# 082 オークを殲滅せよ 前回のあらすじ ------------------------------------------------------ 宿に戻って反省会。基本的に特訓の成果が出たという結論。 ただ、より殲滅力を上げるため、ハルカも火魔法を覚えることに。 再び狩りを休み、訓練を始める。 ---  ハルカが『{火矢}(ファイア・アロー)』を使えるようになるまでかかった時間は3日。  これが早いか遅いかは解らないが、一度使えるようになれば魔力の操作自体は俺たちに匹敵するのだ。すぐに2本同時の発動も成功させる。  威力も申し分ないので、オークも軽く斃してくれるだろう。 「それじゃ、いよいよオークの巣の殲滅に向かうことになる、のかな?」 「そうですね。今の私たちならなんとかなると思います。懸念すべきは、オークリーダーが少なくとも2匹、場合によってはそれ以上居る可能性があること、ですが」  これまでオークを80匹ぐらい斃している。30匹あたりリーダー1匹と換算するなら、ナツキの試算は間違っていないだろう。 「前回、ナツキが抑えてくれただろ? 今回はオレも抑えるし、その間に残りのオークを殲滅して……3匹居たときは、ナオ、頑張れ!」 「俺!? ……仕方ない、のか?」  ハルカは論外。武器を変えた今のユキも難しいだろう。  そうなれば、残るは俺しかいないのは自明なのだが……あの巨大なオークリーダー、俺に対処できるかと言われると、ちょっとヤバい。 「3匹居た場合は、戦闘は避けるべきでしょう。ナオくんの索敵頼りにはなりますが」 「そうね。ナオに任せるのはリスクが高い。一番は戦端を開かない。戦闘中に乱入されたら、場合によっては撤退も視野に入れるという方針で行きましょ」 「ナオだと、オークリーダーの一撃でぺしゃんこだしねー」  ……うん、俺もそう思うんだけど、ちょっとモヤッとするのは仕方ないよね?  頼りないと言われているようなものだし?  さすがにここで意地を張って、俺が戦う、と言うほどには子供じゃないが。 「なら、その基本方針で行くか。ナオも良いか?」 「おう。無謀なことはするつもりはないさ」  俺も頷き、早速森へと向かう。  辿る経路は前回と同様、オークの巣を中心に渦巻き状に近づいていく。  俺の索敵範囲の半分程度の距離を目安に、1周毎に巣に近づいていくのだが、一向にオークが引っかからない。  3周ほどして、オークの巣本体が索敵範囲に引っかかる直前で一旦停止して、前回同様、ナツキと俺で偵察に出る。今回はオークの巣全域が索敵範囲に入るまで近づき調べる。 「……全部で20匹。うち2匹がオークリーダーだな」 「大分減りましたね。戻りましょう」  状況を確認できればもう用はない。オークに気付かれないように、ハルカたちの所へと引き返す。 「どうだった?」  そう訊いてくるトーヤに結果を伝えると、トーヤは嬉しそうに頷く。 「それなら問題なく斃せそうだな?」 「ああ。油断しなければ問題ないだろう」  それから全員で少し相談して方針を固める。  俺たちには都合の良いことに、巣はある程度の大きさがあり、オークたちはその全域に散らばっていて、一カ所に固まっているわけではない。  それを考慮して決まった方針は、最初に風下から近づいて、魔法で不意打ちを行う。  その攻撃で近寄ってくるオークを可能な限り遠距離攻撃で斃し、近距離まで近づかれたら、トーヤかナツキが対処する。  オークリーダーがやって来た場合は、最初の予定通り2人で抑えながらやや離れた場所に誘導し、残りのオークはできる限り俺とユキ、それにハルカの3人で斃しきるという作戦だった。 「じゃ、行きましょ」  先頭はトーヤ。  俺の案内で進んでいくと、やがてオークの巣が見えてきた。  