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養蜂家の青年は、今日も蜜蜂のようにあくせく働く
养蜂青年今天也像蜜蜂一样辛勤劳动
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません。作中の用語、歴史、文化、習慣、知識などは創作物としてお楽しみ下さい。
 知っているだろうか、蜜蜂が一生のうちに集める蜂蜜の量を。
※这个故事是虚构的,与实际存在的人物、团体完全没有关系。作品中的用语、历史、文化、习惯、知识等请作为创作物来享受。
知っているだろうか、蜜蜂が一生のうちに集める蜂蜜の量を。
你知道蜜蜂一生中收集的蜂蜜的量吗。
多くの蜜蜂の寿命は短く、一年どころか半年にも満たない。その間に、たったティースプーン一杯程度しか、蜜を集められない。
很多蜜蜂的寿命很短,别说一年了,连半年都不到。在这期间,只能收集一茶匙左右的蜜。
儚い人生だ。
虚幻的人生。
俺達養蜂家は、そんな蜜蜂から蜂蜜を得て、日々の生計を立てている。
我们养蜂人,从那样的蜜蜂得到蜂蜜,维持着每天的生计。
 多くの蜜蜂の寿命は短く、一年どころか半年にも満たない。その間に、たったティースプーン一杯程度しか、蜜を集められない。
 儚い人生だ。
◇◇◇
 俺達養蜂家は、そんな蜜蜂から蜂蜜を得て、日々の生計を立てている。
◇◇◇
 ◇◇◇
ブレッド湖のほとりにある、花畑養蜂園――ここではイェゼロ家が代々蜂蜜を得るために花を育て、蜜蜂の世話をしながら暮らしていた。
 ブレッド湖のほとりにある、花畑養蜂園――ここではイェゼロ家が代々蜂蜜を得るために花を育て、蜜蜂の世話をしながら暮らしていた。
位于布莱德湖畔的花圃养蜂园——在这里,耶泽罗家族世世代代为了得到蜂蜜而培育花朵,一边照顾蜜蜂一边生活
 養蜂園には、十三個の区切られた花畑がある。そこでは、イェゼロ家の十三人の息子がそれぞれ管理し、蜂蜜を得ていた。
 そんな中で、イェゼロ家の十四番目の子どもとして生まれた俺は、継ぐべき花畑がなかった。だから、毎日兄達の手伝いをしている。そう言えば聞こえはいいが、実際は馬車馬のごとく働かされているのが現実だ。
養蜂園には、十三個の区切られた花畑がある。そこでは、イェゼロ家の十三人の息子がそれぞれ管理し、蜂蜜を得ていた。
养蜂园里有十三个分隔的花圃。在那里,耶泽罗家的十三个儿子分别管理,得到蜂蜜。
そんな中で、イェゼロ家の十四番目の子どもとして生まれた俺は、継ぐべき花畑がなかった。だから、毎日兄達の手伝いをしている。そう言えば聞こえはいいが、実際は馬車馬のごとく働かされているのが現実だ。
在这种情况下,作为耶泽罗家的第十四个孩子出生的我,没有应该继承的花圃。所以,每天都在帮哥哥们的忙。这么说听起来不错,但实际上像马车马一样工作是现实。
「おい、イヴァン! 巣箱近くにスズメバチがいたって言っていたから、退治しておけよ」
“喂,伊凡!他说蜂箱附近有一只黄蜂,你去消灭它吧。”
「おい、イヴァン! 巣箱近くにスズメバチがいたって言っていたから、退治しておけよ」
「俺のところは、柵が壊れてしまっている。修理しておけ」
“我这里的栅栏坏了,请修理一下。”
「イヴァン、花の種の用意を頼む」
“伊凡,请准备花的种子。”
十三人の兄は結婚し、子どもも数名いる。一番上の兄とは、二十歳離れているので、年上の姪もいるのだ。
十三个哥哥结婚了,还有几个孩子。因为和最大的哥哥相差20岁,所以也有年长的侄女。
人を雇わなくても、働き手は十分いる。だから、兄達は働かずに、朝から酒を飲んだり、賭けカードをしたり。遊びたい放題である。
即使不雇人,也有足够的劳动力。所以,哥哥们不工作,从早上开始喝酒,打赌卡。为所欲为。
同じように、遊んで暮らしていた父を見て育ったので、無理はないのかもしれない。
同样,因为是看着玩着生活的父亲长大的,所以可能没有什么困难。
そんな父は十五年前に母と喧嘩して家を追い出され、馬車にはねられて死んだ。
那样的父亲十五年前和母亲吵架被赶出了家,被马车撞死了。
けれど、一家の主が死んでも、この家はなんら問題なかった。
但是,即使一家之主死了,这个家也没有什么问题。
働いているのは、母を中心とする女性陣だから。
因为工作的是以母亲为中心的女性阵容。
イェゼロ家は、蜂社会と同じなのだ。女王蜂たる母がいて、下に従う女達が蜜蜂のようにあくせく働き、男は子作りのためだけに存在して、あとは働かずにのほほんとしていた。
耶泽罗家和蜜蜂社会一样。有一个作为女王蜂的母亲,跟随下面的女人们像蜜蜂一样辛勤工作,男人只为了生孩子而存在,之后就不工作了。
種の繁栄のためだけに存在する雄蜂は、用なしと判断されたら蜜蜂から容赦なく追い出される。
只为了物种的繁荣而存在的雄蜂,如果被判断为没有用的话,就会被蜜蜂毫不留情地赶走。
イェゼロ家の男達も、同じだろう。用なしと判断されたら、父のように家を追い出される。住み処を失ったら、あとは死ぬしかない。
耶泽罗家的男人们也一样吧。如果被判断为没有事,就会像父亲一样被赶出家门。失去了住处,剩下的只有死了。
彼らはきっとわかっていないのだろう。自分達が、女性陣に“生かされている”ということに。
他们一定不明白吧。自己们,被女性阵容“活着”这样的事。
偉ぶって、自らを驕って、女達を支配していると勘違いし、自由気ままに暮らしている。
装模作样,自满,误以为支配着女人们,自由自在地生活着。
いつか、しっぺ返しを受けるだろう。
总有一天会被反驳的吧。
 十三人の兄は結婚し、子どもも数名いる。一番上の兄とは、二十歳離れているので、年上の姪もいるのだ。
 人を雇わなくても、働き手は十分いる。だから、兄達は働かずに、朝から酒を飲んだり、賭けカードをしたり。遊びたい放題である。
 同じように、遊んで暮らしていた父を見て育ったので、無理はないのかもしれない。
 そんな父は十五年前に母と喧嘩して家を追い出され、馬車にはねられて死んだ。 
 けれど、一家の主が死んでも、この家はなんら問題なかった。
俺は用なしと判断されないように、毎日あくせく働く
 働いているのは、母を中心とする女性陣だから。
我为了不被判断为没有事情,每天都忙忙碌碌地工作
 イェゼロ家は、蜂社会と同じなのだ。女王蜂たる母がいて、下に従う女達が蜜蜂のようにあくせく働き、男は子作りのためだけに存在して、あとは働かずにのほほんとしていた。
 種の繁栄のためだけに存在する雄蜂は、用なしと判断されたら蜜蜂から容赦なく追い出される。
 イェゼロ家の男達も、同じだろう。用なしと判断されたら、父のように家を追い出される。住み処を失ったら、あとは死ぬしかない。
給料なんてものはない。けれど、それでもこの家で居場所を得るには働くしかないのだ
 彼らはきっとわかっていないのだろう。自分達が、女性陣に“生かされている”ということに。
没有什么工资。但是,即便如此,要在这个家里得到住所,也只能工作
 偉ぶって、自らを驕って、女達を支配していると勘違いし、自由気ままに暮らしている。
 いつか、しっぺ返しを受けるだろう。
 俺は用なしと判断されないように、毎日あくせく働く。
今年で二十歳になったが、当然、結婚相手なんて見つからない
 給料なんてものはない。けれど、それでもこの家で居場所を得るには働くしかないのだ。
今年已经20岁了,当然找不到结婚对象
 今年で二十歳になったが、当然、結婚相手なんて見つからない。
財産もない男に嫁ぐ物好きは、世界中どこを探してもいないのだろう
 財産もない男に嫁ぐ物好きは、世界中どこを探してもいないのだろう。
嫁到没有财产的男人身上的好事之徒,全世界到处都找不到吧

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002.md

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養蜂家の青年は、花畑で春の支度を行う
 かつて、この地は他国の支配下にあった。ブレッド湖周辺は王族の保養地として愛され、その昔は王族とすれ違う、なんてことも珍しくなかったらしい。
养蜂青年在花圃里为春天做准备
 ブレッド湖の中心には孤島が浮かんでおり、教会がポツンと建っている。山頂から見たら瞳のように見えるので、ブレッド湖は“山々の瞳”とも呼ばれていた。
かつて、この地は他国の支配下にあった。ブレッド湖周辺は王族の保養地として愛され、その昔は王族とすれ違う、なんてことも珍しくなかったらしい。
 花畑養蜂園がある土地は平地であるものの、周辺は野山に囲まれている
过去,这片土地处于他国的统治之下。布莱德湖周边作为王族的疗养地受到喜爱,以前与王族擦肩而过的情况也不稀奇
 街の郊外にあるこの地では、豊富な湖水と豊かな自然が、おいしい蜂蜜をもたらしてくれるのだ。
ブレッド湖の中心には孤島が浮かんでおり、教会がポツンと建っている。山頂から見たら瞳のように見えるので、ブレッド湖は“山々の瞳”とも呼ばれていた。
 ただ、何もしないで、たくさんの蜂蜜を得られるわけではない
布莱德湖的中心漂浮着一座孤岛,教堂鳞次栉比。从山顶上看像眼睛一样,所以布莱德湖也被称为“群山之瞳”
 人が手を加えて、蜜蜂を世話しなければいけないのだ。
 もうすぐ、春になる。
 越冬した蜜蜂が、活動的になるシーズンである。
花畑養蜂園がある土地は平地であるものの、周辺は野山に囲まれている。
 蜜蜂の動きに注目し、より快適な巣箱になるように助けてやらなければならない
虽然有花圃养蜂园的土地是平地,但是周边被山野包围着
 花畑養蜂園では、いたる場所に養蜂小屋が建てられている
街の郊外にあるこの地では、豊富な湖水と豊かな自然が、おいしい蜂蜜をもたらしてくれるのだ
 箪笥のように中が区切られていて、そこに出入りする蜜蜂が花の種類ごとに蜜を集めてくるのだ
在郊外的这片土地上,丰富的湖水和丰富的自然环境,给我们带来了美味的蜂蜜
 巣の出入り口となる蓋には、精緻な彫刻が施されている。
 田園風景だったり、湖の様子だったり。街の芸術家に頼んで、作らせているようだ。
 これらは蜂蜜の種類を見分けるものであり、養蜂家は豊かな生活をしていると自慢するものでもあるようだ。
ただ、何もしないで、たくさんの蜂蜜を得られるわけではない。
 兄達に頼まれていた仕事を終えると、母や義姉、年上の姪が次々と命令してくる。
只是,并不是什么都不做就能得到很多蜂蜜。
人が手を加えて、蜜蜂を世話しなければいけないのだ。
人要动手照顾蜜蜂。
もうすぐ、春になる。
马上就要到春天了。
越冬した蜜蜂が、活動的になるシーズンである。
这是越冬的蜜蜂变得活跃的季节。
蜜蜂の動きに注目し、より快適な巣箱になるように助けてやらなければならない。
要关注蜜蜂的动向,帮助它们成为更舒适的蜂箱。
花畑養蜂園では、いたる場所に養蜂小屋が建てられている。
在花圃养蜂园,到处都建有养蜂棚。
箪笥のように中が区切られていて、そこに出入りする蜜蜂が花の種類ごとに蜜を集めてくるのだ。
里面像衣柜一样被分开,出入那里的蜜蜂按照花的种类收集蜜。
巣の出入り口となる蓋には、精緻な彫刻が施されている。
作为巢的出入口的盖子上有精致的雕刻。
田園風景だったり、湖の様子だったり。街の芸術家に頼んで、作らせているようだ。
田园风景,湖泊的样子。好像是委托街上的艺术家制作的。
これらは蜂蜜の種類を見分けるものであり、養蜂家は豊かな生活をしていると自慢するものでもあるようだ。
这些都是辨别蜂蜜种类的东西,似乎也是养蜂人自夸生活富裕的东西。
兄達に頼まれていた仕事を終えると、母や義姉、年上の姪が次々と命令してくる。
完成哥哥们拜托的工作后,母亲、大嫂、年长的侄女纷纷命令。
それをこなすだけで、昼の鐘が鳴り響いた。
只是完成了那个,白天的钟就响了。
昼食は朝バタバタしていてもらいそこねてしまった。ブレッド湖に釣りに行こうとしたそのとき、声がかけられる。
午饭早上忙得不可开交。我正要去布莱德湖钓鱼的时候,有人跟我打招呼。
 それをこなすだけで、昼の鐘が鳴り響いた。
 昼食は朝バタバタしていてもらいそこねてしまった。ブレッド湖に釣りに行こうとしたそのとき、声がかけられる。
「あの、イヴァンさん」
“那个,伊凡先生。”
振り返った先にいたのは、ブルネットの髪の美女ロマナ。双子の兄、サシャの妻だ。
回头看的是布鲁内特头发的美女罗曼娜。这是双胞胎哥哥萨沙的妻子。
五年前、収穫祭で身売りをしようとしていたところを捕まえて、うちで住み込みで働かせた。
五年前,他在收获节上抓住了打算卖身的人,让他住在家里工作。
 振り返った先にいたのは、ブルネットの髪の美女ロマナ。双子の兄、サシャの妻だ。
刷り込みされた雛のように、俺について回っていたが、結婚したのは兄だった
 五年前、収穫祭で身売りをしようとしていたところを捕まえて、うちで住み込みで働かせた。
像被印刷的雏鸟一样跟着我转,结婚的是哥哥
 刷り込みされた雛のように、俺について回っていたが、結婚したのは兄だった。
 それはまあ、しかたがないだろう。
 継ぐべき花畑を持たない男のもとに嫁いでくる物好きなんて、いないだろうから。
それはまあ、しかたがないだろう。
那也没办法吧。
継ぐべき花畑を持たない男のもとに嫁いでくる物好きなんて、いないだろうから。
因为没有喜欢嫁到没有应该继承的花圃的男人身边的人吧。
「ロマナ、何?」
“罗曼娜,什么事?”
「これを……」
“这个……”
差し出されたのは、魚を挟んだ練りパイ。わざわざ、持ってきてくれたのだろう。
拿出来的是夹着鱼的馅饼。是特意给我带来的吧。
 差し出されたのは、魚を挟んだ練りパイ。わざわざ、持ってきてくれたのだろう。
「ありがとう」
“谢谢。”
「あの、イヴァンさん、湖のほとりで、一緒に食べない?」
“那个,伊凡,在湖边一起吃吧?”
「それはダメでしょう。ロマナは、サシャの妻だから」
「那可不行,因为罗曼娜是萨沙的妻子。」
他の兄弟の妻と二人きりで過ごすのは、禁じられている。暗黙の了解だが、破るつもりはない。
禁止和其他兄弟的妻子单独生活。虽然是默契,但不打算打破。
ロマナはサシャと結婚したのに、結婚前のように過ごしたがる。
罗曼娜和萨沙结婚了,却想像婚前那样过。
結婚しても仲良くだなんて、都合のいい話はない。
结婚后关系也很好,没有什么方便的话。
 他の兄弟の妻と二人きりで過ごすのは、禁じられている。暗黙の了解だが、破るつもりはない。
ロマナと仲良くしていて、サシャに喧嘩を売られても困る。だから、可哀想だけれど、彼女のことは遠ざけた。
和罗曼娜关系很好,即使被萨沙挑衅也很为难。所以,虽然很可怜,但还是远离了她。
 ロマナはサシャと結婚したのに、結婚前のように過ごしたがる。
 結婚しても仲良くだなんて、都合のいい話はない。
 ロマナと仲良くしていて、サシャに喧嘩を売られても困る。だから、可哀想だけれど、彼女のことは遠ざけた。
今日も一人、青空の下で昼食を食べる
 今日も一人、青空の下で昼食を食べる。
今天也一个人在蓝天下吃午饭
 午後からは母親に言われていた、羽化する前の雄蜂の確認作業を行う。
午後からは母親に言われていた、羽化する前の雄蜂の確認作業を行う。
下午开始进行母亲所说的羽化前雄蜂的确认工作。
「おーい、イヴァン!!」
“喂,伊凡!!”
元気よく走ってやってきたのは、街に住む幼なじみのミハル。彼は雑貨商の息子で、幼い頃からイェゼロ家に出入りしている。
精神饱满地跑来的是住在街上的青梅竹马米哈尔。他是杂货商的儿子,自幼出入耶泽罗家。
 元気よく走ってやってきたのは、街に住む幼なじみのミハル。彼は雑貨商の息子で、幼い頃からイェゼロ家に出入りしている。
「ミハル、今日も、配達に来たの?」
“米哈尔,你今天也来送货吗?”
「ああ。お前の兄ちゃんの酒とつまみを三箱も持ってきたぞ」
“啊,我带了三盒你哥哥的酒和下酒菜。”
いつものことなので、何か思う心はすでに死んでいる。
因为是平常的事,所以有什么想法的心已经死了。
蜂蜜を売って得た金も、兄達が湯水のごとく使ってしまうのだ。
卖蜂蜜得到的钱,哥哥们也会像热水一样用完。
ミハルは「おまけだ」と言って、干物の端っこを集めた包みをくれた。
 いつものことなので、何か思う心はすでに死んでいる。
米哈尔说“这是赠品”,给了我一个收集干货边上的包裹
 蜂蜜を売って得た金も、兄達が湯水のごとく使ってしまうのだ。
 ミハルは「おまけだ」と言って、干物の端っこを集めた包みをくれた。
「イヴァン、また、痩せたんじゃないのか?」
“伊凡,你不是又瘦了吗?”
食いっぱぐれるのは、日常茶飯事。実の母親でさえ、気にしない。けれど唯一、ミハルやミハルの家族は心配し、食べ物をくれるのだ。
贪吃是家常便饭。连亲生母亲都不介意。但是,只有米哈尔和米哈尔的家人担心,给我食物。
 食いっぱぐれるのは、日常茶飯事。実の母親でさえ、気にしない。けれど唯一、ミハルやミハルの家族は心配し、食べ物をくれるのだ。
「最近は、ロマナがお昼をくれるし」
“最近,罗曼娜会给我午饭。”
「お前、それ、大丈夫なのか?」
“你,那个,没事吧?”
「何が?」
“什么?”
「何がって、ロマナはサシャの妻なんだろう?」
“怎么说呢,罗曼娜是萨沙的妻子吧?”
「そうだけど」
“是啊。”
ロマナはサシャと結婚して、家の炊事を担当することになった。そのため、こっそり食事を分けてくれるのである。
罗曼娜嫁给萨沙,负责家里的炊事。因此,偷偷地分给我吃饭。
 ロマナはサシャと結婚して、家の炊事を担当することになった。そのため、こっそり食事を分けてくれるのである。
結婚前は食いっぱぐれていた彼女に食事を分けていたので、その恩返しのつもりなのだろう。
结婚前把饭分给了贪吃的她,是为了报恩吧。
 結婚前は食いっぱぐれていた彼女に食事を分けていたので、その恩返しのつもりなのだろう。
「あんまり親しくしていると、誤解されるからな」
“如果关系太亲密的话,会被误解的。”
「それは大丈夫。さっきも、追い返したし」
「だったら、いいけどよ」 
“那没关系,刚才也追回来了。”
「だったら、いいけどよ」
“那就好。”
サシャは独占欲が人一倍強いので、ロマナが俺と仲良くしていると面白くないだろう。
萨沙的独占欲比别人强一倍,所以罗曼娜和我关系好的话就没意思了吧。
だからなるべく、関わらないようにしている。
所以尽量不要和我扯上关系。
 サシャは独占欲が人一倍強いので、ロマナが俺と仲良くしていると面白くないだろう。
 だからなるべく、関わらないようにしている。
「それはそうと、例の件を考えてくれたか?」
“那是这样,你考虑过那件事了吗?”
「例の件?」
「忘れるなよ! お前と家の、養子縁組みの件だよ!」
“那件事?”
「忘れるなよ! お前と家の、養子縁組みの件だよ!」
“别忘了!这是你和家里领养的事!”
「ああ」
“啊。”
ミハルの家族は変わり者で、俺を気に入ってくれている。信じがたいことに、養子縁組みをしたいと申し出てくれたのだ。
米哈尔的家人是个怪人,很喜欢我。令人难以置信的是,他提出要收养我。
 ミハルの家族は変わり者で、俺を気に入ってくれている。信じがたいことに、養子縁組みをしたいと申し出てくれたのだ。
「ありがたい話だけれど、俺は、この仕事が好きだから」
“虽然是值得庆幸的事,但我喜欢这份工作。”
「あー、やっぱり、お前と蜜蜂は、切っても切り離せないかー」
“啊,果然,你和蜜蜂,切了也切不开啊。”
物心ついたときから、蜜蜂と共に在った。今更、離ればなれの人生なんて、考えられない。
从懂事的时候开始,就和蜜蜂在一起。事到如今,我无法想象离别的人生。
イェゼロ家に蜂蜜をもたらしてくれるのは、腹部に灰色熊のような毛を持つ、カーニオランと呼ばれる蜜蜂。
给耶泽罗家带来蜂蜜的是腹部有着灰熊般的毛的被称为卡尼奥兰的蜜蜂。
彼らは温厚で、真面目。せっせと花蜜を集めてくれる。太陽の光を浴びると、カーニオランが持つ灰色の毛は柔らかく光るのだ。
他们温厚,认真。不停地给我收集花蜜。沐浴在阳光下,卡尼奥兰身上的灰色毛发会柔和地发光。
 物心ついたときから、蜜蜂と共に在った。今更、離ればなれの人生なんて、考えられない。
そんな蜜蜂を、親しみを込めて“灰色熊のカーニオラン”と呼んでいた。
这样的蜜蜂被亲切地称为“灰熊的卡尼奥兰”。
 イェゼロ家に蜂蜜をもたらしてくれるのは、腹部に灰色熊のような毛を持つ、カーニオランと呼ばれる蜜蜂。
 彼らは温厚で、真面目。せっせと花蜜を集めてくれる。太陽の光を浴びると、カーニオランが持つ灰色の毛は柔らかく光るのだ。
 そんな蜜蜂を、親しみを込めて“灰色熊のカーニオラン”と呼んでいた。
俺はそんな蜜蜂に、人一倍の愛着を抱いている。
 俺はそんな蜜蜂に、人一倍の愛着を抱いている。
我对那样的蜜蜂,抱着比别人加倍的留恋

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003.md

@ -1,227 +1,557 @@
養蜂家の青年は、食いっぱぐれて湖に行く
 ミハルは草むらにゴロリと転がり、目を細めながら青空を見る。
养蜂青年贪吃着去湖边
ミハルは草むらにゴロリと転がり、目を細めながら青空を見る。
米哈尔咕噜咕噜地滚动在草丛里,眯着眼睛看着蓝天。
「イヴァン、お前さ。このままだと、働き過ぎて早死してしまうぞ」
“伊凡,是你。照这样下去,你会因为工作过度而早死的。”
「大丈夫だよ。うちに優秀な女王蜂がいる限り、死にはしない」
“没关系,只要我们家有优秀的蜂王,就不会死。”
兄達は酷い扱いをするが、まだ、母親がたしなめてくれている。状況はまだ、最悪ではない。
哥哥们虽然很严厉,但是母亲还在责备我。情况还不是最糟糕的。
 兄達は酷い扱いをするが、まだ、母親がたしなめてくれている。状況はまだ、最悪ではない。
「お袋さんが死んだあとは、どうするんだよ」
“你母亲死后,你该怎么办?”
「一応、独立は考えているよ」
“首先,我在考虑独立。”
週に一度の休日に、ミハルの祖父の趣味である漁に付き合っていた。釣りの名手で、毎回大量の魚を釣って帰るのだ。
在一周一次的假日里,我和米哈尔的祖父的爱好捕鱼打交道。他是钓鱼高手,每次都要钓大量的鱼回来。
 週に一度の休日に、ミハルの祖父の趣味である漁に付き合っていた。釣りの名手で、毎回大量の魚を釣って帰るのだ。
 そのあと、釣った魚を捌いて街に売りに行く。そのさい、売り上げの二割を報酬として渡してくれるのだ。
そのあと、釣った魚を捌いて街に売りに行く。そのさい、売り上げの二割を報酬として渡してくれるのだ。
之后,把钓到的鱼卖到街上。那个时候,把销售额的二成作为报酬交给我。
その金を、コツコツ貯めている。いつか独立して、自分だけの養蜂園を開くのが夢だ。
我孜孜不倦地存着那笔钱。梦想有一天能独立开一个只属于自己的养蜂园。
 その金を、コツコツ貯めている。いつか独立して、自分だけの養蜂園を開くのが夢だ。
「祖父ちゃん、イヴァンを養子として引き取ったら、漁師になるとか言っているぜ」
“爷爷,他说如果把伊凡领养回来,他就会成为渔夫。”
「週に一回するから、楽しいだけなんだよ」
“一周做一次,只是很开心而已。”
「だよなあ」
“是啊。”
ミハルの祖父は、特に俺を気に入ってくれている。ブレッド湖のほとりにある小屋を、譲ってくれたくらいだ。
米哈尔的祖父特别喜欢我。甚至把布莱德湖边的小屋让给了我。
 ミハルの祖父は、特に俺を気に入ってくれている。ブレッド湖のほとりにある小屋を、譲ってくれたくらいだ。
「あーあ。俺達家族は、選ばれなかったか。蜜蜂さえいなかったら――ぶわっ!!」
“啊——啊。我们家人没被选上吗?如果连蜜蜂都没有的话——哇!!”
ミハルの顔面目がけ、蜂が飛んできた。ぶぶぶ、と音を立てながら、ミハルの顔にまとわりついている。手で乱暴に払おうとしているところを制止した。
蜜蜂朝着米哈尔的脸飞了过来。一边发出噗噗的声音,一边缠在米哈尔的脸上。我制止了想用手粗暴地驱除的地方。
 ミハルの顔面目がけ、蜂が飛んできた。ぶぶぶ、と音を立てながら、ミハルの顔にまとわりついている。手で乱暴に払おうとしているところを制止した。
「待ってミハル。動かないで」
“等等,米哈尔,别动。”
飛び回る蜂を、素手で捕まえる。
徒手抓住飞来飞去的蜜蜂。
 飛び回る蜂を、素手で捕まえる。
「うわっと!」
“哇!”
「もう大丈夫」
“已经没事了。”
ミハルは飛び起き、安堵の息を吐いた。
米哈尔跳起来,吐出了安心的气息。
 ミハルは飛び起き、安堵の息を吐いた。
「イヴァン、ありがとう」
“伊凡,谢谢。”
「いえいえ」
“不,不。”
拳に蜂を握りしめたままだったので、ミハルはぎょっとする。
拳头里一直握着蜜蜂,米哈尔大吃一惊。
 拳に蜂を握りしめたままだったので、ミハルはぎょっとする。
「お、おい。蜂を握りしめて、大丈夫なのかよ」
“喂,喂。你握紧蜜蜂,没事吧?”
「平気。これは雄蜂だから、針は持っていないんだ」
「え、そうなのか!? でも、蜜蜂の針は、通常は体内にあるんだよな? どうして見た目だけで雄蜂だとわかったんだ?」
“没关系,这是雄蜂,我没有针。”
「え、そうなのか!? でも、蜜蜂の針は、通常は体内にあるんだよな? どうして見た目だけで雄蜂だとわかったんだ?」
“啊,是吗!?但是,蜜蜂的针通常都在体内吧?为什么光从外表就知道是雄蜂呢?”
「雄蜂は雌蜂より、体が大きいからね」
“因为雄蜂比雌蜂身材高大。”
「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
手を開くと雄蜂は勢いよく跳び上がり、礼を言うように頭上を飛び回ったあといなくなった。
一张开手,雄蜂就飞快地跳了起来,像道谢一样在头顶上飞来飞去之后就不见了。
 手を開くと雄蜂は勢いよく跳び上がり、礼を言うように頭上を飛び回ったあといなくなった。
「しかし、なんで、雄蜂には針がないんだ?」
“可是,为什么雄蜂没有针呢?”
「何もしないから」
“因为我什么都不做。”
「へ?」
“咦?”
「蜜蜂の雄の存在意義は子孫繁栄のみで、あとは巣でぐうたら過ごすんだよ」
「えー、なんだそれ! お前のところの、兄さんみたいじゃん!」
“蜜蜂雄性的存在意义只是子孙繁荣,之后就在巢穴里无所事事了。”
「えー、なんだそれ! お前のところの、兄さんみたいじゃん!」
“嗯,那是什么!你那里的,不是像哥哥吗!”
ミハルの容赦ない指摘に、思わず笑ってしまった。
对于米哈尔毫不留情的指责,我情不自禁地笑了起来。
◇◇◇
◇◇◇
あっという間に、一日が終わる。
一转眼,一天就结束了。
疲れた体を引きずるように、家路についた。
拖着疲惫的身体,踏上了回家的路。
 ミハルの容赦ない指摘に、思わず笑ってしまった。
 ◇◇◇
イェゼロ家は、家長である母ベルタを始めに、親から孫世代まで大家族が暮らしている。母屋の他に離れが六つあるが、まだまだ増える予定だ。
耶泽罗家族以家长的母亲贝塔为首,从父母到孙子一代都有大家庭生活。除了主屋还有六个距离,但还将增加。
 あっという間に、一日が終わる。
 疲れた体を引きずるように、家路についた。
俺個人の部屋なんてあるわけがなく、屋根裏部屋を改造して使っていたが、それも甥や姪に占領されてしまった。
我不可能有个人的房间,把阁楼改造后使用,但也被侄子和侄女占领了。
 イェゼロ家は、家長である母ベルタを始めに、親から孫世代まで大家族が暮らしている。母屋の他に離れが六つあるが、まだまだ増える予定だ。
 俺個人の部屋なんてあるわけがなく、屋根裏部屋を改造して使っていたが、それも甥や姪に占領されてしまった。
恐ろしいかな。兄の妻だけで十三人、甥と姪だけで、二十三人もいるのだ
 恐ろしいかな。兄の妻だけで十三人、甥と姪だけで、二十三人もいるのだ。
好可怕啊。光是哥哥的妻子就有十三个人,光是侄子和侄女就有二十三个人
 くたくたに疲れて帰ってくると、元気いっぱいの甥と姪が遊んでと集まってくる。まともに相手にしていると、夕食を食いっぱぐれてしまう。彼らが可愛くないわけではないけれど、勘弁してくれと思ってしまうのだ。
 夜は夜で子どもの夜泣きに、走り回って遊ぶ物音や声が聞こえる。それだけならば百歩譲って許せるのだが、兄夫婦の夫婦の営みが聞こえてきた日には、死にたいと思った。
 双子の兄、サシャは去年結婚したばかり。周囲は子どもの誕生を、今か、今かと楽しみにしている。
くたくたに疲れて帰ってくると、元気いっぱいの甥と姪が遊んでと集まってくる。まともに相手にしていると、夕食を食いっぱぐれてしまう。彼らが可愛くないわけではないけれど、勘弁してくれと思ってしまうのだ
 二十三人も子どもがいるのに正気かよと、という率直な感想が浮かんできたが、口にできるわけもなく。
疲惫不堪地回来后,精神饱满的侄子和侄女一玩就聚集在一起。如果认真对待对方的话,就会吃不完晚饭。虽然并不是他们不可爱,但我还是想原谅他们
 新婚夫婦の奮闘を頑張れ、頑張れと応援もできないでいた。
 新しい離れの完成なんて待てやしない。
 そんな中で、ミハルの爺さんから、ブレッド湖のほとりにある小屋を譲って貰った。
夜は夜で子どもの夜泣きに、走り回って遊ぶ物音や声が聞こえる。それだけならば百歩譲って許せるのだが、兄夫婦の夫婦の営みが聞こえてきた日には、死にたいと思った。
 夜中に家を飛び出し、小屋で眠る毎日を過ごしている
夜晚是夜晚孩子的夜哭,能听到跑来跑去玩的声音和声音。如果只是这样的话,退一百步就可以原谅了,但是在听到哥哥夫妇夫妇的生活的日子里,我想死了
 夕食を食いっぱぐれたら、湖で魚を釣って食べたらいい。
 爺さんのおかげで、なんとか暮らしていた。
双子の兄、サシャは去年結婚したばかり。周囲は子どもの誕生を、今か、今かと楽しみにしている。
双胞胎哥哥萨沙去年刚结婚。周围的人都很期待孩子的诞生。
 今日も今日とて、俺の分の夕食なんて影も形もなかった。
 家族が大勢いたら、誰が食べたとか食べていないとか、確認するのは不可能なのだろう。
 ロマナも、サシャに部屋に呼び出されていたようなので、顔を合わせる暇もなく。
二十三人も子どもがいるのに正気かよと、という率直な感想が浮かんできたが、口にできるわけもなく。
 きっと、今頃部屋でよろしくやっているのだろう
虽然脑海中浮现出了一种坦率的感想,那就是明明有二十三个孩子却很清醒
 腹がぐーっと鳴った。
 ひとまず、釣りをして夕食を調達しなくてはならない。
 ブレッド湖には、豊富な魚がいる。おかげで、飢えることはない。ありがたい話である
新婚夫婦の奮闘を頑張れ、頑張れと応援もできないでいた
 明かりは満天の星と月明かり。それから、手元にある小さなランタンの炎だけ
也没能支持新婚夫妇的奋斗,加油
 水面に、月と孤島の教会が映し出されている。世にも美しい光景を、独り占めしていた。
 と、優雅に湖を眺めている場合ではない。腹の虫は、一秒たりとも待ってくれなかった。今も、ぐーぐーと、空腹を訴えている。
 土を掘ってミミズを餌にし、釣り糸を放った。全神経を釣り糸に集中し、しばし待つ
新しい離れの完成なんて待てやしない
 すると、ググッと糸を引く力を感じた。ひときわ強い力を感じた瞬間、竿を思いっきり引いた
不能等待新的分离的完成
 大きな背びれを持った、縞模様の魚が釣れた。一匹だけでは、満腹にはならないだろう。
 粘ること一時間、十二匹の魚が釣れる。なかなかの釣果だろう。一気に食べきれる量ではないが、残りは朝食にしよう。
 腹からナイフを入れて腸を抜き、塩を振って串焼きにする
そんな中で、ミハルの爺さんから、ブレッド湖のほとりにある小屋を譲って貰った
在这种情况下,米哈尔的爷爷让我把布莱德湖边的小屋。
 パチパチ、パチパチと焚き火の火が音を立てる。
 風が強く吹くと、火を含んだ灰が舞った
夜中に家を飛び出し、小屋で眠る毎日を過ごしている
半夜从家里跑出来,每天在小屋里睡觉。
 春が訪れようとしているが、夜は冬のように寒い。
 ウサギの毛皮を繋げて作った毛布を、上から被る
夕食を食いっぱぐれたら、湖で魚を釣って食べたらいい
如果晚饭吃不饱的话,可以在湖里钓鱼吃。
爺さんのおかげで、なんとか暮らしていた。
多亏了爷爷,我才勉强生活着。
今日も今日とて、俺の分の夕食なんて影も形もなかった。
今天和今天,我的晚餐什么的一点影子都没有。
家族が大勢いたら、誰が食べたとか食べていないとか、確認するのは不可能なのだろう。
如果家人大势所趋的话,要确认是谁吃的还是没吃的是不可能的吧。
ロマナも、サシャに部屋に呼び出されていたようなので、顔を合わせる暇もなく。
罗曼娜好像也被萨沙叫到了房间,连见面的时间都没有。
きっと、今頃部屋でよろしくやっているのだろう。
现在一定在房间里做得很好吧。
腹がぐーっと鳴った。
肚子一下子就响了。
ひとまず、釣りをして夕食を調達しなくてはならない。
首先,必须钓鱼准备晚饭。
ブレッド湖には、豊富な魚がいる。おかげで、飢えることはない。ありがたい話である。
布莱德湖有丰富的鱼。托您的福,我不会挨饿的。值得庆幸的事。
明かりは満天の星と月明かり。それから、手元にある小さなランタンの炎だけ。
灯光是满天的星星和月光。然后,只有手边的小灯笼的火焰。
水面に、月と孤島の教会が映し出されている。世にも美しい光景を、独り占めしていた。
水面上映出月亮和孤岛的教堂。世界上也独占着美丽的景象。
と、優雅に湖を眺めている場合ではない。腹の虫は、一秒たりとも待ってくれなかった。今も、ぐーぐーと、空腹を訴えている。
不是优雅地眺望湖泊的时候。肚子里的虫子一秒钟也没等我。现在也在抱怨饿了。
土を掘ってミミズを餌にし、釣り糸を放った。全神経を釣り糸に集中し、しばし待つ。
挖土以蚯蚓为食,放出钓鱼线。全神贯注于钓鱼线,等待片刻。
すると、ググッと糸を引く力を感じた。ひときわ強い力を感じた瞬間、竿を思いっきり引いた。
于是,我感受到了拉线的力量。感受到格外强大的力量的瞬间,用力拉了一下竿。
大きな背びれを持った、縞模様の魚が釣れた。一匹だけでは、満腹にはならないだろう。
钓到了一条有着大背鳍的条纹鱼。只吃一只是不会吃饱的吧。
粘ること一時間、十二匹の魚が釣れる。なかなかの釣果だろう。一気に食べきれる量ではないが、残りは朝食にしよう。
坚持一小时能钓到十二条鱼。很不错的结果吧。虽然不是一口气吃完的量,但是剩下的就吃早饭吧。
腹からナイフを入れて腸を抜き、塩を振って串焼きにする。
从肚子里放入小刀,去掉肠子,撒上盐烤串。
パチパチ、パチパチと焚き火の火が音を立てる。
劈里啪啦,劈里啪啦的篝火发出声音。
風が強く吹くと、火を含んだ灰が舞った。
风一吹,含火的灰就飞舞了。
春が訪れようとしているが、夜は冬のように寒い。
春天就要来了,夜晚却像冬天一样寒冷。
ウサギの毛皮を繋げて作った毛布を、上から被る。
从上面盖上用兔子的毛皮做的毛毯。
魚の焼き加減は、あと少しだろうか。香ばしい匂いを漂わせていた。
烤鱼的程度还有一点吗。散发着芳香的味道。
 魚の焼き加減は、あと少しだろうか。香ばしい匂いを漂わせていた。
「……ん?」
“……嗯?”
 人の気配を感じた。
 目を凝らしても、暗闇なので何も見えない。
人の気配を感じた。
我感觉到了人的气息。
 だんだんと、姿が浮き彫りになっていく。
 見上げるほどの大男が、体を引きずるようにしてやってきたのだ。
 年頃は四十前後か。一番上の兄と、同じくらいだろう。
目を凝らしても、暗闇なので何も見えない
 短く刈った髪に、彫りの深い顔、髭はのびっぱなしだった。腕や太ももは丸太のように太く、全体的にガッシリとした体つきである。
即使凝视,因为是黑暗什么也看不见。
だんだんと、姿が浮き彫りになっていく。
渐渐地,身影浮现出来。
見上げるほどの大男が、体を引きずるようにしてやってきたのだ。
一个能抬头看的彪形大汉,拖着身体走了过来。
年頃は四十前後か。一番上の兄と、同じくらいだろう。
大约四十岁左右吧。和最大的哥哥差不多吧。
短く刈った髪に、彫りの深い顔、髭はのびっぱなしだった。腕や太ももは丸太のように太く、全体的にガッシリとした体つきである。
剪得很短的头发,雕刻得很深的脸,胡子一直留着。手臂和大腿像原木一样粗,整体上是硬朗的身材。
軍人かと思ったが、着ている服装は着古した外套にズボンという、一般市民そのものだった。
原以为是军人,但穿的衣服是旧外套和裤子,是普通市民本身。
男は焚き火の前でがっくりうな垂れると、呟くように言う。
男子在篝火前耷拉着,嘟囔着说。
 軍人かと思ったが、着ている服装は着古した外套にズボンという、一般市民そのものだった。
 男は焚き火の前でがっくりうな垂れると、呟くように言う。
「は、腹が、減った!」
“啊,肚子饿了!”
男の主張を聞き、はてさてどうしたものかと思う。
 男の主張を聞き、はてさてどうしたものかと思う。
听了男人的主张,我想到底是怎么回事

312
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養蜂家の青年は、中年親父と対峙する
 男は、火で炙られたほどよい焼き加減の魚と、俺を交互に見ている。
养蜂青年与中年父亲对峙
男は、火で炙られたほどよい焼き加減の魚と、俺を交互に見ている。
男人用火把烤得恰到好处的鱼和我交替着看。
瞳が、潤んでいた。
眼睛湿润了。
仕方がないとため息を吐き、一本の魚を手に取った。脂が焚き火に滴り落ち、ジュッと音を立てている。
他无奈地叹了口气,拿起一条鱼。脂肪滴到篝火上,发出吱吱的声音。
 瞳が、潤んでいた。
 仕方がないとため息を吐き、一本の魚を手に取った。脂が焚き火に滴り落ち、ジュッと音を立てている。
「食べたら?」
“吃吧?”
「よ、よいのか?」
“哦,可以吗?”
「いいよ。小骨があるから、気を付けて」
“好啊,我有小骨头,小心点。”
「助かった。恩に着る!!」
“得救了。感恩!!”
 男はそう言い、魚の串を受け取った。豪快に、頭からかぶりつく。
 バリバリと音を立てながら、魚を食べている。骨も皮も、すべて食べていた。最後はきれいな串だけが残る。
男はそう言い、魚の串を受け取った。豪快に、頭からかぶりつく。
男子这样说着,接过了鱼串。豪爽地从头上套上。
バリバリと音を立てながら、魚を食べている。骨も皮も、すべて食べていた。最後はきれいな串だけが残る。
一边发出咯吱咯吱的声音,一边吃着鱼。骨头和皮都吃了。最后只剩下漂亮的串。
あまりの気持ちいい食べっぷりに、思わず二本目の串を差し出した。
吃得太舒服了,不由得拿出了第二根串。
 あまりの気持ちいい食べっぷりに、思わず二本目の串を差し出した。
「かたじけない」
“太天真了。”
 そう言って、再びバリボリと食べ始めた。
 結局、男は五本の魚の串を平らげた。野草を乾燥させて作った茶も、三杯も飲み干す。
そう言って、再びバリボリと食べ始めた。
这样说着,又开始吃了。
結局、男は五本の魚の串を平らげた。野草を乾燥させて作った茶も、三杯も飲み干す。
结果,男人把五根鱼串弄平了。把野草干燥后制成的茶,三杯都喝干了。
「本当に、助かった。これは、ほんの礼である」
“真是帮了大忙,这只是一点小礼。”
差し出されたのは、蜂蜜が入った瓶であった。思わず、ランタンを持ち上げて蜂蜜を見る。普段、見かける蜂蜜よりも、色合いが異なっていた。褐色と言えばいいのか、全体が赤みがかかっている。
拿出来的是装着蜂蜜的瓶子。不由得拿起灯笼看蜂蜜。比起平时看到的蜂蜜,颜色更不一样。说起褐色就好了,整体都是红色的。
 差し出されたのは、蜂蜜が入った瓶であった。思わず、ランタンを持ち上げて蜂蜜を見る。普段、見かける蜂蜜よりも、色合いが異なっていた。褐色と言えばいいのか、全体が赤みがかかっている。
「これは?」
“这是?”
「樅(もみ)の木の、蜂蜜である」
“这是枞树的蜂蜜。”
「え、樅って、蜜が豊富な花なんか咲いていたっけ?」
“咦,冷杉开着蜜丰富的花吗?”
「正確に言えば、樹液を吸ったアブラムシが出した甘い蜜を、蜜蜂が集めて作るものである」
“准确地说,是蜜蜂收集吸收树液的蚜虫发出的甜蜜制作而成的。”
「アブラムシから採れた、蜂蜜!?」
“采自蚜虫的蜂蜜!?”
初めて見て、聞いた蜂蜜を前に、俄然興味がそそられる。
第一次看到,在听到的蜂蜜面前,突然产生了兴趣。
 初めて見て、聞いた蜂蜜を前に、俄然興味がそそられる。
「これ、味見をしてもいい?」
“这个,可以尝尝吗?”
「それは、そなたにあげた品だ。好きなように、食すとよい」
「那是我送给你的东西,你可以随便吃。」
「ありがとう」
“谢谢。”
きつく閉めてあった蓋を開き、先端の樹皮を削いだ木の枝で蜂蜜を掬う。
打开紧闭的盖子,用削掉尖端树皮的树枝舀蜂蜜。
バターかと思うほどねっとりしていて、ほのかに森の中にいるような香りを感じる。口に含むと、熱した砂糖のような香ばしさと品のある甘みを感じた。
粘稠得让人以为是黄油,隐约感受到森林中的香味。含在嘴里,感觉到了热砂糖般的香味和有品位的甜味。
 きつく閉めてあった蓋を開き、先端の樹皮を削いだ木の枝で蜂蜜を掬う。
 バターかと思うほどねっとりしていて、ほのかに森の中にいるような香りを感じる。口に含むと、熱した砂糖のような香ばしさと品のある甘みを感じた。
「すごい……! こんな蜂蜜があるなんて」
「すごい……! こんな蜂蜜があるなんて」
“好厉害……!竟然有这样的蜂蜜。”
「うまいであろう? 我が家、自慢の蜂蜜だ」
“很好吃吧?我们家是引以为豪的蜂蜜。”
「うまいであろう? 我が家、自慢の蜂蜜だ」
「おじさん、養蜂家なんだ」
“叔叔,我是养蜂人。”
「ああ。我らは、森の木々から採れる蜂蜜で、生計を立てているのだ」
“啊,我们靠从森林里的树木中采摘的蜂蜜维持生计。”
「そうなんだ」
“是啊。”
花を育て蜂蜜を採るイェゼロ家の養蜂とは異なり、男の養蜂は森にある木々から採る養蜂をしているようだ。
与养花采蜂蜜的耶泽罗家的养蜂不同,男人的养蜂好像是从森林里的树木中采集的养蜂。
同じ養蜂でも、まったく異なる。いったい、どういう作業を経て蜂蜜を得ているのか、興味がそそられる。
即使是同样的养蜂,也完全不同。到底是经过怎样的工作得到蜂蜜的,令人感兴趣。
 花を育て蜂蜜を採るイェゼロ家の養蜂とは異なり、男の養蜂は森にある木々から採る養蜂をしているようだ。
 同じ養蜂でも、まったく異なる。いったい、どういう作業を経て蜂蜜を得ているのか、興味がそそられる。
ここで、男性が名乗った。
在这里,男性自称了。
 ここで、男性が名乗った。
「我は、ボーヒン湖周辺の山で暮らす、マクシミリニャン・フリバエである」
“我是生活在波欣湖周边的山上的马克西米利尼安·弗里瓦耶。”
「マクシミリニャン……」
“马克西米莉娜……”
なかなか、聞き慣れない珍しい名前だ。思わず復唱してしまった。
这是一个很难耳熟能详的罕见名字。不由得复述了一遍。
 なかなか、聞き慣れない珍しい名前だ。思わず復唱してしまった。
ボーヒン湖というのは、ここから馬車で数時間ほど離れている、のどかで美しい秘境と呼ばれている。ボーヒン湖はブレッド湖より三倍も大きな湖で、周辺よりも豊かな自然が広がっている土地だ
 ボーヒン湖というのは、ここから馬車で数時間ほど離れている、のどかで美しい秘境と呼ばれている。ボーヒン湖はブレッド湖より三倍も大きな湖で、周辺よりも豊かな自然が広がっている土地だ。
博欣湖被称为一个悠闲而美丽的秘境,距离这里有几个小时的马车。波欣湖是一个比布莱德湖大三倍的湖泊,是一片比周边更丰富的自然景观
 マクシミリニャンと名乗った男は、どこか古めかしい喋りで、浮き世離れをしているように見えた。秘境育ちなのも、頷ける。
マクシミリニャンと名乗った男は、どこか古めかしい喋りで、浮き世離れをしているように見えた。秘境育ちなのも、頷ける。
自称是马克西米利尼亚的男人,总觉得有一种古色古香的说话方式,显得脱离了尘世。秘境长大也是可以理解的。
「俺は、イェゼロ家のイヴァン。すぐ近くにある、花畑養蜂園で蜂蜜を作っている」
「ぬ! そうであったか!」
“我是耶泽罗家的伊凡。就在附近的花圃养蜂园做蜂蜜。”
「ぬ! そうであったか!」
“没有!原来是这样!”
なんとなく、野草茶に入れようとしていた蜂蜜を、マクシミリニャンに差し出した。
无意中,把想泡在野草茶里的蜂蜜递给了马克西米利尼亚。
 なんとなく、野草茶に入れようとしていた蜂蜜を、マクシミリニャンに差し出した。
「これ、蕎麦(アイダ)の花の蜂蜜」
“这是荞麦花蜂蜜”
花畑養蜂園の端のほうに、畑もある。そこで家族で消費するそばを育てつつ、蜜蜂に蜂蜜を作ってもらっているのだ。
花圃养蜂园的尽头还有田地。在那里,一边培育着家人一起消费的荞麦面,一边让蜜蜂做蜂蜜。
マクシミリニャンはくんくんと瓶の蜂蜜をかぎ、匙で掬ったものを口に含んだ。
马克西米莉娜嗅着小君和瓶子里的蜂蜜,嘴里含着用勺子舀出来的东西。
 花畑養蜂園の端のほうに、畑もある。そこで家族で消費するそばを育てつつ、蜜蜂に蜂蜜を作ってもらっているのだ。
 マクシミリニャンはくんくんと瓶の蜂蜜をかぎ、匙で掬ったものを口に含んだ。
「こ、これは、なんて“濃い”のか!」
“这个,这个,多么‘浓’啊!”
「ちょっと、クセがあるけれど」
“虽然有点癖好。”
「いいや、我は気にならぬ。非常に美味なる蜂蜜よ」
“不,我不介意。蜂蜜非常美味。”
そばは俺の提案で作った蜂蜜である。そばが採れる上に、蜂蜜までもたらされるなんて一石二鳥だろう。
荞麦面是我提议做的蜂蜜。不仅能采荞麦面,还能带来蜂蜜,真是一举两得啊。
だがしかし、そばの蜂蜜は家族からは不評だった。市場でも売れないので、自分で手売りしてこいと押しつけられている。
但是,旁边的蜂蜜被家人评价不好。因为在市场上也卖不出去,所以被强迫自己卖。
ミハルがいくつか買ってくれたが、肉や魚を使った味が濃い料理の味付けにいいと教えてくれた。
米哈尔给我买了一些,告诉我用肉和鱼做的味道很浓的料理调味很好。
それから街へ魚を売りに行くときに一緒に販売し、そこそこ売れている。
然后去街上卖鱼的时候一起卖,卖得还不错。
 そばは俺の提案で作った蜂蜜である。そばが採れる上に、蜂蜜までもたらされるなんて一石二鳥だろう。
 だがしかし、そばの蜂蜜は家族からは不評だった。市場でも売れないので、自分で手売りしてこいと押しつけられている。
 ミハルがいくつか買ってくれたが、肉や魚を使った味が濃い料理の味付けにいいと教えてくれた。
たくさん売れても、収入は懐に入らないところが空しさを覚えるが。
即使卖了很多,收入也存不下的地方让人感到空虚。
 それから街へ魚を売りに行くときに一緒に販売し、そこそこ売れている。
 たくさん売れても、収入は懐に入らないところが空しさを覚えるが。
「イヴァン殿は、このような蜂蜜を作っているのだな」
“伊凡大人是做这样的蜂蜜的。”
「普段は、花蜜メインだけれど」
“平时主要是花蜜。”
急に、マクシミリニャンは居住まいを正した。すっと背筋を伸ばした状態で、ジッと俺を見つめていた。
突然,马克西米利尼亚纠正了自己的居住方式。在挺直腰杆的状态下,紧紧地盯着我。
 急に、マクシミリニャンは居住まいを正した。すっと背筋を伸ばした状態で、ジッと俺を見つめていた。
何を言い出すのか。少し構えてしまう。
你要说什么。稍微准备一下。
そんな状況で、マクシミリニャンはとんでもない願いを口にした。
在这种情况下,马克西米利尼亚说出了一个荒唐的愿望。
 何を言い出すのか。少し構えてしまう。
 そんな状況で、マクシミリニャンはとんでもない願いを口にした。
「イヴァン殿、どうか、我が娘アニャと、結婚してほしい」
“伊凡大人,请你和我的女儿阿尼亚结婚。”
「はい!?」
“是!?”
突然の懇願に、目が点となった。
 突然の懇願に、目が点となった。
突然的恳求使我目瞪口呆

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@ -1,263 +1,625 @@
養蜂家の青年は、結婚話を断る
 いきなり、娘と結婚してくれと懇願される。思わず、なぜこうなったのかと星空を見上げた。
养蜂青年拒绝结婚
いきなり、娘と結婚してくれと懇願される。思わず、なぜこうなったのかと星空を見上げた。
突然被恳求和女儿结婚。不由得仰望星空,不知道为什么会变成这样。
どんな反応をしていいものか迷ったが、素直な感想をそのまま伝えてみる。
虽然不知道该做出什么样的反应,但还是试着直接传达坦率的感想。
 どんな反応をしていいものか迷ったが、素直な感想をそのまま伝えてみる。
「なんで、俺?」
“为什么是我?”
「見ず知らずの我に、親切にしてくれた。それに、このようにすばらしい蜂蜜を作る男ならば、間違いなく、娘を任せても問題ないゆえに」
“对素不相识的我很亲切。而且,如果是做这么好蜂蜜的男人,没错,交给女儿也没问题。”
「そう」
“是的。”
マクシミリニャンは震える声で、娘について語り始める。
马克西米莉娜用颤抖的声音开始讲述女儿。
 マクシミリニャンは震える声で、娘について語り始める。
「アニャは今年で十九になるものの、結婚相手が見つからないのである」
“阿尼亚今年已经十九岁了,但是找不到结婚对象。”
「十九……」
“十九……”
この辺りでは、十六歳までにはだいたい結婚している。多くは父親が結婚相手を探し、話をまとめてくるのだ。
在这附近,十六岁之前基本上都结婚了。很多都是父亲寻找结婚对象,总结故事。
そんな慣習があるので、十九ともなれば立派な嫁ぎ遅れである。ロマナのように、両親がいない娘は仕方がない話ではあるが。
因为有这样的习惯,到了十九岁就嫁晚了。像罗曼娜一样,没有父母的女儿是没办法的事。
 この辺りでは、十六歳までにはだいたい結婚している。多くは父親が結婚相手を探し、話をまとめてくるのだ。
 そんな慣習があるので、十九ともなれば立派な嫁ぎ遅れである。ロマナのように、両親がいない娘は仕方がない話ではあるが。
何か、絶大な問題を抱えているのだろう。間違いないと確信していた。
有什么巨大的问题吧。我确信没错。
性格に難があるのか、それとも、とんでもない不器用な娘なのか。
是性格上有困难,还是一个非常笨拙的姑娘。
 何か、絶大な問題を抱えているのだろう。間違いないと確信していた。
 性格に難があるのか、それとも、とんでもない不器用な娘なのか。
「これが、アニャの作った花帯である」
“这就是阿尼亚制作的花带。”
花帯――それは、女性が日々、服に巻き付ける美しい刺繍が刺された帯である。父親は結婚相手を探すさいに、娘の能力を示すために見せて回るのだ。
花带——那是女性每天缠在衣服上的绣着美丽刺绣的带子。父亲在寻找结婚对象的时候,为了展示女儿的能力而到处展示。
マクシミリニャンの娘アニャの花帯は、すばらしい腕前だった。艶やかなプリムラの花々が、色鮮やかに刺されている。
马克西米莉娜的女儿阿尼亚的花带,是一个很棒的本领。艳丽的普里姆拉的花朵被鲜艳的颜色所刺伤。
 花帯――それは、女性が日々、服に巻き付ける美しい刺繍が刺された帯である。父親は結婚相手を探すさいに、娘の能力を示すために見せて回るのだ。
これほどの腕前の娘は、街を探しても滅多にいないだろう。見せた瞬間、花嫁にしたいと言い出す男が出てくるはずだ。
这么能干的姑娘,找个街上也不多了吧。看到的瞬间,应该会出现想成为新娘的男人。
 マクシミリニャンの娘アニャの花帯は、すばらしい腕前だった。艶やかなプリムラの花々が、色鮮やかに刺されている。
 これほどの腕前の娘は、街を探しても滅多にいないだろう。見せた瞬間、花嫁にしたいと言い出す男が出てくるはずだ。
「どうであろうか?」
“怎么样?”
「まあ、いいんじゃないの」
“嗯,不是很好吗?”
「だったら――!」
“那么——!”
 首を横に振る。結婚はできないと、はっきり示した。 
首を横に振る。結婚はできないと、はっきり示した。
摇头。明确表示不能结婚。
「な、なにゆえなのか!? もしや、既婚者だというのか?」
“什么,为什么呢!?难道是已婚者吗?”
「な、なにゆえなのか!? もしや、既婚者だというのか?」
「違う」
“不是。”
「だったら、頼む!!」
“那就拜托你了!!”
マクシミリニャンは地面に額をつけ、これでもかと懇願した。
马克西米利尼安了一个额头在地上,恳求他这样也行。
 マクシミリニャンは地面に額をつけ、これでもかと懇願した。
思わず「はーー」とため息を吐く。自分について語るのは、おそろしく億劫だ。しかし、説明しなければ、ここで平伏を続けるだろう。
不由得叹了一口气。谈论自己,可怕地嫌麻烦。但是,如果不说明的话,就在这里继续平伏吧。
 思わず「はーー」とため息を吐く。自分について語るのは、おそろしく億劫だ。しかし、説明しなければ、ここで平伏を続けるだろう。
「俺は、継ぐべき花畑がない、財産なしの男なんだ。だから、結婚しても、養えない」
“我是一个没有应该继承的花圃,没有财产的男人,所以即使结婚也养不起。”
マクシミリニャンは顔を上げ、ポカンとした表情でこちらを見つめる。
马克西米利尼亚抬起头,表情波坎地看着这边。
 マクシミリニャンは顔を上げ、ポカンとした表情でこちらを見つめる。
「何?」
“什么?”
「いや、我は、婿を探しているのだ。だから、別に、問題ない。むしろ、好都合である」
“不,我是在找女婿。所以,没什么问题。倒不如说是很方便。”
娘を嫁がせるのではなく、俺自身に婿に来てほしいと望んでいると。
不是让女儿出嫁,而是希望我自己来女婿。
そこで、合点がいく。
因此,可以理解。
通常、結婚するさいは女性が男性の家に入る。これが、絶対条件だ。
通常,结婚时女性进入男性的家。这是绝对条件。
 娘を嫁がせるのではなく、俺自身に婿に来てほしいと望んでいると。
家業を営む家は、花嫁となった女性も働き手となる。それゆえ、婿にと望んでも断られる場合がほとんどだろう
 そこで、合点がいく。
经营家业的家庭,成为新娘的女性也成为劳动者。因此,即使希望女婿也几乎都会被拒绝吧
 通常、結婚するさいは女性が男性の家に入る。これが、絶対条件だ。
 家業を営む家は、花嫁となった女性も働き手となる。それゆえ、婿にと望んでも断られる場合がほとんどだろう。
 これほどの刺繍の腕前を持ちながら結婚相手が見つからないのは謎だったが、ようやく納得できた。
これほどの刺繍の腕前を持ちながら結婚相手が見つからないのは謎だったが、ようやく納得できた。
虽然有着如此高超的刺绣技艺却找不到结婚对象,这是个谜,但终于可以理解了。
「では、今から、ご両親に挨拶を――」
“那么,从现在开始,向父母打招呼——”
「待って、待って。結婚しないから!」
“等等,等等,我不结婚!”
 マクシミリニャンは、理解しがたいという目でこちらを見つめる。
マクシミリニャンは、理解しがたいという目でこちらを見つめる。
马克西米利尼亚用难以理解的眼神看着这边。
婿として迎え入れてくれるのは、好都合だ。しかし、だからといって結婚するわけにはいかない。
作为女婿迎接我是很好的。但也不能因此就结婚。
 婿として迎え入れてくれるのは、好都合だ。しかし、だからといって結婚するわけにはいかない。
「この地には、大事な蜜蜂がいるから」
“因为这片土地上有重要的蜜蜂。”
「ぬう!」
“哇!”
マクシミリニャンは悔しそうに唸る。どうにか頼むと言うが、首を横に振るしかない。
马克西米利尼亚悔恨地呻吟。虽然想办法拜托你,但只能摇头。
蜜蜂も大事だが、俺がいなくなったら、家族がというか、女性陣が困るだろう。
 マクシミリニャンは悔しそうに唸る。どうにか頼むと言うが、首を横に振るしかない。
蜜蜂也很重要,但是如果我不在的话,家人会很为难吧。
皆を見捨てて、結婚するわけにはいかないのだ。
不能抛弃大家结婚。
 蜜蜂も大事だが、俺がいなくなったら、家族がというか、女性陣が困るだろう。
 皆を見捨てて、結婚するわけにはいかないのだ。
「それにしても、婿にと望んでいたから、結婚が遅れたんだ」
“即便如此,因为希望成为女婿,所以结婚晚了。”
「いいや、そうではない」
“不,不是那样的。”
「え?」
“诶?”
マクシミリニャンの娘アニャは、婿を取る以前に問題があるらしい。
马克西米利尼亚的女儿阿尼亚在娶女婿之前好像有问题。
 マクシミリニャンの娘アニャは、婿を取る以前に問題があるらしい。
「アニャは……アニャは……」
“阿尼亚……阿尼亚……”
「どうしたの?」
“怎么了?”
マクシミリニャンは険しい表情を浮かべつつ、尋常ではない様子で震え始めた。
马克西米利尼亚露出了险峻的表情,开始不寻常地发抖。
 マクシミリニャンは険しい表情を浮かべつつ、尋常ではない様子で震え始めた。
「なんなの? 言いかけたら、余計に気になるんだけれど」
「なんなの? 言いかけたら、余計に気になるんだけれど」
“什么呀?刚要说的时候,我更在意了。”
「言ったら、結婚、してくれるのか?」
“我说了,你会嫁给我吗?”
「いや、それはできないけれど」
“不,那是做不到的。”
「ぐうっ!!」
“呜呜!!”
マクシミリニャンは眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くさせた。素顔も強面なのに、余計に恐ろしくなる。
马克西米莉娜皱起眉头,眼神锐利。素颜也很强,却更加可怕。
 マクシミリニャンは眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くさせた。素顔も強面なのに、余計に恐ろしくなる。
いったい、アニャにどんな問題があるというのか。しばらく黙って待っていたら、マクシミリニャンは小さな声で話し始めた。
到底阿尼亚有什么问题。沉默地等了一会儿,马克西米莉娜开始小声说话。
 いったい、アニャにどんな問題があるというのか。しばらく黙って待っていたら、マクシミリニャンは小さな声で話し始めた。
「……なのだ」
「え、何? 聞こえない」
「……是这样的。」
「え、何? 聞こえない」
「咦?什么?我听不见。」
「……潮が、……なのだ」
“……潮水……”
「だから、聞こえないって」
“所以,我不能听。”
「初潮が、まだなのだ!!」
“初潮还没来!!”
「なんだって!?」
“什么!?”
マクシミリニャンの大声につられて、大きな声で反応してしまう。
被马克西米利尼亚的大声吸引,大声反应。
初潮――すなわち月経とは、女性が子どもを産むのに必要な体の準備である。
初潮——也就是说,月经是女性生孩子所必需的身体准备。
女性を苦しめる月経については、把握していた。一週間ほど出血がある上に、頭痛や腹痛に襲われ、情緒不安定になると。母親がしっかり教えてくれたのだ。おかげで、理不尽に怒られたり、仕事がはかどったりしていなくても、「ああ、月のものがきているんだな」と自分に言い聞かせられる。
关于让女性痛苦的月经,已经掌握了。有一周左右的出血,再加上头痛和腹痛,情绪不稳定。是母亲好好教我的。托你的福,即使没有被无理地骂,工作也没有进展,也会被自己说“啊,月亮的东西来了啊”。
子育てをして、働いて、夫の面倒を見て、その上に月経があるなんて、女性は大変だとしみじみ思っていた。
抚养孩子、工作、照顾丈夫,而且还有月经,这让女性深感辛苦。
 マクシミリニャンの大声につられて、大きな声で反応してしまう。
 初潮――すなわち月経とは、女性が子どもを産むのに必要な体の準備である。
 女性を苦しめる月経については、把握していた。一週間ほど出血がある上に、頭痛や腹痛に襲われ、情緒不安定になると。母親がしっかり教えてくれたのだ。おかげで、理不尽に怒られたり、仕事がはかどったりしていなくても、「ああ、月のものがきているんだな」と自分に言い聞かせられる。
 子育てをして、働いて、夫の面倒を見て、その上に月経があるなんて、女性は大変だとしみじみ思っていた。
ちらりと、マクシミリニャンを見る。額にびっしり汗をかき、顔面蒼白状態であった。
瞥了一眼马克西米利尼亚。额头上出了很多汗,脸色苍白。
 ちらりと、マクシミリニャンを見る。額にびっしり汗をかき、顔面蒼白状態であった。
「我の言いたいことが、わかるだろうか?」
“我想说的话,你明白吗?”
「わかるよ。子どもが、産めないんでしょう」
「ああ」 
“我知道,孩子不能生吧。”
「ああ」
“啊。”
 アニャが十九歳になるまで結婚できない理由を、正しく理解する。
アニャが十九歳になるまで結婚できない理由を、正しく理解する。
正确理解阿尼亚在十九岁之前不能结婚的理由。
「結婚は、アニャの初潮を待っていたのだ。しかし、いつになっても、いつになっても訪れず……」
“结婚是在等待阿尼亚的初潮。但是,无论什么时候,什么时候都不去……”
「だったらどうして、初潮を待たずに、結婚させようと思ったの?」
“那你为什么不等初潮就想让他结婚呢?”
「それは――我が、いつまで生きているか、わからないからな。アニャを、独りにさせるわけには、いかない」
“那是因为——我不知道我活到了什么时候。我不能让阿尼亚一个人。”
現在、マクシミリニャンに妻はおらず、アニャと二人暮らしをしているのだろう。
现在,马克西米利尼亚没有妻子,和阿尼亚一起生活吧。
人はいつ死ぬかわからない。娘を思って、家族を迎えようとしているのだという。
人不知道什么时候会死。他想女儿,想迎接家人。
 現在、マクシミリニャンに妻はおらず、アニャと二人暮らしをしているのだろう。
 人はいつ死ぬかわからない。娘を思って、家族を迎えようとしているのだという。
「子が産めぬ娘と、結婚しようという男は、もしや、いないのだろうか?」
「さあ? 世間一般の男が、どういうことを考えているかは、知らない。でも、出産は命がけだから、しなくていいのならば、それでいいんじゃない?」
“难道没有男人想和生不下孩子的女儿结婚吗?”
「さあ? 世間一般の男が、どういうことを考えているかは、知らない。でも、出産は命がけだから、しなくていいのならば、それでいいんじゃない?」
“是吗?我不知道社会上一般的男人在想什么。但是,生孩子是拼了命的,如果不做就好了,这样不就好了吗?”
これまで、多くの妊娠と出産を見守ってきた。順風満帆な出産などなかったように思える。
 これまで、多くの妊娠と出産を見守ってきた。順風満帆な出産などなかったように思える。
至今为止,一直守护着很多妊娠和分娩。我觉得没有一帆风顺的分娩
 生まれる前に死んだ子もいたし、生まれてから死んだ子もいた。
 子を亡くした挙げ句悲しみに暮れ、一年間寝込んだ義姉もいる。
 出産で大量の血を失い、生死を彷徨った義姉もいた。
生まれる前に死んだ子もいたし、生まれてから死んだ子もいた。
有的孩子出生前就死了,有的孩子出生后就死了。
子を亡くした挙げ句悲しみに暮れ、一年間寝込んだ義姉もいる。
有的大嫂因为失去了孩子而悲痛欲绝,卧床不起一年。
出産で大量の血を失い、生死を彷徨った義姉もいた。
也有因分娩而失去大量血液,生死彷徨的大嫂。
「子どもは、奇跡の賜物なんだよ。絶対に、結婚したら産まれるものだと考えてはいけない。別に、子どもがいてもいなくても、いいんだ。家族で手と手を取り合い、幸せになれば」
“孩子是奇迹的恩赐。绝对不能认为结婚就能生孩子。另外,不管有没有孩子都可以。和家人携手,幸福就好了。”
話を聞いたマクシミリニャンは、ポロポロと大粒の涙を零した。
听了这话的马克西米利尼亚,滴滴答答地流下了大颗的眼泪。
 話を聞いたマクシミリニャンは、ポロポロと大粒の涙を零した。
「あ、ありがとう……!」
“啊,谢谢……!”
「いや、結婚は、しないからね」
“不,我不结婚。”
「それでも、そういうふうに考えてくれる男がいるというのは、我ら親子の、希望になる」
“即便如此,有这样想的男人,也是我们父子的希望。”
「そう」
“是的。”
泣き続けるマクシミリニャンに、なんて言葉をかけていいのかわからない。
我不知道该对一直哭的马克西米莉娜说些什么。
 泣き続けるマクシミリニャンに、なんて言葉をかけていいのかわからない。
ちょうど鍋の湯が沸騰したので、温かい野草茶を淹れてあげた
 ちょうど鍋の湯が沸騰したので、温かい野草茶を淹れてあげた。
正好锅里的水开了,我给你泡了一杯热的野草茶

324
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@ -1,175 +1,429 @@
養蜂家の青年は、中年親父の話に耳を傾ける
 なぜ、マクシミリニャンは満身創痍だったのか、ろくでもない話だろうが会話が途切れたので尋ねる。
养蜂青年倾听中年父亲的话
なぜ、マクシミリニャンは満身創痍だったのか、ろくでもない話だろうが会話が途切れたので尋ねる。
为什么马克西米利尼亚满身疮痍,虽然是不好的话,但因为对话中断了,所以询问。
 
「馬車を使ってやってくるつもりが、途中、足を滑らせて湖に落下し、鞄と路銀を落としてしまったのだ。おかげで、人里に来るまで苦労してしまった」
“本来打算用马车来的,但途中失足掉进湖里,包和路银掉了下来。托您的福,来到村庄之前很辛苦。”
「人里って……」
“村庄……”
ボーヒン湖周辺は秘境とはいえ、少しは人が住んでいるだろう。山々には、いったいどれだけの人達が住んでいるのか聞いてみたが、娘と自分、それから家畜と飼い犬以外いないという。
波欣湖周边虽说是秘境,但也有一些人居住吧。我问了山上到底住着多少人,除了女儿和自己,还有家畜和养狗以外没有其他人。
 ボーヒン湖周辺は秘境とはいえ、少しは人が住んでいるだろう。山々には、いったいどれだけの人達が住んでいるのか聞いてみたが、娘と自分、それから家畜と飼い犬以外いないという。
「どうして、そんなところに住んでいるの?」
“你为什么住在那种地方?”
「それは……皇家に、蜂蜜を、献上しなければいけない日が、くるかもしれないゆえ」
“那是因为……也许有一天必须向皇家献上蜂蜜。”
「皇家って」
“皇家”
 かつて、この地は隣に位置する帝国の支配下にあった。しかし、十年前の皇帝の崩御をきっかけに帝国の体制は崩れ、三年も経たないうちに解体された。以後、この国は連合国となる。
 独立はしていないものの、自由を手に入れたと喜んでいた
かつて、この地は隣に位置する帝国の支配下にあった。しかし、十年前の皇帝の崩御をきっかけに帝国の体制は崩れ、三年も経たないうちに解体された。以後、この国は連合国となる
 ただし、一部の者達を除いてであるが
过去,这片土地处于邻近帝国的统治之下。但是,以十年前皇帝的驾崩为契机,帝国的体制崩溃了,不到三年就解体了。以后,这个国家成为联合国
 以前までは各地に、皇族御用達の商店や職人達がいた。皇家からの注文に応じてドレスを作ったり、民芸品をこしらえたり、品物を用意したり。
 売り上げが生活を支えていたため、皇家という取引先を失った者達は一気に廃業に追い込まれる。
 だが、細々と暮らし、生活している者達も少なからず残っている。
独立はしていないものの、自由を手に入れたと喜んでいた。
虽然没有独立,但很高兴得到了自由。
ただし、一部の者達を除いてであるが。
但是,除了一部分人以外。
以前までは各地に、皇族御用達の商店や職人達がいた。皇家からの注文に応じてドレスを作ったり、民芸品をこしらえたり、品物を用意したり。
以前各地都有皇族御用的商店和工匠们。根据皇家的订单制作礼服,制作民间工艺品,准备物品。
売り上げが生活を支えていたため、皇家という取引先を失った者達は一気に廃業に追い込まれる。
因为销售额支撑着生活,失去了皇家这个客户的人们一下子被停业了。
だが、細々と暮らし、生活している者達も少なからず残っている。
但是,也有不少细致入微地生活、生活着的人。
彼、マクシミリニャンも、旧体制の影響を引きずったままでいるようだ。
他、马克西米利尼亚似乎也一直受到旧体制的影响。
 彼、マクシミリニャンも、旧体制の影響を引きずったままでいるようだ。
「いつかまた、蜂蜜を求めてやってくるかもしれぬから、我らはあそこに居続けるしかない」
“总有一天,我们会再来寻求蜂蜜,所以我们只能继续留在那里。”
「待って、帝国は十年も前に崩壊した。影響力のあった皇帝は病死したし、新しい皇帝は島送りにされた。残りの皇族も、国外追放されて、国内には残っていない」
“等等,帝国在十年前就崩溃了,有影响力的皇帝病死了,新皇帝被送到岛上,剩下的皇族,也被驱逐出境,国内没有留下。”
「それでも、我らには、森の奥地で蜂蜜を作る以外の生き方を、知らない」
“即便如此,我们也不知道在森林深处制作蜂蜜以外的生活方式。”
言葉を失う。訪れるはずもない皇家の注文を、秘境の地で待つなど、無駄の一言だ。
失言。在秘境之地等待不可能到来的皇家的订单,这是徒劳的一句话。
家族を見捨てられないのは俺と同じなのだろう。マクシミリニャンと娘アニャもまた、今の暮らしを手放せずにいる。
 言葉を失う。訪れるはずもない皇家の注文を、秘境の地で待つなど、無駄の一言だ。
不能抛弃家人和我一样吧。马克西米莉娜和女儿阿尼亚也无法放弃现在的生活
 家族を見捨てられないのは俺と同じなのだろう。マクシミリニャンと娘アニャもまた、今の暮らしを手放せずにいる。
 変化は、恐ろしい。どんなに辛くても、そこから抜け出せない気持ちはよく理解できる。
 だからといって、誰もいない秘境の地で年若い娘と二人で暮らすのは、あまりにも不毛である。
変化は、恐ろしい。どんなに辛くても、そこから抜け出せない気持ちはよく理解できる。
变化是可怕的。无论多么辛苦,也能很好地理解无法从中摆脱出来的心情。
だからといって、誰もいない秘境の地で年若い娘と二人で暮らすのは、あまりにも不毛である。
即便如此,在空无一人的秘境中和年轻姑娘一起生活,实在是太不毛之地了。
ただ、わかっているので、こうして街までやってきて結婚相手を探しているのだろう。
只是,因为知道,就这样来到街上寻找结婚对象吧。
 ただ、わかっているので、こうして街までやってきて結婚相手を探しているのだろう。
「明日は、街に行って探してみよう」
“明天去街上找找看吧。”
「まあ、家業を継いでいる者がほとんどだから、難しいとは思うけれど」
“嗯,继承家业的人几乎都有,我觉得很难。”
「むう」
“嗯”
路銀を持っていないと言っていた。泊まる場所もないのだろう。マクシミリニャンは野宿をするというが、春とはいえ夜はまだまだ冷える。
你说你没带路银。也没有住宿的地方吧。据说马克西米利尼亚在野外住宿,虽说是春天,但晚上还是很冷。
仕方がないので、小屋の片隅を貸してあげることにした。
没办法,我决定把小屋的角落借给你。
 路銀を持っていないと言っていた。泊まる場所もないのだろう。マクシミリニャンは野宿をするというが、春とはいえ夜はまだまだ冷える。
 仕方がないので、小屋の片隅を貸してあげることにした。
「かたじけない。恩を、いつか返さなければ」
“真是太天真了。总有一天要报答你的恩情。”
「いいよ、そんなこと、しなくて。代わりに、困っている人がいたら助けてあげてよ」
“好啊,别这样。但是,如果有困难的人,请帮助他。”
窮地に立つものは、他にたくさんいる。マクシミリニャンが助けた人が、また親切を働けばいい。
处于困境的东西还有很多。马克西米利尼亚帮助过的人,再热情一点就好了。
世の中、そうやって回っていったら平和になるのに。
 窮地に立つものは、他にたくさんいる。マクシミリニャンが助けた人が、また親切を働けばいい。
这个世界,这样转下去的话会变得和平的
 世の中、そうやって回っていったら平和になるのに。
 そんな話をしながら、眠りに就いた。
そんな話をしながら、眠りに就いた。
一边说着那样的话,一边睡着了。
 朝――日の出前に目覚める。
 小屋の片隅にマクシミリニャンはいない。もう、起きて街へと行ったのか。
 そう思ったが、小屋の外から物音が聞こえた。加えて、肉が焼けるような香ばしい匂いもする。
 外に出ると、マクシミリニャンが焚き火でウサギの丸焼きを作っていた。
朝――日の出前に目覚める。
早上——日出前醒来。
小屋の片隅にマクシミリニャンはいない。もう、起きて街へと行ったのか。
小屋的角落里没有马克西米莉娜。已经起床上街了吗。
そう思ったが、小屋の外から物音が聞こえた。加えて、肉が焼けるような香ばしい匂いもする。
虽然这么想,但是从小屋外面传来了声音。再加上烤肉的香味。
外に出ると、マクシミリニャンが焚き火でウサギの丸焼きを作っていた。
出去一看,马克西米利尼亚正在用篝火做烤兔子。
「おお、イヴァン殿、おはよう」
“哦,伊凡大人,早上好。”
「おはよう。何をしているの?」
“早上好,你在干什么?”
「朝食を用意していた」
“我准备了早餐。”
 朝からウサギを仕留めたらしい。一人につき一羽あるようだ。
 きれいに解体され、串焼きになっている。
朝からウサギを仕留めたらしい。一人につき一羽あるようだ。
好像从早上开始就把兔子打死了。好像每个人都有一只。
きれいに解体され、串焼きになっている。
被拆除干净,变成了烤串。
「ここにあった塩を、使わせてもらったぞ」
“我用了这里的盐。”
「それは、構わないけれど」
“那没关系。”
マクシミリニャンは笑顔で、焼きたてのウサギの串焼きを差し出した。
马克西米利尼亚笑着拿出刚烤好的烤兔子串。
朝から、脂が滴る串焼きなんて。正直食欲が湧いていなかったが、好意を無下にするわけにはいかない。
从早上开始就滴着脂肪的烤串什么的。老实说,我没有食欲,但我不能辜负你的好意。
受け取って、ちみちみと食べる。
拿着吃。
 マクシミリニャンは笑顔で、焼きたてのウサギの串焼きを差し出した。
 朝から、脂が滴る串焼きなんて。正直食欲が湧いていなかったが、好意を無下にするわけにはいかない。
肉は歯ごたえがあり、臭みはいっさいない。起きたばかりでなかったら、三本くらい食べられただろう
 受け取って、ちみちみと食べる。
肉有嚼劲,一点臭味都没有。如果不是刚起床的话,大概能吃三根吧。
今は、一本食べきるので精一杯だった。
现在,因为要吃一顿所以竭尽全力了。
 肉は歯ごたえがあり、臭みはいっさいない。起きたばかりでなかったら、三本くらい食べられただろう。
 今は、一本食べきるので精一杯だった。
「む、一本でよいのか?」
“嗯,一瓶可以吗?”
「うん、ありがとう」
“嗯,谢谢。”
普段も、朝はあまり食べない。薄く切ったパンに蜂蜜を塗ったものを食べるくらいだ。だから、痩せる一方なのだろう。
平时早上也不怎么吃。在切成薄片的面包上涂上蜂蜜的东西。所以,是越来越瘦了吧。
 普段も、朝はあまり食べない。薄く切ったパンに蜂蜜を塗ったものを食べるくらいだ。だから、痩せる一方なのだろう。
「そなたは、もう少し、肉を食べたほうがいいな」
“你最好再吃点肉。”
「食べても肉がつかない体質なんだよ」
“是吃了也不会长肉的体质。”
「そうであったか」
“是吗?”
マクシミリニャンは他にも獣を仕留めたようで、売って路銀を稼ぐという。なんとなく心配なので、街にある知り合いの精肉店を紹介した。
据说马克西米利尼亚还杀死了其他野兽,通过出售来赚取路银。因为总觉得很担心,所以介绍了街上熟人的精肉店。
 マクシミリニャンは他にも獣を仕留めたようで、売って路銀を稼ぐという。なんとなく心配なので、街にある知り合いの精肉店を紹介した。
「俺の名を出したら、買い取り価格をおまけしてもらえるかも」
“如果出了我的名字,也许能给我优惠购买价格。”
「おお、そうか。恩に着る」
“哦,这样啊。感恩。”
すぐに、街に向かうようだ。もう、二度と会うことはないだろう。
好像马上就要去街上了。再也不会见面了吧。
 すぐに、街に向かうようだ。もう、二度と会うことはないだろう。
「どうか、気を付けて」
“请注意。”
「何から何まで、感謝するぞ」
“从什么到什么,我都要感谢你。”
「わかったから、いってらっしゃい」
“知道了,走吧。”
「いってくる」
“我走了。”
去りゆく後ろ姿を見つめながら、どうかアニャにいい婿が見つかりますようにと、心の片隅で祈った。
 去りゆく後ろ姿を見つめながら、どうかアニャにいい婿が見つかりますようにと、心の片隅で祈った
一边凝视着离去的背影,一边在心中的角落祈祷,希望阿尼亚能找到好女婿

