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325
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養蜂家の青年は、巣箱の確認を行う
 柔らかな風が、頬を優しく撫でる。鳥の美しいさえずりも、聞こえていた。
 そっと瞼を開くと、天使のように美しい美少女が俺を見下ろしている。
 ここは、天国なのか。
 サシャに殴られて、マクシミリニャンに助けられた一連の流れは、夢の世界での出来事だったのかもしれない。だって、できすぎだろう。
 八歳の男の子が闇夜を駆け抜け、強面のおじさんに助けを求めるなんて。
 それに、実家の養蜂園が人生のすべてだった俺が、家を出るわけがない。
 そして、マクシミリニャンの娘が、天使のように愛らしいわけがないのだ。
 ぼんやりと、美少女を眺めていたら、灰色の毛に覆われた蜜蜂が飛んでくる。
 俺の目の前をぶんぶん飛んで、鼻先に止まった。雄の蜜蜂である。
 いっこうに動こうとしないので、美少女は笑い始めた。
「ふふふ、イヴァンから蜂蜜の匂いがするから、寄ってきたのね」
「ああ、そう――」
 ここで一気に意識が覚醒する。上体を上げると、蜜蜂は飛んでいった。
「アニャ、俺、寝ていた?」
「ええ、ぐっすりと」
「ごめん。眠るつもりはなかったのに」
「仕方ないわよ。高山病になりかかっていたのだし」
「高山病?」
「ええ。山の高い場所に登ると発症するものなの。山羊を使って急に駆け上がったから、なってしまったのでしょうね。ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって。家にくるまで、お父様がイヴァンは大丈夫だったと言っていたものだから、平気かと思っていたの」
「気にしないで。もう、息苦しさや気持ち悪さはなくなったから」
「そう。よかったわ」
 崖を駆け上がった恐怖から具合が悪くなったのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
 立ち上がろうとしたら、腕を引かれてしまう。
「まだ、立ったらダメ。もうしばらく、休まなきゃ」
「でも、大丈夫なの?」
「何が?」
「その、仕事とか」
「別に、急いでしなければならない仕事なんて、山の暮らしにはないわよ」
「そうなの?」
「そうなのよ。ここで一番大事なのは、健康な体なの。仕事は二の次よ。元気でいなければ、生活は成り立たないわ」
「そっか……。うん、そうだよね」
 山暮らしだけではなく、どこでもそうなのだろう。生きていくうえで、健康より大事なものはない。
 働き過ぎて体調を崩す話は、街でもたまに聞く。そういう人は、自分の頑張りが体を酷使し、命を縮めている事実に気づいていないのだろう。
「私のお母様は、あまりお体が強くなかったのよ。それなのに、私を産んで命を散らしてしまったわ。自分のことは自分が一番把握しているはずなのに、わかっていなかったのでしょうね。私を産まなかったら、もっと長く生きられたでしょうに……」
「アニャ……」
 なんて声をかけたらいいのか、わからなくなる。うんざりするほど家族がいるのは、贅沢な話だったのだ。
 アニャは思い詰めた表情で、言葉を続けた。
「お父様は、きっと私を恨んでいるに違いないわ」
「それは、どうだろう? 俺は数日しか関わっていないけれど、それでも親父さんは世界で一番、アニャを愛していると思ったよ」
 でないと、山を下りて歩いてブレッド湖の街に来るまで、婿捜しなんかしない。
 アニャが生きていただけでも、マクシミリニャンにとっては救いだっただろう。その言葉を付け加えると、アニャの眦から涙が溢れた。
「本当に、そう、思う?」
「思うよ」
「そう。だったら、よかったわ」
 たぶん、アニャは長い間誰にも話せずに、気に病んでいたのかもしれない。
 マクシミリニャン本人には聞けなかっただろうし、かと言って仲のいい人にも気軽に話せる内容ではない。
 昨日ここに来たばかりの俺だからこそ、ポツリと吐露できたのだろう。
 しばし会話もないまま、ただただぼんやりする時間を過ごす。
 美しい山々の景色を見ていたら、心が洗われるような、そんな気分にさせてくれた。
 ◇◇◇
 しっかり休んだのちに、仕事を行う。まずは、リンゴの花蜜を集める木のエリアに案内してもらった。
「イヴァン、こっちよ」
 腕を引かれ、リンゴの木が群生する場所へ誘われる。
「今は花盛りで、とっても美しいのよ。見て」
「うわ、本当だ」
 リンゴの木には、美しい薄紅色の花が満開だった。その周囲を、蜜蜂が忙しそうに飛び回っている。
「きれいだ」
「でしょう。巣箱はあっちよ」
 小屋に巣箱を集めた実家の養蜂とは異なり、巣箱が地面に直に置かれていた。
「あ、そうだわ。イヴァン、あなたに、お父様の面布めんぷを持ってきたのだけれど」
 面布というのは、帽子の縁に目の細かな網がかけられた物である。蜜蜂の接近を防ぐ目的で被るのだ。
 必要ないと首を振ると、驚かれる。
「あなたも、面布は被らないの?」
「うん。もしかして、アニャも?」
「ええ、そうよ。だって、蜜蜂はお友達ですもの。必要ないわ」
 マクシミリニャンは面布を常に被っているらしい。その昔、蜜蜂に顔を刺されたことがあったので、警戒しているのだとか。
「お父様ったらああ見えて心配性で、人一倍慎重なの」
「なんか、そんな感じがするかも」
 その辺は山奥で暮らすに必要な、感覚なのかもしれない。
「俺も、蜂蜜軟膏を塗っているから、面布を被っておこうかな」
「そうね。今日は、それがいいわ」
 アニャから面布を受け取り、被った。マクシミリニャンの頭に合わせて作った物なので、ぶかぶかだ。顎を紐で縛り、ずれないように固定しておく。
「これでよし、と」
 巣箱にゆっくり接近し、中を確認させてもらう。
 ここには、五つの巣箱が設置されていた。
 鳥の羽根で作ったブラシで巣箱に集まる蜜蜂を払い、蓋を開く。
「雄が多いかも」
「削りましょうか」
 雄の蜂が産み付けられた巣枠を取り出し、半分くらいヘラで削いでいく。
 巣枠がいっぱいになると、女王蜂は蜜蜂を連れて巣からいなくなってしまうのだ。
 蜜蜂の数が減ると、満足に蜂蜜が集められなくなる。だから、巣箱は小まめに確認しなければならないのだ。
「女王蜂の王座は、ないか」
 王座というのは、女王蜂を育てる特別な巣穴だ。蜜蜂は王座の幼虫にローヤルゼリーという特別な餌を与えて、女王蜂を育てるのだ。
「心配いらないわ。まだ、新しい女王なの」
「なるほど」
 女王蜂の寿命は三年ほど。一日に千個以上の卵を産むらしい。現在、巣箱には二万匹の蜜蜂がいる。最終的には、三倍くらいの群れに成長するのだ。
 ただ、気をつけなければならないのは、巣箱の状態ばかりではない。
 新しい女王蜂が巣内で育っていた場合も、女王蜂は蜜蜂を連れて出て行ってしまう。
 女王蜂が蜜蜂を連れて巣を出ていくことを、“分蜂”と呼んでいた。
 巣箱の中を入念に確認していたら、アニャが感心したように呟く。
「イヴァン、あなた、本当に養蜂家だったのね」
「信じていなかったの?」
「信じていなかったわけではないのだけれど……」
 アニャにとっての養蜂家のイメージは、マクシミリニャンなのかもしれない。
 いくら力仕事をしても、体つきがガッシリとならないのは血筋なのか。他の兄弟も、どちらかといえば細身だ。
「あなたみたいな人が旦那様だったら、ものすごく頼りになるわね。昨日、素直に結婚を受けておけばよかったわ」
 そうだったね、と言葉を返すと、アニャは微笑む。なんとなくだけれど、先ほどより心を許してくれているような気がした。
 喋りながらも、手は止めない。どんどん蜂の子を掻きだしていく。 
「そういえば、アニャのところでは、幼虫はどうしているの?」
「粉末にして、薬にしているわ」
「へえ」
 耳に関する不調に、蜂の子が効果があるらしい。乾燥させたのちに、細かく煎じるのだとか。
「イヴァンの家では、どうしていたの?」
「油で揚げて、親兄弟の酒のつまみになっていたよ」
「まあ! もったいない!」  
 アニャは蜂の子を革袋に詰め、逃げないようにしっかり紐で縛っていた。
 あとは害虫がいないか見て周り、巣箱に不具合がないかどうかも調べる。
「よし。こんなもんか」
「そうね」
 そろそろお昼の時間だという。
 再び大角山羊に跨がり、恐怖と闘いながら岩場を下ったのは言うまでもない。

