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138 アジトを探せ! (2)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
周辺の森で轍の跡を探し、トーヤを留守番にして盗賊のアジトを探しに行く。
森の中で掘っ立て小屋と5頭の馬、それに2台の馬車を発見する。
汚い小屋の中でナオは鍵のかかった頑丈な小箱を見つける。
「ぷはぁぁぁ」
「お疲れ様。なにか……あったみたいね?」
「あぁ。これだけだがな。そっちは?」
「思ったよりも良かった、と言うべきかしら。片方の馬車には金属――それも、魔鉄とかが載っていたわ」
「魔鉄……運が良いと言うべきか?」
「私たちにとってはね。犠牲になったと思われる商人さんには気の毒だけど」
 まぁ、盗賊が持っていたと言っても、元は商人から奪った物だからなぁ。
 可哀想だとは思うが、そんな役得でも無ければ普通の冒険者は、なかなか盗賊退治なんて依頼は引き受けないだろう。
「あちらの馬車は大した物はありませんね。……あ、ナオくん、お疲れ様です」
「ナオ、ごめんね? 残念ながら、食料品と多少の雑貨類だったよ」
 そんな事を言いながら、もう1つの馬車の中からナツキたちが出てきて、こちらへと戻ってくる。
「あんまり期待はしてなかったし、魔鉄がある分、上出来じゃないか? 後はこの箱だが……ナツキ、開けられるか?」
「ちょっと待ってください。――【解錠】スキルが役立つのは初めてですね。……開きました」
「早っ!?」
 鍵がちゃちなのか、ナツキのスキルが凄いのか。
 道具を取り出して鍵が開くまで僅か10秒ほど。
 開かなければ叩き壊すかなぁ、などと思っていたのだが、そんな心配は不要だったらしい。
「でも案外役に立たないですよね、【解錠】スキル。【罠知識】も【毒耐性】も【病気耐性】も、今のところ役に立った実感無いですし……ちょっとスキル構成、失敗したかな、なんて思うこともあったのですが」
「そのスキルは役に立って無くても、ナツキ自体は十分以上に役に立っているから、良いんじゃないか? ――あ、いや、役に立っているなんて言い方はちょっと不遜だったな」
「いえ、そんなことは。嬉しいです。ありがとうございます」
「いや、べつに……」
 嬉しそうに微笑むナツキに何となく気恥ずかしくなって、視線を逸らす。
「おやおや~? 良い雰囲気になってるのはここですかぁ?」
「い、良い雰囲気とか、そんな……」
「そ、そうだぞ?」
 そう言う俺たちを面白そうな表情で見たユキが、ちょっと笑って肩をすくめた。
「ふ~ん? そうなの~? ま、最初のスキルが、とか言ったら、あたしの方がアレだしね」
「そうだな」
「そうですね」
「そうね」
「え、えぇっ!? ひどい! 今はあたしをフォローする流れじゃなかった? なかった?」
「なかったわね」
「なかったな」
 俺とハルカ、当然とばかりに頷く。唯一肯定しなかったナツキも苦笑を浮かべるのみ。
 『裏切られた!』みたいな表情を浮かべるユキだが、今の流れはオチ担当だろ。
 散々【スキルコピー】で弄られてるんだから。
 尤も、最初の頃はともかく、現在は十分以上に活躍しているのだから、その前の流れが無ければフォローしてやっても良かったんだが……いや、甘やかしは良くないな、うん。
「くっ! 良いもん! あたしはこの箱開けちゃうから! さてさて~、何が入っているかな~?」
 誰からもフォローを得られなかったユキは、気を取り直したように、ナツキが鍵を開けた木箱の蓋を開ける。