386
007.md

@ -1,187 +1,473 @@
養蜂家の青年は、こっそり帰宅する
 外はまだ暗い。焚き火の始末をしてから、ランタン片手に家に戻る。
养蜂家的青年悄悄地回家了
 まだ、居間のほうは灯りは灯っていないものの、台所は煌々と明るい。こっそり窓を覗き込むと、ロマナと三つ年上の兄の嫁であるパヴラが朝食と昼食の準備をしていた。
 ロマナ一人だけだったら、声でもかけようと思ったが止めた。
 裏口からこっそり家の中に入り、気配と足音を殺して屋根裏部屋まで上がる。
外はまだ暗い。焚き火の始末をしてから、ランタン片手に家に戻る。
 屋根裏部屋へ繋がる小口をそっと開き、顔だけ覗かせる
外面还很黑。做完篝火之后,一只手拿着灯笼回家
 狭い部屋なのに、八人もの甥と姪が転がっていた。俺が横たわって眠る隙間なんて、少しもありはしない。子どもはこういう狭い場所が大好きなのだろう。
 ため息をつきつつ、部屋に上がってはだけていた毛布をかけてやる。
 その中で、五つ年上の兄ミロシュの息子ツィリルは、俺の外套を毛布代わりに眠っていた。
まだ、居間のほうは灯りは灯っていないものの、台所は煌々と明るい。こっそり窓を覗き込むと、ロマナと三つ年上の兄の嫁であるパヴラが朝食と昼食の準備をしていた。
 先月八歳になったツィリルは甥や姪の中で、俺に一番懐いている。仕事中もついて回ることが多い
虽然起居室的灯还没有亮,但是厨房却很明亮。偷偷地看了看窗户,罗曼娜和比她大三岁的哥哥的媳妇帕夫拉正在准备早餐和午餐
 眉間に皺を寄せながら眠っていたので、指先で伸ばしてやった。
ロマナ一人だけだったら、声でもかけようと思ったが止めた。
 朝の早い時間は、貴重な勉強の時間である
如果只有罗曼娜一个人的话,我想打个招呼,但是停了下来
 ランタンを点していても子どもは起きないので、部屋の端を陣取って養蜂の本を読む。
裏口からこっそり家の中に入り、気配と足音を殺して屋根裏部屋まで上がる。
 この国の養蜂は五百年ほどの歴史がある
从后门悄悄地进入家中,杀了气息和脚步声,走到阁楼房间
 なんといっても、養蜂の父と呼ばれるアントン・ヤンシャの存在は大きい。
 出版した二冊の書籍は、養蜂家の間で聖典とも呼ばれている。
 アントン・ヤンシャは画家になるために帝国へと渡ったが、その夢は叶わなかった
屋根裏部屋へ繋がる小口をそっと開き、顔だけ覗かせる
 代わりに、当時帝国領を統治していた女帝に命じられ、帝国の地で養蜂学校の初代指導者となる
轻轻地打开连接阁楼房间的小口,只露出脸
 彼の教えは、画期的だった。
 それまでの養蜂は蜂蜜が採れたあとは巣に硫黄を流し込み、蜜蜂を殺していた。けれど、アントン・ヤンシャの養蜂は、蜜蜂と共に生きる方法を提示したのだ。
 春は巣箱を準備し、夏は蜜を採り、秋は天敵であるスズメバチを警戒し、冬は越冬の手助けをする
狭い部屋なのに、八人もの甥と姪が転がっていた。俺が横たわって眠る隙間なんて、少しもありはしない。子どもはこういう狭い場所が大好きなのだろう
 彼の教えに従うと、蜂蜜はこれまで以上に採れるようになった
虽然是很小的房间,但是有八个侄子和侄女在滚动。我躺着睡觉的间隙,一点也没有。孩子很喜欢这样狭窄的地方吧
 以後、養蜂家達は蜜蜂とともに生きる方法を選択する。
 蜜蜂を大切にすれば、その気持ちに応えてくれる。しだいに、養蜂家達は蜜蜂を心から愛するようになった。
 長きにわたり、温厚な“灰色熊のカーニオラン”は、養蜂家にとってよきパートナーである。そのため、蜜蜂が死ぬと、口を揃えて「亡くなった(ウムレティ)」と嘆く
ため息をつきつつ、部屋に上がってはだけていた毛布をかけてやる
 それほどに、養蜂家達にとって蜜蜂は大切な存在なのだ
一边叹气,一边上到房间盖上剩下的毛毯
 春は警戒すべき蜜蜂の病気がいくつかある
その中で、五つ年上の兄ミロシュの息子ツィリルは、俺の外套を毛布代わりに眠っていた
 もっとも警戒すべきなのは、ダニの発生だろう。この時季、蜂の幼虫の体液を吸い、繁殖するのだ
其中,年长五岁的哥哥米洛什的儿子齐里尔,用我的外套代替毛毯睡觉
 おかしな動きをしている蜜蜂や、巣穴辺りで死んでいる蜜蜂を発見したら、すぐに巣の中を確認しなければならない。
先月八歳になったツィリルは甥や姪の中で、俺に一番懐いている。仕事中もついて回ることが多い。
上个月8岁的齐里尔是侄子和侄女中最亲近我的。工作中也经常跟着转。
眉間に皺を寄せながら眠っていたので、指先で伸ばしてやった。
因为眉间皱着皱纹睡着了,所以用指尖伸长了。
朝の早い時間は、貴重な勉強の時間である。
早起的时间是宝贵的学习时间。
ランタンを点していても子どもは起きないので、部屋の端を陣取って養蜂の本を読む。
即使点着灯笼孩子也不会起床,所以站在房间的边缘看养蜂的书。
この国の養蜂は五百年ほどの歴史がある。
这个国家的养蜂有五百年左右的历史。
なんといっても、養蜂の父と呼ばれるアントン・ヤンシャの存在は大きい。
不管怎么说,被称为养蜂之父的安东·扬沙的存在很大。
出版した二冊の書籍は、養蜂家の間で聖典とも呼ばれている。
出版的两本书籍在养蜂人中间也被称为圣典。
アントン・ヤンシャは画家になるために帝国へと渡ったが、その夢は叶わなかった。
安东·扬沙为了成为画家来到了帝国,但那个梦想没有实现。
代わりに、当時帝国領を統治していた女帝に命じられ、帝国の地で養蜂学校の初代指導者となる。
取而代之的是,被当时统治帝国领土的女皇命令,在帝国之地成为养蜂学校的第一任领导人。
彼の教えは、画期的だった。
他的教导是划时代的。
それまでの養蜂は蜂蜜が採れたあとは巣に硫黄を流し込み、蜜蜂を殺していた。けれど、アントン・ヤンシャの養蜂は、蜜蜂と共に生きる方法を提示したのだ。
之前的养蜂在采到蜂蜜后,在巢中注入硫磺,杀死了蜜蜂。但是,安东·扬沙的养蜂提示了与蜜蜂一起生活的方法。
春は巣箱を準備し、夏は蜜を採り、秋は天敵であるスズメバチを警戒し、冬は越冬の手助けをする。
春天准备蜂箱,夏天采蜜,秋天警戒天敌黄蜂,冬天帮助越冬。
彼の教えに従うと、蜂蜜はこれまで以上に採れるようになった。
按照他的教导,蜂蜜比以往任何时候都能采到。
以後、養蜂家達は蜜蜂とともに生きる方法を選択する。
之后,养蜂家们选择了和蜜蜂一起生活的方法。
蜜蜂を大切にすれば、その気持ちに応えてくれる。しだいに、養蜂家達は蜜蜂を心から愛するようになった。
如果珍惜蜜蜂的话,就会回应你的心情。渐渐地,养蜂家们从心底爱上了蜜蜂。
長きにわたり、温厚な“灰色熊のカーニオラン”は、養蜂家にとってよきパートナーである。そのため、蜜蜂が死ぬと、口を揃えて「亡くなった(ウムレティ)」と嘆く。
长期以来,温厚的“灰熊嘉年华”是养蜂人的好搭档。因此,蜜蜂一死,异口同声地叹息“死了”。
それほどに、養蜂家達にとって蜜蜂は大切な存在なのだ。
对养蜂人来说蜜蜂是很重要的存在。
春は警戒すべき蜜蜂の病気がいくつかある。
春天有一些值得警惕的蜜蜂病。
もっとも警戒すべきなのは、ダニの発生だろう。この時季、蜂の幼虫の体液を吸い、繁殖するのだ。
最应该警戒的是螨虫的发生吧。这个季节,吸蜂的幼虫的体液,繁殖。
おかしな動きをしている蜜蜂や、巣穴辺りで死んでいる蜜蜂を発見したら、すぐに巣の中を確認しなければならない。
如果发现了动作奇怪的蜜蜂或死在巢穴附近的蜜蜂,就必须马上确认巢穴中。
階下から、声が聞こえる。母や義姉達が起きていたのだろう。
从楼下传来声音。母亲和大嫂们起床了吧。
屋根の隙間から、太陽の光も差し込んでいる。本を閉じ、一応、子ども達を起こして回った。
阳光也从屋顶的缝隙中射入。合上书,先把孩子们叫起来转了一圈。
 階下から、声が聞こえる。母や義姉達が起きていたのだろう。
 屋根の隙間から、太陽の光も差し込んでいる。本を閉じ、一応、子ども達を起こして回った。
「ねえ、起きて。朝だよ。ほら!」
“喂,起来。早上到了。看!”
「うーん」
“嗯。”
夜遅くまで、遊んでいたのだろう。ぱっちり目覚める子はいない。ただ一人、ツィリルを除いて。
晚上玩到很晚吧。没有突然醒来的孩子。只有一个人,除了齐里尔。
 夜遅くまで、遊んでいたのだろう。ぱっちり目覚める子はいない。ただ一人、ツィリルを除いて。
「ツィリル、起きて」
“齐丽尔,起来。”
「ううん……ん?」
“嗯……嗯?”
ツィリルは俺の声に反応し、重たい瞼をうっすら開いた。
齐里尔对我的声音有反应,微微睁开了沉重的眼睑。
 ツィリルは俺の声に反応し、重たい瞼をうっすら開いた。
「イヴァン兄(にぃ)?」
「伊凡哥哥?」
「そうだよ。おはよう」
“是啊,早上好。”
がばりと起き上がったツィリルは、外套を掲げて抗議する。
突然站起来的齐里尔,举着外套抗议。
 がばりと起き上がったツィリルは、外套を掲げて抗議する。
「イヴァン兄、昨日の夜、また秘密基地に行ってただろう!?」
“伊凡哥哥,昨天晚上又去秘密基地了吧!?”
「まあ、ね」
“嗯。”
「この外套を持っていたら、行かないと思っていたのに!」
“拿着这件外套,我还以为你不去呢!”
「外套は、他にもあるからね」
「もー! なんだよ!」
“因为还有其他外套。”
「もー! なんだよ!」
“也是!什么呀!”
 秘密基地とは、ブレッド湖のほとりにある小屋のことである。ツィリルにだけは、小屋の存在を教えていたのだ。
 連れて行けと言われているものの、まだ招待はしていない。自分だけの城であってほしいのもあるし、八歳の子どもが湖の近くに行き来するようになるのは危険だから。教えるのは早いだろうと考えているのだ。
秘密基地とは、ブレッド湖のほとりにある小屋のことである。ツィリルにだけは、小屋の存在を教えていたのだ。
秘密基地是指位于布莱德湖边的小屋。只有齐里尔告诉他小屋的存在。
連れて行けと言われているものの、まだ招待はしていない。自分だけの城であってほしいのもあるし、八歳の子どもが湖の近くに行き来するようになるのは危険だから。教えるのは早いだろうと考えているのだ。
虽然被要求带去,但还没有邀请。也有希望是自己的城堡,八岁的孩子来往于湖边是很危险的。我想告诉你应该很快吧。
「もう少し大きくなったら、教えてやるから」
“再长大一点,我就告诉你。”
「どうやったら、大きくなるんだ?」
“怎样才能长大呢?”
「いっぱい食事を取って、母さんの手伝いをして、たくさん寝たら大きくなるよ」
“多吃点饭,帮妈妈多睡会长大的。”
「むうー!」
“嗯——!”
イェゼロ家では女の子は幼少時から働かせるのに対して、男の子は自由に遊ばせている。
在耶泽罗家,女孩子从小就让她工作,而男孩子却让她自由地玩。
けれど、そんなでは将来、父親や兄達のようになってしまう。
但是,那样的话,将来会变得像父亲和哥哥们一样。
 イェゼロ家では女の子は幼少時から働かせるのに対して、男の子は自由に遊ばせている。
だからなるべく、甥達にも仕事を手伝わせようとしていた
 けれど、そんなでは将来、父親や兄達のようになってしまう。
所以尽量让侄子们也帮忙工作。
言うことを聞いてくれるのは、ツィリルだけなんだけれど。
听我说的只有齐里尔。
 だからなるべく、甥達にも仕事を手伝わせようとしていた。
 言うことを聞いてくれるのは、ツィリルだけなんだけれど。
「兄ちゃん達が、女の手伝いをしていると、女みたいになってしまうぞって言うんだ」
“哥哥们说,如果帮女人的话,会变得像女人一样。”
「バカだな。女みたいって、なんなんだよ」
“你真傻,像个女人,这是什么?”
「わかんない」
“我不知道。”
兄達の教えが浸透していて、取り返しがつかない状態の甥達もいる。奴らは揃って、俺やツィリルを愚弄するのだ。
也有哥哥们的教导渗透着,无法挽回的侄子们。他们都在愚弄我和齐里尔。
叩く者の音が気持ちよく響いたら、調子に乗ってどんどん続けるのだろう。だから、ツィリルには言い返すなとだけ言っている。
如果敲击者的声音听起来很舒服的话,就会得意忘形地继续下去吧。所以,我只说不要对齐里尔回嘴。
本当に、この家は蜜蜂の巣箱のようだ。
真的,这房子就像蜜蜂的蜂箱。
 兄達の教えが浸透していて、取り返しがつかない状態の甥達もいる。奴らは揃って、俺やツィリルを愚弄するのだ。
女達はあくせく働き、男達は子作りしかしないで食い物を荒らす
 叩く者の音が気持ちよく響いたら、調子に乗ってどんどん続けるのだろう。だから、ツィリルには言い返すなとだけ言っている。
女人们辛勤劳动,男人们只做孩子,糟蹋食物
 本当に、この家は蜜蜂の巣箱のようだ。
ツィリルには、そんな男になってほしくない。だから、一生懸命仕事を教えているのだ。
 女達はあくせく働き、男達は子作りしかしないで食い物を荒らす。
我不希望齐里尔成为那样的男人。所以,拼命地教工作
 ツィリルには、そんな男になってほしくない。だから、一生懸命仕事を教えているのだ。
 しょんぼりするツィリルを元気づけようと、ある提案をしてみた。
しょんぼりするツィリルを元気づけようと、ある提案をしてみた。
为了给垂头丧气的齐丽尔打气,我提出了一个建议。
「ツィリル、今度、一緒に釣りに行こう」
「本当? 漁は、いいの?」
“齐里尔,下次一起去钓鱼吧。”
「本当? 漁は、いいの?」
“真的吗?捕鱼好吗?”
「うん」
“嗯。”
 小舟を整備に出すので、漁はしないと言っていたのだ。たまには、ツィリルとのんびり釣りをするのもいいだろう。
小舟を整備に出すので、漁はしないと言っていたのだ。たまには、ツィリルとのんびり釣りをするのもいいだろう。
因为要把小船拿去整备,所以说不捕鱼。偶尔和齐里尔悠闲地钓鱼也不错吧。
嬉しそうに笑みを浮かべるツィリルの頭を撫でる。
抚摸着高兴地露出笑容的齐丽尔的头。
 嬉しそうに笑みを浮かべるツィリルの頭を撫でる。
「さあ、早く支度をして。今日も、忙しいから」
“那嚒,快点准备吧。今天也很忙。”
「わかった!」
“知道了!”
新しい一日が始まろうとしていた。
 新しい一日が始まろうとしていた。
新的一天即将开始

346
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養蜂家の青年は、双子の兄を起こす大任を命じられる
 大家族の朝は、戦争である。
养蜂家的青年被任命为叫醒双胞胎哥哥的大任
 一番広い居間は、長男一家を始めとする年上の兄達が陣取っていた。ここで優雅に朝食を食べられる者は、ごく僅かである。
 あぶれた者達は、廊下で食べたり、自室で食べたり、台所の片隅で食べたり。はたまた、庭に敷物を広げて食べる猛者もいる。
 料理は瞬く間になくなり、確保は困難だ。
大家族の朝は、戦争である。
大家庭的早晨是战争。
一番広い居間は、長男一家を始めとする年上の兄達が陣取っていた。ここで優雅に朝食を食べられる者は、ごく僅かである。
最大的起居室是以长子一家为首的年长的哥哥们。能在这里优雅地吃早饭的人很少。
あぶれた者達は、廊下で食べたり、自室で食べたり、台所の片隅で食べたり。はたまた、庭に敷物を広げて食べる猛者もいる。
烤好的人们在走廊里吃,在自己的房间里吃,在厨房的角落里吃。另外,也有在院子里摊开褥子吃的猛者。
料理は瞬く間になくなり、確保は困難だ。
料理瞬间消失,很难确保。
女性陣の叫びも、響き渡る。
女性阵容的呐喊也响彻四方。
 女性陣の叫びも、響き渡る。
「イヴァン、うちの子を起こしてきて」
“伊凡,把我的孩子叫醒。”
「それが終わったら、うちの末っ子の着替えをさせて」
“那个结束后,让我换一下我家最小的孩子。”
「あの子、見なかった?」
“那个孩子,你没看见吗?”
 義姉達は、顔を合わせるたびにあれやこれやと仕事と頼んでくる。朝食を確保する余裕なんて、どこにもない。
 俺が生まれる前から、こんな毎日である。
 兄達がのんびりパンをかじっている様子が視界に入っても、怒る心はすり減っている。今では、何も感じなくなっている。
義姉達は、顔を合わせるたびにあれやこれやと仕事と頼んでくる。朝食を確保する余裕なんて、どこにもない
大嫂们每次见面都会拜托工作。哪里都没有确保早餐的余地。
俺が生まれる前から、こんな毎日である。
在我出生之前,每天都是这样。
兄達がのんびりパンをかじっている様子が視界に入っても、怒る心はすり減っている。今では、何も感じなくなっている。
哥哥们悠闲地啃着面包的样子进入了视野,生气的心也磨损了。现在,什么都感觉不到了。
女性陣の言いつけは十を超え、最後の最後に、母から最低最悪の仕事を命じられる。
女性阵容的吩咐超过十,最后的最后,被母亲命令最低最坏的工作。
 女性陣の言いつけは十を超え、最後の最後に、母から最低最悪の仕事を命じられる。
「イヴァン、サシャを起こしてきて」
“伊凡,把萨沙叫醒。”
「ええ~」
“嗯~”
「ええ、じゃないわよ!」
“嗯,不是啊!”
今日も、サシャは朝寝坊である。起こしても、働くわけではないので寝かせておけばいいのに。そう答えると、「朝食を食べ損ねるでしょう!」と怒る。
 今日も、サシャは朝寝坊である。起こしても、働くわけではないので寝かせておけばいいのに。そう答えると、「朝食を食べ損ねるでしょう!」と怒る。
今天萨沙也睡懒觉。即使叫起来,也不是工作,让他睡觉就好了。这样回答的话,会生气地说“早饭吃坏了吧!”
 あれこれと動いているうちに、腹がぐーっと鳴っていた。やっと、俺の腹も目覚めたらしい。マクシミリニャンに貰って食べた兎の串焼きを食べていたものの、空腹を訴えていた。
あれこれと動いているうちに、腹がぐーっと鳴っていた。やっと、俺の腹も目覚めたらしい。マクシミリニャンに貰って食べた兎の串焼きを食べていたものの、空腹を訴えていた。
在这嚒动的时候,肚子突然响了起来。我的肚子好像终于醒了。虽然吃了从马克西米利尼亚那里得到的烤兔子串,但是诉说着肚子饿。
「お腹が空いたら、自分で起きてきて適当に食べると思うけれど」
“肚子饿了的话,我想自己起来随便吃。”
「いいから、起こしてきなさい!」
“好的,叫醒我!”
毎日働く息子よりも、働かない息子が朝食を食べるほうが大事らしい。
比起每天工作的儿子,不工作的儿子吃早饭更重要。
母はいつだってそうだ。先に生まれた子どもほど、愛情たっぷりに育てる。だから、イェゼロ家の男達は甘えて、自由気ままに暮らしているのだ。
妈妈总是这样。越是先出生的孩子,越是充满爱情。所以,耶泽罗家的男人们撒娇,自由自在地生活着。
 毎日働く息子よりも、働かない息子が朝食を食べるほうが大事らしい。
 母はいつだってそうだ。先に生まれた子どもほど、愛情たっぷりに育てる。だから、イェゼロ家の男達は甘えて、自由気ままに暮らしているのだ。
「サシャの好物の、マスのスープを作ったと言えば、すぐに目を覚ますから」
“如果说我做了萨沙喜欢的鳟鱼汤,我会马上醒来的。”
「はいはい」
“好的好的。”
気が進まないが、母の命令には逆らえない。重たい足を素早く引きずりながら、サシャを起こしに向かう。
 気が進まないが、母の命令には逆らえない。重たい足を素早く引きずりながら、サシャを起こしに向かう。
虽然不感兴趣,但不能违抗母亲的命令。一边迅速地拖着沉重的脚,一边去叫醒萨沙
 生意気なことに、サシャは一階のそこそこ広い部屋をロマナとの夫婦の部屋として与えられた。十歳年上の兄ゾルターンが使っていた部屋で、彼らの離れが完成したために入れ替わる形になったのだ。
生意気なことに、サシャは一階のそこそこ広い部屋をロマナとの夫婦の部屋として与えられた。十歳年上の兄ゾルターンが使っていた部屋で、彼らの離れが完成したために入れ替わる形になったのだ。
狂妄的是,萨沙把一楼还算宽敞的房间作为和罗曼娜夫妇的房间。年长十岁的哥哥佐尔塔恩使用的房间,因为他们的离开完成而变成了更换的形式。
そんなサシャの部屋の扉を叩くものの、返事はない。ため息を一つ零し、中へと入る。
虽然敲了那样的萨沙房间的门,但是没有回答。叹了一口气,进入里面。
 そんなサシャの部屋の扉を叩くものの、返事はない。ため息を一つ零し、中へと入る。
「サシャ、入るよ」
“萨沙,我要进去了。”
部屋は、大きな窓に二人用の寝台、それからテーブルや棚などの家具が置かれた立派なものである。
房间是在大窗户上放着两人用的卧铺,还有桌子和架子等家具的漂亮的东西。
サシャは寝台で、枕を抱きしめて眠っていた。服は着ておらず、白い肌をおしげもなくさらしている。窓を開き、被っていた毛布を取ってサシャの名前を叫んだ。
萨沙在卧铺上,抱着枕头睡着啦。没有穿衣服,毫无刺激地暴露着白色的皮肤。打开窗户,拿起盖着的毛毯,喊出了萨沙的名字。
 部屋は、大きな窓に二人用の寝台、それからテーブルや棚などの家具が置かれた立派なものである。
 サシャは寝台で、枕を抱きしめて眠っていた。服は着ておらず、白い肌をおしげもなくさらしている。窓を開き、被っていた毛布を取ってサシャの名前を叫んだ。
「サシャ!!」
“沙沙!!”
朝のひんやりとした風が吹く。すると、うめき声をあげながら目を覚ました。
早晨凉风习习。于是,一边呻吟一边醒来。
 朝のひんやりとした風が吹く。すると、うめき声をあげながら目を覚ました。
開口一番、物騒な言葉を吐き捨てる。
一开口就把吵闹的话吐出来。
 開口一番、物騒な言葉を吐き捨てる。
「イヴァン、殺すぞ」
「伊凡,我要杀了你。」
「同じ言葉を返すよ。早く起きないと、母さんが俺に怒ってくる」
“我会回你同样的话。如果不早点起床,妈妈就会对我发火。”
「クソババアが」
“他妈的!”
この通り、サシャは大変口が悪い。
就这样,萨沙的嘴巴很不好。
双子に生まれたものの、性格は天と地ほども異なる。
虽然是双胞胎,但性格却天壤之别。
彼は昔から傲慢で、我が儘で、自分勝手な男なのだ。
他从以前开始就是个傲慢、任性、任性的男人。
同じ顔に生まれたばかりに、何度サシャのいたずらの罪をなすりつけられたことか。
正因为生在同一张脸上,才被多次推卸了萨沙恶作剧的罪。
恨み話は、一晩中話しても尽きないだろう。
怨恨的话,一晚上说也说不完吧。
そんなサシャの悪癖は、“俺の物を欲しがる”こと。
那样的sasha的坏习惯,是“想要我的东西”。
菓子、食事、友達、犬など、俺が努力して得たものを、なんでも欲しがるのだ。
点心,吃饭,朋友,狗等,我努力得到的东西,什么都想要。
ロマナだって、そうだろう。俺と打ち解けている様子を見て、自分の物にしたくなったのだろう。
罗曼娜也是这样吧。看到和我融洽的样子,就想成为自己的东西了吧。
初めてサシャがロマナに出会ったときに、薄汚れていた彼女を「汚いから、捨ててこい」なんて言った。それなのに、数年後に結婚すると言いだしたときは驚いたものだ。
 この通り、サシャは大変口が悪い。
当莎莎第一次遇到罗曼娜时,她说:“太脏了,把她扔过来。”。尽管如此,几年后说要结婚的时候还是很吃惊的
 双子に生まれたものの、性格は天と地ほども異なる。
 彼は昔から傲慢で、我が儘で、自分勝手な男なのだ。
 同じ顔に生まれたばかりに、何度サシャのいたずらの罪をなすりつけられたことか。
今まで、どれだけの物を奪われて、悔しい気持ちになったか。
 恨み話は、一晩中話しても尽きないだろう。
到现在为止,被夺走了多少东西,感到懊悔的心情
 そんなサシャの悪癖は、“俺の物を欲しがる”こと。
 菓子、食事、友達、犬など、俺が努力して得たものを、なんでも欲しがるのだ。
 ロマナだって、そうだろう。俺と打ち解けている様子を見て、自分の物にしたくなったのだろう。
ミハルはサシャの性格の悪さを知っているので、どんな甘い言葉を吐かれても気を許さない
 初めてサシャがロマナに出会ったときに、薄汚れていた彼女を「汚いから、捨ててこい」なんて言った。それなのに、数年後に結婚すると言いだしたときは驚いたものだ。
因为米哈尔知道萨沙性格恶劣,所以无论被说什么甜言蜜语都不会原谅
 今まで、どれだけの物を奪われて、悔しい気持ちになったか。
唯一、親友といってもいい存在だろう
唯一可以说是好朋友的存在吧。
 ミハルはサシャの性格の悪さを知っているので、どんな甘い言葉を吐かれても気を許さない。
 唯一、親友といってもいい存在だろう。
それからもう一つ。
 それからもう一つ。
还有一个。
養蜂の仕事はいくら頑張っても、サシャは奪わない。
养蜂工作再怎么努力,萨沙也不抢。
だから俺は、何事にも興味がない振りをして、仕事にだけは情熱を燃やすようにしていた。
所以我假装对任何事情都不感兴趣,只对工作充满热情。
 養蜂の仕事はいくら頑張っても、サシャは奪わない。
 だから俺は、何事にも興味がない振りをして、仕事にだけは情熱を燃やすようにしていた。
「なあ、イヴァン」
“喂,伊凡。”
「何?」
“什么?”
「昨晩のロマナも、よかったぜ」
“昨晚的罗曼娜也太好了。”
サシャは俺が、ロマナを好きだと今でも思い込んでいる。こうやって、情事の感想を自慢げに話してくるのだ。
萨沙至今仍认为我喜欢罗曼娜。像这样,自夸地说出对情事的感想。
ロマナに対する感情は、異性としての好意ではない。妹みたいな存在だと思っている。
 サシャは俺が、ロマナを好きだと今でも思い込んでいる。こうやって、情事の感想を自慢げに話してくるのだ。
对罗曼娜的感情不是作为异性的好意。我觉得是像妹妹一样的存在
 ロマナに対する感情は、異性としての好意ではない。妹みたいな存在だと思っている。
サシャと結婚すると言ったときは、さすがに反対した。けれど、ロマナの決意は揺るがなかったのだ
 サシャと結婚すると言ったときは、さすがに反対した。けれど、ロマナの決意は揺るがなかったのだ。
说要和萨沙结婚的时候,果然还是反对。但是,罗曼娜的决心没有动摇
 それを見て、サシャはさらに勘違いをしたのだろう。
 夫婦の情事の話なんて、死ぬほどどうでもいい。勘弁してくれと、心から思っている。
 ここで嫌がるとサシャは喜ぶので、無視をするに限るのだ。
それを見て、サシャはさらに勘違いをしたのだろう。
看到这一点,萨沙更是误解了吧。
夫婦の情事の話なんて、死ぬほどどうでもいい。勘弁してくれと、心から思っている。
夫妻的情事的话,死都无所谓。我真心希望你能原谅我。
ここで嫌がるとサシャは喜ぶので、無視をするに限るのだ。
在这里讨厌的话萨沙会很高兴,所以最好无视。
「おい、なんか言えよ。言葉がわからないわけじゃないだろうが!」
“喂,你说什么呀,我又不是听不懂你的话!”
「はいはい、幸せそうで、何よりです」
“是的是的,看起来很幸福,比什么都好。”
そう答えると、サシャは枕を投げ飛ばしてくる。
这样回答后,萨沙把枕头扔了过来。
起き抜けなので、そこまで勢いはない。ひらりと躱し、サシャの部屋をあとにした。
因为刚起床,所以没有那么大的气势。闪开,离开了萨沙的房间。
 そう答えると、サシャは枕を投げ飛ばしてくる。
 起き抜けなので、そこまで勢いはない。ひらりと躱し、サシャの部屋をあとにした。
そうこうしているうちに、朝食はなくなる。これが、いつもの朝の風景であった。
 そうこうしているうちに、朝食はなくなる。これが、いつもの朝の風景であった。
在这样的过程中,早餐就没有了。这就是平时早上的风景

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@ -1,231 +1,537 @@
養蜂家の青年は、せっせと働く
 仕方がないので、朝食は昨日ミハルに貰った干物を食べる。噛みすぎて、顎が疲れてしまった。
养蜂青年辛勤劳动
 家を出る前に、恒例の兄達の命令が始まった。
仕方がないので、朝食は昨日ミハルに貰った干物を食べる。噛みすぎて、顎が疲れてしまった。
没办法,早饭吃昨天米哈尔给我的干货。咬得太多,下巴都累坏了。
家を出る前に、恒例の兄達の命令が始まった。
离开家之前,惯例的哥哥们的命令开始了。
「おい、イヴァン。新しい巣を三つ用意しておけ」
“喂,伊凡,准备三个新窝。”
「花畑の柵が腐りかけているから、新しく作っておけよ」
“花圃的栅栏快要腐烂了,你重新做吧。”
「花の間引きも、忘れるなよ」
“别忘了花的间隔。”
口々に命じられる内容は、女性陣から頼まれて言っているのである。遊び歩いている兄達が、養蜂園の仕事なんてわかるはずがない。
口口声声命令的内容是受女性阵容的委托而说的。走在路上的哥哥们不可能知道养蜂园的工作。
女性陣から直接言ってもいいのだが、なんとなく朝から仕事を命じるのは悪いと思っているのだろう。だからこうやって、夫である兄を通じてあれこれ頼んでくるのだ。
从女性阵容直接说也可以,不过,总觉得从早上开始命令工作不好吧。所以就这样,通过作为丈夫的哥哥来拜托我。
兄達はこうしていろいろ言っていると、仕事をしているつもりになるのだろう。実に偉そうに、命令してくれる。
哥哥们这样说了很多话,就打算工作了吧。真了不起,命令我。
 口々に命じられる内容は、女性陣から頼まれて言っているのである。遊び歩いている兄達が、養蜂園の仕事なんてわかるはずがない。
 女性陣から直接言ってもいいのだが、なんとなく朝から仕事を命じるのは悪いと思っているのだろう。だからこうやって、夫である兄を通じてあれこれ頼んでくるのだ。
 兄達はこうしていろいろ言っていると、仕事をしているつもりになるのだろう。実に偉そうに、命令してくれる。
これもまあ、物心ついたときから当たり前のように命じられていたので、別に何も感じない。
这个嘛,因为从懂事的时候就理所当然地被命令了,所以什么都感觉不到。
 これもまあ、物心ついたときから当たり前のように命じられていたので、別に何も感じない。
 出かける前に、上半身裸のサシャに声をかけられる。
出かける前に、上半身裸のサシャに声をかけられる。
出门前,被赤裸上半身的萨沙搭话。
「なあ、イヴァン」
“喂,伊凡。”
「何?」
“什么?”
ニヤニヤしながら、サシャは俺を見る。何か、バカにしようとしている顔だろう。
沙沙一边笑一边看着我。什么,是想装傻的表情吧。
 ニヤニヤしながら、サシャは俺を見る。何か、バカにしようとしている顔だろう。
「お前、毎朝毎朝仕事を命じられて、情けないと思わないのか?」
“你每天早上都被命令工作,不觉得很可怜吗?”
「別に」
“没什么。”
素っ気ない反応をしたからか、サシャの表情はだんだんとふてくされたものになる。
也许是因为反应冷淡,萨沙的表情渐渐变得不自然。
 素っ気ない反応をしたからか、サシャの表情はだんだんとふてくされたものになる。
「兄貴達に、いろいろ言われないと、動けないのかよ」
“哥哥们不说很多话的话,就不能动了吗?”
「ああ、そうなんだよ」
“啊,是啊。”
「無能の兄のために、働いているってか?」
“你是为了无能的哥哥而工作吗?”
「はいはい」
“好的好的。”
別に、兄達のために働いているのではない。俺は、蜜蜂のために働いている。
并不是为了哥哥们而工作。我在为蜜蜂工作。
むしろ言ってくれるほうが、助かるのだ。
倒不如说给我说才好。
優秀な女性陣が仕事を頼んでくれるので、忙しいながらも蜜蜂のために効率的に動ける。
因为优秀的女性阵容委托工作,虽然很忙,但也能有效地为蜜蜂行动。
 別に、兄達のために働いているのではない。俺は、蜜蜂のために働いている。
 むしろ言ってくれるほうが、助かるのだ。
 優秀な女性陣が仕事を頼んでくれるので、忙しいながらも蜜蜂のために効率的に動ける。
サシャもいろいろ言うのに、兄達が同じような言動を取ると文句を言ってくるのだ。
 サシャもいろいろ言うのに、兄達が同じような言動を取ると文句を言ってくるのだ。
萨沙也说了很多话,哥哥们却抱怨说要采取同样的言行。
俺にからんでいいのは、自分だけと言いたいのだろうか。
想对我说的只有自己吗。
迷惑なので、どちらも話しかけないでほしい。
因为很麻烦,所以希望两个都不要搭话。
 俺にからんでいいのは、自分だけと言いたいのだろうか。
 迷惑なので、どちらも話しかけないでほしい。
「兄貴達が、お前をなんて言っているのか、知っているのか?」
“你知道哥哥们是怎么说你的吗?”
「知らない。興味ないし」
“不知道,我没兴趣。”
 どうせ、奴隷みたいとか、女の言いなりとか、好き勝手言っているのだろう。
どうせ、奴隷みたいとか、女の言いなりとか、好き勝手言っているのだろう。
反正,像奴隶一样,女人的话,随便说吧。
働き者の女性陣から用なし扱いされるのは嫌だけれど、遊んで暮らす兄達の評価なんて心底どうでもよかった。
虽然讨厌被能干的女性们无事地对待,但是玩着生活的哥哥们的评价从心底来说是无所谓的。
 働き者の女性陣から用なし扱いされるのは嫌だけれど、遊んで暮らす兄達の評価なんて心底どうでもよかった。
「お前はそんなだから――」
“因为你就是这样——”
「ごめん、サシャ。忙しいから」
“对不起,萨沙,我很忙。”
サシャの言葉を制し、家を出る。背後で何か叫んでいたが、無視した。
抑制萨沙的话,离开家。我在背后喊着什么,但我无视了。
太陽がさんさんと輝く時間になり、一日の仕事が始まる。
到了太阳闪闪发光的时间,一天的工作开始了。
養蜂のさいの恰好は、通常であれば蜜蜂避けの網つき帽に、分厚い手袋に外套と決まっている。
养蜂时的打扮,通常是避开蜜蜂的带网帽,厚厚的手套和外套。
けれど、蜜蜂に慣れると、それらの装備は必要ない。
但是,一旦习惯了蜜蜂,就不需要那些装备了。
 サシャの言葉を制し、家を出る。背後で何か叫んでいたが、無視した。
 太陽がさんさんと輝く時間になり、一日の仕事が始まる。
温厚な灰色熊のカーニオランは滅多なことでは怒らないので、燻煙器も必要ないくらいだ。
温厚的灰熊卡尼奥兰不会因为太多的事情而生气,甚至不需要熏烟器。
 養蜂のさいの恰好は、通常であれば蜜蜂避けの網つき帽に、分厚い手袋に外套と決まっている。
 けれど、蜜蜂に慣れると、それらの装備は必要ない。
 温厚な灰色熊のカーニオランは滅多なことでは怒らないので、燻煙器も必要ないくらいだ。
今日も、普段通りのシャツとズボンに、釣り鐘状の外套を着て、帽子と手袋を装着して養蜂園を目指す
 今日も、普段通りのシャツとズボンに、釣り鐘状の外套を着て、帽子と手袋を装着して養蜂園を目指す。
今天也穿着和平时一样的衬衫和裤子,穿着吊钟状的外套,戴着帽子和手套,以养蜂园为目标
 花畑養蜂園では、花々が開花しつつあった。蜜蜂はぶんぶん飛び回り、花蜜を巣へと運んでいる。
 一番上の兄の巣小屋から、様子を確認していく。病気になっている蜜蜂はいないか、他の虫がきていないか、小屋の木材は腐っていないか。点検箇所はたくさんある。
花畑養蜂園では、花々が開花しつつあった。蜜蜂はぶんぶん飛び回り、花蜜を巣へと運んでいる。
在花圃养蜂园,花朵正在开花。蜜蜂嗡嗡地飞来飞去,把花蜜运到巢里。
一番上の兄の巣小屋から、様子を確認していく。病気になっている蜜蜂はいないか、他の虫がきていないか、小屋の木材は腐っていないか。点検箇所はたくさんある。
从最上面的哥哥的巢小屋确认情况。有没有生病的蜜蜂,没有其他虫子来,小屋里的木材没有腐烂。检查的地方有很多。
「イヴァン兄ー!」
“伊凡哥哥!”
母親から命じられていた仕事を終えたツィリルが、手伝いにやってくる。
完成母亲命令的工作的齐里尔来帮忙。
 母親から命じられていた仕事を終えたツィリルが、手伝いにやってくる。
今日は、雄蜂の選別を教えてやることにした。
今天,我决定教你挑选雄蜂。
巣箱から、枠を取り出す。ここには、大量の蜂の子が産み付けられているのだ。
从巢箱中取出框架。这里出产了大量的蜂子。
 今日は、雄蜂の選別を教えてやることにした。
 巣箱から、枠を取り出す。ここには、大量の蜂の子が産み付けられているのだ。
「イヴァン兄、それを、どうするの?」
“伊凡哥哥,你要怎么做?”
「雄の幼虫だけ、外に出すんだ」
“只有雄性幼虫才会出去。”
そう言った瞬間、ツィリルは「ゲッ!」と言って顔を顰める。
说完这句话的瞬间,齐里尔皱着眉头说:“哇!”。
 そう言った瞬間、ツィリルは「ゲッ!」と言って顔を顰める。
「なんで、そんな酷いことするんだよ」
“为什么要做这么过分的事呢?”
「雄蜂の数が多いと、それだけ蜜を消費するんだ。きちんと管理していないと、採れる蜂蜜の量が減ってしまうんだよ」
“雄蜂数量多的话,就会消耗那嚒多蜂蜜。如果不好好管理的话,能采到的蜂蜜的量就会减少。”
「そうなんだ」
“是啊。”
雄蜂は女王蜂と交尾し、蜜蜂を産ませる役割がある。また雄蜂の存在は、蜜蜂に働くやる気を与えるらしい。そのため、まったく必要ない、というわけではないのだ。
雄蜂与蜂王交配,有产蜜蜂的作用。另外,雄蜂的存在似乎会给蜜蜂带来工作的干劲。因此,并不是完全没有必要。
 雄蜂は女王蜂と交尾し、蜜蜂を産ませる役割がある。また雄蜂の存在は、蜜蜂に働くやる気を与えるらしい。そのため、まったく必要ない、というわけではないのだ。
「でも、どうやって、雄の幼虫と、雌の幼虫を見分けるんだ? なんか、難しそう」
“但是,怎么分辨雄性幼虫和雌性幼虫呢?好像很难。”
「でも、どうやって、雄の幼虫と、雌の幼虫を見分けるんだ? なんか、難しそう」
「簡単だよ。雄は体が大きいから、巣穴の蓋が盛り上がっているでしょう?」
“很简单。因为雄性的身体很大,所以巢穴的盖子很高吧?”
「あ、本当だ!」
“啊,真的!”
雌の巣穴は平らなのに対し、雄の巣穴はわかりやすく盛り上がっているのだ。蓋をナイフで削ぎ、鑷子(ピンセット)で摘まんで幼虫を取り出す。
雌性的巢穴是平坦的,而雄性的巢穴却很容易理解,气氛很热烈。用小刀削下盖子,用镊子(镊子)捏出幼虫。
 雌の巣穴は平らなのに対し、雄の巣穴はわかりやすく盛り上がっているのだ。蓋をナイフで削ぎ、鑷子(ピンセット)で摘まんで幼虫を取り出す。
「うげー、気持ち悪い」
“哇,好恶心。”
「じきになれるよ」
“马上就好了。”
 幼虫は瓶に詰め、持ち帰る。そのまま素揚げにして、塩をパッパと振って男達の酒の肴となるのだ。
幼虫は瓶に詰め、持ち帰る。そのまま素揚げにして、塩をパッパと振って男達の酒の肴となるのだ。
幼虫装在瓶子里带回去。就这样炸了,撒上盐,成为男人们的下酒菜。
ツィリルはすぐに技を習得し、テキパキと幼虫を捕まえては瓶に詰めていた。
齐里尔很快学会了技能,抓住了龙舌兰酒和幼虫,装在瓶子里。
 ツィリルはすぐに技を習得し、テキパキと幼虫を捕まえては瓶に詰めていた。
「よしと。こんなもんかな」
“好的,原来是这样啊。”
一部の雄の幼虫だけ残し、あとは素揚げだ。
只剩下一部分雄性幼虫,之后是油炸食品。
 一部の雄の幼虫だけ残し、あとは素揚げだ。
「これ、本当においしいの?」
“这个真的好吃吗?”
「さあ?」
“来吧?”
これまで、幼虫の素揚げを食べたことがない。大人の味とか言って、父や兄達が独占していたのだ。それは今も続いている。
到目前为止,我还没有吃过炸幼虫。说是大人的味道,是父亲和哥哥们独占的。那个现在还在继续。
 これまで、幼虫の素揚げを食べたことがない。大人の味とか言って、父や兄達が独占していたのだ。それは今も続いている。
「ダニが寄生していないか、注意して。もしも変な幼虫がいたら、取り除いてね。ダニに寄生された個体を食べたら、大変だから」
“请注意有没有寄生螨虫。如果有奇怪的幼虫,请去除。如果吃了寄生在螨虫上的个体,会很辛苦的。”
「うへえ」
“嗯。”
 ダニは雄の幼虫が大好物で、寄生した状態でそのまま外にでてくる。蜂の体を乗っ取り、別の巣に紛れ込んで繁殖し続けるのだ。
ダニは雄の幼虫が大好物で、寄生した状態でそのまま外にでてくる。蜂の体を乗っ取り、別の巣に紛れ込んで繁殖し続けるのだ。
螨虫非常喜欢雄性幼虫,在寄生的状态下就这样出来了。抓住蜂的身体,混入别的巢继续繁殖。
羽が縮んでいたり、黒ずんでいたりと、様子がおかしな蜜蜂を発見したら、すぐに除かないといけない。
如果发现了翅膀收缩、发黑等样子奇怪的蜜蜂,必须马上除掉。
 羽が縮んでいたり、黒ずんでいたりと、様子がおかしな蜜蜂を発見したら、すぐに除かないといけない。
「イヴァン兄がせっせと手入れしているから、おいしい蜂蜜が採れるんだな」
“因为伊凡哥哥一直在保养,所以能采到美味的蜂蜜。”
「まあ、俺だけじゃなくて、みんなで頑張っているからね」
“嘛,不只是我,大家都在努力呢。”
これほど広大な養蜂園を、従業員を雇わずに家族だけで運営できているのは、女性陣の頑張りがあるからだろう。
如此广阔的养蜂园,不雇佣员工,只由家人运营,大概是因为女性阵容的努力吧。
 これほど広大な養蜂園を、従業員を雇わずに家族だけで運営できているのは、女性陣の頑張りがあるからだろう。
「きちんと女王に従っていたら、これまで通りの暮らしができるんだ」
“如果好好地跟随女王的话,就可以像以前一样生活了。”
「蜜蜂も、イェゼロ家もってことだね」
“蜜蜂也是耶罗家。”
「その通り」
“没错。”
今日は日差しが強く、温かな風も流れていた。
今天阳光很强,也有温暖的风。
 今日は日差しが強く、温かな風も流れていた。
春が、本格的に訪れようとしているのだろう
 春が、本格的に訪れようとしているのだろう。
春天真的要来了吧

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養蜂家の青年は、クリームケーキにかぶりつく
 頼まれていた巣箱を完成させ、一息ついているところにロマナがやってきた。
养蜂家的青年,咬着奶油蛋糕
頼まれていた巣箱を完成させ、一息ついているところにロマナがやってきた。
完成了被委托的巢箱,在喘口气的时候,罗曼娜来了。
何やら、大きなバスケットを抱えている。
不知为什么,抱着一个大篮子。
 何やら、大きなバスケットを抱えている。
「あの、イヴァンさん。もうそろそろ、休憩、ですよね?」
“那个,伊凡先生。差不多该休息了吧?”
「そうだけれど」
“是啊。”
「ご一緒、してもいいですか?」
“可以一起做吗?”
 どうして、ロマナはツィリルがいないときにやってくるのか。ここにもう一人誰かがいたら、一緒に休憩できるのに。
 二人で過ごしたことがサシャにばれたら、一大事である。一週間は嫌味を言われてしまいそうだ。
どうして、ロマナはツィリルがいないときにやってくるのか。ここにもう一人誰かがいたら、一緒に休憩できるのに。
为什么,罗曼娜在齐里尔不在的时候会来呢。如果这里还有一个人的话,我们可以一起休息。
二人で過ごしたことがサシャにばれたら、一大事である。一週間は嫌味を言われてしまいそうだ。
如果两个人一起度过的事情被萨沙发现的话,那是一件大事。一个星期好像会被说讨厌。
「ロマナ、昨日も言ったけれど、二人では過ごせな――」
“罗曼娜,昨天也说过了,两个人过不去——”
「クリームケーキを、作ったんです」
“我做了奶油蛋糕。”
「クリームケーキ、だって!?」
“奶油蛋糕!?”
クリームケーキ、それは王侯貴族の保養地だったブレッド湖の名物である。
奶油蛋糕,那是王侯贵族疗养地布莱德湖的名产。
一見して、正方形のケーキだが、構造がただのケーキではない。
乍一看是正方形的蛋糕,但结构并不只是蛋糕。
上下はサクサクのパイ生地で、その下にバタークリーム、さらにプリンのようにどっしりした濃厚なカスタードクリームが挟まった、世界一おいしいケーキだ。店や家庭によってさまざまな種類がある。
上下是松脆的馅饼面团,下面夹着黄油奶油,还有像布丁一样沉甸甸的浓厚牛奶蛋糊奶油,是世界上最好吃的蛋糕。根据店铺和家庭的不同有各种各样的种类。
 クリームケーキ、それは王侯貴族の保養地だったブレッド湖の名物である。
 一見して、正方形のケーキだが、構造がただのケーキではない。
 上下はサクサクのパイ生地で、その下にバタークリーム、さらにプリンのようにどっしりした濃厚なカスタードクリームが挟まった、世界一おいしいケーキだ。店や家庭によってさまざまな種類がある。
父の好物だったので、以前は母もよくクリームケーキを作っていた。父を追い出してからは、一度も作っていないような気がする。
因为是父亲爱吃的东西,所以以前母亲也经常做奶油蛋糕。把父亲赶出去之后,感觉一次也没做过。
ロマナは母からクリームケーキの作り方を習ったのだという。
据说罗曼娜是从母亲那里学到奶油蛋糕的制作方法的。
 父の好物だったので、以前は母もよくクリームケーキを作っていた。父を追い出してからは、一度も作っていないような気がする。
 ロマナは母からクリームケーキの作り方を習ったのだという。
「イヴァンさん、クリームケーキ、食べたくないですか?」
“伊凡,你不想吃奶油蛋糕吗?”
キョロキョロと、周囲を見渡す。物置小屋が陰になっていて、周囲からこちらの状況は見えないだろう。
东张西望,环顾四周。储物间成了阴影,周围看不到这边的情况吧。
 キョロキョロと、周囲を見渡す。物置小屋が陰になっていて、周囲からこちらの状況は見えないだろう。
「食べたい」
“想吃”
 そう答えると、ロマナは満面の笑みを浮かべた。なんだか、笑っているロマナを見るのは、久しぶりな気がする。
そう答えると、ロマナは満面の笑みを浮かべた。なんだか、笑っているロマナを見るのは、久しぶりな気がする。
 きっと、サシャが自分以外の男の前で笑うなとか、命令しているのかもしれない。世界一心が狭い男である。間違いない
这样回答后,罗曼娜满脸笑容。总觉得,好久没看到笑着的罗曼娜了
 ロマナはバスケットから敷物を取り出す。
きっと、サシャが自分以外の男の前で笑うなとか、命令しているのかもしれない。世界一心が狭い男である。間違いない。
一定是萨沙在自己以外的男人面前笑之类的命令。是世界上心胸狭窄的男人。没错。
ロマナはバスケットから敷物を取り出す。
罗曼娜从篮子里拿出褥子。
「俺が敷くよ」
“我来铺吧。”
「え!?」
“诶!?”
「何、驚いているの?」
“什么,你很惊讶?”
「あ、ごめんなさい。イェゼロ家の男性は、自分から動くということは、しないので。そういえば、イヴァンさんは以前から、あれこれ自分から動いていましたね」
“啊,对不起。耶泽罗家的男性不会主动行动。这么说来,伊凡从以前开始就有各种各样的主动行动。”
ロマナもすっかり、何もしないイェゼロ家の男達の習慣に染まりきっているようだ。きっと、一から十まで世話を焼いているのだろう。
罗曼娜也完全染上了什么都不做的耶零家男人们的习惯。一定是从头到尾都在照顾你吧。
 ロマナもすっかり、何もしないイェゼロ家の男達の習慣に染まりきっているようだ。きっと、一から十まで世話を焼いているのだろう。
「あのさ、ロマナ。サシャの命令は、全部聞かなくてもいいからね」
「那个,罗曼娜,萨沙的命令,你不用全部听。」
「ですが、身よりのない私と結婚してくれた恩がありますので」
“但是,我有恩嫁给了没有亲人的我。”
「結婚に恩も何もないってば。互いに好きだから、一緒になったんでしょう?」
“你说你对结婚没什么好处。因为彼此都喜欢,所以才在一起的吧?”
そう言ってやると、ロマナはハッとなってこちらを見る。そのあと、苦しげな表情を浮かべ、胸を押さえた。
这样说的话,罗曼娜突然看了看这边。之后,他露出痛苦的表情,捂住了胸口。
 そう言ってやると、ロマナはハッとなってこちらを見る。そのあと、苦しげな表情を浮かべ、胸を押さえた。
「私、やっぱり――」
“我还是——”
「やっぱり?」
“果然?”
「いえ、なんでもありません」
“不,没什么。”
「そうやって言いかけるの、余計に気になるんだけれど」
「我更在意你这嚒说。」
「ごめんなさい。ですが、言えません」
“对不起,我不能说。”
言えないことを「言えない」と、はっきり主張できるようになったのはいいことか。
能清楚地主张不能说的话是“不能说”,这是好事吗。
ここに連れてきたばかりのロマナは、とにかく口数が少なくて、日常の会話も成り立たないほどだった。
 言えないことを「言えない」と、はっきり主張できるようになったのはいいことか。
刚带到这里的罗曼娜,总之话很少,日常的对话也不能成立
 ここに連れてきたばかりのロマナは、とにかく口数が少なくて、日常の会話も成り立たないほどだった。
 家族がおらず、身売りをしようとしていたロマナの人生は壮絶だ。
 サシャが幸せにしてくれたら言うことなしだが、それも難しいだろう。サシャの気質は、ぐうたらで乱暴者だった父に一番似ているから。
家族がおらず、身売りをしようとしていたロマナの人生は壮絶だ。
没有家人,想要卖身的罗曼娜的人生非常壮烈。
サシャが幸せにしてくれたら言うことなしだが、それも難しいだろう。サシャの気質は、ぐうたらで乱暴者だった父に一番似ているから。
如果萨沙能给我幸福的话就没什么好说的了,但那也很难吧。因为萨沙的气质最像懒散粗暴的父亲。
一応、二人の結婚に反対はしたものの、周囲も、ロマナ本人も聞き入れなかった。
虽然反对两人的结婚,但周围和罗曼娜本人都没听进去。
 一応、二人の結婚に反対はしたものの、周囲も、ロマナ本人も聞き入れなかった。
「ロマナ、今、幸せ?」
“罗曼娜,现在幸福吗?”
問いかけに、ロマナはサッと顔を伏せる。その反応は、幸せではないと言っているようなものだ。
当被问到的时候,罗曼娜突然伏下了脸。那个反应就像是说不幸福。
 問いかけに、ロマナはサッと顔を伏せる。その反応は、幸せではないと言っているようなものだ。
 ため息を一つ零しつつ、敷物を広げる。どっかりと腰掛けると、ロマナがクリームケーキを差し出してくれた。レモネードも、添えてくれる。
ため息を一つ零しつつ、敷物を広げる。どっかりと腰掛けると、ロマナがクリームケーキを差し出してくれた。レモネードも、添えてくれる。
一边叹气,一边铺上褥子。一坐下,罗曼娜就把奶油蛋糕递给我。柠檬水也可以添加。
「ありがとう」
“谢谢。”
「い、いえ」
“不,不。”
気まずい空気の中、クリームケーキにかぶりつく。
在尴尬的空气中,盖住奶油蛋糕。
 気まずい空気の中、クリームケーキにかぶりつく。
「ん、うまっ!!」
“嗯,好吃!!”
 パイ生地はサックサク、中のクリームはカスタードで、スポンジ部分は驚くほどふわふわだった。
 甘ったるいのに、あとを引かない。やはり、クリームケーキは世界一おいしいと思ってしまう。
 あっという間に食べ、指先についたクリームまで舐める。
パイ生地はサックサク、中のクリームはカスタードで、スポンジ部分は驚くほどふわふわだった。
馅饼质地松脆,里面的奶油是牛奶蛋糊,海绵部分松软得令人吃惊。
甘ったるいのに、あとを引かない。やはり、クリームケーキは世界一おいしいと思ってしまう。
太甜了,却不拖泥带水。果然,奶油蛋糕是世界上最好吃的。
あっという間に食べ、指先についたクリームまで舐める。
一眨眼就吃了,连指尖上的奶油都舔了。
レモネードをごくごくと飲み干した。
把柠檬水一饮而尽。
 レモネードをごくごくと飲み干した。
「もう一つ、食べますか?」
“再吃一个吗?”
「うん、ちょうだい」
“嗯,给我。”
ロマナは微笑みながら、クリームケーキを差し出す。それを、一口で食べて見せた。
罗曼娜微笑着拿出奶油蛋糕。我一口就吃了那个给你看。
彼女は目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑っていた。
她瞪大眼睛后,捧腹大笑。
 ロマナは微笑みながら、クリームケーキを差し出す。それを、一口で食べて見せた。
 彼女は目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑っていた。
「そんなに笑うなんて」
“你笑得那么开心。”
「だって、信じられません。大きなケーキを、一口で食べるものですから」
“因为,我不敢相信,因为大蛋糕是一口吃掉的。”
笑いが収まったあと、ロマナは俺の口の端に付いていたクリームを指先で拭う。
笑声平息后,罗曼娜用指尖擦去粘在我嘴边上的奶油。
 笑いが収まったあと、ロマナは俺の口の端に付いていたクリームを指先で拭う。
 それを、ペロリと舐めた。突然の行為に驚き、身を固くしてしまう。
それを、ペロリと舐めた。突然の行為に驚き、身を固くしてしまう。
我舔了一下那个。对突然的行为感到惊讶,身体僵硬了。
「ロマナ、そういうの、止めなよ」
“罗曼娜,别这样。”
軽く注意したつもりだったが、声色が冷たくなってしまった。
本来打算轻轻地提醒一下,但是声色变冷了。
ロマナはビクリと肩を震わせ、謝罪する。
罗曼娜提心吊胆地颤抖着肩膀,道歉。
 軽く注意したつもりだったが、声色が冷たくなってしまった。
 ロマナはビクリと肩を震わせ、謝罪する。
「ご、ごめんなさい。つい」
“对不起,不小心。”
「いいよ。どうせ、ちび達と同じように、世話を焼いてくれたんでしょう?」
“好啊。反正你也和小朋友们一样照顾我了吧?”
ロマナは子ども好きで、サシャと結婚する前から甥や姪の面倒をよく見ていた。おかげで、二人が結婚すると聞いたとき、子ども達が一番喜んでいた記憶がある。
罗曼娜很喜欢孩子,在和萨沙结婚之前就经常照顾侄子和侄女。托您的福,我记得听说两个人结婚的时候,孩子们最高兴。
 ロマナは子ども好きで、サシャと結婚する前から甥や姪の面倒をよく見ていた。おかげで、二人が結婚すると聞いたとき、子ども達が一番喜んでいた記憶がある。
 そんなことよりも、気になるものに気付いてしまった。
そんなことよりも、気になるものに気付いてしまった。
比起那样的事,我更在意的东西。
「ねえ、ロマナ。さっき、首元がちょっと見えたんだけれど、人の手の痕が――」
「喂,罗曼娜,刚才我看见你的脖子上有一点人的手痕。」
「これは、なんでもありません!」
“这没什么!”
ロマナは早口で言って、レモネードが入った瓶やら、カップやらを片付ける。
罗曼娜说得很快,收拾装着柠檬水的瓶子啦,杯子啦。
敷物の上から追い出され、風のように去って行った。
被从褥子上赶出去,像风一样离开了。
 ロマナは早口で言って、レモネードが入った瓶やら、カップやらを片付ける。
 敷物の上から追い出され、風のように去って行った。
「あー……」
“啊……”
ロマナの首に、強く締めたような指先の痕があったのは気のせいだったのか。
在罗曼娜的脖子上,有一个很紧的指尖的痕迹,是心理作用吗。
元からある痣なのかもしれないが。
也许是原来就有的痣。
 ロマナの首に、強く締めたような指先の痕があったのは気のせいだったのか。
ロマナが去った方向とは逆方向に歩いて行くと、母に見つかってしまった
 元からある痣なのかもしれないが。
沿着与罗曼娜离开的方向相反的方向走去,被母亲发现了
 ロマナが去った方向とは逆方向に歩いて行くと、母に見つかってしまった。
大量の仕事を頼まれ、うんざりしたのは言うまでもない
 大量の仕事を頼まれ、うんざりしたのは言うまでもない。
被委托做大量的工作,当然厌烦了

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@ -1,215 +1,521 @@
養蜂家の青年は、親友と立ち話をする
 今日も、ミハルが馬車でイェゼロ家が注文した品物を持ってくる。
养蜂青年和亲友站着聊天
今日も、ミハルが馬車でイェゼロ家が注文した品物を持ってくる。
今天,米哈尔也会用马车带来耶泽罗家订购的物品。
「おーい、イヴァン!」
“喂,伊凡!”
「ミハル、また、酒?」
“米哈尔,又喝酒了?”
「いいや、今日は食料品だ」
“不,今天是食品。”
 イェゼロ家は三十八人家族である。買い物はすべて大量に注文し、配達してもらっているのだ。
イェゼロ家は三十八人家族である。買い物はすべて大量に注文し、配達してもらっているのだ。
耶泽罗家族有三十八口人。所有的购物都是大量订购和配送的。
 今日もまた、ミハルは「おまけだ」と言って、オリーブオイルに魚を浸けた瓶詰めを譲ってくれた。
「これ、いいの? いい品なのでは?」
今日もまた、ミハルは「おまけだ」と言って、オリーブオイルに魚を浸けた瓶詰めを譲ってくれた。
今天,米哈尔又说“这是赠品”,让我把橄榄油里浸着鱼的瓶子。
「これ、いいの? いい品なのでは?」
“这个好吗?是不是好东西?”
「それ、一年前のなんだよ。なるべく早く食え」
“那是一年前的事了,尽量早点吃。”
「そうなんだ。ありがとう」
“是的,谢谢。”
ミハルがくれる食料で、なんとか食いつないでいるところもある。イヴァンは手と手を合わせて、感謝の気持ちを示した。
用米哈尔给的食物,也有勉强咬住的地方。伊凡双手合十,表示感谢。
 ミハルがくれる食料で、なんとか食いつないでいるところもある。イヴァンは手と手を合わせて、感謝の気持ちを示した。
「そういや、お前のところに、にゃんにゃんおじさんは来たか?」
「は? 今、なんて言った?」
“对了,猫咪叔叔来你这里了吗?”
「は? 今、なんて言った?」
“什么?你刚才说什么?”
「にゃんにゃんおじさん」
“喵喵叔叔”
「何、その化け物」
「什么,那个怪物。」
「なんでも、にゃんにゃん言いながら、結婚してくれと叫んでいるらしい」
“不管怎么说,好像是一边喵喵地说着,一边喊着让我结婚。”
「怖っ!」
“好可怕!”
朝からすでに噂になっていたらしい。市場辺りで「にゃんにゃん!」と叫んでいたのだとか。
从早上开始就已经成为了传闻。在市场附近喊着“喵喵!”。
 朝からすでに噂になっていたらしい。市場辺りで「にゃんにゃん!」と叫んでいたのだとか。
「その化け物って、どんな外見なの?」
“那个怪物是什么样的外表?”
「髭が生えた強面の中年男で、筋骨隆々。ボロボロの服を着ていて、古めかしい喋りをしているらしい。俺は直接見ていなくて、祖父ちゃんが聞いた噂話だけれど」
“他是一个长着胡子、脸很硬的中年男子,肌肉很发达。他穿着破破烂烂的衣服,说着古色古香的话。我并没有亲自看他,只是祖父听到的闲话。”
「ちょっと待って」
“等一下。”
ミハルが特徴を挙げた男に、イヴァンは見覚えがありすぎた。
对于米哈尔列举特征的男人,伊凡太眼熟了。
 ミハルが特徴を挙げた男に、イヴァンは見覚えがありすぎた。
 眉間の皺を解しながら、深いため息を吐く。
眉間の皺を解しながら、深いため息を吐く。
一边解开眉间的皱纹,一边深深地叹气。
「なあ、イヴァン。にゃんにゃん叫びながら、結婚を迫るとか、怖くねえか?」
“喂,伊凡。喵喵叫着逼着结婚,你不害怕吗?”
「たぶんそれ、にゃんにゃんじゃなくて、自分の名前はマクシミリニャンで、娘の名前はアニャ。娘の結婚相手を探しにやってきた、的な内容じゃないのかな?」
「マクシミリニャンに、アニャ? たしかに、二人を合わせたらにゃんにゃんだな」
“大概那个,不是喵喵,自己的名字是马克西米莉娜,女儿的名字是阿尼亚。不是来找女儿结婚对象的内容吗?”
「マクシミリニャンに、アニャ? たしかに、二人を合わせたらにゃんにゃんだな」
“马克西米利尼亚,阿尼亚?确实,两个人合在一起的话就是猫咪了。”
噂が巡り巡って、おかしな方向に転がっているようだ。もう二度と関わり合いになることはないと思っていたので、なんともいえない気持ちになる。
传闻围绕着,似乎转向了奇怪的方向。因为觉得再也不会有关系了,所以有一种说不出的心情。
 噂が巡り巡って、おかしな方向に転がっているようだ。もう二度と関わり合いになることはないと思っていたので、なんともいえない気持ちになる。
「イヴァン、にゃんにゃんおじさんと、知り合いなのか?」
“伊凡,你和喵喵大叔认识吗?”
「知り合いっていうか、昨日、行き倒れになりかけていたところを、助けたんだ」
“说是认识的人吧,昨天差点晕倒的时候,我救了他。”
「もしかして、お前にも結婚してくれにゃんにゃんって言ってきたの?」
“难道你也跟我说要和我结婚吗?”
「まあ」
“嗯。”
「そのあと、街に行ったってことは、きっぱり断ったんだな」
“那之后,你就断然拒绝去街上啦。”
「そうだね」
“是啊。”
昨晩あったことについて話すと、ミハルは「結婚、すればよかったのに」と呟いた。
说起昨晚发生的事情,米哈尔嘟囔着“结婚就好了”。
 昨晩あったことについて話すと、ミハルは「結婚、すればよかったのに」と呟いた。
「にゃんにゃん男の娘と?」
「ああ。だって、お前を気に入って、申し出てくれたんだろう? それに、家業が養蜂だし。財がなくとも、身一つで結婚してくれるなんて、滅多にない話だからな」
“和喵喵男的女儿?”
「ああ。だって、お前を気に入って、申し出てくれたんだろう? それに、家業が養蜂だし。財がなくとも、身一つで結婚してくれるなんて、滅多にない話だからな」
“啊,因为我喜欢你,所以才向我提出申请的吧?而且,家业就是养蜂。就算没有钱,也很少有一个人结婚的。”
「そうだけれど、婿だよ? ここから、出て行かなければならないし」
“是啊,是我女婿啊?我得从这里出去。”
「そうだけれど、婿だよ? ここから、出て行かなければならないし」
「いや、出て行くべきなんだよ。一刻も早く」
“不,我们应该出去,尽快。”
「どうして?」
“为什么?”
「それは――お前が、ダメになってしまうからだよ」
“那是因为——你会变得不行的。”
「ダメになっていないけれど?」
“虽然没有变得不行?”
思わず、ムッとしてしまう。言葉尻も、刺々しくなってしまった。ミハルも、目をつり上げて喧嘩腰になる。
不由得生气了。话尾也变得刺痛了。米哈尔也抬起眼睛,气势汹汹。
「今はな! でも、そのうちダメになる。現状、健康で元気かもしれない。けれど、一人の人間が働ける量は、限りがあるんだよ。お前は、他の男衆の代わりに、力仕事を担って、率先して働いて、実家に多大の益をもたらしている。けれど、人の体は風車の羽根車と同じだ。ずっと、ずーっと回っていたら、いつかは劣化して、壊れてしまうだろうが」
 思わず、ムッとしてしまう。言葉尻も、刺々しくなってしまった。ミハルも、目をつり上げて喧嘩腰になる。
“现在啊!但是,不久就会变得不行。现状,也许是健康又有精神。但是,一个人能工作的量是有限的。你代替其他男人,担负着力气工作,率先工作,给老家带来了很大的好处。但是,人的身体和风车的叶轮一样。一直,不停地转动。”这样的话,总有一天会劣化,坏掉的吧。“
「今はな! でも、そのうちダメになる。現状、健康で元気かもしれない。けれど、一人の人間が働ける量は、限りがあるんだよ。お前は、他の男衆の代わりに、力仕事を担って、率先して働いて、実家に多大の益をもたらしている。けれど、人の体は風車の羽根車と同じだ。ずっと、ずーっと回っていたら、いつかは劣化して、壊れてしまうだろうが」
ミハルの言葉を聞いて、ハッとなる。ダメになるというのは、俺自身が落ちぶれるという意味ではなかった。
听了米哈尔的话,吓了一跳。失败并不意味着我自己会堕落。
体を心配して、言ってくれていたのだ。気付かずに、怒ってしまった。一言「ごめん」と謝る。
因为担心身体,所以说了。没注意到就生气了。道歉一句“对不起”。
 ミハルの言葉を聞いて、ハッとなる。ダメになるというのは、俺自身が落ちぶれるという意味ではなかった。
 体を心配して、言ってくれていたのだ。気付かずに、怒ってしまった。一言「ごめん」と謝る。
「祖父ちゃんがさ、イヴァンが養蜂がしたいのならば、土地と道具を用意してやるって、言っていたんだ」
“爷爷说,如果伊凡想养蜂的话,就给他准备土地和工具。”
養子にならなくてもいい。諸々の費用は、働いて返してくれと話していたようだ。
不领养也可以。各种费用好像都说要工作还给我。
 養子にならなくてもいい。諸々の費用は、働いて返してくれと話していたようだ。
「イヴァンが蜜蜂を大事にする想いも、家族が大事なのも、よく理解しているつもりだ。けれど、このままでは、お前はあまり長くは生きられない。休みなくがむしゃらに働いて死んだ人を、何人も見ていると、祖父ちゃんが言っていたから」
“伊凡珍惜蜜蜂的想法和家人的重要,我都很理解。但是,这样下去的话,你活不了太长时间。祖父说,他会看到好几个不休息地拼命工作而死的人。”
「うん、そうだね。その通りだ。俺は、一心不乱に働くばかりで、何も見えていなかった」
「だろう? だから、真剣に独立を考えてくれよ」
“嗯,是啊。没错。我只是专心工作,什么都看不见。”
「だろう? だから、真剣に独立を考えてくれよ」
“是吧?所以,请认真考虑独立吧。”
「独立……!」
“独立……!”
「人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ」
“人生不是为了家人,而是为了自己。”
ミハルの言葉は、胸に深く響いた。
米哈尔的话深深地打动了我的心。
もしも、俺がいなくなったら、本当に危機となるのは家族だろう。
如果我不在的话,真正陷入危机的是家人吧。
 ミハルの言葉は、胸に深く響いた。
 もしも、俺がいなくなったら、本当に危機となるのは家族だろう。
「みんな、俺に、頼り切っているんだ」
「そうなんだよ! わかったか?」
「大家都完全依赖我啦。」
「そうなんだよ! わかったか?」
“是啊!明白了吗?”
「わかった。ミハル、ありがとう。独立の件、前向きに考えておく」
“好的。米哈尔,谢谢。我会积极考虑独立的事情。”
「イヴァン!」
“伊凡!”
ミハルは叫び、抱きついてきた。大型犬のようにじゃれつくので、引き剥がすのに苦労してしまった。
米哈尔尖叫着,抱了过来。因为像大型狗一样捣乱,所以剥下来很辛苦。
 ミハルは叫び、抱きついてきた。大型犬のようにじゃれつくので、引き剥がすのに苦労してしまった。
「まあ、なんだ。サシャの嫁にとっても、イヴァンが家を出るのはいいことだと思う」
「哎呀,怎么了?我觉得即使对萨沙的媳妇来说,伊凡离家出走也是件好事。」
「ロマナね……」
“罗曼娜啊……”
困ったことに、ロマナは結婚しても以前のように接したがる。サシャは面白くないだろう。
令人困扰的是,罗曼娜即使结婚了也想像以前那样对待她。萨沙应该不好玩吧。
 困ったことに、ロマナは結婚しても以前のように接したがる。サシャは面白くないだろう。
「あいつ、なんでイヴァンが好きなのに、サシャと結婚したんだろうな」
“那家伙为什么喜欢伊凡,却和萨沙结婚了呢?”
「は!?」
“哈!?”
「は?」
“什么?”
ミハルと見つめ合い、しばし言葉を失う。パチパチと瞬いていたが、ミハルがすかさず指摘してきた。
和米哈尔互相凝视,一时失去了语言。虽然眨巴眨巴地眨眼,但米哈尔马上指出了这一点。
 ミハルと見つめ合い、しばし言葉を失う。パチパチと瞬いていたが、ミハルがすかさず指摘してきた。
「いや、ロマナは、イヴァンのことが前から好きだったろ!!」
“不,罗曼娜从以前就喜欢伊凡了吧!!”
「そうだったの?」
“是吗?”
「そうだったんだよ!!」
“原来是这样啊!!”
「じゃあなんで、サシャと結婚したの?」
“那你为什么和萨沙结婚?”
そういえば結婚する前、サシャに言い寄られて困っているとか話していたのを思い出す。そのまま母に報告したら、「放っておきなさい」と言っていたので放置していたのだが。
这么说来,我想起了结婚前被萨沙说了很为难之类的话。就这样向母亲报告后,因为说了“别管我”,所以就放任不管了。
それから半年も経たずに、ロマナとサシャの結婚が決まった。
之后不到半年,罗曼娜和萨沙就结婚了。
 そういえば結婚する前、サシャに言い寄られて困っているとか話していたのを思い出す。そのまま母に報告したら、「放っておきなさい」と言っていたので放置していたのだが。
 それから半年も経たずに、ロマナとサシャの結婚が決まった。
「ロマナはサシャが苦手だって言っていたのに、不思議だよね」
“罗曼娜说她不喜欢萨沙,真是不可思议。”
「それは、ロマナがお前に好意を示しているのに、いつまで経っても素っ気なくするからじゃないか?」
“那是因为罗曼娜对你表示好感,但不管过多久都会冷淡的吧?”
「いや、俺、昔からこんなだし」
“不,我从以前开始就是这样的。”
「まあ……だな」
“嗯……是啊。”
ひとまずロマナがサシャではなく、俺が好きだったという話は聞かなかったことにした。
 ひとまずロマナがサシャではなく、俺が好きだったという話は聞かなかったことにした。
暂且不听罗曼娜不是萨沙,而是喜欢我这样的话

442
012.md

@ -1,229 +1,551 @@
養蜂家の青年は、まさかの訪問者に目を剥く
 そうこうしているうちに、太陽があかね色に染まっていく。
养蜂家的青年对来访者睁大了眼睛
「あ、やべ。話し過ぎた! イヴァン、またな!」
そうこうしているうちに、太陽があかね色に染まっていく。
在这样的过程中,太阳染上了红色。
「あ、やべ。話し過ぎた! イヴァン、またな!」
“啊,糟了。说得太多了!伊凡,再见!”
「じゃあね――あ!」
“再见——啊!”
ミハルを引き留め、用事を頼む。
留住米哈尔,拜托了事情。
 ミハルを引き留め、用事を頼む。
「ごめん、ミハル。にゃんにゃんおじさんを見かけたら、湖の小屋に来るよう言っておいて」
“对不起,米哈尔。如果看到猫咪叔叔,请告诉他来湖里的小屋。”
「わかった。会えたらな」
 
「好的,希望我们能见面。」
今度こそ、ミハルと別れた。
这次,我和米哈尔分手了。
太陽は沈みつつあるが、仕事はまだ終わらない。腕まくりし、作業を再開させる。
太阳正在下沉,但工作还没有结束。挽起袖子,重新开始作业。
 今度こそ、ミハルと別れた。
 太陽は沈みつつあるが、仕事はまだ終わらない。腕まくりし、作業を再開させる。
腐りかけた木材を処分していたら、しょんぼりとうな垂れるツィリルを発見した
在处理快要腐烂的木材时,发现了垂头丧气的齐里尔。
 腐りかけた木材を処分していたら、しょんぼりとうな垂れるツィリルを発見した。
「ツィリル、どうしたんだ?」
“齐丽尔,怎么了?”
「……」
「……」
 涙目のまま、黙り込んでしまう。何か、嫌なことがあったのだろう。しゃがみ込んで、話をきいてみる。
涙目のまま、黙り込んでしまう。何か、嫌なことがあったのだろう。しゃがみ込んで、話をきいてみる。
眼泪就这样沉默着。有什么讨厌的事吗。蹲下,试着听说话。
「ツィリル、こっちにおいで」
“齐丽尔,过来。”
白詰草の花畑が見える柵に、ツィリルを抱き上げて座らせた。ポケットに入れていた、非常食の飴玉を手のひらに握らせる。
在能看到白诘草花圃的栅栏上,抱起齐丽尔让他坐了下来。把放在口袋里的紧急食品的糖果握在手掌上。
ツィリルは飴を口に放り込み、ポロリと涙を零した。
齐里尔把糖扔进嘴里,扑通一声流下眼泪。
よほど、辛い目に遭ったのだろう。
大概是遭遇了相当痛苦的事情吧。
しばらく、白詰草が揺れる花畑を眺める。夕暮れ時でも、蜜蜂はせっせと蜜を集めていた。俺達と同じで、街の就業を促す鐘の音が聞こえても、仕事は終わりではないらしい。
暂时眺望白诘草摇曳的花田。即使是傍晚,蜜蜂也在不停地收集蜜。和我们一样,即使听到催促街道就业的钟声,工作也不会结束。
ツィリルは服の袖で涙を拭っていたので、ハンカチを差し出す。すると、豪快に鼻をかんでいた。思わず、笑ってしまう。
 白詰草の花畑が見える柵に、ツィリルを抱き上げて座らせた。ポケットに入れていた、非常食の飴玉を手のひらに握らせる。
齐丽尔用衣服的袖子擦着眼泪,拿出手帕。于是,豪爽地擤着鼻子。不由得笑了起来
 ツィリルは飴を口に放り込み、ポロリと涙を零した。
 よほど、辛い目に遭ったのだろう。
 しばらく、白詰草が揺れる花畑を眺める。夕暮れ時でも、蜜蜂はせっせと蜜を集めていた。俺達と同じで、街の就業を促す鐘の音が聞こえても、仕事は終わりではないらしい。
ツィリルも、なんだかおかしくなったのだろう。泣きながら、笑っていた
 ツィリルは服の袖で涙を拭っていたので、ハンカチを差し出す。すると、豪快に鼻をかんでいた。思わず、笑ってしまう。
齐里尔也总觉得奇怪吧。一边哭一边笑。
それから、ツィリルは何があったのかぽつり、ぽつりと話してくれた。
然后,齐里尔嘀嘀咕咕地告诉我发生了什么事。
 ツィリルも、なんだかおかしくなったのだろう。泣きながら、笑っていた。
 それから、ツィリルは何があったのかぽつり、ぽつりと話してくれた。
「ロマナ姉ちゃんからもらったクリームケーキを食べていたら、いきなりサシャ兄に頭を叩かれたんだ」
“吃着罗曼娜姐姐给我的奶油蛋糕,突然被萨沙哥哥敲了头。”
「なんだそりゃ。酷いな」
“那是什么?太过分了。”
「うん。サシャ兄は、ロマナ姉ちゃんから、クリームケーキを貰ってなかったみたいで」
“嗯。萨沙哥哥好像没有从罗曼娜姐姐那里得到奶油蛋糕。”
俺が二切れも食べたからだろうか。夫には最優先にしてほしい。
是因为我吃了两片吗。希望丈夫最优先。
 俺が二切れも食べたからだろうか。夫には最優先にしてほしい。
「それにしても、呆れるな。サシャの奴、食い意地が張った、恥ずかしい奴め」
“即便如此,也别吃惊。萨沙的家伙,是个贪吃的,害羞的家伙。”
「だよな」
「是啊。」
サシャは子どもが苦手なようで、甥や姪とも極力関わらないようにしている。それなのに、ツィリルを見つけてはいじわるを言ったり、からかったりしているらしい。
萨沙好像不擅长孩子,尽量不和侄子和侄女扯上关系。尽管如此,找到齐里尔却又说欺负人的话,又好像在嘲笑他。
たぶんだけれど、俺とツィリルの仲がいいので、変なふうに絡んでしまうのだろう。
大概是因为我和齐丽尔的关系很好,所以会像奇怪的样子缠在一起吧。
ミハルが言っていたように、俺がこの家にいると、いろいろダメになってしまうのかもしれない。
 サシャは子どもが苦手なようで、甥や姪とも極力関わらないようにしている。それなのに、ツィリルを見つけてはいじわるを言ったり、からかったりしているらしい。
正如米哈尔所说,我在这个家里的话,可能会变得各种各样的不行。
ロマナやサシャだけではなく、ツィリルも。
不仅是罗曼娜和萨沙,还有齐里尔。
 たぶんだけれど、俺とツィリルの仲がいいので、変なふうに絡んでしまうのだろう。
 ミハルが言っていたように、俺がこの家にいると、いろいろダメになってしまうのかもしれない。
 ロマナやサシャだけではなく、ツィリルも。
 
「サシャ兄は、おれが、嫌いなのかな?」
“萨沙哥哥讨厌我吗?”
「そんなことはないよ。機嫌が悪かっただけだ」
“没那回事,我只是心情不好。”
「だったら、いいけど」
“那就好。”
しょんぼりうなだれるツィリルを、柵から下ろしてやった。
他把垂头丧气的齐里尔从栅栏上弄下来。
もう、元気づける菓子はないし、かける言葉も見つからない。どうしたら、元気になってくれるのか。
已经没有让人振奋的点心了,也找不到打招呼的话了。怎样才能恢复精神呢。
一個だけ、思いつく。
只想到一个。
どうしようか迷ったが、ツィリルを元気づけるために使うことにした。
虽然不知道该怎么办,但还是决定用它来鼓舞齐丽尔。
 しょんぼりうなだれるツィリルを、柵から下ろしてやった。
 もう、元気づける菓子はないし、かける言葉も見つからない。どうしたら、元気になってくれるのか。
「よし! ツィリル、これから、秘密基地に案内してやる」
 一個だけ、思いつく。
“好!齐丽尔,我现在带你去秘密基地。”
 どうしようか迷ったが、ツィリルを元気づけるために使うことにした。
「え、いいの? おれ、大きくなっていないけれど」
“啊,可以吗?我还没长大呢。”
「よし! ツィリル、これから、秘密基地に案内してやる」
「え、いいの? おれ、大きくなっていないけれど」
「特別だから」
“因为特别。”
「やったー!」
“太好了!”
花畑養蜂園からブレッド湖の小屋まで、徒歩十分ほど。
从花圃养蜂园到布莱德湖的小屋,步行10分钟左右。
暗くなる前に、帰らないといけない。駆け足で向かった。
天黑之前必须回去。跑着去了。
 花畑養蜂園からブレッド湖の小屋まで、徒歩十分ほど。
 暗くなる前に、帰らないといけない。駆け足で向かった。
小屋を見せた瞬間、ツィリルの瞳はキラリと輝いた。
看到小屋的瞬间,齐丽尔的眼睛闪闪发光。
 小屋を見せた瞬間、ツィリルの瞳はキラリと輝いた。
 中を見せてやると、興奮した様子で振り返る。
中を見せてやると、興奮した様子で振り返る。
让他看看里面,他兴奋地回头看。
「すげーー! 秘密基地だ! イヴァン兄、ここで寝泊まりしていたんだ」
“太棒了!这是秘密基地!伊凡哥哥,就住在这里。”
「すげーー! 秘密基地だ! イヴァン兄、ここで寝泊まりしていたんだ」
「まあね」
“嗯。”
保存食の棚と、釣り道具一式、それから就寝用の寝具があるばかりの部屋だ。だが、ツィリルにとっては最高の秘密基地なのだろう。
这是一间有保存食品的架子和一套钓鱼用具,还有睡觉用的寝具的房间。但是,对齐里尔来说是最好的秘密基地吧。
 保存食の棚と、釣り道具一式、それから就寝用の寝具があるばかりの部屋だ。だが、ツィリルにとっては最高の秘密基地なのだろう。
今日は見せるだけ。後日、また連れてきて、一緒に釣りをしようと誘った。ツィリルは頬を赤く染めながら、何度も頷く
今天只给你看。后来我又带你来,约你一起钓鱼。齐里尔红着脸颊,多次点头。
 今日は見せるだけ。後日、また連れてきて、一緒に釣りをしようと誘った。ツィリルは頬を赤く染めながら、何度も頷く。
「一人で、ここに来たらダメだからね」
“一个人来这里是不行的。”
「わかった!」
“知道了!”
帰りも走る。早く行かないと、夕食を食いっぱぐれてしまうだろう。
回去也跑。不早点去的话,晚饭会吃个稀饭的吧。
元気な横顔を見せているツィリルを見て、心から安堵した。
看到露出健康侧脸的齐丽尔,我从心底感到安心。
◇◇◇
◇◇◇
夜、ツィリルと共になんとか夕食を確保し、星空の下で食べた。
晚上,我和齐里尔一起设法确保了晚餐,在星空下吃了。
今度の休みに行く釣りについて、ああではない、こうではないと話し合っていたら、義姉がツィリルを迎えにやってきた。風呂の時間らしい。
关于这次休假去钓鱼的事,不是那样的,不是这样的话,姐姐来接齐丽尔了。好像是洗澡的时间。
 帰りも走る。早く行かないと、夕食を食いっぱぐれてしまうだろう。
俺も、自分で作った風呂で湯を浴びる
 元気な横顔を見せているツィリルを見て、心から安堵した。
我也在自己做的浴室里洗澡
 ◇◇◇
大家族ともなると、風呂の順番も戦争だ。なんども沸かしては湯を追加し、というのを女性陣は繰り返している。
一旦成为大家庭,洗澡的顺序也是战争。女性阵容反复着多次烧开后追加热水。
 夜、ツィリルと共になんとか夕食を確保し、星空の下で食べた。
 今度の休みに行く釣りについて、ああではない、こうではないと話し合っていたら、義姉がツィリルを迎えにやってきた。風呂の時間らしい。
待つ時間がもったいないし、女性陣の手をわずらわせるのも申し訳ない。そのため、自作したのだ
 俺も、自分で作った風呂で湯を浴びる。
等待的时间太浪费了,让女性阵容的手麻烦也很抱歉。因此,是自制的
 大家族ともなると、風呂の順番も戦争だ。なんども沸かしては湯を追加し、というのを女性陣は繰り返している。
 待つ時間がもったいないし、女性陣の手をわずらわせるのも申し訳ない。そのため、自作したのだ。
 とは言っても、風呂と呼べる代物ではないのかもしれない。
とは言っても、風呂と呼べる代物ではないのかもしれない。
 大人数用の大鍋を買い、そこに水を張って外でぐつぐつ煮立たせる。それを、三分の一水を注いだ樽に注ぐだけだ。
话虽如此,也许不是可以称为浴室的东西
 屋外なので、冬は寒い。けれど、蜜蜂は汗の臭いに敏感なので、巣箱に近づけなくなる。
 体は清潔さを保っていないといけないのだ。
 石鹸で全身洗い、樽の湯船に浸かる。
大人数用の大鍋を買い、そこに水を張って外でぐつぐつ煮立たせる。それを、三分の一水を注いだ樽に注ぐだけだ。
买了很多人用的大锅,在那里贴上水,在外面咕嘟咕嘟地煮。只是把它倒进倒了三分之一水的桶里。
屋外なので、冬は寒い。けれど、蜜蜂は汗の臭いに敏感なので、巣箱に近づけなくなる。
因为是室外,所以冬天很冷。但是,蜜蜂对汗臭很敏感,所以不能靠近蜂箱。
体は清潔さを保っていないといけないのだ。
身体必须保持清洁。
石鹸で全身洗い、樽の湯船に浸かる。
用肥皂全身清洗,浸泡在桶里的澡盆里。
「はー……」
“啊……”
 星がきれいだ。そんなことを考えつつ、ゆったりと空を眺めていた。
星がきれいだ。そんなことを考えつつ、ゆったりと空を眺めていた。
星星很漂亮。一边想着那样的事情,一边悠闲地眺望着天空。
家に戻ると、兄達は酒盛りを楽しんでいるようだった。いい気なものである。
回到家,哥哥们好像很享受酒宴。好心好意。
屋根裏部屋に行こうとしたが、押し上げて開ける小口が開かない。
我想去阁楼房间,但是推上去打开的小口打不开。
 家に戻ると、兄達は酒盛りを楽しんでいるようだった。いい気なものである。
 屋根裏部屋に行こうとしたが、押し上げて開ける小口が開かない。
「うわっ、最悪」
“哇,糟透了。”
誰かが、小口の上で眠っているのだろう。たまに、あるのだ。
 誰かが、小口の上で眠っているのだろう。たまに、あるのだ。
有人在小口上睡着了吧。偶尔会有
 まあ、今日は小屋に行こうと思っていたので、別にいいのだが。
まあ、今日は小屋に行こうと思っていたので、別にいいのだが。
 にゃんにゃんおじさんこと、マクシミリニャンは小屋に来ているだろうか。きっと、必死になって婿を探していたはずだ
嗯,我今天想去小屋,没关系
 肉が売れたかも、気になる。
 外套を着込み、小屋へ向かった。人影はない。
 来たら、扉でも叩いてくるだろう。そう思い、布団へ潜り込んだ。
にゃんにゃんおじさんこと、マクシミリニャンは小屋に来ているだろうか。きっと、必死になって婿を探していたはずだ。
喵喵叔叔,马克西米莉娜来小屋了吗。一定是拼命地寻找女婿。
 まどろんでいたら、扉がトントンと叩かれる。ハッと目を覚まし、起き上がった。
 マクシミリニャンだろう。
肉が売れたかも、気になる。
肉可能卖出去了,我很在意。
外套を着込み、小屋へ向かった。人影はない。
穿上大衣,走向了小屋。没有人影。
来たら、扉でも叩いてくるだろう。そう思い、布団へ潜り込んだ。
来了的话,门也会敲的吧。这样想着,钻进了被窝。
まどろんでいたら、扉がトントンと叩かれる。ハッと目を覚まし、起き上がった。
如果睡着了,门就会被咚咚地敲。突然醒来,爬了起来。
マクシミリニャンだろう。
是马克西米利尼亚吧。
寝ぼけ眼で扉を開くと、思いがけない人物が懐へと飛び込んできた。
睡眼惺忪地打开门,一个意想不到的人跳进怀里。
 寝ぼけ眼で扉を開くと、思いがけない人物が懐へと飛び込んできた。
「イヴァンさん!」
「ロマナ!?」
“伊凡先生!”
「ロマナ!?」
“罗曼娜!?”

