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第13話 三人の二次会はかけがえのない思い出の一つに

 酒がはいってる状態でのビリヤードはカオスになりがちだけど、この二人はすでに綾城菌に汚染されてるので輪をかけてひどかった。

「いい!?楪!変化球を打つときはこうやって台の端に座ってセクシーに足を組んでやるのよ!!ほらみなさい!あそこの送り狼モドキがこっちを見てるわ!見せつけてやりなさい!!」

 なんかやたらとセクシーにボールを突きたがる綾城さん。俺は決して足の方を見ちゃいない。パンツがギリ見えなくて悔しがったりなんてしてない。

「でもでも!こうやってボタンを開けて、こうやって谷間って見るのがいいんじゃないですか!それが王道ですよ!!綾城さん!!」

 俺は哲学を始めた。果たしてキューでボールを突くとき、おっぱいが台に触れていたらそれはセーフなのかアウトなのか。言えることは、大きなおっぱいを包むブラはシンプルな形になりがちで数学的に美しそうな曲線を描いていたことだ。おっぱい。

「それも悪くないわね。ところであんた何カップ?あたしFなんだけど」

「それは…ごにょごにょ」

「ええ?!エッチなHカップ!?」

「うわーん!ばらすのやめてくださいぃ!恥ずかしいですぅ!」

 胸の谷間を見せつけてキューを振るってたのに、カップサイズを知られるのは恥ずかしいのか?それが数学科のあるあるネタ?女子二人は避け特有のハイテンションに包まれていたが仲良くきゃきゃとビリヤードを楽しんでいた。

 俺は瓶ビールをラッパ飲みしていた。それを酒で赤くなった顔の楪はジーっと見ていた。

「どうしたん?」

「いえ。なんかカナタ君が瓶ビールをラッパ飲みしてると、海外映画みたいだなって。カッコいいと思います!」

「ありがとう。似合ってるなら良かったよ」

「ええ!なんかすごくマフィアっぽい感じします!ウォール街で悪さして、ビルの屋上のナイトプールで金髪美女を侍らせてる感じです!!イケてます!!新歓で初めて見た時からそう思ってました!!」

「おお、おう。褒め言葉として受け取っとくよ」

 それは褒めてるんだろうか?あれ?もしかして俺ってあの時、楪的にはあのチャラ男よりも怖いやつに見えてたりしたのかな?

「あんたそういえば、SNSじゃハリウッド顔とか言われてたわね。ウケる!ほらほら見て楪!これ入学式の写真!」

 綾城がスマホに入ってる写真を楪に見せつける。俺と綾城が入学式で撮った写真だ。

「うわ!スーツです!メッチャマフィア!!いいですね!はぁ2人がいたんなら入学式いけばよかったですね」

「え?でなかったの?」

「はい。近くまで行ったんですけど…自分なんかが出たら迷惑かなって…」

 楪は昏い笑顔のまま焼酎を一気に飲んで溜息を吐いた。ていうかまじでネガティブな行動とってんなぁ。陰キャはこうやって思い出を得るチャンスを捨てていくから可哀そうだ。

「そんなことないのにね。でも思い出は今からでも作れるわ。ほら二人ともそこに並びなさい」

 綾城はスマホを俺たちに向けて指示を飛ばしてきた。言われた通り並んで立つ。

「かたいわ!硬いわよ2人とも硬いのはおち…」

「それは言わせないぞ!」

「常盤!あなたは楪の腰に手を回しなさい!俺の女!!って感じで!楪は後ろ頭を常盤の胸に預けて手を彼の首に回しなさい!気分はネットの女神の如く!!」

 ネットの女神って何?だが楪は綾城に言われた通りのポーズを取った。俺の首に触れる彼女の手に少し背筋が震えるような興奮を覚えた。

「いいわよ!そのメス顔!!はーいチーズ!!うぇーいwwwww」

 綾城は連続でシャッターを切りまくった。そして撮った写真を俺たちにみせつけてくる。

「きゃ!なにこれ!わたしマフィアの愛人さんみたい!」

「おい。俺は反社じゃないぞ」

 キャーキャー言ってる楪には悪いけど、反社と一緒にされるのはちょっと困る。

「あきらめなさい。あんたはどうあがいてもハリウッド反社顔で一緒に映る女が愛人やセフレのように見せてしまう。悪い顔をしているのよ」

「俺の顔はそんなに猥褻なのかよ?!」

「楪!その写真を送るから、同じ学科の男共に絡まれたら、その写真を見せつけて、この男のセカンドになったって言うのよ!そうすればウザく絡まれることはなくなるからね!」

 セカンド。古の言葉で愛人を指す言葉らしい。今どきセカンドって言い方する?俺昔の映画の中でしか聞いたこと事ないよ?

「わぁ嬉しいです!セカンドっていい響きですね!ださカッコイイ感じが素敵!やくざ映画みたい!ずっと学科の人たちに付き纏われててウザかったんですよ!使わせてもらいますね!」

「やめてぇ!俺のイメージが!爽やかな好青年のイメージがががが!!」

「ひゃははは!メッチャウケるぅ!あはは!常盤のインテリチンピラ!うふふ!あははは!!」

 俺たちは騒いで笑い合ってふざけあって。そして朝を迎えた。 

「朝陽が眩しいぃ…!」

「日の光が!わたしを焦がしますぅ!浄化されちゃいます!」

「あー酔い覚ましの水がちょうおいしいわ。効くぅ」

 始発の前の駅で俺たちは朝日を浴びていた。俺は二人が電車にちゃんと乗るまで見届けることにしたのだ。そして駅のシャッターが開いた。二次会はここでお終い。とても寂しい。だけど寂しいのはそれだけ楽しかったという証拠なんだ。だからそれでいいのだ。

「じゃあ一丁締めするよ!せーの!」

「「「はい!」」」

 俺たちは一緒のタイミングで手を叩いた。そして小さく拍手をする。

「ありがとうございましたお二人とも。今日は本当に楽しかったです。きっと人生で一番楽しい一日でした」

  

 楪は俺たちに頭を下げる。

「いえいえ。それにこの先もまた一緒に遊んで人生で一番楽しい日を更新し続けましょう」

「綾城さん!ありがとう!大好きです!」

 2人は抱き合う。良いね。こういうの。ちゃんと友情が生まれている。もう大丈夫だ。楪はもう顔をちゃんと上げていけるのだ。

「カナタさんも本当にありがとうございます!」

「いえいえどういたしまして。楽しんでくれたなら良かった」

「はい。あなたのおかげでこの先の大学生活きっと楽しんでいけると思います。本当にありがとうございました!」

 楪は俺の首にぎゅっと抱き着き、そしてすぐにはなれた。

「やっぱりやらかい?興奮した?どうなのかしら?」

「はは!綾城!感動を下ネタで汚すな!」

 でも正直おっぱいが凄い大きくて…柔らかくて…その…ドキドキしました…!おっぱい!嫁はGカップだったからそれよりも大きいとかチート過ぎると思う。半端ないよまじで。

「ふふふ。じゃあわたしたちはもう行きますね」

「じゃあね常盤。また学校で会いましょう!」

 二人は駅の中に入って姿が見えなくなった。俺はそれを見届けてご機嫌な気分で家に帰ったのだった。