだ。待機中もソファーでぐだれて楽しい。 「わぁビリヤード…!?大人すぎますぅ!」  楪はビリヤード台そのものになんか興奮してる。お目目をキラキラに輝かせて台とボールを見詰めていた。いいなぁこういう初心い反応。俺も楽しくなってくる。 「2人とも何飲む?注文するよ」 「二次会だし、好きなモノ飲んでもいいわよね?あの飲み会の取り合えず生って文化には滅んでいただきたいわね。とりあえず赤ワイン。フルーツ盛り合わせ」 「あ、わかります!好きなモノ飲ませてほしいのに、ビールじゃないといけない感じがなんかいやでした!ピッチャーのビールって気が抜けてて美味しくなかったです!とりあえず芋焼酎ストレートで氷はいりません。あといぶりがっこのクリームチーズのせ」  綾城はイメージ通りなんだけど、楪の注文がなんかすごく渋い。 「俺はあえて取り合えず生、ではなくて瓶ビールにしておこう。おつまみはナッツだな」  個人的に外国の500mlペットボトルくらいのサイズの瓶ビールが好きだ。俺はカウンターに注文をしに行く。そしてすぐにドリンクとおつまみが出てきた。そのトレーをソファーに座る二人のところに持っていき。 「えー。おほん。二次会乾杯!」 「「かんぱーい!」」  たった三人での乾杯だが、人生で一番楽しい乾杯だったはずだ。それは俺だけでなく二人もだったと俺は信じる。