# 075 戦力アップ作戦 (1) 前回のあらすじ ------------------------------------------------------ 今回の戦闘を総括。 現状ではオークリーダーを含む10匹以上のオークには戦力不足。 武器の新調や魔法の習得を目指す。 ---  街へ戻ると、いつものようにギルドでオークを売却。ただ、所持金が心許ないので、今日売ったのは6匹。  その足でガンツさんの武器屋へと赴く。 「こんにちは~」 「いらっしゃいませ」  そう言って出迎えてくれたのは、初めて見る中年を過ぎたおばさん。  俺が来たときはいつもガンツさんが店番をしていたんだが、店番を雇ったのか? トミーの指導もあるだろうし。 「あ、シビルさん」  と、思ったのだが、どうやらトーヤは知り合いらしい。  視線で問いかけると、「ガンツさんの奥さん」と教えてくれた。  なるほど、結婚していたのか。まぁ、あの年齢なら普通は結婚してるか。定職も持っているわけだし。 「ガンツさん、今大丈夫です? ちょっと相談があるんだが」 「主人ですか? ちょっと待ってください、呼んできますから」  シビルさんは俺たちに軽く頭を下げて、奥へと下がる。 「ガンツさん、結婚してたのね」 「ああ、実はオレもこの前知った。仲は良いみたいだぞ?」  トーヤによると、ガンツさんが奥で仕事をしているときに奥さんは店番をしているので、俺たちが出会えなかったのはたまたまだったらしい。  それから待つこと暫し、布で顔を拭きながらガンツさんが奥から出てきた。 「おう、お前たちか。今日は何だ?」 「仕事中すまない。ナオの槍と、ハルカとユキの武器を見繕ってくれ」 「ん? ナオはこの前買ってったよな? あぁ、今はそっちの嬢ちゃんが使ってるのか」 「俺は魔法があったから。同じヤツで良いと思うんですが、ありますか?」 「黄鉄と擬鉄木の槍だよな? ちょっと待ってろ」  そう言って奥から出してきたのは、ナツキが持つ槍と同じ物。それに、穂先から柄まですべて黒一色の物。 「こっちはその嬢ちゃんが持ってるのと同じヤツだな。で、コイツは一見黒鉄の様だが、魔鉄で作った槍だ。強度も鋭さも一段上だぜ?」  黄鉄と打ち合えば、魔鉄は無傷で黄鉄が欠けるぐらいの違いはあるらしい。  せっかくなので持たせてもらったのだが―― 「重っ! これはちょっと無理!」 「扱えれば良い武器なんだがなぁ……」  魔鉄自体は黄鉄とさほど重さに違いは無いのだが、柄まで魔鉄を使っているためにかなり重くなっているらしい。  ちなみに、値段の方はおおよそ5倍。予算的にも無理である。 「穂先だけ魔鉄なら買っても良いんですけどね」 「このレベルの槍を使うヤツは、この程度の重さでも問題ねぇんだよ。ゴブリン程度ならこの柄で叩くだけで頭が砕けるしな!」  この重さと硬さ、それに柄の長さがあれば、確かに振り回すだけでゴブリンの頭蓋骨ぐらいは軽く砕けるだろう。  今後、俺が強くなれば検討しても良いが、今は素直に黄鉄の槍を選ぼう。値段的にも600万円の槍とか、国宝レベルだろ。こっちだと実用品だけどさ。 「次は、ハルカ、お前の武器か? 弓だけじゃねぇのか?」 「使いこなせるのは弓だけなんですが、近寄られたときに使える武器が欲しいと思いまして」 「希望はあるのか?」 「特にないですが……{刺突剣}(レイピア)とか?」 「{刺突剣}(レイピア)? 普段は使わねぇんだろ? 邪魔だと思うぞ」  そう言いながらガンツさんが持ってきた剣は、細くて長い刀身を持った物。  その長さは1メートルは超えるほどもあり、結構重い。  