556
013.md

@ -1,315 +1,737 @@
養蜂家の青年は、兄の妻の話を聞く
 なぜ、ロマナがここにいるのか。思考が追いつかず、混乱する。
养蜂青年听哥哥妻子的话
なぜ、ロマナがここにいるのか。思考が追いつかず、混乱する。
为什么罗曼娜会在这里。思考跟不上,混乱。
この小屋は、家族の中ではツィリルしか知らない。
这个小屋,家族中只有齐里尔知道。
 この小屋は、家族の中ではツィリルしか知らない。
「どうして、ここに?」
“为什么会在这里?”
「前に、サシャさんに家を追い出されたときがあって、そのときに、どこかに行くイヴァンさんを見かけて、ついていったらここにたどり着いて……」
“以前,有一次被萨沙先生赶出了家,那个时候,看到了去哪里的伊凡先生,跟着就到了这里……”
「なんで、声をかけなかったの?」
“为什么不打招呼?”
「迷惑だと、思いまして」
“我觉得很麻烦。”
 どこから突っ込んでいいものかわからず、頭を抱え込む。
 まさか、ロマナにあとをつけられているのに気付いていなかったなんて。それに、サシャが家を追い出したとは、何事なのか
どこから突っ込んでいいものかわからず、頭を抱え込む
 寒いけれど、ロマナを小屋に入れるわけにはいかない。個室で二人きりなんて、絶対に許されないだろう。とりあえず、寒いので外に焚き火を用意する
不知道从哪里吐槽好,抱着头
 木の枝を重ね合わせ、枯れ葉を被せる。解した麻紐に向かって火打金と火打石を擦り合わせたら、火花が散って着火した。
まさか、ロマナにあとをつけられているのに気付いていなかったなんて。それに、サシャが家を追い出したとは、何事なのか。
没想到,我竟然没注意到罗曼娜跟在我后面。再说,萨沙把家赶出去,这是怎么回事。
寒いけれど、ロマナを小屋に入れるわけにはいかない。個室で二人きりなんて、絶対に許されないだろう。とりあえず、寒いので外に焚き火を用意する。
虽然很冷,但是不能把罗曼娜放进小屋里。在单间里只有两个人,绝对不允许吧。总之,因为很冷,所以在外面准备篝火。
木の枝を重ね合わせ、枯れ葉を被せる。解した麻紐に向かって火打金と火打石を擦り合わせたら、火花が散って着火した。
把树枝重叠起来,盖上枯叶。面对解开的麻绳,把打火的钱和火石擦在一起,火花四溅,点火了。
ふーふーと息を吹きかけると、だんだんと火が大きくなる。しだいに、ロマナの姿が暗闇の中で浮き彫りになった。
呼呼地吹气,火渐渐变大了。渐渐地,罗曼娜的身影在黑暗中浮现出来。
彼女は外套を着ておらず、薄い寝間着姿だったことに気付く。
她发现她没有穿外套,穿着单薄的睡衣。
 ふーふーと息を吹きかけると、だんだんと火が大きくなる。しだいに、ロマナの姿が暗闇の中で浮き彫りになった。
 彼女は外套を着ておらず、薄い寝間着姿だったことに気付く。
「ちょっとロマナ、なんで、その恰好!?」
“有点罗曼娜,为什么,那个打扮!?”
慌てて外套を脱ぎ、肩にかけてやる。必要ないと遠慮していたが、いいから着ていろと怒鳴ってしまった。
慌忙脱下外套,披在肩上。虽然很客气地说没有必要,但是因为可以,所以怒吼说要穿。
 慌てて外套を脱ぎ、肩にかけてやる。必要ないと遠慮していたが、いいから着ていろと怒鳴ってしまった。
「もう、理解不能なんだけれど」
「我已经无法理解啦。」
額を押さえた瞬間、ロマナが抱きついてきた。踏ん張るのが一瞬遅れたら、そのまま焚き火に背中から倒れ込んでいただろう。危ないことをする。
压住额头的瞬间,罗曼娜抱了过来。如果坚持一瞬间晚了的话,就直接从背后倒在篝火上吧。做危险的事。
「ちょっと、なんなの? 俺、サシャじゃないんだけど!」
“喂,这是什么?我不是萨沙!”
 額を押さえた瞬間、ロマナが抱きついてきた。踏ん張るのが一瞬遅れたら、そのまま焚き火に背中から倒れ込んでいただろう。危ないことをする。
ロマナは何も答えず、ただただ震えるばかりだ。嗚咽も聞こえる。泣いているのだろう
罗曼娜什么也没回答,只是发抖。也能听到呜咽。是在哭吧。
「ちょっと、なんなの? 俺、サシャじゃないんだけど!」
さっきも、サシャに家を追い出されたと言っていた。いったい、夫婦の中で何が起こっているのか。
刚才也说被萨沙赶出了家。到底夫妻之间发生了什么。
 ロマナは何も答えず、ただただ震えるばかりだ。嗚咽も聞こえる。泣いているのだろう。
 さっきも、サシャに家を追い出されたと言っていた。いったい、夫婦の中で何が起こっているのか。
 悪いと思いつつも、ロマナを引き離す。
悪いと思いつつも、ロマナを引き離す。
虽然觉得不好,但还是离开了罗曼娜。
大きくなった火のおかげで、はっきりロマナの顔が見えた。
多亏了大火,我清楚地看到了罗曼娜的脸。
驚くべきことに、頬に大きな内出血の痕があった。
令人吃惊的是,脸颊上有一个很大的内出血痕迹。
 大きくなった火のおかげで、はっきりロマナの顔が見えた。
 驚くべきことに、頬に大きな内出血の痕があった。
「なっ……これ、サシャにやられたの!?」
“啊……这个,是被萨沙打了吗!?”
ロマナは顔を背け、黙り込む。薬は何もないが、とりあえず冷やしたほうがいいだろう。
罗曼娜转过脸,沉默不语。虽然没有什么药,但还是先冷却一下比较好吧。
布を湖に浸し、きつく絞る。それを、ロマナの頬に当ててやった。
把布浸在湖里,拧得紧紧的。我把它贴在了罗曼娜的脸颊上。
 ロマナは顔を背け、黙り込む。薬は何もないが、とりあえず冷やしたほうがいいだろう。
 布を湖に浸し、きつく絞る。それを、ロマナの頬に当ててやった。
昼間に見た首を絞めたあとも、見間違いではないのだろう
 昼間に見た首を絞めたあとも、見間違いではないのだろう。
掐了白天看到的脖子之后,也不是看错了吧
 おそらく、サシャは日常的にロマナに暴力をふるっている。
 今までは、見えない場所をぶっていたのかもしれない。
 なんて酷いことをするのか。理解不能だ。
おそらく、サシャは日常的にロマナに暴力をふるっている
恐怕萨沙在日常生活中对罗曼娜施暴。
「ねえ、ロマナ。何があったの? どうして、叩かれたの?」
今までは、見えない場所をぶっていたのかもしれない。
到现在为止,可能是在看不见的地方戴着。
なんて酷いことをするのか。理解不能だ。
你做了多么过分的事啊。不能理解。
「ねえ、ロマナ。何があったの? どうして、叩かれたの?」
「喂,罗曼娜,发生了什么事?为什么被打了?」
ロマナはスンスン泣くばかりで、何も話そうとしない。もはや、ため息しか出てこない。
罗曼娜只是一味地哭,什么也不想说。已经只能叹气了。
明日も仕事があるので、早く眠ったほうがいいだろう。
明天还有工作,还是早点睡比较好吧。
 ロマナはスンスン泣くばかりで、何も話そうとしない。もはや、ため息しか出てこない。
 明日も仕事があるので、早く眠ったほうがいいだろう。
「ねえ、ロマナ。小屋に、布団があるからさ、そこで寝なよ。俺は、ここにいるから」
「喂,罗曼娜,小屋里有被子,在那里睡觉吧,我就在这里。」
「そんなの、できません」
“我不会。”
「なんとか頑張ってよ、そこんところをさ」
“无论如何都要努力,就在那里。”
ここで二人一緒に座っているほうが気まずい。誰かに見られたりしたら、勘違いされるだろう。
在这里两个人坐在一起比较尴尬。如果被谁看到的话,会被误解的吧。
 ここで二人一緒に座っているほうが気まずい。誰かに見られたりしたら、勘違いされるだろう。
「あの、二人で、休みませんか?」
“那个,两个人一起休息吧?”
「それは絶対にダメ。天と地がひっくり返っても、ロマナがサシャの妻でいる限り、部屋で二人きりにはなれないんだよ」
“那是绝对不行的。即使天翻地覆,只要罗曼娜是萨沙的妻子,就不能在房间里只有两个人。”
幼い子どもに諭すように、ロマナに言い聞かせる。すると、余計に泣き始めた。
像告诫年幼的孩子一样,对罗曼娜说。于是,更加开始哭了。
 幼い子どもに諭すように、ロマナに言い聞かせる。すると、余計に泣き始めた。
「イヴァンさんは、酷い、です」
「は……? なんで、俺?」
“伊凡先生很过分。”
「は……? なんで、俺?」
“是……?为什么是我?”
酷いのはサシャのほうだろう。どうして、俺が酷いことになるのか。
残酷的是萨沙吧。为什么我会变得很过分呢。
「俺、ロマナに何かした? 無視なんかしていないし、怒鳴らないし、友好的に接していたでしょう?」
“我对罗曼娜做了什么?没有无视,也没有怒吼,友好地对待她吧?”
「そ、それが、残酷なんです! や、優しくするから、好きになってしまった!」
“啊,这太残酷了!呀,因为温柔,所以喜欢上你了!”
 酷いのはサシャのほうだろう。どうして、俺が酷いことになるのか。
「俺、ロマナに何かした? 無視なんかしていないし、怒鳴らないし、友好的に接していたでしょう?」
ロマナの感情の吐露に、「あーあ」という言葉を返してしまう。
「そ、それが、残酷なんです! や、優しくするから、好きになってしまった!」
对罗曼娜的感情的吐露,返回了「啊—啊」的言词。
 ロマナの感情の吐露に、「あーあ」という言葉を返してしまう。
言わなければ、気付かなかった振りを永遠にしていたのに。この辺は、難しい問題なのだろう。
如果不说的话,就永远装作没注意到的样子。这一带是很难的问题吧。
 言わなければ、気付かなかった振りを永遠にしていたのに。この辺は、難しい問題なのだろう。
「ずっと、ずっとずっと、私は、イヴァンさんを、想って、いました」
“一直,一直,我想伊凡先生。”
だったらなぜ、サシャと結婚したのか。
那么,为什么和萨沙结婚呢。
それは、俺がロマナの好意に気付かず、のほほんとしていたからだろう。
 だったらなぜ、サシャと結婚したのか。
那是因为我没有注意到罗曼娜的好意,心不在焉吧
 それは、俺がロマナの好意に気付かず、のほほんとしていたからだろう。
「イヴァンさんは、わかって、いますか? 私が、サシャさんと結婚したのは、顔が、そっくりだから、なんです」
「イヴァンさんは、わかって、いますか? 私が、サシャさんと結婚したのは、顔が、そっくりだから、なんです」
“伊凡,你知道吗?我之所以和萨沙结婚,是因为长相一模一样。”
「ロマナ、それは、本当によくない」
“罗曼娜,那真的不好。”
もしもサシャが聞いたら、怒り狂うだろう。
如果萨沙听到了,他会大发雷霆的。
 もしもサシャが聞いたら、怒り狂うだろう。
 サシャは同じ顔をした双子の弟を下等生物だと思っていて、自分を優れた存在だと思って疑わない。
 俺が大事にしているものを根こそぎ奪うことに、喜びを感じているようなひねくれ者なのだ。
サシャは同じ顔をした双子の弟を下等生物だと思っていて、自分を優れた存在だと思って疑わない。
萨沙认为长相相同的双胞胎弟弟是下等生物,认为自己是优秀的存在毫不怀疑。
俺が大事にしているものを根こそぎ奪うことに、喜びを感じているようなひねくれ者なのだ。
他是一个对将我珍视的东西连根拔起感到高兴的乖僻的人。
もしも、ロマナが俺の代わりにサシャと結婚したことを知れば、どうなるかは想像したくなかった。
如果知道罗曼娜代替我和萨沙结婚的话,我不想想象会变成什么样。
 もしも、ロマナが俺の代わりにサシャと結婚したことを知れば、どうなるかは想像したくなかった。
「私……サシャさんに抱かれているときに、イヴァンさんの名前を口にしてしまったんです。だから、叩かれてしまって――!」
“我……被萨沙抱着的时候,说出了伊凡的名字。所以,被打了——!”
最悪だ。ロマナは絶対に言ってはいけないことを、サシャに言ってしまったようだ。
糟透了。罗曼娜似乎把绝对不能说的话告诉了萨沙。
 最悪だ。ロマナは絶対に言ってはいけないことを、サシャに言ってしまったようだ。
「それ以前にも、サシャはロマナに暴力をふるっていたんでしょう?」
“在那之前,萨沙也对罗曼娜施加过暴力吧?”
ロマナはサッと顔を伏せる。問いかけに対して肯定しているようなものだろう。
罗曼娜一下子低下了脸。对提问是肯定的吧。
 ロマナはサッと顔を伏せる。問いかけに対して肯定しているようなものだろう。
「今日は、サシャを怒らせたのが原因だとして、その首を絞めた痕はなんだったの?」
“今天是因为惹怒了萨沙,勒住她的脖子的痕迹是什么?”
首を絞めるなんて、よほどのことだろう。ロマナは顔を伏せたまま、絞り出すような声で告白する。
勒紧脖子,真是太过分了。罗曼娜趴着脸,用挤出的声音告白。
 首を絞めるなんて、よほどのことだろう。ロマナは顔を伏せたまま、絞り出すような声で告白する。
「これは……サシャさんを、愛していると言わなかったから、です」
“这是因为……我没有说我爱萨沙。”
「しょーもな!!」
“没办法!!”
明日、朝一番に母に報告しなければならないだろう。息子達には寛大な母も、暴力には人一倍厳しい。きっと、サシャを怒ってくれるだろう。
明天早上要第一时间向妈妈报告吧。对儿子们宽宏大量的母亲对暴力也比别人严厉一倍。一定会让萨沙生气的吧。
問題は、ロマナだ。もう、サシャと夫婦関係を続けるのは不可能だろう。
问题是罗曼娜。已经不可能和萨沙继续夫妻关系了吧。
 明日、朝一番に母に報告しなければならないだろう。息子達には寛大な母も、暴力には人一倍厳しい。きっと、サシャを怒ってくれるだろう。
 問題は、ロマナだ。もう、サシャと夫婦関係を続けるのは不可能だろう。
「私は、これから、どうすれば……」
“我今后该怎么办……”
 ロマナがこうなってしまったのは、花畑養蜂園に連れてきた俺のせいでもある。
 ひとまず、ロマナは修道院に預ければいい。そのあと、サシャと離婚させて、独立したあと責任を取ればいいのか。
ロマナがこうなってしまったのは、花畑養蜂園に連れてきた俺のせいでもある。
 考えを張り巡らせていたら、ふいにミハルの言葉が甦った
罗曼娜变成这样,也是因为我带她来到花田养蜂园的缘故
 ――人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ!
ひとまず、ロマナは修道院に預ければいい。そのあと、サシャと離婚させて、独立したあと責任を取ればいいのか。
首先,罗曼娜可以寄存在修道院。之后,让萨沙离婚,独立后负责任就好了吗。
 ハッと、我に返る。
 また俺は、誰かのために自分の人生を犠牲にしようとしていた。
 このままでは、いけない。
 俺は俺の人生を歩まないといけないし、ロマナもロマナの人生を歩まないといけないのだ
考えを張り巡らせていたら、ふいにミハルの言葉が甦った
在反复思考的时候,米哈尔的话突然复活了。
――人生は、家族のためにあるものではない。自分のためのものなんだよ!
——人生不是为了家人而存在的。是为了自己的东西!
ハッと、我に返る。
哈,回过神来。
また俺は、誰かのために自分の人生を犠牲にしようとしていた。
我又为了谁而牺牲了自己的人生。
このままでは、いけない。
这样下去可不行。
俺は俺の人生を歩まないといけないし、ロマナもロマナの人生を歩まないといけないのだ。
我必须走我的人生,罗曼娜也必须走罗曼娜的人生。
一度、ロマナのことは助けている。あとの人生は、自分で希望を切り開くべきなのだ。
有一次,罗曼娜的事在帮助。以后的人生,应该自己开辟希望。
 一度、ロマナのことは助けている。あとの人生は、自分で希望を切り開くべきなのだ。
「ロマナ、太陽が昇ったら、街の修道院に行こう」
“罗曼娜,太阳升起后,我们去街上的修道院吧。”
「え?」
“诶?”
「もう、ここを出て行くんだ。サシャのいる場所は、ロマナの居場所じゃない」
「你要离开这里了,萨沙所在的地方不是罗曼娜的住处。」
「そんな、そんなの……!」
“那样啊,那样啊……!”
 ロマナの表情が、絶望に染まっていく。
 住み慣れた場所を離れるのは辛いだろう。養蜂も、彼女の天職のように思えた。けれど、ここで我慢をしたらロマナが壊れてしまう。
 それだけは、避けたい。
ロマナの表情が、絶望に染まっていく。
罗曼娜的表情染上了绝望。
住み慣れた場所を離れるのは辛いだろう。養蜂も、彼女の天職のように思えた。けれど、ここで我慢をしたらロマナが壊れてしまう。
离开住惯了的地方很辛苦吧。养蜂也像是她的天职。但是,如果在这里忍耐的话,罗曼娜就会坏掉。
それだけは、避けたい。
只有那个,想避开。
「い、嫌です」
“不,我不喜欢。”
「いや、嫌じゃなくって、そうしないと、ロマナ、いつか、サシャに殺されるよ?」
“不,不是讨厌,如果不那样做的话,罗曼娜,总有一天会被萨沙杀死的。”
「殺されても、構いません。私は、一秒でも長く、イヴァンさんと、一緒にいたい!」
“被杀也没关系。我想和伊凡在一起,哪怕是一秒钟也好!”
 再び、ロマナが胸に飛び込んできた。今度は勢いがあったので、押し倒されてしまった。
 もちろん、焚き火のない方向へ。
再び、ロマナが胸に飛び込んできた。今度は勢いがあったので、押し倒されてしまった
罗曼娜再次跳入胸膛。因为这次有气势,所以被推倒了。
もちろん、焚き火のない方向へ。
当然,朝着没有篝火的方向。
「待って、待ってロマナ。落ち着いて! 冷静になって!」
“等等,等等,罗曼娜。冷静点!冷静点!”
「待って、待ってロマナ。落ち着いて! 冷静になって!」
「落ち着いていますし、極めて冷静です!」
“沉着冷静,非常冷静!”
人を押し倒しておいて、落ち着いているはないだろう。冷静ではない確かな証拠だ。
把人推倒,不可能冷静下来吧。这是不冷静的确凿证据。
 人を押し倒しておいて、落ち着いているはないだろう。冷静ではない確かな証拠だ。
「起き上がってから、話をしよう。ね、ロマナ」
“起床后,我们再聊。喂,罗曼娜。”
なるべく優しい声で言ったつもりだったが、それに対するロマナの返答は最低最悪だった。
虽然打算尽量用温柔的声音说,但是罗曼娜对那个的回答是最糟糕的。
 なるべく優しい声で言ったつもりだったが、それに対するロマナの返答は最低最悪だった。
「私を、抱いてください!」
“请抱着我!”
「ちょっ、どうしてそうなるの!?」
“喂,为什么会这样!?”
「一度、抱いていただけたら、私はそれを一生の思い出として、大事にしますので」
“如果你能抱着我一次,我会把它作为一生的回忆,珍惜它。”
「いや、無理無理無理無理無理!!」
“不,不行不行不行不行不行!!”
何回「無理!!」と叫んだのか、よくわからない。
不知道喊了多少次“不行!!”。
いったんここで抱いたほうがロマナの気持ちが治まるとわかっていても、絶対にそれはできない行為である。
即使知道暂时在这里抱着会治好罗曼娜的心情,但这是绝对做不到的行为。
 何回「無理!!」と叫んだのか、よくわからない。
 いったんここで抱いたほうがロマナの気持ちが治まるとわかっていても、絶対にそれはできない行為である。
 ロマナともみくちゃになっているうちに、キスされそうになった。寸前で、回避した。
ロマナともみくちゃになっているうちに、キスされそうになった。寸前で、回避した。
和罗曼娜挤在一起的时候,差点被吻了。就在眼前,回避了。
「他の男に抱かれた私が、穢らわしいから、そういうことを、するのですか!?」
“被其他男人抱着的我,因为肮脏,才会做那样的事吗!?”
「そうじゃないーい!!」
“不是那样的!!”
「だったら!!」
“那么!!”
「おい、お前ら、そこで何をしているんだ!?」
“喂,你们在那里干什么!?”
聞こえたのは、サシャの絶叫である。どでかい声で言い合っていたので、接近に気付かなかったのだろう。
听到的是萨沙的尖叫。因为大声地说着,所以没注意到接近吧。
 聞こえたのは、サシャの絶叫である。どでかい声で言い合っていたので、接近に気付かなかったのだろう。
なんていうか、俺の人生、終わった
 なんていうか、俺の人生、終わった。
怎么说呢,我的人生结束了

372
014.md

@ -1,211 +1,481 @@
養蜂家の青年は、双子の兄に詰め寄られる
 最低最悪のタイミングで、サシャに見つかってしまった。
养蜂家的青年被双胞胎哥哥逼着
最低最悪のタイミングで、サシャに見つかってしまった。
在最坏的时机,被萨沙发现了。
「ロマナ、離れて!」
“罗曼娜,走开!”
「い、嫌っ!」
“讨厌!”
ロマナは離れるどころか、サシャがやってきても尚、俺にすがりつく。
罗曼娜不但没有离开,即使萨沙来了,也会紧紧地抱住我。
どうしてこうなった。ブレッド湖に向かって、大声で叫びたい。
怎么会变成这样。我想对着布莱德湖大声喊。
 ロマナは離れるどころか、サシャがやってきても尚、俺にすがりつく。
 どうしてこうなった。ブレッド湖に向かって、大声で叫びたい。
「お前っ!!」
“你!!”
あろうことか、サシャはロマナの体を突き飛ばした。
不知道怎嚒回事,萨沙把罗曼娜的身体推开了。
そして彼女のことは目もくれず、俺に馬乗りになって拳を上げた。
 あろうことか、サシャはロマナの体を突き飛ばした。
然后她连眼睛都不看,骑着我举起了拳头
 そして彼女のことは目もくれず、俺に馬乗りになって拳を上げた。
「イヴァン!! この野郎!! ロマナに手を出しやがって!!」
「イヴァン!! この野郎!! ロマナに手を出しやがって!!」
“伊凡!!你这个混蛋!!你要对罗曼娜出手!!”
 右頬、左頬にと、サシャは強烈な拳を叩き込んでくれた。とっさに歯を食いしばったものの、それでも激痛が走り、口の中に血の味が広がった。
「止めて、止めてください! イヴァンさんは、何も悪くありません」
「ロマナ!! お前は、黙っていろ」
右頬、左頬にと、サシャは強烈な拳を叩き込んでくれた。とっさに歯を食いしばったものの、それでも激痛が走り、口の中に血の味が広がった。
在右脸颊、左脸颊上,萨沙敲了一记强烈的拳头。虽然马上咬紧牙关,但还是剧痛,口中充满了血的味道。
 近寄ってきたロマナの頬ですら、サシャは叩いた。
 ロマナの体は吹き飛び、地面を転がっていく。
 打ち所が悪かったのだろう。倒れたまま、起き上がろうとしない。
「止めて、止めてください! イヴァンさんは、何も悪くありません」
“停下来,停下来!伊凡先生,没什么不好的。”
「ロマナ!! お前は、黙っていろ」
“罗曼娜!!你给我闭嘴。”
近寄ってきたロマナの頬ですら、サシャは叩いた。
就连靠近的罗曼娜的脸颊,萨沙也敲了一下。
ロマナの体は吹き飛び、地面を転がっていく。
罗曼娜的身体被吹飞,在地上滚下去。
打ち所が悪かったのだろう。倒れたまま、起き上がろうとしない。
是打的地方不好吧。倒下了,不想起来。
「サシャ、ロマナに手を、上げては、いけない」
「うるさい!! お前ら二人は、夜な夜な隠れて、楽しんでいたのかよ!! 俺のことを、陰でバカにしていたんだろう!?」
“萨沙,你不能把手举起来。”
「うるさい!! お前ら二人は、夜な夜な隠れて、楽しんでいたのかよ!! 俺のことを、陰でバカにしていたんだろう!?」
“吵死了!!你们两个晚上都躲起来玩得开心吗!!你们是在背后嘲笑我吧!?”
「違う……違う……!」
“不是……不是……!”
サシャはどうして、この場所がわかったのだろうか。
萨沙怎么会知道这个地方呢。
そう思った瞬間、もう一人、誰かいるのに気付いた。ツィリルだ。
这样想的瞬间,发现还有一个人。是齐里尔。
 サシャはどうして、この場所がわかったのだろうか。
 そう思った瞬間、もう一人、誰かいるのに気付いた。ツィリルだ。
目が合うと、ツィリルは一歩、二歩と後ずさる
 目が合うと、ツィリルは一歩、二歩と後ずさる。
目光相遇后,齐里尔后退了一步、两步
 きっと、ロマナと俺がいないとサシャに詰め寄られ、居場所を吐くように言われたのだろう。
きっと、ロマナと俺がいないとサシャに詰め寄られ、居場所を吐くように言われたのだろう。
一定是罗曼娜和我不在的时候被萨沙逼着,被要求吐出住处吧。
「……ツィリル」
“……齐里尔”
逃げてと言う前に、サシャに殴られた。ゲホゲホと咳き込んだら、口の端から血が滴っていく。
在我叫你逃跑之前,我被萨沙打了。咯咯地咳了一声,血从嘴边滴了下来。
 逃げてと言う前に、サシャに殴られた。ゲホゲホと咳き込んだら、口の端から血が滴っていく。
視界の端で、ツィリルが走って行く様子が見えた。
在视野的边缘,看到了齐里尔跑过去的样子。
 視界の端で、ツィリルが走って行く様子が見えた。
「よかった」
“太好了。”
安堵の表情ですら、気に食わないらしい。サシャは、顔面を殴り続ける。
连安心的表情都不喜欢。萨沙继续打他的脸。
「みんな、イヴァン、イヴァンって、お前ばかり気にするんだ!! 小さいときから、ずっと!! それが、気に食わなかったんだ!!」
“大家,伊凡,伊凡,都只在乎你!!从小到大,一直都是!!我不喜欢那个!!”
 安堵の表情ですら、気に食わないらしい。サシャは、顔面を殴り続ける。
「みんな、イヴァン、イヴァンって、お前ばかり気にするんだ!! 小さいときから、ずっと!! それが、気に食わなかったんだ!!」
そんなことはない。家族から可愛がられていたのは、明るくて元気なサシャのほうだ。
没有那样的事。被家人疼爱的是开朗活泼的萨沙。
 そんなことはない。家族から可愛がられていたのは、明るくて元気なサシャのほうだ。
 街の女の子だって、みんなサシャが好きだと言っていた。
街の女の子だって、みんなサシャが好きだと言っていた。
街上的女孩子都说喜欢萨沙。
「人気取りをしたいから、みんなの言いなりになっているんだろう? そんな人生、楽しいか?」
“因为想取得人气,所以大家都听从了吧?这样的人生,快乐吗?”
「人気取りをしたいから、みんなの言いなりになっているんだろう? そんな人生、楽しいか?」
「さあ?」
“来吧?”
人生が楽しいとか楽しくないとか、まったく考えたことがなかった。
我完全没有想过人生是快乐还是不快乐。
 人生が楽しいとか楽しくないとか、まったく考えたことがなかった。
 これからは、自分のために生きて、人生に楽しみを見いだすのも、いいのかもしれない。
 もしも、この先生きていたらだけれど。
これからは、自分のために生きて、人生に楽しみを見いだすのも、いいのかもしれない
今后,为了自己而活,在人生中找到乐趣,也许也不错。
 だんだんと、視界がかすんでくる。
 意識も、朦朧としていた。顔はきっと、ぐちゃぐちゃだろう。
もしも、この先生きていたらだけれど。
如果今后还活着的话。
だんだんと、視界がかすんでくる。
视野渐渐模糊了。
意識も、朦朧としていた。顔はきっと、ぐちゃぐちゃだろう。
意识也朦胧了。脸一定很乱吧。
死ぬほど痛いけれど、叫ぶ元気すらない。
虽然痛得要死,但连叫喊的精神都没有。
 死ぬほど痛いけれど、叫ぶ元気すらない。
「俺は、お前のことが、大嫌いだ!!」
“我最讨厌你了!!”
「そう、なんだ」
“是,是什么?”
俺は不思議と、サシャのことは嫌いではない。もともと一つだったものが、二つに分かれて生まれた存在だからだろうか。
不可思议的是,我并不讨厌萨沙。也许是因为原本只有一个的东西,是分成两个而诞生的存在吧。
 俺は不思議と、サシャのことは嫌いではない。もともと一つだったものが、二つに分かれて生まれた存在だからだろうか。
サシャを、どこか自分のように思っているのだろう
 サシャを、どこか自分のように思っているのだろう。
你觉得萨沙好像是自己吧
「二人も、いらなかったんだ! お前がいるから、俺は何もかも比べてしまい、劣等感に、苛まれる!」
「二人も、いらなかったんだ! お前がいるから、俺は何もかも比べてしまい、劣等感に、苛まれる!」
“两个人都不需要!因为有你,我什么都比,被自卑感折磨!”
「うん」
“嗯。”
意識が遠退いていく中で、考える。サシャが幸せになるには、どうしたらいいのかと。
在意识远退的过程中思考。萨沙想要幸福,该怎么办才好呢。
サシャ自身は、俺と真逆の思考でいるようだ。
萨沙自己好像在和我完全相反的思考。
 意識が遠退いていく中で、考える。サシャが幸せになるには、どうしたらいいのかと。
 サシャ自身は、俺と真逆の思考でいるようだ。
「いなくなれ!!」
“消失吧!!”
このまま目を閉じたら、きっと願いは叶うだろう。
就这样闭上眼睛的话,愿望一定会实现的吧。
けれど、俺はもう他人のために頑張るのを、止めたのだ。これからは、自由にさせてもらう。
但是,我已经停止为了别人而努力了。从现在开始,让我自由。
 このまま目を閉じたら、きっと願いは叶うだろう。
 けれど、俺はもう他人のために頑張るのを、止めたのだ。これからは、自由にさせてもらう。
サシャの拳が迫る瞬間、顔を少しだけ逸らした。一撃は空振りとなる。
萨沙的拳头逼近的瞬间,脸稍微偏离了一点。一击落空。
 サシャの拳が迫る瞬間、顔を少しだけ逸らした。一撃は空振りとなる。
「クソ!」
“可恶!”
もう一度、サシャは拳を振り上げた。
再一次,萨沙举起拳头。
 もう一度、サシャは拳を振り上げた。
 これ以上殴られると、さすがに生死を彷徨ってしまう。
これ以上殴られると、さすがに生死を彷徨ってしまう。
再被打下去,真不愧是生死彷徨。
「ちょっ、待っ――」
“喂,等等——”
ぎゅっと目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
紧紧地闭上眼睛,但没有受到冲击。
そっと瞼を開くと、サシャの拳が目の前にある。
轻轻睁开眼睑,萨沙的拳头就在眼前。
これは、いったいどういう状況なのか。よくよく耳を澄ますと、ツィリルの声が聞こえた。
这到底是什么情况呢。仔细一听,听到了齐里尔的声音。
 ぎゅっと目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
 そっと瞼を開くと、サシャの拳が目の前にある。
 これは、いったいどういう状況なのか。よくよく耳を澄ますと、ツィリルの声が聞こえた。
「ロマナ姉ちゃん、大丈夫!? ロマナ姉ちゃん!!」
“罗曼娜姐姐,没事吧!?罗曼娜姐姐!!”
「ロマナ姉ちゃん、大丈夫!? ロマナ姉ちゃん!!」
 ツィリルは逃げたかと思っていたのに、戻ってきたようだ。
ツィリルは逃げたかと思っていたのに、戻ってきたようだ。
我还以为齐里尔跑了呢,他好像回来了。
そして、もう一人いた。
然后,还有一个人。
サシャが振り下ろした拳を、握る誰かが。
有人握着萨沙挥下的拳头。
 そして、もう一人いた。
 サシャが振り下ろした拳を、握る誰かが。
「もう、止めよ。これ以上殴ったら、死んでしまうぞ」
“别再打了,再打,你就死定了。”
聞いたことのある、古めかしい喋りをする低い声。
听过的说话古色古香的低沉的声音。
思わず、笑ってしまった。
不由得笑了起来。
 聞いたことのある、古めかしい喋りをする低い声。
 思わず、笑ってしまった。
「にゃんにゃんおじさん、じゃん」
“喵喵叔叔,不是吗?”
その言葉を最後に、目の前が真っ暗になる。
那句话结束后,眼前一片漆黑。
 その言葉を最後に、目の前が真っ暗になる。
最期の言葉が「にゃんにゃんおじさん、じゃん」にならなければいいなと思いつつ、意識を手放した
 最期の言葉が「にゃんにゃんおじさん、じゃん」にならなければいいなと思いつつ、意識を手放した。
最后的话如果不是“喵喵大叔,不是吗”就好了,一边放弃了意识

366
015.md

@ -1,181 +1,455 @@
養蜂家の青年は、自宅にて目覚める
 にゃんにゃんと、猫の鳴き声が聞こえる。
养蜂家的青年在家里醒来
 いつもだったら気にしないのに、どうしてか鳴き声が聞こえるほうへと誘われる。
 家族の誰かが「イヴァン!」と呼んでいる気がしたが、後回しにした。
 猫の鳴き声はだんだん遠ざかっていく
にゃんにゃんと、猫の鳴き声が聞こえる
 走って追いかけないと、姿を見ることはできないだろう
喵喵地听到猫的叫声
 なんだか走りにくい気がして、兄のおさがりの帽子や外套を脱ぐ。ロマナが贈ってくれた靴や手作りの靴下も脱いだ。
 唯一自分で買ったシャツと、ズボンだけになると、ずいぶん走りやすくなった。
 ここでようやく、猫の姿が見える。
いつもだったら気にしないのに、どうしてか鳴き声が聞こえるほうへと誘われる。
 金色の毛並みに、青い瞳を持つ美しい猫だった。まるで、こっちへついてこいと誘っているような鳴き声をあげていた
如果是平常的话就不介意了,不知为什么被邀请去能听到叫声的地方
 花畑を走り抜け、草原を通り過ぎ、走って、走って、走り抜けると、生まれ育ったブレッド湖を取り囲む景色は見えなくなる。
 たどり着いたのは、深い、深い、エメラルドグリーンの美しい湖。果てなく広がる湖は、ブレッド湖よりも大きく感じた。
 そして、天を衝くようにそびえる雄大な山々。見たこともない光景が、これでもかと広がっていた。
家族の誰かが「イヴァン!」と呼んでいる気がしたが、後回しにした。
我觉得家里有人叫我“伊凡!”,但我把它往后推了。
猫の鳴き声はだんだん遠ざかっていく。
猫的叫声渐渐远去。
走って追いかけないと、姿を見ることはできないだろう。
不跑去追的话,是看不到你的身影的吧。
なんだか走りにくい気がして、兄のおさがりの帽子や外套を脱ぐ。ロマナが贈ってくれた靴や手作りの靴下も脱いだ。
总觉得很难跑,脱下哥哥的帽子和外套。她还脱下了罗曼娜送给她的鞋子和手工制作的袜子。
唯一自分で買ったシャツと、ズボンだけになると、ずいぶん走りやすくなった。
如果只是自己买的衬衫和裤子的话,就很容易跑了。
ここでようやく、猫の姿が見える。
在这里终于看到了猫的身影。
金色の毛並みに、青い瞳を持つ美しい猫だった。まるで、こっちへついてこいと誘っているような鳴き声をあげていた。
是一只金色的毛色,有着蓝色眼睛的美丽的猫。简直就像是在邀请他跟我来一样的叫声。
花畑を走り抜け、草原を通り過ぎ、走って、走って、走り抜けると、生まれ育ったブレッド湖を取り囲む景色は見えなくなる。
穿过花圃,穿过草原,跑过去,跑过去,跑过去,就看不到围绕着土生土长的布莱德湖的景色了。
たどり着いたのは、深い、深い、エメラルドグリーンの美しい湖。果てなく広がる湖は、ブレッド湖よりも大きく感じた。
到达的是深、深、翡翠绿的美丽湖泊。我感觉无边无际的湖泊比布莱德湖还要大。
そして、天を衝くようにそびえる雄大な山々。見たこともない光景が、これでもかと広がっていた。
而且,耸立着冲天的雄伟群山。从未见过的光景,就这样蔓延开来。
あまりにも美しく、自然と涙が零れる。
太美了,自然会流泪。
 あまりにも美しく、自然と涙が零れる。
「ここは!?」
“这里是!?”
猫の姿は消え、一人の少女の姿になった。姿はおぼろげで見えないけれど、どうしてか強く惹かれるものがある。
猫的身影消失了,变成了一个少女的身影。虽然样子很模糊看不见,但不知为什么却有被强烈吸引的东西。
差し出された手を掴もうとしたら、景色がぐにゃりと歪んだ。
想要抓住伸出的手,景色却扭曲了。
 猫の姿は消え、一人の少女の姿になった。姿はおぼろげで見えないけれど、どうしてか強く惹かれるものがある。
 差し出された手を掴もうとしたら、景色がぐにゃりと歪んだ。
「にゃんにゃん、にゃんにゃん」
“喵喵,喵喵”
 低い、中年親父の声が聞こえた。先ほどの、鈴の音が鳴るような猫の声とは真逆である。
 あまりにもにゃんにゃん言うので、叫んでしまった。
低い、中年親父の声が聞こえた。先ほどの、鈴の音が鳴るような猫の声とは真逆である。
听到了低沉的中年父亲的声音。和刚才那铃铛般的猫的声音完全相反。
あまりにもにゃんにゃん言うので、叫んでしまった。
因为太喵喵地说了,所以喊了起来。
「うるさいな!!」
“真烦人!!”
瞼を開くと、俺を覗き込む中年親父の姿があった。
睁开眼睛,看到了窥视我的中年父亲的身影。
 瞼を開くと、俺を覗き込む中年親父の姿があった。
「にゃんにゃんおじさん……じゃなくて、マクシミリニャン?」
“喵喵叔叔……不是,是马克西米莉娜?”
「そうである」
“是的。”
どうやら、今まで夢を見ていたようだ。何か印象的な内容だった気がするが、よく思い出せない。それよりも、顔面がズキズキ痛み、夢どころではなかった。
看来,到现在为止都在做梦。我觉得是什么印象深刻的内容,但是想不起来。与此相比,脸上的疼痛并不是梦。
 どうやら、今まで夢を見ていたようだ。何か印象的な内容だった気がするが、よく思い出せない。それよりも、顔面がズキズキ痛み、夢どころではなかった。
「痛った……!」
“好痛……!”
 ここでようやく、サシャに殴られたときの記憶が甦ってきた。
ここでようやく、サシャに殴られたときの記憶が甦ってきた。
在这里,终于恢复了被萨沙殴打时的记忆。
まずは、マクシミリニャンに感謝の気持ちを伝える。彼がいなかったら、俺はサシャに殺されていただろう。
首先,向马克西米利尼亚表达感谢之情。如果他不在的话,我会被萨沙杀死的。
 まずは、マクシミリニャンに感謝の気持ちを伝える。彼がいなかったら、俺はサシャに殺されていただろう。
「おじさん……ありがとう、ございました」
“叔叔……谢谢,谢谢。”
「気にするでない。それよりも、灯りも持たずに我に助けを求めてきた、少年に感謝するといい」
「我不介意。与其这样,还不如感谢没有点灯就向我求助的少年。」
ツィリルが、マクシミリニャンを呼んできてくれたようだ。
好像是齐里尔把马克西米利尼亚叫来了。
もともと、小屋に向かっていたようだが、それでも走って五分くらいの距離は離れていたという。
原本好像是去了小屋,但据说即使这样也离跑了五分钟左右的距离。
ツィリルのおかげで、俺は助かったのだ。
多亏了齐里尔,我得救了。
マクシミリニャンは「しばし休め」と言って出て行った。
 ツィリルが、マクシミリニャンを呼んできてくれたようだ。
马克西米利尼亚说着“暂时休息”就出去了
 もともと、小屋に向かっていたようだが、それでも走って五分くらいの距離は離れていたという。
 ツィリルのおかげで、俺は助かったのだ。
 マクシミリニャンは「しばし休め」と言って出て行った。
入れ替わるように、母が部屋に入ってくる。
母亲像换一样走进房间。
ここでようやく、この場所が母の寝室であることに気付いた。さすがに、屋根裏部屋に俺を運べなかったのだろう。
在这里,我终于注意到这个地方是母亲的卧室。真不愧是没能把我搬到阁楼里吧。
 入れ替わるように、母が部屋に入ってくる。
 ここでようやく、この場所が母の寝室であることに気付いた。さすがに、屋根裏部屋に俺を運べなかったのだろう。
「全治、一週間ですって。幸いにも、骨は折れていないそうよ」
“痊愈一周,幸好骨头没有骨折。”
呆れたように、言われてしまった。
像是被吓了一跳似的,被说了。
顔全体が死ぬほど痛いのに、骨は折れていないなんて。意外と、頑丈なのだなとしみじみ思う。
 呆れたように、言われてしまった。
整张脸都痛死了,骨头居然没有折断。意外地觉得很结实
 顔全体が死ぬほど痛いのに、骨は折れていないなんて。意外と、頑丈なのだなとしみじみ思う。
 顔は包帯だらけのようだ。傷口が痒いような気がして、気持ち悪い。 
 口の中も、切っているのかじくじく痛む。
顔は包帯だらけのようだ。傷口が痒いような気がして、気持ち悪い。
脸上好像全是绷带。我感觉伤口很痒,很恶心。
口の中も、切っているのかじくじく痛む。
嘴里也在切吗。
それよりも、気になっている件を質問してみた。
比起那个,我试着问了一下在意的事情。
 それよりも、気になっている件を質問してみた。
「サシャは?」
“萨沙呢?”
「あの子は、酷く取り乱していたから、ブレッド湖の教会に連れて行ったわ。神父様が、しばらく預かってくれるそうよ」
“那孩子太慌乱了,所以带他去了布莱德湖的教堂。听说神父会暂时保管的。”
「そうなんだ。大丈夫かな」
“是啊,没事吧。”
「あなたは、そんな状態になっても、サシャの心配をするのね」
“你即使到了那种状态,也会担心萨沙的。”
「だって、サシャは、双子の兄、だし」
“因为萨沙是双胞胎哥哥。”
自分も一歩間違えば、サシャのようになっていた可能性はある。だから、他人事のようには思えなかった。
如果自己也走错一步的话,有可能会像萨沙一样。所以,我不认为这是别人的事。
俺とサシャは、元は一つだったものが、二つになった存在だから。
我和萨沙本来是一个,但却是两个。
 自分も一歩間違えば、サシャのようになっていた可能性はある。だから、他人事のようには思えなかった。
 俺とサシャは、元は一つだったものが、二つになった存在だから。
「ロマナは?」
“罗曼娜呢?”
「修道院に行くと言って、出て行ったわ」
“他说要去修道院,然后就出去啦。”
義姉達が引き留めたようだが、修道女になると言って聞かなかったと。母も説得に行ったらしいが、取り合ってもらえなかったらしい。
大嫂们好像挽留了他,但他说要成为修女却没问。母亲好像也去劝说了,但好像没有被理睬。
 義姉達が引き留めたようだが、修道女になると言って聞かなかったと。母も説得に行ったらしいが、取り合ってもらえなかったらしい。
「まさか、サシャとロマナが上手くいっていなかったなんて、思いもしなかったわ」
“没想到萨沙和罗曼娜没能顺利进行。”
「まあ、元は他人だから、本当の家族になるのは、難しいよ」
“哎呀,原来是别人,要成为真正的家人是很难的。”
「結婚していないあなたが、どうしてわかったふうな口をきくのよ。でも、その通りなのよね」
“没有结婚的你,为什么会说出明白的话呢?但是,你说得对。”
家族とは、なんなのか。改めて、考える。
家人是什么。重新考虑。
俺達人が定義する家族とは、決して蜜蜂のように割り切った関係ではない。
我们人类定义的家族,绝对不是像蜜蜂一样割舍的关系。
手と手を取り合って助け合い、愛を与え、また愛を返す存在なのだろう。
是手和手互相帮助,给予爱,又返还爱的存在吧。
それができないと、関係は破綻してしまう。
如果做不到这一点,关系就会破裂。
 家族とは、なんなのか。改めて、考える。
 俺達人が定義する家族とは、決して蜜蜂のように割り切った関係ではない。
結婚を経て結ばれた存在であれ、血を分け合った存在であれ、特定の家族に頼り切るというのは、もはや家族ではない。
 手と手を取り合って助け合い、愛を与え、また愛を返す存在なのだろう。
无论是经过婚姻结合的存在,还是分享着鲜血的存在,依靠特定的家人已经不是家人了
 それができないと、関係は破綻してしまう。
 結婚を経て結ばれた存在であれ、血を分け合った存在であれ、特定の家族に頼り切るというのは、もはや家族ではない。
 言葉を選ばないで言うと、蜜蜂に寄生する害虫のようになってしまうのだ。
言葉を選ばないで言うと、蜜蜂に寄生する害虫のようになってしまうのだ。
 寄生されたら、本人も、家も、何もかもがダメになってしまう。
如果不选择语言的话,就会变成寄生在蜜蜂上的害虫
 ロマナもそれに、気付いてしまったのかもしれない。
 俺も、そうなりたくない。
 いい機会だと思い、母に決意を告げる。
寄生されたら、本人も、家も、何もかもがダメになってしまう。
如果被寄生的话,本人、家、一切都会变得不行。
ロマナもそれに、気付いてしまったのかもしれない。
也许罗曼娜也注意到了这一点。
俺も、そうなりたくない。
我也不想变成那样。
いい機会だと思い、母に決意を告げる。
我觉得这是个好机会,告诉母亲我的决心。
「母さん、俺、この家を出る」
“妈妈,我要离开这个家。”
「なんですって!?」
“你说什么!?”
「独立したいんだ」
“我想独立。”
母は、怒りとも悲しみともとれない表情で、じっと俺を見つめていた。
 母は、怒りとも悲しみともとれない表情で、じっと俺を見つめていた。
母亲带着愤怒和悲伤都无法消除的表情,目不转睛地看着我

504
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養蜂家の青年は、決意を語る
「独立って、どこに行くつもりなのよ? 新しく養蜂を始めるの? だったら、養蜂園に新しく土地を開墾して、花畑を作ればいいわ。家だって、窮屈だったら、新しい離れを建ててあげるし」
养蜂青年诉说着自己的决心
 俺の中に残っていた、母への情がスーッと冷え込んでいく。
「独立って、どこに行くつもりなのよ? 新しく養蜂を始めるの? だったら、養蜂園に新しく土地を開墾して、花畑を作ればいいわ。家だって、窮屈だったら、新しい離れを建ててあげるし」
 もしも、日々の仕事を認め、土地を開墾し、花畑を作って、離れを与えてくれたら心から喜んでいただろう。家を出る決意はしなかったはずだ。
“你打算独立自主地去哪里?重新开始养蜂吗?那就在养蜂园开垦新的土地,建造花圃吧。如果家里也很挤的话,我会给你建一个新的离开。”
 これまで母が俺に畑や家を与えなかったのは、家族にとって“都合がいい”からだ。
 現状、女性陣だけでは仕事は回らない。力仕事は、男手頼りとなる。
 もしも俺が自分の花畑を持ち、蜜蜂の世話で忙しくしていたら、手が足りなくなるのだ。
 だから、母は俺に花畑を与えなかった。
 家だって、俺がいたら、子どもの面倒を見る。だから、離れを与えなかったのだろう
俺の中に残っていた、母への情がスーッと冷え込んでいく
我心中残留的对母亲的感情一下子变冷了。
 家族にとって、俺は便利なだけの存在だったのだ。
 今度は独立させたくないから、引き留めるために餌を与えた。そう捉えてもいいのだろう。
もしも、日々の仕事を認め、土地を開墾し、花畑を作って、離れを与えてくれたら心から喜んでいただろう。家を出る決意はしなかったはずだ。
如果能认可每天的工作,开垦土地,建造花圃,给予离开的话,我会衷心高兴的。你应该没有决心离开家。
これまで母が俺に畑や家を与えなかったのは、家族にとって“都合がいい”からだ。
到现在为止母亲不给我田地和房子,是因为对家人来说“方便”。
現状、女性陣だけでは仕事は回らない。力仕事は、男手頼りとなる。
现状是,光靠女性阵容是无法完成工作的。体力活靠男人的双手。
もしも俺が自分の花畑を持ち、蜜蜂の世話で忙しくしていたら、手が足りなくなるのだ。
如果我有自己的花圃,忙着照顾蜜蜂的话,手就不够了。
だから、母は俺に花畑を与えなかった。
所以,妈妈没有给我花田。
家だって、俺がいたら、子どもの面倒を見る。だから、離れを与えなかったのだろう。
在家里,如果我在的话,也会照顾孩子。所以,没有给予离开吧。
家族にとって、俺は便利なだけの存在だったのだ。
对家人来说,我只是方便的存在。
今度は独立させたくないから、引き留めるために餌を与えた。そう捉えてもいいのだろう。
因为这次不想让它独立,所以给它喂食以挽留它。这样理解也可以吧。
「無理。もう、この家にはいられない。俺はこれから、自分の人生を生きるんだ」
“不行。我不能再待在这个家里了。我今后要活在自己的人生里。”
「どうして?」
“为什么?”
「だって、蜜蜂はここだけではなく、どこにだっているから」
“因为蜜蜂不仅在这里,而且到处都有。”
世界は広い。まだ、見たことのない景色が広がっているだろう。
世界是广阔的。还没有见过的景色在蔓延吧。
 世界は広い。まだ、見たことのない景色が広がっているだろう。
 
「イヴァン、あのね、世の中、甘いことばかりじゃないのよ!?」
“伊凡,那个,这个世界上,不都是甜蜜的事吗!?”
「わかっている。でも、ここにいたら、俺はダメになってしまうんだ」
“我知道。但是,如果在这里的话,我就不行了。”
サシャにとっても、家族にとっても、俺がこの家を出て行くほうがいい。
无论是萨沙还是家人,我都最好离开这个家。
 サシャにとっても、家族にとっても、俺がこの家を出て行くほうがいい。
 
「母さん、きちんと家を管理していないと、害虫に犯された蜜蜂の巣穴のように、腐ってしまうからね」
“妈妈,如果不好好管理房子的话,就像被害虫侵犯的蜜蜂的巢穴一样,会腐烂的。”
 害虫が何か、わからない母ではないだろう。顔色を青くさせた挙げ句、出て行ってしまった。
害虫が何か、わからない母ではないだろう。顔色を青くさせた挙げ句、出て行ってしまった。
害虫是什么,不是不知道的母亲吧。脸色发青,结果出去了。
開かれた扉の向こうに、マクシミリニャンの姿が見えた。俺と、母が走って行った方向を交互に見ている。
在打开的门的对面,看到了马克西米利尼亚的身影。我和妈妈交替看着跑过去的方向。
 開かれた扉の向こうに、マクシミリニャンの姿が見えた。俺と、母が走って行った方向を交互に見ている。
「ねえ、おじさん」
“喂,叔叔。”
「どうした?」
“怎么了?”
「おじさんのところに、ついて行っても、いい?」
“我可以跟着叔叔去吗?”
「アニャと、結婚してくれるというのか?」
“你是说要和阿尼亚结婚吗?”
「うん、いいよ。アニャが、俺を気に入ったら、だけれど」
“嗯,好啊。如果阿尼亚喜欢我的话。”
こんな怪我で顔がぐちゃぐちゃになった、顔面包帯だらけの男を気に入ってくれるとは思わないが。
我不认为你会喜欢一个脸上全是绷带的男人。
性格だって明るくないし、優しい言動を取ることもできない。これだけは性分なので、どうしようもないけれど。
性格也不开朗,也不能采取温柔的言行。因为只有这个是性格,所以没办法。
 こんな怪我で顔がぐちゃぐちゃになった、顔面包帯だらけの男を気に入ってくれるとは思わないが。
 性格だって明るくないし、優しい言動を取ることもできない。これだけは性分なので、どうしようもないけれど。
「アニャは、そなたを気に入るにきまっておる!」
“阿尼亚一定会喜欢你的!”
マクシミリニャンはズンズンと接近し、手をぎゅっと握ってくれた。彼の手はごつごつしていて、手のひらの表皮は硬くて、働く男のものだった。
马克西米利尼亚和铁城接近,紧紧地握住了我的手。他的手硬邦邦的,手掌表皮坚硬,是一个干活的男人的。
そして、温かい。久々に触れた熱に、心がジンと震える。
而且,很温暖。久别重逢的热度,让我的心怦然心动。
 マクシミリニャンはズンズンと接近し、手をぎゅっと握ってくれた。彼の手はごつごつしていて、手のひらの表皮は硬くて、働く男のものだった。
 そして、温かい。久々に触れた熱に、心がジンと震える。
「よくぞ、決意をしてくれた!」
“太好了,你下定决心了!”
 今回の事件は、関係を清算するいい機会だったのかもしれない。
 もう、ロマナは人知れずサシャに殴られることはなくなった。
 サシャだって、自らと俺を比べて苛立たないだろう。
今回の事件は、関係を清算するいい機会だったのかもしれない。
这次的事件,也许是清算关系的好机会。
もう、ロマナは人知れずサシャに殴られることはなくなった。
罗曼娜再也不会不为人知地被萨沙打了。
サシャだって、自らと俺を比べて苛立たないだろう。
萨沙也不会比自己和我着急吧。
「では、怪我が治ったところで、迎えにくるゆえに」
“那嚒,即使伤好了,也要来接我。”
「待って。一緒に行くから」
“等等,我跟你一起去。”
「しかし、怪我が治っておらぬだろう」
“但是,伤还没好吧。”
「痛いのは顔だけで、体は元気だから」
“痛的只有脸,身体很好。”
「そうか。ならば、明後日でよいか?」
“是吗?那么后天可以吗?”
「明日でいい」
“明天就可以了。”
あまり、だらだら家にいるのもよくないだろう。
太懒散地呆在家里也不好吧。
街の人達にも挨拶したいけれど、この怪我では心配させてしまう。
虽然也想向街上的人们打招呼,但是这个伤让人担心。
 あまり、だらだら家にいるのもよくないだろう。
ミハルにだけ会って話をして、あとの人達へは手紙を書けばいい
 街の人達にも挨拶したいけれど、この怪我では心配させてしまう。
只见到米哈尔说话,给后面的人写信就可以了。
数年後、ほとぼりが冷めたら、またこの地を訪ねたい。
几年后,当热浪冷却后,我还想再去拜访这个地方。
 ミハルにだけ会って話をして、あとの人達へは手紙を書けばいい。
 数年後、ほとぼりが冷めたら、またこの地を訪ねたい。
「何か、手伝うことはあるか?」
“有什么需要帮忙的吗?”
「大丈夫。そういえば、肉は売れた?」
“没关系。这么说来,肉卖出去了吗?”
「ああ、おかげさまで、そなたの名を出したら、色を付けて買い取ってくれたぞ」
“啊,托你的福,我把你的名字拿出来,就给我加上颜色买了。”
「だったら、よかった」
“那就好了。”
親切な市場の人々は、マクシミリニャンの身の上話を聞いて、婿候補の男性を何名か紹介してくれたらしい。
亲切的市场上的人们听了马克西米利尼亚的身世,好像介绍了几名候补女婿。
 親切な市場の人々は、マクシミリニャンの身の上話を聞いて、婿候補の男性を何名か紹介してくれたらしい。
「しかし、話を聞いていると、山での暮らしに耐えうる者達だと思えず」
“但是,听了这话,我不认为他们是能忍受在山上生活的人。”
「まあ、街での暮らしに慣れた人を、いきなり山へ連れて行っても暮らしは成立しないだろうね。俺だって、そうかもしれない」
“嗯,就算把习惯了在街上生活的人突然带到山上,生活也不会成立吧。我也可能是这样。”
「そうであるが、そなたは、環境を受け入れ、生きる強さというものを感じていた」
“是的,但你感受到了接受环境、生存的坚强。”
 マクシミリニャンが気に入る婿は、いなかったようだ。けれど、どうしてもというのであれば、連れて帰るつもりだったらしい。
マクシミリニャンが気に入る婿は、いなかったようだ。けれど、どうしてもというのであれば、連れて帰るつもりだったらしい。
似乎没有女婿喜欢马克西米利尼亚。但是,如果无论如何都要的话,好像是打算带回去的。
だが、結婚してから「無理」と言われても困る。そのため、嘘偽りない山での暮らしを聞かせたようだ。すると、婿候補は顔を青ざめつつ次々と辞退していったらしい。
但是,结婚后被说“不行”也很为难。因此,他似乎让人们听到了他在毫不虚伪的山上的生活。于是,女婿候选人脸色苍白,一个接一个地辞职了。
 だが、結婚してから「無理」と言われても困る。そのため、嘘偽りない山での暮らしを聞かせたようだ。すると、婿候補は顔を青ざめつつ次々と辞退していったらしい。
「そういえば、どんな暮らしをしているか、聞いていなかった」
「聞くか? もう、辞退はできぬのだが」
“这么说来,我没有问过你过着怎样的生活。”
「聞くか? もう、辞退はできぬのだが」
“听吗?我已经不能推辞了。”
「なんだよ、その決まりは」
“这是什么规定?”
「せっかく得た婿を、逃がすわけにはいかぬからな」
“好不容易得到的女婿,不能让他逃走。”
「逃げないよ」
「我不会逃跑的。」
まず、マクシミリニャンの自宅は山の高い位置にあるらしい。空気が薄く、慣れない者は具合が悪くなるのだとか。
首先,马克西米利尼亚的家好像在山的高处。空气稀薄,不习惯的人会不舒服。
 まず、マクシミリニャンの自宅は山の高い位置にあるらしい。空気が薄く、慣れない者は具合が悪くなるのだとか。
 
「養蜂箱を設置しているのは、崖の遥か上である」
“设置养蜂箱的是悬崖的遥远的地方。”
「もしかして、登っているの?」
“难道是在爬吗?”
マクシミリニャンは深々と頷いた。かなり、とんでもない場所で日々の暮らしをしているようだ。
马克西米利尼亚深深地点了点头。好像每天都在意想不到的地方生活。
 マクシミリニャンは深々と頷いた。かなり、とんでもない場所で日々の暮らしをしているようだ。
「心配はいらぬ。我が家には、山羊がいるゆえに」
“不用担心,我家有山羊。”
「山羊?」
“山羊?”
山羊が、蜂蜜を採ってきてくれるのか? いいや、絶対違うだろう。
山羊会帮我采蜂蜜吗?不,绝对不是吧。
 山羊が、蜂蜜を採ってきてくれるのか? いいや、絶対違うだろう。
「山羊が、どうしてくれるの?」
“山羊会怎么做?”
「背中に乗せてくれる」
“放在我背上。”
「もしかして、山羊に乗って崖を登り、蜂蜜を得ているってこと?」
“难道是骑着山羊爬悬崖,得到蜂蜜?”
「その通り!」
“没错!”
なんだそれは、と言いそうになったがごくんと呑み込んだ。
虽然想说那是什么,但还是吞下了。
場所が変われば、生活様式もガラリと変わる。彼らは山羊に跨がり、崖を登った先にある蜂蜜を採って暮らしていたのだろう。
如果换个地方,生活方式也会完全改变。他们骑着山羊,采着登上悬崖的蜂蜜生活着吧。
 なんだそれは、と言いそうになったがごくんと呑み込んだ。
 場所が変われば、生活様式もガラリと変わる。彼らは山羊に跨がり、崖を登った先にある蜂蜜を採って暮らしていたのだろう。
「しかし、山羊か……」
「可是,是山羊吗……」
「どうしたのだ?」
“怎么了?”
「いや、近所の農園に、山羊の世話の手伝いに行ったことがあったんだけれど」
“不,我去过附近的农场帮忙照顾山羊。”
月に一度、山羊の爪切りを行う。山羊を押さえるのを手伝ったら対価をくれるというので、喜んで参加したのだ。
每月剪一次山羊指甲。他说如果帮助压山羊的话会给我代价,所以我很高兴参加了。
当時の俺は、山羊の気性の荒さを理解していなかった。
当时的我不理解山羊脾气的粗暴。
 月に一度、山羊の爪切りを行う。山羊を押さえるのを手伝ったら対価をくれるというので、喜んで参加したのだ。
 当時の俺は、山羊の気性の荒さを理解していなかった。
 角に突かれ、顔面を蹴られ、体当たりされた。満身創痍で得たのは、金ではなく新鮮な山羊のチーズだった。
角に突かれ、顔面を蹴られ、体当たりされた。満身創痍で得たのは、金ではなく新鮮な山羊のチーズだった。
被角戳到,面部被踢到,身体被击中。满身疮痍得到的不是钱而是新鲜的山羊奶酪。
以降、俺は山羊に近づいていない。
从那以后,我就不靠近山羊了。
 以降、俺は山羊に近づいていない。
「そんなわけで、あまり山羊が得意ではないというか、なんというか」
“正因为如此,山羊不太擅长,怎么说呢?”
「安心せい。山暮らしの山羊は、穏やかで優しい性格をしておる」
“放心吧。山里生活的山羊性格温和温柔。”
「本当かな」
「真的吗?」
「本当だ」
“真的。”
マクシミリニャンは街で宿を取っているらしい。明日の昼頃、出発するのでそのときにまた会おうと言い、部屋から出て行った。
马克西米莉娜好像在街上留宿。因为明天中午要出发,所以说那个时候再见,然后从房间里出去了。
試しに起き上がってみたが、痛いのは顔だけで体は平気だ。
试着爬起来,痛的只是脸,身体没事。
 マクシミリニャンは街で宿を取っているらしい。明日の昼頃、出発するのでそのときにまた会おうと言い、部屋から出て行った。
痛み止めの薬を飲んで、立ち上がってみる
 
吃了止痛药,试着站起来。
 試しに起き上がってみたが、痛いのは顔だけで体は平気だ。
 痛み止めの薬を飲んで、立ち上がってみる。
 いまだ口の中は血の味だったが、そのうち治るだろう。
いまだ口の中は血の味だったが、そのうち治るだろう。
 そろそろ、ミハルが配達にやってくる時間だ。まず、こちらの事情を話しておかなくては。
虽然嘴里还是血的味道,但不久就会好的吧
 窓を開くと、ちょうどミハルが操縦する馬車が見えた。
そろそろ、ミハルが配達にやってくる時間だ。まず、こちらの事情を話しておかなくては。
快到米哈尔来送货的时间了。首先,必须先说一下这边的情况。
窓を開くと、ちょうどミハルが操縦する馬車が見えた。
打开窗户,正好看到了米哈尔驾驶的马车。
外に出て、ミハルを待つ。
出去等米哈尔。
包帯だらけの俺を見るなり、ミハルは「どちら様ですか?」と尋ねてくる。
看到满是绷带的我,米哈尔就会问“您是哪位?”。
 外に出て、ミハルを待つ。
 包帯だらけの俺を見るなり、ミハルは「どちら様ですか?」と尋ねてくる。
「俺だよ、俺」
“是我,是我。”
「どちらの、俺さんでしょうか?」
“您是哪位,我?”
口を怪我しているので、声がいつもより籠もっているのだろう。怪訝な表情のまま、ミハルは固まっている。
因为嘴巴受伤了,所以声音比平时笼着吧。米哈尔保持着惊讶的表情,凝固了。
 口を怪我しているので、声がいつもより籠もっているのだろう。怪訝な表情のまま、ミハルは固まっている。
「俺だ、イヴァンだ」
「ええっ、イヴァン!? どうしたんだ、その顔!?」
“是我,伊凡。”
「ええっ、イヴァン!? どうしたんだ、その顔!?」
“咦,伊凡!?你怎么了,你的脸!?”
「サシャに殴られた」
“我被萨沙打了。”
「ああ、なるほどね」
“啊,原来如此。”
その一言で、ミハルはすべてを察してくれたようだ。さすが、心の友である。
 その一言で、ミハルはすべてを察してくれたようだ。さすが、心の友である。
一句话,米哈尔似乎察觉到了一切。不愧是知心朋友

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養蜂家の青年は、親友に事情を話す
 小屋に移動し、事の次第をすべて話した。それから、独立を決意して家を出ることも。
养蜂家的青年向好友说明情况
小屋に移動し、事の次第をすべて話した。それから、独立を決意して家を出ることも。
移动到小屋,把事情的经过全部说了出来。然后,决定独立离开家。
「そうか。そんなことがあったのか。まあ、いつか何か起こるだろうなとは思っていた」
“是吗?原来是这样。我还以为总有一天会发生什么事呢。”
「よく、わかったね」
「明白了。」
「長年、お前とロマナを見ていたからな」
「因为我看了你和罗曼娜这嚒多年。」
 ミハルは仕事をする俺を熱烈に見つめるロマナの姿を、何度か目撃していたらしい。
 普段の態度も、俺とそれ以外の人に対する言動や行動は、まったく違っていたようだ。
ミハルは仕事をする俺を熱烈に見つめるロマナの姿を、何度か目撃していたらしい。
米哈尔好像多次目击了热情凝视着工作的我的罗曼娜的身影。
普段の態度も、俺とそれ以外の人に対する言動や行動は、まったく違っていたようだ。
平时的态度,对我和其他人的言行和行动,好像完全不同。
「街の男がさ、使いにやってきていたロマナに、茶でも飲まないかって声をかけたことがあったらしいんだ。そのときのロマナは、ダニでも見るような目で相手を見ながら、“忙しいので”なんて返していたんだとよ。ロマナが優しいのは、お前とお前の家族だけだったんだ」
“街上的一个男人,好像跟来用的罗曼娜打过招呼,要不要喝杯茶。那个时候的罗曼娜,用达尼也能看到的眼神看着对方,还说‘因为很忙’。罗曼娜温柔的只有你和你的家人。”
「そうだったんだ」
「原来是这样。」
「一番怖かった瞬間は、ここ最近だったかな。お前を見つめるロマナを、背後からサシャが睨んでいるときだった。ありゃイヴァン、いつか刺されるのではと思っていた」
“最可怕的瞬间是最近吧。萨沙从背后盯着盯着盯着你的罗曼娜的时候。哎呀,伊凡,我还以为总有一天会被刺伤呢。”
「だから、サシャに気を付けろって言っていたんだな」
「所以,他说要小心萨沙。」
ミハルは険しい表情で、うんうんと頷く。
米哈尔表情严肃地点头。
 ミハルは険しい表情で、うんうんと頷く。
「しかし、狂っているように見えて、どこか手加減していたのかもしれないな」
「手加減、していた? 俺の顔、ぐちゃぐちゃなんだけど」
“但是,看起来很疯狂,可能是哪里手下留情啦。”
「手加減、していた? 俺の顔、ぐちゃぐちゃなんだけど」
“手下留情了吗?我的脸,乱七八糟的。”
「本気を出していたら、歯が折れていたり、骨が折れていたりしていただろう」
“如果认真的话,牙齿会折断,骨头也会折断吧。”
「あー、そうだね」
“啊,是啊。”
会話が途切れ、なんとなく空を見上げる。気持ちいいくらいの晴天だった。
对话中断了,总觉得仰望天空。是个很舒服的晴天。
 会話が途切れ、なんとなく空を見上げる。気持ちいいくらいの晴天だった。
「思ったんだけどさ、サシャって、お前が好きで好きで堪らなかったんじゃないのか?」
“我是这么想的,萨沙不是因为喜欢你而无法忍受吗?”
「は!?」
“哈!?”
ミハルの言葉から、真冬のブレッド湖の水を頭からぶちまけられるほどの衝撃を受ける。
从米哈尔的话中,可以感受到隆冬的布莱德湖的水从头上洒出来的冲击。
 ミハルの言葉から、真冬のブレッド湖の水を頭からぶちまけられるほどの衝撃を受ける。
「本気で言っているの?」
「うん。だって、サシャがおかしくなったの、ロマナが来てからなんだろう? それまで、よく遊んでいたし、養蜂の仕事もたまにだけど手伝っていたじゃん」
“你是认真说的吗?”
「うん。だって、サシャがおかしくなったの、ロマナが来てからなんだろう? それまで、よく遊んでいたし、養蜂の仕事もたまにだけど手伝っていたじゃん」
“嗯。因为萨沙变得很奇怪,是罗曼娜来之后的事吧?在那之前,我经常玩,偶尔也会帮她做养蜂的工作。”
「まー、うん」
“嗯,嗯。”
サシャが変わったのは、思春期だからだと思っていた。けれど、記憶を遡ってみると、ロマナを家で引き取った時期とぴったり重なる。
我以为萨沙变了,是因为青春期。但是,追溯记忆的话,和在家里收留罗曼娜的时期正好重合。
 サシャが変わったのは、思春期だからだと思っていた。けれど、記憶を遡ってみると、ロマナを家で引き取った時期とぴったり重なる。
「いや、でも、ありえないよ」
“不,但是,这是不可能的。”
「いや、ありえるんだな。俺も、サシャとイヴァンが一緒にいるところに仲間に入ろうとしたら、めちゃくちゃ睨まれたことがあったんだ」
“不,有可能。我也曾在萨沙和伊凡在一起的时候加入伙伴,被狠狠地盯上过。”
「えー」
“嗯。”
「たぶん、サシャにとって、イヴァンはもう一人の自分なんだよ。だから、ロマナに取られて面白くなかったし、俺とも仲良くもしてほしくなかった。この気持ちを持て余した結果、イヴァンの気を引こうと、あれこれいやみを言ってきたり、ロマナと結婚してみたりしたんじゃないかな」
“也许,对萨沙来说,伊凡是另一个自己。所以,被罗曼娜拿走了很没意思,也不希望和我关系很好。因为无法保持这种心情,所以为了引起伊凡的注意,说了很多讨厌的话,也试着和罗曼娜结婚了吧。”
「でも、もう一人の自分を、めちゃくちゃに殴る?」
“但是,你会把另一个自己打得一塌糊涂吗?”
「自傷行為的な?」
“是自伤行为吗?”
「傷ついているのは、もれなく俺だけなんだけれどね」
“受伤的只有我一个人。”
 ミハルの言っていることは、あながち間違いではないのかもしれない。
 サシャに対する何でも許してしまう気持ちは、母やミハルには理解できないと言われた記憶がある。同じように、他人にできない俺に対する想いを、サシャも持っているのだろう。
ミハルの言っていることは、あながち間違いではないのかもしれない。
米哈尔说的话,未必是错误的。
サシャに対する何でも許してしまう気持ちは、母やミハルには理解できないと言われた記憶がある。同じように、他人にできない俺に対する想いを、サシャも持っているのだろう。
我记得母亲和米哈尔对萨沙什么都原谅的心情是无法理解的。同样,萨沙也有对别人做不到的我的想法吧。
「うん。なんか、しっくりきた。やっぱり、俺はこの家にいてはいけなかったんだ」
“嗯,总觉得挺合适的。果然,我不能待在这个家里。”
「そういや、出て行くって言っていたな。これからどうするんだ?」
“对了,你说你要出去,接下来怎么办?”
「にゃんにゃんおじさんの娘と、結婚するよ」
「はあ!? お前、ここを出て行くっていうのか?」
“我要和喵喵叔叔的女儿结婚了。”
「はあ!? お前、ここを出て行くっていうのか?」
“啊!?你要离开这里吗?”
「だって、家を出ても、街にいたら家族やロマナと会うかもしれないでしょう」
“因为,即使离开家,如果在街上的话,也有可能和家人或罗曼娜见面吧。”
「それはそうだけれど……。にゃんにゃんおじさんの家は、ここから離れた場所にある、秘境なんだろう?」
“那倒是……。猫咪叔叔的家,在离这里很远的地方,是秘境吧?”
「そう」
“是的。”
「なんだよ。いつ、行くんだ?」
“什么呀,什么时候去?”
「明日の昼くらい」
“明天中午左右。”
「は!?」
“哈!?”
「明日までに、ミハルのお祖父さんや親父さんに宛てた手紙を書くから」
「いやいやいや、なんで!? 早すぎないか?」
“明天之前,我会给米哈尔的祖父和父亲写一封信。”
「いやいやいや、なんで!? 早すぎないか?」
“不,不,不,为什么!?是不是太早了?”
「もう、決めたんだ」
“我已经决定了。”
「そりゃないぜ、イヴァン」
“那可不行,伊凡。”
「ごめん」
“对不起。”
これまで、ミハルの家族は本当によくしてくれた。心から、感謝する。
到目前为止,米哈尔的家人真的做得很好。衷心感谢。
 これまで、ミハルの家族は本当によくしてくれた。心から、感謝する。
「俺、ミハルと、ミハルの家族のおかげで、腐らずに暮らしていけたんだ。本当の家族みたいに、思っているよ」
“多亏了米哈尔和米哈尔的家人,我才没有腐烂地生活下去。我觉得就像真正的家人一样。”
「本当の家族だったら、出て行くなよ」
“如果是真正的家人,就不要出去。”
「俺も、そう思うけれど、自分の人生は、誰かに居場所を与えられるものではなくて、自分で切り開きたいんだ」
“我也是这么想的,但我的人生并不是给谁一个容身之处,而是想自己开创。”
「……」
「……」
 急に黙り込んだので、ミハルを見る。瞳が、若干潤んでいるような気がした。
急に黙り込んだので、ミハルを見る。瞳が、若干潤んでいるような気がした。
因为突然沉默了,所以看了米哈尔。我觉得眼睛有点湿润。
「イヴァン、俺、お前の新しい人生を、応援したい。でも、今は、急すぎて、なんて言葉をかけていいのか、わからないや」
“伊凡,我想支持你的新人生。但是,现在太急了,不知道该说些什么。”
「本当に、ごめん」
“真的,对不起。”
ミハルは立ち上がり、明日、またくると言う。
米哈尔站起来,说明天还会再来。
去りゆくミハルに、頭を下げた。
向离去的米哈尔低头。
◇◇◇
◇◇◇
屋根裏部屋を封鎖し、荷物の整理を行う。
封锁阁楼,整理行李。
不要なものは、甥や姪にあげることにした。
我决定把不需要的东西给侄子和侄女。
母やロマナが作ってくれた外套や服は、置いて行く。自分で買い集めた品だけ、持って行くようにしたい。
母亲和罗曼娜给我做的外套和衣服,我会放下。只想把自己买来的东西带去。
数枚のシャツにズボン、ミハルが譲ってくれた外套、それから下着類。ちょっとした小物に、これまで作ったり貰ったりした保存食など。
几件衬衫配裤子,米哈尔让给我的外套,还有内衣类。小东西,至今为止做过的保存食品等。
もっとも大事なのは、養蜂家の父アントン・ヤンシャが執筆した二冊の書籍である。
最重要的是养蜂人的父亲安东·扬沙执笔的两本书。
飲んだくれの父がたまにお使いを頼むことがあり、そのお駄賃を貯めて買った品だ。俺の、宝物でもある。
这是喝了酒的父亲偶尔拜托使用,存下那个浪费钱买的东西。也是我的宝物。
 ミハルは立ち上がり、明日、またくると言う。
かつて、アントン・ヤンシャは画家になるために見知らぬ地へと渡った
 去りゆくミハルに、頭を下げた。
过去,安东·扬沙为了成为画家来到了陌生的地方
 ◇◇◇
同じように、俺も明日、見知らぬ土地へと旅立つ。
同样,我明天也要去陌生的地方旅行。
 屋根裏部屋を封鎖し、荷物の整理を行う。
 不要なものは、甥や姪にあげることにした。
いったい、どんな暮らしが待っているのか。まったく想像もできない
 母やロマナが作ってくれた外套や服は、置いて行く。自分で買い集めた品だけ、持って行くようにしたい。
到底有什么样的生活在等待着呢。简直无法想象
 数枚のシャツにズボン、ミハルが譲ってくれた外套、それから下着類。ちょっとした小物に、これまで作ったり貰ったりした保存食など。
 もっとも大事なのは、養蜂家の父アントン・ヤンシャが執筆した二冊の書籍である。
 飲んだくれの父がたまにお使いを頼むことがあり、そのお駄賃を貯めて買った品だ。俺の、宝物でもある。
 かつて、アントン・ヤンシャは画家になるために見知らぬ地へと渡った。
 同じように、俺も明日、見知らぬ土地へと旅立つ。
不安はなかった
 いったい、どんな暮らしが待っているのか。まったく想像もできない。
没有不安
 不安はなかった。
だって、自分が望んで選んだ道だから
 だって、自分が望んで選んだ道だから。
因为这是我自己选择的路

