diff --git a/235js.md b/235js.md new file mode 100644 index 0000000..584f792 --- /dev/null +++ b/235js.md @@ -0,0 +1,703 @@ +# 235 顔合わせと手合わせ (一) + +235碰头会和碰头会(一) + +「お取り次ぎ、よろしくお願いします」 + +“请代我转达。” + +「これは……解った。暫し待たれよ」 + +“这个……我明白了。请稍等一下” + +ネーナス子爵家の門の前、そこに立っている門番にギルドからの紹介状を示すと、門番のうちの一人が屋敷の中へ入り、数分ほどで前回の交渉時にも会った執事を連れて戻ってきた。 + +在妮纳斯子爵家的门前,我向站在那里的守门人出示了行会的介绍信,守门人中的一个人进了屋中,几分钟左右就把上次谈判时见过的执事带回来了。 + +「明鏡止水の皆さんですね? どうぞ中へ」 + +“是明镜止水的各位吧?请进” + +「「「失礼します」」」 + +“对不起” + +執事に案内されたのは、テーブルが一つあるだけの小さな部屋。 + +管家带我去的是只有一张桌子的小房间。 + +他に目立つ物は、テーブルの上に置かれた、いくつもの木箱ぐらいか。 + +其他引人注目的东西,大概是放在桌子上的几个木箱吧。 + +少し殺風景だが、客をもてなすわけではなく、商品の受け渡しと考えれば妥当な部屋だろう。 + +虽然有点杀风景,但并不是招待客人,而是考虑到商品的交付,房间应该是妥当的吧。 + +「こちらの上に、お願いします」 + +“请放在这上面。” + +「解りました」 + +“我明白了。” + +俺がマジックバッグから、レッド・ストライク・オックスのミルクを取り出してテーブルの上に並べていくと、執事はその封印を一つ一つ丁寧に確認して、テーブルの上にあった木箱に一〇本ずつ入れていく。 + +我从魔术包里拿出红、好球、牛克斯的牛奶,放在桌子上,执事一个一个地仔细确认那个封印,然后一个一个地放进桌子上的木箱里。 + +一〇本入れ終わったら、しっかりと蓋を閉め、それを自前のマジックバッグへと収める。 + +装完一百根后,好好地盖上盖子,然后放到自己的魔术包里。 + +そして、すべての瓶に破損も、封印の破れも無い事を確認すると、執事は一つ頷く。 + +然后,确认所有的瓶子没有破损,也没有封印的破损,管家点了点头。 + +「一一五本。確かに受領しました」 + +“一一一十五支。确实收到了” + +そう言って彼は、俺が差し出した書類にサラサラと署名した。 + +他这样说着,在我交给他的文件上签了个字。 + +「ありがとうございます」 + +“谢谢” + +「いいえ、こちらこそ。皆様に護衛の依頼を請けて頂けてありがたく思っております。ディオラ様が自信を持ってお勧めする、とのことですので。特に、高ランクで女性の冒険者は、なかなか確保できないですから」 + +“哪里,我才是。感谢大家能接受护卫的委托。因为迪奥拉先生很有自信地推荐。特别是高等级的女性冒险者,很难确保” + +「やはり、それが決め手ですか?」 + +“果然,这是决定因素吗?” + +「大きな要因ではあります。残念なことに、今当家には護衛可能な女性騎士がいませんので。――そういえば、そちらのお二人は前回、おられませんでしたよね?」 + +“这是很大的原因。遗憾的是,现在我家没有可以护卫的女性骑士这么说来,上次你们俩没在吧?” + +女性冒険者という流れからなのか、その視線の先にいたのは、メアリとミーティアの二人。 + +或许是因为女性冒险家的缘故吧,视线前方的是玛丽和米蒂亚两人。 + +全員が若い俺たちのパーティーだが、中でもメアリたちは際立っている。 + +虽然全员都是年轻的我们的派对,但是其中玛丽们很显眼。 + +そして当然と言うべきか、この二人が前回の剣の買い取り交渉時、来ていなかったことも覚えていたらしい。 + +应该说是理所当然的吧,还记得这两个人在上次收购剑的谈判中没有来过。 + +「前回は、宿で留守番をさせていましたので。