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032.md

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養蜂家の青年は、昼食に舌鼓を打つ
 家に戻ってくると、フリルたっぷりのエプロンをかけたマクシミリニャンが待ち構えていた。
「昼食の準備が、できておるぞ」
 母屋の前に敷物が広げられており、マクシミリニャンが作ったであろう料理が並べられている。
 中心にどん! と置かれているのは、鶏の丸焼きだ。昼から豪勢なものである。
 マクシミリニャンは誇らしげな様子で、丸焼きをどうだと指し示していた。
「ごちそうだね」
「イヴァン殿の歓迎の意を込めて、作ったのだ」
「わー……」
 まだ婿になると決まったわけではないのに、気前がいい。
 大事な鶏だろうに、捌いてよかったのか。チラリと、横目でアニャを見る。
「イヴァン、あなた、ガリガリだから、たくさんお食べなさいな」
「あ、うん。ありがとう」
 できたての料理を前にたくさん食べろとか、言われたのは生まれて初めてだ。
 なんだか、不思議な気分になる。
「どうかしたの?」
「ふたりとも、優しいなと思って」
「これくらいで優しいとか、あなた、どんな環境で育ってきたのよ」
「普通の環境だと思うけれど」
  いや、父はいないし、家族は大勢いるし、殴る兄はいるし。ぜんぜん普通ではない。
「ごめん。あんまり、普通じゃなかったかも」
「でしょうね。この家では、お腹いっぱい食べることが普通だから、覚えておきなさい」
「わかった」
 マクシミリニャンはナイフで鶏の丸焼きを解体している。
 アニャは薄く焼いた小麦粉の生地に、鶏を乗せて巻いていた。
「はい、どうぞ」
 どうやら、アニャは俺が食べる分を作ってくれていたようだ。こうやって、食事の世話をされるのも初めてである。
「ありがとう」
 受け取って、食べる。
 小麦の皮はもちもちとした食感で、香ばしく焼かれた鶏の皮はパリパリ。肉はやわらく、噛むとじゅわっと肉汁があふれた。塩、コショウ、香草で味付けされていて、それが鶏肉の味を引き立ててくれる。
「イヴァン殿、どうだ?」
「すごくおいしい」
 そう答えると、マクシミリニャンとアニャは笑顔になった。
 ここは、天国なのか。
 至れり尽くせりなので、そんなふうに思ってしまう。
「イヴァン、あなた、変なことを考えていない?」
「考えていたかも」
 天国だと思ったことを告げると、アニャに呆れられてしまった。マクシミリニャンは、若干涙ぐんでいる。
「本当に、いったいどんな環境で育ってきたのよ」
「イヴァン殿、たらふく食べてくれ」
「うん、ありがとう」
 小麦の生地に包むのは、鶏肉だけではない。酢漬けのキャベツザウアークラウトや、練った蕎麦ジガンツィー、ベリージャムなども用意されていた。
「オススメは、ベリージャムにちょっとだけ塩を混ぜたものを、鶏肉と合わせるの」
 アニャのオススメはおいしいとは思えなかったが、騙されたと思って食べてみる。
「え、嘘! おいしい!」
「でしょう?」
 ベリージャムは酸味が強く、塩を加えると肉料理のソースみたいになる。これが、鶏肉と信じられないくらい合う。
 勧められるがままにどんどん食べていったら、鶏の丸焼きはあっという間に骨だけになった。
「この骨は、夜のスープのダシに使うの」
「無駄な部位はないと」
「ええ、そうよ」
 それにしても、食べ過ぎたような気がする。
 お腹がいっぱいで、動けそうにない。
 満腹状態がこんなに苦しいなんて。慣れない過食で、胃腸の辺りが悲鳴をあげているような気がした。
 それなのに、アニャが作ったリンゴの蜂蜜漬けをペロリと食べてしまった。
「リンゴは、胃腸の調子を整えてくれるの。蜂蜜は言わずもがな、疲労回復や、美肌効果もあるのよ。しっかり食べておけば、顔の腫れもよくなるから」
「なるほど」
 今、もっとも必要な食後の甘味だったらしい。しばらくしたら、元気になると。
「それまで、ゆっくりしましょう」
 みんなで、太陽の光をさんさんと浴びながら、ぼんやりする時間を過ごす。
 なんて贅沢な時間の使い方なのか。
「いつも、昼食は外で食べているの?」
「ええ、今はだいたい外ね」
「どうして?」
「太陽の光を浴びると、長生きすると言われているからよ。ねえ、お父様?」
 マクシミリニャンは深々と頷く。
「太陽の光の浴びすぎは注意だけれど。昼食を食べてゆっくりするくらいならば、問題ないわ」
「へえ、そうなんだ」
「さすがに、真夏のジリジリとした太陽は浴びないけれど。こういうのは、嫌い?」
「大好き」
「でしょう?」
 お腹がいっぱいだからか、なんだか眠くなる。
 マクシミリニャンが膝をぽんぽん叩きつつ、眠くなったら枕にしてもいいと言ってくれたが、丁重にお断りをした。
 ◇◇◇
 昼からは、マクシミリニャンについて行って、山での仕事を手伝う。
「薪に使う木を、回収に行く」
「了解」
 冬の間に木を伐り、その場に放置して春まで乾燥させるらしい。
 現場に到着すると、見事に大きな木が倒れていた。
「これを、一人で運ぶつもりだったの?」
「ふむ、そうだな。縄で縛れば、運べないこともない」
「ええー……」
 大人五人がかりでも、苦労しそうな大木に見えるが。山の男は、とんでもなく力持ちなのかもしれない。
「これを、今から川に運ぶ」
「川!?」
「ああ。川に一ヶ月ほど浸けて、樹液を洗い流すのだ。そうすると、乾燥させる期間が短くて済む」
「そうなんだ」
 暖炉で使う薪は、約二年間乾燥させる。川で樹液を洗い流すと、それよりも短い期間で乾燥するらしい。
 山暮らしの知識に、舌をまいてしまった。

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033.md

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養蜂家の青年は、薪を作る
 二人がかりで、川まで大木を運ぶ。と言うよりは、緩やかな斜面を転がすと表現したほうが正しいのか。
 大木は俺たちを置いて、どんどん下っていく。そのまま川に落とすのかと思いきや、せき止めるように川縁に経つ木の前で止まっていた。
 マクシミリニャンは川辺の木杭に結んである紐をたぐり寄せる。川から上げられたのは、紐が巻かれたくさびを打ち込んだ、丸太である。それは赤子ほどの大きさだった。さすがに、そのまま川に沈めるということはしないようだ。
 同じような紐がいくつかあった。すべて、川に樹液を洗い流す目的で沈めた丸太なのだろう。
「ここにある紐、全部引き上げるの?」
「ああ、そうだ」
 マクシミリニャンと二人がかりで、川に沈めた丸太をどんどん引き上げていく。
 赤子ほどの丸太は十個くらいあった。
 今度は先ほど運んできた大木を、川に沈めるらしい。
 マクシミリニャンはのこぎりを手に取り、まるでパンをカットするかのごとくサクサクと大木を切り分ける。
「その木、堅い?」
「そこまで堅くはない」
 トネリコという、弓や槍など、武器に使われる木材らしい。煙が少なく、火力が強いことから、真冬の薪として重宝しているようだ。
「イヴァン殿も、やってみるか?」
「うん」
 足で木を踏んで固定させ、のこぎりの歯を当てる。
 実家では、よく養蜂箱作りをしていた。のこぎりの扱いは慣れている。
 このトネリコの木は、よほどやわらかいのか。信じられないくらい、切りやすそうに見えた。
 だが――。
「うぐっ!!」
 トネリコの木は、マクシミリニャンがしていたようにサクサク切れない。全力でのこぎりを押しては引きを繰り返したのちに、やっと切れた。
 トネリコの木がやわらかいわけではなく、マクシミリニャンの筋力がとんでもないのだ。 同じように切れると思った十分前の自分を、叱り飛ばしたい気分になる。
「しだいに、慣れる」
 本当にそうなのだろうか? 怪しく思ってしまった。
 切り分けた丸太に紐を結んだくさびを打ち込み、川へ沈める。流されないよう、木杭に結んだらしばらく放置して樹液を洗い流すのだ。
 先ほど川から上げた丸太は、切り分けてから運ぶらしい。マクシミリニャンは丸太から薪を作る方法を教えてくれる。
「まず、この丸太の切り口に打ち込んだくさびを、石のハンマーで叩くのだ。さすれば、丸太が割れる」
 マクシミリニャンがハンマーでトントントンと叩くと、丸太に裂け目ができた。今度は、くさびを表面の裂け目に差し込み、ハンマーで叩いていく。くさびを使って裂け目をどんどん広げていくと、丸太は真っ二つに割れるのだ。
 実に簡単にやってくれたが、初めてやる俺にとっては重労働であった。汗だくになった末に、なんとか丸太を割ることに成功した。
 もちろん、これで終わりではない。真っ二つにした木を、おのと木づちを使って四分割から八分割ほどに割るのだ。
「へー、木づちを使うんだ」
「おのだけならば、腕が疲れてしまうからな」
 マクシミリニャンは木の切り口におのを当て、柄を木づちで叩く。
 一発で、木を真っ二つにした。
「この通り」
「おお」
 薪割りも実家でやっていた。だが、木づちを使う方法は初めてである。
 マクシミリニャンがやっていたようにおのの刃を木に当てて、柄を木づちで叩いた。
 すると、そこまで力を入れずとも、木が切れていく。あっという間に、パッカリと二つに分かれた。
「これ、すごい。やりやすい!」
「だろう?」
 これまで、薪割りは重労働であった。しかしこのやり方であれば、それほど体力を消費せずにできただろう。
 簡単に割れるのが面白くて、どんどん薪を作っていく。
 その様子を、マクシミリニャンが涙目で見ているのに気づいてギョッとした。
「え、何? どうしたの?」
「いや、娘婿に、こうして技術を継承できることに対し、感激を覚えてしまい……」
「いや、まだ結婚していないから」
 話しているうちに、マクシミリニャンはだーっと涙が零れ始めた。
 マクシミリニャンといい、アニャといい、涙もろい親子である。
 ハンカチを差し出したら涙を拭い、鼻までかんで返してくれた。戻ったら、洗わなければならないだろう。
 背負子に薪を積み、下ってきた坂を上がっていく。これが、地味に辛い。
「明日はきっと、筋肉痛かも」
「それも、じきに慣れる」
 慣れたころには、マクシミリニャンのように筋骨隆々になっているのか。
 それも悪くはないけれど、俺の貧相な顔つきに筋肉は似合いそうにないなと思ってしまった。

