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091 釣行 (5)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

ハルカたちが仕掛けたカゴを確認する。

グレート・サラマンダーの他、ナマズやウナギ、カニやエビも入っていた。

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「しかし、思った以上に収穫があったわね」

「はい。ある程度は獲れると思っていましたが、予想以上でした」

 カニやエビは毎日食べるわけじゃないし、今日の分だけで、1、2ヶ月は十分に賄えるぐらいの量はある。

 あと2日続ければ、多少漁獲高が減るとしても、もしかすると当分は美味いメシが食べられるかもしれない。

「カゴはまた仕掛けるんだよな?」

「うん、お昼に味見して、美味しければ仕掛けましょ」

「そうだよね。大量に持ち帰って美味しくないじゃ泣けてくるもんね」

 泥抜きを考えれば数日はおいた方が良いのだろうが、泥臭さを考慮した味見程度ならしてみるべきだろう。

 ユキの言うとおり、期待値が高いだけに、労力が無駄になるのはかなりキツい。

「今は美味しいことが判っているヤマメを頑張って釣りましょう。ナオくん、釣り竿と毛針、貸してください」

「おう、どれでも好きなのを使ってくれ」

 持ってきた釣り竿は予備も含めて全部で6本。と言っても、しなりのある木の枝を落として、軽く削っただけの簡単な物だが、昨日使った感じでは、ヤマメを釣るぐらいなら使い勝手はそう悪くない。

 毛針は俺とトーヤが3つずつ作っているので、それをハルカたちに渡す。

「釣り方は、こんな感じで、あまり流れが速くない場所の上流に毛針を置いて流すようにすれば釣れる、はず」

 見本としてチョイと毛針を投げる。

 数度流すと、ヤマメが食いついてきたので、くいっと引いて、針を食い込ませ引き寄せる。

「掛かったら、竿を立てて、引き寄せたらこのたも網で掬う。簡単だろ?」

「ですね。誰でもできそうです」

「うん、できると思う。俺も昨日初めてやった素人だし。トーヤ、何か他にあるか?」

「いや、特にないかな。オレも適当にやってただけだから」

 所詮素人が集まっても素人か。

 俺とトーヤの知識なんて、トミーに軽く訊いた事ぐらいしか無いのだから。

「それじゃ分かれて……そーいや、たも網って3つしかないんだよな」

 ハルカたちが釣りに興味を示すかどうか判らなかったので、作るのが面倒だったたも網は俺とトーヤの分、それに予備が1つの3つしか作っていない。

 簡単に作れる竿に比べ、たも網は紐で網を編む必要があり、結構時間が掛かるのだ。

「3組に分かれるしかないだろ。グー、チョキ、パーで」

「そだな。グー、チョキ、パー!」

 一斉に出した手は、トーヤがグーで、俺とナツキがパー、ユキとハルカがチョキ。

 1回で綺麗に分かれたので、その組み分けのまま、1つずつたも網を持って、ばらける。

 俺とナツキは川の中程の岩に上り、ナツキは流れの緩い場所でヤマメを狙い、俺はそれよりも少し流れの速い場所でルアーを使う。

「ナオくん、そんな大きな餌に食いつく魚なんているんですか?」

「いや、このルアーは食いつくんじゃないんだよ。これを泳いでいるように見せて、追い払うために攻撃してきた魚に針を引っかけて釣る……らしい」

 もちろん、受け売りである。

 噛み付くわけでもないのに、上手く引っかかる物なんだろうか?

