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076 戦力アップ作戦 (2)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
ガンツさんのところで、ナオの槍を買う。
ハルカとユキの武器はショート・ソードになるが、在庫がないため注文生産。
トミーの修行を兼ねて、材料費のみで発注する。
 武器屋を出た後は、以前訪れた本屋へ向かった。
 ここでも目的はもちろん、魔道書。
 以前購入しなかった、基礎魔道書、水系魔道書、光系魔道書、火系魔道書を購入する。
 節約のため、基礎魔道書は15,000レアの少しボロい方である。
 更に前回は入荷していなかった風系魔道書があったので、これも購入。
 せっかくの機会だからと他にもめぼしい本を物色し、それなりに需要があるらしく普通に在庫があった土系魔道書、ナツキがほしがった薬学に関する書籍、薬草辞典、普通に便利そうな魔物辞典も加えて、トータル9冊。
 全額で金貨200枚を軽く超えていたが、まとめ買いするのだからと頑張って値引きを引き出し、200枚きっかりで手に入れた。
 9冊で200,000レア。やっぱ、本は高すぎである。
 ただ、これで俺たちが使う魔法に関する一般的な書籍は入手できたので、きっと魔法の習得が捗ることだろう。いや、捗ってくれないと正直困る。金貨200枚は決して安い買い物ではないのだから。
            
 購入した本をまとめてマジックバッグに放り込んだ俺たちは、購入した土地へと直行する。普通なら荷物を宿に置きに戻り、更にはその盗難を心配しなければいけないところなのだが、本当にマジックバッグ様々である。
 その土地には、昨日の今日なのにすでに工事の手が入っていた。
 俺たちが相談して決めた家の場所、門から入って10数メートル真っ直ぐ歩いたところに、かなり広い家の基礎が立ち上がっている。
 これは土魔法使いに依頼して作ってもらうらしく、日本におけるコンクリの基礎を魔法で作った石に置き換えたような感じだろうか。この作業だけで、土魔法使いは結構な額の報酬が貰えるらしい。
 どれくらい丈夫な基礎になるかは魔法使いの腕次第のようだが、しっかりした基礎を作った上で家を建てるという方法を取っているため、この国の家は案外丈夫で、雨などにも強い。
 今、その基礎の周りでは、そこに立てる柱などを大工が加工している。側には資材が積んであるが、とにかく敷地が広いので、俺たちが訓練するスペースは十分にある。
 家の前庭的に10数メートルのスペースは取ったが、家の左右のスペースは家が2、3軒は建てられそうなほどあるし、家の裏側のスペースはその比ではない。
 ディオラさんが『土地を分割して売ったら』と言ったのが解る広さである。
 俺たちは、作業している大工に軽く挨拶をして、裏の広いスペースに移動する。
「それじゃ、今日の訓練だけど……魔法は魔道書を読んでからが良いわよね」
「なら、いつも通り武器の訓練か?」
「ハルカとユキに剣術を教えるのは早い方が良いと思いますが、短剣ができるまではお預けでしょうか」
「一応、オレが使っていた木剣はあるぞ? 長さが違うが」
 そう言ってトーヤがマジックバッグから取りだしたのは、懐かしの木剣。
 最初はこれでタスク・ボアーに対峙したんだよなぁ、トーヤが。頭蓋骨に跳ね返されたけど。
「長さは結構重要だと思いますから……ただの棒の方がまだ良いかと」
 そう言って首を振るナツキを見て、ユキが何か思いついたらしく、指をピンと立てて声を上げた。
「あ、そうだ! せっかく大工さんが居るんだから、お願いしようよ!」
「えっ!?」
 戸惑ったような声を上げるハルカの手を引き、「お仕事以外を頼むのは……」という言葉も無視して大工の居る方へ笑顔で突撃するユキ。
