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081 実践 (2)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
森でオークと戦闘。
訓練の成果もあり、10匹のオークでもさして苦労することなく斃せるようになる。
「今日の反省会~~!」
「……どうしたの、ユキ、いきなり。大丈夫?」
 宿の部屋に戻るなり、突然そんなことを言ったユキに、ハルカが訝しげな顔を向けた。
「大丈夫って、酷いね!? やるでしょ、反省会」
「そりゃするけど……」
「たまにはタイトルコールが必要かと思って。いつも何となく始めてたから」
「メリハリを付けよう、ということですか? そうですね、悪くないと思います」
 うんうん、と少し嬉しげに頷くナツキに、ユキはちょっと困ったような表情で苦笑した。
「いや、何となく言っただけで、きっちりやろう、という話じゃないんだけどね」
「そうなんですか……」
 ナツキが少し残念そうな顔になる。
 俺たちの中では一番真面目だからなぁ、ナツキは。
 他のメンバーは、多少差はあれ、やることやってればそれで良いよね、というタイプである。
 夏休みの宿題で例えるなら、ナツキは毎日少しずつやるタイプ。ハルカとユキは受け取ったら数日で終わらせるタイプ。
 俺は気が向いたときに、数学なら数学だけを一気に終わらせる。それを何度かやって、夏休みの半分ぐらいですべて終える。
 トーヤは結構適当で、始まってすぐにやってしまうこともあれば、終わり間近に一気になる事もあり、場合によっては提出直前まで引っ張ることもある。それでも遅れることは無いのだから、これも一種の才能かもしれない。
「反省会か……取りあえず、特訓の成果は出ていたよな?」
「ああ。――スキルの成果という方が近い気もするが」
「スキルも特訓の成果だろ。特訓して身につけたんだから。結構、痛い思いをして」
 幸い、【鉄壁】、【魔法障壁】の出番はなかったが、【筋力増強】と【韋駄天】については、十分に効果を発揮していた。
「魔法もかなり便利になったよね。あたしとナオで一度に4匹斃せるのは大きいよ」
「そうですね。複数相手の戦闘はする機会は無かったですが……試してみても良かったかもしれませんね」
「ユキとハルカの接近戦に関しては、あんな物だろうな。極論、斃す必要は無いんだから」
 ユキは少し中途半端だが、ハルカは完全な後衛なのだ。怪我をしないように時間を稼いで、誰かの介入を待つのが正しい選択だろう。メインの治癒担当のハルカが脱落するのはリスクが高すぎる。
「私としては、弓の威力が気になるかしら。今の弓だと、オーク相手だと少し不足なのよね」
 ハルカの弓のみでオークを斃す場合、平均すると3本程度で斃している。
 上手く行けば1本で斃すこともあるのだが、身体に当たった場合にはあまり効いていないと感じることも多い。
「もうちょっと強い弓を、ってこと?」
「【筋力増強】があるから、それも手かな、とは思う」
 弓が軽くなった分、前よりも早く撃てるようになったらしいが、その性質上、威力は変わらないのだ。
「確か、火魔法には『火炎武器エンチャント・ファイア』ってあったよな? あれは?」
「まだ使えないが、使えたとしても、『火矢ファイア・アロー』を使う方が早いだろ」
「……それもそうか」
 『火炎武器エンチャント・ファイア』の発動時間が『火矢ファイア・アロー』よりも大幅に短いのなら一考の価値はあるが、今のところ発動に成功もしていないので、机上の空論である。
「あたしとしては、ハルカも攻撃魔法を覚えるのが早い、と思うんだけど。風、水共に攻撃魔法はあるし、新しく火魔法を覚えることも可能でしょ? 魔道書に載ってない魔法を作るって手もあるよね?」
「私としては、治癒魔法を使うため、魔力は温存しておいた方が良いかと思ってるんだけど」
「あ、それもあるのか……」
 これまでハルカの治癒魔法に世話になった回数はそう多くないが、確かに癒やしてもらえるという安心感は大きい。そう考えると、ハルカが戦闘にはあまり魔力を使いたくないという思いも理解できる。
 だが、それに異を唱えたのはナツキだった。
「私としては、多少は良いと思いますけど。私も光魔法がレベル3になりましたし、戦闘時には一切魔力は使っていません。半分程度を目安にしておけば、魔力を使っても大丈夫じゃないですか?」
「……そうよね、ナツキも使えるのよね。なら、少し練習してみようかしら。ナオ、よろしく」
「俺か?」
「だって、攻撃に関しては火魔法が一番、簡単でしょ?」
「ま、そうだな。魔道書でもレベル1から攻撃魔法が載ってるし」
 他の系統の魔法で、単純な攻撃魔法が出てくるレベルは3から5の間。光魔法に関しては、攻撃魔法自体が載っていない。
 魔法の自由度を考えれば、使えないということは無いだろうが、基本的に光魔法使いに求められるのは治療なのだろう。
「それじゃ、次に狩りに行くのは、ハルカが攻撃魔法を使えるようになってから、か?」
「そうですね。オークの数を考えると、恐らく次は巣の殲滅になるでしょうから、その方が安心ですね」
 偵察したときに居たオークの数。その時以降に俺たちが斃したオークが28匹。
