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125 新たな脅威?

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

伐採をしているとスライムに出会うがあっさり討伐。

木材の供給過剰についてシモンさんに相談するが、問題ないとの回答。

2日に1回程度のペースで伐採を続け、春へと至る。


「ん? また魔物が……」

「またスライムか? 最近ちょっと多くねぇ?」

 北の森で俺たちが伐採をするようになって早数ヶ月。

 当初から頻繁に襲ってきていたスカルプ・エイプはもちろん、オークなども時々倒していたのだが、最近はスライムに遭遇する頻度が多くなっていた。

 当初は見かけても1日に1匹だったのに、最近では1度の伐採作業で数匹処理する事も多い。

 それ自体は大した脅威でもないのだが、間違って足を突っ込んだりしても困るため、放置もできないのだ。

 ただ、幸いと言うべきか、今のところオーガーには遭遇していない。

 運が良いのか、それとも記録に残っている遭遇自体が例外だったのか。

「いや、これはスライムじゃ無いな。多分、知らない魔物」

「お、ついにオーガーか!?」

「だったらこんなに落ち着いてねーよ。反応的にはホブゴブリンよりは強いが、オークよりも弱い、って感じだな」

「そうかぁ。しかし、オーガー、出会わないよな? これまで出会った魔物程度なら、このへんに伐採に来る冒険者がいても良さそうなのに」

「それは頻度の問題みたいよ。私たちぐらいの伐採・運搬速度があっても毎回魔物に襲われてるでしょ? 私たちの場合、マジックバッグを使う運搬は言うまでも無く、伐採にかかる時間も普通よりずっと短いんだから」

 トーヤの高い身体能力はもちろん、俺やハルカ、ユキが伐採に適した魔法を使えるようになったため、巨木でもかなりの速度での伐採が可能になっている。

 ついでに言えば、魔法を使った伐採の場合、斧を叩きつける場合に比べて音が響かないのもメリットである。

 斧を使った場合は、恐らくキロ単位で音が響いているのではないだろうか?

「それからバインド・バイパー。私たちにとっては、最近はもう雑魚扱いだけど、察知できないとかなり危険だから。伐採した木の運び出しの時に犠牲になることが多かったみたいね」

「普通に運搬すると、日帰りするのも難しいみたいです」

「ついでに言えば、あたしたち、戦闘能力で言えば、この街ではすでにトップレベルだしね。……普通は強くなったら、ラファンを離れるから、だけど」

 1人あたりの分け前が金貨数十枚になるとしても、死亡率が高ければ敬遠されるか。

 ちなみに、戦闘力ではトップレベルな俺たちだが、冒険者としてのランクは、未だ4のまま。

 それでもラファンでは上位のランクらしいのだが、最近行っている木の伐採は冒険者ギルドを通さずに卸しているため、冒険者としての実績には反映されないのだ。

「てかさ、新しい魔物の話じゃなかったっけ? 行かなくて良いのか?」

「おっと、そうだったな。確認に行った方が良いと思うんだが、どう思う?」

「そうね。待ち受けるのはあまり良くないわよね」

 索敵の反応から見るとあまり強い敵では無さそうなのだが、万が一、対応が難しい敵だった場合には、逃げることも必要になる。

 その場合に有利なのは、相手が来るのを待ち受けた場合よりも、こちらから確認に向かった場合だろう。

「それじゃ、ナオ、案内よろしく」

「了解。こっちだ」

 伐採道具を武器に持ち替えて反応があった方向へ進むこと数分ほど。視界の先に見えた敵は、ある意味、とてもファンタジーだった。

「……スケルトン、だな」

「そうね。腱も筋肉も無いのに、なぜか全身が繋がっている不思議な魔物よね」

「いや、ツッコミどころはそこか? きっと、クーロン力的な何かで繋がってるんだよ」

 カチャカチャと音を立てながら歩いていたのは、白骨化した死体、スケルトンだった。

 錆び付いた物ながら、曲がりなりにも剣と盾を持っている。

 それが3体。

「アレ相手には、槍はあまり適してないな。スカスカだし」

「私の薙刀は……それなりでしょうか」

「一番向いているのは、オレの剣だな。ほぼ鈍器だし」

「あたしは、取りあえず見学で良いかな? この小太刀ならなんとかなりそうだけど、3体しかいないし」

 鈍器ということであれば、マジックバッグには鉄棒があるのだが、あえてそれを使うまでも無いか。

 頻繁に出るようなら、ハンマーとか、フレイルとか、スケルトンに向いた武器を手に入れることも検討すべきかも知れないが。

「そうね……とりあえず、トーヤとナツキに頑張ってもらって、他はフォローって形でやってみましょうか」

「「了解」」

 方針が決まれば後は実行するのみ。

 最初にトーヤが飛び出し、それにナツキが続く。

 そんなトーヤの動きに、スケルトンの反応は遅かった。

 ガチャガチャとトーヤに向かって剣を構えようとしたところで、先頭の1体に対してトーヤの剣が振り下ろされ、頭蓋骨から鎖骨の辺りまで一瞬で砕かれてしまう。

 その直後に繰り出されたナツキの攻撃は、2体目のスケルトンがなんとか盾で受け止めるが、遠心力も加わったその攻撃に対し、スケルトンの骨は細すぎた。

 一瞬止まったかと思った次の瞬間、肩のところから外れたその腕と共に、ナツキの薙刀はスケルトンの肋骨と脊椎を砕き、その身体を真っ二つにしてしまう。

「わぉ……想像以上に脆い?」

「いえ、どちらかと言えばナツキの膂力でしょ。最近だと、バインド・バイパーすら輪切りにするから……」

「だよね。見た目は変わってないのにね」

 最初に出会ったときは切るのにちょっと苦労したバインドバイパーも、最近では見つけた瞬間、ナツキの薙刀が{閃}(ひらめ)き、頭をスッパリと切り落とすようになっていた。