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034.md

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養蜂家の青年は、おやつの時間を堪能する
 薪を背負い、家まで戻る。
 汗を掻いたからか、傷口が痛痒い。湧き水で顔を洗う。
 清涼な水が、汗と汚れをきれいにしてくれた。
 すっきりして気が緩んだのだろう。うっかり布でガシガシ顔を拭いて絶叫してしまった。
 家からアニャが出てきて、地面に膝をつく俺の顔を覗き込む。
「ちょっと、何事なの?」
「思いっきり、布で顔を拭いてしまった」
「せっかく治りかけているのに、どうしてそんなことをするのよ」
 アニャに腕を握られ、家の中に連行されてしまう。再び、蜂蜜を直接顔に塗られてしまった。
「傷は刺激させないで。濡れたときは、自然乾燥させるのよ」
「はい」
 治療が終わったようなので外に行こうとしたら、アニャに首根っこを掴まれた。
「そろそろ休憩にしましょう。今日はお菓子を作ったから」
「わかった。マクシミリニャンのおじさんを呼んでくる」
「お願いね」
 マクシミリニャンは屋根で覆っただけの薪小屋の前にいて、黙々と取ってきた木を積んでいた。
 よくよく見たら、薪と薪の間に木の枝のように細かくカットした角材を挟んでいる。
「ああ、そうすれば、乾くのが早いんだ」
 マクシミリニャンはくるりと振り返り、コクリと頷いた。
「こうすれば、薪と薪の間に風が通り、乾きやすくなるのだ」
「俺、何も考えずに、薪だけをどんどん積んでいた」
 これまで取ってきた薪も、同じように角材を挟んである。
「薪の乾燥は、何よりも大事だからな」
 きちんと乾燥していないと、火保ちが悪くなる。弱い火のまま薪を消費し、どんどん追加しなければならない事態になるのだろう。
「地上よりも、ここの冬は冷える。少しでも、薪が長保ちするよう、工夫をせねばならないのだ」
「なるほどな」
 薪小屋の全体を見ると、芸術的なまでに積み上がっていた。
 最低でも二年以上乾燥が必要だというので、大変だ。
「飾り棚キャビネットを自作するときは、二年どころではないぞ。八年以上もしっかり乾かしてから、作っている」
「八年も!?」
「木材に水分が含んでいると、歪みの原因になる。そのため、何年も乾かす必要があるのだ」
「そうなんだ」
 門や柵、ちょっとした小屋を作る場合は、そこまで乾燥させなくてもいいようだ。
 精巧な品を作るときのみ、数年にわたっての乾燥が必要になると。
 角材を並べ、その上に薪を置く。きれいに並べると、見目もいい。その辺を気にしつつ、どんどん積んでいった。
 最後の薪を積んだ瞬間、アニャの声が聞こえた。
「ちょっとイヴァン!! お父様を呼びに行くって、どこまで行っているのよ!!」
「あ、ごめん」
 姿は見えない。きっと、窓から外を覗き込んで叫んでいるのだろう。すばらしい声量だ。
 今はおやつの時間で、マクシミリニャンを呼びに行く目的で外に出たのをすっかり忘れていた。
 マクシミリニャンと共に小走りで家まで戻った。
 アニャは機嫌を悪くしているのではと思ったが、笑顔で迎えてくれる。
 怒っていないようなので、ホッとした。
 手を洗ったあと、席に着く。
 家の中は、ふんわりと甘い香りで包まれていた。いったい、何を作ってくれたのか。
 マクシミリニャンが真面目な顔で、アニャに問いかける。
「アニャよ、何を作ったのだ?」
「蜂蜜の蒸しケーキよ。たくさん食べてね」
「ありがとう」
 アニャは蒸しケーキを切り分け、拳より大きな塊を皿に置いてくれた。
 そのまま食べるのではなく、さらに蜂蜜をかけるらしい。
「あれ、蜂蜜かと思ったけれど、違う?」
「これはケーキシロップよ」
 砂糖と蜂蜜、ナッツパウダー、メープルシロップにウォッカを効かせて煮詰めたものらしい。
 甘い菓子に蜂蜜をかけると甘ったるくなるので、作ったものだとか。
 いったい、どんな味がするのか。楽しみだ。
 アニャはケーキシロップを匙で掬って、たらーりとたっぷり垂らしてくれた。
 テーブルにはナイフとフォークは置いていない。
 ちらりと、マクシミリニャンを見てみる。
 ケーキシロップでひたひたになるほどの蒸しケーキをがしっと掴み、豪快にかぶりついていた。膝に広げたナプキンにケーキシロップが垂れるが、気にしている様子はない。
 その後、砂糖や蜂蜜を入れていない野草茶をごくごく飲んでいた。
 マクシミリニャンは一人、コクコクと頷いている。おいしかったのだろう。
 手掴みで食べるのがマナーのようなので、彼に倣って食べる。
 蒸しケーキはふわっふわで、力を少し入れただけで崩壊してしまいそうだ。
 優しく掴み、ケーキシロップを垂れるのを気にせず頬張った。
「んん!!」
 蒸しケーキは夢みたいにふかふかで、しっとりしている。ケーキシロップの香ばしいような甘さが、蒸しケーキを優しく包み込む。
「おいしい!!」
 そう言うと、アニャは笑顔で「よかった」と返した。
 穏やかな昼下がりを、アニャやマクシミリニャンと共にのんびり過ごした。

181
035.md

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養蜂家の青年は、山羊の乳搾りを手伝う
 おやつの時間が終わると、今度はアニャの作業を手伝うこととなった。
「山羊のお乳の様子を調べたいから、ついてきて」
「了解」
 子育てのシーズンに、母山羊が病気になることがあるという。
 乳から細菌が入り、異変が起こるものらしい。
 病気に罹った母山羊のミルクを、子山羊が飲んだら大変なことになる。
「たいてい、乳の張り具合でわかるのだけれど、たまに見た目だけではわからない子がいるから、ミルクを搾って確認するの」
「そうなんだ」
 放牧しているのは、子育てしていない山羊だけらしい。子山羊は他の獣の標的にされてしまうからだという。
 母山羊と子山羊の運動不足は、昼間に軽く野山を歩かせて散歩をして解消しているようだ。
「イヴァンは山羊の乳搾りってしたことある?」
「いや、ない。爪切りの手伝いや、小屋掃除はあるけれど」
 近所の畜産農家に手伝いに行っていた話をする。
「山羊に蹴られて、服が破れた日もあった」
「まあ、大変だったのね」
 アニャは言う。人間にも気性の荒い者が時折いるように、山羊にも性格が荒い者がいると。
「みんながみんな、そういうワケではないから、山羊を嫌いにならないでね」
「うん、わかった」
 まず、小屋に到着すると、子山羊を押さえているようにと命じられる。
 子山羊はぴったりと母山羊について回るので、邪魔になるようだ。
 アニャは慣れた手つきで母山羊の首に縄を結び、引っ張って小屋の外に連れて行く。
 子山羊がめーめー鳴くので、なんだか悪いことをしている気分になった。
 小屋の外に、乳搾りを行う柵がある。山羊一頭がすっぽり収まるようなシンプルな柵だ。 柵に縄を縛ったあと、アニャは石鹸で手を洗う。
「ここでしっかり洗っておかないと、山羊の乳房に細菌が入ってしまうの。人間の介入で山羊が病気になってしまうのは、あってはならないことよ」
 続いて、湯がいて煮沸消毒させた布を温かいまま絞ったもので乳や乳房を拭くらしい。
 アニャが平然とした表情で布を絞っていたので、同じように触れたらあまりの熱さに悲鳴をあげてしまった。
「熱あっつい! アニャ、よくこれを絞れるね」
「慣れよ」
 マクシミリニャンと同じことを言うので、笑ってしまった。
 指摘すると、アニャは「お父様が真似をしたのよ」と言葉を返してくる。
 山羊の乳を消毒させたあと、やっと乳搾りに移る。
 乳を手のひらで優しく包み込むように、人差し指から順番に握っていくらしい。すると、山羊のミルクが出てくる。
「うん。この子は、問題ないようね」
 乳房の確認は毎日行うという。ミルクについては、週に一度らしい。
 子を持つ母山羊全頭の乳搾りを行った結果、けっこうな量のミルクが採れた。
「病気になっている場合は、ミルク自体も臭くなるの。どう?」
 差し出された山羊のミルクは、ほんのりと甘い匂いを漂わせていた。
「いい匂い」
「でしょう? イヴァンは、山羊のミルクは好き?」
「うーん。臭みがあって、苦手かも」
 普段、クセのない牛乳ばかり飲んでいたので、ついつい比べてしまうのだろう。
 アニャには言えないが、最初に山羊のミルクを飲んだとき、あまりの獣臭さに吐き出してしまった記憶が残っている。
 二度と口にしないと思っていたが、空腹がその決意を薄れさせてくれたのだ。
 分けて貰った山羊のミルクを飲んでいるうちに、獣臭さは慣れてしまった。かといって、好んで飲むわけではない。生きるために、俺は山羊のミルクを飲んでいたのだ。
「ここの山羊のミルクは、そこまで臭くないわ。クセについては、否定できないけれど」
「臭いは、何か特別な処理とかしているの?」
「特別というか、ミルクはすぐに山羊や小屋から離して、加工するようにしているわね。山羊のミルクは、周囲の臭いを吸収してしまうの。臭いミルクは、小屋の近くに放置する時間が長かったものじゃないの?」
「あー、なるほど」
 たしかに、知り合いの畜産農家のミルクは、朝搾ったミルクを、昼間に殺菌処理するとかなんとか話していたような。その間に、山羊の体臭などを吸収していたのかもしれない。
 山羊のミルクを、台所へと運ぶ。
 まずは、搾りたてのミルクを殺菌するらしい。大鍋に湯を沸かし、湯に三十分ほどミルクを注いだ鍋を浸けるのだという。
 殺菌処理が完了したら、カップに注いだ山羊のミルクが差し出された。
 これまで飲んだこともないような、新鮮なミルクである。どきどきしながら、カップに口を付けた。
「え、嘘。すごくおいしい」
 もう一度飲んでみる。獣臭さはないし、あっさりしていて優しい甘さが口の中に広がった。
「知らなかった。山羊のミルクがこんなにおいしいなんて」
「でしょう?」
 アニャは自慢げに、にっこり微笑む。
 これらの山羊のミルクは、一晩置いてチーズやバターに加工するらしい。
 山暮らしに欠かせない、栄養満点の乳製品を作るという。