 職人なんて気難しいんじゃ、と思った俺の心配を他所に、ユキはそのコミュニケーション能力を発揮して、笑顔で大工と会話、何やら木刀を作ってもらう方向に話が進んでいるように見える。
「行ったな」
「行っちゃいましたね。ユキのあの能力は感心します」
「自分の外見を上手く生かしているよな」
 トーヤの言うとおり、ユキは自分が幼く見えるところも受け入れ、それを踏まえた行動をしているところがある。
 それを『あざとい』とか、そういう感じではなくやれているあたりが、ユキのコミュニケーション能力の高さなのだろう。
 人は必然、外見に応じた役目を求められる所がある。
 極端なことを言えば、いい年をしてスーツでビシッと決めたおじさんが、子供みたいに菓子をおねだりしたらただのおかしな人だが、子供のような女の子がやれば許される。
 逆に、何らかのクレーム対応で『責任者』として出てくる場合、どちらかが適当かと言えば、当然おじさんの方だろう。
 学校でも、どちらかと言えば少しだけキツいタイプのナツキとハルカ、その2人とクラスメイトの緩衝材としての役割を、ユキは果たしていたように思う。男子があの3人のグループに話しかけるときも、大抵は最初にユキに声を掛けていたからなぁ。
「あっちはユキに任せて、私たちは私たちで訓練をしましょう。まずは……トーヤくんの複数相手の模擬戦、やってみますか?」
「そうだな。ちょうど木剣があるし、これと鉄棒でやるか? さすがに槍2本はキツいだろ?」
「というか、そろそろちゃんと訓練用の武器を揃えるべきじゃないか? いくら治癒魔法があるっても、危ないだろ」
 うん、それはあるんだよなぁ。これまではそこまで頻繁に模擬戦をやっていなかったが、複数を想定した戦闘訓練をするとなると、やはり模擬戦は必要になる。そうすると、事故が起きる可能性も否定できない。
 ちなみに、これまでの戦闘訓練では石突きの方を使っていた。トーヤの剣は打ち身、運が悪くても骨折で済むが、槍の穂先は案外切れるからなぁ。
「今日の所は、有る物でやりましょう。私が木剣を使いますから、ナオくんは鉄棒でお願いします」
「おう、トーヤを滅多打ちにしてやるか!」
「え、オレ、滅多打ちにされるの?」
「嫌なら頑張って対応してくれ。そのための訓練だ」
「いや、頑張るけどさ……結構草が邪魔だな?」
 剣を構えようとして、周りを見回し、トーヤがそんなことをぼやく。
 当分放置されていただけあって、確かに草がボウボウ、一部には灌木すら生えている。
「森の中を考えればマシでしょう。それを含めて訓練だと思えば良いのでは?」
 そう言われてしまうと、あえて草刈りをする必要も無いか。
 俺は鉄棒を構え、トーヤを促す。
「しゃあねぇ。やるか!」
「おう!」
 それを合図にトーヤに打ちかかる俺とナツキ。
 基本的にはナツキがトーヤと打ち合い、俺がその周りを移動しながら適当に手を出していく。
 俺に【棒術】スキルは無いし、ナツキに【剣術】スキルも無い。
 それ故にトーヤはなかなか見事に凌いでいるのだが……ナツキ、案外剣の扱いが様になってるな? 剣道でも囓っていたのだろうか?
 そんな攻撃を続けること30分ほど。途中でナツキと役割を入れ替わったりしながら攻撃を続けていると、俺も大分鉄棒の扱いに慣れてきたのか、トーヤの剣や盾を抜けて攻撃がヒットするようになってきた。
 もちろん、当たる瞬間には寸止めに近くなるようには努力しているのだが、そんな技術も無いので、適度にビシビシと当たっている。
 トーヤからは「ビシビシ違う! ドカドカだ!」みたいな抗議が聞こえそうだが、レベル3を持ちながら、スキル無しの2人の攻撃を防げないトーヤが悪いのだ。うん、そうに違いない。
「ちょい待て! ナオ、攻撃が、速く、なってる!」
「そう! か! そんな気は! しないでも! ない! 頑張れ!」
 まだ喋る余裕はあるらしい。少しだけ、ナツキの攻撃も激しくなった気がする。
 取りあえず、剣を手放すまでは攻め続けますぞ?