 ユキの肩越しに、俺もそれを覗き込んだ。
「……金貨、だな。大金貨も数枚ある」
 順当にと言うべきか。箱の中に入っていたのはお金だった。
 取り出して数えてみると、大金貨が十数枚に、金貨が数十枚。
 それなりに大金だが、『それなり』でしか無いと言えば無い。
 冬の間、俺たちは1日でこれ以上に稼いでいたし。
「魔鉄とかと合わせれば、報酬としては悪くないわね。依頼料自体はあまり期待できないから」
 木箱から取り出した金貨を袋に詰め直して、マジックバッグに収納しつつ、ハルカがそう言う。
 今回の依頼料は、回収したギルドカードの数と、そのランクで支払われる予定になっているのだが、所詮は盗賊になるようなランクの冒険者、そこまで高い報酬は期待できない。
 こうやって回収できる物も考慮しての報酬であるため、ある程度は仕方ないのだが、あまり良い物が無ければなかなかに割の合わない依頼になってしまうのだ。
「この小屋はどうするの?」
「燃やしておきましょ。残しておいて盗賊とか魔物の住処になると困るし」
「汚物は消毒だ~、的な?」
「……まぁ、そんな感じ」
 ユキの言い方に、ちょっと呆れたような表情を浮かべつつ頷くハルカ。
 まぁ、確かに中は汚かった。汚物と言って文句を言う奴らは、すでに灰になっている。問題は無い。
「それでは、馬車に馬を付けて、移動させましょう」
「その前に、馬車の荷物は一度、マジックバッグに入れてしまいましょ。馬車を引いて行くにしても、軽い方が馬の負担も少ないでしょうし。特に魔鉄とかは重いから」
「そうですね。馬車は……2頭立てと1頭立てみたいですね。もう2頭が引いていた馬車はどうしたんでしょう?」
 確かに馬が2頭余るな。
 馬車を牽くための馬具は、馬車の荷台に置いてあったが、その数は3つしかない。
「馬に乗って移動していた、とか?」
「それなら鞍くらがあると思いますが、ありましたか?」
「……いや、無かったと思う」
 俺視点ではゴミばかりだったが、さすがに鞍が置いてあれば気付く……よな?
 チラリと掘っ立て小屋に視線を向けるが、もう一度あの中に入るのは嫌だよなぁ……うん、鞍は無かった。
「襲撃で馬車が壊れたのでしょうか?」
「裸馬には……乗らないよな?」
「この世界にも鞍と鐙あぶみはあるから、それは無いでしょ。……ちょっと残念ね。馬、乗ってみたかったんだけど」
「いや、鞍があっても、素人が指導者もなしに乗るのは危なくないか?」
「今の身体能力なら大丈夫じゃないかな? ここの馬はサラブレッドよりもガッシリ、ドッシリした感じだし」
 ユキも乗ってみたかったのか、ハルカに賛同するようなことを口にする。
 確かにここで使われている馬は、競馬で見かけるような馬とは異なり、足も太くて身体の大きさもやや小さい。どちらかと言えば、道産子のイメージに近いだろうか。
 今の身体であれば、仮に振り落とされても大した怪我もしそうには無いが……さすがに裸馬は無いよなぁ。
「そういえば、ナツキは馬に乗ったことがあるんだっけ?」
「あると言えば、ありますね。しっかりと調教された馬を、管理された場所で走らせるだけですが。なので、あまり乗れると胸を張って言える物では……」
 おぉ、さすがお金持ち。
 ナツキは遠慮がちにそう言うが、一般人は馬になんて乗ったことないからな?
 観光牧場とかは別にして。――あ、でも俺、馬は無いけど、駱駝らくだは乗ったことあるわ。鳥取砂丘で。
 何の役にも立たない経験だけど。
 でも今にして思えば、鳥取砂丘って砂浜で、暑い砂漠にいる駱駝とは何の関係も無いよな?
 砂があるから駱駝って、ちょっと発想が安易じゃないだろうか?
