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128 情報の整理

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

神殿で祈りを捧げると、アドヴァストリスと名乗る、件の邪神に出会う。

お布施を払って祈りを捧げれば、レベルと経験値が確認できることを聞く。

転移者の中で初めて神殿に来た特典として、経験値増加の恩恵を貰う。


「えーっと、夢、じゃないよな……?」

 今体験したことがイマイチ信じ切れず、ステータスを確認してみると……


 名前:ナオフミ

 種族:エルフ(18歳)

 状態:健康

 スキル:【ヘルプ】     【槍の才能】     【魔法の素質・時空系】

     【槍術 Lv.4】    【短刀術 Lv.1】    【棒術 Lv.1】

     【回避 Lv.2】    【鉄壁 Lv.2】     【筋力増強 Lv.2】

     【魔法障壁 Lv.1】  【韋駄天 Lv.2】    【頑強 Lv.2】

     【鷹の目 Lv.2】   【忍び足 Lv.2】    【罠知識 Lv.1】

     【索敵 Lv.4】    【看破 Lv.2】     【時空魔法 Lv.4】

     【火魔法 Lv.4】   【水魔法 Lv.1】    【土魔法 Lv.3】

     【解体 Lv.2】

 恩恵:【経験値ちょっぴりアップ】


 恩恵欄が追加されている!?

 しかもしっかりと【経験値ちょっぴりアップ】と書いてあるし。

 1割とは書いてないけど、『ちょっぴり』がなんとも正直である。

 しかし、相変わらずレベルや経験値は表示されておらず、やはり神様が言ったとおり、確認の為には神殿に来るしか無いのだろう。

「あの、どうかされましたか?」

「あ、いえ、何でも無いです」

 俺の挙動が不審だったのか、後ろから声を掛けてきた女神官さんに、俺は笑顔を向けて首を振った。

「そうですか。あ、お心付け、ありがとうございます」

「いえ、あまり多くは無いですが……あ、お尋ねしたいのですが、こちらでは聖水などを分けて頂くことはできないでしょうか? アンデッドへの対策を探していまして」

 そう訊ねる俺に、神官さんは少し渋い顔になる。

「アンデッドですか……聖水は難しいです。作れる神官様は限られますし、こちらではちょっと……」

「そうですか……。残念です」

「それに、戦いの場面で使われるのであれば、あまり向いていませんよ?」

「あれ、そうなんですか?」

「はい。確かにアンデッドにかけたり、武器に着けたりすると効果はありますが、かなりの量が必要となりますから……」

 詳しく聞いてみると、直接アンデッドに掛けてやれば、ある程度が退ける事はできるが、武器に付けてそれで攻撃する、という手段を取るのであれば、数回攻撃する度に付け直す必要があり、聖水の必要量も多くなって、運搬面でも一般的な聖水の価格的にも(神官だけに明確にいくらとは明言しなかったが)確実に赤字になってしまうらしい。

「基本的に魔法の武器を持たない冒険者や光魔法を使えない冒険者は、アンデッドを避けるようですよ?」

「となると、普通はアンデッド対策は難しいと?」

「はい。一般の人に影響がある場所なら、神殿から神官が派遣されることもありますが……」

 俺たちには関係のない話ではあるな。

 それに俺たちの場合、ナツキとハルカがいるから、全く対応できないわけでは無いし。

「解りました。お話、ありがとうございました」

「いえ、お力になれず。あなたに神のご加護がありますように」

 はい、無事に恩恵を頂きました、とはさすがに言えず、俺に向かって祈りを捧げてくれる彼女に一礼をして、俺は神殿を後にした。

            

「さて、それじゃ、各自結果報告をしましょうか。まずは誰から行く?」

 その日の夕方、日が落ちる少し前ぐらいに全員が家に戻ってきたことで、俺たちは夕食前の時間を利用して報告会を開いていた。

「それじゃ、まずはオレから。オレは、アンデッドに効果がある魔法の武器を探しに行ったんだが、ガンツさんのところには無かった。――いや、まともに使えそうな物は、無かったと言うべきだな。ダガー程度はあったんだが、使いづらいだろ?」

 やはりトーヤはガンツさんの店に行っていたようだ。

 一応手段は見つけたようだが、ダガーで本格的な戦闘というのは厳しいし、取りあえずは問題外だろう。

「ガンツさんの紹介で他にもいくつか店は回ってみたんだが……この街で手に入れるのは難しそうだな」

「やっぱり冒険者のレベル?」

「ああ。高ランクの冒険者がいないから、高価な武器は仕入れない。手に入っても売れないから、他の町に流す事になるらしい。錬金術師がいれば作ることもできるらしいが……」

