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養蜂家の青年は、結婚前に話を聞く
 かつての俺は、養蜂家として、ただただがむしゃらに働くばかりだった。
养蜂家的青年在结婚前听故事
 家族にいいように使われている自覚はあったものの、蜜蜂のためを思って世話を続けた。
 そんな考えが、家族の歪みの原因になっていたのかもしれない。
 双子の兄の嫁ロマナが、俺への好意を吐露した瞬間に、家族の関係にヒビが入ってしまった。
かつての俺は、養蜂家として、ただただがむしゃらに働くばかりだった。
 家を出る決意を固め、偶然出会ったマクシミリニャンの娘、アニャとの結婚を決意する
以前的我,作为养蜂家,只是拼命地工作
 生まれ育ったブレッド湖の光景を背にしながら、旅立った。
 そして、ボービン湖を取り囲む山を登ったのだ。
家族にいいように使われている自覚はあったものの、蜜蜂のためを思って世話を続けた。
虽然有被家人很好地使用的自觉,但是为了蜜蜂而继续照顾着。
 マクシミリニャンの娘アニャは、息を呑むほど美しかった。
 金の髪は三つ編みをクラウンのように巻き、昼間は後頭部でまとめ、夜はそのまま流している。アーモンドのような大きな瞳は、まるで青空を映しだしているかのように澄みきっていた。ふっくらとした唇は、いつも弧を描いている。
 くるくると変わる表情は、どれだけ眺めていても飽きない。
そんな考えが、家族の歪みの原因になっていたのかもしれない。
 アニャは明るく、太陽のような少女だった
这样的想法可能是家庭扭曲的原因
 マクシミリニャンからは十九だと聞いていたが、見た目は完全に十三、四くらいの少女にしか見えない。
 正真正銘十九歳だが、なんでもアニャは未熟児として生まれたらしい。助産師によれば、十歳まで生きられるかわからないとまで言われていたようだ。
 予想に反し、アニャは元気いっぱい、健康な娘に育った。
双子の兄の嫁ロマナが、俺への好意を吐露した瞬間に、家族の関係にヒビが入ってしまった。
 けれど、十九になった今も、初潮がきていないという。つまり、子どもを産める状態にないのだ
双胞胎哥哥的媳妇罗曼娜吐露对我的好意的瞬间,家人的关系出现了裂痕
 それを知って尚、俺はアニャとの結婚を受け入れた。
 アニャは子どもを産めないから結婚はできないと言っていたが、俺にとっては大きな問題ではない。
 義姉を何人も見てきて思うのは、妊娠、出産は女性の負担があまりにも大きすぎるというもの
家を出る決意を固め、偶然出会ったマクシミリニャンの娘、アニャとの結婚を決意する
 アニャの母親は産じょく熱で亡くなってしまったというし、家系的にあまり妊娠、出産に強くないのかもしれない。アニャの小さな体では、命を削ってしまうほどの負担になるだろう。だから、別に子どもなんていなくてもいいと思っている
下定决心离家出走,与偶然相遇的马克西米莉娜的女儿阿尼亚结婚
 理解があるといっても、アニャは結婚できないというので、俺たちは結婚を蕎麦の種に賭けることとなった。三日以内に蕎麦の芽が出たら、アニャと結婚する。そう宣言した。
生まれ育ったブレッド湖の光景を背にしながら、旅立った。
 見事、三日目に蕎麦の芽は土から顔を覗かせたのだ
背着土生土长的布莱德湖的景象,踏上了旅程
 そんなわけで、俺とアニャは結婚することとなった。
そして、ボービン湖を取り囲む山を登ったのだ。
  ◇◇◇
然后,登上了围绕着波文湖的山。
 結婚する前に、マクシミリニャンより話があるという。何やら、決まりを話すようだ。
 アニャと二人並んで、話を聞く。
マクシミリニャンの娘アニャは、息を呑むほど美しかった。
马克西米莉娜的女儿阿尼亚美得令人窒息。
金の髪は三つ編みをクラウンのように巻き、昼間は後頭部でまとめ、夜はそのまま流している。アーモンドのような大きな瞳は、まるで青空を映しだしているかのように澄みきっていた。ふっくらとした唇は、いつも弧を描いている。
金发像皇冠一样卷着,白天用后脑勺扎起来,晚上就这样流着。像杏仁一样大的眼睛,就像映照出蓝天一样清澈。丰满的嘴唇,总是画着弧线。
くるくると変わる表情は、どれだけ眺めていても飽きない。
转来转去的表情,无论看多少都不会厌倦。
アニャは明るく、太陽のような少女だった。
阿尼亚是一个阳光明媚,像太阳一样的少女。
マクシミリニャンからは十九だと聞いていたが、見た目は完全に十三、四くらいの少女にしか見えない。
从马克西米利尼亚那里听说是十九,看上去完全是十三、四个左右的少女。
正真正銘十九歳だが、なんでもアニャは未熟児として生まれたらしい。助産師によれば、十歳まで生きられるかわからないとまで言われていたようだ。
确实是十九岁,但不管怎么说阿尼亚好像是作为早产儿出生的。据助产师说,甚至不知道能不能活到十岁。
予想に反し、アニャは元気いっぱい、健康な娘に育った。
与预想相反,阿尼亚成长为一个精力充沛、健康的女儿。
けれど、十九になった今も、初潮がきていないという。つまり、子どもを産める状態にないのだ。
但是,据说到了十九岁的现在,初潮还没有来。也就是说,没有生孩子的状态。
それを知って尚、俺はアニャとの結婚を受け入れた。
知道了那个之后,我接受了和阿尼亚的结婚。
アニャは子どもを産めないから結婚はできないと言っていたが、俺にとっては大きな問題ではない。
阿尼亚说因为不能生孩子所以不能结婚,但对我来说不是大问题。
義姉を何人も見てきて思うのは、妊娠、出産は女性の負担があまりにも大きすぎるというもの。
看了好几个大嫂,我觉得怀孕、生孩子对女性的负担太大了。
アニャの母親は産じょく熱で亡くなってしまったというし、家系的にあまり妊娠、出産に強くないのかもしれない。アニャの小さな体では、命を削ってしまうほどの負担になるだろう。だから、別に子どもなんていなくてもいいと思っている。
据说阿尼亚的母亲因为生育热而去世了,从家系上来说可能不太擅长怀孕和生育。阿尼亚小小的身体,会成为削减生命的负担吧。所以,我觉得没有孩子也可以。
理解があるといっても、アニャは結婚できないというので、俺たちは結婚を蕎麦の種に賭けることとなった。三日以内に蕎麦の芽が出たら、アニャと結婚する。そう宣言した。
虽说有理解,但因为阿尼亚不能结婚,所以我们把结婚赌在了荞麦面的种子上。如果三天之内荞麦面发芽的话,就和阿尼亚结婚。我这样宣布了。
見事、三日目に蕎麦の芽は土から顔を覗かせたのだ。
漂亮,第三天荞麦的芽从土里露出了脸。
そんなわけで、俺とアニャは結婚することとなった。
因此,我和阿尼亚结婚了。
◇◇◇
◇◇◇
結婚する前に、マクシミリニャンより話があるという。何やら、決まりを話すようだ。
据说在结婚之前,他比马克西米利尼亚更有话要说。好像说了什么规定。
アニャと二人並んで、話を聞く。
和阿尼亚两个人并排听故事。
「まず、我のことは、お義父様と呼ぶように」
“首先,请叫我公公。”
「呼び方は“お義父様”、で決まっているんだ」
“称呼是由‘公公’来决定的。”
「何か言ったか?」
“你说了什么?”
「なんでもないです、お義父様」
“没什么,公公。”
マクシミリニャンは満足げな表情で、コクコクと頷いた。
马克西米利尼亚带着满意的表情,咯吱咯吱地点头。
 マクシミリニャンは満足げな表情で、コクコクと頷いた。
「次に、二人で仲良く母屋で暮らすこと」
“接下来,两个人好好地在开间生活。”
俺が使っていた離れは、客人用なので開けておくように言われた。
我用的离开是客人用的,所以被要求打开。
 俺が使っていた離れは、客人用なので開けておくように言われた。
「あとは、頼むから、アニャを大事に、幸せにしてやってくれ」
“还有,拜托了,好好珍惜阿尼亚,让他幸福吧。”
「それはもちろん、そのつもり」
“那当然是打算。”
 アニャのほうをチラリと見たら、胸に手を当てて頬を赤く染めていた。可愛いやつめ。
 続いて、マクシミリニャンのほうを見ると、同じく胸に手を当てて頬を染めていた。こっちはまったく可愛くない。
アニャのほうをチラリと見たら、胸に手を当てて頬を赤く染めていた。可愛いやつめ。
看了阿尼亚一眼,手贴在胸前,脸颊被染成了红色。可爱的家伙。
続いて、マクシミリニャンのほうを見ると、同じく胸に手を当てて頬を染めていた。こっちはまったく可愛くない。
接着,看着马克西米利尼亚,同样把手贴在胸前染着脸颊。我一点也不可爱。
「話は、以上だ。これ以上、我は干渉しない。何か起こっても、夫婦の問題としてよく話し合い、解決するように」
“话到此为止。我不会再干涉了。无论发生什么,都要作为夫妻的问题好好商量,解决。”
「わかった」
「明白了。」
アニャもコクコクと頷く。
阿尼亚也点头。
 アニャもコクコクと頷く。
「教会へは、いつ行くか?」
“什么时候去教堂?”
夫婦となるには、神父から祝福を受けないといけない。
要成为夫妻,必须得到神父的祝福。
 夫婦となるには、神父から祝福を受けないといけない。
「っていうか、結婚式とかしないの?」
“话说回来,不举行婚礼吗?”
「招く親戚はいないからな。この辺では、二人で教会に向かい、祝福を受けて、夫婦となる者が多い」
“因为没有亲戚邀请。在这一带,有很多人两个人去教堂,接受祝福,成为夫妇。”
「そうなんだ」
“是啊。”
行くならば、流蜜期になる前がいいだろう。八時間かかる登山と下山を考えたら、うんざりしてしまうけれど。
 行くならば、流蜜期になる前がいいだろう。八時間かかる登山と下山を考えたら、うんざりしてしまうけれど。
如果要去的话,最好是到流蜜期之前吧。考虑到要花八个小时的登山和下山,我会厌烦的
「アニャ、どうする? いつ行く?」
「別に、教会での祝福は、必要ないんじゃない? 私達の結婚は、蕎麦の芽が認めてくれたわけだし」
「アニャ、どうする? いつ行く?」
“阿尼亚,怎么办?什么时候去?”
「別に、教会での祝福は、必要ないんじゃない? 私達の結婚は、蕎麦の芽が認めてくれたわけだし」
“另外,在教会的祝福不是没有必要吗?我们的结婚是荞麦芽认可的。”
「それはそうだけれど、形式的なものも、大事だと思うけれど?」
“虽然是这样,但我觉得形式上的东西也很重要。”
マクシミリニャンもそうだと頷く。
马克西米利尼亚也点头同意。
 マクシミリニャンもそうだと頷く。
「正直に言えば、教会が、少し苦手なの。だから、別に祝福はしなくてもいいわ」
“老实说,我有点不擅长教会。所以,不用再祝福了。”
「うーん。まあ、アニャがそう言うなら、教会での祝福はなしの方向で」
“嗯。嗯,如果阿尼亚这么说的话,在教会的祝福就在没有的方向上。”
今、この瞬間から、アニャと夫婦ということになった。
现在,从这一瞬间开始,就和阿尼亚成为了夫妇。
 今、この瞬間から、アニャと夫婦ということになった。
「まあ、教会に行かずとも、一度二人で街に行くとよい。イヴァン殿も、必要な買い物があるだろう?」
“嗯,即使不去教堂,两个人去一次街上就好了。伊凡大人也有需要的东西吧?”
確かに、着替えなどの生活必需品は買い足す必要がある。
确实,换衣服等生活必需品需要添购。
アニャを付き合わせるのは悪いと思っていたが――。
我觉得让阿尼亚交往是不好的——。
 確かに、着替えなどの生活必需品は買い足す必要がある。
 アニャを付き合わせるのは悪いと思っていたが――。
「お父様、いいの!?」
“爸爸,可以吗!?”
「お父様、いいの!?」 
「ああ、ゆっくり買い物を楽しんでくるとよい」
“啊,慢慢地享受购物就好了。”
「やったー!」
“太好了!”