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018.md

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養蜂家の青年は、残る者に話をする
 兄や義姉達は、顔を包帯で巻かれた俺を見て、いたたまれないような表情をしている。
养蜂青年对剩下的人说话
 何も聞いてこないのは、母から口止めされているのだろう。
 非常によそよそしいが、今はその対応は逆にありがたい。
 口の中が痛いので、誰かと話そうという気にもならないし
兄や義姉達は、顔を包帯で巻かれた俺を見て、いたたまれないような表情をしている
 大人達の対応は非常に助かっていたが、深い事情を理解できない子ども達は容赦しない
哥哥和大嫂们看着用绷带缠着脸的我,露出了不得了的表情
 俺を見つけるたびに、笑ったりじゃれついてきたりする。正直、勘弁してほしい。
 明日まで母の部屋を使っていいというので、引きこもって手紙を書くことにした。
 机と椅子があるので、非常に助かる。屋根裏部屋は昼間でも薄暗いし、天井が低いので机や椅子などを持ち込めない。とても、手紙が書けるような環境ではなかった
何も聞いてこないのは、母から口止めされているのだろう
什么都没问,大概是被母亲阻止了吧。
 以前、ミハルの実家の店で買った便せん一式を荷造りの中から取り出した。何年もしまっていたので、便せんは色あせている。
 手紙を出す相手なんていないのに、どうして買ったのか。昔の自分の行動が、まったく理解できない。
非常によそよそしいが、今はその対応は逆にありがたい。
 しかしまあ、今日役に立っているのでよしとする
虽然很冷淡,但是现在那个对应反而很感谢
 手紙を書くのは、ミハルの家族と仲がよかった精肉店、生花店、八百屋の店主や従業員。取り引きをする上で親しくしていた
口の中が痛いので、誰かと話そうという気にもならないし
 きっと俺が独立すると聞いたら、驚くだろう
因为嘴里很痛,所以也不想和谁说话
 サラサラと手紙を書いていたら、遠慮気味に扉が叩かれた。
大人達の対応は非常に助かっていたが、深い事情を理解できない子ども達は容赦しない。
虽然大人们的应对非常有帮助,但是不能理解深刻情况的孩子们不会原谅。
俺を見つけるたびに、笑ったりじゃれついてきたりする。正直、勘弁してほしい。
每次看到我,都会笑着捣乱。老实说,希望你原谅我。
明日まで母の部屋を使っていいというので、引きこもって手紙を書くことにした。
因为说明天之前可以使用母亲的房间,所以决定闭门不出写信。
机と椅子があるので、非常に助かる。屋根裏部屋は昼間でも薄暗いし、天井が低いので机や椅子などを持ち込めない。とても、手紙が書けるような環境ではなかった。
有桌子和椅子,真是帮了大忙。阁楼房间白天也很昏暗,天花板很低,所以不能带桌子和椅子等。这不是一个能写信的环境。
以前、ミハルの実家の店で買った便せん一式を荷造りの中から取り出した。何年もしまっていたので、便せんは色あせている。
以前,在米哈尔老家的店里买的一套马桶从包装中取出。因为关了好几年,马桶褪色了。
手紙を出す相手なんていないのに、どうして買ったのか。昔の自分の行動が、まったく理解できない。
没有寄信的对象,你怎么买的。完全不能理解以前自己的行动。
しかしまあ、今日役に立っているのでよしとする。
但是嘛,今天有用就好了。
手紙を書くのは、ミハルの家族と仲がよかった精肉店、生花店、八百屋の店主や従業員。取り引きをする上で親しくしていた。
写信的是和米哈尔家人关系很好的精肉店、鲜花店、蔬菜店的店主和工作人员。在交易上很亲密。
きっと俺が独立すると聞いたら、驚くだろう。
如果听到我要独立的话,一定会很吃惊吧。
サラサラと手紙を書いていたら、遠慮気味に扉が叩かれた。
写了一封沙沙的信,门被客气地敲了一下。
「誰?」
“谁?”
「おれ……ツィリル」
「我……齐丽尔。」
扉を開くと、ツィリルがいたたまれないような表情で立っていた。
一打开门,齐丽尔就迫不及待地站着。
目が合うと、サッと顔を逸らす。
视线一对,马上就把脸移开了。
 扉を開くと、ツィリルがいたたまれないような表情で立っていた。
 目が合うと、サッと顔を逸らす。
「どうしたの?」
“怎么了?”
「ちょっと、話したくて」
“我想和你谈谈。”
ツィリルの手を握り、部屋へと誘う。寝台を椅子代わりに進めたが、なかなか座ろうとしない。
握住齐里尔的手,邀请他去房间。虽然把卧铺换成了椅子,但是怎么也不想坐。
 ツィリルの手を握り、部屋へと誘う。寝台を椅子代わりに進めたが、なかなか座ろうとしない。
「どうしたの?」
“怎么了?”
「顔、大丈夫?」
“脸,没事吧?”
「大丈夫ではないけれど、骨は折れていないし、先生の薬があるから、たぶん早めに治ると思う」
“虽然不是没关系,但是骨头没有折断,因为有老师的药,所以我想大概能早点治好。”
「そ、そっか」
“是吗?”
心配して、様子を見に来てくれたようだ。ここで、マクシミリニャンを呼んできてくれた件に関する感謝の気持ちを伝えた。
我很担心,好像是来看我的样子。在这里,我表达了对我叫马克西米利尼亚的事情的感谢之情。
 心配して、様子を見に来てくれたようだ。ここで、マクシミリニャンを呼んできてくれた件に関する感謝の気持ちを伝えた。
「暗い中、おじさんを呼びに行ってくれて、ありがとう」
“谢谢你在黑暗中去叫叔叔。”
「う、うん。おれが、喧嘩を止められたら、よかったんだけれど」
“嗯,嗯,要是我能阻止吵架就好了。”
昨日の記憶が甦ったのか、ツィリルの肩が震えていた。
也许是昨天的记忆复苏了,齐里尔的肩膀在发抖。
可哀想に。きっと、サシャが怖かったのだろう。
真可怜。一定是害怕萨沙吧。
 昨日の記憶が甦ったのか、ツィリルの肩が震えていた。
 可哀想に。きっと、サシャが怖かったのだろう。
「暗闇の中、別の大人に助けを求めに行ってくれただけでも、大したものだよ。勇敢だ」
“在黑暗中,只要你去找另一个大人寻求帮助,就很了不起,很勇敢。”
「勇敢なんかじゃないよ。おれ、一回、おじさんの顔を見て、逃げてしまったんだ」
“我才不是勇敢呢。我一次看到大叔的脸就逃走了。”
その気持ちは、大いに理解できる。暗闇の中でマクシミリニャンと出会ったら、逃げたくなるだろう。別に、おかしなことではない。
那种心情是可以理解的。如果你在黑暗中遇到马克西米利尼亚,你会想逃跑的。没什么奇怪的。
 その気持ちは、大いに理解できる。暗闇の中でマクシミリニャンと出会ったら、逃げたくなるだろう。別に、おかしなことではない。
「それで、どうしたの?」
“那么,怎么了?”
「おじさんが、追いかけてきたんだ」
“叔叔追我来了。”
 あとからマクシミリニャンに話を聞いたところ、深夜に子どもが一人でいたため、保護しなくてはという思いに駆られたらしい。
 強面で服がボロボロの中年親父が追いかけてきたら、大人の俺でも普通に怖い。ツィリルの恐怖は、かなりのものだっただろう。
あとからマクシミリニャンに話を聞いたところ、深夜に子どもが一人でいたため、保護しなくてはという思いに駆られたらしい。
「最終的には捕まってしまって、イヴァン兄の名前を叫んだら、おじさんがイヴァン殿を知っているのか? って聞いてきたんだ」
后来我问了麦克西米利尼亚,他觉得深夜孩子一个人,必须保护他。
 俺の知り合いだとわかるやいなや、助けを求めたらしい。その後、ツィリルを抱えて小屋に駆けつけてくれたようだ。
強面で服がボロボロの中年親父が追いかけてきたら、大人の俺でも普通に怖い。ツィリルの恐怖は、かなりのものだっただろう。
如果强颜欢笑、衣衫褴褛的中年父亲追上来的话,即使是大人的我也会很害怕。齐里尔的恐惧是相当大的吧。
「最終的には捕まってしまって、イヴァン兄の名前を叫んだら、おじさんがイヴァン殿を知っているのか? って聞いてきたんだ」
“最终被抓了,我喊了伊凡哥哥的名字,他问我叔叔知道伊凡殿吗?”
俺の知り合いだとわかるやいなや、助けを求めたらしい。その後、ツィリルを抱えて小屋に駆けつけてくれたようだ。
一知道是我认识的人,就向他求助。之后,他好像抱着齐里尔跑到了小屋。
「おれが逃げなかったら、もっと早く助けられたのに。ごめん」
「如果我没有逃跑的话,早就可以救你了,对不起。」
「そんなことはないよ。ありがとう」
“没有那样的事,谢谢。”
頭をぐりぐり撫でてやると、ツィリルの強ばっていた表情が解れた。が、すぐに眉間に皺が寄る。
轻轻地抚摸他的头,他露出了齐丽尔坚强的表情。但是,马上眉间就会有皱纹。
 頭をぐりぐり撫でてやると、ツィリルの強ばっていた表情が解れた。が、すぐに眉間に皺が寄る。
「あの、さっき、母さんからイヴァン兄が家を出て行くって話を聞いたんだけれど、嘘、だよね?」
“那个,刚才听妈妈说伊凡哥哥要离家出走,是骗人的吧?”
「あー」
“啊。”
そうだった。ツィリルにも、きちんと話しておこうと思っていたのだ。
原来是这样。我也想和齐里尔好好谈谈。
 そうだった。ツィリルにも、きちんと話しておこうと思っていたのだ。
「ツィリル、俺、この家を出て行くんだ」
“齐丽尔,我要离开这个家。”
「ど、どうして!?」
“怎么,为什么!?”
「どうしてって言われても、説明が難しいな」
“不管怎么说,说明都很难。”
「サシャ兄と喧嘩して、仲直りできないから?」
“和萨沙哥哥吵架,不能和好吗?”
「うーん。まあ、わかりやすく言えば、そうかな」
“嗯。嗯,简单地说,是吗?”
「だったら、おれがサシャ兄に、イヴァン兄と仲直りしてって、言うから」
“那嚒,我会对萨沙哥哥说,和伊凡哥哥和好。”
「仲直りしたから、出て行かないってわけでもないんだ」
“也不是说和好了就不出去啦。”
 サシャとロマナの関係を崩してしまった原因は、俺にある。だが、その責任を取るように家を出て行くわけではない。
 このままだと、イェゼロ家がダニに寄生された蜜蜂の巣箱のようになってしまう。もちろん、前向きな気持ちで出て行くという気持ちも大いにある。
サシャとロマナの関係を崩してしまった原因は、俺にある。だが、その責任を取るように家を出て行くわけではない。
破坏萨沙和罗曼娜关系的原因是我。但是,并不是为了承担责任而离开家。
このままだと、イェゼロ家がダニに寄生された蜜蜂の巣箱のようになってしまう。もちろん、前向きな気持ちで出て行くという気持ちも大いにある。
这样下去的话,耶泽罗家就像被螨虫寄生的蜜蜂的巢箱一样。当然,也有以积极的心情出去的心情。
その辺の繊細な事情を、ツィリルにわかるように説明するのは難しい。
要让齐里尔明白这方面的详细情况是很难的。
 その辺の繊細な事情を、ツィリルにわかるように説明するのは難しい。 
「ひどいよ……。おれを置いて、出て行くなんて」
「太过分了……你竟然丢下我出去。」
「うん、そうだね」
“嗯,是啊。”
否定はできない。けれど、この家の男手は、俺以外にもある。
 否定はできない。けれど、この家の男手は、俺以外にもある。
不能否定。但是,这个家的男人,除了我以外也有
 今後のイェゼロ家がどうなるのかは、母の采配しだいだ。
今後のイェゼロ家がどうなるのかは、母の采配しだいだ。
今后的耶零家会变成什么样,取决于母亲的指挥。
ツィリルはポロポロと、涙を零していた。こんなに、子どもから好かれる事なんて、二度とないだろう。小さな体を、ぎゅっと抱きしめてやる。
齐里尔泪流满面。再也不会像这样被孩子喜欢了吧。紧紧地抱住小小的身体。
 ツィリルはポロポロと、涙を零していた。こんなに、子どもから好かれる事なんて、二度とないだろう。小さな体を、ぎゅっと抱きしめてやる。
「イヴァン兄、おれも、連れて行って!」
“伊凡哥哥,把我也带走!”
「それはダメ」
“那可不行。”
山岳での養蜂だなんて、ツィリルには絶対に無理だ。養蜂家としても見習い未満なので、この家で修行が必要である。
在山岳养蜂,对齐里尔来说是绝对不可能的。作为养蜂家也没有见习,所以在这个家里修行是必要的。
 山岳での養蜂だなんて、ツィリルには絶対に無理だ。養蜂家としても見習い未満なので、この家で修行が必要である。
ただ、気がかりなこともあった。
 ただ、気がかりなこともあった。
只是,也有担心的事情。
このままでは、ツィリルは俺と同じ道を辿ってしまうだろう。
这样下去的话,齐里尔会和我走上同一条路吧。
だから、その辺はきちんと忠告しておく。
所以,这一点要好好忠告。
 このままでは、ツィリルは俺と同じ道を辿ってしまうだろう。
 だから、その辺はきちんと忠告しておく。
「ツィリル、労働には、対価を要求できるんだ。家族だからといって、無償で働いていたら、自分の価値をどんどん下げることになる」
「タイカ? ムショウ? カチ? よくわかんないよ」
“齐里尔,劳动是可以要求付出代价的。虽说是家人,但如果无偿工作的话,就会不断降低自己的价值。”
「タイカ? ムショウ? カチ? よくわかんないよ」
“我不太清楚。”
「働いたら、ご褒美が貰えるのが普通ってこと。誰かに仕事を頼まれたら、何を貰えるのって、聞くんだ。もしも拒絶したら、しなくていい」
“工作的话,一般都会得到奖励。如果有人拜托我工作,我会问你能得到什么。如果拒绝的话,就不用做了。”
「うーん?」
“嗯?”
「たとえばだけれど、働いたら、飴を一つもらう。飴が貰えなかったら、仕事はしない。そういうこと。人はみんな、飴を貰えるから、仕事をしているんだ」
“比如说,如果工作的话,我会得到一块糖。如果没有糖,我就不工作。就是这样。因为人都能得到糖,所以我在工作。”
「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
菓子で喩えたら、少しは理解を示してくれた。先行きは不安ではあるが。
用点心来比喻的话,稍微表示了理解。虽然对未来感到不安。
 菓子で喩えたら、少しは理解を示してくれた。先行きは不安ではあるが。
「どの仕事が、飴玉一つになるのかも、考えるのも大事だからね」
“考虑一下哪个工作会变成一个糖果也很重要。”
「難しい話だな」
“好难啊。”
 ただ、ちょっとした手伝いでも報酬を要求したら、女性陣から顰蹙を買うだろう。その辺は、非常に難しいところだ。
ただ、ちょっとした手伝いでも報酬を要求したら、女性陣から顰蹙を買うだろう。その辺は、非常に難しいところだ。
只是,即使是一点帮忙也要求报酬的话,会被女性们瞧不起吧。那一带是非常难的地方。
家を出る前に、母に話しておいたほうがいいだろう。
出门前最好跟妈妈说一下。
 家を出る前に、母に話しておいたほうがいいだろう。
「イヴァン兄が、その辺も教えてくれたらよかったのに」
“伊凡哥哥要是能告诉我这一点就好了。”
「そうだね。ごめん」
“是啊,对不起。”
しょんぼりとするツィリルの手のひらに、あるものを握らせる。
在垂头丧气的齐里尔的手掌上,让他握住某个东西。
それは、ブレッド湖のほとりにある、小屋の鍵だ。
那是位于布莱德湖畔的小屋的钥匙。
 しょんぼりとするツィリルの手のひらに、あるものを握らせる。
 それは、ブレッド湖のほとりにある、小屋の鍵だ。
「イヴァン兄、これ!」
“伊凡哥哥,这个!”
「一人で行ったら、ダメだからね。父さんか、兄さんと一緒に行くんだ」
“一个人去的话,不行啊。爸爸或者和哥哥一起去。”
「う、うん」
“嗯,嗯。”
ツィリルには、五つ年上の兄がいる。十三歳なので、任せても大丈夫だろう。
齐里尔有一个比他大五岁的哥哥。十三岁了,交给他也没关系吧。
 ツィリルには、五つ年上の兄がいる。十三歳なので、任せても大丈夫だろう。
「おれが、もらってもいいの?」
“我可以拿吗?”
「ああ。その代わりに、ミハルのお祖父さんの、漁を手伝ってくれないか?」
“啊,你能帮米哈尔的爷爷捕鱼吗?”
 腰が悪いのに、張り切って漁にでかけているのだ。たぶん、俺がいなくなったあとはミハルが渋々手伝うだろうが、ツィリルもいたらさらに助かるだろう。
 ツィリルは、コクリと頷いてくれた。
腰が悪いのに、張り切って漁にでかけているのだ。たぶん、俺がいなくなったあとはミハルが渋々手伝うだろうが、ツィリルもいたらさらに助かるだろう。
明明腰不好,却干劲十足地出海捕鱼。大概,我不在了之后米哈尔会很勉强地帮忙,但是如果齐里尔也在的话会更好吧。
ツィリルは、コクリと頷いてくれた。
齐里尔点了点头。
「ねえ、イヴァン兄、ずっと、会えないわけじゃないよね?」
“喂,伊凡哥哥,你不是一直见不到他吗?”
「もちろん」
“当然。”
「よかった」
“太好了。”
ここでようやく、ツィリルは安堵の表情を見せてくれた。
 ここでようやく、ツィリルは安堵の表情を見せてくれた。
在这里,齐里尔终于露出了安心的表情

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養蜂家の青年は、家族と友と別れる
 手紙を書き終えたあとは、横になった途端泥のように眠る。一日に大量の文字を書くことなどないので、疲れてしまったのだろう。
养蜂青年与家人和朋友分别
 目が覚めると、カーテンの隙間からこれでもかと太陽光が差し込んでいた
手紙を書き終えたあとは、横になった途端泥のように眠る。一日に大量の文字を書くことなどないので、疲れてしまったのだろう
 母の部屋は、日当たり良好である
写完信后,刚躺下就睡得像泥一样。因为一天没有写大量的文字,所以累了吧
 太陽が差し込まない、過ごしやすい部屋は兄達が使っているのだろう。その辺は、母の優しさなのだろうか。
 包帯を取り、部屋にあった鏡を覗き込んでみる。
 想像以上に、顔はボコボコだった。頬も瞼も額も、内出血で青くなっている
目が覚めると、カーテンの隙間からこれでもかと太陽光が差し込んでいた
 唇も切っていたのか、腫れていた。これで、骨が折れていないのだから、自分の体はかなり頑丈なのだろう。山羊や牛のミルクを毎日飲んでいるからだろうか。その辺は、よくわからない
醒来后,阳光从窗帘的缝隙中照进来
 しかし、酷い見た目だ。しばらく、包帯が手放せないだろう。
 ため息を一つ零し、鏡を伏せる。自分で自分のことが気の毒になってきたので、鏡は見ないようにしよう。
母の部屋は、日当たり良好である。
母亲的房间日照良好。
 ボコボコになった顔についてはさて措いて。昨日書いた手紙を、封する前に確認する。
 一通り読んだが、まあ、問題ないだろう。
太陽が差し込まない、過ごしやすい部屋は兄達が使っているのだろう。その辺は、母の優しさなのだろうか。
没有阳光照射,舒适的房间是哥哥们使用的吧。那一带是母亲的温柔吗。
 この辺りには学校はなく、文字の読み書きや計算は父に習った。
 父は大学を卒業している、学のある人だったのだ。卒業後は教師になる予定だったが、旅行先で出会った母に一目ぼれし、そのままイェゼロ家に婿入りする形となった。
 教師の仕事を蹴って、愛を取ったというわけである。それほどに、情熱的なものだったらしい。酔っ払った父が、よく話していた。ずっと、後悔しているとも。
 なんでも父はもとより、教師をしながら母を養う予定だった。だが、母はイェゼロ家の一人娘で、養蜂園の跡取り娘でもあったのだ。母も両親や養蜂園を見捨てて結婚なんてできないと別れを切り出すものだから、父は思いきった行動にでてしまったようだ。
 晩年の父は、街の子ども達に文字や計算を教えるのが夢だと語っていた
包帯を取り、部屋にあった鏡を覗き込んでみる
 けれど街の者にとっては、幼い子どもでも働き手として数えている。学校に通う時間なんてないと、一蹴されていた
取下绷带,窥视房间里的镜子
 自らの学力を養蜂に活かす手段がわからず、父はずっと苦悩していたのかもしれない。
 酒に溺れ、最期は母と口論となり、家を出た。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまう。
 時間があったら、父の墓前にも挨拶に行こう
想像以上に、顔はボコボコだった。頬も瞼も額も、内出血で青くなっている
 父が文字の読み取りを教えてくれたおかげで、俺は養蜂家の父であるアントン・ヤンシャに出会えた。感謝しても、し尽くせない
比想象中还要丰满。脸颊、眼睑、额头都因内出血而变蓝
 朝食は母が持ってきてくれた。蕎麦粉入りのパンにバターを載せ上から蜂蜜を垂らしたものと、大きなソーセージがぷかぷか浮かんだ“ヨータ”と呼ばれるスープ。それから、山盛りの野いちごがあった。母なりの、愛を込めた最後の食事なのかもしれない。
唇も切っていたのか、腫れていた。これで、骨が折れていないのだから、自分の体はかなり頑丈なのだろう。山羊や牛のミルクを毎日飲んでいるからだろうか。その辺は、よくわからない。
嘴唇也剪了,肿了。这样一来,骨头就没有折断,自己的身体相当结实吧。是因为每天喝山羊和牛的牛奶吗。这一点我不太清楚。
しかし、酷い見た目だ。しばらく、包帯が手放せないだろう。
但是看起来很过分。暂时不能放开绷带吧。
ため息を一つ零し、鏡を伏せる。自分で自分のことが気の毒になってきたので、鏡は見ないようにしよう。
叹了一口气,把镜子扣下。自己开始觉得自己可怜了,就不要照镜子了。
ボコボコになった顔についてはさて措いて。昨日書いた手紙を、封する前に確認する。
关于变得肉麻的脸,请不要说。昨天写的信,在封之前确认。
一通り読んだが、まあ、問題ないだろう。
看了一遍,不过没问题吧。
この辺りには学校はなく、文字の読み書きや計算は父に習った。
这附近没有学校,向父亲学习了文字的读写和计算。
父は大学を卒業している、学のある人だったのだ。卒業後は教師になる予定だったが、旅行先で出会った母に一目ぼれし、そのままイェゼロ家に婿入りする形となった。
父亲是大学毕业的,有学问的人。毕业后原计划成为教师,但对在旅行地遇到的母亲一见钟情,就这样入赘了耶零家。
教師の仕事を蹴って、愛を取ったというわけである。それほどに、情熱的なものだったらしい。酔っ払った父が、よく話していた。ずっと、後悔しているとも。
也就是说,他放弃了教师的工作,获得了爱情。好像是那么热情的东西。喝醉了的父亲经常说话。一直都很后悔。
なんでも父はもとより、教師をしながら母を養う予定だった。だが、母はイェゼロ家の一人娘で、養蜂園の跡取り娘でもあったのだ。母も両親や養蜂園を見捨てて結婚なんてできないと別れを切り出すものだから、父は思いきった行動にでてしまったようだ。
父亲自不必说,就连母亲也打算边教书边抚养。但是,母亲是耶泽罗家的独生女,也是养蜂园的继承女儿。母亲也抛弃了父母和养蜂园,说不能结婚就提出分手,所以父亲好像采取了果断的行动。
晩年の父は、街の子ども達に文字や計算を教えるのが夢だと語っていた。
晚年的父亲说,教街上的孩子们文字和计算是他的梦想。
けれど街の者にとっては、幼い子どもでも働き手として数えている。学校に通う時間なんてないと、一蹴されていた。
但是对于街上的人来说,即使是年幼的孩子也算是劳动者。因为没有上学的时间,所以被拒绝了。
自らの学力を養蜂に活かす手段がわからず、父はずっと苦悩していたのかもしれない。
不知道把自己的学习能力用在养蜂上的手段,父亲可能一直很苦恼。
酒に溺れ、最期は母と口論となり、家を出た。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまう。
沉溺于酒,最后和母亲发生口角,离开了家。然后就这样变成了不回去的人。
時間があったら、父の墓前にも挨拶に行こう。
有时间的话,也去父亲的墓前打招呼吧。
父が文字の読み取りを教えてくれたおかげで、俺は養蜂家の父であるアントン・ヤンシャに出会えた。感謝しても、し尽くせない。
多亏了父亲教我读文字,我遇到了养蜂家的父亲安东·扬沙。即使感谢,也做不完。
朝食は母が持ってきてくれた。蕎麦粉入りのパンにバターを載せ上から蜂蜜を垂らしたものと、大きなソーセージがぷかぷか浮かんだ“ヨータ”と呼ばれるスープ。それから、山盛りの野いちごがあった。母なりの、愛を込めた最後の食事なのかもしれない。
早餐是妈妈给我带的。在加入荞麦粉的面包上放上黄油,从上面滴下蜂蜜的东西和漂浮着大香肠的被称为“约塔”的汤。然后,有一个盛得满满的野草莓。也许这是母亲的最后一顿饱含爱意的饭。
盆の上に置かれていたのは、朝食だけではなかった。革袋に入った何かが、置かれている。手に取ると、ずっしり重い。カチャカチャという、金属音も聞こえた。
放在盂兰盆节上的不仅仅是早餐。皮袋里放着什么东西。拿在手里,沉甸甸的。也听到了咔嚓咔嚓的金属声音。
 盆の上に置かれていたのは、朝食だけではなかった。革袋に入った何かが、置かれている。手に取ると、ずっしり重い。カチャカチャという、金属音も聞こえた。
「母さん、これ何?」
“妈妈,这是什么?”
「あなたに、渡していなかった給料よ」
“我没给你的工资。”
「ああ、そういうことね」
“啊,就是这么回事。”
母は突然、頭を下げた。何事かと思い、ギョッとする。
母亲突然低下了头。以为是什么事,吓了一跳。
 母は突然、頭を下げた。何事かと思い、ギョッとする。
「え、何?」
“啊,什么事?”
「ごめんなさい。毎月、給料を渡していなかったなんて、知らなかったの」
“对不起,我不知道你每个月都没有给我发工资。”
 イェゼロ家の金銭の管理は、一番上の兄アランの嫁ダナがしていたらしい。
イェゼロ家の金銭の管理は、一番上の兄アランの嫁ダナがしていたらしい。
艺零家的金钱管理,好像是最大的哥哥阿兰的妻子达娜做的。
アランから俺の給料を酒代に回せと命じられ、渡していなかったようだ。
阿兰命令我把我的工资转到酒钱上,好像没有交。
 アランから俺の給料を酒代に回せと命じられ、渡していなかったようだ。
「イヴァン、どうして、何も言わなかったのよ」
“伊凡,你怎么什么都没说?”
「いやだって、他の人が賃金をもらっていたとか、知らなかったし」
“就算不愿意,我也不知道别人拿了工资。”
皆、各々の花畑で採れた蜂蜜を売って、稼いでいると思い込んでいたのだ。まさか、月収制だったなんて、知る機会なんてなかったし。
大家都以为是卖了在各个花圃里采摘的蜂蜜赚钱的。没想到是月收入制,没有机会知道。
 皆、各々の花畑で採れた蜂蜜を売って、稼いでいると思い込んでいたのだ。まさか、月収制だったなんて、知る機会なんてなかったし。
母は深い深いため息をつき、もう一度謝ってくる。
母亲深深地叹了一口气,再一次道歉。
 母は深い深いため息をつき、もう一度謝ってくる。
「時間はかかるかもしれないけれど、お金は返すから」
“可能要花很长时间,但我会还你钱的。”
「だったら、そのお金を、今いる子ども達への学費にしてあげて」
“那嚒,把那笔钱作为给现在的孩子们的学费。”
「学費?」
“学费?”
「そう。文字の読み書きや計算は、取り引きをする上でも役立つから」
“是的。文字的读写和计算,在交易中也很有用。”
「学なんて、養蜂家には役に立たないわよ」
“学什么的,对养蜂人没用。”
「立つよ。俺は、養蜂の本を読んで、病気対策もしてきたし」
“站起来。我读了养蜂的书,也做了治病的对策。”
アントン・ヤンシャの本を読んで、新たに得た養蜂の知識は山のようにある。日々続けることで得る感覚も大事だが、勉強して得るものも大事なのだ。
读了安东·扬沙的书,新获得的养蜂知识如山。每天坚持下去得到的感觉也很重要,但是学习得到的东西也很重要。
 アントン・ヤンシャの本を読んで、新たに得た養蜂の知識は山のようにある。日々続けることで得る感覚も大事だが、勉強して得るものも大事なのだ。
「兄さん達が、文字の読み書きや、計算ができるはずだから、先生になってもらって。教えた分だけ、報酬を払ってほしい。身内とはいえ、労働をしたら、対価を与えてほしいんだ。兄さん達だけじゃない。子ども達にも」
“哥哥们应该会文字的读写和计算,所以请他们成为老师。希望他们能根据教的部分支付报酬。虽说是自己人,但如果劳动的话,希望能给予报酬。不仅仅是哥哥们,孩子们也要。”
「え、ええ。そうね。わかったわ」
“啊,是啊,我知道了。”
理解してもらえて、ホッと胸をなで下ろす。これで、ツィリルや他の甥や姪達がタダ働きを強いられることはないだろう。
得到理解,松了一口气。这样的话,齐丽尔和其他侄子和侄女们就不会被强迫免费工作了吧。
母が出て行ったあと、食事を取る。
妈妈出去之后,吃饭。
こんな風にのんびり過ごす朝は、初めてだった。
像这样悠闲度过的早晨,还是第一次。
 理解してもらえて、ホッと胸をなで下ろす。これで、ツィリルや他の甥や姪達がタダ働きを強いられることはないだろう。
 母が出て行ったあと、食事を取る。
 こんな風にのんびり過ごす朝は、初めてだった。
◇◇◇
◇◇◇
 ◇◇◇
 出発の時間を迎える。見送りは母とツィリル、それからミハルだけ。
出発の時間を迎える。見送りは母とツィリル、それからミハルだけ。
迎来出发时间。送行的只有母亲和齐丽尔,还有米哈尔。
ひとまず、ミハルに手紙を託す。
暂且把信托付给米哈尔。
 ひとまず、ミハルに手紙を託す。
「これ、みんなにお願い」
“这个,拜托大家了。”
「ああ、任せておけ」
「啊,交给我吧。」
まだ、ミハルが元気を取り戻していない。昨日の今日なので、無理もないが。ツィリルのほうが、いつも通りだ。母は目を真っ赤にさせていた。
米哈尔还没有恢复精神。因为是昨天的今天,所以也不勉强。齐里尔和往常一样。妈妈眼睛通红。
 まだ、ミハルが元気を取り戻していない。昨日の今日なので、無理もないが。ツィリルのほうが、いつも通りだ。母は目を真っ赤にさせていた。
マクシミリニャンがやってくる。何か買い付けをしたのか、大きな荷物を抱えていた。
马克西米利尼亚来了。不知是不是买了什么东西,抱着很大的行李。
 マクシミリニャンがやってくる。何か買い付けをしたのか、大きな荷物を抱えていた。
「さあ、イヴァン殿、行こうか」
「来吧,伊凡大人,我们走吧。」
「うん」
“嗯。”
あまり話し込むと、寂しくなってしまう。だから、別れは手短に。
说得太多的话,会变得寂寞。所以,分手要简短。
 あまり話し込むと、寂しくなってしまう。だから、別れは手短に。
「ミハル、落ち着いたら、手紙を書くよ」
「ああ」 
“米哈尔,等你冷静下来,我给你写信。”
「ああ」
“啊。”
 背中をポンと叩いたら、「力が強い!」と抗議されてしまった。その様子は、いつものミハルなのでホッとする。
背中をポンと叩いたら、「力が強い!」と抗議されてしまった。その様子は、いつものミハルなのでホッとする。
我拍了拍后背,结果被抗议说“力量很大!”。那个样子,因为是平时的米哈尔所以松了一口气。
ツィリルは目を輝かせながら、胸に飛び込んでくる。まだ小さなその体を、ぎゅっと抱きしめた。
齐里尔眼睛闪闪发光,扑向心头。紧紧地抱住那还很小的身体。
離れると、ツィリルは手に握っていた革袋を差し出してきた。
离开后,齐里尔拿出手里的皮袋。
 ツィリルは目を輝かせながら、胸に飛び込んでくる。まだ小さなその体を、ぎゅっと抱きしめた。
 離れると、ツィリルは手に握っていた革袋を差し出してきた。
「これ、イヴァン兄にあげてって、父ちゃんが」
“这是给伊凡哥哥的,爸爸。”
「兄さんが?」
“哥哥?”
革袋の中身は、蕎麦の種だった。去年採っていた種を、そのままくれたようだ。
皮袋里是荞麦面的种子。去年采摘的种子好像就那样给了我。
 革袋の中身は、蕎麦の種だった。去年採っていた種を、そのままくれたようだ。
「父ちゃんがね、古い言葉に“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”っていうのがあるって、言っていたんだ。だから、居場所に迷ったら、この蕎麦の種を、蒔いてね」
“爸爸说,有句古话叫‘在新的地方种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里就是你的住处’。所以,如果你迷路了,就种荞麦种子吧。”
「ありがとう」
“谢谢。”
蕎麦の種を受け取り、鞄の中に入れる。
收到荞麦面的种子,放进包里。
ツィリルの父親ミロシュは他の兄と比べて比較的俺に優しかったが、特別扱いすると兄弟から反感を買うので表だって何もできなかったのだろう。
齐里尔的父亲米洛什和其他哥哥相比对我比较温柔,但是特别对待的话会引起兄弟的反感,所以表面上什么都做不了吧。
 蕎麦の種を受け取り、鞄の中に入れる。
 ツィリルの父親ミロシュは他の兄と比べて比較的俺に優しかったが、特別扱いすると兄弟から反感を買うので表だって何もできなかったのだろう。
ツィリルの頭を撫でながら、感謝の気持ちをこっそり伝えておくように頼んでおく。
一边抚摸着齐里尔的头,一边拜托他悄悄地传达感谢的心情。
 ツィリルの頭を撫でながら、感謝の気持ちをこっそり伝えておくように頼んでおく。
「ツィリル、元気で」
“齐丽尔,保重。”
「イヴァン兄も!」
“伊凡哥哥也是!”
母はカゴに入った弁当を差し出してくれた。
妈妈递给我放在篮子里的便当。
 母はカゴに入った弁当を差し出してくれた。
「お腹が空いたら、マクシミリニャンさんと一緒にお食べなさい」
“肚子饿了的话,请和马克西米利尼一起吃。”
「ありがとう」
“谢谢。”
ただ、それだけの言葉を交わしただけなのに、母はポロポロと涙を零した。
只是说了这么多话,母亲却流下了眼泪。
 ただ、それだけの言葉を交わしただけなのに、母はポロポロと涙を零した。
「何があっても、あなたの家は、ここだから」
“不管发生什么,你的家就在这里。”
「うん」
“嗯。”
これは決別ではなく、旅立ちだ。だから、いつでもこの家に帰ってこられるのだ。
这不是诀别,而是启程。所以,你随时都可以回到这个家。
 これは決別ではなく、旅立ちだ。だから、いつでもこの家に帰ってこられるのだ。
「行ってきます」
“我走了。”
手を振って、踵を返す。
挥手,转身。
ブレッド湖を背に、新しい一歩を踏み出した。
背靠布莱德湖,迈出了新的一步。
前を歩くのは、筋骨隆々の強面のおじさん。
走在前面的是肌肉发达的强面大叔。
はたして、彼の娘はどんな見た目で、どんな性格をしているのか。まったく想像がつかない。愛らしい娘だとマクシミリニャンは主張しているが、親の欲目の可能性が大であった。
到底,他的女儿是什么样的外表,什么样的性格呢。简直无法想象。虽然马克西米利尼亚认为这是一个可爱的女儿,但父母贪得无厌的可能性很大。
 手を振って、踵を返す。
果たして、マクシミリニャンの娘アニャは、顔面ボコボコの包帯男との結婚を受け入れるのか
 ブレッド湖を背に、新しい一歩を踏み出した。
真的,马克西米利尼亚的女儿阿尼亚会接受和满脸皱纹的绷带男结婚吗
 前を歩くのは、筋骨隆々の強面のおじさん。
 はたして、彼の娘はどんな見た目で、どんな性格をしているのか。まったく想像がつかない。愛らしい娘だとマクシミリニャンは主張しているが、親の欲目の可能性が大であった。
 果たして、マクシミリニャンの娘アニャは、顔面ボコボコの包帯男との結婚を受け入れるのか。
なんだか楽しみになってきた
 なんだか楽しみになってきた。
总觉得很期待

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘に出会う
 山を登るのに杖を渡されたが、これはただの杖ではなかった。
 荷棒(にんぼう)と呼ばれ、ひと休みをするときに背負子の下に入れて荷物を支えるのだという。つまり、座らずに立ったまま休憩するようだ。
养蜂家的青年遇到了蜜药师的女儿
山を登るのに杖を渡されたが、これはただの杖ではなかった。
登山时被交给了拐杖,但这不仅仅是一根拐杖。
荷棒(にんぼう)と呼ばれ、ひと休みをするときに背負子の下に入れて荷物を支えるのだという。つまり、座らずに立ったまま休憩するようだ。
据说他被称为“荷棒”,在休息的时候把行李放在背上支撑行李。也就是说,不坐就站着休息。
「背負子を下ろしたら、再び持ち上げるのが困難なときがある。よって、なるべく短い休憩時間のときは、下ろさないようにするのだ」
“有时背下来后,再抬起来会很困难。因此,尽量在休息时间短的时候,不要放下。”
「なるほど」
 背負子の荷物はズッシリと重たく、疲れた状態ならば背負って立ち上がる行為が困難な状況になるのかもしれない。
 山で暮らす者達の知恵なのだろう。
“原来如此。”
背負子の荷物はズッシリと重たく、疲れた状態ならば背負って立ち上がる行為が困難な状況になるのかもしれない。
背孩子的行李很重,如果处于疲劳的状态,背着站起来的行为可能会变得困难。
山で暮らす者達の知恵なのだろう。
这是在山上生活的人们的智慧吧。
若葉萌ゆる木々の間を、縫うように進んでいく。
在嫩叶萌萌的树木之间,像缝一样前进。
一時間ほどなだらかな坂道だったが、だんだんと険しくなっていく。
虽然是一个小时左右平缓的坡道,但渐渐变得险峻。
全身汗をかくと、途端に傷が痒くなる。汗が染みこんで気持ち悪いので、包帯を取った。
全身出汗的话,伤口马上就会痒。因为汗浸透了很恶心,所以取了绷带。
 若葉萌ゆる木々の間を、縫うように進んでいく。
 一時間ほどなだらかな坂道だったが、だんだんと険しくなっていく。
 全身汗をかくと、途端に傷が痒くなる。汗が染みこんで気持ち悪いので、包帯を取った。
「イヴァン殿、大丈夫か?」
 正直に言うと、大丈夫ではない。
 言葉に出さなかったが、伝わってしまったのだろう。マクシミリニャンはこちらへズンズンやってきて、俺の背負子の荷物を下ろしてくれた。
“伊凡大人,没事吧?”
正直に言うと、大丈夫ではない。
说实话,没关系。
言葉に出さなかったが、伝わってしまったのだろう。マクシミリニャンはこちらへズンズンやってきて、俺の背負子の荷物を下ろしてくれた。
虽然没有用语言表达,但还是传达了吧。马克西米利尼亚来到这里,把我背上的行李拿下来。
「しばし休もう」
 木々が生い茂り、獣しか通らないような道である。休憩するような場所ではない。
 しかしながら、膝の力が抜けてその場に頽(くずお)れる。
 すぐにマクシミリニャンが体を支え、何か口に押し込んできた。
 甘い――すぐに、蜂蜜のキャラメルであることに気付く。
“暂时休息吧。”
木々が生い茂り、獣しか通らないような道である。休憩するような場所ではない。
这是一条树木繁茂,只有野兽才能通过的道路。不是休息的地方。
しかしながら、膝の力が抜けてその場に頽(くずお)れる。
但是,膝盖无力,当场就垮啦。
すぐにマクシミリニャンが体を支え、何か口に押し込んできた。
很快,马克西米利尼亚支撑着身体,把什嚒东西塞进嘴里。
甘い――すぐに、蜂蜜のキャラメルであることに気付く。
甜——马上就发现是蜂蜜的奶糖。
「それを、舌の上でゆっくりとかし、呑み込むのだ」
 疲れた体に、染み入るような甘さである。続けて、マクシミリニャンは鞄からカップと水、それから蜂蜜の瓶を取り出し、水に溶いたものを飲むようにと差し出してきた。
 不思議と、辛い気分が薄くなったような気がした。
「把它放在舌头上慢慢地吞下。」
疲れた体に、染み入るような甘さである。続けて、マクシミリニャンは鞄からカップと水、それから蜂蜜の瓶を取り出し、水に溶いたものを飲むようにと差し出してきた。
这是渗透到疲惫的身体里的甜味。接着,马克西米利尼亚从包里拿出杯子和水,然后拿出蜂蜜的瓶子,就像喝了溶解在水里的东西一样。
不思議と、辛い気分が薄くなったような気がした。
不可思议的是,我感觉痛苦的心情变淡了。
「山で疲労を感じたときは、これが一番だとアニャが言っていた」
“在山上感到疲劳的时候,阿尼亚说这是最好的。”
「そう、なんだ」
“是,是什么?”
「どうだ?」
“怎么样?”
「うん、だいぶいい」
 怪我が完全に治っていないのに、無理矢理家を出たからだろう。あまりの計画性のなさに、がっくりとうな垂れてしまう。
“嗯,相当好。”
怪我が完全に治っていないのに、無理矢理家を出たからだろう。あまりの計画性のなさに、がっくりとうな垂れてしまう。
大概是因为伤还没完全治好,就强行离开了家吧。因为没有太多的计划性,所以垂头丧气。
「怪我の治療は、アニャに任せよう」
“受伤的治疗就交给阿尼亚吧。”
「医者からもらった薬があるんだけれど」
“我有医生给我的药。”
「皮膚が酷くただれておるぞ。これは、痛かっただろう。おそらく、薬が合っていないのではないか?」
 そういえば、ミハルが「街の医者はヤブだ」なんて言っていたのを思い出す。
 生まれてこの方、ド健康だったので医者にかかることはなかったのだ。
“皮肤很烂。这个很痛吧。恐怕药不合适吧?”
そういえば、ミハルが「街の医者はヤブだ」なんて言っていたのを思い出す。
这么说来,我想起了米哈尔说过“街上的医生是雅伯”。
生まれてこの方、ド健康だったので医者にかかることはなかったのだ。
出生以来这个人很健康,所以没有去看医生。
「なんで、ただれたんだろう。今まで、薬を飲むような病気にかかったことがなかったから、相性が悪かったのかな」
 傷口をかかないほうがいいというが、ついついバリバリと爪で引っ掻いてしまう。その瞬間、痛みに襲われるのだ。
 なんだろうか、この、痒みを訴える傷をかくと痛いという現象は。人体の謎である。
“为什么会糜烂呢?以前没有得过吃药之类的病,是不是不投缘呢?”
傷口をかかないほうがいいというが、ついついバリバリと爪で引っ掻いてしまう。その瞬間、痛みに襲われるのだ。
虽然说最好不要抱伤口,但不知不觉就用指甲挠了一下。那一瞬间,被疼痛袭击了。
なんだろうか、この、痒みを訴える傷をかくと痛いという現象は。人体の謎である。
不知是什么原因,这种挠痒痒的伤口就会痛的现象。这是人体之谜。
「暇を見つけて、リブチェフ・ラズの医者にかかったほうがいいのかな?」
“找个时间,去看利布切夫·拉兹的医生比较好吗?”
「リブチェフ・ラズには、医者はおらぬ」
「え、そうなの!? このまま治りが遅かったら、どうしよう」
“里布切夫·拉兹没有医生。”
「え、そうなの!? このまま治りが遅かったら、どうしよう」
“啊,是吗!?如果就这样治晚了,怎么办?”
「安心せい。アニャは、“蜜薬師(みつくすし)”である」
“放心吧。Ania是‘蜜药师’。”
「蜜薬師?」
 初めて聞く言葉だったので、思わず聞き返してしまう。
 蜜薬師――それは、豊富な蜂蜜の知識を持ち、蜂蜜を薬のように処方する存在だという。
“蜜药师?”
初めて聞く言葉だったので、思わず聞き返してしまう。
因为是第一次听到的话,所以不由得反问了。
蜜薬師――それは、豊富な蜂蜜の知識を持ち、蜂蜜を薬のように処方する存在だという。
蜜药师——据说他拥有丰富的蜂蜜知识,是将蜂蜜如药般处方的存在。
「蜂蜜は、万能薬とも言われておる。症状ごとに蜂蜜を選び、体調をよい方向へと導いてくれるのだ」
“蜂蜜也被称为万能药。每个症状都会选择蜂蜜,引导身体走向好的方向。”
「へえ」
 もみの木の蜂蜜は、イライラと不眠症緩和に。
 タイムの蜂蜜は、咳止めに。
 リンゴの蜂蜜は、便秘の解消に。
「咦?」
もみの木の蜂蜜は、イライラと不眠症緩和に。
枞树蜂蜜可以缓解烦躁和失眠。
タイムの蜂蜜は、咳止めに。
时间的蜂蜜可以止咳。
リンゴの蜂蜜は、便秘の解消に。
苹果蜂蜜可以消除便秘。
一言に蜂蜜といっても、種類ごとにさまざまな効果があるようだ。
一言以蔽之,蜂蜜的种类也有各种各样的效果。
 一言に蜂蜜といっても、種類ごとにさまざまな効果があるようだ。
「イヴァン殿は、毎日蜂蜜を食べていたから、今まで健康だったのだろう」
“伊凡大人每天都吃蜂蜜,所以至今为止都很健康吧。”
「そう、なのかな?」
“是吗?”
「自信を持て」
 言われてみれば、同じように蜂蜜を食べている家族も、滅多に風邪を引いたり、腹を壊したりしない。蜂蜜の効果だったのだろうか。
“要有自信。”
言われてみれば、同じように蜂蜜を食べている家族も、滅多に風邪を引いたり、腹を壊したりしない。蜂蜜の効果だったのだろうか。
说起来,同样吃蜂蜜的家庭也很少感冒,也不会闹肚子。是蜂蜜的效果吗。
「リブチェフ・ラズの村人も具合が悪くなれば、アニャを尋ねてやってくる」
“里布切夫·拉兹的村民如果身体不舒服,也会来找阿尼亚。”
「八時間かけて?」
 マクシミリニャンはコクリと頷いた。
 患者本人でなくても、家族が相談にやってくる場合もあるらしい。
“花了八个小时?”
マクシミリニャンはコクリと頷いた。
马克西米利尼亚点了点头。
患者本人でなくても、家族が相談にやってくる場合もあるらしい。
即使不是患者本人,家人也会来咨询。
「ブレッド湖まで馬車で飛ばしたら二時間なのに、わざわざ八時間かけてやってくるんだ」
“坐马车飞到布莱德湖的话只有两个小时,特意花了八个小时来。”
「ここの者達は、それだけ蜜薬師を信頼しているのだ」
“这里的人们就这么信赖蜜药师。”
「なるほど」
 ヤブ医者にかかるよりは、蜜薬師を頼ったほうがいいというわけか。
“原来如此。”
ヤブ医者にかかるよりは、蜜薬師を頼ったほうがいいというわけか。
与其去看雅布医生,还不如依靠蜜药师好吗。
「どれ、水で、顔を洗おうか」
“喂,用水洗脸吧。”
「え、いいよ」
“啊,好啊。”
「しかし、肌に合わない薬を塗った状態では、余計に傷が悪くなるだろう」
 まずは、肌に合わない薬を水で流したほうがいいと言われた。
 マクシミリニャンは容赦なく、頭の上から水をかけてくれた。おかげで、上半身までびしょびしょだ。
 しかし、汗をかいていたので、ついでだと思って着替える。
 さっぱりしたところで、登山を再開した。
“但是,在涂了不适合皮肤的药的状态下,伤口会变得更差吧。”
まずは、肌に合わない薬を水で流したほうがいいと言われた。
首先,被告知最好用水冲掉不适合皮肤的药。
マクシミリニャンは容赦なく、頭の上から水をかけてくれた。おかげで、上半身までびしょびしょだ。
马克西米利尼亚毫不留情地从头顶上给我浇水。托您的福,上半身都湿透了。
しかし、汗をかいていたので、ついでだと思って着替える。
但是,因为出汗了,所以以为是顺便换衣服。
さっぱりしたところで、登山を再開した。
在清爽的地方重新开始登山了。
サラサラと、水のせせらぎが聞こえる。山には大きな川があり、生活水として使っているらしい。
沙沙作响,能听到水的潺潺流水。山上有一条大河,好像是作为生活水使用的。
美しい川だが、感動なんてしている場合ではなかった。
虽然是一条美丽的河,但不是感动的时候。
川を沿うように上がっていくと、だんだん岩場になっていく。そこを、昇っていくのだ。
沿着河往上走,渐渐变成了岩场。从那里升起。
着替えたのに、すぐに汗だくになる。
换了衣服,马上就汗流浃背。
かと思えば、滝のある場所はキンとした冷気が漂っていた。汗が一気に引いて、ガクブルと震えてしまう。
原以为是这样,瀑布所在的地方弥漫着凉爽的冷气。汗一下子退了,咯咯地发抖。
街で買った外套では、寒さなんて耐えきれない。
在街上买的大衣,冷得受不了。
 サラサラと、水のせせらぎが聞こえる。山には大きな川があり、生活水として使っているらしい。
 美しい川だが、感動なんてしている場合ではなかった。
 川を沿うように上がっていくと、だんだん岩場になっていく。そこを、昇っていくのだ。
 着替えたのに、すぐに汗だくになる。
 かと思えば、滝のある場所はキンとした冷気が漂っていた。汗が一気に引いて、ガクブルと震えてしまう。
 街で買った外套では、寒さなんて耐えきれない。
「これを、着られよ」
 マクシミリニャンが肩にかけてくれたのは、光沢のある毛糸の外套だ。
「穿上这个吧。」
マクシミリニャンが肩にかけてくれたのは、光沢のある毛糸の外套だ。
马克西米利尼亚给我披在肩上的是一件有光泽的毛线外套。
「これは?」
“这是?”
「我が家で飼育している山羊から作った、カシミアの外套である」
 異国産の山羊を皇家から贈られ、代々大切に育てているのだという。
“这是我家饲养的山羊做的卡西米亚大衣。”
異国産の山羊を皇家から贈られ、代々大切に育てているのだという。
据说皇家赠送了异国产的山羊,世世代代精心培育。
「カシミアって、確か高級品だと言われていたような」
“据说卡西米亚确实是高级品。”
「そうだな。その外套は売れ残りだから、気にせずに着ておくとよい」
 お言葉に甘えて、少しの間借りておく。先ほどまで全身鳥肌が立っていたが、カシミアの外套は冷たい風を通さず、動く度に体が温まるような気がする。
 やはり、動物の毛はあたたかいのだ。
“是啊,那件外套卖不出去,你别介意,穿上就好了。”
お言葉に甘えて、少しの間借りておく。先ほどまで全身鳥肌が立っていたが、カシミアの外套は冷たい風を通さず、動く度に体が温まるような気がする。
恭敬不如从命,借一点时间。刚才全身起鸡皮疙瘩,开司米的外套不透冷风,每次一动都觉得身体暖和。
やはり、動物の毛はあたたかいのだ。
果然,动物的毛是温暖的。
それから、針葉樹林の木々の間を通り抜け、崖のような角度の斜面を登り、ゴツゴツした岩場を這うように登っていく。
然后,穿过针叶树林的树木之间,爬上悬崖般角度的斜坡,爬上凹凸不平的岩石场。
太陽が傾きかけるような時間帯に、ようやくマクシミリニャンの家に到着した。
在太阳快要倾斜的时间段,终于到达了马克西米利尼亚的家。
 それから、針葉樹林の木々の間を通り抜け、崖のような角度の斜面を登り、ゴツゴツした岩場を這うように登っていく。
 太陽が傾きかけるような時間帯に、ようやくマクシミリニャンの家に到着した。
「ここが、家?」
“这里是家?”
「ああ、そうだ」
 山を切り開き、人が住めるよう更地にしていた。
 大きな平屋建ての母屋と、下屋、それから離れが二つほどある。その背後にあるのは、山羊小屋か。他、炭焼き小屋や納屋、石窯に畑や、花壇、果樹などもあるようだ。驚くべきことに、ガラス張りの温室まであった。その向こう側にあるのは、湧き水だろうか。澄んだ透明の水が、サラサラと流れている。
 家の背後にある斜面は、土砂崩れが起きないよう石垣で固めている。思っていた以上に、しっかりした造りの家である。
“啊,对了。”
山を切り開き、人が住めるよう更地にしていた。
把山切开,为了让人居住而改成了空地。
大きな平屋建ての母屋と、下屋、それから離れが二つほどある。その背後にあるのは、山羊小屋か。他、炭焼き小屋や納屋、石窯に畑や、花壇、果樹などもあるようだ。驚くべきことに、ガラス張りの温室まであった。その向こう側にあるのは、湧き水だろうか。澄んだ透明の水が、サラサラと流れている。
有两个大的平房的主屋和下屋,还有两个距离。背后的是山羊小屋吗。另外,烧炭小屋、谷仓、石窑里还有田地、花坛、果树等。令人吃惊的是,甚至还有镶着玻璃的温室。在那对面的是泉水吗。清澈透明的水潺潺流淌着。
家の背後にある斜面は、土砂崩れが起きないよう石垣で固めている。思っていた以上に、しっかりした造りの家である。
房子背后的斜坡,为了不发生泥石流,用石墙加固。这是一座比想象中还要坚固的房子。
「我は普段、離れで暮らしておる。イヴァン殿は、アニャと母屋で暮らすとよい」
“我平时都是分开生活的。伊凡大人最好和阿尼亚住在正房里。”
「いやいや、普通、逆でしょう」
 家長であるマクシミリニャンを差し置いて母屋に住むなんて。俺が離れに住んで、母屋に親子が住めばいいのではないか。そう思ったが、事情があるらしい。
“不,不,一般都是相反的吧。”
家長であるマクシミリニャンを差し置いて母屋に住むなんて。俺が離れに住んで、母屋に親子が住めばいいのではないか。そう思ったが、事情があるらしい。
竟然把家长马克西米莉娜丢下住在正房里。我分开住,父母和孩子住在母屋不就好了吗。虽然这么想,但好像有情况。
「娘に世話をかけるわけにはいかないからな。十五の春には一人前だったゆえ、話し合って、我は離れに、アニャは母屋に住むことになったのだ。食事は当番制にして、日替わりで作っておった」
“因为我不能让女儿照顾我。十五岁那年春天我已经是独当一面的人了,所以商量之后,我就离开了,安妮娅就住在正房里。吃饭是值班制,每天轮流做的。”
「なるほど」
 ここでは、親の世話は子がするもの、という概念はないようだ。
“原来如此。”
ここでは、親の世話は子がするもの、という概念はないようだ。
在这里,似乎没有父母的照顾是孩子做的概念。
「ところで、アニャは?」
“话说,阿尼亚呢?”
「ふむ。いつもならば、帰ってきたのと同時に出迎えるのだがな。アニャ、アニャー!」
“嗯。如果是平常的话,在回来的同时迎接。阿尼亚,阿尼亚!”
「はーい」
 石垣のあるほうから、元気な返事が聞こえた。
 夕日を背に、大きな何かが接近してくる。
 逆光になり、姿がよく見えない。
 けれど、彼女が何かに騎乗してやってきたことはわかった。
“嗯。”
石垣のあるほうから、元気な返事が聞こえた。
从有石墙的人那里听到了精神饱满的回答。
夕日を背に、大きな何かが接近してくる。
背着夕阳,有什么大的东西接近了。
逆光になり、姿がよく見えない。
逆光,看不清身影。
けれど、彼女が何かに騎乗してやってきたことはわかった。
但是,我知道她是骑着什么来的。
「クリーロ、止まって!」
“克里洛,停下!”
「うわっ!!」
 急停止による砂埃を浴びながら、はっきりとその姿を確認する。
 まず、目に飛び込んできたのは、大きな山羊である。これが、マクシミリニャンが言っていた騎乗用の山羊なのか。
 ロバよりも大きく、美しい純白の毛並みに、見事な二本の角が生えていた。
 そして、その大山羊に跨がるのは――金髪碧眼の美少女だった。
“哇!!”
急停止による砂埃を浴びながら、はっきりとその姿を確認する。
一边沐浴着突然停止的沙尘,一边清楚地确认其身影。
まず、目に飛び込んできたのは、大きな山羊である。これが、マクシミリニャンが言っていた騎乗用の山羊なのか。
首先,映入眼帘的是一只大山羊。这就是麦克西米利尼亚所说的骑乘用山羊吗。
ロバよりも大きく、美しい純白の毛並みに、見事な二本の角が生えていた。
比驴子还大,美丽的纯白的毛色,长着漂亮的两根角。
そして、その大山羊に跨がるのは――金髪碧眼の美少女だった。
然后,跨过大山羊的是——金发碧眼的美少女。

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘から治療を受ける
 アニャと呼ばれて飛び出してきた女性は、驚くほど美しかった。
 夕日を浴びた金の髪は、蜂蜜みたいにキラキラ輝いている。山の冷気を含んだ風に、サラサラとなびいていた。三つ編みをクラウンのように巻いている髪型は、どこか貴族令嬢のような華と気品がある。
 青い瞳は、子どものときに見た少女人形のサファイアと同じくらい輝いていた。
 陶器のように白くなめらかな肌はうっとりするほど綺麗で、猫を思わせるアーモンド型の目は好奇心旺盛な子猫を思わせた。
 服はこの辺りの民族衣装なのか。
 袖なしのワンピースの下にシャツを着て、腰回りは華やかな花帯で締めている。シャツの衿や袖、スカートの裾には、精緻な刺繍が刺されていた。靴は獣の革で作ったもので、靴底に滑らないよう金具が打ってある。
 大山羊に跨がり、手綱を片手で握って、もう片方の腕には山羊の赤ちゃんを抱いていた。
 その姿はさながら、物語の中から飛び出してきたような妖精のごとく。
养蜂青年接受蜜药师女儿的治疗
アニャと呼ばれて飛び出してきた女性は、驚くほど美しかった。
被称为阿尼亚而跑出来的女性,美得惊人。
夕日を浴びた金の髪は、蜂蜜みたいにキラキラ輝いている。山の冷気を含んだ風に、サラサラとなびいていた。三つ編みをクラウンのように巻いている髪型は、どこか貴族令嬢のような華と気品がある。
沐浴在夕阳下的金发,像蜂蜜一样闪闪发光。在山上含有冷气的风中,沙沙作响。把编辫像皇冠一样卷起来的发型,有着贵族千金般的华丽和气质。
青い瞳は、子どものときに見た少女人形のサファイアと同じくらい輝いていた。
蓝色的眼睛和小时候看到的少女人偶蓝宝石一样闪耀。
陶器のように白くなめらかな肌はうっとりするほど綺麗で、猫を思わせるアーモンド型の目は好奇心旺盛な子猫を思わせた。
像陶器一样洁白光滑的皮肤漂亮得令人陶醉,让人联想到猫的杏仁型眼睛让人联想到好奇心旺盛的小猫。
服はこの辺りの民族衣装なのか。
衣服是这附近的民族服装吗。
袖なしのワンピースの下にシャツを着て、腰回りは華やかな花帯で締めている。シャツの衿や袖、スカートの裾には、精緻な刺繍が刺されていた。靴は獣の革で作ったもので、靴底に滑らないよう金具が打ってある。
无袖连衣裙下穿衬衫,腰间系着华丽的花带。衬衫的领子、袖子、裙子的下摆上都扎着精致的刺绣。鞋子是用兽皮做的,为了不滑到鞋底打着金属零件。
大山羊に跨がり、手綱を片手で握って、もう片方の腕には山羊の赤ちゃんを抱いていた。
跨过大山羊,一只手握住缰绳,另一只手抱着山羊宝宝。
その姿はさながら、物語の中から飛び出してきたような妖精のごとく。
那个身姿宛如从故事中飞出的妖精。
マクシミリニャンの娘とは思えない、美しい娘である。だが、気になることがあって、問いかけてみた。
不认为是马克西米莉娜的女儿,是个美丽的女儿。但是,有在意的事情,试着问了一下。
 マクシミリニャンの娘とは思えない、美しい娘である。だが、気になることがあって、問いかけてみた。
「あの、彼女が、“アニャ”?」
“那个,她是‘Ania’?”
「そうである」
“是的。”
「十九歳?」
“十九岁?”
「そうである」
 嘘だーー! と叫びたかったが、ごくんと呑み込む。
“是的。”
嘘だーー! と叫びたかったが、ごくんと呑み込む。
骗人的!虽然想喊,但是一下子就吞了进去。
アニャは十九歳と言うが、見た目は十三歳から十四歳くらいにしか見えなかった。
阿尼亚说是十九岁,但看上去只有十三岁到十四岁左右。
すさまじい童顔である。年齢詐称しているのでは? と疑いたくなるほどだった。
可怕的童颜。是不是在虚报年龄?甚至想怀疑。
 アニャは十九歳と言うが、見た目は十三歳から十四歳くらいにしか見えなかった。
 すさまじい童顔である。年齢詐称しているのでは? と疑いたくなるほどだった。
「やだ、患者さん!?」
 アニャは大山羊から飛び降り、抱いていた山羊の子はマクシミリニャンに託す。
 目の前で見ると、さらに幼く見えた。身長なんて、俺の肩よりも低いし。
 そんなアニャは、思いがけない行動に出る。
“讨厌,患者!?”
アニャは大山羊から飛び降り、抱いていた山羊の子はマクシミリニャンに託す。
阿尼亚从大山羊跳下,抱着的山羊的孩子托付给麦克西米利尼亚。
目の前で見ると、さらに幼く見えた。身長なんて、俺の肩よりも低いし。
在眼前看,看起来更年幼了。身高什么的,比我的肩膀还低。
そんなアニャは、思いがけない行動に出る。
那样的阿尼亚,采取了意想不到的行动。
「あなた、こっちへ来て。すぐに、治療してあげるわ」
 アニャは俺の手を握り、母屋のほうへと誘う。
“你过来,我马上给你治疗。”
アニャは俺の手を握り、母屋のほうへと誘う。
阿尼亚握着我的手,邀请我去主屋。
「ちょっ、俺、患者じゃ――!」
“喂,我是患者——!”
「ほら、早く来て!」
 妖精のような儚い見た目に反し、アニャは力が強かった。ぐいぐい引っ張られ、あっという間に母屋へとたどり着く。
“看,快来!”
妖精のような儚い見た目に反し、アニャは力が強かった。ぐいぐい引っ張られ、あっという間に母屋へとたどり着く。
与妖精般虚幻的外表相反,阿尼亚的力量很强。被紧紧地拉着,一眨眼就到了主屋。
患者ではないという訴えは、綺麗さっぱり無視された。この見た目では、患者ではないと言っても説得力がないのだろう。
不是患者的申诉,完全被无视了。从这个外表来看,即使说不是患者也没有说服力吧。
母屋は木のぬくもりと匂いがする、心地よさを感じるような空間だった。大きな出窓からは、豊かな自然が覗いていた。
主屋是一个能感受到树木的温暖和味道,感觉很舒服的空间。从大的出窗可以看到丰富的自然景色。
いくつかの小窓がある天井は高く、開放感がある。柱を支える梁には、束ねた薬草ハーブが、ぶら下がっていた。
有几个小窗户的天花板很高,有开放感。支撑柱子的横梁上挂着捆好的药草香草。
入ってすぐに居間となっており、奥に扉がある。おそらく、寝室なのだろう。
一进去就成了起居室,里面有门。恐怕是卧室吧。
台所や風呂などの水回りは、下屋にあるのかもしれない。
厨房和浴室等的水圈,可能在下屋。
下屋があるほうにも、扉がある。外に出ずとも、部屋の中から行き来できるような構造にしているのだろう。
有下屋的一方也有门。即使不出门,也能从房间里来往吧。
 患者ではないという訴えは、綺麗さっぱり無視された。この見た目では、患者ではないと言っても説得力がないのだろう。
煙突が繋がった暖炉に、木々の木目を活かした机や椅子などの家具、照明代わりのランタンなども置かれていた
 母屋は木のぬくもりと匂いがする、心地よさを感じるような空間だった。大きな出窓からは、豊かな自然が覗いていた。
 いくつかの小窓がある天井は高く、開放感がある。柱を支える梁には、束ねた薬草ハーブが、ぶら下がっていた。
 入ってすぐに居間となっており、奥に扉がある。おそらく、寝室なのだろう。
 台所や風呂などの水回りは、下屋にあるのかもしれない。
 下屋があるほうにも、扉がある。外に出ずとも、部屋の中から行き来できるような構造にしているのだろう。
 煙突が繋がった暖炉に、木々の木目を活かした机や椅子などの家具、照明代わりのランタンなども置かれていた。
 なんといっても壮観なのは、棚にびっしりと並べられた蜂蜜の瓶だろう。いったい、何種類あるものか。
在烟囱相连的壁炉里,还放着利用树木木纹的桌子、椅子等家具、代替照明的灯笼等。
 アニャは椅子を引き、ここに座るよう勧めてくれた。
 椅子には、見事な刺繍のクッションが置かれている。これに座るのは、申し訳ないと思うくらい精緻で美しい花模様が描かれている。
なんといっても壮観なのは、棚にびっしりと並べられた蜂蜜の瓶だろう。いったい、何種類あるものか。
不管怎么说,壮观的应该是架子上密密麻麻排列的蜂蜜瓶吧。到底有几种呢。
アニャは椅子を引き、ここに座るよう勧めてくれた。
阿尼亚拉着椅子,劝我坐在这里。
椅子には、見事な刺繍のクッションが置かれている。これに座るのは、申し訳ないと思うくらい精緻で美しい花模様が描かれている。
椅子上放着漂亮的刺绣靠垫。坐在这里,画着精致而美丽的花纹,让人觉得很抱歉。
「どうしたの? 早く座って」
“怎么了?快坐下。”
「どうしたの? 早く座って」
「いや、俺、山を登ってきて汗だくだし、服も靴も汚れているから、家に入ることすら悪いなと」
“不,我爬上山来汗流浃背,衣服和鞋子都脏了,连进家门都不好。”
「気にしないで。あなたは、患者様でしょう?」
“别在意。你是患者吧?”
「あ、いや――」
 否定しようとしたものの、アニャは奥の部屋に走って行く。マクシミリニャンは母屋に入って来る気配はない。玄関から外を覗き込んだが、山羊の一匹すらいなかった。
“啊,不——”
否定しようとしたものの、アニャは奥の部屋に走って行く。マクシミリニャンは母屋に入って来る気配はない。玄関から外を覗き込んだが、山羊の一匹すらいなかった。
虽然想否定,但是阿尼亚跑到了里面的房间。马克西米利尼亚没有进入主屋的迹象。从门口往外看,连一只山羊都没有。
「ちょっと! そこに座っていなさいと言ったでしょう!」
“喂!我不是叫你坐在那里吗!”
戻ってきたアニャは怒りの形相でズンズン接近し、腕を掴んで椅子へと誘う。やはり、力は強かった。
回来的阿尼亚带着愤怒的表情接近铁城,抓住手臂邀请他去椅子上。果然,力量很强。
「ちょっと! そこに座っていなさいと言ったでしょう!」
 戻ってきたアニャは怒りの形相でズンズン接近し、腕を掴んで椅子へと誘う。やはり、力は強かった。
「傷に菌が入って、ただれているようね。まずは、顔を綺麗に洗ってちょうだい」
 テーブルに置かれた桶の水で、顔を洗えと。汗もかいているので、しっかり洗った。
 顔を上げると、アニャがガーゼ生地で優しく拭いてくれる。
“伤口里有细菌,好像肿了。首先,请把脸洗干净。”
テーブルに置かれた桶の水で、顔を洗えと。汗もかいているので、しっかり洗った。
用放在桌子上的桶里的水洗脸。因为出汗了,所以洗得很好。
顔を上げると、アニャがガーゼ生地で優しく拭いてくれる。
抬起头,阿尼亚用纱布轻轻地擦了一下。
「こんなものかしら。あとは、蜂蜜を塗るから」
“是这样的吗?还有,我要涂蜂蜜。”
「は?」
“什么?”
「これは、アカシアの蜂蜜よ」
「いや、蜂蜜の種類を聞いているのではなくて」 
“这是刺槐蜂蜜。”
「いや、蜂蜜の種類を聞いているのではなくて」
“不,我不是在问蜂蜜的种类。”
「いろんな蜂蜜で試してみたんだけれど、アカシアが一番、傷の治りが早かったわ」
 問答無用で、顔面の腫れとただれにアカシアの蜂蜜が塗られた。
“我试过各种蜂蜜,洋槐的伤口治得最快。”
問答無用で、顔面の腫れとただれにアカシアの蜂蜜が塗られた。
无需问答,脸上肿了的谁涂上了洋槐蜂蜜。
目の前に、美少女の顔が迫る。彼女は一生懸命、指先で俺の顔に蜂蜜を塗ってくれた。
美少女的脸逼近眼前。她拼命地用指尖在我脸上涂蜂蜜。
このまま外に出たら熊に襲われるのではと思うくらい、たっぷり塗られる。
这样出去的话会被熊袭击的,涂得很充分。
戸惑いを感じ取られたのか、アニャは優しく微笑みながら言った。
也许是感到困惑了吧,阿尼亚温柔地微笑着说。
 目の前に、美少女の顔が迫る。彼女は一生懸命、指先で俺の顔に蜂蜜を塗ってくれた。
 このまま外に出たら熊に襲われるのではと思うくらい、たっぷり塗られる。
 戸惑いを感じ取られたのか、アニャは優しく微笑みながら言った。
「信じられないかもしれないけれど、蜂蜜には傷を治す力があるのよ。ナイフでうっかり切ったときも、蜂蜜を塗ったらすぐに治るの」
 そんな話など聞いたこともないが、彼女は“蜜薬師”としてリブチェフ・ラズの村人からも信頼されているとマクシミリニャンが話していた。
 今は、アニャの治療を信じるしかないのだろう。
“也许你不会相信,蜂蜜有治愈伤口的力量。即使是用小刀不小心切到的时候,涂上蜂蜜也能马上痊愈。”
そんな話など聞いたこともないが、彼女は“蜜薬師”としてリブチェフ・ラズの村人からも信頼されているとマクシミリニャンが話していた。
虽然没听说过这样的话,但马克西米利尼亚说她作为“蜜药师”受到了里布切夫·拉兹村民的信赖。
今は、アニャの治療を信じるしかないのだろう。
现在只能相信阿尼亚的治疗了吧。
それにしてもアニャが十九歳だと聞いて驚いたが、こうして近くにいると大人の女性だということが確認できた。
尽管如此,听说阿尼亚已经十九岁了,我很吃惊,但就这样在附近的话,可以确认是成年女性。
十代前半の子どもは寸胴だが、彼女の体には確かな凹凸があったのだ。
虽然十几岁的孩子身材短小,但她的身体确实有凹凸。
意識して見たわけではなかったが、頬の傷に蜂蜜を塗る際にぐっと接近したのだ。そのさいに、胸が押しつけられる。はっきり見たわけではないけれど、かなりあるように思えた。
虽然并没有意识到,但在脸颊的伤口上涂蜂蜜的时候,一下子就接近了。那个时候,胸口被压住了。虽然没有看清楚,但我觉得有很多。
もちろん、あまり近づかないほうがいいと言ったが、治療中に話しかけるなと怒られてしまった。
当然,我说了不要太靠近,但是在治疗中被骂了不要搭话。
そんなわけで、アニャは見た目こそ幼いものの、しっかり大人の女性だったというわけだ。
 それにしてもアニャが十九歳だと聞いて驚いたが、こうして近くにいると大人の女性だということが確認できた。
 十代前半の子どもは寸胴だが、彼女の体には確かな凹凸があったのだ。
因此,阿尼亚虽然看起来很小,但却是个成熟的女性。
 意識して見たわけではなかったが、頬の傷に蜂蜜を塗る際にぐっと接近したのだ。そのさいに、胸が押しつけられる。はっきり見たわけではないけれど、かなりあるように思えた。
 もちろん、あまり近づかないほうがいいと言ったが、治療中に話しかけるなと怒られてしまった。
年齢詐称と疑ってしまった件について、心から謝罪した。
 そんなわけで、アニャは見た目こそ幼いものの、しっかり大人の女性だったというわけだ。
 年齢詐称と疑ってしまった件について、心から謝罪した。
对于怀疑是虚报年龄的事情,我发自内心地道歉了。

419
023.md

@ -1,140 +1,473 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と話をする
 アニャはとてもお喋りだった。こちらが何か言おうとする前に、矢継ぎ早に話しかけてくる。相槌を打つだけでも、大変だ。
养蜂青年和蜜药师的女儿说话
アニャはとてもお喋りだった。こちらが何か言おうとする前に、矢継ぎ早に話しかけてくる。相槌を打つだけでも、大変だ。
阿尼亚非常健谈。在我想说什么之前,他会不停地跟我搭话。即使只是随声附和,也很辛苦。
「それにしても、酷い怪我ね。いったい、どうしたの?」
“话说回来,伤得真重啊。到底怎么了?”
「兄弟喧嘩」
「まあ! ここまでしなくてもいいのに」
 こればかりは、完全同意である。
“兄弟吵架”
「まあ! ここまでしなくてもいいのに」
“哎呀!你不用这么做。”
こればかりは、完全同意である。
只有这个完全同意。
「でも、あなたは、やりかえさなかったのね」
「可是,你没有回头啊。」
「どうしてわかったの?」
“你怎么知道的?”
「同じように殴り返したら、手の甲にも痣ができているはずだもの」
“同样打回去的话,手背上也会长痣的。”
「ああ、そっか」
 俺をボコボコに殴ったサシャの手の甲は、おそらく痣だらけだろう。
 同じように、痛がっているに違いない。
“啊,这样啊。”
俺をボコボコに殴ったサシャの手の甲は、おそらく痣だらけだろう。
把我打得七零八落的萨沙的手背,恐怕全是痣吧。
同じように、痛がっているに違いない。
同样,一定很痛。
「こんなの、兄弟喧嘩じゃないわ。ただの暴力よ」
“这不是兄弟吵架,只是暴力。”
「そうかも」
“也许吧。”
「そうかもって、暢気ね。あなた、もしかして悪くないのに、暴力をふるわれたんじゃないの?」
“是吗,你真是畅快啊。你是不是还不错,还被施暴了?”
「さあ、どうだったか」
“来,怎么样?”
「なんで、顔中痣だらけにされたのに、のほほんとしているのよ!」
“你怎么脸上都是痣,还傻乎乎的!”
「性分だから」
 アニャは盛大なため息を吐いている。怒ったり、微笑んだり、呆れたり。感情表現が豊かな娘だ。
 普段、何が起こってもあまり感情を揺さぶられることはないので、少しだけ羨ましくなってしまう。
“因为是性情。”
アニャは盛大なため息を吐いている。怒ったり、微笑んだり、呆れたり。感情表現が豊かな娘だ。
阿尼亚发出一声盛大的叹息。生气、微笑、发呆。是个感情表达丰富的姑娘。
普段、何が起こってもあまり感情を揺さぶられることはないので、少しだけ羨ましくなってしまう。
平时无论发生什么都不会引起感情的动摇,所以会有点羡慕。
「あなた、名前は?」
“你叫什么名字?”
「イヴァン」
伊凡
「いい名前ね。私は――」
“你的名字真好,我——”
「アニャ?」
“阿尼亚?”
「そうよ」
 小首を傾げると、アニャの蜂蜜色の髪がサラリと流れる。恐ろしく手触りがいい髪だということが、触れなくてもわかるほどだ。
 なんとなく、不躾に見つめるのは失礼な気がして、窓の向こう側に視線を移した。
“是啊。”
小首を傾げると、アニャの蜂蜜色の髪がサラリと流れる。恐ろしく手触りがいい髪だということが、触れなくてもわかるほどだ。
小头一歪,阿尼亚蜂蜜色的头发就沙沙作响。即使不碰也能知道这是一头手感非常好的头发。
なんとなく、不躾に見つめるのは失礼な気がして、窓の向こう側に視線を移した。
总觉得不礼貌地凝视是很失礼的,把视线移到了窗户的对面。
太陽はあっという間に沈んでいく。外は真っ暗だ。この状況では、登山など困難だっただろう。満身創痍であったが、なんとかたどり着けてよかった。
太阳一眨眼就沉下去了。外面一片漆黑。在这种情况下,登山等很困难吧。虽然满身疮痍,但总算能到达真是太好了。
 太陽はあっという間に沈んでいく。外は真っ暗だ。この状況では、登山など困難だっただろう。満身創痍であったが、なんとかたどり着けてよかった。
「ねえ、イヴァン。あなた、いくつなの?」
「喂,伊凡,你多大了?」
「二十歳」
“二十岁”
「ふうん。ねぇ、私はいくつに見える?」
“嗯,我看起来多大了?”
「十九」
「本当!? 私、十九に見える!?」
 幼い顔立ちや、小柄な体型はとても十九の娘には見えない。けれど、女性的な部分はしっかり十九の娘そのものである。
 