「何か難しそうですね……」

「そうだな。ダメなら、餌釣りでもやってみるかな?」

 普通の釣り針もあるので、ミミズでも掘ってくれば何かしら釣れるだろう。

 だが、せっかく時間を掛けて作ったのだから、多少の釣果は期待したい。

 俺は毛針とは逆に、ルアーを川下に投げ入れ、泳いでるっぽく、上流に向かって引っ張る。

 なんともぎこちない動きだが、製作者の贔屓目で見れば、魚に見えなくもない。……うん、贔屓目でそれだから、かなり微妙だよな。

 だが、すぐに諦めるわけにはいかない。

 動きを調整しながら投げては引き上げ、引き上げては投げてを繰り返す。

 後ろではナツキがすでに何匹も釣り上げているだけにちょっと焦るが――。

「来たっ!」

 竿に伝わる感覚に、ぐっと合わせる。

 ビクビクと暴れる糸。

「どうぞ!」

 ナツキがサッと差し出してくれたたも網を川に差し入れ、竿を引く。

 水面に見える魚影は、結構デカい。素早く魚を網に入れ、引き上げる。

「よっし!」

 網を岩の上に置き、ホッと一息。

「やりましたね!」

 ナツキが笑顔でパチパチと拍手してくれる。

 網に入っていた魚は軽く30センチ超え。その形は明らかにヤマメとは異なる。

「やった! 鮎! ……なんかデカいけど」

 俺の知る鮎とはちょっと違うが、【ヘルプ】でそう出ているので、鮎っぽい魚である事は間違いないだろう。

「日本の鮎も大きい物になると30センチ近くになりますが、ここまでのサイズは見た事無いですね。食べ応えはありそうですが」

「まぁ、大きい分には問題ないだろ」

「そうですね、小さいと食べるところがなくなりますから」

 小魚が大量に捕れるなら佃煮という手もあるが、投網でも使わないとそんなに量は捕れないだろう。第一、醤油と砂糖がないと佃煮は作れないし。

「ただ、効率としてはヤマメの方が良いな」

「そうですね――あっと!」

 そんな事を話す間にもナツキの竿にヒット。

 ナツキが引き寄せ、俺が網を差し出して、掬い上げる。

「ありがとうございます。25センチぐらいですね」

 こんな感じに、結構大きいヤマメがコンスタントに釣れるので、食糧確保の点からはヤマメを狙う方が効率が良いのだ。

「……まぁ、いろんな種類の魚があった方が良いよな? レジャーに来てるんだし」

「はい、釣れなくても楽しければ良いと思いますよ」

「うぐっ」

 ニッコリと厳しい事を言うナツキ。いや、厳しいというか、ナツキだから嫌みでも何でもなく、本心なんだろうが。資金的にも、食料的にも切羽詰まっているわけでもないし。

「大丈夫、釣れる!」

 少なくとも、俺の作ったルアーでも釣れる事は確認できた。

 先ほど釣れた場所とは少し外れた場所にルアーを投げる。

 トミー曰く、縄張りを利用して釣る物なので、同じ場所で連続しては釣れないらしい。

 「長い竿を使う方が良いですよ」と言われていたので、他の物よりは長めの竿を使っているのだが、それでも5メートルに満たない。ナツキも付き合わせてしまう事になるが、場合によっては、時々場所移動した方が良いかもしれないなぁ。

            

 予想に反して、場所を移動する事なく、鮎はコンスタントに釣れていた。

 少しずつ慣れてきたおかげか、釣れる間隔も多少は短くなり、ナツキが4~5匹を釣る間に1匹程度は釣れるようになっている。

 それから太陽が中天にさしかかるまで釣りを続けた俺たちは、ハルカの提案で釣りを一時中断し、野営位置まで戻ってきた。

「みんな、釣果はどう?」

「オレはボチボチかな? ヤマメほどは釣れないが、鮎がそれなりに釣れる。下手なルアーでも役に立つみたいだぞ?」

「同感だな。俺も同じ感じ。量だけを考えるなら、ヤマメの方が良いが……ハルカたちは?」

「私たちは順調ね。ね、ユキ」

「うん。面白いように釣れるよ! これだけ釣れると面白いね」

 ユキが持っている桶を差し出して、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 覗き込むと、昨日俺が釣った数よりも多くのヤマメが蠢いている。

 俺が思うに、釣りがつまらないとか嫌いという主な要因に、釣れない待ち時間が長い事と、気持ち悪い虫を付けないといけない事があると思うので、その2つがないこの釣り場は大半の人は楽しめるだろう。さすがに魚が気持ち悪いと言う人だけは、ダメだろうが。

「ただ、これだけあると、下ごしらえが大変ですね」

「本当にね。このままマジックバッグに入れば良いんだけど」

「生物は入らないんだっけ?」

「そうね。……試した事はないけど」

 改めて口にして疑問に思ったのか、ハルカが首を捻る。

 確か『魔法的な仕組みで生き物が入らないような術式になっている』と魔道書には書いてあったが、どこが区切りなんだろう?

 マジックバッグに入れている物、間違いなく微生物は付着しているよな?

 野菜や果物も入っているが、あれは生物判定されていないわけで……。

「試してみたらどうだ?」

「……そうね」

 ハルカが適当な麻袋に何匹かヤマメを突っ込み、そのままマジックバッグへ。

 そして手を引き抜いて、蓋を閉める。

「入ったわね?」

「だな。出してみるか」

 フタを開けて、さっきハルカが突っ込んだ袋を取り出し、中に入っているヤマメを桶の中に。

「……生きてるわね」

「もしかして、生物判定は哺乳類限定なんでしょうか?」

「そのぐらいの方が、細かい除外条件を仕込むより簡単かも?」

 ハルカの言うとおり、除外処理に必要なのが一種のセンサーとしての機能と考えれば、生物かどうかを判定するよりも、哺乳類かどうかを判定する方が簡単かもしれない。

「どちらにしても、俺たちには都合の良い仕組みだな」

「全くね。これでエンドレスな魚捌き業務から解放されるわ」

 現状で100匹ぐらいはいるからなぁ。夕方まで続けたら優に200匹は超えるだろう。

 いくら調理スキルがあると言っても、うんざりする量であるのは間違いない。

「でもさ、制限をしてるのは錬金術の術式? なんだろ? ならハルカは制限のないマジックバッグも作れるって事か?」

「今の私じゃ無理。解りやすく言うなら、プラモデルを組み立てる事と、プラモデルを設計する事ぐらいの違いがあるから」

 なるほど、わかりやすい。

 それぐらい違うなら、まず無理だよな。

「ま、便利って事で良いじゃん? 全部入れちゃお?」

 そう言ってユキが麻袋に魚を移そうとしたので、俺は慌てて止めた。

「ちょい待ち。時間経過が遅いだけでゼロじゃないんだから、水に入れておいた方が良いだろ」

 超過密状態でも、水がないよりはマシだろう。

 全員の捕ってきた魚を樽に移し、そのまま蓋をしてマジックバッグへ。

「街に戻ったら、少しずつでも捌いておいた方が良いでしょうね」

「そうね。それで冷凍して入れておけば、長持ちするでしょ」

 ハルカの魔法とマジックバッグを併用すれば、冷蔵庫や冷凍庫代わりも思いのままである。

 アエラさんのお店にあった冷蔵庫はかなり高価らしいので、これは凄く助かる。

 これでますます俺たちの食生活が充実するな! 夢が広がる。