アニャは買い物を、大いに喜んでいるようだった。
阿尼亚对购物似乎非常高兴。
ひとまず、買い物は流蜜期に向けての準備を行ってから行くこととなる。
首先,购物是在为流蜜期做准备之后再去的。
◇◇◇
◇◇◇
流蜜期は、巣から蜜が流れるほど花蜜を集める。どんどん貯めていき、巣箱は蜜で満たされてしまうのだ。場所がなくなると、女王が卵を産み付けるスペースにまで蜜を貯め込むので、注意が必要である。
流蜜期,蜜从巢流出来的那样收集花蜜。不断地存钱,巢箱里充满了蜜。如果没有地方的话,连女王产卵的空间都会储存蜜,所以需要注意。
蜜蜂の寿命は約四ヶ月間。このシーズンに生まれる蜜蜂が減ると、あとあと採れる蜂蜜の量に影響が出る。
蜜蜂的寿命约为四个月。这个季节出生的蜜蜂减少的话,会对之后采摘的蜂蜜的量产生影响。
巣箱の状況を把握し、必要であれば巣枠を追加しなければならないのだ。
掌握巢箱的状况,必要的话必须追加巢框。
 アニャは買い物を、大いに喜んでいるようだった。
 ひとまず、買い物は流蜜期に向けての準備を行ってから行くこととなる。
午前中は巣枠を作り、午後からは巣箱の点検に向かう
上午制作巢框,下午开始前往巢箱的检查。
 ◇◇◇
 流蜜期は、巣から蜜が流れるほど花蜜を集める。どんどん貯めていき、巣箱は蜜で満たされてしまうのだ。場所がなくなると、女王が卵を産み付けるスペースにまで蜜を貯め込むので、注意が必要である。
アニャと共に大角山羊に跨がり、崖を登り、斜面を走り抜け、川を飛び越える。
 蜜蜂の寿命は約四ヶ月間。このシーズンに生まれる蜜蜂が減ると、あとあと採れる蜂蜜の量に影響が出る。
和阿尼亚一起跨上大角山羊,爬上悬崖,穿过斜坡,飞越河流
 巣箱の状況を把握し、必要であれば巣枠を追加しなければならないのだ。
 午前中は巣枠を作り、午後からは巣箱の点検に向かう。
すべて見回ったあとは、川縁で休憩する。
全部巡视之后,在河边休息。
 アニャと共に大角山羊に跨がり、崖を登り、斜面を走り抜け、川を飛び越える。
 すべて見回ったあとは、川縁で休憩する。
 今日は日差しが強く、汗でびっしょりだ。川に飛び込みたい気分だが、さすがにまだ春なので風邪を引くだろう。それに、川の流れは速いし、深さもかなりのものだろう。今日のところは、顔を洗うだけにしておいた。
今日は日差しが強く、汗でびっしょりだ。川に飛び込みたい気分だが、さすがにまだ春なので風邪を引くだろう。それに、川の流れは速いし、深さもかなりのものだろう。今日のところは、顔を洗うだけにしておいた。
今天阳光很强,汗流浃背。虽然想跳进河里,但毕竟还是春天,所以会感冒吧。而且,河的水流很快,深度也相当大吧。今天只洗了脸。
水が滴る顔を拭こうと、背後に置いた布へ手を伸ばす。
为了擦拭滴水的脸,把手伸向放在背后的布。
 水が滴る顔を拭こうと、背後に置いた布へ手を伸ばす。
「はい、どうぞ」
“好的,请。”
「アニャ、ありがとう」
“阿尼亚,谢谢。”
親切なアニャが、布を手渡してくれた。
亲切的阿尼亚把布递给了我。
 親切なアニャが、布を手渡してくれた。
「今日は、暑いわね」
“今天真热啊。”
「だね」
「是啊。」
隣に座るアニャがもぞもぞ動いていたので、何をしているのかと見つめる。
坐在旁边的阿尼亚扭动着,凝视着他在做什么。
靴を脱ぎ、スカートを膝までたくしあげ、川に脚を浸け始めた。
 隣に座るアニャがもぞもぞ動いていたので、何をしているのかと見つめる。
脱下鞋子,把裙子挽到膝盖,开始把脚泡在河里。
白い脚が、これでもかと晒される。
白色的脚,即使这样也会暴露出来。
 靴を脱ぎ、スカートを膝までたくしあげ、川に脚を浸け始めた。
 白い脚が、これでもかと晒される。
「アニャ、何を――!」
“阿尼亚,你在干什么——!”
「こうしていると、気持ちいいわよ」
“这样做的话,会很舒服的。”
「いや、若い娘が、脚を他人に見せるなんて」
「なんで? 私達、夫婦じゃない」
“不,年轻的女儿竟然把脚给别人看。”
「なんで? 私達、夫婦じゃない」
“为什么?我们不是夫妻。”
「あ。そうだった」
“啊,是的。”
見てはいけないと思ったが、アニャは俺のお嫁さんだ。脚なんて、いくらでも見ても許されるのだ。
我以为你不能看,但是阿尼亚是我媳妇。脚什么的,无论看多少都是允许的。
じっと見つめていたら、アニャは川から脚を引き抜き、たくしあげたスカートを元に戻す。
盯着看,阿尼亚从河里抽出脚,把卷起的裙子放回原处。
 見てはいけないと思ったが、アニャは俺のお嫁さんだ。脚なんて、いくらでも見ても許されるのだ。
 じっと見つめていたら、アニャは川から脚を引き抜き、たくしあげたスカートを元に戻す。
「アニャ、もういいの?」
“阿尼亚,够了吗?”
「あなたが見るから、恥ずかしくなったのよ」
“因为你看了,我才害羞的。”
「恥ずかしくないじゃん。俺たち、夫婦なんだから」
“你不觉得羞耻嘛,我们是夫妻。”
「夫婦でも、恥ずかしいものは、恥ずかしいの」
“即使是夫妻,害羞的东西也会害羞。”
脚を拭くので、別の方向を向いておくように命じられる。
因为要擦脚,所以被命令朝着别的方向。
 脚を拭くので、別の方向を向いておくように命じられる。
夫婦だからいいというのは、すべての物事に当てはまらないようだ
 夫婦だからいいというのは、すべての物事に当てはまらないようだ。
因为是夫妻就好,似乎不适用于所有的事情

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養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と夜を過ごす
 アニャと結婚しても、山で過ごす日々に変わりはないと思っていた。 
养蜂家的青年和蜜药师的新娘一起度过了夜晚
アニャと結婚しても、山で過ごす日々に変わりはないと思っていた。
我觉得即使和阿尼亚结婚,在山上度过的日子也不会改变。
母屋の奥にある寝室を、案内されるまでは。
在被带去主屋里面的卧室之前。
 母屋の奥にある寝室を、案内されるまでは。
「ここが、寝室よ」
“这里就是卧室。”
そこまで広い部屋ではないが、どでかい寝台がドン! と置かれていた。
虽然不是那么大的房间,但是有很大的卧铺!被放着。
寝台の中心で、アニャの愛犬ヴィーテスがぐうすかいびきをかきながら眠っている。
 そこまで広い部屋ではないが、どでかい寝台がドン! と置かれていた。
在卧铺中心,阿尼亚的爱犬维特斯打着呼噜睡着了。
紹介されて以来、姿を見ていなかったが、だいたい外か家の中で眠っているという。実に羨ましい生活を送っているものだ。
自从被介绍以来,虽然没有看到他的身影,但据说他基本上都在外面或家里睡觉。真是羡慕的生活啊。
 寝台の中心で、アニャの愛犬ヴィーテスがぐうすかいびきをかきながら眠っている。
 紹介されて以来、姿を見ていなかったが、だいたい外か家の中で眠っているという。実に羨ましい生活を送っているものだ。
「それにしても、立派な寝台だね」
「笑っちゃうでしょう? 私が十二の誕生日に、お父様がくれたの。手作りなのよ」
“即便如此,这也是很好的卧铺啊。”
「笑っちゃうでしょう? 私が十二の誕生日に、お父様がくれたの。手作りなのよ」
“你会笑吧?我十二岁生日的时候,爸爸送给我的,是我亲手做的。”
何年も何年も乾燥させた栗の木で作った、気合いが入りまくりの寝台である。
这是用干燥了好几年好几年的栗子树做的,充满干劲的卧铺。
木目が美しく、手触りも上質だ。
木纹很美,手感也很好。
 何年も何年も乾燥させた栗の木で作った、気合いが入りまくりの寝台である。
 木目が美しく、手触りも上質だ。
「いつか、私が結婚して、旦那様と使うことを想定して作ってくれていたのよ」
“是为了设想总有一天我结婚后和丈夫一起使用而制作的。”
 そのころから、アニャは結婚しないだろうと予想していたようだ。
「どうして? 十二だったら、初潮がなくても、別におかしくない年頃でしょう?」
そのころから、アニャは結婚しないだろうと予想していたようだ。
从那时起,阿尼亚似乎就预料到他不会结婚。
「どうして? 十二だったら、初潮がなくても、別におかしくない年頃でしょう?」
“为什么?十二岁的话,即使没有初潮,也不奇怪吧?”
「そうだったけれど、私は、ここを捨てて嫁げないから」
“虽然是这样,但是我不会扔下这里出嫁的。”
「どういうこと?」
“什么意思?”
「こんな山奥に、婿にきてくれる男の人なんて、いないだろうなって思っていたの」
“我想在这样的深山里,应该没有男人来找我吧。”
「ああ、そういうこと」
“啊,就是这么回事。”
たしかに、麓の村で暮らす者に、ここでの生活は難しいかもしれない。何もかもが、異なる。
确实,对于生活在山脚下的村子里的人来说,在这里的生活可能很难。一切都不一样。
 たしかに、麓の村で暮らす者に、ここでの生活は難しいかもしれない。何もかもが、異なる。
「イヴァンも、驚いたでしょう? 不便だし、やたら忙しいし」
“伊凡也很吃惊吧?又不方便,忙得不可开交。”
「イヴァンも、驚いたでしょう? 不便だし、やたら忙しいし」
「うーん。空気が薄いのは驚いたけれど、もう慣れたし、不便だとは思わないよ。別に忙しくないし。むしろ、豊かな生活なんじゃない?」
“嗯。空气稀薄让我很吃惊,但我已经习惯了,也不觉得不方便。我也不忙。倒不如说,这不是很富裕的生活吗?”
「ここの暮らしが、豊か?」
“这里的生活富裕吗?”
「うん。アニャもお義父様も、生き急いでいない感じがして。自然に身を任せているっていうか、なんというか。自分で言っていて、意味がわからなくなってきた」
“嗯。阿尼亚和公公都觉得活得不急。是自然地把自己交给别人,怎么说呢?自己说的话,就不明白什么意思了。”
とにかく、実家で働いていたときとは、時間の流れがまるで異なるのだ。
总之,和在老家工作的时候,时间的流逝完全不同。
 とにかく、実家で働いていたときとは、時間の流れがまるで異なるのだ。
「実家にいたときは、一日中ひたすら忙しくて、夜は死んだように眠ってっていう毎日だったんだ。でも、ここでは、食事を味わったり、景色を眺めたり、アニャやお義父様とゆっくり喋ったり。そういう時間があるのって、豊かだなって思うんだ」
“在老家的时候,一整天都很忙,晚上就像死了一样睡觉。但是,在这里,品尝美食,眺望景色,和阿尼亚和继父悠闲地聊天。有这样的时间,我觉得很丰富。”
「そんなふうに思ってくれていたんだ。よかった」
“你是这么想我的,太好了。”
アニャは安心したように、微笑む。
阿尼亚安心地微笑着。
ここで暮らす中で、彼女の笑顔だけは曇らせてはいけない。改めて、そう思った。
在这里生活中,不能让她的笑容变得模糊。我再次这样想。
 アニャは安心したように、微笑む。
 ここで暮らす中で、彼女の笑顔だけは曇らせてはいけない。改めて、そう思った。
「お風呂に入ってくるわ。イヴァンは、先に寝ていてもいいから」
“我去洗澡了,伊凡可以先睡觉了。”
「うん、わかった」
“嗯,知道了。”
ここで、気づく。今日は、アニャとこの寝台で眠るということに。
在这里注意到。今天和阿尼亚在这个卧铺上睡觉。
新婚夫婦には、初夜という儀式がある。
新婚夫妇有一种叫做初夜的仪式。
しかし俺たちには、特に必要のないものだろう。
 ここで、気づく。今日は、アニャとこの寝台で眠るということに。
但是对我们来说,没有什么特别的必要吧
 新婚夫婦には、初夜という儀式がある。
 しかし俺たちには、特に必要のないものだろう。
 先に寝ておけと言われたし。
先に寝ておけと言われたし。
 寝台を覗き込むと、真ん中を陣取ったヴィーテスが腹をぷうぷう膨らませながら眠っている。
我让你先睡觉。
寝台を覗き込むと、真ん中を陣取ったヴィーテスが腹をぷうぷう膨らませながら眠っている。
窥视着卧铺,占据正中间的维特斯一边鼓起肚子一边睡觉。
彼が真ん中にいるので、特にアニャを気にすることなく眠れそうだ。
因为他在中间,所以不用特别在意阿尼亚就能睡着。
寝台に乗ると、ヴィーテスがパチッと目を覚ました。
坐上卧铺,维特斯啪地一声醒来。
 彼が真ん中にいるので、特にアニャを気にすることなく眠れそうだ。
 寝台に乗ると、ヴィーテスがパチッと目を覚ました。
「あ、起こして、ごめん」
“啊,不好意思吵醒你了。”
「わふっ!」
“哇!”
ヴィーテスはひと鳴きすると、起き上がる。のっそりと寝台から降りて、床の上に敷かれていた大判の布の上で再び横たわる。そのまま、眠ってしまった。
维特斯叫了一声就起来了。慢慢地从卧铺上下来,在铺在地板上的大金币布上再次躺下。就这样睡着了。
 ヴィーテスはひと鳴きすると、起き上がる。のっそりと寝台から降りて、床の上に敷かれていた大判の布の上で再び横たわる。そのまま、眠ってしまった。
「え、ちょっと待って!」
“啊,等一下!”
 このままでは、アニャと二人きりで眠ることになる。ヴィーテスに寝台で寝てもいいと言っても、びくともしない。
このままでは、アニャと二人きりで眠ることになる。ヴィーテスに寝台で寝てもいいと言っても、びくともしない。
这样下去的话,会和阿尼亚两个人一起睡觉。对维特斯说你可以睡在卧铺上,他也不害怕。
説得している間に、アニャが戻ってきた。
在劝说的时候,阿尼亚回来了。
 説得している間に、アニャが戻ってきた。
「イヴァン、何をしているの?」
“伊凡,你在干什么?”
「いや、ヴィーテスが、床の上で寝ようとしているから」
“不,因为维特斯要睡在地板上。”
「ヴィーテスは、いつもそこで寝ているのよ」
“维特斯总是在那里睡觉。”
「そ、そうなんだ」
“是,是这样。”
冬は暖かそうだなとか思っていたものの、一緒に眠らないようだ。寝台は誰も使っていないときだけ、占領しているらしい。
虽然觉得冬天好像很暖和,但是好像不一起睡觉。卧铺好像只有在没有人使用的时候才被占领。
風呂上がりのアニャは、頬を赤く染め、いつもは結んでいる長い髪をそのまま流していた。寝間着は、首から足首まで、いっさい露出がないシュミーズドレスである。
 冬は暖かそうだなとか思っていたものの、一緒に眠らないようだ。寝台は誰も使っていないときだけ、占領しているらしい。
洗完澡后,阿尼亚的脸颊被染成红色,一直系着的长发就这样流着。睡衣是从脖子到脚踝完全不露出的短礼服
 風呂上がりのアニャは、頬を赤く染め、いつもは結んでいる長い髪をそのまま流していた。寝間着は、首から足首まで、いっさい露出がないシュミーズドレスである。
助かったと思ったのは、ほんの数秒だった
 助かったと思ったのは、ほんの数秒だった。
我以为得救了,只有几秒钟
 ランタンの光がシュミーズドレスを透し、アニャの体のラインをこれでもかと見せてくれた。慌てて顔を逸らすも、しっかり見てしまった。
 凹凸のある胸から尻までの線に、すらりとした長い脚。
 いやいやいや、忘れろ忘れろと、呪文のように脳内で唱える。
ランタンの光がシュミーズドレスを透し、アニャの体のラインをこれでもかと見せてくれた。慌てて顔を逸らすも、しっかり見てしまった。
灯笼的光透过了施密斯礼服,让我看到了阿尼亚的身体线条。慌忙把脸移开,也看得很清楚。
凹凸のある胸から尻までの線に、すらりとした長い脚。
从凹凸的胸到屁股的线,苗条的长腿。
いやいやいや、忘れろ忘れろと、呪文のように脳内で唱える。
不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不。
マクシミリニャンの顔を思い浮かべたら、気持ちがだいぶ落ち着いた。
一想到马克西米利尼亚的脸,心情就平静了很多。
 マクシミリニャンの顔を思い浮かべたら、気持ちがだいぶ落ち着いた。
「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「なんでもない」
“没什么。”
もう、寝てしまえ。そう思って、半ばヤケクソな気分で布団に寝転がった。
已经睡了。这样想着,半吊子的心情躺在被窝里。
 もう、寝てしまえ。そう思って、半ばヤケクソな気分で布団に寝転がった。
「あ、そうだ」
“啊,对了。”
「な、何!?」
“什么,什么!?”