217
036.md

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とチーズを作る
 翌朝、アニャは朝から俺が寝泊まりしている離れの扉を叩く。
「イヴァン、起きて! 蕎麦の芽を、見に行きましょう」
 大変可愛らしいお誘いだが、起きてすぐ活動できるわけではない。
 顔を出さずに、返事をする。
「アニャ、十五分くらい待って」
「なんで身支度にそんなにかかるのよ」
「いや、いろいろあるし」
「いろいろって?」
「……」
 一瞬黙ってしまったが、別にアニャに本当の事情を説明する必要はない。てきとうに、顔を洗ったり、歯を磨いたり、髭を剃ったりするんだよと伝えておく。
「そんなの、気にしなくてもいいのに」
「最低限の礼儀だから」
 なんとか説き伏せ、アニャにはしばし待ってもらう。
 服を着替え、昨日、アニャが洗って乾かしてくれた服に袖を通した。ふんわりと、かぐわしい花の香りがする。何か、特別な石鹸で洗ったのだろうか。いい匂いだ。
 外に出たら、アニャが手を腰に当てた状態で待ち構えていた。
「うわっ!」
「なんでそんなに驚くのよ」
「ごめん。まさか、外で待っているとは思わなくて。他のことでもして、待っていてもいいよ。ひげ剃りも歯磨きも、まだだから」
「もう、仕事は終わったわ」
 なんでもアニャは、早起きして朝の仕事は済ませてしまったらしい。
「なんでまた、早起きしてまで働いていたの?」
「イヴァンと蕎麦の芽を見に行くのを、楽しみにしていたの。少しでも早く、確認に行きたくて」
 一人でも確認できるのに、あえて俺と一緒に見たいのだという。なんていじらしいことを言ってくれるのか。
 頭をぐりぐり撫でたくなるが、アニャは見た目が幼いだけで立派な成人女性である。そうでなくても、女性に気軽に触れてはいけない。
 俺は、ロマナとの一件で大いに学んだ。
「じゃあ、もうちょっと待って」
「ええ」
 急いで顔を洗い、髭を剃って歯を磨いた。
 顔の腫れは、昨日よりだいぶいい。あと、三、四日もすれば完治するだろう。
 蜜薬師である、アニャのおかげだ。
「お待たせ」
「ええ、行きましょう」
 昨日、蕎麦の種を植えた畑を目指した。
 まあ、当然ながら、昨日の今日なので、芽なんて出ていない。
 アニャは姿勢を低くし、目を凝らしていたが、発見には至らなかったようだ。
「蕎麦の芽は、早くても四日から五日くらいだし、まだ早いよ」
 運がよければ、三日目の朝に生えているかもしれない。
 アニャはしゃがみ込んだまま、しょんぼりしているように見えた。
 なんとなく、間違っているかもしれないけれど、アニャは蕎麦の芽が出てほしいと望んでいるように見える。
 親子の穏やかでのんびりとした生活は、俺の性格にも合っているような気がした。
 かと言って、芽が出なかったら、ここに置いてくれと懇願するつもりはない。
 運命は、蕎麦の芽に託してある。もしも出なかったら、ここに相応しい人間ではなかったという天の思し召しなのだろう。
「アニャ、戻ろう」
「ええ」
 個人的な感情は頭の隅に追いやって、働かなければ。
 二日目の滞在が、始まる。
 今日は昨日搾った山羊のミルクを、加工するらしい。
 山羊のミルクは一晩おくと、分離する。表面に浮かんでいるものを、“クリーム”と呼んでいるらしい。このクリームを穴あき柄杓スキーマーで掬い、鍋に注ぎ入れる。
「これから、山羊のチーズを作るわ」
「了解」
 まず使うのは、クリームを掬ったミルクらしい。これを、低温で熱する。
「ほんのり温かくなったら、クリームを注ぐの」
 しばらく混ぜたら、ここにさらにミルクを入れる。
「追加のミルクは、朝に搾った新鮮なものなの。チーズを作るために、さっき搾ってきたわ」
 さらに加熱するようだ。温めすぎは注意らしい。
 目標の温度になったら凝乳酵素レンネットと呼ばれる、子牛の消化液から作った凝固液を冷水で薄めて入れる。
 これは、麓にある畜産農家から買い付けているようだ。
 この状態になったミルクを、きれいに洗った手で混ぜる。
「アニャ、それ、熱くないの?」
「熱くないわ。人肌よりも、低い温度なの」
「そうなんだ」
 ミルクがもったりしてきたら、柄杓で表面をぎゅ、ぎゅっと押さえつけるのだ。
 このまま一時間放置すると、ミルクは固まった。
 ナイフで四角くカットし、布を当てた容器へ移す。その際に出た水溶液は乳清ホエーといって、栄養価が高いものらしい。スープに入れたり、菓子作りに使ったりするのだとか。
 ここで、固形となったミルクに塩を加え、チーズクロスに包んで丸形の桶に詰め込む。
 石造りのチーズプレスでしっかり固めるのだ。これがまた、とんでもない力仕事だった。
 ハンドルを回してチーズを固める物なのだが、回すのに力がいる。
「イヴァン、頑張れ!」
 アニャに応援されたら、頑張らないといけない。
 最後に、塩を表面に塗って、熟成させるようだ。
「チーズ作りって、大変」
「そうなのよ。今日は、イヴァンがいて助かったわ。きっと、おいしいチーズになるはずよ」
「そう言ってもらえたら、何より」
 完成したチーズは、果たして俺の口に入るのだろうか。
 それは、蕎麦の芽のみが知る、というものだろう。