 そう考えると、ナツキの言うことには一理ある。
「それじゃ、それを目標にして、各自頑張りましょう」
 ハルカのその締めの言葉で、その日の反省会は区切りとなった。
            
 翌日からは再び訓練。
 俺たちが土にまみれてたり、魔法に打ち据えられたりするその横で、見る見るうちに家が形になっていく。というか、滅茶苦茶建築速度が速い。
 雑用をしているアルバイト的な人員はともかく、大工だけでもかなりの数が参加している。
 正直、これだけの数の大工がいても、この街では仕事がない気がするのだが……。
「あぁ、それ? 私も疑問に思ったから聞いてみたんだけど、この街って、家具の生産が盛んなんだって」
 ハルカ曰く、これらの大工は普段は家具を作っている大工で、家などの建築工事が入ると、互いに声を掛け合って、一緒に工事を請け負うらしい。
 すぐに現金が入る建築工事は大工にとってもありがたく、発注者としても短期間で作ってもらえるのでありがたい。
 そんなわけで、この街ではこの形態が定着しているのだとか。
「家具生産……初めて知った」
「うん、私も。今まで、そんなことを気にする余裕も無かったからねぇ」
 自分たちの住んでいる街の産業よりも、まず自分たちがどう生活していくかの方が大事だったのだ。そこは仕方ない、というものだろう。
「でも、なんで家具? 理由はあるのか?」
「一応あるみたいね。この街の北、山麓のあたりで採れる銘木を使った特産を、ということで作り始めたのが、家具なんだって」
「ふーん……あのあたりで、伐採なんてしてたのか」
 危険なので近寄るな、と言われた覚えはあるが。
 もしかして、大事な資源なので保護されていて、近寄ったら罰則があるとかだろうか。例えば屋久杉の様に、昔は伐採されていたが、今は禁止されている、的な?
「いいえ、今は伐採はされてない……と言うより、できないみたいね」
 昔はあの辺りに出てくる魔物は強くてもオーク、ごく希にオーガーが現れて騒ぎになる程度だったらしい。
 ただ、何時の頃からか少しずつ魔物の脅威度が上がっていき、銘木の買い取り価格と危険度が釣り合わなくなった。そうすると、そこに伐採に行く木こりを護衛する冒険者がいなくなり、結果として銘木も手に入らなくなる。
「今僅かに残っている銘木は、かなりの価格がつり上がっているみたいよ?」
「じゃあ、あの大工たちは?」
「今は南の森から採れる木を使って、普通の家具を作ってるんだって。昔、所謂銘木バブル? その頃に磨いた腕があるから、それなりに引き合いはあるって」
 ほうほう。希少な素材に依存せず、腕もきちんと磨いていたのか。凄いな。
 もしくは、そういう適当な仕事をしていた大工は潰れて、今残っている大工は、そういう大工というだけかもしれない。
「家の品質は心配なさそうだな」
「えぇ。予算もケチってないから、そこは安心だと思うわよ?」
 そう言って家の方に視線をやるハルカ。
 すでに柱は立ち上がり、屋根もできている。今は壁や床に取りかかっている最中である。
 基本的にはすべて無垢材、一部に漆喰の塗り壁と石畳という構造なので、工事の進みはかなり早い。
「……こうやって見ると、断熱材とか、使わないんだなぁ」
「そうね。日本なら、壁材の裏にグラスウールや発泡ウレタンを詰めるところよね……寒さ、暑さは大丈夫かしら?」
「天井裏にも断熱材、無いしな」
 この国の一般的な工法なので、大丈夫と思いたいが、我慢しているだけ、という可能性も否定できない。
「錬金術で何かそんな素材、作れないのか?」
「グラスウールは後からは施工しにくいわよね。発泡ウレタンなら、穴を開けて注入できるかしら?」
「いや、単純な構造だし、普通に板を剥いで打ち付け直しても大丈夫だろ」
 『石膏ボードの上に壁紙』の様な構造なら、一度剥がすと直せないが、ただの板ならそのへんは融通が利きそうである。
「……1年過ごしてみて、不都合があるようなら、考える、ってことで」
「……そうだな。案外、過ごしやすいかもしれないしな」
 現代人メンタルな俺たちに、どこまで我慢できるか解らないが。
 昔の日本人、障子、だったんだよなぁ? 冬の寒さとか、良く耐えられたものである。
「――あ、そういえば、火魔法、レベル2に『暖房ワームス』ってのがあったな」
「そういえばそうね」
「更に、レベル5には『防冷レジスト・コールド』、レベル6には『防熱レジスト・ヒート』。上手くすれば、『冷房クールズ』も作れる、か?」
「それは、火魔法の習得意欲が涌く話ね」
 本来の使い道は、屋外活動時や極限状態での対策に使う魔法なのだろうが、普段の生活で使っても全く問題は無いだろう。
 唯一の問題点は、使い続けていて、俺の魔力が持つか、である。
 ハルカが使えるようになれば、過半数が火魔法を使えるわけで、負担はぐっと減る。
 2人が使えて3人が使えない状況と、3人が使えて2人が使えない状況は全く違うのだ。具体的には負担が半分以下。
「よし、ハルカ、頑張れ」
「えぇ、快適な生活のために!」
 ……当初の目的とは少し変わった気がするが、意欲があるのは良いことである。
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