 そう言いながらトーヤが視線を向けたのはハルカ。

 ハルカはその視線を受けて頷く。

「私は魔法の武器を作れないか、という方向で調べてみたわ。その結果、さっきトーヤが言ったように、錬金術を使えば作れることは解ったんだけど、そのためには必要な素材も色々あるのよね」

 錬金術で作ると言っても、錬金術師だけで武器を作るわけでは無く、錬金術で前処理した素材を鍛冶師に渡し、それを使って鍛冶師が武器を作る。その武器を錬金術師が後処理して、魔法の武器が完成する、と言うプロセスになるらしい。

 今俺たちが使っている武器の原料となっている青鉄や黄鉄なども錬金術師から供給されているので、それみたいな物なのだろう。

「一応、この街でそれらの素材が手に入らないかと思って探してはみたんだけど、残念ながら無いみたいなのよ。青鉄とかも、できた物を他の町から輸入しているみたい」

「ラファンには錬金術師が少ないのか」

「産業構造的に、需要が無いんでしょうね」

 後処理も必要な魔法の武器の場合、原料だけを輸入しても意味が無い。

 作った武器を別の町に送って後処理を行えば作ることはできるだろうが、それなら最初から魔法の武器を輸入するか、買いに行く方がマシだろう。

 やるとするなら、原料を輸入してハルカが処理を行う方法になるか。

「私はギルドなどで情報を集めてみました。まずアンデッドの出現報告に関してですが、これまでは無かったようです」

 ナツキが調べた範囲では、南の森などはもちろん、北の森に入っていた昔の記録でも、アンデッドが出たという報告は無かったようだ。

 ディオラさんにも確認済みなので、少なくともギルドが把握している範囲では、このあたりにアンデッドが出現する事は無かったという事になる。

「尤も、アンデッドは自然発生することもあるので、それ自体はあり得ないことでは無いようです。次に対抗策ですが、光魔法での浄化を除くと、魔法の武器での攻撃や聖水を使う方法、それから、火魔法の『{火炎武器}(エンチャント・ファイア)』も実体のあるアンデッドには効果的みたいです」

「『{火炎武器}(エンチャント・ファイア)』ならレベル4だし、俺も使えるな」

 一応俺も地味にレベルを上げて、火魔法はレベル4まで上がっているのだが、これまで『{火炎武器}(エンチャント・ファイア)』を使うような敵も出てこなかったため、未だに実戦で使ったことは無い。

 効果時間も戦闘1回分程度だし、今の俺たちなら、オークリーダーでも出てこない限り、武器の攻撃力を上げる必要も無い。

「ゴーストみたいに、実体の無い敵はどうなの?」

「『{火炎武器}(エンチャント・ファイア)』ではあまり効果は無いみたいです。『{聖火}(ホーリー・ファイア)』や『{聖水}(ホーリー・ウォーター)』を除けば、他の魔法も同様です」

「じゃあ、やっぱりオレは攻撃手段が無いのか」

「あ、いえ。光魔法に『{聖なる武器}(ホーリー・ウェポン)』がありますから、こちらは効果がありますよ。まだ私もハルカも使えませんが」

 『{聖なる武器}(ホーリー・ウェポン)』は『{火炎武器}(エンチャント・ファイア)』の様に武器に掛ける魔法なのだが、攻撃力自体を上げる『火炎武器』に対し、『聖なる武器』は通常の敵と戦うときには何の意味も無い。あえて言うなら、うっすらと武器が光ってカッコいいぐらい?

 その代わり、アンデッドに対しては高い効果を発揮する、らしい。

 ナツキは使えないとは言ったが、『聖なる武器』はレベル5の魔法で、ハルカが現在レベル4、ナツキがレベル3なので、練習次第で比較的すぐになんとかなりそうな気もする。

「今までは必要ないと思ってたからやってなかったけど、練習すべきみたいね」

「はい。私もそのつもりです」

 ちなみに、生野菜を食べるためにハルカが覚えた『{殺菌}(ディスインファクト)』もまたレベル5の魔法だったりする。

 通常、魔道書にはレベルあたり2つ程度の魔法が指定されているのだが、光魔法のレベル5に関してはなぜか4つもあり、残りの2つは『{病気抵抗}(レジスト・ディジーズ)』と『{精神回復}(リカバー・メンタル・ストレングス)』である。

 どちらも有益そうな魔法だけに、ハルカとしてはそちらを優先していたようだ。

「次はあたしね。私は人から噂なんかを集めてみたよ。まず、アンデッドには聖水が効くんだって」

 もったいぶったようにユキが口にした言葉に、他の全員が疑問を顔に浮かべる。

 そして、それを代表して口に出したのは、ハルカ。

「それぐらいは解ってたじゃない?」

「ま、ま、慌てない。重要なのは次。ラファンの南の街道を進んだところにある町、ケルグって名前だけど知ってる? 今そこの町に行くと、なんだか安く聖水が手に入るって噂が」

 俺が神殿で断られた聖水か。

 確かに有益な情報な気もするが、何というか、そんなピンポイントな噂が都合良く流れるか?