少なくともこれを身につけた状態で、今のように身軽に木に登ったりすることは難しいだろうし、弓を使うときにも邪魔になりそうである。 「確かにこれは、予備の武器としては厳しいですね。案外重いですし」 「だろ? 俺としては、こんくらいの長さのショート・ソードが適してるってぇ思うんだが」  今度の剣は、柄の部分を合わせても50センチほど。これぐらいであれば腰にぶら下げていても、さほど邪魔になりそうにない。  ハルカもその剣を手に持って軽く振ったり、腰に当てたりして頷いている。 「現実的にはこのぐらいですか」 「ハルカが格闘戦ができるなら、拳に付ける武器もあるが、できねぇだろ? ナイフなんかも邪魔にはならねぇが、魔物相手じゃあんま使えねぇしな」 「なら、このあたりでそれなりの物を見せてもらえますか?」  ハルカがそう言うと、ガンツさんは苦笑しながら、頭をかいた。 「あー、勧めておいて悪ぃんだが、さっきの黄鉄の槍レベルの物の在庫はねぇな。高ぇのならあるが、予備の武器にそれはねぇだろ? 今持ってるそれは安すぎるだろうし」  ガンツさんが店頭から持ってきたのは、普通の鉄で作った駆け出し向けの物で、価格も数百レアとかなり安い。いくら予備の武器とはいえ、このレベルの武器は無いだろう。 「となると、注文ですか」 「おう。――そうだなぁ、おめぇらはトミーの友人だったよな? 何だったらアイツに練習がてら作らせるか? まだ店に並べるレベルにはねぇが、材料費だけで受けても良いぜ? 少なくとも、材料費分よりはマシな武器が作れるぞ?」  今のトミーだと、同じ素材を使っても、さすがにガンツさんには勝てないらしい。  その不足分を素材により良い物を使うことで補い、実費のみで作らせてはどうか、という提案である。  俺たちとしては、ほどほどの値段でそれなりの武器が手に入り、ガンツさんとしては、トミーの修行に使う材料費が浮く。どちらにも利のある提案である。 「それじゃ、お願いしましょうか」 「おう、一区切り付いたら呼んでくるから、少し待ってくれ。それで、そっちの嬢ちゃんは?」  そう言ってガンツさんがユキに目を向けるが、ユキはちょっと困ったような表情で尋ねた。 「あたしは、ナイフって思ってたんですが、魔物相手だと役に立たないんですか?」 「難しいなぁ。ナイフだとひたすら切りつけて失血死を狙うか、急所を狙うか……。人相手ならともかく、魔物相手だと心臓を一突きしても、刃が心臓まで届かないことすらあるぜ?」  イメージとしては象をナイフで斃すような感じだろうが。  俺は象の心臓がどこにあるのか知らないが、確かにナイフを刺しても届きそうにないし、首の頸動脈を狙うのも厳しそうである。 「じゃあ、あたしみたいなタイプだと、何がお勧め?」 「嬢ちゃんはちっせぇからなぁ。フレイルとか……力と体重があれば、戦槌、槌矛、ポール・アックスなんかもありだな」  基本的に、遠心力を使って叩きつけるタイプの武器だな。  フレイルとかモーニングスターとか、あの辺りの武器はあまり力が無くても、上手く使えば厚い鎧越しにもダメージを与えられると聞いたことがある。そう考えれば、ユキに向いているのかもしれない。  ゲームなんかではたまに、戦槌のようなでっかい武器を小柄なキャラが振り回すというシチュエーションがあるが、実際には【筋力増強】があったとしても、カウンターウェイトがなければどうしようもないだろう。  それこそガンツさんが言うように『体重が重くなければ』不可能である。 「う~ん、フレイルかぁ……可愛くない」 「おめぇ、戦いに可愛さなんて求めんじゃねぇよ! 接近戦がメインじゃねぇのなら、ハルカみたいな短剣って手もあるが……」 「あ。あたし、一応、魔法がメインかも?」  