 武器の質とナツキの技術も影響しているのだろうが、単純な力という面でもほぼ確実に向上しているはずである。

 だが、それはナツキがマッチョになったとかいうわけでは無く、【筋力増強】のスキルや、魔物を倒す事によって上昇するレベル的な物の影響だろう。腕の細さとか、変わってないし。

「……でも、さすがスケルトン。アレでも死んでないぞ」

「スケルトンだから死んではいると思うけど、斃せてはないね」

「トーヤの方は、動かなくなったみたいだけど」

 上半身を砕いたトーヤはダメ押しとばかりにもう一撃、骨盤まで砕いたおかげか、そのスケルトンは動かなくなっている。

 それに対し、ナツキが攻撃した方は、頭と下半身がまだカタカタと動いている。

 それを見て顔をしかめたナツキは、頭蓋骨に石突きを叩き込み、下半身は脚の骨を砕いた上で、骨盤も真っ二つに砕く。

「結構面倒くさいな!」

 トーヤはそんな事を言いつつ、さして強くないことが解ったからか、残ったスケルトンを剣の腹でガンガンと殴り、一瞬で骨を砕いて斃してしまった。

「強くは無いですが……確かにちょっと面倒です」

「剣と盾を持ってたからどうなるかと思ったんだけど……あそこまで非力だと意味が無いわね」

「確かに。受け止めた腕が取れたら、盾の意味ないよな」

 盾で受け止めて攻撃する、という方法が取れないのだから、持っている意味が殆ど無い。

 非力な相手ならまた別なのかも知れないが、少なくともトーヤとナツキであれば、積極的に盾に当てに行っても良いかもしれない。

「魔石を砕くとすぐに斃せるかも知れないが……そうすると、利益も無いしなぁ」

「魔石か……どこにあった?」

「多分、頭蓋骨の中?」

 トーヤが砕けた骨を漁って拾い上げた魔石は、思ったよりも大きかった。

 強さから言えばもっと小さいかと思ったのだが、スカルプ・エイプよりも少し大きいぐらいだろうか?

「頭蓋骨の中だと、簡単には砕けないわね……間違って砕いちゃう可能性はあるけど」

「そうですね。かといって、それを気にして攻撃するのは……」

「別に良いんじゃない? 砕けても。あたしたち、そこまでお金に困ってないし」

「だな。幸い今回は、1つも砕けなかったみたいだぞ?」

 そう言いながら立ち上がったトーヤの手には、魔石が3つ。

 かなりラフに攻撃していたにもかかわらず、いずれの攻撃も魔石に当たることは無かったようだ。

「あれで壊れてないなら、気にする必要は――トーヤ! 後ろ!」

 俺の声を聞いたトーヤの反応は素早かった。

 手に持った魔石を地面に落とすとすぐに剣を引き抜き、振り返った瞬間、振り抜く。

「ぬっ!?」

 だがそんなトーヤの攻撃は、何の抵抗もなく空を切っただけだった。

「なんだこれは!」

 そこにいたのは、黒いもやのような、半透明の何か。

 あえて表現するなら、黒いローブを被った人型の何か、だろうか。

 だが、足も手も無く、顔に当たる部分もただの暗闇である。その奥に何となく光る物が見える気もするが、全体として半透明なのでなんともあやふやである。

「スケルトン繋がりでアンデッドか!?」

 そう叫びながら再度トーヤが剣を振るうが、それはただ、そのもやを通り過ぎるのみ。

 そんなトーヤにそのもやが近づいた瞬間、トーヤの膝がガクッと落ちかけ、トーヤは慌てたように飛びすさる。

「触れると――なんつーか、力が抜ける!」

「トーヤ、下がれ! 『{火矢}(ファイア・アロー)』!」

 これまで幾度となく活躍してくれた魔法を放つが、その魔法はそのもやをすり抜け、その背後にあった木を燃え上がらせた。

「まずっ!」

「バカ、ナオ! 『{消火}(エクスティンギッシュ・ファイア)』!」

 すぐさまフォローしてくれたのはユキ。

 燃え上がっていた木が一瞬にして鎮火する。

「すまん! ってか、魔法も効かないのかよ!?」

 『物理がダメなら魔法でしょ』と撃ってみたのに、何の効果も無く、そのもやはジワジワとこちらに近づいてくる。

「ナオ、『{聖火}(ホーリー・ファイア)』は?」

「使えるか! レベル7だぞ、それ!」

 無茶なことを言うハルカに、叫び返す。

 如何にもアンデッドに効きそうな攻撃魔法なのだが、魔道書に載っているレベルは実に7。

 ステータスに表示されるスキルレベルと、使える魔法のレベルは必ずしも一致しないとは言え、魔道書のレベル表記と難易度は比例している。未だ俺の使えるような魔法ではないし、アンデッドに会うとも思っていなかったから、練習もしていない。

 しかもこの魔物、俺の索敵にも引っかからず突然現れたのだ。

 ただの雑魚、なんてことは無いだろう。

 アンデッドに効きそうな魔法の武器なんて持ってないし、聖水的な物も持ってない。

 どう考えても準備不足である。

「クソッ! 撤退するぞ!」

 ゆっくりと近づいてくるそのもやを見据えながら、俺はそう叫んだ。