 アニャは満面の笑みを浮かべ、俺に聞き返してくる。
“十九”
「本当!? 私、十九に見える!?」
“真的!?我看起来像十九!?”
幼い顔立ちや、小柄な体型はとても十九の娘には見えない。けれど、女性的な部分はしっかり十九の娘そのものである。
年幼的容貌和身材矮小的样子很不像十九岁的女儿。但是,女性的部分确实是十九个女儿。
アニャは満面の笑みを浮かべ、俺に聞き返してくる。
阿尼亚满脸笑容,反问我。
「十九歳に見えるって、嘘じゃないわよね?」
“看起来才十九岁,不是骗人的吧?”
「見えるよ」
“能看见。”
「やったー!」
 十九の娘は「やったー!」などと言って喜ばないだろうが、その辺は黙っておく。
“太好了!”
十九の娘は「やったー!」などと言って喜ばないだろうが、その辺は黙っておく。
十九岁的女儿可能不会高兴地说“太好了!”,但这一点还是保持沉默。
「リブチェフ・ラズにいる男が、私はいつまで経ってもお子様だって言うのよ。酷いと思わない?」
“在里布切夫·拉兹的男人说,我无论过多久都是孩子。你不觉得很过分吗?”
「見た目を、ああだこうだと言ってからかうのは、よくないかも」
「でしょう? 今度、会ったら、その言葉を浴びせてみせるわ」
“把外表说成是那样,然后开玩笑,可能不好。”
「でしょう? 今度、会ったら、その言葉を浴びせてみせるわ」
“是吧?下次见面的话,我会说这句话给你看的。”
「まあ、もめごとにならない程度にね」
 話しながらも、アニャは俺の顔に蜂蜜を塗りたくっている。顔中ベタベタだ。
“嗯,还不至于发生纠纷。”
話しながらも、アニャは俺の顔に蜂蜜を塗りたくっている。顔中ベタベタだ。
一边说话,一边在我的脸上涂蜂蜜。脸上黏糊糊的。
「唇も、乾燥しているわね」
 そう呟くと、アニャは俺の唇に蜂蜜が付いた指先を這わせる。
“嘴唇也很干燥。”
そう呟くと、アニャは俺の唇に蜂蜜が付いた指先を這わせる。
这样嘟囔着,阿尼亚让我嘴唇上沾着蜂蜜的指尖爬行。
「むっ!?」
“唔!?”
「喋らないで、大人しくしていなさい」
 普段誰も触れないような場所なので、盛大に照れてしまう。綺麗に顔を洗ったばかりなのに、冷や汗もかいているような気がした。
“别说话,老实点。”
普段誰も触れないような場所なので、盛大に照れてしまう。綺麗に顔を洗ったばかりなのに、冷や汗もかいているような気がした。
因为是平时谁都不会碰的地方,所以很害羞。刚洗干净脸,就觉得出了冷汗。
「これでよしっと! あとは、安静にしていなさいね」
“这样就好了!之后,请保持安静。”
「……」
「これでよしっと! あとは、安静にしていなさいね」
「……」
「返事は?」
“回答是?”
「はい」
“是的。”
「よろしい!」
 治療が済んだのと同時に、マクシミリニャンがやってきて言った。
“好!”
治療が済んだのと同時に、マクシミリニャンがやってきて言った。
治疗结束的同时,马克西米利尼亚来了说。
「風呂の準備ができた。イヴァン殿、先に入られよ」
“浴室准备好了,伊凡大人,先进去。”
「え、俺は別に最後でも」
「咦,我就算是最后一个了。」
「さっさと入りなさいな。その間に、食事を温めておくから」
 なんとなく、アニャには逆らわないほうがいいと思い、大人しく風呂に入ることにした。
 着替えを鞄の中から取り出して立ち上がると、再びアニャに腕を引かれる。
 
“快进来吧。在这期间,我会把饭加热的。”
なんとなく、アニャには逆らわないほうがいいと思い、大人しく風呂に入ることにした。
总觉得还是不要违抗阿尼亚比较好,所以决定老实地洗澡。
着替えを鞄の中から取り出して立ち上がると、再びアニャに腕を引かれる。
从包里取出换好的衣服站起来,再次被阿尼亚拉着胳膊。
「イヴァン、案内するわ。こっちよ」
 下屋のほうにある扉を開くと、そこは台所だった。窯と暖炉が一体化した物がどんと鎮座している。調理台や食器棚はあるが、食卓はない。ここで料理を作り、母屋に持って行って食べるのだろう。
 さらに奥にある扉の向こう側に、風呂があった。窯の熱を利用して、温めるものらしい。
 先ほどまでパンでも焼いていたのか、香ばしい匂いが漂っていた。
 木製の浴槽には、ホカホカ湯気が漂う湯で満たされている。
“伊凡,我带你去,这边。”
下屋のほうにある扉を開くと、そこは台所だった。窯と暖炉が一体化した物がどんと鎮座している。調理台や食器棚はあるが、食卓はない。ここで料理を作り、母屋に持って行って食べるのだろう。
打开楼下的门,那里是厨房。窑和壁炉融为一体的东西端坐着。虽然有厨房和餐具架,但是没有餐桌。在这里做饭,带到开间去吃吧。
さらに奥にある扉の向こう側に、風呂があった。窯の熱を利用して、温めるものらしい。
在更里面的门的对面,有一个浴室。好像是利用窑的热来加热的。
先ほどまでパンでも焼いていたのか、香ばしい匂いが漂っていた。
刚才还在烤面包,散发着芳香的味道。
木製の浴槽には、ホカホカ湯気が漂う湯で満たされている。
木制的浴缸里充满了漂浮着热气的热水。
「蜂蜜湯にしてあげるわ。ゆっくり眠れるから」
“我给你泡蜂蜜汤,你可以好好睡一觉。”
「蜂蜜湯?」
 アニャはテキパキと動き、蜂蜜の瓶と何かの小瓶を持ってきた。
“蜂蜜汤?”
アニャはテキパキと動き、蜂蜜の瓶と何かの小瓶を持ってきた。
安妮娅手舞足蹈,端来蜂蜜瓶和一些小瓶。
「それは?」
“那是?”
「ラベンダーの蜂蜜と精油よ」
 皿にラベンダーの蜂蜜と精油を混ぜ、それを湯に溶かす。ふんわりと甘い蜂蜜とラベンダーの香りが漂ってきた。
“薰衣草蜂蜜和精油。”
皿にラベンダーの蜂蜜と精油を混ぜ、それを湯に溶かす。ふんわりと甘い蜂蜜とラベンダーの香りが漂ってきた。
在盘子里混合薰衣草蜂蜜和精油,将其溶解在热水中。轻轻地飘来了甜甜的蜂蜜和薰衣草的香味。
「じゃあ、ごゆっくり」
“那嚒,请慢用。”
「ありがとう」
 服を脱ぎ、天井からぶら下がっているカゴに放り込む。
 蜂蜜湯を被り、石鹸で体を洗った。
 ブクブクと泡立つ石鹸から、蜂蜜の匂いを感じる。よくよく見たら、石鹸はほのかに蜂蜜色だ。まさか、石鹸まで蜂蜜を使っているとは。
 体を洗い流すと、浴室の扉が開かれた。
“谢谢。”
服を脱ぎ、天井からぶら下がっているカゴに放り込む。
脱下衣服,扔进从天花板上垂下来的篮子里。
蜂蜜湯を被り、石鹸で体を洗った。
盖上蜂蜜汤,用肥皂洗了身体。
ブクブクと泡立つ石鹸から、蜂蜜の匂いを感じる。よくよく見たら、石鹸はほのかに蜂蜜色だ。まさか、石鹸まで蜂蜜を使っているとは。
从起泡的肥皂中,能感受到蜂蜜的味道。仔细一看,肥皂是淡淡的蜂蜜色。没想到连肥皂都用蜂蜜。
体を洗い流すと、浴室の扉が開かれた。
洗完身体后,浴室的门打开了。
「イヴァン、髪を洗ってあげるわ!」
“伊凡,我给你洗头!”
「うわぁ!!」
 まさかのアニャの登場に、目を剥く。
“哇!!”
まさかのアニャの登場に、目を剥く。
没想到阿尼亚的登场,让人瞠目结舌。
「な、なんで!?」
「せっかく蜂蜜を顔に塗ったのに、お湯を被ったら落ちてしまうでしょう? 私が、顔にかからないように、洗ってあげるわ」
“什么,为什么!?”
「せっかく蜂蜜を顔に塗ったのに、お湯を被ったら落ちてしまうでしょう? 私が、顔にかからないように、洗ってあげるわ」
“好不容易在脸上涂了蜂蜜,如果盖上热水的话会掉下来吧?为了不沾到脸上,我会帮你洗的。”
「いいよ!」
“好啊!”
「遠慮しなくてもいいから」
 決して、遠慮ではない。それなのに、アニャは腕まくりをしながらズンズン浴室に入り、たらいを手に取る。
“不用客气。”
決して、遠慮ではない。それなのに、アニャは腕まくりをしながらズンズン浴室に入り、たらいを手に取る。
绝对不客气。尽管如此,阿尼亚还是挽着胳膊走进铁城浴室,拿起盆。
「すぐに終わるから、大人しくしていなさい」
 多分、拒絶しても聞いてくれないだろう。仕方がないので、近くにあった手巾で股間を隠した。たぶん、もう見られているだろうけれど……。
“马上就结束了,老实点。”
多分、拒絶しても聞いてくれないだろう。仕方がないので、近くにあった手巾で股間を隠した。たぶん、もう見られているだろうけれど……。
大概,即使拒绝也不会听吧。因为没办法,用附近的手巾把胯间藏起来了。大概已经被看到了吧……。
その後、アニャはわしわしと頭を洗ってくれた。ほどよい力加減で、思っていた以上に気持ちよかった。ついでに、背中も流してくれる。
在那之后,阿尼亚和我一起洗了头。力量适中,比想象中还要舒服。顺便说一下,背也会流下来。
 その後、アニャはわしわしと頭を洗ってくれた。ほどよい力加減で、思っていた以上に気持ちよかった。ついでに、背中も流してくれる。
「痛くない?」
“不痛吗?”
「痛くない。ちょうどいい」
“不疼,正好。”
「よかったわ」
 誰かに体を洗ってもらうことが、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。
 いつも以上に、さっぱりとした気分になる。
「太好了。」
誰かに体を洗ってもらうことが、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。
我不知道让别人洗身体会这么舒服。
いつも以上に、さっぱりとした気分になる。
感觉比平时清爽。
「アニャ、ありがとう」
“阿尼亚,谢谢。”
「どういたしまして。あとはゆっくり、お湯に浸かりなさいね」
 湯の中では、百を数えるまで上がったらダメだと言われた。
 完全に、小さな子どもと同じ扱いであった。 
“不客气。之后慢慢地泡在热水里吧。”
湯の中では、百を数えるまで上がったらダメだと言われた。
在热水里,有人说不能上到一百。
完全に、小さな子どもと同じ扱いであった。
完全和小孩子一样对待。

414
024.md

@ -1,129 +1,441 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘が作った夕食を食べる
 風呂から上がり、用意されていた綿の布で体を拭く。
 服を着て、浴室から出るとアニャが立ちはだかるようにいた。
养蜂家的青年,吃蜜药师的女儿做的晚饭
風呂から上がり、用意されていた綿の布で体を拭く。
洗完澡后,用准备好的棉布擦身体。
服を着て、浴室から出るとアニャが立ちはだかるようにいた。
穿着衣服,从浴室出来,阿尼亚挡住了。
「大人しく、しゃがみ込みなさい」
“老实点,蹲下。”
「え、何?」
“啊,什么事?”
「髪、濡れているでしょうが」
 アニャの手には、布が握られていた。髪の水分をきちんと拭ってから、母屋に戻るように言いたいのだろう。
“头发湿了吧。”
アニャの手には、布が握られていた。髪の水分をきちんと拭ってから、母屋に戻るように言いたいのだろう。
阿尼亚的手里握着一块布。大概是想让他把头发的水分擦干净后,再回到主屋吧。
しゃがみ込み、布を受け取ろうとしたが、アニャは思いがけない行動に出る。なんと、俺の髪をわしわしと拭い始めたのだ。まるで、洗った犬を拭いてやる飼い主の如く。
蹲下,想要拿布,但是阿尼亚却做出了意想不到的行动。我的头发竟然开始哗啦哗啦地擦了。简直就像是擦着洗过的狗的主人一样。
容赦なく、拭いてくれた。
毫不留情地给我擦了。
 しゃがみ込み、布を受け取ろうとしたが、アニャは思いがけない行動に出る。なんと、俺の髪をわしわしと拭い始めたのだ。まるで、洗った犬を拭いてやる飼い主の如く。
 容赦なく、拭いてくれた。
「自分で、できるんだけれど……」
“我自己能做到……”
「自分でできる人が、髪から水滴をポタポタ垂らしてやってくるわけないでしょうが」
“自己能做到的人,不可能从头发上滴滴答答地滴水来吧。”
「その通りで」
「でしょう? よく水分を拭っておかないと、風邪を引くのよ」
 台所では、いい匂いが漂っていた。鍋がぐつぐつ煮立つ音も聞こえる。
 途端に、腹がぐーっと鳴ってしまった。
“没错。”
「でしょう? よく水分を拭っておかないと、風邪を引くのよ」
“是吧?如果不好好擦干水分,会感冒的。”
台所では、いい匂いが漂っていた。鍋がぐつぐつ煮立つ音も聞こえる。
厨房里弥漫着好闻的味道。也能听到锅咕嘟咕嘟地煮的声音。
途端に、腹がぐーっと鳴ってしまった。
就在这时,肚子一下子就响了。
「あなた、お腹が空いているの?」
“你肚子饿了吗?”
「まあ、それなりに」
“嗯,就那样。”
「準備するから、母屋で待ってて」
 手伝うことはないかと尋ねたが、患者がする仕事はないと言い切られてしまう。
 完全に、患者扱いである。
 どうやら、マクシミリニャンはアニャに結婚についての話をしていないようだった。いまだ、アニャは俺を患者だと思っている。
“我准备好了,在主房等我。”
手伝うことはないかと尋ねたが、患者がする仕事はないと言い切られてしまう。
我问他有没有帮忙,但他说没有患者做的工作。
完全に、患者扱いである。
完全是患者处理。
どうやら、マクシミリニャンはアニャに結婚についての話をしていないようだった。いまだ、アニャは俺を患者だと思っている。
看来,马克西米利尼亚并没有告诉阿尼亚关于结婚的事情。到现在为止,阿尼亚认为我是患者。
「あの――」
「まだいたの? いいから、いい子で待っていなさい」
“那个——”
「まだいたの? いいから、いい子で待っていなさい」
“你还在吗?不用了,还是乖乖等着吧。”
「いい子って……、そういう年じゃないんだけれど」
“好孩子……虽然不是这个年纪。”
「言い訳はしない」
 背中をぐいぐい押され、台所から追い出されてしまった。やはり、彼女は消えてなくなりそうな外見に反し、力が強い。
 そんなことはさて措いて。
 母屋にマクシミリニャンがいると思っていたが、誰もいない。窓を開いて外を覗き込むと、離れに灯りが点いていた。もしかして、「あとは若い二人で」などと思っているのだろうか。結婚について、しっかり説明していて欲しかったのだけれど。
 
“我不会找借口。”
背中をぐいぐい押され、台所から追い出されてしまった。やはり、彼女は消えてなくなりそうな外見に反し、力が強い。
我的背被用力推了一下,被赶出了厨房。果然,她与快要消失的外表相反,力量很强。
そんなことはさて措いて。
那种事暂且不谈。
母屋にマクシミリニャンがいると思っていたが、誰もいない。窓を開いて外を覗き込むと、離れに灯りが点いていた。もしかして、「あとは若い二人で」などと思っているのだろうか。結婚について、しっかり説明していて欲しかったのだけれど。
我以为开间有马克西米利尼亚,但是没有人。打开窗户往外看,远处亮着灯。难道是觉得“剩下的是年轻的两个人”吗。关于结婚,我希望你能好好说明一下。
「ん?」
 窓の外枠に、鐘が取り付けられていた。用途はなんだろうか?
 訪問者がやってきたときに、鳴らすとか? よくわからない。
 ジッと観察していたが、強い風がピュウと吹く。耐えきれなくて、窓を閉めた。
 春とはいえ、夜は酷く冷え込む。
 暖炉のほうを見てみたら、火が小さくなっていた。薪をいくつか追加しておく。
“嗯?”
窓の外枠に、鐘が取り付けられていた。用途はなんだろうか?
窗户的外框上安装了钟。用途是什么?
訪問者がやってきたときに、鳴らすとか? よくわからない。
访问者来的时候会响吗?不太明白。
ジッと観察していたが、強い風がピュウと吹く。耐えきれなくて、窓を閉めた。
虽然一直在观察,但是大风嗖嗖地吹着。受不了,关上了窗户。
春とはいえ、夜は酷く冷え込む。
虽说是春天,但是晚上很冷。
暖炉のほうを見てみたら、火が小さくなっていた。薪をいくつか追加しておく。
我往壁炉那边一看,火变小了。多加几个柴火。
「あら、ありがとう」
 アニャは両手に料理を持ってやってくる。どちらか持とうかと手を差し伸べたら「両方のお皿でバランスを取っているから、止めて」と怒られてしまった。
“啊,谢谢。”
アニャは両手に料理を持ってやってくる。どちらか持とうかと手を差し伸べたら「両方のお皿でバランスを取っているから、止めて」と怒られてしまった。
阿尼亚双手拿着菜来。我伸出手想拿哪一个,结果被骂“两个盘子都平衡了,停下来”。
「あなた、なんなの? お手伝いしたがりさんなの?」
“你是什么?是想帮忙的人吗?”
「あなた、なんなの? お手伝いしたがりさんなの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけれど」
“不,不是那样的。”
「だったら、安静にしていなさい。でないと、治るものも治らないわよ」
 アニャはテキパキと、夕食の準備をする。
 もしも、実家でその様子を眺めているだけだったら、義姉や母に「手伝え!」と怒られていただろう。
 下僕精神みたいなのが、骨の芯まで染みこんでいるのかもしれない。彼女が忙しそうにしているのを見ていると、酷く落ち着かないような気分になる。
 俺はアニャの言葉を借りたら“お手伝いしたがりさん”なのかもしれない。
 何度も行き来している様子に耐えきれなくなって、ついにはアニャに声をかける。
“那你就安静一点,不然治好的也治不好。”
アニャはテキパキと、夕食の準備をする。
阿尼亚和龙舌兰酒一起准备晚饭。
もしも、実家でその様子を眺めているだけだったら、義姉や母に「手伝え!」と怒られていただろう。
如果只是在老家看那个样子的话,会被大嫂和母亲骂“帮忙!”吧。
下僕精神みたいなのが、骨の芯まで染みこんでいるのかもしれない。彼女が忙しそうにしているのを見ていると、酷く落ち着かないような気分になる。
像仆人精神一样,也许渗透到了骨子里。看着她忙得不可开交的样子,心情变得非常不平静。
俺はアニャの言葉を借りたら“お手伝いしたがりさん”なのかもしれない。
我借用了阿尼亚的话,可能是“想帮忙的人”。
何度も行き来している様子に耐えきれなくなって、ついにはアニャに声をかける。
无法忍受多次来往的样子,终于和阿尼亚打招呼了。
「ごめん、俺、お手伝いしたがりさんなんだ。何か、手伝わせて」
“对不起,我是想帮忙的人,让我帮你吧。”
「は?」
 アニャはポカンとした表情で、俺を見る。
“什么?”
アニャはポカンとした表情で、俺を見る。
阿尼亚露出了扑通的表情,看着我。
「誰かが働いているのを、見ていることができない性分なんだ」
 そう答えると、アニャは意味を理解したのか、突然笑い始めた。
“这是看不到有人在工作的性格。”
そう答えると、アニャは意味を理解したのか、突然笑い始めた。
这样回答后,阿尼亚可能明白了意思,突然笑了起来。
「やだ、あなたって、変な人!」
“讨厌,你这个怪人!”
「変な人で結構。あの鍋を、母屋に持って行けばいいの?」
“奇怪的人就可以了。把那个锅拿到开间就可以了吗?”
「任せて、いいの?」
“交给我吧,可以吗?”
「いいの」
“好吗?”
「じゃあ、お願いするわ。ものすごく重たいから、気を付けてね」
 鋳鉄製のどっしりとした鍋を、母屋に持って行く。鍋敷きの上に置き、カトラリーを並べたら夕食の支度は調ったらしい。
 カゴに山盛りにされた蕎麦のパンに、牛肉と野菜をやわらかくなるまで煮込んだシチュー“グラース”、鮭とジャガイモ、チーズを重ねて焼いた“ギバニッツア”、炙ったソーセージ“クランカ・クロバサ”など。豪勢な夕食だ。
 木のカップに注がれているのは、黄金の蜂蜜酒だろう。
“那就拜托你了,太重了,小心点。”
鋳鉄製のどっしりとした鍋を、母屋に持って行く。鍋敷きの上に置き、カトラリーを並べたら夕食の支度は調ったらしい。
把铸铁制的沉甸甸的锅带到主屋。放在锅铺上,摆上餐具,晚饭的准备好像做好了。
カゴに山盛りにされた蕎麦のパンに、牛肉と野菜をやわらかくなるまで煮込んだシチュー“グラース”、鮭とジャガイモ、チーズを重ねて焼いた“ギバニッツア”、炙ったソーセージ“クランカ・クロバサ”など。豪勢な夕食だ。
在堆满篮子的荞麦面面包上,将牛肉和蔬菜煮到变软的炖菜“格拉斯”、鲑鱼和土豆、奶酪重叠烤成的“吉巴尼茨”、烤好的香肠“克兰卡·克洛瓦萨”等。丰盛的晚餐。
木のカップに注がれているのは、黄金の蜂蜜酒だろう。
倒在木杯里的应该是黄金蜂蜜酒吧。
「これでよしっと。お父様を呼ばなきゃ」
“这样就好了。我得叫你父亲来。”
「呼んで来ようか?」
“叫我来吧?”
「大丈夫よ。ここから呼べるから」
 離れに向かって叫ぶというのか。そこそこ離れているので、喉が嗄れそうだ。などと思ったのは一瞬で、アニャは窓を開いて外枠に取り付けられていた鐘をカランカランカランと、三回鳴らした。すると、マクシミリニャンがやってくる。どうやらあの鐘は、離れにいるマクシミリニャンを呼ぶためのものだったようだ。
“没关系,我可以从这里叫你。”
離れに向かって叫ぶというのか。そこそこ離れているので、喉が嗄れそうだ。などと思ったのは一瞬で、アニャは窓を開いて外枠に取り付けられていた鐘をカランカランカランと、三回鳴らした。すると、マクシミリニャンがやってくる。どうやらあの鐘は、離れにいるマクシミリニャンを呼ぶためのものだったようだ。
你是说朝着离开喊吗。因为离得很远,喉咙好像要嘶哑了。这样想着的一瞬间,阿尼亚打开窗户,把安装在外框上的钟敲了三次。于是,马克西米利尼亚来了。看来那只钟是为了呼唤离开的马克西米莉娜。
「おお、いい匂いがする」
“哦,闻起来很香。”
「今日はイヴァンがいるから、ソーセージを焼いたわ」
“今天有伊凡,我烤了香肠。”
「そうであったか。いただこうぞ」
 食卓を囲み、祈りを捧げる。
 この世の恵みに感謝し、犠牲になった生きとし生けるものに感謝を。
 マクシミリニャンが食べ始めたのを確認してから、アニャも食べ始める。
「原来是这样啊。就这样吧。」
食卓を囲み、祈りを捧げる。
围着饭桌祈祷。
この世の恵みに感謝し、犠牲になった生きとし生けるものに感謝を。
感谢这个世界的恩惠,感谢牺牲的活着的东西。
マクシミリニャンが食べ始めたのを確認してから、アニャも食べ始める。
确认马克西米利尼亚开始吃了之后,阿尼亚也开始吃了。
「イヴァン、あなたも、たくさん食べてね」
“伊凡,你也要多吃点。”
「ありがとう」
 誰かとこうして食卓を囲むなんて、いつ振りだろうか。
 いつも、部屋の隅だったり、外だったり。時間がないときは花畑に向かいながら食べるときもあった。行儀が悪いのは百も承知だが、あの日は巣箱周辺にスズメバチの大群がやってきたとかで仕方がなかったのだ。
 まずは、スープをいただく。
“谢谢。”
誰かとこうして食卓を囲むなんて、いつ振りだろうか。
什么时候会有人摆架子围着餐桌呢。
いつも、部屋の隅だったり、外だったり。時間がないときは花畑に向かいながら食べるときもあった。行儀が悪いのは百も承知だが、あの日は巣箱周辺にスズメバチの大群がやってきたとかで仕方がなかったのだ。
总是在房间的角落或者外面。没有时间的时候也有一边去花田一边吃的时候。我知道他没礼貌,但那天蜂箱周围来了一大群黄蜂,没办法。
まずは、スープをいただく。
首先要喝汤。
「あ、おいしい」
「本当? よかったわ」
 アニャの料理は、どれもおいしかった。一つ一つ感想を言っていたら、アニャの手が止まっていたことに気付く。
“啊,很好吃。”
「本当? よかったわ」
“真的吗?太好了。”
アニャの料理は、どれもおいしかった。一つ一つ感想を言っていたら、アニャの手が止まっていたことに気付く。
阿尼亚的菜都很好吃。一个一个地说感想的话,发现阿尼亚的手停了下来。
「ごめん。食事の邪魔をして」
“对不起,打扰你吃饭了。”
「いいのよ。お父様はいつも黙って食べるから、おいしいか、おいしくないかわからなかったの」
“没关系,爸爸总是不说话就吃,所以不知道是好吃还是不好吃。”
「アニャの料理は、お店が出せそうなくらい、おいしいよ」
“阿尼亚的料理很好吃,几乎可以开店了。”
「あら、そう?」
 アニャの白い頬が、真っ赤に染まる。どうやら、口数の少ないマクシミリニャンは娘を褒めずに育てたらしい。こんなおいしい料理を食べておきながら、感想を言わないなんて。
“啊,是吗?”
アニャの白い頬が、真っ赤に染まる。どうやら、口数の少ないマクシミリニャンは娘を褒めずに育てたらしい。こんなおいしい料理を食べておきながら、感想を言わないなんて。
阿尼亚的白色脸颊被染成了红色。看来,沉默寡言的马克西米莉娜没有表扬女儿就把她养大了。明明吃了这么好吃的菜,却不说感想。
「ねえ、イヴァン。あなた、しばらくここにいなさいよ。暴力をふるう兄弟のもとに帰るなんて、心配だわ」
 アニャがそう言った瞬間、マクシミリニャンの動きが止まった。口の中にあったものをごくんと飲み込み、気まずそうな表情で俺を見つめる。
 その顔は、なんだ。雨の日に捨てられた、子犬のような表情は。
 もしかして、俺に結婚について説明しろと言いたいのか。
 アニャはマクシミリニャンがブレッド湖の街に、婿を探しに行ったことも知らないのかもしれない。
「喂,伊凡。你在这里待一会儿吧。我很担心你会回到暴力的兄弟身边。」
アニャがそう言った瞬間、マクシミリニャンの動きが止まった。口の中にあったものをごくんと飲み込み、気まずそうな表情で俺を見つめる。
阿尼亚这嚒说的瞬间,马克西米利尼亚的动作停止了。把嘴里的东西一口吞下去,用尴尬的表情看着我。
その顔は、なんだ。雨の日に捨てられた、子犬のような表情は。
那张脸是什么。下雨天被抛弃的,像小狗一样的表情。
もしかして、俺に結婚について説明しろと言いたいのか。
难道是想让我说明结婚的事情吗。
アニャはマクシミリニャンがブレッド湖の街に、婿を探しに行ったことも知らないのかもしれない。
阿尼亚可能也不知道马克西米利尼亚去布莱德湖的街上找过女婿。
「二人とも、どうしたの?」
 誰も何も答えないので、アニャは怪訝な表情となる。
 マクシミリニャンは、天井を仰いでいた。どうやら、説明するつもりはないらしい。
 しょうがないので、俺が言うしかない。
“两个人都怎么了?”
誰も何も答えないので、アニャは怪訝な表情となる。
因为谁都不回答,所以阿尼亚露出了惊讶的表情。
マクシミリニャンは、天井を仰いでいた。どうやら、説明するつもりはないらしい。
马克西米利尼亚仰望着天花板。好像不打算说明。
しょうがないので、俺が言うしかない。
没办法,只好我说了。
「アニャ、俺は、君の婿として、ここに来たんだよ」
“阿尼亚,我是作为你的女婿来到这里的。”
「は!?」
 アニャは瞳が零れ落ちそうなくらい、目を見開いていた。
“哈!?”
アニャは瞳が零れ落ちそうなくらい、目を見開いていた。
阿尼亚睁大了眼睛,眼睛几乎要掉下来了。

284
025.md

@ -1,93 +1,319 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘に結婚についての話をする
「どういうことなの? ねえ、お父様……!!」
 アニャは人殺しでも見たような形相で、マクシミリニャンに問いかける。
养蜂青年告诉蜜药师的女儿关于结婚的事情
 マクシミリニャンはいまだ、腕を組み天井を仰いでいた。
 娘の結婚は、父親が決める。だから、堂々としていればいいのに、なぜこのような不可解としか言えない態度に出るのか。
「どういうことなの? ねえ、お父様……!!」
“这是怎么回事?喂,爸爸……!!”
アニャは人殺しでも見たような形相で、マクシミリニャンに問いかける。
阿尼亚以杀人也见过的样子,向马克西米利尼亚提问。
マクシミリニャンはいまだ、腕を組み天井を仰いでいた。
马克西米利尼还抱着胳膊仰望天花板。
娘の結婚は、父親が決める。だから、堂々としていればいいのに、なぜこのような不可解としか言えない態度に出るのか。
女儿的婚姻由父亲决定。所以,光明正大就好了,为什么要采取这种只能说是不可理解的态度呢。
「私、結婚しないって言ったでしょう!? 約束したわよね、ここで、お父様と二人、命が尽きるまで暮らしましょうって」
“我不是说过不结婚吗!?说好了的,在这里和父亲一起生活到生命尽头吧。”
「私、結婚しないって言ったでしょう!? 約束したわよね、ここで、お父様と二人、命が尽きるまで暮らしましょうって」
「うむ、しかし」
“嗯,可是。”
「しかしじゃないわよ!!」
 アニャの一喝でマクシミリニャンは萎縮し、ますます言葉を失ってしまったようだ。
 どうしてこうなったものか。
 どうやら、アニャは結婚する気なんてないのに、マクシミリニャンが勝手に判断して俺を連れてきてしまったようだ。
“可不是!!”
アニャの一喝でマクシミリニャンは萎縮し、ますます言葉を失ってしまったようだ。
阿尼亚的一声大喝使马克西米利尼亚萎缩,似乎越来越失言啦。
どうしてこうなったものか。
怎么会这样呢。
どうやら、アニャは結婚する気なんてないのに、マクシミリニャンが勝手に判断して俺を連れてきてしまったようだ。
看来,阿尼亚明明不想结婚,但马克西米莉娜却擅自做出判断,把我带了过来。
アニャの厳しい追及は続く。
阿尼亚的严厉追究还在继续。
 アニャの厳しい追及は続く。
「もしかして、売りに出した山羊の様子を見に行ったついでに、知り合いの家を訪ねるという話も嘘だったの!?」
 アニャに責められる度に、マクシミリニャンは涙ぐんでいく。あと少しで、眦に浮かんだ涙が零れてしまいそうだった。
 アニャの怒りの矛先は、俺にも向けられた。
“难道,去看卖出去的山羊的样子,顺便去熟人家拜访的话也是骗人的吗!?”
アニャに責められる度に、マクシミリニャンは涙ぐんでいく。あと少しで、眦に浮かんだ涙が零れてしまいそうだった。
每当被阿尼亚责备的时候,马克西米莉娜就会泪流满面。再过一会儿,眼前浮现的眼泪就要流出来了。
アニャの怒りの矛先は、俺にも向けられた。
阿尼亚愤怒的矛头也指向了我。
「イヴァン、あなたも、どうしてこんなところにまでついてきたのよ!!」
“伊凡,你怎么也跟着我到这种地方来了!!”
「俺は、行く当てがなかったから」
“因为我没有去的希望。”
「あ……そう、だったのね。ごめんなさい。でも、本気じゃないんでしょう?」
“啊……原来是这样啊。对不起。但是,你不是认真的吧?”
「本気じゃなかったら、こんなところまで来ないけれど。アニャがいいと言えば、結婚するつもりだった」
 そう言った瞬間、アニャの顔は真っ赤になった。
 なんて初心な娘なのか。こんな、顔面ボコボコの男に結婚を求められて、赤面するなんて。きっと、同じ年頃の異性と関わることなく、暮らしていたからだろう。
“如果不是认真的话,就不会来这里了。如果说阿尼亚好的话,我就打算结婚了。”
そう言った瞬間、アニャの顔は真っ赤になった。
说完这句话的瞬间,阿尼亚的脸变得通红。
なんて初心な娘なのか。こんな、顔面ボコボコの男に結婚を求められて、赤面するなんて。きっと、同じ年頃の異性と関わることなく、暮らしていたからだろう。
多么初心的姑娘啊。像这样,被满脸通红的男人要求结婚,竟然脸红了。一定是因为和同龄的异性没有关系,生活着吧。
「で、でも、私は、私は――お父様から、聞いたでしょう?」
“但是,我,我——是从父亲那里听说的吧?”
「初潮がきていないって話?」
 アニャは一瞬泣きそうな表情となったが、すぐに俯いて顔が見えなくなる。
“你是说初潮还没来?”
アニャは一瞬泣きそうな表情となったが、すぐに俯いて顔が見えなくなる。
阿尼亚一瞬间露出了要哭的表情,但马上就低下头看不见脸了。
「私は、子どもを産めないから、結婚、できないの……」
“我不能生孩子,所以不能结婚……”
「結婚って、子どもを産まなきゃしたらダメなの?」
“结婚,不生孩子不行吗?”
「え?」
“诶?”
「誰が決めたの?」
“是谁决定的?”
「そ、それは……」
「那、那是……」
「結婚は、子どものためにするわけじゃないと、俺は思う」
“我认为结婚并不是为了孩子。”
「だったら、なんのために、結婚するのよ」
“那么,为什么要结婚呢?”
「他人と、家族になるため」
 マクシミリニャンよりも先に、アニャの眦から涙が零れる。真珠のように、美しい涙だった。
“为了和别人成为家人”
マクシミリニャンよりも先に、アニャの眦から涙が零れる。真珠のように、美しい涙だった。
在马克西米利尼亚之前,阿尼亚的眼睛里流出了眼泪。像珍珠一样美丽的眼泪。
ここで、マクシミリニャンは腹を括ったようだ。アニャに深々と、頭を下げる。
在这里,马克西米利尼亚好像把肚子缩起来了。深深地向阿尼亚低头。
 ここで、マクシミリニャンは腹を括ったようだ。アニャに深々と、頭を下げる。
「アニャ、すまなかった。約束しておったが、どうしても、一人残ったアニャのことを考えると、いてもたってもいられなくなって……」
“阿尼亚,对不起。虽然约好了,但一想到剩下的阿尼亚,就坐立不安……”
「お父様は、勝手だわ。私は、一人で生きる決意をしていたのに」
“你父亲太任性了。我明明已经下定决心一个人生活了。”
「すまない」
 アニャは手で顔を覆い、泣きじゃくっているようだった。だが、ピタリと動きを止め、涙を拭う。
 顔を上げたときには、先ほどのような弱々しい涙は見せなかった。
 それどころか、淡く微笑みながらこちらを見つめる。
“对不起。”
アニャは手で顔を覆い、泣きじゃくっているようだった。だが、ピタリと動きを止め、涙を拭う。
阿尼亚用手捂住脸,好像在哭。但是,突然停止了动作,擦干了眼泪。
顔を上げたときには、先ほどのような弱々しい涙は見せなかった。
抬起头的时候,没有看到像刚才那样软弱的眼泪。
それどころか、淡く微笑みながらこちらを見つめる。
不仅如此,还淡淡地微笑着凝视着这边。
「イヴァン、ありがとう。あなたは、とってもいい人だわ」
“伊凡,谢谢你,你是个非常好的人。”
「それはどうも」
“谢谢。”
「だから、私みたいな女と、結婚したらダメ」
 予想外の反応である。マクシミリニャンはオロオロしながら、俺とアニャの顔を交互に見ていた。
“所以,不能和我这样的女人结婚。”
予想外の反応である。マクシミリニャンはオロオロしながら、俺とアニャの顔を交互に見ていた。
这是意料之外的反应。马克西米利尼亚一边打盹,一边交替地看着我和阿尼亚的脸。
「リブチェフ・ラズにも、婿を探している娘達がいるだろうから、紹介してあげるわ」
“里布切夫·拉兹也有找女婿的女儿,我来介绍一下。”
「でも、俺はアニャと結婚するために、ここに来たのに」
“但是,我是为了和阿尼亚结婚才来这里的。”
「ダメ。絶対にダメよ」
「いや、なんていうか、俺みたいな顔面ボコボコ男と結婚したくないっていうのならば、潔く山を下りるけれど」 
“不行,绝对不行。”
「いや、なんていうか、俺みたいな顔面ボコボコ男と結婚したくないっていうのならば、潔く山を下りるけれど」
“不,怎么说呢,如果你不想和像我这样的脸蛋丰满的男人结婚的话,我会干脆下山的。”
「そうじゃないわ。別に、顔面ボコボコだから、遠回しに結婚を断っているわけではないのよ」
“不是那样的,我又不是因为脸蛋太乱,才婉言谢绝结婚的。”
「だったら、なんで?」
 アニャは目を泳がせながら、結婚できない理由を語り始める。
“那为什么?”
アニャは目を泳がせながら、結婚できない理由を語り始める。
阿尼亚一边游着眼睛,一边开始讲述不能结婚的理由。
「あなたみたいないい人は、私の夫になるにはもったいないわ。別の娘と結婚して、優しいお父さんになるべきなのよ。そのほうが、きっと幸せよ」
 俺と結婚したくないから、言っているわけではないようだ。嘘を言う娘には思えない。顔面が気に食わなかったら、はっきり伝えているだろう。
 だったらと、立ち上がって鞄の中から革の小袋を取り出す。
“像你这样的好人,做我的丈夫太可惜了。你应该和别的女儿结婚,做一个温柔的父亲。这样的话,一定会很幸福的。”
俺と結婚したくないから、言っているわけではないようだ。嘘を言う娘には思えない。顔面が気に食わなかったら、はっきり伝えているだろう。
好像不是因为不想和我结婚才说的。我不认为她是个说谎的姑娘。如果你不满意的话,我会告诉你的。
だったらと、立ち上がって鞄の中から革の小袋を取り出す。
于是,站起来从包里拿出皮革的小袋子。
「これ、蕎麦の種なんだけれど、謂われを知っている?」
“这是荞麦的种子,你知道由来吗?”
「新しい土地で蕎麦の種を蒔き、三日以内に芽がでたら、そこは種を蒔いた者にとって、相応しい土地になるってやつ?」
“在新的土地上播种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里对播种者来说,会成为合适的土地吗?”
「そう。俺はこの山に、蕎麦の種を蒔く。もしも、三日以内に芽が出たら、ずっと死ぬまでここにいる。生えなかったら、出て行く」
“是的。我会在这座山上播种荞麦种子。如果三天之内发芽的话,我会一直呆在这里直到死。如果不长的话,我就出去。”
「そんな……蕎麦の種に、人生を託すなんて」
“那样的……把人生托付给荞麦面的种子。”
「そうでもしないと、アニャは俺をここに置いてくれないだろう?」
“如果不这样做的话,阿尼亚就不会把我放在这里了吧?”
「だって、ここにいても、ただ老いて、朽ちるだけだわ」
“因为,即使在这里,也只会变老、腐朽。”
「そうは思わない。けれど、アニャの気持ちも尊重したい。だから、俺は蕎麦の種を蒔く」
 はっきり主張したら、アニャはこれ以上何も言わなかった。
 この先、どうなるかはよくわからない。
 アニャがはっきり拒絶している以上、いないほうがいいのかもしれないとも思う。
 
“我不这么认为。但是,我也想尊重阿尼亚的心情。所以,我要种荞麦面。”
はっきり主張したら、アニャはこれ以上何も言わなかった。
说白了,阿尼亚再也没说什嚒。
この先、どうなるかはよくわからない。
我不知道将来会怎么样。
アニャがはっきり拒絶している以上、いないほうがいいのかもしれないとも思う。
既然阿尼亚明确拒绝了,我想也许还是不在比较好。
「蕎麦の種を、こっそり掘り返したらダメだからね」
“因为不能偷偷地把荞麦面的种子挖回来。”
「そんなこと、しないわよ」
 強気なアニャが戻ってきたので、ホッとした。
「我才不做那种事呐。」
強気なアニャが戻ってきたので、ホッとした。
强势的阿尼亚回来了,松了一口气。

573
026.md

@ -0,0 +1,573 @@
養蜂家の青年は、月明かり差し込む部屋で蜜薬師の娘と会話する
养蜂家的青年,在月光照射下的房间里和蜜药师的女儿对话
この日は、客人用の離れを借りて休ませてもらう。
这一天,借客人用的离开休息。
離れは暖炉に寝台、脇にサイドテーブルがあるだけの、シンプルな部屋である。
离开是壁炉里有卧铺,旁边只有侧桌的简单房间。
灯りを点していないのに窓から月明かりが差し込むので、ランタンを点けずとも十分過ごせる。
明明没有点灯,月光却从窗户射进来,所以即使不点灯笼也能充分度过。
寝台に腰掛け、キョロキョロ見渡していたら、アニャがやってきた。
坐在卧铺上东张西望,阿尼亚来了。
「これ、蜂蜜水とちょっとしたおやつよ。それから、ランタンも。必要だったら、点けてちょうだい」
“这是蜂蜜水和小点心。还有灯笼。如果需要的话,请点一下。”
「ありがとう」
“谢谢。”
アニャはそのまま立ち去らずに、こちらを見ている。
阿尼亚就这样不走开,看着这边。
「どうかした?」
“怎么了?”
「あ――えっと、少しだけ、話してもいい?」
“啊——嗯,我能说几句吗?”
「いいよ」
“好啊。”
アニャは腰に手を当て、俺を見下ろしながら話し始めようとした。
阿尼亚把手放在腰上,俯视着我开始说话。
「ちょっと待って。座って」
“等一下,请坐。”
隣をポンポン叩きながら言うと、アニャは素直に腰掛ける。気恥ずかしいのか。もじもじしながら、頬を真っ赤に染めていた。
一边敲着旁边,一边说,阿尼亚坦率地坐了下来。你害羞吗。扭扭捏捏的,脸颊染得通红。
「ごめんなさい。あまり、同じ年ごろの異性と、話したことがなくて」
“对不起,我没怎么和同龄的异性说过话。”
「リブチェフ・ラズにいる男は?」
“在利布切夫·拉兹的男人是?”
「あの人は、私を一方的にからかってくるだけ。童顔とか、嫁ぎ遅れとか、山女とか。まともな会話はしていないわ」
“那个人只是单方面地调戏我。像童颜啦,嫁人晚了啦,山女啦。我没有正经的对话。”
「酷いね」
“太过分了。”
「でしょう? 自分だって、二十歳を過ぎても結婚していないくせに、何を言っているのかしら」
“是吧?我自己都20多岁了还没结婚,还说什么呢?”
「あー……」
“啊……”
おそらくだが、その男はアニャのことが好きなのだろう。仲良くなりたくて声をかけているのだろうが、内容が最悪過ぎる。
恐怕,那个男人喜欢阿尼亚吧。虽然是想成为好朋友而打招呼的,但是内容太差了。
「それで、話したいことは?」
“那么,你想说什么?”
「ああ、そう。あなた、本当にいいの?」
“啊,是的。你真的可以吗?”
「何が?」
“什么?”
「しらばっくれないで。私との、結婚よ」
“别装蒜了,和我结婚吧。”
「いや、まだアニャと結婚するか、決まっていないし」
“不,我还没决定要不要和阿尼亚结婚。”
運命は蕎麦の芽にかかっている。明日、アニャと一緒に種を蒔く予定だ。
命运取决于荞麦的萌芽。我打算明天和阿尼亚一起播种。
「仮に決まったときのことを話しているのよ」
“我在说临时决定的时候的事情。”
「そういう意味ね。さっきも話したけれど、俺は行く当てもない男だから」
“就是这个意思。我刚才也说过了,因为我是个没有前途的男人。”
「でも、私じゃなくても……。イヴァン、あなた、子どもが欲しくないの?」
“但是,就算不是我……伊凡,你不想要孩子吗?”
「いや、俺は子どもの面倒を見れるほど、甲斐性があるとは思えないし」
“不,我不认为我有能力照顾孩子。”
素直に告げると、アニャは目を眇めて俺を見る。小さな声で「確かに」と呟いていた。あまりにも素直な反応に、笑ってしまう。
坦率地告诉他,阿尼亚仔细地看着我。小声嘟囔着“确实”。对过于坦率的反应,笑了。
「あっ、笑ったら、顔が痛い」
“啊,一笑,脸就痛。”
「安静にしているように、言っていたでしょう?」
“你不是说要保持安静吗?”
「だって、アニャが笑わせるから」
“因为阿尼亚会笑。”
「私がいつ、笑わせたのよ」
“我什么时候让你笑了呢?”
「うん、そうだね」
“嗯,是啊。”
アニャはよほど、子どもが産めない体であることを気にしているのだろう。気の毒な話である。
阿尼亚大概相当在意孩子无法生育的身体吧。真可怜。
「もしも蕎麦が芽吹いて、結婚できるものだとしたら、俺はアニャを幸せにすることを人生の目標にしようと思っている」
“如果荞麦面发芽,能结婚的话,我想把让阿尼亚幸福作为人生的目标。”
「イヴァン……ありがとう」
“伊凡……谢谢。”
アニャはウルウルとした瞳で、俺を見つめていた。庇護欲をかき立てられるような思いとなったが、肩に触れようとした瞬間、脳内にマクシミリニャンの顔が浮かんだ。
阿尼亚用乌尔的眼睛看着我。虽然觉得这会激发庇护欲,但在触摸肩膀的瞬间,脑内浮现出了马克西米利尼亚的脸。
伸ばした手はそっと下ろし、ぎゅっと握りしめて拳を作る。
伸出的手轻轻地放下,紧紧地握住拳头。
「アニャは、どうなの? 父親が選んだ相手と、結婚するなんてイヤじゃないの?」
“阿尼亚怎么样?你不喜欢和父亲选择的对象结婚吗?”
聞いた途端、アニャは耳まで真っ赤になる。大丈夫なのか、心配になるほど羞恥心が顔に出ていた。
一听到,阿尼亚连耳朵都红了。不知道是不是没事,脸上露出了令人担心的羞耻心。
「あなたは優しいし、たぶん、働き者だろうし、嘘は吐かない人だと思うから、これ以上ない結婚相手だわ」
“你很温柔,大概是个劳动者,不会说谎的人,是再也没有的结婚对象了。”
「そう。よかった。でも、俺がいい人ぶっていたら、どうするの?」
“是的,太好了。但是,如果我装好人的话,怎么办?”
「あなたが、いい人ぶっているですって? そんな器用なことを、できる人には見えないわ。イヴァン、あなたはきっと、死ぬほど不器用な人なのよ」
“你是装好人吗?我可看不出你是个能干的人。伊凡,你一定是个笨得要死的人。”
「そう、かもしれない」
“是的,也许。”
「でしょう?」
“是吧?”
ほんの数時間しか話していないのに、人となりをアニャに見抜かれていたようだ。
虽然只说了几个小时,但好像被阿尼亚看穿了为人。
「もっと、お話ししたいって思った男の人は、イヴァンが初めてよ。もしかしたら、あと三日間しかいないかもしれないけれど、とても嬉しいわ」
“想再多说几句话的男人,伊凡是第一次。说不定只剩下三天了,我很高兴。”
「アニャ……」
“阿尼亚……”
月明かりが、彼女の横顔を照らす。なんて、美しいのか。思わず見とれてしまった。
月光照耀着她的侧脸。多么美丽啊。不由得看入迷了。
「アニャ、俺も――」
“阿尼亚,我也是——”
言いかけた瞬間、窓の外に丸太を片手で担いだマクシミリニャンが通りかかった。
刚要说的瞬间,一只手扛着原木的马克西米利尼亚路过窗外。
通り過ぎる際、高速でこちらをチラ見していった。我慢できずに、噴き出してしまう。
路过的时候,高速往这边看了看。忍不住喷了出来。
こんな時間に、丸太を持って庭で作業するわけがない。きっと、俺たちの様子を確認しにきたのだろう。
在这样的时间里,不可能拿着原木在院子里工作。一定是来确认我们的情况的吧。
「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「いや、おやじさんが通りかかったから」
“不,是因为你父亲路过。”
「まあ!! お父様ったら、覗きに来たの!?」
“哎呀!!你父亲是来偷窥的吗!?”
「たぶん、アニャがなかなか母屋に戻らないから、心配しているんだと思う」
“我想大概是因为阿尼亚很难回到正房,所以才担心的。”
「私は、子どもじゃないのに! それに、イヴァンはお父様が婿として連れてきたのに、どうして監視するようなことをするのよ!」
“我又不是小孩子!而且,伊凡明明是父亲作为女婿带过来的,为什么要监视他呢!”
「まだ正式に結婚するわけではないから」
“因为还没有正式结婚。”
顔も口の中も痛いのに、笑ってしまう。同じ日にこんなに笑ったのは、初めてだろう。
脸和嘴里都痛,却笑了起来。这是我第一次在同一天笑成这样吧。
「俺、ここに来て、よかった」
“我能来这里真是太好了。”
そう呟くと、アニャは淡く微笑んでいた。
这样嘟囔着,阿尼亚淡淡地微笑着。
こんなに楽しいところならば、ずっといたい。すべては、蕎麦の芽次第なんだけれど。
如果是这么开心的地方,我想一直呆下去。一切都要看荞麦的芽了。
「じゃあ、そろそろ解散する?」
“那么,差不多该解散了?”
「そうね」
“是啊。”
アニャを、母屋まで送る。離れと母屋はそこまで離れていないが、山なのでどこに熊が出てもおかしくない。
把阿尼亚送到主屋。离开和母屋虽然没有那么远,但是因为是山,所以哪里出熊都不奇怪。
心配なので、きちんと部屋に入るまで確認しなければ。
因为担心,所以必须在进入房间之前确认。
「アニャ、また明日」
“阿尼亚,明天见。”
「ええ、おやすみなさい」
“嗯,晚安。”
「おやすみ」
“晚安”
アニャは部屋に戻らず、こちらを見つめている。
阿尼亚不回房间,凝视着这边。
「ん、どうしたの?」
“嗯,怎么了?”
「あ――ごめんなさい。幼いころ、おやすみの挨拶をするときに、お父様が頬にキスをしてくれたから。やだわ。もう何年も、していなかったのに」
“啊——对不起。小时候,我向你问候晚安的时候,你父亲亲吻了我的脸颊。不,我已经好几年没这么做了。”
つまり、アニャはおやすみのキス待ちをしていたわけだ。
也就是说,阿尼亚在等着晚安的吻。
さすがに、結婚もしていない相手にキスなんてできない。
真不愧是,连结婚都没有的对象不能接吻。
「ゆっくり休んで」
“好好休息。”
「イヴァン、あなたも」
「伊凡,你也是。」
アニャと別れ、離れに戻る。
和阿尼亚分手,回到离开。
扉を開き中へ入ると、腕を組んで寝台に座るマクシミリニャンの姿が目に飛び込んだ。
打开门进入里面,抱着胳膊坐在卧铺上的马克西米利尼亚的身影映入眼帘。
悲鳴を上げそうになったのは、言うまでもない。
不用说,他差点尖叫起来。

683
027.md

@ -0,0 +1,683 @@
養蜂家の青年は、山羊の世話を行う
养蜂青年照顾山羊
マクシミリニャンは俺の顔を見るなり、「待っておったぞ」と声をかける。
马克西米莉娜一看到我的脸,就说:“我在等你哦。”。
どうやら、アニャだけでなく、マクシミリニャンも話があるようだ。
看来,不仅仅是阿尼亚,马克西米利尼亚也有话要说。
隣に腰掛けたが、黙ったままだ。
虽然坐在旁边,但是一直沉默着。
「何しに来たの?」
“你来干什么?”
「謝罪を、しようと思い……。その、アニャはあの通り、結婚する気はなく……」
“我想道歉……。那个,阿尼亚就是那样,不想结婚……”
「ああ、そのこと」
“啊,那件事。”
マクシミリニャンはこの先アニャを独り残していくことに、危惧を感じていた話は事前に聞いていた。
麦克西米利尼亚事先听说了关于今后独自留下阿尼亚的事,感到担心的话。
黙って連れてきていた件に関しては問題だが、そうでもしないとアニャが結婚を受け入れなかったのだろう。
关于默默带来的事情是个问题,如果不这样做的话,阿尼亚就不会接受结婚了吧。
「アニャは絶対に、そなたを気に入ると確信していた。だが、イヴァン殿には、事前に説明しておくべきだった」
“我确信阿尼亚一定会喜欢你的。但是,我应该事先向伊凡大人说明。”
「アニャにもね」
“阿尼亚也有。”
「う、うむ……」
“嗯,嗯……”
マクシミリニャンは反省しているようだったので、これ以上責める気にはならない。
马克西米利尼亚似乎在反省,所以不想再责备他了。
「イヴァン殿、蕎麦の芽が生えなかったら、本当に、ここを出て行くつもりか?」
“伊凡大人,如果荞麦面没有发芽,你真的打算离开这里吗?”
「まあ、そういう約束だから」
“嗯,因为是这样的约定。”
そう答えると、マクシミリニャンは途端に悲しげな表情になる。
这样回答的话,马克西米莉娜马上就会露出悲伤的表情。
「蕎麦の芽が生えなかったら、リブチェフ・ラズで仕事でも探すよ。それでたまに、アニャの顔を見に来るから」
“如果荞麦面没有发芽的话,我会在里布切夫·拉兹找工作。所以偶尔会来看阿尼亚的脸。”
「イヴァン殿、感謝する!!」
“伊凡大人,谢谢你!!”
マクシミリニャンは俺を力強く抱擁した。体がミシッと悲鳴を上げたので、力いっぱい押し返して離れる。
马克西米莉娜有力地拥抱了我。因为身体发出了一声尖叫,所以用力推回去离开。
「それで、アニャは、どうだ?」
“那么,Ania怎么样?”
「どう、というと?」
“怎么说呢?”
「愛らしいとか、可愛らしいとか、愛いとか、何か、感想があるだろう?」
“可爱啦,可爱啦,可爱啦,有什么感想吗?”
それ、全部同じような意味じゃん。なんていう指摘はさて措いて。
那个,全部都是一样的意思吧。这样的指摘暂且不提。
「明るくて元気な、いい娘(こ)だと思う」
「我觉得她是个开朗活泼的好姑娘。」
ただ、見た目は完全に十三から十四歳くらいの少女だけれど。その点は、目を瞑る。
只是,外表完全是十三到十四岁左右的少女。这一点是闭上眼睛。
「結婚相手として、申し分ない相手だよ」
“作为结婚对象,是无可挑剔的对象。”
「それはよかった。この先、我は安心して逝ける」
“那太好了。今后,我会安心逝世的。”
安堵したように呟くマクシミリニャンの背中を、励ますように叩いてあげた。
他像是在鼓励着嘟囔着安心的麦克西米利尼亚的背。
◇◇◇
◇◇◇
朝――目覚める。まだ外はまっくらだが、そのうち太陽は昇るだろう。
早上——醒来。虽然外面还很黑,但不久太阳就会升起来吧。
服を着替え、ナイフと石鹸、歯ブラシ、ランタンを持って出る。
换衣服,拿着刀、肥皂、牙刷、灯笼出来。
外は風がごうごうと激しく吹いていた。真冬だと思うほど寒い。
外面风呼啸而过。冷得让人以为是隆冬。
たらいに湧き水を掬う。山の水は、キンとするほど冷たい。
往盆里舀泉水。山上的水很冷。
駆け足で下屋の勝手口から浴室に入る。洗面台にたらいに入った水を置き、鏡の横にランタンを設置した。
跑着从下屋的胜算进入浴室。把盆里的水放在洗脸台上,在镜子旁边设置了灯笼。
鏡を覗き込むと、顔のただれがなくなり、赤みも引いているのに気付く。顔がボコボコなのは相変わらずだが、痛みはずいぶんと薄くなっていた。
看着镜子,发现脸上的谁不见了,还拉着红色。虽然脸上还是老样子,但是疼痛已经变得很淡了。
本当に、蜂蜜は傷の治癒に効果があるようだ。驚いた、医者の薬より効くなんて。
真的,蜂蜜似乎有治愈伤口的效果。吓了一跳,竟然比医生的药有效。
台所のほうからも、物音が聞こえる。アニャが、朝食の準備をしているのだろうか。
从厨房也能听到声音。阿尼亚在准备早饭吗。
顔を洗って髭を剃り、歯を磨いたあと、台所の扉を開いた。
洗完脸刮了胡子,刷牙后,打开厨房的门。
「おはよう、イヴァン殿」
“早上好,伊凡大人。”
「うわっ!!」
“哇!!”
にっこり微笑みながら挨拶をしたのは、フリフリのエプロンをかけたマクシミリニャンだった。
微笑着打招呼的是戴着弗里弗利围裙的马克西米利尼。
なぜここに? と思ったが、昨晩、アニャが「食事はお父様と代わる代わるしているの」と話していた。今日は、マクシミリニャンが朝食を準備する番なのだろう。
为什么在这里?昨天晚上,阿尼亚说:“吃饭是代替父亲的。”。今天轮到马克西米利尼亚准备早餐了吧。
それよりも、気になる点を尋ねてみた。
比起那个,我试着问了一下在意的地方。
「そのエプロン、何?」
“那个围裙是什么?”
「ああ、これか? 以前、リブチェフ・ラズの婦人会でアニャがもらってきたものなのだが、使わないというので、我が使用している」
“啊,是这个吗?这是以前在利布切夫·拉兹的妇女会上阿尼亚给我的东西,因为不使用,所以我在使用。”
「……」
「……」
アニャがかけたら、さぞかし可愛かっただろう。マクシミリニャンの筋骨隆々の体に、フリルたっぷりのエプロンをかけた姿は違和感としか感じない。
阿尼亚挂了,一定很可爱吧。在马克西米利尼亚筋骨隆隆的身体上,戴着满是褶边的围裙的样子只会让人感到不协调。
「何か、手伝うことはある?」
“有什么需要帮忙的吗?”
「もうすぐアニャが起きてくるから、家畜に餌を与えてくれ」
“阿尼亚马上就要起床了,你给牲口喂食吧。”
「了解」
“确定”
母屋のほうに行くと、アニャがやってきた。
我往开间走,阿尼亚来了。
「イヴァン、おはよう」
“伊凡,早上好。”
「おはよう、アニャ」
“早上好,阿尼亚。”
アニャはずんずんと接近し、俺の顔を覗き込んだ。
阿尼亚紧紧地靠近,窥视着我的脸。
「うん。昨日よりはいいわね」
“嗯,比昨天好。”
「おかげさまで」
“托您的福。”
「どういたしまして。今日は、軟膏を塗ってあげるわ」
“不客气,今天我给你涂软膏。”
「ありがとう」
“谢谢。”
「それにしても、早いわね。どうしたの?」
“即便如此,也太早了。怎么了?”
「家畜の餌をやるっていうから、手伝おうと思って。俺、お手伝いしたがりさんだから」
“因为说要喂家畜,所以想帮忙。我是想帮忙的人。”
アニャが「安静に!」と言う前に、先制攻撃をしておく。すると、アニャは眉尻を下げながらも、噴きだし笑いをしてしまう。
在阿尼亚说“安静!”之前,先进行先发制人的攻击。于是,阿尼亚一边低着眉头,一边笑起来。
「わかったわ。こっちに来て」
“好的,过来。”
まずは物置に、飼料を取りに行く。アニャはランタンを持たずとも、薄暗い中をずんずん進んでいた。
首先去仓库拿饲料。阿尼亚即使没有灯笼,也在昏暗中不停地前进。
「春は、小麦と外皮を中心に、細麦を与えるのよ。毎日放牧もしているのだけれど、餌を与えていなかったら、山の木々が丸裸になってしまうから」
“春天,以小麦和外皮为中心,喂细麦。虽然每天都放牧,但是如果没有喂食的话,山上的树木就会变得光秃秃的。”
「なるほどね」
“原来如此。”
まずは、乳用の山羊から。小屋の中には、子山羊がいて、高い声で「めえめえ」と鳴いていた。
首先,从乳用的山羊开始。小屋里,有一只小山羊,高声叫着“哇”。
ここにいる山羊は、よく知る白い毛並みの山羊である。
这里的山羊是众所周知的白色毛山羊。
「子山羊はもうすぐ草や葉を食べられるようになるから、その辺りからお乳を搾るの」
“小山羊马上就可以吃草和叶子了,所以要从那附近挤奶。”
アニャは説明しながらも、山羊にテキパキと餌を与えていた。
阿尼亚一边解释,一边给山羊喂食龙舌兰酒。
知り合いの山羊は、我先にと暴れるようにして餌を食べていたが、ここの山羊たちはのんびりしている。怖いという印象は、薄くなっていった。
认识的山羊争先恐后地狂暴地吃着食物,这里的山羊们却很悠闲。恐怖的印象越来越淡薄了。
「餌を食べている間に、掃除をするわよ。イヴァンは、水を汲んできて」
“吃东西的时候会打扫的。伊凡去打水。”
「はいはい」
“好的好的。”
山羊は地面に落ちた餌は食べないくらい、綺麗好きらしい。山羊の飼育でもっとも重要なのは、過ごしやすいよう清潔な環境を作ってやることなんだとか。
山羊喜欢干净到不吃掉在地上的食物。在山羊的饲养中最重要的是,为了方便生活而创造干净的环境。
小屋に敷いてある藁ごと、糞などを回収する。これらは、肥料にするようだ。
把铺在小屋里的稻草、粪便等回收。这些好像是肥料。
「山羊の糞はコロコロしていて、他の家畜に比べて手入れがしやすいのよ」
“山羊的粪便是咕噜咕噜的,比其他家畜容易保养。”
「確かに」
“确实。”
牛や豚の糞は水分を含んでいて、臭いも酷い。山羊の糞も臭いけれど、牛や豚に比べたらマシだ。
牛和猪的粪便含有水分,臭味也很严重。山羊的屎也很臭,但是和牛和猪相比就好了。
小屋に水を流し、しばし乾燥させる。
在小屋里冲水,暂时干燥。
山羊は、食事を終えたあとは山に放つらしい。日が暮れる前に、自主的に戻ってくるようだ。
山羊吃完饭好像会放在山上。天黑之前,好像会主动回来。
続いて、肉用の山羊の小屋を掃除する。
接着,打扫肉用的山羊小屋。
「あ、こっちの山羊は、耳が垂れているんだ」
“啊,这边的山羊耳朵耷拉着。”
毛並みは茶色やブチ、褐色など、さまざまな色合いがある。繁殖させて、リブチェフ・ラズに売りに行っているらしい。
头发有茶色、棕色、褐色等各种颜色。让它繁殖,好像是去卖给里布切夫·拉兹。
隣の小屋にいるのは、カシミア山羊とアンゴラ山羊である。共に、毛の採取を目的とした山羊だ。
旁边小屋里的是开司米山羊和安哥拉山羊。都是以采集毛发为目的的山羊。
カシミアの毛は真っ直ぐで、どこかおっとりした顔つきをしている。
开司米的毛很直,有一种大方的样子。
アンゴラの毛はちぢれていて、目元も毛で覆われていた。
安哥拉的毛卷曲着,眼睛也被毛覆盖着。
共に、この辺りでは見かけない品種である。昨日、マクシミリニャンが皇家より贈られたと話していた。
都是这附近看不到的品种。昨天,他说马克西米莉娜是皇家赠送的。
最後は昨日見かけて驚いた、騎乗用の山羊である。
最后是昨天看到的令人吃惊的骑乘用山羊。
近くで見ると、よりいっそう迫力があった。
在附近看,更有魄力。
一頭は白く、もう一頭は黒い。
一头是白色的,另一头是黑色的。
「これ、本当に大きいね」
“这个真大啊。”
「大角山羊っていう山羊なの。この辺りに、生息しているわ。崖を駆け上るのが得意で、どこまでも登ってくれるのよ」
“这是一只叫做大角山羊的山羊。栖息在这附近。擅长攀登悬崖,无论到哪里都能攀登。”
「そうなんだ」
“是啊。”
通常は騎乗できるような種類ではないものの、マクシミリニャンが独自に伝わる調教で、騎乗できるように躾けたものらしい。
虽然通常不是可以骑乘的种类,但据说是麦克西米利尼独自传达的调教,为了能骑乘而进行了训练。
「白い子が、クリーロ、黒い子が、センツァ。奥にいる灰色の赤ちゃんが、メーチェよ」
“白色的孩子是克里洛,黑色的孩子是森察。里面的灰色婴儿是梅切。”
「翼(クリーロ)に、影(センツァ)に、剣(メーチェ)、ね」
「翼、影、剑……」
メーチェはこの春、生まれたばかりらしい。赤ちゃんだというが、乳用山羊の成獣と同じくらいの大きさである。ここからさらに、大きくなるのだろう。
梅切今年春天好像刚出生。虽说是婴儿,但和乳用山羊的成兽差不多大。从这里开始会变得更大吧。
山羊の世話が終わったころには、太陽が地平線から顔を覗かせていた。
在山羊的照料结束的时候,太阳从地平线上露出了脸。
一日が、始まろうとしている。
一天即将开始。

745
028.md

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養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と蕎麦の種まきをする
养蜂家的青年和蜜药师的女儿一起播种荞麦面
飼育しているのは、山羊だけではなかった。
饲养的不仅仅是山羊。
鶏と犬もいた。
还有鸡和狗。
鶏は黒い羽を持つ品種だった。十年から十五年も生きるらしい。卵と肉を目的に飼っているようだ。
鸡是有黑色羽毛的品种。好像活了十到十五年。好像是以鸡蛋和肉为目的饲养的。
犬は母屋にいた。アニャの部屋で飼っているという。小型犬かと思いきや、熊みたいにでかい犬が出てきたので驚いた。
狗在主房。据说是在阿尼亚的房间里养的。原以为是小型犬,没想到却出现了像熊一样大的狗,吓了一跳。
毛量の多い犬で、茶色と黒の混じった毛並みをしている。
毛量大的狗,有茶色和黑色混合的毛。
ツヤツヤと輝く毛は、アニャが丁寧に手入れをしているのだろう。
闪闪发光的毛,是阿尼亚精心保养的吧。
「この子は、ヴィーテス。護畜犬なんだけれど、おっとりしていて、向いていなかったみたい。異国人が犬鍋にして食べたいって言っているところを、私が飼うって引き取ってきたのよ」
“这孩子是维特斯。虽然是护畜犬,但是很大方,好像不适合。外国人说想做狗锅吃的时候,我养了他回来。”
「そうだったんだ」
「原来是这样。」
初対面の俺に対して吠えもせず、それどころか頭を撫でただけでお腹を見せていた。
对初次见面的我也不叫,不仅如此,只是抚摸着头就让我看到了肚子。
護畜犬とは思えないほど人懐っこい。
与人亲近得不像是护畜犬。
普段は家で眠ったり、庭をのそのそ散歩したりしているのだという。驚くほど、普通の愛玩犬であった。
平时在家里睡觉,在院子里散步。令人吃惊的是,这是一只普通的宠物狗。
夜は、アニャを温めてくれるらしい。布団に入れて、一緒に寝ているのだとか。
晚上好像会给我加热。放进被子里一起睡觉之类的。
それにしても、異国では犬を鍋にして食べる文化があるとは……。
即便如此,在异国竟然有把狗做成锅吃的文化……。
「お前、犬鍋にならなくて、よかったな」
“你没成为狗锅,真是太好了。”
「わっふ!」
“哇!”
そんなことを話しかけながら、朝食である牛の骨付き肉を与えた。
一边说着那样的话,一边给了作为早餐的牛的带骨头的肉。
◇◇◇
◇◇◇
マクシミリニャンお手製の朝食を囲む。
围着马克西米利尼亚亲手做的早餐。
「たんと食べるがよい!」
“一下子吃吧!”
食卓には、昨日アニャが焼いた蕎麦パンに昨晩の残りのスープ、蜂蜜に、スライスしたハムにオムレツが並べられている。
餐桌上摆着昨天阿尼亚烤的荞麦面包和昨晚剩下的汤、蜂蜜、切片的火腿和煎蛋。
オムレツは綺麗な形に焼き上がっている。剛腕のマクシミリニャンが作ったとはとても思えない。
煎蛋卷烤得很漂亮。我不认为这是铁腕马克西米莉娜做的。
祈りを捧げたのちに、いただく。
祈祷之后再吃。
「イヴァン、これ、オレンジの花の蜂蜜なの。食べてみて」
“伊凡,这是橘子花的蜂蜜。尝尝看。”
山には百年ほど前にオレンジの木が植えられ、蜂蜜を採っているようだ。寒暖差の激しい気候から、甘い果実を生らすことはないが、おいしい蜂蜜は採れるらしい。
山上大约一百年前种了橘子树,好像在采蜂蜜。在温差很大的气候下,虽然不会长出甜的果实,但好像能采到美味的蜂蜜。
蕎麦パンに塗り、頬張る。
涂在荞麦面面包上,大口吃。
「――わっ、おいしい」
“——哇,真好吃。”
ほのかな酸味があり、あっさりしている。パンとの相性も抜群だ。
有淡淡的酸味,很清淡。和面包的搭配也很出众。
「ヨーグルトに垂らしても、おいしいのよ。もう少ししたら、山羊のお乳が取れるから、作ってあげるわ」
“滴在酸奶里也很好吃。再过一会儿,山羊的奶就掉了,我给你做。”
「楽しみにしている」
“我很期待。”
ヨーグルトが作れるまで、ここにいるかは謎であるが。深く突っ込まないで返事だけしておいた。
在酸奶做好之前,在这里是个谜。没有深入,只回答了。
マクシミリニャン特製の、オムレツも絶品だった。卵はとろとろ半熟で、トマトソースに絡めて食べる。パンの上に載せて食べても、おいしかった。
马克西米利尼亚特制的煎蛋也是绝品。鸡蛋是粘糊糊的半熟,和番茄酱缠在一起吃。放在面包上吃也很好吃。
ハムは塩けが強かったが、これから汗を掻いて働くのでちょうどいいだろう。
火腿的盐伤很重,但是接下来要出汗工作,正好吧。
しかし、アニャは口にした途端、マクシミリニャンに抗議する。
但是,阿尼亚一开口就向马克西米利尼亚提出抗议。
「お父様、これ、スープ用のハムよ」
“爸爸,这是汤用的火腿。”
「む、そうであったか?」
“嗯,是这样吗?”
「塩辛いでしょう?」
“很咸吧?”
「言われてみれば、そうだな」
“说起来,是这样啊。”
どうやら、塩けの利いたハムではなく、スープ用に塩っ辛く仕上げたものだったようだ。
看来,不是放盐的火腿,而是做汤用的咸的。
「イヴァン、あなた、塩辛くなかったの?」
“伊凡,你不觉得咸吗?”
「ちょっと塩けが強いなとは思ったけれど、こういうものだと」
“我还以为盐有点重,原来是这样的。”
アニャはこめかみを押さえ、深いため息を返す。
阿尼亚按住太阳穴,发出深深的叹息。
「お父様は、たまにこういうことをやらかすの。もしも何か気づいたら、指摘してあげて」
“父亲偶尔会做这样的事。如果有什么发现的话,请指出。”
「はい」
“是的。”
ここは従順に、頷いておいた。
这里顺从地点头了。
「今日は、畑に蕎麦の種を植えに行って――それから蜂の巣箱を見に行くわ」
“今天去田里种荞麦种子——然后去看蜂箱。”
「ならばアニャ、イヴァン殿に、大角山羊の乗り方を教えてやってくれ」
“那嚒,阿尼亚,请告诉伊凡大人大角山羊的乘坐方法。”
「いいけれど、大丈夫?」
“没关系,没关系吗?”
「あまり、大丈夫ではないかも」
“可能不太好。”
馬の乗り方でさえ知らないのに、山羊に乗れというのは無謀ではないか。
连骑马的方法都不知道,骑山羊是不是太鲁莽了。
「山羊も、嫌がらない?」
“山羊也不讨厌吗?”
「大丈夫よ。あの子達は、優しい子だから」
“没关系,那些孩子都是温柔的孩子。”
不安でしかないが、山羊が背中に乗せてくれることを祈るしかない。
虽然只是不安,但只能祈祷山羊能骑在背上。
「じゃあ、蜜蜂との付き合い方も、教えなければいけないわね」
“那嚒,我也得教你怎么和蜜蜂交往。”
「アニャ、イヴァン殿は養蜂家だ」
“阿尼亚,伊凡大人是养蜂人。”
「え、イヴァンは養蜂家なの!?」
「咦,伊凡是养蜂人吗!?」
アニャは瞳を見開き、俺を見る。
阿尼亚睁开眼睛,看着我。
「あれ、言ってなかったっけ?」
“咦,你没说吗?”
「言っていないわ!」
“我没说!”
マクシミリニャンは俺が話していると思い込み、俺はマクシミリニャンが話していると思っていたようだ。一番ダメなパターンである。
马克西米莉娜以为是我在说话,我好像以为是马克西米莉娜在说话。这是最不行的模式。
共に、アニャに謝罪した。
一起向阿尼亚道歉。
「俺がしていたのは花から蜜を採る養蜂なんだ。野山の木々から蜜を採る養蜂は初めてで、いろいろ教えてもらうことになるけれど」
“我做的是从花中采蜜的养蜂。这是我第一次从山野的树木中采蜜的养蜂,我会教你很多东西。”
「大丈夫よ。蜜蜂との付き合い方を知っていたら、私が教えることは何もないわ。ほとんど、街のほうで行われている養蜂と、同じはずだから」
“没关系,如果我知道怎么和蜜蜂打交道,我就没什嚒可教的了。几乎和街上的养蜂一样。”
「だったら、よかった」
“那就好了。”
野草茶を飲みながら腹を休めたあと、アニャと共に畑に移動した。
一边喝着野草茶一边休息之后,和阿尼亚一起去了田地。
マクシミリニャンは、山のいたる場所に仕掛けている罠を見て回るらしい。
马克西米利尼亚好像在到处寻找设置在山上的陷阱。
罠猟で、獣肉を得ているようだ。
通过陷阱狩猎,好像得到了兽肉。
「お父様、行ってらっしゃい」
“爸爸,您走好。”
「ああ、行ってくる」
“啊,我走了。”
「気を付けてね」
“请小心。”
アニャの言葉に、マクシミリニャンは背中を向けつつ手を振る。
面对阿尼亚的话,马克西米利尼亚一边背对着一边挥手。
「さて、私達も、仕事をしましょう」
“那么,我们也工作吧。”
「そうだね」
“是啊。”
農具を持ち、移動する。
拿着农具移动。
敷地内の石垣を登った先に、畑を作っているらしい。
登上用地内的石墙的地方,好像在种田。
「ここよ」
“在这里。”
想定よりもかなり広い畑があった。春はここで蕎麦とトマト、カボチャにズッキーニ、パプリカ、ラディッシュにカブなどの夏に収穫する野菜を育てるらしい。
有比预想的还要大的田地。春天在这里培育荞麦面、西红柿、南瓜、西葫芦、辣椒、萝卜等夏天收获的蔬菜。
「蕎麦は来週蒔くつもりだったけれど、ついでにやっちゃうわ。イヴァンの蕎麦は、一番端のほうに蒔いてくれる?」
“本来打算下个星期种荞麦面的,顺便做一下吧。伊凡的荞麦面,能给我在最边上种吗?”
「わかった」
「明白了。」
蕎麦は春蒔きと秋蒔きの、年二回育てることができる。
荞麦面是春播和秋播,一年可以培育两次。
この辺りでは、春に種を蒔いているようだ。
这附近好像在春天播种。
我が国の蕎麦の歴史は長い。十四世紀頃に伝播(でんぱし)たと言われている。
我国的荞麦面历史悠久。据说是十四世纪左右传播的。
小麦と大麦の間に育てられることから、農民の間で瞬く間に広がっていったらしい。
因为是在小麦和大麦之间培育的,所以在农民之间瞬间蔓延开来。
蕎麦はパン作りに使われたり、パン粉代わりにまぶされたり。練って湯がいたものを食べたりと、料理の幅も広い。国民食と言っても過言ではないだろう。
荞麦面是用来做面包的,也可以代替面包粉。吃了搅拌好的有热水的东西,料理的范围也很广。说是国民食品也不为过。
革袋の種を蒔き終えると、アニャの種蒔きも手伝う。
把皮袋里的种子播完后,还帮阿尼亚播种。
たっぷり水を与えたら、あとは芽吹くのを待つばかりだ。
给了足够的水,剩下的就等着发芽了。
「イヴァン、あなた、手持ちの種を全部植えてよかったの?」
“伊凡,你能把手里的种子全部种下来吗?”
「持っていても、仕方がないし」
“拿着也没办法。”
「そう」
“是的。”
しばし、種を植えた畑を眺める。
暂时眺望种了种子的田地。
蕎麦は種蒔きから発芽まで、だいだい早くて一週間くらいか。
荞麦面从播种到发芽,最早也要一周左右。
三日でというと、奇跡に近いのかもしれない。
如果说是三天的话,也许接近奇迹了。
「アニャ、蕎麦の芽は、三日以内に出てくると思う?」
“阿尼亚,你觉得荞麦的芽会在三天之内长出来吗?”
「さあ?」
“来吧?”
神のみぞ知るものなのだろう。しかし、アニャは言葉を付け加える。
只有神才知道吧。但是,阿尼亚附加了一句话。
「でも、芽が出てきたら、いいわね」
“但是,如果发芽的话就好了。”
「うん」
“嗯。”
ここが俺にとって永遠の土地となるかは、蕎麦の芽次第。
这里对我来说是永远的土地,取决于荞麦的芽。
あとは、三日間待つばかりだろう。
只剩下等三天了吧。
◇◇◇
◇◇◇
種蒔きが終わったら、大角山羊の騎乗方法を教えてもらう。
播种结束后,请告诉我大角山羊的骑乘方法。
「基本的には、馬の背中に跨がるのと同じよ。鞍を装着して、頭絡(とうらく)を付けて、手綱で操るの」
“基本上就像跨在马背上一样。装上鞍,戴上头络,用缰绳操纵。”
アニャは手慣れた様子で、大角山羊に装着していく。
阿尼亚用习惯了的样子,装在大角山羊上。
そして、鐙(あぶみ)を踏んで騎乗して見せた。
然后,踩着马镫骑给他看。
「ね、簡単でしょう?」
“啊,很简单吧?”
その言葉に、「見ているだけだったら」と返した。
对那句话,他回答说:“如果只是看着的话。”。