首を捻ってそんなことを言ったユキに、ガンツさんが噛み付く。 「『かも』って何だよ! その鉄棒を持って魔法使いとか、舐めてんのか!? メイジスタッフでも持ってろ!」  メイジスタッフとは、魔法の発動を手助けする杖で、持っていることで魔法の威力を上げることが可能、また多少なら敵を殴って攻撃することもできるらしい。  ただし、あまり激しく殴りつけると、メイジスタッフとしての機能が損なわれるようなので、今日みたいにオークの攻撃を受け流すような使い方はできないだろう。そもそも、木製が殆どらしいので、鉄棒みたいな強度は期待できないのだが。 「ここにメイジスタッフは置いてないの?」 「ウチにはねぇな。必要なら知り合いの店を紹介してやる。ただ、その鉄棒で戦えてるっつうなら、指輪の発動体を買って、別の武器を扱う方が戦力的には良いかもな。結構高ぇが」  メイジスタッフと同じような効果のある物として、指輪型、ネックレス型などいろんな発動体が存在するようだが、いずれも良いお値段がするらしい。  普通のメイジスタッフは初心者から上級者までが使い、それ以外の発動体は中級者以上が使うため、そういう価格設定になっているだけで、効果としては値段相応なんだとか。 「それなら、あたしもトミーに頼もうかな。ガンツさん、良い?」 「ああ。アイツも修行ができて良いだろうさ。アイツの作業の区切りが付くまでしばらく待っていてくれ」 「わかった」  そう言い置いて店の奥へ入っていったガンツさんを見送り、俺たちは店の隅に置いてあった腰掛けに座った。 「取りあえず、それなりの物は手にできそうだな」 「そうね。短剣の訓練は必要だけど……トーヤとナツキ、お願いね?」 「おう。剣術に関しては任せろ」 「私の知識が役に立てば良いのですが」 「うーん、トミーにはそれっぽい物を作ってもらいましょ」  そんな話をしながら30分ほど待っていると、ガンツさんに連れられてトミーが出てきた。  ガンツさんはカウンターに座り、トミーだけがこちらに来てぺこりと頭を下げた。 「こんにちは。昨日振りですね。ボクに武器を作らせてくれるとか?」 「ええ。利害の一致というヤツね。私とユキの短剣を作って欲しいのよ」 「用途を考えたら、頑丈なのが良いね。短刀……片刃でも良いかな?」  ナツキが教えられるのが小太刀を使った武術ということであれば、ユキの言うとおり、確かにその方が良いのかもしれない。 「頑丈さ優先の脇差しみたいな物でしょうか……切れ味、頑丈さ、重量、優先するのは何でしょう?」 「冒険中に使う物だから、メンテナンスフリーとは言わないけど、毎回手入れしないと使えなくなるような物は困るわね」 「切れ味も欲しいけど頑丈さ優先かな? 万が一、折れたら死ぬわけだから。重量はある程度は許容できるよ。【筋力増強】もあるしね」 「なるほど……好きにやらせてもらって良いんですか?」 「条件を満たすなら。あまり趣味に走られて使いにくいのは困るけど」  そうハルカが言うと、トミーは嬉しそうに笑って頷いた。 「わかりました! それで、予算は?」 「そうね……1本金貨100枚以内で、2本」  ハルカがそう言ってガンツさんに目をやると、了解、と言うように頷いている。 「納期は、どれくらい頂けますか?」 「早い方が良いけど、手抜きは困るから、1週間でどう?」  再びガンツさんに目をやると頷いている。トミーも頷いているので、オッケーな様だ。  更に代金の支払いは品物の受け渡し時で良く、できあがったときは同じ宿に泊まっているトミーが俺たちに知らせることなどを決める。  そして俺たちは、俺の槍の他に解体用の大型ナイフなどをいくつか見繕い、それらを購入してから店を出た。