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107 DIYで浴槽を! インターバル

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

庭の土でブロックを作ってみたものの、色がイマイチ。

『土作成』で珪砂を作り、それを元に作ることにする。

必要となる珪砂はかなり量で、珪砂の生成だけでも日数が掛かりそうである。


 研究室が整った翌日、ハルカとナツキは朝食を終えると、すぐに研究室へと引きこもってしまった。

 トーヤは1人で訓練を始め、俺とユキは昨日に引き続き、珪砂の生成。

 とは言っても、チマチマと生成するのは面倒なので、使える魔力を一気に注ぎ込み、1度だけ『土作成クリエイト・アース』を使用し、その後は2人して朝寝と洒落込む。

 回復しないと何もできないので、決してサボっているわけでは無い。

 昼過ぎに起き出し、再び『土作成クリエイト・アース』を使うと、この時点で珪砂の量がおおよそ必要量に達した。

 慣れもあるとは思うが、わずか1日で必要量が生成できたのは、ハルカ曰く、「地殻中のケイ素と酸素の量を考えると、恐らく二酸化ケイ素は一番作りやすい」のが理由だろう。

 だが、魔力は再びエンプティなので、今度はお昼寝。

 夕食ができたとハルカに起こされるまで、魔力の回復に励んだのだった。

            