「薬を塗りましょう」
“涂点药吧。”
「あ、うん。そうだね」
“啊,嗯。”
 サシャにボコボコにされた傷はほとんど治ったものの、雨降る夜に畑に行くまで転びまくり新しい傷を作ってしまったのだ。
サシャにボコボコにされた傷はほとんど治ったものの、雨降る夜に畑に行くまで転びまくり新しい傷を作ってしまったのだ。
虽然被沙沙弄得伤痕累累的伤口几乎都治好了,但是在下雨的夜晚,直到去田地为止,一直摔倒,造成了新的伤口。
アニャにランタンを持っているように命じられる。
被阿尼亚命令拿着灯笼。
 アニャにランタンを持っているように命じられる。
「大人しくしていてね」
“老实点。”
「了解」
“确定”
アニャが目の前に座った途端、目を閉じた。これで、何も見えない。安心だ。
阿尼亚一坐在眼前,就闭上了眼睛。这样的话,什么都看不见。放心吧。
けれど、目を閉じたので、服がすれる音や、アニャの息づかい、薬を塗る指先の触感を敏感に感じ取ってしまい、落ち着かない気分にさせてくれる。ある意味拷問であった。
但是,因为闭上了眼睛,所以能敏感地感受到衣服脱落的声音、阿尼亚的呼吸、涂药指尖的触感,让人感到不安。某种意义上是拷问。
 アニャが目の前に座った途端、目を閉じた。これで、何も見えない。安心だ。
 けれど、目を閉じたので、服がすれる音や、アニャの息づかい、薬を塗る指先の触感を敏感に感じ取ってしまい、落ち着かない気分にさせてくれる。ある意味拷問であった。
「終わったわ」
“结束了。”
「ありがとう、アニャ」
“谢谢,阿尼亚。”
「どういたしまして」
「不客气。」
すぐさま、布団に潜り込む。アニャがランタンを消してくれたので、ホッとした。
马上钻进被窝里。阿尼亚把灯笼关掉了,我松了一口气。
 すぐさま、布団に潜り込む。アニャがランタンを消してくれたので、ホッとした。
それも、数秒の安堵であった。
那也是几秒的安心。
 それも、数秒の安堵であった。
「ねえ、イヴァン。くっついて眠っていい?」
「喂,伊凡,我可以跟你一起睡吗?」
「な、なんで!?」
“什么,为什么!?”
「髪の毛を乾かしていたら、体が冷えてしまったの」
“头发干了之后,身体变冷了。”
暖なら、ヴィーテスから取ればいいものの。
如果是暖和的话,从维特斯那里拿就好了。
しかし、あの巨大犬を持ち上げて布団に引き入れるのは不可能に等しい。
但是,把那只巨大的狗抬起来拉进被子里就等于不可能啦。
 暖なら、ヴィーテスから取ればいいものの。
 しかし、あの巨大犬を持ち上げて布団に引き入れるのは不可能に等しい。
「いい?」
“可以吗?”
可愛らしく聞かれたら、どうぞと答えるしかない。
如果被问到可爱的话,只能回答“请”。
アニャは遠慮なく俺に抱きついた。
阿尼亚不客气地抱住了我。
胸が、むぎゅっと押し当てられる。
胸部一下子被压住了。
 可愛らしく聞かれたら、どうぞと答えるしかない。
特大の衝撃に襲われたが、奥歯を噛みしめてぐっと堪えた
 アニャは遠慮なく俺に抱きついた。
虽然受到了特大的冲击,但咬紧牙关忍住了
 胸が、むぎゅっと押し当てられる。
 特大の衝撃に襲われたが、奥歯を噛みしめてぐっと堪えた。
「やっぱり、温かいわ」
“果然很温暖啊。”
「よかったね」
“太好了。”
消え入りそうな声しか出なかった。
只发出了快要消失的声音。
その後、アニャはすぐにスヤスヤ眠る。俺はといえば、アニャが気になってなかなか眠れなかった。
之后,阿尼亚马上就睡着了。说到我,因为很在意阿尼亚,所以怎么也睡不着。
きっと男として意識されていないから、こんな目に遭うのだろう。
一定是因为没有被意识到是男人,才会遇到这样的事情吧。
 消え入りそうな声しか出なかった。
 その後、アニャはすぐにスヤスヤ眠る。俺はといえば、アニャが気になってなかなか眠れなかった。
 きっと男として意識されていないから、こんな目に遭うのだろう。
特大のため息をつきつつ、長い夜を過ごした
 特大のため息をつきつつ、長い夜を過ごした。
一边叹气,一边度过了漫长的夜晚

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046.md

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養蜂家の青年は、家族のために朝食を作る
 朝――アニャは昨晩同様、くっついたまま眠っていた。
养蜂青年为家人做早餐
 なぜか、手を繋いで寝ている。アニャの手が、俺の手に絡んでいる感じなので、向こうから握ってきたのだろう。
 意図は謎。まあ、無意識のうちに握ったのだろうけれど。
 アニャは天使のような可愛い顔で眠っていた。本当に、警戒心はゼロである。
朝――アニャは昨晩同様、くっついたまま眠っていた。
早上——阿尼亚和昨晚一样,紧贴着睡着了。
なぜか、手を繋いで寝ている。アニャの手が、俺の手に絡んでいる感じなので、向こうから握ってきたのだろう。
不知道为什么,牵着手睡觉。因为感觉阿尼亚的手缠在我的手上,所以是从对面握过来的吧。
意図は謎。まあ、無意識のうちに握ったのだろうけれど。
意图是个谜。嗯,是在无意识中握住的吧。
アニャは天使のような可愛い顔で眠っていた。本当に、警戒心はゼロである。
阿尼亚睡得像天使一样可爱。真的,警戒心是零。
彼女より先に目覚めてよかった。
幸亏我比她先醒过来。
アニャの指先が絡んだ手を引き抜き、物音を立てないようにゆっくりと目覚める。
拔出阿尼亚指尖缠绕的手,为了不发出声音慢慢地醒来。
 彼女より先に目覚めてよかった。
 アニャの指先が絡んだ手を引き抜き、物音を立てないようにゆっくりと目覚める。
「う……ん」
“嗯……”
離れた瞬間、アニャは体を丸くしていた。やはり、俺で暖を取っているだけだったのだ。
离开的那一刻,阿尼亚蜷着身子。果然,只是我在取暖。
足下にあった毛布を、アニャにかけてあげた。すると、眉間の皺が解れ、幸せそうな寝顔となった。
我把脚下的毛毯给阿尼亚盖上了。于是,眉间的皱纹消除了,变成了幸福的睡脸。
これでよし、と。
这样就好了。
ヴィーテスは物音に反応することなく、ぐうぐう眠っていた。
维特斯对声音没有反应,呼呼地睡着了。
着替えを確保し、洗面所で着替える。
 離れた瞬間、アニャは体を丸くしていた。やはり、俺で暖を取っているだけだったのだ。
确保换衣服,在盥洗室换衣服
 足下にあった毛布を、アニャにかけてあげた。すると、眉間の皺が解れ、幸せそうな寝顔となった。
 これでよし、と。
 ヴィーテスは物音に反応することなく、ぐうぐう眠っていた。
洗った顔を拭いていると、アニャが寝間着のまま慌てた様子でやってきた。
擦着洗过的脸,阿尼亚穿着睡衣慌慌张张地来了。
 着替えを確保し、洗面所で着替える。
 洗った顔を拭いていると、アニャが寝間着のまま慌てた様子でやってきた。
「寝坊したわ!」
“我睡过头了!”
「なんで?」
“为什么?”
「旦那様よりあとに起きたら、寝坊なの!」
“比老公晚起床的话,就是睡懒觉了!”
「寝坊じゃないよ」
“不是睡懒觉。”
 そんな決まりはないと、噛んで含めるように言い聞かせた。
 しょんぼりしているアニャに、ある提案をしてみる。
そんな決まりはないと、噛んで含めるように言い聞かせた。
我告诉他没有那样的规定,要咬着包含进去。
しょんぼりしているアニャに、ある提案をしてみる。
试着向垂头丧气的阿尼亚提出一个建议。
「そうだ。俺、アニャに習ったエッグヌードルを作ってみようかな。作っている間に、着替えてきなよ」
“对了。我想试着做一下跟Ania学过的蛋面。做的时候,去换衣服吧。”
「イヴァンが、ひとりで作るの?」
“伊凡一个人做吗?”
「うん。溶かした山羊のチーズをかけて黒コショウを振ったら、おいしそうじゃない?」
“嗯。撒上融化的山羊奶酪,撒上黑胡椒,不是很好吃吗?”
「おいしそう、かも」
“看起来很好吃。”
「でしょう?」
“是吧?”
そんなわけで、今日は俺が朝食当番となった。
因此,今天我是早餐值班。
が、一つ問題が発生する。
但是,发生了一个问题。
 そんなわけで、今日は俺が朝食当番となった。
 が、一つ問題が発生する。
 エプロン置き場に、フリルたっぷりのものしか置いていなかったのだ。
エプロン置き場に、フリルたっぷりのものしか置いていなかったのだ。
 一瞬のためらいののちに、エプロンを掴む。
在放围裙的地方,只放了很多褶边
 おそらくこの家は、これしかないのだろう。心を殺して、エプロンをかけた。
一瞬のためらいののちに、エプロンを掴む。
在一瞬间犹豫之后,抓住围裙。
おそらくこの家は、これしかないのだろう。心を殺して、エプロンをかけた。
恐怕这个家只有这个吧。杀了心,戴上了围裙。
外に卵を採りに行くと、マクシミリニャンが山羊たちに餌を与えているところだった。
我去外面采鸡蛋,发现马克西米利尼正在喂山羊们。
 外に卵を採りに行くと、マクシミリニャンが山羊たちに餌を与えているところだった。
「おはよう、イヴァン殿」
“早上好,伊凡大人。”
「おはよう……お義父様」
“早上好……公公。”
お義父様、という呼びかけに満足したのか、マクシミリニャンはにこにこしながら頷いている。
也许是对岳父大人的呼吁感到满意吧,马克西米利尼亚笑嘻嘻地点头。
 お義父様、という呼びかけに満足したのか、マクシミリニャンはにこにこしながら頷いている。
「昨晩はよく眠れたか」
“昨晚睡得好吗?”
「まあ、ほどほどに」
「哎呀,适可而止。」
これからエッグヌードルを作るのだというと、腰から吊していたかごから卵を三つくれた。「エプロン、似合っているぞ!」と言われ、送り出される。フリルたっぷりのエプロンをかけているのを、すっかり忘れていた。恥ずかしいにもほどがある。
说到接下来要做蛋面,从挂在腰上的篮子里给了我三个鸡蛋。被人说“围裙很适合你哦!”。我完全忘了戴着满是褶边的围裙。惭愧也有个限度。
 これからエッグヌードルを作るのだというと、腰から吊していたかごから卵を三つくれた。「エプロン、似合っているぞ!」と言われ、送り出される。フリルたっぷりのエプロンをかけているのを、すっかり忘れていた。恥ずかしいにもほどがある。
 再び心を殺し、台所に戻った。
再び心を殺し、台所に戻った。
 材料を調理台に並べ、早速調理開始する。
再次杀了心,回到厨房
 アニャがしていたように、小麦粉の山を作り、真ん中に窪みを作ってそこに卵を落とした。
材料を調理台に並べ、早速調理開始する。
把材料摆在烹饪台上,马上开始烹饪。
アニャがしていたように、小麦粉の山を作り、真ん中に窪みを作ってそこに卵を落とした。
就像阿尼亚做的那样,他做了一堆面粉,在中间做了一个坑,然后把鸡蛋掉在那里。
「うわっ!」
“哇!”
さっそく、小麦粉の堤防が崩壊し、白身が零れそうになる。慌てて小麦をかき混ぜ始めた。なんか、上手くまとまらない。
马上,小麦粉的堤坝崩溃,白肉快要洒出来了。慌忙开始搅拌小麦。总觉得整理不好。
 さっそく、小麦粉の堤防が崩壊し、白身が零れそうになる。慌てて小麦をかき混ぜ始めた。なんか、上手くまとまらない。
「オリーブオイルを垂らすのよ」
“滴橄榄油。”
「あ!」
“啊!”