179
037.md

@ -0,0 +1,179 @@
養蜂家の青年は、熟成させた山羊のチーズを食べる
 アニャは昼食に、山羊のチーズを出してくれた。一週間ほど、熟成させたものらしい。驚くほど真っ白である。
 山羊のチーズもまた、苦手意識があった。けれど、ミルクがあれだけおいしかったので、このチーズもこれまで食べていたものとは違うのだろう。
「ちょっとクセがあるかもしれないから、蜂蜜をかけたほうがいいかも」
「チーズに、蜂蜜!?」
 未知なる組み合わせである。果たして、合うのだろうか。
「山羊のチーズは酸味があるから、蜂蜜との相性がいいのよ。食べてみなさい」
 アニャは問答無用で、山羊のチーズに蜂蜜を垂らしてくれた。
 そのまま食べるよりも、蜂蜜がかかっているほうが食べやすいかもしれない。
 それでも、どきどきしながら食べる。
「おいしい!」
 酸味はヨーグルトのようなものと表現すればいいのか。あっさりしていて、さわやかな味わいである。
「熟成が進んだら、味の濃さも変わってくるのよ」
「へえ、そうなんだ」
 蜂蜜とチーズがこんなにも合うなんて、知らなかった。
 あっという間に、ペロリと平らげてしまう。
 そのあと、蜂蜜をかけていない山羊のチーズも食べたが、普通においしかった。
 やはり、山羊のミルクは管理が命なのだろう。
 ◇◇◇
 早春の養蜂家の仕事は、餌は足りているか、女王はきちんといるか、病気が出ていないか、雄蜂が増えすぎていないか――巣箱を巡回して、しっかり確認しなければならない。
 春の盛り、もっとも蜜蜂が忙しくなる流蜜期に向けて、花蜜を集める蜜蜂のサポートに徹するのだ。
「そういえばイヴァン。もうお昼を過ぎたけれど、体や傷の調子はどう?」
「筋肉痛以外は、特に痛みはないかな」
 昨日、大角山羊に乗ったからか、尻と腿付近が筋肉痛になっていたのだ。
 しかしまあ、我慢できないほど痛むわけではない。
「筋肉痛以外に、不調はないよ。いつもより、調子がいいくらい」
「だったらよかったわ」
 三食まともに食事を食べていたからだろうか。肌の調子はいいし、夜はよく眠れる。活力だって、いつも以上にある気がした。
「元気だから」
「よかったわ」
 本日も、大角山羊に乗って野山を駆け巡るらしい。昨日みたいな崖には登らないというので、ホッと胸をなで下ろす。
 アニャと共に、大角山羊に跨がり、次から次へと巣箱を確認していく。
 この時期は次々と蜜蜂が生まれるので、蜜箱に継箱を重ねておく。
 トチノキに、アカシア、ハナスグリなど、街のほうでは見かけない樹から蜂蜜を作っていた。それだけでなく、ノバラにブラックベリー、リナリアなど、野山に自生する花からも蜜を集めているようだ。
 花を育てて蜜を採る実家の養蜂とは異なり、アニャとマクシミリニャンは山に自生する木々や花から採った蜜で養蜂を営んでいる。
 自然との共存で行わなければならないので、苦労は尽きないようだ。
「巣箱が獣に荒らされているのはしょっちゅうだし、天敵となる虫も多いの」
 特に、蜜蜂の天敵となるスズメバチの活動が活発化する夏には、駆除のために数日費やすときもあるという。
「スズメバチはね、捕まえた途端、蜂蜜漬けにしてやるのよ」
「え、何それ」
「スズメバチの蜂蜜漬け、知らないの?」
「初めて聞いたよ」
 なんでも、二年間ほど蜂蜜に漬けると、毒成分が蜂蜜に溶け出すらしい。
「え、毒が溶け出したら、ダメなんじゃ……?」
「スズメバチの毒は、口から含むと人にとって薬になるのよ」
「は!?」
 目が点となる。スズメバチに刺されたら、肌はとんでもなく腫れるし、とんでもない痛みに襲われる。スズメバチに襲われて死んだ人だっているくらいだ。
 その毒が、口から含むと薬になるなんて信じられない。
「スズメバチの毒は、胃や腸の中で分解されて、疲労回復、美肌効果に、鎮痛、殺菌解毒作用、利尿作用など、体にいい効果をもたらすわ」
 アニャは胸を張って主張しているが、本当なのだろうか。食べた瞬間に、口が腫れてしまいそうだ。
「ちなみに、昼食のときに山羊のチーズにかけた蜂蜜だけれど、スズメバチを漬けていたものだから」
「え!?」
「あなた、おいしいって言ってパクパクたべていたわよね?」
「食べていたけれど……!」
 まさか、スズメバチ入りの蜂蜜を食べさせられていたとは。
 コクがあっておいしい蜂蜜だった。
 
「別に、なんともないでしょう?」
「それどころか、調子がいいくらい」
 スズメバチの毒は、驚くべきことに口から含むと薬と転ずるらしい。
 人体は、いったいどうなっているのか。
 謎が深まるばかりである。

225
038.md

@ -0,0 +1,225 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と一緒に薬用クリームを作る
 帰宅後、アニャが俺の顔の傷や腫れを改めて確認したいという。
 アニャはじっと、覗き込んでくる。きれいな顔が接近したので、身を引いてしまった。
 よく見えないから、動くなと怒られる。
 見えなければいいのだと思い、瞼を閉じた。
「うん。だいぶいいわね。近いうちに、腫れも完全に引くと思うわ」
「アニャのおかげだ」
「まあ、私は蜜薬師ですから」
 瞼を開くと、胸を張るアニャの姿があった。その様子を想像していたので、笑ってしまう。
「ちょっとイヴァン、どうして笑ったのよ」
「いや、アニャが、かわいいから」
「かわいい!? 私が!?」
「え、うん」
 改めて聞き返されると、照れてしまう。その辺は、サラッと流してほしかった。
「私、かわいいんだ」
「よく言われるでしょう?」
「言われたことなんて、一度もないわよ。イヴァンが初めて。リブチェフ・ラズにいる男なんか、ブスとか、かわいくないとか、言ってくるし」
「あー……」
 リブチェフ・ラズにいる男とは、以前アニャに「いつまで経ってもお子様だ」と言っていた奴だろう。
 当然、「ブス」や「かわいくない」と声をかけたのは、アニャの気を引くためだ。口が裂けても、アニャには言わないけれど。
 どうして酷いことを言って、怒らせるのだろうか。本当に、理解に苦しむ。
 リブチェフ・ラズの男が言ったことを思い出したからなのか。アニャは顔を俯かせ、シュンとしている。きっと、マクシミリニャンも心の中ではかわいいと思っていても、口には出さなかったのだろう。
 仕方がないと思い、本日二回目のかわいいを発する。
「アニャはかわいいよ。他の男が言うことなんか、気にするな」
 すると、アニャは顔を上げて、花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
 リブチェフ・ラズの男は知らないのだろう。アニャに「かわいい」といったら、こんなに愛らしい微笑みを見せてくれることを。
 絶対に、人生を損している。
「イヴァンがそう言うなら、もう、気にしない」
 にこにこしていたアニャだったが、すぐさまハッとなる。いったいどうしたのか。
 笑顔だったアニャの顔が、だんだん無となった。
「アニャ、どうしたの?」
「イヴァン、あなた、ずいぶんと女慣れをしているようだけれど?」
「女慣れって……」
「会う女性全員に、かわいい、かわいいって、言って回っているんじゃないの?」
「ないない、ないから。女慣れしているように見えるのは、兄の嫁が十三人もいたから。俺より年上の姪だっているし」
「兄嫁と、姪?」
「全員、身内。実家は女所帯だから」
「そう、だったんだ」
「かわいいなんて、赤ちゃん時代の姪や甥以外で、言ったことがないし」
「だったら、同じ年頃では、私は初めて?」
「まあ、そうだね」
「だったら、いいわ」
 機嫌が直ったようなので、ホッとする。
 ◇◇◇
 夕食が済んだら、アニャに呼び出される。
「夜に塗る薬用クリームを作りましょう」
「そんなのがあるんだ」
「ええ。眠っている間に、肌を再生してくれるのよ」
 材料は蜜蝋にオリーブオイル、蒸留水に乳香、薔薇精油。
「まず、薬鍋にオリーブオイルと蜜蝋を入れて、湯煎で溶かすの」
 アニャは慣れた手つきで、作業を進めていく。
「次に、湯煎から薬鍋を上げて、精油を垂らして混ぜるのよ」
 これを煮沸消毒した瓶に詰め、熱が引いたら夜専用の薬用クリームの完成となる。
「乳香には、癒傷ゆしょう作用や鎮痛、瘢痕はんこん形成作用――かさぶたを作る能力を促す力があるの」
 それに、肌の保湿効果がある蜜蝋や炎症を抑える効果がある薔薇精油を加えることによって、肌の再生を促すクリームが完成するようだ。
「アニャの知識は、本当にすごいね。でも、それは、誰から習ったの?」
「先生は、お母様が遺した本だったの」
 アニャの母親も、かつて蜜薬師と呼ばれる存在だったらしい。
 そもそも、蜜薬師とはなんぞや。
「蜜薬師の歴史は、帝国にあるの。その昔、お医者さん嫌いで蜂蜜大好きな王女様のために、侍女が各地を奔走して集めた蜂蜜の知識を数冊の本にまとめて残していたみたい。その本を読んだり、師匠から習ったりして、蜂蜜で治療を行う人を蜜薬師と呼んでいたそうよ」
「へえ、そうなんだ」
 かつての帝国では蜜薬師の侍女を侍らせることが、ステータスシンボルであると囁かれていた時代もあったらしい。
 現代では、医療が発達して、蜜薬師のほとんどは表舞台から姿を消したようだ。
「ここは田舎だし、リブチェフ・ラズにお医者様はいないから、私みたいな蜜薬師でもありがたいと思ってくれるみたい」
「そっか」
 蜜薬師になるまで、相当な努力と苦労をしたに違いない。
 知識はあっても、実際に薬を作れなければ意味がないから。
「どうしてアニャは、蜜薬師になろうと思ったの?」
「きっかけは、幼いころの私が、病弱だったからよ。咳をするたびに、お父様が蜂蜜で喉薬を作ってくれたのだけれど、失敗ばかりで、いっこうによくならなかったのよね。自分で作った物のほうが効くんじゃないかって思って作ったのが始まりよ。あとは、亡くなったお母様との、繋がりがほしくて……」
 家にあった蜜薬師の本は、直筆のメモが書き込まれていたらしい。それを読み進めているうちに、極めてしまったようだ。
「と、話しすぎてしまったわね。もう冷えたかしら?」
 熱が引いた薬用クリームを、アニャは丁寧に塗ってくれた。
 塗布されるというのは、何度経験しても慣れない。
「はい、これでいいわ。傷が治るまで、夜、眠る前に塗るのよ」
「うん。アニャ、ありがとう」
「どういたしまして」
 薬用クリームを受け取り、離れに戻る。
 明日は、種を植えて二日目だ。果たして、芽はでているのか。
 祈るばかりである。

