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074 成果は?
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
ナオの怪我を治療。
オークとオークリーダーを急いで解体して、その場所を急いで離れる。
 結局あの後、俺たちは森の外まで移動した。
 肉体的だけでなく、精神的な疲れもあり『安心できる場所で休みたい』と全員の意見が一致したのだ。
 森の外の草地に腰を下ろし、揃って息をつく。
「いやー、無事に生き残ったが、思った以上に強敵、だったな」
「そうですね。オークリーダー相手に単独で戦うのは、少なくとも森の中では少し厳しいです」
 オークリーダーの移動も制限されたが、どちらかと言えばナツキの方が、より動きづらそうだった。
「ナオは、今回は結構な怪我をしたよな。他に怪我人がいなかったのは幸いだが」
「ぐっ! ――いや、撃破数は俺、1位だよな? 3匹は確実、更に2匹は半死にしてるわけだし。個人的には、トーヤの活躍が少ないと思うぞ! 2匹しか相手にしてないし」
「いや、それは……否定できないが」
 トーヤが3匹受け持ってくれればもう少し余裕があったし、2匹でも素早く斃せばナツキの援護に入るのももっと早くできただろう。
「それは私も少し思ったかな。トーヤの技量なら、もう少し早く斃せそうな気はする」
「2匹同時にというのがやっぱりネックだな。慣れてないから」
「今度から訓練では、複数相手で模擬戦するのも良いかもね。宿の庭じゃ無理だったけど、せっかく土地も買ったんだし」
「そうだな」
 これまでの訓練では、互いに戦う事はあったが、ユキの言うとおり、場所的な問題から、1人対複数の訓練はしてこなかった。しかし今なら、少し足を伸ばせば自由に使える土地があるのだ。訓練にはもってこいだろう。
「ナオは何で怪我したの?」
「あー、一番の原因は槍を折られたから、だな」
「そういえば持ってないわね?」
「す、すみません! 私が高い槍を使ってたから――」
 ナツキが頭を下げてそんなことを言ってくるが、俺は慌てて首を振って否定した。
「いやいや、それは全然問題ない。というか、ナツキがあの槍を使ってたら、多分シャレにならなかったと思うし」
 オーク相手でもあまり刺さらないのだ。オークリーダー相手なら、全くダメージを与えられなかった可能性が高い。
「それに、俺も折られた後の対応が少しマズかった気がするからな。ただ、もう少しマシな槍と替えの武器は用意した方が良いかもしれないな。俺に限らず」
「そうね。今ナツキが使っているのと同じぐらいの物は買うべきかもしれないわね。替えの武器も、マジックバッグのおかげで持ち運べるし。私も、弓以外の武器も練習するべきでしょうね。今回はちょっと困ったから」
 ハルカ、弓を使って殆ど接近戦みたいな事をしてオークを1匹引きつけてたんだよな。
 動きの速さと弓の腕があるからこそ成り立っていたが、かなり危うい感じではあった。少しだけでもオークを止められる前衛がいれば、距離を取って簡単に斃せたんだろうが、今回みたいに近づかれたときのことも考える必要はあるだろう。
「ナツキは……特に言うことは無いかな。頑張ってたと思うから」
「そうでしょうか? 結局、皆さんの援護がなければ致命傷を与えることもできませんでしたし……」
「今回は場所が悪かっただろ。回り込むことができない状態で、正面から挑んであれなら十分だと思う」
 むしろ、良くそれだけの度胸があると思う。
 あの巨体の前に立ち、凄い勢いで降ってくるデカい棍棒を避けて槍で攻撃を加える。
 掠かすっただけでも飛ばされるような状況で、冷静に行動できるんだから。
 俺なんてオークの棍棒、しかも振り下ろしじゃなくて振り上げで木の上まで飛ばされたわけだから、その威力はよく解る。
「そういえば、ユキは上手くオークの攻撃をいなしていたよな?」
「あ、うん。それは確実に【筋力増強】のおかげだね。普通なら力負けする状況でも、何とかできたから。幸い【鉄壁】が活躍する状況はなかったけど、かなりの効果はありそうだよね、魔力による身体強化」
「俺も覚えていたら、骨折せずに済んだかな?」
「いや、あそこまでポッキリ行く状況だと、どうかなぁ? レベル1とかじゃ無理じゃない?」
 そうか。でも頑張って覚えよう。かなり痛かったから。
「しかし、やっぱり怪我は危険ね。ゲーム的に言うなら、『HPが2割減』とかで表現されるのかもしれないけど、私がナオみたいに片腕が折れたら攻撃力がゼロになるんだから。怪我して怯んだ直後に追い打ちされると死にかねないし……ナオ、良く生きていたわね?」
「ああ、かなり運が良かったな……」