 ナツキと視線を交わし、更に攻め続けること2分ほど。
 一気に飛び退いたトーヤが手を上げた。
「待った! 休ませてくれ!」
 それだけ言うと、トーヤは剣を手放すと、地面の上に転がり、「だぁぁぁ!」と大きく声を上げて、息をついた。
 さすがに30分以上、神経を使いながら動き続けるのはキツかったようだ。
 俺とナツキはまだ緩急を付けて交代したりしていたが、トーヤは1人で受け続けるわけだからな。
「お前たち、動きが素人じゃねぇよ!」
 寝っ転がったまま、ビシリと指を指すトーヤに、俺は肩をすくめる。
「いや、素人じゃないから」
「そう言う意味じゃねぇよ。スキルが無いとは思えねぇよ」
「刀は多少扱ったことがありましたから」
「鉄棒は槍の応用で扱えるからな。……あ、【筋力増強】が生えてるわ。ついでに【棒術】も」
 道理で途中から、鉄棒が軽く感じられるようになったと思った。
「【棒術】、大盤振る舞いだな!? しかも、【筋力増強】まであっさり取ってやがるし」
 まぁ、【棒術】はトーヤもあっさりと取った上に、レベル2にまでなったスキルだからな。レベル1程度なら、武器関連のスキルを持っていて、棒もそれなりに扱えれば取れる程度の物なのかもしれない。
 ただし、【筋力増強】はちょっと違う。
「いやいや、【筋力増強】はそれなりに努力してたんだぞ? 昨日から今日にかけて」
 昨日訊いたユキの説明を念頭に、魔力を身体に巡らせて物を持ってみたり、流れる魔力を把握できるように頑張ったり。ただ、今日のオークとの戦闘中や、先ほどの模擬戦の間はそのあたりを意識する余裕がなかったのだが……案外なんとかなるもんだな?
「あら? 私も【刀術】というのが増えています。【剣術】とは別扱いなんですね」
 ナツキも自分のステータスを確認したらしく、ちょっと不思議そうに首を捻ってそんなことを言った。
 木剣・・を使っていたんだから、普通なら【剣術】になりそうだが、ナツキの扱い方が剣とは違ったということなのだろうか? 確かに、叩きつける剣と切りつける刀は扱い方が違うので、【剣術】と【刀術】が分かれるのはおかしくはないのだが。
「簡単に取れたり、なかなか取れなかったり、よく解らないところがあるよな、スキルって」
 これって邪神さんの胸三寸なんだろうか?
 スキルが増えたり、レベルアップしたりしても、ピロン、とか言ってログが通知されるわけじゃないから、すぐには気付かないし……。
 あ、よく見ると【槍術】がレベル3になってる! よしっ!
「簡単に取れるのは、既存のスキルから応用が利く物、それと元の世界でできたことじゃないか? ナツキはちょっと囓ってたんだろ?」
「えぇ、ほんのちょっとですけど」
 トーヤの言葉に、ナツキが頷く。
 他に比較的簡単に取れた物と言えば、ナツキの【裁縫】とかだな。ナツキは元々裁縫ができたから、おかしくはない。
 キャラメイクの時は別として、やはりスキルがあるからできるのではなく、できるからスキルとして表示されるんだろう。
 そのタイミングが意識して使ったとき、という感じなのだろうか。
「休憩中?」
「良い感じの木刀ができたよ。ほら!」
 俺たちがそんな話をしていると、手に短い木刀を持ったハルカたちが戻ってきて、声を掛けてきた。
 ユキは嬉しそうに木刀を俺たちに見せてくるが、確かに良くできている。練習にはただの棒でも問題無さそうなのに、曲がりなりにも剣と解る形になっているのだから。
「ちょっと休憩中です。トーヤくんがバテてしまったので。せっかくですから、早速2人の指導を始めましょうか?」
「そうだな。基礎ができれば各自で訓練もできるし。ナオはどうする?」
 トーヤとナツキ、2人が指導に当たると、俺の模擬戦の相手が居なくなる。自主訓練でも良いのだが――。
「俺はしばらくここで魔道書でも読んでるよ」
「そう? じゃ、やりましょうか」
 そう言って木剣を構えたハルカたちから離れ、俺は荷物を置いてある場所に移動して座り込むと、マジックバッグから魔道書を取りだした。
 選んだのは、基礎魔道書。他の魔道書と違い、これはトーヤ以外の全員が最初に読んだ方が良さそうな本なのに、1冊しか買っていないのだ。
 俺が先に読んでおいた方が面倒が無くて良いだろう。さすがに2冊買うのは無駄だからな。
 購入した基礎魔道書は少々傷んではいるが、読むのに支障が出るほどでは無い。
 俺は本をそっと開くと、最初から読み始めた。