「まぁ、乗るにしても鞍を手に入れてからよね。ただ、自分たちで飼うべきかどうかは……う~ん、どうかしら?」
「冒険者なら馬車を持っていても良い気はするんだが、実用面では微妙だよなぁ」
「そうだよね。荷物運びにはマジックバッグがあるし、移動速度は自分たちで走る方が速いし」
「のんびり移動するのであれば、疲労面では少しは利点がありますが、乗り心地、悪いですよね、馬車って」
「想像以上にな。サスペンション、ゼロだから」
 ここまで半日ほど、ギルドで借りた馬車に乗って移動してきたわけだが、その乗り心地はお世辞にも良いとは言えなかった。
 車輪と荷台の間にサスペンションは無く、座っていると、地面の凹凸がそのまま尻に響く。
 仕方ないので、マジックバッグに入っていた毛布などを重ねて座っていたのだが、それよりもむしろ立っている方が楽なぐらい。つり革でも導入して欲しいぐらいである。
 もし馬車を導入するのであれば、せめて板バネぐらいは付けないと、使う気にはなれない。
「維持費も考えると……割が合わないかしら?」
「そもそも、俺たち、遠出しないよな?」
「……そうね。必要となったときに考えましょ」
 根本的問題に突き当たり、馬車の問題は棚上げされた。
 ただのペットとして飼うには、馬はちょっとデカすぎるもんなぁ。
「それじゃ、ナオはその2頭を少し離れたところに繋いできてくれる?」
「了解」
 ハミと手綱だけは頭数分あったので、馬車に使わない2頭にそれを取り付け、柵から出してやや離れた場所の木へと繋ぎに行く。
 昨日ギルドで受けた講習のおかげで、このぐらいは馬に乗ったことのない俺でもできるのだ。
 その間にハルカたちが馬車に馬を取り付け、その後、荷台の荷物を協力してマジックバッグの中へ。そして軽くなった馬車も、俺が馬を繋いだ場所まで移動させた。
「それじゃ、やりましょうか」
「おう!」
 扉を開けた小屋の中にナツキ以外の3人で『火球ファイアーボール』を放り込むと、ドンドンドンと音がして、すぐに小屋が燃え上がった。
「おー、良い燃えっぷり」
「そうだねー」
 なかなかに良く乾燥していたのか、見る見るうちに家の形が崩れて行く。
「2人とも、見てないで、柵も壊してしまいましょう」
「あ、そうだね」
 しっかり自然に帰すべし、とばかりに、馬を入れていた柵も蹴倒して、小屋の残骸へと放り込む。
 ついでに『火球ファイアーボール』も適度に放り込んでいると、30分も経たないうちに多少の炭が残るまでに燃え切ってしまった。小屋の中には壷もあったはずだが、『火球ファイアーボール』を放り込んだときに砕けたのか、跡形も無い。
「これぐらいやれば十分でしょ。後は消して……『消火エクスティンギッシュ・ファイア』。うん、これで火災の心配も無いわね」
 一瞬で鎮火した燃えあとを、ハルカが満足そうに見る。
「地味に便利だよな、その魔法」
「そうね。私たちだと水魔法でも良いとは思うけど、ある意味ではこちらの方が確実よね。水だと、しっかり消えているか確認が必要だから」
 『消火』の場合、指定範囲の火をしっかりと消してくれるが、水魔法で火を消す場合は、やっていることは消防車で水を撒くのと同じである。
 実際の火災現場で、火が消えていてもかなり念入りに水を撒いているように、案外火種が残っていたりしてあとで発火することがあるのだが、『消火』であれば、その心配が無い。
「それでは戻りましょうか。トーヤくんも大分待たせていますし」
「だね。1人で暇してるんじゃないかな?」
「いやぁ、トーヤのことだし、訓練でもしてるんじゃないか?」
「あり得るわね」
「ですね」
 そういうところ、案外真面目だからな、あいつ。
 俺たちは慣れない森の中での操車に少し苦労しつつ、来た時よりも多くの時間を掛けてトーヤのところに戻ったのだった。