この二人もある程度は戦えるのですが、パーティーでの役割はサポートと言ったところですね」 + +“上次我在宿舍看家。这两个人虽然也能进行一定程度的战斗,但是在派对上的作用是支持的” + +「なるほど、その年齢で……。お嬢様と年齢も近そうですし……解りました」 + +“原来如此,按那个年龄……。和大小姐的年龄也很近……我明白了” + +同性かつ同年代がいることは、護衛対象にとっても良いと思ったのか、執事はそれ以上何も言わずに頷く。 + +也许是觉得同性且有同龄人,对护卫对象也很好吧,执事什么也没说就点了点头。 + +ディオラさんから知らされていた明鏡止水のパーティー構成とは違ったのだろうが、戦力的に落ちているわけではないし、人数が増えても報酬額が変わるわけではない。 + +虽然和迪奥拉先生所知道的明镜止水派对构成有所不同,但并不是因为战斗力下降,即使人数增加报酬也不会改变。 + +それ故、問題なし、という判断なのだろう。おそらくは。 + +因此,判断为没有问题吧。恐怕。 + +「ところで、皆様は出発まではピニングに滞在されますよね? ……宿はお決まりでしょうか?」 + +“话说回来,大家在出发前都会在比宁停留吧……决定住宿了吗?” + +「いえ、到着してすぐ、こちらへ参りましたので」 + +“不,我一到就到这里来了。” + +そんな俺の返答に、執事は少し嬉しそうに笑みを浮かべると、両手を広げて、少し意外な提案をしてきた。 + +对于这样的我的回答,执事稍微露出高兴的笑容,张开双手,提出了一些意外的建议。 + +「であれば、是非当家へお泊まりください。部屋を用意させます」 + +“那么,请一定要住在我家。让他准备房间” + +「いや、そんな、ご厄介になるわけには……」 + +“不,没什么,没办法麻烦你……” + +積極的にご遠慮したい。 + +我想积极回避。 + +貴族の家で落ち着けるとは思えないから。 + +因为我不认为在贵族家里能安定下来。 + +前回泊まった“二番通り一番”亭は案外良かったし、宿泊料金も大した負担ではないので、心労を考えるなら、そちらで過ごした方がマシである。 + +上次住的“二番通一番”亭出乎意料地好,住宿费也不是很大的负担,考虑到您的辛苦,还是在那边住比较好。 + +「いえいえ、むしろ是非滞在して頂きたいのです。そして可能であれば、当家の兵士の訓練にもご参加頂けないかと。もちろん、お時間を頂く分は何かしら考えさせて頂きますので」 + +“不不不不,倒不如请您一定要呆在这里。而且如果可能的话,也可以参加本家士兵的训练。当然,我也会考虑一下要花多少时间” + +そんな事を言われて、俺たちは顔を見合わせる。 + +被说了那样的话,我们面面相觑。 + +基本的な護衛は兵士に任せて、俺たちは近づいてくる魔物や盗賊を蹴散らしていれば良いと思っていたのだが、一緒に訓練とか、ちょっと予定外である。 + +基本的护卫交给士兵,我们认为只要把接近的魔物和盗贼踢散就可以了,但是一起训练什么的,有点不在预定范围内。 + +どうしたものか、と考え込んだ俺たちを代表して、ナツキが口を開いた。 + +作为代表我们沉思着这是怎么回事,枣开口了。 + +「それは、なぜでしょうか?」 + +“那是为什么呢?” + +「第一の目的としては、共に訓練することで、万が一の際に連携しやすいように、という理由があります」 + +“作为第一个目的,有一个理由是通过共同训练,在万一的时候更容易合作。” + +「それは……一理ありますね。魔物であれば私たちだけで対処できるとは思いますが、その際に混乱しても困りますから」 + +“这……是有道理的。如果是魔物的话,我想只有我们自己能应付,但是那个时候混乱了也很困扰” + +「だな。それを考えると、合同訓練をする意味はありそうですね」 + +“是啊。考虑到这一点,似乎有进行联合训练的意义” + +納得、と頷いた俺たちだったが、執事さんは少し苦い表情を浮かべて、言葉を付け足す。 + +虽然我们点头表示理解,但管家却带着苦涩的表情,补充了几句话。 + +「ですが、もう一つ正直なところを申させて頂きますと、この度、お嬢様の護衛ができないことで、忸怩とした思いを抱えている兵も多いのです。そのような居残る兵たちに、皆様の腕前を知らしめて頂ければ、と……お手数をおかけすることにはなりますが、何とかお願いできませんでしょうか?」 + +“但是,说实话,这次因为不能护卫大小姐,很多士兵都感到羞愧。如果能让这些留下来的士兵们知道你们的能力的话……虽然会给你们添麻烦,但是能拜托你们些什么吗?” + +むむっ、そっちもあったのか。 + +嗯,那边也有吗。 + +これは……断れないよなぁ。 + +这个……不能拒绝啊。 + +断ると、実際に何か襲ってきた時に、色々と面倒なことになりかねない。 + +拒绝的话,实际上遭受什么袭击的时候,可能会发生很多麻烦的事情。 + +ハルカたちに視線を向けると、彼女たちも同意だったのか、小さく頷く。 + +目光转向Haruka他们,她们似乎也同意了,微微点头。 + +「解りました。そういう事であれば、出発までご厄介になります」 + +“我明白了。如果是那样的话,出发前会很麻烦的” + +「ありがとうございます。それではお部屋をご用意致しますので、こちらで少々お待ちください」 + +“谢谢。那么为您准备房间,请在这里稍等” + +了承を伝えた俺に、執事さんは少しホッとしたように軽く頭を下げると、俺たちを部屋に残し、一時退出したのだった。 + +对传达了谅解的我,执事稍微松了一口气轻轻低下头,把我们留在了房间里,暂时离开了。 + +◇ ◇ ◇ + +◇ ◇ ◇ + +さほど待つこともなく、俺たちに用意されたのは三つの部屋だった。 + +没怎么等,我们准备了三个房间。 + +部屋割りは、俺とトーヤ、ユキとナツキ、ハルカとメアリたち。 + +房间分配是,我和TOYA、雪和夏树、Haruka和玛丽们。 + +メアリたちは向こうの予定には無かっただろうし、もしかすると俺たちが少し待たされたのは、追加で一部屋用意するためだったのかもしれない。 + +玛丽们应该没有在对面的预定中吧,也许我们稍微等了一下,是为了追加准备一个房间。 + +そして当然と言うべきか、ネーナス子爵家では宿泊場所だけでは無く、食事も提供されたのだが、その味は可もなく不可もなく。 + +应该说是理所当然的吧,在纳纳斯子爵家不仅提供住宿的地方,还提供了食物,但是味道不可不可不可。 + +不味くはないのだが、ハルカたちが作る食事の方が美味いので、ちょっと微妙。 + +虽然不是很难吃,但是Haruka他们做的饭比较好吃,所以有点微妙。 + +だが、さすがにそれに文句を言うわけにもいかず……。 + +但是,也不能对那个抱怨……。 + +無難に昼食を終えた後は、護衛対象との顔合わせが行われることになる。 + +顺利吃完午饭后,将和护卫对象见面。 + +日が落ちる少し前、別室へと呼ばれた俺たちに紹介されたのは三人の女性。 + +在太阳落山之前,我们被邀请去别的房间,被介绍的是三位女性。 + +「ネーナス子爵家長女、イリアスと申します。よろしくお願いします」 + +“我是娜娜斯子爵家长女伊利亚斯。请多关照” + +「イリアス様の侍女、アーリンです」 + +“我是伊莉亚斯大人的侍女阿林。” + +「同じく、イリアス様の侍女、ケトラです」 + +“同样是伊莉亚斯的侍女,凯特拉。” + +イリアス様はふわふわのブロンドヘアーで身長は一三〇センチほど。事前に聞いていた九歳という年齢よりは少し大人びて見えるが、メアリと同じと考えると、『こんなものかな?』と思えなくもない。 + +伊利亚斯是蓬松的金色头发,身高约130厘米。比起事先听过的9岁的年龄看起来更成熟一些,但是和玛丽一样的话,“是这样的吗?”也不是不认为。 + +俺の知っている日本の九歳とは全然違うが。 + +和我所知道的日本的九岁完全不同。 + +アーリンさんは少し年配(四〇歳前後か?)のやや厳しそうな表情の侍女で、ケトラさんはそれよりも年若い、三〇に満たないほどの侍女。 + +阿玲有点年长(四十岁左右吗?)