いつの間にか、アニャが背後にいた。それだけ言って、外に出て行った。マクシミリニャンの餌やりを手伝うのだろう。
不知什么时候,阿尼亚在背后。说了那么多,就出去了。他会帮马克西米利尼亚喂食吧。
アニャの言った通り、オリーブオイルを入れたら生地が滑らかになった。
正如阿尼亚所说,加入橄榄油后质地变得光滑了。
 いつの間にか、アニャが背後にいた。それだけ言って、外に出て行った。マクシミリニャンの餌やりを手伝うのだろう。
薄くのばして、カットしておく。
把它摊开,剪掉。
 アニャの言った通り、オリーブオイルを入れたら生地が滑らかになった。
 薄くのばして、カットしておく。
 湯が沸騰した鍋に塩をパッパと振って、麺を煮込んだ。
湯が沸騰した鍋に塩をパッパと振って、麺を煮込んだ。
 味見しつつ、ほどよい硬さになったら、湯からあげる。しっかり湯を切って、木皿に盛り付けた。
在水开了的锅里撒上盐,煮了面。
味見しつつ、ほどよい硬さになったら、湯からあげる。しっかり湯を切って、木皿に盛り付けた。
一边品尝,如果硬度适中的话,就从热水里给你。把热水切好,盛在木盘子里。
形は若干歪だが、上手くできたような気がする。
虽然形状有点变形,但感觉做得很好。
アニャが戻ってきたので、どの山羊のチーズを使っていいのか聞いてみた。
阿尼亚回来了,我问他用哪种山羊奶酪好。
 形は若干歪だが、上手くできたような気がする。
 アニャが戻ってきたので、どの山羊のチーズを使っていいのか聞いてみた。
「左のほうから順に、熟成されているやつ。加熱してとろとろになるのは、栗の葉っぱに包まれたのだから」
“从左到右依次是熟成的。加热后变得粘稠,是因为被栗子的叶子包裹着。”
「わかった」
「明白了。」
細かくカットし、加熱してとろとろになったものを、エッグヌードルの上に垂らしていく。
将切碎,加热后粘稠的东西滴在蛋面上。
 細かくカットし、加熱してとろとろになったものを、エッグヌードルの上に垂らしていく。
 仕上げに、黒コショウをかけたら、チーズパスタの完成だ。
仕上げに、黒コショウをかけたら、チーズパスタの完成だ。
最后浇上黑胡椒,芝士意大利面就完成了。
母屋に持って行くと、なぜかアニャとマクシミリニャンが、緊張の面持ちで座っていた。
拿着去了主屋,不知为什么阿尼亚和马克西米利尼亚,带着紧张的表情坐着。
 母屋に持って行くと、なぜかアニャとマクシミリニャンが、緊張の面持ちで座っていた。
「どうしたの?」
「え!? あ、えっと、誰かに料理を作ってもらうのは、初めてだから」
“怎么了?”
「え!? あ、えっと、誰かに料理を作ってもらうのは、初めてだから」
“啊!?啊,那个,因为是第一次让别人做饭。”
「ドキドキしておる」
“心跳加速”
「そうだったんだ。お口に合えばいいけれど」
「原来是这样,只要合您的口味就好了。」
なんだか俺まで緊張してくる。
总觉得连我都很紧张。
ひとまず、食前の祈りをして、心を静めた。
先做了饭前的祈祷,静下了心。
 なんだか俺まで緊張してくる。
 ひとまず、食前の祈りをして、心を静めた。
「よし、食べよう」
“好,吃吧。”
「ええ」
“是的。”
「うむ」
“嗯”
 二人の反応が、気になる。息を殺し、食べる様子を見守ってしまった。
  山羊の白いチーズは、麺に絡んでとろーんととろける。
二人の反応が、気になる。息を殺し、食べる様子を見守ってしまった。
我很在意两个人的反应。屏住呼吸,注视着吃的样子。
山羊の白いチーズは、麺に絡んでとろーんととろける。
山羊的白色奶酪缠在面上融化。
「こ、これ、おいしいわ!」
“这个,这个很好吃!”
「ああ、うまいな!」
“啊,真好吃!”
「本当?」
“真的吗?”
確認するために、食べてみる。
为了确认,试着吃。
 確認するために、食べてみる。
 麺はいい感じに歯ごたえがあり、山羊のチーズの濃厚な風味がよく合う。
 素材の大勝利という感じだけれど、今日のところは満点を付けたい。
麺はいい感じに歯ごたえがあり、山羊のチーズの濃厚な風味がよく合う。
面条有很好的口感,山羊奶酪的浓厚风味很搭。
素材の大勝利という感じだけれど、今日のところは満点を付けたい。
虽然感觉是素材的大胜利,但是今天想打满分。
「イヴァン、料理の才能があるわ!」
“伊凡,我有做菜的才能!”
「店が出せるぞ」
“商店要开张了。”
「二人共、大げさ」
“两个人都很夸张。”
そんなことを言いながらも、ニヤニヤしてしまったのは言うまでもない。
虽然说了那样的话,但还是笑了起来,这是不言而喻的。
 そんなことを言いながらも、ニヤニヤしてしまったのは言うまでもない。
◇◇◇
 ◇◇◇
◇◇◇
 今日も今日とて、蜜蜂の様子を見て回る。
 出発前に、アニャが丁寧に洗濯された腰帯を差し出す。
今日も今日とて、蜜蜂の様子を見て回る。
今天也和今天一样,看蜜蜂的样子。
出発前に、アニャが丁寧に洗濯された腰帯を差し出す。
出发前,阿尼亚拿出洗好的腰带。
「これ、洗って陰干ししていたから」
“这是洗后阴干的。”
「ありがとう」
“谢谢。”
受け取ったあと、アニャの視線は腰帯にあった。
收到后,阿尼亚的视线在腰带上。
 受け取ったあと、アニャの視線は腰帯にあった。
「何?」
“什么?”
「いえ、きれいな刺繍だと思って。誰が作ったの?」
“不,我以为是漂亮的刺绣。是谁做的?”
「いや、これは街で新しく買ったやつ」
“不,这是在街上新买的。”
「街で、売っているのね」
“在街上有卖的吧。”
「まあ、うん」
“嗯,嗯。”
「最近買ったの?」
“最近买的?”
「そうだね」
“是啊。”
基本的に、腰帯は家族が作る。アニャのところもそうなので、質問したのだろう。
基本上,腰带是家人做的。阿尼亚也是这样,所以问了吧。
 基本的に、腰帯は家族が作る。アニャのところもそうなので、質問したのだろう。
 最近は、観光客用に売っているので、地味に助かった。
 出発前にミハルがいくつか見繕って、持ってきてもらったのだ。
最近は、観光客用に売っているので、地味に助かった。
最近,因为是卖给游客用的,所以很朴素地得救了。
出発前にミハルがいくつか見繕って、持ってきてもらったのだ。
出发前米哈尔给我看了几个,让我拿来了。
「家族は、イヴァンに作ってくれなかったの?」
“家人没有给伊凡做吗?”
「作ってくれたけれど、あれはロマナが作ったやつだから、家に置いてきた」
“虽然给我做了,但那是罗曼娜做的,所以我把它放在家里了。”
「ロマナ?」
“罗曼娜?”
口にしてから、しまったと思う。別に、名前まで言う必要はなかったのだ。
吃了之后觉得糟了。没必要连名字都说。
 口にしてから、しまったと思う。別に、名前まで言う必要はなかったのだ。
「ロマナって誰? もしかして、イヴァンの、恋人だった人?」
“罗曼娜是谁?难道是伊凡的恋人?”
「ロマナって誰? もしかして、イヴァンの、恋人だった人?」
「違う、違う。サシャ――兄の嫁」
“不是,不是。萨沙——哥哥的媳妇。”
「お兄さんの奥さんが、どうしてイヴァンに腰帯を作るの?」
「さ、さあ? 本命用の、練習だったのかも?」
“哥哥的妻子为什么要给伊凡做腰带?”
「さ、さあ? 本命用の、練習だったのかも?」
“那么,来吧?可能是为了本命而练习的吧?”
 その言い訳で、アニャは納得しなかったようだ。
 険しい表情で、俺を見ている。子育てシーズンの鹿みたいな鋭い目だった。
その言い訳で、アニャは納得しなかったようだ。
因为那个借口,阿尼亚好像不同意。
険しい表情で、俺を見ている。子育てシーズンの鹿みたいな鋭い目だった。
用严厉的表情看着我。这是一双育儿季节像鹿一样锐利的眼睛。
「イヴァンの腰帯、私が作るから」
“伊凡的腰带,我来做。”
「え?」
“诶?”
「ロマナさんが作ったものより、上手に作ってみせる!」
“比起罗曼娜做的东西,我会做得更好!”
なぜ、ロマナと張り合うのか。
为什么要和罗曼娜竞争呢。
 なぜ、ロマナと張り合うのか。
よくわからなかったけれど、アニャの力強い宣言に「よろしくお願いします」と返してしまった
 よくわからなかったけれど、アニャの力強い宣言に「よろしくお願いします」と返してしまった。
虽然不太明白,但是对阿尼亚强有力的宣言说了“请多关照”

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047.md

@ -1,285 +1,695 @@
養蜂家の青年は、腰帯について思いを馳せる
 今日も今日とて、巣枠作りに追われる。流蜜期に向けて、そこそこ忙しい日々を送っていた。
养蜂家的青年回忆起腰带
 その脇で、アニャは裁縫を始めるようだ。俺の腰帯を作るために、張り切っている。
 布は、冬に作ったリネンを使うらしい。まさか、布まで作っていたとは。
 生地に施す刺繍は、初夏に刈った山羊の毛糸を使う。鮮やかな色は、草木染めにしたものらしい。
今日も今日とて、巣枠作りに追われる。流蜜期に向けて、そこそこ忙しい日々を送っていた。
今天也和今天一样,忙于做巢框。面向流蜜期,过着相当忙碌的日子。
その脇で、アニャは裁縫を始めるようだ。俺の腰帯を作るために、張り切っている。
在那旁边,阿尼亚好像开始缝纫了。为了做我的腰带,我很紧张。
布は、冬に作ったリネンを使うらしい。まさか、布まで作っていたとは。
布好像是用冬天做的亚麻布。没想到连布都做了。
生地に施す刺繍は、初夏に刈った山羊の毛糸を使う。鮮やかな色は、草木染めにしたものらしい。
布料上的刺绣使用初夏剪下的山羊毛线。鲜艳的颜色好像是草木染的。
「どんな模様にしようかしら」
“要什么样的图案呢?”
「なんだか、楽しそう」
“总觉得很开心。”
「楽しいわ。だって、お父様以外の腰帯を作るのは、初めてですもの!」
“好开心啊。因为这是我第一次做爸爸以外的腰带!”
満面の笑みで答えるアニャは、死ぬほど可愛い。天真爛漫という言葉が、擬人化したような存在だとしみじみ思う。
阿尼亚满脸笑容地回答,可爱得要死。我深切地感受到天真烂漫这个词是拟人化的存在。
 満面の笑みで答えるアニャは、死ぬほど可愛い。天真爛漫という言葉が、擬人化したような存在だとしみじみ思う。
「どうしたの? にこにこして」
“怎么了?笑眯眯的。”
「どうしたの? にこにこして」
「いや、アニャが可愛いと思ったから」
「か、可愛い? 私が?」
“不,我觉得阿尼亚很可爱。”
「か、可愛い? 私が?」
“啊,可爱吗?我?”
「可愛い、可愛い」
“可爱,可爱”
 感じたいい気持ちは、どんどん伝えたほうがいい。人生において感じた可愛いは、惜しまないようにしている。
感じたいい気持ちは、どんどん伝えたほうがいい。人生において感じた可愛いは、惜しまないようにしている。
 相変わらず、アニャは「可愛い」と言うと、顔を真っ赤にして盛大に照れてくれる。
感受到的好心情,最好不断地传达。在人生中感受到的可爱,是毫不吝惜的
 これが、重ねて可愛いのだ。
 可愛いは、可愛いを呼ぶ。知らない人が多いけれど、いちいち教えてあげるほど親切ではない。
 特にこの、アニャの可愛いは独り占めしたい。だって、彼女は俺だけの花嫁だから
相変わらず、アニャは「可愛い」と言うと、顔を真っ赤にして盛大に照れてくれる
依旧,阿尼亚说“可爱”的话,脸就会变得通红,盛大地害羞。
これが、重ねて可愛いのだ。
这是重叠的可爱。
可愛いは、可愛いを呼ぶ。知らない人が多いけれど、いちいち教えてあげるほど親切ではない。
可爱是呼唤可爱。虽然不认识的人很多,但并不像一一告诉你那样亲切。
特にこの、アニャの可愛いは独り占めしたい。だって、彼女は俺だけの花嫁だから。
特别想独占这个阿尼亚的可爱。因为她是我唯一的新娘。
頬に手を当ててにこにこしつつ照れていたアニャだが、ふと何かを思いだしたのか真顔になる。
手贴在脸颊上笑嘻嘻地害羞的阿尼亚,突然想起了什么,露出了真面目。
 頬に手を当ててにこにこしつつ照れていたアニャだが、ふと何かを思いだしたのか真顔になる。
「ええ、イヴァン。もしかして、ロマナさんにも可愛いって言っていたの?」
“是的,伊凡。难道你对罗曼娜也说她很可爱吗?”
「なんで、ロマナが出てくるの?」
“为什么罗曼娜会出来?”
「だって、軽率に可愛いとか言ってくるし!」
“因为,会轻率地说可爱!”
「前にも言ったけれど、血の繋がった身内以外で、可愛いと思っているのはアニャだけだよ」
“之前也说过,除了有血缘关系的亲人以外,觉得可爱的只有阿尼亚。”
「そ、そう?」
“是吗?”