 普通の人にとって聖水なんて、殆ど必要ない物だろ?

 そう思ったのはトーヤも同じだったようで、ワケが分からないと言った表情で疑問を口にする。

「……なんだそれ? 聖水が手に入るとか、そんなのが噂になるものなのか?」

「まぁ、普通はならないよね。話題に上るようなことじゃないし。あたしもそれは疑問に思ったから、色々情報を集めてみたんだけど、その聖水を安く供給しているのが、最近できた新興宗教みたいなの」

 ユキのその言葉を聞いた途端、俺たちは揃って胡散臭げに顔をしかめた。

「……新興宗教。なんか、良いイメージ無いよな、その言葉」

「だよなぁ。怪しいとか、お布施を巻き上げるとか、犯罪行為とか、そんなイメージがつきまとうよな」

 少なくとも日本で、新興宗教と聞いてすぐにポジティブイメージを持つ人は少数派だろう。

 もちろん、まともな宗教もあるのだろうが、悪質な物が多すぎるのだ。――いや、悪質なのが目立ちすぎると言うべきか?

「しっかし、新興宗教なんか表だって作れんのか?」

「予想外に、この世界……いや、少なくともこの国は、案外宗教に寛容みたい。多分、メジャーな宗教が強すぎて、問題にならないからだと思うけど」

 この世界にも宗教国家は存在していて、そんな国ではさすがに新興宗教が大手を振って布教するのは難しいらしい。

「ま、寛容とは言っても、タブーはあるみたいだし、あたしたちは関わるべきじゃないとは思うけどね」

「関わらないわよ、新興宗教なんて。――でも、新興宗教なんて、信者、どうやっても集まらないんじゃないの? この世界の常識では、神は実在して天罰もあるんだから」

「そうなんですか?」

 はっきりと言ったハルカに、ナツキが疑問を口にする。

 俺やトーヤも同じだが、ナツキも【異世界の常識】を持っていないし、明文化されていない部分の知識に関しては、ちょっと弱い。

「えぇ。少なくとも、この世界の人は信じてるわね。神託もあるし、天罰も実際に起こるみたいよ?」

「たまたまとか、こじつけとかでは無く?」

「無く。神殿で不正を行った神官がピンポイントで雷に打たれるとか、人体発火で燃え尽きるとか、そういったレベルで」

 不思議そうな表情を浮かべるナツキに、ハルカは真面目な表情で頷いて、実際に起こったらしい事例を言う。

 災害などの自然現象を『天罰』と称するのとは違い、確かにそういう物なら疑う余地も少ないか。実際、俺の場合は神様に会ってきたわけだし。

「今ハルカが言ったようなことがあるから、普通は新興宗教なんて鼻で笑われるんだけど、問題はここから。その新興宗教はなぜか信者を集めていて、更にその教団の名前が『サトミー聖女教団』」

「「「……うわぁ」」」

「関わりたくねぇ!」

 全員が顔をしかめ、トーヤが吐き捨てる。

 元々新興宗教自体がアレなのに、名前からして地雷臭が漂っている。

 もちろん関係ない可能性もゼロでは無いが……いや、ほぼゼロだよなぁ、これ。

「サトミー……さとみって名前の子って、誰か居たっけ?」

「どうだったでしょう? 親しい人以外、下の名前なんて……」

 名前からして女子だろう。男子の下の名前すらあやふやな俺とトーヤの記憶なんて、当然あてにならず、ハルカとナツキもまた首を捻る。

 そんな中、口を開いたのは、俺たちの中でコミュ力トップのユキ。

「確か、高松さんの下の名前が『さとみ』だったと思うよ? 漢字までは覚えてないけど」

 この{卒}(そつ)の無さがコミュ力の源か。俺なんか、苗字を言われても相手の顔も思い浮かばないってのに。

 そしてそれはトーヤも同じだったようで、首を捻って考え込み、「どんな奴だっけ?」と呟いている。それに対し、さすがにナツキとハルカは、名前を言われれば思い出したようだ。

「高松さんって、ちょっと地味な感じの子よね?」

「はい。休憩時間なんかは、自分の席で雑誌を読んでいたりした気がします。関わりが無かったので、良くは知らないのですが」

 そこまで言われて、ようやく俺も記憶の中から掘り起こせた。

 やはり俺と関わる事は無かったし、まともに話した記憶も無いのだが、長い黒髪のおとなしい女子だった様な気がする。

 あの高松が宗教ねぇ……異世界デビューだろうか?