 少し感心したように言うハルカに、俺はため息をつきつつ答える。
 あの時、運良く木の枝がつかめなかったら、結構危なかったかもしれない、マジで。
「結論としては、もう少し訓練しないと、あたしたちにはオーク10匹を相手にするのは危ないって事かな?」
「オークだけなら大丈夫じゃないか? オークリーダーにナツキが向かわなければ、怪我することはなかったと思うし」
「すみません。私が戦おうと言ったばかりに……」
 しゅんとして俯うつむいてしまったナツキに、慌てて声を掛ける。
「あぁ、いや、怪我すること自体は覚悟してたし、別にナツキが悪いってわけじゃないぞ? 単にオークのみの10匹なら対応できるというだけのことで」
「そうよね、上手くすれば怪我をせずにやり過ごせたんじゃない?」
「それは否定できないな」
 槍が折れたとき、一瞬早く後退していれば、そして今にして思えば、時空魔法を上手く使えていれば、もっと巧みに対処できていたかもしれない。
 俺の一番得意な魔法なんだから。
「オークをほぼ一撃で斃すナオの魔法は凄いと思うが、殲滅力が足りないよな。2本同時に、とかはできないのか?」
「かなり無茶を言うな!?」
 最初のショボい『火矢ファイア・アロー』から、オークの頭を吹き飛ばすようになるまで、これでもかなり苦労したんだぞ?
「だって、マジックバッグを作る時って、違う魔法を3つも同時に使ってるんだろ? それを考えれば、同じ魔法を同時に2つ使うぐらい、簡単じゃないか?」
「……そう言われたら、そんな気もするが」
 『火矢ファイア・アロー』を使うときは、威力や速度をイメージして必要な魔力をつぎ込み、標的を確認、そこに当たるように発射する。
 威力と速度を同じにするなら、その部分に関しては問題が無いだろう。ネックとなるのは、別々の標的に飛ばし、命中させる部分か?
 俺は立ち上がり、10メートルほど離れた箇所に2メートルほどの間を空けて2つ印を付ける。
「むむむ……『火矢ファイア・アロー』!」
 2つの発動はオッケー、命中は……微妙にズレたか!
「おぉ、ナオ、凄い! 1回で成功させるなんて」
「言ってみるもんだな。いきなりできるとは思わなかったぞ?」
 ユキとトーヤは手を叩き、素直に褒めてくれるが――
「少しだけ、印からズレてしまいましたね」
「発動も少し時間がかかるし、威力もちょっと低い? ナオ、あの印の真ん中に、1本打ち込んでみて」
「おう。『火矢ファイア・アロー』」
 さっきと同じぐらいのつもりで発動した魔法が、思った通りの箇所に突き刺さり、穴を開ける。
 ハルカがそこまで言って穴を確認、左右の穴と見比べて首を振る。
「威力としては、7、8割かしら? 弱くなっているのは確実だけど」
「もうちょっと威力は上げられないの?」
「できなくはない、が、時間がかかる」
 今俺がオークに使っている『火矢ファイア・アロー』は、3秒以内で確実に発動可能な最大威力をベースとしている。
 魔法の速度、威力、発動時間。
 この3つはトレードオフで、威力を上げるなら発動時間が、発動時間を延ばさなければ速度が落ちる。慣れることで底上げはできているが、現状での最大値がこれなのだ。
「ちなみに3本は?」
「さすがトーヤ、無茶を言う。……『火矢ファイア・アロー』!」
 発動はした。しかし、狙いがかなりズレている。
 最初に付けた2つの印と、後から放った中心の穴を狙ったのだが、きっちり当たった物は1本も無い。最も近い物で20センチぐらい、最も外れた物は50センチほども外れている。
「威力も5割ぐらい? 敵が密集しているか、牽制目的には使えるかもね?」
 再び穴を確認したハルカが、肩をすくめながらそんな風に言う。
 確かにこれでは、戦闘中に使うにはちょっと危ないよな。落ち着いて使える状況でこれだと、焦った状態で使うと下手すれば味方に当たる可能性すらある。
「2本、確実に当てられるように練習してみるかなぁ……」
 使えるようになれば、かなり有利になるだろう。
 オーク10匹程度なら、俺1人で接近までに4匹は間引けることになるのだから。
「ナオの魔法はともかくとして、私たち全員、訓練が必要かもしれないわね。武器と魔法……魔道書、買いましょうか? 家の代金を払っても、その程度の蓄えはあるから」
 現金自体はまだ金貨600枚に達していないが、マジックバッグに入っているオークはそれ以上ある。数十万レア使ったとしても、支払いに困るような状況ではないのだ。
「あたしも武器、買いたいかな? この鉄棒、丈夫だけどオークには効かないし、あんまりあたしの外見に合ってないよね?」
「いや、外見はどうでも良くないか?」
 それに上手いことオークの攻撃をいなしていたし、案外に合っている気もするぞ?