 夕食とその片付けが終わり、全員で一息ついた頃合い。

 食堂のテーブルの上にはいくつかの品物が並んでいた。

「今日の成果発表~~」

「どんどん、ぱふぱふ~~」

 タイトルコール、ユキ。お囃子、俺。

 そんな俺たちに呆れたように突き刺さる視線が1つ。ハルカである。

「……何、それ?」

「いや、俺たちにはまだ発表できる成果が無いから、盛り上げ役にでもなろうかと。なぁ?」

「うん。下準備の段階だね。上手く行けば明日成果が出て、失敗したら昨日、今日の準備がすべておじゃん、そんな感じ」

 浴槽の整形に失敗しても、再利用できる可能性はあるが……最悪を想定しておけばダメージも少なかろう。うん。

「俺たちの今後に乞うご期待、ということで。ハイ、次はハルカさん!」

「はぁ……まずはこれね。何かは見れば解ると思うけど」

 少し呆れたようなため息をついた後、そう言ってハルカが押し出したのは、いわゆる鳩時計ほどの大きさがある時計。

 但し、見た感じでは何らかのギミックがあるようには見えない。

「テストとして作った物だから、嵩張かさばるだけでごく普通の時計よ? これは暖炉の上にでも置くとして、本命はこっち」

 その時計を横に避け、ハルカが次に机の中央に置いたのは、手のひらサイズの時計。

 俺のイメージする懐中時計に比べると少し大きいが、ポケットには十分に入るサイズである。

「森の奥まで行くなら、やっぱり時計は必須だと思うからね」

「曇りでも時間が解るのは便利ですね」

 太陽を見れば大まかな時間は解ったので、これまでは時計が無くてもあまり不便は無かったのだが、森の深い場所まで潜るとなれば、帰宅にかかる時間も考慮する必要がある。

 魔法で明かりは用意できても、夜の森を移動するのはやはり危険だろう。

 泊まりを前提とするならまた別だろうが、それならそれで、見張りの交代時間を知るために時計は欲しい。

「それって動力は?」

「魔力。魔石が電池代わりで、持ち主の魔力を蓄えて動くわ」

「って事は、オレは使えない?」

 俺たちの中で唯一魔法を使えないトーヤがそう訊ねるが、ハルカは首を振って否定した。

「いいえ。これは人が自然に放出する魔力程度で動くから大丈夫。トーヤにだって魔力はあるわけだしね。それに、筋力増強だって使ってるでしょ? あれも魔力」

「あぁ、そかそか」

 魔道具には自然の魔力で動くタイプ、人が自然に放出する魔力で動くタイプ、意図的に魔力を注ぎ込んで動くタイプ、そして強引に魔力を奪って動くタイプの4つがある。

 前者3つはそのままなのだが、最後の魔道具も別に『呪いの魔道具』とか言うわけではなく、魔力操作に慣れていない人でも簡単に使える様にしてあるだけである。

 『強引』とは言っても、抵抗しなければ奪える程度の『強引』なので危険性はほぼ無く、誰でも使えるため、一般向けの魔道具はこのタイプが多い。

 その代わり、意図的に魔力を注ぐタイプに比べると、製作にコストが掛かることになるのだが。

「私は薬を作っていましたが……成果と言うほどの物は無いですね。実践したおかげか、一応、スキルレベルは上がりましたが」

 そう言ってナツキは、「作ったのはこれぐらいです」と、いくつかの薬瓶を並べた。

 簡単な傷薬、疲労回復薬、胃薬、下痢止め、そして東の森にいる毒虫に効果のある解毒薬。

 他にも練習として作った薬はあるらしいが、必要性が無いため、研究室の棚に並べるだけで持っては来なかったようだ。

「他の薬は今は要らないが、解毒薬は有効じゃないか?」

「いえ、それが、虫用の解毒薬なので、私たちにはあまり意味が……」

「ん?」

「ほら、包丁が刺さらない冒険者を、ただの虫が刺せると思う?」

「無理だな。魔物なら別だろうが――」

「魔物の毒はまだ対応できません。原料が無いですし、そもそも東の森の魔物に関しては、毒がありませんから」

 バインド・バイパーも毒は無いんだよな、一応。

 しかし、頻繁に森に入るわりに、虫刺されに悩まされないと思ったら、そういうカラクリがあったのか。

 時空魔法には『聖域サンクチュアリ』という、超便利な虫除け(にも使える)魔法があるのだが、もしかして、使い道無い……? いや、刺されなくても虫が寄ってくるのはうっとうしいから、意味はあるか。

「しかし、【薬学】がレベル3……いえ、レベル4になったのよね? それだけあってもあまり意味が無いのが勿体ないわね」

「はい……」

 ナツキの場合、光魔法も使えるので、薬を使う程度の怪我なら手間も時間も掛けずに治せる。

 作った薬を売るという手もあるだろうが、利益よりもそれによって引き起こされる不利益の方が多くなりそうである。

 あえて活躍する場面を想定するなら、疫病や大規模な災害など、魔力が追いつかない様な時だろうが、薄情なようだが必要性が無いと言えば無い。

 知り合いぐらいは魔法で助けられるだろうし、無理にその他大勢に手を差し伸べたところで、益は少なく、害が多いだけである。

 物語の英雄ならそんな時、無償の愛で人助けをするのだろうが、俺たちは身内第一、他人は二の次。

 無理の無い範囲の人助けを厭いとうつもりも無いが、それも自分たちの安全が確保されてこそ。

 他人のためにハルカたちが傷付くようなことは許容できない。薄情と言われても、それが俺のスタンスである。

 ま、そんな選択が必要になる事態に巻き込まれないことが、一番なんだが。

「ナツキもせっかくだから、【錬金術】、学んでみる? ポーション主体で」

「興味はありますが……できるでしょうか?」

「魔力は扱えるわけだし、なんとかなるんじゃない? それに、教本も道具も揃ってるわけで、上手く行かなくても無駄な出費は無いんだから」

「それもそうですね……。がんばってみましょうか」

 ハルカにそう言われ、ナツキは少し考えて頷いた。

 以前、ハルカの持つ錬金術辞典を見せてもらった感じ、錬金術の範囲はかなり広いので、対応できる人が増えるのは有益だろう。特にナツキの場合、【薬学】のレベルは高いのだから、それとあわせて良い感じのポーションを作ってくれる、かも?

 ハルカやナツキがいない時でも、傷を癒やせるポーションはやっぱり欲しいからなぁ。

「ところで、ハルカ。風呂の湯沸かし器の方は?」

「簡単に設計しただけで、まだ作製はしてないわね。時計に比べると単純だから、明日には完成するわよ?」

「なら、明日はひっさしぶりに、お風呂に入れそうだね!」

 笑みを浮かべて『久しぶり』を強調するユキだが、何か忘れてないかい?