241
039.md

@ -0,0 +1,241 @@
養蜂家の青年は、雨の朝を迎える
 蕎麦の種を植えてから迎える二日目。
 アニャがやってくることを想定し、早めに起きた。
 服を着替え、寝間着は洗濯物入れの籠に放り込む。
 外は薄明かりの中。日の出はもうすぐだろう。そんな中、アニャの姿はなかった。
 洗面所で顔を洗い、髭を剃って歯を磨く。
 身支度が調ったが、アニャはやってこない。
 はてさて、どうしようか。
 外で腕を組んで考えていたら、母屋の扉が開く。アニャだ。
「おはよう」
「きゃあ!」
 アニャは俺を見て、悲鳴を上げた。手に持っていた洗濯籠を、落としてしまうほど驚いたようだ。
「ちょっと、イヴァン! なんで日の出前に起きているのよ」
「いや、昨日アニャが日の出くらいの時間に蕎麦の状況を見ようと誘いにきたから。今日も見に行くのかと思って」
「あ――そう、だったのね」
 話しているうちに、日が昇る。太陽が地平線から、ひょっこりと顔を覗かせた。
 夜のとばりが、太陽の光によって空の彼方まで押し上げられる。
 この光景は、いつ見ても美しい。
「アニャ、蕎麦を、見に行こう」
「ええ、そうね」
 まだ薄暗いので、転ばないようにと手を差し出す。
 アニャはポカンとしたまま、俺を見つめていた。
「その手、何? 食べ物を、ちょうだい?」
「違う。アニャが暗い中で転ばないように、手を貸そうとしているの」
「あ、そう、だったのね。ごめんなさい。誰かの手を借りたことなんて、なかったから」
 アニャはいつもいつでも、マクシミリニャンの背中を追いかけていたらしい。手と手を繋ぎ、並んで歩いた記憶はないと。
「おじさんって、厳しいんだ」
「厳しくないわ。普通よ」
「ふーん」
 俺は山のルールに則って、アニャを厳しくする理由はない。だから、手を握って歩き始める。
「あ、えっと、イヴァン、私、一人で歩けるわ」
「そうかもしれないけれど、俺が心配だから」
 そう返すと、アニャは大人しくついてきた。蕎麦の種を蒔いた畑にたどり着くと、小さな声で「ありがとう」と言う。
 太陽の光が、畑を淡く照らしてくれる。
 蕎麦の芽は――残念ながら、出ていなかった。
「今日も、ダメなのね」
「まだ二日目だしね。今日は太陽も出ているから、それにつられて芽が出るかも」
 もしも発芽するとしたら、明日だろう。まだ、諦めるのは早い。
 と、前向きな姿勢でいたのに、自然は容赦ない。
 畑の前でしょんぼりする俺たちから、太陽の光を奪う。
 厚い雲が、太陽を覆ってしまったのだ。それだけではない。ポツポツと、水滴が落ちてくる。
「うわっ、雨だ!」
 一粒一粒が大きな雨粒だ。これは、あっという間に大雨になるだろう。
 畑の前でボーッとするアニャに声をかけたが、いまいち反応が悪い。
「アニャ、抱き上げるよ!」
「え?」
 アニャを横抱きにし、母屋へと繋がる斜面を下る。
「ひゃあ! ちょっと、イヴァン、どうして――!?」
 アニャが「自分で歩けるから」と言った瞬間、大粒の雨が降り始めた。
「うわ、最悪!!」
 走って母屋にたどり着く。たった数秒の間だったのに、びしょ濡れになってしまった。 アニャを下ろしてやると、顔が真っ赤なのに気づく。
「アニャ、大丈夫? 風邪でも引いているの?」
「イヴァン、あなた、力持ちなのね」
「え、そうでもないけれど」
「だって、私を抱き上げたじゃない」
「いや、アニャはものすごく軽いほうだから」
 マクシミリニャンと川まで運んだ丸太は、信じられないくらい重たかった。それに比べたら、アニャは羽のように軽いと言える。
「それよりも、早く着替えたほうが――へっくしゅん!!」
「やだ、着替えが必要なのは、あなたのほうじゃない」
 アニャは目にも止まらぬ速さで走り、大判の布を持ってきてくれる。
 昨日洗濯して乾かした服に着替えるよう、命じられた。
 ◇◇◇
 今日は雨なので、家で作業するらしい。先程の勢いはなくなり、霧雨のような静かな雨が降っている。
「アニャ、マクシミリニャンは?」
 朝から一度も顔を出していない。朝食は食べたのか、心配になる。
「雨の日は、家畜のお世話以外で離れから出てこないわよ」
「え、なんで?」
「雨に濡れると、病気になると言われているの」
 離れにも簡易的な台所があり、食料も豊富にあるらしい。
 今日みたいな雨の日は、母屋と離れの行き来を止めて、家の中で静かに過ごしているようだ。
「刺繍をしたり、編み物をしたり、保存食を作ったり。まあ、仕事は探さなくてもいろいろあるわ」
「なるほど――くっしゅん!」
「イヴァン、暖炉を入れてあげるから、火の前から離れないように」
「ごめん」
「いいわ。私も、寒いと思っていたから」
 アニャは暖炉に火を点け、ヤカンを吊す。沸騰したら、カップに湯を注いでいた。
「蜂蜜生姜湯よ。風邪には、これが一番だから」
 カップには、スライスした乾燥レモンがぷかぷか浮かんでいた。飲むと、体がほっこり温まる。ピリッとしているけれど、優しくて甘い。まるで、アニャのようだ。
 アニャも、暖炉の前に座り、蜂蜜生姜湯を飲んでいた。
 働かずにまったりする時間が、不思議と心地よい。
 雨がサラサラ降る音を聞きながら、蜂蜜生姜湯をちょびちょび飲み進める。
 なんだか、癒やされてしまった。

275
040.md

@ -0,0 +1,275 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とバターを作る
 今日はまず、バター作りをするらしい。チーズとは違った作り方をするようだ。
「バターは、発酵させたクリームを使って作るの」
 一晩おいたミルクに浮かぶものがクリーム。それを、さらに一晩放置して発酵させたものでバターを作るようだ。
 道具は煮沸消毒させた上に、太陽の光に当ててしっかり殺菌した物を使う。
「バター作りに欠かせないのは、これよ」
 それは、小型のたるだ。バター攪拌機チャーンというらしい。蓋についているハンドルを回すと、中のクリーム全体をかき混ぜることができるようだ。
「じゃあ、始めるわね」
「そのハンドル、硬いんじゃないの?」
「まあ、それなりに」
「だったら、俺がやる」
「あ、ありがとう」
 コツは特にないというので、自由に回させてもらった。
 アニャはそれなりに硬いと言っていたが、女性の腕力ではきついだろう。
 しばらくハンドルを回していると、中のクリームが固まる。
「中で、クリームが分離しているの。先に、水分を出すわ」
 クリームから分離した水分を、“バターミルク”と呼んでいるらしい。
 バターミルクも、捨てずに利用するようだ。
「パンに入れると、フワフワに仕上がるのよ」
「へえ、そうなんだ」
 余すことなく、いただくようだ。
 バター攪拌機のクリームを、すのこの上にかき出す。そこに冷水をかけて、クリームに残ったバターミルクを流すようだ。そのあとも、ヘラを二枚使って練り、バターミルクや水分を取り除く。
「バターミルクや水分を切ったら、塩で味付けするの」
 塩をまぶし、再びヘラで練り込む。
「最後に、棒で叩いて空気や水分を飛ばして、型に詰めるの」
 クッキー缶のような丸い型にバターを詰め込み、棒で押して型から抜く。
 型には小麦模様が彫られていたようで、バターに浮き出ていた。
  真っ白で美しい山羊のバターが、完成となった。
「今日は、いつもより上手にできたわ」
「うん、おいしそうだね」
「さっそく、お昼に食べましょう」
 いったい、どんな料理を作るのか。楽しみだ。
 アニャはバターが上手く作れたことが、よほど嬉しいのだろうか。にこにこしながら、バターを見つめている。
「あのね、イヴァン」
「うん?」
「私、嬉しいの。いつもだったら、雨の日に何かが上手くいっても、誰とも共有できないから」
 雨の日に外に出たら病気になってしまう。だからなるべく家に引きこもっているという話は先ほど聞いた。
「一回、パンが上手に焼けたときに、お父様に持っていったの。そうしたら、血相を変えて怒られてしまって……」
 マクシミリニャンは極めて温厚な男である。しかし、その日は違った。珍しく、アニャに対して激昂したのだという。というのも、理由があったらしい。
「お母様が、私を産む前に、雨に濡れて風邪を引いてしまったの。それから、寝たきりになってしまって……」
 アニャが生まれたのも、奇跡だったらしい。
「お母様の体調不良のきっかけは雨だった。だから、お父様は酷く怒ったの」
「そう、だったんだ」
 以降、雨の日のアニャは、ケーキが膨らんでも、おいしいスープが完成しても、独りで喜び、静かに食べるばかりだったらしい。
「だからね、今日は、イヴァンが一緒にいて、喜んでくれて、とっても嬉しい!」
 アニャは天真爛漫としか言いようがない、明るい笑顔を見せてくれる。
 なんて、愛らしい笑みなのか。
 体調が悪いわけではないのに、心臓の鼓動がいつもより早い気がした。続けて、みぞおち辺りがきゅっと縮んだような、違和感を覚える。
 風邪が悪化したかと思ったが、異変は一瞬で終わった。
「イヴァン、どうしたの?」
「なんでもない」
 なんとなく、アニャの顔を直視できなくなっていた。なんだろうか、この気持ちは。
 答えがわからず、もやもやしてしまった。
 ◇◇◇
 アニャが昼食の準備をしている間、俺は巣箱作りを行う。構造は実家で使っていた物とほとんど同じだったので、その点は非常に助かった。
 板を合わせ、釘を打つ。通気口を作って、蜜蜂が出入りできるようにするのも忘れない。
 流蜜期には欠かせない、巣箱に重ねる継箱もいくつか作っておく。
 作業を進めていると、パンが焼けるいい匂いが漂ってくる。昼食は、焼きたてパンなのか。ずいぶんと、ごちそうだ。
 それから一時間と経たずに、昼食となった。
「ちょっと、何、それ!?」
 アニャは積み上がった巣箱と継箱を見て、目を大きく見開いていた。
「これ全部、イヴァンが作ったの?」
「そうだけれど」
「信じられない。この量は、お父様が一日かけて作るような量よ?」
「いやでも、板はカットされていたから。組み立てて、釘を打っただけで」
「それが難しいのよ」
 母や義姉達に命じられ、黙々と巣箱や継箱を作る日もあった。回数をこなすうちに、早くなっていたのかもしれない。
「まあ、いいわ。食事にしましょう」
 食卓の中心に置かれたのは、焼きたてパン。それから、ジャガイモとベーコンのバター炒め、グラタン、バタークリームスープと、豪勢な食事が並んでいた。
「ちょっと、張り切り過ぎたわ」
「俺たちだけで食べるのは、もったいないね」
「そうね。でも、雨だし」
 マクシミリニャンは今頃、独り寂しく食事を食べているだろうか。
 外からマクシミリニャンのいる離れを覗き込むと、煙突からもくもくと煙が上がっていた。
「あ、お父様、鶏の燻製を作っているわ。きっと、お昼からお酒を飲むつもりなのよ」
「雨を楽しんでいるようだったら、何よりだ」
「そうね。私たちも、楽しみましょう」
 最後に、アニャは先ほど作ったバターを持ってくる。
「焼きたてのパンに塗って、食べましょう」
「いいね」
 神に祈りを捧げたあと、食事をいただく。
 まずは焼きたてのパンに手を伸ばし、アニャと一緒に作ったバターを載せた。
 パンの熱で、バターがじわーっと溶けていく。我慢できず、溶けきる前にかぶりついた。
「嘘、甘っ!」
 山羊のバターは、驚くほど甘い。後味にほんのり、酸味としょっぱさを感じる。コレまで食べたことのない風味のバターであった。
 これが、アニャの作ったフワフワのパンと信じられないくらい合うのだ。
「この世の食べ物と思えないほど、おいしい……」
「そんなふうに言ってもらえると、作った甲斐があるわ」
 アニャと共に、山羊のバター料理に舌鼓を打つ。
 大満足の昼食であった。