実際に直接見るのは初めてだが、そこは粗末な集落という様相を呈していた。  切り開かれた森の中に、柱を立てて屋根を付けただけの構造物が並んでいる。  壁などはなく、屋根も木を組んだ上に葉っぱの着いた枝を乗せただけの物である。  手作りの棍棒を持っていただけにある程度の知能はあるのだろうが、木を杭として打ち込んだり、蔦を使って結んだりする程度で、石器を使うほどでは無いようだ。  そんな屋根の下に何匹かオークが寝転んでいるのが見える。  俺たち3人は互いにハンドサインで互いの担当を確認し合い、一気に『{火矢}(ファイア・アロー)』を放った。  消し飛ぶオークの頭と響く叫び声。叫び声を上げたのは、俺たちのターゲットとならなかったオーク。ターゲットになったオークは声を上げる間もなく死んでいる。  何が起きたか理解できない様子でうろたえているオークにも追い打ち。更に4匹が倒れる。  この時点で俺たちは森から出てオークの巣に侵入、周辺の小屋もどきをトーヤとナツキが倒しながら移動し、視界を確保する。  ……なんつーか、殆ど質の悪い盗賊だな、俺たち。オークが問答無用で人間に襲いかかってくる魔物じゃなければ、心が痛むところだ。  そんな騒ぎを聞きつけてドカドカと駆け寄ってくるのは、残っている10匹のオーク。うち、2匹がオークリーダーである。  距離的には十分。さらに6匹が俺たちの魔法の餌食となり倒れる。  もう一発――距離的にはギリギリか! 「左!」  そう宣言し、向かって左側のオークに『{火矢}(ファイア・アロー)』を放つ。  それとほぼ同時にハルカが「右!」と言って、『{火矢}(ファイア・アロー)』を放ち、ユキの放った『{火矢}(ファイア・アロー)』は右側のオークリーダーへと向かった。  結果、接敵した段階で無傷なのはオークリーダー1匹。もう1匹は左肩をえぐられ、オークは1匹もたどり着けなかった。  打ち合わせ通り、左のオークリーダーにトーヤが向かい、右はナツキ。ハルカは魔力を温存するため、弓に切り替えて牽制する。  方針としては、弱った方に戦力を集中して倒す、だったんだが――。 「大丈夫です! ナオくんはトーヤくんの方へ!」  ナツキがそう叫びながら、オークの左側へと回り込み、槍を突き出す。  その素早い動きに、オークリーダーは全くついて行けていない。と言うより、すでに耳のあたりから頭蓋へ槍が突き立っているし。【韋駄天】と【筋力増強】の効果はハンパない。  頭の中をえぐられたオークリーダーの身体から力が抜けるのを見て、俺は準備していた威力を高めた『{火矢}(ファイア・アロー)』をトーヤが相手にしているオークリーダーへと放つ。  そちらのオークリーダーは、トーヤが上手く挑発してこちらに後頭部を向けていたので、外しようがない。最後に少し動いたおかげで消えたのは頭の上半分だけだったが、結果は同じである。 「げっ!」  一瞬で息絶え、そのまま倒れてきたオークリーダーの身体をトーヤが慌てて避ける。 「ふぅ……コンプリート」  俺が息をつくと、ハルカが嬉しそうに頷いた。 「今回は上手く嵌まったわね」 「うん、そうなんだけど……あたしたちの戦いって、なんか、特殊部隊的というか、無駄がないよね? 上手くできているんだけど」 「事前に打ち合わせがしっかりしてるからな」  俺たちの場合、敵がどの範囲に来たら誰が攻撃するか、自分の優先目標はどこかなどは事前に話し合って、標的が重ならないように工夫している。  他にも合図の仕方や種類、攻撃までの秒数なども決めて、タイミングを合わせているし、それらの訓練もしている。  それに、ある程度は阿吽の呼吸で行動できる部分もあるので、変にごちゃごちゃ言う必要が無いのだ。 「それに、無駄に叫んだりしてたら、必要な事が聞こえないからね」  魔法名も含め、不必要なことは極力声に出さない。