的侍女,比凯特拉还年轻,不到三十岁的侍女。 + +こちらはアーリンさんよりも、穏やかな笑みを浮かべている。 + +这张脸上的笑容比阿玲还要温和。 + +「初めまして。明鏡止水のナオと申します」 + +“初次见面。我是明镜止水的娜奥” + +そう言って自己紹介した俺に続き、ハルカたちもまた名乗る。 + +接着这样自我介绍的我,Haruka他们也再次自称。 + +イリアス様が、メアリとミーティアの所で少し驚いたような、それでいて興味深そうな表情を浮かべるが、何か不満を口にするようなことも無く、自己紹介が終わる。 + +伊利亚斯大人在玛丽和米蒂亚的地方有些吃惊,尽管如此,脸上还是浮现出兴趣浓厚的表情,但也没有什么不满的话,自我介绍就结束了。 + +「そういえば、私も名乗っていませんでしたね。ネーナス子爵家で執事をしております、ビーゼルと申します」 + +“这么说来,我也没报上名字呢。我是妮纳斯子爵家的执事,我叫比泽尔” + +付け加えるように初老の執事が名乗り、今更ながら名前を知る俺たち。 + +像是要加上一句,我们这些初老的执事自报家门,事到如今才知道我们的名字。 + +これまでは“執事”で困らなかったから気にしてなかったが、この屋敷に滞在するとなると、知っていた方が良いよな、うん。覚えておこう。 + +到现在为止都是“执事”所以没什么困扰的,但是住在这个房子里的话,还是知道比较好。记住吧。 + +「この度、明鏡止水の皆様に護衛して頂きたいのは、イリアス様とこちらの侍女二名になります」 + +“这次,想要明镜止水的各位护卫的,是伊莉亚斯大人和这边的两名侍女。” + +「同行者はこの三名のみですか?」 + +“只有这三位同行吗?” + +「はい。後は護衛の兵士です。兵士を守る必要はありません。また、侍女を見捨てることでイリアス様の生存率が上がるのであれば、見捨てて頂いて構いません。それは二人も納得済みです」 + +“是的。之后是护卫兵。没有必要保护士兵。另外,如果抛弃侍女的话伊莉亚斯大人的生存率会上升的话,可以抛弃她。这两个人都理解了” + +なかなかに非情なその言葉に、俺が侍女たちに視線を向けると、二人は真面目な表情で頷く。 + +对于这句非常无情的话,我将视线投向了侍女们,两人严肃地点了点头。 + +そんな二人を見て、イリアス様が一瞬辛そうな表情を浮かべたが、何も口にすること無く目を伏せた。 + +看到这样的两个人,伊利亚斯一瞬间露出了痛苦的表情,但是什么也没说就闭上了眼睛。 + +「もちろん、二人は私の大切な部下です。可能な限り助けて頂きたい」 + +“当然,两个人是我重要的部下。请尽可能地帮助我” + +「それはもちろんです。最善を尽くします」 + +“那是当然的。我会尽最大努力的” + +しかし、子爵の名代として出席するのに、まだ幼いと言って良いような子供が一人のみ。 + +但是,作为子爵的名代出席的,只有一个孩子可以说还很幼稚。 + +普通ならサポート役の大人が付きそうなものだが、よほどイリアス様が優秀なのか、そんな余裕が無いほどに人材不足なのか。 + +一般来说应该会有支持角色的大人,但是伊利亚斯大人真的很优秀吗。 + +それとも、侍女がその役目を兼ねているのだろうか? + +还是说,侍女兼任着这个职务呢? + +俺たちが口を出すようなことでは無いのだろうが、少し気になるところ。 + +虽然不是我们插嘴的事情,但是有点在意。 + +考え込んだ俺に、イリアス様が遠慮がちに口を開く。 + +伊利亚斯大人对陷入沉思的我客气地开口。 + +「あの、お聞きしてもよろしいですか? そちらのお二人も戦われるのでしょうか?」 + +“那个,可以问一下吗?那边的两位也能战斗吗?” + +そう言う彼女の視線の先にいたのは、メアリとミーティアの二人。 + +在她这样说的视线前方,是玛丽和米蒂亚两个人。 + +一応、あまり目立たないように後ろの方で控えていたのだが、やはり気になるか。 + +大体上,为了不太显眼,在后面控制着,还是在意吗。 + +「はい。今のところ、サポート役ではありますが、この周辺で遭遇する程度の魔物であれば、十分に対処できます」 + +“是的。