297
041.md

@ -0,0 +1,297 @@
養蜂家の青年は、かご作りに精を出す
 昼からは、かごを編むらしい。
 山で採ってきた蔓で編むのかと思いきや、若い木枝も使うようだ。
「ライラック、にれ、ポプラ、はしばみ、トネリコの枝は丈夫だから、かごの底に使うの。かごの側面には、木イチゴ、薔薇、クレマチスなどの、やわらかい蔓や蔦性の枝で編むのよ」
「へー、なるほど」
 これまで気にせずにかごを使っていたが、長く使えるように工夫がなされていたらしい。
「かごって買うものだと思っていたから、そういうのはぜんぜん考えなかった」
「そうだったのね」
「でも、枝って硬いでしょう? 編めるの?」
「編めるわよ。でもそのままだったら折れてしまうから、一時間ちょっと水に浸けておくの。そうしたら、やわらかくなるのよ」
 アニャは昼食を食べる前に、枝を水に浸けていたらしい。
「まず、太くしっかりした枝を四本選んで、真ん中に切り込みをいれる。そこに、四本の枝を差し込んで、十字型になるよう紐で縛るのよ。ここは、底の芯になる大事なところなの」
 しっかり固定したあと、芯に枝を絡ませ、編んでいくようだ。
 アニャに教わりながら枝を編んでみたが、なかなか難しい。編み目もガタガタで、まったく美しくない。隙間を埋めようとしたら、枝が折れてしまう。やりなおしだ。
 一方で、アニャは手早く枝を編んでいた。編み目に隙間はなく、美しい。
「あー、また折れた!」
「最初はそういうものよ。私も、慣れるまで時間がかかったわ」
 底が完成したら、側面を編む。三十一本もの枝を底に差し込み、再び編んでいくのだ。 黙々と作業を進める。集中しているからか、雨が降る音も気にならなくなった。
 最後に、かごの縁を作ったら完成である。
「やっと、できた!」
「ごくろうさま」
 生まれて初めて作ったかごは、いびつな形をしていた。不思議な曲線を描いていて、テーブルに置くと左側に傾く。加えて、隙間だらけだった。小さな豆でも入れたら、かごをすり抜けて落ちてしまうだろう。
「これ、失敗じゃん」
「失敗じゃないわ。かごは、とにかく物が入ればいいの。イヴァンが作ったのは、野菜の収穫の時に使えるわ」
「なるほど、野菜は入りそうだ」
 薬草採取やベリー摘みには使えないなと思っていたが、使い道はあるらしい。
 アニャのかごは、隙間なんてないのでさまざまな作業に使えるだろう。さすがである。
「これ、売っているの?」
「いいえ、自宅用よ」
「そうなんだ。お店に並んでいても、おかしくない仕上がりだけれど」
「そう? ありがとう」
 他にも、白樺の樹皮や、蔓、蔦、木など、さまざまな物を素材にかごを編んでいるらしい。
 その中で、高価で買い取ってもらえるのが、木のかごだという。
「木を薄くカットして編むの。丈夫で、木目が美しいかごが完成するのよ。でも、編むのは一番難しいわね」
「だろうね」
 枝以上に、木はパキパキ折れてしまうのだろう。
 冬、雪が深くなったら、外での仕事ができなくなるらしい。そのときに、木のかごを作るようだ。
「イヴァン、私が編んだこのかご、あなたにあげるわ」
「え? これ、家で使うんでしょう?」
「いいの。ここに来た、記念に」
 その物言いは、どこか諦めの意味が溶け込んでいるような気がした。
 蕎麦の芽は生えないだろうから、思い出の品として受け取ってくれ。そんな感じだろう。
「だったら、俺のかごは、アニャにあげる」
「いいの!?」
 アニャはパーッと表情を明るくし、前のめりで聞き返す。
「こんないびつなかご、もらっても嬉しくないかもしれないけれど」
「苦労して作った品ですもの。ものすごく嬉しいわ。イヴァン、ありがとう」
 アニャは俺が作ったかごを胸に抱き、にこにこ微笑んでいる。
 再び、俺の心臓は感じたことのないほどの高鳴りを感じていた。
「あ、もう夕方なんだ」
「夕食は、卵があるからエッグヌードルを作りましょう」
 エッグヌードル――いわゆるパスタの一種である。
 小麦粉に卵とオリーブオイルを練り混ぜて作るようだ。
 作り方を見学させてもらった。
 まず、小麦粉を山のように盛って、中央に窪みを作る。ここに、朝どれの新鮮な卵を落とすようだ。
 卵を潰して混ぜ、そこにオリーブオイルを垂らす。あとは、指先と拳を使って混ぜるようだ。
「イヴァンは、ソースを作って」
「え、俺、料理できないんだけれど」
 得意料理は、湖で釣った魚で作る焼き魚である。串を刺し塩をぱっぱと振って焼くだけの、シンプルな一品だ。
「作り方は教えるわ。簡単だから、あなたにもできるはずよ」
「わかった」
 豚ほほ肉の塩漬けをカットし、炒める。油を入れずとも、豚からじわじわと滲みでてきた。途中で白ワインを垂らし、さらに炒めるようだ。
 アニャはエッグヌードルを完成させたようで、鍋で茹で始める。
「次に、ボウルに山羊のチーズ、卵黄、エッグヌードルのゆで汁、炒めた豚ほほ肉の塩漬けを入れるの」
 豚にしっかり味がついているので、味付けは特に必要ないようだ。
「最後に、茹で上がったエッグヌードルを入れて、ボウルを湯煎しながら手早く混ぜる」
 エッグヌードルに卵が絡んだら、皿に盛り付ける。上からさらにちぎった山羊のチーズを盛り付けたら、塩豚のパスタの完成である。
「味が薄かったら、コショウをかけて」
 アニャはそう言うが、追加の味付けは必要ないだろう。このままでもおいしいというのは、見た目からビシバシ伝わっていた。
 神に祈りを捧げ、いただく。
「――むっ!?」
 麺はもちもちとした歯ごたえがあって、ソースがよく絡んでいる。
「麺、うまっ! っていうか、ソースが神がかり的な味がする!」
 山羊のチーズと、新鮮な卵、そして豚の塩漬けが合わさり、絶妙なうまさを爆誕させている。噛めば噛むほど、おいしさを感じる料理だ。
「本当、おいしい」
「お口に合ったようで、よかったわ」
 アニャの絶品料理を、堪能させてもらった。
 夜は、仕事はせずにのんびり過ごすらしい。
「ねえ、イヴァン。カード遊びをしましょうよ」
「カード?」
「ええ。お父様が木札で作った物があるの」
 マクシミリニャンオリジナルのカードらしい。いったいどんな物なのか、気になる。
 アニャが木箱に収められたカードをテーブルに置いた瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
「え、何、この雨」
「たまに、こういう雨が降るのだけれど――あ!!」
 アニャは顔色を青くさせ、叫んだ。
「この勢いの雨は、蕎麦の種がダメになってしまうわ」
 大地をえぐるような勢いである。このままでは、アニャの言う通り蕎麦の種は土から流れ出てしまうだろう。
 アニャは寝室のほうへと駆け込む。戻ってきたときには、シーツを胸に抱いていた。
「アニャ、どうしたの?」
「このシーツで、畑を覆うのよ」
「何を言っているんだ。この暗い中、作業をするのは危険だ」
「止めないで!」
 雨に濡れてはいけない。それは、山での暮らしの決まりなのだろう。
「イヴァン、私は、あなたをはっ倒してでも、外に行くわ」
 アニャは、とんでもなく恐ろしい宣言をしてくれた。