457
029.md

@ -0,0 +1,457 @@
養蜂家の青年は、大角山羊に騎乗する
养蜂青年骑大角山羊
見たこともないくらいドでかい山羊を前に、たじろぐ。
面对着从未见过的巨大山羊,畏缩着。
黒い大山羊、センツァは欠片も、俺を気にしていなかった。
黑色的大山羊,森察连碎片都不在乎我。
それにしても、見事な角だ。これでなぎ払われた日には、体はぶっ飛んで即死だろう。
即便如此,这也是一个漂亮的角。在这样被赶走的日子里,身体会飞走当场死亡吧。
「まずは、センツァに挨拶するの。山羊は、額で挨拶をするのよ」
“首先,要向圣察打招呼。山羊要用额头打招呼。”
「そう、だったんだ」
“是的。”
以前、山羊の世話に行ったとき、山羊に何度も頭突きをされた記憶がある。あれは、挨拶だったのか。山羊は力が強い。しゃがみ込んでいるときに頭突きをされて、盛大に転んだ覚えもある。
我记得以前去照顾山羊的时候,被山羊撞了好几次头。那是打招呼吗。山羊力气很大。还记得蹲下的时候头被戳了一下,摔得很严重。
この大山羊に頭突きなんかされた日には、俺の額が割れて出血するのでは?
被这只大山羊撞到头的那天,我的额头会裂开出血吗?
恐ろし過ぎる。
太可怕了。
「まずは声をかけて、鼻先から額にかけて優しく撫でるのよ」
“先打招呼,从鼻尖到额头温柔地抚摸。”
「了解」
“确定”
できれば近づきたくないけれど、こちらが怖がったら山羊も不安になる。こうなったら、開き直るしかない。
如果可能的话,我不想靠近,但是如果我害怕的话,山羊也会不安。这样的话,只能重新打开。
山羊は友達! 山羊は友達! 山羊は友達!
山羊是朋友!山羊是朋友!山羊是朋友!
心の中で何度も言い聞かせ、一歩、一歩と接近する。
在心中反复劝说,一步一步地接近。
センツァはやっと俺を見た。細い長方形の瞳孔が、ただ一点に向けられている。
森察终于看见我了。细长的长方形瞳孔,只朝向一点。
「やあ、センツァ。いい天気だね」
「哎呀,森察,天气真好啊。」
自分でも驚くほど、棒読みになってしまった。
连自己都吃惊地直读了。
少し離れた場所で見守っていたアニャが、口元を押さえて笑っている様子を視界の端で捉える。集中力が途切れるので、角度を変えて彼女が入らないようにした。
在稍远的地方守护着的阿尼亚,用视野的边缘捕捉到捂住嘴角笑着的样子。注意力中断,换个角度让她别进去。
まず、拳を差し出して匂いを嗅がせる。犬は、たいていこれをすれば受け入れてくれる。山羊に通用するのかはわからないけれど。
首先,伸出拳头让他闻到味道。狗一般都会接受这个。虽然不知道对山羊通用。
センツァは興味があるのか、くんくん嗅いでくる。そして、ペロリと舐めた。
你有兴趣吗。然后,舔了一下。
声が出そうになったが、ぐっと我慢した。
虽然想发出声音,但还是忍住了。
「イヴァン、ペロペロ舐めるのも、山羊の挨拶なの」
“伊凡,舔胡椒也是山羊的问候。”
「そうなんだ」
“是啊。”
ひとまず、挨拶を返してくれたので、鼻先から額にかけて撫でてあげた。
首先,因为打了招呼,所以从鼻尖到额头抚摸了他。
アニャがもっと強くしてもいいというので、爪を立ててガシガシ掻くように撫でてやる。すると、気持ちがいいのか、目を細めていた。
因为阿尼亚可以再用力一点,所以我会竖起指甲用力抚摸。于是,也许是心情好,眯着眼睛。
「慣れてきたら、顎の下や頬を撫でてあげて」
“习惯了的话,请抚摸下巴和脸颊。”
「了解」
“确定”
額を右手でガシガシ撫で、左手で顎の下を優しく撫でてやる。お気に召したのか、もっとやれと接近してきた。
用右手抚摸额头,用左手温柔地抚摸下巴下面。也许是您喜欢,我更接近了。
「もう、それくらいでいいわ。センツァはきっと、あなたを背中に乗せてくれるはず」
「就这样就好了,森察一定会把你放在我的背上的。」
「そう、よかった」
“是,太好了。”
ホッと胸をなで下ろしていたら、センツァは額を寄せてきた。
松了一口气,森察把额头凑了过来。
巨大な角も迫り、悲鳴を上げたい気持ちをぐっと抑える。
巨大的角也迫近,一下子抑制了想发出悲鸣的心情。
すると、センツァは額と額を軽く合わせて、優しくスリスリとすり寄ってきた。
于是,森察把额头和额头轻轻地合在一起,温柔地和扒手擦了过来。
こんなに大きな体なのに、人間が非力で弱い生き物だとわかっているのだろう。
明明是这么大的身体,却知道人类是无力而脆弱的生物吧。
山羊について、ずっと思い違いをしていた。個人的に誤解していただけで、心優しい存在であった。
关于山羊,我一直想错了。只是个人误解了,是心地善良的存在。
「じゃあ、頭絡の付け方を教えるわね」
「那嚒,我来教你戴头巾吧。」
手綱を首にかけ、まずははみを口に銜えさせ、噛ませる。頭部にベルトを合わせ、項部分のベルトを締める。次に、鼻部分のベルトを締め、最後に喉部分のベルトを締めるようだ。
把缰绳挂在脖子上,首先让它叼在嘴里,让它咬。将腰带对准头部,收紧部分腰带。接着,收紧鼻子部分的腰带,最后收紧喉咙部分的腰带。
「喉元は、きっちり締めなくてもいいわ。指が一本か二本、通るくらいベルトに余裕を持って」
“喉咙不用紧紧地勒紧,只要有一两根手指,腰带就足够了。”
「わかった」
「明白了。」
山羊に頭絡を付けるなんて、ありえない。嫌がるだろうと思っていたが、案外すんなり受け入れている。いったいどうやって躾けたのか、謎が深まる。
给山羊戴上头巾,这是不可能的。原以为会讨厌,没想到很顺利地接受了。到底是怎么教育的,谜团越来越深。
頭絡を付け終わったら、鞍を装着する。これも、センツァは嫌がらずに受け入れた。
戴完头巾后,戴上马鞍。这也是,森察不厌其烦地接受了。
準備が整うと、ついに騎乗する段階までたどり着いてしまう。
准备好了,终于到达了骑乘的阶段。
「乗り方は、片足で鐙を踏んで、一気に上がるの。躊躇っていたら山羊の負担になるから、一気にサッと上がるのよ」
“乘坐方法是用一只脚踩着马镫,一口气爬上去。犹豫的话会给山羊带来负担,所以要一口气爬上去。”
アニャはそう行って、白い大山羊クリーロに軽々と跨がっていた。
阿尼亚就这样走了,轻盈地跨过白色的大山羊克里洛。
「さあ、イヴァンも乗ってみて」
“来吧,伊凡也上车看看。”
「うん」
“嗯。”
準備が終わって尚、乗れる気がしないがやるしかない。
准备结束了,虽然不觉得能乘坐,但只能做了。
センツァの額をガシガシ撫で、頼んだぞと声をかけてから乗ってみる。
抚摸着桑察的额头,说拜托了之后再上车。
手綱を手にした状態で鐙に足をかけ、一気に上がった。鞍に跨がり、腰を下ろす。
在拿着缰绳的状态下,脚踏在马镫上,一口气爬了上去。跨上鞍,坐下。
「うわ、乗れた」
“哇,上车了。”
「いいじゃない」
“不是很好吗?”
操縦は馬と一緒らしい。しかし、乗馬なんてしたことがない。そう答えると、アニャは操縦方法を教えてくれた。
操纵好像和马一样。但是,我没有骑过马。这样回答后,阿尼亚告诉了我操纵方法。
「歩かせるときは、左右の踵でお腹をポン! って蹴るの。軽く走らせたいときは、お腹をポンポン! って蹴る。曲がる時は、曲がりたい方向の手綱を引くのよ。止まるときは、少し立ち上がって手綱を引く。わかった?」
“让他走路的时候,要用左右脚后跟踢肚子。想让他轻轻跑的时候,要踢肚子。拐弯的时候,要拉想拐弯的方向的缰绳。停下来的时候,稍微站起来拉缰绳。明白了吗?”
「やってみる」
“试试看。”
アニャが教えてくれたとおり、センツァの腹を踵で軽く蹴った。すると、ゆっくり歩き始める。
正如阿尼亚告诉我的那样,用脚后跟轻轻地踢了一下森察的肚子。于是,慢慢地开始走。
庭をぐるぐる周り、時折軽く走ってみせた。センツァは従順で、きちんと指示に従ってくれる。
在院子里转来转去,偶尔跑得很轻。森察很顺从,很好地听从指示。
「イヴァン、上手じゃない」
“伊凡,你做得不好。”
ただ、ここで喜んではいけない。もう一段階、試練があるのだ。
只是,不要在这里高兴。还有一个阶段,有考验。
それは、崖を登ること。考えただけでも、身が竦んでしまう。
那就是攀登悬崖。光是想想,身体就蜷缩起来了。
崖を登るときは、木で作った笛で合図を出すらしい。紐が付いた、平たい笛である。
登悬崖的时候,好像是用木头做的笛子发出信号。是带着绳子的扁平的笛子。
「これ、使っていないものだから、どうぞ」
“这是没用的东西,请用。”
「ありがとう」
“谢谢。”
受け取ったあと、アニャは信じられないことを言った。
收到后,阿尼亚说了一句难以置信的话。
「じゃあ、今から崖を登りましょうか」
“那么,我们现在开始攀登悬崖吧。”
まだ崖を登ってもいないのに、肝がスッと冷えた。
还没爬上悬崖,肝就一下子凉了。

733
030.md

@ -0,0 +1,733 @@
養蜂家の青年は、大角山羊と共に崖を駆け上がる
养蜂青年和大角山羊一起跑上悬崖
大角山羊に跨がり、アニャのあとに続いて山道を走る。
跨过大角山羊,在阿尼亚之后继续走山路。
道は当然真っ直ぐでなければ、石畳で整えられたものでもない。ぐねぐねに曲がる獣道で、眼前に木が迫る恐怖と戦いながら進んでいく。
道路当然不是笔直的,也不是用石阶整理的。在弯弯曲曲的兽道上,与眼前树木逼近的恐怖战斗着前进。
突き出た木の枝が、頬を叩く。
突出的树枝敲打着脸颊。
「痛った!」
“好痛!”
子どものころいたずらをして、母に叱られて叩かれたときより痛かった。
比小时候淘气,被母亲责骂被打的时候更痛。
枝を避ける技術を習得しないと、頬を切ってしまうだろう。気を付けなければ。
如果你不学会躲避树枝的技巧,你会把你的脸颊割破的。如果不注意的话。
景色がものすごい速さでくるくる変わっていく。苦労して登った坂道を、センツァは一瞬で駆け上がった。
景色以惊人的速度不断变化。在艰难攀登的坡道上,森察一瞬间跑了上去。
さすがの脚力である。大角山羊に乗って移動する意味を、身をもって理解した。
不愧是脚力。亲身体会到了乘坐大角山羊移动的意义。
十分ほど走ると、ごつごつとした岩場にたどり着いた。
跑了十分钟左右,到达了凹凸不平的岩石场。
崖というほど断崖絶壁ではないものの、上へ上へと重なり合った岩は人が自力で登れるような場所ではない。
虽然不是悬崖那样的悬崖峭壁,但是向上重叠的岩石并不是人能靠自己的力量攀登的地方。
「イヴァン、見本を見せるわね」
“伊凡,我给你看样东西。”
アニャは笛を銜え、短く吹いた。すると、クリーロは膝を曲げ、岩に向かって跳んだ。
阿尼亚叼着笛子,吹得很短。于是,克里洛弯下膝,朝着岩石跳去。
「うわっ!!」
“哇!!”
俺が登ったわけではないのに、声をあげてしまう。美しい弧を描くように、跳んでいったのだ。クリーロの体はブレることなく、岩場に着地する。あんなに大きな体なのに、驚くほど安定していた。
明明不是我爬上去的,却发出了声音。就像画出美丽的弧线一样,跳了下去。克里洛的身体不会摇晃,而是降落在岩石上。明明是那么大的身体,却惊人地稳定了。
軽やかな足取りで、どんどん上へ上へと登っている。信じがたい光景を、目にしていた。
迈着轻快的步伐,不断往上爬。看到了难以相信的情景。
「嘘だろう?」
“是骗人的吧?”
これを、今からしないといけないのだ。ただ乗っているだけではダメなのだろう。
从现在开始必须做这个。只是坐着是不行的吧。
岩場を登るアニャの体は、ほぼ垂直になっていた。いったいどのようにして均衡を取っているのか。理解できない。
攀登岩场的阿尼亚的身体几乎垂直。到底是如何取得平衡的。不能理解。
大角山羊に出す指示しか聞いていなかった。騎乗している側の心得も、何かあっただろう。もう、アニャの姿は小さくなっている。今更聞けない。
我只听了大角山羊的指示。骑乘者方面的心得也发生了什么吧。阿尼亚的身影已经变小了。事到如今听不下去了。
改めて、岩場を見上げる。ヒュンと、心臓が縮んだ気がした。
再次仰望岩场。我感觉心脏收缩了。
岩はごつごつしているうえに、ところどころナイフのように鋭く尖っていた。もしもセンツァの背中から落下したら、大怪我を負うどころか生きているかでさえ怪しい。
岩石凹凸不平,而且到处像小刀一样锋利。如果从沙皇的背上掉下来的话,别说受了重伤,就连活着都很奇怪。
アニャは岩場の頂(いただき)にたどり着いたようで、ぶんぶんと手を振っている。
阿尼亚好像到达了岩场的山顶,轻轻地挥手致意。
かすかに、声が聞こえた。「イヴァンも、早く登りなさいよ!」と。
我听到了微弱的声音。“伊凡也快点爬吧!”。
なんて恐ろしいことを言っているのか。
你说的多么可怕。
センツァは早く岩場を登りたいのだろう。前脚をジタバタと動かし始めた。
森察想早点登岩场吧。前脚开始吧嗒吧嗒地移动。
覚悟を決めるしかない。
只有下定决心。
「よし、行くぞ」
“好,我走了。”
覚悟を口にしたのちに、笛を銜える。歯が、ガタガタ震えているのに気づいてしまった。まったく、情けないものである。
做好心理准备后,叼着笛子。我注意到牙齿在发抖。真是可怜。
アニャは大した勇気の持ち主だ。あんな岩場を、平然と登っていくなんて。
阿尼亚是个很有勇气的人。竟然能坦然地登上那样的岩场。
俺なんか、「登り切ったら金貨一枚あげる」と言われても、速攻で断るだろう。
像我这样,即使被说“爬完就给你一枚金币”,也会用快攻拒绝吧。
はーーとため息を吐いただけのつもりが、笛の音が鳴ってしまった。
虽然只是叹气,但是笛子的声音响了。
センツァは「待っていました!」とばかりに、「メエ!」と高く鳴いた。
“我在等你!”。
「どわっ!!」
“哇!!”
センツァは岩場に向かって大跳躍を見せてくれる。
森察向岩场展示了大跳跃。
空中滑走した瞬間、心臓は確実に半分ほどに縮んだだろう。生きた心地がまったくしなかった。
在空中滑行的瞬间,心脏确实缩小了一半左右。完全没有活着的感觉。
いつ、岩場へ着地したのかは、よくわからなかった。それくらい、衝撃が伝わってこなかったのだ。
不知道是什么时候降落在岩场的。那样的程度,冲击没有传达过来。
体は傾き、少しでも腿の力を緩めたらセンツァの背中から落ちてしまうだろう。一瞬たりとも、気を抜けない。
身体倾斜,稍微放松一下大腿的力量的话,就会从中心的背上掉下来吧。一瞬间也不能放松。
早く岩場の頂へたどり着きたい。その思いから、笛をもう一度吹く。
我想早点到达岩场的山顶。从那个想法开始,再吹一次笛子。
「うわぁ!!」
“哇!!”
跳躍時に体が引っ張られる感覚は、なんと表現したらいいのか。
跳跃时身体被拉扯的感觉,该怎么表达才好呢。
木から落ちるときに似ているような気がした。体の中心がスーッと冷えていくような、不安感に襲われる。
我感觉和从树上掉下来的时候很像。身体的中心突然变冷,被不安感袭击。
二回目に着地した岩場は、一回目よりも足場が不安定だった。体がこれでもかと、傾いている。怖いので、三回目の笛を吹いた。
第二次落地的岩场,脚手架比第一次更不稳定。身体倾斜着。因为害怕,所以吹了第三次笛子。
上に、上にと昇っていくにつれて、体が後ろへ引っ張られる。上体を前に保っていないと、転げ落ちてしまう。
随着向上、向上升起,身体被向后拉。如果不把上身保持在前面,就会滚下去。
もう、岩場で制止している時間は不要だ。一刻も早く、登りきりたい。でないと、腿の筋肉が限界を迎えてしまう。
已经不需要在岩场制止的时间了。我想尽快爬完。不然的话,腿的肌肉就会迎来极限。
跳躍と着地をタン、タン、タンの間隔から、タンタンタンの間隔に変える。
把跳跃和着地从舌、舌、舌的间隔变成舌的间隔。
あまりにも早すぎて、自分がどういう状態にあるのかわからなくなってしまった。
太早了,不知道自己处于什么状态了。
恐怖は岩場のどこかに落としてしまったのか。
恐怖是落在岩石上的什么地方了吗。
もはや何も感じなくなってしまう。
已经什么都感觉不到了。
「はあ、はあ、はあ、はあ!!」
“哈、哈、哈、哈!!”
やっとのことで、岩場を登り切った。
好不容易爬完了岩场。
岩場の頂には、豊かな木々が生い茂っている。そして、灰色熊のカーニオランが、目の前を通過していった。
岩场的山顶上生长着茂密的树木。然后,灰熊的卡尼奥兰从眼前通过。
新緑に芽吹く花に留まり、蜜を集めているようだった。
停留在新绿中发芽的花上,好像在收集蜜。
美しい光景に、ただただ見とれてしまう。
被美丽的景象所吸引。
「イヴァン、やったじゃない! 初めてにしては、上出来よ!」
“伊凡,你不是做了吗!第一次做的话,做得很好!”
アニャの声を耳にした瞬間、やっと我に返る。そして、ドッと全身に汗を掻いた。
听到阿尼亚的声音的瞬间,终于回过神来。然后,全身都出汗了。
「俺、岩場を、登ってきた?」
“我爬到岩场了吗?”
「ええ。勇敢だったわ」
「是的,我很勇敢。」
勇敢、だっただろうか。ひたすら、戦々恐々としていただけのような気もする。
勇敢吗。也有一种只是战战兢兢的感觉。
頑張ったのは俺ではなく、センツァだろう。
努力了的不是我,是森察吧。
センツァの背中から下り、鼻先から額にかけて撫でてやった。
从圣察的背上下来,从鼻尖到额头抚摸他。
「センツァ、よく、やった」
“森察,干得好。”
褒めると、目を細めて低い声で「メエ!」と鳴く。
称赞的话,眯起眼睛低声地叫「mee!」。
センツァとクリーロは、しばしこの辺に放すらしい。笛を連続で五回鳴らしたら、戻ってくるという。それまで、自由にさせるようだ。
森察和克里洛好像暂时放在这附近。据说如果连续鸣笛五次,就会回来。在那之前,好像让他自由。
手綱を放すと、手が真っ赤だった。きっと、命綱のように思いながら力いっぱい握っていたのだろう。
放开缰绳,手通红。一定是像救生索一样一边想着一边用力地握着吧。
一歩、前に踏み出そうとしたが、足が動かない。
虽然想向前迈出一步,但是脚不动。
「イヴァン、どうしたの? 気分が悪いの?」
“伊凡,你怎么了?不舒服吗?”
「いや、そうじゃなくて……」
“不,不是那样的……”
今の状態を、なんと表せばいいものか。息苦しくて、気持ち悪くて、体が重い。
现在的状态该怎么表达才好呢。呼吸困难,恶心,身体沉重。
体調に影響を及ぼすほど、崖登りが恐ろしかったのか。
难道攀登悬崖会影响身体吗。
「この辺は家がある辺りよりずっと空気が薄いの。体が、適応できていないのよ。その場に、座って」
“这一带空气比有房子的地方要稀薄得多。身体不适应。请坐在那里。”
「うん」
“嗯。”
「ものすごい汗だから、脱水症状でもあるのかもしれないわ」
“因为是很厉害的汗,所以可能也有脱水症状。”
「そう、かも。なんだかものすごく、喉が渇いている」
“是的,也许。总觉得非常口渴。”
「これを飲んで」
“喝这个。”
アニャが革袋に入れた飲み物を差し出してくれた。
阿尼亚递给我装在皮袋里的饮料。
「水にライムを搾って、蜂蜜と塩を加えた飲み物よ。これを飲んだら、たぶん体調不良もマシになると思うわ。全部飲んでいいから」
“在水里榨酸橙,加蜂蜜和盐的饮料。喝了这个的话,身体不适也会好的。全部都喝就好了。”
「ありがとう」
“谢谢。”
さっそくいただく。自分で意識していた以上に、喉が渇いていたようだ。爽やかな味わいで、ごくごくと飲み干してしまった。
马上就吃。比自己意识到的还要渴。清爽的味道,咕嘟咕嘟地喝干了。
「少し、横になりなさい。楽になるから」
“稍微躺下吧,会变得轻松的。”
岩場を登った先は、豊かな草むらと木々が広がっている。横になっても問題ないだろう。
登上岩场的地方,有丰富的草丛和树木。躺下也没问题吧。
だがここで、アニャは想定外の行動に出る。
但是在这里,阿尼亚采取了预想之外的行动。
足を伸ばして座り、ここで眠れとばかりに腿をぽんぽん叩いたのだ。
伸开腿坐着,在这里就好像睡着了一样地拍了腿。
「いや、それはさすがに悪いような」
“不,那真是太糟糕了。”
「頭を上げて眠ると、血液の巡りもよくなるのよ。体の負担も、軽くなるから」
“抬头睡觉的话,血液循环也会变好。身体的负担也会减轻。”
「そうなんだ」
“是啊。”
蜜薬師と呼ばれるアニャの言うことなので、素直に聞いていたほうがいいだろう。
因为是被称为蜜药师的阿尼亚说的话,所以还是坦率地听比较好吧。
ゆっくりと寝転がり、アニャの腿に頭を預ける。
慢慢地躺在床上,把头放在阿尼亚的腿上。
「ついでに、顔の腫れに薬を塗るわね」
“顺便给脸上的肿涂点药。”
「よろしくお願いします」
“请多关照。”
汗を布で優しく拭ってから、蜂蜜色の薬を顔に塗ってくれる。
用布轻轻地擦汗,然后把蜂蜜色的药涂在脸上。
「それは、何?」
“那是什么?”
「蜂蜜軟膏よ。保湿と、殺菌効果があるの」
“蜂蜜软膏,有保湿和杀菌的效果。”
蜜蝋と蜂蜜、精油にした薬草を使って作るらしい。
据说是用蜜蜡、蜂蜜、精油的药草制作的。
アニャは鼻歌を歌いながら、蜂蜜軟膏を指先で伸ばしていた。くすぐったいし、なんだか気恥ずかしくもなる。
阿尼亚一边哼着小曲,一边用指尖伸开蜂蜜软膏。又痒又害羞。
照れ隠しに、アニャに話しかけてしまった。
为了掩饰害羞,和阿尼亚搭话了。
「アニャ、それ、なんの歌?」
“阿尼亚,那是什么歌?”
「子守歌よ」
“摇篮曲。”
「……」
「……」
どうやら、アニャは俺を寝かしつけようとしているようだ。
看来阿尼亚要哄我睡觉了。
まさか、二十歳過ぎて「いい子でねんね」をされるとは。
没想到过了20岁就被人说“好孩子啊”。
「イヴァン、瞼にも塗るから、目を閉じて」
“伊凡,眼睑也要涂,闭上眼睛。”
目を閉じると、アニャは他の部位よりも優しく瞼に触れる。
闭上眼睛,阿尼亚比其他部位更温柔地接触眼睑。
蜂蜜軟膏は、ほんのり甘い匂いがした。直に蜂蜜を塗るよりは、さっぱりとしている。
蜂蜜软膏有点甜的味道。比起直接涂蜂蜜,更清爽。
アニャの鼻歌を聴いているうちに、先ほどの息苦しさや気持ち悪さは薄くなっているような気がした。
听着阿尼亚的鼻歌,我觉得刚才的呼吸困难和恶心变得淡薄了。
「アニャ、ありがとう」
“阿尼亚,谢谢。”
そんなことを呟きながら、俺はアニャの腿を枕にまどろんでいた。
一边嘟囔着那样的话,我一边枕着阿尼亚的腿睡着了。

771
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@ -0,0 +1,771 @@
養蜂家の青年は、巣箱の確認を行う
养蜂青年确认蜂箱
柔らかな風が、頬を優しく撫でる。鳥の美しいさえずりも、聞こえていた。
柔软的风,温柔地抚摸着脸颊。也听到了鸟美丽的鸣叫。
そっと瞼を開くと、天使のように美しい美少女が俺を見下ろしている。
轻轻地睁开眼睛,像天使一样美丽的美少女俯视着我。
ここは、天国なのか。
这里是天堂吗。
サシャに殴られて、マクシミリニャンに助けられた一連の流れは、夢の世界での出来事だったのかもしれない。だって、できすぎだろう。
被萨沙殴打,被马克西米利尼亚救了的一连串的流动,说不定是梦的世界的事。因为,做得太多了吧。
八歳の男の子が闇夜を駆け抜け、強面のおじさんに助けを求めるなんて。
一个八岁的男孩在黑夜中飞奔,竟然向一个强颜欢笑的大叔求助。
それに、実家の養蜂園が人生のすべてだった俺が、家を出るわけがない。
而且,老家的养蜂园是人生的全部的我,不可能离开家。
そして、マクシミリニャンの娘が、天使のように愛らしいわけがないのだ。
而且,马克西米莉娜的女儿不可能像天使一样可爱。
ぼんやりと、美少女を眺めていたら、灰色の毛に覆われた蜜蜂が飛んでくる。
呆呆地看着美少女,被灰色的毛覆盖的蜜蜂飞了过来。
俺の目の前をぶんぶん飛んで、鼻先に止まった。雄の蜜蜂である。
从我眼前飞过,停在了我的鼻尖上。雄蜂。
いっこうに動こうとしないので、美少女は笑い始めた。
因为一点也不想动,美少女开始笑了起来。
「ふふふ、イヴァンから蜂蜜の匂いがするから、寄ってきたのね」
“呵呵,伊凡身上有蜂蜜的味道,所以我过来了。”
「ああ、そう――」
“啊,对了——”
ここで一気に意識が覚醒する。上体を上げると、蜜蜂は飛んでいった。
在这里意识一下子觉醒了。抬起上身,蜜蜂飞走了。
「アニャ、俺、寝ていた?」
“阿尼亚,我睡了吗?”
「ええ、ぐっすりと」
“嗯,好好地。”
「ごめん。眠るつもりはなかったのに」
“对不起,我本来不打算睡觉的。”
「仕方ないわよ。高山病になりかかっていたのだし」
“没办法,我得了高山病。”
「高山病?」
“高山病?”
「ええ。山の高い場所に登ると発症するものなの。山羊を使って急に駆け上がったから、なってしまったのでしょうね。ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって。家にくるまで、お父様がイヴァンは大丈夫だったと言っていたものだから、平気かと思っていたの」
“是的。爬到山高的地方就会发病。是因为用山羊突然跑上去了,所以才变成这样的吧。对不起,我带你来了这样的地方。在到家之前,爸爸说伊凡没事,我还以为你没事呢。”
「気にしないで。もう、息苦しさや気持ち悪さはなくなったから」
“别在意,我已经没有呼吸困难和恶心了。”
「そう。よかったわ」
“是的,太好了。”
崖を駆け上がった恐怖から具合が悪くなったのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
我以为是因为跑上悬崖的恐惧而身体不舒服,但好像不是。
立ち上がろうとしたら、腕を引かれてしまう。
如果想站起来的话,胳膊就会被吸引。
「まだ、立ったらダメ。もうしばらく、休まなきゃ」
“还不能站起来,要再休息一会儿。”
「でも、大丈夫なの?」
“但是,没关系吗?”
「何が?」
“什么?”
「その、仕事とか」
“那个,工作啦。”
「別に、急いでしなければならない仕事なんて、山の暮らしにはないわよ」
“另外,山上的生活里没有什么必须要抓紧时间做的工作。”
「そうなの?」
“是吗?”
「そうなのよ。ここで一番大事なのは、健康な体なの。仕事は二の次よ。元気でいなければ、生活は成り立たないわ」
“是啊。这里最重要的是健康的身体。工作是次要的。如果没有精神,生活就无法维持。”
「そっか……。うん、そうだよね」
“这样啊……嗯,是这样啊。”
山暮らしだけではなく、どこでもそうなのだろう。生きていくうえで、健康より大事なものはない。
不仅仅是山上的生活,到处都是这样吧。在生存方面,没有比健康更重要的东西了。
働き過ぎて体調を崩す話は、街でもたまに聞く。そういう人は、自分の頑張りが体を酷使し、命を縮めている事実に気づいていないのだろう。
在街上偶尔也会听到因工作过度而身体不适的话。这样的人,应该没有注意到自己的努力过度使用身体,缩短生命的事实吧。
「私のお母様は、あまりお体が強くなかったのよ。それなのに、私を産んで命を散らしてしまったわ。自分のことは自分が一番把握しているはずなのに、わかっていなかったのでしょうね。私を産まなかったら、もっと長く生きられたでしょうに……」
“我的母亲身体不太好。但是,生了我就丢了命。自己的事情应该是自己最清楚的,却不知道吧。如果不生我的话,就能活得更长……”
「アニャ……」
“阿尼亚……”
なんて声をかけたらいいのか、わからなくなる。うんざりするほど家族がいるのは、贅沢な話だったのだ。
不知道该说什么好。有家人的话让人厌烦,真是奢侈。
アニャは思い詰めた表情で、言葉を続けた。
阿尼亚带着沉思的表情继续说下去。
「お父様は、きっと私を恨んでいるに違いないわ」
“你父亲一定很恨我。”
「それは、どうだろう? 俺は数日しか関わっていないけれど、それでも親父さんは世界で一番、アニャを愛していると思ったよ」
“那又如何呢?虽然我只参与了几天,但我还是觉得父亲是世界上最爱阿尼亚的。”
でないと、山を下りて歩いてブレッド湖の街に来るまで、婿捜しなんかしない。
不然的话,下山走着来到布莱德湖的街道之前,我不会找女婿的。
アニャが生きていただけでも、マクシミリニャンにとっては救いだっただろう。その言葉を付け加えると、アニャの眦から涙が溢れた。
即使阿尼亚还活着,对马克西米利尼亚来说也是一种救赎吧。加上这句话,阿尼亚的眼睛里充满了眼泪。
「本当に、そう、思う?」
“你真的这么想吗?”
「思うよ」
“我想。”
「そう。だったら、よかったわ」
“是的,那就太好了。”
たぶん、アニャは長い間誰にも話せずに、気に病んでいたのかもしれない。
大概,阿尼亚很长一段时间都没和任何人说,可能是心理疾病。
マクシミリニャン本人には聞けなかっただろうし、かと言って仲のいい人にも気軽に話せる内容ではない。
虽然没能问麦克西米利尼亚本人,但这并不是对关系好的人也能轻松交谈的内容。
昨日ここに来たばかりの俺だからこそ、ポツリと吐露できたのだろう。
正因为是昨天刚来这里的我,所以才会突然吐露出来吧。
しばし会話もないまま、ただただぼんやりする時間を過ごす。
暂时没有对话,只是度过发呆的时间。
美しい山々の景色を見ていたら、心が洗われるような、そんな気分にさせてくれた。
看着美丽的群山景色,让我有一种心灵被洗掉的感觉。
◇◇◇
◇◇◇
しっかり休んだのちに、仕事を行う。まずは、リンゴの花蜜を集める木のエリアに案内してもらった。
好好休息之后再工作。首先,我带我去了收集苹果花蜜的树的区域。
「イヴァン、こっちよ」
“伊凡,在这里。”
腕を引かれ、リンゴの木が群生する場所へ誘われる。
被拉着胳膊,被邀请去苹果树群生的地方。
「今は花盛りで、とっても美しいのよ。見て」
“现在是花季,非常美丽。看。”
「うわ、本当だ」
「哇,是真的。」
リンゴの木には、美しい薄紅色の花が満開だった。その周囲を、蜜蜂が忙しそうに飛び回っている。
苹果树上盛开着美丽的淡红色花朵。蜜蜂在那周围忙碌地飞来飞去。
「きれいだ」
“很漂亮。”
「でしょう。巣箱はあっちよ」
“是吧。巢箱在那边。”
小屋に巣箱を集めた実家の養蜂とは異なり、巣箱が地面に直に置かれていた。
与在小屋里收集蜂箱的老家养蜂不同,蜂箱直接放在地上。
「あ、そうだわ。イヴァン、あなたに、お父様の面布(めんぷ)を持ってきたのだけれど」
「啊,是啊。伊凡,我给你带了父亲的棉布。」
面布というのは、帽子の縁に目の細かな網がかけられた物である。蜜蜂の接近を防ぐ目的で被るのだ。
所谓面布,是在帽子的边缘上挂上眼睛细小的网的东西。这是为了防止蜜蜂接近而戴上的。
必要ないと首を振ると、驚かれる。
如果不需要的话就摇头,会被吓到。
「あなたも、面布は被らないの?」
“你也不戴面布吗?”
「うん。もしかして、アニャも?」
“嗯。难道安妮娅也是?”
「ええ、そうよ。だって、蜜蜂はお友達ですもの。必要ないわ」
“嗯,是的。因为蜜蜂是朋友,所以没有必要。”
マクシミリニャンは面布を常に被っているらしい。その昔、蜜蜂に顔を刺されたことがあったので、警戒しているのだとか。
马克西米莉娜好像经常戴着面布。以前,因为被蜜蜂蜇过脸,所以很警戒。
「お父様ったらああ見えて心配性で、人一倍慎重なの」
“父亲看起来是那样,很担心,比别人更慎重。”
「なんか、そんな感じがするかも」
“可能会有这种感觉。”
その辺は山奥で暮らすに必要な、感覚なのかもしれない。
这也许是在深山里生活所必需的感觉。
「俺も、蜂蜜軟膏を塗っているから、面布を被っておこうかな」
“我也涂了蜂蜜软膏,戴上面布吧。”
「そうね。今日は、それがいいわ」
“是啊,今天就这样吧。”
アニャから面布を受け取り、被った。マクシミリニャンの頭に合わせて作った物なので、ぶかぶかだ。顎を紐で縛り、ずれないように固定しておく。
从阿尼亚那里收到了面布,戴上了。因为是配合马克西米利尼亚的头做的,所以很臃肿。用绳子绑住下巴,固定住不偏离。
「これでよし、と」
“这样就好了。”
巣箱にゆっくり接近し、中を確認させてもらう。
慢慢地接近巢箱,让他们确认里面。
ここには、五つの巣箱が設置されていた。
这里设置了五个巢箱。
鳥の羽根で作ったブラシで巣箱に集まる蜜蜂を払い、蓋を開く。
用鸟的羽毛做的刷子掸掉聚集在蜂箱里的蜜蜂,打开盖子。
「雄が多いかも」
“雄性可能很多。”
「削りましょうか」
“要削吗?”
雄の蜂が産み付けられた巣枠を取り出し、半分くらいヘラで削いでいく。
取出产有雄蜂的巢框,用刮刀削掉一半左右。
巣枠がいっぱいになると、女王蜂は蜜蜂を連れて巣からいなくなってしまうのだ。
如果巢框满了,蜂王就会带着蜜蜂离开巢。
蜜蜂の数が減ると、満足に蜂蜜が集められなくなる。だから、巣箱は小まめに確認しなければならないのだ。
蜜蜂的数量减少的话,蜂蜜就不能满足地收集了。所以,巢箱必须仔细确认。
「女王蜂の王座は、ないか」
“没有蜂王座吗?”
王座というのは、女王蜂を育てる特別な巣穴だ。蜜蜂は王座の幼虫にローヤルゼリーという特別な餌を与えて、女王蜂を育てるのだ。
王座是培育蜂王的特别巢穴。蜜蜂给王座的幼虫喂食蜂王浆这种特别的食物,培育蜂王。
「心配いらないわ。まだ、新しい女王なの」
“不用担心,她还是新女王。”
「なるほど」
“原来如此。”
女王蜂の寿命は三年ほど。一日に千個以上の卵を産むらしい。現在、巣箱には二万匹の蜜蜂がいる。最終的には、三倍くらいの群れに成長するのだ。
蜂王的寿命是三年左右。据说一天产一千个以上的鸡蛋。现在蜂箱里有两万只蜜蜂。最终,会成长为三倍左右的群。
ただ、気をつけなければならないのは、巣箱の状態ばかりではない。
但是,需要注意的不仅仅是巢箱的状态。
新しい女王蜂が巣内で育っていた場合も、女王蜂は蜜蜂を連れて出て行ってしまう。
即使新的蜂王在蜂巢内长大,蜂王也会带着蜜蜂出去。
女王蜂が蜜蜂を連れて巣を出ていくことを、“分蜂”と呼んでいた。
蜂王带着蜜蜂走出蜂巢,被称为“分蜂”。
巣箱の中を入念に確認していたら、アニャが感心したように呟く。
仔细确认了巢箱中,阿尼亚很佩服地嘟囔着。
「イヴァン、あなた、本当に養蜂家だったのね」
“伊凡,你真是养蜂人。”
「信じていなかったの?」
“你不相信吗?”
「信じていなかったわけではないのだけれど……」
“我并不是不相信……”
アニャにとっての養蜂家のイメージは、マクシミリニャンなのかもしれない。
对阿尼亚来说养蜂人的印象可能是马克西米利尼亚。
いくら力仕事をしても、体つきがガッシリとならないのは血筋なのか。他の兄弟も、どちらかといえば細身だ。
无论怎么努力工作,身材都不僵硬,这是血脉吗。其他的兄弟姐妹,不管怎么说都是瘦肉。
「あなたみたいな人が旦那様だったら、ものすごく頼りになるわね。昨日、素直に結婚を受けておけばよかったわ」
“如果像你这样的人是你老公的话,那就太可靠了。昨天,坦率地接受结婚就好了。”
そうだったね、と言葉を返すと、アニャは微笑む。なんとなくだけれど、先ほどより心を許してくれているような気がした。
是啊,阿尼亚回了话,露出了微笑。总觉得,比刚才更能原谅我的心。
喋りながらも、手は止めない。どんどん蜂の子を掻きだしていく。
一边聊天,一边不停止手。不断地把蜂子扒出来。
「そういえば、アニャのところでは、幼虫はどうしているの?」
“这么说来,在阿尼亚那里,幼虫是怎么做的呢?”
「粉末にして、薬にしているわ」
“把它做成粉末,做成药。”
「へえ」
「咦?」
耳に関する不調に、蜂の子が効果があるらしい。乾燥させたのちに、細かく煎じるのだとか。
蜂子似乎对耳朵不适有效果。干燥后,要煎得很细。
「イヴァンの家では、どうしていたの?」
“在伊凡家,你怎么了?”
「油で揚げて、親兄弟の酒のつまみになっていたよ」
“用油炸的,成了亲兄弟的下酒菜。”
「まあ! もったいない!」
“哎呀!太可惜了!”
アニャは蜂の子を革袋に詰め、逃げないようにしっかり紐で縛っていた。
阿尼亚把蜂子塞进皮袋里,为了不逃跑,用绳子紧紧地绑着。
あとは害虫がいないか見て周り、巣箱に不具合がないかどうかも調べる。
然后看看有没有害虫,周围也调查巢箱有没有问题。
「よし。こんなもんか」
「好的,原来是这样啊。」
「そうね」
“是啊。”
そろそろお昼の時間だという。
据说快到午饭时间了。
再び大角山羊に跨がり、恐怖と闘いながら岩場を下ったのは言うまでもない。
不用说再次跨上大角山羊,一边与恐怖战斗一边下了岩场。

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032.md

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養蜂家の青年は、昼食に舌鼓を打つ
养蜂青年吃午饭时咂嘴
家に戻ってくると、フリルたっぷりのエプロンをかけたマクシミリニャンが待ち構えていた。
回到家后,戴着满是褶边围裙的马克西米莉娜在等着。
「昼食の準備が、できておるぞ」
“午饭已经准备好了。”
母屋の前に敷物が広げられており、マクシミリニャンが作ったであろう料理が並べられている。
在主屋前面铺着褥子,摆放着马克西米利尼亚做的料理。
中心にどん! と置かれているのは、鶏の丸焼きだ。昼から豪勢なものである。
中心砰!放着的是烤鸡。从白天开始就很豪华。
マクシミリニャンは誇らしげな様子で、丸焼きをどうだと指し示していた。
马克西米利尼亚一副骄傲的样子,指点着烤丸怎嚒样。
「ごちそうだね」
“我吃饱了。”
「イヴァン殿の歓迎の意を込めて、作ったのだ」
“是怀着伊凡大人的欢迎之意制作的。”
「わー……」
“哇……”
まだ婿になると決まったわけではないのに、気前がいい。
还没决定做女婿,却很大方。
大事な鶏だろうに、捌いてよかったのか。チラリと、横目でアニャを見る。
虽然是很重要的鸡,但是能卖掉真是太好了吗。用斜眼看阿尼亚。
「イヴァン、あなた、ガリガリだから、たくさんお食べなさいな」
“伊凡,你吃得太多了。”
「あ、うん。ありがとう」
“啊,嗯,谢谢。”
できたての料理を前にたくさん食べろとか、言われたのは生まれて初めてだ。
这是我有生以来第一次被要求在刚做好的菜之前多吃点。
なんだか、不思議な気分になる。
总觉得很不可思议。
「どうかしたの?」
“怎么了?”
「ふたりとも、優しいなと思って」
“我觉得两个人都很温柔。”
「これくらいで優しいとか、あなた、どんな環境で育ってきたのよ」
“这样就很温柔了,你是在什么样的环境下长大的呢?”
「普通の環境だと思うけれど」
“我觉得这是一个普通的环境。”
いや、父はいないし、家族は大勢いるし、殴る兄はいるし。ぜんぜん普通ではない。
不,父亲不在,家人很多,有打他的哥哥。一点也不普通。
「ごめん。あんまり、普通じゃなかったかも」
“对不起,可能不太正常。”
「でしょうね。この家では、お腹いっぱい食べることが普通だから、覚えておきなさい」
“是吧,在这个家里,吃饱是很正常的,你要记住。”
「わかった」
「明白了。」
マクシミリニャンはナイフで鶏の丸焼きを解体している。
马克西米利尼亚正在用小刀拆开烤鸡块。
アニャは薄く焼いた小麦粉の生地に、鶏を乗せて巻いていた。
阿尼亚把鸡放在烤得很薄的面粉面团上卷起来。
「はい、どうぞ」
“好的,请。”
どうやら、アニャは俺が食べる分を作ってくれていたようだ。こうやって、食事の世話をされるのも初めてである。
看来阿尼亚给我做了吃的部分。这样,被照顾吃饭也是第一次。
「ありがとう」
“谢谢。”
受け取って、食べる。
接受,吃。
小麦の皮はもちもちとした食感で、香ばしく焼かれた鶏の皮はパリパリ。肉はやわらく、噛むとじゅわっと肉汁があふれた。塩、コショウ、香草で味付けされていて、それが鶏肉の味を引き立ててくれる。
小麦皮有着粘糯的口感,烤得香喷喷的鸡皮脆脆的。肉干巴巴的,一嚼就咕嘟地溢出了肉汁。用盐、胡椒、香草调味,能衬托出鸡肉的味道。
「イヴァン殿、どうだ?」
“伊凡大人,怎么样?”
「すごくおいしい」
“非常好吃”
そう答えると、マクシミリニャンとアニャは笑顔になった。
这样回答后,马克西米莉娜和阿尼亚露出了笑容。
ここは、天国なのか。
这里是天堂吗。
至れり尽くせりなので、そんなふうに思ってしまう。
因为是无微不至的,所以会这么想。
「イヴァン、あなた、変なことを考えていない?」
“伊凡,你有没有想歪?”
「考えていたかも」
“我可能在想。”
天国だと思ったことを告げると、アニャに呆れられてしまった。マクシミリニャンは、若干涙ぐんでいる。
当我告诉他我以为是天堂的时候,他被阿尼亚吓了一跳。马克西米利尼亚有些泪流满面。
「本当に、いったいどんな環境で育ってきたのよ」
“真的,到底是在什么样的环境下长大的呢?”
「イヴァン殿、たらふく食べてくれ」
“伊凡大人,请吃个饱。”
「うん、ありがとう」
“嗯,谢谢。”
小麦の生地に包むのは、鶏肉だけではない。酢漬けのキャベツ(ザウアークラウト)や、練った蕎麦(ジガンツィー)、ベリージャムなども用意されていた。
包在小麦面团里的不仅仅是鸡肉。还准备了醋腌的卷心菜、搅拌好的荞麦面、浆果果酱等。
「オススメは、ベリージャムにちょっとだけ塩を混ぜたものを、鶏肉と合わせるの」
“推荐的是,在浆果酱中加入少许盐,与鸡肉混合。”
アニャのオススメはおいしいとは思えなかったが、騙されたと思って食べてみる。
虽然不觉得阿尼亚的推荐很好吃,但是觉得被骗了就尝尝看。
「え、嘘! おいしい!」
“啊,骗人的!好吃!”
「でしょう?」
“是吧?”
ベリージャムは酸味が強く、塩を加えると肉料理のソースみたいになる。これが、鶏肉と信じられないくらい合う。
浆果酱的酸味很强,加上盐就像肉料理的酱汁一样。这和鸡肉配得难以置信。
勧められるがままにどんどん食べていったら、鶏の丸焼きはあっという間に骨だけになった。
在被推荐的情况下不断地吃的话,烤鸡一眨眼就只剩下骨头了。
「この骨は、夜のスープのダシに使うの」
“这个骨头是用来做晚上汤的汤汁的。”
「無駄な部位はないと」
“没有浪费的部位。”
「ええ、そうよ」
「嗯,是的。」
それにしても、食べ過ぎたような気がする。
即便如此,我还是觉得吃多了。
お腹がいっぱいで、動けそうにない。
肚子很饱,好像动不了。
満腹状態がこんなに苦しいなんて。慣れない過食で、胃腸の辺りが悲鳴をあげているような気がした。
吃饱的状态竟然这么难受。因为不习惯的暴食,感觉肠胃附近发出了悲鸣。
それなのに、アニャが作ったリンゴの蜂蜜漬けをペロリと食べてしまった。
尽管如此,我还是一口吃掉了阿尼亚做的苹果蜂蜜泡饭。
「リンゴは、胃腸の調子を整えてくれるの。蜂蜜は言わずもがな、疲労回復や、美肌効果もあるのよ。しっかり食べておけば、顔の腫れもよくなるから」
“苹果能调整肠胃的状态。蜂蜜自不必说,还有恢复疲劳、美肌的效果。好好吃的话,脸上的肿胀也会变好。”
「なるほど」
“原来如此。”
今、もっとも必要な食後の甘味だったらしい。しばらくしたら、元気になると。
现在,好像是最需要的饭后甜味。过了一会儿,你会好起来的。
「それまで、ゆっくりしましょう」
“在那之前,慢慢来吧。”
みんなで、太陽の光をさんさんと浴びながら、ぼんやりする時間を過ごす。
大家一边沐浴着阳光,一边度过发呆的时光。
なんて贅沢な時間の使い方なのか。
多么奢侈的时间使用方法啊。
「いつも、昼食は外で食べているの?」
“你平时都在外面吃午饭吗?”
「ええ、今はだいたい外ね」
“是的,现在大概在外面。”
「どうして?」
“为什么?”
「太陽の光を浴びると、長生きすると言われているからよ。ねえ、お父様?」
“因为据说沐浴在阳光下会长寿。喂,爸爸?”
マクシミリニャンは深々と頷く。
马克西米利尼亚深深地点头。
「太陽の光の浴びすぎは注意だけれど。昼食を食べてゆっくりするくらいならば、問題ないわ」
“注意不要被太阳晒得太多。吃午饭慢慢吃的话,没问题。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
「さすがに、真夏のジリジリとした太陽は浴びないけれど。こういうのは、嫌い?」
“真不愧是盛夏的阳光不照射,你讨厌这样吗?”
「大好き」
“非常喜欢”
「でしょう?」
“是吧?”
お腹がいっぱいだからか、なんだか眠くなる。
也许是因为肚子饱了,总觉得困。
マクシミリニャンが膝をぽんぽん叩きつつ、眠くなったら枕にしてもいいと言ってくれたが、丁重にお断りをした。
马克西米利尼亚一边拍着膝盖,一边说困了可以做枕头,但是郑重地拒绝了。
◇◇◇
◇◇◇
昼からは、マクシミリニャンについて行って、山での仕事を手伝う。
从中午开始,跟着马克西米利尼亚去帮忙在山上工作。
「薪に使う木を、回収に行く」
“我去回收柴火用的树。”
「了解」
“确定”
冬の間に木を伐り、その場に放置して春まで乾燥させるらしい。
据说在冬天砍伐树木,放置在那里干燥到春天。
現場に到着すると、見事に大きな木が倒れていた。
到达现场后,漂亮地倒着一棵大树。
「これを、一人で運ぶつもりだったの?」
“你打算一个人搬这个吗?”
「ふむ、そうだな。縄で縛れば、運べないこともない」
“嗯,是啊。用绳子绑起来的话,也不是搬不动。”
「ええー……」
“嗯……”
大人五人がかりでも、苦労しそうな大木に見えるが。山の男は、とんでもなく力持ちなのかもしれない。
即使是5个大人,看起来也很辛苦的大树。山上的男人,也许是一个非常有力气的人。
「これを、今から川に運ぶ」
“现在把这个运到河里。”
「川!?」
“河!?”
「ああ。川に一ヶ月ほど浸けて、樹液を洗い流すのだ。そうすると、乾燥させる期間が短くて済む」
“啊。在河里浸泡一个月,冲洗树液。这样干燥的时间就缩短了。”
「そうなんだ」
“是啊。”
暖炉で使う薪は、約二年間乾燥させる。川で樹液を洗い流すと、それよりも短い期間で乾燥するらしい。
在壁炉里使用的柴火大约干燥两年。在河里冲洗树液的话,好像会在更短的时间内干燥。
山暮らしの知識に、舌をまいてしまった。
对于山上生活的知识,真是感慨万千。

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033.md

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養蜂家の青年は、薪を作る
养蜂青年做柴火
二人がかりで、川まで大木を運ぶ。と言うよりは、緩やかな斜面を転がすと表現したほうが正しいのか。
两个人把大树运到河里。与其说是这样,不如说是在缓慢的斜坡上滚动才是正确的吗。
大木は俺たちを置いて、どんどん下っていく。そのまま川に落とすのかと思いきや、せき止めるように川縁に経つ木の前で止まっていた。
大树丢下我们,不断往下走。原以为会就这样掉到河里,没想到在河边的树前停了下来。
マクシミリニャンは川辺の木杭に結んである紐をたぐり寄せる。川から上げられたのは、紐が巻かれたくさびを打ち込んだ、丸太である。それは赤子ほどの大きさだった。さすがに、そのまま川に沈めるということはしないようだ。
马克西米利尼亚把系在河边木桩上的绳子拉过来。从河里抬起来的是把缠着绳子的楔子打进的原木。它有婴儿那么大。真不愧是,好像不会就这样沉入河里。
同じような紐がいくつかあった。すべて、川に樹液を洗い流す目的で沈めた丸太なのだろう。
有几个一样的绳子。全部都是为了在河里冲洗树液而沉没的原木吧。
「ここにある紐、全部引き上げるの?」
“这里的绳子,全部拉上来吗?”
「ああ、そうだ」
“啊,对了。”
マクシミリニャンと二人がかりで、川に沈めた丸太をどんどん引き上げていく。
和马克西米利尼亚两个人一起,把沉入河里的原木不断地拉上来。
赤子ほどの丸太は十個くらいあった。
像婴儿一样的原木有十个左右。
今度は先ほど運んできた大木を、川に沈めるらしい。
这次好像把刚才运来的大树沉入河里。
マクシミリニャンはのこぎりを手に取り、まるでパンをカットするかのごとくサクサクと大木を切り分ける。
马克西米利尼拿着锯,就像切面包一样,松脆地切开大树。
「その木、堅い?」
“那棵树硬吗?”
「そこまで堅くはない」
“没有那么硬。”
トネリコという、弓や槍など、武器に使われる木材らしい。煙が少なく、火力が強いことから、真冬の薪として重宝しているようだ。
据说是被称为托内利科的弓和枪等武器使用的木材。因为烟少,火力强,所以作为隆冬的柴火很方便。
「イヴァン殿も、やってみるか?」
“伊凡大人也要试试吗?”
「うん」
“嗯。”
足で木を踏んで固定させ、のこぎりの歯を当てる。
用脚踩着木头固定,用锯齿抵住。
実家では、よく養蜂箱作りをしていた。のこぎりの扱いは慣れている。
在老家经常做养蜂箱。我习惯用锯。
このトネリコの木は、よほどやわらかいのか。信じられないくらい、切りやすそうに見えた。
这棵树相当柔软吗。看起来很容易剪到难以置信的程度。
だが――。
但是——。
「うぐっ!!」
“哇!!”
トネリコの木は、マクシミリニャンがしていたようにサクサク切れない。全力でのこぎりを押しては引きを繰り返したのちに、やっと切れた。
托涅里科的树不能像马克西米利尼亚做的那样松脆。全力推着锯反复拉,终于断了。
トネリコの木がやわらかいわけではなく、マクシミリニャンの筋力がとんでもないのだ。 同じように切れると思った十分前の自分を、叱り飛ばしたい気分になる。
托涅里科的树并不是柔软的,麦克西米利尼亚的肌力是意想不到的。想斥责同样认为断的十分前的自己的心情。
「しだいに、慣れる」
“渐渐习惯了。”
本当にそうなのだろうか? 怪しく思ってしまった。
真的是这样吗?我觉得很奇怪。
切り分けた丸太に紐を結んだくさびを打ち込み、川へ沈める。流されないよう、木杭に結んだらしばらく放置して樹液を洗い流すのだ。
在切开的原木上打上系着绳子的楔子,沉入河中。为了不被冲走,系在木桩上后放置一段时间,冲洗树液。
先ほど川から上げた丸太は、切り分けてから運ぶらしい。マクシミリニャンは丸太から薪を作る方法を教えてくれる。
刚才从河里举起的原木,好像是切开后再搬运。马克西米利尼亚会教你如何用圆木做柴火。
「まず、この丸太の切り口に打ち込んだくさびを、石のハンマーで叩くのだ。さすれば、丸太が割れる」
“首先,用石头锤子敲打打进原木切口的楔子。这样的话,原木就会裂开。”
マクシミリニャンがハンマーでトントントンと叩くと、丸太に裂け目ができた。今度は、くさびを表面の裂け目に差し込み、ハンマーで叩いていく。くさびを使って裂け目をどんどん広げていくと、丸太は真っ二つに割れるのだ。
马克西米利尼亚用锤子咚咚地敲了一下,圆木上出现了裂缝。这次,把楔子插入表面的裂缝,用锤子敲。如果用楔子不断地扩大裂缝,原木就会裂成两半。
実に簡単にやってくれたが、初めてやる俺にとっては重労働であった。汗だくになった末に、なんとか丸太を割ることに成功した。
其实做得很简单,但对第一次做的我来说是重劳动。汗流浃背地,总算把原木打碎了。
もちろん、これで終わりではない。真っ二つにした木を、おのと木づちを使って四分割から八分割ほどに割るのだ。
当然,这不是结束。把切成两半的树,用斧头和木槌从四分割分成八分割。
「へー、木づちを使うんだ」
“啊,用木槌。”
「おのだけならば、腕が疲れてしまうからな」
“如果只是自己的话,胳膊会累的。”
マクシミリニャンは木の切り口におのを当て、柄を木づちで叩く。
马克西米利尼亚用斧头抵住树的切口,用锤子敲柄。
一発で、木を真っ二つにした。
一枪,把树劈成两半。
「この通り」
“就是这样。”
「おお」
“哦。”
薪割りも実家でやっていた。だが、木づちを使う方法は初めてである。
劈柴也是在老家做的。但是,使用木锤的方法还是第一次。
マクシミリニャンがやっていたようにおのの刃を木に当てて、柄を木づちで叩いた。
就像马克西米利尼亚做的那样,把斧头放在树上,用锤子敲了一下花纹。
すると、そこまで力を入れずとも、木が切れていく。あっという間に、パッカリと二つに分かれた。
于是,即使不用力,树也会断。一眨眼就分成了两个。
「これ、すごい。やりやすい!」
“这个很厉害,很容易做!”
「だろう?」
“是吧?”
これまで、薪割りは重労働であった。しかしこのやり方であれば、それほど体力を消費せずにできただろう。
到目前为止,劈柴是一项繁重的劳动。但是如果是这样的话,就不会消耗那么多体力了吧。
簡単に割れるのが面白くて、どんどん薪を作っていく。
简单地裂开很有趣,不断地做柴火。
その様子を、マクシミリニャンが涙目で見ているのに気づいてギョッとした。
我注意到马克西米莉娜用眼泪看着那个样子,吓了一跳。
「え、何? どうしたの?」
“啊,什么?怎么了?”
「いや、娘婿に、こうして技術を継承できることに対し、感激を覚えてしまい……」
“不,对女婿能这样继承技术,我感到很感激……”
「いや、まだ結婚していないから」
“不,我还没结婚。”
話しているうちに、マクシミリニャンはだーっと涙が零れ始めた。
说着说着,马克西米莉娜开始流眼泪了。
マクシミリニャンといい、アニャといい、涙もろい親子である。
无论是马克西米莉娜还是阿尼亚,都是脆弱的亲子。
ハンカチを差し出したら涙を拭い、鼻までかんで返してくれた。戻ったら、洗わなければならないだろう。
拿出手帕擦干眼泪,擤鼻涕还给了我。回来的话,必须要洗吧。
背負子に薪を積み、下ってきた坂を上がっていく。これが、地味に辛い。
背上堆着柴火,爬上了下来的坡。这个很朴素很辛苦。
「明日はきっと、筋肉痛かも」
“明天一定会肌肉痛。”
「それも、じきに慣れる」
“那也很快就习惯了。”
慣れたころには、マクシミリニャンのように筋骨隆々になっているのか。
习惯了的时候,像马克西米利尼亚一样筋骨隆起吗。
それも悪くはないけれど、俺の貧相な顔つきに筋肉は似合いそうにないなと思ってしまった。
虽然这也不坏,但我觉得肌肉不适合我贫穷的表情。

489
034.md

@ -0,0 +1,489 @@
養蜂家の青年は、おやつの時間を堪能する
养蜂家的青年,享受零食的时间
薪を背負い、家まで戻る。
背着柴火回家。
汗を掻いたからか、傷口が痛痒い。湧き水で顔を洗う。
也许是因为出汗了,伤口很痛很痒。用泉水洗脸。
清涼な水が、汗と汚れをきれいにしてくれた。
清凉的水把汗水和污渍都清理干净了。
すっきりして気が緩んだのだろう。うっかり布でガシガシ顔を拭いて絶叫してしまった。
心情舒畅而放松了吧。不小心用布擦了擦脸,尖叫了起来。
家からアニャが出てきて、地面に膝をつく俺の顔を覗き込む。
阿尼亚从家里出来,窥视着跪在地上的我的脸。
「ちょっと、何事なの?」
“喂,这是怎么回事?”
「思いっきり、布で顔を拭いてしまった」
“狠狠地用布擦了擦脸。”
「せっかく治りかけているのに、どうしてそんなことをするのよ」
“好不容易治好了,为什么要做那样的事呢?”
アニャに腕を握られ、家の中に連行されてしまう。再び、蜂蜜を直接顔に塗られてしまった。
被阿尼亚握住手臂,被带到家里。再次把蜂蜜直接涂在脸上。
「傷は刺激させないで。濡れたときは、自然乾燥させるのよ」
“不要刺激伤口。湿了的时候,要自然干燥。”
「はい」
“是的。”
治療が終わったようなので外に行こうとしたら、アニャに首根っこを掴まれた。
因为治疗好像结束了,所以想去外面的时候,被阿尼亚抓住了脖子。
「そろそろ休憩にしましょう。今日はお菓子を作ったから」
“差不多该休息了,今天做了点心。”
「わかった。マクシミリニャンのおじさんを呼んでくる」
“好的,我去叫马克西米莉娜的叔叔。”
「お願いね」
“拜托了。”
マクシミリニャンは屋根で覆っただけの薪小屋の前にいて、黙々と取ってきた木を積んでいた。
马克西米利尼亚在一个只被屋顶覆盖的柴棚前,默默地堆着取来的树。
よくよく見たら、薪と薪の間に木の枝のように細かくカットした角材を挟んでいる。
仔细一看,柴火和柴火之间夹着像树枝一样切细的角材。
「ああ、そうすれば、乾くのが早いんだ」
“啊,这样的话,干得快。”
マクシミリニャンはくるりと振り返り、コクリと頷いた。
马克西米利尼亚转头一看,点了点头。
「こうすれば、薪と薪の間に風が通り、乾きやすくなるのだ」
“这样一来,柴火和柴火之间就会通风,容易干燥。”
「俺、何も考えずに、薪だけをどんどん積んでいた」
“我什么都没想,只把柴火堆得满满的。”
これまで取ってきた薪も、同じように角材を挟んである。
至今为止拿来的柴火也同样夹着角材。
「薪の乾燥は、何よりも大事だからな」
“柴火的干燥比什么都重要。”
きちんと乾燥していないと、火保ちが悪くなる。弱い火のまま薪を消費し、どんどん追加しなければならない事態になるのだろう。
如果不好好干燥的话,保火就会变差。在弱火的情况下消耗柴火,会变成必须不断追加的事态吧。
「地上よりも、ここの冬は冷える。少しでも、薪が長保ちするよう、工夫をせねばならないのだ」
“比起地上,这里的冬天更冷。为了尽可能地保持柴火的长度,必须下功夫。”
「なるほどな」
“原来如此。”
薪小屋の全体を見ると、芸術的なまでに積み上がっていた。
从柴棚的整体来看,已经堆到了艺术性的程度。
最低でも二年以上乾燥が必要だというので、大変だ。
至少需要两年以上的干燥,所以很辛苦。
「飾り棚(キャビネット)を自作するときは、二年どころではないぞ。八年以上もしっかり乾かしてから、作っている」
“自制装饰架(橱柜)的时候,根本谈不上两年的时间,都是在晾干八年以上之后才做的。”
「八年も!?」
“八年了!?”
「木材に水分が含んでいると、歪みの原因になる。そのため、何年も乾かす必要があるのだ」
「如果木材中含有水分,就会造成变形,因此必须要晾干好几年。」
「そうなんだ」
“是啊。”
門や柵、ちょっとした小屋を作る場合は、そこまで乾燥させなくてもいいようだ。
在建造门、栅栏、小屋的时候,好像不用干燥到那种程度。
精巧な品を作るときのみ、数年にわたっての乾燥が必要になると。
只有在制作精巧的产品时,才需要经过数年的干燥。
角材を並べ、その上に薪を置く。きれいに並べると、見目もいい。その辺を気にしつつ、どんどん積んでいった。
摆上角材,在上面放上柴火。摆得漂亮,眼光也很好。我一边在意那一带,一边不断地堆积起来。
最後の薪を積んだ瞬間、アニャの声が聞こえた。
在最后堆柴火的瞬间,我听到了阿尼亚的声音。
「ちょっとイヴァン!! お父様を呼びに行くって、どこまで行っているのよ!!」
“喂,伊凡!!你要去叫你父亲,你到哪里去了!!”
「あ、ごめん」
“啊,对不起。”
姿は見えない。きっと、窓から外を覗き込んで叫んでいるのだろう。すばらしい声量だ。
看不见身影。一定是从窗户窥视外面喊着吧。好大的声量。
今はおやつの時間で、マクシミリニャンを呼びに行く目的で外に出たのをすっかり忘れていた。
现在是吃零食的时间,我完全忘了我是为了去叫马克西米利尼亚而出去的。
マクシミリニャンと共に小走りで家まで戻った。
和马克西米利尼一起小跑回家了。
アニャは機嫌を悪くしているのではと思ったが、笑顔で迎えてくれる。
我以为阿尼亚不高兴,但他会笑着迎接我。
怒っていないようなので、ホッとした。
我好像没有生气,所以松了一口气。
手を洗ったあと、席に着く。
洗完手后就座。
家の中は、ふんわりと甘い香りで包まれていた。いったい、何を作ってくれたのか。
家里弥漫着淡淡的甜香。到底给我做了什么。
マクシミリニャンが真面目な顔で、アニャに問いかける。
马克西米利尼亚一脸认真地问阿尼亚。
「アニャよ、何を作ったのだ?」
“阿尼亚,你做了什么?”
「蜂蜜の蒸しケーキよ。たくさん食べてね」
“蜂蜜蒸蛋糕,多吃点。”
「ありがとう」
“谢谢。”
アニャは蒸しケーキを切り分け、拳より大きな塊を皿に置いてくれた。
阿尼亚把蒸蛋糕切开,把比拳头还大的块放在盘子里。
そのまま食べるのではなく、さらに蜂蜜をかけるらしい。
不是直接吃,而是再浇蜂蜜。
「あれ、蜂蜜かと思ったけれど、違う?」
“咦,我还以为是蜂蜜呢,不是吗?”
「これはケーキシロップよ」
“这是蛋糕糖浆。”
砂糖と蜂蜜、ナッツパウダー、メープルシロップにウォッカを効かせて煮詰めたものらしい。
据说是在砂糖、蜂蜜、坚果粉、枫糖浆中加入伏特加煮成的。
甘い菓子に蜂蜜をかけると甘ったるくなるので、作ったものだとか。
在甜点心上浇蜂蜜的话会变得甜,所以是做的。
いったい、どんな味がするのか。楽しみだ。
到底有什么味道呢。我很期待。
アニャはケーキシロップを匙で掬って、たらーりとたっぷり垂らしてくれた。
阿尼亚用勺子舀起蛋糕糖浆,滴了很多。
テーブルにはナイフとフォークは置いていない。
桌子上没有刀叉。
ちらりと、マクシミリニャンを見てみる。
我看了一眼马克西米利尼亚。
ケーキシロップでひたひたになるほどの蒸しケーキをがしっと掴み、豪快にかぶりついていた。膝に広げたナプキンにケーキシロップが垂れるが、気にしている様子はない。
紧紧地抓住用蛋糕糖浆泡在一起的蒸蛋糕,豪爽地盖上了。摊开在膝盖上的餐巾上滴着蛋糕糖浆,但没有在意的样子。
その後、砂糖や蜂蜜を入れていない野草茶をごくごく飲んでいた。
之后,他喝了很多没有加糖和蜂蜜的野草茶。
マクシミリニャンは一人、コクコクと頷いている。おいしかったのだろう。
马克西米利尼亚独自点头。很好吃吧。
手掴みで食べるのがマナーのようなので、彼に倣って食べる。
用手抓着吃好像是礼仪,所以模仿他吃。
蒸しケーキはふわっふわで、力を少し入れただけで崩壊してしまいそうだ。
蒸制的蛋糕软软的,稍微用力一点就要崩溃了。
優しく掴み、ケーキシロップを垂れるのを気にせず頬張った。
温柔地抓住,不介意滴下蛋糕糖浆,大口大口地吃。
「んん!!」
“嗯!!”
蒸しケーキは夢みたいにふかふかで、しっとりしている。ケーキシロップの香ばしいような甘さが、蒸しケーキを優しく包み込む。
蒸蛋糕像做梦一样松软,湿润。蛋糕糖浆的香甜,温柔地包裹着蒸蛋糕。
「おいしい!!」
“好吃!!”
そう言うと、アニャは笑顔で「よかった」と返した。
这样说着,阿尼亚笑着回答说:“太好了。”。
穏やかな昼下がりを、アニャやマクシミリニャンと共にのんびり過ごした。
平静的午后,和阿尼亚和马克西米利尼一起悠闲地度过了。

423
035.md

@ -0,0 +1,423 @@
養蜂家の青年は、山羊の乳搾りを手伝う
养蜂青年帮助山羊挤奶
おやつの時間が終わると、今度はアニャの作業を手伝うこととなった。
零食的时间一结束,这次就要帮助阿尼亚工作了。
「山羊のお乳の様子を調べたいから、ついてきて」
“我想调查山羊奶的情况,跟我来。”
「了解」
“确定”
子育てのシーズンに、母山羊が病気になることがあるという。
据说在养育孩子的季节,母山羊有时会生病。
乳から細菌が入り、異変が起こるものらしい。
从乳中加入细菌,好像会发生异变。
病気に罹った母山羊のミルクを、子山羊が飲んだら大変なことになる。
如果小山羊喝了生病的母山羊的牛奶,那就麻烦了。
「たいてい、乳の張り具合でわかるのだけれど、たまに見た目だけではわからない子がいるから、ミルクを搾って確認するの」
“一般都是从牛奶的张力来判断的,但偶尔也有只看外表不知道的孩子,所以要挤牛奶来确认。”
「そうなんだ」
“是啊。”
放牧しているのは、子育てしていない山羊だけらしい。子山羊は他の獣の標的にされてしまうからだという。
放牧的好像只有没有养育孩子的山羊。据说这是因为小山羊会被当作其他野兽的目标。
母山羊と子山羊の運動不足は、昼間に軽く野山を歩かせて散歩をして解消しているようだ。
母山羊和子山羊的运动不足,似乎是在白天轻松地在山野中散步来消除的。
「イヴァンは山羊の乳搾りってしたことある?」
“伊凡做过山羊挤奶吗?”
「いや、ない。爪切りの手伝いや、小屋掃除はあるけれど」
“不,没有。虽然有帮忙剪指甲和打扫小屋的工作。”
近所の畜産農家に手伝いに行っていた話をする。
向附近的畜牧农家说去帮忙的话。
「山羊に蹴られて、服が破れた日もあった」
“也有被山羊踢破衣服的日子。”
「まあ、大変だったのね」
“哎呀,太辛苦了。”
アニャは言う。人間にも気性の荒い者が時折いるように、山羊にも性格が荒い者がいると。
阿尼亚说。正如人类偶尔也有脾气暴躁的人一样,山羊也有性格暴躁的人。
「みんながみんな、そういうワケではないから、山羊を嫌いにならないでね」
“大家都不是这样的理由,所以不要讨厌山羊。”
「うん、わかった」
“嗯,知道了。”
まず、小屋に到着すると、子山羊を押さえているようにと命じられる。
首先,到达小屋后,被命令按住小山羊。
子山羊はぴったりと母山羊について回るので、邪魔になるようだ。
小山羊紧紧地跟着母山羊转,好像很碍事。
アニャは慣れた手つきで母山羊の首に縄を結び、引っ張って小屋の外に連れて行く。
阿尼亚用习惯了的手势在母山羊的脖子上系上绳子,拉着带到小屋外面。
子山羊がめーめー鳴くので、なんだか悪いことをしている気分になった。
因为小山羊吱吱叫,总觉得做了坏事。
小屋の外に、乳搾りを行う柵がある。山羊一頭がすっぽり収まるようなシンプルな柵だ。 柵に縄を縛ったあと、アニャは石鹸で手を洗う。
小屋外面有进行挤奶的栅栏。这是一条能完全容纳一只山羊的简单栅栏。把绳子绑在栅栏上后,阿尼亚用肥皂洗手。
「ここでしっかり洗っておかないと、山羊の乳房に細菌が入ってしまうの。人間の介入で山羊が病気になってしまうのは、あってはならないことよ」
“如果不在这里好好洗的话,山羊的乳房里会有细菌。因为人类的介入,山羊生病是不应该有的。”
続いて、湯がいて煮沸消毒させた布を温かいまま絞ったもので乳や乳房を拭くらしい。
接着,将热水煮沸消毒后的布在温暖的状态下拧干,擦拭乳和乳房。
アニャが平然とした表情で布を絞っていたので、同じように触れたらあまりの熱さに悲鳴をあげてしまった。
阿尼亚表情坦然地拧着布,同样碰了一下,因为太热而尖叫起来。
「熱(あっつ)い! アニャ、よくこれを絞れるね」
“好烫!阿尼亚,你经常拧这个。”
「慣れよ」
“习惯了。”
マクシミリニャンと同じことを言うので、笑ってしまった。
因为说了和马克西米莉娜一样的话,所以笑了。
指摘すると、アニャは「お父様が真似をしたのよ」と言葉を返してくる。
一指出,阿尼亚就回答说:“是爸爸模仿的。”。
山羊の乳を消毒させたあと、やっと乳搾りに移る。
山羊奶消毒后,才开始挤奶。
乳を手のひらで優しく包み込むように、人差し指から順番に握っていくらしい。すると、山羊のミルクが出てくる。
就像用手掌温柔地包住奶一样,从食指开始依次握住。于是,山羊的牛奶就出来了。
「うん。この子は、問題ないようね」
“嗯,这孩子好像没问题。”
乳房の確認は毎日行うという。ミルクについては、週に一度らしい。
据说每天都要确认乳房。关于牛奶,好像一周一次。
子を持つ母山羊全頭の乳搾りを行った結果、けっこうな量のミルクが採れた。
对所有有孩子的母山羊进行了挤奶,结果收获了相当多的牛奶。
「病気になっている場合は、ミルク自体も臭くなるの。どう?」
“生病的时候,牛奶本身也会变臭。怎么样?”
差し出された山羊のミルクは、ほんのりと甘い匂いを漂わせていた。
送来的山羊牛奶,散发着淡淡的甜味。
「いい匂い」
“好香。”
「でしょう? イヴァンは、山羊のミルクは好き?」
“对吧?伊凡喜欢山羊牛奶吗?”
「うーん。臭みがあって、苦手かも」
“嗯。有臭味,可能不擅长。”
普段、クセのない牛乳ばかり飲んでいたので、ついつい比べてしまうのだろう。
平时只喝没有癖好的牛奶,不知不觉就比较了吧。
アニャには言えないが、最初に山羊のミルクを飲んだとき、あまりの獣臭さに吐き出してしまった記憶が残っている。
虽然不能对阿尼亚说,但我记得第一次喝山羊牛奶的时候,因为太过野兽味而吐出来的记忆。
二度と口にしないと思っていたが、空腹がその決意を薄れさせてくれたのだ。
我以为再也不会说了,但是饥饿让我的决心变淡了。
分けて貰った山羊のミルクを飲んでいるうちに、獣臭さは慣れてしまった。かといって、好んで飲むわけではない。生きるために、俺は山羊のミルクを飲んでいたのだ。
喝着分给我的山羊牛奶,就习惯了兽臭。虽说如此,但并不是喜欢喝。为了生存,我喝了山羊的牛奶。
「ここの山羊のミルクは、そこまで臭くないわ。クセについては、否定できないけれど」
“这里的山羊牛奶没有那么臭。关于癖好,我不能否定。”
「臭いは、何か特別な処理とかしているの?」
“臭味有什么特别的处理吗?”
「特別というか、ミルクはすぐに山羊や小屋から離して、加工するようにしているわね。山羊のミルクは、周囲の臭いを吸収してしまうの。臭いミルクは、小屋の近くに放置する時間が長かったものじゃないの?」
“要说特别的话,牛奶会马上离开山羊和小屋进行加工。山羊的牛奶会吸收周围的臭味。臭牛奶在小屋附近放置的时间不是很长吗?”
「あー、なるほど」
“啊,原来如此。”
たしかに、知り合いの畜産農家のミルクは、朝搾ったミルクを、昼間に殺菌処理するとかなんとか話していたような。その間に、山羊の体臭などを吸収していたのかもしれない。
确实,认识的畜牧农家的牛奶,好像在说早上榨的牛奶,白天杀菌处理之类的话。在这期间,可能吸收了山羊的体臭等。
山羊のミルクを、台所へと運ぶ。
把山羊的牛奶送到厨房。
まずは、搾りたてのミルクを殺菌するらしい。大鍋に湯を沸かし、湯に三十分ほどミルクを注いだ鍋を浸けるのだという。
首先,好像要把刚挤出来的牛奶杀菌。据说是在大锅里烧水,在热水里泡30分钟左右的牛奶锅。
殺菌処理が完了したら、カップに注いだ山羊のミルクが差し出された。
杀菌处理完成后,倒在杯子里的山羊牛奶被递了出来。
これまで飲んだこともないような、新鮮なミルクである。どきどきしながら、カップに口を付けた。
这是一种从来没有喝过的新鲜牛奶。忐忑不安地把嘴贴在杯子上。
「え、嘘。すごくおいしい」
“啊,骗人的。非常好吃。”
もう一度飲んでみる。獣臭さはないし、あっさりしていて優しい甘さが口の中に広がった。
再喝一次试试。没有野兽味,清淡而温柔的甜味在口中蔓延开来。
「知らなかった。山羊のミルクがこんなにおいしいなんて」
“我不知道,山羊奶竟然这么好喝。”
「でしょう?」
“是吧?”
アニャは自慢げに、にっこり微笑む。
阿尼亚骄傲地微笑着。
これらの山羊のミルクは、一晩置いてチーズやバターに加工するらしい。
这些山羊的牛奶好像要放一晚上加工成奶酪和黄油。
山暮らしに欠かせない、栄養満点の乳製品を作るという。
据说是制作山生活中不可缺少的营养满分的乳制品。

519
036.md

@ -0,0 +1,519 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とチーズを作る
养蜂青年和蜜药师的女儿一起做奶酪
翌朝、アニャは朝から俺が寝泊まりしている離れの扉を叩く。
第二天早上,阿尼亚从早上开始敲我住的远离的门。
「イヴァン、起きて! 蕎麦の芽を、見に行きましょう」
“伊凡,起来!我们去看看荞麦的芽吧。”
大変可愛らしいお誘いだが、起きてすぐ活動できるわけではない。
虽然是非常可爱的邀请,但是起床后并不是马上就能活动。
顔を出さずに、返事をする。
不露面,回答。
「アニャ、十五分くらい待って」
“阿尼亚,等十五分钟。”
「なんで身支度にそんなにかかるのよ」
“为什嚒要花那嚒多时间打扮?”
「いや、いろいろあるし」
“不,有很多。”
「いろいろって?」
“各种各样?”
「……」
「……」
一瞬黙ってしまったが、別にアニャに本当の事情を説明する必要はない。てきとうに、顔を洗ったり、歯を磨いたり、髭を剃ったりするんだよと伝えておく。
虽然一瞬间沉默了,但没有必要向阿尼亚说明真正的情况。事先告诉他要洗脸、刷牙、刮胡子。
「そんなの、気にしなくてもいいのに」
“你不用在意。”
「最低限の礼儀だから」
“因为是最低限度的礼仪。”
なんとか説き伏せ、アニャにはしばし待ってもらう。
想办法说服,让阿尼亚等一会儿。
服を着替え、昨日、アニャが洗って乾かしてくれた服に袖を通した。ふんわりと、かぐわしい花の香りがする。何か、特別な石鹸で洗ったのだろうか。いい匂いだ。
换了衣服,昨天把袖子穿过了阿尼亚洗干的衣服。散发着柔和、芬芳的花香。是用什么特别的肥皂洗的吗。好香。
外に出たら、アニャが手を腰に当てた状態で待ち構えていた。
一出门,阿尼亚就把手放在腰上等着。
「うわっ!」
“哇!”
「なんでそんなに驚くのよ」
“你为什嚒这嚒惊讶?”
「ごめん。まさか、外で待っているとは思わなくて。他のことでもして、待っていてもいいよ。ひげ剃りも歯磨きも、まだだから」
“对不起,我不认为你会在外面等我。你可以做其他的事,等着。刮胡子和刷牙都还没好。”
「もう、仕事は終わったわ」
“工作已经结束了。”
なんでもアニャは、早起きして朝の仕事は済ませてしまったらしい。
不管怎么说,阿尼亚好像早起完成了早上的工作。
「なんでまた、早起きしてまで働いていたの?」
“为什么又早起工作了?”
「イヴァンと蕎麦の芽を見に行くのを、楽しみにしていたの。少しでも早く、確認に行きたくて」
“我很期待和伊凡一起去看荞麦面的芽。我想尽快去确认。”
一人でも確認できるのに、あえて俺と一緒に見たいのだという。なんていじらしいことを言ってくれるのか。
虽然一个人也能确认,但还是想和我一起看。你说的多嚒刁钻。
頭をぐりぐり撫でたくなるが、アニャは見た目が幼いだけで立派な成人女性である。そうでなくても、女性に気軽に触れてはいけない。
虽然想摸摸脑袋,但是阿尼亚只是外表年幼,是个优秀的成年女性。即使不是,也不能随便接触女性。
俺は、ロマナとの一件で大いに学んだ。
我在和罗曼娜的一件事上学到了很多。
「じゃあ、もうちょっと待って」
“那嚒,再等一下。”
「ええ」
“是的。”
急いで顔を洗い、髭を剃って歯を磨いた。
赶紧洗脸,刮胡子刷牙。
顔の腫れは、昨日よりだいぶいい。あと、三、四日もすれば完治するだろう。
脸上的肿比昨天好多了。再过三四天就能痊愈了吧。
蜜薬師である、アニャのおかげだ。
多亏了蜜药师阿尼亚。
「お待たせ」
“让您久等了。”
「ええ、行きましょう」
“嗯,我们走吧。”
昨日、蕎麦の種を植えた畑を目指した。
昨天,以种植荞麦种子的田地为目标。
まあ、当然ながら、昨日の今日なので、芽なんて出ていない。
当然,因为是昨天的今天,所以没有发芽。
アニャは姿勢を低くし、目を凝らしていたが、発見には至らなかったようだ。
阿尼亚低着姿势,目不转睛地盯着,但似乎没有发现。
「蕎麦の芽は、早くても四日から五日くらいだし、まだ早いよ」
“荞麦的芽最早也要四到五天左右,还早呢。”
運がよければ、三日目の朝に生えているかもしれない。
如果运气好的话,可能长在第三天早上。
アニャはしゃがみ込んだまま、しょんぼりしているように見えた。
阿尼亚蹲着,看上去无精打采的。
なんとなく、間違っているかもしれないけれど、アニャは蕎麦の芽が出てほしいと望んでいるように見える。
总觉得可能错了,但是阿尼亚看起来希望荞麦面发芽。
親子の穏やかでのんびりとした生活は、俺の性格にも合っているような気がした。
父母和孩子平静悠闲的生活,感觉也适合我的性格。
かと言って、芽が出なかったら、ここに置いてくれと懇願するつもりはない。
话虽如此,如果没有发芽的话,我不打算恳求你把它放在这里。
運命は、蕎麦の芽に託してある。もしも出なかったら、ここに相応しい人間ではなかったという天の思し召しなのだろう。
命运寄托在荞麦的萌芽上。如果没有出现的话,是上天认为他不是适合这里的人吧。
「アニャ、戻ろう」
“阿尼亚,我们回去吧。”
「ええ」
“是的。”
個人的な感情は頭の隅に追いやって、働かなければ。
个人的感情要逼到脑子的角落,不工作的话。
二日目の滞在が、始まる。
第二天的停留开始了。
今日は昨日搾った山羊のミルクを、加工するらしい。
今天好像要加工昨天榨的山羊牛奶。
山羊のミルクは一晩おくと、分離する。表面に浮かんでいるものを、“クリーム”と呼んでいるらしい。このクリームを穴あき柄杓(スキーマー)で掬い、鍋に注ぎ入れる。
山羊的牛奶隔一晚就会分离。表面浮着的东西,好像被称为“奶油”。用打孔舀子舀起这个奶油,倒入锅里。
「これから、山羊のチーズを作るわ」
“接下来,我要做山羊奶酪。”
「了解」
“确定”
まず使うのは、クリームを掬ったミルクらしい。これを、低温で熱する。
首先使用的好像是舀奶油的牛奶。在低温下加热。
「ほんのり温かくなったら、クリームを注ぐの」
“稍微暖和一点的话,就倒入奶油。”
しばらく混ぜたら、ここにさらにミルクを入れる。
混合一段时间后,在这里再加牛奶。
「追加のミルクは、朝に搾った新鮮なものなの。チーズを作るために、さっき搾ってきたわ」
“追加的牛奶是早上榨的新鲜的。为了做奶酪,刚才榨了过来。”
さらに加熱するようだ。温めすぎは注意らしい。
好像还要加热。加热过度好像要注意。
目標の温度になったら凝乳酵素(レンネット)と呼ばれる、子牛の消化液から作った凝固液を冷水で薄めて入れる。
到了目标温度后,将由小牛消化液制成的凝固液用冷水稀释后放入,称为凝乳酶(伦内特)。
これは、麓にある畜産農家から買い付けているようだ。
这好像是从山脚下的畜牧农家购买的。
この状態になったミルクを、きれいに洗った手で混ぜる。
把这种状态的牛奶用洗干净的手搅拌。
「アニャ、それ、熱くないの?」
“阿尼亚,那个不热吗?”
「熱くないわ。人肌よりも、低い温度なの」
“不热,温度比人的皮肤还低。”
「そうなんだ」
“是啊。”
ミルクがもったりしてきたら、柄杓で表面をぎゅ、ぎゅっと押さえつけるのだ。
如果有牛奶的话,用舀子紧紧地按住表面。
このまま一時間放置すると、ミルクは固まった。
就这样放置一个小时,牛奶就凝固了。
ナイフで四角くカットし、布を当てた容器へ移す。その際に出た水溶液は乳清(ホエー)といって、栄養価が高いものらしい。スープに入れたり、菓子作りに使ったりするのだとか。
用小刀切成四方形,转移到贴着布的容器里。那个时候流出的水溶液叫做乳清,营养价值很高。放入汤里,或者用来做点心。
ここで、固形となったミルクに塩を加え、チーズクロスに包んで丸形の桶に詰め込む。
在这里,在固体牛奶中加入盐,用芝士布包起来塞进圆形的桶里。
石造りのチーズプレスでしっかり固めるのだ。これがまた、とんでもない力仕事だった。
用石造的奶酪压力机好好地凝固。这又是一件意想不到的力气活。
ハンドルを回してチーズを固める物なのだが、回すのに力がいる。
虽然是转动方向盘凝固奶酪的东西,但是转动起来很有力量。
「イヴァン、頑張れ!」
“伊凡,加油!”
アニャに応援されたら、頑張らないといけない。
如果被阿尼亚支持的话,必须努力。
最後に、塩を表面に塗って、熟成させるようだ。
最后,把盐涂在表面,使之成熟。
「チーズ作りって、大変」
“做芝士很辛苦。”
「そうなのよ。今日は、イヴァンがいて助かったわ。きっと、おいしいチーズになるはずよ」
“是啊。今天有伊凡在,真是帮了大忙。一定会成为美味的奶酪的。”
「そう言ってもらえたら、何より」
“如果你能这么说的话,那比什么都好。”
完成したチーズは、果たして俺の口に入るのだろうか。
完成的奶酪,到底会不会进入我的嘴里呢。
それは、蕎麦の芽のみが知る、というものだろう。
那就是只知道荞麦面的芽吧。