 信者が集まっているのなら、それは成功と言えば成功なのかもしれないが……。

「その高松が、新しい宗教を作ったってぇわけか」

「まだ解らないけど、その可能性は高そうよね」

 偶然俺たちがやってきたタイミングで新興宗教が興り、その場所が偶然俺たちのいる街の隣で、その名前が偶然サトミー。――もう、必然と言って良いんじゃね?

「ま、取りあえず、その教団が本当に高松さんが関わっているかは置いておくとして、新興宗教が作っているような聖水に効果があるの?」

「解らないけど、売れてはいるみたいだよ? なぜか」

「なぜかというか、貰ったスキルで何か怪しいことをしてるんじゃないかと思うんだけど……」

「……もしかして、アエラさんを騙したのって、高松なんじゃ?」

「可能性はありそうね。アエラさんもなぜかコンサルタントを受け入れてしまったみたいだし」

 どういうスキルかは解らないが、なかなかに厄介そうである。

 ホント、関わりたくねぇ……。

 でも、隣町なんだよなぁ。

 その町の先には、このあたりを治める領主がいる領都があるし、そこは近辺では一番の都会。恐らく、全く近づかないというのも難しい。

「あと、追加情報。南の町には、トウモロコシがあるみたい」

「トウモロコシ……? あぁ! そういえば家庭菜園」

 ドヤ顔で言ったユキの言葉に、一瞬、「それが?」と思ったのだが、何ヶ月か前にそんな話をしていたことを思いだした。

 家を手に入れたときに作った家庭菜園エリアと花壇だったが、未だにそこはカラッポのまま。

 季節的に植え付けに向いていなかったこともあるが、ラファンの雑貨屋では花や農作物の種が売っていなかったのだ。

 頑張って探せば見つかるのかも知れないが、「普通は冬に種まきは無いよね」ということもあり、そこまで頑張って探してはいない。

 ただ、雑貨屋で話を聞いた感じでは、農作物の種は農家が翌年用に自分たちで保管する物で、店で買う物ではないらしい。売っている物がそのまま種になる作物は別として、入手したければ農家と直接交渉するのが一番と言われてしまった。

 更に、観賞用の{花卉}(かき)となると、庶民で栽培する人はほぼ皆無。

 貴族用の店などから仕入れるか、自分で草原や森に出向いて採取してくるしかないとか。

 そんなわけで、「ガーデニング!」と意気込むユキの気持ちに反し、うちの花壇は荒野のままなのだ。

「う~ん、新興宗教は関わらなければ問題ないかしら? トウモロコシはともかく、錬金術の素材は手に入れたいし、ケルグに行ってみても良い気もするけど、どう?」

「良いんじゃね? 別の町に行ってみるのも面白いと思う」

「はい。新しい武器とかも手に入る可能性がありますし。あと、魔法の発動体も」

「そういえば、見つからなかったんだよなぁ、魔法の発動体」

 魔法を使う補助になるという発動体。以前ガンツさんとの話で出てきた後、一応探してはいたのだが、残念ながら俺たちのお眼鏡に適う物は見つからなかった。

 微妙な効果の物や、高価で杖型の物などはあったのだが、前者は大金を出して買うほどの価値は無く、後者は全員が武器も併用する俺たちからすれば使いにくい。

 幸い、切羽詰まっているわけでもなく、その結果、指輪やネックレス、ブレスレットなど、邪魔にならないタイプが見つかるまでは保留となったのだ。

「それじゃ、近いうちにケルグに行くということで。最後の報告はナオね。何か新しい情報はある?」

「おう。とっておきがな」

 あんまり期待できないけど、と言う表情を浮かべているハルカに、俺はドヤ顔を向ける。

 驚きも有用さも、恐らく俺が一番だろう。

 自信ありげな俺の様子に、訝しげな表情を向けてくるハルカたちが聞く態勢になるのを待ち、俺はもったいぶって口を開いた。

「俺は、神に出会った」