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養蜂家の青年は、夜闇を走る!
 大変な事態となった。
 大雨の中、アニャは外に出て、蕎麦の種を植えた畑にシーツを被せにいくという。
 滝のような雨である。もう、蕎麦の種なんて土から出てどこかに流されているだろう。
「アニャ、こんな大雨の中に出ていったら、風邪を引いてしまう。止めるんだ」
「いやよ!!」
「どうして、そこまでするんだ?」
「イヴァンと、結婚したいからよ!!」
「ええ~……」
 結婚のために、ここまで蕎麦の種を気にしてくれるなんて。
 アニャはすさまじい形相で、睨んでいる。とても、俺と結婚したい女性には見えない。
「どいて、イヴァン!」
「もう、アニャと結婚するから、外に行くのはやめなよ」
「いや!」
「ちょっと待って。今度はどうしていやなの?」
「私は、蕎麦の芽が出たのを確認したあとで、イヴァンと結婚したいの! でないと、私のわがままで、無理に結婚させたみたいになるでしょう?」
「アニャ……」
 アニャの瞳から、涙がぽろぽろと流れている。
 俺たちの結婚問題は、思っていた以上に深刻なものであった。
 蕎麦の芽が出ないと、結婚させてもらえないらしい。
「今からだったら、間に合うかもしれないわ。お願い、イヴァン、どいて」
「わかった」
 一歩、一歩とアニャに接近し、手を差し出す。
「な、何よ」
「アニャ、シーツ、貸して。俺が、やってくるから」
「そんな……! これは、私がやらなければならないことなのに」
「蕎麦の芽が云々と言いだしたのは、俺のほうだから」
「で、でも、風邪を引いてしまう、わ」
「アニャは蜜薬師だから、風邪を引いても治してくれるでしょう?」
 そう言ったら、アニャは俺の手にシーツを預けてくれた。
「ねえ、無理そうだったら、すぐに戻ってきて」
「わかった」
「それから――」
「アニャ、早く行かないと、蕎麦の種が雨で流されちゃう」
「そ、そうね」
 手にはランタンを持ち、もう片方にはシーツを持つ。アニャが扉を開いてくれた。
 ドーーーーッと、激しい音を鳴らしながら雨が降っている。こんなに勢いのある雨は、初めてだ。
「ね、ねえ、イヴァン。やっぱり、止めましょう」
「いいや、止めない。アニャと植えた蕎麦の種は、守るから」
 アニャの言葉を待たずに、外へ飛び出した。
 石つぶてのような雨が、全身を打つ。痛がっている暇はない。一目散に、畑を目指さなければいけないだろう。
 ちなみに、雨に打たれたランタンは一瞬で消えた。
 こうなったら、勘で畑まで行くしかない。
 幸い、夜に歩き回るのは慣れている。こういう、土砂降りの中で行動するのは初めてだけれど。
 暗闇の中、順調に畑に到着するわけがなく、五回以上転ぶ。ドロドロの、びしょびしょだ。全身打ち身と擦り傷だらけの気がした。そんな状況でも、雨は容赦なく俺の体を打ち付けるように降っている。
 体が痛い。けれど、それ以上に心が痛かった。
 アニャの涙が、頭から離れない。
 こうなったら、蕎麦の種には頑張ってもらわなければならないだろう。
 でないと、誰も救われない。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
 真っ暗な中で、だんだんと目が慣れてきた。
 離れの背後にある段差を登っていき、やっとのことで畑へと到着した。
 蕎麦の種を植えたのは、畑の端っこだ。
 もう、どんな状況かわからないけれど、とにかく、雨で種が流されないようにシーツを被せなければ。
 シーツが飛ばないようにするには、大きな石が必要である。
 たしか、畑の周囲を囲む石があったはずだ。手探りで探す。
 八個くらい、止めていればいいだろうか。
 蕎麦の種が植えられているであろう範囲に、シーツを被せる。が、風が強くて、上手く広がらない。
 石を置いて、シーツを留めて回るしかないようだ。
 一つ目の石を置いたあと、突風が吹く。
「うわっ!!」
 シーツは捲れ、どこかへ飛んでいってしまった。
「嘘でしょう……?」
 この暗闇の中、シーツを探すのは困難だろう。ここまでやってきたのに、目的を達成できないなんて。
 俺の人生は、本当についていない。そう思っていたが――。
「イヴァン殿~~~~!!」
「イヴァン~~~~!!」
 マクシミリニャンとアニャの声が聞こえた。
 振り返ると、シーツを握りしめるマクシミリニャンの姿があった。
 何やらどでかいランタンを持っていて、畑を明るく照らしてくれる。
「シーツが飛んできたから、驚いたぞ」
「おじさん……!」
 結局、アニャはいてもたってもいられず、マクシミリニャンを呼びに行ったようだ。
「話はあとよ! 畑にシーツを覆いましょう」
「わかった」
 三人で力を合わせて、畑にシーツを広げる。端に石を載せて、飛ばないようにした。
「これでいいな」
「ええ」
「早く帰ろう」
 どでかいランタンで、道が明るく照らされる。
 行きと同じ道なのに、ずいぶんと歩きやすい。
 苦を共にしてくれるアニャとマクシミリニャンの背中を見ていたら、瞼がじわりと熱くなる。
 少しだけ涙が出てしまったけれど、雨が流してくれた。
 ◇◇◇
 コーケコッコー!!
 鶏の鳴き声で目覚める。カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでいた。
 雨は、止んだようだ。
 昨晩は、マクシミリニャンが用意してくれた風呂に入り、アニャに傷の治療をしてもらったあと、母屋で泥のように眠った。
 全身が、痛い。雨の中、転びまくったせいだろう。
 せっかく顔の傷が治りつつあったのに、新しい傷を作ってしまった。
 むくりと起き上がる。
 寝間着はマクシミリニャンのものなので、ぶかぶかだ。離れに戻って、着替える。
 顔を洗い、髭を剃り、歯を磨き終えたところで、外からアニャの声が聞こえた。
「イヴァン、イヴァン~~!!」
「ここにいるよ」
 勝手口から顔を覗かせると、アニャが走ってやってくる。
「蕎麦を、見に行きましょう」
「うん、そうだね」
 正直、期待はしていない。だって、あの土砂降りだったし。
 アニャと二人、無言で畑を目指す。
 石垣を登った先にある畑は――水浸しだった。
「信じられない……」
 みんなで被せたシーツは捲れ上がり、畑の畦道の上でぐちゃぐちゃになっていた。
 当然、蕎麦の種を植えた辺りも、水没している。あの大雨だ。こうなるのも、仕方がないだろう。
 畑に溜まった水が、青空を映しだしている。
 蕎麦の種の件がなければ、素直に美しいと思っただろう。
 今は、ひたすら雨水が憎らしい。
 自然は残酷だ。どんなに頑張っても、抗うことなんてできないのだ。
 アニャは畑の前に立ち、動こうとしない。
「アニャ、帰ろう」
 そう声をかけたのに、アニャは畦道のほうへと駆け出す。
「アニャ?」
 何か見つけたのか。アニャのあとを追いかける。
 アニャは、シーツの前にしゃがみ込んでいた。
「どうしたの?」
 アニャは振り返り、大粒の涙を零していた。
「イヴァン、これっ――」
 しゃがみ込んで、アニャが指差すものを見た。
 それは、シーツの隙間から生える、蕎麦の芽だった。小さいけれど、しっかり発芽している。
「蕎麦の、芽、だ」
「そうよ。一つだけ、芽が、出ていたの!」
 信じられない。あの状況の中で、蕎麦が生きていたなんて。
 昨晩の思い切った行動は、無駄ではなかったのだ。
「よかった~~~~!!」
 そう言って、さらに涙を流すアニャを、ぎゅっと抱きしめる。
 幼子をあやすように、背中を優しく撫でた。
 この国には、蕎麦にまつわる古い言葉がある。
 “新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”
 蕎麦の芽は、出た。
 ここが、俺の居場所なのだ。 
毎日更新にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
一部、完です。
以降は、不定期更新でお届けする予定です。
二部より始まります、アニャとの新婚生活編を、どうぞよろしくお願いいたします。
そして、長らく受け付け停止をしておりました感想欄も、本日より解放しております。
何かご感想がありましたら、お聞かせいただけたら幸いです。
それでは、引き続き『養蜂家と蜜薬師の花嫁』を、よろしくお願いします。
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