421
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@ -0,0 +1,421 @@
養蜂家の青年は、熟成させた山羊のチーズを食べる
养蜂青年吃熟了的山羊奶酪
アニャは昼食に、山羊のチーズを出してくれた。一週間ほど、熟成させたものらしい。驚くほど真っ白である。
阿尼亚午饭给我端了山羊奶酪。好像是成熟了一周左右的东西。白得惊人。
山羊のチーズもまた、苦手意識があった。けれど、ミルクがあれだけおいしかったので、このチーズもこれまで食べていたものとは違うのだろう。
山羊奶酪也有不擅长的意识。但是,因为牛奶那么好吃,所以这个奶酪也和以前吃的不一样吧。
「ちょっとクセがあるかもしれないから、蜂蜜をかけたほうがいいかも」
“可能有点癖好,最好浇点蜂蜜。”
「チーズに、蜂蜜!?」
“奶酪加蜂蜜!?”
未知なる組み合わせである。果たして、合うのだろうか。
是未知的组合。到底合适吗。
「山羊のチーズは酸味があるから、蜂蜜との相性がいいのよ。食べてみなさい」
“山羊奶酪有酸味,和蜂蜜很搭,你尝尝看。”
アニャは問答無用で、山羊のチーズに蜂蜜を垂らしてくれた。
阿尼亚无需问答,就给山羊奶酪滴上蜂蜜。
そのまま食べるよりも、蜂蜜がかかっているほうが食べやすいかもしれない。
比起直接吃,浇蜂蜜可能更容易吃。
それでも、どきどきしながら食べる。
尽管如此,还是忐忑不安地吃。
「おいしい!」
“好吃!”
酸味はヨーグルトのようなものと表現すればいいのか。あっさりしていて、さわやかな味わいである。
酸味可以用酸奶之类的东西来形容吗。味道清淡,清爽。
「熟成が進んだら、味の濃さも変わってくるのよ」
“随着成熟的发展,味道的浓度也会改变。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
蜂蜜とチーズがこんなにも合うなんて、知らなかった。
我不知道蜂蜜和奶酪这么搭。
あっという間に、ペロリと平らげてしまう。
一眨眼就吃光了。
そのあと、蜂蜜をかけていない山羊のチーズも食べたが、普通においしかった。
之后,我也吃了没有蜂蜜的山羊奶酪,但一般都很好吃。
やはり、山羊のミルクは管理が命なのだろう。
果然,山羊的牛奶管理是生命吧。
◇◇◇
◇◇◇
早春の養蜂家の仕事は、餌は足りているか、女王はきちんといるか、病気が出ていないか、雄蜂が増えすぎていないか――巣箱を巡回して、しっかり確認しなければならない。
早春养蜂人的工作是,食物是否充足,女王是否好好地呆着,是否出现了疾病,雄蜂是否增加过多——必须巡视蜂箱,好好确认。
春の盛り、もっとも蜜蜂が忙しくなる流蜜期に向けて、花蜜を集める蜜蜂のサポートに徹するのだ。
为了迎接春意盎然、蜜蜂最忙的流蜜期,我们将彻底支持收集花蜜的蜜蜂。
「そういえばイヴァン。もうお昼を過ぎたけれど、体や傷の調子はどう?」
“这么说来,伊凡。已经过了中午了,身体和伤口怎么样?”
「筋肉痛以外は、特に痛みはないかな」
“除了肌肉痛以外,没有什么特别的痛吧”
昨日、大角山羊に乗ったからか、尻と腿付近が筋肉痛になっていたのだ。
也许是因为昨天坐了大角山羊,屁股和腿附近肌肉疼痛。
しかしまあ、我慢できないほど痛むわけではない。
但是,并不是痛得受不了。
「筋肉痛以外に、不調はないよ。いつもより、調子がいいくらい」
“除了肌肉痛以外,没有什么不适。比平时状态好。”
「だったらよかったわ」
“那就好了。”
三食まともに食事を食べていたからだろうか。肌の調子はいいし、夜はよく眠れる。活力だって、いつも以上にある気がした。
大概是因为吃了三餐吧。皮肤很好,晚上睡得很好。我觉得活力也比平时更多。
「元気だから」
“我很好。”
「よかったわ」
「太好了。」
本日も、大角山羊に乗って野山を駆け巡るらしい。昨日みたいな崖には登らないというので、ホッと胸をなで下ろす。
今天也乘坐大角山羊在山野中奔跑。因为不能登上像昨天那样的悬崖,所以松了一口气。
アニャと共に、大角山羊に跨がり、次から次へと巣箱を確認していく。
和阿尼亚一起跨上大角山羊,一个接一个地确认巢箱。
この時期は次々と蜜蜂が生まれるので、蜜箱に継箱を重ねておく。
因为这个时期蜜蜂一个接一个地诞生,所以在蜜箱上重叠着继箱。
トチノキに、アカシア、ハナスグリなど、街のほうでは見かけない樹から蜂蜜を作っていた。それだけでなく、ノバラにブラックベリー、リナリアなど、野山に自生する花からも蜜を集めているようだ。
在柏树上,用刺槐、花椰菜等在街上看不到的树制作蜂蜜。不仅如此,从野蔷薇、黑莓、莉娜莉亚等山野野生的花中也收集了蜜。
花を育てて蜜を採る実家の養蜂とは異なり、アニャとマクシミリニャンは山に自生する木々や花から採った蜜で養蜂を営んでいる。
与养花采蜜的老家养蜂不同,阿尼亚和马克西米利尼亚用山上野生的树木和花采的蜜来经营养蜂。
自然との共存で行わなければならないので、苦労は尽きないようだ。
因为必须与自然共存,所以辛苦似乎是无穷无尽的。
「巣箱が獣に荒らされているのはしょっちゅうだし、天敵となる虫も多いの」
“巢箱经常被野兽糟蹋,成为天敌的虫子也很多。”
特に、蜜蜂の天敵となるスズメバチの活動が活発化する夏には、駆除のために数日費やすときもあるという。
特别是在蜜蜂的天敌马蜂活动活跃的夏天,为了驱除蜜蜂有时会花费数日。
「スズメバチはね、捕まえた途端、蜂蜜漬けにしてやるのよ」
“马蜂啊,一抓到就用蜂蜜腌制。”
「え、何それ」
「咦?那是什么?」
「スズメバチの蜂蜜漬け、知らないの?」
“你不知道黄蜂的蜂蜜泡饭吗?”
「初めて聞いたよ」
“我第一次听说。”
なんでも、二年間ほど蜂蜜に漬けると、毒成分が蜂蜜に溶け出すらしい。
不管怎么说,泡两年左右的蜂蜜的话,毒成分好像会溶解在蜂蜜里。
「え、毒が溶け出したら、ダメなんじゃ……?」
「咦,如果毒药溶解出来的话,就不行了吧……?」
「スズメバチの毒は、口から含むと人にとって薬になるのよ」
“马蜂的毒,如果从嘴里含进去的话,对人来说是药。”
「は!?」
“哈!?”
目が点となる。スズメバチに刺されたら、肌はとんでもなく腫れるし、とんでもない痛みに襲われる。スズメバチに襲われて死んだ人だっているくらいだ。
目瞪口呆。如果被马蜂蜇了,皮肤会肿得不得了,还会受到意想不到的疼痛的袭击。甚至有人被马蜂袭击而死。
その毒が、口から含むと薬になるなんて信じられない。
我不相信那种毒药,如果从嘴里含进去就会变成药。
「スズメバチの毒は、胃や腸の中で分解されて、疲労回復、美肌効果に、鎮痛、殺菌解毒作用、利尿作用など、体にいい効果をもたらすわ」
“马蜂的毒,在胃和肠中被分解,对恢复疲劳、美肌效果、镇痛、杀菌解毒作用、利尿作用等,对身体有很好的效果。”
アニャは胸を張って主張しているが、本当なのだろうか。食べた瞬間に、口が腫れてしまいそうだ。
阿尼亚挺起胸膛坚持,是真的吗。吃了的瞬间,嘴快要肿了。
「ちなみに、昼食のときに山羊のチーズにかけた蜂蜜だけれど、スズメバチを漬けていたものだから」
“顺便说一下,午饭的时候撒在山羊奶酪上的蜂蜜,是腌了马蜂的。”
「え!?」
“诶!?”
「あなた、おいしいって言ってパクパクたべていたわよね?」
“你不是说好吃就山寨吃的吗?”
「食べていたけれど……!」
“虽然吃了……!”
まさか、スズメバチ入りの蜂蜜を食べさせられていたとは。
没想到竟然让我吃了加入马蜂的蜂蜜。
コクがあっておいしい蜂蜜だった。
是醇厚又好吃的蜂蜜。
「別に、なんともないでしょう?」
“没什么事吧?”
「それどころか、調子がいいくらい」
“不仅如此,状态也很好。”
スズメバチの毒は、驚くべきことに口から含むと薬と転ずるらしい。
马蜂的毒,令人吃惊的是,如果从口中含有的话,就会变成药。
人体は、いったいどうなっているのか。
人体到底是怎样的呢。
謎が深まるばかりである。
谜团越来越深。

539
038.md

@ -0,0 +1,539 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘と一緒に薬用クリームを作る
养蜂青年和蜜药师的女儿一起制作药用奶油
帰宅後、アニャが俺の顔の傷や腫れを改めて確認したいという。
回家后,阿尼亚说想再次确认我脸上的伤和肿。
アニャはじっと、覗き込んでくる。きれいな顔が接近したので、身を引いてしまった。
阿尼亚一动不动地窥视着。因为漂亮的脸接近了,所以抽身了。
よく見えないから、動くなと怒られる。
因为看不清楚,所以被骂不要动。
見えなければいいのだと思い、瞼を閉じた。
我想如果看不见就好了,闭上了眼睛。
「うん。だいぶいいわね。近いうちに、腫れも完全に引くと思うわ」
“嗯,很好。我想不久之后,肿也会完全消退的。”
「アニャのおかげだ」
“多亏了阿尼亚。”
「まあ、私は蜜薬師ですから」
“嗯,我是蜜药师。”
瞼を開くと、胸を張るアニャの姿があった。その様子を想像していたので、笑ってしまう。
睁开眼睑,看到了挺起胸膛的阿尼亚的身影。因为想象着那个样子,所以笑了。
「ちょっとイヴァン、どうして笑ったのよ」
「喂,伊凡,你为什么笑?」
「いや、アニャが、かわいいから」
“不,因为阿尼亚很可爱。”
「かわいい!? 私が!?」
“好可爱!?是我!?”
「え、うん」
“嗯,嗯。”
改めて聞き返されると、照れてしまう。その辺は、サラッと流してほしかった。
再次被反问的话,会害羞的。我希望那一带能爽快地冲走。
「私、かわいいんだ」
“我很可爱。”
「よく言われるでしょう?」
“经常被这么说吧?”
「言われたことなんて、一度もないわよ。イヴァンが初めて。リブチェフ・ラズにいる男なんか、ブスとか、かわいくないとか、言ってくるし」
「我一次都没听说过。伊凡是第一次。在利布切夫·拉兹的男人,会说他长得丑,不可爱。」
「あー……」
“啊……”
リブチェフ・ラズにいる男とは、以前アニャに「いつまで経ってもお子様だ」と言っていた奴だろう。
在里布切夫·拉兹的男人,是以前对阿尼亚说“无论过多久都是孩子”的家伙吧。
当然、「ブス」や「かわいくない」と声をかけたのは、アニャの気を引くためだ。口が裂けても、アニャには言わないけれど。
当然,打招呼说“丑”和“不可爱”是为了吸引阿尼亚的注意。即使嘴巴裂开了,也不会对阿尼亚说。
どうして酷いことを言って、怒らせるのだろうか。本当に、理解に苦しむ。
为什么说这么过分的话,会让人生气呢。真的很难理解。
リブチェフ・ラズの男が言ったことを思い出したからなのか。アニャは顔を俯かせ、シュンとしている。きっと、マクシミリニャンも心の中ではかわいいと思っていても、口には出さなかったのだろう。
是因为我想起了里布切夫·拉兹的男人说的话吗。阿尼亚低下头,舒恩。一定,即使麦克西米利尼亚在心里觉得很可爱,也不会说出来吧。
仕方がないと思い、本日二回目のかわいいを発する。
我觉得没办法,今天发了第二次可爱。
「アニャはかわいいよ。他の男が言うことなんか、気にするな」
“阿尼亚很可爱,别在意其他男人说的话。”
すると、アニャは顔を上げて、花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
于是,阿尼亚抬起头来,露出了鲜花绽放的笑容。
リブチェフ・ラズの男は知らないのだろう。アニャに「かわいい」といったら、こんなに愛らしい微笑みを見せてくれることを。
里布切夫·拉兹的男人不知道吧。对阿尼亚说“可爱”的话,会露出这么可爱的微笑。
絶対に、人生を損している。
绝对是在损害人生。
「イヴァンがそう言うなら、もう、気にしない」
“如果伊凡这么说的话,我就不介意了。”
にこにこしていたアニャだったが、すぐさまハッとなる。いったいどうしたのか。
虽然是笑嘻嘻的阿尼亚,但马上就变成了哈。到底怎么了。
笑顔だったアニャの顔が、だんだん無となった。
笑容满面的阿尼亚的脸,渐渐消失了。
「アニャ、どうしたの?」
“阿尼亚,怎么了?”
「イヴァン、あなた、ずいぶんと女慣れをしているようだけれど?」
“伊凡,你好像已经习惯女人了?”
「女慣れって……」
“习惯女人……”
「会う女性全員に、かわいい、かわいいって、言って回っているんじゃないの?」
“不是对所有见面的女性都说可爱、可爱吗?”
「ないない、ないから。女慣れしているように見えるのは、兄の嫁が十三人もいたから。俺より年上の姪だっているし」
“没有,因为没有。之所以看起来很习惯女人,是因为有十三个哥哥的媳妇。她是比我大的侄女。”
「兄嫁と、姪?」
“嫂子和侄女?”
「全員、身内。実家は女所帯だから」
“所有人都是自己人,因为老家是女性家庭。”
「そう、だったんだ」
“是的。”
「かわいいなんて、赤ちゃん時代の姪や甥以外で、言ったことがないし」
“可爱什么的,除了婴儿时代的侄女和侄子以外,没有说过。”
「だったら、同じ年頃では、私は初めて?」
“那么,同样年纪的我还是第一次?”
「まあ、そうだね」
“是啊。”
「だったら、いいわ」
“那就好。”
機嫌が直ったようなので、ホッとする。
心情好像变好了,松了一口气。
◇◇◇
◇◇◇
夕食が済んだら、アニャに呼び出される。
晚饭结束后,被阿尼亚叫出来。
「夜に塗る薬用クリームを作りましょう」
“做晚上涂的药用奶油吧。”
「そんなのがあるんだ」
“有那样的事。”
「ええ。眠っている間に、肌を再生してくれるのよ」
“是的。睡觉的时候,可以让皮肤再生。”
材料は蜜蝋にオリーブオイル、蒸留水に乳香、薔薇精油。
材料是蜜蜡、橄榄油、蒸馏水、乳香、玫瑰精油。
「まず、薬鍋にオリーブオイルと蜜蝋を入れて、湯煎で溶かすの」
“首先,在药锅里放入橄榄油和蜂蜡,用热水煎融化。”
アニャは慣れた手つきで、作業を進めていく。
阿尼亚用习惯了的手势,推进工作。
「次に、湯煎から薬鍋を上げて、精油を垂らして混ぜるのよ」
“接下来,从煎汤里把药锅拿起来,滴上精油搅拌。”
これを煮沸消毒した瓶に詰め、熱が引いたら夜専用の薬用クリームの完成となる。
把它装在煮沸消毒的瓶子里,退烧后晚上专用的药用奶油就完成了。
「乳香には、癒傷(ゆしょう)作用や鎮痛、瘢痕(はんこん)形成作用――かさぶたを作る能力を促す力があるの」
“乳香有愈伤作用、镇痛、形成瘢痕的作用——促进结痂能力的力量。”
それに、肌の保湿効果がある蜜蝋や炎症を抑える効果がある薔薇精油を加えることによって、肌の再生を促すクリームが完成するようだ。
再加上对皮肤有保湿效果的蜂蜡和有抑制炎症效果的玫瑰精油,促进皮肤再生的奶油就完成了。
「アニャの知識は、本当にすごいね。でも、それは、誰から習ったの?」
“阿尼亚的知识真的很厉害。但是,那是从谁那里学到的呢?”
「先生は、お母様が遺した本だったの」
“老师是母亲留下的书。”
アニャの母親も、かつて蜜薬師と呼ばれる存在だったらしい。
阿尼亚的母亲曾经也是被称为蜜药师的存在。
そもそも、蜜薬師とはなんぞや。
说起来,蜜药师是什么呢。
「蜜薬師の歴史は、帝国にあるの。その昔、お医者さん嫌いで蜂蜜大好きな王女様のために、侍女が各地を奔走して集めた蜂蜜の知識を数冊の本にまとめて残していたみたい。その本を読んだり、師匠から習ったりして、蜂蜜で治療を行う人を蜜薬師と呼んでいたそうよ」
“蜜药师的历史在帝国。从前,为了不喜欢医生、非常喜欢蜂蜜的公主,侍女在各地奔走收集的蜂蜜知识好像整理成了几本书。读了那本书,从师傅那里学习,用蜂蜜进行治疗的人被称为蜜药师。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
かつての帝国では蜜薬師の侍女を侍らせることが、ステータスシンボルであると囁かれていた時代もあったらしい。
在过去的帝国中,也有被认为让蜜药师的侍女侍女是地位象征的时代。
現代では、医療が発達して、蜜薬師のほとんどは表舞台から姿を消したようだ。
在现代,医疗发达,蜜药师几乎都从舞台上消失了。
「ここは田舎だし、リブチェフ・ラズにお医者様はいないから、私みたいな蜜薬師でもありがたいと思ってくれるみたい」
“这里是乡下,里布切夫·拉兹没有医生,像我这样的蜜药师也会觉得很感谢的。”
「そっか」
“是吗?”
蜜薬師になるまで、相当な努力と苦労をしたに違いない。
在成为蜜药师之前,一定付出了相当大的努力和辛苦。
知識はあっても、実際に薬を作れなければ意味がないから。
虽然有知识,但如果不能实际制作药物的话就没有意义了。
「どうしてアニャは、蜜薬師になろうと思ったの?」
“为什么阿尼亚想成为蜜药师呢?”
「きっかけは、幼いころの私が、病弱だったからよ。咳をするたびに、お父様が蜂蜜で喉薬を作ってくれたのだけれど、失敗ばかりで、いっこうによくならなかったのよね。自分で作った物のほうが効くんじゃないかって思って作ったのが始まりよ。あとは、亡くなったお母様との、繋がりがほしくて……」
“契机是,小时候的我病弱。每次咳嗽的时候,父亲都会用蜂蜜给我做喉药,但都是失败,一点也没变好。我开始觉得自己做的东西更有效。之后,我想要和去世的母亲联系起来。”想……“
家にあった蜜薬師の本は、直筆のメモが書き込まれていたらしい。それを読み進めているうちに、極めてしまったようだ。
家里的蜜药师的书好像写着亲笔的笔记。在读那个的过程中,好像已经到了极致。
「と、話しすぎてしまったわね。もう冷えたかしら?」
“话说得太多了,已经冷了吗?”
熱が引いた薬用クリームを、アニャは丁寧に塗ってくれた。
阿尼亚认真地给我涂了退烧的药用奶油。
塗布されるというのは、何度経験しても慣れない。
被涂抹,无论经历多少次都不习惯。
「はい、これでいいわ。傷が治るまで、夜、眠る前に塗るのよ」
“好的,这样就可以了,晚上睡觉前涂,直到伤口痊愈。”
「うん。アニャ、ありがとう」
“嗯,阿尼亚,谢谢。”
「どういたしまして」
「不客气。」
薬用クリームを受け取り、離れに戻る。
收到药用奶油,返回离开。
明日は、種を植えて二日目だ。果たして、芽はでているのか。
明天是种种子的第二天。到底发芽了吗。
祈るばかりである。
只是祈祷。

567
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@ -0,0 +1,567 @@
養蜂家の青年は、雨の朝を迎える
养蜂青年迎来了下雨的早晨
蕎麦の種を植えてから迎える二日目。
种了荞麦种子之后迎来的第二天。
アニャがやってくることを想定し、早めに起きた。
设想阿尼亚会来,所以提前起床了。
服を着替え、寝間着は洗濯物入れの籠に放り込む。
换上衣服,把睡衣扔进洗衣物的篮子里。
外は薄明かりの中。日の出はもうすぐだろう。そんな中、アニャの姿はなかった。
外面是微光中。日出快到了吧。在这种情况下,没有阿尼亚的身影。
洗面所で顔を洗い、髭を剃って歯を磨く。
在盥洗室洗脸,刮胡子刷牙。
身支度が調ったが、アニャはやってこない。
打扮好了,但是阿尼亚不来。
はてさて、どうしようか。
哎呀,怎么办呢。
外で腕を組んで考えていたら、母屋の扉が開く。アニャだ。
在外面抱着胳膊想的话,主屋的门就会打开。是阿尼亚。
「おはよう」
“早上好。”
「きゃあ!」
“呀!”
アニャは俺を見て、悲鳴を上げた。手に持っていた洗濯籠を、落としてしまうほど驚いたようだ。
阿尼亚看着我,尖叫起来。手上拿着的洗衣篮,好像吓得掉了。
「ちょっと、イヴァン! なんで日の出前に起きているのよ」
“喂,伊凡!你为什么在日出前起床?”
「いや、昨日アニャが日の出くらいの時間に蕎麦の状況を見ようと誘いにきたから。今日も見に行くのかと思って」
“不,昨天阿尼亚邀请我在日出的时候看荞麦面的情况。我想今天也去看。”
「あ――そう、だったのね」
「啊——原来是这样啊。」
話しているうちに、日が昇る。太陽が地平線から、ひょっこりと顔を覗かせた。
说着说着,太阳就升起来了。太阳从地平线上突然露出了脸。
夜のとばりが、太陽の光によって空の彼方まで押し上げられる。
夜幕被阳光推上天空的彼方。
この光景は、いつ見ても美しい。
这个景象无论什么时候看都很美。
「アニャ、蕎麦を、見に行こう」
“阿尼亚,去看荞麦面吧。”
「ええ、そうね」
“是啊。”
まだ薄暗いので、転ばないようにと手を差し出す。
因为天还很黑,所以伸出手说不要摔倒。
アニャはポカンとしたまま、俺を見つめていた。
阿尼亚呆呆地看着我。
「その手、何? 食べ物を、ちょうだい?」
“那手是什么?给我吃的?”
「違う。アニャが暗い中で転ばないように、手を貸そうとしているの」
“不是的,我是想帮助阿尼亚不要在黑暗中摔倒。”
「あ、そう、だったのね。ごめんなさい。誰かの手を借りたことなんて、なかったから」
“啊,原来是这样啊。对不起,我从来没有借过别人的手。”
アニャはいつもいつでも、マクシミリニャンの背中を追いかけていたらしい。手と手を繋ぎ、並んで歩いた記憶はないと。
阿尼亚似乎总是随时追赶着马克西米利尼亚的背影。没有牵着手并排走的记忆。
「おじさんって、厳しいんだ」
“叔叔很严厉。”
「厳しくないわ。普通よ」
“不严格,很正常。”
「ふーん」
“嗯。”
俺は山のルールに則って、アニャを厳しくする理由はない。だから、手を握って歩き始める。
我没有理由按照山上的规则严厉地对待阿尼亚。所以,握着手开始走。
「あ、えっと、イヴァン、私、一人で歩けるわ」
“啊,呃,伊凡,我可以一个人走路。”
「そうかもしれないけれど、俺が心配だから」
“也许是这样,但我很担心。”
そう返すと、アニャは大人しくついてきた。蕎麦の種を蒔いた畑にたどり着くと、小さな声で「ありがとう」と言う。
这样一回答,阿尼亚老实地跟着。到了播下荞麦种子的田地,小声说“谢谢”。
太陽の光が、畑を淡く照らしてくれる。
阳光淡淡地照耀着田地。
蕎麦の芽は――残念ながら、出ていなかった。
荞麦的芽——很遗憾,没有长出来。
「今日も、ダメなのね」
“今天也不行啊。”
「まだ二日目だしね。今日は太陽も出ているから、それにつられて芽が出るかも」
“还只是第二天呢。今天太阳也出来了,可能会被太阳吸引而发芽。”
もしも発芽するとしたら、明日だろう。まだ、諦めるのは早い。
如果发芽的话,明天吧。放弃还为时过早。
と、前向きな姿勢でいたのに、自然は容赦ない。
虽然是积极的态度,但自然却毫不留情。
畑の前でしょんぼりする俺たちから、太陽の光を奪う。
在田地前垂头丧气的我们,夺走了阳光。
厚い雲が、太陽を覆ってしまったのだ。それだけではない。ポツポツと、水滴が落ちてくる。
厚厚的云覆盖了太阳。不仅如此。滴滴答答地滴落下来。
「うわっ、雨だ!」
“哇,下雨了!”
一粒一粒が大きな雨粒だ。これは、あっという間に大雨になるだろう。
每一粒都是大雨点。这一眨眼就会下大雨吧。
畑の前でボーッとするアニャに声をかけたが、いまいち反応が悪い。
在田地前向发呆的阿尼亚打招呼,但反应还不好。
「アニャ、抱き上げるよ!」
“阿尼亚,我抱你!”
「え?」
“诶?”
アニャを横抱きにし、母屋へと繋がる斜面を下る。
抱着阿尼亚,走下与主屋相连的斜坡。
「ひゃあ! ちょっと、イヴァン、どうして――!?」
“哎呀!喂,伊凡,为什么——!?”
アニャが「自分で歩けるから」と言った瞬間、大粒の雨が降り始めた。
阿尼亚说“因为我自己能走路”的瞬间,开始下起了大颗的雨。
「うわ、最悪!!」
“哇,糟透了!!”
走って母屋にたどり着く。たった数秒の間だったのに、びしょ濡れになってしまった。 アニャを下ろしてやると、顔が真っ赤なのに気づく。
跑着到达主屋。才几秒钟,就湿透了。把阿尼亚放下,发现脸通红。
「アニャ、大丈夫? 風邪でも引いているの?」
“阿尼亚,没事吧?感冒了吗?”
「イヴァン、あなた、力持ちなのね」
“伊凡,你真有力气。”
「え、そうでもないけれど」
“啊,也不是那样。”
「だって、私を抱き上げたじゃない」
“因为,你不是把我抱起来了吗?”
「いや、アニャはものすごく軽いほうだから」
“不,因为阿尼亚是非常轻的。”
マクシミリニャンと川まで運んだ丸太は、信じられないくらい重たかった。それに比べたら、アニャは羽のように軽いと言える。
和马克西米利尼亚一起运到河里的原木,重得令人难以置信。相比之下,阿尼亚可以说像羽毛一样轻。
「それよりも、早く着替えたほうが――へっくしゅん!!」
“与其这样,还不如早点换衣服——嘿嘿!!”
「やだ、着替えが必要なのは、あなたのほうじゃない」
“不,需要换衣服的不是你。”
アニャは目にも止まらぬ速さで走り、大判の布を持ってきてくれる。
阿尼亚以目不转睛的速度奔跑,给我拿着大金币的布。
昨日洗濯して乾かした服に着替えるよう、命じられた。
我被命令换上昨天洗好晾干的衣服。
◇◇◇
◇◇◇
今日は雨なので、家で作業するらしい。先程の勢いはなくなり、霧雨のような静かな雨が降っている。
因为今天下雨,所以好像在家工作。刚才的气势消失了,下着像雾雨一样安静的雨。
「アニャ、マクシミリニャンは?」
“阿尼亚,马克西米莉娜呢?”
朝から一度も顔を出していない。朝食は食べたのか、心配になる。
从早上开始一次也没露面。我很担心早饭吃了没有。
「雨の日は、家畜のお世話以外で離れから出てこないわよ」
“下雨天,除了照顾家畜以外,不会离开的。”
「え、なんで?」
“啊,为什么?”
「雨に濡れると、病気になると言われているの」
“据说被雨淋湿的话会生病的。”
離れにも簡易的な台所があり、食料も豊富にあるらしい。
离得很远也有简易的厨房,食物也很丰富。
今日みたいな雨の日は、母屋と離れの行き来を止めて、家の中で静かに過ごしているようだ。
像今天这样的雨天,停止了离开主屋的来往,在家里安静地度过。
「刺繍をしたり、編み物をしたり、保存食を作ったり。まあ、仕事は探さなくてもいろいろあるわ」
“又是刺绣,又是编织,又是做保存食品。嘛,不用找工作也有很多。”
「なるほど――くっしゅん!」
“原来如此——嗯嗯!”
「イヴァン、暖炉を入れてあげるから、火の前から離れないように」
“伊凡,我帮你装壁炉,不要离开火前。”
「ごめん」
“对不起。”
「いいわ。私も、寒いと思っていたから」
“好啊,我也觉得很冷。”
アニャは暖炉に火を点け、ヤカンを吊す。沸騰したら、カップに湯を注いでいた。
阿尼亚点燃壁炉,吊起水壶。沸腾后,往杯子里倒了热水。
「蜂蜜生姜湯よ。風邪には、これが一番だから」
“蜂蜜生姜汤,这是感冒最好的。”
カップには、スライスした乾燥レモンがぷかぷか浮かんでいた。飲むと、体がほっこり温まる。ピリッとしているけれど、優しくて甘い。まるで、アニャのようだ。
杯子里漂浮着切成薄片的干燥柠檬。一喝,身体就暖和起来。虽然很辣,但是又温柔又甜。简直就像阿尼亚一样。
アニャも、暖炉の前に座り、蜂蜜生姜湯を飲んでいた。
阿尼亚也坐在壁炉前,喝着蜂蜜生姜汤。
働かずにまったりする時間が、不思議と心地よい。
不工作悠闲的时间,不可思议地很舒服。
雨がサラサラ降る音を聞きながら、蜂蜜生姜湯をちょびちょび飲み進める。
一边听着雨沙沙的声音,一边喝着蜂蜜生姜汤。
なんだか、癒やされてしまった。
不知为什么,被治愈了。

633
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@ -0,0 +1,633 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の娘とバターを作る
养蜂青年和蜜药师的女儿一起做黄油
今日はまず、バター作りをするらしい。チーズとは違った作り方をするようだ。
今天好像先做黄油。好像要做和奶酪不同的做法。
「バターは、発酵させたクリームを使って作るの」
“黄油是用发酵的奶油做的。”
一晩おいたミルクに浮かぶものがクリーム。それを、さらに一晩放置して発酵させたものでバターを作るようだ。
放置一夜的牛奶中浮现的是奶油。把它再放置一夜发酵后做成黄油。
道具は煮沸消毒させた上に、太陽の光に当ててしっかり殺菌した物を使う。
工具在煮沸消毒的基础上,在阳光下好好杀菌。
「バター作りに欠かせないのは、これよ」
“制作黄油不可缺少的就是这个。”
それは、小型のたるだ。バター攪拌機(チャーン)というらしい。蓋についているハンドルを回すと、中のクリーム全体をかき混ぜることができるようだ。
那是小型的桶。据说是黄油搅拌机。转动盖上的方向盘,好像可以搅拌里面的整个奶油。
「じゃあ、始めるわね」
“那嚒,我们开始吧。”
「そのハンドル、硬いんじゃないの?」
“那个方向盘不是很硬吗?”
「まあ、それなりに」
“嗯,就那样。”
「だったら、俺がやる」
“那嚒,我来做。”
「あ、ありがとう」
“啊,谢谢。”
コツは特にないというので、自由に回させてもらった。
因为没有什么诀窍,所以让我自由地转动了。
アニャはそれなりに硬いと言っていたが、女性の腕力ではきついだろう。
虽然阿尼亚说很硬,但是女性的腕力会很辛苦吧。
しばらくハンドルを回していると、中のクリームが固まる。
转了一会儿方向盘,里面的奶油就凝固了。
「中で、クリームが分離しているの。先に、水分を出すわ」
“里面,奶油是分离的。先把水分拿出来。”
クリームから分離した水分を、“バターミルク”と呼んでいるらしい。
从奶油中分离出来的水分被称为“黄油牛奶”。
バターミルクも、捨てずに利用するようだ。
黄油牛奶好像也不扔就使用。
「パンに入れると、フワフワに仕上がるのよ」
“放进面包里的话,就会变得软绵绵的。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
余すことなく、いただくようだ。
好像不剩地吃了。
バター攪拌機のクリームを、すのこの上にかき出す。そこに冷水をかけて、クリームに残ったバターミルクを流すようだ。そのあとも、ヘラを二枚使って練り、バターミルクや水分を取り除く。
把黄油搅拌机的奶油搅到竹笋上。在那里浇上冷水,好像是把奶油里剩下的黄油牛奶冲走。之后,用两片刮刀搅拌,去除黄油牛奶和水分。
「バターミルクや水分を切ったら、塩で味付けするの」
“切了黄油牛奶和水分后,用盐调味。”
塩をまぶし、再びヘラで練り込む。
撒上盐,再次用刮刀搅拌。
「最後に、棒で叩いて空気や水分を飛ばして、型に詰めるの」
“最后,用棒子敲打,放飞空气和水分,装进模具里。”
クッキー缶のような丸い型にバターを詰め込み、棒で押して型から抜く。
把黄油塞进像饼干罐一样圆的模具里,用棒子压着从模具上拔出来。
型には小麦模様が彫られていたようで、バターに浮き出ていた。
模具上好像刻着小麦花纹,浮在黄油上。
真っ白で美しい山羊のバターが、完成となった。
雪白美丽的山羊黄油完成了。
「今日は、いつもより上手にできたわ」
“今天做得比平时好。”
「うん、おいしそうだね」
“嗯,看起来很好吃。”
「さっそく、お昼に食べましょう」
“马上,中午吃吧。”
いったい、どんな料理を作るのか。楽しみだ。
到底要做什么样的菜呢。我很期待。
アニャはバターが上手く作れたことが、よほど嬉しいのだろうか。にこにこしながら、バターを見つめている。
阿尼亚黄油做得很好,真的很开心吗。笑嘻嘻地看着黄油。
「あのね、イヴァン」
「那个,伊凡。」
「うん?」
“嗯?”
「私、嬉しいの。いつもだったら、雨の日に何かが上手くいっても、誰とも共有できないから」
“我很高兴。如果是平时的话,即使下雨天有什么事情进展顺利,也不能和任何人分享。”
雨の日に外に出たら病気になってしまう。だからなるべく家に引きこもっているという話は先ほど聞いた。
下雨天出去会生病的。所以我刚才听说尽量在家里闭门不出。
「一回、パンが上手に焼けたときに、お父様に持っていったの。そうしたら、血相を変えて怒られてしまって……」
“一次,面包烤得很好的时候,就给父亲带去了。这样的话,就会改变血相被骂了……”
マクシミリニャンは極めて温厚な男である。しかし、その日は違った。珍しく、アニャに対して激昂したのだという。というのも、理由があったらしい。
马克西米莉娜是一个极其温厚的男人。但那天不同。据说是罕见的,对阿尼亚激昂了。这好像是有理由的。
「お母様が、私を産む前に、雨に濡れて風邪を引いてしまったの。それから、寝たきりになってしまって……」
“母亲在生我之前,因为被雨淋湿而感冒了。然后就卧床不起了……”
アニャが生まれたのも、奇跡だったらしい。
阿尼亚的出生似乎也是一个奇迹。
「お母様の体調不良のきっかけは雨だった。だから、お父様は酷く怒ったの」
“母亲身体不适的契机是下雨,所以父亲非常生气。”
「そう、だったんだ」
“是的。”
以降、雨の日のアニャは、ケーキが膨らんでも、おいしいスープが完成しても、独りで喜び、静かに食べるばかりだったらしい。
之后,雨天的阿尼亚,即使蛋糕膨胀,美味的汤完成了,也只是一个人高兴,安静地吃。
「だからね、今日は、イヴァンが一緒にいて、喜んでくれて、とっても嬉しい!」
“所以呢,今天伊凡和我在一起,你很高兴,我非常高兴!”
アニャは天真爛漫としか言いようがない、明るい笑顔を見せてくれる。
阿尼亚只能说是天真烂漫,露出了灿烂的笑容。
なんて、愛らしい笑みなのか。
多么可爱的笑容啊。
体調が悪いわけではないのに、心臓の鼓動がいつもより早い気がした。続けて、みぞおち辺りがきゅっと縮んだような、違和感を覚える。
虽然并不是身体不好,但感觉心跳比平时快。接着,胸口附近突然缩小了,感觉不协调。
風邪が悪化したかと思ったが、異変は一瞬で終わった。
我以为感冒恶化了,但异变在一瞬间就结束了。
「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「なんでもない」
“没什么。”
なんとなく、アニャの顔を直視できなくなっていた。なんだろうか、この気持ちは。
总觉得不能直视阿尼亚的脸了。这是什么心情呢。
答えがわからず、もやもやしてしまった。
不知道答案,搞得我不知所措。
◇◇◇
◇◇◇
アニャが昼食の準備をしている間、俺は巣箱作りを行う。構造は実家で使っていた物とほとんど同じだったので、その点は非常に助かった。
阿尼亚准备午饭的时候,我会做巢箱。构造和老家使用的东西几乎一样,这一点非常有帮助。
板を合わせ、釘を打つ。通気口を作って、蜜蜂が出入りできるようにするのも忘れない。
把木板合在一起,钉上钉子。也不要忘记制作通气口,让蜜蜂出入。
流蜜期には欠かせない、巣箱に重ねる継箱もいくつか作っておく。
在流蜜期不可缺少的,也制作了几个重叠在巢箱上的继箱。
作業を進めていると、パンが焼けるいい匂いが漂ってくる。昼食は、焼きたてパンなのか。ずいぶんと、ごちそうだ。
在进行作业的时候,面包散发着烤好的香味。午饭是刚烤好的面包吗。谢谢款待。
それから一時間と経たずに、昼食となった。
然后不到一个小时就吃了午饭。
「ちょっと、何、それ!?」
“喂,什么,那个!?”
アニャは積み上がった巣箱と継箱を見て、目を大きく見開いていた。
阿尼亚看着堆起来的巢箱和继箱,眼睛睁得大大的。
「これ全部、イヴァンが作ったの?」
“这些都是伊凡做的吗?”
「そうだけれど」
“是啊。”
「信じられない。この量は、お父様が一日かけて作るような量よ?」
“真不敢相信。这个量是父亲花一天时间做的量。”
「いやでも、板はカットされていたから。組み立てて、釘を打っただけで」
“虽然不喜欢,但是木板被剪掉了。只是组装好,钉上钉子。”
「それが難しいのよ」
“这很难。”
母や義姉達に命じられ、黙々と巣箱や継箱を作る日もあった。回数をこなすうちに、早くなっていたのかもしれない。
也有被母亲和大嫂们命令,默默地制作巢箱和继箱的日子。在处理次数的过程中,可能变快了。
「まあ、いいわ。食事にしましょう」
“好吧,我们吃饭吧。”
食卓の中心に置かれたのは、焼きたてパン。それから、ジャガイモとベーコンのバター炒め、グラタン、バタークリームスープと、豪勢な食事が並んでいた。
放在餐桌中心的是刚烤好的面包。然后,土豆培根黄油炒、奶汁烤菜、黄油奶油汤,摆满了丰盛的饭菜。
「ちょっと、張り切り過ぎたわ」
“有点紧张。”
「俺たちだけで食べるのは、もったいないね」
“只有我们吃太可惜了。”
「そうね。でも、雨だし」
“是啊,可是又下雨了。”
マクシミリニャンは今頃、独り寂しく食事を食べているだろうか。
马克西米利尼亚现在一个人寂寞地吃饭吗。
外からマクシミリニャンのいる離れを覗き込むと、煙突からもくもくと煙が上がっていた。
从外面窥视麦克西米利尼亚所在的距离,烟囱里冒出滚滚浓烟。
「あ、お父様、鶏の燻製を作っているわ。きっと、お昼からお酒を飲むつもりなのよ」
“啊,爸爸,我在做熏鸡。我一定是打算从中午开始喝酒的。”
「雨を楽しんでいるようだったら、何よりだ」
“如果能享受下雨的乐趣,那比什么都好。”
「そうね。私たちも、楽しみましょう」
“是啊,我们也要好好享受。”
最後に、アニャは先ほど作ったバターを持ってくる。
最后,阿尼亚拿来了刚才做的黄油。
「焼きたてのパンに塗って、食べましょう」
“涂在刚烤好的面包上吃吧。”
「いいね」
“好啊。”
神に祈りを捧げたあと、食事をいただく。
向神祈祷之后,请吃饭。
まずは焼きたてのパンに手を伸ばし、アニャと一緒に作ったバターを載せた。
首先把手伸向刚烤好的面包,放上和阿尼亚一起做的黄油。
パンの熱で、バターがじわーっと溶けていく。我慢できず、溶けきる前にかぶりついた。
因为面包的热,黄油一下子融化了。忍不住,在融化之前盖上了。
「嘘、甘っ!」
“谎言,太天真了!”
山羊のバターは、驚くほど甘い。後味にほんのり、酸味としょっぱさを感じる。コレまで食べたことのない風味のバターであった。
山羊的黄油甜得惊人。余味中有点酸味和咸味。是连这个都没吃过的风味的黄油。
これが、アニャの作ったフワフワのパンと信じられないくらい合うのだ。
这和阿尼亚做的鱼翅面包很搭,令人难以置信。
「この世の食べ物と思えないほど、おいしい……」
“好吃得让人无法想象是这个世界上的食物……”
「そんなふうに言ってもらえると、作った甲斐があるわ」
“如果你能这么说的话,我做了很有意义。”
アニャと共に、山羊のバター料理に舌鼓を打つ。
和阿尼亚一起咂着山羊的黄油料理。
大満足の昼食であった。
非常满足的午餐。

679
041.md

@ -0,0 +1,679 @@
養蜂家の青年は、かご作りに精を出す
养蜂青年,努力做篮子
昼からは、かごを編むらしい。
从中午开始,好像要编织篮子。
山で採ってきた蔓で編むのかと思いきや、若い木枝も使うようだ。
原以为是用在山上采来的藤蔓编织的,没想到好像也用年轻的树枝。
「ライラック、にれ、ポプラ、はしばみ、トネリコの枝は丈夫だから、かごの底に使うの。かごの側面には、木イチゴ、薔薇、クレマチスなどの、やわらかい蔓や蔦性の枝で編むのよ」
“丁香花、韭菜、白杨、胡枝子很结实,所以要用在篮子的底部。篮子的侧面是用树莓、玫瑰、克莱门斯等柔软的藤蔓和爬山虎性的树枝编织的。”
「へー、なるほど」
“啊,原来如此。”
これまで気にせずにかごを使っていたが、長く使えるように工夫がなされていたらしい。
到现在为止都不介意使用了篮子,但是为了能长期使用而下了功夫。
「かごって買うものだと思っていたから、そういうのはぜんぜん考えなかった」
“我以为篮子是要买的,所以完全没想到。”
「そうだったのね」
「原来是这样啊。」
「でも、枝って硬いでしょう? 編めるの?」
“但是,树枝很硬吧?能编吗?”
「編めるわよ。でもそのままだったら折れてしまうから、一時間ちょっと水に浸けておくの。そうしたら、やわらかくなるのよ」
“我会织的。但是如果那样的话会折断的,所以先在水里泡一个小时。这样的话,会变软的。”
アニャは昼食を食べる前に、枝を水に浸けていたらしい。
阿尼亚在吃午饭之前,好像把树枝泡在水里了。
「まず、太くしっかりした枝を四本選んで、真ん中に切り込みをいれる。そこに、四本の枝を差し込んで、十字型になるよう紐で縛るのよ。ここは、底の芯になる大事なところなの」
“首先,选择四根粗壮结实的树枝,在中间切入。在那里插入四根树枝,用绳子绑成十字型。这里是成为底芯的重要地方。”
しっかり固定したあと、芯に枝を絡ませ、編んでいくようだ。
好好固定之后,把树枝缠在芯上,编织起来。
アニャに教わりながら枝を編んでみたが、なかなか難しい。編み目もガタガタで、まったく美しくない。隙間を埋めようとしたら、枝が折れてしまう。やりなおしだ。
一边向阿尼亚学习一边试着编了树枝,但是很难。线圈也松动,一点也不美。如果你想填补缝隙,树枝就会折断。重新做。
一方で、アニャは手早く枝を編んでいた。編み目に隙間はなく、美しい。
另一方面,阿尼亚迅速地编织着树枝。线圈没有缝隙,很美。
「あー、また折れた!」
“啊,又折了!”
「最初はそういうものよ。私も、慣れるまで時間がかかったわ」
“一开始是这样的。我也花了很长时间才习惯。”
底が完成したら、側面を編む。三十一本もの枝を底に差し込み、再び編んでいくのだ。 黙々と作業を進める。集中しているからか、雨が降る音も気にならなくなった。
底部完成后,编织侧面。将三十一根树枝插入底部,再次编织。默默地进行作业。也许是因为集中精神,连下雨的声音都不在意了。
最後に、かごの縁を作ったら完成である。
最后,做成篮子的边缘就完成了。
「やっと、できた!」
“终于完成了!”
「ごくろうさま」
“辛苦了。”
生まれて初めて作ったかごは、いびつな形をしていた。不思議な曲線を描いていて、テーブルに置くと左側に傾く。加えて、隙間だらけだった。小さな豆でも入れたら、かごをすり抜けて落ちてしまうだろう。
出生以来第一次做的篮子,形状很奇怪。画着一条不可思议的曲线,放在桌子上就会向左倾斜。再加上满是缝隙。即使是小豆子放进去,也会穿过篮子掉下来吧。
「これ、失敗じゃん」
“这不是失败了吗?”
「失敗じゃないわ。かごは、とにかく物が入ればいいの。イヴァンが作ったのは、野菜の収穫の時に使えるわ」
“这不是失败。篮子里放东西就行了。伊凡做的是收获蔬菜时用的。”
「なるほど、野菜は入りそうだ」
“原来如此,蔬菜好像要放进去了。”
薬草採取やベリー摘みには使えないなと思っていたが、使い道はあるらしい。
原以为不能用于采集药草和摘浆果,但似乎有用途。
アニャのかごは、隙間なんてないのでさまざまな作業に使えるだろう。さすがである。
因为阿尼亚的篮子没有缝隙,所以可以用于各种各样的工作吧。不愧是。
「これ、売っているの?」
“这是卖的吗?”
「いいえ、自宅用よ」
“不,是自家用的。”
「そうなんだ。お店に並んでいても、おかしくない仕上がりだけれど」
“是啊。虽然在店里排队也不奇怪。”
「そう? ありがとう」
“是吗?谢谢。”
他にも、白樺の樹皮や、蔓、蔦、木など、さまざまな物を素材にかごを編んでいるらしい。
除此之外,还以白桦树皮、蔓、爬山虎、树等各种各样的东西为素材编织了篮子。
その中で、高価で買い取ってもらえるのが、木のかごだという。
其中,据说能高价购买的是木篮。
「木を薄くカットして編むの。丈夫で、木目が美しいかごが完成するのよ。でも、編むのは一番難しいわね」
“把木头切成薄片编织。结实、木纹漂亮的篮子就完成了。但是,编织是最难的。”
「だろうね」
“是吧。”
枝以上に、木はパキパキ折れてしまうのだろう。
比起树枝,树会折断吧。
冬、雪が深くなったら、外での仕事ができなくなるらしい。そのときに、木のかごを作るようだ。
冬天,雪深了,好像就不能在外面工作了。那个时候,好像要做木笼。
「イヴァン、私が編んだこのかご、あなたにあげるわ」
“伊凡,我给你织的这个篮子。”
「え? これ、家で使うんでしょう?」
“诶?这个是在家里用的吧?”
「いいの。ここに来た、記念に」
“没关系,我来这里做纪念。”
その物言いは、どこか諦めの意味が溶け込んでいるような気がした。
我觉得那个说法似乎融入了放弃的意思。
蕎麦の芽は生えないだろうから、思い出の品として受け取ってくれ。そんな感じだろう。
荞麦面不会发芽,请作为回忆的东西收下。是那样的感觉吧。
「だったら、俺のかごは、アニャにあげる」
“那嚒,我的篮子给阿尼亚。”
「いいの!?」
“好吗!?”
アニャはパーッと表情を明るくし、前のめりで聞き返す。
阿尼亚的表情变得明朗,前倾地反问。
「こんないびつなかご、もらっても嬉しくないかもしれないけれど」
“这样打鼾的篮子,拿到了可能也不高兴。”
「苦労して作った品ですもの。ものすごく嬉しいわ。イヴァン、ありがとう」
“这是我辛辛苦苦做的东西。我非常高兴。伊凡,谢谢。”
アニャは俺が作ったかごを胸に抱き、にこにこ微笑んでいる。
阿尼亚把我做的篮子抱在胸前,微笑着。
再び、俺の心臓は感じたことのないほどの高鳴りを感じていた。
再一次,我的心脏感受到了从未感受到的激动。
「あ、もう夕方なんだ」
“啊,已经是傍晚了。”
「夕食は、卵があるからエッグヌードルを作りましょう」
“晚饭有鸡蛋,我们做蛋面吧。”
エッグヌードル――いわゆるパスタの一種である。
蛋面——也就是所谓的意大利面的一种。
小麦粉に卵とオリーブオイルを練り混ぜて作るようだ。
好像是在面粉里搅拌鸡蛋和橄榄油做成的。
作り方を見学させてもらった。
让我参观了制作方法。
まず、小麦粉を山のように盛って、中央に窪みを作る。ここに、朝どれの新鮮な卵を落とすようだ。
首先,把面粉盛得像山一样,在中央形成凹陷。在这里,早上好像要掉哪个新鲜的鸡蛋。
卵を潰して混ぜ、そこにオリーブオイルを垂らす。あとは、指先と拳を使って混ぜるようだ。
把鸡蛋捣碎搅拌,在那里滴上橄榄油。然后,用指尖和拳头混合。
「イヴァンは、ソースを作って」
“伊凡做酱汁。”
「え、俺、料理できないんだけれど」
“嗯,我不会做饭。”
得意料理は、湖で釣った魚で作る焼き魚である。串を刺し塩をぱっぱと振って焼くだけの、シンプルな一品だ。
拿手菜是用在湖里钓到的鱼做的烤鱼。这是一道简单的菜,只需把串上的盐一挥就可以烤。
「作り方は教えるわ。簡単だから、あなたにもできるはずよ」
“我教你怎么做。很简单,你也应该会。”
「わかった」
「明白了。」
豚ほほ肉の塩漬けをカットし、炒める。油を入れずとも、豚からじわじわと滲みでてきた。途中で白ワインを垂らし、さらに炒めるようだ。
把咸猪肉切成块炒。即使不放油,猪也慢慢地渗出来了。中途滴上白葡萄酒,再炒一下。
アニャはエッグヌードルを完成させたようで、鍋で茹で始める。
阿尼亚好像完成了蛋面,开始用锅煮。
「次に、ボウルに山羊のチーズ、卵黄、エッグヌードルのゆで汁、炒めた豚ほほ肉の塩漬けを入れるの」
“接下来,在碗里放入山羊奶酪、蛋黄、蛋面的煮汁、炒好的猪脸颊肉的腌制。”
豚にしっかり味がついているので、味付けは特に必要ないようだ。
因为猪有很好的味道,所以好像不需要特别的调味。
「最後に、茹で上がったエッグヌードルを入れて、ボウルを湯煎しながら手早く混ぜる」
“最后,放入煮好的蛋面,一边煎着碗一边快速搅拌。”
エッグヌードルに卵が絡んだら、皿に盛り付ける。上からさらにちぎった山羊のチーズを盛り付けたら、塩豚のパスタの完成である。
在蛋面上缠上鸡蛋后,盛在盘子里。从上面再盛上撕碎的山羊奶酪,就完成了盐猪的意大利面。
「味が薄かったら、コショウをかけて」
“味道淡的话,浇上胡椒。”
アニャはそう言うが、追加の味付けは必要ないだろう。このままでもおいしいというのは、見た目からビシバシ伝わっていた。
阿尼亚是这么说的,但是不需要追加调味吧。这样也很好吃,是从外观上传达出来的。
神に祈りを捧げ、いただく。
向神祈祷,领受。
「――むっ!?」
“——唔!?”
麺はもちもちとした歯ごたえがあって、ソースがよく絡んでいる。
面条有粘糯的嚼劲,酱汁缠得很好。
「麺、うまっ! っていうか、ソースが神がかり的な味がする!」
“面,很好吃!话说回来,酱汁有一种神灵般的味道!”
山羊のチーズと、新鮮な卵、そして豚の塩漬けが合わさり、絶妙なうまさを爆誕させている。噛めば噛むほど、おいしさを感じる料理だ。
山羊奶酪,新鲜的鸡蛋,还有猪肉的腌制相结合,诞生了绝妙的美味。越嚼越觉得好吃的料理。
「本当、おいしい」
“真的很好吃。”
「お口に合ったようで、よかったわ」
“好像合您的口味,太好了。”
アニャの絶品料理を、堪能させてもらった。
让我品尝了阿尼亚的绝品料理。
夜は、仕事はせずにのんびり過ごすらしい。
晚上好像不工作悠闲地度过。
「ねえ、イヴァン。カード遊びをしましょうよ」
“喂,伊凡,我们来玩纸牌吧。”
「カード?」
“卡?”
「ええ。お父様が木札で作った物があるの」
「是的,有父亲用木牌做的东西。」
マクシミリニャンオリジナルのカードらしい。いったいどんな物なのか、気になる。
好像是马克西米莉娜原创的卡。我很在意到底是什么样的东西。
アニャが木箱に収められたカードをテーブルに置いた瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
阿尼亚把装在木箱里的卡片放在桌子上的那一瞬间,开始下起了像打翻水桶一样的雨。
「え、何、この雨」
“啊,这雨是什么?”
「たまに、こういう雨が降るのだけれど――あ!!」
“偶尔会下这样的雨——啊!!”
アニャは顔色を青くさせ、叫んだ。
阿尼亚脸色发青,叫了起来。
「この勢いの雨は、蕎麦の種がダメになってしまうわ」
“这种气势的雨,荞麦面的种子就不行了。”
大地をえぐるような勢いである。このままでは、アニャの言う通り蕎麦の種は土から流れ出てしまうだろう。
气势汹汹。这样下去的话,正如阿尼亚所说,荞麦面的种子会从土里流出来吧。
アニャは寝室のほうへと駆け込む。戻ってきたときには、シーツを胸に抱いていた。
阿尼亚跑进卧室。回来的时候,我把床单抱在胸前。
「アニャ、どうしたの?」
“阿尼亚,怎么了?”
「このシーツで、畑を覆うのよ」
“用这个床单覆盖田地。”
「何を言っているんだ。この暗い中、作業をするのは危険だ」
“你在说什么?在这黑暗中工作很危险。”
「止めないで!」
“不要停止!”
雨に濡れてはいけない。それは、山での暮らしの決まりなのだろう。
你不要淋雨啦。那是在山上生活的规定吧。
「イヴァン、私は、あなたをはっ倒してでも、外に行くわ」
「伊凡,就算我打倒你,我也会出去的。」
アニャは、とんでもなく恐ろしい宣言をしてくれた。
阿尼亚给了我一个非常可怕的宣言。

933
042.md

@ -0,0 +1,933 @@
養蜂家の青年は、夜闇を走る!
养蜂家的青年,夜晚跑!
大変な事態となった。
事态严重啦。
大雨の中、アニャは外に出て、蕎麦の種を植えた畑にシーツを被せにいくという。
据说在大雨中,阿尼亚走出去,给种了荞麦种子的田地盖上床单。
滝のような雨である。もう、蕎麦の種なんて土から出てどこかに流されているだろう。
像瀑布一样的雨。荞麦面的种子已经从土里出来被冲走了吧。
「アニャ、こんな大雨の中に出ていったら、風邪を引いてしまう。止めるんだ」
“阿尼亚,在这样的大雨中出去的话,会感冒的,要停下来。”
「いやよ!!」
“不!!”
「どうして、そこまでするんだ?」
“为什么要这么做?”
「イヴァンと、結婚したいからよ!!」
“因为我想和伊凡结婚!!”
「ええ~……」
“嗯……”
結婚のために、ここまで蕎麦の種を気にしてくれるなんて。
为了结婚,竟然会在意荞麦面的种子。
アニャはすさまじい形相で、睨んでいる。とても、俺と結婚したい女性には見えない。
阿尼亚面目狰狞地瞪着。看起来不像是想和我结婚的女性。
「どいて、イヴァン!」
“让开,伊凡!”
「もう、アニャと結婚するから、外に行くのはやめなよ」
“我要和阿尼亚结婚了,你不要出去了。”
「いや!」
“不!”
「ちょっと待って。今度はどうしていやなの?」
“等一下。这次为什么不喜欢呢?”
「私は、蕎麦の芽が出たのを確認したあとで、イヴァンと結婚したいの! でないと、私のわがままで、無理に結婚させたみたいになるでしょう?」
“我在确认荞麦面发芽之后,想和伊凡结婚!不然,因为我的任性,会变得勉强让他结婚吧?”
「アニャ……」
“阿尼亚……”
アニャの瞳から、涙がぽろぽろと流れている。
从阿尼亚的眼睛里,眼泪滴滴答答地流着。
俺たちの結婚問題は、思っていた以上に深刻なものであった。
我们的结婚问题比想象的还要严重。
蕎麦の芽が出ないと、結婚させてもらえないらしい。
荞麦面不发芽的话,好像不能让我结婚。
「今からだったら、間に合うかもしれないわ。お願い、イヴァン、どいて」
“如果是现在开始的话,也许来得及。拜托,伊凡,让开。”
「わかった」
「明白了。」
一歩、一歩とアニャに接近し、手を差し出す。
一步一步地接近阿尼亚,伸出手来。
「な、何よ」
“什嚒?”
「アニャ、シーツ、貸して。俺が、やってくるから」
“阿尼亚,借我床单,我会来的。”
「そんな……! これは、私がやらなければならないことなのに」
“这……!这明明是我必须做的事情。”
「蕎麦の芽が云々と言いだしたのは、俺のほうだから」
“因为荞麦的芽是我说出来的。”
「で、でも、風邪を引いてしまう、わ」
“但是,我感冒了。”
「アニャは蜜薬師だから、風邪を引いても治してくれるでしょう?」
“阿尼亚是蜜药师,感冒了也能治好吧?”
そう言ったら、アニャは俺の手にシーツを預けてくれた。
这样说着,阿尼亚把床单寄存在了我的手里。
「ねえ、無理そうだったら、すぐに戻ってきて」
“喂,如果不行的话,马上回来。”
「わかった」
「明白了。」
「それから――」
“然后——”
「アニャ、早く行かないと、蕎麦の種が雨で流されちゃう」
“阿尼亚,不早点去的话,荞麦面的种子会被雨冲走的。”
「そ、そうね」
“是啊。”
手にはランタンを持ち、もう片方にはシーツを持つ。アニャが扉を開いてくれた。
手里拿着灯笼,另一边拿着床单。阿尼亚打开了门。
ドーーーーッと、激しい音を鳴らしながら雨が降っている。こんなに勢いのある雨は、初めてだ。
哇,一边发出激烈的声音一边下雨。这么有气势的雨,还是第一次。
「ね、ねえ、イヴァン。やっぱり、止めましょう」
“喂,喂,伊凡。还是停止吧。”
「いいや、止めない。アニャと植えた蕎麦の種は、守るから」
“不,不停。我会保护和阿尼亚种的荞麦种子。”
アニャの言葉を待たずに、外へ飛び出した。
没等阿尼亚的话,就跑出去了。
石つぶてのような雨が、全身を打つ。痛がっている暇はない。一目散に、畑を目指さなければいけないだろう。
像石头一样的雨,打了全身。我没有时间痛。必须一溜烟地以田地为目标吧。
ちなみに、雨に打たれたランタンは一瞬で消えた。
顺便说一下,被雨打的灯笼一瞬间就消失了。
こうなったら、勘で畑まで行くしかない。
这样的话,只能凭直觉去田地了。
幸い、夜に歩き回るのは慣れている。こういう、土砂降りの中で行動するのは初めてだけれど。
幸运的是,我习惯了晚上到处走动。在这样的倾盆大雨中行动还是第一次。
暗闇の中、順調に畑に到着するわけがなく、五回以上転ぶ。ドロドロの、びしょびしょだ。全身打ち身と擦り傷だらけの気がした。そんな状況でも、雨は容赦なく俺の体を打ち付けるように降っている。
黑暗中,不可能顺利到达田地,跌倒五次以上。粘糊糊的,湿透了。我感觉全身都是打伤和擦伤。即使在这种情况下,雨也毫不留情地打在我身上。
体が痛い。けれど、それ以上に心が痛かった。
身体痛。但是,比这更让我心痛。
アニャの涙が、頭から離れない。
阿尼亚的眼泪从脑海中挥之不去。
こうなったら、蕎麦の種には頑張ってもらわなければならないだろう。
这样的话,荞麦面的种子就必须努力了吧。
でないと、誰も救われない。
不然谁也救不了。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
“哈,哈,哈,哈。”
真っ暗な中で、だんだんと目が慣れてきた。
在黑暗中,眼睛渐渐习惯了。
離れの背後にある段差を登っていき、やっとのことで畑へと到着した。
登上了离开背后的台阶,终于到达了田地。
蕎麦の種を植えたのは、畑の端っこだ。
种了荞麦种子的是田地的角落。
もう、どんな状況かわからないけれど、とにかく、雨で種が流されないようにシーツを被せなければ。
虽然已经不知道是什么情况了,但总之,为了不让种子被雨冲走,必须盖上床单。
シーツが飛ばないようにするには、大きな石が必要である。
为了不让床单飞,需要一块大石头。
たしか、畑の周囲を囲む石があったはずだ。手探りで探す。
确实,应该有围绕田地周围的石头。摸索着找。
八個くらい、止めていればいいだろうか。
停八个左右就好了吗。
蕎麦の種が植えられているであろう範囲に、シーツを被せる。が、風が強くて、上手く広がらない。
在种植荞麦种子的范围内盖上床单。但是,风很大,不能很好地传播。
石を置いて、シーツを留めて回るしかないようだ。
好像只能放下石头,把床单留着转。
一つ目の石を置いたあと、突風が吹く。
放了第一块石头之后,刮起了暴风。
「うわっ!!」
“哇!!”
シーツは捲れ、どこかへ飛んでいってしまった。
床单卷起来,飞到什么地方去了。
「嘘でしょう……?」
“是骗人的吧……?”
この暗闇の中、シーツを探すのは困難だろう。ここまでやってきたのに、目的を達成できないなんて。
在这黑暗中寻找床单很困难吧。你都做到这个地步了,竟然达不到目的。
俺の人生は、本当についていない。そう思っていたが――。
我的人生真的不走运。我是这么想的——。
「イヴァン殿~~~~!!」
“伊凡大人~~~~!!”
「イヴァン~~~~!!」
“伊凡~~~~!!”
マクシミリニャンとアニャの声が聞こえた。
我听到了马克西米莉娜和阿尼亚的声音。
振り返ると、シーツを握りしめるマクシミリニャンの姿があった。
回头一看,看到了握着床单的马克西米莉娜的身影。
何やらどでかいランタンを持っていて、畑を明るく照らしてくれる。
有一个很大的灯笼,照亮了田地。
「シーツが飛んできたから、驚いたぞ」
“床单飞过来了,吓了我一跳。”
「おじさん……!」
“叔叔……!”
結局、アニャはいてもたってもいられず、マクシミリニャンを呼びに行ったようだ。
结果,阿尼亚坐立不安,好像去叫马克西米利尼亚了。
「話はあとよ! 畑にシーツを覆いましょう」
“先不说了!我们把床单盖在地里吧。”
「わかった」
「明白了。」
三人で力を合わせて、畑にシーツを広げる。端に石を載せて、飛ばないようにした。
三个人齐心协力,在田地里铺上床单。在边上放上石头,不让它飞。
「これでいいな」
“这样就好了。”
「ええ」
“是的。”
「早く帰ろう」
“快点回去吧。”
どでかいランタンで、道が明るく照らされる。
巨大的灯笼,道路被照亮了。
行きと同じ道なのに、ずいぶんと歩きやすい。
虽然是和去的路一样的路,但是很容易走。
苦を共にしてくれるアニャとマクシミリニャンの背中を見ていたら、瞼がじわりと熱くなる。
看着和我一起痛苦的阿尼亚和马克西米利尼亚的背,眼睑渐渐变热了。
少しだけ涙が出てしまったけれど、雨が流してくれた。
虽然流了一点眼泪,但是下雨了。
◇◇◇
◇◇◇
コーケコッコー!!
可可豆!!
鶏の鳴き声で目覚める。カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでいた。
被鸡叫声吵醒。阳光从窗帘的缝隙中射进来。
雨は、止んだようだ。
雨好像停了。
昨晩は、マクシミリニャンが用意してくれた風呂に入り、アニャに傷の治療をしてもらったあと、母屋で泥のように眠った。
昨天晚上,我洗了马克西米利尼亚准备的澡,让阿尼亚治疗伤口后,在开间睡得像泥一样。
全身が、痛い。雨の中、転びまくったせいだろう。
全身都痛。大概是因为在雨中摔倒的缘故吧。
せっかく顔の傷が治りつつあったのに、新しい傷を作ってしまった。
好不容易脸上的伤治好了,却造成了新的伤。
むくりと起き上がる。
突然站起来。
寝間着はマクシミリニャンのものなので、ぶかぶかだ。離れに戻って、着替える。
睡衣是马克西米利尼亚的,所以很臃肿。回去换衣服。
顔を洗い、髭を剃り、歯を磨き終えたところで、外からアニャの声が聞こえた。
洗完脸、刮胡子、刷牙后,外面传来了阿尼亚的声音。
「イヴァン、イヴァン~~!!」
“伊凡,伊凡~!!”
「ここにいるよ」
“我在这里。”
勝手口から顔を覗かせると、アニャが走ってやってくる。
从胜算中露出脸,阿尼亚跑过来。
「蕎麦を、見に行きましょう」
“去看荞麦面吧。”
「うん、そうだね」
“嗯,是啊。”
正直、期待はしていない。だって、あの土砂降りだったし。
老实说,我没有期待。因为是那场倾盆大雨。
アニャと二人、無言で畑を目指す。
和阿尼亚两个人无言地以田地为目标。
石垣を登った先にある畑は――水浸しだった。
登上石墙前面的田地——被水淹了。
「信じられない……」
“真不敢相信……”
みんなで被せたシーツは捲れ上がり、畑の畦道の上でぐちゃぐちゃになっていた。
大家盖的床单卷起来,在田埂上乱糟糟的。
当然、蕎麦の種を植えた辺りも、水没している。あの大雨だ。こうなるのも、仕方がないだろう。
当然,种了荞麦种子的地方也被水淹没了。就是那场大雨。这样也没办法吧。
畑に溜まった水が、青空を映しだしている。
田里积存的水映出了蓝天。
蕎麦の種の件がなければ、素直に美しいと思っただろう。
如果没有荞麦面的种子的话,会坦率地觉得很美吧。
今は、ひたすら雨水が憎らしい。
现在,一味地讨厌雨水。
自然は残酷だ。どんなに頑張っても、抗うことなんてできないのだ。
大自然是残酷的。无论怎么努力,也不能反抗。
アニャは畑の前に立ち、動こうとしない。
阿尼亚站在田地前,不肯动。
「アニャ、帰ろう」
“阿尼亚,我们回去吧。”
そう声をかけたのに、アニャは畦道のほうへと駆け出す。
虽然这样打了招呼,但是阿尼亚却向田埂跑去。
「アニャ?」
“阿尼亚?”
何か見つけたのか。アニャのあとを追いかける。
你找到什么了吗。追赶阿尼亚。
アニャは、シーツの前にしゃがみ込んでいた。
阿尼亚蹲在床单前。
「どうしたの?」
“怎么了?”
アニャは振り返り、大粒の涙を零していた。
阿尼亚回头看了看,流下了大颗的眼泪。
「イヴァン、これっ――」
“伊凡,这个——”
しゃがみ込んで、アニャが指差すものを見た。
蹲下,看到阿尼亚指着的东西。
それは、シーツの隙間から生える、蕎麦の芽だった。小さいけれど、しっかり発芽している。
那是从床单的缝隙中长出来的荞麦的芽。虽然很小,但是发芽很好。
「蕎麦の、芽、だ」
“荞麦面的芽”
「そうよ。一つだけ、芽が、出ていたの!」
“是啊。只有一个,发芽了!”
信じられない。あの状況の中で、蕎麦が生きていたなんて。
真不敢相信。在那种情况下,荞麦面竟然还活着。
昨晩の思い切った行動は、無駄ではなかったのだ。
昨晚果断的行动并不是徒劳的。
「よかった~~~~!!」
“太好了~~~!!”
そう言って、さらに涙を流すアニャを、ぎゅっと抱きしめる。
这样说着,紧紧地抱住流着眼泪的阿尼亚。
幼子をあやすように、背中を優しく撫でた。
像哄幼子一样,温柔地抚摸着背。
この国には、蕎麦にまつわる古い言葉がある。
这个国家有关于荞麦面的古老语言。
“新しい場所で蕎麦の種を蒔いて、三日以内に芽がでてきたら、そこはあなたの居場所です”
“在新的地方播种荞麦种子,三天之内发芽的话,那里就是你的住处”
蕎麦の芽は、出た。
荞麦的芽出来了。
ここが、俺の居場所なのだ。
这里就是我的住处。
***
***
毎日更新にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
谢谢你每天陪我更新。
一部、完です。
一部分,完成。
以降は、不定期更新でお届けする予定です。
以后,预定不定期更新送交。
二部より始まります、アニャとの新婚生活編を、どうぞよろしくお願いいたします。
从二部开始,请多多关照和阿尼亚的新婚生活篇。
そして、長らく受け付け停止をしておりました感想欄も、本日より解放しております。
而且,长期停止受理的感想栏也从今天开始解放。
何かご感想がありましたら、お聞かせいただけたら幸いです。
如果有什么感想的话,能告诉我就太好了。
それでは、引き続き『養蜂家と蜜薬師の花嫁』を、よろしくお願いします。
那么,请继续关照《养蜂家和蜜药师的新娘》。

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043.md

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幕間 ツィリルの花畑養蜂園記録
幕间齐里尔的花田养蜂园记录
イヴァン兄(にぃ)がいなくなってから、花畑養蜂園はとんでもない状態になってしまった。
自从伊凡哥哥不在之后,花圃养蜂园就变成了意想不到的状态。
「ねえ、これ、どうするんだっけ?」
“喂,这个,怎么办?”
「わからないわ! いつも、イヴァンがしていたものですもの!」
“我不知道!一直都是伊凡做的!”
イヴァン兄は、花畑養蜂園の“柱”だった。名前のない仕事を毎日せっせとこなし、花畑養蜂園をしっかり支えていたのだろう。
伊凡哥哥是花圃养蜂园的“支柱”。每天拼命地做着没有名字的工作,好好地支撑着花田养蜂园吧。
イヴァン兄がいなくなった今、みんな混乱状態になっていた。
伊凡哥哥不在的现在,大家都处于混乱状态。
仕事が思うように片づかず、作業は暗くなってからも行われていた。
工作没有按照想象的那样整理,工作在天黑之后也进行着。
みんな、くたくただった。
大家都累了。
イヴァン兄の偉大さを、改めて実感してしまう。
再次感受到伊凡哥哥的伟大。
人のいいイヴァン兄は、仕事の流れを書き起こしたものを残してくれていた。
人好的伊凡哥哥,留下了写下工作流程的东西。
仕事を覚えた日に、長年かけてコツコツ書いていたものなのだろう。一枚目とおぼしき紙は、色あせていて端がボロボロだった。
这是在学会工作的日子里,长年孜孜不倦地写的吧。好像是第一张纸,褪色了,边缘破烂不堪。
けれど、それも活用されないまま、放置されている。
但是,那个也没有被活用,被放置着。
女性陣のほぼ全員、文字が読めないのだ。物心ついたときから働いていたので、文字を習う暇がなかったらしい。
几乎所有的女性阵容都看不懂文字。因为从懂事的时候开始工作,所以好像没有时间学习文字。
伯父さん達だって、読める人はごく一部。
即使是伯父们,能读的人也只有一小部分。
これは我が家だけではない。街の人達もそうだろう。
这不仅仅是我家。街上的人们也是这样吧。
学校は金持ちが通うところという認識なので、読めなくても生きていける。
因为学校是有钱人上学的地方,所以即使读不懂也能活下去。
イヴァン兄は教師だったお祖父ちゃんから習ったらしい。俺も、少しだけ教えてもらった。半分くらいなら、読める。
伊凡哥哥好像是从当教师的祖父那里学到的。我也请教了一点。一半左右的话,能读。
読んであげようかと言っても、それを聞く時間なんてないと返されてしまった。
虽然说要给你读,但是没有时间听的话就被还给了。
みんな、朝からバタバタだ。特に、お祖母ちゃんが一番忙しそう。
大家从早上开始就忙得不可开交。特别是祖母好像最忙。
いつでもどしんと構えて、何があっても動じない人だと思っていた。けれど、イヴァン兄が出て行ったことによって、余裕がなくなっているように思える。
我一直认为他是一个无论发生什么都不会动摇的人。但是,由于伊凡哥哥出去了,我觉得没有多余的时间了。
信じられないことだが、俺すら当たり前のように知っていることを、みんな知らないのだ。
虽然是难以置信的事情,但是连我都理所当然地知道的事情,大家都不知道。
「ツィリル、給餌器の換えはどこにあるか知っている?」
“齐丽尔,你知道喂食器在哪里换吗?”
「第二倉庫の、左側にある棚の上だよ」
“在第二仓库左边的架子上。”
「ありがとう」
“谢谢。”
イヴァン兄に習ったことをいろいろ教えていたら、一日中「ツィリル!」、「ツィリル!」と名前が叫ばれるようになった。
教了伊凡哥哥很多学过的东西后,一整天都会叫“齐里尔!”、“齐里尔!”。
以前まで、「イヴァン!」、「イヴァン」だったのが、俺にすり替わっている。
以前,“伊凡!”、“伊凡”都换成了我。
このままではいけない。そう思って、情報料とお手伝い賃を取るようにした。飴玉一個とか、クッキー一枚とか、そんなささいなものである。
你不能再这样下去啦。我这样想着,就收了信息费和帮助费。一个糖球,一块曲奇,都是那样的小东西。
けれど、みんな怒った。
但是,大家都生气了。
これまで、イヴァン兄が無償でしてくれたので、腹が立ったのだろう。ここで負けるつもりはない。「だから、イヴァン兄は出て行ったんだよ」と言うと、しぶしぶと対価をくれるようになった。
到现在为止,因为伊凡哥哥免费给我,所以很生气吧。我不打算在这里输。“所以,伊凡哥哥离开了。”。
同時に、お祖母ちゃんはこのままではいけないと思ったのだろう。家を変えようと、改革を行った。
同时,奶奶也觉得不能这样下去吧。为了换房子,进行了改革。
これまで働いていなかった伯父さん達に、労働を命じたのである。
命令至今为止没有工作的伯父们劳动。
当然、反発が起こった。
当然,发生了反对。
だが、お祖母ちゃんは負けない。
但是,祖母不会输。
反発を行った者には、食事を出さないようにしたのだ。
对进行反对的人,不让他们吃饭。
衣食住を支えていたのは、女性陣。自分達がこれまで誰に依存して生きていたか、知らなかったのだろう。
支持衣食住行的是女性阵容。不知道我们至今为止依赖谁活着吧。
人はお腹が空くと、根本の考えを変えてしまうらしい。
人一旦饿了,就会改变根本的想法。
伯父さん達は、イヤイヤながらも働くようになった。
伯父们虽然讨厌但也开始工作了。
ただ、みんなで力を合わせて働いても、イヴァン兄にしかわからない問題が浮上する。
但是,即使大家齐心协力工作,也会出现只有伊凡哥哥才知道的问题。
それは、蜜蜂の病気について。対処法が書いていたものの、なんだか難しくて、イマイチ理解できないでいた。
那是关于蜜蜂的病。虽然写了处理方法,但总觉得很难,不能理解。
そんな中で、サシャ兄が戻ってくる。
在这种情况下,萨沙哥哥回来了。
俺はすぐさま叫んだ。サシャ兄も、病気の対処法を知っていると。
我立刻喊了起来。萨沙哥哥也说他知道如何处理疾病。
その昔、サシャ兄とイヴァン兄は、揃って養蜂園で働いていた。イヴァン兄が知っていることは、ほとんどサシャ兄も知っている。
从前,萨沙哥哥和伊凡哥哥都在养蜂园工作。伊凡哥哥知道的事情,几乎连萨沙哥哥都知道。
お祖母ちゃんは嫌がるサシャ兄を引きずって養蜂園に連れて行き、病気の対策をさせた。
奶奶把讨厌的萨沙哥哥拉到养蜂园,让他治病。
その後、蜜蜂の病気は治り、養蜂園に平和が訪れたのだ。
之后蜜蜂的病治好了,和平来到了养蜂园。
みんな、イヴァン兄がいなくなってから、変わろうとしている。
大家,自从伊凡哥哥不在之后,都在改变。
サシャ兄でさえ、最近は自分から働くようになっていた。
即使是萨沙哥哥,最近也开始自己工作了。
イヴァン兄の友達であるミハルも、驚くほどであった。
伊凡哥哥的朋友米哈尔也很吃惊。
みんな、いい方向へと向かっているような気がする。
我觉得大家都朝着好的方向前进。
イヴァン兄のおかげだろう。
多亏了伊凡哥哥吧。
ただ、ロマナ姉ちゃんだけは、いい方向へ向かっていないらしい。
只是,只有罗曼娜姐姐好像没有往好的方向走。
修道女がお祖母ちゃんを訪ねにやってきて、「具合を悪くしているので見舞いに来てくれないか」と頼み込みにきたのだ。
修女来找奶奶,拜托她说:“我身体不舒服,能来看看我吗?”。
誰にも看病させずに、一人で苦しんでいるらしい。
不让任何人看护,好像一个人很痛苦。
ちなみに、サシャ兄はロマナ姉ちゃんと会えないようになっている。まあ、当たり前だけれど。
顺便说一下,萨沙哥哥不能和罗曼娜姐姐见面了。嗯,当然了。
この辺の問題は、時間が解決するものだと、お祖母ちゃんが言っていた。
奶奶说这附近的问题是时间解决的。
よくわからないけれど、いつかロマナ姉ちゃんが笑顔で働けるようになってほしいと願っている。
虽然不太清楚,但希望有一天罗曼娜姐姐能笑着工作。
イヴァン兄は、今頃どうしているだろうか?
伊凡哥哥现在怎么样了?
あの、優しいおじさんのもとで、かわいいお嫁さんと幸せに暮らしていたらいいなと思った。
那个,在温柔的大叔身边,和可爱的妻子幸福地生活着就好了。