现在虽然是支援角色,但是如果是在这附近遇到的程度的魔物的话,就可以充分应对了” + +「まぁ……まだ小さいのに……」 + +“嘛……明明还很小……” + +「メアリの方がイリアス様と同じ年齢ですね。ミーティアがその二つ下です」 + +“玛丽和伊利亚斯差不多大。米蒂亚在那两个下面” + +そう紹介した俺の言葉に、イリアス様が表情を輝かせる。 + +我这样介绍的话,让伊莉亚斯大人的表情熠熠生辉。 + +「まあまあまあ! それでしたらメアリとミーティア、私とお友達になってくださいませんか?」 + +“还过得去!那样的话,玛丽和米蒂亚,能和我成为朋友吗?” + +「えっと……」 + +“呃……” + +両手をポンと合わせ、嬉しそうな表情でそんな事を言うイリアス様に、メアリたちは困った様に俺たちを見上げる。 + +像伊利亚斯那样,两只手合在一起,脸上露出高兴的表情,玛丽们很为难地抬头看我们。 + +だが、この状況で『お友達になんて、なりたくありません!』などと言えるはずもなく、二人には頑張ってもらうしかない。 + +但是,在这种情况下,“我不想成为朋友!”不可能这样说,只能让两个人努力。 + +俺たちが軽く頷くと、メアリとミーティアは微妙に引きつった笑みを浮かべて頭を下げた。 + +我们轻轻点了点头,玛丽和米蒂亚露出微妙的抽搐的笑容低头。 + +「「よ、よろしくお願いします(なの)」」 + +“哟,请多关照。” + +「はい、こちらこそよろしくお願いします。――早速ですが、あの……お耳、さわらせて頂けませんか? 獣人の方とお知り合いになったのは初めてでしてっ!」 + +“是的,我才要请您多多关照。——恕我冒昧,那个……能让我摸一下耳朵吗?这是我第一次认识兽人!” + +そんな事を言ってニッコリと笑ったイリアス様の視線は、メアリとミーティアの耳にロックオンされている。 + +说了那样的话微笑着的伊莉亚斯大人的视线,被玛丽和米蒂亚的耳朵锁住了。 + +気持ちは解る。 + +我理解你的心情。 + +俺たちに拾われた頃は、髪もゴワゴワ、耳や尻尾の毛並みも艶に欠けていたメアリとミーティア。 + +被我们捡起来的时候,毛和头发都软软的,耳朵和尾巴的毛都欠缺光泽的玛丽和米蒂亚。 + +だが、俺たちと一緒に生活するようになって、栄養状態や衛生状態が改善されたことが影響しているのだろう。 + +但是,和我们一起生活的时候,营养状态和卫生状态得到了改善,这大概是受到了影响吧。 + +今では完全にキューティクルが復活。 + +现在魔方完全复活了。 + +何時までも撫でていたくなるような、ふわふわ毛並みを手に入れている。 + +得到了让人想一直抚摸的蓬松毛。 + +とは言え、獣人にとって、あまり親しくない人に耳を触られるのは、少々不快なんだとか。 + +话虽如此,对于兽人来说,被不太亲近的人碰触耳朵,还是有点不舒服。 + +俺たちの感覚に例えるなら、お尻を触らせるような感じ、らしい。 + +用我们的感觉来比喻的话,好像是让人摸屁股的感觉。 + +親しい同性や親兄弟ならあまり気にしないだろうが、俺だって初めて会った人に『お尻を触らせて』とか言われたら、同性でも超警戒する。 + +如果是亲密的同性或父母兄弟的话应该不会太在意,但是我如果被第一次见面的人说“让我摸屁股”的话,即使是同性也会非常警惕。 + +いや、お尻の場合は同性の方がむしろ怖いか。 + +不,屁股的话,同性反而更可怕。 + +俺なら、ダッシュで逃げるか、殲滅を選ぶ。 + +如果是我的话,要么用冲刺逃跑,要么选择歼灭。 + +だが、相手が貴族となると対応が難しい。 + +但是,如果对方是贵族的话,很难应对。 + +ミーティアぐらいの子供だとあまり気にしないようだが、メアリぐらいになるとやはり気になるようで、困ったように俺たちとイリアス様の間で、視線をきょときょとさせる。 + +虽然不太在意像米蒂亚那样的孩子,但到了玛丽这种程度还是会在意的,像是很困扰似的,在我们和伊利亚斯之间,让视线眯着。 + +俺としても、『触らせてやれ』とも言い難く、かといって無下に断るのも……と悩んでいると、イリアス様の後ろに控えていた侍女のケトラさんが一歩前に出て口を開いた。 + +我也很难说“让我碰一下”,但还是毫不犹豫地拒绝……正烦恼着的时候,在伊利亚特大人后面等待着的侍女凯特拉先生一步一步地向前走了出来,开口说道。 + +「お嬢様、失礼ですよ。お友達になって突然、『髪を触らせてください』なんて頼みますか? あ、いえ、お友達がいないお嬢様は、ご存じないかもしれませんね。そんな事、普通は頼まないのですよ?」 + +“小姐,失礼了。成为朋友后突然拜托你“请让我碰头发”吗?啊,不,没有朋友的小姐可能不知道。那种事一般不会拜托你的吧?” + +――おいおい。台詞の半分ぐらい不要じゃね? + +——喂喂。台词的一半不需要吧? + +なんとも遠慮の無い――いや、それどころか、言い過ぎなほどの言葉を吐いたケトラさんだったが、イリアス様は少し不満そうに口を尖らせただけで、彼女を叱責するようなことは無く、納得したように頷く。 + +毫不客气——不,不仅如此,凯特拉还说出了过分的话,但伊利亚斯只是稍稍不满地噘着嘴,并没有斥责她的意思,像是理解了似的点点头。 + +「う、酷いです、ケトラ。ですが、その言、もっともです。二人とも、すみませんでした。もっと仲良くなれたら、その時にお願いしますね?」 + +「嗯,太过分了,凯特拉。但是,这句话是正确的。两个人都很抱歉。如果关系再好一些的话,就拜托你了吧?” + +「あ、いえ、その、はい」 + +“啊,不,那个,是的。” + +なんと答えるべきか戸惑いつつ返したメアリの言葉は、そんな曖昧な物だった。 + +不知该怎么回答才好,玛丽一边困惑着一边回答,这样暧昧的话语。 + +だが、今回の護衛は片道六日ほど。 + +但是,这次的护卫是单程6天左右。 + +往復一二日と出発までの五日の間に、イリアス様がメアリたちと仲良くなれるかどうかは、彼女次第だろう。 + +往返一两天和出发前的五天里,伊利亚斯大人能不能和玛丽他们成为好朋友,就看她了吧。 + +いくらミーティアが、普通の子供よりも物怖じしない性格でも、さすがに貴族相手には自分からアプローチしないだろうしなぁ。 + +就算米蒂亚再怎么不比普通的孩子害怕,也不会主动接近贵族对象吧。 + +ちょっとした空き時間に話をして、少しずつ距離を縮めていけば、旅の終わり頃には――。 + +在一点点空闲的时间聊天,一点点缩短距离的话,旅行结束的时候——。 + +「では、早速遊びに行きましょう!」 + +“那么,赶紧去玩吧!” + +「「えっ?」」 + +“什么?” + +予想以上に、イリアス様はアクティブだった! + +比预想的还要活跃! + +メアリとミーティアの手をガシリと掴み、部屋から出ていこうとうするイリアス様。 + +伊利亚斯紧紧抓住玛丽和米蒂亚的手,从房间里出来。 + +「お待ちください」 + +“请稍等。” + +だが、そんなイリアス様を侍女がトラップ。 + +但是,那样的伊利阿斯大人却被侍女当做陷阱。 + +それが役目なのか、それはやはりケトラさんだった。 + +或许这就是任务吧,那果然是凯特拉先生。 + +「お嬢様。本日はまだするべき事が残っております。遊ぶのはその後になさってください」 + +“大小姐。今天还有要做的事情。请在那之后再玩” + +「……そうでした。貴族たるもの、疎かにはできません。うぅ、残念です」 + +“……是的。身为贵族,不可忽视。嗯,很遗憾” + +「明鏡止水の皆様には、出発までこの館に滞在して頂きます。これからもまだ時間はありますよ」 + +“明镜止水的各位,在出发前请在此停留。今后还有时间哦” + +名残惜しげに手を離すイリアス様をフォローするように、ビーゼルさんがそんな事を言うが、突然貴族に手を掴まれて、ガチガチに固まっているメアリたちの心情もフォローして欲しい。 + +为了追踪依莉亚斯先生恋恋不舍地放开手,比泽尔先生说了那样的话,突然被贵族抓住手,希望他也能关注一下凝固在僵硬状态下的玛丽们的心情。 + +立場的に、誘われると断れないのだから。 + +因为从立场上来说,被邀请的话是不能拒绝的。 + +「明日! 明日は絶対遊びますからね!」 + +“明天!明天一定要玩哦!” + +「はい、はい。遊ぶ時間が作れるように、勉強を頑張りましょうね~」 + +“是的,是的。为了能有玩的时间,努力学习吧~ + +『アイル・ビー・バーック!』とでも言わんばかりのイリアス様は、ケトラさんに背中を押されて退出し、アーリンさんはこちらに一礼してその後を追う。 + +《爱尔兰比伯克!》几乎要说的伊利亚斯大人,被凯特拉先生推着背离开,阿林先生向这边鞠了一个躬,然后追上去。 + +そして、そんなイリアス様の後ろ姿を、嬉しそうな笑みを浮かべてビーゼルさんが見送る。 + +然后,比泽尔带着喜悦的笑容目送着伊利阿斯大人的背影。 + +年齢的には孫と祖父ぐらいの差があるだけに、気持ち的にもそんなところがあるのかもしれない。 + +年龄上有孙子和祖父那样的差距,也许心情上也有那样的地方。 + +「ほっほっほ、すみません。お嬢様はこれまで同年代とのお付き合いがありませんでしたので、どう対応して良いのかよく解っておられないのです」 + +“真是对不起,小北。大小姐至今为止都没有和同龄人交往过,所以不知道该怎么应对才好” + +「いえ、何というか……思ったよりも付き合いやすそうな方で、少し安心しました」 + +“不,怎么说呢……比想象中更容易交往的人,稍微安心了一点。” + +「えぇ。イリアス様は良い方ですよ。よろしければ、メアリさんとミーティアさん、お時間があるときで構いませんので、お嬢様にお付き合い頂けませんか? お嬢様がもし何か困ったことをおっしゃるようでしたら、先ほどのケトラに言って頂ければ、対処すると思いますので」 + +“诶。伊利亚斯先生是个好人。如果可以的话,玛丽和米蒂亚,有时间的时候也可以,可以和小姐交往吗?如果大小姐说了什么为难的话,请告诉刚才的凯特拉,我想我会处理的” + +「は、はい。私でよろしければ」 + +「哈,是的。如果我可以的话” + +「はい、なの」 + +“是的,是吗?” + +穏やかに言われてしまっては、メアリたちも断れなかったようで、少し緊張した表情を浮かべながらも頷く。 + +被人温和地说了之后,玛丽们好像也没能拒绝,脸上浮现出稍微紧张的表情,点点头。 + +遊ぶと言っても何をするのか判らないが、メアリたちも普段からあまり遊んでいる様子も無いし、それはそれで良いのかもしれない。 + +说是玩也不知道要做什么,但是玛丽他们平时也不怎么玩的样子,那样可能也不错。 + +「貴族ともなると、あの年齢でもお忙しいのですね」 + +“一旦成为贵族,那个年龄也很忙呢。” + +『子供は遊ぶのが仕事』なんて言葉もあるが、この世界、貴族と庶民の違いはあれど、『勉強』と文字通りの『仕事』。普通に遊ぶ余裕が無いのは同じらしい。 + +虽然也有“孩子玩就是工作”这样的说法,但是在这个世界上,贵族和平民虽然有不同,但是“学习”和字面意思一样是“工作”。一般来说没有闲空玩是一样的。 + +「普段はそこまででは無いのですが、今、イリアス様は、御館様の名代として振る舞うための勉強をされているのです」 + +“虽然平时还没到这个程度,但是现在,伊利亚斯大人是为了作为御馆的名代而学习的。” + +普段からある程度の教育は受けているようだが、そこはまだ九歳。 + +平时好像接受了一定程度的教育,但现在才9岁。 + +今回の出発に合わせて、復習も兼ねて再度教育を受けているらしい。 + +配合这次的出发,复习的同时还接受了再次的教育。 + +「なるほど。しかし、ネーナス子爵様には、他に名代として赴ける方はおられなかったのですか?」 + +“原来如此。但是,娜娜斯子爵还有其他作为名代前往的人吗?” + +「当家には、イリアス様の他は、まだ乳飲み子のご長男がおられるのみです。ダイアス男爵との関係性を考えますと、ただの陪臣では格が足りません。選択肢が無いのです」 + +“我们家除了伊利亚斯先生以外,还有喝牛奶的长子。