「いやいや、あたしの外見だと、やっぱり短剣とかで、盗賊スタイルが合ってると思わない? ほら、小柄だし」
「否定はしないが、スキル的にはナツキなんだよな、そのポジション」
「ナオに武器を買い直すと、ユキだけがまともな武器が無い事になるから、買いたいなら別に良いと思うけど……短剣、ねぇ」
「え、ハルカは反対?」
「反対というか、教えられる人、いないわよ? スキル無しの状態から使えるようになる?」
「それがあったか!」
 俺たちの武器スキルは、ユキ以外、レベル2~4。
 ユキはトーヤからコピーして、【棒術】をレベル1で使えるようになったが、短剣を使おうと思うと、コピーする相手もおらず、1から試行錯誤するか、他に教えてくれる相手を探す必要がある。
「でもさ、オレが【棒術】を覚えたの、案外簡単だったぞ? 【剣術】があったからだと思うが、ユキも最初は【剣術】を取得して、その後で【短剣術】を取得できるように訓練してみたらどうだ?」
「確かに、それが近道かもしれないわね。できれば、短剣特有の戦い方とか、誰かに教えてもらえたら良いとは思うけど」
「俺としては、短剣に拘る必要は無いと思うんだが。【筋力増強】があるんだ。斧とかバトルハンマー、フレイルなんかも選択としてはありじゃないか?」
「えー、それは可愛くないよ!」
「……そうか?」
 斧やハンマーなどが可愛いと主張するつもりはないが、ナイフは可愛いという部類に入れても良い物か? 俺のイメージとしては、むしろアサシン的に闇からずっぷし、という感じなんだが。
「まあ、ユキがやりたいと言うのですからやらせてみましょう。私、少しだけですが短刀術を知っていますので、教えられることもあるかもしれませんし」
 小太刀を使った武術の一種で、さわり程度だが教えてもらったことがあるらしい。
 薙刀の方に力を入れていたので、大したことは出来ないと言うが、全く縁の無かった俺からすれば十分凄い。
「さすがナツキ、多才だな」
「恐縮です」
 そう言ってはにかむナツキだが、話の中身は物騒である。
「さて、時間的にはまだ午前中なんだけど、これからまた森に入りたい人、いる?」
 ハルカが俺たちを見回すが、俺たちは揃って首を振る。
「今日は……いいだろ」
「そうですね。ナオくんの武器も無くなりましたし」
「俺は魔法もあるが、無理する必要も無いだろ」
「あたしも少し疲れたかな? 【筋力増強】があっても、オークと1対1で対峙するのは結構、精神的に疲労するね」
 そんな全員の意見を聞いて、ハルカも頷く。
「なら、まだ少し早いけど、今日はここで昼食を摂って街に戻りましょうか」
 久しぶりに安全な場所で昼食を取れる状況になった俺たちは、その場で焚き火を起こし、お茶を飲みながら一息。
 早めの昼食を食べ終えた後、足早に街へと戻ったのだった。