一回、ポロッとロマナの名を口にしてからというもの、アニャはしきりに気にしてくる。
自从一次说出波罗和罗曼娜的名字后,阿尼亚就一直很在意。
ロマナが俺のことを好きだったという話は一切していない。それなのに、ロマナと比べてどうかと聞きたがる。
 一回、ポロッとロマナの名を口にしてからというもの、アニャはしきりに気にしてくる。
罗曼娜完全没有说喜欢我。尽管如此,我还是想问你和罗曼娜相比怎么样
 ロマナが俺のことを好きだったという話は一切していない。それなのに、ロマナと比べてどうかと聞きたがる。
 女の勘なのだろうか。鋭すぎる。
女の勘なのだろうか。鋭すぎる。
是女人的直觉吗。太尖锐了。
アニャの機嫌はすぐに直り、鼻歌を歌いつつ山羊の毛糸を選び始める。
阿尼亚的情绪很快就会好转,一边哼着歌一边开始选择山羊的毛线。
 アニャの機嫌はすぐに直り、鼻歌を歌いつつ山羊の毛糸を選び始める。
「イヴァンの髪色は銀色だから、濃い色がいいわよね」
“伊凡的发色是银色的,所以深色比较好。”
「アニャ、これ、銀じゃなくて、濁った灰色」
“阿尼亚,这不是银,而是浑浊的灰色。”
 毛先が自由にはね広がった髪は、麦わらを燃やしたときにできる灰色に似ているとミハルに言われたことがある。くすんだ、曇天のような色合いなのだ。
 最近、アニャ特製の蜂蜜石鹸で洗っているからか、コシと艶が増した気がするけれど、銀色にはほど遠い。
毛先が自由にはね広がった髪は、麦わらを燃やしたときにできる灰色に似ているとミハルに言われたことがある。くすんだ、曇天のような色合いなのだ。
美哈尔曾告诉我,发梢自由伸展的头发,很像燃烧草帽时形成的灰色。暗淡的,像阴天一样的颜色。
最近、アニャ特製の蜂蜜石鹸で洗っているからか、コシと艶が増した気がするけれど、銀色にはほど遠い。
最近,也许是因为用阿尼亚特制的蜂蜜肥皂洗的缘故,感觉筋道和光泽增加了,但离银色还很远。
「あら、知らないのね。太陽の光に当たるイヴァンの髪色は、銀色に輝いているのよ」
「哎呀,你不知道吗?阳光照射下的伊凡的发色是银色的。」
「そうなんだ。外でそういう風に見えているなんて、知らなかった」
“是啊,我不知道在外面看起来是这样的。”
「自分じゃ確認しようがないものね」
“我自己无法确认。”
「まあ、うん」
“嗯,嗯。”
アニャは濃い緑色の毛糸を手に取り、こちらへ向けて右目を眇める。
阿尼亚拿起深绿色的毛线,朝着这边仔细地看右眼。
 アニャは濃い緑色の毛糸を手に取り、こちらへ向けて右目を眇める。
「うん、この色がいいわ」
“嗯,这个颜色很好。”
ハンターグリーンという、狩猟服によく用いられる緑らしい。
据说是猎人绿色,是狩猎服中经常使用的绿色。
 ハンターグリーンという、狩猟服によく用いられる緑らしい。
「ホーソンという木の葉っぱを使って色づけしたものなの。ホーソンは動物性の繊維だったら、こんなふうに濃くて鮮やかな色がでるのよ」
“这是用一种叫霍森的树叶染上的颜色。如果霍森是动物性纤维的话,就会有这么浓又鲜艳的颜色。”
「へえ、素材によって、出る色が違うんだ。面白そう」
“啊,根据素材的不同,出现的颜色也不同。看起来很有趣。”
「そうなの。なかなかはまるわよ、草木染めは」
“是的,草木染很适合你。”
「今度、やってみようかな」
“下次试试看吧。”
「だったら、一緒にやりましょう」
“那嚒,我们一起做吧。”
「楽しみにしている」
“我很期待。”
 ここでの暮らしは仕事が山のようにある。けれど、楽しみも山のようにあるのだ。
ここでの暮らしは仕事が山のようにある。けれど、楽しみも山のようにあるのだ。
在这里的生活工作堆积如山。但是,乐趣也像山一样。
ひとつひとつの作業が新鮮で、面白い。
每一项工作都很新鲜,很有趣。
草木染めも、どういうふうに染めるのか楽しみだ。
草木染也很期待怎么染。
 ひとつひとつの作業が新鮮で、面白い。
 草木染めも、どういうふうに染めるのか楽しみだ。
「腰周りを、採寸するわね」
“腰周围要量度。”
「どうぞ、ご自由に」
“请随便。”
巣枠を組み立てているので、勝手にしてくださいという姿勢でいる。
因为正在组装巢框,所以姿势是请随便做。
 巣枠を組み立てているので、勝手にしてくださいという姿勢でいる。
アニャは背後から接近し、ぎゅっと抱きついてきた。
阿尼亚从背后靠近,紧紧地抱住了他。
彼女のやわらかな体が、背中にぐぐっと押しつけられる。
她柔软的身体被紧紧地压在背上。
 アニャは背後から接近し、ぎゅっと抱きついてきた。
 彼女のやわらかな体が、背中にぐぐっと押しつけられる。
「ちょっ、アニャ!」
“喂,阿尼亚!”
「イヴァン、動かないで」
“伊凡,别动。”
 背後から抱きつくように採寸されるなんて、想像もしていなかった。いろいろと心臓に悪い。
 アニャはすぐに離れる。ホッとするのと同時に、どこか惜しく思う気持ちもった。
背後から抱きつくように採寸されるなんて、想像もしていなかった。いろいろと心臓に悪い。
没想到会被人从背后抱住。各种各样对心脏不好。
アニャはすぐに離れる。ホッとするのと同時に、どこか惜しく思う気持ちもった。
阿尼亚马上离开。在放松的同时,也有一种很可惜的心情。
「イヴァン、あなた、けっこう着痩せするのね。思っていた以上に、ガッシリしていたわ」
“伊凡,你穿得很瘦啊。比我想象的还要瘦。”
「もっとガリガリだと思っていた?」
“你以为会更厉害吗?”
「まあ、正直に言えば。でも、骨と皮だけだったから、もっと太ったほうがいいわ。」
“好吧,说实话。不过,毕竟只是骨头和皮,还是胖一点比较好。”
「ここで暮らしていたら、きっと一年後にはムクムクになっていると思う」
“如果在这里生活的话,我想一年后一定会变成木槿花。”
「ムクムクになりなさい」
「请变成木槿花。」
アニャが腕によりをかけて、おいしい料理を作ってくれるという。ありがたすぎて、涙が出そうになった。
据说阿尼亚会用手臂给我们做好吃的菜。太感谢了,眼泪都快流出来了。
 アニャが腕によりをかけて、おいしい料理を作ってくれるという。ありがたすぎて、涙が出そうになった。
「さてと――」
“那么——”
アニャは白墨チョークを手に取り、生地にさらさらと下絵を描いていく。いったい何の模様を作ってくれるのか。
阿尼亚拿起白墨粉笔,在布料上哗啦哗啦地画着底稿。你到底要给我做什么花样。
五分後、アニャは下絵を見せてくれた。
五分钟后,阿尼亚给我看了一幅画稿。
 アニャは白墨チョークを手に取り、生地にさらさらと下絵を描いていく。いったい何の模様を作ってくれるのか。
 五分後、アニャは下絵を見せてくれた。
「イヴァン、見て。蔦模様にしようと思うの」
“伊凡,快看。我想把它做成爬山虎的样子。”
アニャの描く蔦は、葉や小さな花が付いており、精緻な模様になりそうだ。
阿尼亚画的爬山虎有叶子和小花,看起来很精致。
ここで、ふと気づく。
在这里,突然注意到。
 アニャの描く蔦は、葉や小さな花が付いており、精緻な模様になりそうだ。
 ここで、ふと気づく。
「あ――」
“啊——”
よからぬことが喉までせり上がってきたが、慌てて口を塞いだ。
不好的事情涌上了喉咙,慌忙堵住了嘴。
 よからぬことが喉までせり上がってきたが、慌てて口を塞いだ。
「え、何?」 
「な、なんでもない」 
「え、何?」
“啊,什么事?”
「な、なんでもない」
“什嚒都没有。”
「なんでもなくはないでしょうよ。言いなさい」
“也不是什么都不是吧,说吧。”
「本当に、何でもない」
“真的,没什么。”
アニャは素早く眼前にやってきて、キッと鋭い目を向ける。
阿尼亚迅速来到眼前,瞪着锐利的眼睛。
 アニャは素早く眼前にやってきて、キッと鋭い目を向ける。
「イヴァン、言いなさい」
「伊凡,你说啊。」
「はい」
“是的。”
渋々と、言おうとしていたことをアニャに告げた。
不情愿地告诉了阿尼亚想说的话。
 渋々と、言おうとしていたことをアニャに告げた。
「ロマナが作った腰帯も、蔦模様だったんだ」
“罗曼娜做的腰带也是爬山虎图案。”
「具体的に、どんな模様だったの?」
“具体是什么样的花纹?”
「なんか、帯に巻きついているような」
“好像缠在带子上了。”
白墨を手渡されたので、布地の切れ端に模様を描く。
因为交给了白墨,所以在布料的碎片上画上花纹。
 白墨を手渡されたので、布地の切れ端に模様を描く。
すると、アニャはハッとなった。
于是,阿尼亚变成了哈。
 すると、アニャはハッとなった。
「イヴァン、それは蔦じゃなくて、蔓よ」
“伊凡,那不是爬山虎,是藤蔓。”
「蔓と蔦って、どう違うんだっけ?」
“藤蔓和爬山虎有什么不同呢?”
「蔓は植物の茎が伸びたものの総称で、いろんなものに巻きついて成長するの。蔦は、地面に根を張ってどこまでも伝って伸びていく植物よ」
“藤蔓是植物的茎长出来的东西的总称,缠绕在各种各样的东西上成长。爬山虎是在地面上扎根,一直延伸到任何地方的植物。”
「あー、なるほど。蔓と蔦を混同していたかも」
“啊,原来如此。可能是把藤蔓和爬山虎混淆了。”
「ロマナさんが刺したのは、蔓日々草ね」
“罗曼娜刺的是蔓日日草。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
「花言葉は、“楽しき思い出”、“幼なじみ”。幸福と繁栄を願う言い伝えもあるわ」
“花语是‘快乐的回忆’、‘青梅竹马’。也有祈祷幸福和繁荣的传说。”
あの腰帯に、そんな思いが詰まっていたなんてしらなかった。
我不知道那个腰带里充满了这样的想法。
 あの腰帯に、そんな思いが詰まっていたなんてしらなかった。
「それとは別に、“束縛”や“縁結び”の意味合いもあるんだけれど」
「ん? なんか言った?」
“除此之外,还有‘束缚’和‘姻缘’的意思。”
「ん? なんか言った?」
“嗯?你说什么?”
「いいえ、なんでも」
“不,什么都可以。”
蔓のイメージは、家族という大樹に絡まり離れられなくなっていたかつての自分のようだと思った。
我觉得蔓的形象就像是被家人这棵大树缠住而无法离开的过去的自己。
 蔓のイメージは、家族という大樹に絡まり離れられなくなっていたかつての自分のようだと思った。
「アニャが刺そうとしていた蔦は、どういう意味があったの?」
“阿尼亚想要刺的爬山虎是什么意思?”
「“結婚”よ。もうひとつは、秘密」
“结婚啊,还有一个秘密。”
「なんか気になるんだけれど」
“我有点在意。”
「今度、気が向いたら教えるわ。それよりも、腰帯の完成を楽しみにしていて」
“下次如果你愿意的话,我会告诉你的。比起那个,我更期待腰带的完成。”
「わかった」
「明白了。」
周囲に関係なく、どんどん伸びていく蔦。
与周围无关,不断延伸的爬山虎。
 周囲に関係なく、どんどん伸びていく蔦。
今の俺に相応しい、腰帯が完成しそうだ
 今の俺に相応しい、腰帯が完成しそうだ。
适合现在的我,腰带好像要完成了

374
048.md

@ -1,209 +1,487 @@
養蜂家の青年は、義父と猟にでかける
 日々、食卓に上がる肉は狩猟で得ている。
养蜂青年和岳父出去打猎
 街のほうでは狩猟できる期間が定められていて、秋から春先までと決まっている。春から子育てのシーズンとなるからだ。個体数の調整のためらしい。
 一方で、山暮らしの家族には、禁猟なんてない。街に住む人達のように、皆がこぞって狩猟にでかけるわけではないからだ。
 むしろ進んで狩らないと、畑を荒らされたり、蜜蜂の巣箱を壊されたりする。人間と人間の扱う物は脅威であると、知らしめておく必要があるようだ
日々、食卓に上がる肉は狩猟で得ている
每天餐桌上的肉都是通过狩猎获得的。
 ここでの狩猟は、娯楽ではない。生きるために必要なものなのだろう。
街のほうでは狩猟できる期間が定められていて、秋から春先までと決まっている。春から子育てのシーズンとなるからだ。個体数の調整のためらしい。
街上规定了可以狩猎的时间,从秋天到初春。因为从春天开始是养育孩子的季节。好像是为了调整个体数。
 なんとなく、マクシミリニャンが猟銃を片手に狩猟に出かける様子を想像していた。
 実際は異なる。獲物はすべて、罠で捕まえているらしい。
一方で、山暮らしの家族には、禁猟なんてない。街に住む人達のように、皆がこぞって狩猟にでかけるわけではないからだ。
另一方面,对于住在山里的家人来说,没有什么禁猎的。因为并不是像住在街上的人们那样,大家都去狩猎。
むしろ進んで狩らないと、畑を荒らされたり、蜜蜂の巣箱を壊されたりする。人間と人間の扱う物は脅威であると、知らしめておく必要があるようだ。
倒不如说不主动狩猎的话,田地会被糟蹋,蜜蜂的蜂箱也会被破坏。人类和人类所处理的东西似乎是一种威胁,有必要让大家知道。
ここでの狩猟は、娯楽ではない。生きるために必要なものなのだろう。
在这里狩猎,不是娱乐。是为了生存而必要的东西吧。
なんとなく、マクシミリニャンが猟銃を片手に狩猟に出かける様子を想像していた。
总觉得,我想象着马克西米利尼亚一只手拿着猎枪外出狩猎的样子。
実際は異なる。獲物はすべて、罠で捕まえているらしい。
实际上不同。猎物好像都是用陷阱捕捉的。
今日はウサギを捕まえる罠を見せてもらうことにした。
今天我决定让他们看看捉兔子的陷阱。
ウサギの通り道に、仕掛けているようだ。
好像是在兔子的街道上设置的。
 今日はウサギを捕まえる罠を見せてもらうことにした。
 ウサギの通り道に、仕掛けているようだ。
「罠猟の基本は、獲物を長い間苦しませないことだ」
“陷阱狩猎的基本是长时间不让猎物痛苦。”
罠をしかけたときは、毎日様子を見に行くようにするという。
据说设置陷阱的时候,每天都要去看情况。
長時間苦痛を与えるくくり罠や、鉄製のトラバサミなどは絶対に使わないと決めているらしい。
据说决定绝对不使用长时间带来痛苦的陷阱和铁制的虎钳等。
 罠をしかけたときは、毎日様子を見に行くようにするという。
 長時間苦痛を与えるくくり罠や、鉄製のトラバサミなどは絶対に使わないと決めているらしい。
「かかっているといいのだが」
“挂着就好了。”
マクシミリニャンが仕掛けた罠は、古きよき落とし穴。
马克西米利尼亚设置的陷阱是古老而美好的陷阱。
ウサギが脱出できないほど深く掘った穴に、木の棒や枯れ草を乗せたら完成。その上をウサギが通ったら、落下するというシンプルなもの。穴の底には、藁を敷いている親切設定らしい。
在兔子无法逃脱的深坑里,放上木棒和枯草就完成了。兔子从上面通过的话,就会掉下来,这是一种简单的东西。洞的底部好像是铺着稻草的亲切设定。
落とし穴を仕掛けた木には、赤く染めたリボンを結んでいるという。そうすれば、どこに罠を仕掛けたか一目瞭然なわけだ。
据说在设置陷阱的树上系着染成红色的丝带。这样的话,在哪里设置了陷阱就一目了然了。
 マクシミリニャンが仕掛けた罠は、古きよき落とし穴。
 ウサギが脱出できないほど深く掘った穴に、木の棒や枯れ草を乗せたら完成。その上をウサギが通ったら、落下するというシンプルなもの。穴の底には、藁を敷いている親切設定らしい。
 落とし穴を仕掛けた木には、赤く染めたリボンを結んでいるという。そうすれば、どこに罠を仕掛けたか一目瞭然なわけだ。
たしかに、緑だらけの森の中で、リボンの赤はよく目立つ。すぐに発見できた。
确实,在满是绿色的森林中,丝带的红色很显眼。很快就发现了。
 たしかに、緑だらけの森の中で、リボンの赤はよく目立つ。すぐに発見できた。
「おお、地上の仕掛けがなくなっておるな」
“哦,地上的装置不见了。”
「ウサギが落ちているってこと?」
“你是说兔子掉下来了?”