考虑到和戴斯男爵的关系性,只是作为一个陪臣是不够格的。没有选择” + +ビーゼルさんは愁いを帯びた顔で、小さくため息をつく。 + +比泽尔面带愁容,微微叹息。 + +今回は結婚の祝辞を述べ、ご祝儀を渡すだけであるため、さほど難しい事はないようだが、それでもあの年齢の子供を名代に据えるとなると、色々と気苦労も多いのだろう。 + +这次只是陈述结婚贺词,并送上贺礼,所以好像没什么难的,但即便如此,如果把那个年龄的孩子定为名代的话,恐怕也会有很多烦恼吧。 + +「貴族も大変ですね。私たちは気楽な冒険者ですから」 + +“贵族也很辛苦呢。我们是轻松的冒险者” + +「冒険者の方は冒険者の方で大変でしょう。少なくとも、当家の兵たちが勝てないような魔物にも対処する必要があるのですから。ランクが上がると、報酬も増える代わりに大変な仕事も多くなると聞きますし……」 + +“冒险者在冒险者方面很辛苦吧。至少,我们家的士兵们不能取胜的魔物也需要处理。听说等级上升的话,报酬也会增加,但是辛苦的工作也会变多……” + +そう言ったビーゼルさんが、ふと、何かを思いついたように顔を上げると、笑みを浮かべて俺たちの顔を見回して口を開いた。 + +说了这话的比泽尔突然像是想起了什么似的抬起头来,脸上浮现出笑容,环视着我们的脸张开了嘴。 + +「よろしければ皆さんも勉強会に参加されませんか? 今後冒険者ランクを上げていくのであれば、無駄にならない知識ですよ?」 + +“如果可以的话,大家也参加学习会吗?今后如果要提高冒险者等级的话,这是不会浪费的知识哦?” + +「い、いえ、イリアス様のお邪魔になってはいけませんので」 + +“不,不,不可以打扰伊利亚斯先生。” + +貴族の礼儀を知らなくても問題ないという事で仕事を請けているのに、勉強するとか面倒すぎる。 + +因为不知道贵族的礼仪也没问题,所以接受了工作,但是学习太麻烦了。 + +それに、いきなり人数が増えたら、教える方としても困ることだろう。 + +而且,突然人数增加的话,作为教授也会很困扰吧。 + +「邪魔どころか、むしろプラスになるかと。共に学ぶ者がいるだけで、イリアス様のやる気や自主性を引き出せるかもしれません」 + +“哪里是障碍,不如说是正面。只要有共同学习的人在,也许就能激发出伊利亚斯大人的干劲和自主性” + +そう言うビーゼルさんの視線は、メアリに向いていた。 + +那样说的比泽尔先生的视线,朝向着玛丽。 + +確かに同年代がいるというのは、良い影響を与えるかもしれないが、メアリは戦いの面ではセンスがあっても、勉強の方はさほどではない。 + +确实有同龄人的话,可能会带来好的影响,但是玛丽在战斗方面很有品位,但是学习方面却不怎么。 + +年齢からすれば、言動はしっかりしているのだが、学力的には平均的レベル。 + +从年龄来看,言行是很可靠的,但在学习能力上是平均水平。 + +脳筋では困るので、ハルカたちが授業をしているのだが……頑張ってはいる。 + +因为脑方面的问题很困扰,所以春香他们在上课……正在努力。 + +逆に、ミーティアの方は吸収に優れ、恐らく小学校であればクラスで一番とか、そのレベルにありそうなのだが、その程度と言えばその程度。 + +相反,米蒂亚的吸收能力很强,可能小学的话在班级里是最好的,但要说这个程度的话也就只有这个程度了。 + +いきなり貴族の勉強に参加しても、ワケも分からず困惑するだけだろう。 + +即使突然参加贵族的学习,也只是莫名其妙的困惑吧。 + +そしてそれらの勉強が、冒険者として役に立つ可能性はほとんど無いわけで。 + +而且这些学习对于冒险者来说几乎没有帮助的可能性。 + +「……そうですね。時間が合えば、検討させて頂きます」 + +“……是啊。如果时间合适的话,我们会讨论的” + +「はい。ぜひ、ご検討ください」 + +“是的。请一定要研究一下” + +俺の遠回しな断りの言葉にも、ビーゼルさんは穏やかな笑みを浮かべただけだった。 + +我委婉拒绝的话里,比泽尔也只是露出了温和的笑容。 \ No newline at end of file