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044.md

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養蜂家の青年は、結婚前に話を聞く
养蜂家的青年在结婚前听故事
かつての俺は、養蜂家として、ただただがむしゃらに働くばかりだった。
以前的我,作为养蜂家,只是拼命地工作。
家族にいいように使われている自覚はあったものの、蜜蜂のためを思って世話を続けた。
虽然有被家人很好地使用的自觉,但是为了蜜蜂而继续照顾着。
そんな考えが、家族の歪みの原因になっていたのかもしれない。
这样的想法可能是家庭扭曲的原因。
双子の兄の嫁ロマナが、俺への好意を吐露した瞬間に、家族の関係にヒビが入ってしまった。
双胞胎哥哥的媳妇罗曼娜吐露对我的好意的瞬间,家人的关系出现了裂痕。
家を出る決意を固め、偶然出会ったマクシミリニャンの娘、アニャとの結婚を決意する。
下定决心离家出走,与偶然相遇的马克西米莉娜的女儿阿尼亚结婚。
生まれ育ったブレッド湖の光景を背にしながら、旅立った。
背着土生土长的布莱德湖的景象,踏上了旅程。
そして、ボービン湖を取り囲む山を登ったのだ。
然后,登上了围绕着波文湖的山。
マクシミリニャンの娘アニャは、息を呑むほど美しかった。
马克西米莉娜的女儿阿尼亚美得令人窒息。
金の髪は三つ編みをクラウンのように巻き、昼間は後頭部でまとめ、夜はそのまま流している。アーモンドのような大きな瞳は、まるで青空を映しだしているかのように澄みきっていた。ふっくらとした唇は、いつも弧を描いている。
金发像皇冠一样卷着,白天用后脑勺扎起来,晚上就这样流着。像杏仁一样大的眼睛,就像映照出蓝天一样清澈。丰满的嘴唇,总是画着弧线。
くるくると変わる表情は、どれだけ眺めていても飽きない。
转来转去的表情,无论看多少都不会厌倦。
アニャは明るく、太陽のような少女だった。
阿尼亚是一个阳光明媚,像太阳一样的少女。
マクシミリニャンからは十九だと聞いていたが、見た目は完全に十三、四くらいの少女にしか見えない。
从马克西米利尼亚那里听说是十九,看上去完全是十三、四个左右的少女。
正真正銘十九歳だが、なんでもアニャは未熟児として生まれたらしい。助産師によれば、十歳まで生きられるかわからないとまで言われていたようだ。
确实是十九岁,但不管怎么说阿尼亚好像是作为早产儿出生的。据助产师说,甚至不知道能不能活到十岁。
予想に反し、アニャは元気いっぱい、健康な娘に育った。
与预想相反,阿尼亚成长为一个精力充沛、健康的女儿。
けれど、十九になった今も、初潮がきていないという。つまり、子どもを産める状態にないのだ。
但是,据说到了十九岁的现在,初潮还没有来。也就是说,没有生孩子的状态。
それを知って尚、俺はアニャとの結婚を受け入れた。
知道了那个之后,我接受了和阿尼亚的结婚。
アニャは子どもを産めないから結婚はできないと言っていたが、俺にとっては大きな問題ではない。
阿尼亚说因为不能生孩子所以不能结婚,但对我来说不是大问题。
義姉を何人も見てきて思うのは、妊娠、出産は女性の負担があまりにも大きすぎるというもの。
看了好几个大嫂,我觉得怀孕、生孩子对女性的负担太大了。
アニャの母親は産じょく熱で亡くなってしまったというし、家系的にあまり妊娠、出産に強くないのかもしれない。アニャの小さな体では、命を削ってしまうほどの負担になるだろう。だから、別に子どもなんていなくてもいいと思っている。
据说阿尼亚的母亲因为生育热而去世了,从家系上来说可能不太擅长怀孕和生育。阿尼亚小小的身体,会成为削减生命的负担吧。所以,我觉得没有孩子也可以。
理解があるといっても、アニャは結婚できないというので、俺たちは結婚を蕎麦の種に賭けることとなった。三日以内に蕎麦の芽が出たら、アニャと結婚する。そう宣言した。
虽说有理解,但因为阿尼亚不能结婚,所以我们把结婚赌在了荞麦面的种子上。如果三天之内荞麦面发芽的话,就和阿尼亚结婚。我这样宣布了。
見事、三日目に蕎麦の芽は土から顔を覗かせたのだ。
漂亮,第三天荞麦的芽从土里露出了脸。
そんなわけで、俺とアニャは結婚することとなった。
因此,我和阿尼亚结婚了。
◇◇◇
◇◇◇
結婚する前に、マクシミリニャンより話があるという。何やら、決まりを話すようだ。
据说在结婚之前,他比马克西米利尼亚更有话要说。好像说了什么规定。
アニャと二人並んで、話を聞く。
和阿尼亚两个人并排听故事。
「まず、我のことは、お義父様と呼ぶように」
“首先,请叫我公公。”
「呼び方は“お義父様”、で決まっているんだ」
“称呼是由‘公公’来决定的。”
「何か言ったか?」
“你说了什么?”
「なんでもないです、お義父様」
“没什么,公公。”
マクシミリニャンは満足げな表情で、コクコクと頷いた。
马克西米利尼亚带着满意的表情,咯吱咯吱地点头。
「次に、二人で仲良く母屋で暮らすこと」
“接下来,两个人好好地在开间生活。”
俺が使っていた離れは、客人用なので開けておくように言われた。
我用的离开是客人用的,所以被要求打开。
「あとは、頼むから、アニャを大事に、幸せにしてやってくれ」
“还有,拜托了,好好珍惜阿尼亚,让他幸福吧。”
「それはもちろん、そのつもり」
“那当然是打算。”
アニャのほうをチラリと見たら、胸に手を当てて頬を赤く染めていた。可愛いやつめ。
看了阿尼亚一眼,手贴在胸前,脸颊被染成了红色。可爱的家伙。
続いて、マクシミリニャンのほうを見ると、同じく胸に手を当てて頬を染めていた。こっちはまったく可愛くない。
接着,看着马克西米利尼亚,同样把手贴在胸前染着脸颊。我一点也不可爱。
「話は、以上だ。これ以上、我は干渉しない。何か起こっても、夫婦の問題としてよく話し合い、解決するように」
“话到此为止。我不会再干涉了。无论发生什么,都要作为夫妻的问题好好商量,解决。”
「わかった」
「明白了。」
アニャもコクコクと頷く。
阿尼亚也点头。
「教会へは、いつ行くか?」
“什么时候去教堂?”
夫婦となるには、神父から祝福を受けないといけない。
要成为夫妻,必须得到神父的祝福。
「っていうか、結婚式とかしないの?」
“话说回来,不举行婚礼吗?”
「招く親戚はいないからな。この辺では、二人で教会に向かい、祝福を受けて、夫婦となる者が多い」
“因为没有亲戚邀请。在这一带,有很多人两个人去教堂,接受祝福,成为夫妇。”
「そうなんだ」
“是啊。”
行くならば、流蜜期になる前がいいだろう。八時間かかる登山と下山を考えたら、うんざりしてしまうけれど。
如果要去的话,最好是到流蜜期之前吧。考虑到要花八个小时的登山和下山,我会厌烦的。
「アニャ、どうする? いつ行く?」
“阿尼亚,怎么办?什么时候去?”
「別に、教会での祝福は、必要ないんじゃない? 私達の結婚は、蕎麦の芽が認めてくれたわけだし」
“另外,在教会的祝福不是没有必要吗?我们的结婚是荞麦芽认可的。”
「それはそうだけれど、形式的なものも、大事だと思うけれど?」
“虽然是这样,但我觉得形式上的东西也很重要。”
マクシミリニャンもそうだと頷く。
马克西米利尼亚也点头同意。
「正直に言えば、教会が、少し苦手なの。だから、別に祝福はしなくてもいいわ」
“老实说,我有点不擅长教会。所以,不用再祝福了。”
「うーん。まあ、アニャがそう言うなら、教会での祝福はなしの方向で」
“嗯。嗯,如果阿尼亚这么说的话,在教会的祝福就在没有的方向上。”
今、この瞬間から、アニャと夫婦ということになった。
现在,从这一瞬间开始,就和阿尼亚成为了夫妇。
「まあ、教会に行かずとも、一度二人で街に行くとよい。イヴァン殿も、必要な買い物があるだろう?」
“嗯,即使不去教堂,两个人去一次街上就好了。伊凡大人也有需要的东西吧?”
確かに、着替えなどの生活必需品は買い足す必要がある。
确实,换衣服等生活必需品需要添购。
アニャを付き合わせるのは悪いと思っていたが――。
我觉得让阿尼亚交往是不好的——。
「お父様、いいの!?」
“爸爸,可以吗!?”
「ああ、ゆっくり買い物を楽しんでくるとよい」
“啊,慢慢地享受购物就好了。”
「やったー!」
“太好了!”
アニャは買い物を、大いに喜んでいるようだった。
阿尼亚对购物似乎非常高兴。
ひとまず、買い物は流蜜期に向けての準備を行ってから行くこととなる。
首先,购物是在为流蜜期做准备之后再去的。
◇◇◇
◇◇◇
流蜜期は、巣から蜜が流れるほど花蜜を集める。どんどん貯めていき、巣箱は蜜で満たされてしまうのだ。場所がなくなると、女王が卵を産み付けるスペースにまで蜜を貯め込むので、注意が必要である。
流蜜期,蜜从巢流出来的那样收集花蜜。不断地存钱,巢箱里充满了蜜。如果没有地方的话,连女王产卵的空间都会储存蜜,所以需要注意。
蜜蜂の寿命は約四ヶ月間。このシーズンに生まれる蜜蜂が減ると、あとあと採れる蜂蜜の量に影響が出る。
蜜蜂的寿命约为四个月。这个季节出生的蜜蜂减少的话,会对之后采摘的蜂蜜的量产生影响。
巣箱の状況を把握し、必要であれば巣枠を追加しなければならないのだ。
掌握巢箱的状况,必要的话必须追加巢框。
午前中は巣枠を作り、午後からは巣箱の点検に向かう。
上午制作巢框,下午开始前往巢箱的检查。
アニャと共に大角山羊に跨がり、崖を登り、斜面を走り抜け、川を飛び越える。
和阿尼亚一起跨上大角山羊,爬上悬崖,穿过斜坡,飞越河流。
すべて見回ったあとは、川縁で休憩する。
全部巡视之后,在河边休息。
今日は日差しが強く、汗でびっしょりだ。川に飛び込みたい気分だが、さすがにまだ春なので風邪を引くだろう。それに、川の流れは速いし、深さもかなりのものだろう。今日のところは、顔を洗うだけにしておいた。
今天阳光很强,汗流浃背。虽然想跳进河里,但毕竟还是春天,所以会感冒吧。而且,河的水流很快,深度也相当大吧。今天只洗了脸。
水が滴る顔を拭こうと、背後に置いた布へ手を伸ばす。
为了擦拭滴水的脸,把手伸向放在背后的布。
「はい、どうぞ」
“好的,请。”
「アニャ、ありがとう」
“阿尼亚,谢谢。”
親切なアニャが、布を手渡してくれた。
亲切的阿尼亚把布递给了我。
「今日は、暑いわね」
“今天真热啊。”
「だね」
「是啊。」
隣に座るアニャがもぞもぞ動いていたので、何をしているのかと見つめる。
坐在旁边的阿尼亚扭动着,凝视着他在做什么。
靴を脱ぎ、スカートを膝までたくしあげ、川に脚を浸け始めた。
脱下鞋子,把裙子挽到膝盖,开始把脚泡在河里。
白い脚が、これでもかと晒される。
白色的脚,即使这样也会暴露出来。
「アニャ、何を――!」
“阿尼亚,你在干什么——!”
「こうしていると、気持ちいいわよ」
“这样做的话,会很舒服的。”
「いや、若い娘が、脚を他人に見せるなんて」
“不,年轻的女儿竟然把脚给别人看。”
「なんで? 私達、夫婦じゃない」
“为什么?我们不是夫妻。”
「あ。そうだった」
“啊,是的。”
見てはいけないと思ったが、アニャは俺のお嫁さんだ。脚なんて、いくらでも見ても許されるのだ。
我以为你不能看,但是阿尼亚是我媳妇。脚什么的,无论看多少都是允许的。
じっと見つめていたら、アニャは川から脚を引き抜き、たくしあげたスカートを元に戻す。
盯着看,阿尼亚从河里抽出脚,把卷起的裙子放回原处。
「アニャ、もういいの?」
“阿尼亚,够了吗?”
「あなたが見るから、恥ずかしくなったのよ」
“因为你看了,我才害羞的。”
「恥ずかしくないじゃん。俺たち、夫婦なんだから」
“你不觉得羞耻嘛,我们是夫妻。”
「夫婦でも、恥ずかしいものは、恥ずかしいの」
“即使是夫妻,害羞的东西也会害羞。”
脚を拭くので、別の方向を向いておくように命じられる。
因为要擦脚,所以被命令朝着别的方向。
夫婦だからいいというのは、すべての物事に当てはまらないようだ。
因为是夫妻就好,似乎不适用于所有的事情。

599
045.md

@ -0,0 +1,599 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と夜を過ごす
养蜂家的青年和蜜药师的新娘一起度过了夜晚
アニャと結婚しても、山で過ごす日々に変わりはないと思っていた。
我觉得即使和阿尼亚结婚,在山上度过的日子也不会改变。
母屋の奥にある寝室を、案内されるまでは。
在被带去主屋里面的卧室之前。
「ここが、寝室よ」
“这里就是卧室。”
そこまで広い部屋ではないが、どでかい寝台がドン! と置かれていた。
虽然不是那么大的房间,但是有很大的卧铺!被放着。
寝台の中心で、アニャの愛犬ヴィーテスがぐうすかいびきをかきながら眠っている。
在卧铺中心,阿尼亚的爱犬维特斯打着呼噜睡着了。
紹介されて以来、姿を見ていなかったが、だいたい外か家の中で眠っているという。実に羨ましい生活を送っているものだ。
自从被介绍以来,虽然没有看到他的身影,但据说他基本上都在外面或家里睡觉。真是羡慕的生活啊。
「それにしても、立派な寝台だね」
“即便如此,这也是很好的卧铺啊。”
「笑っちゃうでしょう? 私が十二の誕生日に、お父様がくれたの。手作りなのよ」
“你会笑吧?我十二岁生日的时候,爸爸送给我的,是我亲手做的。”
何年も何年も乾燥させた栗の木で作った、気合いが入りまくりの寝台である。
这是用干燥了好几年好几年的栗子树做的,充满干劲的卧铺。
木目が美しく、手触りも上質だ。
木纹很美,手感也很好。
「いつか、私が結婚して、旦那様と使うことを想定して作ってくれていたのよ」
“是为了设想总有一天我结婚后和丈夫一起使用而制作的。”
そのころから、アニャは結婚しないだろうと予想していたようだ。
从那时起,阿尼亚似乎就预料到他不会结婚。
「どうして? 十二だったら、初潮がなくても、別におかしくない年頃でしょう?」
“为什么?十二岁的话,即使没有初潮,也不奇怪吧?”
「そうだったけれど、私は、ここを捨てて嫁げないから」
“虽然是这样,但是我不会扔下这里出嫁的。”
「どういうこと?」
“什么意思?”
「こんな山奥に、婿にきてくれる男の人なんて、いないだろうなって思っていたの」
“我想在这样的深山里,应该没有男人来找我吧。”
「ああ、そういうこと」
“啊,就是这么回事。”
たしかに、麓の村で暮らす者に、ここでの生活は難しいかもしれない。何もかもが、異なる。
确实,对于生活在山脚下的村子里的人来说,在这里的生活可能很难。一切都不一样。
「イヴァンも、驚いたでしょう? 不便だし、やたら忙しいし」
“伊凡也很吃惊吧?又不方便,忙得不可开交。”
「うーん。空気が薄いのは驚いたけれど、もう慣れたし、不便だとは思わないよ。別に忙しくないし。むしろ、豊かな生活なんじゃない?」
“嗯。空气稀薄让我很吃惊,但我已经习惯了,也不觉得不方便。我也不忙。倒不如说,这不是很富裕的生活吗?”
「ここの暮らしが、豊か?」
“这里的生活富裕吗?”
「うん。アニャもお義父様も、生き急いでいない感じがして。自然に身を任せているっていうか、なんというか。自分で言っていて、意味がわからなくなってきた」
“嗯。阿尼亚和公公都觉得活得不急。是自然地把自己交给别人,怎么说呢?自己说的话,就不明白什么意思了。”
とにかく、実家で働いていたときとは、時間の流れがまるで異なるのだ。
总之,和在老家工作的时候,时间的流逝完全不同。
「実家にいたときは、一日中ひたすら忙しくて、夜は死んだように眠ってっていう毎日だったんだ。でも、ここでは、食事を味わったり、景色を眺めたり、アニャやお義父様とゆっくり喋ったり。そういう時間があるのって、豊かだなって思うんだ」
“在老家的时候,一整天都很忙,晚上就像死了一样睡觉。但是,在这里,品尝美食,眺望景色,和阿尼亚和继父悠闲地聊天。有这样的时间,我觉得很丰富。”
「そんなふうに思ってくれていたんだ。よかった」
“你是这么想我的,太好了。”
アニャは安心したように、微笑む。
阿尼亚安心地微笑着。
ここで暮らす中で、彼女の笑顔だけは曇らせてはいけない。改めて、そう思った。
在这里生活中,不能让她的笑容变得模糊。我再次这样想。
「お風呂に入ってくるわ。イヴァンは、先に寝ていてもいいから」
“我去洗澡了,伊凡可以先睡觉了。”
「うん、わかった」
“嗯,知道了。”
ここで、気づく。今日は、アニャとこの寝台で眠るということに。
在这里注意到。今天和阿尼亚在这个卧铺上睡觉。
新婚夫婦には、初夜という儀式がある。
新婚夫妇有一种叫做初夜的仪式。
しかし俺たちには、特に必要のないものだろう。
但是对我们来说,没有什么特别的必要吧。
先に寝ておけと言われたし。
我让你先睡觉。
寝台を覗き込むと、真ん中を陣取ったヴィーテスが腹をぷうぷう膨らませながら眠っている。
窥视着卧铺,占据正中间的维特斯一边鼓起肚子一边睡觉。
彼が真ん中にいるので、特にアニャを気にすることなく眠れそうだ。
因为他在中间,所以不用特别在意阿尼亚就能睡着。
寝台に乗ると、ヴィーテスがパチッと目を覚ました。
坐上卧铺,维特斯啪地一声醒来。
「あ、起こして、ごめん」
“啊,不好意思吵醒你了。”
「わふっ!」
“哇!”
ヴィーテスはひと鳴きすると、起き上がる。のっそりと寝台から降りて、床の上に敷かれていた大判の布の上で再び横たわる。そのまま、眠ってしまった。
维特斯叫了一声就起来了。慢慢地从卧铺上下来,在铺在地板上的大金币布上再次躺下。就这样睡着了。
「え、ちょっと待って!」
“啊,等一下!”
このままでは、アニャと二人きりで眠ることになる。ヴィーテスに寝台で寝てもいいと言っても、びくともしない。
这样下去的话,会和阿尼亚两个人一起睡觉。对维特斯说你可以睡在卧铺上,他也不害怕。
説得している間に、アニャが戻ってきた。
在劝说的时候,阿尼亚回来了。
「イヴァン、何をしているの?」
“伊凡,你在干什么?”
「いや、ヴィーテスが、床の上で寝ようとしているから」
“不,因为维特斯要睡在地板上。”
「ヴィーテスは、いつもそこで寝ているのよ」
“维特斯总是在那里睡觉。”
「そ、そうなんだ」
“是,是这样。”
冬は暖かそうだなとか思っていたものの、一緒に眠らないようだ。寝台は誰も使っていないときだけ、占領しているらしい。
虽然觉得冬天好像很暖和,但是好像不一起睡觉。卧铺好像只有在没有人使用的时候才被占领。
風呂上がりのアニャは、頬を赤く染め、いつもは結んでいる長い髪をそのまま流していた。寝間着は、首から足首まで、いっさい露出がないシュミーズドレスである。
洗完澡后,阿尼亚的脸颊被染成红色,一直系着的长发就这样流着。睡衣是从脖子到脚踝完全不露出的短礼服。
助かったと思ったのは、ほんの数秒だった。
我以为得救了,只有几秒钟。
ランタンの光がシュミーズドレスを透し、アニャの体のラインをこれでもかと見せてくれた。慌てて顔を逸らすも、しっかり見てしまった。
灯笼的光透过了施密斯礼服,让我看到了阿尼亚的身体线条。慌忙把脸移开,也看得很清楚。
凹凸のある胸から尻までの線に、すらりとした長い脚。
从凹凸的胸到屁股的线,苗条的长腿。
いやいやいや、忘れろ忘れろと、呪文のように脳内で唱える。
不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不不。
マクシミリニャンの顔を思い浮かべたら、気持ちがだいぶ落ち着いた。
一想到马克西米利尼亚的脸,心情就平静了很多。
「イヴァン、どうしたの?」
“伊凡,怎么了?”
「なんでもない」
“没什么。”
もう、寝てしまえ。そう思って、半ばヤケクソな気分で布団に寝転がった。
已经睡了。这样想着,半吊子的心情躺在被窝里。
「あ、そうだ」
“啊,对了。”
「な、何!?」
“什么,什么!?”
「薬を塗りましょう」
“涂点药吧。”
「あ、うん。そうだね」
“啊,嗯。”
サシャにボコボコにされた傷はほとんど治ったものの、雨降る夜に畑に行くまで転びまくり新しい傷を作ってしまったのだ。
虽然被沙沙弄得伤痕累累的伤口几乎都治好了,但是在下雨的夜晚,直到去田地为止,一直摔倒,造成了新的伤口。
アニャにランタンを持っているように命じられる。
被阿尼亚命令拿着灯笼。
「大人しくしていてね」
“老实点。”
「了解」
“确定”
アニャが目の前に座った途端、目を閉じた。これで、何も見えない。安心だ。
阿尼亚一坐在眼前,就闭上了眼睛。这样的话,什么都看不见。放心吧。
けれど、目を閉じたので、服がすれる音や、アニャの息づかい、薬を塗る指先の触感を敏感に感じ取ってしまい、落ち着かない気分にさせてくれる。ある意味拷問であった。
但是,因为闭上了眼睛,所以能敏感地感受到衣服脱落的声音、阿尼亚的呼吸、涂药指尖的触感,让人感到不安。某种意义上是拷问。
「終わったわ」
“结束了。”
「ありがとう、アニャ」
“谢谢,阿尼亚。”
「どういたしまして」
「不客气。」
すぐさま、布団に潜り込む。アニャがランタンを消してくれたので、ホッとした。
马上钻进被窝里。阿尼亚把灯笼关掉了,我松了一口气。
それも、数秒の安堵であった。
那也是几秒的安心。
「ねえ、イヴァン。くっついて眠っていい?」
「喂,伊凡,我可以跟你一起睡吗?」
「な、なんで!?」
“什么,为什么!?”
「髪の毛を乾かしていたら、体が冷えてしまったの」
“头发干了之后,身体变冷了。”
暖なら、ヴィーテスから取ればいいものの。
如果是暖和的话,从维特斯那里拿就好了。
しかし、あの巨大犬を持ち上げて布団に引き入れるのは不可能に等しい。
但是,把那只巨大的狗抬起来拉进被子里就等于不可能啦。
「いい?」
“可以吗?”
可愛らしく聞かれたら、どうぞと答えるしかない。
如果被问到可爱的话,只能回答“请”。
アニャは遠慮なく俺に抱きついた。
阿尼亚不客气地抱住了我。
胸が、むぎゅっと押し当てられる。
胸部一下子被压住了。
特大の衝撃に襲われたが、奥歯を噛みしめてぐっと堪えた。
虽然受到了特大的冲击,但咬紧牙关忍住了。
「やっぱり、温かいわ」
“果然很温暖啊。”
「よかったね」
“太好了。”
消え入りそうな声しか出なかった。
只发出了快要消失的声音。
その後、アニャはすぐにスヤスヤ眠る。俺はといえば、アニャが気になってなかなか眠れなかった。
之后,阿尼亚马上就睡着了。说到我,因为很在意阿尼亚,所以怎么也睡不着。
きっと男として意識されていないから、こんな目に遭うのだろう。
一定是因为没有被意识到是男人,才会遇到这样的事情吧。
特大のため息をつきつつ、長い夜を過ごした。
一边叹气,一边度过了漫长的夜晚。

725
046.md

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養蜂家の青年は、家族のために朝食を作る
养蜂青年为家人做早餐
朝――アニャは昨晩同様、くっついたまま眠っていた。
早上——阿尼亚和昨晚一样,紧贴着睡着了。
なぜか、手を繋いで寝ている。アニャの手が、俺の手に絡んでいる感じなので、向こうから握ってきたのだろう。
不知道为什么,牵着手睡觉。因为感觉阿尼亚的手缠在我的手上,所以是从对面握过来的吧。
意図は謎。まあ、無意識のうちに握ったのだろうけれど。
意图是个谜。嗯,是在无意识中握住的吧。
アニャは天使のような可愛い顔で眠っていた。本当に、警戒心はゼロである。
阿尼亚睡得像天使一样可爱。真的,警戒心是零。
彼女より先に目覚めてよかった。
幸亏我比她先醒过来。
アニャの指先が絡んだ手を引き抜き、物音を立てないようにゆっくりと目覚める。
拔出阿尼亚指尖缠绕的手,为了不发出声音慢慢地醒来。
「う……ん」
“嗯……”
離れた瞬間、アニャは体を丸くしていた。やはり、俺で暖を取っているだけだったのだ。
离开的那一刻,阿尼亚蜷着身子。果然,只是我在取暖。
足下にあった毛布を、アニャにかけてあげた。すると、眉間の皺が解れ、幸せそうな寝顔となった。
我把脚下的毛毯给阿尼亚盖上了。于是,眉间的皱纹消除了,变成了幸福的睡脸。
これでよし、と。
这样就好了。
ヴィーテスは物音に反応することなく、ぐうぐう眠っていた。
维特斯对声音没有反应,呼呼地睡着了。
着替えを確保し、洗面所で着替える。
确保换衣服,在盥洗室换衣服。
洗った顔を拭いていると、アニャが寝間着のまま慌てた様子でやってきた。
擦着洗过的脸,阿尼亚穿着睡衣慌慌张张地来了。
「寝坊したわ!」
“我睡过头了!”
「なんで?」
“为什么?”
「旦那様よりあとに起きたら、寝坊なの!」
“比老公晚起床的话,就是睡懒觉了!”
「寝坊じゃないよ」
“不是睡懒觉。”
そんな決まりはないと、噛んで含めるように言い聞かせた。
我告诉他没有那样的规定,要咬着包含进去。
しょんぼりしているアニャに、ある提案をしてみる。
试着向垂头丧气的阿尼亚提出一个建议。
「そうだ。俺、アニャに習ったエッグヌードルを作ってみようかな。作っている間に、着替えてきなよ」
“对了。我想试着做一下跟Ania学过的蛋面。做的时候,去换衣服吧。”
「イヴァンが、ひとりで作るの?」
“伊凡一个人做吗?”
「うん。溶かした山羊のチーズをかけて黒コショウを振ったら、おいしそうじゃない?」
“嗯。撒上融化的山羊奶酪,撒上黑胡椒,不是很好吃吗?”
「おいしそう、かも」
“看起来很好吃。”
「でしょう?」
“是吧?”
そんなわけで、今日は俺が朝食当番となった。
因此,今天我是早餐值班。
が、一つ問題が発生する。
但是,发生了一个问题。
エプロン置き場に、フリルたっぷりのものしか置いていなかったのだ。
在放围裙的地方,只放了很多褶边。
一瞬のためらいののちに、エプロンを掴む。
在一瞬间犹豫之后,抓住围裙。
おそらくこの家は、これしかないのだろう。心を殺して、エプロンをかけた。
恐怕这个家只有这个吧。杀了心,戴上了围裙。
外に卵を採りに行くと、マクシミリニャンが山羊たちに餌を与えているところだった。
我去外面采鸡蛋,发现马克西米利尼正在喂山羊们。
「おはよう、イヴァン殿」
“早上好,伊凡大人。”
「おはよう……お義父様」
“早上好……公公。”
お義父様、という呼びかけに満足したのか、マクシミリニャンはにこにこしながら頷いている。
也许是对岳父大人的呼吁感到满意吧,马克西米利尼亚笑嘻嘻地点头。
「昨晩はよく眠れたか」
“昨晚睡得好吗?”
「まあ、ほどほどに」
「哎呀,适可而止。」
これからエッグヌードルを作るのだというと、腰から吊していたかごから卵を三つくれた。「エプロン、似合っているぞ!」と言われ、送り出される。フリルたっぷりのエプロンをかけているのを、すっかり忘れていた。恥ずかしいにもほどがある。
说到接下来要做蛋面,从挂在腰上的篮子里给了我三个鸡蛋。被人说“围裙很适合你哦!”。我完全忘了戴着满是褶边的围裙。惭愧也有个限度。
再び心を殺し、台所に戻った。
再次杀了心,回到厨房。
材料を調理台に並べ、早速調理開始する。
把材料摆在烹饪台上,马上开始烹饪。
アニャがしていたように、小麦粉の山を作り、真ん中に窪みを作ってそこに卵を落とした。
就像阿尼亚做的那样,他做了一堆面粉,在中间做了一个坑,然后把鸡蛋掉在那里。
「うわっ!」
“哇!”
さっそく、小麦粉の堤防が崩壊し、白身が零れそうになる。慌てて小麦をかき混ぜ始めた。なんか、上手くまとまらない。
马上,小麦粉的堤坝崩溃,白肉快要洒出来了。慌忙开始搅拌小麦。总觉得整理不好。
「オリーブオイルを垂らすのよ」
“滴橄榄油。”
「あ!」
“啊!”
いつの間にか、アニャが背後にいた。それだけ言って、外に出て行った。マクシミリニャンの餌やりを手伝うのだろう。
不知什么时候,阿尼亚在背后。说了那么多,就出去了。他会帮马克西米利尼亚喂食吧。
アニャの言った通り、オリーブオイルを入れたら生地が滑らかになった。
正如阿尼亚所说,加入橄榄油后质地变得光滑了。
薄くのばして、カットしておく。
把它摊开,剪掉。
湯が沸騰した鍋に塩をパッパと振って、麺を煮込んだ。
在水开了的锅里撒上盐,煮了面。
味見しつつ、ほどよい硬さになったら、湯からあげる。しっかり湯を切って、木皿に盛り付けた。
一边品尝,如果硬度适中的话,就从热水里给你。把热水切好,盛在木盘子里。
形は若干歪だが、上手くできたような気がする。
虽然形状有点变形,但感觉做得很好。
アニャが戻ってきたので、どの山羊のチーズを使っていいのか聞いてみた。
阿尼亚回来了,我问他用哪种山羊奶酪好。
「左のほうから順に、熟成されているやつ。加熱してとろとろになるのは、栗の葉っぱに包まれたのだから」
“从左到右依次是熟成的。加热后变得粘稠,是因为被栗子的叶子包裹着。”
「わかった」
「明白了。」
細かくカットし、加熱してとろとろになったものを、エッグヌードルの上に垂らしていく。
将切碎,加热后粘稠的东西滴在蛋面上。
仕上げに、黒コショウをかけたら、チーズパスタの完成だ。
最后浇上黑胡椒,芝士意大利面就完成了。
母屋に持って行くと、なぜかアニャとマクシミリニャンが、緊張の面持ちで座っていた。
拿着去了主屋,不知为什么阿尼亚和马克西米利尼亚,带着紧张的表情坐着。
「どうしたの?」
“怎么了?”
「え!? あ、えっと、誰かに料理を作ってもらうのは、初めてだから」
“啊!?啊,那个,因为是第一次让别人做饭。”
「ドキドキしておる」
“心跳加速”
「そうだったんだ。お口に合えばいいけれど」
「原来是这样,只要合您的口味就好了。」
なんだか俺まで緊張してくる。
总觉得连我都很紧张。
ひとまず、食前の祈りをして、心を静めた。
先做了饭前的祈祷,静下了心。
「よし、食べよう」
“好,吃吧。”
「ええ」
“是的。”
「うむ」
“嗯”
二人の反応が、気になる。息を殺し、食べる様子を見守ってしまった。
我很在意两个人的反应。屏住呼吸,注视着吃的样子。
山羊の白いチーズは、麺に絡んでとろーんととろける。
山羊的白色奶酪缠在面上融化。
「こ、これ、おいしいわ!」
“这个,这个很好吃!”
「ああ、うまいな!」
“啊,真好吃!”
「本当?」
“真的吗?”
確認するために、食べてみる。
为了确认,试着吃。
麺はいい感じに歯ごたえがあり、山羊のチーズの濃厚な風味がよく合う。
面条有很好的口感,山羊奶酪的浓厚风味很搭。
素材の大勝利という感じだけれど、今日のところは満点を付けたい。
虽然感觉是素材的大胜利,但是今天想打满分。
「イヴァン、料理の才能があるわ!」
“伊凡,我有做菜的才能!”
「店が出せるぞ」
“商店要开张了。”
「二人共、大げさ」
“两个人都很夸张。”
そんなことを言いながらも、ニヤニヤしてしまったのは言うまでもない。
虽然说了那样的话,但还是笑了起来,这是不言而喻的。
◇◇◇
◇◇◇
今日も今日とて、蜜蜂の様子を見て回る。
今天也和今天一样,看蜜蜂的样子。
出発前に、アニャが丁寧に洗濯された腰帯を差し出す。
出发前,阿尼亚拿出洗好的腰带。
「これ、洗って陰干ししていたから」
“这是洗后阴干的。”
「ありがとう」
“谢谢。”
受け取ったあと、アニャの視線は腰帯にあった。
收到后,阿尼亚的视线在腰带上。
「何?」
“什么?”
「いえ、きれいな刺繍だと思って。誰が作ったの?」
“不,我以为是漂亮的刺绣。是谁做的?”
「いや、これは街で新しく買ったやつ」
“不,这是在街上新买的。”
「街で、売っているのね」
“在街上有卖的吧。”
「まあ、うん」
“嗯,嗯。”
「最近買ったの?」
“最近买的?”
「そうだね」
“是啊。”
基本的に、腰帯は家族が作る。アニャのところもそうなので、質問したのだろう。
基本上,腰带是家人做的。阿尼亚也是这样,所以问了吧。
最近は、観光客用に売っているので、地味に助かった。
最近,因为是卖给游客用的,所以很朴素地得救了。
出発前にミハルがいくつか見繕って、持ってきてもらったのだ。
出发前米哈尔给我看了几个,让我拿来了。
「家族は、イヴァンに作ってくれなかったの?」
“家人没有给伊凡做吗?”
「作ってくれたけれど、あれはロマナが作ったやつだから、家に置いてきた」
“虽然给我做了,但那是罗曼娜做的,所以我把它放在家里了。”
「ロマナ?」
“罗曼娜?”
口にしてから、しまったと思う。別に、名前まで言う必要はなかったのだ。
吃了之后觉得糟了。没必要连名字都说。
「ロマナって誰? もしかして、イヴァンの、恋人だった人?」
“罗曼娜是谁?难道是伊凡的恋人?”
「違う、違う。サシャ――兄の嫁」
“不是,不是。萨沙——哥哥的媳妇。”
「お兄さんの奥さんが、どうしてイヴァンに腰帯を作るの?」
“哥哥的妻子为什么要给伊凡做腰带?”
「さ、さあ? 本命用の、練習だったのかも?」
“那么,来吧?可能是为了本命而练习的吧?”
その言い訳で、アニャは納得しなかったようだ。
因为那个借口,阿尼亚好像不同意。
険しい表情で、俺を見ている。子育てシーズンの鹿みたいな鋭い目だった。
用严厉的表情看着我。这是一双育儿季节像鹿一样锐利的眼睛。
「イヴァンの腰帯、私が作るから」
“伊凡的腰带,我来做。”
「え?」
“诶?”
「ロマナさんが作ったものより、上手に作ってみせる!」
“比起罗曼娜做的东西,我会做得更好!”
なぜ、ロマナと張り合うのか。
为什么要和罗曼娜竞争呢。
よくわからなかったけれど、アニャの力強い宣言に「よろしくお願いします」と返してしまった。
虽然不太明白,但是对阿尼亚强有力的宣言说了“请多关照”。

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047.md

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養蜂家の青年は、腰帯について思いを馳せる
养蜂家的青年回忆起腰带
今日も今日とて、巣枠作りに追われる。流蜜期に向けて、そこそこ忙しい日々を送っていた。
今天也和今天一样,忙于做巢框。面向流蜜期,过着相当忙碌的日子。
その脇で、アニャは裁縫を始めるようだ。俺の腰帯を作るために、張り切っている。
在那旁边,阿尼亚好像开始缝纫了。为了做我的腰带,我很紧张。
布は、冬に作ったリネンを使うらしい。まさか、布まで作っていたとは。
布好像是用冬天做的亚麻布。没想到连布都做了。
生地に施す刺繍は、初夏に刈った山羊の毛糸を使う。鮮やかな色は、草木染めにしたものらしい。
布料上的刺绣使用初夏剪下的山羊毛线。鲜艳的颜色好像是草木染的。
「どんな模様にしようかしら」
“要什么样的图案呢?”
「なんだか、楽しそう」
“总觉得很开心。”
「楽しいわ。だって、お父様以外の腰帯を作るのは、初めてですもの!」
“好开心啊。因为这是我第一次做爸爸以外的腰带!”
満面の笑みで答えるアニャは、死ぬほど可愛い。天真爛漫という言葉が、擬人化したような存在だとしみじみ思う。
阿尼亚满脸笑容地回答,可爱得要死。我深切地感受到天真烂漫这个词是拟人化的存在。
「どうしたの? にこにこして」
“怎么了?笑眯眯的。”
「いや、アニャが可愛いと思ったから」
“不,我觉得阿尼亚很可爱。”
「か、可愛い? 私が?」
“啊,可爱吗?我?”
「可愛い、可愛い」
“可爱,可爱”
感じたいい気持ちは、どんどん伝えたほうがいい。人生において感じた可愛いは、惜しまないようにしている。
感受到的好心情,最好不断地传达。在人生中感受到的可爱,是毫不吝惜的。
相変わらず、アニャは「可愛い」と言うと、顔を真っ赤にして盛大に照れてくれる。
依旧,阿尼亚说“可爱”的话,脸就会变得通红,盛大地害羞。
これが、重ねて可愛いのだ。
这是重叠的可爱。
可愛いは、可愛いを呼ぶ。知らない人が多いけれど、いちいち教えてあげるほど親切ではない。
可爱是呼唤可爱。虽然不认识的人很多,但并不像一一告诉你那样亲切。
特にこの、アニャの可愛いは独り占めしたい。だって、彼女は俺だけの花嫁だから。
特别想独占这个阿尼亚的可爱。因为她是我唯一的新娘。
頬に手を当ててにこにこしつつ照れていたアニャだが、ふと何かを思いだしたのか真顔になる。
手贴在脸颊上笑嘻嘻地害羞的阿尼亚,突然想起了什么,露出了真面目。
「ええ、イヴァン。もしかして、ロマナさんにも可愛いって言っていたの?」
“是的,伊凡。难道你对罗曼娜也说她很可爱吗?”
「なんで、ロマナが出てくるの?」
“为什么罗曼娜会出来?”
「だって、軽率に可愛いとか言ってくるし!」
“因为,会轻率地说可爱!”
「前にも言ったけれど、血の繋がった身内以外で、可愛いと思っているのはアニャだけだよ」
“之前也说过,除了有血缘关系的亲人以外,觉得可爱的只有阿尼亚。”
「そ、そう?」
“是吗?”
一回、ポロッとロマナの名を口にしてからというもの、アニャはしきりに気にしてくる。
自从一次说出波罗和罗曼娜的名字后,阿尼亚就一直很在意。
ロマナが俺のことを好きだったという話は一切していない。それなのに、ロマナと比べてどうかと聞きたがる。
罗曼娜完全没有说喜欢我。尽管如此,我还是想问你和罗曼娜相比怎么样。
女の勘なのだろうか。鋭すぎる。
是女人的直觉吗。太尖锐了。
アニャの機嫌はすぐに直り、鼻歌を歌いつつ山羊の毛糸を選び始める。
阿尼亚的情绪很快就会好转,一边哼着歌一边开始选择山羊的毛线。
「イヴァンの髪色は銀色だから、濃い色がいいわよね」
“伊凡的发色是银色的,所以深色比较好。”
「アニャ、これ、銀じゃなくて、濁った灰色」
“阿尼亚,这不是银,而是浑浊的灰色。”
毛先が自由にはね広がった髪は、麦わらを燃やしたときにできる灰色に似ているとミハルに言われたことがある。くすんだ、曇天のような色合いなのだ。
美哈尔曾告诉我,发梢自由伸展的头发,很像燃烧草帽时形成的灰色。暗淡的,像阴天一样的颜色。
最近、アニャ特製の蜂蜜石鹸で洗っているからか、コシと艶が増した気がするけれど、銀色にはほど遠い。
最近,也许是因为用阿尼亚特制的蜂蜜肥皂洗的缘故,感觉筋道和光泽增加了,但离银色还很远。
「あら、知らないのね。太陽の光に当たるイヴァンの髪色は、銀色に輝いているのよ」
「哎呀,你不知道吗?阳光照射下的伊凡的发色是银色的。」
「そうなんだ。外でそういう風に見えているなんて、知らなかった」
“是啊,我不知道在外面看起来是这样的。”
「自分じゃ確認しようがないものね」
“我自己无法确认。”
「まあ、うん」
“嗯,嗯。”
アニャは濃い緑色の毛糸を手に取り、こちらへ向けて右目を眇める。
阿尼亚拿起深绿色的毛线,朝着这边仔细地看右眼。
「うん、この色がいいわ」
“嗯,这个颜色很好。”
ハンターグリーンという、狩猟服によく用いられる緑らしい。
据说是猎人绿色,是狩猎服中经常使用的绿色。
「ホーソンという木の葉っぱを使って色づけしたものなの。ホーソンは動物性の繊維だったら、こんなふうに濃くて鮮やかな色がでるのよ」
“这是用一种叫霍森的树叶染上的颜色。如果霍森是动物性纤维的话,就会有这么浓又鲜艳的颜色。”
「へえ、素材によって、出る色が違うんだ。面白そう」
“啊,根据素材的不同,出现的颜色也不同。看起来很有趣。”
「そうなの。なかなかはまるわよ、草木染めは」
“是的,草木染很适合你。”
「今度、やってみようかな」
“下次试试看吧。”
「だったら、一緒にやりましょう」
“那嚒,我们一起做吧。”
「楽しみにしている」
“我很期待。”
ここでの暮らしは仕事が山のようにある。けれど、楽しみも山のようにあるのだ。
在这里的生活工作堆积如山。但是,乐趣也像山一样。
ひとつひとつの作業が新鮮で、面白い。
每一项工作都很新鲜,很有趣。
草木染めも、どういうふうに染めるのか楽しみだ。
草木染也很期待怎么染。
「腰周りを、採寸するわね」
“腰周围要量度。”
「どうぞ、ご自由に」
“请随便。”
巣枠を組み立てているので、勝手にしてくださいという姿勢でいる。
因为正在组装巢框,所以姿势是请随便做。
アニャは背後から接近し、ぎゅっと抱きついてきた。
阿尼亚从背后靠近,紧紧地抱住了他。
彼女のやわらかな体が、背中にぐぐっと押しつけられる。
她柔软的身体被紧紧地压在背上。
「ちょっ、アニャ!」
“喂,阿尼亚!”
「イヴァン、動かないで」
“伊凡,别动。”
背後から抱きつくように採寸されるなんて、想像もしていなかった。いろいろと心臓に悪い。
没想到会被人从背后抱住。各种各样对心脏不好。
アニャはすぐに離れる。ホッとするのと同時に、どこか惜しく思う気持ちもった。
阿尼亚马上离开。在放松的同时,也有一种很可惜的心情。
「イヴァン、あなた、けっこう着痩せするのね。思っていた以上に、ガッシリしていたわ」
“伊凡,你穿得很瘦啊。比我想象的还要瘦。”
「もっとガリガリだと思っていた?」
“你以为会更厉害吗?”
「まあ、正直に言えば。でも、骨と皮だけだったから、もっと太ったほうがいいわ。」
“好吧,说实话。不过,毕竟只是骨头和皮,还是胖一点比较好。”
「ここで暮らしていたら、きっと一年後にはムクムクになっていると思う」
“如果在这里生活的话,我想一年后一定会变成木槿花。”
「ムクムクになりなさい」
「请变成木槿花。」
アニャが腕によりをかけて、おいしい料理を作ってくれるという。ありがたすぎて、涙が出そうになった。
据说阿尼亚会用手臂给我们做好吃的菜。太感谢了,眼泪都快流出来了。
「さてと――」
“那么——”
アニャは白墨チョークを手に取り、生地にさらさらと下絵を描いていく。いったい何の模様を作ってくれるのか。
阿尼亚拿起白墨粉笔,在布料上哗啦哗啦地画着底稿。你到底要给我做什么花样。
五分後、アニャは下絵を見せてくれた。
五分钟后,阿尼亚给我看了一幅画稿。
「イヴァン、見て。蔦模様にしようと思うの」
“伊凡,快看。我想把它做成爬山虎的样子。”
アニャの描く蔦は、葉や小さな花が付いており、精緻な模様になりそうだ。
阿尼亚画的爬山虎有叶子和小花,看起来很精致。
ここで、ふと気づく。
在这里,突然注意到。
「あ――」
“啊——”
よからぬことが喉までせり上がってきたが、慌てて口を塞いだ。
不好的事情涌上了喉咙,慌忙堵住了嘴。
「え、何?」
“啊,什么事?”
「な、なんでもない」
“什嚒都没有。”
「なんでもなくはないでしょうよ。言いなさい」
“也不是什么都不是吧,说吧。”
「本当に、何でもない」
“真的,没什么。”
アニャは素早く眼前にやってきて、キッと鋭い目を向ける。
阿尼亚迅速来到眼前,瞪着锐利的眼睛。
「イヴァン、言いなさい」
「伊凡,你说啊。」
「はい」
“是的。”
渋々と、言おうとしていたことをアニャに告げた。
不情愿地告诉了阿尼亚想说的话。
「ロマナが作った腰帯も、蔦模様だったんだ」
“罗曼娜做的腰带也是爬山虎图案。”
「具体的に、どんな模様だったの?」
“具体是什么样的花纹?”
「なんか、帯に巻きついているような」
“好像缠在带子上了。”
白墨を手渡されたので、布地の切れ端に模様を描く。
因为交给了白墨,所以在布料的碎片上画上花纹。
すると、アニャはハッとなった。
于是,阿尼亚变成了哈。
「イヴァン、それは蔦じゃなくて、蔓よ」
“伊凡,那不是爬山虎,是藤蔓。”
「蔓と蔦って、どう違うんだっけ?」
“藤蔓和爬山虎有什么不同呢?”
「蔓は植物の茎が伸びたものの総称で、いろんなものに巻きついて成長するの。蔦は、地面に根を張ってどこまでも伝って伸びていく植物よ」
“藤蔓是植物的茎长出来的东西的总称,缠绕在各种各样的东西上成长。爬山虎是在地面上扎根,一直延伸到任何地方的植物。”
「あー、なるほど。蔓と蔦を混同していたかも」
“啊,原来如此。可能是把藤蔓和爬山虎混淆了。”
「ロマナさんが刺したのは、蔓日々草ね」
“罗曼娜刺的是蔓日日草。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
「花言葉は、“楽しき思い出”、“幼なじみ”。幸福と繁栄を願う言い伝えもあるわ」
“花语是‘快乐的回忆’、‘青梅竹马’。也有祈祷幸福和繁荣的传说。”
あの腰帯に、そんな思いが詰まっていたなんてしらなかった。
我不知道那个腰带里充满了这样的想法。
「それとは別に、“束縛”や“縁結び”の意味合いもあるんだけれど」
“除此之外,还有‘束缚’和‘姻缘’的意思。”
「ん? なんか言った?」
“嗯?你说什么?”
「いいえ、なんでも」
“不,什么都可以。”
蔓のイメージは、家族という大樹に絡まり離れられなくなっていたかつての自分のようだと思った。
我觉得蔓的形象就像是被家人这棵大树缠住而无法离开的过去的自己。
「アニャが刺そうとしていた蔦は、どういう意味があったの?」
“阿尼亚想要刺的爬山虎是什么意思?”
「“結婚”よ。もうひとつは、秘密」
“结婚啊,还有一个秘密。”
「なんか気になるんだけれど」
“我有点在意。”
「今度、気が向いたら教えるわ。それよりも、腰帯の完成を楽しみにしていて」
“下次如果你愿意的话,我会告诉你的。比起那个,我更期待腰带的完成。”
「わかった」
「明白了。」
周囲に関係なく、どんどん伸びていく蔦。
与周围无关,不断延伸的爬山虎。
今の俺に相応しい、腰帯が完成しそうだ。
适合现在的我,腰带好像要完成了。

487
048.md

@ -0,0 +1,487 @@
養蜂家の青年は、義父と猟にでかける
养蜂青年和岳父出去打猎
日々、食卓に上がる肉は狩猟で得ている。
每天餐桌上的肉都是通过狩猎获得的。
街のほうでは狩猟できる期間が定められていて、秋から春先までと決まっている。春から子育てのシーズンとなるからだ。個体数の調整のためらしい。
街上规定了可以狩猎的时间,从秋天到初春。因为从春天开始是养育孩子的季节。好像是为了调整个体数。
一方で、山暮らしの家族には、禁猟なんてない。街に住む人達のように、皆がこぞって狩猟にでかけるわけではないからだ。
另一方面,对于住在山里的家人来说,没有什么禁猎的。因为并不是像住在街上的人们那样,大家都去狩猎。
むしろ進んで狩らないと、畑を荒らされたり、蜜蜂の巣箱を壊されたりする。人間と人間の扱う物は脅威であると、知らしめておく必要があるようだ。
倒不如说不主动狩猎的话,田地会被糟蹋,蜜蜂的蜂箱也会被破坏。人类和人类所处理的东西似乎是一种威胁,有必要让大家知道。
ここでの狩猟は、娯楽ではない。生きるために必要なものなのだろう。
在这里狩猎,不是娱乐。是为了生存而必要的东西吧。
なんとなく、マクシミリニャンが猟銃を片手に狩猟に出かける様子を想像していた。
总觉得,我想象着马克西米利尼亚一只手拿着猎枪外出狩猎的样子。
実際は異なる。獲物はすべて、罠で捕まえているらしい。
实际上不同。猎物好像都是用陷阱捕捉的。
今日はウサギを捕まえる罠を見せてもらうことにした。
今天我决定让他们看看捉兔子的陷阱。
ウサギの通り道に、仕掛けているようだ。
好像是在兔子的街道上设置的。
「罠猟の基本は、獲物を長い間苦しませないことだ」
“陷阱狩猎的基本是长时间不让猎物痛苦。”
罠をしかけたときは、毎日様子を見に行くようにするという。
据说设置陷阱的时候,每天都要去看情况。
長時間苦痛を与えるくくり罠や、鉄製のトラバサミなどは絶対に使わないと決めているらしい。
据说决定绝对不使用长时间带来痛苦的陷阱和铁制的虎钳等。
「かかっているといいのだが」
“挂着就好了。”
マクシミリニャンが仕掛けた罠は、古きよき落とし穴。
马克西米利尼亚设置的陷阱是古老而美好的陷阱。
ウサギが脱出できないほど深く掘った穴に、木の棒や枯れ草を乗せたら完成。その上をウサギが通ったら、落下するというシンプルなもの。穴の底には、藁を敷いている親切設定らしい。
在兔子无法逃脱的深坑里,放上木棒和枯草就完成了。兔子从上面通过的话,就会掉下来,这是一种简单的东西。洞的底部好像是铺着稻草的亲切设定。
落とし穴を仕掛けた木には、赤く染めたリボンを結んでいるという。そうすれば、どこに罠を仕掛けたか一目瞭然なわけだ。
据说在设置陷阱的树上系着染成红色的丝带。这样的话,在哪里设置了陷阱就一目了然了。
たしかに、緑だらけの森の中で、リボンの赤はよく目立つ。すぐに発見できた。
确实,在满是绿色的森林中,丝带的红色很显眼。很快就发现了。
「おお、地上の仕掛けがなくなっておるな」
“哦,地上的装置不见了。”
「ウサギが落ちているってこと?」
“你是说兔子掉下来了?”
「まあ、そうだな。罠だけ落下して、中は空っぽという場合もある」
“嗯,是啊。也有只落下陷阱,里面空空如也的情况。”
「なるほど」
“原来如此。”
今のシーズンは子ウサギも歩き回っている。獲るのは成獣のみで、子どもは逃がしてやるらしい。
这个季节小兔子也在到处走动。捕获的只有成兽,孩子好像会逃跑。
穴を覗き込むと、ウサギが――いた。
窥视着洞,兔子——在。
ウルウルとした瞳を、覗き込む俺とマクシミリニャンに向けている。まるで、「助けてください」と訴えているように見える。
看着乌尔的眼睛,朝着窥视的我和马克西米利尼亚。看起来就像是在呼吁“请帮帮我”。
「お義父様、これ、成獣?」
“公公,这是成兽吗?”
「成獣だな」
「你真是成兽啊。」
マクシミリニャンは手にしていた網で、ウサギを掬った。ジタバタを暴れるウサギの手足を、素早く紐で結ぶ。
马克西米利尼用手里的网舀起兔子。用绳子快速地系上闹腾的兔子的手脚。
腰から太いナイフを取り出し、首筋を切り裂いた。
从腰上掏出一把粗刀,把脖颈切开。
ウサギは「キー!」と大きくもない声を上げ、すぐに息絶えた。ウサギは声帯がないので、そこまで大きな声を上げることはないらしい。
兔子大声喊着“钥匙!”,很快就断气了。兔子因为没有声带,所以好像不会发出那么大的声音。
だったらさっきの「キー!」はなんだったのか。マクシミリニャンに聞いたら「ウサギの神秘だ」と答えていた。ポカンとしていたら、「鼻孔の近くにある器官が変形して、そのような音が出るのだ」と解説してくれた。
那么刚才的“键!”是什么呢。我问了马克西米利尼亚,他回答说:“这是兔子的神秘。”。他解释说:“鼻孔附近的器官变形后会发出这样的声音。”。
どうやらウサギの神秘云々は、笑いところだったらしい。真面目に聞いてしまい、反省の意を示した。
看来兔子的神秘之类的,是笑的地方。认真地听了,表示了反省的意思。
血抜きをするために木にぶら下げておく。その間に、穴を埋める。
为了抽血把它挂在树上。在这期间填补漏洞。
「これ、使い回すわけじゃないんだ」
“这个,不是到处用的。”
「ああ。毎回、新しい穴を掘っておる。山の命をいただく以上、変に効率化させたくないだけなのだが」
“啊,每次都在挖新的洞。既然要山的命,我只是不想让它效率化。”
「そっか」
“是吗?”
街の禁猟に従うわけではないが、春先はどんどん狩猟するというわけではないようだ。
虽然不是遵从街道的禁猎,但初春似乎并不是不断地狩猎。
他にも落とし穴を掘っていたようで、本日は三羽のウサギを得た。
好像还挖了其他陷阱,今天得到了三只兔子。
三羽目のウサギを仕留めたのだが、ナイフを入れる位置を間違えて苦しませてしまった。
虽然找到了第三只兔子,但是放错了刀的位置,让它很痛苦。
落ち込んでいたら、マクシミリニャンは最初から上手くできる者はいないと、優しく励ましてくれる。
如果情绪低落的话,马克西米利尼亚会温柔地鼓励我说,从一开始就没有人能做得很好。
「命を奪う行為が上手くても、自慢にはならぬ」
“即使夺取生命的行为很好,也不能骄傲。”
かといって、きれいごとだけでは生きてはいけないと、マクシミリニャンは言葉を続けた。
话虽如此,马克西米利尼亚继续说,不能只靠漂亮的事情生存。
本当に、その通りだと思う。
真的,我觉得是这样。
家に戻ると、マクシミリニャンはウサギの捌き方を教えてくれた。
回到家里,马克西米利尼亚教我如何处理兔子。
ウサギを持ち上げると、まだ温かかった。ウルウルとした瞳で見上げていた様子を思い出し、ウッとなる。
把兔子举起来,还很暖和。想起用乌尔的眼睛仰望的样子,很受欢迎。
「なんか、おかしいね。魚がウルウルとした目で見つめていても、なんとも思わずにナイフで命を絶つのに。ウサギは、可哀想に思ってしまうなんて」
“真奇怪,鱼用乌鲁鲁鲁的眼睛盯着看,却不由得用小刀结束了生命。兔子竟然觉得可怜。”
「その辺は、人間の愚かな部分なのだろう」
“这大概是人类愚蠢的部分吧。”
「間違いない」
“没错。”
そんな話をしながら、再びウサギにナイフを入れる。
一边说着那样的话,一边再次把刀放进兔子里。
まず、椅子に座って膝に布を広げ、その上にウサギを乗せる。この状態で、捌くらしい。
首先,坐在椅子上,把布铺在膝盖上,然后把兔子放在上面。在这种状态下,好像很畅销。
「まずは腹から。穴を開けて、指先で裂いていく」
“首先从腹部开始。打开洞,用指尖撕开。”
腿でしっかりウサギを挟んで固定させ、ナイフを腹に滑らせる。そこに指先を入れて、内臓の全体が見えるまで裂いていくようだ。胃や腸などを丁寧に取り出したあと、ウサギを布に包んで膝の上から台に移す。
用腿紧紧地夹着兔子固定,把刀滑到肚子上。在那里放入指尖,直到能看到内脏的整体为止。仔细取出胃、肠等后,用布包好兔子,从膝盖上移到台上。
「四肢を切り落とし、腹のほうから皮を剥ぐのだ」
“把四肢切掉,从腹部剥皮。”
ここでようやく、皮を剥ぐ。マクシミリニャンは簡単にするすると剥いていくが、これがけっこう難しい。
终于在这里剥皮了。马克西米利尼亚简单地做的话就会剥掉,但是这个很难。
下肢から後肢の皮を剥いでいって、尻尾は切り落とす。
从下肢剥下后肢的皮,尾巴剪掉。
「あとは、後肢を掴んで上半身のように引っ張る」
“然后,抓住后肢像上半身一样拉。”
少し力を加えたくらいで、皮は破れてしまいそうで恐ろしい。ゆっくり、ゆっくりと剥いでいった。
稍微加了点力,皮就要破了,很可怕。慢慢地,慢慢地剥掉了。
最後に、腱を切ったら、完全に皮と身は分離する。首もここで切り落とすようだ。
最后,切断肌腱后,皮和身体完全分离。脖子好像也在这里砍掉了。
「最後に、肛門付近の処理をする。ここで失敗したら、肉が台無しになるから、慎重にするように」
“最后处理肛门附近。如果这里失败,肉就会糟蹋,所以要慎重。”
「了解」
“确定”
再び腹から後肢まで刃を滑らせていき、肛門を切り取る。
再次从腹部到后肢滑动刀刃,切下肛门。
最後に胸からナイフを入れ、心臓や肝臓を取り除く。
最后从胸部放入小刀,去除心脏和肝脏。
やっと、ウサギは市場でよく見かける姿となった。
终于,兔子成了市场上常见的样子。
「あとは、アニャに調理を頼もう。よく、頑張った」
“还有,拜托阿尼亚做饭吧。好好努力了。”
マクシミリニャンは血まみれの手を洗ってから、頭をガシガシと撫でてくれた。
马克西米利尼亚洗了沾满鲜血的手,然后咯吱咯吱地抚摸着我的头。
子どものような褒め方だったが、なんだか嬉しかった。
虽然是像孩子一样的表扬方法,但总觉得很开心。
夕食に、ウサギ料理が並んだ。
晚饭上摆了兔子料理。
ウサギの串焼きに、ウサギのシチュー、ウサギのソーセージと、ごちそうである。
烤兔子串、炖兔子、香肠,真是美味佳肴。
どれもおいしかったけれど、落とし穴に落ちたウサギのウルウルとした目は忘れられそうにない。
虽然哪个都很好吃,但是掉进陷阱的兔子乌尔的眼睛好像忘不了。
なんというか、生きるって大変なんだなと、改めて思ってしまった。
怎么说呢,我再次想到了生存是很辛苦的。

479
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@ -0,0 +1,479 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と蜜薬を作る
养蜂青年与蜜药师新娘做蜜药
アニャは月に一度、一人で村に下りて具合が悪い村人の話を聞いたり、作った蜜薬を店に卸したりしているらしい。
阿尼亚每月都会独自一人下村听村民说一次不舒服的话,或者把做的蜜药批发给店里。
家畜や犬の世話があるので、マクシミリニャンと一緒に行くことはないようだ。
因为有家畜和狗的照顾,所以好像不会和马克西米利尼一起去。
今回、買い物のついでに、それらも済ませるらしい。アニャはせっせと薬作りを行っている。今日一日、助手を務めるよう命じられた。
这次买东西的时候,顺便把它们也做完了。阿尼亚在不停地做药。今天一天,我被命令担任助手。
「最初に作るのは、売れ筋の打ち身軟膏よ」
“最开始做的是畅销的全身软膏。”
力仕事をしていたら、知らぬ間に青あざができているときがある。あれは、地味に痛い。
如果做力气活的话,有时会在不知不觉中长出青痣。那是朴素的痛。
もしも街で打ち身に効く薬が売っていたら買っていただろう。それほど、打ち身だらけの毎日を送っていたような気がする。
如果街上有卖对身体有效的药的话就买了吧。我觉得每天都过得很懒散。
「アルニカという花を使って作るの」
“用一种花做的”
乾燥させた黄色い花を、アニャは見せてくれた。
阿尼亚给我看了干燥的黄色的花。
「このアルニカには、内出血を治してくれる力があるわ。他にも、筋肉痛やねんざに効果を示すのよ」
“这个阿尔尼卡有治疗内出血的力量。另外,对肌肉疼痛和扭伤也有效果。”
「へえ、そうなんだ」
「咦?是的。」
じめっとした、山の高い位置に自生しているらしい。
好像野生在山的高处。
夏から秋にかけて開花し、花の部分のみを摘んで使うのだとか。
从夏天到秋天开花,只摘花的部分使用。
「まず、煮沸消毒した瓶に乾燥させたアルニカを入れて、オリーブオイルにじっくり漬けていくの」
“首先,在煮沸消毒的瓶子里放入干燥的阿尔尼卡,慢慢地浸泡在橄榄油里。”
本日は瓶十個分作るらしい。アニャがアルニカを入れて、そのあと俺がオリーブオイルを瓶に注ぐ。
今天好像要做十个瓶子。阿尼亚把阿尔尼卡放进去,然后我把橄榄油倒进瓶子里。
「これを、日当たりがいい窓際に半月置くのよ。その間に、オリーブオイルに有効成分が染み出てくるの。半月経ったものが、あれよ!」
“把这个放在阳光充足的窗边半个月。在这期间,橄榄油会渗出有效成分。过了半个月的东西就是那个!”
アニャは窓際に置いてあった瓶を指し示す。
阿尼亚指着放在窗边的瓶子。
「あれ、アルニカをオリーブオイルに漬けたやつなんだ。なんか、食べ物だと思っていた」
“咦,是用橄榄油腌制阿尔尼卡的家伙。我还以为是食物呢。”
「食べ物はだいたい、地下に保存しているわよ」
“食物基本上都保存在地下。”
「だよね」
「是啊。」
オリーブオイルに漬けたアルニカを、漉していく。アルニカ自体も絞って、有効成分を一滴たりとも無駄にしない。
将浸泡在橄榄油中的阿尔尼卡过滤。阿尔尼卡本身也拧干,一滴有效成分也不浪费。
オリーブオイルでベタベタになった手を洗い、次なる作業に移る。
用橄榄油清洗粘糊糊的手,然后进行下一步的作业。
「ボウルにアルニカの成分を含んだオリーブオイルに蜜蝋を加えて、湯煎で溶かしていくの。クリーム状になったら、打ち身軟膏の完成よ」
“在碗里加入含有阿尔尼卡成分的橄榄油和蜂蜡,用热水煎融化。如果变成奶油状的话,就完成了全身软膏。”
打ち身軟膏を、小さな瓶にせっせと詰める。最後に空気を抜くため、トントンと底を叩きつけておくのを忘れない。
把打身药膏紧紧地塞进小瓶里。最后为了排气,别忘了咚咚地敲到底。
瓶には、“アニャの蜜薬・打ち身軟膏”と書かれた紙を巻いて紐で縛る。
瓶子上缠着写有“茴香蜜药·打身软膏”的纸,用绳子绑上。
「これにて、打ち身軟膏の完成よ」
“这样,打身软膏就完成了。”
「おー!」
“喂!”
薬だけでなく、女性用の美容品も作っているらしい。
不仅是药,好像还制作了女性用的美容品。
「日焼け止めに、リップバーム、化粧水にハンドクリームとか、いろいろね」
“防晒霜、唇膏、化妆水、护手霜等各种各样。”
美容品も人気のようで、すぐに売り切れてしまうようだ。
美容品也很受欢迎,好像很快就卖完了。
「とうとう、明日になったわね」
“终于到明天了。”
「そうだね」
“是啊。”
「いつも一人で行っているから、なんだか楽しみだわ」
“总是一个人去,总觉得很期待。”
アニャがにこにこしているので、俺までなんだか楽しみになってきた。
因为阿尼亚笑嘻嘻的,连我都变得很期待了。
こんな感情なんて、いつ振りだろうか。
这样的感情,什么时候会有呢。
不思議な気分だった。
感觉很不可思议。
◇◇◇
◇◇◇
朝――目覚めると着替えが入っているカゴに何も入っていなかった。アニャはまだ夢の中。先に、歯磨きと顔を洗いに行く。
早上——一醒来,有换衣服的篮子里什么都没有。阿尼亚还在梦中。我先去刷牙和洗脸。
鏡を覗き込んだら、顔面の怪我がすっかり治っているのに気づいた。
我照了照镜子,发现脸上的伤已经完全好了。
昨日までは若干顔が腫れていたが、アニャの打ち身軟膏が効いたのだろうか。ボウルにこびりついていたものを、塗ってもらっていたのだ。
到昨天为止脸有点肿,是阿尼亚的打身软膏起作用了吗。把粘在碗里的东西涂上了。
久しぶりに、自分の顔を見たような気がする。こんな顔だったんだ、と我がことながら思ってしまった。
好久没见了,感觉好像看到了自己的脸。我自己也觉得是这样的脸。
顔を拭く大判の布を手に取ったら、一緒に着替えが置いてあることに気づいた。手紙も添えてある。
我拿起擦脸的大金币布,发现一起放着换衣服。还附上了信。
手に取ってみると、新しくアニャが作ったであろう服だった。
拿在手里一看,是新阿尼亚做的衣服。
リネンで作った腰まで丈がある長袖の貫頭衣に、黒いズボン。それから、アニャが作ってくれた蔦模様が刺繍された腰帯がきれいに畳まれていた。
用亚麻布做的长到腰的长袖贯头衣,黑色的裤子。然后,阿尼亚给我做的绣有爬山虎图案的腰带被叠得很漂亮。
「え、何これ、すごい……!」
“啊,这是什么,好厉害……!”
腰帯を手に取る。蔦を刺した刺繍が立体的だった。きっと、故郷の女性が作る刺繍とは異なる縫い方をしているのだろう。
拿起腰带。扎了爬山虎的刺绣很立体。一定是和故乡的女性做的刺绣不同的缝法吧。
精緻で、繊細で、美しい。すっと伸びる姿は、結婚という意味があるという。
精致,纤细,美丽。长得很快的样子,据说有结婚的意思。
アニャと俺の縁を繋ぐような腰帯だろう。
这是连接阿尼亚和我缘分的腰带吧。
腰に巻いて結んでみる。端には房飾りがあってとてもオシャレだ。寸法もぴったり。作業に邪魔にならないような長さで結んだ先が垂れているのが、カッコイイと思った。
围在腰上试着系上。边上有房饰很时髦。尺寸也很合适。我觉得用不妨碍作业的长度系的尖端垂下来很帅。
なんていうか、気が引き締まる腰帯である。
怎么说呢,这是一条紧张的腰带。
手紙には一言。“イヴァン、いつもありがとう”と書かれていた。
信中有一句话。写着“伊凡,一直以来谢谢你”。
毎日忙しいのに、暇を見つけて作ってくれたのだ。なんだか泣けてくる。
每天都很忙,却抽空给我做。总觉得哭起来了。
アニャはありったけのものを、俺に差し出してくれる。そんな彼女に、何を返せるのだろうか?
阿尼亚把所有的东西都交给我。那样的她,能返还什么呢?
と、感激している場合ではない。そろそろ、マクシミリニャンやアニャが起きてくる時間だろう。素早く着替えた。
不是感激的时候。差不多该起床了吧。迅速换了衣服。
リネンの上着とズボンは、驚くほど着心地がいい。この服に、アニャの腰帯がしっくりくるのだ。
亚麻布上衣和裤子穿起来令人吃惊。这件衣服很适合阿尼亚的腰带。
せっかくアニャがすばらしい服を作ってくれたのだから、相応しい姿にならなければ。髪を梳ろうと思って、鏡に向き直る。しっかり櫛を通したが、癖毛なので見た目は変わらないという結果に終わった。
好不容易阿尼亚给我做了一件很棒的衣服,我必须要做出合适的样子。我想梳头,然后对着镜子。虽然很好地通过了梳子,但是因为是卷发,所以外观没有变化。
居間のほうから物音が聞こえた。アニャが起きてきたのかもしれない。
从起居室传来了响声。也许是阿尼亚起来了。
ひょっこり顔を覗かせると、起きたばかりであろうアニャと目があった。
突然露出脸,看到了刚起床的阿尼亚和眼睛。
「あの、アニャ、これ、ありがとう」
“那个,阿尼亚,这个,谢谢。”
「あ、えっと、イヴァン。その、よく似合っているわ」
“啊,呃,伊凡。那个,很适合你。”
なんだかぎこちない態度だった。どうしたのだろうか。
总觉得态度很僵硬。怎么了。
「なんか、変だった?」
“有什么奇怪的吗?”
「変じゃないわ! ちょっと、いつもと雰囲気が違うから、驚いて。あの、イヴァン、あなた、そんな顔をしていたのね」
“没什么奇怪的!气氛和平时不一样,吓了一跳。那个,伊凡,你的表情就是这样。”
そうだった。今日、やっと怪我が完治したのだ。ボコボコでないきちんとした顔を、アニャが見たのは初めてだったのだろう。
原来是这样。今天,伤终于痊愈了。这是阿尼亚第一次看到不是胖乎乎的端正的脸吧。
「そんな整った顔立ちをしていたなんて、知らなかったわ」
“我不知道你长得那么端正。”
「整った顔立ち?」
“端正的容貌?”
「なんでもないわ! 忘れて!」
“没什么!忘了吧!”
そういえば、同じ顔をしたサシャは「カッコイイ!」とか言われていたような気がする。一度も言われたことがなかったので、自分の顔についてあまり意識していなかった。
这么说来,同样的脸的sasha好象被说「帅!」一样的心情。因为一次也没被说过,所以对自己的脸没怎么意识到。
というかよく、顔がボコボコの男と結婚してくれたなと、しみじみと思ってしまった。
话说回来,我深切地感受到他竟然和一个长着一张脸的男人结婚了。

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@ -0,0 +1,583 @@
養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁と山を下る
养蜂家的青年和蜜药师的新娘下山
朝食を食べたら、すぐに出かける。
吃完早饭后马上出门。
マクシミリニャンが見送りに来てくれた。
马克西米莉娜来送我了。
「イヴァン殿、気を付けて、行くのだぞ」
“伊凡大人,你要小心,走了。”
眉尻を下げ、心配そうに見下ろしている。まるで小さな子どもが行く、初めてのお使いを見送る親のようだ。
低下眉尾,忧心忡忡地俯视着。简直就像小孩子去,目送第一次使用的父母一样。
「お義父様、大丈夫だから。アニャのことは、守るし」
“公公,没关系,我会保护你的。”
「う、うむ。そうだな」
“嗯,嗯。是啊。”
アニャが元気よく家から飛び出してくる。
阿尼亚精神饱满地从家里跑出来。
「お父様、行ってくるわね」
“爸爸,我走了。”
「ああ」
“啊。”
アニャは心配ないようだ。力強く返事をして、見送っている。
阿尼亚似乎不担心。用力地回答,目送着。
手を振って家を出た。
我挥手离开了家。
「イヴァン、辛かったら、声をかけてね」
“伊凡,如果辛苦的话,请跟我打招呼。”
「わかった」
「明白了。」
登りもかなり辛かったが、下りも同じくらい辛いらしい。
虽然登山也很辛苦,但是下坡好像也一样辛苦。
アニャのその言葉を、すぐに実感する。
我马上感受到阿尼亚的那句话。
マクシミリニャンと共に登ってきた岩場は、上から見るとかなり恐ろしい。ごつごつトゲトゲした岩に向かって、下りなければいけないのだ。
和马克西米利尼一起攀登的岩场,从上面看相当可怕。必须朝着凹凸不平的岩石下去。
足を踏み外したら、岩場に真っ逆さまである。
失足后,正倒向岩场。
アニャは小リスのように、慣れた様子でするすると岩場を下っていく。
阿尼亚像小松鼠一样,习惯了的样子就从岩场下去。
上目遣いで俺が下りてくるのを待っている様子は、震えるほど可愛い。あんなに可愛い娘(こ)が待っているのに、膝が生まれたての子鹿のようになっていて思うように下りられないのだ。
用眼神等着我下来的样子,可爱得发抖。明明有那么可爱的女儿在等着,膝盖却像刚出生的小鹿一样,不能像想象的那样下去。
「イヴァン、大丈夫。ゆっくりでいいのよ」
“伊凡,没关系,慢慢来就好。”
「ありがとう。アニャ、優しい」
“谢谢。阿尼亚,很温柔。”
少し下っただけで、ぐったり疲れてしまった。
只下了一点,就筋疲力尽了。
岩場を下りたあとは、苔が生えて足場が最悪な川辺を下り、アニャが「ここ、よく熊を見かけるの」と説明してくれた恐怖の熊さんロードをびくつきながら通り抜け、途中にあった湧き水のある場所でひと休み。
下了岩场之后,从长着苔藓、脚手架最差的河边走下来,一边穿过阿尼亚说明“这里经常看到熊”的恐怖熊先生的道路,在途中有泉水的地方休息一下。
まずは、冷たい水で顔を洗った。
首先,用冷水洗脸。
「気持ちいい」
“好舒服”
「水も、おいしいわよ」
“水也很好喝。”
山に降った雨が濾過されて、湧いて出るのだという。手で掬って飲んでみたら、驚くほどおいしかった。
据说山上下的雨被过滤后涌出。用手舀着喝了一下,非常好吃。
「え、これ、すごい……!」
“啊,这个,好厉害……!”
「でしょう?」
“是吧?”
そろそろお昼だというので、昼食の時間にするようだ。
快到中午了,好像是午饭时间。
なんと、アニャはお弁当を作ってきてくれたらしい。
阿尼亚竟然给我做了便当。
「お弁当、嬉しい!」
“便当,好开心!”
てっきり、その辺に生えている渋そうな木の実を摘まむものだと覚悟していたから……。素直にそう答えると、「リスじゃないんだから、お昼に木の実は食べないわよ」と言われてしまった。
因为我已经做好了一定要摘那附近长着的看起来很涩的树的果实的觉悟……。坦率地这样回答的话,被说了「因为不是松鼠,中午树的果实不吃哟」。
アニャがリスみたいだと思ったことは、黙っておこう。
认为阿尼亚像松鼠一样的事情,就不要说了。
お弁当は蕎麦粉の生地に、レーズンを練り込んだパンだった。これに、レモンカードという、レモンにバターを混ぜたものを塗るらしい。
便当是在荞麦粉的面团里加入葡萄干的面包。在这上面,好像要涂一种叫做柠檬卡的柠檬和黄油混合的东西。
鞄の中から、どでかい丸パンが出てきたので驚いた。確実に、マクシミリニャンの顔より大きいだろう。
从包里出来了一个很大的圆面包,吓了一跳。确实比马克西米利尼亚的脸大吧。
そんなパンを、アニャがサクサクカットしていた。ふかふか系の、やわらかいパンらしい。
阿尼亚把那样的面包切得脆脆的。好像是松软系的柔软的面包。
アニャがカットした蕎麦レーズンパンに、レモンカードをたっぷり塗ってくれる。
在阿尼亚切好的荞麦葡萄干面包上涂满柠檬卡。
「はい、召し上がれ」
“好的,吃吧。”
「いただきます」
“我开动了。”
パンは驚くほどふっくら焼けている。蕎麦の風味が、口いっぱいに広がった。それに、レーズンの甘さがジュワッと溶け込んでいて、レモンカードの濃厚で酸味のある味わいが舌の上で混ざりあう。
面包烤得令人吃惊。荞麦面的风味充满了嘴。再加上葡萄干的甜味融入了杜瓦里,柠檬卡浓厚而酸味的味道在舌头上混合在一起。
「え、何これ……とんでもなくおいしい!」
“啊,这是什么……真好吃!”
アニャは「そうでしょう?」と言わんばかりに、にっこり微笑んでいる。
阿尼亚微笑着,好像在说“是吧?”。
俺ばかり食べていた。囓ったパンはその辺で引っこ抜いた葉っぱの上に置いて、アニャの分のパンにレモンカードを塗ってあげた。
只吃了我。说着的面包放在那一带拔出的叶子上,给阿尼亚的面包涂上柠檬卡。
「はい」
“是的。”
「え、私に?」
「咦?是我吗?」
「うん」
“嗯。”
「あ、ありがとう」
“啊,谢谢。”
アニャは小さな口でパンを囓って、「おいし」と言っていた。
阿尼亚用小嘴说面包,说“好吃”。
アニャはよく、俺が食べているところを見つめているときがある。どうしてかと思っていたが、おいしそうに食べている様子は、飽きずにいつまでも見ていられるのだと気づいた。
阿尼亚经常盯着我吃的地方看。我还以为是为什么呢,发现吃得津津有味的样子,不厌其烦地一直能看到。
「あー、可愛い」
“啊,好可爱。”
「な、何が可愛いの!?」
“什么,有什么可爱的!?”
「おいしそうにパンを頬張っているアニャが」
“看起来很好吃地大口吃着面包的阿尼亚”
「み、見ないでよ」
“美,别看。”
怒られてしまった。ひとまず、食べるのに集中する。
我被骂啦。暂且集中精力吃。
アニャはパンの他に、ゆで卵と串焼き肉を作ってくれていた。串焼き肉は、先日マクシミリニャンが狩ったウサギである。
阿尼亚除了面包之外,还给我做了煮鸡蛋和串烤肉。串烤肉是前几天马克西米利尼亚狩猎的兔子。
「っていうか、お弁当、重たかったでしょう? 俺が持ったのに」
“话说回来,便当很重吧?明明是我带的。”
「イヴァンは、商品を持っているでしょう? いつもは、商品とお弁当、両方自分で持って行っていたし、大丈夫よ」
“伊凡有商品吧?平时,商品和便当都是自己带去的,没关系的。”
「そっか」
“是吗?”
アニャがカットしてくれたパンをすべて食べていたら、お腹がパンパンになってしまう。
如果把阿尼亚切好的面包全部吃掉的话,肚子就会变成面包面包。
「ちょっとごめん。動けなくなるほど、食べちゃった」
“对不起,我吃得动不了啦。”
「いいわよ。ちょっと、横になっていたら?」
“好啊。稍微躺下怎么样?”
アニャはそう言って、自らの膝をポンポンと叩く。
阿尼亚这样说着,啪嗒啪嗒地敲着自己的膝盖。
「もしかして、膝を貸してくれるってこと?」
“难道你要把膝盖借给我?”
「ええ」
“是的。”
本当にきついので、お言葉に甘えて膝を借りた。
真的很辛苦,恭敬不如从命地借了膝盖。
アニャは遠慮なく、俺の顔を覗き込む。
阿尼亚毫不客气地窥视着我的脸。
「ねえ、イヴァン」
「喂,伊凡。」
「何?」
“什么?”
「街にいたとき、モテていたでしょう?」
“在街上的时候很受欢迎吧?”
「な、なんで?」
“为什么?”
「きれいな顔立ちをしているから」
“因为长得很漂亮。”
なんて質問をするのか。心臓が口から飛び出るのではないかと思った。
你问什么问题。我怕心脏会从嘴里跳出来。
「双子の兄のサシャはモテていたけれど、俺はぜんぜんだよ」
“双胞胎哥哥萨沙很受欢迎,但我完全没有。”
「嘘だー!」
“骗人的!”
「本当だって」
“说真的。”
だから、ロマナが本当は俺のほうが好きだったと聞いて、驚いたものだ。
所以,听说罗曼娜其实更喜欢我,我很吃惊。
彼女に関しては、刷り込みみたいなものなのだろう。
关于她,就像印刷一样吧。
ふいに、突き刺さるような視線を感じる。野生の熊かと思いきや、アニャだった。
突然,感觉到了刺痛的视线。原以为是野生的熊,没想到却是阿尼亚。
「何?」
“什么?”
「思い当たる節が、あったんじゃないの?」
“不是有想到的时候吗?”
「ないない、ないってば」
“没有,没有。”
「ふうん」
“嗯。”
やっぱり、アニャは鋭い。変なことは考えないようにしなくてはと、改めて思ったのだった。
果然,阿尼亚很敏锐。我再次想到了必须不要想奇怪的事情。

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README.md

@ -1,2 +1,96 @@
# LN26
# 養蜂家と蜜薬師の花嫁
作者:江本マシメサ
WEB https://ncode.syosetu.com/n1330fz
## 人物
### イヴァン・イェゼロ
主人公,サシャ雙胞胎弟。與最大兄弟相差20歲。家中第十四子,因而沒能分到財產。在ミハル的苦口婆心下,開始思考屬於自己的人生。在雙胞胎打架事件後,因為與サシャ、ロマナ間的關係,選擇與マクシミリニャン同行,離開故鄉ブレッド,前往ボーヒン。
### ベルタ・イェゼロ
イェゼロ家主,イヴァン之母。イェゼロ家上一代獨生女。對兒子們親情有著嚴重偏差。直至雙胞胎打架事件後,イヴァン提出要離家獨立之時,才想要分田地給イヴァン養蜂以挽留イヴァン,使得イヴァン感到心寒。也在此時才發現イヴァン沒得到為家裡幫忙而應得的酬勞,全數遭到アラン唆使ダナ挪用到酒錢上。
### サシャ・イェゼロ
イヴァン雙胞胎兄。
### ロマナ・イェゼロ
サシャ妻,五年前在收穫祭賣身而被帶了回來,作為工人住進家裡。於一年前與サシャ結婚。
### アラン・イェゼロ
イェゼロ家長子。唆使ダナ挪用イヴァン幫忙家中工作的酬勞到酒錢上。
### ダナ・イェゼロ
アラン妻。
### パヴラ・イェゼロ
大イヴァン三歲的哥哥的妻子。
### ミロシュ・イェゼロ
大イヴァン五歲的哥哥。相對其他兄弟對イヴァン較好,但太過會被針對而沒有非常明顯。透過兒子ツィリル,送了祝福的話與種子。
### ツィリル
ミロシュ的兒子。八歲。姪輩中最親近イヴァン的孩子。
### ゾルターン
大イヴァン十歲的哥哥。
### ミハル
雜貨店的兒子。イヴァン的小時玩伴。十分擔心イヴァン的狀況。
### マクシミリニャン・フリバエ
アニャ的父親。為了不讓アニャ孤單下半輩子,而出來尋找結婚對象。
### アニャ・フリバエ
蜜藥師。因身體不孕,而至十九歲都未能結婚。
### アントン・ヤンシャ
養蜂の父,其出版兩本書被養蜂人視為聖典。
## 家族
### イェゼロ
在ブレッド湖畔從事養蜂一家。
### フリバエ
於ボーヒン湖周邊山中秘境養蜂。
## 其他角色
### クリーロ
フリバエ家的騎乘用大角山羊。白色。翼。
### センツァ
フリバエ家的騎乘用大角山羊。黑色。影。
### メーチェ
フリバエ家的大角山羊。灰色。幼子。剑。
### ヴィーテス
護畜犬。體型巨大如熊一般。但太過隨合而不適合,在將被食用掉時,被アニャ帶了回來。
## 地點
### ブレッド
緊臨湖畔,是王族喜愛的療養地。平原而群山環繞,水資源與自然環境富裕而養蜂業盛行。
### ボーヒン
有比ブレッド湖更大三倍的湖泊,
### リブチェフ・ラズ
ボーヒン湖周邊的小村莊。
## 動植物
### カーニオラン
イェゼロ家飼養的蜂種。其腹部有灰熊般的毛。個性溫馴、認真。又被稱為「灰色熊のカーニオラン」。
### カシミア山羊
採毛用山羊。直羊毛。
### アンゴラ山羊
採毛用山羊。捲羊毛。
### 大角山羊
擅長攀登岩崖地形。
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