「まあ、そうだな。罠だけ落下して、中は空っぽという場合もある」
“嗯,是啊。也有只落下陷阱,里面空空如也的情况。”
「なるほど」
“原来如此。”
 今のシーズンは子ウサギも歩き回っている。獲るのは成獣のみで、子どもは逃がしてやるらしい。
今のシーズンは子ウサギも歩き回っている。獲るのは成獣のみで、子どもは逃がしてやるらしい。
这个季节小兔子也在到处走动。捕获的只有成兽,孩子好像会逃跑。
穴を覗き込むと、ウサギが――いた。
窥视着洞,兔子——在。
ウルウルとした瞳を、覗き込む俺とマクシミリニャンに向けている。まるで、「助けてください」と訴えているように見える。
看着乌尔的眼睛,朝着窥视的我和马克西米利尼亚。看起来就像是在呼吁“请帮帮我”。
 穴を覗き込むと、ウサギが――いた。
 ウルウルとした瞳を、覗き込む俺とマクシミリニャンに向けている。まるで、「助けてください」と訴えているように見える。
「お義父様、これ、成獣?」
“公公,这是成兽吗?”
「成獣だな」
「你真是成兽啊。」
 マクシミリニャンは手にしていた網で、ウサギを掬った。ジタバタを暴れるウサギの手足を、素早く紐で結ぶ。
 腰から太いナイフを取り出し、首筋を切り裂いた
マクシミリニャンは手にしていた網で、ウサギを掬った。ジタバタを暴れるウサギの手足を、素早く紐で結ぶ
 ウサギは「キー!」と大きくもない声を上げ、すぐに息絶えた。ウサギは声帯がないので、そこまで大きな声を上げることはないらしい
马克西米利尼用手里的网舀起兔子。用绳子快速地系上闹腾的兔子的手脚
 だったらさっきの「キー!」はなんだったのか。マクシミリニャンに聞いたら「ウサギの神秘だ」と答えていた。ポカンとしていたら、「鼻孔の近くにある器官が変形して、そのような音が出るのだ」と解説してくれた。
 どうやらウサギの神秘云々は、笑いところだったらしい。真面目に聞いてしまい、反省の意を示した。
 血抜きをするために木にぶら下げておく。その間に、穴を埋める。
腰から太いナイフを取り出し、首筋を切り裂いた。
从腰上掏出一把粗刀,把脖颈切开。
ウサギは「キー!」と大きくもない声を上げ、すぐに息絶えた。ウサギは声帯がないので、そこまで大きな声を上げることはないらしい。
兔子大声喊着“钥匙!”,很快就断气了。兔子因为没有声带,所以好像不会发出那么大的声音。
だったらさっきの「キー!」はなんだったのか。マクシミリニャンに聞いたら「ウサギの神秘だ」と答えていた。ポカンとしていたら、「鼻孔の近くにある器官が変形して、そのような音が出るのだ」と解説してくれた。
那么刚才的“键!”是什么呢。我问了马克西米利尼亚,他回答说:“这是兔子的神秘。”。他解释说:“鼻孔附近的器官变形后会发出这样的声音。”。
どうやらウサギの神秘云々は、笑いところだったらしい。真面目に聞いてしまい、反省の意を示した。
看来兔子的神秘之类的,是笑的地方。认真地听了,表示了反省的意思。
血抜きをするために木にぶら下げておく。その間に、穴を埋める。
为了抽血把它挂在树上。在这期间填补漏洞。
「これ、使い回すわけじゃないんだ」
“这个,不是到处用的。”
「ああ。毎回、新しい穴を掘っておる。山の命をいただく以上、変に効率化させたくないだけなのだが」
“啊,每次都在挖新的洞。既然要山的命,我只是不想让它效率化。”
「そっか」
“是吗?”
街の禁猟に従うわけではないが、春先はどんどん狩猟するというわけではないようだ。
虽然不是遵从街道的禁猎,但初春似乎并不是不断地狩猎。
他にも落とし穴を掘っていたようで、本日は三羽のウサギを得た。
好像还挖了其他陷阱,今天得到了三只兔子。
三羽目のウサギを仕留めたのだが、ナイフを入れる位置を間違えて苦しませてしまった。
 街の禁猟に従うわけではないが、春先はどんどん狩猟するというわけではないようだ。
虽然找到了第三只兔子,但是放错了刀的位置,让它很痛苦
 他にも落とし穴を掘っていたようで、本日は三羽のウサギを得た。
 三羽目のウサギを仕留めたのだが、ナイフを入れる位置を間違えて苦しませてしまった。
 落ち込んでいたら、マクシミリニャンは最初から上手くできる者はいないと、優しく励ましてくれる。
落ち込んでいたら、マクシミリニャンは最初から上手くできる者はいないと、優しく励ましてくれる。
如果情绪低落的话,马克西米利尼亚会温柔地鼓励我说,从一开始就没有人能做得很好。
「命を奪う行為が上手くても、自慢にはならぬ」
“即使夺取生命的行为很好,也不能骄傲。”
かといって、きれいごとだけでは生きてはいけないと、マクシミリニャンは言葉を続けた。
话虽如此,马克西米利尼亚继续说,不能只靠漂亮的事情生存。
本当に、その通りだと思う。
真的,我觉得是这样。
 かといって、きれいごとだけでは生きてはいけないと、マクシミリニャンは言葉を続けた。
 本当に、その通りだと思う。
家に戻ると、マクシミリニャンはウサギの捌き方を教えてくれた。
 家に戻ると、マクシミリニャンはウサギの捌き方を教えてくれた。
回到家里,马克西米利尼亚教我如何处理兔子
 ウサギを持ち上げると、まだ温かかった。ウルウルとした瞳で見上げていた様子を思い出し、ウッとなる。
ウサギを持ち上げると、まだ温かかった。ウルウルとした瞳で見上げていた様子を思い出し、ウッとなる。
把兔子举起来,还很暖和。想起用乌尔的眼睛仰望的样子,很受欢迎。
「なんか、おかしいね。魚がウルウルとした目で見つめていても、なんとも思わずにナイフで命を絶つのに。ウサギは、可哀想に思ってしまうなんて」
“真奇怪,鱼用乌鲁鲁鲁的眼睛盯着看,却不由得用小刀结束了生命。兔子竟然觉得可怜。”
「その辺は、人間の愚かな部分なのだろう」
“这大概是人类愚蠢的部分吧。”
「間違いない」
“没错。”
 そんな話をしながら、再びウサギにナイフを入れる。
 まず、椅子に座って膝に布を広げ、その上にウサギを乗せる。この状態で、捌くらしい。
そんな話をしながら、再びウサギにナイフを入れる。
一边说着那样的话,一边再次把刀放进兔子里。
まず、椅子に座って膝に布を広げ、その上にウサギを乗せる。この状態で、捌くらしい。
首先,坐在椅子上,把布铺在膝盖上,然后把兔子放在上面。在这种状态下,好像很畅销。
「まずは腹から。穴を開けて、指先で裂いていく」
“首先从腹部开始。打开洞,用指尖撕开。”
腿でしっかりウサギを挟んで固定させ、ナイフを腹に滑らせる。そこに指先を入れて、内臓の全体が見えるまで裂いていくようだ。胃や腸などを丁寧に取り出したあと、ウサギを布に包んで膝の上から台に移す。
用腿紧紧地夹着兔子固定,把刀滑到肚子上。在那里放入指尖,直到能看到内脏的整体为止。仔细取出胃、肠等后,用布包好兔子,从膝盖上移到台上。
 腿でしっかりウサギを挟んで固定させ、ナイフを腹に滑らせる。そこに指先を入れて、内臓の全体が見えるまで裂いていくようだ。胃や腸などを丁寧に取り出したあと、ウサギを布に包んで膝の上から台に移す。
「四肢を切り落とし、腹のほうから皮を剥ぐのだ」
“把四肢切掉,从腹部剥皮。”
 ここでようやく、皮を剥ぐ。マクシミリニャンは簡単にするすると剥いていくが、これがけっこう難しい。
 下肢から後肢の皮を剥いでいって、尻尾は切り落とす。
ここでようやく、皮を剥ぐ。マクシミリニャンは簡単にするすると剥いていくが、これがけっこう難しい。
终于在这里剥皮了。马克西米利尼亚简单地做的话就会剥掉,但是这个很难。
下肢から後肢の皮を剥いでいって、尻尾は切り落とす。
从下肢剥下后肢的皮,尾巴剪掉。
「あとは、後肢を掴んで上半身のように引っ張る」
“然后,抓住后肢像上半身一样拉。”
少し力を加えたくらいで、皮は破れてしまいそうで恐ろしい。ゆっくり、ゆっくりと剥いでいった。
 少し力を加えたくらいで、皮は破れてしまいそうで恐ろしい。ゆっくり、ゆっくりと剥いでいった。
稍微加了点力,皮就要破了,很可怕。慢慢地,慢慢地剥掉了
 最後に、腱を切ったら、完全に皮と身は分離する。首もここで切り落とすようだ。
最後に、腱を切ったら、完全に皮と身は分離する。首もここで切り落とすようだ。
最后,切断肌腱后,皮和身体完全分离。脖子好像也在这里砍掉了。
「最後に、肛門付近の処理をする。ここで失敗したら、肉が台無しになるから、慎重にするように」
“最后处理肛门附近。如果这里失败,肉就会糟蹋,所以要慎重。”
「了解」
“确定”
再び腹から後肢まで刃を滑らせていき、肛門を切り取る。
再次从腹部到后肢滑动刀刃,切下肛门。
 再び腹から後肢まで刃を滑らせていき、肛門を切り取る。
 最後に胸からナイフを入れ、心臓や肝臓を取り除く。
 やっと、ウサギは市場でよく見かける姿となった。
最後に胸からナイフを入れ、心臓や肝臓を取り除く。
最后从胸部放入小刀,去除心脏和肝脏。
やっと、ウサギは市場でよく見かける姿となった。
终于,兔子成了市场上常见的样子。
「あとは、アニャに調理を頼もう。よく、頑張った」
“还有,拜托阿尼亚做饭吧。好好努力了。”
マクシミリニャンは血まみれの手を洗ってから、頭をガシガシと撫でてくれた。
马克西米利尼亚洗了沾满鲜血的手,然后咯吱咯吱地抚摸着我的头。
子どものような褒め方だったが、なんだか嬉しかった。
虽然是像孩子一样的表扬方法,但总觉得很开心。
夕食に、ウサギ料理が並んだ。
晚饭上摆了兔子料理。
ウサギの串焼きに、ウサギのシチュー、ウサギのソーセージと、ごちそうである。
烤兔子串、炖兔子、香肠,真是美味佳肴。
 マクシミリニャンは血まみれの手を洗ってから、頭をガシガシと撫でてくれた。
 子どものような褒め方だったが、なんだか嬉しかった。
どれもおいしかったけれど、落とし穴に落ちたウサギのウルウルとした目は忘れられそうにない。
虽然哪个都很好吃,但是掉进陷阱的兔子乌尔的眼睛好像忘不了。
 夕食に、ウサギ料理が並んだ。
 ウサギの串焼きに、ウサギのシチュー、ウサギのソーセージと、ごちそうである。
 どれもおいしかったけれど、落とし穴に落ちたウサギのウルウルとした目は忘れられそうにない。
なんというか、生きるって大変なんだなと、改めて思ってしまった。
 なんというか、生きるって大変なんだなと、改めて思ってしまった。
怎么说呢,我再次想到了生存是很辛苦的

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049.md

@ -1,205 +1,479 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と蜜薬を作る
 アニャは月に一度、一人で村に下りて具合が悪い村人の話を聞いたり、作った蜜薬を店に卸したりしているらしい。
养蜂青年与蜜药师新娘做蜜药
アニャは月に一度、一人で村に下りて具合が悪い村人の話を聞いたり、作った蜜薬を店に卸したりしているらしい。
阿尼亚每月都会独自一人下村听村民说一次不舒服的话,或者把做的蜜药批发给店里。
家畜や犬の世話があるので、マクシミリニャンと一緒に行くことはないようだ。
因为有家畜和狗的照顾,所以好像不会和马克西米利尼一起去。
今回、買い物のついでに、それらも済ませるらしい。アニャはせっせと薬作りを行っている。今日一日、助手を務めるよう命じられた。
这次买东西的时候,顺便把它们也做完了。阿尼亚在不停地做药。今天一天,我被命令担任助手。
 家畜や犬の世話があるので、マクシミリニャンと一緒に行くことはないようだ。
 今回、買い物のついでに、それらも済ませるらしい。アニャはせっせと薬作りを行っている。今日一日、助手を務めるよう命じられた。
「最初に作るのは、売れ筋の打ち身軟膏よ」
“最开始做的是畅销的全身软膏。”
 力仕事をしていたら、知らぬ間に青あざができているときがある。あれは、地味に痛い。
 もしも街で打ち身に効く薬が売っていたら買っていただろう。それほど、打ち身だらけの毎日を送っていたような気がする。
力仕事をしていたら、知らぬ間に青あざができているときがある。あれは、地味に痛い。
如果做力气活的话,有时会在不知不觉中长出青痣。那是朴素的痛。
もしも街で打ち身に効く薬が売っていたら買っていただろう。それほど、打ち身だらけの毎日を送っていたような気がする。
如果街上有卖对身体有效的药的话就买了吧。我觉得每天都过得很懒散。
「アルニカという花を使って作るの」
“用一种花做的”
乾燥させた黄色い花を、アニャは見せてくれた。
阿尼亚给我看了干燥的黄色的花。
 乾燥させた黄色い花を、アニャは見せてくれた。
「このアルニカには、内出血を治してくれる力があるわ。他にも、筋肉痛やねんざに効果を示すのよ」
“这个阿尔尼卡有治疗内出血的力量。另外,对肌肉疼痛和扭伤也有效果。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
じめっとした、山の高い位置に自生しているらしい。
好像野生在山的高处。
夏から秋にかけて開花し、花の部分のみを摘んで使うのだとか。
从夏天到秋天开花,只摘花的部分使用。
 じめっとした、山の高い位置に自生しているらしい。
 夏から秋にかけて開花し、花の部分のみを摘んで使うのだとか。
「まず、煮沸消毒した瓶に乾燥させたアルニカを入れて、オリーブオイルにじっくり漬けていくの」
“首先,在煮沸消毒的瓶子里放入干燥的阿尔尼卡,慢慢地浸泡在橄榄油里。”
本日は瓶十個分作るらしい。アニャがアルニカを入れて、そのあと俺がオリーブオイルを瓶に注ぐ。
今天好像要做十个瓶子。阿尼亚把阿尔尼卡放进去,然后我把橄榄油倒进瓶子里。
 本日は瓶十個分作るらしい。アニャがアルニカを入れて、そのあと俺がオリーブオイルを瓶に注ぐ。
「これを、日当たりがいい窓際に半月置くのよ。その間に、オリーブオイルに有効成分が染み出てくるの。半月経ったものが、あれよ!」
“把这个放在阳光充足的窗边半个月。在这期间,橄榄油会渗出有效成分。过了半个月的东西就是那个!”