「そうだな、俺たちが失敗しなければ」

 そう言って現実を突きつけた俺に、ユキは少し視線を逸らして目を泳がせる。

「――失敗しなければ。うん、大丈夫、大丈夫、きっと」

「何? 難しそうなの? 土魔法で作ってみる、って言ってたけど」

「サイズがサイズだからなぁ。あと、ちょっと綺麗なのにするつもりだし。これ、サンプル」

 そう言って俺は、珪砂で作ったダイスを机の上に転がす。

 それをハルカが手に取り、小首をかしげる。

「これって……ガラス? ちょっと濁ってるけど」

「珪砂を土魔法で出して、それを固めた物。ガラスもどきだが、これなら土色の浴槽よりは良さそうだろ?」

「大丈夫でしょうか? ガラスだと割れたりとか……」

 少し不安そうなナツキに、俺は躊躇いつつも頷く。

「かなり厚くするから大丈夫、だと思う。可能なら、耐熱ガラスにしたいところだが……無理だよな?」

 溶かして固めるわけじゃ無いし、そもそも俺は耐熱ガラスの原理を知らない。

 何らかの物質を混ぜるんだと思うが、オレが知っているのはクリスタルガラスとウランガラスぐらいである。鉛とかウランみたいな毒物を混ぜているのに、綺麗なガラスができるのだから不思議なんだよなぁ。

 尤も、混ぜるのは単純な金属元素では無いだろうし、割合も解らないから作れと言われても作れないのだが。

「耐熱ガラスは熱膨張を抑制する物質を混ぜるんですが、お風呂の温度ですからそちらは問題ないと思いますよ? どちらかと言えば、物をぶつけて欠ける可能性の方が……」

「う~ん……ま、怪我さえしなければ、それで良いさ。自前で作るんだから、壊れたら直せば良いだけだろ?」

「……それもそうね。買うのなら反対するところだけど」

 ガラス製の浴槽とか、もし作ってもらうとしたらバカ高い価格になる事だろう。

 日本でも、有機ガラスとか呼ばれるアクリル製の浴槽はあったようだが、多分、ガラス製の浴槽は売っていないと思われる。

「ま、浴槽に関しては、使ってみての話だな。――トーヤは1日訓練してたのか?」

「いや、実は昼頃、トミーが訪ねて来てな。オレも暇だったから、ちょっくらゴブリン退治に」

 訊いてみると、前回魚釣りに行けなかったトミー、お裾分けの魚をもらって魚釣り熱が再発したらしい。

 次回行く時には付いていけるようにと、ゴブリンぐらいは斃せるように訓練を開始。今日はそれの一環として、「時間があれば付いてきてくれないか」とやって来たようだ。

「それで、どうだったんだ?」

「トミーは力はあるからな。バトルハンマーを振り回して、ゴブリンの頭を粉砕していたぞ? まぁ、最初は力が入りすぎて、頭がはじけ飛び、飛散・・物を被って悲惨・・な状態になっていたが」

 下らないギャグでぷぷぷっ、と笑うトーヤ。

 最初の頃なら笑う余裕も無かっただろうが、随分と耐性が付いたものだ。

 ちなみにトミーの方は、その最初の1回で茫然と立ち尽くし、ゲーゲーと吐いていたようだが。

「ま、比較的すぐに立ち直っていたから、なんとかなるんじゃないか?」

「なるほどね。トーヤ、ダメとは言わないけど、気をつけてね? 間違っても森の奥には入らないように」

「解ってるさ。オレも【索敵】スキルを得たから、上手いことゴブリンだけを見つけられるようになってるから」

 少し心配そうなハルカに、トーヤは肩をすくめて苦笑する。

 メリットがあれば俺たち全員でトミーを鍛えてやっても良いのだろうが、アイツの本職は鍛冶屋。言い方は悪いが、同じパーティーを組むわけでも無いのに、あまり時間を使うのも無駄である。

 トミーも本格的な冒険者になるわけでも無いだろうし、きっと今日みたいに、暇な時間がある人が付き合ってやる、ぐらいで良いのだろう。