それが俺たちの方針である。  そうすれば、声に出したことは良く耳に入る。  さっき俺が叫んだ「左」は、左側のオークを俺が攻撃するという宣言。  俺、ハルカ、ユキでオークを先に攻撃することは決まっていたが、残りは2匹。位置取りとしては左から、オークリーダー、オーク2匹、オークリーダーの配置。  2匹のオークを2人で倒せば、1人はオークリーダーへ攻撃ができるが、誰が担当するか微妙だったのであえて宣言したのだ。ハルカもすぐに宣言したので、結果的にユキがスムーズにオークリーダーへと魔法を向けられた。  ちなみに、声を出すと力が入るという面もあるので、接近戦で叫ぶのは別にオッケーなのだが、ナツキはほぼ声を出さないし、トーヤの方もたまに出す程度。  トーヤには【咆哮】というスキルがあるから、もっと使っても良いかとも思うんだが、女性たちには微妙に不評なので、滅多に使わないのだ。味方なので、トーヤの【咆哮】で俺たちが怯むことは無いのだが、単純にうるさいんだよなぁ……ちょっと申し訳ないのだが。  結果、俺たちの戦闘は魔物の声だけが響く。まぁ、それも頭を吹き飛ばすので、少ないのだが。 「それじゃ、そろそろ解体――っ! 敵接近! オーク10、オークリーダー1!」 「狩りに出ていた!? どのぐらい!?」 「数十秒!」  俺たちはあまり叫ばなくても、オークの方は結構派手に叫んでいた。それが外に居たオークにも聞こえたのだろう。結構な速度で近づいてきている。 「方角は!」 「背後!」  オークの反応は俺たちが巣へ進入した方向から。真っ直ぐにこちらに近づいてくる。 「迎え撃つわよ! ナツキ、トーヤはオークリーダーを抑えて! 私たちで残りを倒す!」 「「了解!」」  魔法は結構使ったが、この程度であれば魔力的にはまだまだ問題は無い。  武器を構えて待ち伏せる。  最初に飛び出してきたのはオークリーダー。巣の奥に転がるオークの死体、それを背に待ち構える俺たちに、怒りの叫び声を上げて突っ込んでくる。  俺たちは少し横に広がり、後ろへ続くオークへ魔法を撃ち込み、トーヤとナツキは激突する瞬間、左右に分かれてオークリーダーの攻撃をいなす。  更に俺たちは1射ずつ。残った1匹は俺が槍を構えて対峙、足に攻撃を加えてからの急所狙いで倒した。  そして俺が振り返る頃には、背後からユキとハルカに攻撃を受けたオークリーダーは、すでに倒れていた。 「……今度こそ終わり?」  そう言って少し不安そうな表情を見せるユキに、俺は首を振る。 「どうだろうな……俺たちがこれまでに倒したオークリーダーが4匹。オークは100あまり。30匹に1匹という計算が正しいなら、10匹あまりは残ってるって事になるが……」 「さすがにそこまで厳密じゃないんじゃない? そもそも解っているのは『30匹以上で巣を作って上位種が現れる』でしょ?」 「そういえばそうか。索敵は怠らないから、その点は安心してくれ」 「さっきの状況でも怠ってなかったもんね」 「ナオくん、勝利直後でも気を抜かないとか、さすがです!」 「いやぁ……ははは」  予想外に褒められて、俺は苦笑する。ほぼ常に索敵をしているのは、すでにクセみたいな物である。俺自身が安心して行動するためでもあるが、おかげでレベルも3に上がっている。  正直これが無ければ、森の中では常に気が抜けず、精神的に参ってしまっていただろう。 「オークの解体はどうする? ここでやっていくか?」 「そうね、この巣も片付けておいた方が良いでしょうし、ここでやってしまいましょ」  オークの巣が残っていると巣ができやすくなる、かどうかは知らないが、過去のギルド主催のオーク殲滅作業では、終了後にこれらの小屋もどきは燃やしているようなので、俺たちもそれに{倣}(なら)うことにした。