アニャは窓際に置いてあった瓶を指し示す。
阿尼亚指着放在窗边的瓶子。
 アニャは窓際に置いてあった瓶を指し示す。
「あれ、アルニカをオリーブオイルに漬けたやつなんだ。なんか、食べ物だと思っていた」
“咦,是用橄榄油腌制阿尔尼卡的家伙。我还以为是食物呢。”
「食べ物はだいたい、地下に保存しているわよ」
“食物基本上都保存在地下。”
「だよね」
「是啊。」
オリーブオイルに漬けたアルニカを、漉していく。アルニカ自体も絞って、有効成分を一滴たりとも無駄にしない。
将浸泡在橄榄油中的阿尔尼卡过滤。阿尔尼卡本身也拧干,一滴有效成分也不浪费。
オリーブオイルでベタベタになった手を洗い、次なる作業に移る。
用橄榄油清洗粘糊糊的手,然后进行下一步的作业。
 オリーブオイルに漬けたアルニカを、漉していく。アルニカ自体も絞って、有効成分を一滴たりとも無駄にしない。
 オリーブオイルでベタベタになった手を洗い、次なる作業に移る。
「ボウルにアルニカの成分を含んだオリーブオイルに蜜蝋を加えて、湯煎で溶かしていくの。クリーム状になったら、打ち身軟膏の完成よ」
“在碗里加入含有阿尔尼卡成分的橄榄油和蜂蜡,用热水煎融化。如果变成奶油状的话,就完成了全身软膏。”
打ち身軟膏を、小さな瓶にせっせと詰める。最後に空気を抜くため、トントンと底を叩きつけておくのを忘れない。
把打身药膏紧紧地塞进小瓶里。最后为了排气,别忘了咚咚地敲到底。
 打ち身軟膏を、小さな瓶にせっせと詰める。最後に空気を抜くため、トントンと底を叩きつけておくのを忘れない。
 瓶には、“アニャの蜜薬・打ち身軟膏”と書かれた紙を巻いて紐で縛る。
瓶には、“アニャの蜜薬・打ち身軟膏”と書かれた紙を巻いて紐で縛る。
瓶子上缠着写有“茴香蜜药·打身软膏”的纸,用绳子绑上。
「これにて、打ち身軟膏の完成よ」
“这样,打身软膏就完成了。”
「おー!」
“喂!”
薬だけでなく、女性用の美容品も作っているらしい。
不仅是药,好像还制作了女性用的美容品。
 薬だけでなく、女性用の美容品も作っているらしい。
「日焼け止めに、リップバーム、化粧水にハンドクリームとか、いろいろね」
“防晒霜、唇膏、化妆水、护手霜等各种各样。”
美容品も人気のようで、すぐに売り切れてしまうようだ。
美容品也很受欢迎,好像很快就卖完了。
 美容品も人気のようで、すぐに売り切れてしまうようだ。
「とうとう、明日になったわね」
“终于到明天了。”
「そうだね」
“是啊。”
「いつも一人で行っているから、なんだか楽しみだわ」
“总是一个人去,总觉得很期待。”
アニャがにこにこしているので、俺までなんだか楽しみになってきた。
因为阿尼亚笑嘻嘻的,连我都变得很期待了。
 アニャがにこにこしているので、俺までなんだか楽しみになってきた。
こんな感情なんて、いつ振りだろうか
 こんな感情なんて、いつ振りだろうか。
这样的感情,什么时候会有呢
 不思議な気分だった。
不思議な気分だった。
 ◇◇◇
感觉很不可思议。
 朝――目覚めると着替えが入っているカゴに何も入っていなかった。アニャはまだ夢の中。先に、歯磨きと顔を洗いに行く。
 鏡を覗き込んだら、顔面の怪我がすっかり治っているのに気づいた。
 昨日までは若干顔が腫れていたが、アニャの打ち身軟膏が効いたのだろうか。ボウルにこびりついていたものを、塗ってもらっていたのだ。
◇◇◇
 久しぶりに、自分の顔を見たような気がする。こんな顔だったんだ、と我がことながら思ってしまった。
◇◇◇
 顔を拭く大判の布を手に取ったら、一緒に着替えが置いてあることに気づいた。手紙も添えてある。
 手に取ってみると、新しくアニャが作ったであろう服だった。
 リネンで作った腰まで丈がある長袖の貫頭衣に、黒いズボン。それから、アニャが作ってくれた蔦模様が刺繍された腰帯がきれいに畳まれていた。
朝――目覚めると着替えが入っているカゴに何も入っていなかった。アニャはまだ夢の中。先に、歯磨きと顔を洗いに行く。
早上——一醒来,有换衣服的篮子里什么都没有。阿尼亚还在梦中。我先去刷牙和洗脸。
鏡を覗き込んだら、顔面の怪我がすっかり治っているのに気づいた。
我照了照镜子,发现脸上的伤已经完全好了。
昨日までは若干顔が腫れていたが、アニャの打ち身軟膏が効いたのだろうか。ボウルにこびりついていたものを、塗ってもらっていたのだ。
到昨天为止脸有点肿,是阿尼亚的打身软膏起作用了吗。把粘在碗里的东西涂上了。
久しぶりに、自分の顔を見たような気がする。こんな顔だったんだ、と我がことながら思ってしまった。
好久没见了,感觉好像看到了自己的脸。我自己也觉得是这样的脸。
顔を拭く大判の布を手に取ったら、一緒に着替えが置いてあることに気づいた。手紙も添えてある。
我拿起擦脸的大金币布,发现一起放着换衣服。还附上了信。
手に取ってみると、新しくアニャが作ったであろう服だった。
拿在手里一看,是新阿尼亚做的衣服。
リネンで作った腰まで丈がある長袖の貫頭衣に、黒いズボン。それから、アニャが作ってくれた蔦模様が刺繍された腰帯がきれいに畳まれていた。
用亚麻布做的长到腰的长袖贯头衣,黑色的裤子。然后,阿尼亚给我做的绣有爬山虎图案的腰带被叠得很漂亮。
「え、何これ、すごい……!」
“啊,这是什么,好厉害……!”
腰帯を手に取る。蔦を刺した刺繍が立体的だった。きっと、故郷の女性が作る刺繍とは異なる縫い方をしているのだろう。
拿起腰带。扎了爬山虎的刺绣很立体。一定是和故乡的女性做的刺绣不同的缝法吧。
精緻で、繊細で、美しい。すっと伸びる姿は、結婚という意味があるという。
精致,纤细,美丽。长得很快的样子,据说有结婚的意思。
アニャと俺の縁を繋ぐような腰帯だろう。
这是连接阿尼亚和我缘分的腰带吧。
腰に巻いて結んでみる。端には房飾りがあってとてもオシャレだ。寸法もぴったり。作業に邪魔にならないような長さで結んだ先が垂れているのが、カッコイイと思った。
围在腰上试着系上。边上有房饰很时髦。尺寸也很合适。我觉得用不妨碍作业的长度系的尖端垂下来很帅。
なんていうか、気が引き締まる腰帯である。
怎么说呢,这是一条紧张的腰带。
 腰帯を手に取る。蔦を刺した刺繍が立体的だった。きっと、故郷の女性が作る刺繍とは異なる縫い方をしているのだろう。
 精緻で、繊細で、美しい。すっと伸びる姿は、結婚という意味があるという。
 アニャと俺の縁を繋ぐような腰帯だろう。
 腰に巻いて結んでみる。端には房飾りがあってとてもオシャレだ。寸法もぴったり。作業に邪魔にならないような長さで結んだ先が垂れているのが、カッコイイと思った。
手紙には一言。“イヴァン、いつもありがとう”と書かれていた。
 なんていうか、気が引き締まる腰帯である。
信中有一句话。写着“伊凡,一直以来谢谢你”
 手紙には一言。“イヴァン、いつもありがとう”と書かれていた。
毎日忙しいのに、暇を見つけて作ってくれたのだ。なんだか泣けてくる
 毎日忙しいのに、暇を見つけて作ってくれたのだ。なんだか泣けてくる。
每天都很忙,却抽空给我做。总觉得哭起来了
 アニャはありったけのものを、俺に差し出してくれる。そんな彼女に、何を返せるのだろうか?
 と、感激している場合ではない。そろそろ、マクシミリニャンやアニャが起きてくる時間だろう。素早く着替えた。
 リネンの上着とズボンは、驚くほど着心地がいい。この服に、アニャの腰帯がしっくりくるのだ。
アニャはありったけのものを、俺に差し出してくれる。そんな彼女に、何を返せるのだろうか?
 せっかくアニャがすばらしい服を作ってくれたのだから、相応しい姿にならなければ。髪を梳ろうと思って、鏡に向き直る。しっかり櫛を通したが、癖毛なので見た目は変わらないという結果に終わった。
阿尼亚把所有的东西都交给我。那样的她,能返还什么呢?
 居間のほうから物音が聞こえた。アニャが起きてきたのかもしれない。
と、感激している場合ではない。そろそろ、マクシミリニャンやアニャが起きてくる時間だろう。素早く着替えた。
不是感激的时候。差不多该起床了吧。迅速换了衣服。
リネンの上着とズボンは、驚くほど着心地がいい。この服に、アニャの腰帯がしっくりくるのだ。
亚麻布上衣和裤子穿起来令人吃惊。这件衣服很适合阿尼亚的腰带。
せっかくアニャがすばらしい服を作ってくれたのだから、相応しい姿にならなければ。髪を梳ろうと思って、鏡に向き直る。しっかり櫛を通したが、癖毛なので見た目は変わらないという結果に終わった。
好不容易阿尼亚给我做了一件很棒的衣服,我必须要做出合适的样子。我想梳头,然后对着镜子。虽然很好地通过了梳子,但是因为是卷发,所以外观没有变化。
居間のほうから物音が聞こえた。アニャが起きてきたのかもしれない。
从起居室传来了响声。也许是阿尼亚起来了。
ひょっこり顔を覗かせると、起きたばかりであろうアニャと目があった。
突然露出脸,看到了刚起床的阿尼亚和眼睛。
 ひょっこり顔を覗かせると、起きたばかりであろうアニャと目があった。
「あの、アニャ、これ、ありがとう」
“那个,阿尼亚,这个,谢谢。”
「あ、えっと、イヴァン。その、よく似合っているわ」
“啊,呃,伊凡。那个,很适合你。”
なんだかぎこちない態度だった。どうしたのだろうか。
总觉得态度很僵硬。怎么了。
 なんだかぎこちない態度だった。どうしたのだろうか。
「なんか、変だった?」
「変じゃないわ! ちょっと、いつもと雰囲気が違うから、驚いて。あの、イヴァン、あなた、そんな顔をしていたのね」
“有什么奇怪的吗?”
「変じゃないわ! ちょっと、いつもと雰囲気が違うから、驚いて。あの、イヴァン、あなた、そんな顔をしていたのね」
“没什么奇怪的!气氛和平时不一样,吓了一跳。那个,伊凡,你的表情就是这样。”
 そうだった。今日、やっと怪我が完治したのだ。ボコボコでないきちんとした顔を、アニャが見たのは初めてだったのだろう。
そうだった。今日、やっと怪我が完治したのだ。ボコボコでないきちんとした顔を、アニャが見たのは初めてだったのだろう。
原来是这样。今天,伤终于痊愈了。这是阿尼亚第一次看到不是胖乎乎的端正的脸吧。
「そんな整った顔立ちをしていたなんて、知らなかったわ」
“我不知道你长得那么端正。”
「整った顔立ち?」
「なんでもないわ! 忘れて!」
“端正的容貌?”
「なんでもないわ! 忘れて!」
“没什么!忘了吧!”
そういえば、同じ顔をしたサシャは「カッコイイ!」とか言われていたような気がする。一度も言われたことがなかったので、自分の顔についてあまり意識していなかった。
这么说来,同样的脸的sasha好象被说「帅!」一样的心情。因为一次也没被说过,所以对自己的脸没怎么意识到。
 そういえば、同じ顔をしたサシャは「カッコイイ!」とか言われていたような気がする。一度も言われたことがなかったので、自分の顔についてあまり意識していなかった。
というかよく、顔がボコボコの男と結婚してくれたなと、しみじみと思ってしまった。
 というかよく、顔がボコボコの男と結婚してくれたなと、しみじみと思ってしまった。
话说回来,我深切地感受到他竟然和一个长着一张脸的男人结婚了

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050.md

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養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と山を下る
 朝食を食べたら、すぐに出かける。
养蜂家的青年和蜜药师的新娘下山
朝食を食べたら、すぐに出かける。
吃完早饭后马上出门。
マクシミリニャンが見送りに来てくれた。
马克西米莉娜来送我了。
 マクシミリニャンが見送りに来てくれた。
「イヴァン殿、気を付けて、行くのだぞ」
“伊凡大人,你要小心,走了。”
眉尻を下げ、心配そうに見下ろしている。まるで小さな子どもが行く、初めてのお使いを見送る親のようだ。
低下眉尾,忧心忡忡地俯视着。简直就像小孩子去,目送第一次使用的父母一样。
 眉尻を下げ、心配そうに見下ろしている。まるで小さな子どもが行く、初めてのお使いを見送る親のようだ。
「お義父様、大丈夫だから。アニャのことは、守るし」
“公公,没关系,我会保护你的。”
「う、うむ。そうだな」
“嗯,嗯。是啊。”
アニャが元気よく家から飛び出してくる。
阿尼亚精神饱满地从家里跑出来。
 アニャが元気よく家から飛び出してくる。
「お父様、行ってくるわね」
“爸爸,我走了。”
「ああ」
“啊。”
アニャは心配ないようだ。力強く返事をして、見送っている。
阿尼亚似乎不担心。用力地回答,目送着。
手を振って家を出た。
我挥手离开了家。
 アニャは心配ないようだ。力強く返事をして、見送っている。
 手を振って家を出た。
「イヴァン、辛かったら、声をかけてね」
“伊凡,如果辛苦的话,请跟我打招呼。”
「わかった」
「明白了。」
登りもかなり辛かったが、下りも同じくらい辛いらしい。
虽然登山也很辛苦,但是下坡好像也一样辛苦。
アニャのその言葉を、すぐに実感する。
我马上感受到阿尼亚的那句话。
 登りもかなり辛かったが、下りも同じくらい辛いらしい。
 アニャのその言葉を、すぐに実感する。
 マクシミリニャンと共に登ってきた岩場は、上から見るとかなり恐ろしい。ごつごつトゲトゲした岩に向かって、下りなければいけないのだ。
マクシミリニャンと共に登ってきた岩場は、上から見るとかなり恐ろしい。ごつごつトゲトゲした岩に向かって、下りなければいけないのだ。
 足を踏み外したら、岩場に真っ逆さまである。
和马克西米利尼一起攀登的岩场,从上面看相当可怕。必须朝着凹凸不平的岩石下去。
足を踏み外したら、岩場に真っ逆さまである。
失足后,正倒向岩场。
アニャは小リスのように、慣れた様子でするすると岩場を下っていく。
阿尼亚像小松鼠一样,习惯了的样子就从岩场下去。
上目遣いで俺が下りてくるのを待っている様子は、震えるほど可愛い。あんなに可愛い娘(こ)が待っているのに、膝が生まれたての子鹿のようになっていて思うように下りられないのだ。
用眼神等着我下来的样子,可爱得发抖。明明有那么可爱的女儿在等着,膝盖却像刚出生的小鹿一样,不能像想象的那样下去。
 アニャは小リスのように、慣れた様子でするすると岩場を下っていく。
 上目遣いで俺が下りてくるのを待っている様子は、震えるほど可愛い。あんなに可愛い娘(こ)が待っているのに、膝が生まれたての子鹿のようになっていて思うように下りられないのだ。
「イヴァン、大丈夫。ゆっくりでいいのよ」
“伊凡,没关系,慢慢来就好。”
「ありがとう。アニャ、優しい」
“谢谢。阿尼亚,很温柔。”
 少し下っただけで、ぐったり疲れてしまった。
 岩場を下りたあとは、苔が生えて足場が最悪な川辺を下り、アニャが「ここ、よく熊を見かけるの」と説明してくれた恐怖の熊さんロードをびくつきながら通り抜け、途中にあった湧き水のある場所でひと休み。
 まずは、冷たい水で顔を洗った。
少し下っただけで、ぐったり疲れてしまった。
只下了一点,就筋疲力尽了。
岩場を下りたあとは、苔が生えて足場が最悪な川辺を下り、アニャが「ここ、よく熊を見かけるの」と説明してくれた恐怖の熊さんロードをびくつきながら通り抜け、途中にあった湧き水のある場所でひと休み。
下了岩场之后,从长着苔藓、脚手架最差的河边走下来,一边穿过阿尼亚说明“这里经常看到熊”的恐怖熊先生的道路,在途中有泉水的地方休息一下。
まずは、冷たい水で顔を洗った。
首先,用冷水洗脸。
「気持ちいい」
“好舒服”
「水も、おいしいわよ」
“水也很好喝。”
山に降った雨が濾過されて、湧いて出るのだという。手で掬って飲んでみたら、驚くほどおいしかった。
据说山上下的雨被过滤后涌出。用手舀着喝了一下,非常好吃。
 山に降った雨が濾過されて、湧いて出るのだという。手で掬って飲んでみたら、驚くほどおいしかった。
「え、これ、すごい……!」
“啊,这个,好厉害……!”
「でしょう?」
“是吧?”
そろそろお昼だというので、昼食の時間にするようだ。
快到中午了,好像是午饭时间。
なんと、アニャはお弁当を作ってきてくれたらしい。
阿尼亚竟然给我做了便当。
 そろそろお昼だというので、昼食の時間にするようだ。
 なんと、アニャはお弁当を作ってきてくれたらしい。
「お弁当、嬉しい!」
“便当,好开心!”
 てっきり、その辺に生えている渋そうな木の実を摘まむものだと覚悟していたから……。素直にそう答えると、「リスじゃないんだから、お昼に木の実は食べないわよ」と言われてしまった。
 アニャがリスみたいだと思ったことは、黙っておこう。
てっきり、その辺に生えている渋そうな木の実を摘まむものだと覚悟していたから……。素直にそう答えると、「リスじゃないんだから、お昼に木の実は食べないわよ」と言われてしまった。
 お弁当は蕎麦粉の生地に、レーズンを練り込んだパンだった。これに、レモンカードという、レモンにバターを混ぜたものを塗るらしい
因为我已经做好了一定要摘那附近长着的看起来很涩的树的果实的觉悟……。坦率地这样回答的话,被说了「因为不是松鼠,中午树的果实不吃哟」
 鞄の中から、どでかい丸パンが出てきたので驚いた。確実に、マクシミリニャンの顔より大きいだろう。
 そんなパンを、アニャがサクサクカットしていた。ふかふか系の、やわらかいパンらしい。
 アニャがカットした蕎麦レーズンパンに、レモンカードをたっぷり塗ってくれる。
アニャがリスみたいだと思ったことは、黙っておこう。
认为阿尼亚像松鼠一样的事情,就不要说了。
お弁当は蕎麦粉の生地に、レーズンを練り込んだパンだった。これに、レモンカードという、レモンにバターを混ぜたものを塗るらしい。
便当是在荞麦粉的面团里加入葡萄干的面包。在这上面,好像要涂一种叫做柠檬卡的柠檬和黄油混合的东西。
鞄の中から、どでかい丸パンが出てきたので驚いた。確実に、マクシミリニャンの顔より大きいだろう。
从包里出来了一个很大的圆面包,吓了一跳。确实比马克西米利尼亚的脸大吧。
そんなパンを、アニャがサクサクカットしていた。ふかふか系の、やわらかいパンらしい。
阿尼亚把那样的面包切得脆脆的。好像是松软系的柔软的面包。
アニャがカットした蕎麦レーズンパンに、レモンカードをたっぷり塗ってくれる。
在阿尼亚切好的荞麦葡萄干面包上涂满柠檬卡。
「はい、召し上がれ」
“好的,吃吧。”
「いただきます」
“我开动了。”
パンは驚くほどふっくら焼けている。蕎麦の風味が、口いっぱいに広がった。それに、レーズンの甘さがジュワッと溶け込んでいて、レモンカードの濃厚で酸味のある味わいが舌の上で混ざりあう。
面包烤得令人吃惊。荞麦面的风味充满了嘴。再加上葡萄干的甜味融入了杜瓦里,柠檬卡浓厚而酸味的味道在舌头上混合在一起。
 パンは驚くほどふっくら焼けている。蕎麦の風味が、口いっぱいに広がった。それに、レーズンの甘さがジュワッと溶け込んでいて、レモンカードの濃厚で酸味のある味わいが舌の上で混ざりあう。
「え、何これ……とんでもなくおいしい!」
“啊,这是什么……真好吃!”
 アニャは「そうでしょう?」と言わんばかりに、にっこり微笑んでいる。
 俺ばかり食べていた。囓ったパンはその辺で引っこ抜いた葉っぱの上に置いて、アニャの分のパンにレモンカードを塗ってあげた。
アニャは「そうでしょう?」と言わんばかりに、にっこり微笑んでいる。
阿尼亚微笑着,好像在说“是吧?”。
俺ばかり食べていた。囓ったパンはその辺で引っこ抜いた葉っぱの上に置いて、アニャの分のパンにレモンカードを塗ってあげた。
只吃了我。说着的面包放在那一带拔出的叶子上,给阿尼亚的面包涂上柠檬卡。
「はい」
“是的。”
「え、私に?」
「咦?是我吗?」
「うん」
“嗯。”
「あ、ありがとう」
“啊,谢谢。”
アニャは小さな口でパンを囓って、「おいし」と言っていた。
阿尼亚用小嘴说面包,说“好吃”。
 アニャは小さな口でパンを囓って、「おいし」と言っていた。
アニャはよく、俺が食べているところを見つめているときがある。どうしてかと思っていたが、おいしそうに食べている様子は、飽きずにいつまでも見ていられるのだと気づいた。
阿尼亚经常盯着我吃的地方看。我还以为是为什么呢,发现吃得津津有味的样子,不厌其烦地一直能看到。
 アニャはよく、俺が食べているところを見つめているときがある。どうしてかと思っていたが、おいしそうに食べている様子は、飽きずにいつまでも見ていられるのだと気づいた。
「あー、可愛い」
“啊,好可爱。”
「な、何が可愛いの!?」
“什么,有什么可爱的!?”
「おいしそうにパンを頬張っているアニャが」
“看起来很好吃地大口吃着面包的阿尼亚”
「み、見ないでよ」
“美,别看。”
怒られてしまった。ひとまず、食べるのに集中する。
我被骂啦。暂且集中精力吃。
アニャはパンの他に、ゆで卵と串焼き肉を作ってくれていた。串焼き肉は、先日マクシミリニャンが狩ったウサギである。
阿尼亚除了面包之外,还给我做了煮鸡蛋和串烤肉。串烤肉是前几天马克西米利尼亚狩猎的兔子。
 怒られてしまった。ひとまず、食べるのに集中する。
「っていうか、お弁当、重たかったでしょう? 俺が持ったのに」
 アニャはパンの他に、ゆで卵と串焼き肉を作ってくれていた。串焼き肉は、先日マクシミリニャンが狩ったウサギである。
“话说回来,便当很重吧?明明是我带的。”
「っていうか、お弁当、重たかったでしょう? 俺が持ったのに」
「イヴァンは、商品を持っているでしょう? いつもは、商品とお弁当、両方自分で持って行っていたし、大丈夫よ」
“伊凡有商品吧?平时,商品和便当都是自己带去的,没关系的。”
「イヴァンは、商品を持っているでしょう? いつもは、商品とお弁当、両方自分で持って行っていたし、大丈夫よ」
「そっか」
“是吗?”
アニャがカットしてくれたパンをすべて食べていたら、お腹がパンパンになってしまう。
如果把阿尼亚切好的面包全部吃掉的话,肚子就会变成面包面包。
 アニャがカットしてくれたパンをすべて食べていたら、お腹がパンパンになってしまう。
「ちょっとごめん。動けなくなるほど、食べちゃった」
“对不起,我吃得动不了啦。”
「いいわよ。ちょっと、横になっていたら?」
“好啊。稍微躺下怎么样?”
アニャはそう言って、自らの膝をポンポンと叩く。
阿尼亚这样说着,啪嗒啪嗒地敲着自己的膝盖。
 アニャはそう言って、自らの膝をポンポンと叩く。
「もしかして、膝を貸してくれるってこと?」
“难道你要把膝盖借给我?”
「ええ」
“是的。”
 本当にきついので、お言葉に甘えて膝を借りた。
本当にきついので、お言葉に甘えて膝を借りた。
真的很辛苦,恭敬不如从命地借了膝盖。
アニャは遠慮なく、俺の顔を覗き込む。
阿尼亚毫不客气地窥视着我的脸。
 アニャは遠慮なく、俺の顔を覗き込む。
「ねえ、イヴァン」
「喂,伊凡。」
「何?」
“什么?”
「街にいたとき、モテていたでしょう?」
“在街上的时候很受欢迎吧?”
「な、なんで?」
“为什么?”
「きれいな顔立ちをしているから」
“因为长得很漂亮。”
なんて質問をするのか。心臓が口から飛び出るのではないかと思った。
你问什么问题。我怕心脏会从嘴里跳出来。
 なんて質問をするのか。心臓が口から飛び出るのではないかと思った。
「双子の兄のサシャはモテていたけれど、俺はぜんぜんだよ」
“双胞胎哥哥萨沙很受欢迎,但我完全没有。”
「嘘だー!」
“骗人的!”
「本当だって」
“说真的。”
だから、ロマナが本当は俺のほうが好きだったと聞いて、驚いたものだ。
所以,听说罗曼娜其实更喜欢我,我很吃惊。
彼女に関しては、刷り込みみたいなものなのだろう。
关于她,就像印刷一样吧。
 だから、ロマナが本当は俺のほうが好きだったと聞いて、驚いたものだ。
 彼女に関しては、刷り込みみたいなものなのだろう。
ふいに、突き刺さるような視線を感じる。野生の熊かと思いきや、アニャだった。
突然,感觉到了刺痛的视线。原以为是野生的熊,没想到却是阿尼亚。
 ふいに、突き刺さるような視線を感じる。野生の熊かと思いきや、アニャだった。
「何?」
“什么?”
「思い当たる節が、あったんじゃないの?」
“不是有想到的时候吗?”
「ないない、ないってば」
“没有,没有。”
「ふうん」
“嗯。”
やっぱり、アニャは鋭い。変なことは考えないようにしなくてはと、改めて思ったのだった。
 やっぱり、アニャは鋭い。変なことは考えないようにしなくてはと、改めて思ったのだった。
果然,阿尼亚很敏锐。我再次想到了必须不要想奇怪的事情
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